卯月「トリックスター」 (28)
卯月「……これをこうして」
卯月「提督は……よし」
卯月「…………今ぴょん!」カチッ
提督「……ん? おっ……おっ? おおおおおおおおお!?」
大和「て、提督……?」
提督「おおおおおおおおおおあいだだだだだだだだだだだ!?」
大和「提督!? ど、どうされたんですか!?」
提督「椅子!! 椅子椅子がああいだだだだだだだだだだ!!」
大和「え、何!? 椅子!? あっ!!」
提督「ああああああああああああああああああああああ!!!」
大和「なにこれ!? 電極!?」
提督「うあああああああああああああああああああああ!!!」
大和「は、早く立ち上がって!! 椅子から離れてください!!」
提督「無理無理無理無理足つつつつったいだあああああああ!!」
卯月「ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!」バンッバンッバンッ
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提督「ほあああああああああああああああああああ!!!」
大和「提督!! し、失礼します!!」ギュッ
提督「らめえええええあああああああああああああ!!!」
大和「っせぇーのぉ!!」グイッ
提督「ああああああああああぁぁぁぁぁ……あっ…あっ…」
大和「提督!! 大丈夫ですか!?」
提督「あっ……あ、ああ……。あり……がとう……大和」
大和「良かった……、立てますか?」
提督「いや、足が……つってしまったようで……」
大和「いったい誰がこんな事を……」
提督「わからん……」
卯月「ぶっひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」バンッバンッバンッ
―――
――
―
翌日 駆逐寮
卯月(あーもう最っ高ぴょん)
卯月(提督の子ヤギみたいにプルプルした足……)
卯月「……ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
卯月「……ぴょん?」
張り紙「
最近、鎮守府内での悪戯行為が多発しております。
幸いなことに、大事に至る事故は起こっておりませんが、危険な行為である事にかわりはありません。
悪戯をした方は行為を止め、執務室へ来てください。
犯人を知っている、または心当たりがある方も、情報をお願いします。
秘書艦 大和」
卯月「……」
電「卯月ちゃん、何見てるのです?」
卯月「え? ああ、電ちゃんに雷ちゃん」
雷「なになに、何の張り紙? ……あー、昨日の!」
電「司令官さんがビリビリされたっていうやつなのです?」
雷「そうそう! 談話室のマッサージ機から電極取り外して司令の椅子に仕掛けられてたってやつね」
卯月「へー、そんな事があったぴょん?」
雷「あら、卯月は知らなかったの?」
卯月「うーちゃん、最近は遠征で忙しくって」
電「そうだったのですか。お疲れ様なのです」
雷「ほんと犯人は誰なのかしらね。今まで何度も悪戯はあったけど、一度も捕まったことないじゃない」
電「色々噂されてはいるのですが、誰にも解らないみたいなのです」
雷「でもなんかカッコよくないかしら、正体不明の犯人なんて。卯月もそう思わない?」
卯月「ん~、うーちゃんは良くわからないぴょん。でも危ない事なら止めたほうが良いと思うでっす」
雷「あら、真面目なこと言うのね」
卯月「うーちゃんはいつでも真面目ぴょん!」
電「暁ちゃんは幽霊なんじゃないかって怖がってますよ?」
雷「ぷぷっ、暁らしいわね! 今晩からかってみようかしら」
電「暁ちゃん、拗ねると長いからやめてほしいのです……」
雷「はいはい……、ってちょっと長話が過ぎちゃったわね。早く行かないと足柄さんに怒られるわよ」
電「そうですね。そろそろ行かないと……」
卯月「二人ともどこへ行く途中だったぴょん?」
電「足柄さんに当番日誌を出しに行く途中だったのです」
雷「毎週の事だけど、これ出しに行くのけっこう面倒よね。駆逐寮から事務室って遠いのよ」
電「庁舎まで歩きますからね。でも最近は暖かくなってお散歩も気持ちいいのです」
卯月「……ふーん、それうーちゃんも一緒に行っていいぴょん?」
電「え? 卯月ちゃんも庁舎に用事があるのですか?」
卯月「ないでっす。でもうーちゃん今日はお休みぴょん。うーちゃんも一緒にお散歩したいなーって」
雷「いいじゃない。一緒に行きましょ」
電「そうですね。じゃあ帰りに間宮さんによってアイスでもたべましょうか」
卯月「それナイスアイディアでっす! 賛成ぴょん!」
雷「さっさと提出して間宮さんにゴーね!」
電「はいなのです!」
卯月「おーっぴょん!」
卯月(…………そろそろなはずぴょん)
―――
――
―
執務室
明石「……あーなるほど。こりゃちょっと手が込んでますね」
提督「そうなのか?」
明石「はい。電極は低周波マッサージ機のものですが、ここで昇圧器噛ませてますね。出力上げられてますよ」
大淀「危険なものなの?」
明石「そうでもないのがまた嫌らしい所でね。上げてはいるけど、むやみに上げてる感じでもない」
明石「短時間なら致命的な影響はでないように抑えられてるっていうか。まあ、しばらくは足腰立たなくなるでしょうけど」
提督「ああ、確かに大和に掴まってないと歩くことすら出来なかったよ……」
明石「でしょうね。そしてそこが疑問なんです」
大淀「ただビックリさせる為ならそんな細工は要らない、と」
明石「うん。それに電源だって見つからないように床下を這わせたあとで椅子の中を通してますよ? ただの悪戯にしては手が込みすぎてますって」
提督「ふむ……」
明石「この間の超遠距離パイ投げ機だってそうですよ。軽い投射物の弾道計算とさらに風も読み当ててましたからね」
大淀「そんな事が出来る子なんて限られてくるんじゃないでしょうか」
明石「まー、私や夕張なら何とか出来ないことはないですよ。でも疑わないでくださいよ? そんな事して何になるっていうんですか」
大淀「そこなんですよねぇ……」
明石「高い技術を持っているわりにはやることが子供っぽいんですよ。子供の悪戯をそのままランクアップさせたようなね」
大淀「子供ねぇ……駆逐艦の子?」
明石「まさか。機械いじりに興味のある子は何人かいるけど、こんなレベルの子はいないよ」
大淀「だよねぇ……」
提督「まぁ、とにかく危ないものではないとわかって安心したよ。ありがとう」
明石「いえいえ。……でも、なんだか気味の悪いものですね」
提督「そうだな、本当に子供の悪戯であってくれればいいんだが……。ああ、呼んでおいて何の用意もしていなかったな」
大淀「お茶ですか? それなら私が……」
提督「いや、私が淹れるよ。いい茶葉があるんだ、二人は座っていてくれ」
大淀「この間大和さんが買ってきたものですね」
提督「ああ。金剛に淹れ方も教わったから少し披露して見たくてね」
明石「へぇ、じゃあお言葉に甘えさせて頂きますかね」
提督「そうしてくれ。ええと茶葉は……」バキッ
大淀「あなたが庁舎に来るのも久しぶりよね。いつも工廠に篭りっぱなしで」
明石「そう言えばそうかもね。まぁあっちが職場だし」
大淀「たまにはこっちにも顔だしてもらいたいんだけど」
明石「なにお淀、もしかして寂しいの?」
大淀「寂しい寂しい。貴女と離れると寂しくて書類が手に付かないのよ」
明石「ふふ、報告書出せってことでしょ? わかってますよー」
大淀「そんなこと言って、また結構貯めてるでしょ? 月末に纏めて出されると大変なの」
明石「はいはい。次からは気をつけます気をつけます」
大淀「もう、この間もそう言ってたじゃない。提督も何か言ってやって……え?」
明石「……あれ?」
大淀「提督、さっきまでそこにいたよね?」
明石「う、うん……って何あれ!? 床に穴開いてない!?」
大淀「は!? ちょっとどういう事!? さっきまでそんなの無かったわよ!?」
明石「もしかして落ちた!? 提督ー! 提督ぅー!!」
<ウォァァァァァァァァァァ!!?
<キャー! テ、テイトク!? テイトクガ!!
<ス、スマン! ミテナイ!! ミテナイカラ!!
大淀「大和の声……!?」
明石「うわ、この穴浴場まで貫通してるの!?」
庁舎 事務室
雷「足柄さーん、日誌もってきましたー!」
足柄「あーはいはい、ご苦労様。……うん、ちゃんとやってるわね。偉い偉い」
電「はいなのです!」
卯月「足柄さんもお疲れ様でっす!」
足柄「あら、今日は卯月ちゃんも一緒なのね」
卯月「はいぴょん!」
電「これから三人で間宮さんに行くのです」
足柄「あらーいいじゃない。じゃあこれあげるわ。はい割引券」
雷「え、いいの!?」
足柄「いいのいいの。私は行く暇ないから使ってちょうだい」
電「やったーなのです!」
卯月「嬉しいぴょん!」
足柄「……ふふ、子供はいいわね。あー私もこんな天気のい」
大和「誰かああああああああああ!!!!」ガラッ
足柄「おぅわ!!?」ビクッ
雷「きゃあ!?」ビクッ
電「ひぃ!?」ビクッ
卯月(来た……!)
大和「誰かっ!! 誰かああああああ!!! 救護!! 救護班!!」
足柄「ちょ…! ちょっと落ち着いて!! あんたなんで全裸なのよ!?」
大和「足柄!? 足柄あのね!! 救護!! いや救命!! 延命治療がね!!」
足柄「いいから落ち着きなさいって! 何があったの!?」
大和「提督がね!! 茶葉持ってね!! 降ってきたの!! 着水したの!!」
卯月「……」プルプル
足柄「は、はぁ!? 何言ってるかわからないわよ!!」
大和「だから茶葉が!! じゃなくて提督が!! 風呂に着水したの!! 茶葉持って!!」
足柄「あーもう落ち着きなさいって!! 意味がわからないわよ!!」
大和「私だって訳がわからないの!! お風呂に入ってたら隣に落ちてきたのよ!!」
足柄「落ちてきたぁ!? どこから!?」
大和「上からよ!! とにかくついてきて!! 怪我してるかもしれないの!!」
足柄「わかった、わかったからとにかくあんたは服を着なさい! 三人とも手伝ってくれる!?」
雷「わ、わかったわ!」
電「はいなのです!」
卯月「わかりましたぴょん!」
―――
――
―
浴場
雷「うわー……なにこれ」
電「天井にぽっかり穴が開いちゃってるのです……」
足柄「提督、本当に怪我はないんですね?」
提督「あ、ああ。どこにも痛みはないし、多分大丈夫だと思う……」
大和「良かった……」
大淀「念のため医務室でみてもらいますが、とにかく大事にならなくてよかったですね」
足柄「それにしても、三階からここまで落ちて良く無事でしたね」
提督「自分でも不思議だよ……。床が消えたと思ったら、隣に大和がいて……あっ」
大和「……///」
提督「いや、す、すまなかった! 大丈夫! 見てはいない! 見てはいないから!」
明石「おー提督も元気そうじゃないですか、よかったよかった」ガララ
大淀「明石、二階の様子はどうだったの?」
明石「同じように細工されたみたいだね。三階の穴の真下が綺麗に抜けてたよ」
足柄「ここの真上って会議室でしょ? 今朝使った時は何もなかったじゃない」
提督「確か私が落ちた時に二階の床も抜けた気がする……一瞬のことであやふやな記憶だが」
明石「でしょうね。抜けた床の断面を観察したんですが、切れ込みを入れられた跡がありました」
大和「切れ込み?」
明石「割り箸みたいなもんです。ある程度の力が掛かったら梁や床材が折れて抜けるように、切れ目を入れて細工されてたんですよ」
明石「提督がその上に乗ったら床が耐えきれずパッカーン。落ちてきた提督の重みで二階の床もバッキーン。というわけです」
大淀「そんな……私だって今朝あそこでお茶を淹れたのに……」
明石「多分そこは計算されてるね、これ。私達が艦娘といっても、艤装を外したら重量は一般的な女性と同じ」
明石「つまりこの鎮守府内に限れば、体重が一番あるのは提督という事になる。それに合わせて切れ込みの深さを調節したんじゃないかな」
足柄「ふーんなるほどねぇ……って、何それ。昨日もその前も提督が酷い目にあってたじゃない。もしかして提督って狙われてるの?」
大淀「……そう見るのが自然ですよね」
大和「……悪戯は今まで何度もありましたが、まだ可愛げのあるものでした。でも、最近のは少し度が過ぎています」
雷「……大和さん、あれ結構怒ってない?」
電「……なのです」
卯月「……」
大淀「そうですね。本格的に犯人を探し出すべきかもしれません」
提督「ううむ……、犯人探しなどで鎮守府内をギスギスさせたくはないんだが……」
大淀「いつまでも怪我をしないとも限りませんよ。それにこのような事を野放しにするのも士気に関わります」
大和「私も犯人探しに賛成です。それと今回のように提督をお守りできなかったとあれば、秘書艦として立つ瀬がありません」
大和「暫くの間、提督の身辺警護をさせていただきます」
提督「……わかった。二人ともよろしく頼む」
明石「……なんだか大変な事になっちゃったねぇ」
足柄「まーねぇ。でも今までだって探してなかったわけじゃないんでしょ?」
明石「そうなんだけどさ。犯人の見当すらつかなくてね」
足柄「目撃情報とかもないの? これだけ大掛かりなことしてたら誰か気づきそうなもんだけど」
明石「それもさっぱりよ。いったいつ執務室に忍び込んでるのやら」
足柄「まるで霧か煙ね。不気味だわ」
明石「まーお淀も本気になったみたいだし、これからは今までのようには行かないんじゃない?」
電「あ、あのー」
卯月「うーちゃんたちは何をすれば……」
足型「あっ、ごめんごめん! 時間取らせちゃったわね」
明石「片付けは私達でやるから、三人とももう行っていいよ」
足柄「ほんとせっかくのお休みに付き合わせちゃってごめんなさいね。暇になったら何か奢ってあげるから」
卯月「わーい!」
電「やったーなのです!」
雷「じゃ、さっそく間宮さんにいくわよ!」タタタッ
電「はいなのですー!」タタタッ
卯月「れっつごーぴょん!」タタタッ
足柄「子供は元気ねぇ」
明石「じゃ、私は床の補修でも始めますかね」
―――
――
―
甘味処 間宮
雷「……ねぇねぇ。さっきのさ、例のアレよね?」
電「悪戯ですか?」
雷「そうそう! 私初めて現場みちゃったわよ!」
卯月「うーちゃんも初めてでっす!」
電「床に穴を開けるなんて凄いですよね」
雷「明石さんが言うには提督が乗った時だけ落ちるようになってたいうじゃない。どうやってるのかしらね」
卯月「さー、わからないぴょん」
雷「きっと凄い悪戯の達人に違いないわ! 悪戯小僧とかじゃなくて、ええと…そう! トリック・オア・トリートよ!」
電「トリックスターですか?」
雷「そうそれ! 謎の犯人トリックスターよ! カッコいいと思わない!?」
卯月「うーん……ちょっとよくわからないぴょん」
雷「えー何よそれー! わからないのー?」
卯月「雷ちゃんは漫画の読みすぎだと思うでっす」
雷「もー!」
電「……でも大和さんたちは怒ってたのです」
雷「まあそりゃそうよね。床壊してたし」
卯月「犯人探しもするって言ってたぴょん」
電「見つかるんでしょうかね?」
雷「さーね。悪戯なら江風や朝霜あたりがしそうかなとは思うけど、あんな器用なことできそうにないし」
卯月「上の人達にも悪戯なんてしそうな人はいないぴょん」
雷「秋津洲さんとかは?」
卯月「あー…」
電「暇だからですか?」
雷「ぷぷっ! まあそれもないわね。秋津洲さんじゃすぐバレそうだもん」
電「とっても意外な人が犯人さんなのかもしれないのですよ」
雷「本当は近くにいたりしてね……もしかして卯月とか?」
卯月「ない、ない、ありませんぴょん」
雷「だよねー。睦月型はって意外とみんな真面目だもんね」
卯月「今の三人の中だったら、一番やりそうなのは雷ちゃんでっす」
雷「えー!?」
電「電もそう思うのです」
雷「ちょっと! 何よそれー!」
卯月「ぷっぷくぷー、冗談ぴょん!」
雷「もー!」
―――
――
―
外
雷「じゃ、私たちはこれから暁の所行かないといけないから」
電「卯月ちゃん、またなのです」
卯月「はいぴょん! 今日は楽しかったでっす! また遊んで欲しいぴょん!」
雷「もちろんよ! 次は暁と響も呼ぼうかしらね」
卯月「じゃあうーちゃんも弥生を連れてくるぴょん!」
電「いいですね。賑やかで楽しそうなのです」
雷「じゃ、またねー」スタスタ
卯月「はいでっす! バイバーイ! ……」
卯月「…………」
卯月「ぶーーーーーーーーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!!」バンッバンッバンッ
卯月(あーやっべーぴょん! 今回はやばかったぴょん! 途中で笑い出す所だったぴょん!)
卯月(大和全裸て、風呂から全裸で事務室まで来たぴょん?)
卯月「……ひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」
卯月(提督も呆けた顔で本当に茶葉持ってたし、思い出し笑いで今晩寝られるか心配ぴょん!)
卯月(いやー満足満足! 今回も悪戯大成功でっす!)
卯月「……」
卯月(そう言えば、犯人探しがどうとか言ってたけど……ま、せいぜい頑張って欲しいぴょん)
卯月(準備、手口、偽装にアリバイ。果ては普段のキャラ作りに至るまで、うーちゃんに一切の隙はないのでっす)
卯月(たとえ執務室組が血眼になって探そうとも、うーちゃんの尻尾すら掴めるはずはないぴょん)
卯月(誰にも悟られず、誰もが驚く悪戯を。うーちゃんを捕まえられると思っているのなら……)
卯月「捕まえてみるがいいぴょん……」ニヤッ…
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