養殖ワ級 (107)
鎮守府 埠頭
大和「うわー……」
長門「お前たち、本当に捕まえてきたのか……」
雷「当ったりまえじゃない! そう連絡したでしょ?」
ワ級「……」
ワ級「……」
大和「たしかに連絡は受けたけど……よくここまで牽引してこれたわね」
暁「もー大変だったんだから! 重いし、丸いからロープは引っ掛けづらいし。しょうがないから首に引っ掛けてきたのよ!」
長門「これ生きているのか?」
雷「頭を錨でぶん殴っただけだから生きているはずよ。それに死んでいるなら沈むはずじゃない?」
暁「全員で囲んでバッシバシ叩いてやったんだから!」
電「砲弾も魚雷も尽きた所で大変でしたが、相手がワ級さんで良かったのです」
大和「つまり、気絶している……ってことなのかな?」
長門「ワ級も気絶とかするのか……?」
大和「……多分。正直よくわからないのよね、ワ級って……」
響「ついでに武装も引剥してやったから、このワ級はもう抵抗できないはずだよ。ただの浮き球みたいなものさ」
電「おかげで服が魚臭いのです」
雷「はやくお風呂はいりたいわね!」
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大和「……うーん、どうする?」
長門「どうする、と言われてもな……。こんなことは鎮守府始まって以来の珍事だ。前例がない」
大和「まさか深海棲艦を生け捕りにできるなんてねぇ……それも二隻も」
長門「私達だけで処分を決めるわけにもいかないだろう。ここは皆を集め、話し合うしかないだろうな」
大和「そんなすぐに決まるような議題じゃないわよ? いつ目覚めるかもわからないし、意見がまとまるまでロープ一本でここに繋留させておくのは不用心よ」
長門「……ふむ、そうだな。なら、私が見張りをしていよう」
大和「あら、長門は会議にでなくていいの?」
長門「無力化しているとはいえ、私達の本拠地に深海棲艦がいるんだ。見張りを駆逐や軽巡に任せるのも、何かあった時に荷が重いだろう」
長門「それに私は提督とお前たちの決議を信じている。なに、私から意見を述べるまでもなく、お前たちなら然るべき処分を決してくれるはずさ」
大和「……そう、わかったわ。できるだけ早くまとめるようにするから、ワ級のことは頼むわね」
長門「ああ、任せておけ」
雷「大和さーん、雷たちも上がりでいいの?」
暁「もー体中魚臭くてたまらないわよ!」
響「ロープがけに手こずってワ級にぶつかってから、服によくわからない粘液がついているんだ。さすがに気持ち悪いよ」
電「やたらネバネバしてて、しかも磯臭いのです……」
大和「はいはい、今日はもう上がりでいいわよ。ご苦労様。あとで大淀に報告書出しといてねー」
雷「よし、このままお風呂に直行するわよ! みんなついてきなさい!」
暁「だめよ! 部屋に戻らないとシャンプーも変えの下着もないじゃない」
響「この臭いで自分たちの部屋に入るのかい? それは嫌だな……」
電「はぁ……。こんなに大変だったのならあそこで沈めておけばよかったのです……」
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長門「……」
ワ級「……」チャプチャプ
ワ級「……」チャプチャプ
長門(……ふーむ、思えばワ級をこんなに間近でじっくりと眺めるのも初めてだな)
長門(丸い。しかし丸い。浮き球とはよく言ったものだ。思いっきり蹴飛ばしてやりたくなるような丸さだ)
長門(その球体からニョキと女の上体が生えだしてはいるが、これもまたなんとも歪なものだな)
長門(細い肩筋には似合わない突き出した腹。乳は張りよく上を向いている。まるで妊婦のようだ。……妊婦なのか?)
長門(……いやいや、人と同じと考えてはいけないな。こいつらは深海棲艦、得体の知れない私達の敵だ)
長門(だいたい、妊婦がこんなにヌメヌメしているはずないだろう。なんだこのヌメッと感は。ふざけているのか?)
長門(それにこの魚臭さときたら……。数メートルは離れているが、アジの一夜干しを鼻に押し付けられたような臭気だ……)
長門(……まったく、気が滅入る。深海棲艦の中でも際立って気持ち悪いとは思っていたが……ここまでくると、もう)
長門「……見ているだけで腹が立ってくるな」
江風「うおー! 本当に居たぜおい!」
朝霜「六駆の言っていたこと本当だったのかよ。マジで鎮守府に深海棲艦が居るとは思わなかったぜ」
夕立「臭っ!? めっちゃ臭いっぽい! なにこれ、くっさ!?」
時雨「ほんと、凄い臭いだね……。寮で会った響とは段違いの臭いだよ……」
長門「ん? お前たち、何をしに来た?」
江風「あーどうも長門さん。いやーさっき六駆の連中からさー、深海棲艦を捕まえたーって聞いたもんでね」
朝霜「んなこと信じられっかよーってんで、こうして確かめに来たってわけさ」
長門「……そうか。まあご覧の通りだ。見学は好きにしていいが、あまり騒ぐなよ?」
江風「はいはい、ありがとうございます長門さん。……それにしてもマジで捕まえてくるなンてなぁ……、捕まえるか普通?」
朝霜「あいつらちょっとおかしいよな。この間も錨でル級ボコボコにしてたぜ?」
時雨「……これ、まだ生きているんですか?」
長門「ああ、恐らくな」
江風「っつーことはさ? この浮き球はうちで初の捕虜ってやつになンの?」
時雨「それはどうだろうね。僕達と深海棲艦は条約を結んでいるわけでもないし、そもそもワ級だから」
朝霜「そうだなぁ。姫や鬼みたいな司令塔ならともかく、そこらにフヨフヨ浮いてる得体の知れない球だもんな」
時雨「ワ級に捕虜としての価値があるなんて、少なくとも僕には思えないよ」
江風「きひひっ、じゃあ六駆は骨折り損のくたびれもうけって奴だな。あんな臭くてベトベトになってたのに、ご苦労なことだぜ」
朝霜「ね、長門さん。実際の所、こいつをどうするつもりなんだい?」
長門「それについては今、提督と戦艦空母連中で話し合いをしている所だ」
長門「……だが、まぁ雷撃処分か、もしくは上に任せて解剖調査といった所になるだろうな」
江風「解剖ねぇ。それよりはここで沈められたほうがまだマシってもンだろうな」
朝霜「でも、あたい達ってワ級についてなーんも知らないからねぇ。だいたいこいつら、輸送船とは言われてるけど何運んでんのって話だろ?」
時雨「さぁ……」
夕立「っああーーーー!! もう!! もう我慢できないっぽい!! くっさい!! 臭すぎるっぽーい!!」
江風「っ!? お、おい夕立の姉貴!? 石なんて掴んで何する気だよ!?」
時雨「ちょ、ちょっと夕立! ダメだよ!」
夕立「うるせぇっぽい! この臭い玉! 見た目も臭いもなんか無性に腹立つっぽい!! くたばれっ!」ブンッ
ワ級「………………!?」カツーン
長門「……むっ?」
ワ級「……!?……!!?……!!!!?」
時雨「あ、ああー……。もう、起きちゃったじゃないか! 何してるの夕立!」
夕立「関係ねぇっぽい! 敵のお膝元で呑気に寝てるその精神すら気に食わねぇっぽい!」
朝霜「さっすが狂犬、やると思った時にはすでに行動が終了している女だぜ……」
江風「い、いやーすみません長門さん。うちの姉貴がとんだご迷惑を……」
長門「……まあいいさ。いずれは起きるものだからな」
ワ級「!!?!?!?」グイグイ
ワ級「……?」
ワ級「!!!!!」
ワ級「…………!!!!!?」
ワ級「!!!??!?!!!」
ワ級「!!?!!?!?!?」
朝霜「……大慌てだな」
江風「無理もないだろ。起きたら目の前に敵がいるんだもの。そりゃこーもなるって」
夕立「オラーッ!! 大人しくするっぽい!! この期に及んで生き恥晒すんじゃねぇぽい!!」ブンッ
ワ級「!!?!?!」カツーン
時雨「夕立! もうやめなって!」
夕立「うるせぇっぽい!!」
ワ級「!!!!!!」ザザザッ
ワ級「!!!!!!」ザザザッ
長門「おっと、どこへ行く気だ」グイイッ
ワ級「!?!?!?」グググッ
ワ級「!?!?!?」グググッ
長門「所詮は輸送船。戦艦たるこの長門に、馬力で勝てるとは思わないことだな」
長門「貴様らの所属を言え。何を運んでいる? なぜそんなにヌメヌメしている? そもそもお前らは本当に輸送船なのか?」
ワ級「!!??!?」
ワ級「!?!??!」
時雨「……もしかして言葉をつかえないタイプなのかな? イ級みたいにさ」
江風「あー……、そうかもしんねぇな。頭に変なの被ってるし」
長門「……ふむ、それならそれでいい。では聞け。今、貴様らがいるのは鎮守府。基地でも泊地でもなく、鎮守府だ」
長門「聞いたことくらいあるだろう? お前たちにとっては敵の本拠地、総本山だな。そしてそれが何を意味するのか、わかるな?」
長門「抵抗は無意味だ。大人しくしておいたほうが身のためだぞ?」
夕立「隙を見て逃げ出そうとしたり、夕立達に逆らおうとしたのなら! 容赦なくその身を漁礁に変えてやるから覚悟するっぽーい!!」
ワ級「!!!!?!?!」
ワ級「!!?!?!!?」
ワ級「…………」
ワ級「…………」
朝霜「……大人しくなったな」
時雨「自分たちが敵に捕まってるなんて聞いて、さすがにこたえたんじゃないかな」
江風「まっ、運が悪かったと思って諦めな。どーなるかはまだ解らないけどねぇ」
夕立「雷撃処分に決まったら夕立が木っ端微塵にしてやるから安心するっぽい!」
長門「そのくらいにしておけ。敵とは言え、華々しく散ることはおろか自沈すらできない身だ。大人しくしているのなら静かに沙汰を待たせてやろう」
時雨「そうだよ夕立。一寸の虫にも五分の魂というじゃないか。あまり追い詰めちゃ可哀想だよ」
夕立「五分も魂があるなら十分っぽい! 見せてみやがれ水雷魂!!」ブンッ
ワ級「!?」カツーン
江風「姉貴、ありゃ輸送船だぜ?」
夕立「嘘つけっぽい! あいつらの夜戦砲撃地味に痛いっぽい!」
朝霜「それはそうだけどさ……」
陸奥「えーっと、どこかしら……。あーいたいた、長門ー!」
長門「ん? おお、陸奥か。どうした?」
陸奥「会議が終わったわよ。大和たちが庁舎で呼んでるから、早く行ってあげて」
長門「なに、もう終わったのか? 随分と早かったな。で、どういうことになったんだ」
陸奥「養殖することになったわ」
長門「……ん? 今なんて言った?」
陸奥「養殖よ」
長門「養殖?」
陸奥「ええ、養殖。ワ級を養殖するんですって」
長門「……ちょっと待て陸奥。確認させてくれ……ワ級を養殖する、とお前は言っているのか?」
陸奥「だからそう言っているじゃない」
長門「……ここで? 鎮守府で深海棲艦を養殖する? ……正気か!?」
陸奥「私に言われても困るわよ。勝手に盛り上がって決まっちゃったんだもの。だから詳しい説明は庁舎で聞いてくれない? ワ級は私が見ておいてあげるから」
長門「ああ、ここは頼んだぞ! あいつら、何を考えているんだ……!」ダダダッ
江風「……聞いたかおい」
朝霜「うん……。うちの上層部ってさ、たまに心配になるよな……」
時雨「たぶん発案したの明石さんだよね……」
夕立「ふざけんなっぽい! こんなの養殖したら臭いで気が狂うっぽい!」ブンッ
ワ級「!?」カツーン
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鎮守府 庁舎
長門「……もう一回言ってくれ」
大和「うん、だからね? あのワ級を鎮守府で増やして」
長門「……すまない。もう一回」
大和「また? だから、あのワ級を鎮守府で増やして」
長門「お前たちは何を話し合っていたんだっ!?」
武蔵「何って、ワ級の有効利用法に決っているだろう?」
加賀「ワ級を鎮守府にて養殖し、毎週の撃沈ノルマを鎮守府にいながら完遂できるようにする。実に合理的かつ革新的なアイディアです」
赤城「はい。大本営からの嫌がらせとしか思えない毎週の輸送船50隻撃沈任務、ろ号作戦。もしワ級の養殖に成功できたのなら、くたびれた潜水艦たちをオリョールに連続出撃させることも、運否天賦にまかせてバシー島やカレー洋を彷徨うこともしなくてよくなります」
長門「それはそうだが……! 相手は深海棲艦なんだぞ!? ブリや牡蠣の養殖とは訳が違う! 考え直せ!」
武蔵「始める前から諦めてどうする? お前の口からそんな弱気な言葉など、この武蔵は聞きたくなかったぞ」
長門「弱気強気の話をしているんじゃない! こともあろうに私達の本拠地で、敵を養育するなどと正気とは思えないと私は言っているんだ!」
瑞鶴「敵って言ってもワ級でしょ? あんなの海のボールじゃない」
翔鶴「でもね瑞鶴。ボールの無反動砲の口径はガンタンクのキャノンすら凌ぐ180mmなの。火力だけならMSにも劣らない光るものを持っているのよ」
瑞鶴「ワ級はその無反動砲を持ってないでしょ? 危険なところを探すほうが難しいわよ」
大和「そういうことよ、長門。ワ級に危険性はないし、幸いにも二隻いる。そして私達はろ号作戦に苦しめられている。となれば、養殖してみようというのは自然な考えじゃないかしら?」
長門「どこがだ! だいたい、あの任務は艦隊行動中のワ級を撃沈するものであって、養殖したワ級を沈めた所で戦果として認められる訳がないだろう!」
大淀「それについてはお気になさらず。任務通達書には『艦隊行動中のワ級に限る』なんて文言はありませんから」
長門「それは屁理屈というものだ!」
加賀「屁理屈だろうと何であろうと。上からそのような指定はないし、もっと言えば深海棲艦を養殖するなという決まりもない。私達は何の規則も犯してはいないわ」
武蔵「至って正当な方法だ。後ろめたいことなど一切ない。私達は胸を張ってこの案に賛成している」
瑞鶴「そうそう。それに何か問題があるにしても、私達から言わなきゃ上にもバレないわよ」
長門「……提督は!? お前たちのふざけた案に提督はなんと言っている!?」
大和「『うん。いい案』って」
長門「あいつはそれしか言えないのか!」
大和「しょうがないじゃない。士官学校であ行しか習って来なかったんだもの」
武蔵「長門よ、提督への暴言は謹んでもらいたい」
長門「っく……!」
大和「だいたい、長門も私達に任せるって言っていたでしょ。私達、長門を待たせちゃ悪いと思って急いで決めたのよ?」
武蔵「そうとも。だが、明石の一声がなければ私達は未だに唸りながら考え込んでいただろうな」
加賀「本当に素晴らしいアイディアです。あなたのそういう頭の柔らかい所、嫌いではないわ」
明石「えへへ、いやーそれほどでも」
長門「……やはりお前の案だったか! 今回ばかりは悪ふざけが過ぎるぞ!」
明石「いえいえ、ふざけてなんかいませんよ? 私は真面目にこの案を押していますって。だから生け簀の図面もほら、この通りパパっと描き上げちゃいました」ガサッ
長門「生け簀だと……?」
明石「はい、生け簀です。養殖するなら必要でしょう? いつまでもロープ一本で港に繋いでおく訳にもいきませんからね」
武蔵「……ほう、なるほど。使われていない船舶用ドックの辺りに作り上げる気か」
明石「ええ。ここも元はと言えば大型艦船が出入りしていた海軍基地。私達艦娘が使うようになって使用範囲は小じんまりとしてしまいましたが、おかげで空きスペースには困りませんからね」
大和「ケーソンで区切って水門を備えて……、随分と大掛かりね。大丈夫なの?」
明石「大丈夫大丈夫。戦艦一隻作る事に比べたら簡単なもんです。あの辺りにはガントリークレーンもありますし、ケーソンの牽引もみんなでやればすぐ終わりますよ」
加賀「随分と分厚い水門のようだけど。これはあなたが作るの?」
明石「もちろんです。鋼材も余ってますからね。それにこのくらい厳重でないと、安全第一の長門さんも納得しないでしょう?」
長門「ぬ……」
明石「とまあ、私だって深海棲艦を囲うにあたって色々と考えてるんですよ。だから安全面は安心してください。保証しますよ」
長門「そ、そうか……うん」
武蔵「……ふっ、ここまでされてはさしもの長門も反対はできんな」
長門「……私はまだ納得したわけではない」
大和「あ、そうそう。ワ級の飼育係は長門だからね」
長門「おいちょっと待て!」
長門「私にだって仕事がある! ワ級の世話などしている時間はない!」
武蔵「そこは安心してくれ。お前がワ級の養殖に専念できるよう、スケジュール周りはこちらで調整させてもらう」
大和「それにしばらくは大規模作戦の予定もないんだし、どうせ暇じゃないの」
長門「……そ、それはそうだが!」
加賀「執務室に入り浸って麻雀や桃鉄大会をしているよりは、よっぽど有意義な時間を過ごせるはずよ」
赤城「というか長門さんがいると一人勝ちで面白くないんですよね」
翔鶴「運に任せて傍若無人な打ち筋やプレイをされるこちらの身にもなってほしいです」
長門「お、お前たち……! 私をそんな風に思っていたのか!?」
武蔵「まぁそういう訳だ。よろしく頼むぞ長門よ」
長門「断る! だいたい何故私なんだ! 暇というならそこの赤城や翔鶴だって変わらないだろう!」
大和「しょうがないじゃない。クジで決まったんだもの」
長門「……クジ。クジで決まったのか……!」
大和「ええ」
赤城「クジで決まってしまってはしょうがありませんね」
翔鶴「本当、こればっかりはしょうがないです」
瑞鶴「まー納得は出来ないとは思うけどさ。ここは観念するしかないんじゃない? クジだし」
加賀「立候補や推薦であればともかく、クジとあっては誰も意見できないわ」
武蔵「皆の言うとおりだ。やってくれるな? 長門」
長門「……ええい! 不服。不服だ。不服だが……、クジで決まったのならしょうがあるまい……」
大和「長門、じゃあ!」
長門「……ああ、引き受けよう。……ワ級の養殖など、戦うことしか知らない私に上手く出来るとは思えんが、クジで決まった以上は尽力するつもりだ」
武蔵「お前ならそう言ってくれると信じていたぞ」
翔鶴「さすが長門さんですね。私達も出来る限り応援させていただきますから」
赤城「はい。私達、応援には自信がありますので。空母総出で応援させてもらいます。任せてくださいね」
瑞鶴「ポンポンだって用意したんだから! チアガールの衣装はないけどね」
加賀「私は演歌くらいしか芸事を持っていませんが、それでも良いのなら歌わせていただきます」
長門「……まったく、決まったとたんに調子のいいことを言う。こんな事になるのなら私も会議に出席するべきだったな」
大和「もう終わっちゃった事を言っても仕方がないわよ。ほら、気持ちを切り替えて? 今日から長門はワ級の飼育員さんなんだから」
長門「やれやれ……、で? その生け簀とやらはいつ出来るんだ」
明石「資材は揃っているので生け簀の建築は今日から始めますが、諸々の仕上げもあるので……、まー早く見積もっても二週間はかかると思ってください」
武蔵「ふむ。それまでは当番でワ級を見張るしかないか」
瑞鶴「ええー、面倒くさいなぁ。いっその事陸にあげちゃったらいいんじゃない?」
大和「だめよ。それで死んでしまったら元も子もないじゃない」
武蔵「これも憎きろ号作戦を打倒する為だ。皆、協力してもらいたい」
長門「……んん、私が飼育員をすることは了解した。だが、その前に一つ確認したいことがある」
大和「ん? なに?」
長門「お前たちにとっては物凄く今更なのかもしれないがな。ワ級ってどうすれば繁殖するんだ?」
大和「……え? さあ……? どうなの明石?」
明石「さあ?」
長門「……さあ? さあってどういうことだ?」
明石「いや、解らないです。ワ級の繁殖方法なんて」
長門「解らない……解らない!? ちょっと待て! 方法すら解らないのに養殖しようなんて言ったのかお前は!」
明石「ままま、落ち着いてくださいよ。養殖は失敗の歴史。トライアンドエラーの結晶なんですから。それも未知の生物……生物なのかな? まあ生物相手ともなれば尚更ってもんです」
明石「長門さんが心配する通り、確かに私達はワ級が繁殖する方法はおろか、繁殖する確証すらも持ち得ていません。でもそれはワ級が繁殖しない確証も無いということです。なんたって未知の生物?なんですから」
明石「だから、ここは疑う心よりも信じる心。疑念よりも希望を持つべきじゃないですか? ちゃんとお世話をすれば繁殖してくれるという希望をね」
長門「む……」
明石「大丈夫。長門さんがしっかり気持ちを込めてお世話すれば、ワ級もそれに応えてくれますよ。動物の飼育ってものはね、そういうもんなんです。多分」
武蔵「疑念より希望……か。うむ、いい言葉だな」
大和「そうね……。うん、長門がしっかりお世話すれば、ワ級もきっとそれに応えてくれるはずよ」
翔鶴「私達も出来る限り応援させていただきますから」
赤城「はい。私達、応援には自信があるんです。空母全員で応援させてもらいますから。楽しみにしてくださいね」
瑞鶴「振り付けだってちゃんと覚えたんだから! チアガールの衣装はないけどね」
加賀「私は流鏑馬くらいしか芸事を持っていませんが、それでも良いのなら披露させていただきます」
長門「……まったく、調子のいいことを言う。……しょうがない。私もその希望とやらを信じて、お前たちのために頑張ってみるか」
大和「ふふ。長門のそういう面倒みの良いところ、私達は好きよ」
武蔵「私も出来る限りの応援をさせてもらう。気張れよ、長門」
長門「ああ、任せておけ」
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二週間後……
朝 戦艦寮
陸奥「長門ー、起きてるー?」ガチャ
長門「ああ。今準備を終えた所だ」
陸奥「あら、白Tシャツにジーンズ。随分とさっぱりした恰好ね」
長門「普段の服に臭いがついてはたまらないからな。ワ級の世話はこれでやるつもりだ」
陸奥「ふーん、似合ってるじゃない。……でも、そのTシャツの文字はどうにかならないの?」
長門「ん? 変か?」
陸奥「『黒鉄の城』って……。まあ、長門らしいと言えばらしいわね」
長門「なに、どうせいずれは汚れて使い物にならなくなる服だ。デザインなどどうでもいいさ」
陸奥「そ、じゃあこれも被っていくといいわ」
長門「麦わら帽子……か。普段から海に出ている私たちには今更なものじゃないか?」
陸奥「そんなことないわよ。紫外線はお肌の大敵なんだから。頭部艤装も付けないんだし、被れるなら被っておくべきよ」
長門「ふむ、そういうものか。わかった、被っていくことにしよう。ありがとう陸奥」
陸奥「……」
長門「……どうした。私の顔に何かついているか?」
陸奥「……なんていうのかしら……すっごく似合ってるわ。ほら、あれよ。テレビでやってるアイドルが畑とか耕すやつにそっくりよ」
長門「ふふ、アイドルはワ級を養殖したりはしないだろう」
陸奥「んー、まあそうだけど。でも不思議なものね。ワ級を養殖するなんてのもよく考えれば変だけど、それを長門がやるなんて。よくOKしたわね」
長門「いや、まったくだ。私も何がどうなってこんな役回りを了承したのか良く思い出せない。……だが、まあやるからには全力で取り組むつもりだ」
陸奥「……ふふ、ほんと長門らしいわ。で、今日は何をするつもりなの?」
長門「まずはワ級を生け簀に入れる。あとは……そうだな、ワ級が食事をとってないらしい。それもこの二週間ずっとだ」
陸奥「二週間も? 大丈夫なの?」
長門「わからん。そもそもワ級に食事が必要なのかすらわからないからな。とりあえず私達の食事の余り物を与えてみたり、原油をぶっかけたり鋼材を顔に押し付けたりしたそうだが、食べる気配がないらしい」
陸奥「……それは心配ね」
長門「ああ。だからまあ、まずはワ級の餌探しといったところだ。上手く行けばいいがな」
陸奥「そう、わかったわ。じゃ、頑張ってきてね」
長門「ああ、行ってくる」
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港 生け簀
ザザザーザー
『じゃー水門閉じますよ。長門さん、水門から離れましたか?』
長門「ああ。私とワ級は水門から距離を取っている。閉めてくれ」
『はいはい。じゃあ水門閉じまーす。波が起こるので気を付けてくださいね』
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ…ズンッ
『水門閉鎖完了! これでワ級のロープを外せますね』
長門「そうだな。しかし、なぜわざわざ庁舎からしか水門を操作できないようにしたんだ?」
『そりゃあ仮にも深海棲艦を囲う生け簀ですからね。セキュリティってやつですよ。長門さんも安心でしょう?』
長門「ふふ、うん。そうだな」
『何箇所か梯子をつけといたんで、長門さんはそこから生け簀の縁に上がってください。見えますか?』
長門「ああ、見える。……しかし、これは生け簀というよりは防波堤の囲いだな。まったく、よく作ったものだ」
『だって防波堤を作る建材で作りましたからね。大波台風はもちろん、駆逐艦の砲撃くらいじゃ穴をあけるのも苦労するはずですよ』
長門「これもセキュリティってやつか?」
『はい。まあ建築用の資材が残ってたってのもありますけど』
長門「よし……っと。今、生け簀の上に出た。ふむ……いい眺めだな。縁の幅も広い。5~6mほどもあるじゃないか。それに灯台まで建てたのか? これでは本当に防波堤だな」
『釣りにももってこいですよ。でもまあ、誰も臭いで近づきたがらないとは思いますがね』
長門「違いない。私も鼻が曲がりそうな思いだ」
『にひひ、じゃあ頑張ってくださいね。私達のろ号からの開放は、長門さんの双肩にかかっているんですから』
長門「ああ、最大限の努力はしよう。ありがとう明石。通信終了」ブツッ
長門「……さて」
ワ級「……」チャプチャプ
ワ級「……」チャプチャプ
長門「今からお前達の縄を解く。この二週間、ご苦労だったな。解かれた所で生け簀の中だが、それでも繋がれているよりはマシだろう。自由にしてくれ」
長門「よし……っと。ん?」
ワ級「……」チャプチャプ
ワ級「……」チャプチャプ
長門「どうした? 縄は解いたぞ? 好きに航行しろ」
ワ級「……」チャプチャプ
ワ級「……」チャプチャプ
長門「……やはり食事を取っていないことが影響しているのか。ふむ……そういえば以前よりヌメッとしていないな」
長門「おい、お前。……むぅ、そう言えばどちらもワ級だったな。……ではまず、お前たちの名を決める」
長門「……そうだな、右のお前が玉男。左のお前が玉美だ。良い名だろう? 誇りに思ってくれ」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「……リアクションの薄い奴らだ。まったく、これでは名の付け甲斐がないな。……まあいい」
長門「お前たちは何を食べるんだ? 見たところ以前より元気がないが、それは食事をとっていないからだろう?」
長門「アジフライ。野沢菜漬け。豚汁。きんぴらごぼう。牛乳。コッペパン。パイン飴。白菜。原油。鋼材。ボーキサイト」
長門「そのどれもをお前たちは口にしなかった。……いやそもそも口とかあるのか? とにかく、お前たちは一体何を食べるんだ? 教えてくれ」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「……まあ喋れないことは知っているが。それでも少しくらいは反応してくれても良いんじゃないか?」
長門「動く元気が無いのか。それとも石を投げられすぎていじけているのか。……世話のかかる奴らだ」
長門「しょうがない……。私が色々と試してみるしか無いようだな。……どれ、食べ物をいくらか見繕ってくるか」
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暫くして…
長門「ほら、これはな? 牛缶というんだ」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「開けるぞ。……どうだ、いい匂いだろう? 私はお前たちの臭いでまったくわからないが、お前たちにはわかるはずだ」
長門「美味そうだろう? ほら、食べていいぞ。遠慮するな」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「……これも駄目か。ならこれならどうだ。これはウナギのゼリー寄せと言ってな。詳しくは私も知らない」
長門「うちの戦艦の一人がたまに狂ったように量産するから余っているんだ。誰も食べないからな。作った本人すらも。だがお前たちなら食べるだろう。魚だぞ?」
長門「お前たちの大好物なはずだ。こんなに魚くさい奴が魚を嫌いな訳がないからな。ほら、食べていいぞ」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「……これも駄目か! ええい、ならこれならどうだ。シュトーレンというらしい。何でも欧州の菓子と聞く」
長門「見ろ。このギュッと締まった甘い生地。干し果物も入っているな。それに周りの粉砂糖。見ているだけで虫歯になりそうだろう。絶対に美味いはずだ」
長門「よくわからんがクリスマスに食べるものらしい。だが、今日は特別だ。クリスマスでもないのにお前たちにやろう。さあ食べてくれ」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「…………いい加減にしろっ!」
長門「どういうことだ! 何故食べない!? このままでは死んでしまうぞ!」
長門「いいか! お前たちの命は今、この長門が預かっているんだ! 勝手に死なれては困る!」
長門「なんとしてでも食べてもらうぞ! わかったか!」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「っく……! 聞く耳もたずか。……そもそも喋れはしないが……」
長門「この態度……、本当に元気が無いのか、それとも強情を張っているのか……見分けがつかない」
長門「……おい! 誰のためにこの臭いを我慢してまでやっていると思っている!」
長門「少しは反応してみせろ! そのくらいの感謝はあってもいいはずだぞ!」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門「……っく! もういい、今日は止めだ! 食料は置いていく! いいか、絶対に食べろよ!」
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四日後…
早朝 戦艦寮
陸奥「え、ワ級はまだ何も食べてないの?」
長門「ああ……。この四日間、食べそうなものを色々と見繕ってはみたが何も食べようとはしない」
陸奥「じゃあ捕まえてからもう……二十日近くも?」
長門「うん……そうだな。始めは意地でも張っているのかとも思ったが、どうやら本当に弱ってきている。日に日に体が乾いてきているんだ」
長門「ワ級のことはわからないが……、生気を失っているのはわかる。このまま絶食が続けば、あと数日も持たないだろう」
陸奥「……うーん、そうなの。それはその……ショックね」
長門「いや、別にワ級が死ぬことはいいんだ。そんなものは有りふれている。だがな、私は一応この役目を任された身だ。期待には応えたい」
長門「あんな立派な生け簀まで用意されたんだ。それをこんな初歩的な所で失敗させるなど、皆に合わせる顔がない」
陸奥「そんなに思い込むことないわよ? どうせ皆もズルして楽しようとしてるだけなんだし」
長門「それはそうだが……。ああ、もうこんな時間か。すまない、もう出る」
陸奥「あら、朝食はどうするの? まだ食堂は開いてないでしょ?」
長門「間宮に言って私の分だけは弁当にしてもらっている。生け簀で食べるつもりだ。……ワ級が沈みそうだからな、見張っていないと気が気でない」
陸奥「……そう。……いい長門? あまり思い詰めちゃ駄目よ? 所詮はただのワ級なんだから」
長門「ああ。では、行ってくる」
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港 生け簀
長門「……」
玉男「……」チャプチャプ
玉美「……」チャプチャプ
長門(……あれだけヌメヌメしてた肌がすっかり乾ききっている。肌は……まあ白いままだが、ハリはなくなったな)
長門(よく見ると昨日より喫水も深くなっているか? 沈みかかっている。……もう限界か)
長門(この四日間、食堂で手に入る限りの食材は試してみたが、どれ一つとして興味を示さなかった。……正直、お手上げだ)
長門(唯一、見学に来た提督が持っていたペペローションとかいうのには微妙に反応していたが、あれは多分食材ではない。というかなんだあれは)
長門(……ここまでか。こいつらはもう、明日か明後日には沈むだろう。……やはりこの養殖はもう……)
長門「……ふぅ。いかんな、後ろ向きな考えしか出てこない。……うん、まずは朝食を取るか」
長門「何か気が紛れるような美味い物でも入っていると良いが……、ほう、鮭か。悪くはないな」
長門「だし巻き卵に、きんぴら。あとは保温瓶に味噌汁か。……ん? この小鉢、めかぶか」
玉男「……………………………!」
玉美「……………………………!」
長門「……んー、めかぶか。あまり好きではないんだがな」
玉男「!!!…!!………!!!」
玉美「!!!!!!…………!!」
長門「しかし、めかぶが出るのも久しぶりだな。……しょうがない、珍しさに免じて食ってや……ん?」
玉男「!!!!……!!!!!!」
玉美「!!!!!!!……!!!」
長門「……ワ級が……反応している……? 反応しているのか……!?」
玉男「!!!!!!………!!!」
玉美「!!………!!!!!!!」
長門「……弁当! 弁当か! どれだ!? きんぴら……、はもう与えたな! だし巻きか!? いや鮭か!?」
玉男「!!!…!!!!……!!」
玉美「!!………!!!!……!」
長門「鮭か!? やっぱり鮭だな!? 鮭は美味いからな! これか! これだろう!?」
長門「ほら鮭だ! 投げるからな! 食べてくれよ!」ブンッ
玉男「!!!!……!!……!!」ベチッ
長門「おい食べろよ!? 私も楽しみにしていたんだぞ! ふざけるな! 鮭じゃないのか!?」
長門「じゃあ何だというんだ……! だし巻きも卵焼きはすでに与えたし、味噌汁だってぶっかけてやったはずだ……」
長門「……めかぶ。めかぶか……!? 確かにめかぶはまだ試していない、これか!?」
玉男「!!!!!!!!!!!!」
玉美「!!!!!!!!!!!!」
長門「よ、よし。お前たち、近づいてこい! めかぶは投げるわけにはいかないからな! ほら、こい!」
玉男「!!!!!!!!!!!!」ザザザッ
玉美「!!!!!!!!!!!!」ザザザッ
長門「よし、食え! これなんだろう!? 頼む、食ってくれ!」
玉男「!!!!!!!!!!!!」チュルチュル
玉美「!!!!!!!!!!!!」チュルチュル
長門「……食べた。食べたぞ。本当に食べてる! お前たちどこから食べてるんだそれ! 歯の隙間から吸い込むなんて気持ち悪いぞ!」
長門「その頭、仮面とかではなく本当に頭だったんだな! はは、すこぶる気持ち悪いな!」
長門「しかし……食べてくれた。食べてくれたぞ……! ……めかぶだったか! お前たち、めかぶなんて食べていたのか!」
玉男「!!!!!!!!!!!!」
玉美「!!!!!!!!!!!!」
長門「くっ、小鉢程度ではすぐに無くなってしまうな。待っていろ! 今すぐめかぶを沢山持ってきてやるからな!」
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食堂 間宮
間宮「めかぶ……ですか?」
長門「ああ! 今すぐ欲しい、それもできるだけ沢山!」
間宮「ええ……、そんなにあったかしら……。ちょっと待ってくださいね、確認してきます」
長門「頼んだぞ」
伊良湖「……ねぇ長門さん、なんでめかぶなんて集めているんですか?」
長門「聞いて驚くな、めかぶはワ級の餌になるんだ! 今朝、ようやく食べてくれたんだよ」
伊良湖「……ワ、ワ級ですか? あー……、養殖し始めたって噂の……」
長門「ああ、そうなんだ。私が飼育員をしている。いや、しかし本当に食べてくれてよかった。あと数日遅かったら死んでいた所だった」
伊良湖「……は、はは。そうなんですか……。ワ級がめかぶを……」
間宮「あのー、長門さん。見てきたんですけど……、ちょっと余ってるめかぶはないですね」
長門「……ない? 少しもないのか!?」
間宮「ええ……。今朝の朝食分の量しか入ってきてないので、使い切ってしまっていますから」
長門「……そこを何とかならないのか? 頼む!」
間宮「そう言われても……、うーん。朝食に出す分からお渡しすることも出来ますけど、そうなると食べられない人たちも出ますので」
長門「……ふむ、そうか。うーん、そうか……」
間宮「申し訳ないですけど……」
長門「……いや、待て。そうだな……戦艦空母に出す分だけ寄越してもらう、というのは出来るか?」
間宮「え? それはできますけど……良いんですか?」
長門「ああ、構わない。あいつら応援すると言っておいて別に何もしてくれないからな。いや、加賀だけは律儀に歌いには来たが……。とにかくその分を渡して欲しい」
間宮「……そうですか。わかりました。じゃあ袋に入れてきますから、ちょっと待っていてくださいね」
長門「ああ、頼む」
伊良湖「……ねぇ長門さん。ワ級がめかぶを食べるは驚きなんですけど、明日からどうするつもりなんですか?」
長門「ん? 明日から?」
伊良湖「ワ級の餌ってことは毎日与えないといけないんですよね?」
長門「……ふむ、確かにそうだな。めかぶを毎日安定して入手しないといけないのか……。うちの食材はどこから賄っているんだ?」
伊良湖「私達の食材は需品科の方から定期的に補充されていますけど。良かったら長門さんのめかぶも申請しておきましょうか?」
長門「……それはまずいな」
伊良湖「え?」
長門「……大きな声では言えないが、この養殖は上に報告せずにうちだけで秘密裏にやっていることだ。その申請が問題になる可能性がある」
伊良湖「……え、ちょ、ちょっと。そんなダーティーなものだったんですか!?」
長門「いや、皆が言うには規則に違反しているわけではないらしいが。しかし餌を補給から賄うとなるとそうもいかないだろう」
長門「鋼材燃料くらいなら鎮守府内でいくらでもごまかしは効くんだがな。うーん、そうか。めかぶの安定供給か……」
間宮「長門さーん、用意できましたよ。はい、どうぞ」
長門「ありがとう。……ふむ、戦艦空母分でも袋一つ分ほどにしかならないのか」
伊良湖「これで足りそうですか?」
長門「それがわからないんだ。参ったな、せっかく希望が見えたと思ったんだが……。とにかくありがとう。赤城あたりが文句を言ってきたら、私が協力してもらうぞ、と言っていたと伝えてくれ」
間宮「は、はい」
長門「邪魔をした。ではまたな」
間宮「……長門さんってそんなにめかぶ好きだったかしら?」
伊良湖「なんでもワ級の餌にするらしいですよ」
間宮「……え? ワ級? ワ級がめかぶを食べるの?」
伊良湖「ええ。長門さんが言うには……」
間宮「……世の中不思議な事もあるのねぇ」
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港 生け簀
玉男「♪……♪……♪♪♪」チュルチュル
玉美「♪♪♪……♪♪♪♪」チュルチュル
長門「……」
長門(……めかぶ。めかぶの安定供給……。これは難問だな……)
長門(軍の補給ルートはつかえない。となると……民間の市場から契約して……)
長門(……それも駄目だな。結局は金がかかる。大淀に書類を偽造したとしても、今度は潔白の大義名分を失ってしまう事になる)
長門(……いや、まあ今の時点でも潔白なわけではないが。余っていたとはいえ、資材の私用もしているからな……うん)
玉男「♪……♪♪…!…!!!」
玉美「♪♪…♪……!…!!!」
長門「……もう無くなったか。この量ではやはり満足はしないようだな」
長門「……ここは自分でめかぶを集めるしかないか。そもそもめかぶはどこで採れるんだ?」
長門「やれやれ……、しょうがない。浜辺でもぶらついてみるか。……ん?」
長門「あれは……赤城か? 翔鶴に瑞鶴……なんだ、空母の連中が集まってきているな」
長門「……何をするつもりだ。手にポンポンを持っているが……、ああそうか、応援か。さては間宮に言われて応援のことを思い出したな?」
長門「横一列に並んで……ほう、うちにはこんなに空母がいたのか。知らぬうちに随分と増えたものだな。鈴谷と熊野もいるのか。……乗り気じゃない顔だな」
長門「……ぶっ。ふふふ。全員動きがバラバラだぞ。あれで得意だと抜かしていたのか? グラーフなんてコケているじゃないか」
長門「……うん、下手だな。見れたものではない。こんな猿踊りを眺めている時間はないな。先を急ごう」
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浜辺
吹雪「あっさりー♪ しっじみー♪ はーまぐーりさーん♪」ザクザク
吹雪「……とは歌ってみたものの、全然いないなぁー。はぁー……ん?」
吹雪「あれは……長門さん? キョロキョロと何かを探しているようだけど……」
吹雪「……なーがーとーさーん! 何をされているんですかー!?」
長門「ん? おお、吹雪か。お前こそ何をしているんだ」
吹雪「潮干狩りをしていました。二日酔いで死にかけているポーラさんにしじみの味噌汁を作る約束をしたので!」
長門「ほう、人のために味噌汁を。それは感心だな」
吹雪「はい! だって手の震えが止まらないくらいに弱っていたので……最近はお酢も飲み始めましたし……」
長門「ふむ。虫の息、というわけだな」
吹雪「それで、長門さんは何を?」
長門「ああ、私はめかぶを探しているんだが……、どうやら考えが甘かったようだ。それらしい海藻は見つけたが、どうにも量が少ない」
吹雪「めかぶですか? 長門さんが手に持っている海藻は昆布ですよ?」
長門「そうなのか? 昆布はめかぶではないのか……」
吹雪「めかぶはワカメの根っこの部分の事ですから。ほら、そこに打ち上げられているのがワカメです」
長門「ほう、これがワカメなのか」
吹雪「で、めかぶと呼ばれる部分はここ。ほら、ここです。この根っこの辺りにある膨らんだ部分です」
長門「……なに? ここだけか? 一本のワカメからこの量しか採れないのか?」
吹雪「そうですね。めかぶってけっこう貴重なんですよ?」
長門「……参ったな。これでは全然足りんぞ」
吹雪「……あのー、めかぶを何に使うつもりなんですか?」
長門「実は私はワ級の養殖に従事しているんだが……その餌として大量のめかぶが必要なんだ」
吹雪「え? ワ級の養殖なんてしてたんですか!?」
長門「ああ……。今朝はなんとか袋一杯分のめかぶをかき集めたが、それでもまったく足りていない。それにこれから増える事も考えるとな……頭が痛いよ」
吹雪「そうなんですか……」
長門「訳あって補給に頼るわけにも、民間から買い付けるわけにもいかないんだ。だから自分で採るしかないと思っていたんだが……めかぶがこんなにも貴重なものだったとは、私は知らなかった」
長門「まったく……自分の無知と甘さが嫌になる。明日のワ級の餌ひとつ集められないなんてな……。何がビッグセブンだ……私など、ただのポンコツ戦艦ではないか……」
吹雪「……そんな事はありません! 長門さんは頑張っているじゃないですか! 誰も長門さんをポンコツ戦艦だなんて言いませんよ!」
長門「吹雪……」
吹雪「大丈夫、私に任せてください! めかぶの問題なんて、私がやっつけちゃうんだから!」
長門「……しかし、めかぶは少量しか採れないのだろう? それにこの浜辺を見る限り、打ち上がっているワカメからして僅かな量だ。とてもワ級を養うには……」
吹雪「確かにこの浜辺には少ししかありませんが、ワカメなんて海中にはそこら中に生えているものです」
吹雪「だから海に潜って集めてくれば、きっとワ級を満足させる量のめかぶを賄えますよ!」
長門「なるほど……。いや待て、それはつまり素潜りをするということか? それも大量のワカメを集めるまで?」
長門「私も体力には自身のある方だが、それではワカメ採りだけで一日が終わってしまう。ワ級の世話をする時間が取れないぞ」
吹雪「何を言いますか長門さん。私たちには素潜りのスペシャリストたちがいるじゃないですか!」
長門「……潜水艦、か」
吹雪「はい、その通りです。だから潜水艦の皆さんにお願いして、ワカメを集めてきてもらうんです!」
長門「……ううむ、そうか。潜水艦か。……うん、いい案だ。だが、彼女たちは引き受けてくれるかな……」
吹雪「え? 何かあったんですか?」
長門「実は私達戦艦空母勢と潜水艦……、まあ上層部と彼女たちは最近少し仲違いがあってな」
長門「というのも、非は私達にあるのだが。彼女たちが日々オリョール海に出撃を繰り返しているのは知っているとは思うが、その目的は知っているか?」
吹雪「はい。ワ級の撃沈と、資源の収集ですよね?」
長門「その通りだ。それで、ワ級の件はいいとしてもだ。その……、資源のほうがな。実はすでに余っているのに出撃を続けさせていたんだ……」
吹雪「え? 何でですか?」
長門「……うん、一言で言えばその……忘れていたんだな。スケジュールを組み替えるのを見事に、……それが潜水艦たちにもバレてしまったんだ」
長門「もう執務室で大暴れでな……。桃鉄15のソフトも割られてしまったよ。それ以来、潜水艦たちは寮の入り口にバリケードを築いて徹底抗戦の構えだ。大和も何度か和平を申し入れに行ったが、その度に魚雷で頭を叩かれて帰ってくる有様でな」
吹雪「そんな事になっていたんですか……」
長門「ああ……。だから潜水艦の助けを借りられるとはとても……」
吹雪「……弱気になってはだめです! 誠心誠意謝って助けをお願いすれば、潜水艦さんたちもきっと力を貸してくれるはずです!」
長門「……そうだろうか」
吹雪「はい、もちろん! 私も長門さんと一緒に頼んでみますから、諦めちゃダメですよ!」
長門「なに、私についてきてくれるというのか?」
吹雪「乗りかかった船ですから。それに、頑張る長門さんを私も応援したいです!」
長門「吹雪……。しかし、お前にはポーラの味噌汁が……」
吹雪「そんなものはもういいんです。よく考えたら海の浜辺にしじみなんて居るわけないですし、それにお酒の代わりにお酢を飲み始めたらどの道もう手遅れですから」
長門「そうか……うん。ありがとう。駆逐艦にこんなにも勇気づけられるなんて……、私もまだまだだな」
吹雪「それでは早速行きましょう! ……それとその麦わら帽子、似合っていますね!」
長門「……ふふ。よせ」
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潜水艦寮
ビスマルク「ユー! ユー! 出てきなさーい!」
ビスマルク「もうこんな馬鹿げたことはやめなさい! レーベたちも心配しているわよ!」
ビスマルク「みんなでユーの大好きなカルエッセンも作ったのよ! ほら、出てきて一緒に食べましょう!」
プリンツ「……反応がありませんね」
ビスマルク「聞こえてはいるはずよ。……まったく、今日の交渉役に選ばれたはいいけど……こんなの上手く行く気がしないわ」
プリンツ「いっそのこと、バリケードを突破して中に入っちゃうのはどうでしょう?」
ビスマルク「ええ? 大丈夫なの? 潜水艦たちを刺激してしまうんじゃない?」
プリンツ「でも、このまま外から呼びかけていては日が暮れてしまいますよ? バリケードだってテーブルと椅子の粗末なものですし、お姉様の戦艦パワーなら簡単に崩せますよ!」
ビスマルク「……え? 私がやるの?」
プリンツ「お姉様以外に誰がやるんですか! お姉さまは泣く子も黙る高速戦艦なんですから!」
ビスマルク「……でも、大和ですら頭を叩かれて泣いて帰ってきたのよ?」
プリンツ「何を言うんです! 例え大和さんが泣いて帰ってきても、お姉様が負けるはずがありません! 戦艦において連合第二艦隊抜擢率No1の夜戦火力、お見せしてやりましょう!」
ビスマルク「……ふふ、そうね。よく言ってくれたわプリンツ。私は誇り高きドイッチュラントの戦艦、ビスマルク。こんな小賢しいバリケードごときで……」グググ
呂500「てーっ!!」ブンッ
ビスマルク「ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?」ゴチーン
プリンツ「お姉様!?」
呂500「バリケードに近づくんじゃないですって! さっさと帰れゲルマン野郎!」
プリンツ「ユーちゃん、もうこんな事はやめてください! みんな心配してますよ!?」
呂500「その名で呼ぶんじゃないですって! ろーちゃんは過去を捨てました!」
伊168「そうよ! ろーはもう私達の仲間なんだから!」
伊58「古巣のゲルマン魂なんてとうの昔に犬に食わせてやったでち!」
伊8「例えドイツ相手でも、今は容赦しないから。近づくならもう一度、脳天に酸素魚雷が火を噴くよ……」
伊19「塩もまいてやるの! まるゆ、塩もってきて!」
まるゆ「は、はぁい!」
ビスマルク「……えぐ……っく……ひっぐ……プリンツ、帰りましょう……もう嫌よ……なにこれ……すっごい痛いの……」
プリンツ「お姉様……」
伊14「おー帰れ帰れ! 戦艦空母なんて二度と来るなー!」
伊13「二度と顔を……見せないで……」
伊26「ねえねえねえ! 今どんな気持ち?」
伊401「次来たら黄泉まで潜らせちゃうからね、覚悟してよ!」
長門「……本当に大丈夫なのか? ほぼ暴徒だぞ?」
吹雪「大丈夫ですよ! どんなにいがみ合っても同じ艦娘同士です、信じる心が重要なんです!」
前に大和と長門のカップリング書いてた人かなこのカオスっぷりは
その内大天使五月雨ちゃんとか出てきそう
吹雪「ごめんくださーい! 潜水艦のみなさーん、頼みたいことがあってきましたー!」
長門「……」
呂500「……また誰か来ましたって」
伊19「まったく、今日はしつこいの……」
伊8「……でもあれ、吹雪だよ? 戦艦や空母じゃない」
伊168「じゃあ何の用なの……? もしかして私達のシンパになってくれるとか?」
伊13「私達の憤り……理解してくれるのなら、嬉しいですね……」
伊401「それなら中にいれてあげちゃう? 駆逐艦だって遠征にこき使われてる私達の仲間みたいなものだもんね」
まるゆ「じゃ、じゃあお茶をご用意しましょうか?」
伊13「それよりもさ! 私達の不遇を語り合い、共に戦う仲間となる。ここに合うのはやっぱりお酒でしょ」
伊26「お酒はダメだよー! いつ戦艦空母がやってくるのか解らないのにー」
伊8「……まあ吹雪がキングオブ無害な子というのはイクたちも知っているの。用があるなら入れてあげてもいいのね」
伊58「……いや、ちょっと待つでち」
呂500「でっちー? どうしましたって」
伊58「……吹雪の横にいる変なTシャツの麦わら女。あれは誰でち?」
伊168「……確かに誰だろ。初雪……にしてはちょっと大きすぎるね」
伊401「……うん。駆逐艦には見えない。あの背丈だと……戦艦……?」
伊13「戦艦……ついに敵も偽装工作をしかけてきた、ということですか……」
伊14「くぅー……、敵も味な真似をしてくるようになったね。人畜無害な吹雪ちゃんをダシに変装してくるなんて……許せないよ」
伊8「……ゴーヤ、どうする気なの? とりあえずシカトするの?」
伊58「……ううん、まずは話を聞いてあげるつもり」
伊26「えっ? だって変装した戦艦がいるんだよ? 問答無用で頭に魚雷を振り下ろすべきだよー」
伊58「確かにゴーヤたちを舐めくさったバレバレの偽装工作……でも、それは誰が変装しているかを確認してからでも遅くはない……」
伊58「その化けの皮、このゴーヤが剥いでやるでち……!」
吹雪「ごめーんくーださーい! すーみまーせんー!」
長門「リズムと音程をつけて呼んでもダメか……」
吹雪「……うーん、潜水艦だから波長の変化とか好きだと思ったんですけど。顔を出してもくれないなんて……」
伊58「……何の用でち?」ヒョコ
吹雪「あっ! 出ましたよ! やっぱり波長の変化に弱いんですね!」
長門「ふむ。吹雪の作戦勝ちだな」
とりあえずここまで
>>44
違います
>長門「……食べた。食べたぞ。本当に食べてる! お前たちどこから食べてるんだそれ! 歯の隙間から吸い込むなんて気持ち悪いぞ!」
>長門「その頭、仮面とかではなく本当に頭だったんだな! はは、すこぶる気持ち悪いな!」
>長門「しかし……食べてくれた。食べてくれたぞ……! ……めかぶだったか! お前たち、めかぶなんて食べていたのか!」
この辺の長門のツッコミが面白いwwwwww
訂正
>>36
× 長門(……それも駄目だな。結局は金がかかる。大淀に書類を偽造したとしても、今度は潔白の大義名分を失ってしまう事になる)
○ 長門(……それも駄目だな。結局は金がかかる。大淀が書類を偽造したとしても、今度は潔白の大義名分を失ってしまう事になる)
>>39
× 長門「私も体力には自身のある方だが、それではワカメ採りだけで一日が終わってしまう。ワ級の世話をする時間が取れないぞ」
○ 長門「私も体力には自信のある方だが、それではワカメ採りだけで一日が終わってしまう。ワ級の世話をする時間が取れないぞ」
吹雪「ゴーヤさん! 実はですね、ちょっとお話したいことが……」
伊58「……っと、その前に。ひとつ確認させてくだち」
伊58「吹雪ちゃんの横にいる麦わら帽子……顔がよく見えないけど、誰?」
長門「むっ……」
伊58「ゴーヤたちは今、執務室に入り浸る怠惰でアホな戦艦空母勢と抗争中の身でち」
伊58「だからその麦わらがもし、戦艦や空母だったなら……たとえ吹雪ちゃんの話でもゴーヤ達は聞くわけにはいかない」
伊58「見たところ、とても吹雪ちゃんの姉妹艦には見えない背丈と胸だけど……もしかして、変装した赤城や大和じゃないんでち?」
吹雪「え……それは……その……」
長門「安心しろ吹雪。私は赤城でも大和でもない」
吹雪「でも戦艦じゃないですか」
長門「それはまあそうだな」
吹雪「……どうします? 何か誤解されてような気がしますよ?」
長門「ここまで来て引き下がるわけにもいかない。それに素性を隠してきたわけでもないからな」ファサ
長門「長門だ。潜水艦の諸君、頼みがあってきた」
伊58「……やっぱり戦艦でち!」
呂500「偽装工作は国際法違反ですって!」
伊14「そーだそーだ! 卑怯だぞ長門! 捕虜待遇受けられると思うなよー!」
伊19「それが戦艦のすることなの! 小賢しいのね!」
長門「待て。落ち着いてくれ。私はただお前たちに話を聞いてもらうために……」
伊168「だから話なんて聞かないったら! どうせまた私達をコキ使うつもりなんでしょ!」
伊13「私達に不要な出撃を続けさせた恨み……忘れはしません……」
長門「それは謝る! だから、どうか話だけでも聞いてくれ! めかぶが必要なんだ! お前たちの力を借りたい!」
伊401「めかぶ……? 何言ってるんだろ……?」
伊8「今度は流言による攪乱をしかけるつもりみたい……。なんて小狡い」
伊14「その手には乗らないよ! さっさと帰ってよめかぶ戦艦!」
伊19「豆も投げてやるのね! まるゆ、豆持ってきて!」
まるゆ「は、はぁい!」
伊26「ニムたちは労働者の敵なんかに絶対降伏しないんだからー!」
伊58「上層部は無能揃いのアホ集団でち! はやく帰れポンコツ戦艦ー!」
長門「何っ! 無能のアホとは提督の事を言っているのか! 提督への暴言は謹んでもらいたい!」
吹雪「待って! 待ってください! 双方ストーップ! 落ち着いてくださーい!」
吹雪「ゴーヤさん、長門さんはなにも和平を申し入れに来たわけじゃありません! 個人的な願いを聞いてもらうために来たんです!」
伊58「そんなの関係ないでち! ゴーヤたちはもう上の命令は一切聞かないつもりなんだから!」
吹雪「だから命令じゃないんです! それに、長門さんのお願いは潜水艦のみなさんの為にもなるはずなんです!」
伊401「……私達の為になる? 本当かな」
伊19「騙されちゃだめなのね。どうせまた適当に理由つけてオリョールに駆り出されるに決まってるの!」
伊26「もう中破するまで入渠せずに出撃するのは嫌だよー……」
呂500「戦艦たちはオリョールの対潜部隊の怖さを知らないんですって……。あいつらめちゃくちゃ強肩ですって」
伊14「海上からファストボールで一直線に爆雷を当ててくるからね……」
伊13「私はただの速球だと思っていたら……チェンジアップで……それでやられました」
伊168「……結局、上は私達の苦労がわかってないのよ。だからスケジュール調整をすっぽかしたりするのよ……」
伊58「その通りでち……。ゴーヤたちは命令されるままに動くだけの駒じゃない。疲れもすれば痛みもある。それに恐怖だって感じるんだから……」
伊8「……もうオリョール……行きたくないね……」
呂500「うん……。怖い。それに極稀に起こる制海権取る前にろ号が終わるハードラック、もう見たくないですって……」
伊401「あれ起こっちゃうとどうしようもないからね……」
伊168「本当よ……。制海権の為だけにバシー用の艦隊に組み替えるのも面倒だから、結局私達の連続出撃でゴリ押しさせられるのよ……」
伊19「潜水艦はいつだって尻拭いに使われるのね……。とんだ貧乏くじなの……」
吹雪「それにもしかしたら……、みなさんはオリョールに行かなくても良くなるかもしれないんですよ!!」
潜水艦一同「……!?」
吹雪「長門さんは今、ワ級の養殖をしているんです! この鎮守府でワ級を増やそうとしているんです!」
吹雪「ワ級が増えれば、ワ級に関連した任務は全てこの鎮守府内だけで処理する事ができます! ですよね長門さん!」
長門「ああ。そしてワ級を増やすには潜水艦。お前たちの助けが必要だ。だからどうか頼む」
長門「……私に、力を貸して欲しい!」
伊58「………………」
長門「……頼む!」
伊58「………………」
長門「…………駄目か」
吹雪「……ゴーヤさん! これは潜水艦の皆さんにだって……!」
長門「よせ。……行くぞ」
吹雪「長門さん、でも!」
長門「……しょうがないだろう。彼女たちの決意はかたい。それに私も強く言える立場ではないからな。……なに、別の案を考えるさ」
吹雪「……長門さん」
伊58「……二人とも待って!」
長門「……む?」
吹雪「ゴーヤさん……?」
伊58「い、今の……今の話は本当なんでち?」
伊401「ワ、ワ級の養殖って……そんな事してたの!?」ヒョコ
伊8「頭イカレてるのね……!」ヒョコ
伊168「何考えてるのよ……。鎮守府で深海棲艦を養殖って正気とは思えないわよ!」ヒョコ
呂500「そ、それよりも! ろーちゃんたちオリョールに行かなくてもよくなるって……。本当です!?」ヒョコ
伊8「そこ、詳しく聞かせて欲しい……」ヒョコ
伊14「上が何考えてるのかわかんないけどさ、オリョールに行かなくても良くなるってのは聞き逃せないね」ヒョコ
伊13「はい……そういうことなら……聞いてもいいです」ヒョコ
伊26「ねえねえねえ! 詳しく教えてほしいな!」ヒョコ
まるゆ「お、お茶をご用意しましょうか?」ヒョコ
吹雪「長門さん! 潜水艦のみなさんが……バリケードから顔を出してくれましたよ!」
長門「ああ……!」
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伊58「……大体の話は理解できたでち」
伊401「駆逐隊がワ級を捕まえてきて、それを養殖しようと生け簀を作って飼育してて……」
伊168「それでワ級の餌がめかぶで、補給も買い付けもできないから採ってくるしかない……と」
伊19「やっぱり頭おかしいのね」
長門「それは私もそう思っている。だが現に生け簀はこの鎮守府に存在していて、中には腹をすかせたワ級がいるんだ。どうか助けて欲しい。お前たちの力が必要だ」
伊58「……みんな、どうする?」
伊14「まー、ワカメ採りなんてオリョールに比べたら何でもない事だけどさ」
伊13「そうですね……南西諸島まで出かけることもなく……全ては近海で済みますから」
伊8「近海なら敵もまばらだし、爆雷の腕もそんなに高くはないからね。うん……はっちゃんたちの負担は、とても減ると思う」
伊26「でもでも、それでニムたちは本当にオリョールに行かなくても良くなるの?」
呂500「ワカメ採りの予定だったけど、やっぱりオリョールに資源集めに行って来いーってのは、嫌ですって」
長門「……確かに資源のことはある。だが、今は幸いにも備蓄は十分だ。それに諸々の任務も他の海域で代用できるだろう」
長門「私も嘘はつきたくないからな。絶対にオリョールに出撃しなくていいとは言えない。だが、可能な限り出撃しなくても良いように、私も取り計らうつもりだ」
長門「なに、安心してくれ。他の戦艦や空母の協力は取り付けてあるからな。全員に首を縦に振らせてみせよう」
伊58「……それはつまる所、長門を信じろ。ということでち?」
長門「……そうだな。そういうことになる」
伊58「……ゴーヤたちは無用な出撃の恨みを忘れたわけじゃないの。戦艦の長門には解らないかもしれないけど、長門たちが思っているほどオリョールは穏やかな海じゃないんでち」
伊58「出撃を繰り返せば敵に補足される機会も増えるし、疲労が貯まれば逃げ足だって遅くなる。それに、へ級やト級の投げた爆雷を横に避けたらスライダーだった時の恐怖、長門にわかる?」
伊58「ゴーヤたちは命をかけているんでち。本当は怖いんでち。出来るなら出撃したくないのが本音でち。でも、命令だから。そしてゴーヤたちの働きがみんなの為になると信じているから。勇気を振り絞って行くんでち」
伊58「だから……『スケジュール調整を忘れていた』なんて理由の、何の意味もない出撃なんて絶対にしたくはないし、許せない。……その事を解って欲しいでち」
長門「……ああ、肝に銘じておく。本当にすまなかった。此度の件、完全に私達の落ち度だ。……そのことについても、私から厳に執務室の連中に言っておく」
長門「だからどうか、次に大和が和平を申し入れに来たときは話を聞いてやってほしい。そして魚雷ではなくその思いを、ぶつけてやってほしい」
長門「その上で、お前たちが私達を許してやっても良いと思えたらだが。……また以前のように。いや、以前より良い関係になれたらと思っている」
長門「……私には今の所これしか言えない。あとは行動で示すつもりだ。……だから信じろとは言えないな。私を信じて欲しい」
伊58「……」
長門「……駄目だろうか」
伊58「……………………。じゃあゴーヤも今のところは長門の事……、信じといてあげるでち」
吹雪「ゴーヤさん……! それじゃあめかぶ集めは!」
伊58「……うん、やるでち。みんなもそれでいいよね?」
伊401「そうだね、私達の負担が軽くなるならやらない理由はないもんね」
伊168「んー。ここに深海棲艦が居るっていうのは気に食わないけど、ワ級の為にオリョールに行かなくても良くなるのは魅力的だと思うわ」
伊19「それにめかぶ集めくらいイクたちにかかれば朝飯前なのね。定時に帰れるって素晴らしいのね」
呂500「もう選球眼鍛えなくてもいいのは嬉しいですって!」
伊14「よーし、そうと決まったら準備しないとね! 久々の海だよ!」
伊13「うん……魚雷も久しぶりに叩くんじゃなくて……撃てますね」
伊26「艤装のチェックもしとかないとねー。しばらく陸に上げとくと調子悪くなるからねー」
まるゆ「ま、まるゆもお手伝いします! 近海くらいなら、まるゆでも何とかなりますから!」
長門「みんな……、やってくれるのか。手伝ってくれるのか……!」
伊58「まぁ、ゴーヤ達にとっても悪くはない話だからね。この辺りが落とし所でち」
長門「そうか……。すまない、助かる。……ありがとう」
伊58「……ゴーヤたちは長門を信じたでち。だから、長門もゴーヤたちを信じておいて。めかぶなんて、いくらでも持ってきてあげるから」
長門「ああ……ああ! 私もお前たちを信じる。ワ級たちに、腹いっぱいめかぶを食わせてやってくれ!」
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吹雪「長門さん、潜水艦の皆さんが了承してくれてよかったですね!」
長門「……吹雪、お前にも礼を言わせてくれ。潜水艦達の協力を取り付けられたのも、お前がいてくれたからだ。……ありがとう」
吹雪「もーよしてくださいよ。私なんてただ波長を変えてみただけなんですから」
吹雪「それに、ゴーヤさんたちが長門さんを信じてくれたのは、長門さんの真っ直ぐな思いがあったからこそです。そして、長門さんが潜水艦寮の前に立ったのは、ゴーヤさんたちの事を信じていたからじゃないですか?」
長門「いや、魚雷で叩かれると思っていたが。……そうか。うん、そうなのかもしれないな。なんかそんな気がしてきた」
吹雪「はい! だから言ったじゃないですか。信じる心が重要なんだって!」
長門「……ふふ。お前には教えられることばかりだ。最近の駆逐艦は皆こんなにしっかりしているのか? これならうちの鎮守府の未来も明るいというものだ」
吹雪「えへへ。……それにしても、ゴーヤさんたちはどのくらいの量を集めて来てくれるんですかね?」
長門「さあてな。ワ級を養うのに十分な量だと思うが、それがどのくらいか見当もつかん。私自身、ワカメがどこでどのくらい採れるのかも知らないしな」
吹雪「そうですねぇ……。日本でのワカメの漁獲高は、年間で約5万トンと言われています」
長門「……なに、そんなに? もう少しで大和の排水量ほどにもなるぞ」
吹雪「そしてその三分の二ほどの約3万トンは、岩手県と宮城県だけで賄っているんですよ」
長門「それは私の排水量とほぼ同値ではないか。いや参った。凄いな岩手と宮城」
吹雪「もちろんこれは養殖されていて、栽培も収穫も効率化されているからこその漁獲量ですけど。日本全国どこでも採れるワカメですが、主力産業にしている産地はとっても偏っているんです」
吹雪「そしてワカメは、海外では侵略外来種に指定されるほど繁殖力が強いんです。だから人の目の届かない知られざるワカメの群生地って、実は日本近海にいっぱいあるんじゃないかと思います」
長門「ふむ……。となると、潜水艦たちがそういった所から集めれば、ワ級を養う分には困らないということか」
吹雪「その通りです! ワ級が大食いだったとしても、もうめかぶに困ることはないと思いますよ! 漁業権とかは知らないです」
長門「……ふふ、そうか。これでワ級養殖もようやくスタートラインに立てたというわけだな」
吹雪「そうですね! ……それにもしかしたら取れすぎちゃって、私達の食事もめかぶ三昧になるかもしれないですよ?」
吹雪「めかぶのヌルヌルはフコダインっていう物質なんですが、これがとーっても健康にいいものでして」
吹雪「ガン予防にコレステロールの抑制、血圧安定と抗アレルギー作用、そして抗酸化作用にピロリ菌の繁殖阻止! さらには保湿、育毛、整腸作用にダイエット効果まで! 何にでも効いちゃう魔法のヌルヌルなんです!」
長門「そんなに……そんなにか。まるで秘薬か霊薬だな。まったく恐れ入る」
吹雪「はい! だから長門さんもめかぶをいっぱい食べて、健康になっちゃいましょうね!」
長門「いや、食べない。好きではないからな」
吹雪「そうですか」
長門「ああ」
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夜 戦艦寮
陸奥「……えっ! 潜水艦が力を貸してくれたの?」
長門「ああ。そのおかげで、なんとかワ級の餌に目処はついた」
長門「寮に行ったときは私も魚雷で叩かれるかと身構えてはいたんだがな。杞憂に終わった。潜水艦たちは私の話を聞いてくれたよ」
陸奥「あの子達、あんなに荒れていたのに……よく長門の話をきいてくれたわね」
長門「それもこれも、みな吹雪のおかげだ。彼女が潜水艦との間を取り持ってくれたから、私は潜水艦たちと話すことが出来たんだ」
長門「本当に頼もしいやつだ。それに海産物への造詣も深いときている。まったく、今の駆逐艦は凄いな。最高だ」
陸奥「そうねぇ……。吹雪ちゃんのように潜水艦の子たちも、また私たちに心を開いてくれるといいけど……」
長門「それはこれからの私達次第だろう。潜水艦たちは見ている。……もう二度と、彼女たちを裏切るような事はしてはならない」
長門「だから……そうだな。暫くの間はワカメ採りに従事してもらうが、それが終わったとしても、オリョールへの出撃を潜水艦だけに頼るのは止めるよう働きかけるつもりだ」
長門「今のような大規模作戦の間の閑散期には、艦種によって多忙な者と暇な者とで落差があると以前から思ってはいたんだが」
長門「今回の件で思い知らされたよ……。やはり皆で助け合うべきだ。潜水艦一手に任せていた諸々の任務を、艦種を越えて割り振るよう提案しようと思う」
長門「まぁ……和平を申し込んでいた以上、大和や他の連中もそういったことは考えているのだろうが。とりあえず、私からも言ってみるつもりだ」
陸奥「うん……確かにそうね。潜水艦の子たちだけに無理をさせすぎたわ」
長門「燃費や弾薬から見れば、効率的ではないがな。だが……、なんというのかな。私達艦娘は艦種の垣根を越えて、もっと対等であるべきだと思う」
長門「今日、潜水艦たちが話を聞いてくれたことも。めかぶの問題を解決できたことも。私がめかぶにやたら詳しくなったことも。皆が私に力を貸してくれたからだ」
長門「だからこそ、どちらがどちらを使うという関係であるべきではない。私達は艦娘。全員が苦楽を共にする戦友なんだ。互いに手を取り合っていきたい」
陸奥「……長門、なんだか今日一日で随分と立派になっちゃったわね」
長門「そうか? うん……そうかもしれないな。加賀の言ったとおりだ。執務室で麻雀や桃鉄大会をしているよりは、確かに有意義な経験をしている気はする」
陸奥「……ふふ。まぁ、楽しんでいるのならいい事だわ。……で、明日からは何するの?」
長門「それはもちろん、ワ級の繁殖方法を探るさ。養殖はようやくスタートラインに立ったばかりだ。やるべきことは山ほどあるだろう。何をすればいいかは解らないが」
陸奥「そ、ならはやく寝ないと。いつまでも談話室でさくま相手に99年プレイを続けている場合じゃないでしょ?」
長門「ああ。だが、もう少し待ってくれ。盛岡に着きそうなんだ。知っているか? 岩手はワカメの産地でな、私くらいの量が毎年採れるんだ」
陸奥「電気消すわよ。はやく部屋に帰りなさい」
長門「ええい! 待て! まだ消すな!」
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とりあえずここまで
>長門「いや、食べない。好きではないからな」
>吹雪「そうですか」
ここでついに腹筋が弾けたw
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翌朝 生け簀
長門「ほら、食べろ」
玉男「♪……♪♪♪…♪♪♪…♪」ズゴゴゴゴ
玉美「♪♪……♪…♪♪♪……♪」ズゴゴゴゴ
長門「ズゴゴゴゴて。掃除機かお前は。まったく、大した吸引力だ」
長門「……ふーむ、しかしその歯はそうやって使うものだったのだな。めかぶを強力な吸気で歯に吸い付けて、その力で歯が刻み、細かくなっためかぶを歯の隙間から吸っているのか」
長門「恐らく並んだ歯の向こうに、気道やら食道やら胃や肺があって吸い込んでいるのだろうが……。そんな吸い込み続けられるものか? 本当に掃除機なのではないか?」
長門「しかし、私がめかぶを刻んで与えなければいけないと思っていたが、これは手間が省けたな。とりあえずめかぶをそのまま近づけてみて良かった。新たな発見だな」
玉男「♪……♪…♪…♪♪♪……」ズゴゴゴゴ
玉美「…♪……♪……♪♪…♪♪」ズゴゴゴゴ
長門「……思いの外うるさいな。ええい、もう少し静かに食えないのか! 外でもこんな音を立ててめかぶを食っているのか? はしたないぞ!」
長門「……そういえばリランカ島を二度と深海棲艦の住めない焦土にしてやろうと出撃した時、確かにこの音を聞いた記憶がある。……その時は全員が一斉に大鳳の方を見たが、悪いことをしたな……」
長門「大鳳の奴、『私じゃないです! ガス漏れじゃありません!』と言ってな。顔を真っ赤にして泣いていたぞ。まったく、乙女に恥をかかせるとはお前たち。……まあいい」
長門「お前たちがこうしてめかぶをたらふく食えている通り、餌の問題は解決した。見ろ、このワカメの山を。潜水艦たちに感謝して欲しい」
長門「まずは絶食で落ちた体力を戻して欲しい所だが……、お前たちの本分も忘れないでもらいたい。そう、繁殖だ」
長門「私はワ級の事などわからんが、恐らくは牛や豚のように繁殖するものなのだろう。そうだろう? そうだな? そうでなくては困る」
長門「そこでだ。四の五のは言わない。子をなせ。そして増えろ。そのために私が何をすればいいのか、教えて欲しい」
玉男「♪…♪…♪…♪…♪…♪…」ズゴゴゴゴ
玉美「…♪♪♪♪……♪♪………」ズゴゴゴゴ
長門「……やれやれ、食事に夢中か。無理もない。まあ喋れもしないが。……しょうがない、これも自分で考えるしかなさそうだな」
長門「ふむ、繁殖。繁殖か……。つまりは恋に落ちるという事だとは思うが、ストレートに言えば交尾をしてくれなくては始まらない」
長門「交尾……。うん、ちょっと直接的すぎるな。何となく恥ずかしい。ここはやはり恋に落ちるという事にしておこう」
長門「で、この一組のワ級が恋に落ちるためには、どのような事を……。……ん?」
玉男「♪………♪…♪♪♪…♪♪」ズゴゴゴゴ
玉美「…♪…♪…♪♪…♪♪……」ズゴゴゴゴ
長門「……………いや、待て。お前たちひょっとして……どっちもメスなんじゃないのか?」
長門「……その乳。その腹。その華奢なボディライン。これはどう見てもメスだろう。……おいおいおい。参ったぞこれは」
長門「いや、ワ級にオスとかメスとかあるのか知らないが。……これはどう見ても男のそれではない」
長門「……うん、ちょっと待て。どうしろと言うのだ。ふざけるなよ明石、これは繁殖以前の問題だろう!」
長門「っく、誰もこれに気づかなったのか? 私でさえも? ……私達はもしかしたら、始めからとんでもないミスを侵していたんじゃないか?」
玉男「♪………♪♪♪♪……♪♪」ズゴゴゴゴ
玉美「♪♪…♪…♪♪♪♪……♪」ズゴゴゴゴ
長門「……ここまでか。女同士で子を作るなど、どう考えても無理だ……」
長門「……いや、待て。……『始める前から諦めてどうする』。たしか武蔵はこの養殖を始める時、そんな事を言っていたはずだ……」
長門「……うん、そうだな武蔵。私はお前を失望させる所だった。挑戦もせず、あがきもせず、諦めるなど……それは艦娘に似つかわしくない行為だ」
長門「私達はいつだって挑戦し、あがき、そして常に勝利してきた。深海棲艦が一日で元気いっぱいピンピンになる頃から、もう基地航空隊だけでいいだろって作戦、そして輸送して主力を叩いてってお前これは二海域じゃないのかと言いたくなるような決戦までだ」
長門「……ふっ、目が覚めたよ武蔵。……ああ! 私は諦めない、諦めるものか。諦めるにしても、せめてあがいてみせてからだ」
長門「そうと決まればこうしてはいられないな。……どれ、ここはアイツに聞いてみて、こういう問題に詳しそうな奴を紹介してもらうか」
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庁舎
卯月「こ、こうぴょん?」
青葉「あーいいですねー! じゃ、ピースをお顔に近づけてー」
卯月「んー、こんな感じぴょん?」
青葉「もっと! 両手のピースがほっぺたにくっつくくらいにお願いします!」
卯月「……できたでっす」
青葉「そこで目線を上に! 白目をむく直前くらいまで!」
卯月「んぅ……」
青葉「そうそう! で、最後はお口をだらしなく開けてください! 舌も出しちゃって! でも少し笑顔で! ハアハア言いながら!」
卯月「んむむ……」
青葉「完璧です! いい顔ですねー! 可愛いですよー!」パシャ
長門「青葉。青葉はいないか」
青葉「はい? ああ、どーも長門さん! どうしたんです?」
長門「ちょっと聞きたいことが……ああ、仕事中か。すまなかった、先にそちらを済ませてくれ」
青葉「いえいえー。広報の仕事ではないですし、もう終わりましたから! はい卯月ちゃん、飴玉です。また撮らせてくださいね!」
卯月「ありがとぴょん!」
長門「……ふむ、卯月をカメラで撮っていたのか」
青葉「はい! 今日は非番なんで、鎮守府を回って色んな子たちをカメラに収めてたんですよ」
長門「ほう。休みに皆の事を。青葉は本当にカメラが好きなんだな」
青葉「……んー、カメラといいますか、皆のことといいますか。ほら、青葉たちっていつ沈んじゃうかわからない所もあるじゃないですか」
長門「……そうだな。たしかにその通りだ。うちの鎮守府では幸いにもまだ戦没者はいないが、常に危険はある。艦娘とはそういうものだ」
青葉「はい……。だから……、そんな事にはならないとは信じていますが、もしそうなった時のために。残しておきたいんです。みんなの事をアルバムに」
長門「……そうか。ふふ、うん。いい趣味してるな」
青葉「それで、青葉に何の御用ですか? あ、もしかして長門さんも一枚撮って欲しいとか? なにやらいつもと違う出で立ちですし」
長門「いや、そうではない。実はな、少し尋ねたい事があってきたんたが」
青葉「はい? なんでしょう?」
長門「その、うまく説明しづらいんだがな。女同士で子を作る方法を知っている者はいないだろうか」
青葉「…………ちょっと待って下さいね。……え、もう一度お願いします」
長門「女同士で子を作る方法だ」
青葉「……それはガチなやつですか?」
長門「ガチ? うん、まあ私は本気だな」
青葉「……っえー……、んー……ちょっと青葉もカミングアウトを受けるのは初めての経験ですから。こういう時、どういう顔をすればいいのか解らないんですけども」
青葉「……んー、でも今の時代、そういう悩みを抱えた人も大勢いると思いますし。社会もようやくそういった人たちを受け入れられるようになってきましたから」
長門「なに、そうなのか?」
青葉「はい! でもまだまだ問題もあるとも聞きますし、本当大変だと思います。青葉は皆が笑って暮らせるような社会を望みますけどね」
長門「ああ。その通りだな。私達もその平和を守るために頑張らねば……。で、誰か心当たりはいないか?」
青葉「……んー、そうですね。方法を知っているかは解りませんが、そういう事に詳しそうな子なら心当たりがありますよ!」
長門「本当か。いや、良かった。さすがは情報通だな。頼りになる」
青葉「今の時間でしたらー、そうですね。間宮さんの所でコーヒーでも飲みながら原稿を描いていると思います。ついてきてください!」
長門「すまない、本当に助かる。……やはりこういう事は一人で悩まず、誰かに相談するべきだな」
青葉「そうですね、一人で抱え込むには大きすぎる問題ですから。……で、お相手は? 誰なんです?」
長門「相手? ワ級だが」
青葉「深海棲艦ですか! え、敵!? なんかもうロックですね!」
長門「そうか?」
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食堂間宮
秋雲「……っんー、あーもう全っ然ダメ。なーんも浮かばない。……秋雲さんもしかして、才能枯れちゃった?」
秋雲「……いやいや、どーするのこれ。ネームも何も手がつかないって、初めてだよこんなの~……」
秋雲「印刷所間に合うかなぁ……。こりゃ早期割りはまず無理だし……、また武蔵さんのツテに頼って、刷ってもらうってのもなぁ~」
秋雲「……あーもう。すいませーん、間宮さん。コーヒーおかわりお願いしていいっすか~……」
青葉「あっ! いましたいました! あーきぐーもーちゃん!」
秋雲「んん? やー青葉さん。どーしたの?」
青葉「秋雲ちゃん秋雲ちゃん! 実はですねー、秋雲ちゃん相談したいって方いるんですが。お時間ありますか?」
秋雲「え~何、相談ー? ……んー、今ちょっと立て込んでんだよねー……」
青葉「そうなんですか? それにしてはどの画紙も白紙のようですけどー」
秋雲「うっ……、それはまぁ……ね。こう、アイディアが出てこなくさ……」
青葉「あーつまりスランプって奴ですね! この時期に大丈夫なんですか?」
秋雲「大丈夫かなんてこっちが聞きたいよぉー……。まぁギリッギリ大丈夫、とまだ言える時期。……かなぁ」
青葉「……でもこの惨状じゃ落としちゃいますよ? ペーパーで誤魔化す気なんです?」
秋雲「そ、それだけはこの秋雲の同人魂にかけて! ない! ……と、言いたい所なんだけど……いやー秋雲さん、今回ばかりは本当に大ピンチで……」
青葉「……なにやら重症のご様子ですねぇ。こういう時は焦ったらダメなんですよ? つまり、気分転換が必要だと青葉は思うのです!」
秋雲「……気分転換ねぇ、だから相談に乗れって?」
青葉「はい! ご明察ですー!」
秋雲「……んん、まー確かに。このままだとなーんにも進みそうにないし。……しょうがないなぁ」
青葉「それはOKって事です? ですよねですよね?」
秋雲「はいはいオッケーオッケー。もー青葉さんには敵わないよ……。まぁ、絵描き教えてほしいとかそういうのでしょ? 誰なの? 駆逐の子?」
青葉「長門さーん! オッケーですよー! 入ってきてくださーい!」
長門「そうか。それは良かった」
秋雲「ぅえ゛ぇぇ!?」
秋雲「え? えぇー……? 相談相手って長門さんだったの!?」
長門「ああ、……変か?」
秋雲「……いやー、てっきり駆逐の子が絵描きについて聞きたいのかなーって……ええ? じゃあ長門さん、絵を描きたいわけ?」
長門「いや、そうではないが」
青葉「秋雲ちゃん。長門さんはですね、とーっても重大なお悩みを持って、ここに来られたのですよ?」
秋雲「へ? 重大なの?」
青葉「とーっても重大です。で、そういう本を読んだり描いたりしている秋雲ちゃんを、青葉が紹介させていただいたというわけです」
秋雲「ん? んん? 話がよく見えないんだけどさぁ……。なに? 同人の話なの? おすすめ本知りたいとか?」
青葉「……この話はひじょーにセンシティブかつクリティカルなお話なので、秋雲ちゃんは細心の注意を払って聞いてあげてくださいね?」
秋雲「え、えぇ……? なんかすっごい重そうなんだけどぉー……」
青葉「長門さん。秋雲ちゃんはその手のお話のプロですから、ドーンと胸を借りてお話してみてください! 良い手がかりが掴めるように、青葉も祈っていますから!」
長門「ああ、ありがとう青葉。本当に助かったよ」
青葉「それじゃ、青葉はこれにて! お二人とも、幸運を祈ります! では!」タタタッ
秋雲「……」
長門「……」
秋雲「……あのぉー、まず何か頼みます?」
長門「ん? ああ、そうだな。じゃあいちごオレを頼む」
伊良湖「はいこちら、コーヒーといちごオレですー」
秋雲「あ、どーもどーも」
長門「うむ、ありがとう」
秋雲「……で、そのー……お話って何なんです? ……まあこの秋雲さんに聞くって事は、そういうお話なんでしょうけど」
秋雲「……んまぁ~、確かにねぇ。長門さんがそういう本に興味持ってたって、見方によっちゃあイメージ壊しちゃうのかなぁ」
秋雲「んでも、恥ずかしがらなくてもいいんですよ。もー今はそういうのも溢れてる世の中だし。……ま、受け入れられてるとは言えないかもだけど、重く考える事はないんじゃないですか?」
長門「ふむ、そうなのか。青葉も同じような事を言っていたな。お前たち二人が言うのならそうなのだろう」
長門「実はな、私は女同士で子を作る方法を探っているんだ。青葉は秋雲がそういう事について詳しいと言っていたんだが、解るだろうか?」
秋雲「……ありゃ~、こりゃ驚いたよ。え、何々? TS物の話だよね? それとも生やすだけ? 生やすだけだと玉をつけるかつけないかで喧嘩するよね? 意外とマニアックな所突いてくるねぇ~」
秋雲「長門さんはもっとこう、ノーマルカプとか王道が好みだと思ってたんだけど。ん~そっかそっか! 確かに言い出しづらいのも解るわぁ~」
秋雲「でもね、安心して欲しいです。そういうやや特殊なジャンルはね、同好の士の濃ゆい繋がりがあるもんだから。本っ当に好きな者同士が集まってるもんだから」
秋雲「それにある意味ね。広く受けるのを最初から度外視してね、最大公約数的な描き方や話作りをしないで好きに描く人が多いから、純粋さを感じやすいジャンルだと秋雲さんは思うよ。マジで」
秋雲「もー秋雲さんもね、同人長くやってるとさぁ。何が受けるのかとか考え出しちゃってね。いやそれはそれで重要なんだけども、でも初心忘れちゃってるっていうかさ。自分が本当に描きたいものって何だったっけとか」
長門「……ちょ、ちょっと待ってくれ。言葉の洪水を浴びせるのはやめてくれ。一つも理解できんぞ」
秋雲「……へ? 違った? TSの話じゃないの?」
長門「私はただ、ワ級が女同士でどう繁殖するかについてだな……」
秋雲「……え、異種姦? いや獣姦か。んー獣姦ですかぁー。そうなるとだいぶディープなジャンルだねぇ。正直言ってあんまり見かけないよね」
秋雲「いやもちろんさ。浜風が犬と演習したりさ、逆に浜風が犬になって提督と演習してたりするものもあるけどさ。あれってどうなのかな? 浜風が犬になるってそれもう最初から犬で良くないかな? 良くないんだろうね」
秋雲「あーでもね、ほらあの巨人と戦う人気漫画あるじゃん? で、その主人公と兵長のカプが界隈では人気なんだけども、なぜか主人公がウナギになって兵長がケツに挿れるっていう、薬でもやってんじゃないのかってシチュもあったりしてさ」
秋雲「そういうのは読んでて勉強になるっていうか、こう頭のネジ外す練習になるよね。うん、秋雲さんそういう意味でもけっこう好きだよ。そっち系のジャンル」
長門「……ええい、まてまてまて。私はウナギの話などしてないぞ。ちょっと説明させてくれ!」
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秋雲「……え゛え゛ぇぇー!? ほんっとーにワ級の話だったの! マジで!」
長門「ああ……。どうにも話が噛み合わないとは思っていたが……」
秋雲「そりゃあ鎮守府でワ級育ててるなんて、フツーに考えたらあり得ない話だし……。秋雲さんも驚いちゃったよ」
長門「ふむ、確かにそうだな。先に説明すべきだったか。……やれやれ、しかし誤解が解けてよかった」
長門「ではあらためて聞く。私はワ級が女同士で子を作る方法を探している。青葉が言うには秋雲はそういう話に詳しいらしいが、何か知らないだろうか」
秋雲「……んー、秋雲さんに聞かれても、薄い本思考でしか答えられないんだけどもぉ……。やっぱりTSしかないんじゃないかなぁーって」
長門「さっきから何度か言っているが、そのTSというのは一体何なんだ?」
秋雲「トランス・セクシャル。性別転換って事ですよ。男が女に、女が男になるやつだね」
長門「……面妖な事を言うな。まあ確かに、片方がオスになってくれれば世話はないが……とても現実的とは思えん」
秋雲「いやいや、ところがどっこい。これね、現実でもある現象なんです」
長門「なに、本当か?」
秋雲「雌雄同体と言いまして。環境によってオスになったりメスになったりっていう、薄い本みたいなパンチの効いた特性を持つ生物が世の中にはいるのよ」
秋雲「それも海洋生物に多くてね。魚類の約2%はこの雌雄同体って話です。チョークバスって魚なんかは、一日に20回もオスメス変化しちゃったりしてね」
長門「そんなに……。……ふむ、しかし確かにワ級がその雌雄同体であればこの問題は解決するな。そのオスメスを切り替えるにはどうすればいいんだ?」
秋雲「んー。普通は繁殖時にペアになるように起こるんだけど、例えば、他の群れと縄張り争いする時にオスが居なかったりすると変化する場合もあるし」
秋雲「まぁ一言で言えば、『ストレス』なんじゃないかなぁ。繁殖への衝動や外敵ってのは、詰まるところストレスだからねぇ。そういうのが引き金になるんじゃないかと」
長門「ストレス……か。ふーむ。となるとワ級にストレスを与えれば、オスになるかもしれないというわけだな?」
秋雲「そそ。ま~仮定の話なんだけども」
長門「……しかし考えてみれば、今の時点でもワ級はストレスまみれの気もするが。敵に捕まって生け簀に入れられているんだぞ?」
秋雲「ストレスにも種類があるからねぇ。さっきも言った通り、外敵の脅威があって変化したりもするわけで」
秋雲「安全な生け簀の中で、餌も貰えてるって環境じゃあ起こりづらいのかもしれないねぇ」
長門「……つまり必要なのは外敵か。そしてワ級を脅かせ、ということだな。ふむ、……じゃあ駆逐艦を集めて投石してもらうか」
秋雲「いやいや、深海棲艦が投石くらいで生命の危機を感じるとは思えないよ」
秋雲「言っても艦船なんだしさ。投石じゃビックリはしても、『やっべ、子孫残さないと! オスになろ!』っとはならないでしょ?」
長門「そうか。ならば多少手荒に……至近距離に51cm砲を撃ち込むか……それとも陸攻による波状攻撃か……」
長門「……いや待て。生け簀が壊れてしまうぞ。というか更地になる。それに直撃しなくとも衝撃で沈んでしまっては、皆に合わせる顔がない」
秋雲「じゃあ……ここはやっぱり心理戦術じゃないの? 言葉で戦意を削ぐ。投降を呼びかける。降伏を促す。……もう自分たちの命は目の前の敵の手中にある、と思わせる。秋雲さんたちも沢山やってきたからねぇ」
長門「確かにな。敵の泊地を取り囲んで、泊地棲姫が泣いて出てくるまで野次を飛ばし続けたこともあったか……」
長門「しかし、なるほど心理戦術か。うん、それなら被害も出ないし弾薬もかからない。それにワ級が沈む心配もない……」
長門「……いい案だな。青葉が紹介してくれただけのことはある。さすがだな」
秋雲「いやいや、どういたしまして。それに秋雲さんも、ちょっと今の話に興味出てきちゃったよ。……何か新刊のいいアイディアになりそうだし」
長門「と、なると……ワ級にどんな野次を投げかけるかだが……」
大井「……その役目、私にやらせてもらえないかしら」
長門「む? ああ、大井か。ようやく喋ったな」
秋雲「やー大井さん。秋雲さんたちのテーブルに座ってずっと無言で本を読んでたけど……今の話聞いてたの?」
大井「ええ、聞かせてもらってたわ。盗み聞きなんて悪いとは思ったけど、……ごめんなさい。聞き逃せなかったの」
秋雲「そりゃまたどうして?」
大井「……だってそのワ級たち、女同士で子作りをしようとしているんでしょ?」
長門「ああ、そうだが。しかし、それで何故……?」
大井「……応援したいの。成功させてあげたいのよ。痛いほどわかるもの、その気持ち……」
大井「……あなた達の話を聞いていて、始めのうちは……ワ級に嫉妬したわ。ううん、許せないって思った。私じゃ出来ないことを、そのワ級たちは出来るかもしれない」
大井「ええ……そうよ、私には出来ない。魚類じゃないもの。無理よ。……だけど、そのワ級たちは女同士で愛し合っていて、そして子供を作れるかもしれないのに、何かの問題で作れないでいるんでしょう?」
大井「そう思った時。ああ、私と同じなんだって。絶望に打ちひしがれているんだなって。……雌雄同体とか、難しいことはわからないわ。でも、ワ級たちにはその希望から、逃げないでいてほしいの」
大井「……それは私にはないものだから。……だから、背中を押してあげたいの。諦めないでほしいの。私にはそれしか出来ないから。……私にはそのくらいの手助けしか、その二人には出来ないから」
長門「……そうか。なんだかよく解らんが、熱意だけはこの長門にもひしと伝わってくる」
秋雲「……そうだねぇ。情熱っていうのかな。秋雲さんも、同人に対して久しく忘れてた感情だよ……」
長門「それに大井は野次の名手だ。いや、トップエースと言ってもいい。深海棲艦を何度も泣かせた実績もある。……私は任せてみても良いと考えている」
秋雲「秋雲さんも賛成。大井さんなら上手くやってくれる気がするねぇ」
長門「わかった。……大井、頼む。お前の力で……ワ級たちに子を作らせてやってくれ」
大井「ええ、任せておいて。……性別なんてくだらない壁を越えて。必ずワ級たちに愛の結晶を身ごもらせてみせるわ」
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とりあえずここまで
このSSまとめへのコメント
面白い。つづき...
淡々と真面目に続くネジの外れた文章が笑かしてくれるw