目には目を歯には歯を殺人には殺人を (25)
西暦20XX年8月――、凶悪犯罪の増加に伴いとある法案が可決された。『私人による刑罰執行許可法』通称復讐法と呼ばれている。
この法律により、全ての被害者は加害者に対し同等の罰を与えることが出来るようになった。
例えば、100万円分の被害を受けた場合、100万円分の支払いを加害者に命じることができるということだ。
しかし、加害者に支払い能力がない場合や、支払いたくない場合、加害者は臓器を売るか、強制的に借金を背負わされ、返済まで労働することになる。
しかし、100万円分支払えば罰を受けたことになり加害者は釈放される。
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また、この法では加害者が心神喪失者であろうと未成年であろうと障がい者であろうと関係なく適用される。
上記では同等的な罰を与えるとあるが、それはいかなる犯罪においても有効となる。
つまり、殺人を犯した者は被害者の遺族によって殺害することになるというわけだ。
この法案が可決されてから、もうすぐ半年経つ。
この間にいくつか殺人事件が発生したが、遺族による加害者への制裁は行われていない。
理由は大きく分けて二つある。
一つ目は、万が一冤罪だった場合取り返しがつかないという事である。科学の発展により警察の捜査能力は飛躍的に成長を遂げたが、未だ冤罪というのは発生することはある。
もしも、この人が犯人でなかったら……という思いは人を踏み留まらされてしまうようだ。
そして、もう一つは人の命を奪う事が怖いからだ。
いくら大切な人を殺した人間だと分かっていてもいざやるとなると人は躊躇するものだ。
そういった理由で刑の執行が不可能だとなった場合は、通常の刑罰にのっとり刑が執行されるシステムになっている。
さて、あなたはもし大切な人が殺されたとき、この法を使って加害者に罰を与えますか?
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閉じられたブラインドから、外を覗くと沢山の人間の怒号のようなものが聞こえてくる。
この復讐法が可決され、この建物が建造されてから、いつものようにこの建物の前には、復讐法に反対する人たちがデモ行為を行っているからだ。
「今日はいつもより多いですねぇ」
最早いつもの光景なのですっかり慣れてしまった。お茶を飲みながら私たちはある人の到着を待っていた。
「そりゃあ、加害者があれだしねえ」
外から聞こえる声がより一層大きくなる。どうもその人を乗せた車が到着したらしい。なので外まで出迎えに行くことにした。
外の天気は鉛色のように重く、真昼だというのに暗く、雷雨にでもなりそうだ。
「こんにちは」
車から降りてきたのは、中田中田靖28歳、どこにでもいそうな普通のサラリーマンだ。ただその表情はとても重く沈んでいる。
「それでは中に御案内します」
形式的な挨拶を交わしてから、中田靖にこの建物の事を軽く説明しながら建物へと招き入れる。
ここは復讐法のために建てられた建物だ。
復讐法の可決により、被害者及び、遺族には裁判所から通知が届くようになっており、復讐法を使うか使わないかの選択を迫られる。
それを行うと選択し、かつ凶悪な犯罪を起こした犯罪者がここに収容されるようになっている。
「そこに座って下さい」
この部屋では、刑の執行を行う前にここでもう一度この復讐法について、改めてより深く説明し、サインをさせる。
「紅茶とコーヒーどちらになさいますか?」
「コーヒーをお願いします……」
コーヒーを用意するついでに、資料を用意する。
一つは復讐法について書かれたものと、中田靖に合わせて作成された復讐実行手順書だ。
復讐手順書と言っても、加害者が犯行を行った時の犯行条件を再現し、真の意味で同等的な罰を与えるために作られたものではあるが、全く同じように殺すというのは難しいため、殺すタイミングや殺し方はある程度の自由が与えられている。
今回の復讐対象は鈴木大地。鈴木大地は、中田靖の息子である中田博を無理矢理自宅に連れ込み金属バットで顔が誰か分からなくなるほど殴打し、その時はまだかすかに息があったが、死亡したと勘違いした鈴木大地は中田博を友達三人で川まで運び、最終的に溺死させた。
「鈴木大地の犯行条件を満たすために、金属バットは部屋内に準備しています。
また、鈴木大地は拘束状態にあるので、抵抗されたり、逆に襲われたりする心配はないので、安心してください。
それと、最後の仕上げを行う時は、小さいですがユニットバスの方に水を溜めておきましたので溺死させる場合は、そちらをお使いください。というわけで、説明は以上になりますが質問はございますか?」
「いいえ、ありません」
中田靖はそうは言ったものの、まだ迷っているように感じ取れた。
それもそのはずだ、今から息子を殺した人間を殺すのだ。誰だって、動揺するし迷う筈だ。
現にここまで来た人は何人もいるが、最終的に誰かを殺した人は誰もいない。
「大丈夫ですか? もし、無理そうなら別の日にすることも可能ですが」
「大丈夫です……」
「そうですか。では、こちらにサインをお願いします」
最終同意書と書かれた書類を中田靖に渡す。
最終同意書を書いても、必ず加害者を殺さなければいけないというわけではないが、これにサインをすれば、この同意書を取り消すまでは、いつでも加害者を殺すことが許されている。
「分かりました」
中田靖はゆっくりと一文字ずつ書いていく、これで中田靖は鈴木大地を殺すことができる。
「ありがとうございます。もう刑を執行されますか?」
「いえ……、その前に大地君とお話をしてもいいですか?」
「どうするのかは、貴方の自由ですから構いませんよ。それでは、中村大地の所までご案内いたします」
中田靖を、中村大地の居る部屋まで導いて、部屋に入れた。
中村大地は中田靖の姿を見るやいなや、叫び声をあげた。中田靖がここに来たと言う事は自分がどうなるか知っているからだ。
「殺すつもりはなかったんです!! 本当です! だから殺さないで……」
中村大地は涙を流しながら懇願するが、中田靖の顔色は全く変わらない。中田靖はゆっくり歩いて中村大地の前に座りこんだ。
しかし、中村大地も動じずに懇願し続ける。
そうすれば自分が殺されないと分かっているからだ。
人を殺すというのがどういう事か実感させるために、そして、まだ自分が11歳の少年であるという事を理解させるために。
ここに連れてこられた犯罪者の大半がそうだった。床が開き落下するボタンを押す刑務官とは違い、直接的に手を加えなければならないのだ。
精神的な重圧は比べ物にならないはずだ。
「今日は殺しに来たんじゃなくて話しに来たんだ」
「話……?」
「そうだ。その後君をどうするか決める」
中田靖は右手に金属バットを握った。中村大地の表情が強張る。
あまりうまくない文章ですいません……。今日はここまでにします。続きが書けたらまた来ます。
それでは、また
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