京子「ごらく部が密室に閉じ込められた」 (199)
カチッ
ジーーーーーーー
「西垣先生、これ録音してるんですか?」
「ああ、状況が状況だからな……不快なようなら止めるが」
「……大丈夫です」
「判った……では、単刀直入に聞こう」
「ごらく部の、他の三人は、何処へ行ったんだ?」
「……」
「……」
「……」
「……」
「彼女達は……」
「……まだ、あの密室に居ます」
カチンッ
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「京子」
京子「……ん」
「京子、起きて」
京子「……んぅ」
「京子」
京子「……聞こえてるよ、結衣」
結衣「良かった……起きなかったらどうしようかと心配しちゃったよ」
京子「……」
ちなつ「あの……結衣先輩」
結衣「ん?」
あかり「こ、ここ、どこなのかなぁ?」
結衣「……私も、今さっき目を覚ましたばっかりだから判らないんだ」
あかり「あかりたち、確か部室でお話してたよね?」
結衣「うん……それで、突然眠くなってきちゃった所までは覚えてるけど……」
ちなつ「わたしもです!突然意識がふら~っとして……」
あかり「あ、あかりも!」
結衣「けど、ここ、部室じゃないよね……」
ちなつ「はい、見た事ない部屋です……」
あかり「学校の中……じゃないのかな」
結衣「うーん……校内でこんな部屋は見た事ないけど……京子は、どう思う?」
京子「……」
結衣「京子?」
京子「え……」
結衣「どうしたのさ、ぼーっとして」
京子「……なんでもないよ」
ちなつ「と、取りあえず、外に出ませんか?」
あかり「おそと?」
ちなつ「うん、どうして私達がこんな部屋にいるのか覚えてないけど……そろそろ夕方だろうし」
ちなつ「家に帰らないと家族の皆が心配しちゃうよ」
あかり「そ、そうだった、今日はお姉ちゃんと約束があったんだ」
結衣「……そうだな、取りあえず出口を探そっか」
ちなつ「は、はい!」
京子「……」
結論から言うと、出口は見つからなかった
私達が居る部屋……便宜上、ここを「居間」と呼ぶけど
この「居間」には4つの扉があって、それぞれが「個室」につながっていた
「個室」にはベットや冷蔵庫、シャワー室や水道が設置されていたが
「居間」に続く扉以外の出入り口は無かった
窓すら存在しない、そんな密室
私達は、そんな空間に閉じ込められてしまったのだ
ちなつ「……」
あかり「……」
京子「……」
結衣「……落ち着いて、状況を整理してみよう」
結衣「私達が探した範囲で、出入り口は存在しない」
結衣「つまり……」
あかり「きょ、今日はお家に帰れないって事かな……」
ちなつ「……今日どころか、明日も明後日も帰れるかどうか判んないよ、あかりちゃん……」
あかり「そ、そんなっ……」
ちなつ「だって、出入り口が無いんだもん……外に出れない限り、私達は家に帰れないんだよ」
あかり「けど、けど、あかり達がここにいるって事は……!」
結衣「うん、何処かに私達が入った入口があるはずだよ」
ちなつ「……そう、ですね……」
結衣「残念ながらここは電波が届かない」
結衣「けど、取りあえず、衣食住は4つの『個室』に十分備えつけられてるようだし」
結衣「仮に今日明日と家に帰れなかったとしても、生活に困る事はないと思う」
あかり「けど、けど帰れないと……お姉ちゃん達が心配しちゃうよぉ……」
結衣「うん……きっと、心配した両親が警察に連絡して私達を探しだしてくれると思うんだ」
ちなつ「そ、そうですよね……きっと探し出してくれますよね……」
結衣「だから、それまで頑張ろう?」
ちなつ「は、はいっ!」
あかり「う、うん……」
京子「……」
≪警察が探しに来る事はない≫
結衣「……!?」
ちなつ「……!?」
あかり「……!?」
京子「……」
結衣「な、なに?何処から声が……」
≪この密室からの脱出を考える必要もない≫
ちなつ「結衣先輩!天井のスピーカーから声がっ!」
≪君達はただ待てばいい≫
あかり「あ、あの、誰ですかっ!」
≪何もせずただ待っていれば……3日後に、外への通路が開く≫
京子「……」
結衣「3日間、ここで過ごせって事?どうしてそんな事を……」
ちなつ「そうですよ!3日と言わず今すぐ外に出してください!」
あかり「あ、あのっ、あかり達何か悪いことしたのかな?それで怒って閉じ込めたのかなっ?」
京子「……」
≪ただ待てというのも酷だろう≫
≪だから、私から君達にささやかながらプレゼントを贈らせてもらった≫
≪そのプレゼントを使って≫
≪3日を存分に≫
≪楽しんで欲しい≫
結衣「……プレゼント?」
≪では、3日後にまた会おう≫
結衣「ま、待て!プレゼントっていったい……!」
≪それは既に君達に贈られている物だ≫
≪意識すれば使い方は判るだろう≫
≪けれど忘れないで欲しい≫
≪そのプレゼントはこの密室でだけ有効だという事を≫
≪ここから出れば儚く消えてしまう物だという事を≫
あかり「……スピーカーの音、聞こえなくなっちゃったね……」
結衣「……何なんだいったい……」
ちなつ「ゆ、結衣先輩、プレゼントって一体……」
結衣「さあ……使い方は判るとか言ってたけど、何の事を差して……」
あかり「……あ、あれ」
ちなつ「あかりちゃんどうしたの?」
あかり「……あれ、ど、どうしてあかり、こんな事出来るのかな……」
結衣「あかり?」
あかり「今までした事なんて無かったのに……出来るはずない事なのに……」
あかり「ど、どうして、こんな事を『出来る』と思っちゃうんだろ……」
ちなつ「あかりちゃん?何言って……あ」
結衣「……あ、私も今判った」
ちなつ「は、はい……私も、今突然……唐突に『出来る』と思った事があります……」
ちなつ「普通では絶対に出来ないような事を……な、なんでだろ、どうしてこんな事を……」
結衣「……ちょっと落ち着こうよ」
あかり「う、うん……」
ちなつ「はい……」
結衣「今さっきの放送が言ってた『プレゼント』って言葉と照らし合わせて考えると……えっと……」
あかり「……」
ちなつ「……」
京子「……」
結衣「私達、この密室限定で何か特殊能力を使えるようになった……って考えていいのかな」
ちなつ「そ、そうです!そうなんですよ!」
あかり「う、うん!あのね!結衣ちゃん!あかりね!」
結衣「ちょ、あかり落ち着いて……」
あかり「あかりはね!」
京子「……」
あかり「死んだ人を蘇らせる事が出来るようになったの!」
結衣「え、死んだ人を……え?」
あかり「蘇らせられるようになったんだよっ!」
ちなつ「す、凄いっ!あかりちゃん凄いっ!」
あかり「え、えへへ///」
ちなつ「ゆ、結衣先輩は!?結衣先輩も何か特殊能力得たんですよね!?」
結衣「う、うん……」
あかり「ど、どんなのかな!?」
結衣「えっと……」
結衣「他の人の持つ特殊能力を、無力化する事が出来る能力……みたい」
あかり「……え」
ちなつ「むりょくか……?」
結衣「だから、例えばこの能力を使えばあかりの能力を無力化する事が出来るんだ」
結衣「但し、無力化出来るのは1人だけみたいだけど……」
あかり「そ、そんなぁ、結衣ちゃん酷いよぉっ」ウルッ
結衣「い、いや、あかりの能力を無力化とかしたりしないからさっ」
あかり「ほ、ほんと?」
結衣「う、うん……」
ちなつ「京子先輩はどんな特殊能力貰ったんですかっ……!」
京子「……」
ちなつ「京子先輩?」
京子「……それ、言う必要あるのかな」
ちなつ「え?」
京子「というか、どうしてちなつちゃんは、そんな事を知りたがるの?」
ちなつ「え……だって何だか漫画の世界の事みたいで、ちょっとドキドキするじゃないですか……」
京子「……」
ちなつ「京子先輩は、ドキドキしないんですか?特殊能力ですよ?」
京子「……ほんとにそれだけ?」
ちなつ「他に何があるんですか?」
京子「……本当は、私達の特殊能力を調べて……何かするつもりなんじゃないの」
あかり「……!」
結衣「……!」
ちなつ「……!」
ちなつ「な、なに言ってるんですか……京子先輩、冗談にしては笑え……」
京子「こんな状況で冗談を言うつもりなんて無いよ」
結衣「おい京子、お前何言ってるんだよ」
あかり「そ、そうだよ京子ちゃん、ちなつちゃんが何をたくらむっていうの?」
京子「……」
ちなつ「……判りました」
結衣「ちなつちゃん?」
ちなつ「そんな事で疑われるのも嫌ですし、私の特殊能力から先に言いますっ」
京子「……」
ちなつ「……それで、いいですか、京子先輩」
京子「……うん」
ちなつ「……えっと、私の特殊能力は……」
結衣「うん」
ちなつ「……」
あかり「ちなつちゃん?」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「……他人の記憶を改ざんする能力……です」
あかり「……かい」
結衣「ざん……?」
ちなつ「えっと……対象の記憶に介入して好きな記憶に変更する事が可能なんです……」
あかり「わ、わぁ~、凄いねちなつちゃん」
結衣「う、うん……」
京子「……」
ちなつ「……あの、京子先輩?」
京子「……何」
ちなつ「……京子先輩の能力は……なんですか?」
京子「……知りたい?」
ちなつ「はい……ちょっとさっきから京子先輩、様子がおかしいですし……」
京子「……あのね、私の能力は」
京子「この密室の中で過ごす3日中に自分が死亡したら、もう一度1日目からやり直す事になる能力だよ」
結衣「……ちょっと待って京子」
京子「なに」
結衣「……私も、さっきから京子の様子がおかしいのは気になってたけど……」
京子「うん」
結衣「……もしかして」
京子「……そうだよ、私がこの1日目を体験するのは、これで3度目」
京子「つまりね、私はこの密室の中で、2回殺されてるの」
結衣「こ、殺されてるって……」
ちなつ「そ、そんな事あるはずないじゃないですか!」
京子「……」
結衣「そ、そうだよ、そんな事……」
京子「けど、私がこの能力を持ってる事も、2回死んだ事も確かなんだよ」
ちなつ「……」
結衣「……」
あかり「あ、あの……京子ちゃん」
京子「ん?」
あかり「こ、殺されちゃったんだとしたら……あの、誰に殺されたの?」
京子「……判んない」
ちなつ「い、いや、やっぱりおかしいですよそれ」
京子「なにが?」
ちなつ「だって、あかりちゃんの特殊能力を想いだしてくださいよ」
結衣「あ、そっか……あかりは、死んだ人を蘇らせる事が出来るんだ」
あかり「そ、そうだよっ!京子ちゃんが死んじゃったら、あかり絶対生き返らせるよ!」
京子「……あのね」
あかり「京子ちゃん?」
京子「私、誰かに殺されて、また1日目に戻っちゃった時、あかりにちゃんと頼んだんだよ」
京子「私は殺されるかもしれないからちゃんと生き返らせてねって」
京子「最初の時は何かのトラブルで生き返らせられなかったのかもしれないから、今度はちゃんとお願いねって」
京子「けど……私は生き返る事なく、また1日目に戻って来ちゃった」
あかり「……そ、そんな」
京子「ねえ、あかり」
あかり「な、なに」
京子「どうして、生き返らせてくれなかったの?」
あかり「……あ、あかり……あかりっ……」ウルッ
ちなつ「ま、待ってくださいよ京子先輩っ!あかりちゃんを責めるのは筋違いですっ!」
京子「……うん、そうだね」
あかり「……ううぅっ……ひっく……」
京子「ごめんね、あかり」
あかり「きょ、京子ちゃん……あかりのほうこそ、ごめんね……」
あかり「生き返らせられなくて……ごめんねっ」ヒック
京子「もう、泣かないでよ、あかり……あかりが悪いわけじゃないんだよ、きっと」
あかり「けど……けど……」グスッ
京子「きっとあかりは……」
京子「記憶を改ざんされて、約束を忘れちゃっただけなんだよね」
あかり「……え」
結衣「え……」
ちなつ「……」
京子「だからね、私はあかりを許すよ」
あかり「京子……ちゃん?」
京子「なに」
結衣「記憶を改ざんって……それって……」
ちなつ「……」
京子「……うん、私を殺したのはきっと、ちなつちゃん」
結衣「京子、お前いい加減に……!」
ちなつ「……どうして、そう思ったんですか」
あかり「ち、ちなつちゃん……」
京子「だって、ちなつちゃんはそういう能力持ってるでしょ?」
ちなつ「……けど、あかりちゃんだって結衣先輩だって同じような状況を作れますよ」
結衣「……!」
あかり「……!」
ちなつ「例えばあかりちゃんが京子先輩を殺して、蘇生の力を使わなかったとか」
あかり「あ、あかり、京子ちゃんを殺したりなんかしないよっ!」
ちなつ「結衣先輩が京子先輩を殺して、無力化能力であかりちゃんの能力を消しちゃったとか」
結衣「私はそんな事しない!」
京子「……」
ちなつ「可能性だけなら、それぞれ考えられますよね?」
ちなつ「どうして……どうして私が犯人だって思ったんです?」
京子「私を殺した後の事を考えると、あかりが犯人である可能性は低いと思うよ」
京子「残った子から、どうして蘇生させないのって聞かれるだろうし」
ちなつ「……それじゃあ、結衣先輩は?」
京子「……結衣は犯人じゃない」
ちなつ「……私だってそう思いますよ、けど可能性を考えるならゼロじゃ……」
京子「結衣は、犯人じゃない……犠牲者だ」
ちなつ「……え?」
京子「……結衣はね、私が殺されちゃう前に……誰かに殺されてたんだ」
京子「最初に能力を貰った時、私はさっきまでのちなつちゃんと同じようにはしゃいでた」
京子「皆に、どんな能力貰ったのか聞いてさ」
京子「この能力はこんな風に使えそうだ~って話しあってたんだ」
京子「けどね……2日目に、結衣が4つの『個室』の一つで死んでたんだ」
京子「……殺されてたんだよ」
京子「私はショックを受けて、放心状態で過ごして……」
京子「そして、3日目の朝に、死んだ」
京子「誰かに殺されたんだ」
京子「次に気がつくと、私は結衣に揺り起されてた」
京子「その瞬間、すごく嬉しかったよ」
京子「死んだと思った結衣が……結衣が、生きてたんだから」
京子「だからね、それからはずっと結衣と二人で過ごした」
京子「念の為に、あかりに『約束』をしてね」
京子「……それが幸いしたのか、2日目に結衣が殺される事はなかった」
京子「けど、私は3日目の朝に死んだ」
京子「結衣がお風呂に入ってる間、私が仮眠を取ってる間に、殺された」
京子「それで、眼が覚めるとまた結衣に揺り起こされてたの」
京子「それ以降、ずーっと考えてた」
京子「前までは、なるべく考えないようにしてた『犯人』の事を」
京子「犯人はどんな能力をどんなふうに使ったのかって事を」
京子「それで……」
ちなつ「……消去法で、私が残されたと」
京子「ちなつちゃんなら、私が死んだ後の世界でも上手く立ちまわる事が可能だよね」
ちなつ「……」
京子「結衣とあかりの記憶を改ざんすれば、どうとでもなるし」
ちなつ「……私はやってません」
京子「……うん、そうかもしれないね」
ちなつ「……信じてませんよね」
京子「ごめんね、ちなつちゃん、わたし、三回も殺されるのはごめんなんだ」
ちなつ「……だったら、どうするんですか」
京子「……それは勿論」
京子「……結衣」
結衣「な、なに」
京子「ちなつちゃんの能力を無力化して」
結衣「え……けど」
あかり「京子ちゃん、ちなつちゃんはそんなことしないよっ!」
結衣「そうだよ、無力化なんてしなくても……」
ちなつ「……いいですよ」
結衣「ちなつちゃん?」
ちなつ「……いいです、無力化してください」
あかり「け、けど……それじゃちなつちゃん罪を認めた事に……」
ちなつ「罪は、認めません……けど、けど……」
京子「……けど、なに」
ちなつ「……わたしは、京子先輩がそんな顔をしてるのに、耐えられないんです……」
京子「……!」
ちなつ「た、確かに私は、京子先輩をちょっと邪険に扱ってました……」
ちなつ「けど、けど、それは別に殺したいくらい憎かったからとかじゃなくて……」ウルッ
ちなつ「冗談で軽口をたたき合っても許して貰えると思ってたからで……」グスッ
あかり「ちなつちゃん……」
ちなつ「だから……だから、嫌なんです、京子先輩から疑われるの……」
ちなつ「そんな事になるくらいなら……こんな能力、無くて良いです……」
京子「……」
結衣「ほんとにいいの?ちなつちゃん」
ちなつ「……はい」コクッ
結衣「……じゃ、やるよ」
ちなつ「……」
結衣「……」ピッ
ちなつ「……」
あかり「……」
京子「……ちなつちゃん」
ちなつ「……なんですか」
京子「ごめんね……」
船見結衣の能力が発動した
ちなつ「……おわり、ですか?」
結衣「うん、そのはずだよ」
ちなつ「……」
京子「……」
あかり「……」
ちなつ「結衣先輩、私の事が好きですか?」
結衣「え、あ、うん」
ちなつ「それは、ラブという意味で?」
結衣「い、いや、ライクという意味かな」
ちなつ「ラブに変わりませんか?」
結衣「う、うう~ん……」
ちなつ「か、変わって下さい!」
結衣「ご、ごめんね、ちなつちゃん」
ちなつ「くっ……」
あかり「く?」
ちなつ「くそぉぉぉ!結衣先輩の記憶改ざんして私への恋心を抱かせる計画がぁぁぁぁ!」
結衣「ち、ちなつちゃん、女の子がクソって……」
ちなつ「うううっ、こんな機会、もう来ないのにぃぃぃぃ!」
結衣「お、落ち着いて……」
ちなつ「け、けど結衣先輩っ!私諦めませんからっ!」
結衣「は、ははは……」
あかり「あ、あはは……ちなつちゃん、何時ものちなつちゃんだっ」
京子「……うん」
京子(ごめんね、ちなつちゃん……本当にごめん……)
京子(きっと、私の勘違いだったんだよね……)
京子(結衣が死んだのも、きっと事故か何かで……)
京子(私、馬鹿だな……馬鹿だ……)
京子(ここから出たら、ちなつちゃんに、ちゃんと謝ろう……)
翌朝、それぞれの『個室』から出た三人は
『居間』で吉川ちなつの死体を発見した
京子「……そんな……どうして……」
あかり「ちなつちゃん!ちなつちゃん!!」ユサユサッ
結衣「あ、あかり!能力!能力使って!」
あかり「ちなつちゃんっ!ちなつちゃぁぁぁっ!!」ユサユサッ
京子「ど、どうしてちなつちゃんが……」
結衣「あかり!大丈夫だから!能力を使えばちなつちゃんはっ!」
あかり「ち、ちなつちゃんっ!な、なんでっ……!」ユサユサ
京子「私を殺せなくなったから、それで自殺したって事?そんな事……」
結衣「あかり!」
あかり「も、もう能力使ってるよぉっ!」
京子「……え」
あかり「ど、どうしてっ!生き返るはずなのにっ!なんでっ!」ユサユサッ
結衣「あ、あかり、落ち着いて!冷静に能力の使い方を想いだしてっ!」
あかり「やってるのにっ!やってるのにっ!!」ユサユサッ
京子「……」
結衣「や、やってるのなら何で生き返らないのさ……」
あかり「ちなつちゃんっ!ちなつちゃんっ!」ユサユサユサッ
京子「……ゆ、結衣」
結衣「な、なに!?」
京子「……あかりから離れて」
結衣「え?」
京子「そうだよ、難しく考える必要なんて無かったんだ……」グイッ
結衣「お、おい、京子、引っ張るなって……」
京子「最初に結衣が殺された時も、私が殺された時も」
京子「あかりは蘇生の能力を使わなかった」
京子「そして……今も使ってない……」
京子「それってつまり……つまり……」
あかり「ちなつちゃんっ!ちなつちゃんっ!」ユサユサッ
~個室~
結衣「お、おい、どうして個室に閉じこもるんだよっ」
京子「……」
結衣「居間にはまだあかりと……ちなつちゃんが!」
京子「……結衣、落ち着いて聞いて」
結衣「な、なに」
京子「……私や結衣やちなつちゃんを殺したのは……多分、あかりだよ」
結衣「……」
京子「だから……あかりを個室に入れちゃ駄目だ」
京子「何とかここで3日目まで過ごして……」
ドンドンドンッ
京子「……!」
「結衣ちゃん、京子ちゃん、酷いよ、あかりを置き去りにして」
「ちなつちゃんと二人っきりだと怖いよ、入れてよ」
ドンドンドンッ
京子「……駄目だ、入れないよ、絶対……」ブツブツ
京子「結衣は私が守るんだ……結衣だけは……」ブツブツ
結衣「京子……」
ドンドンドンッ
「開けて、開けてよ、二人とも酷いよ、入れてよぉ」
結衣「……京子」
京子「なに」
結衣「……私、あかりと話してくる」
京子「……は?」
結衣「あかりが可哀そうだよ、ちなつちゃんの遺体と二人きりだし」
京子「な、なに言ってるの結衣!今の話聞いてなかったの!?」
結衣「……聞いてたよ」
京子「だ、だったらなんで!」
結衣「……だって京子、昨日はちなつちゃんを疑ってただろ」
京子「……!」
結衣「それが今日はあかりを犯人扱いしちゃってるし……」
京子「け、けど!もうそうとしか考えられないでしょ!?」
結衣「……そうかな」
京子「そ、そうだよ!」
結衣「京子」
京子「な、なにさ」
結衣「絶対正しいと思ってる事が、正しいとは限らないんだよ」
京子「え……?」
結衣「私達はきっと、根本的に考え方を間違ってるんだ」
結衣「そもそも、こんな訳のわからない舞台を用意したヤツが一番怪しいだろ」
京子「……そ、それは」
結衣「だからさ、私達は仲間内で疑い合うべきじゃない」
結衣「もっと、信じあわないと……多分、3日目を迎える事は出来ないんだと思う」
京子「……」
結衣「京子、私を信じて」
京子「ゆ、ゆい……」ウルッ
結衣「あかりも、怖がってるだけだろうから」
京子「う、うんっ」グスッ
結衣「だから、私がちょっと話してくるよ」
京子「危ない事、しない?」ヒック
結衣「勿論だよ」
京子「ほんと?ちゃんと生きて帰ってくる?」
結衣「うん」
京子「わたし……わたし、もう結衣が死ぬの、やだ……」
結衣「大丈夫、大丈夫だから……」
結衣「だから、ちょっと行って来るね」
それから、丸一日が経過した
今は、3日目の朝だ
私は1人で、結衣の帰りを待っている
コツッコツッ
京子「……ゆい?」
「京子ちゃん」
京子「あかり?」
「うん……」
「ごめんね、京子ちゃん、乱暴に扉叩いたりして」
「怒っちゃったよね」
京子「ううん、怒ってないよ、あかり」
「あのね、あかりね」
京子「うん」
「結衣ちゃんとお話して、判ったんだ」
京子「なにを?」
「あかりの能力はね、どうしてか判んないけど、発動しなくなっちゃったんだけど」
「それでもちなつちゃんを助ける方法は有るって」
京子「ほんと?」
「うん」
「京子ちゃん、ちなつちゃんに助かったほしいよね?」
京子「うん、たすかってほしい」
京子「もういちど会って、いっぱいあやまりたい」
「うん、あかりも」
「もう一度、ちなつちゃんと会いたいなあ……」
京子「どうすればいいの?」
京子「どうすれば、ちなつちゃんにもういちどあえるの?」
「簡単だよぉ、この扉を開けてくれればいいの」
京子「それだけでいいの?」
「うん」
京子「そっか、かんたんだね、あかり」
「うん、だから早く扉を開けて?」
京子「うん、いまあけるね」
ガチャガチャ
「きょうこちゃん、はやくはやく」
京子「まっててね、いま、ばりけーどどかすから」
「はやくはやく」
京子「まっててね」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
京子「あいたよ、あかり」
「ありがとう、きょうこちゃん」
「あのね」
京子「うん」
「死んでね」
歳納京子の能力が発動した
「京子」
京子「なに、ゆい」
「京子、起きて」
京子「うん、おきてるよ、ゆい」
「京子?」
京子「ごめんね、ゆい、ちなつちゃん、たすけられなくて……ごめん……」
結衣「お前、寝ぼけてるのか」
京子「……」
ちなつ「あの……結衣先輩」
結衣「ん?」
あかり「こ、ここ、どこなのかなぁ?」
結衣「……私も、今さっき目を覚ましたばっかりだから判らないんだ」
あかり「あかりたち、確か部室でお話してたよね?」
結衣「うん……それで、突然眠くなってきちゃった所までは覚えてるけど……」
ちなつ「わたしもです!突然意識がふら~っとして……」
あかり「あ、あかりも!」
結衣「けど、ここ、部室じゃないよね……」
ちなつ「はい、見た事無い部屋です」
あかり「学校の中……じゃないのかな」
結衣「うーん……校内でこんな部屋は見た事ないけど……京子はどう思う?」
京子「……」
結衣「京子?」
京子「……ちなつちゃんだ」
ちなつ「え?」
京子「ちな……ちなつちゃんっ」グスッ
ちなつ「え、ちょ、京子先輩!?」
京子「ごめんっ、うたがってごめん、ちなつちゃんごめんなさいっ!」グスッ
結衣「きょ、京子?どうしたんだよ」
京子「ゆ、ゆいも、ごめんね、ごめんっ……」ヒック
ちなつ「も、もうっ、確かに不安なのはわかりますけど、泣かなくても……」
京子「ごめんね、ごめんね……」
あかり「京子ちゃん、大丈夫?」
京子「……!」ビクッ
あかり「京子……ちゃん?」
京子(そうだ……そうだ、思い出した)
京子(あかりだ、あかりが犯人だったんだ)
京子(ちなつちゃんを自殺に見せかけて殺したのも、私を殺したのも)
京子(きっと、話し合いに来てくれた結衣のことだって……!)キッ
あかり「……!」ビクッ
結衣「……京子、なにあかりを苛めてるの」コツッ
京子「いたっ」
ちなつ「そうですよ、不安だからってあかりちゃんを睨んでも何も解決しませんよ?」
京子「う、ううー……」
京子(駄目だ、あかりは普段イイコちゃんだから、二人に本当のこと言っても信じてもらえない……)
京子(どうしよう……)
京子(そ、そうだ、結衣にあかりの能力を無力化してもらって……!)
京子(……いや、だめだめ、あかりの能力は「蘇生」なんだから、そんなの封じても……)
京子(あかりは多分、私達を殺すのに能力を使ってない……)
京子(けど……)
京子(けどそれなら、この密室内で私達を殺す理由が無いよね……)
京子(私達の事を殺すほど憎いなら、普段の部活でも十分可能だったはずだし……)
京子(という事は……あかりが私達を殺そうと決意したのがこの密室内だったって事なのかな……)
京子(私達、そんな酷い事あかりにしたのかな……)
京子(あの優しいあかりがあんなになっちゃうくらいひどい事を……)
ちなつ「京子先輩?」
京子「……!」ビクッ
結衣「どうしたのさ、京子」
京子「……べ、別に何でも無いけど……あれ、みんなどこに行くの?」
結衣「だから、さっき言ったろ?出口を探すんだよ」
京子「あ……そっか」
京子(この時系列ではまだ調べてないんだっけ)
京子「……」
結衣「それじゃあ、みんなで一緒に部屋を1つずつ調べて……」
京子「結衣」
結衣「ん?」
京子「時間ももったいないし、ここは分担して調べようよ」
結衣「分担?」
あかり「部屋が4つあるから、あかりたち1人で1つずつ部屋を調べるの?」
京子「……」
ちなつ「けどこんな得体のしれない場所で単独行動するのは……」
京子「うん、だから2人1組になってさ」
結衣「けど皆で一緒に行動した方が……」
京子「大丈夫だって!ね!」
結衣「わ、判ったから迫ってくるなっ」
結衣「はぁ……さっきまで怯えてたと思ったら、もうこんな元気になって」
ちなつ「しょうがないですね、京子先輩はっ」
京子「え、えへへ」
ちなつ「えーと、2人1組という事は……私は結衣先輩と……!」
京子「はい、ちなつちゃんは私と一緒にこっちの部屋から調べようねっ!」グイッ
ちなつ「ちょ、京子先輩!?」
京子「いいからいかからっ!」グイグイッ
ちなつ「や、ちょ、私は結衣先輩とっ!」
ちなつ「ゆ、ゆいせんぱぁぁいっ!」
バタンッ
~個室~
ちなつ「も、もう!京子先輩強引すぎます!」
京子「えへへ、ごめんね、ちなつちゃん」
ちなつ「はぁ……折角結衣先輩と二人きりになるチャンスだったのに……」ガクッ
京子「……」
ちなつ「……ふー」
京子「……えっと」
ちなつ「……それで、何かあったんですか、京子先輩」
京子「え?」
ちなつ「何か、私に相談したい事があったから2人っきりになったんですよね?」
京子「……」
ちなつ「……」
京子「……どうして」
ちなつ「?」
京子「……どうして、それが判ったの?」
ちなつ「……そんなの、さっきの様子を見てれば判りますよ」
京子「……私、そんなに様子おかしかった?」
ちなつ「はい……あんな京子先輩ははじめてでしたし、何かよっぽどの事があったのかなって」
京子「……そ、そっか」
ちなつ「結衣先輩や、あかりちゃんもきっと気づいてましたよ」
京子「……」
ちなつ「……ほんとなら、幼馴染の結衣先輩やあかりちゃんが相談に乗るべきなのかなって思ってたんですけど」
京子「……」
ちなつ「私が呼ばれたって事は、私じゃないとだめなんですよね?」
京子「……うん」
ちなつ「京子先輩?」
京子「う、うん……」グスッ
ちなつ「ちょ、また……だ、大丈夫ですか?」
京子「うん……うん……ごめん、ごめんね……」グスッ
ごめんね、ちなつちゃん
あの時のちなつちゃんにはもう届かないけど
疑って
ごめんなさい
ごめんなさい
京子「……」
ちなつ「……」
京子「……あのね」
ちなつ「……はい」
京子「……私、あかりと喧嘩しちゃって」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「……それで、さっき態度がおかしかったんですね」
京子「……うん」
ちなつ「はぁ……」
ちなつ「それで、私にあかりちゃんと仲直りする手助けをして欲しいって事ですか?」
京子「……ちょっとだけ違うんだ」
ちなつ「え?」
京子「……あのね、あかりはね」
ちなつ「はい」
京子「私を……殺したいほど憎んでると思う」
ちなつ「は?」
京子「だ、だからね」
ちなつ「……」
京子「だから、ちなつちゃんの能力で……」
ちなつ「いや、待ってください京子先輩」
京子「え?」
ちなつ「それは、ないです」
京子「なにが?」
ちなつ「いや、だからあかりちゃんが京子先輩を殺したいほど憎むなんて、有り得ないですから」
京子「……けど、けどほんとなんだよ」
ちなつ「いやいやいや……無いですよ」
京子「あ、あるよ」
ちなつ「ないです」
京子「あるって」
ちなつ「ないない、あのあかりちゃんに限って」
ちなつ「確かにあかりちゃんだって人間ですから、怒ったり悲しんだりすることは有ると思います」
ちなつ「けど、憎むなんて事は出来ない子なんですよ、あかりちゃんは」
京子「け、けど……けど実際あかりは……」
ちなつ「……京子先輩は」
京子「え?」
ちなつ「今まで、あかりちゃんと喧嘩した事とか、無いんじゃないですか」
京子「……無い、けど」
ちなつ「うん、だからきっと、普段と違うあかりちゃんに怯えて、憎まれてるって思いこんじゃったんだ」
京子「……」
京子(私が、あかりに憎まれてない?)
京子(そんな訳……)
「ありがとう、きょうこちゃん」
「あのね」
「死んでね」
京子「……」ゾクッ
ちなつ「だから、あかりちゃんちゃんと仲直りしたいなら手伝いますから」
京子「……」
ちなつ「ね?」
京子「……だ、だめ、怖い」
ちなつ「もー……京子先輩、それじゃあどうしたらいいんです?」
京子「……」
ちなつ「元々は二人の問題ですし、私にできる事って他には……」
京子「……ちなつちゃんの能力で」
ちなつ「え?」
京子「……あかりが、私を憎めないように出来ないかな」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「は?能力?」
京子「あ……」
ちなつ「京子先輩?能力って……」
京子「そっか、まだスピーカーから能力の説明される前だった……」
ちなつ「?」
京子「え、えっとね、実は……」
ちなつ「……私が、他人の記憶を改ざんする特殊能力を」
京子「うん、私が死んだら1日目に戻る能力で」
京子「結衣が他人の能力を無効化にする能力、あかりが……死んだ人を蘇らせる能力」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「……普段なら、何言ってるんですかって突っ込む所ですが……」
京子「うん」
ちなつ「……確かに、そういう能力を発動出来そうな感触が感じられます」
京子「……あの時の放送では『既に与えられている』って言ってたからね」
京子「きっと、私達がこの密室に入った直後から使えるようにしてあるんだと思う」
ちなつ「はぁー……」
ちなつ「単に出口を探せば解決する問題だと思ってたのに……」
ちなつ「何か凄い展開になっちゃってますねえ」
京子「う、うん、そだね……」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「京子先輩」
京子「なに」
ちなつ「……私達が知らないはずの『能力』の事をご存じ立って言う事は、もしかして」
京子「……うん」
京子「私は、あかりに殺された」
京子「それで、1日目に戻ってきたの」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「……」
京子「……」
ちなつ「しんじ……られません」
京子「……」
ちなつ「だって、あのあかりちゃんですよ?」
京子「……」
ちなつ「それが、京子先輩を殺すなんて……」
京子「……そっか」
ちなつ「……すみません」
京子「ううん、ちなつちゃんは多分、信じないだろうなと思ってた」
ちなつ「……」
京子「だから、なるべく本当の事を隠して協力してもらおうと思ってたんだけどね、あはは……」
ちなつ「……」
京子「……は、はは……」
ちなつ「……違うんです、京子先輩、これには根拠があるんです」
京子「こん、きょ?」
ちなつ「あかりちゃんが、人を殺すほど憎しみを抱かないであろう、根拠です」
ちなつ「勿論、これは私の解釈でしか無いんですが……」
京子「……」
ちなつ「京子先輩、夏休みの事を覚えてますか?」
ちなつ「あかりちゃん、暫く風邪で外に出ませんでしたよね」
京子「う、うん」
ちなつ「実は、あれは、風邪じゃなかったんです」
「あれは、夏休みに入ったばかりの頃でした」
「あかりちゃんが、私の家に遊びに来たんです」
「その時、私は物置の掃除をしていて、あかりちゃんにも手伝って貰ったんですが」
「偶然、昔のアルバムを見つけたんです」
「私が子供の頃の、アルバム」
「懐かしくて、昔の話をあかりちゃんに聞かせてあげてたんですけど」
「……その時、つい、ある話をしてしまったんです」
「それは、私の祖母の話でした」
「祖母は、お茶の先生で、厳しい人で」
「小さい頃の私は、祖母が苦手でした」
「お姉ちゃんは祖母を尊敬してたみたいですけど」
「私にとっては、怖い人だったんです」
「普段は離れて暮らしていたんですけどね」
「お盆の時期や、お正月には皆で祖母の家へお泊りに行ったりしてたんです」
「私がずっとそれが嫌で、祖母の家へ泊まりに行った日は、なるべく外で遊ぶようにしてました」
「その日も、私は近くの公園に遊びに行こうとしたんですが」
「祖母に呼びとめられました」
「私は、また何か厳しい事を言われるのかと思いました」
「お茶の練習の時の失敗の事だろうか、廊下を走った事だろうか、昨日靴をちゃんと揃えなかった事だろうか」
「そんな嫌な想像ばかり出てきて、祖母の言葉を無視して外に出ようとしたんです」
「祖母は、再び私の事を呼びとめました」
「反射的に私は」
「お婆ちゃんうるさい!だいきらい!」
「そう言って駆け出しました」
「まあ、よくある話ですよ」
「当時の私はちょっと生意気だったなと、今の私は理解してます」
「あんな事、言わなきゃよかったのになぁ」
「……公園から帰った私は、そのまま祖母の事を無視しました」
「祖母の家に泊ってる間中、ずっと無視しました」
「祖母は、普段より少し寂しそうな顔をしていたと思います」
「そうして、お泊りは終わって、私は両親と一緒に家に帰りました」
「その3日後です、祖母が倒れたと知らせが来たのは」
「私が両親と一緒に病院へ行った時、祖母はもう何も喋れなくなっていました」
「そのまま、言葉を交わす事もなく、死んでしまったんです」
京子「……」
ちなつ「京子先輩、死ぬってどういう事か、判りますか」
京子「え?」
ちなつ「子供の頃の私は、理解してたつもりでした」
ちなつ「人間は死ぬ」
ちなつ「死ぬと動かなくなってお墓に埋められる」
ちなつ「ポクポクポク、チーン」
ちなつ「そう、軽い感じで理解してました」
ちなつ「漫画やアニメとかでも、死は有り触れた題材でしたから」
ちなつ「理解してた、つもりだったんです」
ちなつ「京子先輩も、多分そうですよね」
京子「……う、うん」
ちなつ「けど、少し違うんです」
ちなつ「いえ、違う訳ではありませんけど、足りません」
ちなつ「人が死ぬと、終わるんです」
ちなつ「その人と接する事が出来る可能性が、全て終わるんです」
ちなつ「例えば、例えばです、凄く憎い人が居て」
ちなつ「殺したいと思ったとしましょう」
ちなつ「そうして、殺してしまうと、そこで全ての可能性が終わってしまうのです」
ちなつ「もしかしたら、将来、その相手を踏みにじって今までの事を謝罪させる事が出来るかもしれません」
ちなつ「もしかしたら、将来、その相手と意気投合して今までの事を水に流せるかもしれません」
ちなつ「もしかしたら、将来、自分の過ちに気付いて相手に謝罪する事が出来るかもしれません」
ちなつ「良い可能性だけではないかもしれません、けど、悪い可能性ばかりではないんです」
ちなつ「けど」
ちなつ「けどね、京子先輩、死ねば全て、全てが終わるんです」
ちなつ「だから、私は、もう、祖母に謝る事が出来ない」
ちなつ「あんな事を言ってごめんねって、伝える事が出来ないんです」
ちなつ「もう、絶対にです、それは絶対に覆らない」
ちなつ「何をしても、覆らないんです」
ちなつ「何をしても、です」
ちなつ「それが、終わるって事なんです」
ちなつ「まあ、そんな話をあかりちゃんにしたんですけど」
ちなつ「あかりちゃん、凄く落ち込んじゃいました」
ちなつ「多分、あかりちゃんも私と同じで、死ぬ事について深く考えた事はなかったんだと思います」
ちなつ「ウンウン悩んで涙目になってるあかりちゃんを、そのまま家まで送ったんですけど」
ちなつ「結局、何日も家に籠って、悩んじゃってたみたいです」
ちなつ「まあ、周りには風邪を引いたっと言って誤魔化してたみたいですけど」
ちなつ「あかりちゃんが『死』についてどう折り合いをつけたかは、判りません」
ちなつ「或いは、折り合いなんて付けてないのかもしれません」
ちなつ「けど、けど、あかりちゃんがもし」
ちなつ「人を殺せるほどの憎しみを受け入れるような子なんだとしたら」
ちなつ「あの時、あんなに悩まないと思うんです」
ちなつ「だって、あの時あかりちゃんは」
ちなつ「私がどうすれば祖母に謝れるか、それをずっと考えていてくれたんですから」
京子「……」
ちなつ「ああ、今さらですけど、これだとあかりちゃんが犯人じゃない根拠にはならないですね」
ちなつ「単に、私があかりちゃんを疑いたくない理由ってだけの話かもしれません」
京子「……」
ちなつ「けど、けどこれだけは確かです」
ちなつ「もしあかりちゃんが人を、人を1人殺したとしたら」
ちなつ「あかりちゃんは、その事に耐えられません」
ちなつ「きっと、やり直しが効かない事に対して、深く深く、物凄く深く悩んでしまうと思います」
ちなつ「風邪を引いたと偽ってまで、自分の部屋に閉じこもってしまったあの時以上に」
ちなつ「それだけは、信じていいと思います」
京子「……」
京子「……」
京子「……」
京子(それは)
京子(確かにそうだと思う)
京子(あかりがもし、憎しみのままに誰かを殺してしまったとする)
京子(けど、多分、2人目を殺す事は出来ない)
京子(少なくとも、すぐには無理だと思う)
京子(けど、けど)
京子(あの時、あかりは……)
「京子ちゃん」
「死んでね」
京子「……判らない、判らないよ」
ちなつ「京子先輩……」
京子「あの時、あかりは確かに私を殺した」
京子「だって、そう言ったんだから」
京子「だから、だから、あかりが犯人のはずなのに、はずなのに……」ウルッ
ちなつ「……」
京子「それを信じたくない私が、確かに居るんだ……」グスン
京子「もう、もう何を信じたらいいのか……判らないよ……」ヒック
ちなつ「……もう、しょうがないですね」ハァ
京子「ちなつちゃん?」グスン
ちなつ「判りました、判りましたよ、私の力を使えばいいんでしょう」
京子「け、けど……」
ちなつ「別に、自分の意見を変えるつもりはありませんよ」
ちなつ「けど、けどこのままじゃ」
京子「……?」
ちなつ「京子先輩、泣きやみそうにありませんから……仕方なくです」
京子「ちなつちゃん……」グスッ
ちなつ「あ、勿論、憎しみを消すとかそんな感じは、無しです」
ちなつ「そんな、あかりちゃんの中に憎しみがある事前提なのは、嫌です」
ちなつ「けど、そうですね……」
ちなつ「一度だけ、嘘をつかずに返事するように、記憶を改変する……とか」
ちなつ「落とし所としては、そんな感じで良いんじゃないでしょうか」
ちなつ「それなら、京子先輩も疑念を晴らせますよね?」
京子「ちなつちゃぁぁぁぁんっ!」ギュゥ
ちなつ「ふわっ、こ、こら!抱きつかないでくださいっ!」
京子「ありがとう、ちなつちゃん、ありがとう……」
ちなつ「京子先輩、あかりちゃん呼んで来ましたよ」
あかり「京子ちゃん、あかりに何かお話があるの?」
京子「……結衣は?」
あかり「結衣ちゃんは、別の部屋を調べてるけど……京子ちゃん、泣いてたの?」
あかり「大丈夫?」
京子「……うん」
ちなつ「じゃ、あまり気は進みませんが、能力を使いますね」
あかり「え?」
京子「お願い、ちなつちゃん」
ちなつ「はいはい……」
ちなつ「……」
京子「……」
あかり「京子ちゃん?ちなつちゃん?」
京子「能力……発動したのかな?」
ちなつ「はい、そのはずです」
京子「そ、そっか……」
あかり「もう、2人とも、あかりを仲間はずれにしないでよぉ~!」プンプン
京子「ご、ごめんね、あかり……えっと」
あかり「ん?」
京子(私の質問に対して、一度だけ嘘をつけないんだよね)
京子(だとしたら、なんて質問すればいいのかな)
京子(私を殺したかどうか……とか)
京子(いや、駄目駄目、あかりはまだ私を殺した記憶を持ってないんだから……)
京子(ああ、もう、だったら……!)
京子「あかり、嘘をつかずに答えてね」
あかり「う、うん、京子ちゃんにはいっぱいお世話になったから、嘘なんてつかないよ?」
京子「ふー……」
あかり「……」
京子「あかりは、私の事を、好き?」
あかり「……」
ちなつ「……」
京子「……」
あかり「それは……」
あかり「勿論、大好きだよぉ」ニコッ
京子「……ほ、ほんとに?」
あかり「うん、ほんとだよぉ」
ちなつ「ね、京子先輩、言った通りでしょ」
京子「う、うん」
あかり「えへへ、京子ちゃんも、あかりのこと好き?」
京子「うん!勿論だいすき!」
あかり「そっかぁ、良かったよぉ~♪」
京子「そう、そうだね、良かった、本当に良かった……」
京子「う、うう、ふえええええ……」
あかり「え、きょ、京子ちゃん?」
京子「良かったよぉおぉおぉお……」グスン
あかり「あわわわ、あかり、何か変なこと言っちゃったかな、ごめんね」
京子「うわああああああああん」ヒック
あかり「ごめんね、京子ちゃんごめんね……」オロオロ
「ごめんね、あかり」
「ごめんね、ちなつちゃん」
「疑って、ごめんね」
「そうだよ、きっと犯人はごらく部には居ないんだ」
「ここに閉じ込めたスピーカーの声の主が、きっと犯人なんだ」
「もう止めよう」
「皆を疑うのは、もう止めよう」
~2日目~
何も起きなかった。
あかりは、ずっと私の傍に居てくれた。
結衣やちなつちゃんも、私を気遣ってくれた。
~3日目~
私は、ベットで目を覚ました。
そうだ、昨日は夜遅くまであかりとお話をしていたのだ。
子供の頃の出来事とか、色々。
誰かが、私の手を握ってくれている。
あかりだ。
きっと、私、あかりの手を握ったまま寝てしまったのだろう。
優しいあかりは、手を解く事が出来ず、そのまま眠ってしまったのだろう。
普段は夜の9時に寝てしまうような子なのに。
私に付き合って、頑張って起きていてくれた。
ありがとう、あかり。
私は、クスリと笑うと、あかりを揺すった。
あかりは、抵抗なくズルリと、ベットの下に落ちた。
どうしたんだろう。
どうしたのかな。
ああ、そんな事は考えなくても判る。
彼女は、彼女は。
赤座あかりは、死んでしまっているのだから。
だから、床に倒れている。
だから、起き上がることはない。
私は。
私は。
私は、扉を開けて、居間に駆け込んだ。
「結衣!ちなつちゃん!あかりが!あかりが!」
そこには、二つの死体があった。
船見結衣。
吉川ちなつ。
血まみれの床の上に。
2人の死体が、転がっていた。
ああ、なんて、なんて事だろう。
2人とも、2人とも死んでしまった、どうして?
どうして?
私は、唖然として、手に持っていた包丁を落としてしまった。
そのまま、真っ赤に濡れた手で、自分の頭を抱え。
考えた。
考えた考えた考えた考えた。
何故こんな事になっているのかを、考えた。
昨日までは結衣もちなつちゃんもあかりも生きていたのに!
私が眠る前までは!
「どうして!どうして!どうして!どうして!」
「どうして!どうして!どうして!どうして!」
「どうして!どうして!どうして!どうして!」
「どうして!どうして!どうして!どうして!」
「どうして!どうして!どうして!どうして!」
どうして、さんにんの、したいが、ころがっていたのかな
そんなこと
かんがえる までもない ことだよねぇ
だって
だって
背後から、扉の開く音がした。
ヒタリ、ヒタリと、誰かの足音が聞こえる。
誰かが、私に近づいてくる。
そして。
私が振り向く前に。
私は、意識を失った。
≪歳納京子の能力が発動した≫
そう、考えるまでもないことだった。
考えるまでもないことだったんだ。
私は。
ドンドンドン
「京子!どうしたんだよ!」
「ゆ、結衣先輩!京子先輩はどうしたんですか!?」
「というか、そもそもここは何処なんですか!?」
「ごめん、私にも判んないよ」
「京子はさっきまで眠ってたんだけど、起こしたらいきなり部屋に閉じこもって」
「京子ちゃん!どうしたの!?京子ちゃん!」
ドンドンドン
扉の向こうから、三人の声がする。
けど、扉は開けない。
開ける事は出来ない。
もし開けたら、きっと。
きっと、今までと同じ事が起きる。
そう、考えるまでもない。
あの時私は。
私は。
どうして、手が真っ赤だったんだろう。
どうして、包丁を握っていたのだろう。
ああ、本当に。
そんな事は。
考えるまでもないことだったんだ。
そうであれば、全て。
全て辻褄が合うのだ。
何の事はない。
皆を殺していたのは、この私だったのだ。
私は皆を殺そうとして、生き残った者に反撃されて、殺されてしまった。
そして、また最初に一日を繰り返している。
きっと、それが真相。
きっと、それが真実。
多分、私は頭がおかしくなってしまっているのだろう。
今は平気だけど、そのうちきっと。
誰かを殺してしまうのだろう。
だから。
「ごめんね、みんな、この扉は開けられないや」
「もう、ドアノブを壊しちゃってから」
「中からも、開けられない」
ドンドンドン
「京子、どうしてそんな事をするんだ、今の私達の状況と関係あるのか?」
「もしかして、誰かに脅されてるんですか、京子先輩!」
「京子ちゃん、開けてよう、何だか嫌だよこんなの……」
ドンドンドン
「大丈夫、3日間、3日間だけだから」
「そうすれば、きっと、全部終わるから」
「それまで、お願い、私を1人にしておいて」
「おねがい……」
「おねがい……」
「……」
「……」
「……」
私は、扉の前で蹲り、目を瞑る。
きっと、これで大丈夫。
これで、全部終わってくれる。
私さえ、動かなければ。
無事3日を乗り切れる。
大丈夫。
スピーカーから、音が聞こえてくる。
≪この密室からの脱出を考える必要はない≫
≪君達はただ待てばいい≫
≪何もせずただ待っていれば……3日後に、外への通路が開く≫
そう、今度こそ。
絶対に。
皆で3日目を、迎えて見せる。
「……ぱい」
「きょ……ぱい」
「京子先輩、起きてますか」
京子「……え、あ、うん、おきてる」
京子「起きてるよ、ちなつちゃん」
「そーですか」
「ご飯、ちゃんと食べてますか」
京子「……うん、大丈夫だよ、こっちにも冷蔵庫はあるし、食料も入ってる」
「そーですか」
京子「……ちなつちゃん、ごめんね」
「それは、何に対する謝罪ですか」
京子「……」
「……まあ、いいです、深くは聞きません」
「正直、判らない事だらけで、考えすぎると頭がパンクしそうですから」
京子「……うん、私も、パンクしそう」
「そーですか」
「ちなつちゃん、交代に来たよぉ」
「ありがと、あかりちゃん」
「ちなつちゃんは、もう寝る?」
「んー、もう少し起きてようかな」
「そっか、じゃあ、あかりと一緒に、京子ちゃんとお話しよっか」
「はいはい」
みんなは。
みんなは、こんな私を気遣ってくれた。
何も言わずに、部屋に閉じこもり私を気遣って。
こうして、声をかけてきてくれる。
そのお陰で、私は寂しい思いをしなくて済む。
そのお陰で、私はきっと、まだ正常でいられる。
ありがとうね。
「それでですね、京子先輩、私たち凄いんですよ、変な能力使えるようになったんです」
「うんうん、凄いよねぇ」
「私は、他の人の記憶を改ざんできるようになったんです!」
「あかりはね、あかりはね、死んだ人を蘇らせることができるようになったんだぁ」
「結衣先輩は、他の人の能力を無力化できる能力みたいです」
「京子先輩も、何か能力得ちゃったんですよね」
「んー、けど、あんまり興味ないなぁ、聞きたくないなぁ」
「どうしても聞いてほしいって言うなら、聞いてあげてもいいですよ、京子先輩?」
京子「……やめとくー」
「そーですかー」
「けど、あれですよね、どうして私達はこんな能力、得ちゃったんでしょう」
「あのスピーカーの人がくれたから、だよね?」
「いやいやいや、あかりちゃん、こんな変な能力なんだから、それなりに理由があるはずだよ!」
「んーー、くじ引きで、決まっちゃったとか?」
「その可能性もあるかも、京子先輩は、どう思います?」
京子(もう、2人とも、何とか会話に参加させようとしてくるなぁ)
京子(私が寂しくないよう、気を使ってくれてる……)
京子(ここまで、頑張ってくれてるんだから、応えてあげないと、申し訳ないよね)
京子「……うん、確かに、理由はありそうだよね」
京子「あかりは、優しいから死んだ人を蘇らせられるようになったのかも」
「えっ、じゃあ私の能力は何でですか、他人の記憶を改ざんなんて、したいと思ったこと無いですよ」
「少ししか」
「少しだけなら思ったことあるんだ、ちなつちゃん」
「もう、ちょっとだけよ、ちょっとだけ!」
京子「あははは、じゃあ結衣はどうして他人の能力を無力化なんて能力だったんだろう」
京子「やっぱり、あれかな、ツッコミが激しいからかな」
「んー、結衣先輩には似合わないなぁ、寧ろ、白馬に乗って空を飛ぶとかの能力の方が似合ってます!」
京子「えー、そんな能力似合わないよ、もし似合うとしたら」
京子「……」
京子「……」
京子「……」
「京子先輩?どうしたんですか?」
「京子ちゃん?」
京子「……」
京子「……」
京子「あかり、ちなつちゃん」
京子「いまから、わたしがいうことを、よくきいて」
京子「なにがあっても、ぜったいに、そのとおりに」
京子「してね」
ドンドンドン
ドンドンドン
結衣「ん……もう、なに……」ムクリ
結衣「あー、駄目だ、京子の事を考えてたら全然寝られなかった……」
ドンドンドン
ドンドンドン
ユイチャーーン
結衣「……はいはい、今開けるよ」
結衣「そろそろ、交代時間だったかな……」
結衣「ごめんね、交代の時間に遅れちゃったかな」
あかり「結衣ちゃん!た、大変なの!」
ちなつ「京子先輩!扉開けてください!京子先輩!」ドンドン
結衣「え?どうしたの?」
あかり「京子ちゃんが!京子ちゃんが!!」
あかり「このまま生きていても仕方ないって言い出して!そうしたら!」
あかり「と、扉の下から!赤い、赤い血が!流れてきて!」
結衣「……京子」
結衣「あかり、ちなつちゃん、ごめん、どいて!」
あかり「う、うん!」
ちなつ「こ、こんな、まさか本当にこんな事をするなんて……」
結衣「椅子で扉を壊すよ!」
ガシャンッ!
ガシャンッ
結衣「く、くそ、扉が硬い、椅子の方が先に壊れちゃう」
ちなつ「結衣先輩!まだ椅子は3つあります!」
結衣「ありがとう!ちなつちゃん!」
椅子が3つ壊れると同時に、扉を破る事が出来た。
三人は、扉抜け、個室に入る。
そこは、赤い血で染まっていた。
真っ赤に染まっていた。
その真ん中に。
歳納京子が、仰向けに倒れていた。
彼女の上半身は赤く染まり。
その手には、包丁が握られていた。
あかり「京子ちゃん……そ、そんな、嘘だよね……」
結衣「これは、自殺……?」
結衣「何で、どうして……」
ちなつ「京子先輩は、何かを怖がってました……」
ちなつ「だから、個室に閉じこもってたんだと思います……」
ちなつ「けど、けど、だからって、こんな……」
あかり「京子ちゃん!起きて!京子ちゃん!」
結衣「……あかり、駄目だよ、もう京子は助からない」
結衣「自分で喉を切ったんだ、この出血量ではとても……」
あかり「な、なら!あかりの能力で!能力で!」
あかり「京子ちゃん!生き返って!おねがい!」
あかり「京子ちゃん!」
京子「……」
結衣「……」ボソッ
ちなつ「……結衣先輩、今なんて?」
結衣「え?」
ちなつ「今、何ておっしゃいましたか」
結衣「私、何か言ったかな」
ちなつ「はい、言ってらっしゃいました、凄く小声で」
結衣「……私が、なんて言ったって?」
ちなつ「……『良かった』って」
結衣「……」
ちなつ「どうして、そんな事を言ったんですか」
結衣「……京子は自殺したけど、苦しまなかったようだからね、それで良かったって言ったんだよ」
ちなつ「苦しまなかった?こんなに血が沢山飛び散ってるのに?」
結衣「ごめん、私も京子が死んで混乱してるんだよ」
結衣「だから言葉選びを間違えたかもしれない」
ちなつ「ほんとうに、それだけですか?」
結衣「……」ハァ
ちなつ「結衣先輩?」
結衣「もう、どうでもいいよ、そんな事」
結衣「京子は、ちゃんと死ねたんだから、それで十分だ」
ちなつ「……」
あかり「どうして、どうして京子ちゃんは生き返らないの?どうして……」
ちなつ「あかりちゃん、落ち着いて」
あかり「ちなつちゃん、けど、けどあかりっ!京子ちゃんを助けようと!」
ちなつ「……うん、あかりちゃんは、頑張ってた」
ちなつ「だから、ね?」
ちなつ「最後に、もう一回、頑張ろう?」
ちなつ「頑張って、京子先輩が言ってた通り、やってみよう?」
あかり「……う、うん」グスン
結衣「あかり?ちなつちゃん?何を言って……」
ちなつ「私も、正直、半信半疑ですけど」
ちなつ「何もしないで、誰かを死なせちゃうのは、もう嫌ですから」
ちなつ「だから、京子先輩を、信じてみます」
あかり「……」
あかり「結衣ちゃん……」
結衣「な、なに?」
ちなつ「京子先輩……」
京子「……」
あかり「あかりは……」
ちなつ「私は……」
「貴女の能力を、無力化します」
「貴女の命を、蘇らせます」
≪赤座あかりの能力が発動した≫
≪吉川ちなつの能力が発動した≫
京子「う、うううん……あ、あれ、私は……」
ちなつ「きょ、京子先輩……」
あかり「京子、ちゃん?」
結衣「……え、な、なんで?」
京子「……そっか、私、蘇ったのか」
京子「だから、1日目に戻ることがなかった」
京子「だから、3日目に戻ることが出来た」
京子「ありがとね、私の言うとおり、やってくれたんだね」
ちなつ「ば、馬鹿ですか!京子先輩!さっきまで、さっきまで本当に!」
ちなつ「本当に死んでたんですよ!」
あかり「う、うえええええ……」
ちなつ「何で、何でこんな馬鹿なことを……!」
京子「ごめんね、あかり、ちなつちゃん」
結衣「……どういうことなの」
京子「どういうことって、ちなつちゃんが持ってる能力を使ってもらっただけだよ」
結衣「ちなつちゃんの記憶改ざん能力を?」
京子「違うよ、ちなつちゃんが持ってるのは」
「死んだ人を生き返らせる能力だ」
「最初に疑問を感じたのは、私達がどうしてこんな能力を得たのかって考えた時」
「この密室を作り上げたヤツが、ランダムで能力を与えたって可能性もあるけど」
「それにしては、私達の性質に合った能力な気がするんだよね」
「例えば、私はごらく部で過ごす時間が、ずっと続けばなって思ってた」
「だから、最初からやり直すことになる能力になったんじゃないかな」
「結衣は、ツッコミが激しいから、他人の能力を無力化させられる」
「だとしたら、あかりは?」
「あかりは、優しいから死んだ人を助けられるような能力になった」
「そう考えるのが自然……なんだけど」
「ごらく部には、もっとその能力が似合ってる子が居たんだよ」
「そう、ちなつちゃんだ」
「幼い頃、祖母を亡くして葛藤した経験のあるちなつちゃんの方が」
「その能力にあっていると思う」
「そう考えるとね、色々とズレてるんじゃないかなって思えてきたんだ」
「結衣は、幼い頃の出来事を話さないことがあるよね、恥ずかしがって」
「それってさ、もしかしたら」
「記憶の改竄を望んでいる……って事にならないかな」
「そうなると、あとは消去法で……あかりは無力化能力が当てはまるって事になる」
「これ、間違ってるかな、結衣」
「もし間違っていたら、教えて欲しいんだけど」
「……結衣なんだよね、この状況を生み出したのは」
結衣「……」
ちなつ「……」
あかり「……」
京子「結衣?」
結衣「は、ははは……」
ちなつ「ゆ、結衣先輩?」
あかり「結衣ちゃん?」
結衣「あはははは、凄い、凄いよ、京子はやっぱり凄い」
結衣「凄いよ!たったそれだけの情報から推理して真相が判っちゃったの!?」
京子「……違うよ、別に凄いことじゃないから」
結衣「いや!凄いよ!だって、京子は確信したんだよね!」
結衣「ちなつちゃんが本当は蘇生能力を持ってるって!」
結衣「私の記憶改竄能力で、前の能力のことなんてすっかり忘れさせてたのに!」
結衣「蘇生能力の事を判った上で、自殺してみせたんだよね!?」
結衣「そうすれば、私がボロを出すって確信して!」
京子「……だから、違うって、勘違いしてるよ」
結衣「何が?だって京子は……」
京子「だから」
京子「違うんだよ、結衣」
京子「これは推理なんて格好が良いものじゃない」
京子「私は別に、確信する必要はなかったの」
京子「ただ、疑問に思うだけでよかったの」
京子「疑問に感じて死ぬだけでよかったの」
京子「だって、私は何度だって」
京子「やり直して、確認出来るんだから」
京子「もし、ちなつちゃんが蘇生能力を持ってなかったら」
京子「私は死んで、1日目に戻るだけ」
京子「そして、次は、結衣が蘇生能力を持ってる可能性を試す」
京子「それが駄目なら、別の可能性を試す」
京子「それが駄目なら、もっと別の可能性を」
京子「気が済むまで死に続ける」
京子「そう、私にはそれが出来るの」
京子「だから、ここでちなつちゃんが本当に蘇生能力を持ってくれていたのは」
京子「ただ、運がよかっただけだよ」
結衣「運が、良かった……だけ……?」
結衣がポカンとした瞬間を、私は見逃さなかった。
手繰り寄せていたシーツを、結衣に投げつける。
シーツは広がり、結衣に覆いかぶさった。
その隙を突いて、私はちなつちゃんとあかりの手を引き、部屋から飛び出し。
別の「個室」に飛び込み、扉に鍵を掛けた。
私達を追いかけてくる足音はしない。
結衣は、まだあの部屋で呆然としているのだろうか。
それとも……。
京子「はぁ……はぁ……はぁ……」
ちなつ「京子先輩……」
あかり「京子ちゃん……」
京子「これで、これできっと、大丈夫」
京子「多分、結衣はこの部屋に入って来れない」
京子「大丈夫だから、きっと」
京子「……もし駄目でも、また次の機会があるから」
京子「私には、私にはそれが」
京子「ふ、ふふふ、それが出来るから」
京子「何度でもやり直せるから、だから……」
京子「もし、今回殺されたとしても……」
京子「また、また殺されたとしても!」
京子「次が!」
ちなつ「京子先輩!」
京子「あ……」
ちなつ「落ち着いて、ください」
京子「……ご、ごめん」
あかり「……」
ちなつ「私には、事情の半分もわかっていません」
ちなつ「ただ、京子先輩がさっき必死に伝えて来たことを、信じてみただけです」
ちなつ「いえ、信じるまでも行ってませんでした」
ちなつ「半信半疑のまま、ただ、周囲に流されただけで……」
ちなつ「けど……」
京子「……」
あかり「……」
ちなつ「本当に、結衣先輩が犯人なんですか?」
ちなつ「本当に、3日目の京子先輩を殺した犯人なんですか?」
ちなつ「だとしたら、どうして?」
ちなつ「どうしてそんなことを……」
京子「それは……」
ドンドン
京子「……!」
ちなつ「……!」
ドンドン
「ねえ、京子、開けてよ」
「とても大事な話があるんだ」
「ねえ、開けて」
「……」
「いや、開けてくれなくてもいいや」
「ただ、私の言うことに、耳を傾けて欲しいんだ」
「とても」
「とても」
「とても、大切なことだから」
京子「な、なに?」
「死んで欲しいんだ」
「早く死んで欲しいんだ」
「一刻も早く」
「それが私の伝えたい事」
「……ああ、もう、本当ならもっとちゃんと話したいんだよ」
「私だって、京子と別れるのに顔も合わせれないのなんて嫌なんだ」
「けど」
「けど、仕方ないじゃないか」
「居間に置いてある道具ではこの扉を壊せないんだから」
「さっき、京子の個室の扉を壊すのに、椅子を全部使っちゃったから」
「だから」
「だからね、さっきみたいに自殺して欲しいんだ」
「出来るだろう、京子なら」
「いや、京子じゃなくてもいいよ」
「あかりや、ちなつちゃんでもいい」
「早く、早く京子を殺して欲しい」
「いそいで?」
「その個室にだってカッターナイフとかあるはずだよね?」
「どうしても無理だって言うなら、扉を開けてくれるだけでいい」
「私がやってあげるから」
「そうすれば一件落着」
「何なら、記憶を改竄してあげてもいい」
「姿さえ現してくれれば、私の能力が効果を発揮できるからね」
「ねえ」
「京子」
「ちなつちゃん」
「あかり」
「とびらをあけて」
「はやく」
「はやく」
「はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく」
ちなつ「ゆ、結衣先輩、落ち着いてください!」
「ちなつちゃん、早く、早く京子を殺して」
「お願いだよ、何でも言うことを聞いてあげるからさ」
ちなつ「結衣先輩……」
京子「だ、大丈夫、扉さえ開けなければ、大丈夫だから」
ちなつ「は、はい……」
あかり「……京子ちゃん」
京子「あかりも、大丈夫だから、何の心配も……」
あかり「……あかり、判っちゃった」
京子「え?」
ちなつ「あかりちゃん?」
あかり「あかり、判っちゃった!」
ちなつ「な、何がわかったのあかりちゃん」
あかり「うん!」
「京子ちゃんが死なないと駄目だって判ったの!」
京子「……え?」
ちなつ「は……?」
あかり「あかり、どうして今まで気づかなかったんだろう」
あかり「急がないといけないのに」
あかり「どうしよう、どうしよう」
あかり「殺す方法がないよぉ」
あかり「あかり、ドジだからカッターナイフとか使っても京子ちゃんをうまく殺せるかわからないし」
「あけてあけて、はやくはやく」
あかり「あ、そうだ、そうだね結衣ちゃん、今開けるね」
ちなつ「あ、あかりちゃん!駄目!」
京子「あかりが、記憶を……改竄されてる?」
京子「けど、けど、結衣は姿を見ないと力を使えないって……」
あかり「待っててね、結衣ちゃん、今開けるから」
ちなつ「京子先輩!バスルームへ!」グイッ
京子「ふえ……」
バタンッ
ガタゴト
「あかり、ありがとう、京子とちなつちゃんは?」
「うん、ごめんね、この扉を開けてる隙に、バスルームに閉じこもっちゃった」
「そっか、仕方ないなあ、京子は」
「仕方ないねえ、京子ちゃんは」
「ねえ、京子ちゃん、あかりからもお願い」
「死んで欲しいの」
「今すぐ」
「はやく、はやく、はやく」
「バスルームの扉くらいなら何とか破れるけど」
「随分乱暴にしちゃうと思うからさ」
「京子だって、怪我するのはいやだろ?」
「だから、ほら」
「いそいで、いそいで、いそいで」
「はやくはやく」
「いそいでいそいで」
「すぐにしんで」
「ねえきょうこちゃん」
「ねえきょうこ」
「いそいでしんで」
「いますぐに」
「でないと」
~バスルーム~
京子「……」
ちなつ「……」
あかり「……」
京子「ちなつちゃん……」
ちなつ「は、はい」
京子「私って、死んだほうがいいのかな」
ちなつ「なに言ってるんですか」
京子「だって……だって……」
京子「こんなに二人から願われてるんだよ……」
京子「ずっと一緒だった結衣とあかりから……」
京子「こんなに、こんなに強く、死ぬことを願われていたなんて……」
ちなつ「……」
京子「わ、私は、私は、本当は」
京子「生きて居ちゃいけない人間なんじゃ……」
京子「だ、だったら」
ちなつ「……」
京子「だったら結衣達の言うとおり……」
ちなつ「……ああ、そうですか」
ガツンッ
京子「いっ……」
ちなつ「……」
京子「……ったい……けど、あれ」
京子「血は出てないし……」
ちなつ「……」
京子「ちなつ、ちゃん?」
ちなつ「そりゃあ、血なんて出ないでしょうよ、普通に殴っただけですから」
京子「な、なんで」
ちなつ「あ、貴女は、よくも」
京子「ちなつちゃ……」
ガツンッ
京子「痛っ」
ちなつ「貴女はよくも!私の前で!」
京子「ちなつ……ちゃん……」
ちなつ「結衣先輩も!あかりちゃんもです!」
ちなつ「どうしてそんなに簡単に!」
ちなつ「死んだほういいだなんて!」
ちなつ「言葉の意味が判ってます!?」
ちなつ「死んだら!全て!終わりなんです!」
ちなつ「そんなことは子供だって……!」
京子「ちなつちゃん……」
ちなつ「子供だって……判るはずのこと、なんですよ……」
ちなつ「そんなことが判らない子供は、よっぽどの馬鹿で」
ちなつ「本当に、取り返しなんてつかないのに……」
ちなつ「つかないのに……」
京子「……ごめん」
ドンドンドンッ
「きょうこ、ねえ、あけて」
ドンドンドン
「きょうこちゃん、はやく」
ドンドンドン
「あけないと、とびらをこわすよ」
ドンドンドン
「いたくしないから、ね?」
ドンドンドン
京子(そうだ、私は生きるんだ)
京子(生きて、3日目の最後を迎えるんだ)
京子(ちなつちゃんと一緒に)
京子(いや、結衣やあかりだって)
京子(この密室を抜けさえすれば)
京子(きっと)
京子(きっと……)
あれからどれくらい経過したのか。
私はちなつちゃんと一緒に、狭いバスルームに蹲り。
時を待つ。
3日目の最後の瞬間が訪れるのを。
外から何かが叩きつけられる音がする。
何かが壊れる音がする。
ガタガタガタ
バキバキバキ
バスルームの扉は既に隙間が開いていて。
その向こうが見えている。
そこには。
結衣とあかりの姿が。
二人は私達の姿を確認し。
ニコリと笑った。
そして隙間から手を入れて。
扉の鍵を。
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???k??????????????Z???????
≪下校のザザザザザザッになりました≫
≪生徒のザザザザザッは速やかにザザザザッ≫
≪ザザザザザッしますザザザザッの時刻になりザザザザッ≫
スピーカーからノイズと共に曲が流れる。
七森中学で下校の時間になると流れる曲。
いつもの「ごらく部」が終わる曲。
次の瞬間、全ての照明が消え、密室は闇に包まれた。
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期待