玉座に腰かける国王の前で、ひざまずく勇者。
「勇者よ、よく来てくれた」
「はっ」
「おぬしも知っておろうが、先日の魔王軍の攻撃で我が国の街が多大なる被害を受けた。
このような蛮行は断じて許されることではない」
「おっしゃる通りです」
「勇者よ、魔王を倒してくれ。武器はこちらで用意しておる」
「分かりました」
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謁見を終えると、案内役の兵士がやってきた。
「勇者様、こちらへどうぞ」
「うむ」
兵士の後を勇者がついていく。
二人とも一言もしゃべらぬまま、広い城内を歩き回る。
やがて二人は大きな一本道の通路にたどり着いた。
通路には頑丈な扉が幾つも設けられており、その警戒は厳重を極めている。
兵士が合図する、扉が開く、通過する、を繰り返し、二人は通路を進んでいく。
二十近い数の扉をくぐり抜けると、ようやく終点。
≪勇者以外立入禁止≫という意味の文字が書かれた巨大な扉が、
そのサイズに恥じない存在感を放っている。
扉の周辺は選りすぐりの屈強の兵士で固められている。
この扉は絶対に死守せねばならないという心構えがうかがえる。
兵士が勇者に向き直る。
「ここから先は勇者様しか入れません。さ、どうぞ」
「案内ご苦労」
ふうっと息を吐いてから、勇者が扉の中に入る。
巨大な扉の中には、なんの内装もないシンプルな部屋があった。
あるのは部屋の中央にある、高さ一メートルほどのデスクのみ。
そして、そのデスクの上には赤いスイッチが設置されている。
デスクの前に立つ勇者。
勇者は迷うことなく、人差し指でスイッチを押した。
あとはもう全自動だ。
スイッチが押されたことによって王国から核ミサイルが発射され、魔王の領土を攻撃するであろう。
今の世では、勇者とは「核スイッチを押す勇気のある者」を意味するのである。
勇者はぽつりとつぶやいた。
「昔は勇者と魔王の戦いってのは、夢と冒険とロマンに満ち溢れたものだって聞いたけど、
ここまで武器が発達しちゃうと、もうロマンもへったくれもないな」
― 終 ―
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