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・地の文多め?
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自分でも気が違ってしまったのかと思う。
なんでもない、ベッドに潜って眠りの入り口で考えていたことが頭から離れない。
初めは、季節の変わり目に当てられて去年のことを思い出していただけだった。
その節々で、気付かずにいようとしていたある事に気付いてしまう。
より正確に言えば、気付いているのに気付かないふりをしていた事。
だが、この一年を辿っていると嫌でも分かってしまう。
??俺は愛されている。
愛されたくても、裏切られることは辛いから。 裏切ることが怖いから。
だから信じないようにしていた。 全ては欺瞞であり、それを分かっている俺だけが犠牲になればいいと。
真実が残酷であるならば嘘は優しい。 よって優しさは嘘である。
いつかの俺が導き出したその答えは、前提から間違っていたのかもしれない。
俺の周りにある真実は、残酷なほどに、優しかったんだ。
前提が間違っているのなら、もちろん解も間違っている。
優しさは、嘘ではない。
今までの俺が聞いたら反吐を吐き散らかすだろう。
ただ、今は本心でそう思っている。
欺瞞は嫌いだった。 だからこそ、嘘である優しさは持たないようにしていた。
全ては残酷な真実によって裁かれ、犠牲になるのは俺だけ。
全くもって痛々しい話だ。 ダークヒーローにでもなったつもりか。
能書きが長くなった。
しかしつくづく気の狂った話である。
一晩の思索からたどり着いた俺の新しい解。
比企谷八幡は、これから、優しくなります。
一旦ここまでにさせてもらいます。
普通に人に優しい八幡を書いていこうと思っていた。
トリップが変わっているのはミスであるらしい。
少し暖かくなった風に揺られて、桜が花びらを散らせている。
なぜかとても清々しい気分だ。 良く晴れている空の青も、気持ちがいい。
今日から新しい学年が始まる。そういう時には色々なイベントが付き物で、その一つがクラス発表だ。
俺は文系だから、クラスはAからCのどこかだな。
「A組か」
自分の名前の記された一覧にざっと目を通してみる。 知り合いなんて数えるほどしかいないが、クラスメイトも確認してくべきだろう。
まず初めに目についたのは、由比ヶ浜結衣。 なるほど、あいつとはこの一年も同じクラスか。
そして海老名姫菜、川崎沙希、相模南、戸塚彩加、三浦優美子と見知った名前が並ぶ。
その中には、葉山隼人の名前もあった。 結局文系にしたのか、あいつの判断だから俺がとやかく言うことではないが。
あらかたクラスメイトの名前を確認したところで、後ろから声がかかる。
「ヒッキー! 今年も同じクラスだよ、やったね! また一年よろしく!」
「ああ、良かったな。 よろしく頼む」
「え?」
「いや、だから今年も一年よろしくなと」
「や、それはわかってるんだけど……」
「どうした?」
「いや、なんとなく、素直すぎるなと」
「ああ、まあ色々あったんだ」
「色々? ……まあいいや、教室いこ!」
比企谷八幡優しさ道序章、とてもいい感じです。
年度初め、新しい教室に入るとどうも違和感がある。
そこにいる顔ぶれも違えば、教室の風景も違うのだから当たり前と言えば当たり前なのだが。
「比企谷君」
教室を見まわしていると横から肩を叩かれる。 葉山隼人だ。
「今年も同じクラスか、よろしく頼む」
「ああ。 ……結局、文系にしたんだな」
「言ってなかったか? ……結局俺は、まだしばらくみんなの望む葉山隼人でいようと思ったんだ」
「そうか。 まあ、いいんじゃねえの?」
「は?」
「俺はお前の中でどんな葛藤があったのかすべてを知ることはできない。
考えた結果ここにたどり着いたなら、俺が口を出す理由も権利もないだろ」
「ま、まあそうなんだけど……」
「お前の生き方や選択に文句をつけるつもりはねえ。 まあなんだその、頑張れよ」
「ちょっと待て」
驚いたように、葉山が制止する。
「君、本当に比企谷か?」
「そうだよ、みてわかんないのか?」
「オーケー、わかった。 比企谷、袖をまくって腕を見せろ」
「何言ってんだ」
「……注射の後でも、あるんじゃないかと思って」
バッカおまえ、俺は優しくなると決めただけで危ない薬なんか使ってない。
「ねえよ、ほら、呼ばれてんぞ。 行ってやれ」
「あ、ああ。 比企谷君、何か辛いことがあったらいつでも言えよ?」
納得しない様子で、葉山は去っていく。 驚くのも無理はないか。
でも、俺は優しくなると決めたんだ。 なんと言われようとその意思を曲げるつもりはない。
* * *
「まずは自己紹介から始める、今年一年このクラスの担任を務める平塚静だ」
始業式を終え、教室では今年初めのホームルームが行われている。
一人一人の自己紹介が始まって思ったが、割と見知った顔ばっかだな。 もしかして俺って知り合いが多いのか?
「由比ヶ浜結衣です、部活は奉仕部ってとこに入ってます! 猫か犬なら犬派です!」
由比ヶ浜らしい馬鹿っぽい自己紹介を聞いている最中、左隣からカチャリと何かが落ちる音がした。
ふと足元を見るとピンク色のペンが俺の方まで転がってきていたので、拾って持ち主に差し出してやる。
「あっ……。 チッ」
相模南。 優しくない頃の俺と色々あった彼女は、軽く舌打ちをすると礼も言わずに差し出されたペンをぶんだくる。
相変わらず鼻につく態度だが、許そう。 何よりこの態度を取られるだけの非が俺にはある。
相模を傷つけない優しい手段を持たないばかりに、俺はあえて彼女を傷つけた。
ならばむしろ許される側なのは俺かもしれない。
許してくれだなんて乞うつもりはないが、だからと言って彼女に押し付けた俺の正義を正当化するつもりもない。
なら、俺のすべきことは。
* * *
新学期の初日は、始業式とホームルームが終われば正午前で下校となる。
平塚先生の号令でクラスメイトが続々と教室を後にする中、俺はある人物の姿を探していた。
「ヒッキー、今日部活行く?」
「すまん、今日はやりたいことがあるから行けない。 雪ノ下にも伝えておいてくれ」
「そっか、わかった」
「悪いな」
由比ヶ浜に一言詫びて、教室を出ようとする生徒に声をかけた。
「相模、ちょっといいか?」
「……は? 何?」
「今から帰るところだろ? 悪いが少し時間をくれないか」
「なんで? なんかアタシに言うことでもあるわけ?」
「謝りたいんだ、いろんなこと」
「なっ」
相模の顔から嫌悪が消えて、一転驚きの表情を浮かべる。
敵だと思っているようなやつから握手を求められたのだから驚くのももっともだ。
「そういうことだから、歩きながらでいい。 付き合ってくれ」
「……ま、まあいいけど」
取りつく島もなければどうしようと思っていたが、なんとかなりそうだ。
教室棟の廊下にはホームルームを終えた生徒たちの声が飛び交っている。
喧噪のなかで、相模と二人で歩いていた俺は会話の切り口をいまだに見つけられずにいた。
当たり障りのない会話は必要ない、意を決して口を開く。
「謝りたいって、さっき言っただろ」
「……う、うん」
「言わなくてもなんのことかわかると思うが……。
「去年の文化祭の時、色々あっただろ。 信じてくれとは言わないが、悪意があったわけじゃないんだ。
ただ、俺は目的のためにわざとお前を傷つけた。 ……悪い」
チラリと相模を見ると、相模は俯いて黙りこくっている。
何かを考えているのかと思っていると、こちらに向きなおして言う。
「悪意が無かったとか、目的のために傷つけたとか、そんなこと言われても信じる気にもなれないし。
もしそうだったとして、なんで今更改まってアタシに謝んの? 意味わかんない」
その口調が予想外に落ち着いていて、少し驚いてしまった。
もっと激昂されるもんだと思っていたが、今までにコイツのなかで何か思うところがあったのかもしれない。
「だから、信じてもらえるとは思ってない。 ただ、言っておかないと気が済まなくてな」
「何を?」
「謝罪の気持ちを、だよ」
「……ップ」
俺の言葉を聞いた相模は、堪えきれなかったかのように吹き出し固い表情を崩す。
「あは、あははは、何それ」
「真面目に言ってるんだぞ」
「分かってるよ、だからこそ……プププ」
「あはははは! 『謝罪の気持ちを、だよ』って、ふっ、あははは」
俺としちゃ勇気を振り絞って言ったセリフなんだが、相模は俺のモノマネをしながらその言葉を言い直す。
もしかして、俺の黒歴史ノートに新しい1ページが刻まれちゃった?
「笑いすぎだろ。 お前はどう思ってるんだ。 俺の謝罪を受けてくれるのか?」
「許すとか、許さないとか、今はそんなんじゃないって、あはははは!
なんかもう……アタシが馬鹿みたいじゃん、これでも色々考えてたのに」
「……さいですか」
「ふー、ほっぺ痛い。 で、比企谷の言いたかったことってそれだけなわけ?」
「そうだが」
「『謝罪の気持ちを、だよ』ってことね、ぷくく」
「……ああ」
「じゃあ、アタシ友達待たせてるから。 また明日、フフッ」
そういうと相模は肩を震わせながら去っていく。
後悔はない。 ただ、謝罪してここまで笑われるとは思ってもいなかったよ。
それにしても……『また明日』か。
どれだけ笑われても、俺の勇気は間違ってなかったということにしておこう。
今日はここまでにする
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