輝子「永遠の友情を」 (10)

6月6日ハッピーバースデーヒャッハー!
と言うわけで、星輝子お誕生日短編です。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1496682969

「輝子、頼む! ウェディングドレスを着てくれ!!」
「え、えぇぇぇぇぇぇぇっっっっ!?」


 ──事務所


 勢いよく事務所に飛び込んできて開口一番に言い放ったプロデューサーに、机の下でキノコを撫でていた輝子は驚愕を通り越してこの世の終わりのような表情で叫んだ。

「い、いったい……いったい何を言ってるんだぷろ……プロデュー……プロ……」
「言えてないぞ輝子よ……て、なんでそんなこの世の終わりみたいな顔してるんだ」

 壊れたテープレコーダーのような言葉を繰り返す輝子に、一息ついたプロデューサーは疑問符を浮かべる。輝子はまだ青ざめた顔のままガタガタと震えると、浮かせた両手を所在なげに彷徨わせながら言った。

「だ、だって、ウェディングドレスって言ったら……け……けっこ……けっこん……」
「……あ」

 輝子の言葉に、プロデューサーは何かに気付いたように声を漏らす。どうやら、彼女は勘違いをしているらしい。
 自分の言葉足らずを反省しながらも、プロデューサーは宥めるような声音で説明した。

「すまん、飛ばしすぎた。実は、結婚式場のパンフレットに掲載するモデルの写真を撮ることになったんだが、肝心のモデルが都合つかなくなってな。代役を探してるんだよ」

 そう言って、机の下の輝子にパンフレットの見本を見せる。そこには式場の写真が数点並べられており、恐らく仮のものであろうテキストが踊っていた。いくつか存在する空白が、そのモデルの写真が掲載される箇所だろう。
 説明を受けて、輝子の顔色が少しずつ戻ってきた。が、表情は驚愕から普通を通り過ぎて怪訝へと変遷している。

「そ、それは分かったけど……なんで、私なんだ? 私はボッチだし、う、ウェディングドレスなんか、全然、縁が無い……」

 そう言って枯れたキノコのように萎れていく輝子に、プロデューサーは苦笑しながら言った。

「今の年齢(トシ)で縁が無いなんて言ってどうする。まぁ、残念ながらと言うかなんと言うか、今回輝子に頼むのは、実は主に身長の都合なんだが……」

 もう一枚のコピー用紙には、今回採用予定だったモデルのプロフィールが書かれている。それを見て、輝子はようやく納得したような顔をした。

「あ。なるほど……」

 掲載されたモデルの体型は、ちょうど輝子に似ていた。身長も一センチしか違わず、ドレスをそのまま使用出来そうだ。
 もちろん似合うと思ったから話を持ってきたんだぞ、と付け加えてから、プロデューサーは話を続けた。

「特殊で急な案件だが、出来る限りストレスの無いようサポートする。頼まれてくれないか?」

 両手を合わせて拝むようにするプロデューサーに「そ、そこまでしなくても」と慌てたように言うと、輝子は少しだけ相好を崩した。

「わ、分かったよ……大親友の頼みだから、な」

*****

「フヒ……や、やっぱり、これはちょっと恥ずかしい……」

 純白のウェディングドレスに身を包んだ輝子は、撮影現場となるチャペルの入り口からおずおずと姿を現した。フリルこそついてはいるが全体的にシンプルなドレスで、頭には紫陽花をモチーフにしたコサージュがちょこんと載っている。
 ふわりとしたアレンジで整えられた美しい銀髪を揺らしながら歩いてくる輝子を見て、プロデューサーはうんうんと頷いた。チャペルの窓から差し込む光を浴びて煌めく彼女の姿は、まるで妖精のようだ。

「うん、やっぱり頼んで良かった。キレイだぞ、輝子」
「フヒィ!? や、やめてよ、プロデューサー……き、キレイだなんて、そ、そんなこと言われたら……胞子が飛び散る」
「散らすな散らすな」

 輝子の大仰な照れ隠しに苦笑しながら、プロデューサーは彼女を撮影位置まで促した。撮影場所は、チャペルの入り口、祭壇に向かう途中のヴァージンロード、そして祭壇上の三カ所。入り口の写真はすぐに撮れたが、彼女が恥ずかしがってその場からなかなか動こうとしないため、プロデューサーは彼女の手を引いてゆっくりと導いていく。

「さ、祭壇に着くまで、守ってくれ……プロデューサーがいないと、私は枯れてしまう……」

 そう言ってぎゅっと彼の手を握る輝子に、プロデューサーは少しだけ愉快そうに言った。

「まるで輝子の父親になった気分だな」
「うぅ……プロデューサーは親友でいてくれ……」
「そう言う意味じゃないぞ」

 彼女の真面目なようで少しズレた反応に今度こそ笑って言うプロデューサーだが、輝子は羞恥と緊張で頭がいっぱいなのか、ますますしっかりと彼の手を握るばかりだった。

 何とか緊張する彼女を宥めすかしながらヴァージンロードでの撮影も終え、後は祭壇での撮影を残すのみとなる。相変わらず表情の硬い輝子だが、ここでは笑顔の写真が求められる。
 時間を置きながら数度に渡って撮影されたが、なかなか満足のいく写真にはならない。輝子にとってはどうしてもチャペルという場、そして結婚式というイメージが『リア充』のイメージと結びついてしまい、気分が乗りきらないようだった。
 少しの間休憩時間がもたれ、その間にプロデューサーは思案した。どうしたらこの場で彼女の笑顔を引き出せるだろうか。彼女の中のリア充イメージを払拭出来るだろうか。

「うぅ……やっぱりダメだ……強力なリア充エナジーにやられて萎れてしまう……」
「どんなエナジーなんだそれは……」

 謎のエナジーを感じる輝子にため息をつきかけたプロデューサーだったが、そこでふと思考の転換を試みてみた。彼女はこれまで自分をボッチだと強力に思い込んできたからこそ、こういったリア充イメージに弱いのだ。ならば、一瞬でも彼女をリア充の状態にシフト出来れば。
 思い立つと同時に、プロデューサーは撮影スタッフに相談に向かった。提案したアイデアにOKをもらうと、所在なげに立ち尽くす輝子に「少しだけ待っててくれ」と言い置いて早速実行に移すために移動する。置いてけぼりになって泣きそうな顔をしている輝子に心の中で謝ると、プロデューサーは急いで目的の場所に向かった。

 その場に取り残された輝子は、恐る恐る周囲を見渡した。小さなチャペルだが、天井には豪華なステンドグラスがはめ込まれており、色とりどりの光が祝福を注ぐように伸びている。 新しく出来たばかりのようで、調度品はどれもピカピカしていてキレイだった。
 つくづく、自分には似つかわしくない場所だ、と輝子は思う。結ばれた二人が愛を誓い合う場所、ボッチの自分には一番縁遠い場所。そして、そこで執り行われる、究極のリア充イベント、結婚。自分がそのモデルでは、なんだか申し訳ない気すらしてくる。
 思わず感情にまかせてメタルモードになってしまいそうなのを、グッと堪える。そんなことをしたら、大親友のプロデューサーが困ってしまう。それだけはダメだ。それだけは。
 うつむいて呪文のように自分への抑制を唱える輝子の視界に、影が落ちた。

「何をブツブツ言ってるんだ、輝子」
「……あ、よかったプロデューサー……戻って…?」

 聞き慣れた言葉を聞いてほっとした輝子の目が、見開かれる。そこにいたのは、先ほどまでのスーツ姿ではなく、びしっとしたタキシードに衣替えしたプロデューサーだった。

「ど、どうしたの、その格好……」

 理解の追いつかない輝子に、プロデューサーは笑いながら言った。

「これからしばらくの間、俺はプロデューサーからモデルにクラスチェンジだ。どうだ、ちょっとはモデルっぽく見えるか?」

 左手に持った手袋を揺らしながら言うプロデューサーに、輝子はまだ理解出来ない様子で彼の顔と服の間に視線を行ったり来たりさせている。そんな彼女の右手を取ると、プロデューサーはなるべく優しい声音で言った。

「一人で撮られるより、二人で撮られた方がやりやすいだろ? ま、俺は一部を除いてフレーム外だがな」

 冗談めかしたように言うプロデューサー。そこまできて、輝子は初めてどういう状況になるかを理解した。

「フヒ……そ、それは……私とぷろ……プロデューサーが……」

 そこまで言って顔を真っ赤に染め上げる輝子の頭を、プロデューサーはセットが崩れない程度に軽く撫でる。

「誓うのは、別に愛に限らなくても良いんじゃないか」
「!!」

 愛という言葉に反応して総毛立つ輝子だったが、柔らかく微笑むプロデューサーの顔を見ると、ふにゃりと表情を和らげた。

「そうか……そうだな」

 もじもじと両手をもてあそびながら、輝子はゆっくりと言葉を練り上げる。そして、今最も望んでいることを、彼女は滑らかに口にした。
 キラキラと降り注ぐ光に祝福されながら、心からの自然な笑顔で。



「私と、誓ってくれるか、プロデューサー。永遠の、友情を……」





(了)
Happy Birthday, Syoko Hoshi! 2017/06/06

ありがとうございました。
モバマスの方のハピネスウェディング輝子、なかなかの破壊力でした。
皆さんもお迎えしてあげてくださいネ。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom