梨子「歩こう、一緒に」 (97)

書きためあり。

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部室・夕方

千歌「………どう、梨子ちゃん?」

曜「さすがにもう………行けるよね?」

梨子「う、うん!よっちゃんもちゃんと呼び出してるし…だ、大丈夫でありましゅ!」

曜「噛んでるし…」

千歌「先が思いやられるよ~」

梨子「だ、だって~!」


千歌「ほら!自信持って!ファイトだよ!」

曜「そうそう!当たって砕けてヨーソロー!」

梨子「いや!砕けちゃダメだよ~!」

梨子「でも、砕ける可能性もおおいにあるんだよね?花丸ちゃんとかとも仲良いし…、いや!最近ダイヤさんとも仲良いような…うぅ」

千歌「えぇ…」

曜「じゃあ………やめる?」

梨子「………やめようかなぁ」

ようちか「あちゃ~…」


同時刻・図書室

善子「ヤバいヤバいヤバい………!」

ルビィ「よ、善子ちゃん…!」

花丸「お、落ち着くずら…!」

善子「あんたたちこそ落ち着きなさいよ!てか、なんで私より緊張しているのよ!」

ルビまる「だ、だって~!」

善子「もう!全然気持ちの整理つかないじゃない!リリーにどんな顔して会えばいいのよ!」

ルビィ「大丈夫!ヨハネちゃんで行けば緊張なんてしないはずだよ!」


善子「絶対ダメ!堕天使モードとかしちゃったらリリーがどう思うか…」

花丸「自分で『モード』とか言っちゃう善子ちゃん初めて見たずら…」

ルビィ「あはは…」

善子「で、でも、まだ告白って決まった訳じゃないもんね…また、私の空回りだったら………不幸すぎる!」

花丸「いや、それは…」

ルビィ「大丈夫じゃないかな~…」



ようちかルビまる「(明らかに両思いだよね…)」

よしりこ「はぁ…」


曜「あ!そろそろ約束の時間じゃない?」

梨子「え~!?む、無理だよ~!」

千歌「もう!告白するって相談に乗り出してからもう1ヶ月近く経つんだよ?でも………大丈夫!善子ちゃんだってちゃんと来てくれると思うよ!」

梨子「千歌ちゃん…!」

曜「そうそう!梨子ちゃんなら大丈夫だよ!頑張って!」

梨子「曜ちゃん…!」

曜「…って、だから!梨子ちゃん時間は大丈夫って言ったじゃん!」

梨子「え?………あああああああ!?」

千歌「ほら!早く早く!」

梨子「う、うん!」

ガララッ

梨子「(よっちゃん…来てくれるといいな)」


花丸「もう!善子ちゃん!ウジウジしてるのはらしくないよ!根性見せるずら!」

善子「なに急に強気になってるのよ!」

ルビィ「あ、あれ?善子ちゃん、約束の時間っていつ?」

善子「へ?………あああああああ!?」

善子「い、行ってくる!」

ガララッ

ルビィ「が、がんばルビィ!」

花丸「ファイトずら~!って聞こえてないか」



「えっ、善子ちゃ…!」「ご、ごめ………あ!」

ゴロゴロ………ガンッ!

「きゃあああああ!!!………よ、善子ちゃん!しっかり、善子ちゃん!!!」


ルビィ「………え?」

花丸「………よ、善子ちゃん!?」

ガララッ…


体育館裏

梨子「お、おかしいな。時間は…間違ってないよね?よっちゃん遅いなぁ…」

梨子「やっぱり、よっちゃんは私のことはただの一人の先輩としか見てなかったのかな…」

梨子「ん?救急車の音?………こっち方面に来るなんてめずらしいな…」

梨子「音が近くで消えた?…学校で何かあったのかな?」

ダダダッ

曜「梨子ちゃんっ!!」


梨子「曜ちゃん?どうしたの?そんなに慌てて…「よ、善子ちゃ、善子ちゃんが!」…え?」

曜「と、とにかく!早く来て!救急車も来たから!」

梨子「え?………え?」

え?どういうこと?よっちゃんが?救急車?
なに?訳が分からない…なに、何なの?

曜「………こちゃん!梨子ちゃん!しっかりして!みんなも向かってるから!」

梨子「嘘………嘘だ………」

曜「もう!」

曜ちゃんに腕を捕まれ、無理矢理走らされる。
よっちゃんが………嘘だ!嘘に決まってる!
嘘に………


花丸「善子ちゃん!しっかりして!…ぐすっ、よじこちゃんっ!」

千歌「善子ちゃんっ!目を覚まして!覚ましてってば!」

生徒A「私が…私があの時図書室に行かなかったら…私が…」

ルビィ「あなたのせいじゃないよ…!自分を責めないで…責めないで…お願い…」

ダイヤ「皆さん!道を開けてください!」

鞠莉「はあ?ふざけないでよ!なんでこんな時にヘリがメンテナンス中なのよ!?一大事なのよ!?」

果南「ま、鞠莉!落ち着いて…!お願いだから…!」

嘘に決まって………


ようりこ「………」

曜「善子ちゃん…」

足に力が入らず崩れ落ちる。

梨子「………………………………………いや」

曜「…梨子ちゃん?」

梨子「………………………いや、いや、いや!」

曜「梨子ちゃ「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」………!?」

梨子「………うっ」

曜「えっ!?ちょっと梨子ちゃん!?」

気が遠くなる…。
叫ぶ曜ちゃんの声が次第に聞こえなくなり
最後に見えたのは………

救急車に乗せられていく
よっちゃんの姿だった。


梨子『あ、あの…よっちゃん!』

善子『ん?どしたの、リリー?』

梨子『今日の放課後練習お休みだよね~?』

善子『ええ、そうね』

梨子『あの、お話がしたいな~って…』

善子『へ?今も話してるじゃない?』

梨子『いや、あの~…よっちゃん!!!』

善子『は、はい!』

梨子『だ、大事なお話があります!放課後、午後五時に体育館裏に来てください!!!』

善子『へ?………あ、はい』

梨子『う、うん………よろしく、ね?』

善子『………』

善子『わぁぁぁぁぁぁぁぁ!!?///』

ガララッ

梨子『よ、よっちゃん!?………』

________

_____

__


梨子「よっちゃん!!!」

果南「あ、梨子!気付いた、良かった…」

梨子「果南さん…ここは…?」

鞠莉「私が手配した車よ!」

梨子「そうですか…はっ、よっちゃん!よっちゃんは!?」

ダイヤ「梨子さん、落ち着いてください…!」

梨子「でも…!」

ダイヤ「気が動転しているのはあなただけではないのです…気をしっかり持って…ください」

梨子「あ…」

そう言って私の手を握ってくれる
ダイヤさんの手も震えていた。


梨子「ダイヤさん、ごめんなさい………他のみんなは?」

鞠莉「花丸とルビィは善子と一緒に救急車にいるわ」

果南「千歌と曜は善子のご両親にこの状況を伝えに行ったよ。生憎、二人とも仕事中で…たまたま仕事場を知ってたのが不幸中の幸いだったよ…」

梨子「そうですか…よっちゃん………」

果南「大丈夫…大丈夫だから………」

果南さんが優しく私を抱き締める。
鞠莉さんも手を握ってくれる。
三年生のみんなにはただただ迷惑をかけた。


病院・集中治療室前

よっちゃんが入ってからまだほんの数十分しか
経っていないのに何時間にも感じた。
私は必死に泣くのをこらえて
泣き続ける花丸ちゃんとルビィちゃんを
さっきダイヤさんたちにしてもらったように
慰め続けた………。


善子ママ「善子!」

千歌「善子ちゃんは?」

梨子「千歌ちゃん…ついさっき手術が始まったところだよ」

曜「………そっか」

善子パパ「みんな、すまない…善子のために…」

ダイヤ「お、お顔を上げてください、お父様!私たちは9人でひとつ。当たり前の対応をしたまでです!」

鞠莉「これまでも………これからもね!」

善子パパ「ありがとう………ありがとう…!」


善子ママ「花丸ちゃん……ルビィちゃん……」

花丸「ママさん…ごめ、ごめんなさい…マルたちがしっかりしてれば…」

ルビィ「うぅ………善子ちゃん…」

梨子「花丸ちゃん、ルビィちゃん…大丈夫、大丈夫だから…!」

今の私が出来るせいいっぱいのこと…
よっちゃん、どうか無事でいて…!

赤いランプが消えるのを
私たちは今か今かと待ち続けた…。


そして、約二時間が過ぎようとした時
ランプが消え、ドアが開き先生が出てきた。

善子ママ「善子は………善子は無事ですか!」

医師「大丈夫です、命に別状はありません」

みんなに安堵の息が漏れた。
でも………


医師「ご両親の二人と………ご学友の中で一人誰か付いてきてください、お話があります」

梨子「わ、私が「待って!」」

鞠莉「私が行くわ、理事長として、そして同じユニットの三年生として!」

梨子「鞠莉さん…でも!」

鞠莉「梨子…今のあなたじゃ落ち着いて話が聞けるようには見えないわ………待ってて」

梨子「………はい」

よっちゃんのご両親と鞠莉さんが
医務室に入っていくのを
私は黙って見守るしか出来なかった。


医務室

医師「………手術は成功しました、命に別状はありません…ただ」

善子パパ「ただ…?」

医師「打ち所が悪かった……頚椎損傷です」
※細かい病名や症状もありますがこう提起します。また、今後の展開でも細かい間違い、もしかしたら全然違うということもあるかもしれません。お気を悪くする方もいらっしゃるかもしれませんがご了承ください。

善子ママ「………つまり?」

医師「津島善子さんは、身体が麻痺…今後、歩く事も困難でしょう」

鞠莉「嘘…そんなの…そんなのって…」

医師「幸い、この症状から回復した人も「ふざけないで!!!」………」

善子ママ「鞠莉ちゃん…」

鞠莉「今はそんな気休めなんかどうでもいい!善子は、善子は…!くっ…あなた医者でしょう!?なんとか…なんとかしなさいよ!」

医師「………申し訳ありません」

鞠莉「なんでよ…なんでなのよ………善子、ぐすっ、よしこぉ………」

善子ママ「ありがとう、鞠莉ちゃん…」

善子パパ「くそっ………あの子になんて声をかけてやればいいんだ…」


廊下

「今はそんな気休めなんかどうでもいい!善子は、善子は…!くっ…あなた医者でしょう!?なんとか…なんとかしなさいよ!」

果南「鞠莉…?」

ダイヤ「………」

ルビィ「何かあったのかな?」

千歌「………」

曜「………」

花丸「善子ちゃん…」

梨子「………あ」

三人が医務室から出てきた。
そして、私たちはよっちゃんの状態を聞いた。


果南「そんなの…!そんなのって…!」

ダイヤ「なんとか…なんとかならないのですか!」

鞠莉「ダメみたい…」

ルビィ「嘘だよね?」

花丸「善子ちゃん…善子ちゃん…!」

曜「花丸ちゃん…」

千歌「………治らないの?」

善子パパ「先生いわく、善子次第だそうだ…手術で治るものじゃないらしい」

梨子「………」

私は…何してるんだっけ?
確か、よっちゃんに告白しようとして
それから…


看護士「善子さんの意識が戻りました!」

全員「!」

善子パパ「先に君たちが行きなさい」

善子ママ「あなた…うん。善子を頼むわね」

千歌「はい…!」

千歌ちゃんを先頭に病室に入っていく。
そこにいたのは………

善子「あはは…やほー、みんな…」

ベッドに横たわったまま
苦笑いするよっちゃんの姿だった…。


病室

善子「結構キツいけどなんとか喋れるわ…手足は今のところは…」

花丸「善子ちゃん…、ごめん、あの時マルが急がせたから…」

善子「もう、泣かないでよずら丸!………ってルビィも!」

ルビィ「だって…だってぇ!」

善子「もう…」

曜「善子ちゃん…」

千歌「………くっ」

曜ちゃんも千歌ちゃんも必死に
涙をこらえていた。
すると、後ろから嗚咽が聞こえてきた。


鞠莉「ぐすっ………、ごめん、私、三年生、なのに………理事長なのに…うぅ…一番辛いのは、善子なのに………」

善子「マリー…」

鞠莉「………ごめんなさい」

ガララッ

耐えきれなくなったのか鞠莉さんは
病室から出ていった。

果南「あ、鞠莉…!」

ダイヤ「ずっと気にしていましたものね…善子さんのこと…もちろん梨子さんのことも」

善子「マリーが…果南、ダイヤ?マリーのとこ行ってあげて!私は…大丈夫って…!」

必死に笑顔を作るよっちゃん。

果南「あ、………うん、分かった」

ダイヤ「善子さん、皆さん失礼します」

ガララッ

鞠莉さんを追って二人も出ていった。


全員「………」

病室が静寂と嗚咽に包まれる。
嫌な時間だ。
そんな沈黙を破ったのは…

善子「も、もう!みんな!なにそんな暗い感じになってるのよ!確かに今は身体動かないけど…絶対治らない訳じゃないって先生や看護士さんも言ってたし!それに、堕天使ヨハネとしては?呪縛にかけられたから解放する!みたいで楽しそうじゃない!」

目線をしっかりみんなに配りながら
一気にまくし立てるよっちゃん。
その姿に目も当てられなくなったのか…


曜「………ごめん、千歌ちゃん。背中貸して…」

千歌「よーちゃん………うん」

曜「うっ…うぅ………ぐすっ…ごめん、善子ちゃん…泣いてごめん、不安にしちゃって…」

曜ちゃんも耐えきれなくなったのか
泣き始めてしまった。
千歌ちゃんも顔をうつむけたままだった。

善子「曜まで…」

全員「………」

また静かになる。
すると…

花丸「ねぇ…?」


花丸「さっきから梨子ちゃんはなんで何も言わないの?涙も流さないの?」

梨子「………え?」

言われてから気づいた。
私、病室に入ってから一言もしゃべってない。
それどころか涙も出ずに
立ち尽くしているだけだった…

花丸「どうして!?ねぇ!どうして!?」

梨子「そ、それは……「やめて!」」

ルビィ「マルちゃんも梨子ちゃんもやめてよ…今、喧嘩なんてしちゃダメだよぉ…」

花丸「ルビィちゃん………ごめんなさい、梨子ちゃん、辛いのは一緒なのに当たっちゃって…」

梨子「いいの、マルちゃん…マルちゃんの言ってたことは正しかったもん、最低だ、私…」

善子「リリー…」

千歌「………みんな、梨子ちゃんと善子ちゃんを二人きりにしてあげていい?」

梨子「………千歌ちゃん?」

曜「うん………私は、いいよ」

花丸「マルも」

ルビィ「ルビィも大丈夫…」

千歌「うん、ありがと。梨子ちゃん、善子ちゃん………ゆっくりね?」

ガララッ

二人きりになる。
しばらく、沈黙が続き…


善子「リリー、ここの椅子に座ってくれるかしら?さすがに遠い…」

梨子「うん…」

ベッドの横にある丸椅子に座る。
すると、よっちゃんはゆっくりとだけど
こちらに顔を向けた。

善子「いたた…首を少し傾けるだけで痛みが走るとか…明日は我が身って言うけど、実際なってみるとなんとも言えないわね」

梨子「うん…」

善子「にしても、みんな心配しすぎよね?この堕天使ヨハネがそう簡単に諦めるはずないのに、ねぇ?」

梨子「うん…」

善子「………ごめんね、リリー。こんなことになっちゃって…」


梨子「………なんでよっちゃんが謝るの?私が…私がよっちゃんを誘わなければこんなことには…!こんな…ことには………!」

一気に言葉と感情が溢れ出す。
よっちゃんは右手をもぞもぞさせていた。

善子「はあ、リリーがここまで泣くの初めて見たわ…頭を撫でてあげたいのになぁ…」

梨子「よっちゃん…よっちゃん………!」

善子「………ねぇ?リリー、あの時リリーは何を私に話そうとしてたの?」

梨子「そ、それは…」

善子「大丈夫、聞きたいの…教えて?」

梨子「私は………!」

赤みがかった病室が徐々に暗くなる。
私の告白は最低なタイミングだった。
よっちゃんはずっと私を見てくれていた。


善子「………そっか、嬉しいな」

善子「でも…」

善子「ごめん…今は返事を返せない……ごめん、ごめんなさい…」

梨子「よっちゃん…」 

善子「見ないで、リリー………こんな顔リリーにだけは見られたくない…!」

よっちゃんの頬に涙がつたう。
止める手立てのない涙は枕にシミを作ってく。
私はよっちゃんの涙を指で拭う。
それしかできなかった。



善子「………ごめんね、リリー」

梨子「ううん、私こそごめんね…私はずっとよっちゃんのこと…『大好き』だから」

善子「うん、私もリリーが『大好き』」

『好き』という言葉がこれほど
辛い意味になるなんて…。

善子「パパやママとも話したいから…そろそろ構わない、リリー?」

梨子「わかった…また、来るからね」

善子「うん…!」

ガララッ

よっちゃんの笑顔を直視できずに
私は逃げるように病室を後にした。
外で待っていたご両親に挨拶をして
みんなが待っているベンチへと足を運んだ。


果南「梨子、お帰り…」

ダイヤ「善子さんは…?」

梨子「うん、諦めないから心配しないでって…鞠莉さんは…」

果南さんの膝枕で眠る鞠莉さん。
その目元は真っ赤になっていた。

鞠莉「すぅ………すぅ………」

果南「泣き疲れて寝ちゃった」

ダイヤ「花丸さんもルビィも同じくですね」

曜「………」

千歌「………」

梨子「曜ちゃん、大丈夫?」

曜「うん、平気…心配かけてごめんね?」

梨子「それならいいの…大丈夫だよ!」

梨子「千歌ちゃん、ありがと。気を使ってくれて…」

千歌「ううん、気にしないで………今日はもう解散にしようか?また明日これからのこと相談しよう」

ダイヤ「そうですわね…皆さん相違ありませんね?」

起きている全員は合意し、
三人を起こして病院を後にする。


梨子「あ!一応よっちゃんのご両親に帰るって伝えてくるね?」

果南「そだね、梨子お願い!」

私はもう一度病室へと向かい
ドアに手をかけようとした、その時だった。


「私………やだよぉ…こんなの………ぐすっ、嫌だよ………みんなともっと歌いたいよ…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

「善子、泣かないで!大丈夫!大丈夫だから!」

「ママたちに今の私の気持ちがわかるはずないでしょ?簡単に大丈夫とか言わないでよ!」

「すまない…すまない………」

「うぅ、うっ…うわぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


梨子「………よっちゃん」

私は何もできず立ち去ることしか
できなかった。


翌日、放課後に部室で集まり
これからのことを話した。
Aqoursを続けるのか続けないのか。
どちらを選択してもよっちゃんに
気を使わせることになるから
話し合いは下校してから
千歌ちゃんの家に集まり遅くまで続いた。
途中お互いに感情的になり騒がしくなったけど
美渡さんも志満さんも気を使ってくれたのか
そこまで怒ることもなかった。
そして………


千歌「………続けよう!確かに善子ちゃんには焦りや寂しい思いをさせるかもしれない、でも私たちは………立ち止まっちゃいけない…!いけないんだよ…!」

花丸「わ、私も一緒です!善子ちゃんは絶対に帰ってきます!例え何年かかってもAqoursっていう帰る場所がないのはダメだから…!」

私も…!

梨子「千歌ちゃんとマルちゃんの言う通りです!私も信じてるから、よっちゃんのこと!」

ようルビ「うん…!」

鞠莉「………後悔はないのね?」

続けることに反対をしていたのは
意外にも鞠莉さんだった。
果南さんとダイヤさんは中立で
みんなのフォローをしていた。


鞠莉「わかったわ…ごめんね、マル。強く言っちゃって…」

花丸「ううん、善子ちゃんにとっての今の現状での不安を早い段階で取り除くなら、辞めるっていう選択肢も間違いじゃないから…!」

鞠莉「ありがとう、マル…」

鞠莉さんが優しくマルちゃんを抱き締める。
その後は今後のAqoursの活動方針を話した。
ラブライブ!に向けてどうするかや
これまでのライブパートの見直しと
一気に作業を進めていった。
そして、私たちのユニット『Guilty kiss』は…


病室

ガララッ

鞠莉「ちゃお~♪善子!調子はどう?」

善子「うっさい!あと、私はヨハネ!」

梨子「ぴ、ぴょ~ん…///」

よしまり「………」

梨子「うぅ//」

よしまり「………ぷっ」

鞠莉「梨子ったら善子の前だからって頑張らなくてもいいのに♪」

善子「顔真っ赤だし、リリー!だから、私はヨハネ!」

梨子「………もう言わないもん//」


よっちゃんがいてこそ『Guilty Kiss』。
だからユニット練習はせずに
なるべくよっちゃんといるようにした。
あと、鞠莉さんには私がよっちゃんに告白…
ううん、『好き』だと言うことは伝えた。
隠し事はお姉ちゃんには無し!だって。
私たちのことを本当の妹のように
思ってくれてたんだって改めて思った。
笑顔で私を抱き締めて頭を撫でてくれた。

もう、ほんとに…、
鞠莉さんには敵わないなぁ…。


梨子「気を取り直して…、よっちゃん?調子はどうかな?」

善子「うん!初めよりはだいぶ動くようになったわよ!………って言っても首をある程度動かすのと腕を少し持ち上げられる程度だけど…」

鞠莉「いいえ!大進歩だわ!小さなことからコツコツと!」

善子「ふっ…!この呪縛から解き放たれるのも時間の問題ね…!」

善子「…って!カッコつかないから、めっちゃダサいじゃない!?」

鞠莉「ふっ…!この呪縛から解き放たれるのも時間の問題ね…!………ぷぷーっ!」

梨子「うふふ♪」

善子「だーっ!//真似するなーっ!///」

りこまり「あはははは!」

善子ママ「善子~…あ!梨子ちゃん、鞠莉ちゃん!いつもありがとね!」

よっちゃんなら大丈夫。
今は0じゃない、1歩ずつだけど
少しずつ前に進めてる。
私も鞠莉さんもそう信じてた。
けど、その安心感が逆によっちゃんの内の闇に
気づけない原因になっていたなんて
私たちは知るよしもなかった………。


それは、突然起こった。
その日はたまたま鞠莉さんは仕事があり
私一人で病院に向かっていた。
病室に入って挨拶をしようとした、その時…

梨子「よっちゃん、きた………よ」

善子「くっ………うっ…!」

梨子「!?」

善子「もう少し………」

梨子「よっちゃん!!!」

カランカラン…

床に金属音が響く。
よっちゃんは………


善子「放して!放してよ!リリー!」

梨子「今…今!何しようとしてたの、よっちゃん?」

善子「………」

梨子「返事をしなさい!よっちゃん!どうして………どうして…!」

梨子「必死にナイフを取ろうとしてたの!?」

善子「………」

よっちゃんは最近は腕はゆっくりだけど
動かせるようになってきていて、
掴む力はほとんどないけど物を手に乗せて
維持できるくらいになってきていた。
よっちゃんが取ろうとしていたのは
棚の上にあった果物ナイフ。
私がよっちゃんを捕まえた拍子に棚に当たり
ナイフが落ちた。


梨子「答えて…答えてよ………」

善子「………さい」

梨子「えっ?よっちゃ「うるさい!!!」

善子「なに?入院してからもう1ヶ月半よ?それで今の私の状態がわかる?確かに最初よりは身体は動くようになったわ!」

善子「けど、どれだけリハビリしても歩ける気がしない!物を満足に掴めない!ご飯も補助無しじゃ食べれない!」

善子「それだけじゃない!身体が麻痺してるから尿意だって分かりづらい!別に恥ずかしいとか悔しいとかは最初はあったわ!」

善子「でも、今は自分がみじめでしかないの!わかる?わかるわけないでしょ!?もういっそ楽になりたいの!」

善子「リリーは私のこと好きなんでしょ?だったら私を楽にしてよ!殺してよ!………ころしな」

バチンッ!


梨子「はぁっ…!はぁっ…!」

善子「なに?これ以上私を苦しめる気?いい加減に「ふざけるな!!!」………!?」

梨子「はぁっ…!いい加減にするのはいったいどっちなのよ!楽になりたい?死にたい?バカ言わないでよ!!!」

梨子「『0』から『1』へ…!これが私たちのルーツでしょ!?1歩進めたなら2歩目、3歩目と進まなきゃダメでしょ!?」

梨子「『1』で終わりじゃないの!足踏みするだけじゃダメなの!ましてや…!くっ…」

善子「………」

梨子「踏み出したせっかくの『1』歩を…無駄にするようなことは………やめて、やめてよぉ………よっちゃん…!」

善子「リリー…」

少し抵抗していたよっちゃんの動きが止まる。
そして、私は言葉を続けた。

梨子「確かによっちゃんが今どんなに不自由でどんな思いを持っているかはわからない。私たちのふとした言動がよっちゃんを苦しめることになるかもしれない」

梨子「できない、辛い、苦しい…だからってそこで逃げようっていうのは間違ってる」

梨子「先を見すぎちゃダメ!………ダメなんだよ?」

善子「先を見すぎちゃ…ダメ………」

梨子「鞠莉さんが言ってたんだけどね?…」


__

_____

________


梨子『鞠莉さん?そういえばなんでAqoursの存続に反対だったんですか?』

鞠莉『………聞きたい?』

梨子『鞠莉さんが良ければ…』

鞠莉『………私はね、将来っていうワードが嫌いなの!体験談だけど、知っているわよね?』

梨子『はい、一応』

鞠莉『将来ってゴール…?違うわよね。ゴールっていうのは元々ある明確な目標のこと!』

鞠莉『将来は幾重にも枝分かれするわ。昔はお花屋さんになりたいっていうcuteな夢も次第に現実的なものへと変化していく…』


鞠莉『ひどい質問かもしれないけど…梨子はちっちゃい頃に描いた未来図はちゃんと歩めてる?』

梨子『いいえ…鞠莉さんの言ってたように今はまだ何もわからない状態です』

鞠莉『いとしのよっちゃんはあんな状態だしね?』

梨子『もう!不謹慎ですよ!』

鞠莉『ごめんごめん!………マルが言ってたように居場所を残すことも大切。でも、戻る本人の善子が余計に苦しむ姿なんて見たくなかったの…』

鞠莉『私も留学してからダイヤと果南のことを想ってたけど、届かない想いに苛立ったり苦しんだりしたもの…』


鞠莉『だから私は決めたの!戻ってきたらやり直すって!一気に元の関係になんて高望みしない!少しずつでも着実に進もうって!』

鞠莉『約束された将来?そんなのこれっぽっちもないんだから!』

梨子『鞠莉さん…』

鞠莉『それに面白くないじゃない?勝つか負けるか、とことん勝負!ショートカットなんてナンセンス!』

鞠莉『いきなり壁が現れて回り道するかもしれない、面白そうなことがあったら寄り道するかもしれない。でも、それってとってもシャイニーなことよ!』

鞠莉『自分の時間は自分だけのものだもの!だったら私は、欲張って欲張って欲張り続けるわ!たどり着いたらおしまいなんて、こっちからお断りなんだから!』

梨子『鞠莉さん…!そうですね!その通りだとおもいま………わぶっ!?//』

鞠莉『それにこんなに可愛いsisterが二人もいるんだもの!どっちもおんなじくらいラブなんだから!』

梨子『も~う!鞠莉さ~ん!///』

________

____

__


梨子「………ってね、すごいよ、私たちの『お姉ちゃん』はさ」

善子「………ほんとにね、うるさいくせにいっつも元気で明るくてさ」

梨子「………あ!ほら見て?」

マリー:ちゃお~♪梨子、今日は一人で行かせてごめんね…

マリー:でも!もし、善子がバカなこと言い始めたら呼びなさい!ヘリでも車でも舟でもとばして行くからね♪

マリー:バチ当たりな堕天使を成敗するためにお姉ちゃんが馳せ参じるわ!かしこ!

梨子「ほんとに、鞠莉さんには敵わないや」

善子「………なによ、ほんと!気づいてないフリして察してたんじゃない…ほんとバカマリー…マリー………ごめん、ごめんね」

ガララッ


鞠莉「呼ばれて飛び出てシャイニーー☆ミ」

よしりこ「!?」

善子「ま、マリー!?」

梨子「仕事あるからって…」

鞠莉「確かにあったから一緒に行けないとは言ったわ!でも、ここに来れないとは一言も言ってないわ!」

梨子「そんな横暴な…」

鞠莉「それより………善子?」

善子「………は、はい」


鞠莉「よくもまあバカなことをしようとしたわね?ドア開けようとしたら殺せ!とか中から聞こえてくるし………ね?」

善子「あ、いや、その…」

鞠莉「さすがに私も激おこぷんぷんマリーだったけど、その後すぐにふざけるな!!!だもん!梨子もあんな口調になるのね!びっくりしちゃったわ!」

梨子「あの時は無我夢中で…」

鞠莉「と・に・か・く!バカなことしようとしたこの左手には…!うりゃうりゃうりゃー!」

善子「痛い!痛いって!強くにぎり過ぎ………って、痛い!?」

梨子「首辺りならともかく手が痛いなんて…それって…!」

鞠莉「善子!」

善子「わっ!?//」

鞠莉「さっき梨子が話してたでしょ?一気にあれがしたいって考えなくていいの。小さな変化でいい。左手だけ、指だけ、薬指だけ、その第一関節だけ。少しずつでいいから焦らずに…」

善子「………うん、わかった」

鞠莉「よしよし♪」


梨子「良かった…、ってあれ?なんで親指や小指とかじゃなくて薬指なの?」

鞠莉「えっ?だってあなたたち相思相愛なんでしょ?だったらengage ringをはめる場所を優先的に…」

よしりこ「なっ!?///」

梨子「け、結婚指輪とかそんな…!//それに私たちはまだ!それにそれに…///」

鞠莉「にゅふ♪あちゃ~マリー失敗!気が早すぎたか!てへぺろ♪梨子ちゃんはそこまで考えてるのかしら~?」

梨子「わざと………鞠莉さん!//」

鞠莉「怒らない、怒らな~い♪ほら、ヨハネはなんで黙ってるのかしら………ってあら~?」

善子「///」

梨子「よ、よっちゃん!?」

善子「わ、悪い!?//ちょっと先のことを想像しちゃっただけよ!///」

梨子「え?でも、ゴールは急がないって…いや!//今のなしなしなし!///」


善子「………ねぇ、マリー?その将来が不確定じゃなく『確実』かつ自分が『望む』なら大丈夫よね?」

鞠莉「う~ん………マリー難しいことわからないな~?」

梨子「さっきまで良いこと言ってたじゃん!」

鞠莉「ま!二人が幸せになれるなら私はなんでも構わないわ♪あなたたちの人生だもの!」

善子「ありがと…じゃあ」

善子「リリーと大事な話があるからマリーは出ていってくださ「拒否します!」………反応はやっ!」

鞠莉「別に二人の邪魔をしようって訳じゃないわ!ただ、聞きたいの…二人の気持ちを!」

梨子「鞠莉さん…」

鞠莉「あ、あと梨子?さんって言うのと敬語使うのは今後NGね?はい、Call me!」

梨子「え、ええ!?………ま、鞠莉ちゃん…//」

鞠莉「オッケーよ!梨子!」


善子「もう……リリー?」

梨子「うん、よっちゃん」

善子「あの時は返事をできなくてごめん!なんにもできない私はただの荷物になるだけだと思ったから…」

善子「でも、今ははっきり言える!私、津島善子はあなたのことが…『好き』」

梨子「よっちゃん…!」

善子「でも!」

善子「本当のスタートは待ってくれない?ゴールじゃなくスタート地点に立つために…」

善子「一つ一つ着実に準備して、あなたと歩き出すために…ね?」

梨子「うん…!歩こう、一緒に!それまでは私も焦らない!一緒に1歩ずつ進もう、よっちゃん!」


鞠莉「ん~!Wonderful!がんばっ………て!」

梨子「ちょ、鞠莉ちゃんいきなり押さな…」

善子「リリー、ストッ…」

チュッ?

よしりこ「………」

よしりこ「/////////」

鞠莉「Oh…、万事解決シャイニー☆」

よしりこ「バカマリーーー!!!///」

私の初めてキスはなんとも場違いな場所で
だけど、甘酸っぱい……
『罪作りなキス』だった…。

それからのよっちゃんは
ほんの少しずつだけど
身体を動かせるようになっていった。
そんなよっちゃんを後押しする
ある人との出会いがありました。


よっちゃんが入院してから半年。
鞠莉ちゃんたちも卒業の時期になった。
ラブライブ!は………。
でも、私たちの頑張りは無駄にはならず
廃校も免れました。

病院の前には少し早い桜が咲き
それを見に外に3人で出ていた。


善子「う~ん!いつもごめんね、リリー?車椅子押させちゃって…」

梨子「別に平気だよ~♪それに鞠莉ちゃんには任せられないし…」

鞠莉「What!?なんでよ!」

梨子「だって鞠莉ちゃん車椅子を全速力で押しちゃうじゃない!」

善子「あの時はほんとに死ぬかと思ったわ…」

鞠莉「風を感じて欲しくて…」

よしりこ「ギルティー!」


梨子「そんな人にはよっちゃんの車椅子は任せられません!」

善子「ほんとにリリーがいて良かった…」

鞠莉「むぅ…、ってあら?」

梨子「ん?どうしたの?」

鞠莉「なんか聞こえるような…」

善子「え?ん~…」

~♪

梨子「これは…ピアノの音?」

鞠莉「広場の方から聞こえるわ!行ってみましょう!」

梨子「ちょ!?よっちゃんいるんだから…って行っちゃった…」

善子「ほんとマリーは…ま、私たちも行きますか!ゆっくりとね?」

梨子「うん♪」


近づいていくごとにピアノの音が
はっきりしていく。
決して上手とは言えないその響きだけど
なにか強い意志を感じた。

梨子「もう、鞠莉ちゃん?勝手に行かないでよ!」

鞠莉「………」

善子「ちょっとマリー?お~い?」

鞠莉「嘘…、あの人って…」

梨子「え?」

確認しようと前を向こうとした時
ふと、優しい風と『青』に包まれた…


~♪

「君よ咲いて、熱い希望の果て、旅立つこの定めよ~♪輝きは風の彼方~♪………」


海のような綺麗な青く長い髪を束ねた
サイドテールをなびかせて彼女は歌っていた。
そう彼女は………。

梨子「μ´sの…園田海未さん…!」

海未「………そして私たちは語り合う~♪再び会えた時は~♪変わるはずでしょう~?新しいふた~りに~♪」

~♪


海未「ふぅ…ありがとうございました!」

パチパチパチ………!

善子「あの人が…!」

鞠莉「伝説のμ´sの一人…!」

梨子「でも、なんでこんなところに…?」

海未「ありがとうございました~………あ!」

善子「え?」

私たちを見つけるとすぐに近づいてきた。

海未「やっと…やっとお会いできました!」


梨子「え?私たちのことを知っているんですか?」

海未「もちろんです!特に…津島善子さん!」

善子「わ、私!?」

海未「あなたに会うために私はここに来たんですよ?」

鞠莉「いったいどういうこと…?」

海未「うふふ♪立ち話もなんですし、あちらのベンチに座ってお話しましょうか!」

海未さんにそう言われて私たちは
近くのベンチに移動した。


海未「さて!改めまして、私はご存じの通り、元μ´sの園田海未です!よろしくお願いいたします!」

梨子「こ、こちらこそ!」

鞠莉「ちゃお~♪こちらこそよろしく~♪Ms.海未~!」

善子「ちょ、バカ!慣れ慣れしすぎでしょ!」

海未「構いませんよ!確か、絵里と違ってハーフで去年まで外国にいたんですよね?多少のことは大丈夫ですよ!」

梨子「すみません…早速で悪いんですけどなぜ私たちに会いに?」

善子「それも今の私なんかに…」

海未「いいえ、今のあなただから会いに来たのですよ!………善子!」

よしりこまり「え…?」

それから海未さんは話始めた。
彼女がなぜここに来たのか。
歌っていたのかを。


海未「私はμ´sが解散してからもスクールアイドルとして過ごし高校を卒業しました。私の高校生活はあの9人、そして大切な二人の幼馴染みのおかげでそれは最高な3年間だったと断言できます」

海未「しかし、大学に入って数ヶ月たった日、交通事故にあいました。私もその時から味わってきたんです。あなたと同じ思いを、痛みを」

善子「海未さんも…」


海未「今までは当たり前にできたことができない苛立ち、優しく気遣ってくれる方の気持ちの重み、耐えきれずに楽になりたい…と思ったこともありました。ですが私の二人の幼馴染みはこう言ったんです…」


『海未ちゃん!次は何がしたい?』

『海未ちゃんがしたいことならな~んでも手伝っちゃうよ♪』


海未「あまり動けない私に『何がしたい?』ですよ?まるで、次の遊びを考えるみたいに。思わず、その時私は吹き出してしまいましたが、同時に納得してしまったんです、そうかそんなことからでいいんだって…」

梨子「鞠莉ちゃんの言ってたことに似てる…」

鞠莉「えっへん♪」


海未「うふふ♪………それから私は色々挑戦しては失敗しました。以前の私なら簡単にできたことができないというのは来るものがありましたが、とにかくなんでもしました」

海未「そんな時です、転機が訪れたのは。知り合いの病院にお世話になっていたのですが…、と言っても察すると思いますが真姫のことです。彼女は時々子どもたちにピアノを聴かせてあげる習慣があったんです」

海未「私たち3人も演奏を聴いていたのですが、すると突然…」


『これだ………!海未ちゃん!歌!歌だよ!………真姫ちゃ~ん!………』

『なるほど!私、海未ちゃんの歌声って大好き!優しく包んでくれるみたいな感じで安心するんだ♪』


海未「ほんとに………それから私は歌うために頑張り始めました。最初はピアニカからでした。指のリハビリと共に肺活量の強化というこれ以上ない方法でした」

海未「そのリハビリを半年以上かけてゆっくりではありますが1曲弾けるほどにはなりました。歌は以前の時と変わらないところまで回復しました」

海未「そして、真姫に伴奏するから子どもたちに歌ってあげてほしいと頼まれました。童謡を子どもたちと一緒に歌い、歌うことの大切さを再び感じました」

海未「最後の歌を、とそう思っていたら予定とは違う、しかし私には馴染みのあるメロディーが流れてきて…私は自然と歌い出しました…」

海未さんは目を閉じ大きく息を吸い込み…

海未「~♪」


海未「………ふぅ、って皆さん!?」

善子「あれ?あれ…?」

梨子「涙が…」

鞠莉「うぅ…卑怯よ、こんなの…」

私たちは歌声と海未さんの想いを感じ
自然と涙が出てしまった…
少し戸惑った海未さんもすぐに言葉を続けた。


海未「つまり、こういうことです。その時最後にこの歌を歌いきったあとは子どもたちだけじゃなく、他の人も、看護士さんも、真姫も…そして、私の大切な人たちも手を叩いてくれたんです。中にはあなたたちのように泣いてくれている方もいました」

海未「その光景に私は思わず声を出して泣いてしまいました。たくさんの人に感謝の言葉や感想をいただきました」

海未「歌ってすごいなぁって…知らない人とでも想いを繋げることができる。こんな私の歌で元気を分けてあげられるなら…とその時強く思いました」

海未「あとはご覧の通りです。激しい運動などはできませんが、日常生活で困ることはないほどに回復しました」

海未「そして、全国の病院や被災地などで歌を届ける今のような姿になりました。あなたたちを知ったのは先日のラブライブ!の大会です」

海未「プロフィールや経歴なども見せてもらい、いてもたってもいられずに来た次第です。これで私の話はおしまいです………善子?」

善子「ぐすっ………、は、はい!」

海未「あなたは………『何がしたい?』」

善子「私………私も…!」


善子「Aqoursのみんなと歌いたい!マリーを抱き締めたい!………そして!」

善子「リリーと歩きたい!自分の足で!手を繋いで!」

鞠莉「善子…」

梨子「よっちゃん…」

海未「欲張りさんですね?大丈夫ですか?」

善子「ふふ!バカな姉貴分のせいです!」

鞠莉「もう…やめてよ………ほんと…」

梨子「鞠莉ちゃん、良かったね…」

海未「じゃ、手始めに私と歌ってみませんか?口ずさむだけでもいいんです、最初はそこから始めましょう?」

善子「………はい!」


そのあと、広場に戻り海未さんに頼まれ
私がピアノを弾き4人で歌った。
声が出なかったり、裏返ったり
以前のよっちゃんのような歌声はなかったけど
以前よりも心に響く歌声に感じた。
その時のよっちゃんの笑顔は
とても輝いて見えた………。

その日からよっちゃんは
今まで以上に頑張り始めた。
海未さんと同じようにピアニカから始め
歩くためのリハビリも笑顔を見せるようになり
成果も目に見えるほどになっていった。
Aちゃんもよっちゃんのお見舞いに来てくれたり
海未さんも時々会いに来てくれたりして。
そんな日常を繰り返し、月日は流れて
よっちゃんが卒業する季節になった………。


浦の星女学院・体育館

ルビィ「……これを答辞とさせていただきます。皆さん、本当にありがとうございました!」

司会「元生徒会長からの答辞でした。続きまして………」


ダイヤ「ああ、ルビィ…!立派になって…!うぅ、ぐすっ、ずずーっ!」

果南「ダイヤ泣きすぎ…」

千歌「でも、ほんと変わったよね…ツインテールやめてから…」

曜「あの時の衝撃たるや………あはは」


花丸「ルビィちゃん、お疲れ様…!」

ルビィ「うん、ありがと…!」


司会「それでは式歌を…」

???「ジィィザスクラァァァァァイスト!!!」

全員「!?」

???「漆黒の………はいいや!もうさすがに!『みんなぁ』!ただいまぁぁぁ!!!」

シーン………


ルビィ「あ………あ!」

花丸「やっと………やっと!」

ダイヤ「どれだけ泣かせれば気が済むんですか、あの子たちは…」

果南「………ほんとにね!」

千歌「よーちゃん!私たちも!」

曜「うん!ヨーソロー!」

善子「ルビィ、はなま………あだっ!?」

りこまり「このおバカ!」


梨子「みんなポカンとしてるじゃない!」

鞠莉「あ~、先生たちも~!私、理事長なんだから、そこらへん考えなさいよ!」

善子「登場はダイナミックにって言ったのマリーじゃない!」

鞠莉「誰が式中に乱入なんて言ったのよ!このアホ~!」

善子「なんですっ「善子ちゃ~ん!」…!」

ルビィ「よがっだぁ~、よがっだよ~!」

花丸「よ~じ~ごぢゃ~ん!」

善子「もう!二人とも苦しい、苦しいって!」

そして………。


善子「こほん…、先ほどはお騒がせしてすみません。私は約2年半前に事故にあい、この学校を去った津島善子です」

善子「今日この場に来たのは私のわがままです。理事長の鞠莉さんに無理を言ってここに来させていただきました」

善子「私の話は………って暗い話をするのは億劫ね!私は歌を歌いに来たの!」

善子「これはAqoursのみんな、マリー、リリー、私の背中を押してくれた人、そして皆さんのために歌います!聞いてください!リリーお願い!」

梨子「うん♪」

よっちゃんがお辞儀をする。

パチパチパチ………!

よっちゃんと目配せをして私は
鍵盤を叩き始めた…。


~♪

愛してるばんざーい!
ここでよかった 私たちの今がここにある
愛してるばんざーい!
始まったばかり 明日もよろしくね 
まだゴールじゃない

笑ってよ 悲しいなら吹きとばそうよ
笑えたら変わる景色 晴れ間がのぞく
不安でもしあわせへと繋がる道が
見えてきたよな青空

時々雨が降るけど水がなくちゃたいへん
乾いちゃだめだよ みんなの夢の木よ育て



海未『この歌は私たちμ´sにとっての終わりと始まりの歌です』

海未『歌は人を笑顔にさせる。歌は人に想いを届けられる。歌は人と人を繋ぐ架け橋になる』

海未『それが例え、1人でも、9人でも、100人でも想いの大きさは変わりません』

海未『強く、まっすぐに、自分の想いを…』

海未『さあ…!』


善子『さあ!』

大好きだばんざーい!
まけないゆうき 私たちは今を楽しもう
大好きだばんざーい!
頑張れるから 昨日に手をふって 
ほら前向いて…

善子「La la la…」

善子「(海未さん、これが私の想いです!)」

~♪


善子「………ふぅ」

善子「ありが…」

パチパチパチパチパチッ!

善子「あっ…、ああ、あっ…!」

鞠莉「善子!」

梨子「よっちゃん!」


泣き崩れそうになるよっちゃんを
二人で支える。
その姿にもらい泣きをしてしまった。

ようやく、ここまで『歩いて』来れたね?
おめでとう、よっちゃん!

鳴り止まない拍手が次第に弱まり
よっちゃんに視線が集まり………。

善子「皆さん…!」



    『ありがとうございました!』



式が終わったあと、Aqoursのみんなと
近いうちにライブをしようという約束をして
私たち3人は学校の中庭の桜を見ていた。

鞠莉「………あ!そういえば善子!はい!」

善子「へ?」

そう言って鞠莉ちゃんは腕を広げる。

鞠莉「へ?っじゃないでしょ!?抱き締めてくれるんでしょ?」

善子「私、そんなこと言ったっけ…」

鞠莉「なっ!?」

梨子「うふふ♪」


善子「………な~んてね?えいっ!」

鞠莉「わっ!?不意打ちは卑怯!」

善子「いつものお返し!………マリー?」

鞠莉「………なーに?」

善子「ありがとう…私をいっつも気遣ってくれて………大好きだよ、『お姉ちゃん』…!」

鞠莉「うん…うん…」

梨子「………えいっ!」

鞠莉「り、梨子!?」

梨子「私も大好きだよ?鞠莉『姉さん』!」

鞠莉「もう………ほんと、あなたたちはいっつも…いつも、うわぁぁぁん!」

善子「泣き虫なんだから!もう!」


鞠莉ちゃんはひとしきり泣いたあと
私たちに気を使ってか先に帰っていった。

心地よい静寂の中、よっちゃんが口を開ける。

善子「………えと、さ、桜内梨子さん!!!」

梨子「は、はい!」

善子「すごく、すっごくお待たせしたんですが…今でも私のことを好きですか?」

梨子「………もちろん!」

善子「良かった…」

よっちゃんは立ち上がり私に手を差し伸べる。


善子「それじゃ、今から『スタート』ね?一緒に、『歩いて』いこう!」

よっちゃんの手を取り立ち上がる。

梨子「うん♪一緒に………」


歩こう………!

おしまい

海未ちゃんのモデルの方は
実際にいらっしゃいます。
気が向いたら調べてみてください。
海未ちゃんに名前近いです。
そろでは失礼しますm(__)m

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