老ガイル (69)
俺ガイルssです。
これは八幡と雪乃の未来のifストーリーになります。
※このssに出てくる二人が童○と処○です。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1502114813
家族、それは男女が愛を交わして
その愛が育みやがて子供が生まれるという
人類が有史以前から持ち合わせているコミュニティの一種だ。
この俺、比企谷八幡もそのコミュニティのおかげでこの世に生を持てた。
だが俺の場合は家族というカテゴリーからかなりかけ離れる。
何故なら我が家には俺の他にMyスウィートエンジェル小町ちゃんがいる。
両親は小町にたっぷりと愛情を注ぐには生憎と俺には…
生まれてこの方、俺は家族からの愛というものをろくに知らない。
それに誰かに好かれたことも一度だってない。
精々小町から茶化される程度のモノしか受け取れていない。
そんな俺が家族など持てるわけがない。そう思い今日まで生きてきた。
こうして捻くれ者として人生を歩み続けて彼此87年の歳月が過ぎた。
「ヒキタニさん。ヒキタニのお爺さん。朝ですよ!起きてください!」
「うぅ…うるさいのぅ…もっと寝かせろ…」
「何言ってるんですか!もう朝の9時過ぎ。とっくに食堂が閉まっている時間ですよ!」
介護のヘルパーさんに叩き起されて俺はようやく目が覚めた。
比企谷八幡、御年87歳。既に高校を卒業してもう70年が過ぎた。
本来なら一人気ままに余生を過ごすはずが近所の民生委員により介護施設にぶち込まれた。
なんでも老人の一人暮らしは危険だとかそんな理由だ。
まったく余計なお世話だ。俺は最期までぼっちとして生き抜くつもりだったのにな。
だがここでの生活は案外悪くはない。
日々、職員たちが身の回りの世話をしてくれるので食いっぱぐれる心配はない。
まあヘルパーさんが未だに俺の名前を間違っているのだけは納得いかんのだが…
けど俺の担当ヘルパーさんだが
もう5年も付き合いあるのに未だに俺の名前を間違えたままなのは問題あるだろ。
「さあ、食べちゃってください。それで食べ終わったら声を掛けて。すぐに片付けます。」
「わかったよ。それじゃあいただきます。」
ヘルパーさんは他の部屋も担当しているので俺ばかりに引っ付いているわけにもいかない。
だから俺は一人で黙々とメシを食っているわけだ。
うん、実に…普通の味だ。別に悪いとかそんなんじゃない。
だが…なんといえばいいのだろうか…
時折妙に居た堪れない気分になる。
何で一人こんな寂しくメシなど食わねばならんのだとそう思える。
いや、これはぼっちとして歩んできた俺の人生。こうなるのは当然のことだろ。
それに俺が誰かに愛されたことがあるか?俺を愛してくれた人間なんていたか?
いなかっただろ。だからこんな末路を迎えたんだ。
そう、これは当然のこと…
「あら、相変わらず侘しい一人ご飯なのね。」
そんな俺の元へある老女が尋ねてきた。
それは俺と同じくこの施設に入居している雪ノ下雪乃、御年87歳だ。
思えばこいつとは高校時代からずっと腐れ縁が続いた。
出会いは高校時代から始まり大学、就職先とずっと一緒だった。
それがまさか介護施設まで一緒になるとは…
一体何のめぐり合わせなんだかな。
「あなたらしいわね。そうやって一人ぼっちで取り残されながら食事を取るなんて…」
「おいやめろ。
小学校時代の給食時間に嫌いなトマトを食いきれなくて
休み時間ずっと食わされていたトラウマを掘り起こすんじゃねえ。」
「そうね、今日の献立はおかずにトマトが載ってあるわ。
実は私のトマトをあなたのために残してあげたのよ。ほら、食べなさい。」
くっ…雪ノ下め…
俺が入居してからというものの毎日こんな嫌がらせをしてくる。
いや、それ以前からか。
職場ではこいつが上司だったからアホみたく業務を俺に押し付けて…
それは高校時代に奉仕部をやっていた頃からちっとも変わらないやりとりだ。
「ちゃんとトマトを食べられたようね。フフ、87歳も生きると苦手も克服出来るものね。」
「うるせえ、無理やり飲み込んだんだ。ところで…今日はわかってるな…」
「ええ、もう支度は出来ているわ。あなたも早く支度しなさい。」
朝食を終えると俺たちは外出の準備を行った。
一応介護施設に入居している身とはいえ許可を貰えば外出くらいはできる。
用意を整えた俺たちはとある場所へと赴くのだが…
「痛っ…やはり歳は取りたくないものね…」
施設の敷地から出たばかりなのにこれだ。
雪ノ下は数年前から足腰が悪くなり満足に歩けない。
そのためこいつは滅多に外出などしない。
だが今日はちがう。今日だけはなんとしてもある場所へ赴かなくてはならなかった。
「無理すんな。ほれ、おぶんぶしてやる。」
「いいわよ。このくらいなんともないわ。あなたの助けなんて…」
「馬鹿言うな。時間がないんだぞ。このまま間に合わなかったらどうするつもりだ。」
「………わかったわ。それでは責任持って必ず間に合わせなさい。」
渋々ながら俺の背中におぶられる雪ノ下。いつもこんな感じだ。
どれだけ嫌がっても最後は俺の背中におんぶされる。
昔だったら気恥ずかしくて出来なかったろうが
俺も雪ノ下もいい加減こんなやりとりを日常のものに感じつつあった。
「あなたの背中随分曲がりだしたわね。若い頃から猫背だった影響ね。
ちゃんと姿勢を整えていればもう少しは見栄えも良かっただろうに自業自得よ。」
「うるせえ、お前だって若い頃もっと身体を動かしていたらこうはならなかっただろ。」
売り言葉に買い言葉。
その応酬もいつものことだ。もうこんなやりとりを続けて70年目だ。
他人から見れば飽きることなくようやるもんだろ呆れるだろう。
だが俺たちにしてみれば不思議と悪くなく心地よくも思える。
さて、そんな最中に俺の携帯が鳴った。連絡の主はどうやらあいつだ。
「なんじゃ。またお前か。何?遺産?馬鹿が!お前になんぞ一銭たりとも残すか!?」
「またあの子からの連絡?」
「ああ、小町の娘からだ。とうとうあの馬鹿娘が小町たちの財産を食い潰しちまった。」
俺の親族は両親が30年前に死んだ。
それに小町も夫の川崎大志と一緒に10年前にぽっくりとあの世に旅立った。
それから俺の親族はあの小町の馬鹿娘だけになった。
あいつときたら…会う度に金をせびってくる。
俺はあいつに両親の遺産をすべて譲ったんだぞ。
それなのにヤツは3年もしないうちにその遺産をすべて使い切った。
そして今も小町たちの遺産を使い切ったと泣き喚いてきた。
悪いが俺は助けるつもりなどない。
これもすべてはうちの親や小町たちの自業自得だろう。
生まれてからずっとあいつを甘やかし続けたんだ。
それで今更俺のところに泣きつかれても困るわけだがな。
「小町が大志と結婚して良かったことといえば戸塚と親戚になれたことくらいだな。」
「そうね。戸塚くんは川崎沙希さんと結婚したのよね。」
「まったく戸塚は最高だったわい。あんな可愛い婆さんは他にいねえからなぁ。」
「何を言っているの?戸塚くんはお爺さんだったでしょ。」
どうやら雪ノ下は頭がボケ始めたらしい。哀れな…
あんな可愛い子がお爺さんとかありえんわ!全国の戸塚ファンと俺に謝れ!
まあそんな戸塚の婆さんと川なんとかは15年前に揃って死んじまった。
家族に看取られての安らかな眠りだった。
「そういえばあなたは珍しくあの子を甘やかさなかったわね。何故なの?」
「さあな。どうにもあいつは気に食わなかった。小町の娘だというのにおかしなもんだ。」
雪ノ下の疑問に俺は改めて自分でも思うところがあった。
何故俺は姪っ子をここまで煙たがるのだろうか?
あの可愛い妹の小町。その娘なのに俺はあの姪っ子をちっとも可愛いと思えなかった。
その理由は何なのか?
「つか金の問題ならお前だって大変だろ。遺産問題やばくねえか?」
「それなら問題ないわ。
行かず後家で終わった私に両親は大したものを残さなかったもの。
それに私の死後、お金は寄付に回してもらう予定だから。」
俺と同じく雪ノ下もまたこの歳までずっと独身だ。子供なんていやしない。
お互いぼっちであるために孤独の老後だ。
ちなみにこいつの姉である雪ノ下陽乃だが2年ほど前に亡くなっている。
雪ノ下さんも生涯独身であったため、雪ノ下家は遠縁の縁者が跡を継いだらしい。
そのため雪ノ下が独身で子なしでも何の問題もなくなった。
だが独身であったため、雪ノ下もまた俺と同じく孤独なぼっちの人生を歩んだ。
周りに家族でもいれば少しはちがったのだろうがこれもまた人生。
仕方のないことだと思って諦めるしかない。
まあそんな物思いに耽っているうちにバス停まで到着した。
「オイ、もうすぐバスに乗るが小便は済ませたか?」
「あなたという男は何年経ってもデリカシーがないわね。女性の前でそんなこと言う?」
「その歳になってデリカシーも糞もあるか。漏らして一番困るのはお前なんだぞ。」
「バカ…外出前にちゃんと済ませたわよ…」
これもまた長生きの弊害ってヤツだがもうこの歳になると尿漏れだって起きる。
以前は抵抗のあった紙おむつだって付けなきゃ周囲に臭いを気取られる。
俺たちぼっち…というか爺婆はそんな周囲から蔑まれる視線に人一倍敏感だ。
だからなるべくしてリスクは避けたいのが現状だ。
まったく若い頃ならしなくてもいい心配に晒される。本当に歳なんて取りたくなかった。
「パパ!ママ!ディスティニーランド楽しみね!」
「そうだな。久しぶりの家族団らんだし大いに楽しもうな。」
「本当に今日はお天気日よりでなによりね。」
バスに乗ったはいいがどういうわけか家族連れに遭遇した。
まあ別にこれといってどうという問題でもない。
こっちがスルーしていれば向こうだって気にも止めないだろう。
だが雪ノ下はそうでもない。若い家族連れを見ると雪ノ下はいつも不機嫌になる。
不快そうな顔であの若い家族を睨みつけようとする。
おい、やめろ。連中は俺たちに何も危害なんて行っていないんだ。
「アハハハハッ!面白~い!」
そんな時だった。
あの家族の子供がバス内で大はしゃぎを始めた。
本来なら止めなければならないが生憎とバス内には俺たちとこの家族連れの二組だけ。
そのため両親も子供のことだからとスルーしていた。
だがその行動が雪ノ下の逆鱗に触れてしまった。
「失礼だけどあなたたち、そこのお猿さんをしっかりと躾たらどうなの。
それはあなたたちが盛って産んだモノなのでしょう。
それなら他人さまに迷惑をかけないように心掛けておくべきではないかしら。」
恐ろしく冷たい口調で子供の親にそんなことを告げてしまう雪ノ下。
歳を取ってからもその毒舌は未だに健在。むしろ切れ味が増している。
氷の女王、未だに健在ってか。
「な…お婆さん…アンタうちの子が猿だと!」
「あなた何なんですか!うちの子に恨みでもあるの!?」
まあこうなるとあっちも喧嘩腰になるわな。
まったく決まったやりとりだ。
こいつと出会ってもう70年経つがいい加減どうにかならんものかとたまに思う。
まあもうどうにもならんのだろうな。
「すいませんねえ。こいつちょっと機嫌が悪くて…」
喧嘩沙汰になったら体力のない俺たちに不利なのは確実。
ここは逃げるが勝ち。
雪ノ下は俺の背中で文句を言い続けているが適当な言い訳をしてさっさと逃げるが得策。
そんなわけで目的地のひとつ前の停留所で逃げるように降りた。
ハァ…ここから雪ノ下を背負って歩きか…中々しんどいわい…
「ふぅ、やっと着いたぞ。」
「情けないわね。息も絶えているじゃない。」
「無茶言うな。この歳でお前一人担ぐのは相当力が要るんだぞ。」
「そんな泣き言など聞きたくもないわ。男なら女の一人くらい背負ってみせなさい。」
相変わらず女王さま気質の雪ノ下をおんぶしながらようやく目的地へとたどり着いた。
そこは病院。俺たちのように病気になりがちな老人には欠かせない場所。
俺は息も絶える状態で雪ノ下をおんぶしたままその玄関をくぐり抜けた。
つかもうこのまま入院したい。
誰か担架持ってきて。それでこのままベッドまで直行してくれ。
「雪ノ下のおばさま。こんなところで会うなんて奇遇ですね。」
病院の玄関を潜ると一人の若い男が俺たちを待ち構えていた。
この金髪でキザったらしいまでに端正に整えた顔。
ある男の面影がある。高校の頃、面倒事ばかり持ち込んできた葉山のヤツだ。
「葉山くんのお孫さんね。あなたどうしてここへ?」
「どうしてってここはうちの病院じゃないですか。
それに来週は親族会議がありますからね。その打ち合わせで親に呼び出されたんです。
おばさまはもう何年も欠席していますよね。たまにはお顔を出したらどうですか?」
もう何年も雪ノ下に関わっているとこの手の話を嫌というほど耳にしてしまう。
雪ノ下家は今も尚、この千葉の名家だ。
それに葉山の家も親が弁護士で医者と生まれながらの勝ち組。
そうなると両家共に相続する財産は俺のような庶民の考えが及ばないほど莫大なモノだ。
だから骨肉の争いは絶えない。
しかしその争いを止められる者はいない。
何故ならその当人である葉山自身はもう10年ほど前にポックリ死んじまったからだ。
ヤツの嫁だったあーしさんは
それはもうひどく悲しんでそのひと月後にあとを追うように死んじまった。
「お爺さんが生きていたらもっとスムーズに済むのに…」
「そうね。あの男は最後まで面倒を押し付けて行ったものだわ。」
雪ノ下がそう呟くように葉山の家も相当な遺産を遺していた。
普通に考えれば相続に当たるのはこの直系の孫なんだが
葉山の家は親戚が多いらしくそうなるとやはり財産を巡って骨肉の争いが起きる。
そのためヤツの死後に俺まで駆り出されてその処理を負わされたわけだ。
まったく俺には子供がいなくてよかった。あーっ!生涯ぼっちでよかったわ!
「あ、比企谷のお爺さんもお元気そうでなによりです。」
「けっ、今更気づいたフリすんな。そういうところは爺さんにそっくりだぞ。」
「ハハ、けどお二人はいつもご一緒ですね。本当に仲良し夫婦なんだから。」
そんないらないことを言って葉山の孫は親の待つ部屋に行ってしまった。
あのバカ…まだ俺たちが夫婦だと勘違いしているのか…
俺たちは夫婦なんかじゃない。長年の腐れ縁なだけだ。
まあ確かにあいつの言うように
いつも一緒にいるかもしれんがどこを勘違いしたら俺たちが夫婦に思えるんだ?
「夫婦ね…まったくあの子は…」
「ああ、いい加減勘違いを改めてほしいな。」
「あら、勘違いを改めるのはどっちの方でしょうね。」
なにやら雪ノ下が不機嫌だが俺は何も悪いことは言ってないはず。
まあこんな雑談を繰り返しても仕方がない。
とりあえず俺たちはこの病院のとある一室へと趣いた。
「…やっはろ…」
病室へたどり着くと一人の老女が俺たちを快く迎えてくれた。
本来ならもっと大きな声で俺たちを出迎えたかったのだろうが
生憎とこいつは医者から病を宣告されていた。
だから今日俺たちはなんとしてもこいつに会わなければならなかった。
そう、由比ヶ浜結衣。俺たち二人にとって無二の親友だ。
「ゴホッ…二人とも来てくれて…ありがとね…ケホッ…」
「由比ヶ浜さん無理しないで。もう喋るのもきついのでしょう。」
「もう…年寄り扱いしないでよ…アタシだってまだ若いんだから…」
若いわけねえだろ。
由比ヶ浜と同い年の俺たちが87歳だ。
しかも由比ヶ浜は俺たちよりも誕生日が早いから88歳になる。
88歳といえば米寿。
昔は60歳の還暦、70歳の古稀、77歳の喜寿、最後に祝われる88歳の米寿と長寿を祝った。
だが昨今の少子化問題でそんな祝いも廃れる一方だ。
だから世間からしてみれば
由比ヶ浜がこの歳まで生きたところで俺たち以外は誰も祝っちゃくれないだろう。
それに由比ヶ浜だが…
「ガハッ…ゴホッ…アハハ…そろそろお迎えが来る頃かな…」
「何を言っているの。しっかりして!まだまだ生きなきゃダメよ!」
雪ノ下は病床の由比ヶ浜を励ましているが実際のところ今日が峠だ。
これは先日、医者から宣告されていた。
元々由比ヶ浜は俺たちのいた施設に入居していた。
それが去年頃、持病が悪化して由比ヶ浜は入院を余儀なくされた。
それから日に日に病に蝕まれ、やつれていく姿は
見ていて哀れだとしか言い様がない姿に変わり果ててしまった。
医者ではない俺たちはそんな衰えていく由比ヶ浜の姿をただ黙って見ているしかなかった。
俺たちにとって大切な存在である由比ヶ浜。
それなのに俺たちはただ見ているしかないなんて自分の無力さを呪わずにいられなかった。
「けどまだ何か手があるはずよ!そうだわ。海外の病院なら治るかもしれない!」
諦めずに闘病生活を続けよと意気込む雪ノ下。
高校の頃から相変わらず負けん気だけは人一倍だよな。
けどそれは今の由比ヶ浜にとっては酷だ。
「やめろ。もうゆっくりと休ませてやれよ。」
「何でそんなこと言うのよ…このままじゃ由比ヶ浜さんは…」
「今日まで頑張ってこれたんだ。それでいいだろ。これ以上無理をさせるな。」
そう、由比ヶ浜は今日まで必死に闘病生活を懸命にこなしてきた。
だからこそこうして命を保てた。
だがそれも限界。既に由比ヶ浜の身体はボロボロだ。
それなら安らかに眠らせることがせめてもの優しさってもんだろ。
「何で…あなたは…どうして諦めるの…このままじゃ由比ヶ浜さんは死んじゃうのよ…」
「ああ、そうだな。それなら俺を恨め。それで少しでも気を紛らわせるなら存分に恨め。」
そう言うと雪ノ下の怒りの矛先は由比ヶ浜の病から俺へと移り変わった。
そうだ。それでいい。
どうしようもないモノに悪意を抱くよりも
目の前にいるわかりやすいものを睨みつけた方がまだ感情をぶつけられるだろ。
高校時代の相変わらずのやり方だ。
こうして憎まれ役を買うことで相手の感情を和らげる。
まったくこれじゃあ雪ノ下のことを強く言えないな。
「もう…二人とも…お見舞いに来てくれたんだから騒いじゃダメだよ…」
そんな俺たちを諌めてくれたのは病の身である由比ヶ浜だ。
こんな時だというのに俺たちは高校時代からちっとも変わらない。
頑固一徹な雪ノ下。憎まれ役の俺。そんな俺たちを諌める由比ヶ浜。
これが俺たち三人の関係。まさかこの関係が70年も続くとは思わなかった。
あの日、高校2年の春に平塚先生の手によって
奉仕部にぶち込まれなきゃこんな堅い絆は手に入らなかっただろう。
20年前に独身の身で亡くなられた我が恩師の平塚先生に感謝しなきゃならん。
「ねえ、最期にひとつだけお願いをしていいかな…?」
「勿論よ。何が欲しいの?すぐ比企谷くんに買いに行かせるわ。」
「おい、こんな時まで俺頼みかよ。まあいいけど…それで何が欲しいんだ?」
「別に何か欲しいってわけじゃないの。
ただ…二人と一緒に最期まで抱き合っていたい。それだけなんだ。」
唯、抱き合っていたい。それが由比ヶ浜の願いだった。
その言葉を聞いた雪ノ下はすぐさま由比ヶ浜の身体を抱いた。
抱いただけで脆くも崩れそうな由比ヶ浜の身体を雪ノ下は優しく抱きしめた。
よかったな。これで由比ヶ浜の願いは叶えられた。
「ほら、ヒッキーもだよ。」
「いや…俺は…」
「お願い。ヒッキーも一緒じゃないとダメなの。」
由比ヶ浜から促されて俺は思わず雪ノ下の顔色を伺った。
こんな俺が由比ヶ浜を抱きしめていいのかと…
けど雪ノ下はコクッと頷くだけ。察するに由比ヶ浜の望み通りにしたいのだろう。
それから俺も遅れながら由比ヶ浜を抱きしめた。
由比ヶ浜の身体は暖かく心地良いものだ。
それは由比ヶ浜の優しさを表しているようにも思えた。
「アハハ、最期に三人一緒でよかった。」
「フフ、思えば私たちはいつも一緒だったわね。」
「こんなこと俺が言うのもなんだがよくもまあここまで腐れ縁が続いたもんだと思うぞ。」
由比ヶ浜を通して俺たち三人はひとつになれた。それは本当に心地良い感覚。
由比ヶ浜の優しさがあったからこそ俺たち三人は今日まで一緒にいられた。
けどその三人の関係は今日限りだ。
何故ならこうして肌のぬくもりを感じるからこそわかる。
由比ヶ浜の命が次第に失われていくことに…
「もうお別れの時間かな。」
「そんなこと言わないで…あなたがいなくなったら私は…」
「ごめんね…ゆきのん…本当にごめんね…」
今生の別れ。それを雪ノ下は何度も否定した。
だがどんなに否定しようとそれは無駄だ。
それでも愛する人との別れなど誰が望むものか。
どうしようもないことなのはわかっている。
だがそれを感情が拒絶するのは人間として当然のことだろ。
俺だって同じだ。理性では納得しても感情が由比ヶ浜の死を拒んでいる。
何故由比ヶ浜が死ななければならない。どうせ死ぬのなら俺が…
俺の命でよければいくらでだってくれてやるのに…
「ヒッキーありがと。けどもういいの。」
そんな俺の想いをわかっていたのか由比ヶ浜は優しげな顔で首を振った。
誰かの命を犠牲になどできない。そう訴えているのだろう。
それから由比ヶ浜は俺にも何かを語りかけてきた。
「ヒッキー、今だから言うね。アタシ本当はお嫁さんになりたかったんだ。」
「そんなこと今更言うなよ。お前ならいくらでもいい人がいただろうが…」
由比ヶ浜も雪ノ下と同じくこの歳まで独身だった。
その理由を俺は知らない。知ろうともしなかった。
俺が言うのもなんだがこいつは面倒見のいい性格だ。
結婚すれば必ずやいい母親になれたかもしれない。
そうすればこうして看取ってくれる人間も
俺たちだけでなく子供たちが駆けつけてくれたはずなのに…
「もういい加減に気づいてよ…アタシだって好きな人と結婚したいんだからね…」
「アタシが好きな…人…」
「ヒッキーと…結婚したかったの…」
既に御年88歳だというのに
まるで由比ヶ浜は未だ恋する乙女かのように照れくさそうにそう告げた。
由比ヶ浜が…俺と結婚…ハハ…全然予想できねえや…
だってそうだろ。この歳までぼっちをこじらせた男と結婚だぞ。
俺なんか家族を持つ資格のない男と結婚なんて悲惨な未来しかないはずだ。
それを考えれば俺が独身であることは誰にとっても喜ばしいことだろうが。
「バカ…バカ!バカ!バカ!どうしてそんなことしか考えられないの!?」
「何でって…俺が家庭なんか持てるわけないだろ…だって俺は…」
「だって俺は…何なの?
目の前にヒッキーのことを想っている人たち立っているんだよ。
他の人はどうだか知らないけどアタシとゆきのんはヒッキーのことが好きなんだからね。」
「ちゃんと…人を好きになって…」
「ていうかアタシが愛した人なんだからしっかり自信を持ってよ。」
「お願い…逃げないで…最期くらいちゃんとしてよ…」
由比ヶ浜はこんな死の間際ですら俺を気にかけてくれた。
やはり由比ヶ浜結衣は優しい。それを改めて実感することが出来る。
それなのに俺は未だに愚図った態度を見せているだけ…
お前は何でこんな俺を選んじまうんだ。
俺なんか選ばなければ幸せな未来があったはずなのに…
だが今はそんな野暮なことを言うつもりはない。
それは俺を選んでくれた由比ヶ浜を侮辱するに等しい行いだ。
由比ヶ浜は命の瀬戸際でも俺と結婚したいと告げてくれた。
それなら俺も最期にちゃんとこの想いに応えて見せなければならない。
「ああ、俺もだ。これは同情でもなんでもない。お前と心から結婚したいと願っている。」
「嬉しい…ようやく素直になってくれたんだね…ありがと…」
由比ヶ浜…いや…結衣の頬から一筋の涙がこぼれ落ちた。
暖かくそして優しい涙。
それは死の瀬戸際にある彼女が流すにはあまりにも優しいものだ。
こんな優しい人を俺は70年も待たせてしまったのか。
我ながら思うが本当にろくでもない男だな…俺…
「これでもう思い残すことはないや。いつでも逝けるよ…」
「そう…あなたは幸せだったのね…」
「うん…幸せだよ…ゆきのんがいてヒッキーがいて…
それにアタシもいて…三人一緒に居られて幸せな人生だった…」
由比ヶ浜は満足そうな表情で雪ノ下にそう語った。
もう思い残すことはないのだろう。
そんな由比ヶ浜だが最期に雪ノ下にだけあることを耳打ちで呟いた。
それは俺には聞こえない。いや、俺が決して聞いてはならないことなのだろう。
それが済むと由比ヶ浜の抱きしめる力が弱くなるのを感じた。
どうやら最期の時が来たようだ。
もう言葉はいらない。俺と雪ノ下は由比ヶ浜が息を引き取るまでずっと抱きしめていた。
それからすぐに葬儀が執り行われた。
だが葬儀といっても既に由比ヶ浜の家族は
あいつの両親が30年前に亡くなっているのでこの世にはいない。
それに友達だって俺と雪ノ下以外はもう誰も生きちゃいないはず。
だから葬儀は俺と雪ノ下の二人だけで密かに行われた。
それが済むと火葬場で由比ヶ浜の遺体は火葬されて小さな骨壷に納まった。
もうこんなこと何度も慣れているがやはり親しいヤツが死ぬと堪えてしまう。
「う…うぅ…由比ヶ浜さん…」
俺の隣で雪ノ下はもう何度も泣き続けていた。
無理もない。雪ノ下にとって由比ヶ浜は高校時代からの大事な親友。
俺が知る限りでは雪ノ下が同性の友人で由比ヶ浜以上に親しかった人間などいやしない。
だから雪ノ下は自分の両親が死んだ時以上に由比ヶ浜の死を悲しんでいた。
「ほら、バスに乗るぞ。」
「うぅ…ひぐっ…」
雪ノ下はまだ泣くことをやめようとしない。俺もそれを止めるつもりなどない。
泣きたい時は泣けばいい。理性で感情を抑えるのだって限界がある。
俺の場合は理性が上回っているので感情の抑えが効く。
だがこれは他人からしてみれば薄情だと思われるのだろう。
言っておくが俺だって由比ヶ浜の死を悲しんでいる。唯それを表に出さないだけだ。
「パパ、ママ、今日は楽しかったね!」
するとそこにある親子連れが現れた。
それは先日、雪ノ下が注意を行った家族連れだ。
クソ、よりにもよってこんな時に遭遇するとは思わなかった。
しかもクソガキの方がこっちに気づいたらしい。
「あ~!この間のお婆ちゃんだ!なんか泣いてる~」
「本当ね。この前は喚くなと言っておきながら自分が泣き喚いているなんて。」
子供と母親は未だに泣き続ける雪ノ下を指摘していた。
どうやらこの間の仕返しをやりたいみたいだ。
だが今は状況が悪すぎる。大事な人が死なれた時なんだ。
お前らの子供みたく癇癪で喚き散らしているんじゃないから大目に見てくれ。
仕方がない。ここはなんとか宥めさせておくか。
「なあ…悪いがそっとしておいてくれないか…」
「はあ?俺たちの時はあれだけ怒鳴りつけたのに自分たちは見逃せだと?ふざけんなよ。」
「そうよ。そのお婆さんだって人のこと言えないじゃないの。」
「この間はすまなかった。だが今は勘弁してくれ。頼むよ…」
なんとかこの家族を宥めるがそれにも限界がある。
こんな80を過ぎた爺さん一人で若い夫婦を相手にするなどかなり骨のいることだ。
だがそれでもこの場は俺がなんとか収拾付けなければならない。
その後も捲し立てる夫婦たち。だがその隙に子供が雪ノ下に駆け寄って行った。
「えいっ!」
それは単なる子供の悪巫山戯だったのだろう。そいつは雪ノ下の足を蹴飛ばした。
子供はこれでこの前の仕返しを行えたと満足した顔をしている。
親たちもそれを見て気まずくなったのか子供をすぐに雪ノ下から遠ざけようとした。
だが…俺は…
「このクソガキィッ!よくも!!」
気づけば俺は子供の顔を思い切りビンタしていた。
咄嗟のことで自分でも何をやっているのか見当もつかなかった。
だが自分の中にある何かが爆発していることだけはわかった。
「アンタ…うちの子に何してんだ!?」
「うるせえ!俺の女房を傷つけるんじゃねえッ!!」
俺の女房って…何を馬鹿なことを言っているんだ…
すぐに雪ノ下の方を向くがなにやら不機嫌なようで顔を俯かせていた。
よかった。どうやら今のことは聞いていなかったようだ。
とにかくもうこのバスには乗っていられない。
俺は未だに泣き続ける雪ノ下を背負い逃げるように下車した。
もう俺自身、自分が何をしているのかよくわからなかった。
だが今はもう他人にとやかく言われたくない。もう放っておいてくれとそれしかなかった。
「まったく…子供に暴力を振るうなんて最低ね…これだからDV谷くんは…」
それから数分後、雪ノ下はようやくいつもの冷静さを取り戻した。
しかし最初に出たのが子供への暴力についてか…
あんなもん躾だ。俺なんてガキの頃に小町を泣かせたらすぐに親父の鉄拳が飛んできたぞ。
「あのくらい見逃してくれ。
それにあれくらいやっておかないとあのガキのためにもならなかったはずだ。
たぶんあの夫婦は普段から子供を甘やかしていたから大人がちゃんと叱らないとな。」
「ハァ、自らの行いを正当化するなんて相変わらずの捻くれね。」
「言うな。もう毎度のことだろ。」
そう、いつものことだ。
毎度のトラブルはいつも俺がこうして仲裁して解決する。
だが今日はちがった。この歳になってあんな感情的になるなんて自分でも意外だ。
まさかこれが更年期障害ってヤツか?やはり老いとは厄介なもんだ。
「ところでもう夕方ね。確か今日は花火大会がやっていたはずよ。」
「そういえばそんなのもあったな。もしかして見たいのか?」
「ええ、せっかくの外出だからそのついでにね。
けど私たちの身体じゃ会場なんて無理だからどこか見える場所に連れて行ってほしいの。」
まあそのくらいの頼みなら問題はない。
ここから施設までの帰り道で花火は十分に見える。
だからわざわざ会場まで行く必要などないわけだ。
それから施設の方まで歩いていくと数人が挙って花火を見上げていた。綺麗な花火だ。
「綺麗な花火ね。」
「ああ、綺麗だ。」
「以前に由比ヶ浜さんから聞いたけど高校の頃に二人で花火を見に行ったそうね。」
「まあな。あの時は花火を見ただけですぐに帰っただけだ。何もなかったよ。」
そういえば高校の頃に由比ヶ浜に連れられて花火を見に行ったな。
今にして思えば由比ヶ浜はあの頃から俺に好意を抱いていたのかもしれない。
だが俺はその好意を無下にした。
自分は誰からも愛されてなどいない。
俺が誰かと付き合えばそいつが不幸になると必死に言い聞かせて…
だがそれは過ちだった。そのせいで由比ヶ浜は人生を棒に振った。
もう取り返しなど付かない。
もしもあの時、好意を素直に受け取っていたら由比ヶ浜は幸せになれたのだろうか?
その疑問が頭を過ぎった。
「ねえ見て!花火だよ!」
「本当に綺麗だな。」
「そうね。家族一緒に見れてよかったわ。」
そんな疑問に頭を悩ませる俺を尻目に
この辺りの住人と思しき連中が家から出てきて花火を見物していた。
その中にはやはり数組ほど家族連れの姿も見受けられた。
幸せそうな家族。それを見ているとどうしても心に燻る苛立ちを隠せなかった。
俺も雪ノ下と同じだ。家族連れを見ると何故か妙に心が苛立ってしまう。
「本当に若い家族連れを見るとどうしようもなく腹が立つわ。けどこれって嫉妬なのよね。」
「嫉妬ってどういうことだよ?」
「見てわからないの?羨ましいということよ。
私たちは家族を持てなかったのにどうして他の人たちはと嫉妬してしまうのよ。」
そんな…何で赤の他人を見て羨ましいなんて思わなければならない…
だって仕方ないだろ。雪ノ下はともかく俺は誰かに好かれたことはない。
まだ純粋だったガキの頃、理解されたくて他人に好意を向けたことがあった。
だがそれはあっさりと無碍にされた。
人を信じて二度と傷つきたくない。だから俺はぼっちの人生を選んだ。
それなのに嫉妬なんて…傲慢過ぎるだろ…
「何でお前は結婚しなかったんだ?」
「今更それを聞くの。」
「お前は俺とちがってその容姿で誰からも好かれた。
勿論いい縁談だってあったはずだ。それなのにどうしてこの歳まで独身なんだ。」
本当に今更なことを聞いてしまった。
俺は雪ノ下が独身である理由を聞いたことがない。
いや、本当は知っているのかもしれない。けどそれを知りたくなかったのかも…
だから今日までそのことについて知ろうとしなかったのだろう。
「………憎いのよ。あなたが憎くて仕方なかった。」
「どうして人の好意を無碍にするの。あなたのことを信じていた人がいたはずよ!」
「それなのにあなたは誰も信じようとしなかった。だから憎かった!」
それが雪ノ下の結婚しなかった理由だ。
俺が憎い。そうだろうな。俺は常日頃から誰かの悪意を受けている。
「うっ…うぅ…」
雪ノ下が俺の背中で泣き出した。
先ほどの由比ヶ浜の死を悼むほどではないがそれでも背中から涙の湿りを感じる。
「あなたのことをずっと待っていた。」
「お願いだから素直になりなさい。」
「他の人なんてどうか知らない。けど私は…」
「少なくとも私はあなたと結婚したかった。あなたの子を産みたかった。」
「由比ヶ浜さんだってそうだったでしょ。それなのにあなたはどうして…」
それが雪ノ下の本心だった。
そして俺もようやく自分が家族連れを見て苛立つ気持ちが理解出来た。
俺たちは互いに家族を持ちたかった。
だがそれはお互いの孤独に苛まれていたために望むことが出来なかった。
それなのに誰もが結婚して家庭を持っている。それが我慢ならなかっただけのこと。
「だから憎たらしいわ。憎たらしいから私は…」
「あなたと家族になりたかった。」
「家族揃って花火を眺めたかった。」
「唯それだけのことなのに…どうして叶わなかったのよ…」
雪ノ下は力の限り俺の背中を握り締めながらそう呟いた。
それからは花火の光景など目も暮れずに俺は雪ノ下をおんぶしたままその場を後にした。
誰も俺たちのような老いぼれがこの場から立ち去ることを見向きもしない。
当然だ。ぼっちをこじらせた爺と泣き疲れた老婆など誰が心配などするものか。
その後、施設に帰り俺たちは各部屋へと戻った。
部屋に戻った俺は雪ノ下の思いについて頭を悩ませた。
家族なら…だが今更そんな願いを叶えてどうなる…
むしろ雪ノ下は俺に憎悪を抱いている。それなら俺のやるべきことは決まっている。
決意を堅めた俺はすぐさま準備に移った。部屋を整理して身支度を整えた。
そして翌朝―――
「さて、行くか。」
早朝、荷物を整えた俺は誰にも知られずにこの施設を抜け出た。
あれからずっと考えた。雪ノ下の憎しみを晴らすにはどうすべきか?
そして結論が出た。それは雪ノ下と由比ヶ浜を不幸にした元凶。
つまりこの俺が死ぬことにある。
だがさすがにこの施設内で自殺なんてなれば施設側に迷惑が掛かる。
ここには俺たち以外にも大勢の人間が暮らしているんだ。
そんなことしたら誰もが路頭に迷うことになる。
だからこうして人知れず抜け出して何処か人気のない場所で自殺を図ろう。
幸いにも俺の死を悔やむ人間はもういない。
いや、以前は居たかもしれないが…今となっては…
フン、馬鹿らしい。気落ちしている場合か。それとも今になって怖気づいたか?
もう俺が生きていく意味などない。
そもそもあいつらを傷つけその未来を台無しにした俺が生きていちゃいけない。
俺の死が雪ノ下の鬱憤晴しになれば幸いだ。
さあ、これで準備も心構えも出来た。あとは出発するだけだ。
「おはよう、今日はいつもより早いのね。」
そんな出発直前になんと雪ノ下が姿を現した。
嘘だろ…何でここに…?
まだ5時ちょっと前だぞ。この施設の人間は全員寝ている時間じゃないのか!?
「年寄りは朝が早いのよ。まったく歳を取るのも考えものだわ。」
「そうか…」
まさか出発直前で雪ノ下に出会すとは思わなかった。
出来れば雪ノ下には知られず立ち去りたかった。
まあ俺の死を知って罪悪感に駆られる…とは思わないが…
それでも雪ノ下が余生を健やかに過ごすためにも俺など最早異物でしかない。
早くこいつの目の前から去らなきゃならない。そんな矢先に奇妙なモノを見つけた。
それは雪ノ下の足元、こいつ少量だが荷物を持っている。
何でこんなものを持っているんだ?
「ほら、早く行きましょう。出かけるんでしょ。」
「待て…お前…俺が何をするのかわかっているのか…?俺はこれから…」
「死にに行く。そうよね。」
雪ノ下の言葉に思わず俺は図星を突かれてしまった。
嘘だろ…まさか…何で気づかれたんだ…?
だって俺は何も告げていないのに…
「何を意外な顔をしているの?
これでも70年の付き合いよ。あなたの考えくらい手に取るようにわかるわ。」
「そうか…それで…どうするつもりだ…まさか止める気なのか?」
「何を期待しているの?
あの優しい由比ヶ浜さんを不幸にさせて報われるとでも思っているのかしら。」
「ああそうかよ。それならこのまま死なせてくれ。お前だってそれを望んているんだろ。」
そうだ。これが雪ノ下の望む結末だ。
俺の死が雪ノ下の不幸をすべて精算してくれる。
これで雪ノ下は報われる。そうあるべきなんだ。
「そうよ…だから…私が見届けると言っているのよ…」
「まさか付いて行く気なのか?」
「ええ、そうよ。ヘタレなあなたのことですもの。
きっと気を変えて途中でやめようとするはずだもの。
だからしっかり見届けておかないとならないわ。」
それが雪ノ下の返答だった。
だがその言葉は何故か弱々しくそれに雪ノ下自身も涙目だ。
こんなこと止めるべきだ。さすがに悪趣味すぎる。
それに万が一にも警察に疑われてみろ。それこそ大事じゃねえか。
「ダメだ。お前はもうここで静かに暮らすんだ。
死ぬのは俺だけでいい。お前が死んだらあの世にいる由比ヶ浜に申し訳が立たん。」
「こんな時にまで由比ヶ浜さんを言い訳にするのはやめなさい。私は…あなたを…」
「わかっている。俺が死ねば全部解決するんだろ。だから死んでやるよ。」
もうわかっている。
誰かを不幸にさせてばかりの俺なんかが生きていちゃいけない。
頼む雪ノ下。これ以上俺なんかに絡まないでくれ。
お前だけは静かに余生を過ごしてくれればそれでいいんだ。
「それで最期までぼっちでいるつもりね。
それは逃げだわ。結局あなたは出会った頃から何も変わっていないのね。」
「そういうことだ。結局俺は生粋のぼっちなんだよ。わかったら部屋に戻れ。」
そう告げると俺は雪ノ下を素通りして施設を出ようとする。
だが出る寸前、雪ノ下が足を挫いた。
「痛っ!昨日の子供が蹴ったのがまだ響いているようね。本当に身体の衰えは嫌だわ。」
「まったく…ほれ…立てるか?夜勤のヘルパーさんを叩き起してくる。」
「やめなさい。どうせまだ仮眠中よ。それよりもあなたと一緒に行くわ。」
「ダメだ。お前はちゃんと生きないと…それが由比ヶ浜のためだ…」
どうやら雪ノ下は意地でも俺と同行するつもりらしい。
けど俺は雪ノ下にはなんとしても生きてほしいと願っている。
だから何度も頑なに説得したのだが…
「あなたは…ここに足の挫いた女性がいるのよ…
それを置いて一人で自殺しに行くつもり?最低だと思わないの。」
「最低で結構だ。俺は卑屈で最低なぼっちのヒキタニくんだぞ。」
「だから…そういうのはやめて…もう素直になりなさいよ…」
「泣くなよ。お前は雪ノ下雪乃だ。
誰かに泣いてるところなんて見せるな。いつものように強がってみせろよ。」
「うるさいわよバカ…こんな時くらい泣いてもいいでしょ…」
「なあ…もう俺のことなんて忘れろ…お前にはまだ生きて欲しいんだ…」
「生きて何をしろというの?もう私にはあなた以外に誰もいないのよ。」
「だから出会いくらい…」
「まったく…80過ぎたお婆ちゃんに出会いなんてあるわけないでしょ…
私だってあなたと同じぼっちよ。施設でもあなた以外と話したことなんてないもの。」
そういえばこいつが施設で俺以外と話しているところを見たこともないな。
本当に今更過ぎる。鈍感というのも度が過ぎると罪になるらしい。
「わかった。行くぞ。背中に掴まってくれ。」
もう説得なんて無理だ。
それに雪ノ下をこのまま一人置いて行くのは不憫に思うように感じてしまう。
だから俺はいつものように雪ノ下を背負い施設を出た。
「ねえ、何で家族を持とうと思わなかったの?」
「そりゃ俺が誰かを背負って生きていくなんて出来るはずないだろ。」
「何を言っているの。こうして私を背負ってくれているじゃない。」
「まあそれを言われると弱いな。
けどお前みたいな気難しいのは俺じゃないと誰も背負わないだろ。
そんな役を誰かに押し付けるのも不憫で仕方ないからな。」
「そうよ。これはあなたの役目なのだから…」
もう何度交わしたのかわからない口喧嘩の応酬。
人を不幸にさせてばかりいた俺が誰かを幸せになる出来るはずもない。
それでも誰かとこんなやりとりを行えるのは正直言って心地良く思える。
いや、そんなこと感じちゃダメだな。俺は人を不幸にしてしまった。
やはりこれ以上こんなところにいるわけにはいかないか。
<ガハマ厨1>
「妄想」「根拠」「ガイジ」「電池君」「八幡は雪乃と友達になりたい」
これらのワードを連呼し、複数垢を使いで議論を押し流そうとするガハマ厨の中でも最凶のキチガイ。基本日本語が通じない上に
俺ガイル関連のあらゆるスレ、果ては知恵袋にまでその生息が確認されている
最大の特徴として議論で論破されると、「妄想」「根拠」などのワードを連呼し、
いざ根拠を提示しても「電池君」「ガイジ」などを壊れたradioのように連呼して煙に巻きスレを荒らし議論ができないようにする
<ガハマ厨2>(八幡アンチ?)
八幡の求める「本物」を徹底的に否定し、最終的には本物が手に入らない。八幡は変わるべきだと比企谷八幡の人間性を否定している
ガハマ厨に比べると人間の言語を理解できる知能を持つが八幡や作品のテーマである「本物」に否定的なアンチよりの連中
八幡の「人格」「本物」に対して否定的で俺ガイルという作品自体を曲解しており、作品のテーマ及び主人公に対して
「そんなものを求めていては成長できない」「八幡は本物を諦めるあるいは妥協すべき」
などと、八幡にとっては大きなお世話以外なにものでもない押し付けがましい感情論を振りかざし作品自体を否定しているような俺ガイルファンからすれば何故、俺ガイル読んでるかわからない迷惑以外の何物でもない連中
主な生息地は「HACHIMAN信者を見守るスレ」でpixivなどの二次創作サイトに度々凸している迷惑集団
ガハマの原作での所業
・犬のリードを離し事故の原因を作り八幡を大怪我させる
・犬を庇った八幡に一年間も直接お礼を言いに来ない
・御礼と称して木炭クッキーを渡すなど人の常識としてあり得ない事をやる
・面識が殆どない八幡に「ヒッキー」と失礼な渾名を付けてキモいなどの暴言を吐く
・事故の事がバレても謝るでもなく落ち込むだけ、終いには「馬鹿」と吐き捨てる自己中ぶり
・夏祭りの時も八幡が居た堪れなくなってるのにそれに気付かない
・文化祭の時もクラスの手伝いばかりで奉仕部は放置してたくせに雪乃を責め八幡に責任を背負わせる
・修学旅行の依頼の件で戸部の依頼を強引に押し切り厄介事を奉仕部に持ち込む
・アニメ2期の冒頭で事情を知っていてクラスの連中と一緒に八幡の事を笑っていた
・空気読めるとか説明されてる割にはクッキーや夏祭りの件の様に八幡を困らせてばかり
・加えて八幡と雪乃が進展するのを邪魔して自分の恋愛感情を八幡の気持ちも考えずに押し付けてばかり
・材木座の事も汚物の様に扱って、依頼も殆ど放置の無責任ぶり
・優しいと言ってもそれは自分が都合がいい時だけ、都合が悪くなれば手の平返して保身を優先する上っ面の偽善
・11巻で雪乃に弱みに付け込んで八幡への恋愛感情を封じる提案をする
普通の神経を持った人なら嫌いになって当然じゃないですかね
これほど「ガイジ」という言葉が似合う糞女いなくね性根が何もかも腐り切ってる
だからpixivでも人気がないし八結よりアンチガハマの方が勢いあるんだよなあ
というかファンの殆どがガハマは八幡と雪乃の前から消えて欲しいと思ってる人が大半だと思う
pixivやTwitterでのコメントが全てを物語っている
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