キョン「最近、生え際が気になる」 (63)
キョン「うーむ」
キョン妹「ほぇ? キョンくん、鏡の前でなにしてるの?」
キョン「妹よ」
キョン妹「なぁに?」
キョン「最近、兄の変化に気がつかないか?」
キョン妹「ん~?」
キョン「ほら、例えば男前になったねーっとか」
キョン妹「きゃはは! それはないよぉ~」
キョン「そ、そうか。では、ごほん」
キョン妹「……? さっきから変なキョンくん」
キョン「改めて問おう、妹よ。……最近、ちと、デコが広くなったと思わないか?」
キョン妹「おでこさん?」
キョン「どうだ……? 八割くらい本気の回答を求む」
キョン妹「キョンくん前髪があるからよくわかんないっ」
キョン「ほれ。これならどうだ」グイッ
キョン妹「んー……あっ! ホントだぁ!」
キョン「えっ! そ、そうなのか⁉︎ やっぱり、間違いないんだな⁉︎」
キョン妹「おでこさんが広くなってるー! キョンくんのおでこさんっ♪ キョンくんのおでこさんっ♪」
キョン「何度も連呼しなくてよろしいっ! ……そうか。やはり、広くなっているのか」ガックシ
キョン妹「よしよし」ナデナデ
キョン「慰めてくれるのはありがたいが、頭をさわるのはやめてくれ。毛根が摩擦によって抜けたらどうしてくれる」
キョン妹「あはは。キョンくんなんだかベジータみたい」
キョン「M字でもないしサイヤ人じゃありませんっ!」
キョン妹「じゃあ、サザエさんの波平?」
キョン「まだそこまでハゲとらんわいっ!」
キョン妹「それじゃあ、クリリ――」
キョン「どんどんハゲ具合がひどくなってないか! 謝れ! 全国の頭皮が薄い人に謝れ!」
キョン妹「わぁ~! 天津飯くんこわぁ~い! おかあさぁ~ん!」
キョン「あっ、こら! 待ちなさい! ……ったく。しかし、どうしたもんかねぇ~」チラ
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【学校 HR前 トイレ】
古泉「おはようございます」
キョン「はぁ……。朝からお前の顔を見るほど憂鬱な気分になることはないぜ。せめてクラスが違くて助かったよ」
古泉「んっふ。では、神に感謝しなくては」
キョン「神様ならお礼は足りてるそうだ」
古泉「そうとも限りませんよ~? 謝礼はいくらあっても困りませんからね」
キョン「現金な神様ってのも嫌なモンだが」
古泉「神社の前に賽銭箱が置いてあるのはなんでだと思います? 地獄の沙汰も金次第と言うじゃありませんか」
キョン「けっ、現世は地獄で金でなんでも解決できるってか? なんともいやらしい思考してやがる」
古泉「そういうわけではありませんが。渡し船でさえ運賃が必要だったりしますしね」
キョン「はいはい、そうですか。用を足したなら行けよ」
古泉「そのつもりでしたが、さっきから鏡の前でなにをしてらっしゃるんです?」
キョン「別になんだっていいだろ」
古泉「ナルシズムに目覚めたとか。興味深いですね」
キョン「はっはっはっ。俺が自分をかっこいいと思える日がくるなら本当の地獄がくるかもなぁ」
古泉「おやおや。それは一大事」
キョン「皮肉をスルーするな。それぐらいありえないって話だよ」
古泉「ふむ。僕としてどちらでもかまわないのですが」
キョン「よく言うぜ」
古泉「それで、見惚れているのではないとすれば……なにをしていらっしゃるので?」
キョン「はぁ……なんにも。ホクロが気になってさ」
古泉「ホクロが?」ズイ
キョン「うわっ! 寄るな近いうっとうしい!」
古泉「なんら変化があるようには見受けられませんが……」
キョン「ええいっ! お前が行かないってんのなら俺が行く!」
【教室】
国木田「あ、キョン。おはよー」
谷口「うーす」
キョン「おはよーさん」
谷口「今日はいつもより遅かったじゃねぇか。可愛い子でもいたのかぁ?」
キョン「お前じゃあるまいし」
谷口「健全な男子として全うな反応だね! もしかして、キョン、お前って不能か?」
キョン「なんでそうなるっ!」
国木田「それで、なんで遅かったの?」
キョン「いや、ちと、腹が痛くてさ」
谷口「どーだか」
朝倉「おはよう、キョンくん」
キョン「……? えっと、なにか用か?」
朝倉「涼宮さんにプリントを渡してもらおうと思って待ってたの」
キョン「ハルヒなら……って、まだ来てないのか。わざわざ手渡しなぞせんでも、机の上にでも置いておけば」
朝倉「そう邪険にしないで。涼宮さん、私からだと不機嫌になっちゃうから」
キョン「はぁ……俺はハルヒ専用の伝書鳩じゃないんですけどねぇ」
朝倉「ごめんなさい。良くないと思うけど、涼宮さんとまともに喋れるのキョンくんだけだから、つい……」
キョン「わーったよ」
朝倉「ごめんね。昨日、涼宮さんがお休みしてたから。三者面談のプリントを預かってるの」ペラ
キョン「りょうかい」
朝倉「いつもありがとう。感謝してる」クル
谷口「……いいよなぁ~。キョンは」
キョン「なにがだ?」
谷口「涼宮のおかげで朝倉とお近づきになれるなんてさぁ」
キョン「お近づきになっているように見えるなら眼科をお薦めしたいね」
谷口「なんなら変わってやろうか?」
キョン「ハルヒもついてくることになるが、かまわないのか」
谷口「うっ! そ、そうだった」
キョン「はぁ……やれやれ」
ハルヒ「……」ガララッ!
谷口「おっと、噂をすれば――」
国木田「じゃ、じゃあ僕たちはこれで」
谷口「なんだか機嫌悪そうだな。頑張れよ、キョン」
キョン「はぁ……」
ハルヒ「……」ズンズン ドカッ!
キョン「……」ソォー チラ
ハルヒ「……? なに?」
キョン「よ、よぉ。本日はお日柄もよく」
ハルヒ「はぁ? なに言ってんの、あんた。ついにボケた?」
キョン「くっ!」
ハルヒ「用がないなら話かけないで。あたし今、機嫌悪いんだから」
キョン「そ、そうかぁ~。なにか機嫌が悪くなるようなことでもあったのか?」
ハルヒ「別に」
キョン「(こ、こいつ……! いや、落ち着け。平常心、平常心)」
ハルヒ「なに? なんか用があるの?」
キョン「昨日、ハルヒ、休んでただろ? プリントがあるみたいなんだ」ペラ
ハルヒ「はぁん?」バシ
キョン「いや、渡すように頼まれてな? 三者面談らしいんだが」
ハルヒ「あっそ。用が終わったなら前向いてよね」
キョン「はぁ……へいへい」
ハルヒ「まったく、なんで私がこんな思いしなくちゃいけないかしら」ブツブツ
キョン「(これは、俺に聞いてくれという合図なのか。ハルヒよ)」
ハルヒ「あぁ~あ」
キョン「な、なにがあったんだ?」
ハルヒ「別に」
キョン「ぐぐっ!」
ハルヒ「あんたの間抜けな顔見てたら怒るのもバカらしくなってきちゃった」
キョン「てめぇ……! 俺の顔でストレス発散――」
ハルヒ「そうだ! 今日の放課後、SOS団の会合をするから!」
キョン「人の話を聞けっ!」
ハルヒ「あんたの話なんてとるにたらないもんでしょ。そろそろ先生くるわよ。ほら、前向いて。しっしっ」
キョン「(俺が禿げたのはこいつのせいじゃなかろうな)」
【放課後 部室】
キョン「うーす」ガララッ
長門「……」チラ
キョン「あれ、なんだ。まだ長門だけか」
長門「……」コクリ
キョン「そっか」テクテク ガタッ
長門「……」
キョン「ふぁ~ぁ。眠くなっちまうね。時に長門。今日はなにを読んでるんだ?」
長門「……」スッ
キョン「なになに、愛を叫んだケモノ……ま、また、濃いタイトルのやつ読んでるんだな。面白いか?」
長門「ユニーク」
キョン「そ、そうか」
長門「……」コクリ
キョン「い、いやぁ。しかし、ハルヒ達遅いなぁ」
長門「……」ガタッ
キョン「(次の本か? 見開いてたページは半分ぐらいだったが」
長門「……」スタスタ
キョン「ん……? なんだ?」
長門「読んで」スッ
キョン「これを?」
長門「そう」
キョン「いや、ちょっと、こういう濃いタイトルのものは」
長門「読んで」
キョン「はぁ……わかった。借りとくよ」
ハルヒ「じゃじゃーんっ!」ガララッ!
みくる「ふええぇぇ~」
キョン「おい、ハルヒ、もう少し静かに――」
ハルヒ「あら、古泉くんはまだ?」
キョン「ってぇ! 朝比奈さんになにしてやがるっ!」
ハルヒ「あぁ、これ? どぉ? かわいいでしょお~?」
みくる「ぐすっ、なんでこんな格好しなくちゃいけないんですかぁ~」
キョン「(朝比奈さんのナースコス……! これなら一生入院してもかまわないぜ!)」
ハルヒ「なんでって、かわいいからよ! みくるちゃん? ここに座って」
みくる「あぁうぅ……はいぃ……」
【数十分後】
ハルヒ「――おそいっ! もお! 古泉くんはなにしてるのよ!」
キョン「あいつにはあいつの都合ってもんがあるんだろ」
ハルヒ「あんたには聞いてない!」
キョン「さいですか」
ハルヒ「SOS団は誰が欠けてもダメなのに」
みくる「あうぅ~」
キョン「全員が揃ったところでなにを議題にするつもりだったんだ」
ハルヒ「ちっ、まぁいいわ。古泉くんがきてないってことは、あんたにアイデアを出してもらうから。いい⁉︎ ちゃんとしたの出さなかったら死刑だからね!」
キョン「なにかわからずにあの世逝きはごめんだね」
ハルヒ「今度、SOS団でテーマパークを作ることにしたわ!」
キョン「はぁ?」
みるく「て、テーマパーク、ですか?」
長門「……」パタリ
ハルヒ「ええ、そうよ」
キョン「ハルヒよ。いくら夏だからといって、暑さに脳をやられまったのか?」
ハルヒ「失礼ね! あたしは正気よ!」
キョン「で? 具体的にはなにをするんだ」
ハルヒ「それは……これよっ!」ビターンッ!
みるく「……? 商店街のチラシ?」
ハルヒ「そう! 来たるべく夏休みを前に商店街で催しをするらしいのよぉ~! この波に乗らないのはもったいないでしょ!」
キョン「それとテーマパークになんの関連性が」
ハルヒ「人が集まる→商店街にはなにもない→私たちが作る!」
キョン「ず、頭痛がしてきた」
みるく「でもぉ、私たち学生ですしぃ、資金が……」
ハルヒ「甘いわね、みくるちゃん! なにもお金だけが全てじゃないでしょ?」
キョン「仮装パレードでもやろうってのか?」
ハルヒ「ノンノン! 甘いわ! モンブランよりも甘いわね!」
キョン「洋菓子かよ」
ハルヒ「もっとお金のかからないやつ! それは~」
みるく「それは……?」
ハルヒ「水風船よっ!!」
キョン「ちょ、ちょっと待てよ。水風船って服がびしょびしょに」
ハルヒ「それのどこに問題あんの?」
キョン「はぁ……。いいか? 商店街の利用層を考えてみろ。主婦、ご年配の方々だ。子供向けにはいいかもしれないが、嫌がるに決まってるだろう」
ハルヒ「なにも全区画で行わなくたっていいじゃない」
キョン「どういう意味だ?」
ハルヒ「あぁん、もう! なんでこんなにバカなのかしら! 遊園地にだってキッズスペースがあるじゃない!」
キョン「……つまり、特設ステージを作って、その場所限定でやるってことか」
ハルヒ「その通り! それなら、費用も少なくて済むし、商店街の皆さんのご迷惑にもならないわ。なにより、買い物をしている主婦にとってゆっくりできる時間を確保できるのよ!」
キョン「話が戻るが、びしょびしょになった子供が帰ってくるのにか」
ハルヒ「そこなのよねぇ問題は。キョン、あんたがアイデアを出しなさい!」
キョン「はぁ?」
ハルヒ「さっき言ったでしょ? アイデアを出さなかったら死刑だって」
キョン「うーむ……」
みるく「キョンくん……」
キョン「――悪い。考えつかん」
ハルヒ「はぁっ⁉︎ なにそれぇっ⁉︎」
キョン「そう言われてもだな」
ハルヒ「ちゃんと考えたの⁉︎ 時間にして数秒しかたってなかったじゃない!」
キョン「いや、しかし、濡れるのはどうしようも……」
ハルヒ「やる気の問題よ! 思いつかないんだったら自宅に持って帰るぐらいないわけぇっ⁉︎」
キョン「なんで俺がそこまでせにゃならんのだ!」
ハルヒ「はぁ……もういいっ!」バァンッ
キョン「……」
ハルヒ「私、今日はもう帰る。みんな、あとは好きにしていいから」
みくる「はわわわわ」
長門「……」
【下校中 バス停前】
キョン「……」
佐々木「も、もしかして。キョン、キョンじゃないか……?」
キョン「……? あれ、お前、まさか、佐々木か。なんでここに」
佐々木「――驚いた。これはひどい偶然だ。いや、驚愕に値するよ。一年間も音信不通だったのに。こんな日に突然で逢うなんて」
キョン「俺も同感だ。まさかバス停で待っているところで再開するとは。しかし、それが俺たちらしいとは思わないか」
佐々木「くつくつ、そうだね。おあつらえ向けな舞台なのかもしれない。ましてや、仮にも僕たちは一介の高校生だ。不都合など在りはしないとさえ思える」
キョン「今は帰りか」
佐々木「これは驚いた。『今が帰りか』と僕に問うたね。ああ、いや、只の男子ならば自然なのだろうけれど。僕たちは久しぶりに会ったんだ。かけるべき言葉はそうじゃないんじゃないかな」
キョン「そうだな……悪かった。会えて嬉しいよ。佐々木」
佐々木「ふぅ……憎らしい。そんな一言で不躾な態度を許してしまいそうになる。でも、それ以上に、僕も会えて嬉しいよ、キョン。久しぶり」
キョン「ああ」
佐々木「勉強はちゃんとしているのかい。君の御母堂はあまり成績が良くないと嘆いていたそうだが。ちゃんと勉強をしないと塾に通わされるよ」
キョン「そうならないように努力をしてるつもりだよ。佐々木と違って博識でない俺にはそれしかないんでね」
佐々木「それはまた、皮肉ともとれる言い得て妙な表現だ。僕のは好奇心という名の悪癖さ。良くも悪くも、調べなければ気が済まない。その良い面が成績にあらわれている、それだけの話」
キョン「あいかわらずみたいだな。安心したよ」ニッ
佐々木「くつくつ……心配に及ばないよ。僕こそ安心した」
キョン「俺はいつも使っている通学ルートだから不自然はないが。佐々木、お前を見たのは初めてだ。お前は県内一の進学校に通ってるはずだろ」
佐々木「よく覚えていてくれたようだね。その記憶に相違ない。だけど今日に限ってこっちに用事があったんだ。それが僕がここにいる理由」
キョン「そうなのか。じゃあ本当にたまたま――」
佐々木「ああ、だから言ったよ。これはひどい偶然だと。今日が人生の全てが決まる日ではないけれど、僕にとってひどい日には変わりなかったから」
キョン「それはちょっと凹むな」
佐々木「誤解しないで。君に会ったことがひどいと言ってるわけじゃない。これも覚えているかい? キョン、君の通う高校を受験していたのを」
キョン「覚えてるよ。滑り止めだと言っていたか」
佐々木「予測不可能な現実はいつだって起こりうる。その為に僕は北高と今通っている進学校、二つを受験して、どちらにも合格した」
キョン「そうだな」
佐々木「――結果、僕は進学校を選んだ。だけど、北高でもよかったんじゃないかって、僕は常々思うんだ」
キョン「いや、そりゃもったいないだろう」
佐々木「どうして? 北高にだって特進クラスはある。もちろんキャリアを積む上で土台が良いにこしたことはない。だけど、青春という二度と戻らない三年間を僕は不意にしたのかもしれないんだよ」
キョン「俺なら後悔なんてしようがないが、天才の考えることはよくわからんね」
佐々木「重なり合う時間、なにも進路だけが人生じゃないんじゃないかって、僕は思う。もちろん、こっちを選んでよかったと思える時が来る可能性を否定できないけど、僕は今も大事なんだ」
キョン「そうか」
佐々木「あの、もしよかったら、電話番号を交換しないか?」
キョン「ああ、かまわないぞ。むしろ俺からお願いするところだった――」
佐々木「ほ、本当っ⁉︎」
キョン「あ、あぁ」
佐々木「ご、ごほん。取り乱してしまってすまないね。なに、これもまた、ひどい偶然があったものだと驚いてしまった」
キョン「いや、改めて俺からお願いするよ。電話番号を聞いてもかまわないか」ゴソゴソ
佐々木「本当に、本当に、なんで僕は北高を選ばなかったんだろう」ボソ
キョン「佐々木?」
佐々木「いや、な、なんでも! 電話番号だったね! 交換しようか!」ニコニコ
【夜 キョン宅 風呂】
キョン妹「キョンくぅーん! シャンプーおいとくねー!」
キョン「ああ、わかった」
キョン妹「おかあさんがスカルプケアのシャンプー買ってきてくれたんだってぇ~」
キョン「妹よ。俺の頭皮についての心配は母親にばっちり伝わっているようで安心したぞ」
キョン妹「ハゲたらいけないからってぇー! ハゲたらー!」
キョン「何度も言うんじゃありませんっ!」
キョン妹「若ハゲは辛いんだってー!」
キョン「これ以上の追求は頭皮が薄い方達から恨まれるからやめなさいっ!」
キョン妹「はぁーい、それじゃあねー!」タタタッ
キョン「ふぅ、あ、また抜けた」カポーン
【リビーング】
キョン妹「キョンハゲおそーい」
キョン「呼称が変わっている、そしてなぜワカメを持っている」
キョン妹「髪にいいって、おかあさんが」
キョン「心配がすぎやしないかっ!」
キョン妹「いらないの? 増えるよ?」
キョン「増えるのは水に浸したワカメであって髪じゃないから!」
キョン妹「あららー。おめぇー増えないのかークリリン」
キョン「悟空っぽく言ってもダメだから! つか、どこでそんな知恵身につけてきた!」
キョン妹「そういえば、キョンくんがお風呂にいってる間ずっと携帯が鳴ってたよー」
キョン「また唐突に話題転換を。……携帯? あれ、どこに」
キョン妹「はい、どーぞ。ツルッと滑らせないようにね」スッ
キョン「悪意を感じるぞ! 妹よ!」パシッ
キョン妹「それじゃあ、風呂はいろ~っと」
キョン「ったく……ん?」
『新着メッセージあり。件数50』
キョン「なっ⁉︎ これは一体、な、なんだ?」ピッ
『佐々木 からのメッセージです』
キョン「……?」ピッ
『佐々木 からのメッセージです』
キョン「ちょっとまて。これって、全部、佐々木からなのか――」ピッピッピッピッ
『佐々木 からのメッセージです』
キョン「どうしたんだ一体。……ん?」
『長門 からのメッセージです」
キョン「長門? からは一件だけか。緊急だったらいけないし佐々木のメールから――」
佐々木『キョン、なにしてる?』
キョン「……」ピッピッ
佐々木『キョン、返事が遅れてるようだが。忙しいのだろうか』
キョン「なんだこれ……」ピッピッピッ
佐々木『僕は今、晩御飯を食べ終わったところだ』
キョン「細かい報告が、短文で。まとめて送ればいいのに。いや、そもそもなんでこんな」ピロリーン
『佐々木 からのメッセージです』
キョン「また。とりあえず、返しとくか。風呂にはいってた、送信、と。長門からはなんだろう」ピッ
長門『公園で 待ってる。Y.N』
キョン「はぁ? 公園? いつ?」ピロリーン
『佐々木 からのメッセージです」
キョン「まてまてまてまてっ。まさか、今? いや、だって今は9時だし。そんなはず――ありえねぇだろっ!」ガタッ
【公園 ベンチ前】
キョン「はあっ、はぁっ」
長門「……」スッ
キョン「はぁっ、長門。お前、ずっと、待ってたのか」
長門「そう」
キョン「言えばよかったのに」
長門「本にメッセージ挟んでおいた」
キョン「本……? だから、貸したのか」
長門「三時間待っても気がつかないようだったから、メッセージを送った」
キョン「馬鹿野郎かよ。女の子がこんな場所で」
長門「別に、いい」
キョン「はぁ……。気がつかない俺はさしづめ大馬鹿野郎だな」
長門「あなたは、気にしなくていい」
キョン「気にするだろっ! 普通っ!」
長門「……」
キョン「用件があったんだろ? なんだ?」
長門「うちで話す」
キョン「うち? 家のことか? でも、こんな時間だぞ」
長門「いい」
キョン「ご両親がいるんじゃないのか」
長門「いない」
キョン「……」
長門「……」
キョン「やれやれ、わかったよ。ただし、長居はしないからな」
長門「……」コクリ
【長門宅 リビング】
長門「適当に座って」
キョン「あぁ」
長門「お茶、飲む?」
キョン「いや……」ピロリーン
長門「携帯」
キョン「すまん。マナーモードにしておく――」
長門「相手は、佐々木」
キョン「は?」
長門「単刀直入に言う。あなたの頭皮の危機」
キョン「はぁ?」
長門「このままでは、あなたは300時間以内に毛根から毛髪が全て抜け落ち、ハゲる」
キョン「ちょ、ちょっとまて。長門、お前がなにを言ってるのかさっぱり理解できない。そもそもなぜ長門が佐々木を知ってる?」
長門「涼宮ハルヒと対をなす存在だから」
キョン「ハルヒと? ここでハルヒが?」
長門「涼宮ハルヒは情報統合思念体に情報爆発をもたらした。対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェース、それが私」
キョン「へ、へぇ……ってなるわけないだろが! 変な電波でも受信してるのか!」
長門「聞いて」
キョン「なんだよ」
長門「あなたのハゲ進行は不自然。本来ならば起こるはずのない時系列」
キョン「ハゲじゃないって! 生え際!」
長門「佐々木の暴走、涼宮ハルヒの憂鬱を止めなければ毛根に明日はない」
キョン「かっこよくないから!」
長門「あなたは、ツルピカハゲになりたいの?」
キョン「なりたくねぇっ!」
長門「回避する方法は確率事変を終息へと導かなければいけない。なかなかに骨の折れる作業」
キョン「なぁ、長門。悪い冗談だと言ってくれ、頼むから」
長門「残念ながら。99.98%であなたは未来を回避できない」
キョン「だいたいなんで俺がハゲるのとあいつらと関係があるんだよ」
長門「幻滅する」
キョン「主語がない。誰がだ」
長門「涼宮ハルヒと佐々木。あなたに興味がなくなる」
キョン「ハゲることによってか⁉︎」
長門「……」コクリ
キョン「おいおい、創作にしたってもうちょっとマシな設定ってもんがあるだろう」
長門「事実は小説より奇なり」グッ
キョン「親指立てる意味!」
長門「ここに乾燥ワカメがある」
キョン「どうするつもりだ。さっきから気になってはいたが卓に水の入ってるボールが準備しているのはまさか……」
長門「水に浸けて、本来の姿に戻すため」
キョン「おーけー、わかった。ハゲをとことんいじめたいようだな。考えを整理する時間をもらっていいか」
長門「なぜ? あなたは見ているだけでいい」
キョン「パニックになったら正常な判断をくだせないからだ。混乱する前に考えをまとめることは、人生のあらゆる岐路で有意義だ」
長門「わかった」
キョン「まず、長門。ひとつ確認をしたい。その、有機なんちゃらインターとかいうのは、冗談じゃないんだよな?」
長門「……」コクリ
キョン「はぁ……。冗談と言ってくれるのを期待した俺が浅はかだったようだ。それで、佐々木とハルヒが対をなす存在だと言ったな。あいつらに面識はないはずだろ」
長門「そういう意味ではない。例えるなら静と動。対極にある立ち位置にいるということ。でも佐々木は我慢しているだけ」
キョン「我慢?」
長門「涼宮ハルヒと佐々木に共通項目は多い。人は発する言葉によって印象がガラリと違って見える。あなたが抱いている私に対する心理がそう」
キョン「えぇと、つまり、長門がこんなに喋るとは思わなかったとかか」
長門「選ぶ言葉によっても心象は変化する。それぞれ抱いているイメージが根底にあるから。話を戻す」
キョン「ああ」
長門「涼宮ハルヒも、佐々木も年相応の年代の女子。恋愛に興味がない、と言い切ったとしても次の瞬間にはころりと変わる」
キョン「とりあえず、続けてくれ」
長門「あなたは、身をもって体験しているはず。このやりとりは二回目」チラ
キョン「……? 二回目?」
長門「今は七月の半ば。もうすぐ夏休みにはいる」
キョン「そうだが、それが……」
長門「改変の痕はいたるところに表れてる。例えば、あなたの涼宮ハルヒに対する呼称。あなたはいつからハルヒと呼ぶようになったか、覚えてる?」
キョン「いつからって、そりゃあ……――あれ? いつからだ」
長門「……」スッ
キョン「これは?」
長門「記憶を改変される前に私に託したメッセージ。あなたが家にきたら読ませるように頼まれた」
『ハルヒと佐々木を引き合わせるな』
キョン「たしかに、俺の筆跡に似ているようにも見えるが。しかし、だからと言って」
長門「事態は私達があらかじめ想定していた以上に深刻。あなたの毛髪にとっても」
キョン「緊張感を無くしてくれてありがとうよ」
長門「話は以上」
キョン「どうやら、俺は思った以上に混乱しちまってるらしい。落ち着こうとしても無理な相談みたいだな」
長門「まずは、あなたに現状を理解してもらう」
キョン「理解できそうもないぜ」
長門「……」スッ
キョン「いや、黙り込まれるのは困るんだが」
長門「%@#&」
キョン「なに言って……おわぁっ⁉︎」
長門「少し、待って」
キョン「わ、ワカメが! 水に戻した以上に膨張しているッ!」
長門「そのまま」
キョン「長門っ、そんな呑気なことを言ってる場合か! ありえない体積で増えてるぞ! というか、なんなんだそれ!」
長門「……」
キョン「超常現象を前にしても冷静なのは頼もしいかぎりだがなっ! せめて! 原稿用紙一行分の言葉を発して安心させてくれると助かる!」
長門「……」
キョン「テーブルから溢れだしてるぞ! いいのか⁉︎ まったく宇宙人ってやつは魔法使いか……宇宙人?」
長門「……」
ワカメ「」もこもこ
キョン「待て、まて。なんで、俺は今、こいつのことをすんなり宇宙人なんだと思った」
長門「最も適切な対処は、事象を見せつけること。あなたは、おかしいと気がついている。脳に負担がかかるけど、そのきっかけを与えたにすぎない」
キョン「一体……長門、もしかしてお前は、本当に宇宙人なのか?」
長門「そう。それが私」
キョン「なんで、ワカメなんだ」
長門「情報操作をするにあたり、周囲への影響を及ぼす可能性が低いものを選んだ。ハゲと連結させる冗談」
キョン「冗談なんて、言うんだな」
長門「……」スッ
ワカメ「」ピタッ
キョン「――止まった。なにかのマジックってわけじゃ、ないんだろうな。きっと」
長門「いずれ知る時がくる。それは自分自身でしること。私にも一定以上の種明かしはできない」
キョン「推理ゲームは苦手なんだがね」
長門「あなたの判断で行動すればいい。未来における行動は現在の自分が責任を負うべき。私はその手助けをするにすぎない」
キョン「どうして、俺を助けてくれるんだ?」
長門「……」
キョン「それも自分で答えを見つけなきゃいけないのか。他人まかせにはしてたら永遠にわからんままだとんな……わかった。俺は長門を信じるよ」
長門「そう」
キョン「自分自身、訳がわからんが、そう思えるなにかを感じるんでね。第六感に賭けてみるのも悪くない」
長門「朝比奈みくると古泉一樹からなにか接触はあった?」
キョン「朝比奈さんと古泉から? いや、普段と変わったようなところは……まさか、あの二人も宇宙人っていうんじゃないだろうな」
長門「そう。それならいい」
キョン「なんだか嫌な予感しかしなくなってきたぜ。それにこのメモ」
『ハルヒと佐々木を引き合わせるな』
キョン「よく注意すると走り書きのように見えるし、文面はこれだけ。そんなに急いでたのか?」
長門「……」
キョン「我ながら気の利かないこって」
長門「あなたを取り巻く環境は少し、複雑」
キョン「ああ、そうだろうよ。これで単純明解だなんて話だったら、俺の脳みその出来が悪いって話になっちまう」
長門「佐々木の、彼女の勢力には充分警戒して」
キョン「勢力ぅ? 戦争じゃあるまいし」
長門「あなたはいたって普通。しかし、特別な存在である涼宮ハルヒと佐々木にとって必要不可欠。あなたは……――選ばれた」
キョン「はぁ……どうせ大当たりするなら海外旅行とかそういうのでお願いしたいね。それで、あいつらはどうして特別なんだ?」
長門「近い内に知ることになる」
キョン「心構えできるよう、なるべく情報を与えてくれると嬉しいんだが」
長門「帰りのドアはあちら」
キョン「そうかい。もう教えられることはないってか」
長門「残り300時間。日付けでなおすと二週間と12時間。この期間に全て終わる」
キョン「はぁ……りょーかい」
ちと間違いあったんでレスしなおし
キョン「朝比奈さんと古泉から? いや、普段と変わったようなところは……まさか、あの二人も宇宙人っていうんじゃないだろうな」
長門「そう。それならいい」
キョン「なんだか嫌な予感しかしなくなってきたぜ。それにこのメモ」
『ハルヒと佐々木を引き合わせるな』
キョン「よく注意すると走り書きのように見えるし、文面はこれだけ。そんなに急いでたのか?」
長門「……」
キョン「我ながら気の利かないこって」
長門「あなたを取り巻く環境は少し、複雑」
キョン「ああ、そうだろうよ。これで単純明解だなんて話だったら、俺の脳みその出来が悪いって話になっちまう」
長門「佐々木の、彼女の勢力には充分警戒して」
キョン「勢力ぅ? 戦争じゃあるまいし」
長門「あなたはいたって普通。しかし、特別な存在である涼宮ハルヒと佐々木にとって必要不可欠。あなたは……――選ばれた」
キョン「はぁ……どうせ大当たりするなら海外旅行とかそういうのでお願いしたいね。それで、あいつらはどうして特別なんだ?」
長門「近い内に知ることになる」
キョン「心構えできるよう、なるべく情報を与えてくれると嬉しいんだが」
長門「帰りのドアはあちら」
キョン「そうかい。もう教えられることはないってか」
長門「残り300時間。日付けでなおすと12日と半分。この期間に全て終わる」
キョン「……りょーかい」
【キョン自宅 洗面台】
キョン「なんだっふぇんだか」シャコシャコ
キョン妹「キョンくん歯磨きー? あたしもー!」
キョン「ちょっと待ってろ」ニュル
キョン妹「おかあさんが、これどうぞって」
キョン「お袋が? 育毛剤……」
キョン妹「おとうさんも髪が薄くなってるからきっと遺伝なんだってー! お風呂あがったら毎日やりなさいって言ってたよー!」
キョン「……」ジトー
キョン妹「でも、けっこう値がはるから毎月のお小遣いから」
キョン「ちょっとまて! なんでそうなるっ!」
キョン妹「お金じゃ買えないんだって言ってた。若い内からしっかりケアしとけばなんとかなるかもって、薄い望みだけど、あ、キョンくんの頭じゃないよ?」
キョン「しつこい! 小学生になんてこと教えてやがる! さっさと歯磨け! あとハゲにハゲって言うのは禁止!」
キョン妹「えぇ~? なんでぇ?」
キョン「いいか、真実が人を傷つけるってこともあるんだ。間違ってないからと言っていいことはイコールじゃない」
キョン妹「うぅ~ん」シャコシャコ
キョン「兄はこれからのお前が心配だぞ。ハゲに刺されないかとな」
キョン妹「たいよーけーん!」シュパッ
キョン「それハゲた人しかネタにできないから!」
キョン妹「えへへ、キョンくんならその内できるね!」
キョン「はぁ……」ガックシ
【キョン 部屋】
キョン「さて、アラーム……。あ、マナーじゃなくて消音にしてたのか」
『新着メッセージ 100件』
キョン「増えてるじゃねえかっ!」ピッ
『佐々木 からのメッセージです』
キョン「……こいつ、友達がいないんじゃなかろうな。とりあえず、最新メッセージだけ」ピッ
佐々木『キョン、風呂からあがったにしては随分と時間が経つけれど、僕が鬱陶しくなったのかな』
キョン「いやいや。しかし、佐々木から考えれば、返信を無視されてたと思ってるわけか。そんなわけないだろう、返信と……。さて、寝る――」ピロリーン
『新着メッセージ 60件』
キョン「たった今、一件を既読にして新着のシステムログは59件になっているはずだが」ピッ
佐々木『安心したよ。なにかしていたのかい?」
キョン「はやすぎだろ! どんだけ打つのはやいんだよ! ええい、そのまんま送ってやる」ピッ
『新着メッセージ 59件』
キョン「ふぅ、これで惰眠を貪る――」ピロリーン
『新着メッセージ 60件』
キョン「……これは、いつまでたっても眠れないサイクルに突入したんではなかろうか。いや、待て。早合点するには。佐々木に正直に言えばいいんだ」ピッ
佐々木『くつくつ、今時の女子高生を侮っちゃいけないよ。文字を打つのは、筆を走らせるよりもはやくできる』
キョン「そうかい。電子機器に依存してちゃろくな大人にならないと思うがね。俺は眠い、そろそろ寝る、送信……と」
『新着メッセージ 59件』
キョン「こうしてれば、佐々木はきっとわかってくれるはず……」ピリリリリッ
『着信 古泉一樹』
キョン「こ、こいつらは。しかし、すまんな、古泉。お前は問答無用で無視をさせてもらう」ピリリリリッ ピロリーン
『着信 古泉一樹』
『新着メッセージ 60件』
キョン「だぁ~~~~っ!! もう! 俺は眠いんだよ! はい、もしもし!」
古泉「おっと、ようやくでてくれましたか。あと数コール鳴らしても反応がなかったら諦めるところでしたよ」
キョン「とったことを後悔してるよ。俺は寝るんだ。それじゃあな」
古泉「……! ま、待ってください! 少しだけ、お時間をいただけませんか!」
キョン「いやだ。なぜ俺の時間を割いてまでお前に合わせなきゃならん」
古泉「そう仰らずに。手短に済ませますので」
キョン「はぁ、3分だぞ。カップラーメンがのびちまう時間はごめんだ」
古泉「ありがとうございます。涼宮さんについてのお話なんですが、あなたは、どこまでご存知でいらっしゃいます?」
キョン「(やれやれ、またか……)」
古泉「これは失敬、あなたは何のことを言っているのか理解できないかもしれませんね。すみません。失念していました」
たびたびすんませんがミスあったんでレスしなおし
【キョン 部屋】
キョン「さて、アラーム……。あ、マナーじゃなくて消音にしてたのか」
『新着メッセージ 100件』
キョン「増えてるじゃねえかっ!」ピッ
『佐々木 からのメッセージです』
キョン「……こいつ、友達がいないんじゃなかろうな。とりあえず、最新メッセージだけ」ピッ
佐々木『キョン、風呂からあがったにしては随分と時間が経つけれど、僕が鬱陶しくなったのかな』
キョン「いやいや。しかし、佐々木から考えれば、返信を無視されてたと思ってるわけか。そんなわけないだろう、返信と……。さて、寝る――」ピロリーン
『新着メッセージ 100件』
キョン「たった今、1件を既読にして新着のシステムログは99になっているはずだが」ピッ
佐々木『安心したよ。なにかしていたのかい?」
キョン「はやすぎだろ! どんだけ打つのはやいんだよ! ええい、そのまんま送ってやる」ピッ
『新着メッセージ 99件』
キョン「ふぅ、これで惰眠を貪る――」ピロリーン
『新着メッセージ 100件』
キョン「……これは、いつまでたっても眠れないサイクルに突入したんではなかろうか。いや、待て。早合点するには。佐々木に正直に言えばいいんだ」ピッ
佐々木『くつくつ、今時の女子高生を侮っちゃいけないよ。文字を打つのは、筆を走らせるよりもはやくできる』
キョン「そうかい。電子機器に依存してちゃろくな大人にならないと思うがね。俺は眠い、そろそろ寝る、送信……と」
『新着メッセージ 99件』
キョン「こうしてれば、佐々木はきっとわかってくれるはず……」ピリリリリッ
『着信 古泉一樹』
キョン「こ、こいつらは。しかし、すまんな、古泉。お前は問答無用で無視をさせてもらう」ピリリリリッ ピロリーン
『着信 古泉一樹』
『新着メッセージ 100件』
キョン「だぁ~~~~っ!! もう! 俺は眠いんだよ! はい、もしもし!」
古泉「おっと、ようやくでてくれましたか。あと数コール鳴らしても反応がなかったら諦めるところでしたよ」
キョン「とったことを後悔してるよ。俺は寝るんだ。それじゃあな」
古泉「……! ま、待ってください! 少しだけ、お時間をいただけませんか!」
キョン「断る。なぜ俺の時間を割いてまでお前に合わせなきゃならん」
古泉「そう仰らずに。手短に済ませますので」
キョン「はぁ、3分だぞ。カップラーメンがのびちまう時間はごめんだ」
古泉「ありがとうございます。涼宮さんについてのお話なんですが、あなたは、どこまでご存知でいらっしゃいます?」
キョン「(やれやれ、またか……)」
古泉「これは失敬、あなたは何のことを言っているのか理解できないかもしれませんね。すみません。失念していました」
キョン「ハルヒなら明日学校に来るだろう」
古泉「んっふ。もちろんです、今日部活に僕が行けなかった理由をお話しておくべきではないか、と思いまして」
キョン「あのなぁ、そんなことのために電話をかけてきたのか? こんな時間に。もう0時まわってるんだぞ」
古泉「重々承知しております。その点をさしひいても、です」
キョン「非常識という言葉を辞書引きしてもらいたいもんだぜ。残り2分」
古泉「涼宮さんは世界に対して介入を試みています。本日の夕刻頃、大規模な閉鎖空間が発生しておりまして、対処に追われていました」
キョン「はい?」
古泉「あなたが残り2分だと言ったんですよ? 要点だけをかいつまんで説明すればこうなります」
キョン「そうなのかぁ~おやすみぃ~」
古泉「悠長に構えている時間はもはや、残されていないと考えるのが妥当かと存じます。このまま何もさずに待つだけでは……」
キョン「ほっといてくれ。なんのことを言ってるのか見当がつかないが、睡眠は人間の三大欲求だ」
古泉「わからなくとも重要なのは臨機応変に対応することです」
キョン「話を聞け、と言いたいのか」
古泉「後悔をしたくないでしょう。起こってしまった結果論を論証しても時は既に遅い。で、あるならば、そうなってしまう前に対策を練る。実に理にかなった行動原理じゃありませんか」
キョン「一つ抜け落ちてるぞ」
古泉「……?」
キョン「それは、俺の意思だ。眠い、寝る」
古泉「ま……っ!」
キョン「明日、学校でな」ピッ
『新着メッセージ 102件』
キョン「はぁ……さらば、めんどくさい現実。ウェルカム、夢の中の解放」モゾモゾ
【翌朝 キョン部屋」
キョン「……すー……すー……」スヤァ
キョン妹「キョンくんおはよーっ!」ドサッ
キョン「うっ!」
キョン妹「あさですよー!」ピョコン
キョン「フライングボディアタックはやめろと言うとるだろうが」
キョン妹「アラーム鳴ってたのにおきないから」
キョン「あ? あれ……って⁉︎ もう7時半⁉︎ やっべっ!」ガバ
キョン妹「朝ごはんはリビングに」
キョン「食べてる時間ないって!」ドタバタ
キョン妹「えー、もったいないよー」
キョン「牛乳だけでも飲んでいく! それで勘弁してくれ!」
キョン妹「はいはーい。おかあさんにはそう伝えとくねー」
キョン「自転車の鍵!」ガチャガチャ
キョン妹「あ、それとお迎えがきてるよ」
キョン「違う、まずは洗顔……お迎え?」
キョン妹「うん! なんていったかなーこまいずみって人!」
キョン「こまいずみ? ……もしかして、それは小泉じゃないか?」
キョン妹「そうだったかも! ほらほら、窓から見える道路で手を振ってるよ!」
キョン「あぁん?」ガララ
小泉「おはようございますー」ニコニコ
キョン「小泉……。お前は俺のストーカーかなにかなのか?」
小泉「なんですかー? 読唇術があれば困らないのかもしれませんが聞こえないですー!」
キョン「ばっ! 大きな声で喋るな! ご近所さんの迷惑になるだろが!」
小泉「それは失礼ー! ですが、時間はよろしいのですかー?」
キョン「そうだった……! くっそ!」バタバタ
名前を変換ミスにより間違ってますが強引に続けます
【登校中 タクシー内】
キョン「古泉」
古泉「はい?」
キョン「登校にタクシーを使うとはえらく豪勢じゃないか」
古泉「高校生には似合わないと言いたいんですか? いいじゃないですか。結果、遅刻を免れたわけですし。自転車、パンクしてらっしゃったんでしょ?」
キョン「うっ」
古泉「待っていた僕を無視して自転車にまたがった状況はどうしたものかと一考させられましたが、パンクしていたのを思い出した表情を拝ませていただいたのでよしとします」
キョン「悪かったよ」
古泉「いえいえ。それと、代金についてはご心配なく。勝手に僕が待っていただけですから」
キョン「そのかわり、俺に話を聞けって言うんだろ」
古泉「察しがよくて助かります。恩を着せるマネはしたくなかったのですが」
キョン「わーったよ。わかった。さすがに料金まで肩代わりしてもらってなんもなしじゃな」
古泉「あなたは変わった人ですね」
キョン「あん?」
古泉「悪い意味ではありません。恩を受けたと感じれば借りを返すと考えるのが普通です。こういうのを返報性の原理といって、ビジネスにも――」
キョン「古泉。言いたかったのはハルヒの話じゃないのか?」
古泉「たしかに。失礼しました」
キョン「ど~でもいい話に脱線するのはお前の悪い癖だぜ。いつも回りくどいから伝えたいことがぼやけちまう」
古泉「ふっ、弁解の余地すらありません。しかし、僕が伝えたいことをあなたから切り出してくれたのは僥倖(ぎょうこう)でした」
キョン「はぁ」
古泉「気がつきませんか。あなたはなぜ僕の癖を掴んでいるのでしょうか? なぜ“いつも”と自然に口にだしたのでしょう?」
キョン「なんでって……」
古泉「僕たちはいつから、いえ、どうやってお互いの性格を知り得たんでしょうか」
キョン「……」
古泉「学校生活? いや、それすら覚えていない。こうは推察できないでしょうか。この矛盾点を埋めるとすれば――“記憶がすっぽりと抜け落ちている”、と」
キョン「それで?」
古泉「そこで、あなたへの質問へと話が繋がります。涼宮さんのことをどこまでご存知でいらっしゃいますか?」
キョン「その言い方が気に食わん。お前のニュアンスをそのまま受け取ると、まるでハルヒに原因があると言っているように聞こえる」
古泉「その通り……だと言ったら?」
キョン「いいか、古泉。この世に意図的に記憶を忘れらさせるような手段なんて存在しない。まぁ、催眠術か、あるいは健忘症のような脳に変化があれば別なんだろうが。大抵の場合、記憶は些細なきっかけで戻る」
古泉「……」
キョン「記憶の引き出しとそれを連結させる回路が脳にあるからだ。ましてや、俺たちゃ若いし、健忘症じゃない。それに少なくとも古泉、俺、ハルヒに関わるその他大勢の記憶を操作できないとボロがでちまうだろう。よって、催眠術の線も消える」
古泉「驚きました。博識でいらっしゃいますね」
キョン「褒められてるような気はせんがな」
古泉「そうなると、矛盾点についてもうひとつ可能性がある解答があるのでは?」
キョン「いい加減にしろ、ハルヒはたしかに、ちょっと変わったやつではあるが。超能力者じゃないんだぞ」
古泉「その口ぶりは本当に覚えていないのでしょうか」ズイッ
キョン「ちかっ! 近い!」
古泉「なるほど……。ある程度、事情は確認できました。認識させられないよう強い暗示をかけられている状態と近いのかもしれませんね」
キョン「だからなぁ」
古泉「涼宮さんは、特別な力を持っています。それは、我々人類にとって脅威とも、革命とも言えるほどの影響力です」
キョン「そうかい。だったら空が十字に割れてるのかもしれねえな」
古泉「神の御子ですか。そうとも言えますね。現時点では、ですが。世界の命運は彼女が握っていると言っても過言ではありません」
キョン「おいおい。それじゃなにか。ハルヒに世界の運命を左右するほどの、なんだかよくわからん力があって、それを俺たちの記憶を消すのに使ったってのか? なんのために?」
古泉「自覚していないのですよ。無自覚だからこそ無差別に力を発動してしまい、天使にも悪魔にもなりうる」
キョン「壮大なSFだな。教えてやればいいじゃねえか」
古泉「無責任なことを言いますね。あなたにそんな力があると突然通告されたらどう思います?」
キョン「だからって、なにもしないのが良いってのか? こういう場合の決まり手は本人の判断に委ねることだ。少年漫画にありがちなパターンだな」
古泉「これは現実なんですよ。教えてしまったが最後、発狂でもしてしまったら? 自由に力を行使できるようになってしまったら? 良い結果ではなく、悪い結果を想定して行動をするべきです」
キョン「保守的な考えだね。お前の話を聞いているとなにもしなくていいんじゃねぇか」
古泉「我々の間でも、強行派の意見としてそういう考えがないわけではありませんが……」
キョン「さっきからお前はどの立場で話てんだよっ! ハルヒは化け物じゃねえだろっ!」
古泉「……失礼しました。そうですね、そんなあなただからこそ、選ばれたんでしょうね」
キョン「はぁ……やれやれ。俺たちゃSOS団というハルヒの作った同好会というわけわからんもんに振り回されてるだけだろ」
古泉「はい。これからも全力でサポートをさせていただく所存です」
キョン「なんだかなぁ」
古泉「そろそろ学校に到着します。僕は調べねばならないことができましたので、また後ほど」
【教室 HR前】
キョン「世界の命運を握ってるだって? それじゃ、まるですぐそこに世界の危機が迫ってるような言い方じゃねぇか」ドサッ
朝倉「おはよう。キョンくん」
キョン「おはよーさん。ハルヒならご覧の通り、席にはいないぞ。トイレにでもいるんじゃないか」
朝倉「今日は違うの。朝、遅かったわね。ホームルームもうすぐはじまっちゃうから、なにかあったのかと心配してたのよ」
キョン「俺を……?」
朝倉「うん、あの、後で伝えたいことがあるんだけど、いいかな?」
キョン「いい、けど」ズキン
朝倉「それじゃあ、昼休みに屋上で待ってるから!」タタタッ
キョン「(なんだ、頭が……っ!)」ズキン ズキン
谷口「おいおいキョン~!」グイ
キョン「(くっ、おさまってきたの、か)」
谷口「かーっ! あの朝倉涼子に誘われたってのになにしかめっつらしてやがる! なんだぁ? 勝者が見せる余裕かぁ?」
キョン「いや、そういうわけじゃ」
谷口「背中には気をつけろよ。もし告白なんてことになったら……って、そりゃあねぇかぁ~! なんてったって朝倉だもんなぁ~! キョンに惚れる要素なんて一ミリもなかったわ! すまん!」パンッ
キョン「おい、勝手に自己完結するのはかまわんが、俺が不必要に巻き込まれたのは気のせいか」
谷口「ま、気にするなって」
国木田「でも、昼休みになんの用なんだろうね」
キョン「他人事だと思うとどこにでもお前らは湧いてくるな」
国木田「キョンは昔から変な子に好かれやすいけど、朝倉さんは優等生だし」
谷口「ないない! 購買パン一年分をかけてもいいねっ!」
国木田「ほんと? じゃあ谷口はそっちに賭ける?」
キョン「トトカルチョを勝手にはじめないでくれ」
【授業中】
教師「えー、ですからこのようになるわけでありまして――」
ハルヒ「……」むすっ
キョン「(古泉。このむすっとしてるのが世界の運命を握っているとは到底思えないぞ)」
ハルヒ「ちょっと」こそ
キョン「(俺の毛根に関係あるとも……。いや、長門には信じるって大見得きっちまったしな。当のハルヒは、大方、アイデアの件を根にもってるのかね。……はぁ、これが朝比奈さんならなぁ)」
ハルヒ「シカトすんな!」ブチッ
キョン「いっ⁉︎」ガターンッ
ハルヒ「あ、あら」
キョン「なにしやがるっ! 人の髪の毛をひっぱりやがって……!」
ハルヒ「そんな強く引っ張ったつもりなかったんだけど」
キョン「めちゃくちゃ切れてんじゃねぇか!」
ハルヒ「毛根弱ってんじゃないの? うー、ばっちい」
教師「こら、そこ。静かにしなさい」
キョン「す、すみませーん」ペコ
ハルヒ「ふん」
キョン「お前のせいで怒られただろうがっ!」こそ
ハルヒ「あんたが悪いんでしょ。授業なんてろくに聞いてないくせに」
キョン「俺なりに学問に切磋琢磨をだな」
ハルヒ「それより、昨日の。考えてきたんでしょうね」
キョン「やっぱりそんなことだろうと思ってたよ。なんにも」
ハルヒ「はぁっ? ほんっきでそんなんでいいと思ってるの?」
キョン「無論だ。第一、なぜ俺が考えなきゃいけないのだ」
ハルヒ「はぁ……ほんと、使えないやつ」
キョン「落第生のレッテルを貼る前に振り回される身にもなってくれ。子供が水に濡れない方法だったか。そんなもの――いや、待て。カッパ……は無理か?」
ハルヒ「河童? 今さらなに取り繕って――」
キョン「そうじゃない」
ハルヒ「え……?」
キョン「雨具のカッパを用意するとかどうかと思いついたんだ。既製品だと完全に防ぎきれないだろうが、デザインの変更をするとか」
ハルヒ「……! それよっ! やればできるじゃない!」パァッ
キョン「いや、しかし」
ハルヒ「それしかないわっ! 早速デザイン案を練るわよ!」
キョン「やれやれ。たまにお前の行動力に感心するが、授業はどうした、授業は」
ハルヒ「静かにしておけば大丈夫でしょ。昼休みを返上して放課後までにサンプルをいくつかほしいわ!」
キョン「急にできるか! んなもん!」
ハルヒ「案ずるよりも生むが易しよ! こういうのはきっかけさえ掴めばアイデアがポンポンでてくるものなんだから!」
キョン「はぁ……昼休みね、りょー……ってちょっと待った。昼休みはだめだ」
ハルヒ「なんでよ? お昼ご飯ならすぐ食べ終わるでしょ?」
キョン「(うっ、なぜか、ハルヒに言わない方がいい気がする。言ってもかまわないはずだが……いや、しかし――)」
ハルヒ「……?」
キョン「と、とにかく。俺だって人付き合いってもんがあってだな」
ハルヒ「谷口と国木田じゃないの? はっきりしないわねぇ。そんな理由じゃ拒否権なんてないわよ!」
【昼休み】
ハルヒ「キョン、あんたさっきからなにソワソワしてんの?」
キョン「いや、なんにも」
ハルヒ「あっそ。トイレに行きたいのなら我慢しなさい」
キョン「それすら許されないのかよっ!」
ハルヒ「当然よ! これは栄えあるSOS団の重要な任務なんだから!」
キョン「しかしだなぁ。自分で言っておいてなんだが、水を完璧に防御なんて……」
ハルヒ「やる前から諦めるなんて情け者のすることよ。そうねぇ、ヘルメットみたいにして面積を増やすのはどうかしら?」
キョン「いや、それをやってたとしてつなぎ目はどうしてもできてしまうだろ。クリアできたと仮定しよう。手からか、もしくは足元はどうする」
ハルヒ「むむっ」
キョン「水はどんな隙間からも入りこんでしまうし。一粒一粒が目に見えないほど細かい」
ハルヒ「水が発生するまでのプロセスを考えるとそんなの当たり前じゃない。元は気体なんだから」
キョン「だからだ。どんなに対策を練っても激しい動きをする前提で思索すると綻びができてしまう」
ハルヒ「一理あるわね」
キョン「うーん……」
ハルヒ「……」ジー
キョン「お前、ちゃんと考えてるのか? 俺の顔になにかついてるか?」
ハルヒ「そ、そういうわけじゃないけど。ちゃんと考えてるんだなって思っただけ」
キョン「ったく、いつものお前ならグイグイ自分で突っ走るだろう。濡れる、濡れない方法……どうしても濡れる……濡れてしまう……」
ハルヒ「……なにか方法ありそうなの?」
キョン「――いっそ、濡れさせてしまえば」
ハルヒ「濡れさせる?」
キョン「ああ。水着だ」
ハルヒ「水着……」
キョン「これが簡潔かつもっとも有効な方法ではある。水着を持参させてしまえば、費用はかからないしタオルで拭いて着替えるだけで済むからな」
ハルヒ「そ、それって……!」
キョン「まぁ、待て。防犯は必要だぞ。着替えるスペースを確保しなきゃならない。撮影する輩がいないとは限らないからな」
ハルヒ「更衣室ね! 外部からシャットアウトできる場所! いい感じ! やっぱり、方向性さえ定まればどんどんアイデアでてきたじゃない!」
キョン「喜んでくれて幸いだよ」
ハルヒ「でかしたわ! キョン! このことはあんたでもできたって団員みんなの前で発表してあげるから!」
キョン「いや、まだ完全に問題がなくなったわけじゃ」
ハルヒ「わくわくしてきたぁ~! こういうのって準備する時間も楽しいけど、計画を立てるのに詰まったら頓挫しちゃったりするから難点なのよねぇ~!」
キョン「聞いちゃいねぇな。もうできたつもりでいやがる」
キョン「ん……?」
朝倉「……」ガラガラ
キョン「(あぁ、戻って……そりゃくるよな。普通)」
ハルヒ「ねぇ、キョン! 更衣室なんだけど子供が何人くらい来るのを想定すればいいかしら!」
キョン「あ、あぁ。そうだな……列を作るのはある程度許容してもらうとして、回転率を考えると5~10人分は」チラ
朝倉「……」ニコ
キョン「(怒ってないのか……?)」
ハルヒ「何人来るかわからないから。多い分母の10人分確保を目指しましょ。男子と女子で分ければ難しくないかもしれないし」
キョン「……妥当なところだと思うぞ。ところで、もよおした時はどうするんだ?」
ハルヒ「公園のトイレを使うって方法があるわよねぇ。そうなったら子供だけじゃ心配だし、案内役が一人必要になるか。みくるちゃんあたりにやらせるとして……商店街のご協力を仰げない?」
キョン「おい、なぜ俺に聞く。唐突に一抹の不安がよぎっているから確認させてくれ」
ハルヒ「なによ?」
キョン「まさかお前、この話、地元の商工会に通してないのか……?」
ハルヒ「もちろんよ! だってあと12日もあるんだもの!」
キョン「あほかっ! こういう場合は12日しか! と言うんだ! どうするんだよ! 突然そんな申し出をされてたって難色を示すに決まってるだろ!」
ハルヒ「仕方ないじゃない。だって、ビラ配りをしてるおじちゃんから受け取ったのが一昨日なんだもん」
キョン「だ、だめな予感がする。なにもかも」
ハルヒ「プレゼンする前に商工会にとって魅力的な条件なのが必須でしょ⁉︎ 具体的なプランを練る前に提案しようっていうの⁉︎ あんたはっ!」
キョン「時間が足りないとゆうとるんだっ!」
ハルヒ「明日は学校休みだし、そうね……。ホームセンターに下見に行くから!」
キョン「やれやれ、こいつになにを言っても無駄……ん? 12日? おい、ハルヒ、商店街の祭りは12日後にやるのか?」
ハルヒ「放課後まで待っていられないわ!早速、ユキとみくるちゃんにも伝えてこなくちゃ!」ガタンッ
キョン「お、おいっ! ……はぁ」
朝倉「――なんの作戦会議?」
キョン「お、おう。なんだ、突然顔をだすなよ」
朝倉「あら。約束をすっぽかして別の女の子と話してるのに第一声がそれなの?」
キョン「それについては悪かった。謝る機会を作ってくれて助かったよ」
朝倉「どうしようかなぁ」
キョン「え?」
朝倉「許す、と言ったつもりないけど?」
キョン「埋め合わせは……てなんで俺が取り繕うんだよ! 用があったのはそっち――」
朝倉「約束をして、破ったんだし、ね。用があったのは私だけど、できない約束をするのは人としてどうなの?」
キョン「ぐうの音もでやしねぇよ。すまん、この通りだ。許してくれ」
朝倉「涼宮さんとなにを話してたか教えてくれたら熟慮してあげようかな」
キョン「ハルヒと? 商店街でやる祭りの催しを」
朝倉「あっ、それなら私も知ってる。同好会でなにかやるんだ?」
キョン「まぁ時間が足りないと思うが。通常、こういう申請期間が必要だとか抜けの部分が多いからな」
朝倉「お店をやるの?」
キョン「いや、水風船を使った遊び場を作るらしい」
朝倉「ふーん、食品や金銭の受け取りが行われないのであれば、必要な手続きがいくつか省略できるかもしれないけど。ボランティアになるはずだから」
キョン「そうなのか?」
朝倉「水風船……か。だったら、対象年齢はすごく低い子供たち相手だろうし、懸案材料は保護者への対応ね」
キョン「うーむ」
朝倉「一時的にでも子供の安全に責任を持てるかと判断されるのが焦点になると思う」
キョン「なるほど。たしかに、怪我なんかさせちまったらおおごとだもんな」
朝倉「フリーの解放スペースを自由に使う分だと、注意書きひとつで済むけど……。見たことない? この場所で駐車して盗難にあっても、いかなる責任も負いかねますって記載」
キョン「駐輪場なんかにはよく見かけるな」
朝倉「あれは場所を貸してるだけだから。でも、催しを主催するなら話は別。人を意図的に集めてるんですもの。もし、なにかあれば苦情は学校か商工会にくるの」
キョン「すまん、もうちょっと噛み砕いて説明してくれると助かる」
朝倉「問題視されなければいいんだけど……。運が悪く口うるさい人の目に止まれば、保護者会が難癖つけてくるかもって話」
キョン「運、ねぇ」
朝倉「ねっ! 私も仲間に入れてくれない⁉︎」
キョン「はぁ? 仲間に入りたいんだったらハルヒに直接……」
朝倉「涼宮さんは、私からだと難しいだろうから。あなたからお願いしてくれないかな……?」
キョン「俺から?」
朝倉「そうしてくれたら、約束をすっぽかしたの、忘れちゃうかも。うふふ」
キョン「……なんでこうなるのかねぇ」
【放課後 SOS団部室】
キョン「(結局、ハルヒに朝倉のこと言えないままズルズルとこの時間まで。まぁ、いいか、部室で言えば)」ガラガラ
長門「……」パン パン
キョン「な、長門。なしてんだ、お前」
長門「手拍子」 パン パン
キョン「そ、そうかぁ。今日も暑いからなぁ」
長門「あなたもやる?」
キョン「やらねーよっ! ツッコンでほしいんだろ! そうなんだろ⁉︎」
長門「これは必要な作業。本日の15:35:54に新たな情報爆発が観測された」
キョン「すまん、俺は鞄を置いてお茶をすする準備をして席につくから勝手に話を続けてくれ」ドサ
長門「あなたの頭は着実にHAGEへの道を進んでいる」
キョン「今なんか発音がおかしい部分なかったか」
長門「長門スカウター。ぴ、ぴぴぴ。戦闘力5毛髪、ゴミめ」
キョン「その単位なんなんだよ! しかもゴミ呼ばわりすんのやめて! 長門、お前、そんな性格だったのか!」
長門「干渉は統合思念体でさえも抗えない」
キョン「あぁ? つまり、本来はそういう性格じゃなくて、外部からの影響によってそうなってると」
長門「……」コクリ
キョン「――なんでもありじゃねぇか! 御都合主義もいい加減にしろ!」
長門「携帯、見た?」
キョン「いや、まだ見てねぇよ」コポコポ
長門「見て」
キョン「俺はな、湯のみにお茶っぱを入れて、お湯を注いでる最中だろうが。見えんのか? 電子ポットに電源をいれていてくれたことには感謝するが」
長門「いいから、見て」
キョン「へいへい。たしか、鞄の中にいれっぱなしに」ゴソゴソ
『新着メッセージあり 256件』
キョン「いぃっ⁉︎」ゴトン
長門「それが原因」
キョン「これは、まさか、佐々木が?」
長門「そう。暴走は既にはじまっている」
キョン「いやいや、おかしいだろ」
長門「これは必然。あなたからの返信を待っている間、彼女はずっと葛藤していた」
キョン「まて。そうじゃな……くはないし佐々木の行動はたしかに異常だ。ああ、そうだろうよ」
長門「……」
キョン「しかし、俺がおかしいと感じてるのは、ハルヒになんか力があるって、すごぉ~く納得がいかんが。百歩譲ってそうだと仮定しよう。佐々木が暴走ってそれじゃまるで――」
長門「彼女にも力がある」
キョン「改めて言おう。勘弁してくれ」
長門「解明への歩みが遅い。これでは前回と同じ流れを辿ってしまう。依然としてハゲる確率は高いまま」
キョン「……」
長門「遊びじゃない」
キョン「こんな緊張感のない真剣な話があってたまるか! いちいちハゲハゲ言われてどうやって真顔を保てる! しかもドラゴンボールネタはなんなんだよ! 流行ってんのか!」
長門「べつに」パン パン
キョン「手拍子を再開せんでいいっ!」
長門「わかった」ピタ
キョン「だいたいなんで俺が自力で辿り着く必要があるんだぁ? 長門が知っているなら教えてくれれば、言えないってのはなにか条件でもあるんじゃなかろうな」
長門「その通り、言えることと言えないことがある。発言を許可されるには、あなたが自力で解除しなければならない施錠がある」
キョン「はぁ」
長門「あなたは今、条件があること、彼女に力があるという答えに行き着いた。だから、ロックは解放され、私も発言の許可を与えられた」
キョン「お前にはお前の役割があるってことかよ」
長門「改変された意味は……うっ……ごほっ」
キョン「お、おいっ⁉︎」ガタッ
長門「トマトジュース」
キョン「お前が女じゃなかったら肩パンのひとつでもしていたろうな。
長門「吐血ぐらいならまだいい。制約を破れば待っているのは退場。つまり、消滅する」
キョン「消滅だって?」
長門「ここまでが限界。あとは、自分でカラクリを暴いて」
キョン「だったら、長門とずっと言葉遊びをしていれば、いずれ答えに」
長門「……私のターンは終わり」
キョン「ターン?」
古泉「失礼します」ガラガラ
キョン「……古泉?」
古泉「おや。まだ涼宮さん達は来ていないのですね」
キョン「(古泉がきて、長門のターンは終わり。これがテレビゲームだとすれば次のターンがきた……。時間制限か、なにか似た形のものがあるのか……?)」
キョン「おい、古泉」
古泉「はい? なんでしょう?」
キョン「お前はなにか奇抜な行動をとったりせんでいいのか?」
古泉「突然おっしゃられましても。僕にはあなたがそう見えますが」
キョン「例えば、ワカメを増やすとか」
古泉「はぁ、ワカメですか? 水に浸して戻すぐらいしかできませんが。あぁ、そういえば増えるワカメというのがスーパーに」
キョン「ふぅ、あれは実際に増えるもんじゃない」
古泉「であるならば、僕ではそのような大道芸はできかねます」
キョン「(大道芸呼ばわりされてるぞ、長門)」
長門「……」ペラ
古泉「なにか、あったのでしょうか?」
キョン「いや、なんとなくそう思っただけだ。ないなら別に――」
ハルヒ「集まってる⁉︎」ガララッ
キョン「お前はもうすこし静かに登場をだな」
ハルヒ「ちっ、今日はみくるちゃんがまだじゃない。なんか足並み揃わないわねぇ~。……まぁ、いいわ」ズンズン
キョン「(えらく上機嫌なこって。こりゃまたなにか良からぬ提案を……)」
ハルヒ「ユキ! 古泉くん! 今日はここにいるキョンが、ほんとぉ~~~~っに! めずらしく生産性のあるアイデアをだしてくれたわ!」
キョン「すいませんねぇ。普段は使えなくて」
古泉「それは凄いですねぇ」
ハルヒ「そうなのよっ! まぁ、たまぁ~~~~っにしか使えないけど!」
古泉「さすがです」パチパチ
キョン「太鼓持ち野郎め。なにがさすがなのかわかって言ってるのか」
ハルヒ「そこで! キョンをたった今から商店街水風船大会の実行委員長に任命します!」
長門「……」パタリ
キョン「はぁ? ちょ、ちょっとまて!」ガタッ
長門「……」ジー
ハルヒ「もう決まったことだから! 上手くやれば副部長の座も夢じゃないんだから頑張りなさい!」
キョン「いらねーよ! それに副部長は古泉が既になってるじゃねぇか!」
ハルヒ「誰がずっとだって言ったの⁉︎ いい⁉︎ この世は実力主義なのよ! 頑張ってる団員にはそれ相応のポストを用意してあげなくちゃ!」
古泉「これはうかうかしてられませんねぇ」
キョン「ニコニコしながら言ってんじゃねぇ! 焦ってるように見えねぇぞ!」
ハルヒ「ユキとみくるちゃんには伝えておいたけど! 明日は午前10時! 北口駅前にある時計塔に集合! 遅れたら死刑なんだからねっ!」
【下校中 校門前】
キョン「(甚だ遺憾だ。なぜ俺が表立って……そういやぁ、朝比奈さんは結局団活に姿を見せなかったな。俺の心のオアシスでもいれば雰囲気もやわらいだのかねぇ――)」
みくる「キョンくん」
キョン「(夕日をバックにたたずむ姿は、まるで恋人の帰りを健気に待っている美少女であった)」
みくる「あの、待ってたの。……キョンくん?」
キョン「はっ! あやうくモノローグにトリップしかけるところでした!」
みくる「……?」
キョン「あ、い、いやぁ。なんでもありません。少々暑さのせいで脳細胞がおいたをしたようで」
みくる「そ、そっかぁ」
キョン「それより、朝比奈さんはここでなにを? 団活では見かけませんでしたが」
みくる「え? あ、あの。キョンくんを待ってたってさっき」
キョン「なんですとっ⁉︎」
みくる「ふぇっ?」
キョン「し、失礼しました。あまりの衝撃についオーバーなリアクションを」
みくる「あ、あはは。キョンくんって面白いですよね」
キョン「そうですか?」
みくる「真顔で聞き返されても困るんですけど」
キョン「すみません、つい」
みくる「あの、実は……」
キョン「(ま、まさか、愛の告白っ⁉︎ 朝比奈さんからっ⁉︎)」
みくる「――今ってなにが起こってるんでしょう?」
キョン「はい……?」
みくる「時間軸の流れがおかしいんです」
キョン「いえ、あの、朝比奈さんがなにを言わんとしているのか俺にはさっぱりなんですが」
みくる「……! そんなっ! キョンくん! 覚えてないんですかっ⁉︎」
キョン「覚えてない? や、やだなぁ、朝比奈さんまで俺のことをボケたみたいに言うのやめてくださいよ」
みくる「私? えっと、他に誰か言われました?」
キョン「あぁ、はい。そういやぁ、長門は古泉の他に朝比奈さんからも接触があると言ってたか。……はは、まったくなんなんでしょうねぇ~」
みくる「……長門さんが」
キョン「朝比奈さん……?」
みくる「キョンくんっ! 今ってお時間大丈夫ですかっ⁉︎」
【近くの公園 ブランコ】
キョン「――つまり、朝比奈さんは未来からきたと、そう仰られるんですね?」ヒクヒク
みくる「はい。ちなみにこの説明をするのは二回目です」
キョン「す、すこぉ~し質問していいですか?」
みくる「どうぞ」
キョン「質問その1、朝比奈さんはいつその話を俺にされたんですか?」
みくる「春、だったと思います。ごめんなさい、具体的にいつかを思い出そうとしてもおぼろげにしか」
キョン「忘れてしまった?」
みくる「そうじゃないんです。言葉にするのが難しいんですけど、覚えてるはずなのに、いつなのか伝えようとすると、あれ? って……」
キョン「わかりました。質問その2、未来人だと証明する手段はありますか?」
みくる「……」ギュウ
キョン「……?」
みくる「ありません」
キョン「は、はぁ。あの、大変言いにくいのですが、朝比奈さんがそう思っているだけとか……」
みくる「そんなっ! キョンくんがそんなこと言うなんてっ!」
キョン「そ、そう言われましても」
みくる「なにもかもおかしいじゃないですかっ! 本当に覚えてないんですかっ⁉︎」
キョン「やりとりを受けたという覚えが。あ、そうだ。朝比奈さんが本当に未来人だというのなら、これから起こることを言うとかで証明になりませんか」
みくる「……ごめんなさい。禁則事項です」
キョン「そ、それじゃあ、[たぬき]みたいに未来道具を出すとか」
みくる「……禁則事項です」
キョン「やはり、朝比奈さんの言葉しか」
みくる「はい。……でも、以前のキョンくんは信じてくれました!」
キョン「その、以前の、というのにもひっかかるんですが。朝比奈さんは、以前の俺と今の俺との違いがわかるんですか? えぇと、つまり、“違うということ”を認識できてるんですか?」
みくる「それは間違いありません」
キョン「違和感とかではなく、はっきりと、違うと?」
みくる「はい。だって、私達は涼宮さんと……あれ?」
キョン「……?」
みくる「どうしよう。キョンくん! 私、なにを言おうとしたのかっ!」
キョン「あ、朝比奈さん?」
みくる「こんなタイムパラドックスは……。どうなってるの……まさか……っ⁉︎」
キョン「……? あれ?」
ブランコ「」キィーキィー
キョン「俺、なんで。誰かと話してたような気がするんだが」
キョン妹「あ、キョンくんだー!」
キョン「お前、こんなところでなにやって――なんだ、その猫?」
キョン妹「この子? えへへ、商店街の近くを歩いてたら見つけたんだ」
猫「ぶなー」
キョン「首輪は……してないみたいだな。野良猫の割に毛並みが綺麗じゃないか」
キョン妹「うんっ! それにすごく人懐っこいんだよ!」
キョン「そうなのか」
キョン妹「キョンくんはここでなにしてたの? ブランコ遊び?」
キョン「いや、そうじゃなかったと思うんだが……うーん」
キョン妹「変なキョンくん。ね、この猫飼ってもいい?」
キョン「こんなぶっさいくな猫をか」
猫「ぶななっ⁉︎」
キョン「なんだ? 驚いたのか? まさかな……」
キョン妹「この子は人の言葉がわかるんだもんっ! ひどいねー!」
猫「ぶなー」
キョン「まぁ、お袋がいいっていうなら俺はかまわんが……チッチッチッ、よっと。……オスか」
キョン妹「おかあさんなら大丈夫! よかったね!」
猫「ぶなー」
キョン「可愛くねぇ鳴き声してんなぁ」
猫「にゃー」
キョン「(変わった⁉︎)」
キョン妹「名前なんにしよう。キョンくんつけてあげてよ」
キョン「あ、あぁ。……そうだな。三味線(しゃみせん)ってのはどうだ」
キョン妹「変な名前」
キョン「そうか? いいよなー三味線」
シャミセン「にゃー」
キョン妹「ええっ⁉︎ 気に入ってるの⁉︎」
シャミセン「にゃにゃー」ごろごろ
キョン「おお、なかなかに愛い奴ではないか」
キョン妹「そっか! それなら決まり!」
キョン「さて、帰るか」ピロリーン
キョン妹「あれれ、また鳴ってる。昨日からキョンくんの携帯さんは大忙しだねー」
キョン「マナーモードにしておいたつもりだったが」
キョン妹「メール? 見なくていいの?」
キョン「ああ。帰ってから見ようかと――」
佐々木「まったく、これだからキミという人間は度し難い。いくら僕の思い通りにいかないにしても、配慮をしてくれたってバチは当たらないと思うんだがね」
キョン妹「……? あっ! もしかして、佐々木お姉ちゃん⁉︎」
キョン「佐々木……――どうして?」
キョン妹「わーいっ! 久しぶりーっ!」タタタッ ポフッ
佐々木「おっと……。久しぶり。妹君も達者なようでなによりだ。それに、素直なところが良い。爪の垢を煎じて飲むべきじゃないかな。――そう思わないかい? キョン」
キョン「どう返答したらいいのやら」
佐々木「モラトリアムにすることは感心しないよ。無駄な時間なんてないんだ。この瞬間でさえね」
キョン「楽しいと思える瞬間、無駄な瞬間、時間は平等に流れているが、価値を無にするかどうかは個人次第だろ。ま、青春は二度と帰ってこんというのは同意だがね」
佐々木「今がある程度、楽しければそれでいい。将来安心できるレールに乗っていればそれでいい。人生は妥協と選択の連続だ。僕はその両方が、ほしい」
キョン「……両方? あいにく、俺はあれもこれも両立してやるような、やる気に満ち満ちた人間じゃない。しっかし、今日はなんでここに?」
佐々木「理由が必要かい?」
キョン「佐々木……?」
佐々木「くつくつ、いや、なに。たまたまさ」
キョン「たまたまって、昨日も。そんなに頻発するのか」
佐々木「細かいことを男子が気にするものではないよ。女はいつだって仮面を被り、演技者で、秘密のある生き物なのだから。内面に踏み入れ、謎という蜜を味わいたいのなら覚悟が必要だ」
キョン「覚悟?」
佐々木「驚いた表情を浮かべているけど、当たり前の話じゃぁないか。キミはなんの覚悟もなしに、秘密を共有できるのかい?」
キョン「程度によるな」
佐々木「ごもっとも。しかしね、僕にとって、なぜここにいるのか。――その秘密を打ち明けるのは勇気のいることなんだ。だから、キミだって、相応の覚悟を持ってほしい」
キョン「……」
佐々木「くつくつ。キョン、少しは成長したようだね。軽はずみに覚悟があると言わないだけ歩を前に進めているようだ」
キョン「驚いてるだけさ。なにせ、佐々木にそんな秘密があるとは予想だにしていなかったからな」
キョン妹「ねーねーっ! これから佐々木のお姉ちゃんは暇っ⁉︎」
佐々木「……? あぁ、用事が終わったから暇だけれど」
キョン妹「それじゃあお家に遊びにおいでよっ!」
佐々木「い、いや。そ、それはやぶさかではないが。キョンの許しがないと……」チラッ
キョン妹「いいよねーっ?」
キョン「ふぅ、かまないが。いいのか? 佐々木」
佐々木「ぼ、僕は大丈夫、だよ」
キョン「まぁ、遅くならない程度なら」
【キョン宅 自室】
キョン「すまないな。あいつの遊び相手をしてもらって」
佐々木「なに。久しぶりに会えて嬉しかったのは本当さ。つい一緒になってはしゃいでしまった」
キョン「たまに勉強を見てやってくれると助かる……あぁ、今日はたまたまこっちに来ただったな」
佐々木「それ以前に、キョン。妹君はいまだ小学生の身分じゃないか。まさか、キミの学力はそこまで」
キョン「アホ言うな! ……ふぅ、そうじゃない。俺は教えるのが下手なんだよ。結論ありきで解を言ってしまうからな」
佐々木「ふむ」
キョン「答えを知っている、できるのと教えるのはまた方向性が違うものだろ。1+1が2になる。答えだけを言ってしまっては、なぜそうなるのかの疑問点について解消にはならない」
佐々木「なるほど。……くつくつ。不器用なキミらしい。いや、無骨な男らしいと言うべきか」
キョン「男であれ女であれ性別は関係ないさ。性格によるものだ。なぜ理解できないのか、でイラついたりはしたくないからな」
佐々木「いいよ。わかった。僕なんかでよければ、妹君の力になるとしよう。学力なんてもの……。所詮、社会にでて役にたつと限らないが経歴は力になる。学校生活を送る上であるにこしたことはない」
キョン「いいのか? 家だって遠いだろ」
佐々木「これからちょくちょくこちらに来る用事ができてしまったんだ。キミが気にすることはないよ」
キョン「そうは言うてもだな。せめて、その用事とやらがなんなのか……」ピリリリリッ
佐々木「キョン。携帯がなってるよ」
キョン「ちっ」スッ
『着信 古泉一樹』
キョン「すまん、少し席を外す。もう少ししたら妹が茶を持ってくると思うから」
佐々木「ああ、かまわない」
【キョン宅 階段】
キョン妹「わわっ!」ガチャガチャ
キョン「おっと」ピリリリリッ
キョン妹「もう! 危ないよ! キョンくん!」
キョン「すまん、佐々木が部屋にいるから運んでおいてくれ」ピッ
キョン妹「はぁーい」
キョン「もしもし」
古泉「取り急ぎ耳に入れておきたいことが」
キョン「暇じゃないんだが」
古泉「緊急事態です。朝比奈さんが忽然として姿を消しました」
キョン「……そうか」
古泉「あなたは今どちらにいらっしゃいます?」
キョン「家にいるよ。それで? その朝比奈さんといういのはどこのどちらの朝比奈さんで?」
古泉「はい? どちらもなにも、僕らがよく知っている朝比奈さんその人――待ってください。忘れてしまったんですか?」
キョン「古泉、今は友達が家にいるんだ。訳のわからない与太話はまた今度」
古泉「――逃げてください。一刻もはやく」
キョン「はぁ、なぜ俺が逃げなきゃならん」
古泉「どうやら、我々は既に蜘蛛の糸で絡め取られてしまっていたようです。彼女は既に部屋にいると仰いましたね」
キョン「彼女? 長門も佐々木を知っている口ぶりをしていたが、どうして古泉まで相手が女だとわかる?」
古泉「今朝のタクシーから降りると機関を使い色々と調べてまわったんです。そしてある仮説に辿り着きました」
キョン「機関?」
古泉「今は時間が惜しいので最後まで話を聞いてください。結論から先に申し上げますと、この世界は改変されています」
キョン「……」
古泉「それも些細なものなんです。誰かが“違和感”や“デジャヴュ”を覚える日常的なもの。――あなたと朝倉涼子を除いては」
キョン「朝倉?」
古泉「あなたは、今朝のタクシーでこう仰いましたね。催眠術を行うとすれば他の誰かの都合も合わせなければいけない、そうしなければボロがでる、と」
キョン「ああ、まぁ、たしかに。似たようなことを言ったかもしれんが」
古泉「あなたが記憶を無くしているのは、あなただけの問題なんです。朝比奈さん、長門さん、僕は記憶を無くしていません。“あなたが忘れている”というのを知っているんです」
キョン「訳がわからん」
古泉「しかし、朝倉涼子は話が別です。彼女は、転校という形で学校からいなくなっています。にもかかわらず、あの学校にいる。――これは、あまりに不自然であり、自然になど受け入れられません。多くの人間の記憶を操作しなければならない。あなたが仰るように」
キョン「はぁ、よもやそこからとんでも論でハルヒに結びつけるんじゃあるまいな」
古泉「長門さんに助けを求めるしかありません」
キョン「あいつなら、俺が自力で辿り着くしかないと言っていたぞ」
古泉「とにかく、今すぐにその家から離れてください。部室で集合しましょう」
キョン「なぜ身の危険もわからないままに言う通りにしないといかんのだ。だいたいだな、理由を説明されてるようだがちっとも頭にはいってこん」
古泉「佐々木さんに何か不自然な点はありませんか?」
キョン「あるわけないだろう」
古泉「それも強い暗示に似た状況になっているからではないですか? 本当に、なにもおかしな点はないと言い切れますか?」
キョン「ない。きっぱりはっきり断言できる。あいつとは中学時代からの付き合いなんだ。おかしな点があるとすればすぐに気がつく」
古泉「……なんでもいいんです。佐々木さんと会ってから起こった些細な変化を教えてくれませんか」
キョン「なんでそんなことをお前に――」
古泉「お願いします」
キョン「わかったよ。そうだな、佐々木と会ってから長門の自宅に呼ばれ、宇宙人だと言われた。そしてお前の話でハルヒに特別な力があると言われ、長門に部室で……――あれ?」
古泉「どうしました?」
キョン「いや、長門に部室で……なんだっけ。たしか、携帯電話を見たような」
古泉「それですっ! そこであなたはなにかの異常性を目の当たりにしたのではないですかっ⁉︎」
キョン「いや、忘れちまうぐらいなんだから些細なことだろう」
古泉「おかしいと気がつくには、ご自身の目で確認するのが一番です。通話状態のままでかまいません、携帯の履歴を見てください」
キョン「はぁ……それでなにかなければお前は納得するんだな?」
古泉「はい。これまでの経緯、全て謝罪することをお約束します」
キョン「謝罪なんぞいらん。なければ電話を切るぞ」
古泉「はい」
キョン「ふぅ……ハンズフリーにするぞ」ピッ ピッ
古泉「……」
キョン「……? メールが200件を超えてる? これは……佐々木、佐々木、佐々木。全部、佐々木か……?」ピッ ピッ ピッ
古泉「どうですか? なにもありませんでしたか?」
キョン「いや、待て」
古泉「強い暗示であれば、関連性のある物証で記憶が戻るはずです。あなたは、部室で僕にワカメを増やしてみせろと仰いましたね。長門さんから見せられて信じられたからではないですか?」
キョン「長門、古泉、朝比奈、さん……しかし、長門は、部室で……そうだ。俺が自力で辿り着かなければ消滅する、と」
佐々木「――キョン」
キョン「佐々木……?」
佐々木「どうやらまた悪いゴミ虫が悪さをしているようだね。カサカサ、かさかさ、かさこそ、と。虫は駆除しなければならない」
古泉「彼女から離れるんです! 息の続く限り走って逃げなければ!」
キョン「いや、なんだこの状況は。待ってくれ。悪い冗談かなにかだよな? ちっとも笑えないし」
佐々木「携帯電話を貸して」
キョン「いや、しかし――」
佐々木「貸してッ!」バシッ
キョン「……! お、おい。佐々木?」
佐々木「……」ピッ
キョン「佐々木……?」
佐々木「ねぇ、キョン。どうして僕のメールに返信してくれなかったの?」
キョン「いや、それが。今の今までそれほど気にとめなかったんだ。思い出したは思い出したんだが、返さなくても」
佐々木「僕はね、ずっと待っていたんだ。嗚呼、どうして返さないんだろう、なにかあったんじゃないだろうか。それとも、想像すらしたくないが、僕が重いと嫌気がさしたんじゃないか。引かれていないだろうか。でも、それでも送り続けたんだ。なのに、キミにとってはその程度なんだね」
キョン「少し、落ち着けよ」
佐々木「僕は冷静だよ。冷静に“キミにとっての僕の位置”を分析している。温度差がこうまで乖離していると、辛いのは片方だけ。そう、辛い想いをするのは僕だけッ!!」ガシャンッ
キョン「佐々木……すまん、それほど返してほしかったのか」
佐々木「くつくつ。キミの言葉が、鋭利な刃物となって僕の心を傷つける。今気がついたようなその口ぶりも。これまで僕がどんなにびくびくと、したのか知りもしなかったという裏付けになってしまう……!」
キョン「……」
佐々木「ひどい男だね、キョン。想いを寄せる女に対してこんな仕打ちはないよ」
キョン「誰が誰に? ……まさか、佐々木が俺に?」
佐々木「考えたことがなかった。夢にも思わなかった。――きっとキョンの頭の中では混乱が渦巻いていることだろう。だがね、僕にとっては、それがずっと想い続けていた事実なんだッ! それが僕の今ほしいものの全てッ!!」
キョン「……」
佐々木「ねぇッ! なんで私が我慢しなきゃいけないの⁉︎ 選択を誤ったから⁉︎ たった一度の過ちで、進む高校を間違えただけで、僕たちの日常はかくも壊れてしまうもの⁉︎」
キョン「……佐々木」
佐々木「一緒の通っている学校が違う、たったこれだけの違いだけで、毎日がこんなにも色あせてしまうだなんて見当もつかなかったんだ! 気がついた時には、接点なんかなくなってしまってたんだ! どうしようもなかったんだもん!」
キョン「もういい」
佐々木「なにもかも僕のひとりよがりだったんじゃないかッ!」
キョン「俺が言ってるのはそうじゃな――」
佐々木「ゲームオーバーだよ。僕は、僕は……」
キョン「おい! 少しは俺にも喋らせる機会を」
佐々木「僕は、力を発動する」
【キョン宅 近くの公園】
九曜「――半径100キロメートル以内に――情報爆発……確認」
橘「やりました! ついに佐々木さんに力を行使させるまで成功しやがりましたです!」
藤原「ふん、まだまだここからだ。僕は時空改変を望んでいる。これから未来がどう枝分かれするのか、その可能性を確定させなければ水泡に帰す」
橘「あいかわらず捻くれた奴なのです! 人類には小さな一歩でも、佐々木さんにとって大きな一歩なのですよ!」
藤原「人類のどこに関係あるんだ」
橘「ケツの穴の小さい男ですね! つっこむ所はそこではないでしょう!」
藤原「ぐっ! こ、こいつ……まぁいい。計画はうまくいっている」
九曜「――数万パターンから推測される未来が――生まれた……」
橘「まさか佐々木さんの想い人があんなに冴えない一般人だとわっ! ラブレターを実際に見るまで信じられなかったのです!」
藤原「ふっ、これか? 宛名のない、手紙」
橘「日記とラブレターを見る奴なんて馬に蹴られて死んじまえ!」
藤原「ひ、ひどい言い草だ」
橘「でも! 今回の計画はそのラブレターがなければ実行に移せませんでした! 今回だけは! あなたのクズ行為にも目を瞑ります! よっ! 男の中のクズ!」パチパチパチ
藤原「舐めてるな! お前、絶対僕のことバカ舐めてるな!」ゴスッ
橘「痛いっ! うぅ~、シャレの通じない男なのです……とにかくっ! 私は佐々木さんに涼宮ハルヒの能力奪還!」
九曜「進化の可能性……」
藤原「僕は、姉さんを救うため時空改変を」
橘「意識は違えど、目的は同じです! 歯車はまたまわりだしました! 決意と覚悟を持って臨むのですよ!」
藤原「アレも所詮は恋する乙女。あることないこと吹き込めば、簡単に崩れる。な? 僕の言った通りだろ?」
橘「虫酸が走るのです! お願いだから喋らないで!」
藤原「なっ!」
橘「警戒すべきは長門さんただひとり!」
九曜「――了解して、いる――私では……勝てない」
藤原「おいっ! 今なんつった!」
橘「九曜さんと喋ってるんだから黙りやがれです! 乙女の純情を弄ぶゴミ虫め! 」
藤原「な、なんだとっ!」
橘「九曜さん、長門さんに動きは?」
九曜「既に――ある」
橘「え? ……嫌な予感が……っ!」
長門「やはり、あなた達の仕業」ズザザーッ
橘「――で、でたぁっ! でやがりましたです! 駆けつけるタイミングばっちりなのです!」
藤原「……っ!」
橘「ど、どどどどうするのですかっ! まさかこんなにはやくこちらの閉鎖空間に介入してくるとわっ!」ゆさゆさゆさ
藤原「お、おおおおちつけつけっ! ええいっ、落ち着きまえ!」ゴス
橘「痛いっ! 二度もゲンコツを! 父さんにもされたことないのに!」
藤原「知るかっ! ……ふぅ、やはり? やはりと言ったな。それは違うだろう。僕たちが噛んでると気がついていた。違うか?」
長門「……」
藤原「ふっ、ふっくっくっくっ、あっはっはっはっ!」
橘「おおっ! いやらしい笑い方なのです! よっ! 悪役っ!」
藤原「黙れ、橘京子。気がついていても手が出せなかったんだろう? どうだ、図星か?」
長門「……」
藤原「見たまえ。この結果を。我々が一歩リードだ。情報操作を行い“また”なかったことにするか? 世界に与える負担が次も出ないとはかぎらないぞ」
長門「……」
藤原「いや? いやいやぁ? むしろ、出ているのか。出ていないように見せかけてるいだけで! なぁっ! そうだろうっ⁉︎」
長門「ksdjfぎこさうじぇwさj」
藤原「周防九曜っ! こいつにもはやかつての力はない! 思う存分屠ってやれ!」
九曜「――できない――」
藤原「そうだ! 思いっきり……なに? できない?」
朝倉「あらあら。こんなところにいたんだ。なるほど、また私はバックアップってわけ」フワッ トン
藤原「な、なんだこいつはっ!」
長門「間に合った。助かる」
橘「な、なんだか助っ人登場の気配なのです! 失礼するのです!」タタタッ
藤原「お、おい! 橘京子! どこに」
橘「このパターンはよくないのです! 助っ人が登場したら悪役はコテンパンにされるのがお約束なのですよ! それでわぁぁぁぁぁ~~~~」
藤原「くっ、逃げ足だけははやいやつだ」
朝倉「くすっ、さて……覚悟はいい?」
九曜「……私が――時間を――稼ぐ」
藤原「まてぇい! いいのかね! 僕たちにかまっている時間があるのか⁉︎」
朝倉「……その場限りの言い逃れなのは明らかだけど、どうする? 長門さん」
長門「三秒でカタをつければ問題ない」
朝倉「うーん、だそうだけど?」
藤原「待て待てぇい! それでは困る! どうだ? 取り引きしないか?」
朝倉「取り引き?」
藤原「この場を見逃してくれれば、有益な情報を与えよう!」
長門「内容による」
藤原「約束すれば話す!」
長門「譲歩する必要はない。提案をするべきはあなた。こちらは開示された情報に基づいて判断するだけでいい」
藤原「ぐっ! た、たしかに」
長門「時間がない」
藤原「わかった。いいだろう、情報というのはだな」
長門「……」
藤原「その、情報というのは」
朝倉「……?」
藤原「情報はぁ……」
朝倉「時間稼ぎ?」
藤原「ち、違う! はやまるのはやめたまえ!」
長門「……」スッ
藤原「だからやめたまえと言うとるに!」
――ドーンッ!
長門「……!」
朝倉「長門さん! まずい!」
藤原「ふっ、ふっくっくっ! 来た! 来たぞ! 神人が! 周防九曜! この機に乗じて逃げる!」
朝倉「それ、無理。だって私が逃すわけなっ――」
神人「……」ドーンッ
朝倉「こちらを攻撃してきた? 私たちを敵と認識してるのかしら?」シュタ
藤原「誤算だったな! 長門有希! 前回同様、神人はあらわれないと思っていただろう! 佐々木の理性が抑えこんでしまうと! だがっ! 既にリミッターを振り切っている!」
長門「……」ジー
藤原「涼宮ハルヒとの均衡はこれで五分と五分! 勝負はまだはじまったばかりだ!」
九曜「――とぶ――……つかま」スタ
藤原「ざまぁみろっ! と、おわぁっ⁉︎」バシュン
朝倉「あぁ~あ、逃げられちゃった。どうする?」
長門「適切に対応。優先順位の繰り上げを要求する」
朝倉「了解。まずはこのデカブツをなんとかしなくちゃね」トン
【翌日 キョン宅】
キョン「待ってくれ!……あ? ゆ、夢?」
キョン妹「キョンくーん! あれ? 起きてる?」
キョン「その飛びかかる前と言わんばかりのクラウチングスタートを解除しろ」ムク
キョン妹「なーんだ、つまんないの」
キョン「むやみやたらと攻撃的になるんじゃない。いいかぁ、例えおふざけであっても、相手がそう感じなければ……」
佐々木『――僕にとってはそうじゃないッ!』
キョン「なんでもない」
キョン妹「どうしたの?」
キョン「いや、変な夢を見ちまったせいかな。気分が優れないだけさ」
キョン妹「こわい夢?」
キョン「こわいというよりは嫌な夢だろうな。良い夢だったとは手放しで喜べないね」
キョン妹「そっかぁ。そういう時はねぇ、朝ごはんをたーんと食べるといいよ!」
キョン「なんで?」
キョン妹「おなかいっぱいになれば幸せになれるもん!」
キョン「お子様は単純だねぇ」
キョン妹「あーっ! 子供扱いしてるけどねぇ、悩みなんて単純なものなんだよ? 難しくしてるのは自分なんだから!」
キョン「やけに大人びた発言するな。そんなこと誰に教わったんだぁ?」
キョン妹「ん? 誰だったかな? あはは、忘れちった」
キョン「ふぅ、やれやれ。また今日もいつも通りの一日がはじまるのか」
【キョン宅 リビング】
神楽(TV)「銀ちゃん! 今日も頭がツルピカハゲアルね!」
銀時(TV)「毛がないのは嬉しいことだが強調するのはよせ」
神楽(TV)「はぁ~ぁ。毛がなし財布の中身もなしじゃギャグにもならナイヨ。実写映画化の大成功で儲けはガッポリ入ったりんじゃないのか?」
銀時(TV)「財布が潤うのはゴリラ作者だけだっつうの。俺らにはケツの毛までなぁんにもありゃしねぇよ」
神楽(TV)「インセンティブを要求しようヨ! ハゲましあって生きていくために! そうすれば銀ちゃんの中の人のアートネイチャー代の足しになるかもしれないし!」
新八(TV)「メタ発言はそれぐらいしとかないと僕らスポンサーに消されますよ」
神楽(TV)「なにをビビってるか! 世の中言ったもん勝ちネ! 泣き寝入りするなんてハゲと負け犬のするコトだろ!」
新八(TV)「偏見すぎるだろお前っ!」
キョン「……なんだこれ?」
キョン妹「今、巷で話題のアニメ!」
キョン「なんつーもんやってんだ。こんなのが面白いのか」
キョン妹「うん! 女の子に人気なんだよ! あ、主人公の声ってキョンくんに似てるね!」
キョン「どれが主人公なんだ? このハゲてるのか?」
キョン妹「そう! ハゲってかっこいいよねー!」
キョン「はぁ? ハゲが?」
キョン妹「うん! キョンくんもバーコードにしたら?」
キョン「するか! バーコードなんてもん風になびいたらすだれじゃねーか!」
キョン妹「えぇ。流行ってるのに」
キョン「はぁ、ハゲが流行るわけないだろ。そんなんだったら世の中の髪がない男連中は歓喜のあまり小躍りしそうだぜ。この牛乳口飲みしちまうぞ――」カポ
CM(TV)「バーコードヘアをあなたに! つけ毛は無料! アートネイチャー!」
キョン「――ぶうぅぅぅっ! ごほっ! えほっ、えへっ」
キョン妹「わーっ! かっこいい!」
キョン「な、なんだよ? 今のCM……アニメの協賛か?」
キョン妹「もー、キョンくんったらさっきからなに言ってるの? ハゲはかっこいいって普通じゃない!」
キョン「……は、はぁ?」
【北口駅前 時計塔】
キョン「は、はは。俺は今、夢の続きを見ているのか」
カップルA子「今日もA男かっこいいー! 光に反射してる!」
カップルA男「ふっ。この日のためにスキンヘッドにしてきたからな! バリカン後のカミソリ仕上げよ!」
キョン「……」チラ
カップルA子「……? カミソリ? 地ハゲじゃないの?」
カップルA男「あっ、いや、その」
カップルA子「うそぉ⁉︎ 俺の毛根は死んでるんだって得意げに言ってたじゃない!」
カップルA男「ち、ちがうんだ! それは――」
カップルA子「ダサっ! ハゲじゃないなんて糞ダサっ!」
カップルA男「えぇぇぇ……」
キョン「――はぁ、見渡す限りのハゲばかり。来る途中も、サラリーマンも、カップルまで。どうなってんだ、一体」
ハルヒ「お待たせ! キョンが一番? 殊勝な心がけね!」
キョン「ハルヒ。少し、聞きたいんだが」
ハルヒ「みくるちゃんたちは遅れてるのかしら?」
キョン「頼むから今は俺の話を聞いてくれ。でないとなにかのドッキリを仕掛けられてるのかと疑わずにはいられないんだ」
ハルヒ「なに?」
キョン「ハゲをどう思う……?」
ハルヒ「あぁ、流行ってるわよね。なんで? あんたもハゲにするの?」
キョン「ハゲにするのかというのはおかしいだろう。スキンヘッドというのは部分ハゲがとる最終手段として主に……ってそうじゃない。流行って……?」
ハルヒ「学校の男子はみんなしてるじゃない。あんたと古泉くんくらいよ。ハゲにしてないの」
キョン「は、はぁぁぁっ?」
ハルヒ「な、なに? なんでそんなことで驚くの? 流行りに乗っかってやるなんて普通でしょ?」
キョン「ちょ、ちょっと待ってくれ! いつから流行りだしてるんだ⁉︎」
ハルヒ「いつからって。忘れちゃった。坊主文化は大昔からあるものじゃない。流行なんて周期があるんだし、そりゃちょっと前は廃れたけど、オーソドックスな髪型のひとつよ」
キョン「坊主が、オーソドックス?」
ハルヒ「手軽だし、清潔感があるし。髪型で誤魔化されないし良いことづくめでしょ。変に髪型をキメてるなんて土台の造形に自信がない証拠よ」
キョン「髪型をキメるのがか?」
ハルヒ「ワックスとか整髪料をベタベタ塗ったくってさあ。すぐに鏡を気にしちゃうなんて気持ち悪い。あんたもハゲにしたらいいのに」
キョン「ど、どうなってるんだコレ。……素朴な疑問がわいたんだが、女はしないのか?」
ハルヒ「はぁ? 女の子は化粧するんだし髪は装飾品! いいの!」
キョン「い、意味がわからん」
ハルヒ「ふん、急になに言いだしたのかと思ったら。こっちがわけわかんないわよ」
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