悪魔とは敗北した神のことだ (14)
天上
神「うーん,困った困った.どうしたらよいものか」ウロウロ
天使A「神が下界の人気調査されて以来,あれで三日間お悩みになっています」
天使B「渋面閉口」
天使C「慈悲深きお方であるので,無力な我々を心配させまいとしているのです.」
熾天使「そこで貴様の出番だ,悪魔の中で最も苛烈かつ凄惨で,かつそこそこの力を持つ貴様なら,神も遠慮忌憚なくその苦しみを分け与えよう」
悪魔「序列第1位の熾天使様の仰せのままにー」
熾天使「…くれぐれも神を唆すことのないようにな.神は全知全能だ,いかに暗く深い深淵をさまよっておられようと,貴様の薄汚れた思考はお見通しだぞ」
悪魔「めっそうもございません.ウチみたいな下賤の者が天使一同を差し置いて,神と謁見するなど身に余る光栄ですわ.熾天使様の名を穢すような真似は決してしませんとも.ええ,ええ,それでは,行ってまいりますぅ」ソソクサ
天使B「平身低頭」
天使A「…よかったのですか」
熾天使「いかな悪魔といえど,我らの目のある天上で,おかしな真似はすまい.
それでも,彼女を滅ぼすことができるわたしが注意しておこう.
さて天使A,君は休まなければならない.聞いた話ではもう三日間も祈っているそうじゃないか」
天使A「とんでもありません.神と苦難を共にするのです!」
天使B「心中未遂」
天使C「めったなことを言うものではありませんよ.天使B」
熾天使(この子たちの半分でもいいから,神を信ずる気持ちが悪魔にあればよいのだが)
熾天使は静かに,神と悪魔がいる方向へ意識を集中させた.
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悪魔は普段,狼の姿をしている.それも神の象徴である太陽を食らうべく追いかけ続ける魔狼を模したものである.太陽に焼かれつづけたその魔狼は,影のように模様を失い,輪郭だけが残っていて,その不気味さときたらトロールですら棍棒を置いて逃げ出すほどだ.
その悪魔が,太陽を飲み込めるだけの口を開けて神の背後に現れた.
それに気づいた神は,にこりと微笑んだ.
神「おや,こんなところに可愛らしい狼がおるの.気づかんだわ」
悪魔「久しぶりやな,強姦魔.ウチの国を滅ぼして,守護神だったウチを悪魔にして地獄に落としたとき以来や」
神「そんなことも,やっていたか…,だから儂の信用もこんな落ちていr」
悪魔「それでもあのイケメン熾天使様のおかげで,せっかく数世紀ぶりに天上に来れたんや.この機会は生かさせてもらうで!覚悟せぇよ,粉々にかみ砕いたる」
神「残念じゃが,ぬしが儂に近づくよりも,熾天使の雷撃の方がはやいの」
悪魔「それがなんぼのもんじゃい,強姦魔!」
悪魔は声にならない悲鳴をあげて,口をさらに開けて,神へと瞬間的に迫る.
同時に視界の端から,予想より遥かに強力な,熾天使の怒りの雷撃が悪魔を急襲した.
神は,哀れな悪魔が,恐怖を覚えるのが分かった.引かなければ,滅ぼされる.それでも悪魔は止まれない.さらに人気が下がることへの不安と,少しの同情が神を誑かした.
神「悪魔,人間界で,ちょっと暴れてきなさい.いい感じで悪役になったら,1vs1で戦ってやる」
神は悪魔の返事も待たず,雷撃ごと人間界へ悪魔を飛ばした.
悪魔「ぁあぁぁぁ、また・・・・やられしもた」
悪魔は自分を追い越していく雲を眺めながら、自身の力不足を嘆いた。
あの巨大な顎は雷撃によって食い破られ、散り散りになって霧散した。今ここにあるのは
大義名分を失ったちっぽけな悪魔だ。
悪魔「なんか,もう消えちゃいたい。今更,人間界へ行ってもどうにかなるわけないやろ。せいぜい、人間をその気にさせて、神に特攻させるぐらい」
その場で姿を崩し月も恥じらう可憐な少女へ変身する。
それから腰をいやらしく動かし、ウィンクを飛ばしてみる。
悪魔「あ ほ く さ」
悪魔「まーた、神にNTRれておしまいや」
悪魔「なにが『おお、神よ我々は悪魔に操られていました!』じゃ。
ウチからしてみれば、信じていた子供にけばいおばはんがくっついて、駆け落ちしたみたいなもん」
悪魔「今はそれを取り戻そうと頑張って、あえなく撃沈」
喉の奥を、くっくっくと鳴らす。
悪魔「ほんま、あほや」
悪魔「神とか熾天使とか子供とかもう知らん。ウチはこれから自由に生きていく」
悪魔「そして、行く先々でちょっと崇拝されて、奉られればええな」
コンビニ
男店員(たまげた)
男(まさか深夜のコンビニにケモ耳超絶美少女コスプレイヤーがやってきて、金を払わずいなりをもっさもっさ食べ始めるとは)
男(恨むぞ、神様。こういう手合いは超絶めんどくさいんだよ。自分を可愛いとしっているか、そう信じ込んでいるからな。その上で男なんてどうとでもなる
と思っている。さっさと通報するか、フェイスブックにあげよう)ピポパ
悪魔「うん?、なんや自分、えらい渋い顔やな」モグモグ
男(まず自分から話しかけにきたか。こいつ通報された歴アリ、だな)チッ
男「これ商品なんで、料金を払う前に食べたらだめなんですよ」
悪魔「それは、神の定めた法なん?それなら従う気はないで」
男「そうすか」
悪魔「うん」モグモグ
男「でも、これは神とか大層なものじゃなくて、社会のルールなんです」
男「従ってくれないと、皆が困るんです」
悪魔「皆って誰やねん」
男「僕と店長と、すこし先の未来にいる警察」
悪魔「すっくな」
男「こういうのは数の問題ではないんです」
悪魔「どういうもんだいやねんそれ」
男「いかに自分が相手に同情できるかという問題です。
例えば、店長は定年間際の生きる意味を失いかけているおじさんです。
いわゆる、できちゃった婚から数年で離婚した彼は息子の親権をとられてしまい、これまでの人生で数えるほどしか息子と会っていません。それでもつい最近までコンビニの鉄腕アルバイターとして働き続けたのは養育費を払うことで、息子の幸
せにつながると信じてきたからです」
悪魔「そ、それから?」
男「昨年の夏、その息子がバイク事故で亡くなりました。
その日、霊安室で泣き崩れている間が彼にとって人生で一番長く、息子と過ごした時間になりました。
それ以来、店長は生きた屍となっています。彼にとって、生きる意味は、コンビニの売り上げをどう伸ばすかのみ。
どうして売り上げを伸ばそうとしていたのか、彼は苦しみからそれを忘れてしまいました。」
悪魔「なんかもう、ほんとに。ウチって最低やった」
男「なら、お金を払ってください。今回はそれで、許して差し上げますから」
悪魔「…はい」チャリン
悪魔(堪忍な、店長はん。きっと神がそのむすこを転生の輪に入れたと思うし、今はきっと幸せや、安心して)
悪魔「さいなら」グスッ
男「ありがとうございましたー」
男「さて、店長に今日の売り上げを報告しなきゃ」
句読点直したから許して
小さな公園
悪魔「アレの話を聞いたら、なんや、すこしさみしい気持ちになったわ。ちょっとここで散歩でもして、気分転換しよ」トボトボ
無造作にちりばめられた遊具は、雨と粗製のせいでペンキが剥げ、赤茶色の病魔に侵されつつあった。
また小石が敷き詰めてあっただろう地面には、雑草が生い茂り。そこをコンサート代わりにした小さな音楽隊が、鈴を鳴らしている。
悪魔「この雰囲気が…べつにきらいってわけじゃない。むしろ好きなくらい」
音楽隊の演奏をよく聞こうと悪魔が忍び足で近づいた。しかし、それはぱったり止んでしまう。彼らは草むらの陰で、闖入者の一挙手一投足を注視していた。
悪魔「ウチがおると、演奏もできひんってか」
悪魔は軽く拗ねた様子で、足元の小石を蹴とばした。
悪魔「そんな心の狭い奴等、こっちだって願い下げや。さいならっ!」
悪魔は何度か振り返りながら、その場を立ち去った。
コンビニ
悪魔「…」
男「いらっしゃいませー」
悪魔「おう」スタスタ
男(一直線にトイレへ向かう、お客様の屑)
ジャー
悪魔「ふう」
男「…」
悪魔「…」
悪魔「さて、こーひーでも買ってゆっくりするか」チラッ
男(あれから、少しは学んだようだ)
男(だが、けじめはつけなければ)
男「あのお客様、さきほどご来店された際代金をお支払いになりましたよね」
悪魔「はい」
男「私も気づかなかったのですが、これは日本円ではありませんね」
悪魔「…他にお金なかったねん」
男(分かっていてやったなこの人)
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