キャラ崩壊注意。
元ネタはピンポン。
間違いがあったらすみません。
それでは始まるザマスよ。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1497860812
バルサミコ酢の味がする…。
ピンチの時には必ずヒーローが現れる。
バルサミコ酢の味がする…。
私の血はバルサミコ酢の味がする……。
ーーーー【部室】
つかさ「え?私が言うの?」
同級生「あんたら友達じゃん」
同級生「そうよ。幼馴染みなんでしょ?」
つかさ「そんなの関係ないよ」
つかさ「こなちゃんが部活をサボるのは、こなちゃん自身の問題だし……」
同級生「四の五のはいいのよ。柊」
同級生「だいたいあんたの言う事しか聞かないじゃん。泉は」
つかさ「……」
先輩「1年!早く外に集まれ!3年もう来てるよ!!」
同級生「はいっ」
同級生「はい!」
つかさ「はーい」
私の血はバルサミコ酢の味がする。
ーーーー【泉宅】
こなた「ロボットと言ったらやっぱり戦闘だよねー。お母さん」
こなた「エロとか萌え要素も多少ならいいんだけど、そっちをメインするのはなんか違うって思わない?」
かなた「そんなこと言ってないで、ちゃんと学校に行きなさい?」
こなた「素因数分解が実生活に応用できる?」
かなた「そういう問題じゃありません!」
こなた「私、高校卒業したらヨーロッパ行くんだー」
こなた「テニスでテッペン取るんだから、勉強する必要なんてないよね~」
かなた「そういうのはね、こなた。なってから言うものよ」
ーーーー【陵桜高校】【テニスコート】
パコ!
コ!
パコン!
黒井「おい」
部長「なんですか?」
黒井「あのちっこい1年がおらへんけど」
部長「泉ならサボりましたよ。黒井先生からも何か言ってくださいよ」
黒井「練習がヤなら辞めてもらってもええんやけど」
部長「そうはいきませんよ。あれでもウチのエースなんですから……」
黒井「あ?柊がおるやんけ」
つかさ「……っ!!」パコッ!!
部長「確かに柊も伸びてきてますけど。まだまだ泉の相手じゃないです」
黒井「……」
つかさ「とっ!」バコンッ!!
黒井「んー……」
つかさ「はっ!!」パコッ!!
黒井「んーー」
キーンコーンカーンコーン
ーーーー【通学路】
つかさ「……」
パコンッ!!
つかさ「……あ」
こなた「はっはっはぁ」
男「くそっ!くそぉ!」
こなた「3世紀早まったねー。私に挑戦するの」
男「うるせぇ!」
つかさ「こなちゃん」
こなた「あっ、つかさ!」
つさか「こんなところで打ってたの?相手、誰?」
こなた「ここで打ってた高校2年生。大会で結果残したーとか言ってたけど所詮はお遊びテニスだよ~」
つかさ「ふーん」
つかさ「そういえば。ちゃんと部活来なよ?」
こなた「あー」
つかさ「言うように頼まれたから。一応」
こなた「あれ帰るの?打ってこうよ~」
つかさ「ごめんね今日は帰る。また明日打と?」
こなた「そだね。じゃあねーつかさー」
つかさ「……」バイバイ
タ タ タ……
ピンチの時には必ずヒーローが現れる。
つかさ「……ふん♪ふん♪」
つかさ「……」
ーーねぇ知ってる?つかさ
ーー血ってバルサミコ酢みたいな
ーー味がするんだよ~?
ーーーー【翌日】【陵桜高校】
“全国屈指の激戦区を制圧する幸星学園。磐石を誇る常勝軍団に対抗馬は存在するのか?”
こなた「やれやれだぜぃ」ペラ
つかさ「こなちゃん。何読んでるの?」
こなた「んー?さっきホームルームで配られた高校のスポーツ新聞」
こなた「そういえば見て見てぇ。ここ」
つかさ「……?」
“名門真白高校。女子テニス部。ジュニアチーム選手を編入生として入学!”
こなた「大会で結果出すためにわざわざ選手雇うなんてビックリだよねぇ」
つかさ「勝つためにわざわざかぁ……。私には分からないなぁ」
ーーーー【テニスコート】
先輩部員「ちょっと柊」
つかさ「なんですか?」
先輩部員「ジュース買ってきてよ。私とあと2人の分」
先輩部員「よろー」
先輩部員「炭酸ならなんでもおけ」
つかさ「えっと……」
先輩部員「え?先輩に金払わせるつもり?」
先輩部員「早くしてよ喉カラカラ~」
つもり「す、すみません。いま買って来ます……」
こなた「行かなくていいよ。つかさ」
先輩部員「はぁ?」
こなた「先輩。運動中に炭酸飲んだら気持ち悪くなりすよ?水道ならすぐそこにありますしタダですから、そっちでいいんじゃないっすか?」
先輩部員「泉あんたねぇ……!」
黒井「そこぉ!駄弁ってないでちゃんと練習しぃやあ!」
先輩部員「は、はい!」
先輩部員「覚えときなさいよ……!」
こなた「ケロケロ」
こなた「妬いてるんだよ。あの人たち」
こなた「テニスじゃつかさに勝てないから」
つかさ「それはいいんだけど……こなちゃん」チラ
こなた「ん?なにぃ?」
つかさ「その……ブラしてないの?」
こなた「あ、バレちった?いやいやお恥ずかしい。寝ぼけてて忘れちゃったんだよねー」
こなた「パンツも穿いてなかったり」
つかさ「えぇ!?」
つかさ「ユニフォームスカートだし、それはまずいんじゃ……」
こなた「うそうそ。履いてるよ。ホラ」ペラ
つかさ「わぁ!こなちゃんだめだよ!隣で男子も練習してるんだから!!」
こなた「おお……これは失敬」
こなた「アイムソーリーヒゲソーリー。それほどでもぉ」
つかさ「ああ似てる!しんちゃんだぁ!」
ーーーーバンッ!!
こなた「ほっ!」
パコンッ!!
つかさ「く!!」
ポンッ!!
こなた「ふっ」
ゴッ!!!
1年部員「柊が押されてる……」
1年部員「うん」
1年部員「やっぱり上手いね。こなたちゃん」
黒井「……」
黒井「なぁ」
部長「どうしました?」
黒井「柊は今日不調なんか?」
部長「聞いてませんけど……。なぜです?」
黒井「プレイがやけに雑や」
部長「あー。泉が相手じゃ仕方ないですよ」
こなた「はっ!!」
バコーンッ!!!
つかさ「……!」
こなた「よしゃー!」
部長「練習態度はともかく泉はすごく強いですからねぇ」
部長「ストローク、バック、ボレー……、全てにおいて」
黒井「あの2人、長いんか?」
部長「ええ。幼馴染みだと聞いてます」
部長「本当楽しみですよ。今年のインハイ。あの2人がどこまで行くか」
黒井「……」
黒井「井の中の蛙大海を知らず」
部長「なんです?それ」
黒井「上には上がいるゆーことや」
部長「……」
黒井「んーー」
黒井「幼馴染みなぁ……」
ーーーー【真白高校】
あきら「んでぇ?荒れてるの?スレは?」
白石「いや凪に近い状態ですよ、今のところは。まぁでも4レス目に“まともに始めなさいよ!”が来なくてちょっと残念なんですが」
あきら「あ、そっ」
あきら「どうせ共演するならアニメがよかった。映画とかドラマとか……」
白石「ここまできて何言ってるんですか。それにアニメは最後の方出れたでしょう?」
あきら「ふん!あんなんで満足できっかよぉ。バカ、バーカ!」
全国屈指の激戦区を制圧する幸星学園。
磐石を誇る常勝軍団に対抗馬は存在するのか?
ーーーーインターハイが近い。
今日はここまでなんです。
終わる気がしなくなってきた。
でも頑張って終わらせたいです。
ーーーー【翌日】【テニスコート】
黒井「おい、1年!」
1年部員「ハイ?」
黒井「さっきからウチの視界に柊と泉が入らないんやけど、どゆこと?」
1年部員「たしかジュニアチーム選手をスパイするとか言って……」
1年部員「真白高校に行きました」
黒井「あいつらぁ……!」
ーーーー【電車】
こなた「小神あきらだって。雇われ選手の名前」
つかさ「そうなんだ。男の子みたいな名前かも」
こなた「つかさも大概じゃない?」
つかさ「そうかなぁ?」
こなた「うん」
こなた「……次の駅?」
つかさ「ううん」
つかさ「次の次」
ーーーー【真白高校】【テニスコート】
パコ!
ポン!
あきら「……」
小神あきらは不機嫌に練習風景を眺めている。
校長「かつては東に真白有りと謡われたものでしたが……」
白石「……」
校長「年々弱小の一途を辿りましてね。ない知恵を働かせて一計を案じました結果」
パコン!
あきら「……」
校長「小神あきらさんのような一流選手を招き、直にその御指導を仰ぐ事こそ最善であるという結論に達した訳でして…」
バコ!
あきら「なにこれフォークダンス?」
校長「……?」
白石「あー!いえいえ!なんでもないんですよーっ!!」
校長「そ、そうですか?」
白石「ただあきら様もここまでの旅路で疲れてるみたいなんで、練習は明日からで大丈夫ですか?」
校長「あ、はい!もちろんですよ」
部員「はーい。それじゃあランニングー!」
あきら「……けっ」
ーーーー【校門】
こなた「ちょ待てよぅ」
つかさ「へ?」
こなた「まさか正面から堂々と入るの?」
つかさ「そうだけど……ダメかな?」
こなた「いや別にダメではないけどさぁ」
つかさ「どこだろテニスコート」
こなた「なんかホワイトベースみたいな校舎だなー。写メ撮っとこ」
パシャパシャ
こなた「お父さんに見せたら喜ぶかも」
ーーーー【屋上】
ヒュオオオオ
屋上には冷たい風が吹きつけている。
白石「あまり調子に乗らないでください。あきら様」
あきら「……」
白石「自分達がバーターである事を忘れちゃダメですよ」
あきら「勝てば問題ないでしょ」
白石「大した自信ですね……」
あきら「見たでしょ。あの子達の練習ぅ」
あきら「で打っても負けないわよ」
白石「あきら様……」
ーーーー【屋上】
ヒュオオオオ
屋上には冷たい風が吹きつけている。
白石「あまり調子に乗らないでください。あきら様」
あきら「……」
白石「自分達がバーターである事を忘れちゃダメですよ」
あきら「勝てば問題ないでしょ」
白石「大した自信ですね……」
あきら「見たでしょ。あの子達の練習ぅ」
あきら「全部バックハンドで打っても負けないわよ」
白石「あきら様……」
ーーーー【テニスコート】
こなた「ありゃりゃあ?」
テニコートには誰もいない。
こなた「そして誰もいなくなった?」
つかさ「たぶんランニングだよ」
つかさ「すごいなぁオムニバスコートだよ?」
こなた「オムニコートね」
つかさ「あ、あはは……」
こなた「わっ。これニューモデルのラケットだ」
つかさ「こなちゃん。あきらさんもいないみたいだし帰ろうよ」
ブンッ
こなたは立て掛けてあったラケットで素振りをし始める。
こなた「打とうよ」
つかさ「え!本当に?」
こなた「あきらさんが来るまでの暇潰しだよ」
ーーーー【屋上】
ヒュオオオオ
あきら「……」
屋上にいる2人は静かに耳をすましていた。
あきら「聞こえる?」
白石「ええ。腕のいいオールラウンダーですね」
あきら「でも試合はボレーヤーのペース」
白石「ええ。ボレーヤーの方もスピードがあります」
つかさ「はっ」
ポンッ!!
こなた「ふっ」
バコンッ!
あきら「……うん」
あきら「オールラウンダーに比べるとボレーヤーのプレイはかなり雑よ」
白石「けどオールラウンダーも返すので精一杯という感じですね。ボレーヤーの球に伸びがあるからか……」
風の音とわずかな打球音が混ざり合う。
あきら「いえ。あのボレーヤー、スピードはあるけど逆にスキも多い」
あきら「オールラウンダーはわざと負けてるわね」
白石「なんでそんなこと……?」
あきら「知らないわよ。んなの」
あきら「とにかくテニスコートに行こ」
つかさ「ふっ!」
バコンッ!!!
ヒュオオオオ
あきら「風の音がジャマよ」
ーーーー【テニスコート】
あきら「……」
白石「……」
つかさ「んっ!」
バコンッ!!
こなた「とっ!」
パコンッ!
あきら「……」
ポコッ!
パコンッ!!
ザザッ!
バコ!!
タッタッタッ!
バコンッ!
あきら「もういい!やめなさい!!」
怒鳴り声がこなたとつかさのラリーを止めた。
あきら「そういうプレイを続けると癖になるわよ。リボン」
こなた「あー。あきらさんだ~」
あきら「コートについて」
つかさ「……」
こなた「なに!打ってくれるの?」
あきら「私の球を返してみなさい」
こなた「わー!やたー!」
あきら「あんたじゃ……」
白石「あきら様っ」
あきら「……ちっ」
つかさ「……」
ーーーードッ!!
あきらは力強く踏み込んだ。
こなた「!!」
あきら「おらあ!!」
バコンッ!!!
こなた「わああああっ!!」
タッタッタッ!!
こなたはあきらの打った球を必死においかける。
こなた「あああ……」
ト……
しかし到底間に合うこともなく、こなたはコートにへたれ込んだ。
こなた「はぁはぁっ」
つかさ「……ゲームセット」
こなた「ラブゲームで負けた……」
あきら「……」
こなた「ラ……。ラブゲームで……」
つかさ「こなちゃん。そろそろ他の人たちも来るだろうし……帰ろう?」
こなた「…………うぐぐぐ……」
白石「あきら様。あれはやり過ぎですよ……」
あきら「現実を教えてやったのよ」
つかさ「ほら立って……?」
こなた「うん……。うん……」
あきら「待ちなさいよ。リボン」
あきら「私のプレイを見せたんだから。今度はあんたのプレイをみせて頂戴」
つかさ「……」
つかさ「どうせ負けますから」
あきら「あ?どっちがよ?」
白石「……あきら様?」
白石「本気で言ってます?」
あきら「?本気に決まってるじゃない」
あきら「あ」
スタコラサッサー
あきら「あんたが話しかけてくるから逃げられたじゃないの!!」
パコンッ!パコンッ!
ズカッ!ズカッ!
白石「すっすみませんん!!」
白石「ていうかあきら様……。あのオールラウンダーを相当評価してるんですね……」
あきら「才能はあるわ」
あきら「けど闘争心がまるでない」
あきら「その事を教える指導者がいないのがカワイソ」
あきら「もっとも。ありもしない才能を信じて続けてる私よりかはマシかもね」
白石「あきら様……」
あきら「さ、練習しましょ」
ーーーー【電車】
つかさ「……ふん♪ふん♪」
こなた「なんだっけ……それ……」
つかさ「昔やってたヒーロー物のアニメソングだよ」
こなた「ああ……あれかぁ」
こなた「……」
こなた「……次の駅?」
つかさ「ううん」
つかさ「次の次」
ーーーー【翌日】【泉宅】
こなた「絶望した……」
こなた「テニスもやめるーー」
かなた「こなた……」
こなた「ラブゲームで負けたぁ」
かなた「相手はジュニアチームのエリートだったんでしょう?なら負けても仕方ないじゃない」
こなた「ラッキーチャンネルでネタにされるんだぁあ」
こなた「死むぅ」
ーーーー【陵桜高校】【テニスコート】
つかさ「…ふ!」バコンッ!!!
黒井「ああ……?」
ザザッ!
つかさ「ふっ!」ポンッ!!
タッタッタッ!!
つかさ「はっ!」バコンッ!!!
黒井「……うん」
つかさ「……!」パァン!!!!
黒井「うんっ」
ーー「見えないよ……。どこにあるの?」
こなた「あきらさんの隙」
こなた「うぅーー」
こなた「どこだろ?どこにあるの?」
ーー「自分で捜せばいいんじゃないですか…」
つかさ「こなちゃんなら、たぶん自分の家にいますよ」
先輩部員「そこが分からないから、あんたに聞いてるんでしょ!」
先輩部員「後輩は文句言わないで先輩こ言うことを聞け」
黒井「行くな。柊」
先輩部員「……?」
つかさ「……」
黒井「泉とはもう打つな」
つかさ「え?なんでですか?」
黒井「手加減して打つやろ。泉が相手だと」
つかさ「手加減なんてしませんよ」
黒井「ないんか、自覚」
黒井「とにかく柊は明日から毎朝5時にここに来て、ウチとマンツーマンで練習や」
黒井「ウチの作るメニューを消化して、インハイの調整をする」
黒井「勝負への執念に欠けるっちゅう弱点を克服せなあかん」
つかさ「何を……言ってるんですか?」
黒井「プロポーズしてるんやで。にっひっひっ」ニコニコ
つかさ「……」
黒井「それじゃあ楽しみにしとるで。明日の5時」
つかさ「む、無理ですよ。5時だなんて」
つかさ「電車もまだ通ってない時間ですし……」
黒井「走ってくればええやん。体力作りにもなる」
黒井「安心せい。センセは尽くすタイプだっちゃ」
つかさ「え?」
先輩部員「尽くすタイプだってよ。柊、よかったじゃん」
先輩部員「末永くお幸せにぃ」
つかさ「ええ~?」
ーーーー【夕方】
こなた「この漫画もつまんなくなったよねぇ」
こなた「終わり時を完全にスルーしちゃった。編集部の擦れるだけ擦りたい意図が丸見えだよ……」
つかさ「こなちゃんまだ教室にいたの?」
こなた「おーつかさー。部活終わったんだ」
つかさ「うん」
こなた「走らされたでしょ。私サボったから」
つかさ「うん」
こなた「まぁ。それも今日で終わりだよ。私テニスやめるから」
つかさ「うん」
こなた「……」
こなた「うん、ってつかさちゃーん」
つかさ「嫌ならやめたほうがいいよ。無理して続ける事ないもん」
こなた「……そっか」
こなた「無理して続ける事ないよねぇ……」
つかさ「……」
こなた「あとどれくらいある?インハイの予選まで」
つかさ「2ヶ月」
こなた「やれやれだぜぃ。落ち込む暇もないのね」
つかさ「うん」
つかさ「あんまり好きじゃないんだ。こなちゃんのカッコ悪いところ見るの」
こなた「……」
つかさ「大丈夫!ヒーローは勝つように世の中できてるんだからっ」
こなた「んー……。ヒーローねぇ」
こなた「まっそういう事にしときますか」
ーーーー【翌朝】【陵桜高校】
テニスコートに黒井はポツンと立っていた。
『ラジオ体操第1ーっ。ヨーイ!』
『タンタタ♪タンタタ♪タタタタ♪タラン♪』
黒井「……」
『腕を前から上に上げて背伸びの運動ーっ』
黒井「ふぁーーあ……」
『高ぁーく上げて振り降ろすっ』
黒井「……ハイハイ」
ーーーー【教室】
黒井「今日で四日目やで……」
黒井「センセは1人寂しくテニスコートでラジオ体操しとる」
黒井「何で朝練に来てくれへんねん?柊」
つかさ「……なんで行かなくちゃならないんですか?黒井先生」
黒井「コーチゆう仕事はなぁ。指導する選手がいて初めて成り立つんや」
黒井「柊、センセの選手として自覚あるん?」
つかさ「ないです」
黒井「んー」
黒井「とにかくテニスの事だけ考えて欲しいねん。起きてから寝るまでとにかく常に」
黒井「ちなみに今何考えとる?」
つかさ「5問目です」
黒井「あのなぁ。はるか昔にあった意味分からん出来事を覚えて何になるんや?」
同級生「ななこちゃんうるさーい」
同級生「気が散ります!」
黒井「ああ、スマンスマン」
つかさ「……暇潰しですよ」
こなた「zzz……」
黒井「何がや」
つかさ「テニスです。世界史の勉強をするのも」
つかさ「どうせただの暇潰しなんですよ」
黒井「んー」
ーーーー【職員室】
黒井「んっんー♪んー♪」
教師「鼻歌ですか?黒井先生。御機嫌ですね」
黒井「ふふっ。私にもやっと訪れたんですよ」
黒井「春が」ニコッ!
ーーーー【テニスコート】
つかさ「……!」パコンッ!!
黒井「もっと変化をつけろやあ!!」
つかさ「……く!」ポンッ!!
黒井「足動かさんか!腰をもっとおとせ!!テイクバックが遅いんや!!」
バコンッ!!
こなた「黒井先生って大会近づくといつもこんななんですか?」
先輩部員「いや。私も初めて見るわ。先生があんな風に吠えるの」
こなた「なんだってつかさを追い回すんだろ」
先輩部員「さぁ?盛ってんじゃない?春だし。先生独身だし」
スパン!!
黒井「ノータッチで抜かれんなや!!」
こなた「でもつかさ怒鳴られるの苦手だからなー。限界間近ですよ?」
先輩部員「うん。だろうね」
つかさ「……!!」ザザッ!
黒井「何で攻めへんねん!!」
黒井「ミスを待つなっ!!」
黒井「行くんや!!そこで!!」
黒井「何回言わせるん!」
黒井「やる気あらへんのか!?」
つかさ「……ふぅ」ピタリ
黒井「?」
つかさ「すみません。今日は帰ります」
黒井「かっ!!えっ!?」
黒井「始めたばっかやないか!待たんかい!柊!!」
先輩部員「逃げた」
こなた「仕方ないなぁ。もぅ」
黒井「ああ~!!もうっ!!」
先輩部員「先生、激おこじゃん」
先輩部員「てか教育者としては問題じゃん。あの態度」
先輩部員「何も柊1人が選手じゃないんだから」
先輩部員「どうせ報われない恋だよ」
先輩部員「ははっ」
部長「……え!?あれって!?」
「ここが稜桜ですか……」
先輩部員「誰です?あの巨乳」
部長「え!?あんた知らないの!?」
黒井「……高良」
高良「お邪魔します。私は幸星学園テニス部部長、高良みゆきです!」ペコリッ
高良「本日は練習を見学させていただきにまいりましたっ」
黒井「はーん……」
ーーーー【中庭】
どうしてついてくるの?
こなちゃんはあきらさんを倒すんでしょ?
インハイまで時間ないんだし、サボってる場合じゃないよ。
あんな部活出たって意味ないよ。ポンコツばっかりだし。
なんだか最近疲れちゃうの。人間関係とか。テニスにしても……。
どんどん複雑になってく感じで……。だんだん単純じゃなくなっちゃって。
……今年も夏がくるね。
ーーーー【テニスコート外側】
黒井「今日、柊はおらへんよ」
みゆき「……」
黒井「お目当ては柊やろ?高良」
みゆき「なぜそう思われますか?」
黒井「あんたみたいなスターがウチにくる理由……。他に探すほうが難しいやん」
みゆき「……ふふ」
みゆき「初めて柊さんを見たのは中学最後の県大会です。その試合、彼女は負けてしまいましたが……」
みゆき「コントロール。スピード。ゲームメイク。反射神経。集中力」
みゆき「全てにおいて中学生離れしてました」
みゆき「脅威と感じるほどに」
黒井「でも、負けた……」
みゆき「……」
黒井「で?その時の柊の相手は?」
みゆき「柊かがみ」
みゆき「柊つかささんの双子の姉であり、今は幸星学園の1年生です」
黒井「……なるほどな」
こなた「黒井先生はよくやってると思うよ?」
つかさ「んー?」
こなた「そりゃさ。つかさにはちょっと厳し過ぎるとこもあるけど、言ってることは間違ってないじゃん?」
こなた「私、結構好きだよ。黒井先生」
つかさ「違うんだよ。こなちゃん。そういうことじゃないんだよ」
つかさ「強くなるとか優勝するとか……。そういうテニスしたくないんだ」
つかさ「楽しくできればそれで十分」
つかさ「勝つために何かを犠牲にしちゃったり、誰かをひきずりおろしたりしたくないんだよ」
つかさ「そうやってギクシャクしたくない」
こなた「ふーん」
みゆき「正直。私の目に柊さんは鶏群の一鶴に映ります」
黒井「つまりあんたは柊が、この学校には不釣り合いだと言いたいわけや」
みゆき「……」
みゆき「彼女は幸星学園に来るべき選手でした」
黒井「……」
みゆき「理想を掲げるのはたやすいです」
みゆき「ただ理想の追求を許された人間は少ない……」
みゆき「限りなくゼロに近いんですよ」
黒井「悪かったな。遠くから来てもらったのに」
みゆき「いえ。こちらこそ突然伺ってしまい、申し訳ございませんでした」
黒井「……最後に1つだけ質問構わへんか?」
みゆき「はい」
黒井「今の段階で……。つまり2ヶ月後のインターハイ予選で。ウチの柊が高良に勝つ確率……」
黒井「どれくらいあるん?」
みゆき「…………」
みゆき「皆無です」ニコッ
こなた「この星の1番になりないんじゃ!私は!」
こなた「世界チャンプ目指してるのだ!」
こなた「テニスの王子様ならぬお姫様!」
つかさ「うん。こなちゃん子どもの時から言ってるもんね」
こなた「つかさとは違うね。ここ」
つかさ「うん」
こなた「私は単純なんだよ」
こなた「人がどうなったって敗北なんて楽しめないっ。とにかく勝てたらいいんだよぅ」
つかさ「カッコいいね、それ。応援する」
こなた「なら明日から部活出なよっ」
こなた「つかさがいないと練習にならないんだから」
ーーーー「皆無です……」
黒井「だってやんの」
黒井「クソガキがっ!!」
ドカッ!!
ーーーー「くしゅんっ」
みゆき「……?」
ーーーー【真白高校】【テニコート】
バコンッ!!
白石「ドライブ!」
あきら「!」パコンッ!!
白石「バック!」
あきら「とっ」パァン!!
白石「スマッシュ!」
あきら「どらっ!!」スパァン!!!
部員「すっご」
部員「あれって球種もコースも指定されてるんでしょ?サイボーグなのかなアイツ」
部員「でも小神さんって私たちと1回も打ってくれないじゃん」
部員「なめられてるのよ。私ら」
部員「レベルが違いすぎるのは確かだけど」
あきら「……ふっ」ポンッ!!
部員「あ、そういえば昨日のドラマ見た?」
部員「あー不倫のやつ?」
部員「え?そんなのやってたっけ?」
あきら「うっさいわよ!!気が散る!!」
部員「あ」
部員「す、すみません……」
あきら「……はぁ」
白石「どうしました。あきら様?」
あきら「リボンのオールラウンダーは今日も休みなの?」
白石「あー君たち。大きなリボンをしたオールラウンダーの子、知らないかな?」
部員「いえ……。知りませんけど……」
あきら「……いいわよ。続けましょ練習」
あきら「はっ!」バコンッ!!
あきら (どこにいる……) バコンッ!!
あきら (あのリボンをはどこにいるのよっ!)
バコンッ!!!!!
ーーーー【幸星学園】
みゆき「陵桜高校ですっ!」
顧問「はぁ?何しにだ!?」
みゆき「気になる選手がいたので!」
顧問「強いのか!?」
みゆき「分かりません!!」
顧問「……」
顧問「と、とにかく。インハイが近い!お前が無断で休むようでは困る。高良!!」
みゆき「はいっ。申し訳ございませんでしたっ」
顧問「お前はウチのエースだ!その自覚を持て!!」
みゆき「はい!」
顧問「他の者もいいな!自らが幸星テニス部員である誇りを忘れるな!!」
部員達「はいっ!!」
かがみ「……陵桜高校?」
ーーーー【陵桜高校】【テニスコート】
つかさ「く!!」パァン!!!
黒井「遅い!遅い!遅い!!もっと早く!!」ポンッ!!
黒井はかごの中の無数にあるボールを打ち出している。
黒井「止まるな!動け!!」ポンッ!!
つかさ「あぅ…!!」スパッ!
先輩部員「厳しいとこ出すなあ。黒井先生」
こなた「つかさもよく拾ってるよー」
つかさ「うっ」コンッ!
先輩部員「しかし我らがお姫様がクズリだすのも時間の問題よ?」
こなた「んー」
黒井「どびつけ!!」
つかさ「あっ!」カツッ!!
黒井「遅いねん!!」
つかさ「うぅ……」ズザーッ
黒井「寝るな!!そこに布団ないやろ!!」ポンッ!!
コツン
つかさ「いてっ」
つかさの頭にテニスボールが当たる。
つかさ「こ、こんなことしてどうなるんですか……」
黒井「強くなる」ポンッ!
つかさ「賞状やトロフィーがそんなに大切なんですか?」コツン
黒井「頂上に立たな見えへん風景もある」ポンッ!
つかさ「まるで見てきたような言いかたですね」パンッ!
黒井「……」
コツン
つかさの雑な返球が黒井の頭に当たる。
黒井「いたっ」
黒井「自分はそうやってすぐカラに閉じこもるな」
つかさ「私の生きかたです。先生には関係ありません……」
先輩部員「……」
こなた「……」
黒井「よしっ」
黒井「ほんなら試合を申し込む。柊」
黒井「もしあんたが勝てばウチはあんたから手を引く。今後一切関わらへんことを約束する」
柊「私が負けたら?」
黒井「ウチの犬になってもらうで。ワンワンワンっ」
黒井「絶対服従や」
柊「……」
今日はここまでなんです。
見てくれてる人がいるっぽくて
励まされた。ありがとうございま酢。
先輩部員「ワンセットマッチプレイっ」
ポンポンポン
黒井「かつてバタフライセブンと呼ばれた選手を知っとるか?」
柊「いえ。知りません」
黒井「高校の全国大会上位に幾度となく入賞したことのある選手や」
蝶々が舞うみたいに
華麗なフォームでプレイする事から
そんなあだ名が付けられた
バタフライセブン。
黒井「驚くほど強かったわ。試合のマナーも素晴らしかった」
黒井「あんなにな、柊。よぉ似とる」
つかさ「そんなことより。例の約束守ってくださいね」
黒井「神に誓うで」
黒井「……けどあんたは負ける」
こなた「黒井先生本気でつかさに勝つつもりかな」
部長「無理ね。ただでさえ相当なブランクがあるのに、先生運動不足だから途中で倒れないか心配」
黒井「……」
教えたるわ。柊。
あんたのテニスがどんだけ軟弱か。
教えたる……。
バタフライセブンの悲劇を。
つかさ「……?」
黒井「……」
黒井はサーブを打とうとしない。
つかさ「あの先生……?」
低くした体勢をつかさは元通りにした。
黒井「!!」パァン!!!!
つかさ「ちょっ!?」
カツンッ
黒井「ハッハァーン!!」
先輩部員「フィフティーン・ラブ!」
つかさ「……」
部長「おとなげないですよー!先生ぇー!」
先輩部員「反則もいいところじゃん」
こなた「……強い」
黒井「……」ポンポンポン
怒るか?柊。
いや……ちゃうな。
あんたは萎縮する。
闘志を剥き出しにして挑む
相手に対しあんたは……
黒井「らぁ!!!」
怯えるっ!!
バコンッ!!!
つかさ「……!」カツッ!
黒井「シッ!!」スパァンッ!!
つかさ「うっ!」スカッ……
部長「今のも反則ギリギリって感じね」
こなた「でも黒井先生よく知ってます」
こなた「つかさの嫌がる事」
つかさ「はっ」スパァン!!
読めるわ。
黒井「ほっ!!」バスンッ!!
あんたの考えてる事が
手に取るように分かるわ。柊。
その打球に対してあんたは必ず……
ストレートへ返球する!!
つかさ「ふっ!」パァン!!
そう!!ここやっ!!
つかさ「……っ!?」
黒井「ハッ!」スパァンッ!!
つかさ「ふぅ……」
そうや。
あんたの見切りは極めて早い。
無駄な球は一切追わへん。
その潔さ……。
甘いわ。
ーー醜いプレイは嫌いか?バタフライセブンーー
教えたるわ。柊。
ーーだがそれでは勝つことは出来ないーー
あんたのテニスの軟弱と誤算。
ーー残念ながらそのプレイはプロに通用しないーー
ーーその薄い羽では海を渡る事は出来ないーー
スパァンッ!!
敗北と挫折。
つかさ「うっ」コツッ
喪失と悲嘆。
部長「凄い……」
スパァンッ!!
孤立と混迷。
つかさ「あっ」コンッ!
苦悩と絶望。
パァン!!!!
虚無と堕落。
つかさ「……っ!」
先輩部員「ゲームカウント。4-0!」
つかさ「くっ!」カッ!!
黒井「教えたるわ!!柊ぃ!!」
スパァンッ!!
先輩部員「15-0!!」
黒井「あんたの甘さとっ」パァンッ!!!
つかさ「……!」ポンッ!
黒井「バタフライセブンの悲劇を!!!」
スパァンッ!!!!!!
つかさ「はぁっはぁっ……」
ーー遠くで電車の音が聞こえる。
ザザッ!
ーーここは静かで安全な場所。
ーーすごく落ち着く。
スパンッ!
ーー誰か来る!?
ーー大丈夫。私はここで平気!
スパァンッ!!
ーー私はここにいたいの。
ーー外へ出たらまた。
ーーまた……。
黒井「はっ!!」
スパァンッ!!
つかさ「……!」
完全につかさの表情は怯えたものになっていた。
先輩部員「40-15!」
黒井「ふぅー…ふぅー」
つかさ「はぁっ……」
部長「ひょっとしたら、ひょっとする……?」
先輩部員「でも先生汗だくですよ……。もう限界近いんじゃ……」
こなた「……」
黒井「はぁはぁっ。追わないのは同情かいな。柊」
黒井「あんたの目にはオバハンが空元気だしてるようにしか見えへんか?勝つ気も失せるんか?」
つかさ「試合中の私語は控えてください。気が散ります……」
黒井「あんたはバタフライセブンによー似とる」
つかさ「……行きますよ」
ザザッ!
黒井「ほっ」スパァンッ!!
つかさ「くっ」スパァンッ!!
ザザッ!
黒井「ワンパターンやなぁ!おいっ」
黒井「なめるな!!あほんだらぁ!!」
スパァンッ!!
つかさ「うぅ」カッ!
黒井「ウチの犬になる準備は出来たか!?」
スパァンッ!!
黒井「お手といったらお手をする!」
スパァンッ!!
黒井「3回廻ってワンと鳴く!!」
スパァンッ!!
黒井「やってもらうからなぁ!柊!!ウチはあんたの首に縄をつけて毎日欠かさず散歩をする!!」
つかさ「くっ」
スパッ!!
どうして?
どうして私に構うの?
なにもしてないのに。
ただいるだけなのに。
ーー外に出たらまた……。
ーー違うよ。つかさーー
ーーバルサミコ酢の味がするんだよーー
ねぇ!知ってる?血ってバルサミコ酢みたいな味がするんだよぉ。
バルサミコ酢ぅ?何それぇ。
テニスしようよ!つかさ!
テニス!テニス!テニス!
ーー私が教えてあげるよ!!ーー
つかさ「はっ!!」
スパァンッ!!
黒井「……!」
黒井「うっ」パンッ!
ピシッ!
先輩部員「ネットだ!」
部長「ギリギリ柊のコートに入るよ!」
黒井「はっ!」
ーー気合い入れろ!つかさぁ!ーー
ーーテニスはど根性ってね!!ーー
ダッ!
部長「あ……」
タッタッタッタッ!!
ーー吹っ飛ばすんだぁ!!ーー
つかさ「だぁ!!」
つかさはテニスボールに向かって飛び込む。
黒井「!?」ザザッ!
つかさ「……!!」
ポンポポン……
黒井「なっ……!」
つかさ「……はぁはぁ」
先輩部員「間に合った……」
部長「あれを返した……!」
先輩部員「ゲームカウント1-4!!」
ーーースパァンッ!!!!
黒井「ぐっ!」カツンッ
つかさ「よしっ!」
先輩部員「ゲームカウント4-5!」
部長「黒井先生、万事休すだね」
先輩部員「そりゃ縺れたら辛いでしょ」
つかさ「……!」パンッッ!!!
こなた (つかさ……。いつの間に、そんな打ちかた。そんな攻撃的な……)
黒井「ひ!」コンッ
つかさ「とっ!!」
スパァンッ!!!!!!
黒井「くっ……はぁはぁ」
ズサッ……
部長「あらら。膝ついちゃったよ先生」
つかさ「早く立ってください。先生」
つかさ「布団ないですよ。そこ」
黒井「目が眩む……。5分休ませてくれへん……?」
つかさ「審判、先生棄権する棄権するそうですよ」
黒井「ちょっ!待ちぃ!嘘や嘘!取り消すから!」
つかさ「……」
黒井「ははっ!ええやん!ええやん!!柊!めっちゃ!ええよ!!」
先輩部員「黒井先生やばくない?」
部長「廃品すんぜんって感じ……。ボロボロ……」
つかさ「早く立ってください。先生」
つかさ「布団ないですよ。そこ」
黒井「目が眩む……。5分休ませてくれへん……?」
つかさ「審判、先生棄権するそうですよ」
黒井「ちょっ!待ちぃ!嘘や嘘!取り消すから!」
つかさ「……」
黒井「ははっ!ええやん!ええやん!!柊!めっちゃ!ええよ!!」
先輩部員「黒井先生やばくない?」
部長「廃品すんぜんって感じ……。ボロボロ……」
黒井「はっ……!!」コツッ
分かるやろ。柊。
あんたが球を追うんやない。
球があんたを追うんや。
あんたは強くなる。
感じるやろ。柊。
球があんたを追うんを。
……さぁ見せてくれや。
黒井「ふっ」ザザッ!
あんたの性能を!!!!
つかさ「っ!」
あんたの真反対……。
逆クロスに打つっ!!
拾ってみぃやっ!!
黒井「らぁ!!!」スパンッ!!!!
つかさ「……!」ダッ!
こなた「!!」
タッタッタッタッ!!!
つかさはコートの端から端まで走り抜ける。
こなた「…………」
黒井「はっ」
そうや。柊!!
つかさ「はあっ!!」
ボールの前で力強くテイクバックを完了させる。そして……
スッパァァンッッ!!!!!
こなた「…………!」
黒井「……」ニコニコ
球があんたを追う……。
つかさ「……」
ーーなれるかな?ーー
ーー私をこなちゃんみたいになれるかな?ーー
部長「あ……」
黒井「ははっ」グラッ
つかさ「……」
ーー私をこなちゃんみたいになりたいんだ!ーー
ーーこなちゃんみたいに!!ーー
……ドサッ
黒井はボールが後ろへ撃ち抜かれると同時に倒れた。
部長「黒井先生!?」
先輩部員「まじで倒れたよ!ヤバイって!」
先輩部員「1年、保健室の先生呼んでこーい」
部長「でも黒井先生……笑ってる」
先輩部員「えぇっ?」
つかさ「…………」
つかさ「……私」
こなた「……?」
つかさ「私、先に行くね、こなちゃん」
こなた「えっ?」
つかさ「……」
今日はここまでなんです。
ーーーー【翌日】【黒井宅】
ピンポーン ガチャリ
黒井「はいはーい」
つかさ「こんにちわ。先生」
黒井「おおー!柊!」
黒井「よぅここが分かったな」
つかさ「教頭先生から教えてもらいました」
黒井「ほーん」
つかさ「1人暮らしですか?」
黒井「残念なことにな……」
黒井「犬でも飼おうかと思ったんやけど、目をつけた子犬がなかなかなついてくれへんねん」
つかさ「……」
黒井「ふふ」
つかさ「黒井先生」
黒井「んー?」
つかさ「今日は私、バタフライセブンに会いに来たんですよ」
黒井「おう」
ーーーー【泉宅】
かなた「バタフライセブン?」
こなた「昔、活躍した選手らしいんだけど知ってる?」
かなた「勿論知ってるわよ」
かなた「黒井先生のことでしょう?」
こなた「むん。やはりか」
かなた「彼女がどうかしたの?」
こなた「いや気になってさ色々。そんで強かったの?黒井先生は」
かなた「強いなんてものじゃないわ。最強よ最強」
かなた「それにただ強いだけじゃない」
驚くほど綺麗だったの。
黒井「当時、ウチに敵はいなかった。文字通りの無敵やった」
黒井「若かった……」
黒井「日本テニス界の新星とか言われてな」
プロ選手になるのが当然だと誰もがそう思とった。
ーーーー「けど黒井さんは幼馴染みに負けるの。全国大会の初戦で」
こなた「幼馴染み?」
かなた「物心ついた時から同じ台で打ってきた相手。その人も強い選手だったわ」
かなた「でも。実力は黒井さんが2枚も3枚も上手だった」
こなた「じゃあなんで……」
黒井「右膝じん帯損傷。全治6ヶ月と診断された」
つかさ「棄権したんですか……?」
黒井「ウチならそうした」
つかさ「え?」
黒井「うん。膝を壊したのはウチやない」
周囲の説得も聞かず
あいつは試合に臨んだ。
右膝のサポーターが
やけに白く感じた。
つかさ「なのに負けたんですか……?」
黒井「あんたなら勝てたか?」
つかさ「えと……。フォアに深く打って、バックに切り返せば簡単に沈むんじゃ」
黒井「あんたなら打てたか?」
つかさ「?」
黒井「親友の傷に釘を突き立てるような球を……」
黒井「選手生命を奪う危険なコースにや」
黒井「あんたなら打てたか?柊」
ーーーー「結局黒井さんはフォアに打球を集中させて自滅する形で負けたのよ」
かなた「そのせいで黒井さんは周囲から見放されて、プロ選手への道を絶たれた」
こなた「そうだったんだ……」
ーーーー「結局ウチは」
黒井「自分の甘さに負けたんや」
つかさ「……」
かなた「それにしても黒井さんとつかさちゃんがねぇ」
かなた「ふーん」ニヤニヤ
ーーーー「体、大丈夫そうでよかったです」
つかさ「じゃあまた」
黒井「うん。おおきに」
黒井 (あの子はいずれ怪物に化ける)
インターハイ予選まで……
黒井 (ウチがそうしてみせる)
あと7日。
黒井「うんっ」
ーーーー【7日後】
【インターハイ予選会場】
あきら「はぁ……」
白石「どうしました?あきら様」
あきら「んー……」
白石「ホームシックですか?なんだかんだラッキーチャンネルの方が落ち着くとか」
あきら「ハッ」
ザワザワ
「あー。テス、テス、テス」
「あれ幸星じゃない?」
「あっほんとだ」
「黒いユニフォームだから目立つね」
「あれ?どこいったんや?柊のやつ」
こなた「組み合せ、どうだったー?」
つかさ「最悪だよ~。3回戦で小神あきらさんと当たるの」
こなた「あらら。それは御愁傷さま」
つかさ「こなちゃんは?」
こなた「んー。準々の相手がちょーっとうるさいんだけど、それ過ぎちゃえばベスト4残って全国出場かな」
つかさ「じゅんじゅん?」
こなた「あ」
こなた「来なすったよー。準々の相手がぁ」
つかさ「?」
ザッ! ザッ!
その相手はズカズカと近寄ってくる。
つかさ「あっ」
ゴツン!!!
そしてこなたの頭に頭突きをした。
かがみ「おーおー。こなたじゃないの。小さくて眼中に入らなかったわ」
こなた「えー?じゃあかがみん眼鏡かけたら?似合わないと思うけどぉ」
つかさ「お姉ちゃん…」
かがみ「どうせポンコツ校で天狗になってるんでしょ?」
こなた「ブランド校で3年間球拾いするよりましじゃん」
かがみ「いーや。先鋒任されてるのよ?私」
こなた「ぬぁにぃ??」
つかさ「そうだったの?」
顧問「おーい柊。ミーティングやるからバスに戻れー」
かがみ「あっはーい!」
かがみ「じゃあ私はこれで」
つかさ「バイバーイ」
こなた「無意味なミーティングにならないようにね~」
かがみ「忠告感謝するわー」
顧問「今のは知り合いか?」
かがみ「はい。友人と妹です」
顧問「強いのか?」
かがみ「1つ質問いいですか?」
顧問「ん?なんだ?」
かがみ「みゆきの姿が見えないんですけど、一体どこに?」
顧問「気にするな。奴ならトイレだ」
かがみ「トイレ?」
顧問「試合が近づくと必ず籠る」
かがみ「みゆきは……便秘気味なんですか……?」
顧問「はは…、違うよ柊。それは違う」
顧問「お前もいつか、あの子の辛さが分かる」
かがみ「……」
つかさ「じゃあこなちゃん。試合頑張ってね」
こなた「つかさもね。健闘を祈る!」
あきら「チッ」
あきら「お遊戯みたいなテニスやりやがって……」
あきら「こんな連中と打つくらいなら人間に生まれてこなけりゃよかったわね」
白石「そろそろ着替えてください。あきら様。出番ですよ」
あきら「白石が出たらぁ?優勝できんじゃない?」
白石「あのぉ……」
白石「お願いですから真面目にやってくださいよ」
あきら「ハイハイ」
あきら「ん?」
あきらの目にある少女が映った。
そして彼女はすれ違い様に言う。
つかさ「こんにちわ」
あきら「……」
あきら「白石……」
白石「ええ。例の選手ですね。調べておきます。どこの生徒なのか、何回戦で当たるのか」
あきら「ははっ。不思議ね」
あきら「なんか救われた感じよ」
ーーーー【観客席】
つかさ「……」
「ねぇ。あれ小神あきらじゃない?」
「傭兵とうじょー」
みゆき「お隣、失礼してもよろしいですか?」
つかさ「幸星の人たちならミーティングにいきましたよ」
みゆき「あなたと話したいんです、つかささん。迷惑ですか?」
審判「レディ!」
あきら「……」
つかさ「そんなことないですけど……」
みゆき「ふふ。ありがとうございます」
あきら「ふっ!」
パコンッ!!
あきら「とっ!!」
パコンッ!!
審判「0-15!」
審判「0-30!」
審判「0-45!」
審判「ゲームカウント0-1!小神!!」
「うわっ……城北の村田が1点も取れないよ」
「ラブゲームで決まっちゃうんじゃない……?」
みゆき「これだけ実力差があると、かえって小神さんの力が見極めづらいですね」
つかさ「やりすぎですよ……。あれは」
つかさ「こんな大勢の前で、あんな負けかたしたら立ち直れない」
みゆき「優しいんですね。つかささんは」
つかさ「そういうわけじゃ……」
みゆき「なら余裕ですか?」
あきら「はっ!!」
パコンッ!!!
みゆき「小神さんは誰よりもテニスの怖さを知っているでしょう」
みゆき「ジュニアチームでの些細なミスから、弱小校の助っ人に降格されてしまった」
みゆき「ましてや。活躍が出来なければ物語にすら出してもらえない」
みゆき「私たちの想像を絶する深い挫折です」
みゆき「もしも高校テニスを制することができれば、ジュニアチーム復帰の見通しも立つでしょう」
みゆき「でも負けたら……」
みゆき「ジュニアチーム復帰どころか、今後の二次創作に登場することも困難になります」
みゆき「私はですね、つかささん」
みゆき「あなたのプレイが嫌いです」
つかさ「……」
あきら「らぁ!」
パコンッ!!!
みゆき「確かに技術は素晴らしい。評価もします」
みゆき「しかし相手の心情を考慮して打つあなたの球は、実に醜い。驕りが過ぎます」
みゆき「あなたにはラケットを握る資格などありません。私は嫌悪します」
つかさ「そうハッキリ言われると……さすがにヤな気持ちになりますね」
かがみ「みゆき」
かがみ「こんなところにいたの?早くしないと……」
みゆき「はい。今行きます」
審判「ゲームセット!!」
あきら「ふぅ」
「なんか帰りたくなるわ……」
「村田…10分もたなかったんじゃない?」
ーーーー
黒井「頼むで、柊!手を抜いて打つのだけはやめろ。あんたの悪い癖や」
つかさ「大丈夫ですよ。先生」
つかさ「絶対勝ちますから」
黒井「……?」
黒井「何かあったんか?」
つかさ「勝ちたいだけですよー」
黒井「そーか。ええで!それ」
かがみ「珍しいわね。みゆきがあんなにハッキリ言うのは」
みゆき「つかささんはかがみさんの妹でしたね」
かがみ「あいつにはいい薬よ。昔からああやって……」
みゆき「なんとかつかささんを幸星に呼べませんかね」
かがみ「え?」
みゆき「来年。私一枚じゃ危ないですし」
かがみ「……」
みゆき「あっ」
あきら「ん?」
みゆき「こんにちわ」
あきら「……」
あきらはみゆきを素通りする。
白石「あきら様!今のが幸星の高良さんですよ!」
あきら「それが何よ。嫌いなの、あーいうタイプ」
かがみ「無視されちゃったわね」
みゆき「残念です」
つかさ「5分で片付ける!」
黒井「めっちゃええでぇ!!」
つかさ「んっ!!」
パコンッ!!!!
「なっ……!?」
白石「見えましたね。このゲーム」
あきら「……」
かがみ「リターンでノータッチって……」
みゆき「テニスじゃありませんね」
黒井「……」
審判「ゲームセット!」
先輩部員「柊のやつあんなすごい速効隠し持ってたとはね……」
部長「10分かからなかったわね。今の試合」
先輩部員「黒井先生が追い回すのも分かるわ。格が違う、ホント」
こなた「……」
黒井「雑な速効や。相手間違っとたら、ふっ飛ばされるトコやで」
つかさ「気晴らしです」
黒井「別の方法を考えてくれへん?」
つかさ「気晴らしのテニス。気晴らしの速効です」
つかさは観客席を見上げる。
みゆき「!」
つかさ「テニスに人生を懸けるなんてあり得ません」
黒井「?」
つかさ「気味が悪い」
みゆき「ふふ」
白石「柊つかさ。1年生ですね」
あきら「私はいつ、そいつと打てんの?」
白石「順当に行けば3回戦で当たりますよ」
あきら「次の次……ね」
ーーーー「ふん♪…ふふん♪」
こなた「鼻歌とはヨユーじゃん」
こなた「あんな速攻を使ったのもそのせいかね?」
つかさ「そうだよ。気に障ったかな?」
こなた「そりゃ速攻……というかああいう試合展開は私のオハコだしさぁ」
つかさ「だったら名前書いときなよ。見えやすいところに」
こなた「……」
つかさ「お姉ちゃんには気を付けた方がいいかも。たぶん昔とは違うから」
こなた「楽勝楽勝。任せてよー」
つかさ「……本気で言ってるの?」
こなた「ふぅ」
こなた「カラむねぇ。やけに」
こなた「なにかあった?」
つかさ「こなちゃんはさ。ヒーローって信じる?」
こなた「……」
つかさ「ピンチのときには必ず現れて、助けに来てくれる」
こなた「いたらいいねぇ」
つかさ「信じない?」
こなた「マンガやアニメの話じゃん?」
つかさ「私は信じてたよ」
つかさ「もうずっとヒーローが来るのを待ってる」
ーーかんぜんむてきのテニスプレーヤーとはわたしのことだいっ。
ーー私の名前は……
こなた「とにかく戦型は変えないほうがいいよ。癖がつく」
ーー私の名前はぁ……!
つかさ「……うん」
ーーーー。
かがみ「そろそろ小神とつかさが打つわよ。みゆき」
みゆき「はい」
かがみ「1つ聞いてもいい?」
みゆき「はい」
かがみ「つかさのこと気にしてるみたいだけど」
みゆき「はい」
かがみ「なんで?」
みゆき「その辺り少々複雑でして……。嫉妬もありますし、称賛もあります」
みゆき「なにしろ才能とは求める人のみに与えられる物ではないですからね」
かがみ「?」
ーーーーテニスコート。
あきらとつかさの試合が始まった。
あきら「……」サッ
ボールが空中に浮かぶ。
あきら「っ!!」バコンッ!!!
キッ!
つかさ「!」ガッ!!
キュ!
あきら「ふっ!」
ボコォッ!!!!
つかさ「くっ」
ポ ポポン
「15-0!!」
つかさ「ふぅ」
あきら「んー」
つかさ「……」
あきら (結局この程度、か)
あんたには才能がある。
それな認める。
あきら「……」サッ
つかさ「……」
けど、それを育てる力がない。
あきら「だっ」バコンッ!!!
ガッ!! ボッ!!! カコッ!
つかさ「……」
「30-0!!」
好敵手も指導者も緊張もないっ!
その温室のような環境で、あんたの才能は錆びる!!
私は違う!
私には目指す場所がある!!
私の野望よっ!!
カッ! パスッ
「ファーストゲーム、小神!!」
「ふん♪ふふん♪」
セカンドゲーム。
「ふん♪」
バコンッ!!!
キュ!!
つかさ「ふっ」
バコッ!!! パスッ
あきら「よしっ!」
「0-30!」
つかさ「んんー♪ふふん♪」
あきら「……」
つかさ「ふん♪ふふん♪」サッ
つかさ「んっ!」バコンッ!!!
あきら「くっ」コンッ!
つかさ「んっ」ボンッ!!
あきら「なっ!」
「15-30!!」
あきら「……」
つかさ「んんー♪」
黒井「ええやん」
かがみ「小神は待ちをはずされるようになったわね」
みゆき「はい」
白石「読まれてますよ!あきら様!変化をもっとつけてください!」
あきら「大声出すなよ。みっともないでしょ」
つかさ「ふん♪ふふん♪」サッ
つかさ「んんー♪」
みゆき「うん」
つかさ「とっ」バコンッ!!!!
あきら「くっ!」ボンッ!!
カッ!! ゴッ!! バシッ!! ゴッ!! バコンッ!!
キュ!!
ボコッ!! ガッ!!
ふん♪
バコンッ!!!
ふふん♪
ガッ!!
んんー♪
ドゴッ!!
ふん♪ふふん♪んんー♪んーんん♪
♪ ♪
♪
♪♪
♪ ♪♪
♪
ーーそういうプレイを続けると癖になるわよ。
ーー自分はそうやってすぐカラに閉じこもるな。
ーー 私は嫌悪します。
つかさ「……!」バコーンッ!!!!!
あきら「ぐっ」カコンッ!
ポポン…
あきら「はぁはぁ……」
「セカンドゲーム、柊!」
あきら「くそ!!」
つかさ「ふん♪ふふん♪」
みゆき「才能ですか……」
黒井「素晴らしいっ」
こなた「……」
「なんだか騒がしいね……。なになに?」
「負けそうだってよ。例のジュニアチームの子」
サードゲーム。
「相手は誰なの?高良?」
「いや、何でも陵桜の……」
♪ー ♪♪ ー♪ ♪
「1年だなありゃ」
「え、まじ?」
♪ ♪♪♪ ♪ ♪
「また凄いのがでてきたわね」
「これ予選の試合なの?」
ポンッ
つかさ「はっ!」
ドッ!!
あきら「うっ!」 カッ
「30-0!」
つかさ「んー♪んんー♪」
あきら「はぁはぁ……。動きが……」
あきら「あいつには私の動きが読めるっての…?」
みゆき「心の動揺がプレーを乱すのですよ。小神さん」
白石「あきら様……!」
こなた「ウソ……。勝つの……?」
ーーーバスッ
ネットにボールがかかる。
あきら「くそっ!」
「40-0!」
先輩部員「ずいぶんカッコいいことになってますね。柊のやつ」
部長「そうね……」
あきら「はぁ……」
つかさ「んー♪」ポンポンポンッ
白石「終わりだぞ!!!あきら様っ!!!」
つかさ「…!」
あきら「……」
白石「この試合に負けたら終わりなんだよ!!少しは自覚しろよ!!いつまで気取ったプレーするんじゃない!!!」
白石「返事!!」
あきら「分かってるわよ」
つかさ「……」
黒井「……」
つかさ「………………」
「ハァっ」 「ハァっ」
「ハァっ」 「ハァっ」
小神あきらの眼光が煌めく。
殺意にも似た雰囲気だ。
つかさ「ふっ」
バンッ!
あきら「……ぐっ!」
ガッ!!
つかさ「んっ」
コッ!
黒井「っ!!」
あきら「……!!!」 バコッン!!!!
つかさ「うっ!」
「40-15!」
あきら「しゃあっ!!」
かがみ「あれじゃまるで、上から叩いてくれって頼んでるようなものじゃない…」
みゆき「んん……」
「どうなったー?例の試合」
「なんか結局、小神が勝つみたいよ」
ガッ!!
「防戦一方になりましね、1年の子……」
「ですね」
キュッ!!
「恐るべし、ジュニアチームのエリート」
「体力差でしょ。ようするに」
バコン!!!!
「ゲームセット!!小神あきら!!」
そこには顔を俯かせ、拳を掲げる小神あきらの姿があった。
小神あきら 4回戦 進出
柊つかさ 3回戦 敗退
ーーーパンッ!!
黒井がつかさの頬を叩く。
先輩部員「なっ!」
部長「!!」
黒井「あのテの試合はな、関わる人間すべてが苦しむことになるんや!2度とするな!!」
つかさ「……」
先輩部員「柊を責めるのは酷ですよー。センセー」
部長「そうですよ。あの小神から1ゲーム取ったんだ」
黒井「たいして勝つ気もない奴が冷やかしで打つんやない!やめるか!?テニス!」
つかさ「……そうします」
黒井「そうしろ」
タッ
先輩部員「あっ。ちょ、柊ー!」
部長「待ちなさいよー」
黒井「放っとけ!!」
黒井「ったく!」
「思い出しますか?」
黒井「!」
かなた「高校時代の自分とかぶりますか」
黒井「おう。かなた…来とったんかい」
かなた「まぁ一応、娘やそのお友だちも出ていますので」
黒井「そうか……」
かなた「きっとビンタ張って言いなりになるほどやわな子じゃありませんよ。つかさちゃんは」
黒井「……せやな」
ーーーー控え室。
白石「次の高良さんとの試合が、事実上の決勝と考えて問題ないでしょう」
あきら「……」
白石「勝てばインターハイですよ」
白石「今までの雑なサービスで崩れるような相手ではありません。くれぐれも慎重に」
あきら「……流れは完全にあいつ…、柊にあった」
白石「またその話ですか…」
あきら「たぶんあいつはわざと……」
白石「もうやめましょう。あきら様。それは違います」
白石「それはありませんよ」
あきら「……」
「第6コート。準々決勝。 陵桜高校、泉こなた選手。幸星学園、柊かがみ選手。」
こなた「かがみんと打つのはひさしぶりだね。何年ぶりかな?」
かがみ「2年と3ヶ月よ。私の24勝92敗」
こなた「あいかわらず細かいなー」
かがみ「あんたには分からないでしょうよ」
こなた「んー?」
かがみ「私がどれだけこの日を待ったか……」
かがみ「あんたと高校で打てる時を待ち望んだか」
こなた「けなげなはなしですなぁ」
かがみ「そうよ」
かなた「こういう所に来ると思い出しますね」
かなた「それこそ死にもの狂いで戦いました」
黒井「かなたは可憐だったなぁ」
黒井「それでいて恐ろしく強かったわ」
かなた「勝つことが全ての時代でしたしね……。負けた選手は人格まで否定される」
黒井「……」
かなた「勝てば官軍。負ければ賊軍。そういう精神が生み出した挫折をたくさん見てきました」
こなた「たぁ!!」
バコッ!!!
「40-15!!」
こなた「どうしたのかな?かがみん?もっと激しく打ち合おうよー。昔みたいに、さ」
かがみ「ふっ…」
つかさ「……‥……」
つかさは二人の試合を見つめていた。
かなた「つかさちゃんを鍛えたところであなたの青春は戻ってきませんよ。バタフライセブン」
黒井「ウチはただ、柊を連れていってあげたいだけやで。次の段階へとな」
黒井「あいつだって自覚しとる」
黒井「自分のプレーが今の場所では窮屈になっとる事くらい……あの子も分かっとる」
黒井「ウチがそっと押せば、柊はうんと高く飛ぶ」
こなた「なっ!」
「アウト!」
つかさ「……」
こなた「はぁ、はぁっ……。」
こなた「くそう……。ツイストとかロブばっかりのセッコいテニスしちゃって…」
かがみ「……ふん」
黒井「あの才能に反応せな、指導者としてインポテンツに等しいわ」
かなた「お盛んなんですからっ」
かなた「まぁ確かに、頑張るのもいいかもしれませんね」
かがみ「それもテニスよ」
つかさ「……」
こなた「とっ!」バコッ!!
かがみ「ふっ」バッン!!
つかさ「へたっぴ……」
いつだって、あんたが一番だった。
やる事なす事あか抜けしてて、いつもみんなの中心だった。
あんたはヒーローだった……。
私が半年かけて覚える技術も、あんたは一週間でモノにする。
あんたが右を向けば、みんな右を向く。あんたが笑えば、みんなが笑った。
おちゃらけてもバカやっても、決める所は確実に決める。
年上の相手だって簡単にぶっ飛ばす。
そんなあんたを私がどういう気持ちでみていたか……
私が何を感じていたか……
私が……
かがみ「ふっ!!」ガッ!!!
こなた「くっ!」
かがみ「しゃっ!!」
「40-15!」
かがみ (怠慢と妥協にまみれたテニスを続けたあんたに何ができる、ヒーロー)
ポンッ
こなた「ハァっ……。ハァっ」
かがみ (何ができるのよ?)
かがみ「ふんっ!!」バコッ!!!
こなた「りゃ!!」ガッ!!
ボッ 「ネット!」
こなた「あ"ぁっ!!」
かがみ「ふふっ……」
こなた「かがみん"……!」
つかさ「はーーー………………」
先輩部員「いよいよラスボス登場ですね」
つかさ「……?」
部長「81連勝中らしいわよ。化け物よホントに」
つかさ「……」
部長「幸星って4回戦以下で負けたら即退部らしいわ」
先輩部員「ひえー!マジですか。テニスに命懸けちゃってるんですね……連中」
「第8コート。準々決勝。真白高校、小神あきら選手。幸星学園、高良みゆき選手」
「高良ー!頑張って~!」
「吹っ飛ばせー!」
「勝てー!高良ー!」
あきら「なるほどね。高校テニス界の英雄ってわけ」
白石「あのむn……、体格です。敏捷性には欠けるでしょう。先行逃げ切りでいきましょう」
あきら「簡単に言うわねぇ」
白石「とにかく自信を持って戦ってください。実力ならあきら様が上です」
あきら「ま、そういう事にしといてやるか」
みゆき「……」
「高良ー!!」
「高良さーん!!」
あきら「にぎやかな事ね」
「レディー」
あきら「……」タッ!
みゆき「……」サッ!
「……」
「……」
「……」
つかさ「……」
あきらはボールを宙に放った。
あきら「……っ!」
ガゴンッ!!!!
白石「おおっ!!」
みゆき「シッ!」
ガッ!!!!
あきら「はっ!」
ゴンッ!!!
白石「うまいっ!!」
白石 (逆クロスギリギリっ!真反対!!あれは追いつけたとしても返せない!!)
タッタッタッタッタッ!!!!
あきら「!?」
みゆき「…………」
白石「はっ…はや」
みゆき「っ!!」
パコンッ!!!!!
あきら「だらあっ!」
カコッ!
みゆき「……ッ!!」
ドゴッ!!!!!
あきら「わうっ!!?」
コッ!!
「アウト!」
白石「し、信じられない……。何ていう反射速度、スピード、パワーだ……。高校に……こんな選手が……!?」
あきら「……強い………!!」
「ゲームセット!!」
「勝者、海王学園」
「柊かがみ!!」
こなた「ハアッ、ハアッ、はぁ…」
かがみ「ひとついい事を教えて上げるわ、こなた」
かがみ「絶対に負けない方法よ」
こなた「はぁっ、ハアッ、はぁ…」
かがみは息を切らし膝をつくこなたの頭に手を置いた。
かがみ「勝つ事よ」
こなた「……んぐ」
かがみはコートを立ち去る。
かがみ「もしくは戦わない事。惰性で打つなら足洗いなさいよ。うろちょろされると目障りなのよね」
こなた「くそっ!!」
ドンッ!!
あきら「ぐっ!」カッコン
「マッチポイント!高良!!」
白石「……」
あきら「はぁ、はぁっ……」
あきら「……」チラッ
白石「……」ニコ
あきら「……ふふっ」
あきら「らぁ!!」
バコッン!!!!
バコッ!!!
ガッ!!!!
バコッン!!!!
バンッ!!!!
カッ!!!
この日
小神あきらは高良みゆきに敗れ
インターハイ個人戦出場の権利を失う
高良みゆきは続く準決勝、決勝をストレートで勝ち上がり県予選優勝を果たす。
インターハイへ進む4名全てを、柊かがみ含む、幸星の選手で占めた。
幸星に対抗馬は存在しなかった。
あの小神あきらをもってしても……。
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