ガヴリール「クーラが壊れた」 (40)
7月。永くて暗いジメジメした梅雨が終わって、大きな大きな入道雲が吐き出されたように青い空に漂っている。
夏の蓋が、開いたんだ。
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ガヴリール「....あっつ」
異様な室内の暑さで目を覚ました。時計に目をやると朝の5時を少し過ぎた頃だった。
ガヴリール「....?クーラーついてないのか」
ガヴリール「つけて寝たはずなんだけどな」
ガヴリール「というかここ暫くつけっぱなしなんだけど」
ガヴリール 「....もしかして」
ゆっくり起き上がりリモコンを手に取って、電源ボタンを押す。ピッという音と共に心地よい空気が流れ始め...ない。思った通りだ。最悪だ。
ガヴリール「またか...何回壊れる気だ」
あまりの熱気に窓を開ける。もわっとした空気が入り込んでくるだけだろうと想像していたが、意外にも涼しい風が身体を撫でて通り過ぎていく。
ガヴリール「いや、良いように言っても暑いもんは暑い」
ガヴリール「......」
ガヴリール「撤退だ!!」
着ていたTシャツのまま外に出て、避難所へ向かう。早朝のまだぼやけたような空を眺める。新鮮な景色ではない。徹夜明けでよく見る。
ただなんだか、いつもより静かな気がする。蝉がまだ鳴き始めていないからだろうか。道行く人を見かけないからだろうか。こんな時間に起きてはいても外には出ないから少しだけ、非現実感がある。
この世界には私ひとりだけ、なんて事を考えてしまう。
ガヴリール「....それは嫌だな」
あるはずない、わかりきっているはずなのにどこか隅のあたりに湧いて出た不安をかき消すように歩を進め、避難所までたどり着いてチャイムを鳴らした。
ヴィーネ『はーい』
ガヴリール「ヴィーネ、私だ。クーラーが死んだ。このままだともうじき私も死ぬ」
ヴィーネ『....今開けるわ』
扉が開いて、ふんわりとシャンプーの香りが漂う。
バカみたいな不安だった。ヴィーネの顔を見た瞬間にさっきの妄想は泡のように消えていった。それでもなぜだろう、私はどこか不快なままだった。
ガヴリール「.....なぁ、おまえの部屋、暑くね」
ヴィーネ「暑いわよ」
ガヴリール「もしかして...」
ヴィーネ「うん...ごめん。私の家もクーラーが壊れたの」
「Miniscule summer』
ヴィーネ「ガヴ汗だくじゃない。とりあえずシャワーを貸すわ」
ガヴリール「サンキュ」
ガヴリール「ヴィーネは?」
ヴィーネ「え?」
ガヴリール「ヴィーネは入んないの?」
ヴィーネ「私はさっき入ったし」
ガヴリール「私ともう一回入らない?」
ヴィーネ「髪洗わせたいだけでしょ」
ガヴリール「バレたか」
シャワーを借りて、ついでに服も借りて、冷たいお茶も出してくれた。いつぞやと同じ。至れり尽くせり。
熱がこもらぬように窓が開かれて、風鈴がちりんと音を立てている。扇風機はあっちこっちを向いて、外から流れてきた空気を部屋中へ運んでいる。
ガヴリール「これでクーラーがきいてればなぁ」
ヴィーネ「追い出すわよ」
ガヴリール「....悪い」
追い出されたとて外も室内もたいして変わらないとは思った。でも流石に失言だ。撤回する。
ヴィーネ「ごめんね」
ガヴリール「え?」
ヴィーネ「...ううん。なんでもない」
....まさか今こいつは、自分の家のクーラーが壊れていた事に対して謝ったのか?良い奴も程々にしてくれ。さっきの発言を取り消したくて堪らなくなる。
私は徐ろに横になって、ヴィーネのひざに頭を乗せた。ひざ枕というやつだ。
ヴィーネ「どうしたの、当然」
ガヴリール「なんでもない」
入道雲が空に浮かんでいた。まだ日の昇りきっていない、彩度の低い青空。今は6時を少し回った頃だろうか。
ヴィーネ「子どもみたいね、ガヴ」
子どもを寝かしつけるような優しい声でそう言って、ヴィーネは私の髪を撫でる。
ガヴリール「これでもお姉ちゃんだ」
ヴィーネ「妹みたいなお姉ちゃんもいるのね」
ガヴリール「妹でもあるしな」
ヴィーネ「納得」
風鈴の音と触れている体温と頭を撫でられる感触が心地よく、不快な夏の暑さまで愛おしくさせた。私はほんの少しの眠りに落ちた。
ヴィーネ「あ、起きた」
ガヴリール「.....わるい、どのくらい寝てた」
ヴィーネ「15分くらい」
ガヴリール「そうか」
ゆっくり身体を起こす。お茶もってくるね、と言って台所へと離れていくヴィーネを見てもう少しあのままでいれば良かったと後悔する。
頭にはまだ感触が残っている。私が目を覚ますまでずっと撫でられていたのだろう。
ヴィーネ「あ」
ガヴリール「ん?」
お茶を持ってきたヴィーネは何かを思い出したかのように口を開ける。
ヴィーネ「朝ごはん、まだよね」
ガヴリール「そうだな」
ヴィーネ「用意するわ」
ガヴリール「あー....」
ヴィーネ「ガヴ?」
ガヴリール「いや、なんでもない。頼むよ」
ヴィーネ「?うん」
ガヴリール「パン」
ヴィーネ「パンね」
ガヴリール「いちごジャム」
ヴィーネ「別のが良かった?」
ガヴリール「牛乳」
ヴィーネ「冷たいわよ」
ヴィーネ「…不満?」
ガヴリール「ううん。全然」
ヴィーネ「ならよし」
ガヴリール「いただきます」
ヴィーネ「いただきます」
ガヴリール「ごちそうさまでした」
ヴィーネ「お粗末さまです」
ガヴリール「久しぶりに朝ごはん食べたな」
ヴィーネ「ちゃんと朝食べないとダメよ」
ガヴリール「作りに来てよ」
ヴィーネ「朝行ってもガヴ寝てるじゃない」
ヴィーネ「起こしても起きないし、起きたら起きたで機嫌悪いし」
ガヴリール「ご、ごめん」
ヴィーネ「悪いと思ってるなら良いわ」
ヴィーネ「夏休みに入ったら起こしにいこっか?」
ガヴリール「うん、頼むよ」
ヴィーネ「夜中にゲームするのは控えなさいよ」
ガヴリール「うっ....頑張ります」
私は立ち上がって、ヴィーネの分も含めて食器を流しへと運ぼうとする。
ヴィーネ「ど、どうしたの、ガヴ?」
ヴィーネ「もしかして暑さで頭が!?」
ガヴリール「驚きすぎだろ。ちょっとは手伝わせろ」
ヴィーネ「う、うん…ありがと」
まったく、失礼な奴だな。
食器を洗い終えて、ヴィーネのすぐ側に座った。
ヴィーネ「お疲れ様。ありがとね、ガヴ」
ガヴリール「…うん」
食器を洗っただけなのになんだか照れくさい。本当に子どものようだ。
ガヴリール「…暑いな」
ヴィーネ「暑いわね」
少し前にシャワーを浴びたはずなのに、もう汗でベタベタする。それくらい、クーラーのない夏というのは地獄なのだ。扇風機の生ぬるい風が、髪を揺らす。
ヴィーネ「夏らしい天気ね」
ガヴリール「まだ蝉鳴いてないけどな」
ヴィーネ「静かでいいじゃない」
ガヴリール「あいつらうるさいもんな」
ガヴリール「あと気持ち悪いし」
ヴィーネ「蝉がダメならガヴは魔界には来れないわね」
ガヴリール「絶対ムリ。蝉よりおぞましい奴らがうじゃうじゃいるんだろ?」
ヴィーネ「別にそんなうじゃうじゃ~!って事ないわよ」
ガヴリール「うっそだ~」
ヴィーネ「本当よ。蝉よりおぞましくて蝉より凶暴なのがちょっといるだけ」
ガヴリール「いや無理だわそんなん」
ガヴリール「…ん?」
少し、引っかかることがあった。
ヴィーネ「どうしたの?」
ガヴリール「ヴィーネ、あの黒光りするやつ無理だったよね」
ヴィーネ「な、なんで今そいつを出してくるのよ!」
ガヴリール「魔界にいればあんなもん怖くないんじゃないの?」
ヴィーネ「むむ無理!あれだけは無理!!」
ガヴリール「なんでだよ」
ヴィーネ「えっ…ほ、ほら、素早いし!見た目が気持ち悪いし、しかも飛ぶし!!」
ガヴリール「魔界には早くてキモくて空飛んで更には殴りかかってくるヤツいそうだけどなぁ」
ヴィーネ「確かに!ええと…ほ、本能的に!?」
ガヴリール「悪魔の天敵はGだったのか」
ヴィーネ「はぁ…汗かいちゃった」
ガヴリール「興奮するからだよ」
ヴィーネ「あんたがさせたんでしょ!」
ガヴリール「!」
ガヴリール「…ヴィーネちゃん」ニヤニヤ
私はちょっとだけ、意地悪な笑みをしてヴィーネを見つめる。
ヴィーネ「え…?」
ヴィーネ「なっ……!!バカ!」バチン!
ビンタをくらった。すげー痛い。
ガヴリール「……」ジンジン
ヴィーネ「ご、ごめんガヴ」
ガヴリール「いや、こっちこそごめん」
ガヴリール「……」
ヴィーネ「……」
ヴィーネ「…か、かき氷、食べる?」
ガヴリール「!食べる!かき氷機あるの?」
ヴィーネ「サターニャがね、魔界通販でかき氷機買ったけど使わなくなったからくれたのよ」
ガヴリール「魔界通販で買ったかき氷機って…嫌な予感しかしないんだけど」
ヴィーネ「お店の味を超える。全自動、お家で手軽。あなたもすぐかき氷職人へ。そんなワードに惹かれたらしいわ」
ガヴリール「それ、魔界通販で買う意味ある?」
ヴィーネ「なんでも魔界一の人気かき氷機らしいわ」
ガヴリール「魔界は今かき氷ブームなの?」
ヴィーネ「さぁ…」
ヴィーネ「とにかく作るわよ」
ガヴリール「うん」
ヴィーネはキッチンの奥の辺りからかき氷機を取り出してきた。私は適当な入れ物とスプーンを持ってきた。
ヴィーネ「ここに氷を入れて…」
ヴィーネ「ここを押さえこむと中の氷が削られるらしいわ」
ガヴリール「よしいけ!ヴィーネ!」
ヴィーネ「はい!」
氷が削られて、かき氷が完成した。溶けてしまいそうな熱の中で存在するかき氷は、輝いていた。
ガヴリール「そういえばシロップってあるの?」
ヴィーネ「サターニャから一緒に譲り受けたわ」
ガヴリール「何味?」
ヴィーネ「何味だと思う?」
ガヴリール「どうせいちごでしょ。赤色繋がりで」
ヴィーネ「正解」
ガヴリール「驚くほど嬉しくないな」
ガヴリール「ん、うまい。冷たくて最高」
ヴィーネ「生き返るわね」
ガヴリール「これが魔界一人気のかき氷機から生まれたかき氷か」
ヴィーネ「どう?魔界一だと思う?」
ガヴリール「魔界一かもしれんが、日本一ではないな」
ヴィーネ「私もそう思う」
ガヴリール「魔界のかき氷技術はまだまだだな」
ヴィーネ「誰目線よ」
かき氷を食べ終えた私たちは、窓から見える夏の空を眺めている。会話は途切れていた。
室内を支配する熱は朝よりも随分と増して、流れ落ちる汗の量も同様に増している。
髪が首筋に張り付いて気持ちが悪い。不快感は募る一方だった。
私は隣に座るヴィーネに寄りかかった。
ヴィーネ「汗、かいてるわよ」
ガヴリール「嫌ならすぐやめる」
ヴィーネ「あんたじゃなくて、私が」
そうだと思った。
ガヴリール「いいよ、全然。こうしてたい」
ヴィーネ「なら、いいけど…」
試しているわけじゃないけど時折、こうしたヴィーネの優しさを見たくなる。人間界に来て分かったことの一つに人間の醜悪さがある。ネトゲをしていても、学校にいても、付きまとう不快感。人を取り巻く環境の安定感のなさ。…詳しく話すと長くなりそうだから置いておくけど、ヴィーネは、そこから一番遠い場所にいる。優しい場所にいる。
ヴィーネ「眠たい?」
ガヴリール「ちょっとだけ」
ヴィーネ「寝るならまたひざ枕してあげよっか」
ガヴリール「良い提案だけど、大丈夫」
ガヴリール「ヴィーネ、暑くない?」
ヴィーネ「暑いけれど、ガヴがこうしてるから暑いわけじゃないわ」
本当、良い奴だな。少しは暑いくせに。
ガヴリール「流石に汗もすごいからさ、水風呂入ろうよ」
ガヴリール「一度シャワーで汗を流して、冷たい場所に避難しよう」
ヴィーネ「んー…」
悩んでおられる。多分アレだろうけど。あえて何も言わないでおこう。
ヴィーネ「分かったわ。じゃあお風呂に水入れてくるから、待ってて」
ガヴリール「よしきた」
ヴィーネ「行くけど、この体勢といていい?」
ガヴリール「名残惜しいな~。うーん…」
ガヴリール「ハグしてくれたら行ってもいいよ」
ヴィーネ「やっ、やだ」
ガヴリール「なんでだよ」
ヴィーネ「恥ずかしいから」
ガヴリール「ヴィーネちゃんは乙女ですなあ~」
ヴィーネ「う、うるさいわね!」
ガヴリール「じゃあ私からハグするよ。それでいい?」
ヴィーネ「どっちがとかそういう問題じゃ…きゃっ!」
言い終わる前には私はヴィーネを抱き締めていた。出来るだけ優しい抱擁。汗かいてるし。
ガヴリール「あー安心する」
ヴィーネ「も、もう…」
心臓の高鳴りが聞こえる。嬉しくなる高鳴りだった。
ヴィーネの手が私の頭を撫でる。何度も思うが、私は子どものようだな。
ガヴリール「よしヴィーネ、行ってよし」
ヴィーネ「はいはい…」
ヴィーネを待つ間、私は底に赤いシロップの残るかき氷の器を二つ運び、それを洗った。偉すぎる。かき氷機も元ある場所へ戻したし、シロップも片付けた。偉すぎる。
外に出れば少しは暑さが和らいだりするだろうか、そんなことを考えてベランダに出る。
ガヴリール「空が青いな」
ガヴリール「暑さはほとんど変わらない、か」
遠まわりをしている。下手をすると本当に死んでしまいそうな夏を相手に、私たちは無謀な遠まわりをしている。
ヴィーネ『ガヴー?水風呂できたわよー』
風呂場からヴィーネの呼ぶ声がする。
ガヴリール「いまいく」
本当に暑さを凌ぎたいのなら、家を出てサターニャの家にでもラフィエルの家にでも避難すれば良い。
他にいくらでも手はある事が分からないほど私とヴィーネはバカではない。…いや、バカなのかもしれない。
ヴィーネ『髪ゴム洗面台の前に置いてあるから』
ガヴリール「サンキュ」
髪ゴムを左手首につけ、消してあった電気をつけて、風呂場の扉を開けようとする。
ヴィーネ『ガーヴー?』
ガヴリール「……」
ガヴリール「…なんだよ」
ヴィーネ『…電気は』
ガヴリール「…消せば良いんだろ。消せば」
仰せの通りに電気を消して、風呂場の扉を開ける。扉は完全に締め切ることをせず、微量の光が差し込むようにする。そうしないと真っ暗闇になるからだ。
ガヴリール「いい加減慣れろよな」
ヴィーネ「ガヴが頓着しなさすぎるだけよ」
ガヴリール「何かあれば聖なる光がガードしてくれるんだよ」
ガヴリール「ヴィーネだってそうだったじゃん」
ヴィーネ「そうだけど、そうじゃないの」
ガヴリール「どっちだよ」
ヴィーネ「…ガヴのバカ」
風呂に浸かる前に、とりあえず汗を流そうとする。
ガヴリール「あ、ヴィーネ」
ヴィーネ「…なによ」
ガヴリール「髪、洗って」
ヴィーネ「はぁ…仕方ないわね」
ヴィーネ「あんたの髪長いからめんどくさいのよ」
ガヴリール「私も同じこと考えてた」
ヴィーネ「じゃあやらせないでよ」
ガヴリール「今日朝1回洗ったんだぞ。今と夜も含めれば3回だぞ。そんなの耐えれるか」
ヴィーネ「呆れるわね」
ガヴリール「あー髪、切ろうかな」
ヴィーネ「…それはダメ」
ガヴリール「なんで?髪を洗う時ヴィーネも楽、私も楽。良いこと尽くしじゃん」
ヴィーネ「長い髪がもさもさしてるガヴが、その、か、かわいいし…」
ガヴリール「……!」ドキッ
ヴィーネ「な、なんか言いなさいよ」
ガヴリール「い、いやぁその、あ、ありがと」
ヴィーネ「…う、うん」
この暗がりが意味をなさないほど、お互いの顔が赤く染まっていることがわかった。
そこからは無言で髪を洗ってもらい、身体の方は拒否されたので自分で洗って風呂へ入った。髪はヴィーネにくくってもらった。
背中合わせで、私たちは言葉を交わす。普段触れ合わない肌の感触に、艶めかしさを感じる。
ガヴリール「あー永遠に浸かっていられる」
ヴィーネ「そうね」
ガヴリール「大変なことになったな、お互い」
ヴィーネ「クーラーの事?」
ガヴリール「そう。夏の必須アイテムを失ったんだ」
ヴィーネ「ガヴの家のは交換が必要じゃない?去年も壊れたし」
ガヴリール「そんな金はない」
ヴィーネ「奉仕活動をして、課金をやめる」
ガヴリール「恐ろしいこと言わないでよ」
ヴィーネ「天使が奉仕活動を恐ろしいとか言うな」
ガヴリール「…今日は、色々ありがと」
ヴィーネ「突然どうしたの」
ガヴリール「いや、世話になってばかりで悪いなと思って」
ヴィーネ「髪は洗わせるのに?」
ガヴリール「うっ…痛いとこつくなよ」
ヴィーネ「いいの、ガヴの優しいところたくさん見せてもらったから」
ガヴリール「見せたか?そんなの」
ヴィーネ「見せてたわ。自分で気付かないだけよ」
ガヴリール「そんなもんかね」
ヴィーネ「…なんだかんだ言っていつもガヴは優しいのよ」
ヴィーネ「ガヴの本当の姿が堕落した今の姿だと言うのなら、それは正しいのかもしれない」
ヴィーネ「だからと言ってあの頃の優等生のガヴが偽りの姿だったと言えるわけじゃないわ」
ガヴリール「そうか?」
ヴィーネ「本気で人の為を思って行動しない限り、天使学校首席なんてきっと取れない…と思う」
ヴィーネ「姿や態度が変わっても根底にある考え方が変わったわけじゃない」
ヴィーネ「私がガヴと一緒にいるのは、あの頃の優しさを今も変わらず感じるからよ」
ガヴリール「…やめろよ。恥ずかしいったらないな」
ガヴリール「この話はおしまい!もう出ようよ。なんだかのぼせてきた」
ヴィーネ「水風呂よ。ここは」
ガヴリール「う、うるせっ」
こいつ、わかってるくせに。
私たちは着替えて、髪を乾かして、またリビングで窓から見える空を眺めていた。
少し冷えた身体に扇風機が運ぶ生ぬるい風が当たると、妙に心地よかった。
今度はヴィーネが、私に寄りかかっていた。
ヴィーネ「お昼、何食べたい?」
ガヴリール「んー、そうめん」
ヴィーネ「わかった。もう少ししたら準備するね」
ガヴリール「手伝う」
ヴィーネ「ありがと」
示し合わせるような、間接的な意思の疎通。私たちは何も気づいていないふりをするし、もしかしたら本当に何も気づいてはいないのかもしれない。半無重力な私たちは、正解を遠ざける。
それは愚かな事であると共に、幸せであるのだろう。
ヴィーネ「ガヴ」
ガヴリール「なに?」
ヴィーネ「さっきの、後片付けしてくれてありがと」
ガヴリール「…うん」
ヴィーネ「ガヴ」
ガヴリール「なに」
「……」
この静かで小さな夏の空間で、私にしか聴き取れないぐらい小さな声でヴィーネは囁いた。
太陽の光は強さを増し、大きな大きな入道雲が青い空に浮かんでいる。
蝉の音が、聴こえた気がした。
以上となります。
お互い分かってはいるけど、分からないふりをする。素直になりきれない心の動きを表してみました。
「素直になりきれないもの」がどういったもので、それがどこまで伝わるかはわかりませんが、掬い上げてくださると幸いです。
二人の関係性については、ご想像にお任せします。
お目汚し失礼致しました。
以前こういったものも書いておりました。
お時間ありましたら、是非。
ヴィーネ「ガヴリールの大切なものって…何?」
ヴィーネ「ガヴリールの大切なものって…何?」 - SSまとめ速報
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ヴィーネ「あそこにいるのは…ラフィとガヴ?
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