勇者「今回も救えなかった」(20)

勇者「ほな150回目のやり直しや!」

勇者はなんでもできるし
絶対に助けてくれる。

幼い頃から何度も読んだおとぎ話のその人物に不可能は無い。

だから勇者である彼は
『それ』をやり遂げるまで
死ねないし止まれない。

?「だからね」

?「やり直し、してね」

・ ・ ・ ・ ・

勇者「…」

始まりは、いつもここからだ。
自宅のくみ取り式便所から。
変更はできないらしい。悪意しか感じられない。
まぁ奴は悪意に足が生えて歩いているようなものだからな。
今更文句を言うつもりも…

プゥ~ン

勇者「…やれやれ」

ガシッ

勇者「よっこいしょういち」

勇者「まずはシャワーを浴びるか」

テクテク ガチャリ

勇者「シャワーシャワー、と」

キュキュッ シーン…

勇者「ん?」

キュキュッ シーン…

勇者「あっ…そういえば水道代…くそっ」

勇者「まぁいいか…クソまみれで死ぬわけでも無し」

勇者「とかいう独り言は、もう何回目だろう…確か100回目のやり直しからだったか…」

勇者「覚えていく事と忘れていく事が増えていくな…やり直しやり直しやり直し…経験の蓄積…慣れ…諦め…その中に生まれる僅かな希望…」

勇者「絶望に満たされない限り…ひとかけらの可能性がある限り…俺は止まれない…」

勇者「やれやれ、とんでもない約束をしちまったもんだな、俺も」

勇者「まぁ愚痴をグチグチ言っても仕方ない、か」

ヌギッ

勇者「まずは全裸になる所から」

グッ

勇者「屈伸、屈伸」

ブルン ペタン
ブルン ペタン

勇者「シャドーボクシング、シュッシュッ!」

ブルン ペタン
ブルン ペタン

勇者「カミキリムシのポーズ!」

シャーッ ガキン ガキン

勇者「カミキリムシの…ポォォォズ!」

ガキン グボラッシャァァァ!
プゥー

勇者「んおっ、力みすぎて屁が出た」

プゥン…

勇者「ぐっ、自分の屁の臭さで…俺の意識が…」

勇者「ぐふっ…」

勇者「意識を失ったら…屁の毒で死ぬかもしれない…駄目だ、今、意識を失う訳には!」

スッ

勇者「ボールペン…!」

勇者「ボールペンを太ももに刺し、意識を保つしか!」

勇者「や、やるぞ…こうするしか…こうするしか…」

プルプル

勇者「やるぞ…俺はやる…やるぞ…」

勇者「…」

プルプル

勇者「こ、怖い…だがやるしか…だが怖い…だがしかし!」

・ ・ ・ ・ ・

こうして刺す刺さないの葛藤で
20時間が経過した…

・ ・ ・ ・ ・

ハァハァ

勇者「くぅっ、刺せない…怖いし…でも刺さねば…」

ポロポロ

勇者「ふぐぅっ…決断できない…いつもそうだ…重要な場面で躊躇し、どんどん取り返しのつかない事態になっていく…俺は…俺は何をやってんだよ…」

ブゥン…

勇者「え…これは…」

勇者「異次元の扉…が…」

ブゥン ニュッ

?「やれやれ、まだ刺してないのか…まぁだから俺が来たんだがな」

勇者「異次元の扉から現れた…お前は…俺…!?」

?「そうさ、正確には今のお前からみて10時間前の俺さ」

勇者「なんだと?」

10時間前勇者「お前はさらに10時間、そうやって刺す刺さないで迷い続けるのさ。さすがにこのままでは体力が持たないし、時期的にも脱水症状になりかねない…」

勇者「ふむ」

10時間前勇者「だから時間魔法で俺は過去に来たのさ」

※10時間後の間違い

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