百合、地の文、キャラ崩壊あります。苦手な人は注意で。地の文の睦月の一人称は「私」にしてあります。
夕立「吹雪ちゃん、お疲れさまっぽい」
吹雪「夕立ちゃん!た、ただいま!」
そういって彼女ははにかむ。いつからだったかな?その笑顔を目で追っていたのは、その笑顔を私にだけ向けてほしいと思っていたのは。
睦月「吹雪ちゃん、今日もお疲れ様ぁ!」
私、知っているんだよ。
吹雪「あ、睦月ちゃん、ただいま!」
ほら。私と夕立ちゃんに掛ける声や態度が少し違うの。夕立ちゃんに掛ける吹雪ちゃんの声はどこか緊張していて、そして、上ずっていて。
分かるよ?だって、私は吹雪ちゃんの事が好きだから。吹雪ちゃんの事見ているから。
夕立「今日も吹雪ちゃん大活躍だったぽい?」
吹雪「そ、そんなことないよ」
赤城「あら、謙遜することないのよ。吹雪ちゃん、最近絶好調で練度もぐんぐん上がっているのよね」ウフフ
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ほら、また。夕立ちゃんと話す吹雪ちゃんの声や仕草はどこかぎこちなくて。その少しのぎこちなさが私の心を曇らせる。吹雪ちゃんにとって夕立ちゃんは特別な存在なんだろうな、って。
私とは違うんだろうなって。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
私が吹雪ちゃんに本格的に好意を寄せ始めたのは、皮肉にも如月ちゃんを失ってから。
如月ちゃんは沈んでいない。
私はその現実を受け入れられなくって。自分で自分の中の時計を壊して、動かない針にしがみついた。
もちろん今だって、如月ちゃんの帰りを待っている。
それでも、私は失ったときみたいに自分で自分の中の時間を止めようとはしない。前に進まなきゃ。そう思わせてくれた吹雪ちゃんのために。
睦月「ふ、吹雪ちゃん、疲れたでしょ?夜ご飯食べに行こうよ!」
あぁ、やっぱりそうだ。吹雪ちゃんが夕立ちゃんに声をかける時と同じだ。私が吹雪ちゃんに掛ける声はどこか緊張していて、それでいて弾んでいて。
だから、吹雪ちゃんの気持ちに気づいてしまった。私が吹雪ちゃんに寄せている感情と同じものを、吹雪ちゃんは夕立ちゃんに寄せているという事に。
吹雪「うん、私もうお腹ぺこぺこだよ!ほら、夕立ちゃんもいこ」ギュッ
夕立「うん、吹雪ちゃんがんばったぽいもんね」ニコ
吹雪「え、えへへ」
吹雪ちゃんの笑顔を見るのは嬉しい。名前とは裏腹に、その太陽のような顔で笑っていてほしい、私を照らしていてほしい。
でも、その顔が照らしているのは私じゃない。そう考えて彼女の笑顔を曇らせるようなどす黒いものが私の中に目覚めかけるが必死でそれを抑え込む。
夕立「睦月ちゃんも、いくよ!」ギュ
睦月「にゃあ!?」
吹雪「睦月ちゃん、どうしたの、そんな驚いて?」
睦月「あ、え、えっと、少し考え事をしてたにゃしぃ!え、えへへ」
私の中のどす黒い感情を抑えるのに必死で少しボーっとしていた。まずいまずい。しっかりしなきゃ。
夕立「最近、吹雪ちゃんも睦月ちゃんも訓練頑張ってるよね。私も負けられないっぽい!」
睦月「夕立ちゃんはもう改二なんだから、そこまで頑張る必要ないんじゃないかにゃぁ?」
夕立「二人が頑張っているんだから、私も頑張るの!」
吹雪「あはは、よぉし、私たちも早く改二になれるように頑張らなきゃ!ね、睦月ちゃん!」
睦月「う、うん!」
そう。努力はしている。私も改二になれば、夕立ちゃんのように吹雪ちゃんの特別になれるかもしれない。だって、吹雪ちゃんの夕立ちゃんに対する態度が変わったのは夕立ちゃんが改二になった時からだから。
きっと誰よりも努力をしている。
夕立「とりあえず、今はご飯を食べるっぽい!」
そういった夕立ちゃんに手を引かれる。そうだね、今は3人で居られる時間を大切にしよう。また、いつ、別れがくるかなんて、分からないんだから。
別に私は夕立ちゃんの事が嫌いなわけじゃないから。ただ、少し羨ましいと思っているだけだからね?
睦月「ちょ、ちょっと夕立ちゃんそんな急がなくても大丈夫だよ!」
吹雪「睦月ちゃん、夜ご飯は待ってくれないよ!」
睦月「え、えぇ、吹雪ちゃんまで…」
あぁ、吹雪ちゃんに対するこんな気持ちがなければきっとこの3人の時間をもっと純粋に楽しむことができるんだろうな。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
食後、私たち3人はお風呂に来た。
吹雪「はぁ、潮風でベトベトだからはやく入りたいよ」
そういって、吹雪ちゃんはためらいなく服を脱ぎだす。そのむき出しになった肢体に思わず息をのむ。私が欲情しているなんて彼女は思っていないだろう。
夕立「もう、吹雪ちゃん!前くらい、隠すっぽい!」
そうだよ、前くらい隠して。
吹雪「え~、艦娘同士だしいいじゃん」
だめだよ、変な気持ちになっちゃう人もいるんだから。
睦月「と、とにかく早く入ろうよ」
これ以上吹雪ちゃんを見つめ続けるのはまずいと思い、お風呂に入ることを促す。うん。今日は暑かったから、私も早くお風呂に入りたい。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
お風呂に入った私たちは部屋に戻って他愛無い話をしている。Polaさんが飲みすぎてZaraさんに怒られていたこと、飲みすぎた隼鷹さんと足柄さんに絡まれただったり。
うちの鎮守府のお酒好きな人ってなんか酒癖悪くないかな…と思いつつ楽しそうに話す吹雪ちゃんを見ると私も楽しくなる。
夕立「それじゃあ、そろそろ寝るっぽい?」
睦月「あ、もうこんな時間」
いつの間にか随分話し込んでいたらしい。明日は私たち3人と川内さん、神通さん、那珂さんと遠征の日だ。
本来なら、四隻でいいらしいが、明日私たちが行く海域で、最近、敵の姿が目撃されたらしく、念のためという事らしい。
さすがに早く寝て明日に備えた方がいいだろう。
吹雪「そうだね。そろそろ寝よっか!」
電気を消す。それぞれのベッドに入り、明日に備えて眠ろう。そう考えた。しかし私の頭には今日のお風呂で見た吹雪ちゃんの身体が浮かんでくる。
身体が疼く。1週間に一度くらいかな。どうしても疼きを我慢できない日がある。もう我慢することをあきらめている私は躊躇することなくアソコに手を伸ばす。
睦月(本人が寝ているのと同じ部屋でこんなこと)
睦月(吹雪ちゃん…吹雪ちゃん…)
睦月(切ないよ…もっと触れ合いたいよ…)
吹雪ちゃんの事を考えながら、声を抑えて私は果てる。
事をし終えて、明日の遠征の事を思い出し、少し落ち込む。まぁ、落ち込んでいてもしょうがない。早く寝よう。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
川内「みんな、帰りも気を抜かずに行くよ!」
川内さんが号令を出す。普段は夜戦夜戦いっているけど、いざっていうときはとても頼りになる。
神通さんも、那珂さんも、練度が高いから、スムーズに任務を遂行できる。
睦月(良かった。敵と遭遇するなんてやっぱり杞憂だったね)
遠征もやっと復路に入り、何事もなく進んでいるからだろう。みんなも少し気が緩んでいるようだ。でも、何も起こらないからしょうがないだろう。ただ航行しているだけなのだから。
そう思った直後、川内さんの声が鼓膜を貫く。
川内「2時の方向、敵水雷戦隊発見!」
敵と遭遇してしまった。今まで、遠征中に敵と遭遇したことがないわけではないがやはり緊張が走る。
川内「大淀さん、長門さん、指示を!」
川内さんが指示をもらっている。そんな間にも2時の方向から波音と混じって、それ以外の音が微かに耳に届く。
川内「了解!」
指示を聞いた川内さんがこちらに向き直る。
川内「敵駆逐3隻、軽巡1隻ここで撃破するよ!eliteとかはいないみたいだし、落ち着いて撃破するよ!」
うん。それなら大丈夫そう。ここまで余裕が持てるのも当たり前だろう。川内型の皆さんも夕立ちゃんもかなりの練度だし、私と吹雪ちゃんも決して足手まといにはならない程度の練度である。
そんな、甘い考えを心の奥底に追いやって、私たちは複縦陣の形に広がる。
川内「砲雷撃戦用意!」
声が聞こえると同時に各々構える。
敵の姿は目測もできる位に近づいてきていた。
川内「撃てぇ!」
言葉と同時に本来の静寂な海上には似つかわない轟音が響き渡る。
順調に敵を撃破していく。
うん。やっぱり大丈夫だ。私たちの練度なら何も問題はない。そう思ってふと気になりちらと吹雪ちゃんの方を見る。
彼女は無事だろうか。怪我をしていないだろうか。ただそれだけを考えて、少し気を緩めてしまった。
その刹那
夕立「睦月ちゃん!」
睦月「え?」
ドゴォン!
夕立「うぐっ!ま、負けないっぽい!」ドカンドカン
何が起きたの?
夕立「睦月ちゃん、大丈夫っぽい?」
そう尋ねる彼女は今にも沈みそうな身体で私に問いかける。
睦月「え、む、睦月…でも、夕立ちゃんが」
吹雪「夕立ちゃん!睦月ちゃん!」
そういって呆然と立ちすくむ私の横をすり抜け、彼女は真っ先に夕立ちゃんを抱きかかえる。
川内「二人とも大丈夫か!?」
川内型の皆さんも近くに来てくれる。
吹雪「夕立ちゃんが!夕立ちゃんが!」
夕立「吹雪ちゃん大丈夫だよ。少し怪我しちゃっただけだから。」
吹雪「でも、でもぉ!」
川内「吹雪、夕立、睦月!とにかく今はこの海域を離れるよ!一応敵は殲滅したと思うけど、援軍が来ないとは限らないから!」
夕立「睦月ちゃん大丈夫っぽい?早くここから離れよ?」
ボロボロと泣いている吹雪ちゃんに曳航されている夕立ちゃんが私に話しかける。やめて、話しかけないで。ごめんね?吹雪ちゃん泣かないで。
吹雪「とにかく早くここから離れて夕立ちゃんを入渠させてあげないと!」
分かっている、分かっているから今は何もしゃべらないで!発してはいけない言葉を発しそうになってしまうから。
夕立「ほら、睦月ちゃん行こ?睦月ちゃんが無事でよかったっぽい!」ニコッ
睦月「どうして…」
あぁ、だめだ。もう止まらない。
睦月「どうして私なんか助けたの!夕立ちゃんの方がよっぽど強いんだから!私なんか沈んじゃっても別に大丈夫なのに!私の事なんて放っといてくれてよかったのに!別に私なんかいなくたって」
パシンッ
睦月「…え?」
顔に衝撃が走り、一瞬世界が暗転する。何が起きたの。
吹雪「睦月ちゃん、本気でそんなこと言っているの!?」
涙を溜めた吹雪ちゃんが、必死に何かをこらえるようにして問いかけてくる。右の頬がジリジリと熱を帯び始めてきてやっと気が付いた。私は吹雪ちゃんにはたかれたんだね。
睦月「うん、そうだよ。だって、夕立ちゃんの方が大事な戦力でしょ?それに比べたら睦月なんて戦力にならないんだから、沈むなら睦月の方がいいでしょ?」
吹雪「もうやめてっ!」
どうして?どうして怒るの?だって吹雪ちゃんは夕立ちゃんの事が好きなんでしょ?好きな人が私のせいで撃沈されかけたんだよ?
睦月「だって、吹雪ちゃんは睦月の事なんてどうでもいいでしょ?ごめんね?睦月のせいで夕立ちゃんが傷ついちゃって」
吹雪「…もういい。睦月ちゃんの話聞きたくないよ。行こ、夕立ちゃん。」
夕立「う、うん」
あぁ、二人が手を取り合って進んでいる。そこに私は入り込むことができない。それならいいよ。分かった。
川内「睦月、どうしたんだ?頭を冷やせ。」
帰路につきながら、川内型の皆さんが口々に私に何か話しかけてくれている。しかし、私は私たちの前を走る二人を見るだけで3人の言葉は何も耳に入っていなかった。
それから夜まで、私は部屋のベッドに倒れ込むように突っ伏していた。夕立ちゃんは入渠しに、吹雪ちゃんはその付き添いに行った。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
就寝時間の少し前に二人は帰ってきた。
私は突っ伏したまま、顔を上げるつもりはなかった。
夕立「睦月ちゃん…ただいま。」
睦月「…」
何も言えない。怖くて顔を上げられない。
吹雪「…そっか、睦月ちゃんは自分を助けてくれた人にお礼も言わないんだね」
睦月「…っ!」
ごくりとつばを飲み込む。もうやめて。私に構わないで!
夕立「吹雪ちゃん、もう大丈夫だから。睦月ちゃん、私たちも、もう寝るね?今日の事、気にしなくていいっぽいからね!」
そんな言葉を残して、ぎゅっと閉ざしていた目の隙間から入ってきていた光がなくなる。電気を消したようだ。
もういいよ。もう疲れた。どう思われてもいい。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
二人の寝息が聞こえる。どうやら寝たようだ。
睦月「よし…」
私は服を脱ぐ。生まれたままの姿になり、布団を出る。
睦月「吹雪ちゃん…」
身に何も纏っていない状態で吹雪ちゃんに問いかける。
睦月「きっと、いけないのは睦月だよね。分かっているよ。分かっているけどもうダメなの。」
そう自分を正当化して吹雪ちゃんの布団に潜り込む。
吹雪「すぅ…すぅ…」
吹雪ちゃんの匂いが身体中に広がる。寝息が顔に当たる。
睦月「吹雪ちゃん…可愛い…」
我慢できない。素直に高揚した気分に身を任せる。
睦月「ふ、吹雪ちゃんっ!吹雪ちゃんっ!」
声が漏れるのなんて気にしない。
睦月「ふっ…にゃっ!あんっ!」
吹雪「…ん、んるさいよ、だれ?」
睦月「はぁはぁ、吹雪ちゃん、吹雪ちゃんっ!」
吹雪ちゃんが起きても関係ない。寝ぼけ眼だけど吹雪ちゃんが見てくれている。見て、もっと私を見てほしい!
吹雪「い、いやっ!なにしてるの!?」
睦月「見て!ふ、吹雪ちゃん、わ、私が達するところをみて!」
吹雪「や、やめてっ!」ドサッ
睦月「きゃっ!」
吹雪ちゃんに弾き飛ばされて、床に転がり落ちる。
気分は高揚しているはずなのに、アソコはジンジンと疼いているのに。私はなぜか冷静に吹雪ちゃんを見つめる。
吹雪「…なに、してたの、睦月ちゃん」
睦月「…なにって、自慰だよ。吹雪ちゃんを思いながら自慰してたの。でも、別に今日だけじゃないよ?私、自慰するときは絶対吹雪ちゃんの事を考えながらしていたんだから。」
強がるように、さも当たり前の事のように答える。今、弱さを見せたら、すべてが崩れ落ちるような気がして。本当はもうすべてが崩れ落ちていることにも気づかずに、私は強がる。
吹雪「え、え?」
睦月「吹雪ちゃんの手の感触を思い出して。吹雪ちゃんが睦月に抱き着いてきたときの胸の感触を思い出して。吹雪ちゃんのお風呂での姿を思い出して。吹雪ちゃんの寝息を聞きながら。」
吹雪「や、やめて…」
睦月「でも、これって…普通だよね?だ、だって、グスッ」
あれ、目頭が熱い。
睦月「だって、睦月は吹雪ちゃんの事が好きなんだもん。」
止まらない。堰を切ったように今までの思いが言葉となって溢れ出す。
睦月「好きな人の事を思いながら自慰するのって別に普通だよね?」
吹雪「…だからって、人の布団の中に入って、見せつけないよ、普通は。」
やめて、私は、私はただ…
睦月「ごめん、ごめんねぇ、吹雪ちゃん…グスッ、た、ただ、吹雪ちゃんに見てもらいたかっただけだったの…夕立ちゃんじゃなくて…ヒグッ,,,私を見てほしかっただけなの」
私は、押しつぶされそうな空気に耐えられなくなって、部屋を抜け出す。
終わりだ。終わりだ。終わりだ。
吹雪「…」
吹雪ちゃんは何も話さない。夕立ちゃんも私たちの騒ぎを聞いて起きたみたいだ。
今更になり、ふつふつと恐怖がこみあげてくる。自分は何をしてしまったのだろう。抑えきれなかった。でも、見てほしかった。ただ見てほしかった。
でも、もう終わりだ。二人に顔を合わせられないや。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
息を切らしながら、海沿いの防波堤にへたり込む。
睦月「ヒグッ…睦月、なにしちゃったんだろうな…グスッ…も、もうだめなのかなぁ…」
全身から力が抜けていく。まん丸になり切れていない月が私を照らす。私は今すべてを失ったのに、月はこれから、完全なものになり、すべてを手に入れる。
「睦月、どうした?」
睦月「ヒッグ…ん、え…?」
泣き止まないと。こんな弱い姿は見せられない。如月ちゃんを失って、吹雪ちゃんを好きになって。必死に強い自分になろうと努力してきたんだから。
睦月「ぐっ…こ、こんな時間にどうしたんですか?」
もう、私が泣き崩れていたところなんて見られているはずなのに、必死に涙をこらえて、強がって見せる。
川内「うーん、ちょっと寝付けなくてね。すこし訓練を…」
川内さん…月明かりの下で困ったようにはにかむ彼女はとても綺麗だった。
睦月「川内さんって毎日のようにちょっと寝付けてないんですね」
皮肉を込めて言葉を発する。川内さんが夜、訓練をしていることなんてみんな知っていることだから。皮肉を言う事で心の突っかかりが少し軽くなる。
川内「あはは、でも、夜はいいよ?」
何を根拠に。でも、そう答える彼女の目は確かな力を持っているように見える。私にはない強さを持っている彼女を羨ましく思う。私もこの位強ければ吹雪ちゃんに振り向いてもらえたのかな。そう考えると羨ましさよりも妬ましさが湧いてくる。
川内「…」
川内さんが見つめてくる。私は腫れた目を見せないように少し俯いた。
川内「睦月、ちょっと訓練付き合ってくれない?」
睦月「え、こんな時間からですか!?」
思わず、声を張り上げてしまう。
川内「こんな時間って…別に夜戦があるときはこの時間に出撃するなんて普通でしょ?」
まぁ、そうだけど。
川内「とにかく、やるよ!」グイッ
私は抵抗することもできなく水面に引きずり込まれる。
睦月「にゃっ!?」
慌てて体勢を立て直す。この人は急に何をするんだ。
睦月「ちょ、ちょっと急に何するんですか!」
思わず声に出てしまうが、その声をかき消すように川内さんが言葉を発した。
川内「1vs1の怠慢勝負。相手を行動不能にできた方が勝ち。ルールはそれだけ。準備はいい?」
睦月「え?ちょ、ちょっとそんな急に…」
何を言っているんだこの人は。1対1?それも向こうは私なんかより練度は上、なにより改二になっているんだよ?私に勝ち目なんてあるわけないよ。
川内「構えなくていいの?はじめるよ?」
睦月「え!ちょっとまっ」
私の声をかき消すように川内さんが声をかぶせる。
川内「始め!」
そう声を発すると同時に川内さんは距離を詰めてくる。
睦月「ちょっと待ってください!まだ、」
ドカンドカンドカーン
私のすぐそばに着弾し水しぶきを上げる。
睦月「きゃあっ!?」
思わず目を瞑ってしまう。
川内「随分緩慢な動きだね?こんなんだから、他の人に迷惑をかけちゃうんじゃないの?」
川内「そんなんじゃ、誰も守れないし、何も守れない。自分の誇りすら守れないよ?」
この人は本当にさっきから何を言っているのだろう。私の神経を逆なでして何が楽しいんだろう。私の弱さに付け込んで何がしたいんだろう。
そして、必死に弱さを隠してきていたはずなのにあっさりと見破られてしまっている私はどうすればいいんだろう。
睦月「うるさい!睦月は弱くなんかないっ!」
キッと川内さんを睨みつける。
川内「そう。なら私に勝って証明してみなよ」
睦月「言われなくてもっ!」
私は銃を構え、川内さんに突っ込む。
無我夢中に弾をはじき出す。当たれ、当たれ!
川内「遅いよ!」
水しぶきのせいで川内さんの姿を一瞬見失った。どこ!?
睦月「後ろっ…!」
ドガァン!!
睦月「くっ!」
危なかった。すんでの所で回避し、距離をとる。この人、本気で行動不能にさせようとしてきている。
と、とにかく、一回体勢を立て直さないと。
川内「休ませないよ!」ドカンドカン
睦月「っく…」
必死で逃げ回る。でも、もう限界も近い。いつ被弾してもおかしくない。そんな弱気な私が姿を見せた。
ドガァアン!!!
睦月「きゃぁああああっ!!!」
私の足元でなにかが弾け飛んだ。あぁ、魚雷か。砲撃を交わすのに夢中で魚雷の方に注意が言ってなかったな。
もう、動けないや。
…やっぱり私って弱いな。一方的にやられて、必死になって。
…かっこ悪いなぁ。
川内「私の勝ちだね。」
睦月「当たり前ですよ。だって川内さんのほうが練度も経験もすべてにおいて睦月より上なんですから。」
川内「そうだね。睦月は弱いもんね。」
睦月「そうです。私が弱いからです。」
川内「うん。」
睦月「…」
川内さんは真っ直ぐこちらを見てうなずく。私は込み上げてくる感情を止めることができなかった。
睦月「わ、わだしがっ!よ、よわいから…ヒグッ…な、何も守れない!私が…睦月が望むものを手に入れることができないっ!」
睦月「だ、だから…だから強くなりたい!…グスッ…そ、そう思って、必死に訓練をした!誰にも負けないくらい、そして、自分にまけないように!」
睦月「強くなって、睦月を見てもらいたかった…認めてもらいたかった。」
睦月「ただ…ヒグッ…ただ睦月は吹雪ちゃんの事が好きだったから!吹雪ちゃんを守れるように。吹雪ちゃんを支えてあげられるように。」
睦月「吹雪ちゃんが私にしてくれたみたいに…ただ、吹雪ちゃんの傍で笑っていたかった。吹雪ちゃんに笑っていてほしかった。だから私は強くならないといけないっ!もう何も失わないようにっ!」
止まらない。溢れ出す気持ちが言葉になって口から零れ落ちる。嗚咽も泣き顔もすべてを晒して、川内さんにゆっくりと詰め寄る。川内さんの肩を掴みまっすぐに彼女の目を見つめて私は叫ぶ。
睦月「川内さんみたいに強い人が羨ましいっ…自分自身も大事な仲間も自分の力で守ることができる。大事なものを失うことがないように繋ぎとめることができる。」
睦月「睦月は、ヒグッ、グスッ…睦月は自分自身さえも守れないのにっ!守られているだけなのにっ…」
涙が溢れ出してくる。力を込めて掴んでいた川内さんの肩から川内さんにもたれかかるように崩れ落ちる。
睦月「む、睦月はどうすればいいんですか…フグッ…お、お願いします、教えてください川内さん」
泣き崩れ、ぼやけた視線で川内さんを見つめる。
少しの静寂の後、川内さんは答える。
川内「…強さって一体何なんだろうね。」
川内「火力?速力?雷装?それとも運?敵を撃破する強さ、仲間を助けることができる強さ。」
川内「ねぇ、睦月」
川内さんは、静かに。でも確かな説得力を持って私に問いかける。
川内「今日、あんな駆逐艦如きに被弾を許した夕立は弱いと思う?」
何を言っている?あり得ない。
睦月「そんなことないですっ!」
ムキになって私は叫ぶ。
睦月「あれは、睦月をかばうために仕方なく…」
川内「じゃあ、如月を失って塞ぎ込んでいた睦月に前を向かせてくれた当時の吹雪は弱かった?」
まただ。おかしなことを聞く。
睦月「そんなわけないですっ!だって、吹雪ちゃんはいつも強くて、私に元気をくれた。前を向く…勇気をくれた」
川内「だったら、もうわかるでしょ?」
睦月「…」
何が分かるの。この人は何が言いたいの。
川内さんは、やれやれといったように、言葉を続ける。
川内「強さって言うのは1種類じゃないんだよ。だって、そうでしょ?今の睦月はあの頃の吹雪よりずっと練度は高いよ?睦月はあの頃の吹雪よりずっと強いよ?」
川内さんの言葉はすっと私の中で混ざり合った。溶け合って気づいた。
…あぁ、そうか。どうして、こんな簡単なことに気が付かなかったんだろう。川内さんの言うとおりだ。私が目指していた強さはきっと私には似合わない強さだったんだ。私が手に入れるべきだった強さはきっと…
どうして…どうして、手遅れになった今気づくんだろう。戻りたい。時間を巻き戻して、やり直したい。手遅れになる前に。
吹雪「睦月ちゃん!」
睦月「え?」
吹雪「ど、どうしたのそんなボロボロになって!」
なんで彼女がここに居るんだろう。どうして私の心配をしているんだろう。
夕立「早く入渠ドッグにいくっぽい!」
吹雪「睦月ちゃん、掴まって!」
睦月「…吹雪ちゃん、どうして」
吹雪「…今は静かにしていて。」
吹雪ちゃんの背中の温もりを感じる。ただそれだけ。吹雪ちゃんに触れているだけでこんなにも私は幸せな気持ちになれる。
今気づいてしまった思考を感情を放り出す。今は何も考えることができない。
そのまま私は身体も意識も吹雪ちゃんに預けた…
♦ ♦ ♦ ♦ ♦
夕立「…もう…せんだいさん…っぽい!」
騒がしいなぁ。…あれ、なんだかふわふわする…あれ、私…
睦月「んん…睦月…」
目を開けると人影が三つ。
夕立「もう、川内さん本当にやりすぎっぽい!本当に沈んじゃったらどうするの!?」
川内「わ、悪い悪い。あまりにも睦月がうじうじしてたからさ」
夕立「どうせ夜だからって、テンション上がってたっぽい…」ジトッ
川内「うっ…」
吹雪「睦月ちゃん?起きたの?」
吹雪ちゃんが覗き込んでくる。あぁ、やっぱり可愛いなぁ。
睦月「あ、私…」
徐々に覚醒し始めた意識が私をまたどん底の現実に突き落としてくる。
睦月「ご、ごめんなさい…ヒッヒグッ、む、睦月…吹雪ちゃんに…グスッ」
また涙が溢れ出してくる。今更になって自分のした行為の浅はかさに胸を締め付けられる。
夕立「あ、睦月ちゃん起きたっぽい?ほら、川内さん謝るっぽい!」
川内「す、すまなかったな、睦月。少しやりすぎた。」ポリポリ
睦月「い、いえ、川内さんのおかげで、大事なことに気づいたので。」
涙ながらに感謝の言葉をおくる。
夕立「それじゃあ、私たちはいくっぽいから!ほら、川内さんいくっぽい!」
川内「あ、あぁ。」
あ、あぁ行かないで。吹雪ちゃんと二人にしないで。
そんな願いも届かずに二人は行ってしまい、吹雪ちゃんと二人の空間に押しつぶされそうになる。
吹雪「…」
睦月「…」
私から吹雪ちゃんに言葉を発することなど許されない。私はただ下を向いて震える。
吹雪「夕立ちゃんがね…」
吹雪ちゃんが言葉を紡ぐ。
吹雪「吹雪ちゃんは睦月ちゃんに告白されたんだよ!あんな形になっちゃったけど、睦月ちゃんの気持ちを無駄にするのはだめっぽい!」
吹雪「だって。ふふっ、夕立ちゃんらしいよね」
吹雪「私は…頭が真っ白になって何も考えられなかったのに…」
睦月「ご、ごめんなさい…ごめんなさい…」
喉の奥が熱くなる。絞り出すように言葉を発する。
吹雪「どうして、謝るの?」
睦月「だ…ヒグッ、だって私、吹雪ちゃんの気持ちを知っていたのに…あんな…グスッ、吹雪ちゃんを襲うような真似をして…」
吹雪「私の気持ち?」
睦月「だって、吹雪ちゃんは夕立ちゃんの事が好きなんでしょ!それを知っていたのに、睦月は…睦月はっ」
吹雪ちゃんが夕立ちゃんの事を好きなことくらいわかってる。それでも言葉にしたらその現実はまるで本当に質量を得たように私を抑えつける。
吹雪「え…?そ、その睦月ちゃんなにか勘違いしているみたいだけど…た、確かに夕立ちゃんの事は好きだけど…その、恋愛的な意味で好きってわけじゃないよ…?」
睦月「うそっ!だって、吹雪ちゃん、夕立ちゃんと話す時だけ他の人と態度がちょっと違うんだもん!私、吹雪ちゃんの事ずっと見ているからわかるもんっ!」
吹雪「あ、あぁ…そ、そういうこと…」
何がそういう事なの。私何か間違ったこと言った?
吹雪「その、実は、ね。夕立ちゃんに対する態度が少し違ったのはたぶん緊張してたからだと思う。」
やっぱり緊張していたんだね。
吹雪「夕立ちゃんって急に改二になったから。急に大人っぽくなった夕立ちゃんと話すと今でもたまに緊張しちゃうんだよね。」アハハ
そういって、彼女は笑った。
睦月「…え?」
愕然とした。ドッグに浸かっているからじゃない。ただ恥ずかしくて顔が火照ってくる。なんて勘違いをしていたんだろう。
吹雪「…それでね、睦月ちゃん。私に好きって言ってくれたよね。私も馬鹿じゃないし、睦月ちゃんがどういう意味で、気持ちで言ったのか位は分かるよ。」
吹雪「あのね…」
そう吹雪ちゃんが声を発する。その言葉の後すぐに言葉を繋いだ…と思う。
だって、私にはその一瞬の静寂が遥か遠く。私の手の届かない未来に行ってしまった気がしたから。
吹雪「私も睦月ちゃんが好きだよ?」
遥か彼方。私の手の届かない場所にあった声が…今度は私に向かって飛んでくる。吹雪ちゃんの声が私の耳に届く。
その言葉で、私は何を思ったのだろう。自分の気持ちなのに何が何だか分からない。頭が混乱する。
吹雪「仲間を信じる睦月ちゃんの姿が、私にはない強さを持っている睦月ちゃんが私は好き。…でもね。私の…この気持ちが睦月ちゃんと同じかどうかは…分からない。」
もう十分。ありがとう吹雪ちゃん。私やっぱりあなたを好きになれてよかった。あなたの為にすこしでも強くなろうとしていた行為が今、すべて報われたよ?
吹雪「だからね?もうちょっと、私と一緒に…私の傍にいて?私も睦月ちゃんの傍にいるから。睦月ちゃんに対する私の気持ちに答えが出るまで…」
あぁ、やっぱり吹雪ちゃんは強い。私にはない強さを持っていて、それは私を支えてくれる。
だけど、これからは…私も吹雪ちゃんを支えられる強さを手に入れる。それがどんな強さかはまだ分からない。それでも、吹雪ちゃん…。いや、みんなを支えられるように強くなりたい。私だけの強さを手に入れたい。
また、吹雪ちゃんに前を向かせてもらったね…?だから、吹雪ちゃん。今度は勢いで言うんじゃないよ?しっかりと今。自分の気持ちを言葉にするね?
睦月「吹雪ちゃん、ありがとう。」
でも、あの言葉は言わないでおこうかな。だって次は吹雪ちゃんに言ってほしいもの。
睦月「これからも、よろしくねっ!」
吹雪ちゃんは最高の笑顔でその言葉を受け取ってくれた。
私も、吹雪ちゃんと同じ顔で笑っている。
ドッグの中には満月になり切れていない月の光が窓から差し込んでいた。
ー艦ー
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