【艦これ】電「トイレの花子さん?」 (79)
――それはある日、遠征から戻ったときの出来事でした。
電「今日も無事に終わって良かったのです」
雷「資源もたくさん手に入ったし、司令官も喜んでくれるかしら?」
響「ここ最近は出撃が多くて資源も不足気味だったからね。きっと喜んでくれるさ」
暁「ご褒美にアイス券でも貰えないかしら!」
私たちはいつものように遠征を終え、報告のために執務室へと向かっていました。
天龍「おらーガキ共! くっちゃべってないでさっさと報告済ませて飯にしようぜ!」
駆逐艦一同「「「「はーい!!」」」」
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電「……っと、その前にお手洗いに行ってきてもいいですか?」
天龍「あー? 便所なら報告済ませてからでもいいじゃねーか」
暁「べっ……! もうっ! もう少しビブラートに包んで言ってよね! レディーの前なんだから!」
響「ビブラートじゃなくてオブラートだと思うよ、れでぃー」
暁「ど、どっちでもいいじゃない! 妹のくせにいちいち揚げ足取らないでよね!」ムキーッ
帰港する途中からずっと尿意を我慢していた私は、一刻も早くお手洗いに行きたかったのです。
天龍「じゃあ先に行って執務室前で待ってるから、早く済ませてこいよ」
電「分かったのです」
雷「一人で大丈夫? 何ならついていってあげてもいいのよ?」
電「べ、別にお手洗いぐらい一人でいけるのです!」プンスカ
そう言って、私は皆と離れて一人お手洗いへ向かいました。
―― 渡り廊下脇トイレ ――
電「間に合ってよかったのです……」ギィ
そのトイレは、鎮守府の正門玄関から執務室へと向かうルートの中間にあります。
寮や食堂からも離れた位置にあるため、遠征や出撃の帰りでもない限り、滅多に使うことがないトイレでした。
電「(……誰もいないのかな?)」
電「(今日は他に出撃している人もいないし、誰もこのトイレを使わなくても仕方ないのです)」
電「早く済ませて執務室に行かないと――」
ふとその時。
私はあることに気が付きました。
トイレの一番奥の個室。
正面から見て右から3番目の個室の扉だけが、ぴったりと閉ざされていることに。
電「(誰かが入ってるのかな?)」ホッ
雷ちゃんには平気だと言いましたが、正直言うと一人でお手洗いに行くのは少し怖かったのです。
このトイレは普段あまり使われていないうえ、建物の北側に位置しているため、日当たりも悪く昼間でも薄暗いことで知られていましたから。
電「(ちょうど隣の個室も空いてるし、早めに済ませようっと)」ガチャ バタン
一人で心細かった私は、誰かが使用している個室の隣――右から2番目の個室に入りました。
この薄暗い空間の中でもすぐ隣に誰かがいるというだけで、少しでも安心できましたから。
――――――――
―――――
―――
電「……ふぅ」ザーッ
電「(早いとこ手を洗って執務室に行かないと)」ガチャ バタン
用を済ませた私は、個室から出ると手洗い場に向かいました。
蛇口をキュッとひねると、中から冷たいような生温いような、何ともいえない温度の水が勢いよく流れ出します。
そうして手を洗っている最中に、私はあることに気が付きました。
電「(……いくらなんでも静かすぎるのです)」
普通誰かが個室に入っていれば、水を流す音や紙を手に取る音、息遣いや衣擦れの音がしてもおかしくないはずです。
それなのに、
このトイレに入ってから今に至るまで、
例の個室の中からは、物音一つ聞こえませんでした。
電「(もしかして、誰も入ってないのでしょうか?)」
電「(ただ単に扉が閉まっているだけで、鍵はかかっていないとか?)」
電「(でももし、中に誰かいたとしたら……)」
個室に入ったはいいものの、その中で物音一つ出せない状態に――すなわち、意識を失っている?
居眠りしているだけならまだいいけれど、もし急病などで倒れてしまっていたら?
電「(……確かめてみないと)」
誰かが内側から鍵をかけたまま個室内で倒れてしまっているのだとしたら、一刻も早く助け出さないといけません。
私はハンカチで手を拭くと、足早に閉ざされた個室の前へと向かいました。
電「……あの、誰か入ってますか?」
返事はない。
電「もし入ってるなら内側からノックをしてほしいのです」
返事はない。
電「体調が悪いなら誰か呼んでくるのです」
返事はない。
電「…………」
このまま呼びかけていても埒が明かない。
そう思った私は、意を決して扉をノックしました。
コン コン コン
無機質な硬い音が、不気味なほどに静まり返ったトイレの中で反響します。
しかし相も変わらず、個室の中から返答はありません。
電「やっぱり誰もいないのですか……?」
誰ともなしに一人呟きながら、ドアノブに手をかけて回してみると、
電「あれ? やっぱり鍵がかかってるのです……」カチャカチャ
てっきり誰も入っていないものと思われた個室には、中からしっかりと鍵がかけられていました。
それはつまり、今もこの個室内に誰かがいるということ。
にもかかわらず、こちらからの呼びかけやノックに応答できない状態にあるということは――
電「……だ、大丈夫ですか!? 気を失ってるなら起きてほしいのです!」ドンドンドン!!
中で意識を失っているであろう誰かを起こすために、私は扉を何度も激しく叩きました。
しかし、どれだけノックを繰り返しても、何度声をかけようとも、
中にいる誰かが目を覚ます気配は一向にありません。
電「……っ! すぐに人を呼んでくるから待っててほしいのです!」
このまま呼び続けても意味がないと判断した私は、恐らくは聞こえていないであろう相手に対し、そう言い残してトイレから駆け出そうとしました。
と、その時――
ザザーッ
今さっきまで静まり返っていた個室の中から、水の流れる音が聞こえてきました。
ぴたり、と硬直する体。
しーんと静まり返っていたトイレの中で、水の流れる音だけが響きわたります。
大した音量ではないはずですが、静寂が支配するこの空間においては、まるで濁流が発する轟音のようにも感じられました。
咄嗟のことに体と思考が固まってしまった私でしたが、そこに追い打ちをかけるように、今度は個室のドアがギィィとゆっくり開け放たれました。
電「……だ、大丈夫なのですか?」
きっと先ほどの必死の呼びかけが功を成して、中にいた人が意識を取り戻したのだろう。
私はそう思い、恐る恐る声をかけました。
しかし、
開かれたドアの中からは、誰も出てこようとはしません。
電「あ、あの……どうかしましたか?」
一歩 また一歩。
まるで誘蛾灯に吸い寄せられる羽虫のように、おぼつかない足取りで例の個室へと近付いていきます。
そうして、開け放たれた個室の目の前までたどり着いた私が、恐る恐る中を覗き込むと――
そこには、誰もいませんでした。
一旦ここまでになります。
久々に学校の怪談シリーズ(映画)を見て、書きたくなって書きました。
初投稿ですので指摘があればお願いいたします。
懐かしやサンダンス・カンパニー
個人的には陽の気配が一番強く感じられた2がお気に入りだった
エンドロールの曲がどれもいいんだよなこれがまた
コメントありがとうございます
>>13
2のEDいいですよね。花時計で天に昇っていくシーンのBGMも好きです
あとは1のノスタルジックな雰囲気もお気に入りだったり
それでは再開します
――
――――
――――――
天龍「おっせーなぁ、電のやつ」
響「きっと大きい方を「お下品よ!」……悪かったよ、暁姉さん」
雷「でも一体いつまで待たせるのかしら」
天龍「だよな。こっちはもう腹ペコだっつーのに……ん?」ドドドド
雷「? 何の音かしら?」ドドドドドド
暁「何かが近づいてきてるみたいだけど……」ドドドドドドドド
響「あれは……電?」ドドドドドドドドドドドド!!!!
雷「で、でででで、出たのですうううううううううううう!!!!」ズシャァー!!
天龍「うおおっ!? どうしたいきなりヘッドスライディングかまして!?」
雷「出た! 出た! 出た! 出たのです!!」
響「そんなに大きいのが出たのk「響!!」……冗談だよ姉さん」
雷「お、落ち着きなさい電! 一体何が出たの?」
電「じ、実はさっきトイレで――」
かくかくしかじか
天龍「はあ? なんだそりゃ?」
暁「ほ、ほんとに中に誰もいなかったの?」
電「ほんとなのです! 最初は中に誰かが入ってると思ったけど、ノックしたり呼びかけても返事がなくて、でも鍵はちゃんとかかってて……
トイレから出ていこうとしたら水が流れる音がして、ドアが開いたので中を覗き込んだら誰もいなくて、それでそれで……!!」アワワワ
響「ストップ。ほら、もう一度落ち着いて深呼吸してごらん」
電「すーっ、はぁー……すーっ、はぁー…………ご、ごめんなのです。もう大丈夫です」
雷「水の流れる音は聞き間違いじゃない? 海も近いし波音と勘違いしたとか……」
響「たしかにこの鎮守府は海に隣接しているけれど、さすがにあのトイレにまで波音が届くことはないんじゃないかな」
暁「それに今日は波も穏やかだし……」
雷「うーん、そうよねぇ……じゃあドアの立て付けが悪かっただけで、ほんとは鍵なんて最初から掛かってなかったんじゃ――」
響「仮に鍵が掛かっていなかったんだとしても、トイレの水を流した“誰か”が個室の中にはいたはずだよ。それなのに電が中を覗いたら誰もいなかった。
ドアの鍵が掛かっていようがいまいが、この不可思議な現象の説明にはならないさ」
暁「じゃ、じゃあやっぱり電の言う通り……?」
響「幽霊が」
雷「出たってこと?」
電「なのです!!」
天龍「幽霊ねぇ……こんな真昼間からそんなもんが出るのかよ?」
電「し、信じてほしいのです! 間違いなく見たのです!」
天龍「別に幽霊の姿をがっつり見たわけじゃねーんだろ? ただ単に、誰もいないはずのトイレで勝手に水が流れただけじゃねーか」
電「それが幽霊の仕業なのです! じゃないと説明がつかないのです!」
天龍「故障かなんかで勝手に水が流れたんじゃねーか? で、ドアが勝手に空いたのは隙間風か何かのせいだろうよ。こんなところに幽霊が出てたまるかってーの」
電「ど、どうして信じてくれないのです!? 嘘や見間違いなんかじゃないのです!」
天龍「別にお前の言ってることを疑ってるわけじゃねえよ。ただ単に幽霊の存在を信じられないだけさ。ほら、全員揃ったんだしさっさと中入って報告するぞ」コンコン
提督『入れ』
天龍「うーっす、第2艦隊、たった今帰還したぜ」ガチャ
提督「お疲れさん。結果はどうだった?」
天龍「へへっ、聞くまでもねーだろ?」
暁「大!」
響「成」
雷「功!」
電「……なのです」
提督「ははっ、よくやったな皆。ご褒美にアイス券でも……ってどうした、電?」
電「……何でもないのです」シュン
提督「? 遠征は成功したのにやけに元気がないじゃないか」
天龍「あー……実はさ、提督」
かくかくしかじか
提督「……トイレで幽霊を見た?」
天龍「正確には“見て”はいないみたいなんだが……」
電「……ほんとに幽霊がいたのです。嘘じゃないのです」ムスーッ
雷「司令官、電は嘘をつくような子じゃないわ」
響「うん。それは間違いない」
天龍「俺も電のことを嘘つき呼ばわりするつもりはないんだが、どうにも幽霊なんてモンを信じられなくてさ。
それで機嫌を損ねちまったみたいで……提督? どうしたんだよ難しい顔して」
提督「…………あの噂は本当だったのか」
天龍、暁、響、雷、電「「「「「……えっ?」」」」」
――この世に深海棲艦が現れてから数年。
人類は艦娘という対抗手段を用いて、日夜激戦を繰り広げてきた。
その甲斐あってか、昨今に至るまで人類は海を失わずに済んでいる。
しかし、それでもなお深海棲艦の猛攻が止むことはない。
むしろやつらは年々その数を増し、これまで安全と思われていた海域にまで侵攻してくることも多々あった。
絶え間なく、そして何の前触れもなく各地に出没する深海棲艦。
そんなやつらに対抗すべく、政府と軍は沿岸部のいたるところに鎮守府の設置を急いだ。
通常兵器では歯が立たない深海棲艦に対し、唯一有効打を持ちうるのが艦娘であり、その艦娘たちの拠点となるのが鎮守府であったからだ。
提督「しかし、全国各地に鎮守府を設置するのは言うほど簡単なことではなかった」
深海棲艦により交易手段を制限された日本は、島国が抱える弱点――物資の枯渇に直面していた。
また、深海棲艦により破壊された町々の復興や、傷ついた人々の治療にも多くの資金が必要となる。
早い話、鎮守府の設置には金がかかるのだ。
出撃や帰還の際に使用する港さえあればいい、というわけではない。
傷ついた艦娘を治療するための入渠ドック。
新たな兵器や装備を開発するための工廠。
そして、時には一つの鎮守府に100を越える艦娘が所属することも珍しくないため、彼女らの居住スペースも必要になってくる。
戦争で疲弊した日本に、それだけの施設を短期間で数多く設置することは困難を極めたのだった。
提督「そこで立案されたのが、現存する施設を鎮守府として再利用するというものだった」
放棄された漁港を、
沿岸部に立ち並ぶ工場を、
そして、病院やホテルなどの大型建造物を、
一から施設を建てるのではなく、深海棲艦の出没により人々が寄り付かなくなった各施設を、鎮守府として再利用することにしたのである。
提督「そうすれば費用を大幅に削減できるし、何より短期間で鎮守府を設立させることもできる。もちろん施設の元の所有者や自治体には許可を得た上でだが」
提督「で、その例に漏れず、この鎮守府も元は別の目的で建てられた“ある施設”を再利用したものだ」
暁「ある施設って?」
提督「……学校だよ」
提督「元々この建物は学校として使われていたんだ。とは言っても、深海棲艦が現れる十数年前には既に廃校になっていたがな」
響「だいぶ前に廃校になった割には、あまり建物が傷んでないように思えるけど?」
提督「廃校になった後も、自治体や卒業生たちが定期的に清掃活動なんかを行っていたらしい。
おまけに鎮守府として再利用するにあたって、ガタがきていた部分だけは改築したからな」
天龍「へぇ……俺たちは学校になんざ通ったことがないからな。ここが昔学校だったなんて気付かなかったぜ」
提督「まぁそれもそうか。でも部屋の造りはもろに教室だし黒板や教卓なんかも残ってるから、見る人が見たらすぐに気付くと思うぞ」
電「……そ、それで、さっき司令官さんが言ってた“あの噂”っていうのは何なのですか?」
提督「ああすまん、少し話が逸れたな」
ごほん、と提督は咳払いをすると、声のトーンを落としてこう切り出した。
提督「お前たち、“トイレの花子さん”って、聞いたことないか?」
天龍「トイレの?」
雷「花子さん?」
電「なのです?」キョトン
響「誰だいそれは?」
提督「一言で言うとだな、トイレに出るといわれる幽霊だよ」
暁「ゆ、幽霊……?」
提督「俺やその前後の世代の大人なら、ほぼ確実に一度は耳にしたことのあるぐらい有名な話さ」
学校の女子トイレに入ると、個室の一つが閉まっている。
その個室のドアをノックし、花子さんの名前を呼ぶと――
提督「か細い女の子の声で返事があったり、ドアが開いたと思ったら白い手が出てきて便器の中に引きずり込まれたり、
色々と話に派生はあるが、女子トイレに出る女の子の幽霊という部分は共通してるみたいだな」
電「じゃ、じゃあ電が見たのは、そのトイレの花子さんなのですか?!」
天龍「けどよ、呼びかけても返事が無かったって言ってたじゃねーか。提督の話だと、中から声が返ってくるはずだろ?
それに便器の中に引きずり込まれてもねえし」
提督「さっきも言ったように色々と派生があるからな。花子さんの噂自体、日本各地のありとあらゆる学校に存在してるし、場所や時代によって微妙に噂の内容も変わるのさ」
響「つまり、トイレに出る幽霊を総じて“花子さん”と呼ぶってことかな?」
提督「まぁそんなところか? 他の幽霊や妖怪の話もあるみたいだが、一番有名なのは花子さんだからな。トイレに出る幽霊=花子さん、みたいな認識が多いのは間違いないだろう」
暁「で、でもまだ花子さんが出たと決まったわけじゃないわ! 電の勘違いっていうことも……」
提督「……ここに着任したとき、地元の人から聞いたんだよ」
曰く、この学校のトイレには昔から“花子さん”が出るという噂がある――
提督「この建物を管理していた人から聞いた話だ。その人……もう40近いおじさんなんだが、この学校の卒業生らしくてな。
その人が在籍していた頃からそういう噂話があったらしい。学校内だけじゃなく、この地域全体でも有名な話なんだそうだ」
提督「で、その花子さんが出ると言われていたトイレが、電がさっき使ったという――渡り廊下脇のトイレ、らしい」
電「じゃ、じゃあやっぱり……!」ガクガクブルブル
雷「だ、大丈夫よ! お姉ちゃんがつ、つつつつ付いてるから!!」ビクビク
暁「こっ、ここここ怖くなんてないんだから!!」ガタガタガタガタ
響「……うん、怖くない。怖くなんてないさ。怖いはずがない」ギュッ
天龍「――ハッ! 馬鹿馬鹿しいったらありゃしねえ!」
電「天龍さん……?」
天龍「幽霊なんて不確かなモンが存在するわけねーだろ」
天龍「姿をはっきり見たってんならともかく、水の流れる音が聞こえただけだろ?」
天龍「その花子とかいう女の声を聴いたわけでも、何かされそうになったわけでもねーのにビビりすぎだっつーの」
電「け、けど……!」
天龍「それに、百歩譲って幽霊がいたとしても、そんなモンにびびってどうするよ。俺たちゃ幽霊なんかよりもよっぽど恐ろしい敵と毎日戦ってんだろうが」
提督「たしかに、幽霊よりも深海棲艦のほうがずっと怖いかもな。見た目も、実害の規模も」
天龍「だろ? なのに幽霊ごときにびびってるようじゃ、この先出撃なんてできやしねぇぞ?」
雷「それは……そうかもしれないけど」
電「でもやっぱり怖いものは怖いのです!」
天龍「はぁ……だったらもうあのトイレを使わないようにすればいいだけだろ? 提督が聞いた話でも、幽霊はあのトイレに出るっていうことだったよな?」
提督「ああ」
天龍「なら簡単だ。あのトイレに入りさえしなければ、もう幽霊に会うこともないだろ」
響「……それもそうだね」
雷「なーんだ、ならもう大丈夫じゃない!」
電「うう……でも幽霊が同じ建物の中にいるだけで怖いのです」
響「心配しなくても大丈夫さ。現にさっきも何もされなかったんだし、トイレにさえ近づかなければ平気だよ」
暁「そ、そうね。響の言う通りだわ! 電、そんなに怯えなくても大丈夫よ! いざとなったら私が守ってあげるから!」フンス!
電「暁ちゃん……」
響「そうだよ電。僕も付いててあげるからさ」
雷「怖くなったら私を頼ってもいいのよ?」
電「響ちゃんに雷ちゃんも……皆ありがとうなのです!」
天龍「じゃ、一件落着ってことで……提督! ほら、何か俺たちに渡すものがあっただろ?」
提督「ん? ……ああ、そういえばアイス券を渡そうとした途中だったな。ほれ」スッ
天龍「サンキュー! よっしゃ、早速間宮まで食いに行こうぜ!」
電「はい! 提督、アイス券ありがとうございました」
提督「気にするな。それよりも怖がらせてしまったみたいで悪かったな。明日は出撃もないし、ゆっくり休むか思いっきり遊ぶかして嫌なことは忘れた方がいい」
電「分かったのです!」
暁「じゃあね司令官」
響「これで失礼させてもらうよ」
雷「次の遠征も司令官のために頑張るから! またよろしくねっ!」バイバーイ
ガチャ バタン
提督「……さて、俺も早く仕事を片づけて一服するかな」
提督「(――本当に、何事もなければいいんだがな)」
―― 窓の外 ――
??『(ふふ……面白そうな話を聞いちゃいました♪)』
今回はここまでになります
また今夜投稿させていただきます
再開します
―― 翌日 執務室 ――
提督「すまん阿武隈、そこの書類を取ってくれ」
阿武隈「これですか? はいっ」スッ
提督「ありがとう。にしてもすまないな、朝から書類仕事を手伝わせてしまって」
阿武隈「秘書艦なんだから手伝うのは当然です。気にしないでください」
提督「しかし、本当なら昨日のうちに私が終わらせておくべき仕事だったのに……」
阿武隈「もうっ! 提督は変なところで律儀というか謙虚というか……いつもは遠慮なしにあたしのことイジってくるくせに!」
提督「ははは、それは阿武隈が可愛いすぎるせいだから仕方ないさ」キリッ
阿武隈「かっ……!? もう! だからそういうところが――」 ドドドドドドド
バーン!!
提督「うぉっ!?」 阿武隈「きゃっ!」
大淀「て、提督! 大変です! すぐ来てください!」ハァハァ
提督「い、いきなりどうした大淀? せっかく照れる阿武隈の姿を堪能して……ゴホン! ノックもせずに入ってくるとはお前らしくもないぞ」キリッ
阿武隈「もぉぅ、急にドアを勢いよく開けるもんだからびっくりしました。あと提督は後でお仕置きです!」 エェ…イケズゥ
大淀「す、すみません、慌てていたもので……それより提督、すぐに食堂まで来てください!」
提督「? 食堂で何かあったのか?」
―― 食堂 ――
ザワザワ ガヤガヤ
五月雨「こ、これって本当なの?」
雪風「うぅぅ……怖いですぅ」
潮「ど、どうしよう曙ちゃん……」
曙「心配いらないわよ! どうせたっ、ただの噂話でしょ……」
ギャーギャー ワーワー
提督「……こりゃ一体何の騒ぎだ?」
阿武隈「みんな掲示板の前に集まって、何か騒いでますね」
大淀「……原因は掲示板に貼られている新聞です」
提督「新聞って、青葉が毎週発行してる鎮守府内報のことか?」
大淀「ええ。とりあえずその内容を読んでみてください」
提督「ふむ、どれどれ?」
『スクープ! 呪われた鎮守府! 渡り廊下脇トイレに潜む悪霊、その名は“花子さん”!』
昨日、駆逐艦のIさんが遠征から戻った際、渡り廊下脇のトイレで世にも恐ろしい幽霊を目撃した。
~ 中略 ~
提督の談によると、当鎮守府は昔学び舎として使われていたらしく、その時から幽霊の噂は存在していたという。
幸いなことにIさんは無事だったが、この花子さんという幽霊は人をトイレの中に引きずりこむらしい。
なので当面は件のトイレに近付かない方がいいだろう――。
提督「青葉のやつ、さてはあの時盗み聞きしてやがったな……」
阿武隈「て、ててて提督! この話ってほんとなの……?」
提督「あー……一部(ここが以前学校だったこと)は本当だが、実際に幽霊がいるかどうかは分から――」
初霜「み、みんな聞いた!? 提督が本当のことだって!」
漣「えー……これマジなんですか?」ウワァ…
不知火「し、しししし不知火には関係ありません。私が怖がるとでも?」ビクビク
白露「青葉さんのガセネタだと思ってたのに……うぅぅ」ガクブル
提督「……あー」
大淀「提督! 皆さんを余計に怖がらせてどうするんですか! この新聞のせいで朝から鎮守府中がパニック状態だっていうのに!」
提督「す、すまん……というか元を正せば青葉のせいだろう!」
青葉「お呼びになりましたかー?」ヒョコッ
提督「あっ、てめっ青葉! なんだこの記事は!?」
青葉「なにって、私は真実を書いただけですよ?」
提督「こんな内容を記事にして、皆が怖がるとは思わなかったのか?」
青葉「いやぁ、正直私もここまで反響があるとは思わなくて……てへっ☆」
提督「お前なぁ……」
大淀「提督、青葉さんへの罰は後で考えるとして「えっ!?」ひとまずこの騒ぎをどうにかしないと」
提督「そうだな。このままでは出撃や業務にまで支障をきたしかねん。阿武隈、すまんが騒いでいる駆逐艦の子たちをまとめて……阿武隈?」
阿武隈「ひゃいっ!? な、なななななんですか? 怖くなんてありませんよぅ!!」ガクガクブルブル
提督「(どう見ても怖がってる阿武隈の半泣き顔ご馳走様です)」
それから数日。
花子さんの噂が広まって以降、(主に駆逐艦たちの間で)一人でトイレに行けなくなる者が続出した。
天津風「ね、ねぇ島風? 今からお手洗いに行こうと思うんだけど、もし良かったら付いてきてもいいのよ?」モジモジ
島風「へ、へぇー、奇遇だね。ちょうど私も行こうと思ってたところだから、一緒に行ってあげる!」モジモジ
昼でも夜でも関係なく、いわゆる『連れション』というものが艦娘たちの間で流行となった。
三日月「長月ぃ…えっと、そのぉ~……」オドオド
長月「はぁ……またトイレか? 仕方ないな」ヤレヤレ
深海棲艦には勇敢に立ち向かえる艦娘たちでも、幽霊という得体のしれない存在は恐怖の対象となるらしい。
かくしてトイレの花子さんは、鎮守府を恐怖のどん底へと叩き落としたのであった。
提督「……やっぱり、いつまでも放っておくわけにはいかんよなぁ」ハァ…
大淀「そうですね。このままでは士気の低下を招きます」
提督「連れション自体に目くじらを立てるつもりはないが、四六時中怯えながら過ごすのは精神衛生上よろしくないだろうし……阿武隈もそう思うだろ?」
阿武隈「へっ? え、ええ、そうですね……はい」モジモジ
提督「? どうしたんだ、妙にもじもじして」
阿武隈「うー……そ、そのぉ~、提督ぅ……」モジモジ
阿武隈「一人じゃおトイレ行けないよぉ…」上目遣い
提督「僕がトイレさ」キリッ
大淀「おい」
提督「――冗談はさておき、解決策を考える必要があるな」
大淀「真っ先に思いつくのはお祓いですかね」
阿武隈「お祓いって、お坊さんでも呼ぶんですか?」 ※ちなみに阿武隈は大淀さんに付き添ってもらって無事トイレに行けました
提督「う~ん、たしかに本職の方にお祓いなり除霊なりをしてもらうのが一番なんだが、如何せん、何の実害も出ていない時点でそこまでするのもなぁ」
大淀「まあ怖がってる子たちは大勢いますが、実際に誰かが危害を加えられたりしたわけじゃないですからね」
阿武隈「お化けの目撃情報も、電ちゃんが最初に遭遇して以降は一件も報告されてないんですよね?」
提督「ああ。前も言ったが電は嘘をつくような子じゃない。とはいえ信憑性に欠けるのも事実だし……」ウーン
大淀「とりあえずもう一度、現場を見に行ってみてはいかがでしょう?」
阿武隈「え゛っ?!」
大淀「ここで憶測を膨らませていても埒があきませんし、現場検証は大事かと」
提督「そうだな。他に妙案も思いつかんし、現場を調べてみたら何か分かるかもしれん」
阿武隈「(ええぇぇぇ?! 行きたくないよぉ!)」イヤダァァァ
提督「阿武隈も当然行くよな?」
阿武隈「わ、私は残って書類の整理を……」
提督「まさか来ないなんてことはないよなぁ? 一水戦旗艦まで務めた阿武隈が幽霊を怖いだなんて、駆逐艦の皆に示しがつかないもんなぁ? ん?」
阿武隈「くっ…! い、行きますよぉ! 行けばいいんでしょ!?」
大淀「(これはあれですね。好きな子には意地悪したくなるという男子特有の……)」
――
――――
――――――
提督「と、いうわけで件のトイレの前までやって来たはいいが……」チラッ
天龍「ん?」 電「です?」
提督「なんでお前らまでいるんだ? 天龍、電」
大淀「なんでも電さんが、私たちと同じくこのトイレを調査したいらしくて」
電「元はと言えば私が幽霊を見ちゃったから、こんな大騒ぎになってしまったのです……せめて真相を突き止めて、皆を安心させてあげるのです!」フンス
提督「(ええ子や……)」ジーン
阿武隈「(あんなに怖がってたのに……)」ウルッ
大淀「(小さいのに立派ですね)」ニコッ
電「……でもやっぱり一人は怖いので、天龍さんに付いてきてもらったのです」
天龍「ま、そういうことだ。どうせ幽霊なんていやしねえしな」ヘラヘラ
阿武隈「……天龍は幽霊のこと平気なの?」
天龍「あったりまえだろ? 存在しねーもんを怖がってどうするよ。あっ、もしかして阿武隈……お前、怖いのか?」ニヤニヤ
阿武隈「は、はぁ?! 怖いわけないじゃない!」ギクッ
天龍「の割には、さっきから提督の後ろに隠れてばっかじゃねーか」ニヤニヤ
阿武隈「こ、これはその……万が一幽霊が襲ってきたときに、秘書艦として提督を守らないといけないでしょ?
だから背中にくっつくことで死角になりやすい背後を守ってるのよ!」
提督「(不安げな顔で服の裾をぎゅっと握りしめてくる阿武隈かわいい)」
大淀「(幽霊の存在を認めている時点で怖いと言ってるのと同じでは……)」
電「さすが阿武隈さんなのです! 自分の身を盾にしてでも上官を守ろうとするなんて、軍人の鑑なのです!」
阿武隈「そ、そうでしょ! 電ちゃんはいい子だねぇ!」ヨシヨシ
天龍「ふーん……じゃあその勇敢な阿武隈さんに、先陣切ってトイレの中を見てきてもらおうか」ニヤニヤ
阿武隈「え゛っ! い、いやぁ、私はさっきも言ったように提督をお守りしないと――」
―――― ギィィィィ…バターン!!
一同「「「「「 !? 」」」」」
短いですが一旦ここまでになります
もうだいぶ暑くなってきましたし、昔みたいにもっと心霊番組や特集を放送してほしいものです・・・
>>1の好みに合うか分からないけどテレ東で
7/21の深夜からデッドストックってホラードラマ始まるよ
>>41
東宝版学校の怪談のオバケはそんなにはガチで殺しに来ないから……(震え声)
電「い、今トイレの中から……」
大淀「ドアが閉まる音……でしょうか?」
阿武隈「か、艦娘の誰かが中に入ってるのよ!!」
提督「……いや、このトイレは出撃か遠征の帰りでもない限り使うやつはいないはずだ。だが今日は出撃も遠征も一切予定に無い」
提督「寮にいるなら寮のトイレを使うだろうし、食堂や演習場の近くにもそれぞれトイレは設置してある。わざわざ離れた位置にあるこのトイレまで来るのはおかしい」
天龍「も、最寄りのトイレが混んでたから、わざわざこっちまで来たとかだろ?」
提督「前も言ったがここは元々学校だ。各トイレの個室の数は十分あるし、最寄りのトイレが駄目でも近くにまた別のトイレがある」
提督「たまたま周辺のトイレが全て使用中だった、なんてことはないだろう」
電「……じゃあ、もしかして」
阿武隈「は、はははは花子さんが?!」
???「……ライ……サ……ヨォ……」
提督「!?」
大淀「(だ、誰かの声……?)」
???「……ツ…ヨォ……シイ……」
天龍「(な、なんて言ってるんだ……?)」
阿武隈「(すごく苦しそうな声……)」ゾクッ
???「ツライヨォ……サミシイヨォ……」
電「ひっ!?」
天龍「でっ」
阿武隈「でたあああああああああああああああ!!!」
???「!? なになに!? ひょっとしてスクープですか!?」ヒョコッ
一同「「「「「……へ?」」」」」
青葉「あれ? 皆さん揃ってどうしたんです?」
提督「あ、青葉?」
青葉「はい、清く正しいジャーナリスト、青葉です!」ビシッ
――
――――
――――――
天龍「ったく、おどかすなよ! いや驚いただけで怖がってはねえよ?!」
大淀「誰に言ってるんですか天龍さん? というか青葉さん、なぜこんなところに?」
青葉「なぜって、噂を広めて皆を怖がらせた罰として、トイレ掃除を命じられたからじゃないですか!」プンスカ
提督「あ。そういやそうだったわ」
阿武隈「ていとくぅ……」
天龍「そういうことは早く思い出せよ!」
青葉「というか自分で命じておいて忘れるなんて、いくら罰とはいえ酷いです!」
提督「いやぁすまんすまん。すっかり頭から抜け落ちてたよ」
青葉「もう! いくら私でも、お化けが出るトイレを一人で掃除するのは辛くて寂しかったんですからね!」
大淀「あ、それでさっき『辛い、寂しい』と呟いてたんですね」ナットク
提督「で、掃除は終わったのか?」
青葉「もうほとんど終わりました。青葉、たとえ罰とはいえ仕事はきっちりこなすタイプなので」ドヤァ
提督「ああそう……それで、掃除中に何か異常はなかったか?」
青葉「いいえ。怪現象が起きたら写真に収めてやろうと、懐にカメラを忍ばせ神経を研ぎ澄ませながら掃除をしてましたが、なーんにも起きませんでした……」ガッカリ
阿武隈(勇気あるなぁ……)
大淀(ただ単に図太いだけの気もしますが……)
天龍「だーから言ったろ? 幽霊なんていやしないって」ヤレヤレ
電「でもやっぱり、気のせいや見間違いとは思えないのです!」
阿武隈「普段は控えめな電ちゃんがここまで言うんだし、ただの勘違いとは思えないんだけど……」
天龍「なんだよ、そんなに幽霊に存在してほしいのか?」
阿武隈「そういうわけじゃ……てか、いない方がいいに決まってるし!」
大淀「いずれにせよ、まだ検証不足だと思います。もっとよく調べてみてもいいかと」
天龍「はぁ~、めんどくせぇなあ……どれ」スウウゥゥ…
天龍「おいこら! 花子! いるんなら出てきやがれ!!」
電「て、天龍さん!?」
阿武隈「いきなり何よ?!」
天龍「もし幽霊が存在するんだったら、ただ待ってるだけじゃいつ出てくるか分からないだろ? だったらこっちから呼んでやりゃいいのさ」スウウゥゥ…
天龍「だんまり決め込んでじゃねーぞ花子ぉ! この天龍サマが相手になってやるから、さっさと姿を見せやがれ!」スタスタ
電「ひ、一人で中に入っていったら危ないのです!」
青葉「うわぁ……霊ってあんまり刺激しない方がいいんじゃないですか?」
阿武隈「ちょっと天龍! いい加減に――」
バーン!!!
一同『!?』
提督「し、閉まっていた個室のドアが……」ボーゼン
電「一斉に開いた……のです」ブルブル
天龍「……な、なんだってんだ――よぉっ!!?」グイッッ バターン!!
大淀「て、天龍さんが!!」
青葉「急に個室に飛び込んで……いえ、何かに引きずりこまれた!?」
電「て、天龍さんっ!!」ダッ!
提督「おい天龍! ここを開けろ!」ドン! ドン!
阿武隈「だ、駄目です! 中から鍵が掛かってるのか全然開きません!!」ガチャガチャ!
天龍『う、うわあああああああああああああああああああ!!!!』
一同『!?』ビクゥ!
提督「お……おい天龍! 悪ふざけはやめて早くここを開けろ!」ドン! ドン!
電「天龍さん! お願いだから出てきてほしいのです!」ガチャガチャ
青葉「これはスクープ……なんて言ってる場合じゃなさそうですね……天龍さん! 大丈夫ですか!?」ドン! ドン!
提督「くそっ! びくともしないぞ!」
天龍『やめろぉッッ! 来るんじゃねぇ!! 来るなあああああああアアア……っがァ!? ぐっ……ぐぇ゛ぇっっ……!!!』
???『……クスッ………キャハハッ……!』
電「い、今の笑い声は誰なのです……?」
大淀「……っ! 提督! こうなったらドアをぶち破りましょう!」
提督「くっ、仕方がないか……! 天龍! 今から体当たりでドアをぶち破るから、できるだけドアから離れていろ!」
阿武隈「提督、私も手伝います!」
提督「よしっ、せーのでいくぞ! せーのっ」タタタタッ ドーン!!
阿武隈「もう一回! せーのっ!」タタタタッ ドーン!!
提督「くそっ! せえーのぉっ!!」タタタタタタッ ドーーーン!!!
阿武隈「はぁ、はぁ……駄目です! 破れそうにないですぅ!」
提督「はぁ、はぁ……古い木製のドアなのに、どうしてこんなに頑丈なんだ……!」
天龍『がッ……く、カハ……ッ……!』
???『アハハハッ………クスクス………キャハハハ……!』
青葉「体当たりで駄目なら艤装を使ったらどうでしょうか!?」
提督「駄目だ! この至近距離で砲撃を食らったら、中にいる天龍もたたでは済まない!」
大淀「ですがこのままだと天龍さんが!」
電「うぅぅ……天龍さん……っ」ジワッ
電「……お願いなのです! 天龍さんを返してください!!!」
阿武隈「い、電ちゃん……?」
電「天龍さんは、ちょっと怖くて言葉遣いも乱暴だけど……私たちの大切な、大切なお姉ちゃんなのです!」グスッ
提督「…………」
電「遠征で失敗した時や、出撃して勝てなかったときも、いつも笑って励ましてくれるのです……」
青葉「電さん……」
電「非番の日には文句を言いながらも一緒に遊んでくれたり、たまに間宮さんのところでアイスをご馳走してくれたり……」
大淀「…………」
電「私の……私たちのお姉ちゃんを……!」グッ…!
電「天龍さんを返してください!!!!」
???『…………オネェ、チャン……?』
……ギィィィッ
一同『!?』
提督(ドアが……開いた!?)
電「てっ、天龍さん!!」ダッ
阿武隈「待って電ちゃん! 迂闊に近付いたらあぶな………?」
大淀「……どうやら大丈夫みたいですね」
青葉「個室の中には気を失ってる天龍さん以外、誰もいないみたいですが……」
電「天龍さんっ! しっかりしてください! 目を開けてほしいのです!!」ユサユサ
天龍「」
提督「完全に気を失ってるみたいだが…………よし、息はあるぞ」
電「よ、よかったのです……ふぅ……」フラッ ドサッ!
提督「お、おい電!? しっかりしろ! おい!」
大淀「どうやら安心したせいか、緊張の糸が切れて気を失ってしまったみたいですね」
提督「はぁ~、ったく。心配させやがって……」
青葉「提督、とりあえず二人を医務室まで運びましょう!」
提督「そうだな。俺は天龍を担ぐから、青葉は電を頼む」ヨッコラセッ
青葉「了解しました!」ヨイショ
阿武隈「提督、私も天龍を運ぶのを手伝いま……っ!?」
提督「? どうした阿武隈」キョトン
阿武隈「い、いえ……何でもない、です……」
提督「?」
大淀(……阿武隈さんも気付いてしまったみたいですね)
大淀(天龍さんの首筋に、くっきりと手形が残っていることに――)
――――――
――――
――
―― 医務室 ――
電「」スーッ、スーッ
天龍「」ウーン…ヤメロォ…
提督「天龍の方は何やらうなされてるみたいだが、ひとまず二人とも無事で良かった……」
青葉「せっかく衝撃映像が撮れるチャンスだったのに、カメラを回すのを忘れてまs……冗談ですからそんな目で見ないでくださいよぅ」テヘッ
大淀「……ですが結局、先程のは一体何だったんでしょう?」
阿武隈「ぜーーーったい花子さんの仕業ですよ!! 女の子の笑い声も聞こえたし……!」
提督「……あまり信じたくはないが、他に説明のしようがないしな」
大淀「青葉さんが仕込んだドッキリとかじゃないですよね?」
青葉「失礼な! いくらなんでもあんなタチの悪いドッキリはしませんよぉ!」
阿武隈「でも私たちがトイレに行く前から、掃除という名目であの場所にいたし……」ジーッ
提督「事前に仕掛けを施す時間はたっぷりあるな」フム
大淀「それになにより青葉さんですし」ジトー
青葉「そんなぁ!?」ガーン!
提督「ま、悪戯にしては凝りすぎてるし、青葉の仕業とは考えにくいか」
青葉「そう思ってるなら最初からそう言ってくださいよ!」
提督「普段の行いが悪いからだ馬鹿者」チョップ! アイテッ!?
大淀「しかし青葉さんの仕業でもないとすると、いよいよ幽霊の存在を認めないわけにはいかなくなりますね……」
阿武隈「天龍が挑発なんてするから、花子さんが怒って襲い掛かったんですよ、きっと!」
青葉「うぅー、でもそう考えるのが自然でしょうか」アタマサスリ
提督「……俺に少し、時間をくれないか」
大淀「えっ? 何か考えがあるんですか?」
提督「ここが鎮守府になる前……まだ廃校だった頃に、この建物を管理していた人に会って話を聞いてくる」
今回はここまでになります
レスありがとうございます
数日空いてしまいましたが再開します
―― あの怪現象から数日後 執務室 ――
大淀「――それで、なにか収穫はありましたか、提督?」
提督「ああ……その前に、あの時のメンバーは全員揃っているな?」
阿武隈「ええ」
電「なのです」
青葉「はいっ♪」
提督「……天龍がいないみたいだが?」
電「天龍さんは、その……」
青葉「あの一件以来、すっかりお化けを怖がるようになってしまいまして」
大淀「例の件について提督から話があるので、執務室まで来るようにと伝えたら『俺はいいから! もうあの時のことを思い出させないでくれ!』と言い残してどこかに行ってしまわれました」
提督「……まぁ別に強制ではないし、構わないか」
提督「それでだ。この前言ったように、先日この建物の元管理人に会ってきたんだが――」
~ 提督回想中 ~
提督「本日はお時間を取らせてしまって申し訳ありません」
管理人「いえいえ、しかしこうして直接お会いするのは久しぶりですね」
提督「そうですね。鎮守府が設立した時以来ですから、かれこれ2年ぶりでしょうか」
管理人「それくらいになりますかねぇ。それで、本日は一体どのようなご用件で?」
提督「いやぁ、どこから話していいものやら……何しろにわかには信じられないような話でして」
管理人「構いませんよ。あなたほどの階位の方がわざわざ出向かれるくらいですから、きっと深刻なお話なのでしょう?」 ※提督はそれなりの階位という設定です
提督「はい。実はですね……」
かくかくしかじか
提督「――ということがありまして」
管理人「…………」
提督「……やはり信じられないで「信じましょう」……えっ?」
管理人「信じましょう、その話」
管理人「……なにせ私自身も以前、誰もいないはずのあのトイレで聞いているんですよ……」
――女の子の笑い声を、ね
提督「…………」
管理人「私の知っている限りのことをお話ししましょう」
そう前置きして、管理人はゆっくりと語り出した――
あの学校……今は鎮守府ですが、建物自体は私が生まれるずっと前から存在していました。
たしか、廃校になる数年前に創立90年を迎えましたから、昭和元年頃に建てられているはずです。
昔はこの辺りも人口が多かったようで、大勢の子供たちで賑わっていたそうです。
海の幸に恵まれた、のどかでいて活気のある町でした……そう、戦争が始まるまでは。
物資が豊富で大きな港も保有していたこの町は、軍艦の停泊所として活用されることになりました。
活用といっても軍の拠点としてではなく、あくまで補給に立ち寄ったり、臨時の停泊場所として使われる程度でしたが。
ご存知かとは思いますが、当時は国民が一丸となって戦争に臨んでいましたからね。
漁師をはじめとする町民たちは、軍に港を提供することを嫌がったりはしませんでした。
むしろお国のためになればと、海兵さんに海の幸を振舞ったり、子供たちは子供たちで港に停泊中の軍艦を眺めては、目をきらきらと輝かせていたそうです。
――しかし、平和な日々は長くは続きませんでした。
終戦から数年前のある日、この町を空襲が襲ったのです。
軍艦が度々停泊するこの地を、重要な拠点の一つであると勘違いしたのでしょうか。
何機もの爆撃機が空を覆い、町という町を焼き尽くしたと聞いています……
そして、その魔の手は学校にまで及びました。
その日、学校には数人の生徒が残っており、皆でかくれんぼをして遊んでいたそうです。
その中には、まだ4月に入学したばかりの小さな女の子も混じっていました。
鬼役が数を数えるのを背に、女の子はまだ慣れない校舎の中を走り回りました。
そうして例の――あのトイレの、一番奥の個室に身を隠したのです。
この場所ならきっと見つからない。
最後まで隠れきってやる、と心を弾ませながら……
まさかちょうどその時、自身が潜んでいる校舎に異国の殺戮兵器が迫っているとも知らずに。
レシプロ機特有の轟音が耳をつんざき、数瞬の後に焼夷弾がばら撒かれました。
そして運の悪いことに、ばら撒かれた焼夷弾は女の子が身を潜めていたトイレの近くに着弾したのです。
未だかつて経験したことのない爆音と衝撃に、女の子の心は一瞬にして恐怖に満たされたことでしょう。
この時すぐ逃げ出せば、もしかしたら助かったのかもしれません。
しかし、恐怖と驚きで体は硬直し、その場から動けなかったのではないかと思います。
そうこうしている内にも火の手は勢いを増し、やがて炎に囲まれトイレから出られなくなり、そのまま……
女の子には同じ学校に通う、歳の近い姉がいました。
その日も恐らく、一緒に学校に残ってかくれんぼをしていたことでしょう。
女の子は死の恐怖と業火の中で、最期の最期まで「おねえちゃん、おねえちゃん」と、姉に助けを求め続けていたそうです……
提督「――以上が、管理人から聞いた話だ」
阿武隈「…………」
大淀「…………」
青葉「…………」
電「……かわいそうなのです」
青葉「……その亡くなった女の子が、花子さんの正体だと?」
提督「恐らくはな」
提督「空襲で木造校舎の約半分が焼け落ちたらしいが、終戦後に建て直され、再び学校として使われるようになった」
提督「教室の間取りや配置はほぼそのままに建て直され、例のトイレがあった場所にも再び新しくトイレが設置された」
提督「しかし、それからというもの例のトイレで不可思議な現象が相次いだらしい」
誰も入っていないはずの個室から女の子の声がする
個室で用を足している時、誰かに見られているような視線を感じる
トイレの前を通りかかった複数の生徒が突然貧血で倒れ、目が覚めたら皆が皆「炎の中で逃げ惑う夢を見た」と揃えて口にする
提督「そんなことが立て続けに起きたものだから、いつしかあのトイレには女の子の幽霊が……花子さんがいる、と噂されるようになったんだそうだ」
電「……司令官、お願いがあるのです」
―― 渡り廊下脇 トイレ ――
電「……花子さん、この前はトイレで騒ぎ立てたりしてごめんなさい」
電「初めて花子さんに会った時、電は何もされていないのに怖がってしまったのです」
電「それが原因で騒ぎが大きくなって、花子さんは悪くないのに皆からも怖がられるようになって……」
電「電たちがこの鎮守府に来る前から……まだ私たちが艦だった頃から、ずっとこの場所にいたのに……」
電「後から来た電たちが、花子さんを悪者扱いしてしまって、本当にごめんなさい!」
電「……でも、もうあの戦争は終わりました」
電「私たちの力が及ばず、戦争には負けちゃったけど……今はあの時よりも平和な世の中になったのです」
電「深海棲艦という新しい敵はいますが、今度こそ電たちがこの国を、そしてそこに住む大勢の人たちを守ってみせるのです」
電「だから、もうゆっくり休んでください」
電「……きっとお姉ちゃんも、天国で花子さんのことを待っているのです」
―― 鎮守府内 放送室 ――
大淀「提督、ヒトフタマルマルになりました」
提督「よし……」ピッ ガガッ ザーーッ
提督『――総員、黙祷!』
阿武隈「…………」
青葉「…………」
大淀「…………」
艦娘一同『……………………』
電「…………」スッ
電「司令官にお願いして、鎮守府の皆で近くに咲いていた花を摘んできたのです」
電「“花子さん”だから、花が好きかなと思って……」
電「時代も、人も、建物も、花子さんが生きていた頃とは変わってしまったけれど……」
電「この花の姿は、きっと当時と変わらないはずです」
電「お姉ちゃんや友達と楽しく遊んでいた当時のことを思い出しながら、安らかに眠ってください」
――――――
――――
――
阿武隈「……さ、そろそろ行こっか」
電「……はいなのです」
青葉「これで無事、成仏できたでしょうか?」
電「分からないのです……でもきっと、電たちの想いは伝わったと思います」
阿武隈「そうね。電ちゃんの優しさも、きっと花子さんの心に届いてるはずだよ」
電「はい!」
青葉「じゃあ行きましょうか――」
???「…………アリガトウ……」
青葉「えっ……?」
阿武隈「? どうかしたの?」
青葉「いえ、今何か聞こえたような……」
電「電には聞こえなかったのです」
阿武隈「私も聞こえなかったけど……あっ、そうやってまた驚かそうとしてるんでしょ!?」
青葉「えええ?! いくら青葉でも今くらいは空気を読みますよ! たしかに誰かの声が聞こえたんですって!」
阿武隈「ええ~っ? 聞き間違いじゃないの?」
青葉「うーん……そう言われると微かにしか聞こえなかったし……」ウーン…
阿武隈「ほら、唸ってないで早く行くよー!」
電「もうお昼ですし、このまま食堂に向かうのです」スタスタ
阿武隈「そうしよっかぁ。皆も集まってるだろうし」スタスタ
青葉「あっ、私も行きますから待ってくださいよー!」ダッ
青葉「……っと、その前に念のため1枚だけ」パシャ
青葉「よし、っと。だから待ってくださいってば~!」タタタタッ
後に青葉が写真を現像したところ、
そこには穏やかな笑顔で手を振る女の子の姿が、写っていたとか写っていなかったとか――
――
――――
――――――
提督「……ということが先日ありましてね。それ以降、あのトイレを何人かが使用しましたが、怪現象などの報告は一切ありません」
管理人「それは良かった。きっと彼女も成仏してくれたのでしょう」
提督「そうであることを願っています。彼女……花子さんも、戦争という悲劇が生み出した被害者でした」
提督「軍人として、彼女のような不幸な犠牲者を二度と出さぬよう、改めて深海棲艦との戦いに傾注する所存です」
管理人「一国民としてお願い致します。……そして、どうもありがとうございました」
提督「? ありがとう、とは?」
管理人「……私共はずっと昔から、あのトイレにまつわる噂を知っていました。そしてそれが単なる噂話ではないことにも薄々感づいていたのです」
管理人「しかし我々地元の人間はそれを知りながら、今日まで一切関わろうとはしませんでした」
管理人「学校が廃校になるまで問題を放置し、結果として皆さんにもご迷惑をお掛けしてしまいました」
管理人「ですが艦娘の皆さんは、彼女の存在を怖がり、厭い、避けるのではなく、受け入れ、歩み寄り、長年の呪縛から解き放ってくれた……」
管理人「管理人として、そして彼女と同じあの学校の元生徒として、深くお礼申し上げます」フカブカ
提督「……私は何もしていませんので。そのお言葉は私の部下たちに伝えさせていただきますよ」ニッコリ
管理人「……しかし、本日はわざわざご報告にお越しいただきましてありがとうございます」
提督「いえ、貴方から花子さんに纏わるお話を聞けなければ、今回のことは解決しませんでしたから。事の顛末を報告するのは義務だと判断したまでです」
管理人「はっはっはっ、相変わらず律儀な御方だ」ハハハ
提督「……にしても、どこの学校にも怪談話というのはあるものですね。少し不謹慎ではありますが、怖い話に夢中になっていた幼少の頃を思い出してしまいましたよ」
管理人「ほほぅ、提督さんにもそういった時期があったんですねえ」
提督「勿論ですとも。ちょうど私が小学生ぐらいの頃、世間は俗にいう怪談ブームでして。毎週のようにテレビでは心霊特集が組まれていました」ナツカシイナァ…
管理人「ああ! よく心霊写真特集なんかがやってましたねえ。今じゃすっかり無くなってしまいましたが」
提督「時代の流れというやつですかね。物寂しい気もしますが」
管理人「違いありません。しかし提督さんが怪談好きだったとは、意外な嗜好をお持ちですなぁ。まさにあの鎮守府にぴったりな御方だ」
提督「? と、いいますと?」
管理人「実はあの学校に伝わる怪談話は、何も花子さんだけではないんですよ」
管理人「なにせ建物自体が相当古いですし、提督さんがかつてそうであったように、子供というのはいつの時代も怖い話が好きですから」
管理人「もっとも、当時から真実味のあった話は花子さんの噂ぐらいで、他の話は何の確証もない単なるウワサに過ぎませんがね」ハハハハハ
――――――
――――
――
―― 鎮守府内 とあるトイレ ――
龍田「天龍ちゃ~ん、まだ~?」コンコン
天龍「もう少し待ってくれって。てか扉の前に立ってられると気が散るだろ!」
龍田「え~? 天龍ちゃんがトイレに付いてきてほしいって言うから来てあげてるのにぃ」ムスー
天龍「そ、それについては感謝してるって! ……あと何度も言うけどこのことは誰にも言うなよ? 特にガキ共にはな」
龍田「このことって、天龍ちゃんが一人じゃ怖くてトイレに行けないってことぉ?」
天龍「口に出して言わなくていいから! あと別に怖くねえ! こ、この俺様が幽霊ごときにビビってるわけねーだろ!」
龍田(誰も幽霊なんて言ってないけど……まっ、天龍ちゃんと一緒にいられるなら、私は別にどっちでもいいけどね~)
龍田「はいはい、分かりましたよ~。じゃあ入り口の外で待ってるからね~」スタスタ
天龍「おう。そのままどっか行くんじゃねーぞ! 絶対そこにいろよ!」
天龍(……ふぅ。さっさとこんなところから出て飯にでもするか)
天龍(……あれ? か、紙がねえ!)ガーン
天龍(くっそぉ……前の掃除当番が補充し忘れたのか?)
天龍(仕方ねえ、龍田に頼んで持ってきてもら――)
――――赤い紙と青い紙 どっちがいい?
天龍「へっ?」
◇◇◇ お わ り ◇◇◇
以上になります
花子さんの話はぬ~べ~を参考にしました
また、最後のは学校の怪談(アニメ)にも出てきた有名な怪談話です
どちらの作品も90年代~00年代初期を代表する良作怪談アニメですね
短い間でしたがお付き合いいただきありがとうございました
このSSまとめへのコメント
いいねぇ、シビれるねぇ
あ、最後のは答えたらアカンやつやん()