「サターニャって私のこと好きなの?」 (35)
昼休み。いつもの教室。
例によってサターニャが勝負を挑んできたので、私は呆れた顔で言った。
もちろん冗談のつもりで、ただそう言えばサターニャが勝手に恥ずかしがって引いてくれるだろうと予想していたんだ。
だけど
「うん、好きよ」
サターニャは出会ってから今まで私に一度も見せたことのない真剣そうな顔をしていた。
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「……は?おいサターニャふざけるのはやめ……」
私がそう言いかけて途中でやめたのは、サターニャの纏う雰囲気がいつもとは明らかに違っていたからだ。いくら私でもこの状況でお茶は濁せない。私もサターニャも次の言葉を慎重に選んでいた。しばらくの沈黙が訪れる。
そんな私たちのことなど気にも止めずに、教室は程よい喧騒を維持したままだ。
「ん、どうしたのあんた達そんなに真剣な顔して」
トイレから戻ってきたヴィーネが訝しそうに私たちを見ている。
「べつに、なんでもないわ!私も行ってくる」タタッ
そう言って教室を出ていくサターニャの背中を私はただぼーっと見送っていた。
「今日のサターニャ、なんかいつもより元気ないような……ねえガヴ?」
「えっ?あ、あいつのことだから、きっとまたメロンパン食べ損なったとか下らない理由だろ……!」
「そうなのかな……まあサターニャのことだから大丈夫よねっ」
サターニャが教室に戻ってきたのは午後の授業が始まる寸前だった。きっと私とどう接したらいいか気持ちの整理がつかない状態だったんだろう。
授業中、私の頭の中はサターニャのことを考えるためにフル稼働していた。
『うん、好きよ』
あの時のサターニャの顔……マジだった。
いきなりあんなこと言われたら誰だって戸惑うだろ。
私は考える。
私はサターニャのことどう思ってるんだろう?
確かに驚きはした、しかし不思議と嫌な気はしなかった。
むしろ……なんだか安心した……。
それまで無意識に抱いていたサターニャへの不透明な気持ちの輪郭が、少しだけ見えるようになったというか……。
って、何考えてんだ私は。
あいつは、サターニャは悪魔なんだぞ。
そもそも私は女の子だし、どう考えてもダメだろ色々と!
ふいにサターニャの方に目をやる。
あいつも考え事をしているのか、抜け殻のように黒板をぼーっと眺めていた。
ああっ、もう……なんなんだよ一体。
モヤモヤする。
このままじゃダメだ。
とにかく、学校が終わったらあいつと一緒に帰ってみるか。
学校が終わり、下校時間になるとサターニャは足早に教室を出て行ってしまった。
「悪いヴィーネ!今日は一緒に帰れないっ」ダッ
気がつくと私は走ってサターニャのことを追いかけていた。
なんでこんなに必死なんだよ私。
はは、走るのしんどすぎ……。
「おいっ、待てよサターニャ……っ!」ハァ...ハァ...
「が、ガヴリール!?」ビクッ
下駄箱でサターニャを呼び止める。
どうやら間に合ったみたいだ。
しかし鈍足とはいえ、私の全力疾走とサターニャの早歩きが同レベルなのはちょっと笑える。
私は呼吸を整えながら勇気を出して言った。
「その、たまには一緒に帰らない、か?」
「えっ、あ……うん、別に構わないわよ!」
私の申し出にサターニャは鳩が豆鉄砲くらったみたいなマヌケな顔で驚いていたけど、すぐにいつもの調子で返事をしてくれた。
ああ、自分から誘うのってこんなに恥ずかしい行為だったんだなと、靴を履きながら私は思った。
帰り道。いつもは隣にヴィーネがいるけど、今日は違う。同じ悪魔には違いないけど、なんか新鮮というか、ソワソワする。
「…………なあ」
「ん?どうかしたのガヴリール」
「うん、いや、なんていうか……昼休みのことなんだけどさ」
「ぅえ、あ、あー!あのことね、あれはその……じ、冗談よ冗談!大悪魔たるもの常にジョークが言えるくらいの余裕がないとね」
「そのわりには目が泳いてるぞ」
「目が……泳ぐ?あんた何おかしなこと言ってるのよ、目が泳げるわけないじゃない!」
「あー、いいやなんでもない私が悪かった」
「ちょっと、なによその“やれやれ”みたいな顔はー!」
「ぷっ、はは……おまえってほんとバカだよな」
「ぐぬぬ、ばかじゃないもん!」ツ-ン
サターニャと二人でする雑談は、ヴィーネやラフィエルとする雑談とはちょっと違う。なんていうか、変な気遣いとかしなくていいから楽だ。
まあ、楽しくないと言ったら嘘になる……。
あとサターニャってこっちの話に対してのリアクションが大きいからシンプルに飽きないんだよな。
ラフィエルがサターニャを導きたくなる気持ちがわかった気がする。
あれ、私、さっきからサターニャのこと褒めすぎじゃない?
「あっ!!」
「ん、どうした??」
「駅前のメロンパンカフェ、今日からオープンしてるのすっかり忘れてたわー!」
メロンパンカフェ……まるでサターニャのためにオープンしたみたいな店だな。
このまま核心に触れずに帰宅するのは不本意だし、これはもう行くしかないか。
「じゃあ、せっかくだから行ってみるか」
「え!いいの?あんたってメロンパンそんなに好きだったっけ?」
「いや、そこは察しろよ」
サターニャってけっこう鈍感だよな。
駅前に着くと確かにメロンパンカフェという珍妙な店がオープンしていた。
「くっ、さすがに混んでるわね」
「いや、ていうか、混みすぎじゃね?」
店内はカフェというわりにファミレスくらいの広さがあるものの、満席だった。
しかしせっかく来たのに手ぶらで帰るのは大悪魔のプライドに傷が付くとかなんとかで、サターニャはいくつか気になるメロンパンを持ち帰ることにしたようだ。
「はぁ~メロンパンのこの甘ったるい匂いがたまらないわね」
好物の入った紙袋を愛おしそうな表情で見つめるサターニャは子供のように無邪気で、ちょっと、いや正直かなり可愛いらしい。こんなに純粋な生命体が他に存在するのか疑わしくなるレベルだね。
「ふ、安心しなさい!ガヴリールの分もちゃんと買っておいたから、今からあんたの家でメロンパン食べくらべするわよー!」
「え、わざわざ私の分も買ってくれたの……?」
「どうせあんたのことだから、課金?とかで金欠でしょっ」ニコッ
「!? ほ、ほっとけよ」ドキッ
あれ、なんだこれ。胸が、見えない何かで締め付けられるような。
サターニャの無邪気な笑顔が、すごく尊く感じる。もしかして、私、サターニャのことーーーーー
「相変わらず散らかってるわね、あんたってほんとに天使だったのかしら」
「しょうがないだろ、家に来るなんて思わなかったし、あと私は今でもギリギリ天使だから」
「結局ギリギリなのね」
「うるさいな、ちょっと待ってろ軽く片付けるから」
「仕方ないから私も手を貸してあげるわ!」
「ん、それは助かる」
最低限のくつろげるスペースが確保できたところで、二人ともベッドに腰かけると、サターニャがおもむろに紙袋からメロンパンを取り出す。
「はい、あんたのメロンパン」
「ちょ、なんかこれ、おっきすぎ……」
「種類が多くてわからなかったから適当に“ジャイアニズムSP”っていう一番すごそうなやつを選んどいたわっ」ドヤァ
普通のメロンパンの1.5倍はありそうだ。
まあせっかく私のために選んでくれたんだ、文句は言うまい。試しに一口。
「っ、美味い……!」
メロンパン特有の甘い香りを程よく周囲に漂わせ、外はサクサク中はフワフワという食感の王道を一直線に駆け抜ける自信たっぷりな生地。くどくない後味が次の一口を自然に誘導するよう絶妙に調整されている……まさかこれほどとは、恐るべしメロンパンカフェ!これならいくらでも食べられる気がする。
「ねえ、ガヴリールのもちょっとちょーだい」
「ん、いいよ全然、ほい」
「あーん」
「え、サターニャ、なにしてるんだよ」カァァ
「へっ?ガヴリールが食べさせてくれるんじゃないの?ほら、はやく」ア-...
「いや、それはさすがに恥ずかしいというか」
「なによ、あんた変に意識しすぎじゃない?別に口移しするわけじゃないんだから」ニヤァ
「そ、そんなわけ……っ、ああ、もうわかったよ」スッ
「あむっ」モグモグ
「…………」ドキドキ
「ぁむ、ん、ガヴリールのやつもそこそこ美味しいわね」ゴクン
「そ、そりゃよかったなっ」ドクン...ドクン...
こいつ、平然としやがって……ダメだ、さっきから主導権サターニャに全部握られてる気がする。これじゃいつもと真逆じゃん……。なんとか主導権取り返さないと。ていうかなんで私こんなにドキドキしてるんだよ……
「ガヴリール」
「な、なんだよ、もう一口もやらな…………っんぁ?!」
不意に、心地良い電撃が脳内に走った。
サターニャの吐息が、私たちの繋がった唇の隙間からこぼれる。時折、妖しい音を洩らしながら、それは徐々に激しさを増していった。
私はわけがわからなくなって、頭の中が真っ白になっていたが、なぜか拒否することもせず、それどころか気づけば私もサターニャを求めていた。
熱い。サターニャの柔らかい舌が私の口内を満遍なく徘徊する。ぎこちない私の舌の動きに合わせるように、優しく絡めたり吸い上げたり、丁寧に、慎重に、愛おしそうに、何度も何度も
「ぁっ……はぁっ……んんッ」
吐く息が灼熱のように感じる
息だけじゃなく、全身がまるでサウナの中にいるみたいに火照っていた
サターニャの手が私の服の中に侵入する
ひんやりとした指が私の肌をナメクジみたいにゆっくりとした動きで這っていて、あまりの気持ち良さに思わず鳥肌が立ってしまう
「はあっ……服、邪魔だから脱がすわよ……」
「っ……えっ、ちょ……やめっ……んんッ」
サターニャが私の口を唇でふさぎながら、同時進行でスルスルと器用に服を脱がしていく
下着を脱がされる際に恥ずかしくて抵抗しようと試みたけど、私の意思とは裏腹に身体はサターニャの攻めに対してそれほど必死に抵抗するそぶりを見せなかった
「さっ、サターニャ……ヤバいってこれ以上は……」
「あんたが可愛すぎるから悪いのよ」
意地悪そうな笑みを浮かべるサターニャは、普段とは考えられないほど妖艶で、大悪魔っていうのもまんざら嘘じゃない気さえしてくる
もう、ここまできたら……私も自分に嘘はつけない。意地を張るのはやめよう。私は私らしく抵抗してやろうじゃないか
「……ぬいで」ボソ
「ん、なに、聞こえないわよ」
「わ、私だけ裸とか不公平だろ!だから……おまえも洋服脱げ……っ」カァァ
「っ……ガヴリール……ごめん、私もう、とまれないかも」
どうやら私の言葉でサターニャの理性をかろうじて繋ぎ止めていた何かが切れたらしい。
洋服を全て脱いだサターニャは改めて見ると、かなりハイスペックな身体つきをしていた
てか胸の形めちゃくちゃ綺麗……なんだよその腰のくびれとか、腰骨にかけてのラインとかエロすぎだろさすがに……
「あんた、さすがに私の身体見すぎじゃない?」
「いや、おまえって、本当はサキュバスだろ」
「どうかしらね」
「なあ、サターニャ」
「なに、ガヴリール」
「私も好き」
「!??」ドキッ
「なに驚いた顔してんだよ、その、昼間の返事まだしてなかったから」
「ガヴリール……それほんと……?」
「そりゃあ最初は私も戸惑ったよ。あんな突然バカみたいなタイミングで告白されるなんて夢にも思わなかったしな。でも、サターニャが私のこと好きって言ってくれたとき、なんか全然イヤな気持ちしなくて……むしろ今までずっと意地を張って自分の気持ちに蓋をしてたのは私のほうだったのかなって」
「っ、」ポロポロ
「さ、サターニャ?!」
「わ、わたっ、私も……今までずっと我慢してて、でもっ、気持ち悪がられたらどうしようって不安で……だからいつも気づかれないように、悟られないように勝負って言って逃げてた……でも、あんたに好きなのかって聞かれたときに、もう限界で、自分を抑え切れなくて、気づいたら声に出ちゃって、それで……っ」
さっきまでのサキュバス的な妖艶さはそこにはなく、いつものサターニャが私の目の前にいた。
いつからだろう
私こんなにサターニャのことを。
泣きじゃくるサターニャを抱きしめる
サターニャの体温が直に伝わってきて
それがとても心地良く感じる。
「サターニャ、顔あげて」
「んえっ、ぁ……んっ」チュ
今度は私がさきほどのお返しと言わんばかりにサターニャの口内を弄ぶ
もう天使とか悪魔とか神とか世界とか
全部、どうだっていい
この先、私が本当に堕天する日が訪れるとするならば
それはきっと彼女のせいだろう
私の、バカで、それでいてとても大切な
大悪魔サターニャ様の。
---《Happy☆END》---
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