騎士「魔王を倒したら修羅場が待ってた」 (46)

【王城】

王様「おお、勇者よ! よくぞ魔王を打ち倒し我が娘も取り戻してくれた!」

王様「お主は世界の光! 感謝しても仕切れぬぞ!」

勇者「勿体無きお言葉です、王よ」

王様「長旅でさぞ疲れておろう。まずはこの城でゆっくりと身体を休めるがよい」

勇者「お気遣い感謝いたします」

王様「うむ」

***

賢者「よかったね、勇者。長い長い苦労が報われた」

僧侶「魔王討伐の旅も、ようやくおしまいなのですね……」

勇者「これもどれも、みんなの協力あってのことだ」

盗賊「なかなか刺激的な旅だったよ、勇者サマ」

騎士「お前と共に戦えたこと、誇りに思うぞ勇者」

勇者「ありがとう、みんな!」

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騎士(闇を打ち倒すものとして神託を受けた勇者が魔王討伐の命を受け、旅に出たのがおよそ1年前)

騎士(王の命で勇者の旅に同行することになった俺、山賊に襲われかけていたところを助けられた僧侶)

騎士(勇者と同じく魔王討伐の神託を受けていたという賢者、勇者の財布を狙ったが返り討ちになり仲間になった盗賊)

騎士(計5人のパーティで長らく旅を続けていたが……)


賢者「ところで勇者。キミは今後のことは決めているのかい?」

勇者「今後?」

賢者「魔王討伐……キミの使命は終わった。この後はもう自由じゃないか?」

勇者「そういえばそうだな……考えたこともなかった」

僧侶「まあまあ賢者さん。勇者様もお疲れですし、今はいいじゃありませんか?」

盗賊「それもそうだ。焦って決めることじゃないと思うがね」

賢者「そうかい? 私はこういうことは早めに決めたほうがいいと思うのだけど」

僧侶「……」

盗賊「……」

賢者「……」

勇者「どうしたんだみんな?」


騎士(……賢者、僧侶、盗賊の三人は間違いなく勇者に恋愛感情を抱いている)

騎士(そして、魔王討伐という大命を果たした後……このパーティに待っているのは)

騎士(修羅場に違いない――)

【翌日】

姫「よく来たわね騎士」

騎士「姫様のお呼びとあらば」

姫「よろしい。ねえ騎士、あなたは私の騎士よね?」

騎士「我が剣は敬愛する王家の皆々様に捧げしものです」

姫「つまりは私の騎士ってことでいいわね」

騎士「まあ、そうですね」

姫「じゃあ、命令があるのだけれど」

騎士「はっ、なんなりと」

姫「私、勇者様と結ばれたいのだけど」

騎士「」

姫「何を阿呆みたいに呆けているのよ」

騎士「い、いえ、すみません姫様。いやしかし……勇者と結ばれたい、ですか……」

姫「ええ。魔王に囚われていた私を華麗に救い出してくれた勇者様」

姫「あの凛々しい横顔や細身ながらも筋肉質な肉体に私は心奪われてしまったわ」

姫「っていうか勇者と姫ってロマンスの王道じゃない? たぶん芽はあると思うんだけどどうかしら」

騎士「た、確かに詩人もよく歌いますね」

姫「でしょう?」

騎士「しかし勇者の競争率は非常に高いのです姫様」

姫「ふうん、やっぱり?」

姫「助けてもらった後ちょっとだけあなたたちと旅したけど」

姫「あの女賢者に女僧侶、女盗賊……全員勇者様を狙ってるわよね」

騎士「え、ええ……」

姫「共に過ごしてきた時間を考えれば私は不利……って言いたいのよね、あなた」

騎士「そうなります」

姫「だからこそ、私はあなたに命令するのよ」

姫「私と勇者様が結ばれるために手を貸しなさい」

騎士「はっ……」

騎士(これはえらいことになったのでは……)

騎士(しかし姫様と勇者が結ばれるにはどうすればよいのだろうか)

騎士(というか姫様はそう考えていても我が王がどう考えられるか……)

騎士(まあ、難しいことはいったん置いておこう。俺は騎士……主の命令に忠実であればよいのだ)


勇者「お、騎士」

騎士「勇者か。どうした?」

勇者「いやー、王城って広くて慣れないな。食堂はどこなんだっけ?」

騎士「ああ、それならこっちだ。俺も行くよ」

勇者「ありがてえ。サンキューな」

騎士「いまさら気にするな」

【食堂】

僧侶「……あっ、勇者様、騎士さん」

勇者「おー僧侶。お前もいたんだ」

僧侶「はいっ」ニコニコ

騎士(この笑顔……勇者と会えたことがよほど嬉しいと見えるな)

騎士(僧侶だけでなく賢者も盗賊も長い旅を共にした仲間だ。協力してやりたい気持ちは山々だが)

騎士(姫様に命じられてしまったからな……)

騎士(だがまあ、今は二人きりにさせてやるか……)


騎士「それじゃ俺はちょっと厨房でガメてくるから二人はゆっくりしてるといい」

僧侶「あっそうだ騎士さん、あの、少しお時間いいでしょうか?」

騎士「えっ?」

騎士(折角の俺のアシストが)

騎士「……それで、どうしたんだ僧侶。珍しく勇者と二人きりになれそうだったのに」

僧侶「えっ!? な、なんのことですかっ?」

騎士「いや、お前、気づかれてないわけないだろ」

僧侶「…………。……いつからわかってました?」

騎士「魔物に襲われてたお前を勇者が助けた瞬間。もう目が恋する女のそれだった」

僧侶「~~~!!!」バシバシ

騎士「痛い痛い叩くな叩くな!」

僧侶「はっ! す、すみません……」

騎士「……いや、わかってくれりゃいいんだが……っていうかなんで呼び出したんだ」

僧侶「あ、えーっとそれは……うーん、でももうバレてるなら話は早いかな……」

騎士「おい?」


僧侶「あの、騎士さん。私、勇者様をお慕いしてます」

騎士「知ってる」

僧侶「その上で……私と勇者様が結ばれるように……ご助力いただけませんか?」

騎士「」

僧侶「ライバルが多いのは百も承知なんです」

僧侶「賢者さんも、盗賊さんも、たぶんお姫様もみんな勇者様をお慕いしてるはず」

僧侶「……でも、それでも負けたくなくて」

僧侶「負けないためには……協力者が必要なんです。だから……」

騎士「待て、待て、お前の気持ちというか願いはよく分かったよ」

騎士「だがなぁ……俺は」

僧侶「ダメでしょうか……?」ウルッ

騎士「ぐっ……」

僧侶「騎士さん、お願いします」ペコリ

騎士「あっ、ぐっ、えっっと……でき得る限りは……」

僧侶「ありがとうございますっ!」ペカー

騎士(うぐぐ、すみません姫様……苦節を共にした仲間を悲しませる選択など俺にはできませんでした……)

勇者「二人して遅かったな。なんだ告白か僧侶?」ニヤニヤ

僧侶「ちっ、ちがいますっ!」

盗賊「なんだい。そうだったら目いっぱい祝福してやろうと思ってたのにねえ」

騎士「盗賊。お前いつの間に」

盗賊「ついさっきさ。ってかあんたもいたんだね。ちょうどいいや」

騎士「ん? ちょうどいい?」

盗賊「ちょいとツラ貸しな」クイッ

騎士「王城にいようと偉そうな態度は変わらんな……」ハァ

盗賊「アタシはこうじゃなきゃ」

騎士「違いない……。んじゃ行ってくる」

勇者「人気者だな」

騎士「どうだろうかね……」

盗賊「……アタシが勇者をモノにできるよう協力してくれ!」バッ

騎士「」

盗賊「…………えっと、足りない? なんなら土下座しようか?」

騎士「……いや、いらねえ。いらないからちょっと落ち着いて整理させてくれ」

盗賊「あ、ああ」

騎士「ええっと……お前は勇者が好き」

盗賊「ああ」

騎士「だから協力してほしい」

盗賊「そう!」

騎士「…………お前そんなキャラだっけ? アタシに奪えないものはないのさ! とかそういうんじゃ」

盗賊「そう思ってたさ。でもアイツの心は難攻不落」

盗賊「加えてライバルも多いと来たもんだ。……共犯者がいるんだよ」

騎士「人聞きの悪い言い方はやめろ」

盗賊「頼むよ。悪いようにはしないからさ」

騎士「いや、でもな、俺も」

盗賊「アタシの伝手で可愛い子紹介するからさ」

騎士「お前な」

盗賊「……城下で一番人気の踊り子……知らない? あの子のステージを見るには一年は待つっていう」

騎士「!?」

騎士「……お前、それは」

盗賊「ちなみにその子は踊り子なんてやってるくせにかなり初心で男性経験はない」

盗賊「加えていうとあんたのファンだ」

騎士「…………」

盗賊「どう?」

騎士「…………わかった」

盗賊「やりぃ!」

騎士(すみません姫様、すまん僧侶。……俺は騎士、そしてお前の仲間である以前に一人の男なのだ)

勇者「よう戻ったか。告白されたか?」

盗賊「バカ言ってんじゃないよ」

騎士「まったくだ」

賢者「ふっ……」

盗賊「うわ、賢者あんたいつの間に」

僧侶「ついさっきいらしたんですよ」

賢者「だが少し用ができたかな。騎士、すまないが」

騎士「うんなんとなくそんな気がした」

勇者「おいおいマジで人気者じゃねーかこのこの」グイグイ

騎士「張ったおすぞ」

賢者「私が君たちと旅をして……どれ位経ったかな」

騎士「勇者が俺と共にこの城を発ったのが大体1年前だ。お前が合流したのもそれからそんなに遠くないし」

騎士「1年は一緒にいたと思っていいんじゃないか」

賢者「ふむ、そうか。……初めの私はどうだったかな。あまり人間らしくなかったんじゃないか」

騎士「まあ、感情の機微とか、そんなんが分かるタイプには見えなかった」

賢者「だろうね。私の里では知識を深め真理を追究することが絶対正義だったし」

賢者「でも今は……少しは人間らしくなったろう」

騎士「ああ。笑いもするし怒りもする。とっつきやすくなった」

賢者「これもみんな旅のおかげだと思っているが……何よりも」

騎士「……勇者のおかげ、だろ」

賢者「!」

賢者「やるね。私のせりふを先回りするとは」

騎士「いやもうそうだと思ったよ。だってお前勇者にだけめっちゃ甘えるし」

賢者「えっ。そ、そうだろうか?」

騎士「勇者の寝所に忍び込もうとするし」

賢者「いやあれは学術的知見からだね」

騎士「それで?」

賢者「あっ、うん……その……キミに協力を頼みたい、かなと」

騎士「だと思った」

賢者「……なんだかアレだな。全部見透かされてると思うと少し腹立たしいな」

騎士「そうかい?」

賢者「それで、どうだろう、私と勇者が結ばれるため、協力してくれないか」

騎士「ああ、いいぜ」

賢者「――そ、そうかダメか……ううんじゃあこの里の秘伝の……って、ええ? いいのかい?」

騎士「ああ。騎士に二言はない」

騎士(っつーかお前にだけ協力しなかったらかわいそうだし……)

騎士「……俺の意思が薄弱なばかりに4人の恋路を応援することになってしまった」

騎士「……くっ、まあ出来る限り助力する他ない」

騎士「まずは……そうだな……」

騎士「……勇者の好みのタイプを聞き出すことから始めてみるか」

騎士「よし、そうしよう」



騎士「というわけで今日は男二人きりだ。腹割って話そうぜ」

勇者「お? いいな。でも何をだ?」

騎士「ズバリお前の異性のタイプについて」

勇者「異性のタイプ?」

騎士「ああ。お前にもあるだろ、好みが。何ならパーティの面子から選んだってかまわないぞ」

騎士(むしろそっちのがありがたい)

勇者「うーん……タイプ、タイプなあ……」

勇者「あんまり考えたことなかったな」

騎士「マジか」

勇者「ああ。でもなんで急にそんなことを?」

騎士「いや……ほら、お前は世界を救った英雄だし。これから求婚とかも増えるだろうと思ってな」

勇者「あー……やっぱそうなるのか。億劫だな」

騎士「億劫なんだ……」

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