モバP「異形コレクション」 (18)

アイドルマスターシンデレラガールズの短編SSスレです。
タイトルは同名のホラーオムニバスより。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1502634823

『ラブ・フリーク』  ――主演 クラリス


 かつて私の居た教会には、懺悔室というものがありました。

 信徒の方以外にはあまりなじみはないかもしれませんが……そうですね。

 ……教会の一室で、ひとひとり入れるくらいの大きさの箱が二つ並んでいる部屋が用意されています。

 電話ボックスの様だ、と評される方もいらっしゃいました。

 その片方に教会関係者が、もう片方に信徒の方が腰掛けます。

 私たちは箱の中で向い合せになりますが、その間には格子の衝立があり、加えて箱の出入り口にはカーテンが被さるようになりますから、お互いの顔は見えません。

 お互いに、誰がそこにいるのか分かりません。 

 そこで信徒の方は、秘密の告白をなさるのです。

 誰に話すこともできない、けれどこれ以上仕舞いこんでおくことのできない、胸の奥で膨れ上がった秘密を。



     
          「それでは、懺悔するのですね」


          「神はあなたを赦します」

 

 といっても、告白を受けた私たちは、何か指図したり、特別なことを申し上げる訳ではありません。 

 私たちは黙って告白を聞き、私情を挟むことなく、彼の方に悔い改めるよう促すのみです。

 大事なのは私たちの答えではありません。私たちは所詮神ならぬ身。

 大事なのは溜め込んだ想いを吐き出すこと。

 たいていの場合、答えは告白者のその心の裡に、既に確固としてあるのです。だからこそ、その方は罪の意識に苛まれているのですから。

 だから、私たちは一通り告白をお聞きしたら、決まり切った言葉を衝立の向こうにかけるのです。



     
          「それでは、懺悔するのですね」


          「神はあなたを赦します」

 
 無心で、無私で、このように。
 



 その日、久しぶりの里帰りをした私は一通りの挨拶を終えたのち、神父さまに頼まれて懺悔室に入りました。

 聞けば今朝、どうしても懺悔をしたいとの手紙が入っていたものの、その時間に神父さまは所用で留守にされるとのことでした。

 せっかく帰省したのに申し訳ないと何度も頭を下げる神父さまを見送り、私は薄暗い箱に入りました。


 よく晴れた午後でした。
 
 時間まで、誰も懺悔室を訪れる気配はありませんでした。当たり前と言えば、当たり前のことでしょう。

 内部の方は、私が懺悔室にいると言いふらすことはないでしょうし。

 仮に信徒の方に知られていたとしても、懺悔室ならばと、暗黙の事情は分かっておいででしょうから。

 だから私は、とても静かな時間を過ごしていました。ともすれば、うたた寝してしまいそうになる自分を内心叱りつけながら。


 衝立の木目をなぞりはじめて、どれくらい経ったでしょう――白状すると、今日の晩ご飯は何かしらと考えてしまっていた頃――パタンと、ドアの音が不意に届きました。

 私は目を閉じたまま身を引き締めて、格子の向こうに集中します。

 腰を下ろす気配が届きました。



 どなたが告白しているのか――本来、推測するようなことがあってはいけません。

 でも、どうしても、入ってきた瞬間に『分かってしまう』ということはあります。

 たとえば普段からお祈りにいらっしゃる方。などは、ものの所作が伝わってしまうかもしれません。

 

 入ってきた瞬間に、その方の何かが分かりました。

 でも何が分かったのかは、分かりませんでした。 
  
 その気配は衝立の木目に浮かぶ人の顔の様に、とらえどころなく、しかし確実に私の精神を爪弾きました。





 口を開けば、飲まれてしまうような気がして。

 それでも私は自らの務めを果たさんと、告白を促します。


「――どうぞ」


 息遣いが格子をすり抜けてきました。

 その唇の震えまでが、私の脳裏に正確に描かれました。

 その映像は余りに被写体に近すぎて、顔が誰か、それが誰かは、分かりませんでした。





――――――――道ならぬ恋をしています

――――――――私には元来、仕えるべき主がおわします。それに、彼の方との出会いは、元はといえば信仰が切欠

――――――――私は、どうすればよいでしょうか




 大事なの答えではありません。私たちは所詮神ならぬ身。

 大事なのは溜め込んだ想いを吐き出すこと。

 たいていの場合、答えは既に確固としてあるのです。


          「でも、答えはもう、出ているのでしょう」 

 
 決まり切った文句が、懺悔室の衝立を通り往きました。


     

          「神はあなたを赦します」




    



 かつて私の居た教会には、懺悔室というものがありました。

 そこで、秘密の告白がなされるのです。

 誰に話すこともできない、けれどこれ以上仕舞いこんでおくことのできない、胸の奥で膨れ上がった秘密を。
 


 教会の外に出た私は、一度だけ振り返りました。

 よく晴れた午後でした。
 
 罪の告白を終えた私は足取り重く、しかし、ついに想いを吐き出すことが出来たことに安堵していました。

 答えは既に、私の心の裡に、あるのです。

 それに、たとえ形式上とはいえ――私は、ゆるしを得た心地でいました。

 神はあなたを赦す――、その言葉が、いつまでも耳に響いていました。


 それにしても、今日、懺悔室の中にいらっしゃったのは――本来、推測するようなことがあってはいけませんが――どなただったのでしょう。

 神父さまではなく、でも、入った瞬間に、その方の何かが分かって、何が分かったのかは、分からなかったのですが。

『侵略!』 ――主演 星輝子


輝子「お、オオ……これは、すごいな……」ペシペシ

トモダチ「…………」

P「ほー、立派になったもんだなあ。ちょっと不気味だが」

輝子「わ、私もこんなのは、はじめて、だぞ……フヒ」サワサワ

トモダチ「…………」

P「これ、まさかとは思うが食べられないよな?」

輝子「コイツからの、許可が出れば、イケるだろうけど……フヒヒ、ちょっと、な、まだ、お、お話できなくて」

トモダチ「…………」

P「話、かぁ」

輝子「ちょっと苦手な、タイプだな……フヒ、なにか、ヒントが……な、なぁ、P……このキノコ、どこから連れてきたんだ?」

トモダチ「…………」

P「え? コレ、輝子が育てたんじゃないのか? また変わり種を持ってきたなあと思ってたんだが」

輝子「あ、ああ、育てたのは私だ……Pが、私も知らないキノコを見つけてきたんだと嬉しくて、念入りに……そ、そうか、フヒヒ」

トモダチ「…………」

P「な、なあ、輝子、コイツって……」

輝子「ま、まずい、な……トモダチのトモダチは、トモダチだと思っていたが、両方のトモダチじゃないとなると…コイツは」





トモダチ?「      

                 キシシッ」
    


『変身』 ――主演 多田李衣菜 木村夏樹



李衣菜「あれ……こんなヘッドフォン持ってたっけ?」スチャッ

李衣菜「うーん、見た感じ新しいんだけど買った記憶ないなあ……なつきちあたりが置いてったのかな?」

李衣菜「……もしかしたらコレ使ってたら、なつきちばりの音感手に入れたりするんじゃ? へへへ……っ、ちょっと拝借」

李衣菜「ん~何きこ……まあとりあえず、なつきちおススメのライブ音源流してみるかー」ポチポチ

李衣菜「いっつも聴いてはみるんだけど、大体途中で飽きちゃ














 その晩、寮のどこかから突然沸き出した爆音で、アタシたちは一斉に廊下に出た。
 
 場所はすぐに知れた。だりーの部屋だった。

 ブチぎれた面々がドアをぶん殴り、大声で叫んでアイツを呼んだ。だがそれでも音楽は止まなかった。

 アタシは、同じくだりーを呼びながら――ある違和感を覚えていた。

 いつもヘッドフォンのアイツが?

 それに流れてた曲、アタシが聴け聴けって言っても一向にマトモに聴く気配のないヤツ。
 
 何より、涼あたりも気付いてたみたいだけど、このドア越しでも分かる音圧はなんかステレオじゃなく、ソコで演ってるとしか思えなかった。

 誰かが持ってきたマスターキーが、人だかりの先頭にいた拓海に渡り、ドアが開く。


 音の濁流に視界を塞がれた。


 妄想を振り払った。部屋の奥には、こちらに背を向けただりーがいた。

 だりーがギターを弾いていた。あの伝説のライブと寸分狂い無く。

 ありえない、誰かが呟いた。そう、ありえなかった。

 だりーの技量がどう、とかじゃない。その頭にはヘッドホンがあり、そのコードは、音源に繋がれていた。

 じゃあこの音はなんだ?

 熱帯民族の打ち鳴らすようなドラム、脊髄を直接爪弾いてくるベース、唇べったりのマイクに吹きかけられるなまあたたかいボーカル、

 とうの昔に生産終了したレスポールの金切り声、


 ――アタシは想像する。

 振り返っただりーの目と口だった部分は、真っ黒に塗り潰されている。

 でもそれは間違いで、よくよく見れば昆虫の複眼のように無数の孔があいている。

 覗き込めばがらんどう。その中ではコイルと磁石と銅線がしかるべき配置で絶えず振動している。元あった内臓はどこにいったのだろう。


 演奏が終わる。万雷の拍手と十万人の歓声がワンルームを破裂させる。

 5曲目がはじまる。後ろの正面には回れない。だりーを止める者はいない。みんなこのステージの尊さを知っているから。

 アタシは自分が泣いていることに気付く。

 

終了です。

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