・シンデレラガールズ総選挙、小日向美穂応援SSです
ワアアアアアアア…………
「「美穂ちゃーーん!」」
「「みほたーーん!」」
「「ひなたーーーん!」」
「「こっひーー!!」」
美穂「みんなー! ありがとうー! 今までほんとうに……ほんとうにありがとう!」
美穂「みんなと一緒に駆け抜けたこの3年間……私は絶対に忘れないよー!」
ウオオオオオオオーーー!!!
「「美穂ー! 成人おめでとうーー!」」
「「卒業おめでとうーー! 美穂ーー!!」」
美穂「……っ、グスッ……ありがとう、ありがとうみんなー!」
美穂「私のファンでいてくれたみんな! これからもずっと、元気でねー!」
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P「……お疲れ。本当にお疲れさま、美穂」
美穂「ううっ、ううう……ぷろでゅーさーさん……わだじ……わだじ……」
P「ああ、今は思いっきり泣いていいんだぞ」
美穂「わだじ、この3年間すっごく、すっごく幸せでじた」グスン
P「俺もだ。……お互いせいいっぱい、やったよな」
美穂「はい……ぷろでゅーさーさんのおかげです!」
P「……こんなこと言っちゃいけないんだが、正直もっとお前をプロデュースしていたかった」
P「でも最初からそういう契約だったからな」
美穂「私も……でも、悔いはありません。プロデューサー」
P「……なんって良い笑顔してんだよお前……」(わしわし
P「ありがとう。こっちも後悔なんて吹き飛んだよ」
P「限られた時間だからこそ、俺たちは全力でやってきた。良く頑張ってくれたな」
美穂「えへへっ、はい!」
P「……そろそろ撤収の時間だ。名残惜しいが、もう行こうか。美穂」
美穂「はい……ここに来るのは、これが最後ですね……」
美穂(さよなら……アイドルだった私……)
P「で、だ」
美穂「はい?」
P「改めて俺からも。美穂、20歳の誕生日おめでとう」
美穂「えへへ……あ、ありがとうございます」
P(うわあ、顔今日一赤けぇ)
P「誕生日プレゼントっちゃあなんだが……まあその、成人したわけだろう? 今日で」
美穂「は、はい。まだそんな実感は無いですけども」
P「それでだな……こう、美穂に『はじめて』をプレゼントしてやろうと思ってな」
美穂「へ……ええっ!!?」ボフッ
P「ん……あ! いやいやいや違うぞ! イカガワシイ意味じゃないぞ、勘違いすんなよ!」
P「あれだ、その……酒。飲みに連れてってやるよ、今度の日曜」
美穂「わあ……! あ、ありがとうございます! 嬉しい……」
美穂「……のは嬉しいんですけれど、も」
P「え?」
美穂「実はその、はじめてはあの……先客といいますか、先に約束してた人がいまして」
P「はああ!? ちょ待っ……ええ……誰と? てか、いつ?」
美穂「それが……楓さんと、明日夜に」
P「」
美穂「ここ……かな」
楓さんから貰った地図通りに駅から来れたし、のれんに書いてある店名も合ってる。
でもやっぱり、こんな……いかにもな「居酒屋」って感じのお店、入るの緊張するなあ……
??「ふふっ、だーれだ?」
あ……
声を聞かなくてもわかる、この細くて綺麗な指は……
美穂「おはようございます、楓さん!」
楓「こんばんは、美穂ちゃん。待たせちゃったかしら?」
美穂「い、いえ! 私もたった今着いたところですからっ」
なんて、ちょっとデートみたい。
楓「そう? じゃあ、入りましょうか♪」
そう言って私の手を取る。ああ、手で触れるとより一層わかるなあ、綺麗な手。
楓「あら美穂ちゃん、ちょっと緊張してる?」
え……ちょっと手に力が入ってたかな?
楓「慣れない場所ですものね。大丈夫よ、今夜は私がエスコートするわ。
ここは私のいきつけのお店なの。大将も、とってもいい人よ」
楓さんの声に、仕草に、やわらかな笑顔に。さっきまでの緊張がほぐれていくのがわかる。
私は……アイドルとしての私は、こんなふうになれてたのかな?
楓「それじゃ~あ、行きましょう! 新成人一名様、ごあんな~い♪」
がらがらがらっ
楓「こんばんは~。大将、やってる?」
私には背の届かないのれんを軽く頭をかがめてくぐり、ふわっと入っていく楓さん。
??「おっ! 楓ちゃんお疲れ! 今日も美人さんだね!」
イメージしてたよりも明るい、魚屋さんみたいな声が返ってくる。
楓「うふふっ、ありがとう。でも今日はー……美人さんがもう一人いま~す♪」
楓「さ、美穂ちゃん。入って入って?」
美穂「あ、えと、お邪魔しますっ」
ぺこり。一礼して店内に踏み入ると、そこは自分の知らない空間。
お酒の瓶がずらりと並んだ棚、2つある小さなテーブル、
カウンターの奥にはねじりはちまきの店主さん。
大将「えっ!? 美穂ちゃんって、……こ、小日向美穂ちゃん!?」
美穂「どっ、どうも! はじめまして、こっ小日向美穂です」
楓「びっくりしたでしょう~? お酒の飲める歳になった記念に、居酒屋デビューなんです♪」
大将「いやあ、そりゃあびっくりしたよ……まあまあ、ともかくいらっしゃい! ささ、座んな」
楓「じゃあ、私はいつものところに……美穂ちゃん、こっちへどうぞ」
美穂「あ、は、はい! お邪魔しますっ」
促されるままに、カウンターに座る。
年季の入った傷だらけのカウンターは、よく拭かれているのかとってもきれい。
楓「それじゃあ早速、お酒を注文しましょうか」
ごくり。いよいよだ。
美穂「あの、私お酒はお屠蘇とか甘酒しか飲んだこと無いので、楓さんにお任せしますっ」
楓「わかりました♪ 折角だから、日本酒からいってみましょうか」
美穂「はい!よろしくお願いします」
楓「それじゃあ、大将…………と……を……で……」
大人だなあ……。慣れた感じでお酒を注文する楓さんの横顔に見とれてしまう。
楓「はい、美穂ちゃん」
おちょこを渡される。
楓「さあ、どうぞー」
とくとくとく。
楓「こんな寒い日は、やっぱり熱燗が一番♪」
美穂「あ、ど、どうも。ありがとうございま……おっとっとっと」
楓「ふふ、こぼれないように気を付けてね。それじゃあ、乾杯しましょう♪」
美穂「は、はい」
そーっと、おちょこを持ち上げる。
同じようにおちょこを持つ楓さんと目が合った。
楓「では。美穂ちゃん、20歳のお誕生日おめでとう」
楓「そして、3年間のアイドル活動、お疲れさまでした」
楓「これまでの美穂ちゃんと、これからの美穂ちゃんに。乾杯」
美穂「乾杯っ」
チンッ
楓「じゃあ、いただきましょう」
ちびり。お酒をひとくち飲むだけなのに、絵になる。さすが楓さん。
楓「さあ、美穂ちゃんも」
美穂「で、では……いただきますっ」
おちょこを口に持っていく。緊張で腕がちょっと震えて……こぼれそう……
美穂「んっ……!」
くぴっ……熱い!
熱いお酒が……お酒の香りが口から鼻へ抜けて、ふーーっと目が覚めるような気持ちになる。
美穂「ん…………、ふう……」
楓「どうかしら?最初の一口目のお味は」
美穂「なんだか……熱い、です」
楓「ふふっ。ゆーっくり味わってね。あんまり急に飲むと、悪酔いしちゃうから」
甘いような辛いような、なんだか不思議な感じ。これが……お酒の味。
美穂「おいしいですね、お酒って」
そう言うと、楓さんはとっても嬉しそうににっこり微笑んだ。
大将「はい楓ちゃん、いつものね!」
カウンターにおかず……じゃなくて、おつまみ? ……が並んでいく。
炙ったイカに焼き鳥、焼き魚、あとこれは……ぎんなんかな?
美穂「わあ、美味しそう」
楓「さあどうぞ。お酒だけだと胃が荒れちゃうから、美味しいものを食べながら飲みましょう」
美穂「はい! それじゃあ……いただきまーす」
楓「あっ、そのホッケは骨もやわらかいからそのまま食べられるわよ」
美穂「もぐもぐ……ほんとだ、美味しいです!」
楓「ふふ、よかった。美穂ちゃんって、こういうお酒のつまみ系はけっこう好きよね?」
美穂「えっ、知ってたんですか?」
楓「ええ。ご飯をご一緒したときとか、意外に渋い好みだわーって思ってたの」
美穂「えへへ……よく言われちゃいます」
楓「好きなもの、どんどん頼んでね。はーい、お品書き」
美穂「ありがとうございます!」
どれにしようかな……
普段ご飯を食べるようなお店とは全然違って、ほとんどが一品料理だ。
お値段は……うわっ。
楓「お値段は気にしないでね。今夜は私からのプレゼントだから」
お……お言葉に甘えて……いいのかな。
楓「あら? おちょこ、もう空いたのね。はい、どうぞ」
美穂「あっ、ありがとうございます。おっとととと」
楓「初めてにしては、ペース早めかしら」
美穂「んく、んく……そ、そうですか?」
楓「思った通りだわ。美穂ちゃんって、お酒強そう。ご両親は飲まれる方なの?」
美穂「はい、どっちもお酒は好きでよく飲んでますね」
楓「そう……遺伝もありそうね。いいでんなあ♪ ふふっ」
美穂「へっ?」
楓「美穂ちゃんが飲める子でよかった。二人でお話しする機会もあまり無かったし、
一度こうしてゆっくりお話ししてみたかったの」
美穂「わ、私もうれしいです! 楓さんとこんなふうに、二人きりでお話しできるなんて」
楓「ふふ、ありがとう。でもまだちょっと……はい。緊張、してるみたいね」
そう言いながらまた、私のおちょこにお酒をついでくれる楓さん。
美穂「あ、す、すみません。私もおつぎしますね。……あれ?」
楓「なくなっちゃったわね。二人で飲んでると、早いものね」
楓「お酒は、緊張もどこかに吹き飛んじゃう魔法のお薬。今日は色々試してみましょう♪」
美穂「はいっ。よろしくお願いします」
楓「さあ、次は……どうしようかしら。ちょっと早いかもだけど、焼酎とか……?」
美穂「あっ……焼酎だったら、前に川島さんがラジオで飲んでたの……あれ、飲んでみたいです」
楓「ああ、まっくろ霧島ね♪ そういえば、瑞樹さんがボトルキープしてるのがあったわね」
指差された棚には……ほんとだ、力強く「川島瑞樹」と書かれたタグのついた大きな瓶が。
楓「ちょっと癖はあるけど芋焼酎の中では飲みやすい方だし、いってみましょうか♪」
楓「飲み方はお湯割りと、ロック……氷を入れる飲み方と、どっちがいいかしら」
ふと、大人っぽいバーかどこかでグラスを片手に雰囲気を味わっている李衣菜ちゃんの
イメージが浮かんだ。
美穂「じゃあ……ロックがいいです」
楓「ロックね、わかったわ。大将、瑞樹さんのボトルでロック2杯、おねがい」
大将「はいはい、程々にしときなよー」
美穂「え……あの、それ、川島さんのなんですよね……いいんですか?」
楓「いいのいいの。私と瑞樹さんでよく来るから、お互いちょっとずつ貰ったりしてるの」
大将「はいロックね。美穂ちゃん、ゆっくり味わいな」
美穂「あ、はい! いただきます」
楓「それじゃあ改めて、今夜はロックにいきましょうー。いぇーい」
美穂「楓さん、ちょっと酔いが進んできてますね……あはは……」
くぴっ。
美穂「!!」
なにこれ!?
さっき飲んだ熱燗とはまた違った鮮やかな香りがふーっと鼻を抜けていって、
味は甘いのに甘いだけじゃない……なんだか変な感じ……?
美穂「でもこれ……好き、かも」
楓「あらあら、焼酎も結構いけちゃうのね?」
美穂「えへへ……日本酒と焼酎って似たものだと思ってたんですけど、だいぶ違うんですね」
楓「そうね、細かく説明しちゃうと長くなるけど……鹿児島なんかの九州南部は日本酒造りに
不向きなかわりに焼酎造りが盛んだとか、地域ごとの差がかなりあったりするわね」
地域ごとの違い……
美穂「そういえば、熊本も南部の方が焼酎が有名だって聞いたことがありますね」
楓「ああ、熊本の米焼酎なんかも素敵ね……それじゃあ次は熊本のお酒、いってみましょうか」
美穂「はい! 両親が飲んでた地酒とか……試したいことがいっぱい出てきちゃいました!」
楓「ふふ、いいわね。美穂ちゃんが楽しんでくれて、私も何より」
くいっ。……ふーっ。なんだか私もいい気分になってきちゃった。
お酒飲んでる大人の人を見てて、ずっとうらやましいなーって思ってたけど……
やっぱり大人ってずるい!
楓「美穂ちゃん、ご飯もどんどん食べて。はい、さくらユッケ。あーん」
美穂「ええっ!?」
楓「あーん」
美穂「は、はい……あーん……」
ぱくっ。
楓「うふふふふっ、美穂ちゃん真っ赤になって、かわいい♪」
美穂「も、もうっ! もぐもぐ……」
楓「どうかしら? 馬刺しとか好きだって聞いてたから」
美穂「おいしい! 肉の歯ごたえがしっかりしてて、脂身もとろとろで……」
美穂「普段食べてるものも、お酒といっしょだとこんなにおいしくて、楽しいんですね!
いいなあ、大人って」
楓「美穂ちゃんだって、もうその大人の仲間入りなんですよ」
美穂「そっか。私ももう……大人なんだ……」
からん。コップの氷が音をたてた。
大将「はいっ、辛子れんこんお待ち!」
美穂「わあっ、いただきまーす! はむっ」
美穂「んふぅーっ」
これこれ! このつーーんってくる辛さがたまんない!
楓「ところで美穂ちゃん」
美穂「? はふほふ、はい、なんれひょう」
楓「プロデューサーさんとは、どこまで進んでるの?」
美穂「むぐぐっ!? んぅ、んぐー!」
楓「はい、お水」
美穂「んっんっ……んんんんー、鼻ぁ……鼻に辛子が……」
楓「あらあら、ごめんなさい……ちょっと意地悪しすぎたかしら」
ひどいです楓さん!
美穂「ふー……いえ、大丈夫です……」
美穂「はー……プロデューサーさんとはその、まあ……お付き合いはまだなんですけど」
楓「えっ、まだなの?」
美穂「はい……」
楓「私ったらもうてっきり、お付き合いしてるものとばかり」
美穂「お付き合いは、こ、これからですね……」
楓「やっぱり、『結婚を前提とした』?」
美穂「…………っ」(かあーっ)
そうなんです。
美穂「私がアイドルじゃなくなる日までは、お互いちゃんとアイドルとプロデューサーのままで
いようって……そう二人で決めてたんです」
楓「ふんふん。告白はプロデューサーさんから?」
美穂「いえ……」
楓「びっくり……意外と大胆?」
美穂「そ、そんなことは……うう」
あんまりこういう話は、卯月ちゃんや響子ちゃんぐらいにしかしたことなかったのに……
楓「じゃあ、美穂ちゃんの恋愛はこれからスタートするのね」
美穂「そ、そういうことになりますね。はい」
楓「なら、これからの美穂ちゃんとプロデューサーさんに。かんぱーい」
気付けば私たちの手元にはまた新しいお酒が。
楓「熊本の銘酒、美少年ー♪」
美穂「ええ……プロデューサーさんはたしかに可愛いとこありますけど、美少年って感じでは」
楓「あら。私は別に、プロデューサーさんのことなんて言ってませんよ?」
美穂「ううっ」
何言ってるんだろう私、恥ずかしい……
楓「こくっ……ふぅ。それで」
楓さんの目がちょっとだけ真面目になった。……ような気がする。
楓「引退してからは、どうするの? 専業主婦? ……は、まだなのね」
美穂「ゆくゆくは、はい……今は家事手伝い、見習いですね」
響子ちゃん達にいろいろ教えてもらったりしたから、自信は無くはない……かな。
楓「そう。もう芸能界とは関わることはないのね」
美穂「そういう契約……でしたから」
手にしたコップに視線を落とす。水面は波打って、映った自分の顔もはっきりとしない。
楓「本当のことを言うと、私はちょっと残念」
美穂「……」
楓「美穂ちゃんとのお仕事、私は好きだったから。
それにこんな可愛い子がアイドル辞めちゃうなんて、勿体ないもの」
美穂「そう……思ってもらえるのは、うれしいです」
でも。もう決めたことなんです。決まっていたことなんです。
美穂「3年前。プロデューサーさんからスカウトを受けて、養成所から事務所へ移ったとき」
この話は、まだ事務所の誰にも、したことがなかった。
美穂「最初は期限は特に決めてなかったんです。でも」
美穂「私の売り出し方……アイドルとしての方向性を、重役の方達を交えて協議した結果」
美穂「大人になるまでの期間限定、穢れを知らない天然記念物系アイドルとして」
美穂「男の子みんなが好きになってくれるような、アイドルの中のアイドルとして」
美穂「プロデュースされることが決まったんです」
美穂「老いて生き永らえるのではなく、絶頂期のまま伝説として名を刻むことが私の使命でした」
美穂「今時めずらしい純真さを評価してくれたんだって……プロデューサーさんは言ってました」
楓「……美穂ちゃんは、そのことには……納得してたの?」
美穂「……はい。私の個性をプロデューサーさんが見出してくれた結果ですから」
美穂「だから、がんばりました。3年っていう短い期間で、ぜんぶを出し切れるように」
美穂「私という人間の、ぜんぶを燃やし尽くせるよう……に……」
ぽたり。
美穂「あ……あれ」
楓「美穂ちゃん」
楓さんの手がやさしく、頬をぬぐってくれる。
美穂「なんで、わたし」
楓「大丈夫。ちょっとお酒が効いてきただけ。続けましょう」
楓「全部流しつくしても、吐き出しても、いいんだから。そういう場なのよ。ここは」
美穂「楓さん……わたし……わたし……」
楓「いいのよ。今ここにいるのは私だけ。なんでも言ってみて」
美穂「はい……ありがとうございます!」
ぐいーーーーっ。
楓「えっ」
美穂「ぷはぁ!」
楓「あの美穂ちゃん、さすがにそんなに一気に飲んじゃ――」
美穂「楓さん!」
楓「な、何かしら?」
美穂「わたし、やっぱりあなたに嫉妬してます!」
うわー、言っちゃった。言っちゃった。
自分でもたった今気付いたばっかりなのに。
美穂「楓さんは美人で、スタイルもよくって、きれいで、非の打ちどころのない素敵な人で」
美穂「ううん、そんなんじゃないんです。もっと本質的なところ……アイドルとして」
美穂「私、楓さんにはかなわないんです……」
言葉がどんどん、勝手に形になっていく。手がかたかた震えていく。
楓「美穂ちゃん……」
美穂「違う……そうじゃない。楓さんと比べてとかじゃ、ない」
自分でもわかってなかったもやもやの正体が、ぼんやりと形になっていく。
美穂「私、せいいっぱいやってきました。ううん、やれるだけやったつもりでした」
美穂「でもなんだか足りてないんです……満足したつもりになって……私は」
美穂「私はまだ、全然アイドルとして満足してなかったんです」
美穂「正直ずっとプロデューサーさんのプロデュースを受けていたかった……」
美穂「本当の限界が見えるまで、ずっと……」
美穂「楓さんは大人になってから、アイドルの道を歩み始めて」
美穂「年齢なんて気にしないで、自分を磨きながら高みを目指し続けてる……」
美穂「私はきっと、そのことが羨ましかったんです」
美穂「…………」
ああ。出しきっちゃった。
全力を出し尽くしたはずだと思ってた、私の3年間の本音。
出るわけなんてないと思ってた言葉が、こんなにもやすやすと産まれてきたことに驚く。
楓「そうだったの……心残りだったのね」
そっと。また楓さんのやさしい手が、私の手を包み込んでくれる。
楓「プロデューサーさんには、確かに言いにくいことよね」
美穂「……私自身も知らなかったんです。こんな気持ちを抱えてたなんて」
楓「そう。すっきり、できたかしら?」
美穂「はい。……ありがとうございます」
楓「引退が近付いて、美穂ちゃんがちょっと無理してるように見えたから」
楓「私もこうして美穂ちゃんの気持ち、聞くことができてよかったわ」
美穂「……やっぱり楓さんは、すごいです」
手をきゅっと。握り返す。
美穂「楓さんっていう素敵な先輩がいて。私、幸せです」
楓「私にとってもね、美穂ちゃん。あなたは素敵な後輩だったのよ」
楓「恥かしがり屋さんで照れ屋さんなのに、一度決めたらひたすら真っ直ぐに進んでいく」
楓「そんな健気な美穂ちゃんに、私はずっと元気と勇気を貰っていたのよ」
美穂「楓さん……」
楓「さあ、飲みましょう。もっと色々お話ししましょう」
楓「これまでの美穂ちゃんと、これからの美穂ちゃんのお話を。この素敵な夜が明けるまで」
・
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・
・
・
がらがらっ
大将「おっと悪いねお客さん、今日は貸し切りで……」
P「悪い美穂! 遅くなった! ……って」
美穂「んでねぇ、ほんっとにそのときはわたしはね、自分が情けなくってですねぇ……」
美穂「『私アイドルやぞ! 小日向美穂だぞ! そんなんでいいのか!』ってねえもう……」
楓「うっふふふふ、あははははは……やだもう、美穂ちゃんったら……ふふふふふっ」
P「うへぇ……」
大将「ああ、プロデューサーさんかい? いつもお疲れさんだねえ……」
P「いえ、どうも……こりゃあまた随分と、予想以上に出来上がっちゃってまあ」
大将「いやー、いいもん見せてもらいましたよほんと……お二人とも楽しそうで何よりですよ」
P「そうですか……おーい二人とも、迎えにきたぞー」
美穂「んぇ?」
楓「あら?」
P「美穂、大丈夫か? 気分とか悪くないか」
美穂「あ……プロデューサーくぅん……」
だきっ
P「はぁ!?」
楓「あっははははは! 抱きついたまま、寝ちゃって……美穂ちゃん……っふふふふ」
P「ちょ、楓さんも笑ってないでなんとかしてくださいよっ」
大将「やれやれ。大変だねえ、呑んべえが一人増えちゃったようで。どうも」
P「あはは……予想外です……」
楓「すー……すー……」
美穂「くー……むにゃムニャ」
ブロロロロロ……
P「ふぅ……まあ、だいぶ楽しんでたみたいだし、良しとするか、な」
P「全く嫉妬しちゃいますよ。楓さん」
P「…………」
美穂「えへへ……私と一緒ですね」
P「うわ! 起きてたのかよ」
美穂「プロデューサーさんの声で、今起きました」
P「あ、すまん……声に出てたか。着くまでまだかかるから寝てていいぞ」
美穂「プロデューサーさん」
P「ん……なんだ?」
美穂「私、本当のことを言うと、まだちょっと心残りなんです。アイドルのこと」
P「……」
美穂「プロデューサーさんと二人で、全力で完全燃焼してきたけど」
美穂「それでもやっぱり、まだアイドルしてたいって気持ちが、私にはあったみたいなんです」
P「……俺も。俺自身もそう思ってたし、お前のその気持ちも、なんとなくわかってた」
美穂「えっ!? そ、そうだったんですか……」
P「それで。……お前はどうしたい?」
P「既定路線通りに華々しく引退した以上、もう一度アイドルを目指すことは事務所の顔に
泥を塗ることになってしまう」
P「アイドルでなく、例えば女優やモデル、アナウンサーだとしても……同様だろう」
P「それでも何かをやりたいというのなら、言ってみてくれないか」
美穂「私は――」
美穂「私は、プロデューサーさん。あなたの隣がいいです」
P「……ありがとう」
少しの、静寂。
P「でもそれは……ええと、生涯の伴侶、的な意味でいいんだよな?」
美穂「ううん。そうじゃなくて」
P「え゛っ」
美穂「あなたと一緒に、同じ景色が見たくなったんです」
P「んっ……んん?」
美穂「プロデューサーさん」
P「お、おう」
美穂「だから、プロデューサーさんです」
P「???」
美穂「私を、」
P「……」
美穂「プロデューサーに、してください」
翌朝。
瑞樹「ちょっっっっとーー! どういうことよー! 楓ちゃーん!」
美穂「あっあの、楓さんとは前々からその、約束をしてまして」
瑞樹「美穂ちゃんと飲みたいのは楓ちゃんだけじゃないのよ! 抜け駆けだなんて許さないわ!」
早苗「タイホよ、タイホー! 酩酊防止法の適用案件よー!」
退寮とかのいろいろな手続きのために事務所に寄ったら、なんだか大変なことになっちゃった。
瑞樹「ねえ、卯月ちゃんもそう思うでしょー!?」
卯月「あはは……わ、私はまあ……お茶なら一緒によくしてますし、メールとか電話とか」
瑞樹「んもーー! そういうことじゃなくって! 大人の付き合いよ、つ・き・あ・い!」
卯月「へえっ!? おっお付き合いですか!? お、女の子同士でしていいものなんでしょうか」
早苗「同性婚ですって!? ダメよダメ、ちゃんといい男見つけなさい!」
瑞樹「そーーーじゃなくって!」
P「全く、ほっといたらすーぐカオスになるんだからこの事務所は……」
瑞樹「あーっプロデューサーくん! 渦中の人がどこ行ってたのよ!」
P「いや、この資料をだな」
P「っておい、いい大人二人! 昼間っからワンカップ開けてんじゃねえ!」
瑞樹「いやあねぇ、ただの空ビンだってばこれ」
P「空けてんじゃねえ!!」
早苗「えっ、いいオンナ二人?」
P「言ってねえ!!」
瑞樹「そりゃあ飲みたくだってなるわよ、ねえ?」
P「お前ら……」
瑞樹「私たちの可愛い可愛い美穂ちゃんが引退しちゃうのよー?」
P「……まあなあ」
P「ええいそんな事より。これだ、美穂」
美穂「あっ、ありがとうございます!」
早苗「んっ、なになに何よそれ」
卯月「パンフレット……と、書類ですか? これ」
瑞樹「ちょっと、プロデューサーくん! これって……」
P「ああ……うちの事務所の、まあ、求人の資料だ」
瑞樹・早苗「えええーーーーーっ」
卯月「? きゅーじん?」
美穂「あの、私……プロデューサーを目指すことにしたんです」
早苗「うっそ、美穂ちゃんが!?」
瑞樹「思い切ったわねえ……」
卯月「えっ!? 美穂ちゃんが、プロデューサーさんを、目指す? でももう付き合っむぐっ」
美穂「えっえとっ! そうじゃなくってっ」
瑞樹「今何か聞こえた気がしたけどそれより……えっ、本気なの?」
美穂「は、はい。私、もう決めたんです」
美穂「私はアイドルを引退しましたけど、まだまだこの業界に関わっていたいなって」
美穂「だから今度は、この3年間で私が得られた経験ぜんぶを活かして」
美穂「同じ夢を持った人を応援していくことができたらって、思ったんです」
美穂「それが、先輩たちやプロデューサーさんから貰った恩の、ご恩返しだと思ったから」
早苗「美穂ちゃんっ……!」だきっ
瑞樹「応援するわっ! 私たちっ!」だきっ
美穂「えっ、あのっ……あはは、ありがとうございます」
卯月「ううっ、ずびっ……美穂ぢゃん……」
美穂「う、卯月ちゃん?」
卯月「よかった……わたし、まだ美穂ちゃんと一緒にいられるんだね」
美穂「ま、まだそうと決まったわけじゃないけど……採用されるかはわかんないし」
卯月「これでお別れだって思ってたから……うっ、うわああああああんっ」だきっ
美穂「う……卯月ちゃん……うん、うんっ……私、ちゃんと採用してもらえるように頑張るね!」
バターンッ
響子「話は聞かせてもらいましたよーー!」
幸子「どういうことなんですかー!
せっかくカワイイボクがお別れ会の段取りまでしてあげたといいますのにー!」
乃々「寝耳に水なんですけど……!」
美穂「みんな……!」
美嘉「もう……別々の道に行ってもズッ友だよ、って言おうと思ってた矢先にこれなんだもん」
加蓮「プレゼントだって用意してたんだから。ほら」
美穂「うわあ、大人っぽい服……あ、ありがとう……」
加蓮「でも、スーツ姿も案外似合ったりするのかもね」
紗枝「美穂はん、ちょーっぴり気ぃ早いけれど……これからもどうぞよろしゅうお願いします」
美穂「うん……うんっ……! よろしくね、みんな……!」
楓「あらあら、今日はなんだかずいぶん賑やかですね」
早苗「ちょっ、楓ちゃーん!」
瑞樹「んもー、酷いじゃないの抜け駆けなんてー! あと私の黒霧返してー!」
楓「おはよう美穂ちゃん。昨日だいぶ飲んでたけど、二日酔いとかない? 大丈夫?」
瑞樹「聞いてよー! もー!」
美穂「あはは……はい、なんともないですよ」
楓「そう、それは良かったわ。じゃあ大丈夫ね」
早苗「なにが大丈夫よー!」
楓「今夜はみんなでお疲れさま飲み会、しましょう♪」
幸子「ちょーっと待ってください! 今夜はボクが企画したお別れ会なんですからね!」
響子「そうです! お酒は無しですからね!」
楓「えー、残念です」
P「全く、楓さんは……」
楓「あら? 美穂ちゃん、退寮しちゃうの?」
美穂「えっ、まあ、そうですね……そういう契約でしたので」
楓「じゃあこれからは、プロデューサーさんのところに?」
一同「「「「えっ!!?」」」」ガタタタタッ
美嘉「どっどど同棲!!?」
乃々「み……美穂さんが、遠い世界に……」
紗枝「ややわあプロデューサーはん……不潔やわぁ」
早苗「逮っ捕っ」
P「ぐるじっ」
美穂「えっ、えとっ、そのっ」
卯月「えへへっ、たまに遊びに行ってもいいかな、美穂ちゃん?」
響子「花嫁修業、ばっちり役立ててねっ!」
美穂「……うんっ!」
――こうして、私の新しい生活が始まりました。
私のこれまでのせいいっぱいを詰め込んだ、新しい挑戦の日々。
大好きな人と、再び隣に並んで進む道。
大好きな人と、真っ直ぐ同じゴールを見つめて進む道。
……これは一夜の大人の付き合いがくれた、私の新しい物語。
今夜は誰と何を飲んで、何をお話しようかな?
楓「美穂ちゃん。また私と、焼酎でしょっちゅう、ご一緒しましょう」
美穂「ふふふっ♪ もう、楓さんったら。……はい!喜んで!」
―――おしまい
ここまで読んでくださってありがとうございました
美穂応援SSのはずが楓さん応援になってしまっているような気がしてきましたが
気が向いたら美穂に一票くださると幸いです
このSSまとめへのコメント
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