SSというものを書くようになって半年が経った。
私は次第にSSというものがどういうものか解らなくなっていった。
SSってなんだっけ、とSSを暇つぶしに書く方ならば一度は考えたことがないだろうか。
私は考えてしまった。
その時から私は初めて書いたSSからどんどん離れていってしまったのだ。
"妹「お兄ちゃんの指で噴火しちゃうよぉ//」"
これが私の初作品だった。
しかし今の私は悩みに悩み続けた結果。
"妹「ちょっとお兄ちゃんの肛門しばいてくる」"
こうなった。
私にとってSSとは星新一のソレではなく、2chで投稿される形態だった。
必要な文章は台詞と擬音語のみというシンプルな形態は、
アニメや漫画で育まれ活字離れした私には程よい楽しみとなった。
誰しも妄想をするように、私も仮想妹のおまんちょすをぐりぐりしたいなと思った。
恥ずかしげもなく2chにスレッドを立てた私は妄想を凝縮して会話文に内包したものだ。
妹「やんっ、お兄ちゃんくすぐったいよぉ//」
妹SSにはありがちかつ必須な兄にデレデレの妹を惜しまずに書いた。
妄想を垂れ流しながら頬は緩み股間は盛り上がり、一心不乱にキーボードを打ち込む様は変態そのものだっただろう。
しかし私の手は止まらない。
清純な仮想妹(けれどエッチに興味津々)を妄想とはいえたっぷりと愛し尽くすまで、私はその手を止めなかった。
スレに200ほど打ち込んだ後、私は変態だと褒め称えられた。
私の初SSは成功という形で締めくくられたと考えて差し支えないだろう。
――しかし。
次々に溢れる妄想を文字にしていき――
"姉「アンテナをそんなところに入れないでよっ」"
"幼馴染「お兄ちゃん、って言ってほしいの?」"
"幼女「かるぴす飲みたいぃ~」ジタバタジタバタ"
私のSSは徐々に賞賛を得られなくなっていった。
その原因なんてものは検証しようがない。
私は文豪化でもなければ評論家でもない、ただの変態なのだ。
しかし変態程度に考えてみるならば、やはり射精は一発目が濃いということだろう。
いつしか初心を忘れ、私は再び栄光を求めるようになった。
変態だ、同士だと祭りの如く盛り上がったあのスレのように。
沢山のツイートをされたあの時のように。
私は次第に悩み始めて、人目のつくタイトルを考えるようになった。
"ロボ「アー、イイ、イイワー、コレ、イイワー」"
最初はただ奇抜を求めるあまり失敗が明白だった。
アンドロイドならまだしも、第一印象が初期ドラゴンボールロボみたいなエロSSを誰が読みたいと思うのか。
"兎「月にレイプされました」"
人目を引く言葉ばかりに惑わされて風呂敷を広げすぎた結果だった。
月にレイプされた。なるほど、どんな話なのか気になりはする。
しかし私は作家ではないエンカウント率高めな変態である。
ただの変態は月のマスクを被った変態にレイプされる(なんだかんだで和姦)SSしか書けなかった。
私は気づいた。
これは迷走だ。
このままではいけない。
初心に帰ろう――妹こそ至高だったではないか!
そうして産まれたのがあれ。
"お兄ちゃんの肛門しばいてくる"だった。
私は必死でお兄ちゃんの肛門をしばいた。
嫌がり泣き叫ぶお兄ちゃんの肛門を鬼のように責め抜いた。
作中の妹はここぞとばかりにお兄ちゃんの菊門をファック。
私の号令に従って、あらゆる手でお兄ちゃんの処女を奪う様は想像以上にウケた。
一部のアナラー達に受け入れられ、アナラー予備軍ちょいM隊はケツを抑えて馬の如くいなないた。
それなのに私は苦痛で仕方なかった。
祭りのように盛り上がるスレ、このまま行けばそれなりのツイート数を稼ぐだろう。
しかしあの日のように私の股間はおっきしない。
ほうれん草のようにしなびた息子は覇気なくそっぽを向いている。
笑顔も零さない。
うへへうへへと言いながらディスプレイと睨めっこしないのだ。
理由は明白だった。
妹に肛門をしばかれるのならば、M思考ではないとは言え変態の私も楽しめただろう。
だが私は妹に肛門をしばかれているのではない。
妹でお兄ちゃんの肛門をしばいているのだ。
楽しくない!
私は純粋な変態だ、お兄ちゃんを虐めて喜ぶ趣味などない!
悲鳴が飛び交うスレッドと私の思考は乖離したように相容れない。
私が中心であるはずなのに、その場に私の居場所はなかったのだ。
私はようやく気づいた。
どうしてSSを書くのか。
どうして満足できなかったのか。
人に受け入れてほしかった、それもあるだろう。
変態は孤独な生き物だ、仲間を求める心理に背は向けられない。
誰かと馬鹿騒ぎしたかった、それもあるだろう。
変態とは嫌われ者だ、基本的に軽蔑されている。
しかしそれ以上に私は凄いオナニーがしたかった!
ただ純粋にオナニーがしたかったのだ!
SSとかオナニーじゃん、と揶揄されることは多い。
少なくとも私は否定できない、なにせ私のSSに商業価値はないのだから。
それなのに商業作家の真似ごとをした私が愚かだったのだ。
人目を引く? そんなことはどうでもいい。
ただ純粋にこの、熱い想いを。
熱い想いを射精したい!
私は物凄く熱い射精がしたかったのだ!
私は初心にようやく帰ることができて、清らかな想いで目を瞑った。
瞼に映ったのはやはり仮想妹だった。
どれだけ他の属性を備えようとも妹こそ至高、妹萌えぇな糞豚だった。
晩御飯を食べたらスレを建てよう。
そうだな、タイトルは無難に"妹「お兄ちゃんだからいいんだよ?」"なんてどうだろう。
妄想が湧いてくる、涎も溢れてくる、そうだ、これだ!
私はここ数日はなかった笑顔を取り戻し、リビングに入った。
リビングでは母さんが食事の支度をしていて、気分が良かったので手伝うことにした。
「母さん、手伝うよ」
「手伝わなくていいから働け」
「はいごめんなさい」
グーグル先生に"妹 求人"と聞いてみるものの、先生は妹系メイドカフェに行けとしか教えてくれないのだった。
おわり
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