梨子「ふう…今日はここまでにしようかな」

梨子「最近作曲ばっかりでクラシック曲の練習サボり気味だったから全然だめだなあ…」

梨子「けどやっぱりグランドピアノは家のアップライトで弾くよりも全然いいね」

梨子「…YAMAHAだけど」

梨子「いやいや贅沢言っちゃだめよ、自由に使わせてもらってるだけでもありがたいんだから」

梨子「はあ…誰もいないと独り言多くなっちゃうなあ…帰ろっと」

梨子「いっつもみんなと一緒だから一人で帰るのって久しぶりかも」

梨子「昇降口に到着…って、あれ？」

梨子「うそ、雨降ってる…？傘も持ってないし、どうしよう…」

梨子「うう、しょうがないよね、上着じゃ全然防げないかもしれないけど…これを被って走るしかない…」

「天空からの落涙…それは私という存在を失った悲しみ…」

善子「ヨハネ、降臨！！」

梨子「…」

善子「何か反応しなさいよ！」

梨子「よ、よっちゃんも学校残ってたんだね？」

善子「まあちょっとした野暮用って奴よ」

善子「っていうかそんなおかしな格好してどうしたのよ？」

梨子「よっちゃんがそれ言う…？まあけど、変な格好だよね…」

梨子「雨降ってきたんだけど、私傘持ってきてなくて…だからこれで走って帰ろうかな、って」

善子「なーんだそんなこと？はい、私の折り畳み貸したげるわ」

梨子「ええ？けどそれだとよっちゃんが濡れちゃうんじゃ…」

善子「ふふふ、私の事を甘く見ないことね…じゃーん！もう1本！」

梨子「わっすごい！…けど、なんで2本も折り畳み傘持ってきてるの？」

善子「私ってよく雨に降られちゃうから、折り畳みは常備するようにしてるの！」

善子「だけど、カバンから出したかどうか忘れてもう1本、みたいな…」

梨子「あー、確かに折り畳み傘って入ってるかどうか分かんなくなっちゃうよね」

梨子「けど2本も入ってたら通学カバン重くなっちゃわない？」

善子「…？通学カバンが、重い…？」

梨子「…カバンの中身を見せなさい」

梨子「やっぱり教科書とか何にも入ってない！そりゃ重くならないよね…」

善子「だって持って帰っても勉強なんてしないし！」

梨子「宿題は？」

善子「…」

梨子「よっちゃん、私今までピアノ弾いてて帰るの遅くなったんだよね」

善子「…はい」

梨子「よっちゃんはこんな時間になるまで何をやっていたのかなー？」

善子「…えっと」

梨子「うんうん」

善子「やってこない宿題が溜まりに溜まって、その補習です…」

梨子「よっちゃん」

善子「はい」

梨子「これからはちゃんと持って帰りなさい！」

善子「もー！お説教はいいから帰るわよ！」

梨子「はいはい、そうですねー」

善子「むー…」

梨子「あ、この折り畳み傘かわいい…真っ黒だから儀式グッズみたいにもっと変なのかと思ったのに」

善子「儀式グッズは変じゃないわよ！…それかわいいでしょ？サイズも大きいしそっちはお気に入りの傘なの」

梨子「えっ、そんなお気に入りで大きい方の傘私が使っちゃっていいの…？」

善子「リトルデーモンだから特別ね！それにリリーって傘さすの下手っぴそうだし」

梨子「うっ、確かに傘さしてても結構濡れちゃうかも…」

善子「でしょ？だからリリーはそっちの傘！」

梨子「えへへ、じゃあお言葉に甘えて使わせてもらっちゃおうかな？ありがとね」

善子「よーし、それじゃ帰るわよ！恵みをも拒む漆黒のサンクチュアリ、展開！」

梨子「ちょっ、そんな乱暴に広げたら…」

善子「げっ…！」

梨子「あー、バッキバキになっちゃったね…」

善子「うう…不幸だわ…」

梨子「不幸とかそういう話じゃない気がするけど…ってよっちゃんローブ被って何してるの？」

善子「何って、さっきのリリーと同じことよ？これ被って走れば大丈夫でしょ」

梨子「ええっ！ダメだよ、それじゃよっちゃんが濡れちゃう…！」

善子「別に平気よ、よく雨に降られたりして濡れちゃうし」

善子「あ、それとその傘返そうとしても絶対受け取らないんだからね？」

梨子「うう…そ、それじゃあ、一緒に傘、入らない？」

善子「ええっ！？ダ、ダメよそんなの！」

梨子「あっ…やっぱり私と相合傘なんて、いや、だよね…」

善子「そういうことじゃなくて！それじゃあリリーが濡れちゃうじゃない！」

梨子「！…えへへ、よっちゃんは優しいね？けど、たぶん私一人で帰っても濡れちゃうと思うから平気だよ？ほら、傘さすのへたっぴだし」

善子「けど私と一緒に帰ったらトラックに水跳ねられたり、傘壊れちゃったりするかもしれないし…」

梨子「それでも大丈夫」

善子「うー…本当にいいの…？」

梨子「もちろん！それに――」


梨子「一人で濡れて帰るのは寂しいけど…二人でなら、きっと楽しいと思うな♪」