P「は?」
李衣菜「ちょ、なんですかその顔。ロックな私がパンケーキなんて言うのは意外でしたか?」
P「いや、李衣菜は普通にパンケーキ好きそうだが……なんで俺に?」
李衣菜「……私、お店のパンケーキ、って、食べたことないんですよね」
P「そうなのか? 意外だな」
李衣菜「……さっきから気になってたんですけど、Pさんは私をどう思ってるんですか?」
P「かわいいものとか結構好きで割りと女の子してるアイドル」
李衣菜「それ、褒めてます?」
P「不満か?」
李衣菜「ロックは」
P「ん、まあ、ロックだな。ロックロック」
李衣菜「それ、雑過ぎじゃないですか?」
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P「李衣菜がロックだと思ってるのは本心だよ。で、食べたことがないのはわかったが、どうして俺なんだ? 俺もそんなに食べたことはないぞ」
李衣菜「『そんなに』ってことはあるんですね。……いや、私ってロックなイメージあるじゃないですか」
P「それ夏樹とみくと未央の前で言ってこい」
李衣菜「……例えば、その三人を誘ったら『ロックはどうしたの?』とか言われそうじゃないですか」
P「あー……」
李衣菜「私も考えたんですよ? 智絵里ちゃんはどうかなー、とか。まゆちゃんはどうかなー、とか。美穂ちゃんはどうかなー、とか。加蓮ちゃんはダメだろうなー、とか。凛ちゃんはどうかなー、とか」
P「お前加蓮のことどう思ってるんだよ……」
李衣菜「加蓮ちゃんに言うとたぶんからかわれるじゃないですか」
P「加蓮は……どうだろうな。でも、加蓮以外なら、今言った誰でもそこまで何か言ったりはしないと思うぞ?」
李衣菜「それはそうですけど……」
P「けど?」
李衣菜「……最初に思いついたのがPさんだったんです! それじゃ、ダメですか?」
P「……なら、最初からそう言えよ」
李衣菜「笑わないで下さいよー……私だって、Pさんに言われた時、どうしてPさんなんだろうなー、って思ったんですよ」
P「俺のことをいちばん信頼してるからじゃないか?」
李衣菜「それ、自分で言うかなー……」
P「俺は言う。で、パンケーキか……あ、今からは無理だぞ? 俺は仕事だし、李衣菜はレッスンだろ?」
李衣菜「ってことは、今じゃなかったらいいんですか?」
P「いいぞ。どこに行くかとかは決まってるのか?」
李衣菜「どこに……うーん、まだ考えてませんね」
P「そうか。なら、俺が考えていいか? そっちの方が予定も組みやすいからな」
李衣菜「え、あ、はい」
P「よし。それじゃあ、また連絡する。待っててくれ」
李衣菜「わかりました。……えへへ」
P「? 何笑ってるんだよ」
李衣菜「いやぁ……なんだかんだ言って、Pさんはやっぱり優しいなぁ、って」
P「そうだな。じゃあ、パンケーキの分レッスン量を増やしてもらうようトレーナーさんに言っとくから、頑張ってきてくれ」
李衣菜「優しくない!?」
――その日の夜
ピコン
李衣菜「ん、通知。誰……Pさん?」
李衣菜「えっと……『次の土曜日はオフだったよな。その日、まだ予定入ってないか?』」
李衣菜「土曜日……うん、何も入ってなかったよね。えっと……『大丈夫です。空いてます』っと」
李衣菜「これ、たぶんパンケーキの話だよね……Pさんもきっと忙しいのに、こんな早く連絡してくれるなんて……えへへ」
ピコン
李衣菜「って、言ってる間に返信が……『なら、その日の朝に待ち合わせだ。原宿駅に8時。家まで迎えに行ってもいいが、どうする?』って」
李衣菜「原宿……原宿!? Pさん、原宿にも行くんだ……いや、行くだろうけど」
李衣菜「でも、パンケーキなら原宿……なのかな? わからないけど……とりあえず、『家までは来なくていいです。原宿に8時ですね。わかりました。それじゃ、また明日!』っと」
李衣菜「さすがに家まではね……家族にPさんと二人きりで出かけるって、あんまりバレたくないし」
李衣菜「でも、土曜日かー……楽しみだなー……」
ピコン
李衣菜「ん、また通知。なんだろ。……『おやすみ』、か」
李衣菜「……『おやすみなさい』っと!」
――土曜日・朝・原宿
李衣菜「……そう言えば、原宿駅のどこなんだろう。わからないから、とりあえず竹下口に出たけど……」
P「李衣菜」
李衣菜「わっ。……い、いたんですね、Pさん」
P「ああ。と言うか、お前、連絡したけど見てないだろ」
李衣菜「えっ? ……ほんとだ。きてる。『竹下口にいる』って30分前に……30分前!? Pさん、早く来すぎじゃないですか!?」
P「万が一にでもアイドルを一人で待たせておくわけにはいかないからな。……まあ、見てなかったなら意味がないわけだが」
李衣菜「それは……すみません」
P「本当にな。まったく、どれだけ心配したと……」
李衣菜「……心配、してくれたんですか?」
P「しないわけないだろ。もし時間までに来なかったらまずは李衣菜の家に電話したな。それで家を出たかどうかを確認して、それから……」
李衣菜「も、もういいです。ごめんなさい。今度から、ちゃんと確認するようにしますから……」
P「……いや、俺も悪かった。ちょっとスマホを見てなかっただけなのに、言い過ぎたな。すまん」
李衣菜「謝らないで下さい。……その、もう行きません?」
P「……そうだな。まだ時間はあるが、一応、な」
――
李衣菜「それで、どうしてこんな早い時間だったんですか? 朝だけ、とか?」
P「朝の方がいいと思ったから、だが……まあ、かなりの人気店らしいからな。開店前に並んでたらそんなに待たないと思ったんだよ」
李衣菜「開店前から並んだら、結局待ってるんじゃ……」
P「……確かに」
李衣菜「ま、まあ、大丈夫ですよ。朝食なら、早めに食べたいですもんね!」
P「フォローが痛い」
李衣菜「……行きましょう、Pさん! もしかしたら、もうすっごく並んでるかもしれませんし!」
P「……そうかな」
李衣菜「そうですよ! わからないですけど……」
P「わからないのかよ」
李衣菜「えっと……そ、そう言えば、朝の原宿ってこんな感じなんですね。私、こんなに静かな原宿って初めてです」
P「ん、そう言えばそうだな。まだどの店も閉まってるし……なんか、全然違う印象だな」
李衣菜「昼はもっと、わー! ってしてるのに……変な感じです」
P「世界でいちばん『かわいい』が集まる街も、朝はさすがに眠っている、か」
李衣菜「そのフレーズ、何かの歌ですか?」
P「適当だよ。というか、こんなフレーズがある歌なんて嫌だろ」
李衣菜「そうですかね? でも、本当に、静かで……いつもとこんなにも違うと、まるで世界から誰もいなくなったみたいですね」
P「世界には俺とお前の二人きり、って?」
李衣菜「そんな感じ、しません?」
P「しないな。すぐそこに人いるし」
李衣菜「そういう意味じゃありませんよー……もう。Pさんはそういうところありますよね」
P「ロックじゃない?」
李衣菜「これはロックとは別です」
P「別なのか」
李衣菜「別ですー。これは乙女心とかそういうのです」
P「乙女心……俺にはわからないな」
李衣菜「アイドルのプロデューサーがそんなので大丈夫なんですか?」
P「微妙だな」
李衣菜「微妙なんですか……」
P「李衣菜はどう思う?」
李衣菜「え? ……その質問、ずるくないですか?」
P「そうか? 俺、心配だなー。李衣菜にどう思われてるのかなー」
李衣菜「……そんな風にからかうPさんは、プロデューサーとしてダメだと思います」
P「それは残念。……ん、ここ、出るのか」
李衣菜「一気に雰囲気変わりますよね」
P「そうだな。ビルが立ち並んで、さっきまでのごちゃごちゃした感じがなくなる……で、そろそろらしいんだが……どこだ?」
李衣菜「どこなんですか?」
P「んー……地図ではここだな」
李衣菜「えっと……今、こっちを向いてるから……それにしても、スマホって便利ですね」
P「今言うか? ……で、ここからだと……あそこか?」
李衣菜「みたいですね。それじゃ、行きましょう」
P「ん。……しかし、誰もいないな。やっぱり早かったか……」
李衣菜「ま、まあ、もしかしたら中に入っているのかもしれませんし。前に誰もいないならそれはそれでいいんじゃないですか?」
P「……李衣菜、お前は優しいな……」
李衣菜「……こういう時に言われても、ちょっと複雑です」
――ビルの前
李衣菜「ここ……ですか?」
P「だな。このエレベーターで上がった7階にある」
李衣菜「7階……高いですね」
P「高いか? そういう店くらい、いくらでもあると思うが……」
李衣菜「ありますけど……私、もっと、こう……どこかのフロア、とかじゃなくて、そのお店、って感じのを想像していたので」
P「あー……そういうのの方が良かったか?」
李衣菜「うーん……でも、こういうところもロックな気がします!」
P「何がロックなんだよ……とりあえず、上がるか」
李衣菜「はい!」
――店内
P「で、だ。何にする? 李衣菜」
李衣菜「……PさんPさん」
P「ん?」
李衣菜「思ってたのとだいぶ違うんですけど……! なんか、もっとこう、わちゃわちゃしてる店を想像してたのに……」
P「そうか? というか、李衣菜なら知ってると思ってたんだが」
李衣菜「へ?」
P「ここ、結構有名な店だぞ? 『世界一の朝食』……だったか。こういうの、俺よりも李衣菜の方が知っていると思っていたんだが」
李衣菜「世界一の朝食……あ、何かで聞いたことあるような気がします」
P「そう言われているのがここ、ってわけだ。それで、パンケーキは頼むとして……ここはスクランブルエッグも有名らしい。頼んでいいか?」
李衣菜「え、あ、はい。大丈夫です」
P「他に何かほしいものは?」
李衣菜「えー、と……なんだか、よくわかりません」
P「あー……正直俺もよくわかってない。だが、結構量が多いみたいだからな。パンケーキもスクランブルエッグもそこそこ大きい。だから、これ以上は頼まない方がいいかもしれない」
李衣菜「それじゃあ、これで」
P「了解。じゃ、頼むか」
――
P「まずはスクランブルエッグ、っと」
李衣菜「……スクランブルエッグ?」
P「『スクランブル』してないだろー、ってなるな。実際、ここのは数回かき混ぜるだけで、オムレツにも近い……らしい」
李衣菜「へー……でも、なんか、綺麗ですね。イメージしてたのとは全然違いますけど、食べてみたいです」
P「まあ、今から食べるんだけどな。それじゃ、いただきます」
李衣菜「いただきます」
李衣菜(……でも、これ、どうやって食べるかちょっと迷うな……と、とりあえず、切り分けて、一口……)パクッ
李衣菜「……ん」
李衣菜(これは……おいしいとかそういうのより前に、新感覚、って感じかも! 口当たりは柔らかくて、滑らか。とろっとしているけど、弾力もある。食感からして初体験って感じ!)
李衣菜(味もいいなー。濃い味付けじゃないんだけど……洗練されている、って感じ? 卵自体のおいしさ、バター、クリームの風味が一緒になって……なんだか、新しい料理を食べているような感じがする)
李衣菜(塩コショウもあるけど……べつにいらないかも。確かに薄味だけど、この食感と風味だけで十分幸せだなー。これが『世界一の朝食』……って、それはパンケーキの方なのかな? でも、スクランブルエッグだけでもちょっとわかるかも)
P「うまいな、李衣菜。『スクランブルエッグ』か? とはなるが」
李衣菜「まあ、それは確かに思いますけど……おいしいですね。なんだか、食べたことない感じです」
P「口当たりからしてあまり他では経験できない感じだな。しかし、スクランブルエッグでこれだと、パンケーキも期待できそうだな」
李衣菜「そうですね! こんな魔法みたいなものをつくれちゃうんだから、パンケーキもきっとおいしいです!」
P「魔法……魔法か。かわいい表現するな」
李衣菜「む。それ、褒めてます?」
P「褒めてるつもりだ」
李衣菜「それならありがとうございます」
P「『それなら』って……まあ、いいか」
――
李衣菜「パンケーキ……確かに、結構大きいですね」
P「大きいというか、三枚あるな。そのそれぞれにバターが乗っていて、隣にあるのがバナナか」
李衣菜「一枚一枚も厚いですね。……シロップ、かけちゃいます?」
P「ん、もうかけちゃうか。思いっきり」
李衣菜「はい! それじゃ、一気に……」トロー
P「おお……結構量あるな。甘そうだ」
李衣菜「それがいいんですよ! たぶん!」
P「そうか? というか、李衣菜、ちょっとテンション高いな」
李衣菜「こういうのを前にしたら、テンション上がりません?」
P「その気持ちは……わかる」
李衣菜「でしょ? それじゃ、食べちゃいましょう!」
P「だな」
李衣菜(ということで! 早速切り分けて……よし。それじゃ、いただきます)パクッ
李衣菜「……ん~!」
李衣菜(おいしい! シロップで結構ひたひたにしたと思うんだけど、甘さがあんまりくどくない……気がする! 上品な甘さ……っていうのかな。そんな感じがする)
李衣菜(食感もふわふわしっとりでいい感じ。口の中でふわっと上品な甘さでとけていく……みたいな? いや、とけるわけじゃないかも。ふわっ、しっとり、じゅわー……って感じ?)
李衣菜(幸せな甘さなんだけど、ちょっとしょっぱいような感じもして……これはバターかな? あまじょっぱい。でも、やっぱり甘さの方が強い感じ。でもでも、くどいってわけじゃなくて……うん、とにかく、おいしい!)
李衣菜「おいしいですね! Pさん!」
P「そうだな。かなり甘いんだが、そこまでくどくない。と言っても、この量を一人で、ってなったらキツそうだが」
李衣菜「そうですか? あ、でも、確かにこの量は多いですね」
P「頼みすぎないでよかったな」
李衣菜「ですね」
P「……それじゃ、残りも食べるか」
李衣菜「はい。あ、Pさん。バナナちょっともらいますね」
P「ああ。俺も、バナナで一緒に食べてみるかな……」
――店の外
李衣菜「はー……おいしかったですね、Pさん! 今日はありがとうございました!」
P「こちらこそ。俺も、こういうことがなければ来なかっただろうしな」
李衣菜「じゃあ、お互い様、ですね」
P「それはちょっと違う気もするが……そう言えば、李衣菜。この後の予定は?」
李衣菜「特にないですね。Pさんは?」
P「俺も今日は特にないな。だからこそ、誘ったわけだしな」
李衣菜「そうですか……なら、Pさん、買い物に付き合ってくれませんか?」
P「買い物? 何を買うんだ?」
李衣菜「何を……それはまだ、決めてませんけど」
P「決めてないのか」
李衣菜「はい」
P「……いつまでかかりそうだ?」
李衣菜「夜までかかるかもしれません」
P「そうか。……まあ、今日一日は暇だからな。買い物、行くか」
李衣菜「いいんですか? やったー!」
P「……お前、そこで一気にテンション上げるのか」
李衣菜「だって嬉しいんですもん! ほら、早く行きましょう! 一日は短いんですから!」
P「いや、結構長いと思うが……あ、ちょ、李衣菜。走らせるな。食べたばかりなんだから……!」
終
終わりです。ありがとうございました。
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