城ヶ崎美嘉「お姉ちゃんを目指して」 (180)
彼女たちと触れ合う度に、胸の奥から湧き上がるこの感情……それがなんなのか、ずっと考えていた。
考えに考え、考え続けた結果……アタシはようやく、一つの答えに辿り着く。
美嘉「事務所の年下の子たち、みんな妹にしたい」
奏「寝言は寝て言うものよ、美嘉」
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*
346プロ1階のカフェテラスにて。
アタシは奏と唯に自らの心情を吐露していた。
美嘉「だって、みんな可愛すぎない? みりあちゃんたち小学生組は言わずもがな。中学生組と高校生組も、それぞれまた違う可愛さがあるから……アタシの姉性本能がくすぐられにくすぐられて、もう我慢の限界!」
唯「え、姉性本能なんてあるんだ!」
奏「ないわよ。というか美嘉、あなたには莉嘉という本物の妹がいるでしょう?」
美嘉「もちろん莉嘉は大事な妹。それは絶対に揺るがないけど……妹って、何人いてもよくない?」
唯「なるほど、確かにそーかも☆」
奏「いや、よくないでしょ」
奏が何か言っていたが、無視して続ける。
美嘉「だからアタシは決めた……」
一呼吸おいて、アタシは自らの決意を口にする。
美嘉「事務所の子たちで、妹ハーレムを作る!」
奏「……」
唯「……」
アタシの宣言に、どうやら奏と唯は呆気に取られているようだ。
まあ無理もない。この夢は、あまりに大きすぎるから。
アタシは2人の魂が戻ってくるまでゆっくりと待つことに―――
奏「病院行ったら?」
美嘉「アタシどこも悪くないけど!?」
奏「正常な精神状態で今の発言をしたのだとしたら、そっちの方が問題なんだけど」
美嘉「別にアタシ、おかしなことなんて何も言ってないでしょ!」
まったく、どうして奏はいつもアタシをからかってくるんだろ。
奏「……その目は本気みたいね。まずいわ、唯。美嘉がこれ以上遠くへ行かないうちに私たちで止めないと―――」
唯「美嘉ちゃん! その夢、ゆい応援するよ!」
奏「唯!?」
美嘉「唯ならそう言ってくれると思ってた!」
アタシは唯と、がしっと握手する。
唯「でっかい夢だけど、美嘉ちゃんならきっと叶えられるって☆」
美嘉「うん! きっとアタシ、叶えてみせる!」
そうした友情のやりとりをしたのち……2人で奏に視線を移す。
美嘉「……」
唯「……」
無言でじーっと見つめ続けるアタシと唯。
その視線を受けると、奏は小さくため息をつき、ようやく口を開いた。
奏「……もう好きにすれば?」
美嘉・唯『やりぃっ!』
その言葉に、思わずハイタッチしたアタシたちだった。
*
コーヒー飲んだりしてちょっと休憩したのち、話再開。
奏「それで、妹ハーレムって何をするつもり?」
美嘉「だから言ったじゃん。みんな妹にするの」
奏「おかしいわね、日本語ってここまで難しかったかしら」
唯「とりあえずはお姉ちゃんって呼んでもらうことからだよね~」
美嘉「だね。形から始めるの大事だと思う」
奏「どうして唯は話についていけるの……?」
なんか奏がブツブツ呟いている。今日の奏は少し変だなぁ。
唯「それで美嘉ちゃん、どの子から妹にする?」
美嘉「うーん、悩みどころだよね……」
どの子も可愛いから早く妹にしたいけど……ここはやっぱり。
美嘉「やっぱり、まずはあの3人かな」
*
翌日、アタシはカフェテラスに3人を呼び出し、開口一番に告げた。
美嘉「アンタたち、お姉ちゃん欲しくない?」
卯月「はい?」
凛「急に呼び出されたと思ったら、なんの話?」
未央「お姉ちゃんかー」
そう、呼び出したのはニュージェネの3人。卯月、凛、未央。
未央「私、男兄弟しかいないから、お姉ちゃん欲しかったなー」
卯月「私もお姉ちゃんって憧れかも。一人っ子だから」
未央と卯月は脈あり、と。
美嘉「それで凛は?」
凛「まあ、姉がいたらどんな感じなのかな……とかは考えたことあるけど」
美嘉「そっかそっか」
よし、凛も脈あり。
3人の意思を確認したところで、アタシは思い切って告げる。
美嘉「じゃあそんなお姉ちゃんが欲しい3人に朗報! 今日からアタシがアンタたちのお姉ちゃんになってあげる★」
『…………』
アタシのナイスな提案を聞くと、3人とも黙り込んでしまった。
よっぽど嬉しかったみたい。
卯月「え、えーっと……?」
未央「……」
凛「美嘉、何言い出してるの?」
美嘉「だからお姉ちゃんだって★ 欲しかったんでしょ?」
凛「欲しいとは言ってないし、美嘉になってとも言ってないよ」
美嘉「またまた照れちゃって。さ、お姉ちゃんって呼んでみて」
凛「呼ぶわけないでしょ……」
未央「お姉ちゃんっ!」
凛「未央!?」
未央はお姉ちゃんと呼ぶのと同時に、勢いよくアタシに抱きついてきた。
美嘉「よーしよし、未央はいい子だねー」
未央「えへへー♪」
素直な未央を褒めつつ、頭を撫でてあげる。
とっても気持ちよさそう。
凛「……ノリが良すぎるよ、未央は。ね、卯月?」
卯月「いいなぁ……」
凛「……なんて?」
アタシはそこで、こっちを見る卯月の羨ましそうな視線に気付いた。
妹の気持ちを察してあげるのが、お姉ちゃんの役目だからね。
アタシは優しく微笑みながら、卯月に告げる。
美嘉「いいよ。卯月も遠慮しなくて」
卯月「!」
アタシの言葉を聞くと、卯月は一瞬ためらうような素振りをするも―――
卯月「お、お姉ちゃあーんっ!」
勇気を振り絞って、アタシに抱きついてきた。
凛「卯月まで!?」
アタシは抱きついてきた卯月を体の右側に寄せる。左側は未央のもの。
美嘉「よしよし、卯月もなでなでしたげるね~」
未央と同じように、優しく卯月の頭を撫でる。
卯月「あ……えへへ♪」
撫でられた卯月の顔は、満開スマイル。
うんうん、やっぱり卯月の笑顔は最高だよね。
……さて、これで残るは一人。
凛「……」
こっちを見る視線がさっきの卯月と同じになってるの、自分で気付いてるのかな。
美嘉「凛も来ていいよ?」
凛「わ、私はいいよ」
未央「しぶりん。お姉ちゃんのなでなで、すっごく気持ちいいよ~」
卯月「私、今とっても夢心地です……」
凛「う……」
凛、未央と卯月の幸せそうな表情と言葉に心が揺さぶられているみたい。
だけどまだ余計なプライドが邪魔をしているのか、葛藤を続けている。
……やれやれ、お姉ちゃんが素直にさせてあげますか。
美嘉「凛」
凛「な、何?」
美嘉「たまには、誰かに甘えたっていいんじゃない?」
凛「!」
美嘉「お姉ちゃんなら、甘えるのにはうってつけだよ? ほら、真ん中空いてるから」
アタシは卯月と未央に少しずつ左右にどいてもらい、真ん中のスペースを開ける。
すると、凛は俯いて下を向く。これは……凛、アタシの準備はOKだよ。
凛「お……お姉ちゃんっ!」
そして、恥ずかしそうに俯きながらも、ようやく凛がアタシに抱きついて来てくれた。
表情は見えないけど、多分顔真っ赤にしてるんだろうな。
美嘉「よしよし、よく言えたね~」
未央と卯月と同じように、凛の頭を撫でる。
わ、凛の髪さらさらだ。
凛「うぅ……」
美嘉「気持ちいい?」
凛「……う、うん」
美嘉「そっかそっか」
未央「お姉ちゃん、私もまたなでなでして~」
卯月「私にもお願い、お姉ちゃん」
凛「そ、その後でいいから……もう一回、私にもして。お、お姉ちゃん」
そうやって凛たちが3方向から、上目遣いでお願いしてくる。……これ、無自覚?
恐ろしい妹たち……こんなのされたら、断れるお姉ちゃんはいないよ。
美嘉「ふふっ、もちろんいいよ。でも順番にね」
『はーいっ』
元気よく返事をする3人。
普段この子たちはアイドルとして頑張ってるけど、こうしてるとまだまだ子供なんだなって思う。
さっき凛に言ったことじゃないけど、たまには誰かに甘えたって罰は当たらないよね。
まあ、それはさておき……未央、卯月、凛、妹攻略完了★
まったりほのぼのと書いていきます
*
未央たちを妹にした後、また奏と唯にカフェテラスに集まってもらった。
美嘉「―――そんなわけで、もう3人とも可愛くて可愛くて」
アタシの可愛い妹たち自慢を聞き終わると、奏と唯がそれぞれ反応を返してくる。
奏「よく上手くいったわね……」
唯「美嘉ちゃん、さっすがー☆ この調子で、どんどん妹増やしてこー!」
美嘉「もち★ そのつもり!」
奏「もうこの会話に慣れるしかないのかしら……?」
何か呟きながら、奏が手でこめかみを押さえている。
美嘉「奏、頭痛いの? 大丈夫?」
奏「……大丈夫よ。それで、次は誰にする気?」
唯「みりあちゃんがいいんじゃない? 美嘉ちゃん、仲良かったよね?」
美嘉「みりあちゃんかー……」
確かに仲は良いけど……難敵かもしれない。
みりあちゃん、時々すごく大人っぽいんだよね。
でも、結局は避けて通れない相手。
それにお姉ちゃんは……妹を前にして逃げたりはしない!
美嘉「よし、次はみりあちゃんに決定★」
*
ちょうどいいことに、アタシはみりあちゃんと一緒に遊びに行く約束をしていた。
みりあちゃんとアタシは、同じく妹を持つ姉同士。
たまにこうして2人だけで遊ぶことがあるのだ(ちなみに莉嘉には秘密)。
今日も2人で色々なお店を回って、今は喫茶店で休憩中。
そして、2人でまったりとパフェを食べている最中に……アタシは意を決して切り出した!
美嘉「あ、あのさ、みりあちゃん」
みりあ「なぁに、美嘉ちゃん?」
パフェをすくおうとする手を止め、みりあちゃんがアタシの話に耳を傾けてくれる。
アタシは意を決して、切り出した。
美嘉「え、えっと……」
みりあ「うん」
意を、決して……。
美嘉「あ、あのね?」
みりあ「なにー?」
切り……出し…………。
美嘉「……やっぱり、なんでもない」
みりあ「? なんでもないの?」
……切り出しは、したんだけど。その先が言えない。
今日何度も言おうと思ったけど、どうしても『妹になって』の一言が言えない。
こんなもの? アタシの妹ハーレムにかける思いは、こんなものだったの?
ううん、アタシの思いはこんなものじゃないはず……なんだけど。
アタシ、既にみりあちゃんのことを2人目の妹みたいに思ってたところあるから、改めて言うの滅茶苦茶照れる!
みりあ「美嘉ちゃん、顔赤いよ? もしかして熱あるの?」
美嘉「だ、だいじょぶだいじょぶ★ 熱なんてないよ」
みりあ「本当? でもやっぱり心配だから……」
そう言うとみりあちゃんは向かいの席から立ちあがり、アタシに近づいて来て―――自分のおでこをアタシのおでこにくっつけた。
美嘉「み、みりあちゃん?」
その行動に、アタシは若干戸惑う。
少しの間そうしていると、すぐにみりあちゃんはおでこを離した。
みりあ「うん、ホントに熱ないみたい」
美嘉「もう……だから、そう言ったでしょ?」
みりあ「あははっ、そうだよね」
笑ってそう言い、みりあちゃんはアタシから離れた。
そして元の席に戻ると、みりあちゃんはアタシを真っ直ぐに見つめ―――慈愛を感じさせる笑みで、告げた。
みりあ「でも、美嘉ちゃんがなんともなくて良かったよ♪」
美嘉「!」
その言葉と笑みに、アタシの心が強く揺さぶられた。
みりあちゃんがアタシのことを心配してくれたのが嬉しい。……そういう気持ちも、もちろんあるんだけど。
なんだろう、この全身を駆け巡る敗北感は。
今の、普通お姉ちゃんがやることじゃない?……え、アタシ、妹?
みりあちゃんにとって、妹みたいな認識だったりするの?
ていうかアタシ、もしかしてお姉ちゃんらしさでみりあちゃんに負けているんじゃ……?
じゃ、じゃあ妹になんて……なってくれるはずなくない?
みりあ「み、美嘉ちゃん? 今度は顔青くなったよ? やっぱり具合悪いんじゃない?」
美嘉「だ、だいじょぶだいじょぶ。ほら、冷たいパフェ食べて体温下がっただけ」
無理矢理な理屈で誤魔化しながらも、アタシの心は打ちひしがれていた。
突きつけられたのは、完全なる敗北。
今のアタシじゃ、みりあちゃんを妹には……出来ない。
……みりあちゃん、妹攻略失敗。
みりあちゃんの攻略に失敗した後、また奏と唯にカフェテラスに集まってもらった。
アタシは若干涙目になりながらも、事の顛末を2人に伝える。
美嘉「……無理。みりあちゃん、強敵すぎる。今のアタシじゃ、逆に妹にされる……」
奏「随分弱気になったわね」
未央たちを妹に出来たことで天狗になっていたアタシの鼻が、完膚なきまでにへし折られた。
アタシはすっかり自信喪失。
美嘉「所詮アタシには無理だったのかな……妹ハーレムなんて」
遠い目で、そんなことを呟く。もう、誰も妹に出来る気がしない。
唯「しっかりしなよ、美嘉ちゃん!」
唯はそう告げると同時に、『ぱぁんっ』とアタシの頬をはたいた。
突然の痛みに、アタシは目を見開いて唯を見つめる。
美嘉「ゆ、唯……?」
唯「たった一人、たった一回、妹に出来なかったからって諦めるの? 美嘉ちゃんの妹愛は、その程度のものだったの?」
美嘉「!」
唯の言葉がアタシの胸に、深く深く突き刺さる。
奏「私は、諦めるならその方がいいと思うんだけど」
奏が何か言っていたが、耳には入らなかった。
唯「みりあちゃんに姉として負けたんなら、もっと姉として成長しよーよ! みりあちゃんを妹に出来るくらいに☆」
美嘉「姉として、成長……」
唯の言葉を受けて、アタシの目に光が戻る。
美嘉「……そうだよね。まだ終わりじゃないんだ」
アタシは椅子から立ち上がって、2人に宣言する。
美嘉「アタシ、もっとお姉ちゃんを磨く! 成長して、成長して、みりあちゃんを越えるお姉ちゃんになって! 絶対にみりあちゃんを妹にしてみせる!」
それがアタシの決意!
美嘉お姉ちゃん、ここに完全復活★
唯「やっといつもの美嘉ちゃんに戻ったね☆」
美嘉「ありがと、唯!」
奏「唯、余計なことを……」
美嘉「奏も、話聞いてくれてありがと★」
奏「……どういたしまして」
よーしっ、目指すはNo.1お姉ちゃん!
待っててね、未来の可愛い妹たち!
実質、ここまでがプロローグになります
美嘉「お疲れー★ 3人とも、頑張ってる?」
休憩時間を見計らって、アタシはレッスン室へとやって来た。
ここでさっきまでレッスンをしていたのは―――トラプリの三人。
加蓮「美嘉?」
奈緒「レッスン室来るなんて、どうしたんだ?」
美嘉「凛たちに差し入れ持ってきたんだ」
凛「差し入れ?」
本当は加蓮と奈緒ちゃんを妹にするために来たんだけどね。
だけどレッスンで疲れている妹たち(未来の妹も含めて)の所に、手ぶらでなんて来れないから。
加蓮「? 珍しいことするね」
奈緒「なんか怪しいな……何か企んでないか?」
……奈緒ちゃん鋭い。
まあ確かに企んではいるけれど、この差し入れとは関係ないし。
美嘉「奈緒ちゃん、人の厚意は素直に受け取りなって。はい、どうぞ」
アタシはそれぞれに差し入れのドリンクを渡していく。
奈緒「……それもそっか。わざわざありがとな、美嘉」
加蓮「ありがとね、美嘉」
凛「ありがとう、お姉ちゃん」
奈緒・加蓮『……お姉ちゃん?』
凛が発したお姉ちゃんというワードに、耳ざとく加蓮と奈緒ちゃんが食いついた。
凛「しまっ!?」
慌てて凛が口を塞ぐも、時すでに遅し。
アタシは、自然にお姉ちゃんって呼んでくれて嬉しかったけど……加蓮と奈緒ちゃんは、面白いおもちゃでも見つけたかのような目になっていた。
奈緒「なぁ、凛。今、美嘉のことお姉ちゃんって言わなかったか?」
凛「い、言ってないよ。聞き間違いじゃないかな」
加蓮「ふーん? でも私もお姉ちゃんって聞こえたんだけど」
凛「……呼び間違えたみたい。ほら、たまに先生のこと、間違えてお母さんって呼んじゃうことあるでしょ? あれあれ」
加蓮「凛、姉なんていないのに?」
奈緒「いない姉のことをどう呼び間違えるんだ?」
凛「くっ……そ、それは……」
加蓮と奈緒ちゃんがニヤニヤしながら、苦しい言い訳を重ねる凛を追い詰めていく。
ここはお姉ちゃんとして、助け船を出さないとね。
アタシは凛を傍らに抱き寄せつつ、2人に告げた。
美嘉「加蓮、奈緒ちゃん。凛はアタシの妹になったの★」
凛「美嘉!?」
加蓮「妹!?」
奈緒「義妹!?」
凛たちが三者三様に驚いている。でもなんか、奈緒ちゃんの妹の発音が微妙に違ったような……気のせいかな。
ま、今はそれよりも。
美嘉「凛、さっきみたいにお姉ちゃんって呼んでくれないの?」
凛「そ、それは、だって加蓮と奈緒がいるし……」
美嘉「関係ないよ。もう凛はアタシの妹なんだから」
妹になった時のように、アタシは優しく凛の頭を撫でる。
凛「あ、あぅ……う、うん、お姉ちゃん」
撫でられる凛は、また俯いている。これ、自分の表情を隠そうとしてるのかな?
奈緒「り、凛が美嘉にされるがままだ……」
加蓮「え、どういうこと? 妹って何?」
美嘉「そのままの意味。凛だけじゃなくて、もう卯月と未央もアタシの妹だよ」
加蓮「さらに分からなくなったんだけど!?」
奈緒「どう家族構成が変わればそんなに義妹が……? アニメでもそこまでは増えないだろ……」
加蓮が混乱、奈緒ちゃんが謎の発言をしている。
そんな2人に、いよいよアタシは本題を切り出す。
美嘉「それでさ……2人もアタシの妹にならない?」
加蓮「妹になるって何!?」
奈緒「なるわけないだろ!」
むむ、そうすんなりとは行かないか。
美嘉「妹になってくれたら、いくらでもなでなでしたげるよ?」
加蓮「いや、そんなのに釣られるわけないでしょ」
美嘉「なでなでには結構自信あるのに……」
中々手強いね、この2人。
2人の攻略に集中するため、アタシは一旦、凛のなでなでをストップした。
美嘉「ごめんね、凛。一旦おしまい」
凛「あ……」
奈緒「すごい名残惜しそうな顔してる!?」
凛「し、してないよ!」
加蓮「凛がここまで骨抜きにされるなんて……」
凛「されてないからっ!」
凛が真っ赤な顔で反論してる。
凛、随分なでなでが気に入ったみたい。後でまた撫でてあげよう。
美嘉「加蓮、奈緒ちゃん、じゃあとりあえずアタシのことお姉ちゃんって呼んでみない?」
加蓮「呼ぶわけないでしょ」
奈緒「とりあえずの意味が分からないって」
加蓮「だいたい私、今さら美嘉のこと姉だなんて思えないし」
美嘉「そう? アタシは加蓮のこと、今からでも妹って思えるんだけどな」
ゆっくりと、アタシは加蓮に近づいていく。
加蓮「な、なんでこっち来るの?」
美嘉「そ・れ・は……こうするためっ★」
そう言うと同時に、アタシは加蓮を後ろから思い切り抱きしめた。
加蓮「!? ち、ちょっと美嘉!?」
美嘉「おとなしくお姉ちゃんに抱きしめられちゃいな、加蓮♪」
加蓮「だ、だからお姉ちゃんとか思わないから!」
加蓮がアタシから逃れようと抵抗するも、そう簡単には離してあげない。
加蓮「て、ていうか、レッスンの後だから汗臭いでしょ! お願いだから離れてってば!」
美嘉「えー? 全然汗臭くなんかないって」
試しに、加蓮の身体の匂いをくんくんと嗅いでみる。
加蓮「嗅がないでよ!?」
美嘉「……うん。良い匂いしかしないよ、加蓮」
加蓮「そ、そんなわけないでしょ!」
美嘉「確かに汗の匂いはするけど……これは加蓮が一生懸命レッスン頑張った証だもん。だから、とっても良い匂いだと思うよ」
加蓮「え……。な、なにそんなこと……」
? 急に加蓮が抵抗するのをやめたみたい。
どうして突然おとなしくなったんだろ……まあいいや。
じゃあ、せっかくだから―――
美嘉「よしよし、加蓮」
加蓮「ふぇ!?」
アタシは凛にしたように、加蓮の頭を優しく撫でた。
妹が頑張ったんだから、ちゃんと労ってあげないとね。
美嘉「いつも加蓮がすごく頑張ってるの、アタシ知ってるよ。偉いね、加蓮」
加蓮「! や、やめ…………」
美嘉「アタシに撫でられるの、嫌?」
加蓮「い、嫌ってわけじゃ……ない、けど……」
加蓮は、アタシに撫でられている時の凛みたいに、俯きながら答えた。
まったく、似た者同士なんだから。
美嘉「良かった。じゃあもう少しこのまま撫でてるね」
加蓮「…………」
加蓮はそのまま、無言でアタシに撫でられ続ける。
少し離れた所からは、奈緒ちゃんと凛がこっちを見ていた。
奈緒「か、加蓮が美嘉に身をゆだねてるぞ……」
凛「いいなぁ……」
奈緒「……なんて?」
凛が羨ましそうな目でこっちを見ていることに気付く。
うーん、そんな目で見られたらほっとけないよね。
仕方ない、加蓮のなでなではここまでにして、もう一度凛を―――
加蓮「……かも」
美嘉「ん?」
凛を撫でてあげようと思ったところで、加蓮が何かを呟いた。
美嘉「加蓮、今なんて?」
アタシが訊ねると、加蓮は恥ずかしそうに顔を逸らしつつ……。
加蓮「……妹になるの、悪くないかも」
小さいけど、はっきりとした声で、そう呟いた。
その言葉に、アタシは思わず微笑む。
ふふっ……加蓮の耳、真っ赤になってる。
美嘉「そっか、悪くないか」
加蓮「うん……」
奈緒「加蓮がオチた!?」
凛「さすがお姉ちゃん……!」
奈緒ちゃんから驚愕の、凛からは羨望の眼差しを感じる。
しばらくそのまま加蓮を撫で続けていると……加蓮が急にアタシの方を振り向く。
加蓮「ねぇ、お姉ちゃん」
美嘉「何?」
加蓮「早いとこ、うちのトラプリ三姉妹の最後の一人も、お姉ちゃんの妹にしようよ」
そう言うと、加蓮はいやらしく笑いながら、奈緒ちゃんに視線を向ける。
奈緒「え」
加蓮「ね、奈緒お姉ちゃん?」
奈緒「そ、そんな呼ばれ方したことないだろ!?」
凛「美嘉お姉ちゃんなら、すぐに奈緒お姉ちゃんも妹に出来るよ」
奈緒「凛まで!?」
美嘉「ふふっ、妹たちの期待には応えないとね」
アタシは抱きしめていた加蓮を離し、奈緒ちゃんに照準を合わせる。
美嘉「奈緒ちゃん、覚悟はいい?」
奈緒「よくないっ! よ、よせ、美嘉! こ、こっち来るなぁっ!」
美嘉「え。……そ、そっか。奈緒ちゃんがそんなに嫌がるなら……何も……しないよ……」
アタシはその場で動きを止め、下を向いて俯く。
妹が嫌がることをするのは、お姉ちゃん失格だもんね……。
そんなアタシの態度を見ると、奈緒ちゃんは困惑した様子。
奈緒「あ……。……べ、別に嫌とかじゃない―――」
美嘉「凛、加蓮、言質取ったよ! 奈緒ちゃん抑えて!」
凛・加蓮『了解、お姉ちゃん!』
アタシが指示すると、凛と加蓮が即座に奈緒ちゃんを取り押さえる。
奈緒「ちょ!? み、美嘉、あたしを騙したなっ!?」
美嘉「ごめんね、奈緒ちゃん。でも素直じゃない妹には、こうするのが一番かなって」
奈緒「あ、あたしは別に素直じゃなくないし、妹でもないっ!」
凛「すぐにそんなこと言えなくなるよ」
加蓮「お姉ちゃんにかかればね」
奈緒「こいつら完全に妹になってる!」
美嘉「さて、じゃあどうしてあげようかな~?」
凛みたいになでなでか。それとも加蓮みたいに抱きしめちゃうか。
……あ、いいこと思いついた。あれにしよ★
アタシはそのいいことを実行するために、一歩、また一歩と奈緒ちゃんに近づいて行く。
奈緒「く、来るな……! あ、あたしは……あたしは絶対に、妹になんかならないんだからな―――っ!」
*
数分後。
美嘉「奈緒ちゃん、もうすぐ終わるからねー」
奈緒「な、なんで、こんな……うぅ」
そこには、アタシにゆったりと髪を梳かされる、しおらしい奈緒ちゃんの姿があった。
髪を梳かしながら、アタシは奈緒ちゃんに話しかける。
美嘉「奈緒ちゃんの髪、レッスンで少し乱れちゃってたもんね。ちゃんと綺麗に直さないと」
奈緒「べ、別に少しぐらい……どうせこの後またレッスンあるし……」
美嘉「また乱れたら、また直せばいいの。お姉ちゃんが何度でも梳かしてあげるから」
奈緒「だ、だから……あたしは妹になんか……」
美嘉「はい、これでおしまい」
アタシは、奈緒ちゃんの髪を梳かし終わる。
奈緒「や、やっと終わった……」
美嘉「奈緒ちゃんの髪ってもふもふしてるから、梳かすのすごい気持ちよかったよ★」
奈緒「! き、ききき気持ちいいとか、そそそそういうの言うなばかぁっ!」
美嘉「えー? でもホントに気持ち良かったんだけどなー」
奈緒「だ、だからからかうのやめろぉ!」
アタシと奈緒ちゃんがそんなやりとりをしていると―――
加蓮「ねぇ、お姉ちゃん。奈緒はお姉ちゃんの妹にはなりたくないみたいだし、もう構わなくていいんじゃない?」
凛「加蓮の言うとおりだよ。妹じゃない奈緒よりも、妹の私たちを構うべきだと思うな」
突然、加蓮と凛が奈緒ちゃんに対して冷たい言葉を言い放った。
奈緒「……え」
そして、2人の言葉に……その言葉の意味に気付き、アタシは頷く素振りをする。
美嘉「言われてみれば……確かにそうかもね。じゃあこれからは加蓮と凛だけを構うことにしよっか」
奈緒「え」
加蓮「やったぁ!」
凛「お姉ちゃん、私の髪も後で梳かしてもらっていい?」
美嘉「もちろんいいよ★ 可愛い妹の頼みだもん」
加蓮「え、ずるい。私にもしてよ、お姉ちゃん」
美嘉「はいはい、加蓮は凛の後ね」
凛「早い者勝ちだよ、加蓮」
加蓮「ちぇっ、先に言っとけばよかった」
アタシと加蓮と凛は、3人で仲睦まじく談笑を続ける。
奈緒ちゃんの存在を気にも留めずに。
奈緒「な、なあ……」
気にも留めないので、奈緒ちゃんがアタシたちにかける声も聞こえない。
アタシたちは談笑を続ける。
奈緒「あ、あの……えっと……」
気にも留めないので、奈緒ちゃんがおろおろしているのにも気付かない。
談笑を続ける。
奈緒「……………」
気にも留めないので、奈緒ちゃんが何も言葉を発せなくなるのにも…………もうそろそろいいかな?
アタシは加蓮と凛に目配せをする。
そして、それに2人はこくりと小さく頷いた。
奈緒ちゃんを気に留めないとか、そんなことアタシたちがするわけがない。
ホントは3人とも、気付かれないようにずっとチラチラと奈緒ちゃんの様子を窺っていたのだ。
正直、妹をほったらかしにするのはお姉ちゃんとして心が痛んだけど…………これも作戦。
そして、いよいよそれも仕上げの時。
美嘉「さて、じゃあアタシはもうそろそろ行くね。レッスン終わった頃にまた来るから」
凛「うん、待ってる」
加蓮「帰りに3人でポテト食べに行こうよ」
美嘉「いいね、そうしよっか」
アタシは凛と加蓮と約束をし、レッスン室のドアへと歩いて行った。
そしてドアノブに手をかけてから、もう一度凛たちの方を振り向く。
美嘉「じゃ、後でね」
凛「ばいばい、お姉ちゃん」
加蓮「約束だからねー」
美嘉「分かってるって」
アタシはそのまま凛と加蓮に手を振り、レッスン室を出ていこ―――
奈緒「ま、待って!」
―――出ていこうとしたところで、奈緒ちゃんが突然叫んだ。
アタシは立ち止まり、奈緒ちゃんに体を向ける。
美嘉「奈緒ちゃん? どうしたの?」
奈緒「あ、あたしも…………うとに……」
奈緒ちゃんは、小さな声で何かをボソボソと呟く。
でも、何を言っているのかが(予想はついていたけど)よく聞こえなかった。
美嘉「うーん? ごめん奈緒ちゃん、小さくてよく聞こえないや。もっと大きな声で言ってくれる?」
奈緒「だ、だから……」
奈緒「あ、あたしも……妹に、してくれ……!」
……作戦成功。
アタシと凛と加蓮は、ニヤリと笑みを浮かべた。
しかしアタシはすぐに表情を戻すと、意外そうな顔つきで奈緒ちゃんに訊ねる。
美嘉「え、奈緒ちゃんもアタシの妹になりたいの?」
奈緒「……う、うん、なりたい」
奈緒ちゃんは恥ずかしそうに目を伏せて、真っ赤な顔で頷いた。
美嘉「そっか。いいよ、もちろん」
奈緒「ほ、ホントか!?」
美嘉「で・も……それはアタシのことを、お姉ちゃんって呼んでくれたらの話ね?」
奈緒「え゛」
加蓮「妹なんだから、そう呼ぶのは当然でしょ?」
凛「お姉ちゃんをお姉ちゃんと呼べない者に、妹の資格はないよ」
加蓮と凛が援護射撃をしてくれる。
奈緒「う、うぅぅ……」
美嘉「さあ奈緒ちゃん、どう? お姉ちゃんって呼んで―――」
奈緒「い、妹にしてっ……! お、おね……お姉、ちゃあんっ」
アタシの言葉を遮る形で、奈緒ちゃんが必死に声を絞り出した。
……ようやくお姉ちゃんって呼んでくれた。
アタシは笑顔で、奈緒ちゃんの元に近づいて行き―――
美嘉「ふふっ、よく言えました♪」
奈緒ちゃんの頭を、ふんわりと撫でた。
奈緒「ひゃう!?」
美嘉「奈緒ちゃん、これがお姉ちゃんのなでなでだよ。気持ちいい?」
奈緒「き、気持ちよくなんか……」
凛「気持ちよくないなら、もうやめていいんじゃない?」
いつの間にかアタシたちの近くまで来ていた凛が、そう言い放った。
凛だけでなく、加蓮も傍まで来ている。
加蓮「奈緒、なでなでされたくないんだもんね?」
奈緒「そ、そんなこと言ってないだろっ!」
加蓮「じゃあ、そのままなでなでされてたいの?」
奈緒「え。い、いや、それは、あの、えっと……」
凛「はっきり言いなよ、奈緒」
奈緒「…………こ、このままが……いい」
本心を告げた奈緒ちゃんに、アタシはもう一度同じ質問をする。
美嘉「なでなで、気持ちいい?」
奈緒「き、気持ち……いい……」
凛「最初からそう言えばいいのに」
加蓮「ほんっと、素直じゃないんだから」
奈緒「う、うるさいっ!」
美嘉「……ふふっ」
凛たち3人のやりとりに、思わずアタシの顔が綻ぶ。
奈緒「な、なんで笑うんだよ、美嘉!」
美嘉「美嘉? 奈緒ちゃん、そうじゃないでしょ?」
奈緒「あ、あぅ……その…………お、お姉ちゃん」
美嘉「よろしい。別に笑ったわけじゃないよ、奈緒ちゃん。可愛い妹がまた一人出来て、嬉しかっただけ」
奈緒「か、かわっ!?」
加蓮「だってさ。可愛い妹の奈ー緒っ♪」
凛「良かったね、可愛い妹の奈緒」
奈緒「お、お前らいい加減にしろぉ!」
美嘉「まあまあ。落ち着いて、奈緒ちゃん」
なでなでなでなで。
奈緒「ふぇ……う、うん……」
加蓮「……からかわれて怒った奈緒を一瞬でおとなしくさせるなんて」
凛「……さすがお姉ちゃんだね」
それにしても奈緒ちゃんの髪、ホントふわふわしてるなぁ……すっごく良い撫で心地。
もちろん加蓮と凛も……妹はみんな、すっごく良い撫で心地なんだけどね。
まあ、それは置いといて……加蓮、奈緒ちゃん、そして―――トライアドプリムス、妹攻略完了★
次は中学生組にしようと思ってましたが、めでたく未央が全体2位Pa1位ということで、次はポジパにしようと思います
ホントなら楓さん出したいんですが、話の都合上当分出せないので
なお、ポジパを書くにあたって茜の学年が調べてみても不明瞭なため、このssでは高2ということにしておきます
お昼時のカフェテラスにて。
アタシは一人で、あの子たちを待っていた。
未央「あ、美嘉ね―――じゃなかった。お姉ちゃーん!」
やっと来たね。
椅子から立ち上がり、声の聞こえた方を向く。
すると、未央が駆け足で近づいてきて、その勢いのままアタシに抱きついてきた。
美嘉「おっと……もう未央ったら。びっくりするでしょ?」
未央「えへへー、ごめんお姉ちゃん」
あまり悪びれる様子もなく、謝ってくる未央。
まったくもう……可愛いから許すけど。
美嘉「それと未央。別に呼び方は美嘉ねーのままでもいいよ?」
未央が言い直したのに気付いて、アタシはそう伝えた。
未央が呼ぶ美嘉ねーの『ねー』は姉の『ねー』だから。
つまり未央は妹になる前から、アタシを姉みたいに慕ってくれてたんだよね。
そう考えると、美嘉ねーっていう呼び方の方が嬉しいかも。
未央「いいの? じゃあそうするね、美嘉ねー。この呼び方するの私だけだから、特別な感じして嬉しいし」
どうやら、未央も同じようなことを考えてくれてたみたい。
やっぱり姉妹だけあるね。
茜「未央ちゃん、本当に美嘉ちゃんの妹になったんですね!!」
美嘉「わ!?」
突然の大声に尋常でなく驚くアタシ。
そして横を見ると、そこには茜ちゃんと藍子ちゃんが。
美嘉「茜ちゃん、藍子ちゃん」
藍子「遅くなっちゃってごめんなさい、美嘉ちゃん」
美嘉「大丈夫、アタシも今来たとこだよ★ それに、アタシが誘ったんだしさ」
そう。今日アタシは、藍子ちゃんたちにお昼のお誘いをした。
目的はもちろん……藍子ちゃんと茜ちゃんを妹にするため!
*
あの後、アタシたちはそれぞれお昼ご飯を注文した。
今は料理が来るまで、4人で楽しくお喋り中。
美嘉「未央はアタシの妹になったこと、2人に話してたんだね」
未央「未央『は』って?」
美嘉「凛は加蓮たちに、妹になったことを必死に隠そうとしてたからさ」
未央「あははっ、しぶりんは照れ屋さんだなぁ」
凛と違って、未央はそんなことしないか。
別に口止めもしてないし、隠すことでもないよね。
それに……この方が話を運びやすいかもだし。
さっそくアタシは、2人に妹になってほしいと伝えようと―――
藍子「あ、そういえば私たち、美嘉ちゃんにお願いがあるんでした」
美嘉「え?」
―――したところで、藍子ちゃんがそんなことを。
茜「そうでした! 美嘉ちゃん、折り入ってお願いがあります!!」
藍子「私たちも美嘉ちゃんの」
茜「妹にしてください!!」
美嘉「えぇえええええええええっ!?」
藍子ちゃんたちの方から!?
未央「私の話を聞いたら、2人も美嘉ねーの妹になりたくなったんだって」
話を運びやすいどころか勝手に運ばれてた!
あまりに急展開過ぎて、アタシは動揺を隠せない。
茜「駄目、でしょうか?」
藍子「やっぱり、迷惑ですよね……」
はっ!? 2人が悲しそうな顔してる!
……何してるの、アタシ。
こんなんじゃ、お姉ちゃん失格でしょ!
アタシは落ち着くため、一度深く息を吐く。
そして、2人の不安を払拭するために柔らかく微笑み、自分の気持ちを正直に伝えた。
美嘉「迷惑なんかじゃないよ、藍子ちゃん。それに茜ちゃんも。2人みたいな可愛い妹なら、いくらでも大歓迎★」
その言葉に、藍子ちゃんと茜ちゃんの表情がぱぁっと明るくなる。
茜「では私たち、美嘉ちゃんの妹になっていいんですね!!」
藍子「ありがとうございます、美嘉ちゃん」
美嘉「あ、2人とも―――」
未央「茜ちん、あーちゃん。もうその呼び方は違うんじゃない?」
さすが我が妹、未央。
アタシの言おうと思ったことを先に言ってくれた。
藍子「呼び方?」
茜「え、何かおかしかったですか!?」
未央「だからさ、ごにょごにょ……」
未央が2人に耳打ちする。
茜「……なるほど! そういうことですか!!」
藍子「うふふっ、分かりました」
内緒話が終わると、茜ちゃんと藍子ちゃんはアタシの方へ向き直った。
そして―――
藍子・茜『せーのっ』
藍子・茜『お姉ちゃん♪(お姉ちゃん!!)』
2人揃っての、お姉ちゃんコール。
……どうしよう。
料理が来る前に、2人の可愛さでお腹いっぱいになっちゃった。
*
藍子「お姉ちゃん。私、してほしいことがあるんです」
美嘉「してほしいこと?」
みんなでご飯を食べ終えた後、藍子ちゃんがアタシにそんなお願いをしてきた(ちなみにアタシ、普通に料理食べられた。妹は別腹だったみたい)。
藍子「私のことを、なでなでしてもらえませんか?」
美嘉「なでなでね。もちろんいいよ★ 妹をなでなでするのは、お姉ちゃんの義務だから」
茜「藍子ちゃん、お姉ちゃんのなでなでの話を未央ちゃんから聞いて、ずっとなでなでしてもらいたがってたんですよ!!」
美嘉「え、未央、アンタどんな話したの?」
未央「美嘉ねーのなでなでの感想を、ありのままに伝えただけだよ?」
藍子「未央ちゃん、『お姉ちゃんのなでなでは世界を狙えるほどだよ』って絶賛していたんです」
盛りに盛ってる!
藍子「きっと、とっても気持ちいいんだろうなぁ……うふふっ、楽しみ♪」
期待のされ方ハンパない!
ど、どうしよ。
さすがにここまでの期待には応えられそうに…………いや、そうじゃないでしょ、アタシ。
妹の期待に応えるのが、お姉ちゃんの務めなんだから。
美嘉「……やるしかない」
妹たちに聞こえないように、呟く。
アタシは座っていた椅子の位置をずらし、藍子ちゃんの横に座った。
美嘉「それじゃ藍子ちゃん、なでるね」
藍子「よろしくお願いします、お姉ちゃん♪」
藍子ちゃんがアタシに微笑む。この笑顔は裏切れない。
……ならもう、これしかない。
なでなでを新たな高みへと昇華させる!
覚悟を決めたアタシは、左手をゆっくりと藍子ちゃんの頭に伸ばす。
藍子「あ……」
まずは、いつも通りに撫でる。愛情を込めて、優しく、緩やかに。
藍子「これが……ふふっ」
藍子ちゃんが嬉しそうな表情になった。
とりあえず、お気に召してくれたみたい。
問題はここから。
撫でる速度を変える? それとも強さ?
いや、それは駄目。
練習もなしにいきなりそんなことしたら、上手く加減できなくて、むしろ不快にさせちゃうかも。
なら、どうすれば…………ん?
そこでアタシは、はたと気付く。
アタシの左手は藍子ちゃんの頭を撫でているけど―――
アタシの右手、空いてるじゃん。
瞬間、アタシの脳裏にある考えが閃いた。
この右手を使って―――いやでも、上手くいくかな……。
猫や犬ならともかく、人間にはあんまり意味が―――え、ええい、もうやるっきゃないでしょ!
藍子ちゃんの期待に応えなきゃ!
アタシは胸の内の不安を悟られぬよう注意しつつ、藍子ちゃんに声をかける。
美嘉「藍子ちゃん」
藍子「なんですか、お姉ちゃん」
美嘉「ちょっとだけ、上向いてくれる?」
藍子「こう、でしょうか?」
藍子ちゃんがアタシに言われた通り、少しだけ顔を上げてくれる。
美嘉「うん、オッケー★」
そうして、アタシは左手で藍子ちゃんの頭を撫でたまま―――右手を、藍子ちゃんの喉元へ伸ばした。
藍子「ふぇっ!?」
美嘉「大丈夫だから。そのまま、ね?」
藍子「は、はい……」
アタシは優しく微笑みかけて、藍子ちゃんの緊張を和らげる。
そして、右手の指でやんわりと、藍子ちゃんの喉元を撫でていく。
苦しくならないよう、慎重に、ふんわりと。
そうしていると……藍子ちゃんが、気持ちよさそうに目を細めた。
藍子「ふぁ……」
お、おお? 若干不安だったけど……いけそう!
未央「ずるい、あーちゃん! 私もそんなのされたことないのに!」
藍子「はぅ~……♪」
茜「未央ちゃん! 藍子ちゃん、聞こえてない感じですよ!!」
未央「まさか!? 両手で撫でられることで、気持ちよさも2倍に!?」
未央がおかしな考察をしているけど、放っておく。
今、藍子ちゃんから気を抜くわけにはいかない。
アタシは精神を集中して、藍子ちゃんを撫で続ける。
美嘉「藍子ちゃん、喉苦しくない?」
なでなで。
藍子「だいじょぉぶですぅ……」
なでなで。
美嘉「それなら良かった★」
なでなでなでなで。
藍子「ふぁい……すごく、良いですぅ……」
なでなでなでなで。
未央「会話が微妙に噛みあってないような……ん?」
なでなでなでなでなでなで。
未央「あっ!? ねえ、ちょっと美嘉ねー!」
美嘉「ふふふっ」
藍子「うふふっ」
なでなでなでなでなでなで。
未央「き、聞こえてないし……お願い、茜ちん!」
茜「お姉ちゃん、聞こえてますかーっ!?」
美嘉「わっ!?」
突然の大声に集中が途切れ、アタシは藍子ちゃんのなでなでを中断。
美嘉「な、何?」
未央「美嘉ねー、いつまであーちゃんなでなでしてるの! もう10分はやってるよ!?」
美嘉「え、そんなになでなでしてた?」
未央に言われて、時計を見てみる。
……ホントだ。いつのまにか時間が経ってる。
もうすぐ昼休みも終わる時間じゃん。
藍子「全然気付きませんでした」
未央「まったく、2人ともゆるふわしすぎだよ」
茜「とはいえ、私たちも10分経つまでゆるふわしてましたが!」
未央「……。……うん、それはいいんじゃないかな。と、とにかく美嘉ねー、私もなでなでしてよー!」
美嘉「うーん……悪いけど、未央はまた今度ね」
未央「どうして!?」
美嘉「まだなでなでしてない茜ちゃんが先でしょ? それで多分、昼休み終わっちゃうだろうし」
未央「う~、そういうことなら仕方ないかー」
茜「お姉ちゃん! 私、なでなでもしてほしいですけど、他にやりたいことがあります!」
美嘉「やりたいこと?」
茜「さっき未央ちゃんがしていたみたいに、お姉ちゃんに抱きついてみたいです!!」
美嘉「なるほど、茜ちゃんはそっちね。いいよ、お姉ちゃんが優しく受け止めてあげる★」
アタシは椅子から立ち上がり、腕を広げる。
これで受け止め体勢はバッチリ。
茜ちゃんも既に立ち上がって、準備万端の様子。
美嘉「茜ちゃん、いつでもどうぞ」
茜「では……お姉ちゃーんっ!!」
アタシの胸に、茜ちゃんが助走をつけて勢いよく飛び込んでくる。
それを笑顔で受け止めようと―――
美嘉「ふふっ、茜ちゃんは元気いっぱ―――かはっ!?」
―――茜ちゃんに抱きつかれた瞬間、身体に尋常じゃない衝撃が襲いかかった。
意識が持っていかれそうになるも、お姉ちゃんの意地でどうにか留める。
後ろに吹っ飛びそうになるも、お姉ちゃんのプライドでどうにか踏みとどまる。
『めきめきぃっ』と肋骨がきしむも、お姉ちゃんの底力でどうにか耐える。
……あははっ、しまったなー。
茜ちゃんのパワーのこと、全然考えてなかった★
茜「? お姉ちゃん、どうしました?」
茜ちゃんがきょとんとした顔でアタシを見上げてくる。
それにアタシは、脂汗をかきつつも必死に笑顔を作って答えた。
美嘉「ど、どうも、してないよ。……ふ、ふふっ、茜ちゃんは、元気いっぱいだね★」
左手を茜ちゃんの頭に伸ばし、そのまま撫でる。
お姉ちゃんとして、これだけはやらないと……。
でもさすがに、右手で喉元を撫でる気力は出ない。
ごめんね、茜ちゃん。今日はこれだけで勘弁して。
茜「な、なんでしょう!? 胸の辺りがポカポカしてきました!!」
未央「それが美嘉ね―のなでなでだよ、茜ちん」
藍子「なんだか幸せな気持ちになりますよね」
茜「はい、熱いです! ファイヤー!!」
茜ちゃんたちが微笑ましい会話をしている。
この子たちに、アタシが満身創痍であることを気付かれちゃ駄目。
お姉ちゃんとして、妹を傷つけるわけにはいかない。
昼休みが終わるまであと少し。
それまでなんとしても耐え抜くんだ、アタシ!
まあ、それはともかくとして……藍子ちゃん、茜ちゃん、そして―――ポジティブパッション、妹攻略完了★
……決めた。
身体、鍛えよう。
今回、試しに一人称の視点を変えてみます
主役交代じゃないです
私、乙倉悠貴は今、軽い眩暈を伴うほどに困惑しています。
仕事帰り、私がいつも通りに事務所の扉を開けたら―――
幸子「さあ! もっと言ってくれてもいいですよ、お姉ちゃん!」
美嘉「幸子ちゃんはホントにカワイイね★ 可愛い~、可愛い~♪」
―――慈愛に満ちた表情の美嘉さんが、幸子さんの頭を撫でていたんです。
仲良く、ソファに並んで座って。
幸子「ふふーん♪ まあ、ボクがカワイイというのは当たり前ですけどね!」
美嘉「ふふっ。でも何度言ったって足りないくらい、幸子ちゃんは可愛いし」
幸子「その通りです! ボクのカワイさを表すには、これくらいの言葉じゃ全然足りませんね!」
美嘉「うん、だからもっともっと可愛いって言うね。可愛い可愛いっ♪」
幸子「うふふふっ! さすがお姉ちゃん、ボクのカワイさを完璧に理解してますね!」
幸子さんがとってもご満悦そうです。
すると、美嘉さんの隣―――幸子さんの座っている側の反対から、不服そうな声が上がりました。
みく「お姉ちゃん、幸子チャンばっかり構わないでよー!」
美嘉「ごめんね、みくちゃん。そんなつもりなかったんだけど」
声の主は、みくさん。
美嘉さんは今、幸子さんとみくさんに挟まれる形でソファに座っているんです。
……あ、よく見るとみくさん、眼鏡をかけています。
そしてテーブルには、一枚のプリントと筆記用具が。どうやら勉強モードみたいです。
みく「ほら、ここ! この問題が分からなくて」
美嘉「どれどれ?……なるほど、三角関数か。これはね、こう考えるの―――」
みく「―――そっか。それでこうなって………………解けたにゃ!」
美嘉「解き方が分かれば簡単でしょ?」
みく「うん!」
美嘉「また分からない問題があったら、いつでも訊いていいよ★ 答えは駄目だけど、解き方ならいくらでも教えてあげるから」
みく「それで十分にゃ。ありがと、お姉ちゃん」
幸子「お姉ちゃん、ボクを忘れないでください!」
美嘉「もう、忘れてないってば」
美嘉さんにお礼を告げて、みくさんは再びプリントに向かいました。
そして美嘉さんは再び、幸子さんになでなでを。
悠貴「こ、これは……どういう……?」
その3人のやりとりに、私の困惑はとどまる所を知りません。
普段以上に仲睦まじい様子なのもそうですが……さっきからなぜ2人とも、美嘉さんのことをお姉ちゃんと呼ぶのでしょうか?
美嘉さんの妹は、莉嘉さんだけですよね?
私が知らなかっただけで、実は莉嘉さんを入れて4人姉妹だったとか―――い、いやいや、さすがにそれはないでしょうし。
う、うーん……ならどうして……?
……いや、こうして考え込んでも仕方ありません。
私はごくりとつばを飲み込み、意を決して、美嘉さんに話しかけます。
悠貴「あの、美嘉さんっ」
美嘉「あ、悠貴ちゃん、戻って来てたんだ。おかえり★」
悠貴「はい、ただいま戻りましたっ!……じゃなくてですねっ! これ、どういう状況なんでしょうかっ?」
美嘉「どういう状況って……見ての通り、妹たちを愛でてるだけだよ?」
悠貴「妹っ!?」
困惑が混乱に変わりました。
ちょっと美嘉さんが何を言ってるのか分かりません。
なんですか妹って。
私はさらに詳しく訊ねようと―――
悠貴「み、美嘉さん、妹っていったい―――」
《ガチャ―――》
卯月「ただいま戻りましたっ」
訊ねようとしたタイミングで、卯月さんが事務所に入ってきました。
美嘉さんの意識はそちらに向いてしまいます。
美嘉「おかえり、卯月」
卯月「ただいま、お姉ちゃん♪」
悠貴「卯月さんもっ!?」
卯月さんまで当然のように、美嘉さんをお姉ちゃんと呼びました。
もう訳が分かりません。意味不明です。
私、世にも奇妙な物語に巻き込まれたんでしょうか。
頭の中がぐるぐるします。
それどころか頭まで痛くなってきました。
悠貴「美嘉さん美嘉さんっ」
私は今度こそ詳しい事情を訊こうと、美嘉さんに呼びかけます。
美嘉「どうしたの、悠貴ちゃん。……ん? 今気付いたけど悠貴ちゃん、なんだか顔赤くない?」
悠貴「私の顔色なんて今はどうでもいいですよっ」
美嘉「いやいや、よくないよ」
そう言うと美嘉さんはソファから立ち上がり、私の元へ近づいてきました。
美嘉「ちょっと、おでこ触るね」
悠貴「えっ、あ、はい……」
戸惑う私に構わず、美嘉さんは私のおでこに手を当てました。
そして、もう片方の手は自分の額に。
美嘉「……やっぱり熱い。悠貴ちゃん、熱あるんじゃない?」
悠貴「熱、ですか?」
そういえば今朝、微熱があったような……。
身体がだるくて……たまに咳も……。それにさっきの眩暈と頭痛……。
…………んん?
悠貴「も、もしかして私、風邪引いてますっ?」
美嘉「いや、アタシに聞かれても。自分の身体なんだから、どうなのかは自分が一番―――」
悠貴「けほっ、こほっ!」
美嘉さんの声を遮る形で、咳が出ました。
悠貴「す、すみませんっ」
美嘉「悠貴ちゃん、間違いなく風邪引いてるよ!」
卯月「え、悠貴ちゃん風邪ですか!?」
幸子「た、大変です! 急いで救急車を……119番って何番でしたっけ!?」
みく「落ち着くにゃ幸子チャン! 109番に決まってるでしょ!」
卯月「みくちゃんも落ち着いて! 109じゃなくて009だよ!」
美嘉「それも違うし、そもそも風邪で救急車は大げさすぎ! 呼ばなくていいの! 3人とも、深呼吸でもして落ち着く!」
美嘉さんの放ったその台詞に、慌てふためいていた卯月さんたちが多少冷静さを取り戻しました。
その様子を確認すると、美嘉さんは私の方を振り向きます。
美嘉「とにかく、早く女子寮に帰った方がいいよ。アタシが付き添うね」
悠貴「あ、いえ一人で―――」
美嘉「悠貴ちゃん、ふらついてる」
悠貴「えっ?」
言われて気付きます。
私の視界が、ぐらついていることに。
美嘉「そんな状態で、一人でなんて帰せないからさ。悠貴ちゃん、ね?」
私の目をまっすぐに見つめてくる、美嘉さん。
本気で心配してくれているのが、その表情から伝わってきて。
悠貴「すみません……。お願いして、いいですか?」
気が付いたら、そう言葉を発していました。
*
あれから女子寮の自室に帰ってきて……私は今、ベッドに横たわっています。
でも、部屋には私だけじゃなく―――
美嘉「悠貴ちゃん。スポーツドリンクを枕もとに置いておくから、こまめに飲んでね」
悠貴「あ、ありがとうございますっ」
美嘉「……さてと。薬飲んで、マスクつけて、ドリンクもOK。あとは……」
ベッドの横で、美嘉さんが呟いています。
私は顔をそちらに向け、おずおずと話しかけました。
悠貴「あの、美嘉さん」
美嘉「ん? どうかした?」
悠貴「やっぱり看病なんていいですよ。移ったら大変ですし……」
美嘉「そんなこと気にしなくていいから、悠貴ちゃんは安静にしてて。風邪、早く治したいでしょ?」
悠貴「それは……はい」
美嘉「なら、誰かに看病してもらうのが一番★ そうすれば、風邪なんてすぐに治っちゃうって!」
明るい調子で笑う美嘉さん。
それに何も返せずにいると―――
美嘉「あ、そうだ」
その言葉とともに、美嘉さんが何かを思いついたような表情に。
美嘉「悠貴ちゃん、氷枕って部屋にある?」
悠貴「いえ、無かったと思います」
美嘉「そっか。じゃあ、寮の誰かが持ってるかもしれないから、ちょっと聞いてくるね。すぐ戻るから、安心して待ってて」
そう告げて、美嘉さんは部屋から出て行きました。
……どうして、こんなことになったのか。
私に付き添ってきてくれた美嘉さんは、部屋に到着すると、このまま私の看病をすると言い出したんです。
しかも、泊まり込みで。
当然、私は断りました。
そこまで美嘉さんに迷惑をかけるわけにはいきません。
しかし、美嘉さんの意思は揺らぐことなく……結局、看病してもらうことに。
悠貴「でも……正直、嬉しいかも」
美嘉さんには、ああ言ったものの……本当の気持ちは、それで。
心の底では、誰かに看病してもらいたくて。
悠貴「……まだかな」
思わず口から出た、その呟きに。
美嘉さんが戻ってくるのを待ちわびていることに、気付きました。
*
美嘉「悠貴ちゃん、晩ご飯出来たよ」
夕飯時。
美嘉さんが一つのお茶椀を持って、台所から出てきました。
美嘉「やっぱり、風邪引いた時はおかゆだよね。でも、ただのおかゆじゃ味気ないし、何よりそんなに美味しくない……。てなわけで、特製たまご粥を作ってみましたーっ★」
悠貴「わぁっ……!」
目の前に出されたお茶椀に、私は目を輝かせました。
ご飯に絡みつく、とろとろの卵。上に細かく刻まれたネギが少々かかっていて。
鼻孔をくすぐるかぐわしい香りには、食欲がそそられます。
悠貴「美味しそうっ!」
美嘉「でしょ? これ食べれば、風邪なんてどっかに吹っ飛んでくから」
そう告げ、美嘉さんは手に持ったスプーンでおかゆをすくい、冷ますために『ふー、ふー』と、息を吹きかけます。
……? それ、私のご飯じゃなかったんですか?
と、思っていると―――
美嘉「はい、悠貴ちゃん。あーん」
その台詞とともに、私の顔の前にスプーンの先が向けられました。
悠貴「……えっ!? い、いやいや、自分で食べられますよっ!」
美嘉「もう、遠慮しないでいいから」
悠貴「遠慮とかじゃなくてですねっ!?」
すっごく恥ずかしいです、それっ!
美嘉「あのね、悠貴ちゃん。風邪を引いてる時は、思う存分甘えていいって決まってるの。だからほら、口開けて。はい、あーん」
悠貴「うぇぇ……? あ、あーん……」
おそるおそる口を開けると、スプーンが口の中に。
あ……とろりとした卵がご飯と組み合わさって……なんていい舌触り。
おかゆがこんなに美味しいなんて……!
私は味を堪能しつつ、もぐもぐとよく噛んで、ごっくんと飲み込みました。
美嘉「美味しい?」
悠貴「とってもっ!」
美嘉「良かった★ じゃ、どんどん食べさせてあげるね」
悠貴「はいっ♪」
美嘉さんの差し出すおかゆを、パクパクと口にしていく私。
いつの間にやら、美嘉さんから食べさせてもらうことへの羞恥心が消えていました。
*
まさかこんなにも早く、さっきの『あーん』より恥ずかしい思いをすることになるとは。
美嘉「悠貴ちゃん、タオル熱くない? 大丈夫?」
悠貴「だ、大丈夫です……」
―――美嘉さんに、身体を拭いてもらうことになるなんて。
ベッドの上で、上半身裸になっている私。
背中には、蒸した温かいタオルの感触が行き来しています。
悠貴「うぅ、美嘉さぁんっ……! 確かに大浴場まで行くのは辛くて無理ですけど、だからってこれは恥ずかしすぎますよぉっ……!」
美嘉「あれ? 悠貴ちゃん、そこまで恥ずかしがり屋さんだったっけ?」
悠貴「これは誰でも恥ずかしいと思いますっ!」
美嘉「あははっ、そりゃそっか★ でもこうして身体を拭くだけでも、大分すっきりするからね~」
悠貴「それはそうかもですけど……」
美嘉「よし、これで背中はおしまい★ 次は腕だね。はい、伸ばしてー」
悠貴「こ、こうですかっ?」
言われるがまま、腕をまっすぐ伸ばします。
美嘉「うん、そんな感じ」
すると美嘉さんは丁寧に、だけどテキパキとした動作で拭いてくれます。
美嘉さんが言っていた通り、拭かれた所はすっきりして気持ちがいいです。
そして、両腕を拭き終わって。残るは……。
美嘉「さて、あとは前だけど……」
悠貴「そ、それは自分でやりますっ!」
美嘉「えー? せっかくだから、このままアタシが拭いてあげ―――」
悠貴「なくて結構ですからっ!」
さすがにこれだけは譲れませんっ。
美嘉「冗談冗談★ はい、どうぞ」
美嘉さんが私にタオルを渡してくれます。
良かった……。またこのまま押し切られてしまうのかと思いました。
*
美嘉「それじゃ、電気消すね」
悠貴「お願いします」
電気が消え、部屋には窓から差し込む月明かりだけが残りました。
もう、就寝の時間です。
電気のスイッチを押した後、美嘉さんは床に敷いた布団の中へ。
悠貴「あ、そういえば……美嘉さん、寝る前に訊きたいことがあるんです」
美嘉「なに?」
私はベッドの端までもぞもぞと動いて、美嘉さんの顔が見える位置に。
美嘉さんもこっちに顔を向けてくれます。
悠貴「どうして事務所で幸子さんたちは、美嘉さんのことを『お姉ちゃん』と呼んでいたんですか?」
美嘉「ああ、それは幸子ちゃんたちがアタシの妹になったからだよ」
……。……風邪で頭が上手く回っていないせいか、美嘉さんの言葉の意味がよく分かりません。
悠貴「すみません、よく意味が分からないので、もっと詳しく話してもらっていいですか?」
美嘉「ん、いいけど……うーん、どう話したものかな……」
そして、美嘉さんは私に話してくれました。
最近、美嘉さんは事務所のみんなを次々に妹にしているそうです。
さらには、これからもどんどん妹を増やしていくつもりだとか。
……詳しく聞いても、よく理解できませんでした。
悠貴「あの、そんなことをしなくても、みんな美嘉さんのこと、お姉さんのように慕っていると思いますよ? その……私もそうですし」
美嘉「ふふっ、ありがと。でも……んー……『お姉さん』と『お姉ちゃん』って、似てるようで少し違う気がするんだよね」
悠貴「? 同じじゃないんですか?」
美嘉「『お姉さん』だと、ちょっと他人行儀な気がするっていうかさ。『お姉ちゃん』の方が親密な感じしない?」
なんとなく、分かるような、分からないような……。
悠貴「それは、美嘉さんが莉嘉さんにそう呼ばれているからじゃないんですか?」
美嘉「……あっ、そうかも。その発想無かったよね」
悠貴「無かったんですかっ!?」
美嘉「そっか。じゃあアタシ、莉嘉と同じくらいみんなと仲良くなりたいって思ってるんだ。なるほどねー……自分の気持ち、再認識した」
美嘉さんがうんうんと頷いています。
美嘉「悠貴ちゃん。色々話したけど、つまりはそういうことみたい。アタシみんなと、本当の姉妹みたいな関係になりたいんだ。『お姉さんのように』慕ってもらえるのは、当然嬉しいけど。『ように』が無くなれば、もっと嬉しいから」
悠貴「本当の姉妹、ですか」
美嘉「うん。だからもちろん―――」
そこで言葉を切り、美嘉さんは上半身だけ布団から起き上がりました。
その体勢のまま、ベッドに横向きに寝転がっている私の目の前まで、近寄ってきて。
目と鼻の先。お互いの息がかかるほどの距離まで、私に顔を近づけます。
そして柔和な笑みを浮かばせながら、美嘉さんは告げました。
美嘉「悠貴ちゃんとも、そんな姉妹になりたいな」
それはとても優しく、安心する声色。
悠貴「あ……えっと、その……」
私はなぜか上手く、言葉を返せません。
それにどうしてか、顔が熱くなってきました。
きっと、まだ熱が下がっていないから。
ホントは……照れてるだけだったり、するんですけど。
熱のせいということに、しておきます。
そんな私の目の前で、美嘉さんが小さく笑いました。
悠貴「ど、どうして笑ったんですかっ?」
美嘉「ううん、なんとなく。さて、お喋りはこれくらいにして、そろそろ寝よっか」
悠貴「そ、そうですねっ」
美嘉さんが私から離れて、自分の布団に戻ります。
美嘉「あ、それと寮のみんなも悠貴ちゃんのこと心配してたよ」
悠貴「みんなが?」
美嘉「だから、ぐっすり寝て風邪を治して、早く元気な姿見せてあげないとね★」
悠貴「……はいっ」
美嘉「それじゃ……おやすみ、悠貴ちゃん」
おやすみなさい、美嘉さん。
そう返そうとしたけれど、言葉を紡ぐ直前に、私は逡巡します。
今日、私をずっと看病してくれた美嘉さん。
私のために、こうして寝るときまで一緒に居てくれる。
そのおかげで今も、不安な気持ちにはならなくて。
今まで一緒に過ごした時間を、一つ一つ思い浮かべる。
これから一緒に過ごしていきたい時間も、想像して。
そして、たった今したばかりの、美嘉さんとの会話。
私の胸には、温かい想いが生まれていて。
だから……返す言葉に、相応しいのは―――
悠貴「おやすみなさい、お姉ちゃんっ」
自然と、私はそう口にしていました。
美嘉「!」
私の言葉に、美嘉さん―――お姉ちゃんは一瞬驚いたような表情に。
でも、すぐにそれは柔らかい表情へと。
美嘉「……うん、おやすみ」
悠貴「……おやすみっ」
お姉ちゃんと笑みをかわしてから、私は仰向けに体勢を変え、目をつぶる。
耳に入ってくるのは、私とお姉ちゃんの小さな呼吸音だけ。
なんだか、穏やかな気持ち。
風邪をひいているのに、今日はぐっすり眠れそう。
お姉ちゃんがあんなに親身に看病してくれたんだから。
きっと明日にはもう、風邪なんて治ってる。そんな気がする。
だから、『ありがとう』は、明日にとっておこう。
それで元気になったら……お姉ちゃんを、ランニングに誘ってみようかなっ。
少し時間がさかのぼります。
***
アタシは事務所の廊下を歩きながら、これからのことについて思案を巡らせていた。
妹は順調に増えてきてる。でもアタシの目標(妹ハーレム)には、まだまだほど遠いのだ。
美嘉「もっともっと、たくさん可愛い妹が欲しい……!」
幸子「呼びましたか?」
美嘉「わぁ!?」
ふいに、どこからともなく幸子ちゃんが現れた。
美嘉「さ、幸子ちゃん?」
幸子「カワイイと聞こえたので、てっきりカワイイボクのことかと。カワイイ違いでした?」
美嘉「あー……ううん、ある意味合ってる。凄いね、幸子ちゃんのカワイイセンサー★」
幸子「なんだ、やっぱりボクのことだったんですね。美嘉さん、ボクに何か用ですか?」
思いがけず、新たな妹を増やすチャンスが訪れた。よーし、この機は逃さないっ。
美嘉「実はね、幸子ちゃんにアタシの妹になってほしくて」
幸子「ふむふむ…………ふむ?」
幸子ちゃんが頭に疑問符を浮かべている。シンプルにこちらの意思を伝えたはずなのに、どうしたのだろう?
……あ、そっか。アタシとしたことが、言葉が足りなかったみたい。
幸子「あの……美嘉さん、よく意味が分からな―――」
美嘉「カワイイ幸子ちゃんに、アタシの妹になってほしいの!」
幸子「少し分かってきましたが、まだイマイチですね! もっと何かボクに伝えるべきことがあるんじゃないですか?」
少し乗り気になってくれたみたいだけど、まだ駄目か……なら3倍で!
美嘉「カワイイカワイイ幸子ちゃん! アタシのカワイイ妹になって!」
幸子「仕方ないですね~、そこまで言うならこのカワイイカワイイボクがカワイイ妹になってあげます!」
美嘉「幸子ちゃん!」
幸子「お姉ちゃん!」
がしっと、熱い抱擁を交わし合うアタシと幸子ちゃん。今ここに、新たな姉妹の絆が誕生したのだ。
みく「……2人とも、こんな廊下で何してるの?」
唐突にかけられた声に振り向くと、いつの間に来ていたのか、そこにはなぜかジト目になっているみくちゃんがいた。
美嘉「みくちゃん。何って、見ての通り姉妹でスキンシップをね★」
もう十分に抱きしめたので、アタシは幸子ちゃんから離れる。
みく「あ、なーんだ姉妹のスキンシップか―――って、にゃんでやねん!」
本場関西のノリツッコミを惜しみなく披露するみくちゃん。
みく「姉妹って何!? 美嘉チャンの妹は莉嘉チャンでしょ? いつから幸子チャンが美嘉チャンの妹になったのにゃ!」
幸子「1分くらい前からですね」
みく「出来たてほやほやだね!? え、ホントにどういう―――あ、そういえば未央チャンが、美嘉チャンが妹を増やして回ってるとか意味不明なこと言ってたけど……もしかしてそれと関係あるの?」
未央ったら、藍子ちゃんたちだけじゃなく事務所のみんなに触れ回ってるんだ。
美嘉「そーだよ、みくちゃん。さすがアタシの妹、察しがいいね★」
みく「みく、美嘉チャンの妹になった覚えないんだけど!?」
美嘉「だったら今からなろ! 美嘉お姉ちゃんはいつだって、可愛い妹ウェルカムなんだから★」
みく「いやそっちがウェルカムでもこっちはノーサンキューにゃ!」
幸子「サンキュー……ありがとうですか! みくさんもお姉ちゃんの妹になりたかったんですね!」
みく「都合よく聞き間違えないで!? 頭に『ノー』って付いたら、『いいえ結構です』って意味にゃ!」
美嘉「ノーサンキューをノーサンキュー★ ユー、アタシのシスターになっちゃいなYO!」
日本語と英語を織り交ぜた国際的口説き文句を吐きつつ、アタシはみくちゃんを後ろから抱きしめる。
みく「うにゃ!?」
美嘉「ふっふっふ……これでもう逃げられないよ、みくちゃん」
わざとらしく悪者っぽい台詞を告げ、わざとらしい邪悪な笑みを浮かべるアタシ。
気分はまるで、ちょっぴり意地悪なお姉ちゃんだ。
みく「な、何する気? たとえ何をされようとも、みくは自分を曲げないよ! 妹になんてならないにゃ!」
美嘉「くっくっく……アタシにアレをコレされた後でも、その台詞が吐けるかな?」
みく「アレをコレするって何をどうするの!?」
美嘉「ソ・レ・を~……こうするってことだよ★」
アタシはみくちゃんの耳元で囁きながら、みくちゃんのソレに手を伸ばし優しく触れる。
みく「っ!」
すると、みくちゃんの体がビクンッと震えた。
美嘉「ん~? みくちゃん、どうしたのかな?」
みく「ど、どうもしてないにゃ!」
美嘉「ふぅ~ん……」
触れた指で、みくちゃんのソレをすーっと撫でる。
みく「ひにゃっ!?」
美嘉「どうしたのかな~?」
みく「や、やぁ……そこ、はっ……」
美嘉「ここがいいの?」
みく「ちがっ……そこ、やめ……っ」
艶めかしい声を漏らすみくちゃんの懇願に耳を傾けず、アタシは指を這わせ続ける。
美嘉「ふふっ、我慢しないで? 気持ちよくなっていいんだよ、みくちゃん」
みく「も、もう……駄目っ、みく……みく……っ! ……にゃっ、ぁぁああああんっ!」
我慢が限界に達したのか、ついにみくちゃんは大きく声を上げた。
アタシは触れていた指先を離す。ついでに抱きしめていた身体も離してあげた。
美嘉「気持ち良かった?」
みく「ぁ……ぅ……」
みくちゃんはアタシの問いに答えはしなかったけど、気持ち良かったかどうかなんて、火を見るよりも明らか。みくちゃんの全身から力が抜けているのが分かる。
みくちゃん、そんなに気持ち良かったんだ……アタシの喉元なでなで。
幸子「さっきからお姉ちゃんとみくさん、台詞だけ聞いてるとえっちぃですね……」
美嘉「? 幸子ちゃん、何か言った?」
幸子「いえ、なんでもないです!」
美嘉「そう?」
アタシはもう一度、みくちゃんのソレ(首元)を撫でる。
みく「ふにゃぁぁぁあああ……美嘉チャン、やめてったらぁ……」
とろけたような表情でそんなこと言われてもね。
美嘉「美嘉チャンじゃなくて、お姉ちゃんだよ~」
みく「お姉ちゃ~ん、や~め~て~よ~」
美嘉「や~め~な~い~★」
なんだか、ホントにネコちゃんあやしてるみたいで楽しいんだもん。ご~ろごろごろ~。
幸子「というか、いつまでもこんな廊下にいないで、事務所に行きましょうよ」
美嘉「あ、それもそっか」
幸子ちゃんに言われ、アタシはみくちゃんの首元から指を離す。
みく「ようやく終わった……」
美嘉「みくちゃん、続きは事務所でね」
みく「や、やらなくていいにゃ! ていうかみく、宿題やらなきゃいけないし!」
美嘉「宿題? わざわざ事務所でやるの?」
みく「……難しそうだから、事務所なら分からないとこ誰かに聞けるかなって思って」
美嘉「なるほどね。それなら、お姉ちゃんが手伝ってあげる★」
みく「え、いいの?」
美嘉「アタシはみくちゃんのお姉ちゃんだからね」
みく「ありがとにゃ、お姉ちゃん!」
美嘉「幸子ちゃんのも見てあげよっか?」
幸子「いえ、ボクは宿題持ってきてないですから。なので代わりに、カワイイボクを褒めちぎってくれてもいいですよ!」
それは何の代わりになるのだろうか。
まあ、カワイイ妹がそうしてほしいのなら、いくらでも褒めちぎるけど。
美嘉「オッケー★ じゃ、行こ、2人とも」
そして、アタシは新しく出来た妹2人を連れて、事務所へと向かったのだった。
幸子ちゃん、みくちゃん、妹攻略完了★
***
ふと海の方を見ると、水着姿の妹たちが波打ち際で水をかけ合っている。
未央『てりゃっ』
卯月『はぷっ!? もう、未央ちゃんいきなり……! お返しっ!』
未央『ふっ、それは残像――』
凛『甘いよ』
未央『わにゃ!? やったな、しぶり――』
卯月『私も♪』
未央『追撃!? ちょちょ、待って、2対1はずるくない!?』
距離があるせいで、何を話しているのかは聞こえない。
でも、仲良くたわむれている3人を見ているだけで、思わず口元が綻んだ。
燦々と降り注ぐ、真夏の日差しに照らされる妹たち。……眩しい。
その姿は、普段の数割増しで輝いているように感じられる。
まあ、妹たちはいつだって、宇宙の何よりも輝いてるけどね★
シャイニング・妹・フォーエバー。妹の輝きは永遠なり。
美嘉「やっぱりさ……妹って最高だよね★」
視線を海から戻し、アタシはそう告げた。
未央たちの遊んでいる波打ち際から、少し離れた位置にある海の家。
その海側に面したテーブル席に、アタシを合わせた4人が座っている。
アタシたちも水着に着替えはしたけど、今はここで冷たいフラッペを食べながら、まったりとガールズトークに花を咲かせている最中。
そのガールズのうちの一人―――アタシの正面に座る奏が、なぜか呆れたような表情でこちらを見てきた。
奏「美嘉。あなた、シスコンにどんどん拍車がかかってきてない?」
美嘉「あ、分かっちゃう? 照れるな~、もう」
アタシは照れ隠しに頬をかく。
まさに奏の言う通り。アタシの妹たちに対する愛情は、日に日に深まっていくばかりなのだ。
でもまさか、それを見抜かれるとは思わなかった。
なんて観察眼……侮りがたし、速水奏。
奏「おかしいわね、シスコンって褒め言葉だったかしら……?」
その奏が額に手を当てて、何かを呟いている。どうしたのだろう。
アタシは疑問に思うも―――テーブルに乗っている食べかけのフラッペを見て、理解する。
なるほどね。フラッペを食べたせいで、頭がキーンってなってるんだ。
アイスクリーム頭痛って言うんだっけ?
美嘉「一気に食べるからそうなるんだって。もっと味わって食べなよ★」
奏「何の話してるの?」
恥ずかしいのか、とぼけてる。まったく、アタシの鋭い観察眼は誤魔化せないのに。
微笑ましい目で奏を見ていると―――その奏の隣にいる唯が、朗らかに笑った。
唯「美嘉ちゃんの妹愛は、もうとどまるとこを知らないよね~☆」
美嘉「まーね、唯。愛情に限界なんてないから★」
唯「おっ、名言頂きました! そんな美嘉ちゃんにはイチゴフラッペを進呈~♪ はい、あーん♪」
美嘉「あーん♪」
唯がスプーンを差し出してきたので、アタシは遠慮なく口にする。
唯「どうどう? イチゴ味もけっこーイケるでしょ~?」
美嘉「んん~♪ 確かにイケるね、これ★」
アタシの注文したレモンフラッペも美味しいけど、唯のイチゴフラッペも中々の味だ。
冷え冷えの氷イチゴを堪能し終えたアタシは、自分のフラッペをスプーンですくい、唯へと向けた。
美嘉「はい、お返し。あーん♪」
唯「あーん♪……あぅっ!? キーンってきたキーンって!」
美嘉「あははは、唯もなの~?」
奏も唯も、律儀にお約束を守らなくていいのに。
―――つんつん。
……ん? 今、横から体をつつかれた気が。
自分の左隣へと視線を移し、アタシは訊ねる。
美嘉「加蓮、どしたの?」
加蓮「私にも一口ちょーだい、お姉ちゃん♪」
なんだと思ったら、妹に可愛くおねだりされた。
美嘉「いいよー★ はい、あーん♪」
加蓮「あーん♪」
アタシが二つ返事でスプーンを差し出すと、それを加蓮はぱくりと口にした。
加蓮「んー……うん、レモン味もそれなりにイケるじゃん」
美嘉「ちょいちょい。分けてもらっといて『それなり』はなくない?」
アタシはそのそっけない感想にツッコミを入れる。
すると、加蓮はその純真無垢な瞳で、まっすぐにアタシを見つめてきた。
加蓮「でも私……大好きなお姉ちゃんに、嘘なんてつきたくないから……っ!」
美嘉「っ! か、加蓮……」
両の瞳を潤ませる加蓮の思いを聞き、打ち震えるアタシ。
そっか……そうだよね。
加蓮は正直な感想を言ってくれたのに、アタシったら……。
美嘉「―――って、そんなんで騙されるわけないでしょ」
冷たく言い放ち、アタシは加蓮のほっぺたにスプーンの先っちょを押し当てた。
加蓮「ちめたっ!?」
美嘉「言っとくけど、お姉ちゃんはそこまでチョロくないからね?」
少なくとも、妹に対してだけは。
加蓮「むぅ……お姉ちゃんって、妹に対してはベタ甘かと思ったら、そうでもないよね」
美嘉「『甘えさす』のと『甘やかす』のは違うの」
そこをはき違えると、妹の成長に悪影響を与えてしまう。
お姉ちゃんとして、そんな愚かな過ちは犯さない。
奏「美嘉は重度のシスコンだけど、まともな思考も持ち合わせてるのが救いよね」
奏にしては言葉足らずな発言をする。
今の台詞だと、まるでアタシがまともでない思考も持ち合わせているかのように聞こえてしまうのに。
それはさておき。
美嘉「まあでも基本的には、妹に甘いけどね、アタシ★」
スプーンをテーブルに置き、アタシは左手で加蓮の頭を軽く撫でる。
加蓮「ん……」
美嘉「あからさまな演技でも、さっきの台詞は嬉しかったよ、加蓮♪」
加蓮「そ、そう? でもその……一部は嘘じゃないから、あれ」
美嘉「一部?」
一部ってなんだろう……あ、レモンフラッペが『それなり』って部分か。
さっきはああ言ったけど、誰にだって好みはあるし、それは仕方ないかな。
唯「もうすっかり加蓮ちゃんも、美嘉ちゃんの妹だね☆」
加蓮「唯もお姉ちゃんの妹になっちゃえば?」
美嘉「いや、それは無理があるから」
加蓮「ふふっ、ジョーダンだって」
まあそれは分かってたけど、それでも拒否させてもらった。
唯はアタシと同い年。というか、誕生日を考えたら、唯の方が年上だ。
そうなると、むしろアタシが唯の妹になってしまう。それは正直、勘弁してほしい。
加蓮「それにしても……まさか南の島に来られるとは思わなかったよね」
奏「そうね。二泊三日の慰安旅行―――しかも事務所の全員でなんて」
美嘉「プロデューサー、スケジュール調整頑張ってたしね。感謝感謝★」
みんなで来られたのは、プロデューサーの頑張りのおかげだろう。
その本人は島に着いた途端、『じゃ、俺、素潜り漁してくるから。バイビー!』とか言って、モリを片手に海へとダイブしてたけど。……あれには唖然とするしかなかった。
唯「プロデューサーちゃんもだけど、桃華ちゃんにも感謝だよね~☆」
美嘉「いやー、うん、それはホント驚いたよね。……まさかのプライベートビーチって」
最初聞いた時は、当然のように冗談かと思った。
話によると、アタシたちのいるこの島は、丸ごと桃華ちゃんの家が所有しているらしい。
だから、アタシたち以外の島にいる人は全て、櫻井家の使用人さんだそうだ。
つまりこの島、アタシたちの貸し切り状態。
今食べてるこのフラッペとかも、当然のように無料である。
とんでもない贅沢してるよ、アタシたち。
奏「確かに驚いたけど、気兼ねなくのんびりできていいんじゃない?」
美嘉「ま、それもそだね」
基本的に、この三日間はそれぞれ自由行動。
既にみんな、島のあちこちに散って、好きなことをしている。
アタシも、このガールズトークが終わった後は―――。
加蓮「それでさ、お姉ちゃん」
美嘉「なに?」
加蓮「お姉ちゃん、この旅行の間に、妹を増やす気なんじゃないの?」
美嘉「!」
加蓮の言葉に、アタシは衝撃を受ける。
まさにその通り。
このガールズトークが終われば、すぐにでもアタシは新たな妹を増やしに行こうと考えていた。
美嘉「まさか気付かれていたとはね……さすがはアタシの妹」
加蓮「あ、やっぱりそうなんだ?」
奏「え、ちょっと待って、美嘉。せっかくの旅行なのに、そんなことに時間を費やす気なの?」
美嘉「こんなまたとないチャンスに、妹を増やさないでどうするの!」
アタシは『ばんっ!』とテーブルを叩き、立ち上がった。
美嘉「普段は仕事やレッスンですれ違って、妹にしたくても、その機会がない子ばかり……。でも、この旅行ではその子たちが一堂に会してる! ここで妹にしなくていつするの!」
今しかないのだ。旅行から帰れば、きっとまた会えない日々が続く。
それでは妹ハーレムが完成するまで、何年かかるか分かったもんじゃない。
美嘉「アタシはこの旅行で、妹を30人以上に増やしてみせる……!」
無謀ともとれる決意を、アタシは今、口にした。
今、アタシの妹は11人。
だから少なくとも、19人は妹にする必要がある。しかも、期間はたったの3日。
実際の所、かなり厳しいだろう。
それでも―――。
美嘉「絶対にやり遂げる! 愛する妹たちに誓って!」
加蓮「お姉ちゃんが燃えてる!」
唯「すっごいパッションを感じるよ!」
奏「暑いときのフラッペは、格別に美味しいわ」
妹たちとのサマーバケーション―――思いっきり満喫するんだから★
そんなわけで、サマーバケーション編開始となります
勢いでサマーバケーション編始めましたが、イマイチ筆が進んでいません。
前からほぼ月に1、2回のペースで投下していましたが、元々遅筆なのでこれからもどうしても投下ペースが遅くなると思います。
なので、これからは投下の仕方を変えて、まとまった話ごとに新しくスレを立てて投下しようと思います。
例として、次はサマーバケーション編を書き終えたらまとめて投下したいと考えています。
とりあえず、書けている次の話までは今投下しておきます。
***
光が失われた視界。何も見えない暗闇の中。
アタシは、どこへと歩みを進めればいいのだろうか。
前、右、左、それとも後ろ?
今のアタシには、何も分からない。
ねえ……だから、お姉ちゃんに教えて。
アタシは、どっちへ行けばいいの……?
「そのまままっすぐです!」
「右だよー!」
「と見せかけて左ですわ!」
「上でごぜーます!」
……どれやねーん。
あまりにもテキトーな指示だらけだったので、アタシは声を張り上げて問いかける。
美嘉「ちょっとちょっとー? 指示が全員バラバラっておかしいよー? ていうか、上って何ー?」
今の指示で、どうやってスイカの位置を割り出せばいいのだろうか。
「ふふっ、美嘉ちゃん、正しい指示だけじゃつまらないでしょう? さて、真実を言っているのは誰でしょうか?」
今の声は……なるほど、合点がいった。
あの人が、あの子たちに余計なことを吹き込んだのだ。
「斜め左です!」
「まっすぐだよー!」
「右ですわ、右!」
「下でごぜーますよっ!」
変わらずのバラバラな指示。
下は無いにしても、誰の言葉が正しいかなんて、分かるわけが―――待てよ?
唐突にアタシは閃いた。まさかとは思うけど……あの人ならあり得る。
さっきの声から位置を推測するに――――――。
美嘉「そこぉっ!」
スイカがあると思われる位置に、アタシは手にした棒を振り下ろした。
《―――パキャッ!》
―――手ごたえ、あり。
目隠しを取って確認すると、上手いことスイカが割れている。
そして、割った時に飛び散ったのであろう赤い飛沫が―――彼女の体に浴びせられていた。
美嘉「ねえ、ちひろさん。スイカを自分の手に持ってるのは、ずるいと思うんだけどな★」
ちひろ「……それを看破した美嘉ちゃんは、いったい何者なんですか?」
赤い果汁を一身に浴びたちひろさんは、驚愕に目を見開いていた。
*
仁奈「このスイカうめーですよ!」
薫「うん、すっごくおいしー!」
千枝「そうだねっ。冷たくて甘くて、シャリッとしてて♪」
アタシたちは砂浜に座りこみ、さっき割ったスイカをみんなで和気あいあいと食べていた。
桃華「それにしても美嘉さん。よくちひろさんがスイカを手に持っていると見抜きましたわね?」
美嘉「あははっ、ちひろさんの性格を考えたら、それぐらいはやりそうだなーって」
ちひろ「んん? 私、美嘉ちゃんにどんな性格だと思われているのかしら?」
美嘉「そこはご想像にお任せしまーす★」
ちひろさんの笑顔になぜか寒気を感じたので、アタシははぐらかして答えた。
スイカをかじりつつ、アタシは横目にちひろさんの体を確認する。
一応、アタシのせいではあるから気になったけど……うん、大丈夫そう。
かかったスイカの果汁は、きちんとシャワーで洗い落としたみたい。
水着がちょっと染みになっちゃってる気もするけど、その辺はちひろさんの自業自得だろう。
美嘉「あ、そうだ。桃華ちゃん」
桃華「なんですの?」
美嘉「今回の旅行はありがとね。桃華ちゃんのおかげで――」
桃華「お礼なんていいですわ。……というか、会う方会う方お礼を言ってこられるので、もうお腹いっぱいですもの」
美嘉「そ、そっか」
桃華ちゃん、流石にもううんざりって感じ―――だけど、そう言うわりにどこか嬉しそうでもあるのは、アタシの思い過ごしじゃないと思う。
お礼を言われて、悪い気はしないもんね。
でもまあ、必要以上の感謝はしない方がいいみたい。
もう話題変えよっと。
美嘉「にしてもこのスイカ、ホントに美味しいよね。アタシ、ほっぺた落ちちゃいそう★」
桃華「ふふっ、そうですわね」
桃華ちゃんと笑い合う。
実際、このスイカ美味しすぎる。
これ、桃華ちゃん家の使用人さんが用意してくれたんだよね……おそろしく高級品だったりするのかも。
怖いから、値段は訊かないけど。
―――シャリシャリ、シャリシャリ
みんながスイカをかじる音が、アタシの耳に入ってくる。
それと、寄せては返す波の音も。
都会の喧騒なんかは忘れて、まったりとした時間が流れていく。
とても心地のよい時間だ。
そんな中、ふと頭に浮かんだのは妹たちのこと。
妹たちは今、この島で何をして過ごしているのだろう?
ふふっ、あとで聞かせてもらおうかな。楽しみ。
…………ん? 妹?
なんか今、妹というワードが妙に頭に引っかかった。
何か大事なことを忘れているような――――――あ!?
美嘉「そうだよ、妹にするんだった!」
桃華「!? な、なんですの急に!?」
アタシとしたことが、一生の不覚……!
アタシ、桃華ちゃんたちに妹になってもらおうとしてたんじゃん!
桃華ちゃんたちとのんびりするのがあんまり心地よくて、本来の目的を完全に見失ってた!
危なかった……でもまだ間に合う。
アタシはまだ半分ほど残っていたスイカを瞬時に食べ終え、その場を立ち上がった。
そして、まだスイカを食べている桃華ちゃんたちの正面へと移動する。
美嘉「桃華ちゃん、千枝ちゃん、薫ちゃん、仁奈ちゃん」
真剣なトーンで呼びかけると、4人はスイカを食べるのを一旦やめて、こちらを向いてくれる。
そしてアタシは、両の拳を胸の前で強く握りしめ―――思いのたけをストレートにぶつけた。
美嘉「アタシの―――美嘉お姉ちゃんの妹になって!」
『? ? ? ?』
桃華ちゃんたちが揃って首をかしげた。
どうしたのだろう、直球で言葉を投げかけたのに。
まるで直球は直球でも、ストライクゾーンを大いに外れたとんでもないボール球が飛んできたような反応だ。
思えばアタシが『妹になってほしい』と言うと、毎回こんな感じの反応される気が……気のせい?
ちひろ「……ああ、例の」
ちひろさんは一人、何か納得したような顔をしている。
とりあえずそれは放っておいて、アタシは桃華ちゃんたちに明るく笑いかけた。
美嘉「ね、どうかな、妹。絶対幸せにするよっ★」
仁奈「妹でごぜーますか?」
千枝「美嘉さんの妹は莉嘉ちゃんじゃ……?」
桃華「日本語でしたのに、発言の意味が全く理解できませんわ……」
薫「かおるたちも、妹になれるのー?」
薫ちゃんがそんなことを訊いてきたので、アタシは頷いて返す。
美嘉「もっちろん! アタシをお姉ちゃんって慕ってくれる子は、みんなアタシの妹だからね★」
薫「そうだったんだー!」
ちひろ「ちょっと美嘉ちゃん? 何を純粋な子たちを騙そうとして―――いや違う!? この一点の曇りもない澄んだ瞳……まさか本気でそう思っていると言うの!?」
アタシの顔を覗いてきたちひろさんが、戦慄が走ったような表情で意味不明なことを口にしている。
どうしたのか少し気になるけど、今はスルー。
薫「じゃあかおる、妹になるー!」
仁奈「仁奈もなるですよー!」
桃華「薫さん!? 仁奈さん!?」
千枝「そ、そんな簡単にいいの?」
美嘉「ありがとー★ 薫ちゃん、仁奈ちゃん!」
さっそくアタシは、妹になってくれた2人をなでなでしようと―――して、髪に触れる直前で手の動きを止める。
薫「どうしたの?」
仁奈「この手はなんでごぜーますか?」
2人がきょとんとした顔を向けてくるも、アタシはそこから先に手を動かせない。
とんでもない事実に気付いたからだ。
アタシの手に、砂がこびりついている……!
砂浜にいるのだから、当然ではある。
でもこんな汚れた手じゃ、なでなでなんて出来るはずがない。
手に付いた砂を、頭にこすりつけるみたいになってしまう。……嫌がらせかっ!
頭でなく喉元をなでたとしても、ザラザラして痛いだけだろうし……なでなでにこんな弱点があったなんて。
一瞬、それなら抱きしめようかとも思ったけど、2人は両手でスイカを持っているから、それも出来ず―――。
美嘉「……ご、ごめんごめん、なんでもない」
薫・仁奈『?』
結局、一度なでるために出した手を後ろに引っ込めることに……なんという屈辱。
たかが砂の分際で、よくもアタシのなでなでの邪魔を……!
力の限りに踏みつけてやりたい衝動に駆られるも、さすがに踏みとどまった。
そんなことをしたら、薫ちゃんたちを怖がらせてしまう。
心を落ち着かせるため、アタシは幾度か深呼吸をする。……よし、落ち着いた。
うん、出来ないものは仕方ない。スキンシップは後にしよう。
アタシは妹になってくれた2人に微笑んでから、まだ色よい返事をくれていない2人へと視線を向ける。
美嘉「それで、千枝ちゃんと桃華ちゃんは、まだアタシの妹になる気はない感じ?」
千枝「えっと、なる気がないと言うよりも……」
桃華「妹になるということが、どのようなことなのか、まだ把握しきれていないのですわ」
桃華ちゃんの言葉に、千枝ちゃんもこくこくと頷く。
そんなに難しいことかな……でも2人がそう言うなら。
美嘉「そっか、なら仕方ないね」
桃華「分かっていただけて、何よりですわ」
美嘉「でも、お姉ちゃんはいつでもウェルカムだから★ 2人とも、妹になりたくなったらアタシをお姉ちゃんって呼んでね! そしたらもうアタシの妹!」
千枝「はいっ、その時はそう呼びますね」
ちひろ「随分条件緩いのね……」
その後、アタシたちはスイカを食べ終わると、日が暮れるまで砂浜で遊んだのだった。
とりあえず、今書けているのはここまでなので、ここで一旦このスレは終わりになります。
次のスレを立てる時は、サマーバケーション編の始めから投下しようと思います。
ここまで読んでくださり、ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません