アリスメイクライ (14)
※モバマスSSです
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黒電話の音が事務所に鳴り響いた。
今時、こんなものを置いてあるなんてとんだレトロ趣味だ、と思いながら、シャワーを浴びてきたばかりで髪の毛も濡れたままの少女は仕方なく電話を取る。
ろくに洋服も来ておらず、ボタンも閉めずに前を開けたシャツに、可愛らしい苺がワンポイントになっている完全綿製の下着だけという格好で電話をするなんて、露出狂とでも間違われそうだが、ここには自分しかいないので仕方ない。
「仕事の依頼ですか。……悪いですね、うちの事務所はまだ開店前なんですよ」
ガチャりと電話を切って、まったく、と少女──橘ありすは嘆息する。
まだ事務所の名前すら決めてもいないのに、仕事も何もない。気の早いお客様もいたものだ。
「……それで、あなたもそのクチですか?」
ありすは自作のストロベリーパスタを食べながら、面倒くさそうに言った。
いつの間に入ってきていたのか、事務所の中には黄緑の目に痛いスーツを着た女性がいた。女性はニコニコと笑顔を浮かべてはいるが、けっして楽しんでいるというわけではない。
というよりも、笑顔の中にある心情が読めない。
煮ても焼いても喰えなさそうな人ですね、とありすは内心で評価した。
「シャワーを借りたいのなら勝手にしてください。お手洗いもありますよ」
「ふふ、貴女とのお風呂にはたいへん興味ありますが、そうではありません」
誰が一緒に入ると言った。手をわきわきさせるな、その指の動きはなんだ、中指と人差し指をうねうねと動かして、まるで何かの中に入れて掻き回すような動きだ。意味がわからない。
「私は千川ちひろ、とあるアイドル事務所でアシスタントをしている者です」
「自己紹介ありがとうございます、千川さん。わたしの名前は、言わなくても知っていそうですね。その様子では」
「ええ。貴女は橘ありすさん、ですよね。なんでも貴女は伝説のプロデューサーが担当していたアイドルだとか」
「……調べているだろうとは思いましたよ。どこでそれを聞きましたか」
「貴女のお姉さん、鷺沢文香さんから」
「─────そう、ですか」
厳密には、文香は姉ではない。自分が彼の下でアイドルをやっていた頃に慕っていた、姉のような女性。憧れていた存在だ。
しかし袂を別ち、しばらく連絡も取れていなかった彼女の名前をこのような場面で聞くことになるとは思わなかった。
いったい、なぜ──。
「招待状を渡したいそうです。ぜひ受け取ってもらえたらと思います」
千川は恭しく、口が青色に塗られた、刺繍のような模様の入った封筒を渡してくる。
中身は、手紙だ。……懐かしい、小さくて控えめな、それでいて丁寧な文字がビッシリと敷き詰められている。
実に文香らしい。文学を尊ぶ彼女らしい言い回しで文字が羅列されていて、かつ不必要な部分は一切ない。などという評価は姉のような存在である文香に対する、贔屓目のようなものがある。
実際のところ、この手紙に必要な部分はたった一行。
ミシロニグルに来てほしい、という一文。たったそれだけである。
「行きたいのは山々ですが生憎と開店準備で忙しいんですよね。まあ、イカしたドレスと最高級ストロベリーでも用意してくれるなら行ってもいいですけどね」
「ふふ、最高のおもてなしが貴女を待っているはずですよ。……それでは、来てくれることをお待ちしております」
千川が姿を消す──扉からでていったわけではなく、文字通りに、目の前から消えた。
どこの事務所かは知らないが、プロデューサーのアシスタントとなれば別段珍しくもない。プロデューサーとは、アイドルを従えるもの。ゆえに、なんでもできる化け物であることが多い。
伝説のプロデューサーと言われていた彼も、そうであったように。
「オヤマ……ありすちゃんのオヤマ……」
「あのね、大きさじゃないんだよ」
「そこに山があるから登るんだよ」
いつの間にか、大量の悪魔──もといアツミが事務所に入り込んできている。
とんだ置き土産だ。千川ちひろめ、とありすは悪態をつく。
「やれやれ、イカしたパーティーにはなりそうにありませんが、せめて派手に行きましょうか」
ストロベリーパスタを構えて、ありすは静かに笑った。
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───
「橘ー、そういやこないだのドラマ撮影ってどうなったんだよ?」
「……児童ポルノに引っ掛かるからお蔵入りしたそうです」
「いや、まあ1話中ずっと小学生の胸とパンツ晒してたら当然でしょ」
おわり
ダンテの好物ってそういやストロベリーサンデーだったよなと思い出して書いてみたけど
なんだよこれ
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