【ミリマス】翼「枕もとに」 (45)


・ミリマスSS
・30レス程度で終わります

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M子
久しぶり! 翼すごいね!アイドルでデビューなんて!


わたしのスマホに唐突に入ってきたLINE。
一瞬誰だか分からなかった。


最近はアイドル稼業も板についてきて、
プロデューサーには褒められることも多くなってきた。
よく「調子に乗ってる」なんて言われ方もするけれど、
今、新人アイドルの中でももっとも勢いのあるのがわたし。


小学校からの知り合いだった男子からは
いきなりLINEがきたりなんてことは最近は段々減ってきていたのに、
(どれもこれも結局は付き合ってーとかばかりで、さすがに飽きちゃった)
でも女子のお友達からLINEが来るということは中々ない。


今の女の子はわたしみたいな同性のアイドルにはあまり興味はなくて
結局はどこの誰と付き合って好きでって恋愛がしたいみたいで、
その男子たちの注目の的になっているわたしは女子みんなの敵ってこと。


だからわたしは結局疎まれる存在で学校では友達は少ない。
いることにはいるけど。それも結局狭く浅い関係。

事務所にいる時の方がわたしはすごく好き。




でも……このM子という女の子。
小学生の時、確かに公立の小学校から私立の中学へ行ってしまった
この名前の子なら確かに1人だけいたけど。ここは一応……。


「ごめん、名字なんだっけ?」



こういう時にやっとプロデューサーから教わった”知らない連絡先から来た時は疑え”と
教えてもらったのが役にたつ!
(教えてもらった時はわたしにそんな連絡が来るわけないしーと思って適当に聞いてたけど)



「――だよ。忘れちゃった?」


わたしはその名前を聞いてやっとその子で正解だったと確信した。
ああ、良かった。記憶の中にいるあの子であってた。


いきなりの連絡でびっくりしたけれど、
急にどうしたんだろう。たまたまわたしの名前を見つけたとか?
でもいいや。

私もなんだか懐かしくて嬉しいし。


「ごめんごめん。疑うようなことして」

「いいよいいよ。こっちこそいきなりごめんね」


「なんか懐かしいね!」

「そうなの!私も懐かしくて送っちゃった!返事が返って来てよかった~!」

「え~~!返すよー!」

「私の家の近くの公園でよくブランコとかしたの覚えてる?」

「覚えてる!!よくその近くにある自販機でジュース飲んだりしたよね!」

「したした!」



思い出の話が尽きない。
たった2年くらい離れただけなのに。


「なんかさータイムカプセルとか言ってカプセルとか埋めなかった?」

「あー覚えてる!掘り出した?」

「場所忘れちゃった!今度掘りに行こうよー」


そんな他愛のない話を続けて、
寝て起きて、返事を返す。


2年会わないうちにわたしとM子の間では色々なことが起きてて
わたしは勿論アイドルになって色んなことが変わったし、
変化も大きかった。

でもM子も結構色々あったみたいで悩み事、というか
少し愚痴っぽいことも段々増えてきた。

でもわたしはそれでも
懐かしいM子との再会が嬉しく思えた。


M子とのやりとりが
日常の一部になろうとした時。


「あれ? 翼??」


今度は町で声をかけられた。




もう夕方になる頃であたりも暗くなってきてる。
でもその子のことはすぐに思い出した。

いや、というよりはM子との最近のやり取りの中で
わたしの中にある小学校頃の記憶が蘇っているせいで
思い出しやすかっただけ。



「Y美ちゃん!? 久しぶり~!」

「覚えててくれたんだぁ!嬉しい~」



この子は今連絡のやり取りをしているM子と同じく私立の中学校へ行ってしまった女の子。

この子とはM子ほど仲良く遊んだりという記憶はあまりないが、
学校ではよく話をしたり、体験学習のグループが一緒になったりと
色々あった子でわたしもこの子のことがすごく好きだったのを覚えてる。



久しぶりの再会に人目を気にしないで
黄色い声を出す2人。


「久しぶり~!超偶然だったね!」

「ほんと久しぶり!今なんかアイドルとかやってるんだよね?」


わたしたちはさすがに街角ででかでかとわたしのアイドルのことを
話すわけにもいかなかったので、
近くのファストフード店に移動した。


「わたしがアイドルやってたって知ってるのー!?聞いたことある?」

「あるよー!お金なくて中々CD買えないんだけど、
 でもお金貯めて今度買ってみるよ!」



平日の夜だというのに駅前のファストフード店は
混雑していて、結局こっちに移動してきても大きな声を出せない2人は
2人席に向かい合って座り、顔を近づけてヒソヒソ声で話す。

「ありがとー!」

懐かしい小学校の思い出の女の子たちがなんだか
最近になってまた会えるなんて嬉しい。



わたしとY美はしばらくお互いの近況報告をしあう。
恋バナはやっぱり盛り上がる。

Y美の色々を聞いて
何か今後の自分の活動にも役に立てられればいいなかな。



「えー!じゃあその彼氏とは別れちゃったの!?」

「だってしょうがないよ~。ねえ、翼には彼氏いるの!?」

「むりむり!作っちゃ駄目なの!わたしすぐ顔に出るから」


ひとしきり盛り上がったわたし達は
Y美の元に入ったY美の親からの心配のLINEをきっかけに
解散することになった。

その時になってようやく思い出したので
わたしはM子のことも話してみた。


「最近、M子からも連絡来てLINEやってるんだよー!」



しかし、Y美の反応はわたしの予想のそれとは大きく異なっているものだった。


「……え?」


今の今までずっと笑顔で楽しく話していたY美の顔から
M子の名前が出た途端に一瞬にして笑顔が消えた。

わたしの話すテンションとY美のテンションは全く違う。


「M子だよ。覚えてない?工場見学とか一緒に回ったじゃん」

「覚えてるよ。そうじゃないの」


Y美はわたしのことを何か異様なものを見る目で、
人を見る目ではないような、そんな風にわたしの顔を見る。


「翼、まさか今連絡取ってるの?」

「そうだよ?」



「ねえ、もし良かったらでいいんだけど、
 どんなやり取りしてるか見せてもらってもいい……?」

「え?なんで……? いいけど……。はい」


わたしは言われた通りにY美にM子とのLINEでのやり取りの
一部始終を見せようとスマホをその画面にしてから渡す。


「冗談じゃ……ないみたいね。
 ねえ、今、これ連絡取ってもらっても良い……?」


どうしてそんな風な聞き方をするの?
どうして、そんなM子が今連絡を取ってはいけない人みたいな
あるいは連絡を取れない理由があるみたいな言い方をするの。


Y美はさらに続ける。
わたしの予想した言葉を口にする。







「……M子、1年も前に自殺してるの」

「…………」



M子に対して「今大丈夫?」と送るが、
返事の早かったM子は
この日ばかりは返事をすぐに返してこなかった。



「ごめん、私、M子とは同じ私立の中学に行ったんだけど……
 あの子、いじめにあってて……私怖くて止められなかったんだけど
 それであの子ずっといじめられてて……それで」

 

待ってよ。

じゃあわたしがLINEしてたあの子は誰なの?
生きてないなら今、誰がわたしと連絡を取っているの。






わたしは急いでM子に何度もメッセージを送る。


「M子、今起きてる?」

「寝てたらごめん、なんだけどすぐに返事欲しいの」

「なんでもいいから返事して」

「お願い」



返事は来なかった。
やむなくわたしはその事実を教えてもらったY美とは
そこで別れて家に帰ることにした。



わたしは家に帰ってもスマホを片時も手放さずに
ずっと返事を待っていた。
トイレに行く時もお風呂のときも防水ケースに入れて。


それでも返事は来なかったのに。
夜の12時を回った頃。
私のスマホはピカッと光る。


返事がきた。




それは何かの動画だった。


サムネイルは真っ黒で何かわからない。
どういう意図なのかも分からない。

なに?
なんで動画なの?
これはなんの動画なの?




「……は、はは。そういうこと……」


こういうのドッキリ的な動画なんだと思う。
だいたいY美の言っていることだって嘘かホントか分からないのに。
きっとこの動画だって真っ暗な画面見続けたら
怖い顔の人?みたいなのが出てきておどかしてくるんでしょう。

それならそれでいいよ。
覚悟して見るから。
でもさすがにスマホに呪いのビデオみたいなの対応してたら
結構怖いのかも。

スマホで貞子出てきたら小さいサイズなのかな……。
いやそんなことは今はどうでもよくて。



動画を再生する。


「なんなんだろうこれ……」

動画の中身は真っ暗な部屋?の中で何かがもごもごと動いている動画。
何かは暗くて分からないけれど、たぶん人……。
M子なのかもしれない。



「これなに?奥にうつってるのはM子?」



すると今度はすぐに返事はきたが……

また別の動画がきた。
わたしはそれを開く。



今度は音もついてる。


ザーという雑音にまぎれて「うぅ……」とか
「あぁ……」とかうめき声が聞こえる。
それも近い音で。でも暗くてやっぱり良く分からない。


これを撮影してるのがM子? どういうこと?
奥に映ってるのがM子じゃないの?



「あなたは誰なの? M子は自殺したってY美に今日会って聞いたよ?」


また、動画が送られてくる。
真っ暗の部屋でまた、何かが動いている。


「誰!? 死んじゃったM子の振りなんてしないで!」




そう送ると今度もまた動画が送られてきた。


今度の動画はわけが違った。



真っ暗の部屋?部屋を動いている。


そこを段々と歩いて?
進んでいる……。


怖い……のにスマホ持つ手が震えるのに。
見るのをやめることができない。

なんなの? 
あのもごもご動いてるのは何?



段々とカメラが近づくに連れ、
その部屋の暗さに慣れるに連れて、
それが何か分かってくる。


段々近づいていく。


真っ暗の部屋で動いているのは……




わたしだった。




「……ッッッ!?」


それは……わたしの部屋だった。
確かにわたしは部屋を真っ暗にして寝る習慣があるが、
まさか真っ暗で黒い画面にしか映っていなかったのに。


でもそれは寝ている私だった。
苦しそうにもがいているわたし。



どうして!? いつのまに?カメラなんてなかったのに。
部屋中を探し回る。
だけど、カメラなんて、それらしきものなんて見つからない。

映像の角度から位置を何となく割り出しているけれど、でも全然そんなカメラがない。


誰かがわたしの寝ているところを立って撮影している……。



そうやってカメラを探しているうちに
もう一通の動画がくる。


それも同じくわたしを暗闇で撮影しているもので、
恐怖しか感じられないが、その動画もまた違った。

その動画はわたしの寝ている上空で
頭から足先までゆらゆら、ゆらゆらと
何度も映している。



それをどういうことなのか分からなかったが、
M子とのことをすぐに思い出した。



「……ブランコ?」



もう夜遅くになっていたが、
私はすぐに家を飛び出してブランコのある
M子と遊んだ公園に向かった。


途中、M子が住んでいた家も通ったが
そこにはもう人が住んでいる気配はなかった。


わたしはそれを通り過ぎて公園にむかった。
ブランコは今もちゃんとあって……
そこに向かう。




ブランコの周辺の花壇を掘り起こす。
場所は未だに覚えてる。
昔埋めたというM子と話していた……約束のタイムカプセル。


それはまだ健在で、
中身を開ける。


かつて、M子とわたしが入れたものはなく、
そこにはM子の遺言のようなものが入っていた。

自殺するまでに到った経緯が簡単に描かれていた。
その遺書のようなものを読んで分かったことは一つだけあった。




「いじめの主犯格はY美」


今夜わたしは……掘り起こすのに使ったスコップを持って……。




おしまい



お疲れ様です。
今夜は電気消して寝ない方がいいですよ。

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