私は、あんまりワガママを言わない子供だったそうです。

実家は秋田の素朴な田舎だったので遊びに行く所は少なかったけど、沢山の友達がいて、お母さんもお父さんも優しくて、子供のときから何不自由ない生活をしていました。

今思えば、私は恵まれていたんだと思います。

高校卒業が近づいてきた頃には、進路の話になりました。

でも、近くに大学はほとんどなくて、周りのみんなは就職か、関東圏に進学するかのどちらかがほとんどでした。

私は高校生のときはアルバイトもさせてもらえなくて、文化祭で喫茶店をするときも「愛梨ちゃんは座ってるだけでいいから」って言われるくらいにドジなことは私もみんなもわかっていたから、それがみんなが笑顔になる一番の方法だと思ってました。

たしかに、自分のことを天然なうっかり屋さんだと思いますけど、やっぱり人から『天然』って言われることは、なんだか納得がいきません。

ちょっとだけ、もやもやしちゃいます。

でも、アイドルになってみて、わかってきたことがあるんです。

色んな子と話すようになって、みんなそれぞれ違う感じ方や考え方をしてるってことが、だんだん見えてきました。

例えば輝子ちゃんや乃々ちゃん。

お喋りするのはあんまり得意じゃないみたいだけど、ちゃんとお話すると、好きなこととか、こだわりや考えがあるんです。

でも、いつの間にか、考えを知ってもらうのが上手くいかなくなっちゃって、今があって。

なんでだろうって考えたときに、自分でも似たようなことがあったなって思ったんです。

それは、一言で言うなら『思い込み』です。

きっと誰もが、他の子のことを、例えば『この子は話すのが苦手』とか、『この子は天然』とかって、思い込んでしまうんです。

そう言われ続けると、自分自身も『自分はそうなんじゃないか』って、思い込んじゃうんだと思います。

それは、周りの人も、自分自身も、別に悪気があってそうしてるんじゃなくて、きっと、勝手にそうなっちゃうんです。

だから私は、目線を合わせて、大丈夫だよって言ってあげたいんです。

周りと違っていたって、ダメじゃないよって。

良いところは一人一人にあるけど、自分のことって、自分じゃ見えないこともあって、私もそうだったよって。

伝えたいんです。

私がプロデューサーさんにしてもらったみたいに。

私はアイドルになって、世界が、みんなが、自分自身が、全然違って見えるようになりました。

そして私は、知ってしまったんです。

私は周りからは『可愛い』と思われていたって。

『可愛い』から上手くいっていたことがあったって。

だけど、アイドルになってからは、それだけじゃ欲しいものが全部手に入るわけじゃないってわかりました。

トップアイドルの座も。

全然振り向いてくれないあの人も。

私には夢があるんです。

トップアイドルになって、お嫁さんになって、家庭を持ちたいんです。

そうしたら、子供におとぎ話を聞かせたいんです。

なんにも知らなかった子が、プリンセスになって、一番、誰よりも輝く物語を。

私の物語には魔法使いで王子様な人がいます。

今は王子様じゃないかもしれないですけど、きっとそうなるって信じています。

だって、プリンセスには王子様が、お嫁さんには旦那様が必要ですよね？

プロデューサーさんは、レッスンは応援してくれるし、お仕事は一緒に頑張ってくれるし、抜けてる私をいつもサポートしてくれます。

そんなプロデューサーさんに、『トップアイドルの私』ってプレゼントを渡すために頑張ってきました。

だから、シンデレラガールに選ばれたときは、嬉しくて胸がいっぱいになりました。

それから何日かは、しばらく胸のドキドキが続いてて、何かヘンだなって思ってたんです。

そしてある日、プロデューサーさんが他の子と楽しそうにお話してるときに、胸がきゅーって苦しくなって。

ああ、きっと、これが恋なんだなぁって、わかりました。

私はあまりいい子じゃなくて、ワガママで欲張りな子なんだなぁって、わかりました。

今までは、沢山の人に沢山のものを貰ってたんだって。

だから、欲しいものは、全部欲しくなっちゃうんです。

でも、アイドル活動をしてみて、与えてもらっているだけじゃ、ダメなんだって思いました。

アイドルはならせてもらうんじゃなくて、自分でなるものだって、気づいたんです。

魔法使いに素敵な魔法をかけてもらっても、お城の階段を昇るのは、自分自身なんです。

きっと恋も同じで、自分の足で一歩踏み出さないと、いけないですね。

『恋をさせてもらう』で終わるなんて、イヤです。

『恋をする』んですっ！

今まではみんなが支えてくれたから、なんとか上手くいってたけど。

恋をするにはどうしたらいいか、まだよくわからないけど。

私はこう見えて、頑固で、負けず嫌いなんですっ！

だから、歌もダンスもグラビアもたくさん楽しんで、トップアイドルになって、私とプロデューサーさんの夢を叶えて、幸せな家庭を持って、とにかく、全部したいんですっ！

アイドル十時愛梨は、これからも、もっと欲張りになっちゃいますっ！





おわり