お酒は大人になってから♪【ミリマス】 (24)

ぴう、とひとつ風が吹きました

昼間は少し暑かったのに夜になれば少し肌寒い、そんな微妙な季節

わたしは袖を精一杯伸ばし、はみ出た手をきゅっと握ります


風は冷たくても、わたしの心はとても高まっています

何の変哲もない普通のマンション、そのエントランスでわたしは少し緊張しながら教えられた番号を押します

一寸

「まつりさん、のお家で大丈夫ですか~?」

『はい、今開けるのです~』

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今まで、場所さえ教えてもらえなかったまつりさんの家、そこにわたしは足を踏み入れるのです

きっかけはつい先日、突然でした


『う~ん、最近朋花ちゃんと中々会えなくてさみしいのです』

『二人ともお仕事がありますからね~ 仕方無いですねぇ』

『朋花ちゃんは学校もあるし…… そうだ! 今度姫のお城でお家デートしましょう?』

『えっ!?』

『ダメなのです?』

『いえ……』

『それじゃあ今度の金曜日、お仕事終わりにお泊まりなのです』

「お邪魔します」

「いらっしゃいませ、なのです!」

果たして、ドアを開けると部屋の奥には自己主張の強い緑のジャージを着た、愛しい彼女の姿がありました

電話でのやりとりばかりで、直接会うのは久しぶりで、少しだけ気恥ずかしいような、でもやっばり嬉しくて……

「朋花ちゃん、会いたかったのですっ!」

まつりさんの元に着くなり彼女はいきなりわたしの体を引き寄せて、ぎゅっと抱き締めてくれました

「あらあら~ そんなに聖母さまと会えなかったのが寂しかったのですか~?」

らしくない態度に、口ではこう返しますが、わたしは内心とてもどきどきして、暖かい気持ちになっていました

まつりさんがここに居る、わたしのことを強く抱き締めて、離してくれない、それがどれだけ幸福なことでしょうか

暫く

そうして抱き合っていた後、少し顔を離し、互いに見合せて、にっこりと笑うまつりさんに安心して、瞼をゆっくりと閉じて……


「あっ、そう言えば朋花ちゃんは夕御飯はもう食べたのです?」

「えっ? あ、いえ…… まだですけど……」

「それならまつりが作るのです」

「は、はい……」

期待してたものは与えられず、少し寂しくなりましたが、もしかしてまつりさんにはそういう気持ちではなかったのかもしれません

そう思うと少し恥ずかしくなってきましたね……

「わたしも手伝いましょうか?」

「ううん、もうほとんど完成しているから大丈夫、なのです」

「それならお皿を」

「ふふ、朋花ちゃんは場所を知らないでしょ?」

「あっ……」

「朋花ちゃんはお客さまだから座って、姫のおもてなしを受けるのです」

「はぁい……」

「「いただきます」」


食卓に並べられたまつりさん手料理、よく考えたらまつりさんの料理を食べるのも初めてのことです

ですが、テーブルの上に明らかに場違いなものがひとつ

「お酒、飲まれるんですか~?」

「ほ? 姫はもうはたちだから問題無いのです」

「永遠の18歳では無かったのですか?」

「ふふっ、まつりはもうあだるてぃ なのです」

お酒は人間を堕落させます

それはずっと教えられてきたことで、事実同じ事務所の大人の風花さんやこのみさん

二人とも普段は分別のつく方たちなのですが、ひとたびお酒を飲んでしまうと見るに耐えない姿に成り下がってしまいます

まつりさんは成人した後もお酒を飲んでいる姿を見たことが無かったので、飲まないものだと思っていたのですが……

…… 少し、がっかりですね

まつりさんもお酒を飲んで自制を無くし、溺れるような人間だったのでしょうか……

お食事が終わる頃にはすっかりまつりさんの頬は紅く染まり、誰が見てもお酒を飲んだとわかる姿になっていました

「お料理、とっても美味しかったですよ」

「ありがとう…… なのです」

「ふふ、ずいぶん酔ってるみたいですね~」

「えへへ…… そう見える……?」

想像に違わず、お酒を飲んだまつりさんは普段の、可笑しな言葉と態度の中にしっかりとした芯を持った姿から、ふにゃふにゃと軸を持たない堕落した姿に成り下がってしまいました

「ふわふわで、ぽわぽわなのです~」

まつりさんの口からはアルコール特有のにおいが感じられて、こちらまで気分が悪くなりそうです

はぁ…… せっかく久しぶりの二人きりなのに……

「お皿、片付けてきますね」

「ありがとう…… それなら姫はお風呂の準備を…… あう」

「もう、座ってていてください」

「はぃ……」

足取りもふらふらなまつりさんを座らせて、食器を流しへと運びます

それにしても…… まつりさんはあそこまでアルコールに弱いのでしょうか?

わたし自身飲んだことがないのでわかりませんが、風花さんやこのみさんを見る限り、一杯飲んだくらいならまだ自分を保てるものだと思っていたのですが……

食器を一通り洗い、まつりさんの元へ戻ると……

「すぅ……」

ソファに寄りかかり可愛い寝息をたてていました

瞼を閉じ、膝を三角に折って、首を時折かくんと揺らしながら眠っています

いつも隙らしい隙を見せないまつりさん、こんな姿を見るのは初めてかもしれません

彼女と出会った時から、年不相応な可愛らしい顔をしている と思っていましたが、寝顔はより一層無垢なもので20歳の『大人』とはとても思えません

優しい顔を見つめながら、巻きがゆるくなったふわふわの髪を撫でます

さらさらと手のひらが流れていき、少し紅くなった頬に触れ……

「んっ……」

ごめんなさい、眠っている時にするなんてよくないですよね、でも貴女の可愛らしいお顔を見ていたらつい……

そんな心のこもらない謝罪をしたところで、未だまつりさんは起きないまま

流石にこのまま完全に眠ってしまうのはお体に障るでしょうから、肩を揺すり起こします

「まつりさん」

「ん……」

「こんなところで眠っていたら風邪をひいてしまいますよ」

「わたし……眠ってた?」

「シャワーくらい浴びて、歯を磨いて……」

「ううん」

手を捕まれました

「ねぇ…… 少し寒いの……」

目の前には少し潤んだ、零れんばかりの瞳

わたしが見下ろすなんて普段ならありえないシチュエーション、座っているまつりさんの上目遣いは強烈で

目をそらせない、瞳に吸い込まれる、まつりさんに墜ちていく、そんな感覚

「さ、寒いなら早くベッドに」

「ぎゅー、って…… して欲しいな」

その『おねだり』はあまりにも強い力を持っていて、わたしはこんなことをしている場合ではない そう頭で理解していながらまつりさんを強く抱き締めていました

寒い、なんて言葉は嘘だったのか、まつりさんの体温は高く 抱き締めているとわたしの体まで熱くなっていきます

いいえ、熱くなっているのは彼女の体温が伝わったのではなく、わたしの体が火照っているから

まつりさんの紅潮したお顔を見てから、わたしの中である気持ちがふつふつと沸き出しているのです

……したい、貴女と

『はじめて』を貴女に捧げ、この体温を余すことなく分け与えて、まぐわりひとつになりたい……

気付くとふたつの唇は重なっていました、彼女の口から漏れる 嫌いだったお酒のにおいも気になりません

まつりさんの体を強く抱き締め、彼女の唇をわたしの舌で開こうとした、その時

「んっ…… やぁっ……」

ふたつの唇は離れ、二人の間に隙間が生まれます

彼女が示した色は、拒絶

「そんな…… むりやり…… やめて……」

熱い吐息を漏らしながら、まつりさんは懇願します

わたしは、何をしているのでしょうか

ふたりの大切な繊細な関係、わたしはそれを一時の情動と無遠慮で壊そうとしているのです

お酒を飲んで理性を無くすことを非難しておきながら、自分はこんなにも簡単におさえが効かなくなるのでしょうか

欲に飲み込まれてはいけません、目の前に居る愛しい彼女を色欲のまま犯すなどあってはいけません

そう思い直して、俯き弱々しい息を吐く彼女を見つめていると……

わたしの中の『なにか』が燃え上がり、止められなくなってしまうのです

「へっ、んっ…… !?」

顎を持ち上げてひとりよがりの強引なキス、今度は舌を入れることに遠慮も躊躇もありませんでした

「んっ…… ふぅ……」

初めて感じる他人の口内、そこはとても熱く 舌が熔けてしまうかと思われるほど

口内を犯すわたしの舌に、何か絡み付くものがありました まつりさんの舌です

ふたつのものは重なり絡み合い、ねっとりとしがみついて離しません

「ちゅっ…… んちゅっ……」

「んんっ……」

重なった唇から時折漏れる水音は、これ以上なくいやらしく卑猥なもので、わたしの中の『なにか』を更にエスカレートさせていきます

「ッ…… はぁ……」

暫く

苦しくなって唇を離す つつと糸が紡がれすぐに千切れます

彼女は潤んだ瞳に熱い吐息を乗せ、これ以上なくわたしを誘うフェロモンを醸し出していました

わたしはそれに乗せられるまま再び顔を近付け……

「ねぇ……」

「はじめて…… なの……」

「やさしく…… して……」

いつも見てきたのは、強い彼女

しっかりとした『自分』を持って流されない強さを持った彼女

しかし今目の前に居るまつりさんは無抵抗の子豚ちゃん

どう調理するもわたしの自由、そんな彼女の精一杯の懇願を……

「わかりました~♪」

わたしは聖母さまの笑顔で受け入れます


さぁ楽しみましょう? まつりさん、夜はまだまだ長いですよ?

目を覚ますとベッドの上、一糸纏わぬ姿でわたしは起き上がりました

今までのことは全て夢…… などというわけは無く

わたしの頭は急速に冷静に昨日の夜の記憶を取り戻します…… 嫌がる恋人に無理やり迫ったことを……

隣に彼女は居ませんでした、自然に連想されるのは『最悪の事態』

わたしはなんてことをしてしまったんだろう、そう後悔が溢れだしていった時

「あ、朋花ちゃん起きたのです?」

彼方から聞こえるまつりさんの声

「あ、あの…… ごめんなさいっ!」

恥も外聞もなく、彼女に赦しを乞います

「ふふふ……」

帰ってきた反応は…… 愉悦

まつりさんは笑っていました

「えっ……」

「昨日の朋花ちゃん、とっても激しかったのです」

「まさか…… 昨日のあれは全部……」

「さぁ?」

「まつり、お酒に酔っちゃって何も覚えていないのです」



おしまい

読んでくれた人ありがとうございました。

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