工藤新一vs杉下右京 (146)
タイトル通り名探偵コナンと相棒のクロスssです。
けど中身はコナンの未来ifなssにもなります。
コナン側は黒の組織を倒してから10年後のお話です。
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俺の名は高校生探偵工藤新一。
幼なじみで同級生の毛利蘭と遊園地に遊びに行って、
黒ずくめの男の怪しげな取り引き現場を目撃した。
取り引きを見るのに夢中になっていた俺は、
背後から近付いて来るもう一人の仲間に気付かなかった。
俺はその男に毒薬を飲まされ、目が覚めたら体が縮んでしまっていた。
………というのがもう10年前の話だ。
俺は阿笠博士の助言で江戸川コナンと名乗り黒ずくめの男たちの組織を追い続けた。
当初は俺一人だけの孤独な戦いだった。
だがそんな戦いに灰原哀、服部平次、それにFBIや公安と頼りになる仲間が加わった。
そして彼らの協力により俺は宿敵であった黒の組織を壊滅することに成功。
これはそれから10年後の物語…
「工藤先生!おめでとうございます!」
ここは杯戸シティホテルにある大広間。
今日はこの一室を借り切って
俺の親父である推理小説家工藤優作の記念パーティーが執り行なわれていた。
世界屈指の推理小説家である親父のパーティーは盛大に行われ
来客者たちはそんな親父に惜しみない賛辞を送っている。
それからパーティーは順調に終わりこれより親しい人間だけで行われる二次会に入った。
「いやー!優作くん!今日は呼んでくれたどうもありがとうな!」
「いやいや、目暮警部には息子が日頃お世話になっていますからね。」
「ハハハ、むしろお世話になっているのは僕たちの方なんですけどね。」
「渉くん。それは言っちゃいけないお約束でしょ。」
「そうそう。新ちゃんは未だに日本警察の救世主だものね。」
俺の両親と上機嫌で語りかけているのがご存知目暮警部とそれに高木刑事と佐藤…いや…
数年前に二人はようやくゴールインして佐藤さんは高木美和子さんになった。
現在では6歳になるお子さんもいて夫婦円満とのことだ。
「そうじゃのう。
優作くんも今では世界屈指の推理小説家じゃからな。駆け出しだった頃が懐かしいわい。」
「工藤のおじさまにおばさま。今日はお招きくださってありがとうございます。」
それに隣に住む阿笠博士に鈴木財閥のご令嬢の鈴木園子も駆けつけてくれた。
阿笠博士は相変わらずヘンテコな発明品の開発に勤しんでいるらしい。
園子は京極さんと結婚。
京極さんは鈴木財閥に婿養子で入ったが根っからの格闘家の性分なのか
武者修行に明け暮れているらしい。
それでもお腹に彼の子を抱えていてもうじき出産間近とのことだ。
未来の鈴木財閥後継者の誕生も近いな。
「あの推理小説家の工藤先生のパーティーにお呼ばれされるなんて最高ですね!」
「そうだね。歩美たちクラスで自慢できるよ!」
「うな重うめえしな!」
それにかつて俺がコナンを名乗っていた頃の同級生の元太、光彦、歩美の三人。
昔の少年探偵団だった面子も招待されていた。
それにしてもあれから10年。
あのわんぱくだったこいつらも今じゃ高校生か。
こいつらと探偵団やっていたあの頃が今でも懐かしく思えるな。
そういえば別れの時なんて本当に悪い思いをさせてしまった。
子供たちにコナンの正体をバラすわけにはいかないから
俺(コナン)と灰原は海外にいる両親の元へ旅立つことで転校ということになった。
その別れの際は三人が大泣きで俺たちのことを見送ってくれた。(実際は旅立ってないけど)
当時は無鉄砲なところがあるヤンチャな探偵団だがそれでも掛け替えのない友達だった。
コナンとの冒険の日々はこいつらにとっていい思い出なんだろうなぁ。
「よぉ工藤!元気にしとったか?」
「工藤くん。久しぶりやな!」
「服部、それに和葉さんまで来てくれたのか。」
探偵団の連中を眺めながら黄昏ていた俺に元気よく挨拶してくれたのは
10年前は俺と同じく西の高校生名探偵と称されていた服部平次。
それと遠山…いや…今は服部と結婚した服部和葉さんだ。
「あれ?お前ら子供はどうしたんだ?」
「ああ、オヤジのとこに預けとるんや。」
「お義父さんメッチャあの子のこと可愛がってくれるんよ。」
服部の親父さんである服部平蔵さんは長年の功績が認められて
警察庁の長官へと出世を果たした。事実上警察のトップってわけだ。
それで東京へ赴任とのことになり現在はこっちに住居を構えているそうだ。
「まあこれで目の上のタンコブはいなくなって清々したわ。
これからは俺たち若手の時代や!バンバン活躍したるさかいな!」
「平次は大阪府警の期待の星やもんね。」
ちなみに服部だが探偵の道を選ばず警察官になった。
チラッとだけ聞いたがどうにもオヤジさんの影響があったらしい。
現在は大阪府警の捜査一課に在籍していて本人曰く期待の星だとか…
それから和葉さんはうちの母さんに呼ばれて女同士で集まりなにやら世間話を始めていた。
俺はというと
先ほどから金魚のフンのごとく付きまとってくる服部と一緒に
会場で用意されている酒を嗜んでいるわけだが…
「コラ、誰が金魚のフンや!」
「あれ?声に出てたか?それにしても俺たちもお互い大人になったもんだな。」
「せやな。初めてお前と出会った時はこんなちっこいガキやったからな。」
「うっせ。あれは例の毒薬のせいだろ…」
酒が入ったせいかお互い軽口で叩き合っていた。
組織が壊滅したおかげでコナンであったことなんて俺たちにとってはいい話のタネだ。
まあそれでもAPTX4869については今でも秘密事項になっている。
さすがに人が小さくなるクスリの存在を世間に知られたら一大騒動だからな。
それにあのクスリを作ったのはあいつだ。
こんなことが世間に知られたらあいつは確実に糾弾される。
だからAPTXの秘密はなんとしても隠さなければならない。
何故なら俺は…灰原を…いや…宮野志保を選んだからだ…
「お前もあのちっこい姉ちゃん嫁にもろたからな。俺たちはもう所帯持ちや。」
「急に改まってなんだよ?要件があるなら早く言えばいいだろ。」
「………わかった。
そんなら言わせてもらうがお前あれからあの姉ちゃんと会うたか?」
酒の入った談笑中、服部は急に真面目モードに入りながらそう語りかけた。
あの姉ちゃん…つまり…俺の幼馴染である毛利蘭のことだ。
今から10年前のこと、組織を壊滅した直後に俺は解毒剤を得て元の身体を取り戻した。
だが…それなのに…
恐らく組織との闘いの日々による影響だろう。
俺の心はいつの間にか蘭から離れてしまった…
そのせいなのだろうか…俺は蘭ではなく…灰原…いや…志保を選んだ。
別に妥協とかそんな理由で選んだわけじゃない。
志保は組織との戦いで常に俺を支えてくれていた。
コナンの秘密を抱えた俺はいつしか志保に寄り添うようになり…
その結果、俺は志保と結ばれた。
だがそのことを知った蘭のショックは大きかった。
一時は目暮警部たちも巻き込んでの騒動になるなど警察沙汰になるほどだった。
それから3年後、蘭は俺たちの前から忽然と姿を消した。
その消息は現在も明らかになっていない。
「蘭とは7年前から全然音沙汰がない。今どこで何をしてるのかなんてわからねえよ。」
「そか…それならええ…もし連絡があっても絶対会うな。
ええか工藤。お前はあのちっこい姉ちゃんを選んだんや。
これからはあのちっこい姉ちゃんのことだけ考えとき。」
蘭のことは忘れろ。それが服部からの助言だった。
確かに服部の言う通りだ。
俺が選んだ相手は…志保だ…
志保を守ることが俺の選んだ道だ。
俺と蘭の道は違えてしまったがそのことを今更後悔するつもりはない。
俺は志保を愛している。それだけが真実だ。
「お互いやんちゃが出来るのは若い頃までや。今はもうちゃうやろ。」
「お前の口からそんなこと言うなんてな。それおっさんになった証拠だぞ。」
「アホ抜かせ。
まあ刑事になって探偵やってた頃とはちがう視点を持てたからな。
それが影響しとるんやろな。」
刑事という道を選んだ影響なのか服部はなにやら昔のことに関して思う所があるようだ。
俺は特にそんな感傷に浸るようなことはない。
組織との闘いでそれどころじゃなかったからな。
「新一くん。久しぶりね。」
そんな俺たちのもとへ一人の女性が声をかけてきた。
この人は…懐かしいな…
蘭の母親にして俺の母さんの親友でもある弁護士の妃英理さんだ。
そんな妃さんが来てくれたことを察したのか
これまで他の女性たちと談笑中だった母さんがこっちへ駆け寄ってきてくれた。
「英理、来てくれたのね。嬉しいわ。」
「親友が招待してくれたのだから来ないと失礼でしょ。」
「フフ、そうよね。歓迎するわ。ようこそ英理。」
俺たち子供が疎遠になったというのに母さんたちは相変わらず仲がいい。
まあ子供の恋愛事情なんざさすがに大人が口を挟むようなことじゃないからな。
「それにしてもあの人まで来るとはね。」
妃のおばさんが呟いた先にはこの部屋の隅で酒を大量に飲み干している男がいた。
オールバックの髪型あのにちょび髭がトレンドマークのおっさん。
それはおばさんの夫にして…
俺がコナンだった頃の居候先の毛利探偵事務所の主である男だ。
「うぃ~ひっく…」
毛利小五郎。かつて俺がコナンだった頃、この人の名前を借りて事件を暴いていた。
そのおかげで毛利のおっちゃんは
眠りの小五郎として日本一の名探偵と評されるようになった。
だがそれも俺がコナンとして居候をしていた束の間だけのこと…
その後は…もうわかりきっていることだろうが元のヘボ探偵に逆戻り。
当然推理の冴えなどあるはずもないので依頼は激減。
それでも持ち前の明るさからたまにバラエティ番組に呼ばれたり
事務所ビルの下の階にあるポアロのテナント料で収入を賄っているとのことだ。
「よぅ英理。お前も呼ばれたのか~?」
「あなた…また酔っ払っているのね…何で来てるのよ?」
「へっ、俺だって好きで来てるわけじゃねえ。ただ…蘭が来るのかと思ってな…」
蘭のことを聞かれて俺は咄嗟におっちゃんから顔を逸らした。
7年前の蘭失踪直後からおっちゃんは這々手を尽くして探し回っていた。
それこそ当時は蘭をフッた俺に土下座をするほどに…
だがそんなおっちゃんの努力を嘲笑うかのように蘭は失踪したままだ。
せめて家族にくらいは居場所を伝えてもいいだろうによ。
蘭、お前はどこで何してんだよ?
「さあ、新ちゃん。そろそろ準備いいわよね。」
そんなおっちゃんのことはとりあえず放っておくとして
俺は母さんに呼ばれてこのパーティー会場の壇上へと上がった。
その様子に会場にいる誰もが何が起きるのか興味津々だ。
まあサプライズというべきなのだろうか
実はこの場にいる関係者だけにあることを告げる予定なんだ。
「この場にいるお集まりのみなさんにお知らせがありま~す!
なんと私たちの息子にして名探偵でもある新一に近々子供が生まれま~す~♪」
母さんの発言に会場のみんなが歓声を上げた。
実はこれこそが今回のパーティーにおける目的だった。
俺にとっての初の子供。つまり両親にとっても初孫に当たる。
だから大々的に発表したかったわけだ。
そんな母さんの目論見通りなのかこの場にいる誰もが祝福の言葉を贈り
女性陣に至っては挙って母さんの前に駆け寄って新たな命への興味津津だ。
我が親ながらバカ親っぷりは凄まじいと思われるだろうが…
まあこれも初めての孫ってことで大目に見てほしい。
「それではここで夫の優作さんにコメントを…あら?優作?」
あれ?そういえば…父さんがいないな…?
このパーティーの主催者のくせして何で壇上にいないんだ?
俺と母さんは壇上から父さんが何処にいるのかと隈なく探した。
すると何処からともなく父さんの声が聞こえてきた。
「ほぅ、あなたはあの描写をそう解釈出来たわけですか!」
「ええ、工藤先生が執筆なさっている闇の男爵シリーズは全巻読破しています。
連載初期からずっとファンでした。特にお気に入りなのは3巻の…」
「あのエピソードを選ぶとは…
あなたも中々の通ですな。あれはファンの間ではどうにもウケが悪くて…」
「とんでもない。
確かにあのエピソードは異色と言われがちですが
僕は先生の新たな境地に達したものだと解釈しています。
事実あのエピソードの直後に闇の男爵シリーズは世界屈指の名作になれたのですから。」
ようやく見つけたと思ったら父さんは会場の隅っこで誰かと話していた。
このパーティー会場の客人の中で英国風のスーツを着込んだ中年の男。
どう見ても俺の顔見知りなんかじゃない。そんな男が父さんに何の用だ?
「あなた、こんな大事な時に何をしているのよ!」
「オォ、すまんな。この人がいきなり俺の小説について話しかけてきて意気投合したんだ。」
「申し訳ありません。目の前にあの工藤先生が居てはどうしても興奮が抑えきれなくて…」
どうやらこの人は父さんの熱烈的なファンのようだ。
まあそれならわからなくはないが…
しかしこの風貌だがどうにもホテルに泊まりに来た客にしては妙だ。
どこかの勤め人…いや…もしかしたらこの人は…警察の人間か…?
「ひょっとして…アンタ…杉下さんですか…?」
「え?目暮警部?杉下さんってあの…」
「特命係の杉下警部のことですか!?」
そんな疑問に答えるかのように目暮警部や高木刑事たちがこの人の素性を教えてくれた。
警視庁特命係。
俺も噂で聞いたことがあるが警視庁には陸の孤島と呼ばれる左遷部署が存在する。
その左遷部署に長年属しているのがこの杉下さんだということだが…
けどそんな人がどうしてこのパーティー会場に紛れ込んでいるんだ?
まさかとは思うけど仕事サボって来てるわけじゃないよな。
「右京さ~ん!置いてかないでくださいよ~!もう勝手なんですから…」
「申し訳ない。ですが冠城くん。ここへは僕一人で充分だと言ったはずですよ。」
「いいじゃないですか。
俺だってあの工藤先生をナマで拝めるとあれば行きたくもなりますよ!」
そこへもう一人、杉下さんの同僚で冠城という人まで現れた。
その冠城さんだがよく見ると一人の子供を連れていた。
それは後ろに隠れていてよく見えないが背格好からして6歳くらいの男の子。
まるで当時の江戸川コナンだった自分を思い出すな。
そんな少年だが父さんを見るなりいきなり興奮したかのように前に出てきた。
「わぁ~!工藤優作先生ですよね!ぼくファンなんだ~!」
その少年が前に出た瞬間、俺は思わず絶句した。
いや、俺だけじゃない。この会場にいる誰もが俺と同じ反応を示した。
何故かだって…?それは…
「コナン…」
「コナン…くんだ…」
「そうだ…こいつ…江戸川コナンだぜ!?」
探偵団の元太たちが思わずそう叫ぶようにその子供は紛れもなく当時の俺だった。
大人サイズのメガネを付けて襟首に蝶ネクタイを結び半ズボン姿…
まさに当時の江戸川コナンそのものだ。だがありえない。
江戸川コナンとは10年前にAPTX4869を飲まされて生まれたこの工藤新一の仮の姿。
つまり江戸川コナンはこの俺だ。それなのにどうして江戸川コナンが俺の目の前にいる?
それも警視庁の刑事を二人も引き連れているとはどういうことなんだ?
「失礼しました。まずは自己紹介させてください。
僕は警視庁特命係の杉下にそれと同僚の冠城くんです。
それとみなさんは誤解をなさっているようですがこの子は江戸川コナンではありません。」
そんな俺たちに訂正を促す杉下さん。
よかった。やはりこの子は江戸川コナンじゃなかったか。
まあここにその当人がいるわけだしこの子がコナンじゃないのは当然だ。
だがそれでもここまで似ていると生き写しにしか思えないよな…
「この子の名前は毛利コナンくんです。」
毛利…コナン…
ちょっと待て。毛利だと…?
その瞬間、俺の脳裏にある女の影が浮かび上がった。それは長年の幼馴染のあの女が…
だがそんな俺を無視するかのように
さっきまで飲んだくれていたおっちゃんが杉下さんたちの前に出てきてこう言っていた。
「ひょっとして…こいつは…蘭の息子ですか…?」
「その通りです。毛利小五郎さん、この子は毛利蘭さんの子供であなたのお孫さんですよ。」
蘭の息子…だと…まさか…そんな…
確かに蘭が失踪した時期とこの子の歳からしてほぼ重なる。
だが俺たちは目の前に突きつけられた事実を受け入れられずにいた。
確かに蘭の子供だということは間違いないのだろう。それはわかる。
問題なのは何故この少年は当時のコナンそのものの姿で現れたのかだ。
その答えを知るのは唯一人。この子の母親である蘭だけだ。
「蘭は…どこですか…会って話をしたい…」
おっちゃんとそれに蘭の母親である妃さんが杉下さんたちにそう訴えた。
当然だ。失踪直後に子供を産んでおまけに未だに姿を見せずにいる娘。
その娘に対して親として文句の一つも言いたくなるはずだ。
だが…杉下さんから…予想もしなかったことが告げられた…
「残念ですが蘭さんは昨日亡くなられました。死因は自殺です。」
そんな…蘭が…死んだ…?それも自殺?
突然のこと過ぎてもう頭がパンク寸前になる。
いや、俺たちなんてまだマシだ。
娘の訃報を告げられておっちゃんと英理さんは酷く塞ぎ込んでしまった。
それからひと目も気にせず号泣だ。俺だってその気持ちはわかるよ。
かつて愛した幼馴染のあいつが死ぬなんて…どうしてだよ…
だがこれで杉下さんたちがやってきた事情は理解できた。
この人たちは毛利のおっちゃんと妃さんに蘭の死を伝えに来た。
それに子供についてもだ。
母親である蘭が死んだとなれば親権は祖父母であるおっちゃんたちに行き渡る。
だからコナンを引き渡すためにこうしておっちゃんたちの前に連れてきたわけだ。
これで一応の納得は出来た。けれど俺は蘭の子に駆け寄ることは出来なかった。
それはまるで蘭からの呪いかのように思えるこの子の姿だ。
何故当時の江戸川コナンと同じ姿をさせているのか?
それに子供に母親が居るなら当然のことだろうが父親もいるはず。
その父親について俺はある心当たりがあった。だがそれについて言えるはずもない。
何故なら…
「ところでもうひとつ、みなさんに伝えなければならないことがあります。」
そんな狼狽えている俺たちに杉下さんはスーツの胸元からある封筒を差し出した。
それは蘭が自殺する直前に記した遺書だという。
その遺書には何故か宛名にこの俺の名前が記されていた。
翌日―――
「志保、身体の調子はどうだ?」
「おかげさまで順調よ。それにしても病院に入院させるなんて大袈裟ね。」
「しゃーねーだろ。
予定日からもう1週間も過ぎてるんだ。大事に越したことはないんだから大人しくしてろ。」
翌日、俺は志保が入院している米花病院を訪れていた。
昨日のパーティーに志保が出席していなかったのも妊娠が原因だ。
ちなみに言っておくが入院している理由は志保の体調が悪いからってわけじゃない。
出産予定日から1週間が経過しているのに
未だにその傾向が見られないので母さんが大事を取って病院を手配してくれた。
こうしているとやっぱりバカ親だなと呆れてしまう。
「そう言わないでよ。お義母さんたちだって初孫なんだから仕方ないわ。」
「わかっちゃいるが過保護なのにも限度があんだろ。」
「そうかしら。
私には物心ついた頃から家族は姉しかいなかったから
こうして家族を想う気持ちは大切なものだと思うもの。」
まるでお腹の子に優しげに語りかける志保。
そんな志保を見つめながら俺は昨日のことを思い出していた。
それはあの蘭が遺した遺書についてだ。それには以下の内容が記されていた。
[新一、久しぶり。昔から新一とは一緒に居たけど手紙を出すなんて初めてだね。]
[今更だけど結婚おめでとう。それと今度は子供も生まれるんだね。]
[本当に良かったね。きっといい子が生まれると思うよ。]
[ううん、ちがうね。それを言いたかったわけじゃないんだ。]
[新一だってこんなことが聞きたいわけじゃないはずだよね。]
[それじゃあ改めて伝えるね。]
[私は爆弾を作りました。]
[爆発すればそれは人を一人確実に殺すことの出来る爆弾です。]
[森谷帝二、森敦士、引田ひとみ、爆弾の在り処についてのヒントを三人に託しました。]
[この爆弾を止めることが出来るのは新一だけ。]
[けど爆弾を新一が見つけることはもしかしたら無理かもしれない。]
[それでも私は新一にこの謎を解いて欲しいと思っています。]
[新一、それでもどうかこの爆弾を責任持って止めてほしいの。]
[それが私の最後の願い。さよなら。]
それが蘭の遺書に記されていた内容だった。
爆弾…あの蘭が爆弾を作った?
まさか…ありえない…そもそも蘭にその動機がない…
10年前の俺ならそう思ったにちがいない。だが俺にはひとつだけ心当たりがあった。
それはあのコナンという子供だ。あれは蘭が失踪する直前のことだ。
あの当時、俺は志保を選んだがそれでも蘭は諦めようとはしなかった。
『どうして!何で私じゃなくて志保さんを選んだの!?』
『それは…お前には言えねえし言う気もない…』
『いつもそればっかり!
何で大事なことを何も言ってくれないの?
新一は探偵なんでしょ!それなら本当のことを言ってよ!?』
言えるわけがない。
志保と付き合いだした理由は共に身体を小さくされて
それにより黒の組織を追っていたからだなんて教えることなど出来るものか。
その理由から俺は何度も蘭を拒絶した。だがそれでも蘭は決して諦めようとはしなかった。
ある時は一日中俺の家の前に彷徨いたり
またある時は何度も家の電話や携帯に掛けて連絡を取ろうと必死だった。
それはいつしかストーカー紛いな行いに発展するまでに至った。
これでは蘭が志保に危害を加えるのは時間の問題だった。
そこで俺は一計を案じて目暮警部や阿笠博士たちに協力を仰いで
この問題を警察沙汰に取り上げようとした。
こうなれば蘭の家族である毛利のおっちゃんや弁護士で母親のおばさんも黙っちゃいない。
いつもは親しい仲にある目暮警部や高木刑事たちから犯罪者扱いされ
さらに両親からも叱責された蘭は周りからの信頼を失い孤立してしまった。
こうなったのも蘭の自業自得といえばそれまでなのだが…
そんな蘭だったが…実は最後に会った時…こんなことを頼まれてしまった…それは…
「ねえ新一。どうかしたの。」
「いや…なんでもねえ…ちょっと考えごとをしていただけさ…」
志保に促されてようやく気づいたが過去の物思いに耽っていたようだ。
それにしても『コナン』か。蘭もよくこんな名前を付けてくれたもんだ。
蘭があの子供にコナンの名前をつけた理由は大体見当が付いている。
それはあの子の年齢を合わせれば自ずと答えは見えてくる。
今から7年前、俺は蘭にせがまれて一度だけ関係を持ってしまった。
たった一度きりのことだとお互い割り切っていた。他意なんてありはしない。
それにもし断れば蘭はさらにやばい強硬手段に出たはずだ。
だから志保を守るためにもそうせざるを得なかった。
つまり蘭の子供である毛利コナンとやらの父親はこの俺だ。
コナンを名乗らせているのは俺へのあてつけってわけだ。
「それにしても新一も父親なのね。これからはこの子のことをしっかり守ってよ。」
「……ああ。任せとけよ。」
志保からの問いに俺は力なくそう答えた。正直言って今はそれどころじゃない。
蘭が遺したのは例の遺書に記されていた爆弾のことだけじゃない。
それはコナンの存在を決して志保に知らせてはならないことだ。
志保はかつて黒の組織に利用されて毒薬を作らされていた。
それを10年だぞ。この10年掛けて俺たちは幸せを築き上げた。
そんな俺たちの幸せをこんなことで台無しにするわけにはいくものか。
「心配すんな。お前は元気な赤ん坊を生むことだけを考えていればいい。」
そんな言葉を残して俺は病室を去った。
去り際、志保は不安な顔をしていたが今は気取られるわけにはいかない。
志保には出産に集中してもらわないとならないからな。
服部が言ってたな。俺たちは責任を持たなきゃならないって…
まさにその通りだ。
俺はもう父親である身なのだから志保とお腹の子を守らなければならない。
そのためにもやるべきことはひとつだ。
蘭が仕掛けたという爆弾の在り処を突き止める。
蘭の行いで誰かが被害に合わないためにも、それに志保の身を守るためにもだ。
「あ、工藤さ~ん!こっちだよ!」
病院を出た俺はその玄関口で待っていたコナンに声を掛けられた。
恐らく蘭から俺が父親だということを伝えられていないのだろう。
だから俺のことを他人のように呼ぶわけだ。
まあそれはこっちともしても好都合だから問題ない。
「ねえ?本当に僕も一緒に行っていいの?」
「ああ、けど邪魔はすんなよ。」
「ハ~イ!やった~!事件だ~!」
母親が死んだというのにコナンはまるで遠足に行くかのようなはしゃぎっぷりだ。
まさか俺や父さんに流れる探偵の血だとでも言わないよな?
ちなみにコナンを捜査に関わらせるには理由がある。
それは蘭の指示によるものだ。
この件を捜査するならその時は必ずコナンを同行させること。
まるで10年前、コナンだった頃の自分を思い出してならない。
しかしコナンを同行させるなんてやはり蘭はコナンの正体に気づいていたのでは?
ところでコナンだけど…どうやってここまで来たんだ?
そういえばこいつ昨日は何処で泊まったんだろ。
これまでコナンの親権は母親である蘭にあった。
その蘭が死んだため、当然のことだがコナンの親権は蘭の親族に委ねられた。
だがおっちゃんとおばさんの間でかなり揉めているらしい。
おっちゃんは飲んだくれ、おばさんに関しても弁護士として仕事が多忙であるのが理由だ。
そんなコナンが昨日は何処で寝泊まりしたのか気になっていた。
するとそこへ駐車場から一台の車がやってきた。
レトロな日産のフィガロから降りてきたのは同じく昨日会ったばかりのあの人だ。
「お待たせしました。それでは行きましょうか。」
「あなたは確か杉下さんですよね。何であなたが付いてくるんですか?」
「当然ですよ。現在コナンくんは僕たち特命係が預かっているのですから。」
なるほど、まだ親権がハッキリしていない以上は
おっちゃんたちにコナンを引き渡すわけにいかない。だから警察で保護しているわけか。
しかしこんな託児所のような仕事を警視庁の刑事がやるものなのか?
特命係ってのはどんだけ暇なんだよ…
「それに爆弾なんて物騒な話が出た以上、警察として捜査しなくてはなりませんからね。」
どうやら杉下さんは俺たちに同行する気満々だ。
そういえばもう一人、
確か昨日はいたはずの冠城さんって人がいないようだがなにやら別件で動いているらしい。
つまり警察で今回の爆弾について動けるのはこの人だけってことになる。
ちなみに同じく警察の目暮警部や服部は現状では動くことは出来ない。
警察は被害が出てからしか動けない。
探偵ならその辺りの自由が利くから煩わしくなくていいんだけどな。
「それでは行きましょう。蘭さんが仕掛けた爆弾を止めなければなりませんからね。」
「僕も!僕も頑張るからね!」
警視庁の厄介者とそれに蘭の子供が付き添いか。
コナンだった頃はおっちゃんと蘭を連れて
三人で現場に足を運んでいたがまさか昔と同じことになるとはな…
とにかく動けるのは俺たち三人だけ。
そしてやるべきことはハッキリしている。蘭が仕掛けたという爆弾を止める。
それにもうひとつ、俺の妻にして出産間近である志保。
あいつとそれにお腹の赤ちゃんの命をなんとしても守らないとな。
蘭、お前が作った爆弾は必ず俺が止めてみせる!
「それでは行きましょう。蘭さんが仕掛けた爆弾を止めなければなりませんからね。」
「僕も!僕も頑張るからね!」
警視庁の厄介者とそれに蘭の子供が付き添いか。
コナンだった頃はおっちゃんと蘭を連れて
三人で現場に足を運んでいたがまさか昔と同じことになるとはな…
とにかく動けるのは俺たち三人だけ。
そしてやるべきことはハッキリしている。蘭が仕掛けたという爆弾を止める。
それにもうひとつ、俺の妻にして出産間近である志保。
あいつとそれにお腹の赤ちゃんの命をなんとしても守らないとな。
蘭、お前が作った爆弾は必ず俺が止めてみせる!
とりあえずここまで
これより新一くんと右京さんが協力して蘭が作った爆弾を見つけに行きます
このSSまとめへのコメント
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