大和「もし許されるなら」 (270)
・独自設定あり
・提督鎮守府の艦娘が少数
・個人名あり
・グロシーンあり
・途中(主に戦闘シーン)地の文あり
・砲雷撃戦は殆ど皆無
・中二病全開の戦闘シーン
・書き溜めを投下するのでコメントに返信できない
その他、様々な点はありますが、それでも構わないという方はどうぞ
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某鎮守府 執務室
提督「やっと終わったか、8時間」
吹雪「喜んでくださいよ司令官、初めての大型建造でこれですよ!! きっと戦艦か空母です!!」
提督「空母はもう引き取って来たあいつがいるだろ」
吹雪「そうですけど、彼女一人では厳しい時もありますよ」
提督「あぁ、やっと戦力強化できるぜ」スッ
提督「皆を集めといてくれ、全員で迎えるぞ」
吹雪「はい!」タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「皆さん、いよいよですよ」ワクワク
北上「楽しみだねぇ」フワァァ・・・・・・・
大鳳「どんな方でしょう」ドキドキ
文月「優しい人かなぁ?」
利根「そうじゃと良いがの」
利根「それより吹雪、提督はまだ来とらんのか?」
吹雪「あ、あれぇ!?」キョロキョロ
吹雪「もう、あの人は!! すみません、連れてきます!」タッタッタッ
スタスタ・・・・・・
北上「お? 出てきたねぇ」
大和「大和型戦艦一番艦、大和。推して参ります!」ビシッ
利根「何と! 大和型じゃったか!!」
大鳳・文月「うわぁ・・・・・・!!」キラキラ
タッタッタッタッタッ・・・・・・
吹雪「何してたんですか、司令官!!」タッタッタッ
提督「小便行ってただけだろ」タッタッタッ
吹雪「ハァ、ハァッ・・・・・・。っ!? あぁ! この人が新しい艦娘ですか!? 」
大和「はい、大和です!」ニコッ
吹雪「まさか大和さんに会えるだなんて!」
大和「よろしくお願いしますね」
提督「ん? そいつが・・・・・・。っ!?」ハッ
大和「貴方が提督ですね? 大和型戦艦一番艦、大和です!!」ビシッ
提督「・・・・・・」
文月「? 司令官?」クイクイ
提督「! いや失礼。俺がこの鎮守府の責任者、提督の海原だ」
大和「提督、よろしくお願いします」
提督「お前ら、順番に自己紹介しろ」
吹雪「はい! 特型駆逐艦、吹雪です!! この鎮守府の初期艦です!」ペコ
北上「あたしは雷巡北上。よろしくねぇ」
文月「あたし、文月って言うのぉ。よろしくぅ」ニパァ
大鳳「装甲空母、大鳳です。よろしくお願いします」
利根「吾輩が利根である! 吾輩にドンと頼るが良いぞ」
大和「ふふふ、なかなか個性的な艦隊ですね。他の艦娘はどちらに?」
提督「これで全員」
大和「・・・・・・へ?」
提督「まぁ、詳しくは皆から聞いてくれ。皆、大和に鎮守府を案内してやれ」クル
提督「そうだ大和、案内終わって部屋を確かめたら執務室に来てくれ」
大和「あ、はい」
提督「じゃ、後は頼んだ」スタスタ
吹雪「大和さん、こっちです」グイッ
文月「こっちこっち~」グイッ
大和「あぁ、はい」スタスタ
提督「・・・・・・」スタスタ
提督(焦った、まさかあんなにそっくりとは・・・・・・)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大鳳「ここが食堂です。とはいえ人数が人数なので、一般家庭のダイニングレベルですけど」
利根「これであらかた案内したかの?」
大和「はい、ありがとうございました」
文月「大和さん、司令官に呼ばれてたのぉ」
吹雪「そうでした! 執務室に案内しますね」
大和「はい」
スタスタ・・・・・・
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「ここが執務室です。隣が司令官の自室ですから」
大和「吹雪ちゃん、今から何をするのでしょうか?」
吹雪「あぁ。ここに来た艦娘は皆やるんです」
大和「な、何をですか!?////」カァァッ
吹雪「如何わしい事じゃないですよ!?」アセアセ
吹雪「まぁ、大丈夫ですよ」
コンコン
吹雪「吹雪です。大和さんを連れてきました」
ガチャ
提督「早かったな、入ってくれ」
吹雪「では、後で食堂に」ペコ
大和「はい。ありがとうございました」
提督「で、どうだった?」
大和「皆さん本当に優しい方達でしたよ」
提督「仲良くしてくれたら何よりだ。そこに座ってくれ」
大和「はい」スタスタ
ポフッ
提督「さて、先ずは説明させてもらうが、数年前に大規模作戦が遂行され、深海棲艦はほぼ壊滅したという。今は僅かな残党を残すのみだ」
大和「! では、大和ははっきり言って足手まといでは?」
提督「まぁ、奴らとの戦闘はするが、それが終わるのもそう遠くはねぇ。俺は戦後のお前らが何不自由なく、社会に溶け込むようにしたい」
提督「そこでだ。色々端折って言うが」スッ
ドサッ
大和「? これは?」
提督「学力検査だ。五教科250点満点、高校受験レベルの問題を解いてもらいたい」つ鉛筆・消しゴム
大和「えぇっ!?」ギョッ
提督「別に悪いからって不合格にするわけじゃねぇよ。今のお前の学力を調べるだけだ」
大和「はぁ・・・・・・?」
提督「一教科25問のマークテスト。一教科50分だ」つストップウォッチ
提督「休憩は10分ずつ。ま、気楽にやってくれ」
ピッ
大和「・・・・・・・」カリカリ
カリカリカリカリカリ・・・・・・
ーー
ーーーー
ーーーーーー
ピピピピ、ピピピピ、
提督「そこまで。筆記用具を置け」カチッ
大和「・・・・・・・」スッ
提督「全部終わったか。採点してくるから、ここで待っててくれ」トントン
大和「分かりました」
提督「この部屋にいてくれたらいいから、好きに見て回っていいぞ。あ、引き出しは開けるなよ、機密書類あるかもしれねぇから」スタスタ
ガチャ パタン
大和「・・・・・・」キョロキョロ
大和(・・・・・・あまり物を置いてませんね。あら?)スッ
スタスタ
大和(本棚にある本、兵法とか軍事書類かと思ったら、物理に化学、生物に地学、英語や数学・・・・・・古典や地理まで・・・・・・学生みたいね)
スッ
パラパラ
大和「うわ・・・・・・」
大和(何この問題! 見てるだけで頭が痛くなってくる!!)
大和「赤線や付箋だらけ・・・・・・」
スッ
大和「! 写真立て・・・・・・」
スッ
大和(提督・・・・・・子供の頃でしょうか? 側の筋骨隆々な壮年の男性は・・・・・・元帥のバッジ!?)
大和「・・・・・・関係者かしら?」
「父親だ。義理だけどな」
大和「!?」バッ
提督「採点終わったぜ。やるなぁ、ほぼ満点じゃねぇか」
大和「殆ど勘ですよ」
提督「運も実力の内って言うだろ? まぁ、これならあいつらについて来れるな」スッ
大和「? これは?」
提督「この鎮守府では、学校みてぇに一般教科の授業を行っているからな。それに使う参考書や教科書だ。念のため、吹雪達に今までのノート写させてもらえ」
大和「へ? あ、はい」
提督「次の授業は3日後。教科は化学だ」
大和「分かりました」
提督「詳しい予定はあいつらに聞きゃあいいだろ。じゃ、ゆっくり休め」
大和「はい、失礼します」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
食堂
吹雪「えぇっ!? すごいじゃないですか、大和さん!」
大和「そ、そうでしょうか?」
大鳳「そうですよ! 私なんて殆ど分からなかったわ」
文月「頭いいんだね~」
スタスタ・・・・・・
北上「ご飯できたよ~」つお盆
利根「新しい仲間の歓迎会じゃ、たんと食え」つお盆
大和「あ、その、大和、実は・・・・・・」アセアセ
吹雪「大丈夫です!」
大和「え?」
北上「あたし達、いつも色々してるうちに大量に作っちゃうからね。逆に食べてもらわないと困るんだよ」コトッ
大鳳「わぁ・・・・・・いっぱいあるなぁ」キラキラ
大和「そういう事なら・・・・・・。あ、そうだ提督は?」
吹雪「提督はあまりこういうのは好きじゃないんです。『お前らが親睦を深めるのに、俺がいたら邪魔だろうが』っていっつもインスタントで済ませてるんです」プンプン
文月「あたしも司令官と食べたいなぁ」
利根「奴も普段は一緒に食べるんじゃ、我慢せい」
文月「ふみゅ~」プーッ
利根「頬膨らましても駄目じゃ」ツン
吹雪「さぁ皆さん、グラスは持ちましたね? では、大和さんの着任をお祝いして、カンパーイ!!」
「「「「カンパーイ!!」」」」
大和「カンパーイ!!」
吹雪「はい、大和さん! 欲しい料理があったら遠慮なく言ってくださいね!」
大和「ありがとうございます、吹雪さん」モグモグ
大和「! この唐揚げ美味しい!」
北上「ありがとねん」ニヒッ
大和「北上さんはお料理上手ですね」
北上「まさか。あたしは人並みだよ////」ポリポリ
利根「食べておるか、大和?」
大和「はい」モキュモキュ
大和「これもすごく美味しいです!」
利根「当然じゃ、吾輩の自信作じゃからな」フフン
吹雪「利根さんは、この五人の中で一番料理が上手いんですよ!」モグモグ
大鳳「私も利根さんのご飯大好きです!」
文月「あたしも~!」パクパク
利根「ふふん、褒めても何も出ないぞ」ドヤァ
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ーーーーーーーーーーーーーーーー
「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」
大鳳「うぅ、満腹です」ケフ
大和「大和もです」
利根「やはり大和型の食いっぷりは凄まじいのぅ」カチャカチャ
大和「お恥ずかしいです」
利根「いや、作り手としては嬉しいぞ」ニコニコ
利根「吾輩が食器を片してくる。皆は少し休んでおれ」スタスタ
大和「! そうだ、皆さんが着任された時の話を聞かせていただいても?」
文月「やっぱり最初は吹雪ちゃんなのぉ」
吹雪「分かりました。初期艦ですもんね」
大和「最古参なら色々話もありますよね?」
吹雪「まぁ、最初は苦労の日々でしたね」ニガワライ
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ーーーーーーーー
1年弱前
吹雪「はぁぁ、緊張するなぁ・・・・・・」ドキドキ
吹雪「確か、15歳で軍学校に入って殆どを好成績で卒業した鬼才って話だし」ドキドキ
吹雪「私、やっていけるかな、足引っ張らないかなぁ?」ドキドキ
吹雪「・・・・・・迷っていても仕方ないよね、よし!」
コンコン
「どうぞ」
吹雪「しょ、初期艦吹雪です! 失礼します!」
ガチャ
吹雪「初めまして、司令官!!」ビシッ
提督「あー、お前が吹雪か。この度新しく着任した『海原 櫂(うなばら かい)』だ。よろしくな」
吹雪「はい、よろしくお願いします!!」
提督「さて、初めて鎮守府に来たら、次どうすんだったっけか」ペラッ
吹雪「あ、はい。先ずは・・・・・・って、何読んでいるんですか?」
提督「ん? あぁ悪ぃ、化学の参考書」
吹雪「へ?」
提督「いや、俺昔は理系の道に進みたくてな。勉強してたのが癖になっちまったんだよ・・・・・・。こう見えて緊張してるもんで、紛らわすためにな」ナハハ
吹雪「はぁ・・・・・・」キョトン
吹雪「えっと、確か着任後は建造を・・・・・・」
提督「あ、そうだ。思い出した」
吹雪「え?」
提督「今は、建造自由にできねぇんだ」
吹雪「ど、どういう事ですか!?」
提督「数年前、深海棲艦の本拠地を叩いて、もう後は残党を倒すだけなんだ。それで、軍備を縮小したいらしい」
吹雪「縮小ですか?」
提督「あの作戦で多くの古参提督達が実質引退したからな。若い奴らに後を任せるとはいえ、大規模艦隊は作られたくねぇらしいんだよ」
吹雪「というと?」
提督「理由としては、二つある。一つは、有限の資材問題。これはまぁ、納得できるだろ?」
吹雪「はい。それで、二つ目は・・・・・・?」
提督「これがまた馬鹿らしい理由なんだけど・・・・・・」
吹雪「?」
提督「どうも軍としては、お前ら艦娘に無双してほしいらしい」ハァ
吹雪「無双・・・・・・ですか?」
提督「アクション系でよくいるっしょ、たった一人で雑魚集団相手に無双するキャラ。あんなふうになってほしいんだと」ヤレヤレ
吹雪「そ、それは少し無理があるかと・・・・・・」
提督「まぁ、無双は大袈裟だが要は少数精鋭で活動してほしいそうだ。よって一定の功績を収めて初めて建造が許されるんだってよ」
吹雪「何となく理解しました」
提督「てなわけで、暫くは俺ら二人で何とかしなきゃいけねぇんだ。まぁよろしくな」
吹雪「はい! 精一杯頑張ります!!」
吹雪「では、早速出撃準備を・・・・・・」
提督「おい待てぃ、俺がいつそんな事命令した?」
吹雪「え? だって早く練度を上げないと」
提督「それ以前にお前がある程度レベルアップしとかなきゃいけねぇだろ」
吹雪「どういう事ですか!?」
提督「13時か、昼飯は済ませたか?」
吹雪「? はい、済ませましたよ」
提督「よし、10分後に体操服に着替えてグラウンドに待機してろ」スタスタ
吹雪「」ポカーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
グラウンド
吹雪「・・・・・・」E:ジャージ
吹雪「10分経ちましたけど・・・・・・」
吹雪「司令官何しているんですかぁ~?」
「総員、整列ッッッ!!」
吹雪「っ!?!?」ビクッ
「気を付けぇぇぇい!!」
吹雪「!!」ビシッ
スタスタ・・・・・・
吹雪「あ、あの、司令官・・・・・・?」
「誰が司令官だ・・・・・・!!」
吹雪「へ?」
提督「海原教官と呼べぃ!!」E:迷彩軍服・ペレー帽・サングラス・葉巻
吹雪「・・・・・・」ポカーン
吹雪(つ、突っ込みどころ多過ぎぃぃ!!)
提督「とまぁ、冗談は置いといて」
吹雪「!?」ズッコケ
提督「要はお前らの基礎体力を鍛えさせてもらう」
吹雪「基礎体力?」
提督「闘いに強くなるには、身体を鍛えるべし! 暫くは身体と頭を鍛えるぞ」
吹雪「はい!」
提督「では準備体操の後、腕立て伏せと腹筋、背筋、スクワットを200回、グラウンド10週だ」
吹雪「が、頑張ります!」
トイウカ、シレイカン?
ン?
ミセイネンナノニ、ハマキナンカクワエタラダメデスヨ!
ハマキジャネーヨ、チョコレートガシダ
チョコレート?
ホレ パキッムシャムシャ
ホントダ!
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「はぁ、はぁ・・・・・・。や、やっと終わった・・・・・・」ゼーッゼーッ
提督「なかなか・・・・・・やるじゃ、ねーか・・・・・・」ハァ、ハァ・・・・・・
吹雪「司令官までしなくても・・・・・・」
提督「馬鹿言え、お前らだけにあんな鬼トレさせるわけねーだろが」
吹雪「その割にはあまり息切れしてませんよ?」
提督「軍学校じゃあ、あんなの日常茶飯事だ。遅れたらすーぐペナルティだの何だのって扱かれる毎日だったからなぁ」
吹雪「大変だったんですね」
提督「よっしゃ、休んだし次のメニューに行くか」
吹雪「はい!」
提督「先ずは正拳突き100回、前蹴り100回! 始め!」
吹雪「1! 2! 3! ・・・・・・」ブンッ、ブンッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
こんな感じでトレーニングをして、気がついたらもう夕方でした。
提督「よし、今日はこんなとこだ」
吹雪「も、もう動けません~・・・・・・」ヘナヘナ
提督「風呂入ってこい。飯は俺が作っとく」
吹雪「司令官、身体が動きません」
提督「うーん、ちと飛ばしすぎたかね?」ヒョイ
吹雪「し、司令官!?////」
提督「何だ?」オヒメサマダッコ
吹雪「な、何を・・・・・・?」
提督「とりあえず風呂場までは連れてってやる」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「こっから先は自分で歩け」スッ
吹雪「あ、はい」
提督「吹雪・・・・・・」
吹雪「はい?」
提督「今日は、俺の無茶ぶりに付いてきてくれてありがとうな」ナデナデ
吹雪「!」
吹雪「と、当然です! 私は司令官の艦娘ですから!!」キラキラ
提督「そうか、明日からは座学も入れるから、もっとハードだぞ」
吹雪「任せてください!」
提督「いい返事だ。風呂でゆっくり休め」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
食堂
吹雪「こ、これ全部司令官が作ったんですか!?」
提督「有り合わせの炒めもんだけどな。まぁ、食えなくはねぇと思う」
吹雪「い、いただきます」パン
吹雪「・・・・・・!」パクパク
吹雪「すごく美味しいです!」
提督「はは、なら良かった」モグモグ
吹雪「料亭にでも居たんですか?」パクッ
提督「まさか。家族と作った料理だからな」
吹雪「御家族は今どちらに?」モグモグ
提督「大本営」
吹雪「軍人だったんですか?」
提督「まぁな。この件はまたいつか。ほら、さっさと食わねぇと俺がもらうぞ」ヒョイパクッ
吹雪「あ! ちょっと司令官!?」ソレワタシノオカズー!
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「ここが吹雪の部屋だ。明日は7時に執務を始めるからな」
吹雪「はい! おやすみなさい、司令官!」
提督「おやすみ」スタスタ
これが着任初日の私達です。この時はまだ、このトレーニングに意味があるか不安だったんです。そして一週間後でした。
執務室
提督「そろそろ出撃しても大丈夫だろ」
吹雪「寧ろ何で今まで出撃させてくれなかったんですか・・・・・・」トホホ
吹雪「この一週間、午前に執務、午後は鬼トレと座学、時々艤装で海上演習。全然出撃してないじゃないですか!」
提督「バッキャロー、俺はある程度レベルアップしてから、次のダンジョン進む派なんだよ」チキンプレーサイコー!
吹雪「RPGと一緒にしないでください! 何事も経験あるのみですよ!」
提督「まぁ、今まではそれで良かったかもしれねぇけどな」ボソッ
吹雪「? とりあえず、出撃しますから」スタスタ
提督「吹雪、二つ条件がある」
吹雪「? はい、何でしょうか?」
提督「俺は執務室から無線でお前と連絡を取るから、こっちから指示する以外は海上ではお前の判断で行動していい。だからこそ、沈まねぇようにしてくれ」
吹雪「当然です!」
提督「それと、これは条件っていうかお願いなんだが・・・・・・」
吹雪「お願い・・・・・・ですか?」
提督「できるだけ、弾薬は消費しないでくれ」
吹雪「えぇっ!?」ギョッ
そんなわけで、無茶ぶりを受けて私は渋々初出撃をしました。
ーー
ーーーー
ーーーーーー
海上
吹雪「弾薬消費しないでくれって、無理ですよ~」
吹雪「砲雷撃戦になったら、絶対消費するし・・・・・・。素手で倒せって事なのかなぁ」
ピクッ
吹雪「! 敵艦発見!」
吹雪「えっ? 嘘・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
波止場
提督「おー、帰ってきたな」
吹雪「司令かーん!」
提督「お疲れさん、どうだった?」
吹雪「司令官、二つ言わせてください」
提督「ん?」
吹雪「何で鎮守府正面海域に戦艦のエリートクラスが居るんですか!? 死ぬかと思いましたよ!!」
提督「生きてんじゃねぇか。前に話した通り、残党だけだからな。多分縄張りも変わったんだろ。なっ、訓練しとかなきゃ沈んでたろ?」
吹雪「それと、その鬼トレですけど・・・・・・」
吹雪「すごい効果ですね、あれ!!」キラキラ
提督「は、はい?」
吹雪「まさか初出撃で戦艦を素手で倒せるなんて・・・・・・私感動しました!!」キラキラ
提督「お、おう・・・・・・そうか」
詳しく聞いたところ、あのトレーニングは軍が膨大な資料から得た効率的な艦娘のトレーニング法を一連のメニューにしたもので、他の鎮守府でも採用しているそうなんです!
吹雪「私今、練度幾つだろうなぁ」ポー
提督「測ればいいじゃん。おーい、妖精さーん」
妖精「はいはーい」ヒョコ
吹雪「妖精さん、私今練度幾つですか?」
妖精「暫しお待ちを・・・・・・」
吹雪「・・・・・・」ワクワク
妖精「吹雪さんの今の練度は48だね」
提督「何だ、とっくに改になれんじゃねぇかよ」
吹雪「嘘ぉ!?」ギョッ
妖精「吹雪さん、工廠へ。改にしますので」
吹雪「はい! 行ってきます!」タッタッタッ
思ったより効果てきめんな鬼トレを続け、二週間経った頃でした。
吹雪改二「まさか一ヶ月弱でもうレベル90代だなんて、色々おかしいよ。って、あれ?」
吹雪「司令官、何か届いてますよ」つ封筒
提督「ん? まさか軍の経費でパチンコしてたのバレたか?」ウケトリ
吹雪「そんな事してたんですか!?」ギョッ
提督「冗談だって」ビリッ
吹雪「か、からかわないでくださいよ~!」プクーッ
提督「お? 喜べ吹雪、新しく建造する事が許可されたぜ!」スッ
吹雪「ほんとですか!? おめでとうございます、司令官!!」
提督「でも、一回だけな・・・・・・」ズーン
吹雪「ま、まぁできるだけいいじゃないですか!」アセアセ
提督「それもそうか、よし! やるか!」
吹雪「はい!」
吹雪「あ、でも司令官、この場合もし同じ艦娘が出たらどうするんですか?」
提督「それはねぇよ、確か既に同じ艦娘がいたら予備の艤装が出るだけだ。そうなった場合、その旨を大本営に伝えてもう一度建造できるらしい」
吹雪「じゃあ心置きなくできますね!」
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
吹雪「・・・・・・私はこんな感じです」
大鳳「吹雪さん、提督にいじられすぎじゃないですか?」
吹雪「はい、マイペースな司令官に最初は振り回されっぱなしでした」
北上「まぁ、吹雪は広辞苑に"真面目"の例文で載ってそうなくらいだからねー。苦労してたっしょ」
大和「提督ってそんな方だったんですね」
吹雪「根は良い人なんですけど。次は北上さんですね」
北上「そだねぇ。あたしがその建造で着任した艦娘なんだ」
吹雪「司令官のブレーキ役が増えるかと思ったら・・・・・・」
北上「同じく自由奔放なあたしが来たから吹雪の苦労が増えたんだよね」
吹雪「マイペースなお二人ですから、すぐに意気投合して、ほんと大変だったんですよ」
大和「あ、あはは・・・・・・」ニガワライ
北上「あたしが来た時の話ねぇ~」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
北上「あたしは軽巡北上、まーよろしく」
吹雪「・・・・・・」ポカーン
提督「よろしく、俺がこの鎮守府の提督の海原だ。そしてこの生気の抜けた顔してんのが・・・・・・」チラ
吹雪「どうしよう、司令官だけでも大変なのに、またマイペースな人が来ちゃったよぉ・・・・・・。私胃潰瘍になりそう・・・・・・」ブツブツ
提督「おい、起きろ吹雪!!」ビシッ
吹雪「はっ!? あ、き、北上さん! 初期艦の吹雪です、よろしくお願いします!」ペコ
北上「よろしくねー」
吹雪「では司令官、北上さんに鎮守府を案内してきます」
提督「頼んだ。あ、北上。終わったら執務室来てくれ」
北上「はいはーい」
で、吹雪に案内されて鎮守府を一通り回った後、執務室で提督からあの試験を受けさせられたんだ。
ーー
ーーーー
ーーーーーー
食堂
北上「ま、まさか着任初日に筆記試験するとは思わなかったよ」
吹雪「司令官曰く、私達が社会で生きていけるようにとの事です」
北上「吹雪はあれやったの?」
吹雪「私は一から司令官の授業を受けていますから。あれは今の授業についていけるかを見るためらしいんです」
北上「うへぇ、学校じゃんそれ。嫌だなぁ」
吹雪「何言ってるんですか、ここで一番キツイのは鬼トレですよ」
北上「へ? 鬼トレ?」
吹雪「めちゃくちゃキツイですけど効果てきめんなトレーニングなんです! 深海棲艦相手に素手で無双できるようになれるんですよ!!」
北上「そんな話あるわけないじゃん」
吹雪「とにかく明日やってみてくださいよ」
北上「まぁ、期待しないで受けるよー」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
執務室
提督「・・・・・・」カリカリ
北上「提督ー」ペラッ
提督「ん?」カリカリ
北上「何か昨日、吹雪から聞いたんだけどさ」ウワ、ナニコノモンダイ!?
提督「何だ?」カリカリ
北上「鬼トレ? ってのがあるみたいじゃん? どんなやつなの?」スッ
提督「その名の通り、まるで鬼のようなトレーニングだ」カリカリ
北上「あたし多分無理だと思うよ」
提督「やってみなきゃ分かんねぇよ」カリッ
北上「にしても、この本棚の参考書難し過ぎ」
提督「お前も勉強によってはそれが解けるようになるぜ」トケイチラッ
提督「昼飯食ったら13時までに体操服に着替えてグラウンドに集合な」スタスタ
北上「あーい」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「では、いつも通りのメニューを始めろ!!」教官モード
北上「・・・・・・色々突っ込みどころが多過ぎない・・・・・・?」ヒソッ
吹雪「気にしたら負けです・・・・・・」ヒソッ
提督「私語は慎め! 吹雪、今日は北上にメニューを一通り教えながらこなせ」
吹雪「はい、教官!!」
北上「今は教官なんだね、提督の呼び方・・・・・・」
提督「北上、最初だからといって気を抜くなよ?」
北上「はいよ~」
提督「では、始めぃ!!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
北上「ヒーッ、ヒーッ・・・・・・何このトレーニング、辛すぎ・・・・・・」ゼーッゼーッ
吹雪「大丈夫ですよ、私も最初はそんな感じでしたから」
北上「何で、二人は、息切れ、して、ないの、さ・・・・・・?」ハァ、ハァ
吹雪「一ヶ月も毎日してたら慣れます」
提督「なら俺と吹雪は次から一段階ハードにするか?」ジロ
吹雪「け、結構です」(震え声)
提督「まぁ、これはトレーニングのアップらしいからな。これぐらいには慣れてもらいたい」
北上「今度は何やるのさ?」
吹雪「正拳突きと前蹴りを100回ずつです」
北上「・・・・・・はい?」
提督「よし、始めぃ!!」
吹雪「1! 2! 3! ・・・・・・」ブンッ ブンッ
北上「い、1! 2! 3! ・・・・・・」ブンッ ブンッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
こんな感じで、何処のスポコン漫画かってトレーニングをした後、提督が一つ提案をしてきてね・・・・・・。
北上「これ、意味あんの?」
吹雪「効果はありますよ!」
提督「なぁ、お前ら」
吹雪「はい?」
北上「何?」
提督「艦娘二人になった事だし、今回から組み手入れてみようかと思うんだが、どうだろうか?」
吹雪「私は構いませんよ」
北上「あたしも」
提督「よし、実戦形式で行くか」
提督「反則行為以外なら何でも有りだ。相手の背中が地面に着くか、相手が降参する、若しくは相手を戦闘不能にしたら勝ちだ」
吹雪「じゃあ、お願いします」スッ
北上「よろしく」スッ
提督「始め!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「そこまで。勝者、北上」
吹雪「うぅ、私の方が練度は上なのに」
北上「吹雪は真面目だからねぇ、フェイントに引っかかりやすいんだよ」
提督(うーん、以外と組み手は有りか。互いの弱点が分かるから改善の余地がある)
提督「そういや妖精さん、今の北上の練度は?」
北上「え? 練度ってそんな変わんないっしょ」イヤイヤ
妖精「だいたい19だね」
北上「え!? たったこれだけで?」ギョッ
提督「北上、工廠行け。改になれるぜ」クイッ
北上「は、はーい」スタスタ
提督「にしても、妖精さんはどうやって艦娘の練度見てんだ?」
妖精「妖精の力」
吹雪「すっごくアバウトですね・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
それから、あたしもこのトレーニングの効力知ってからは、何か楽しくなってきちゃってさ。他にも色々娯楽も見つけたしね。
提督「おい北上、お前宛に何か届いたぞ」つ段ボール箱の山
北上改二「あ、やっと来たんだ」スタスタ
吹雪「何か買ったんですか?」
北上「漫画数種とアニメとゲーム」ニヒッ
吹雪「そんなお金あったんですか?」
北上「大人買いしちゃった」つカード
提督「っ!? テメッ、それ俺のクレジットカード!! 何やってんだぁ!!」
吹雪「そうですよ!! 他人のお金勝手に使うなんて」プンプン
提督「ちゃんとポイント付けてもらったのか!?」クワッ
吹雪「て、そっちですか!?」ガクッ
北上「もち」b
提督「なら良し」
吹雪「いいんですか!?」ギョッ
提督「時々俺らも貸してもらうぜ」
北上「いいよー」
提督「但し・・・・・・」パッ
北上「あっ!?」
提督「これ以降は自分の金で買え」つカード
北上「いーじゃんか、ケチ~!」ブーッ
提督「やかましい!!」クワッ
吹雪「・・・・・・」
吹雪(・・・・・・二人のノリに色々とついていけない・・・・・・)ズーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
グラウンド
北上「よっ、はっと!」サッ サッ
吹雪「えいっ!」ブンッ
北上「ふっ」シュッ
吹雪「あ、あれ!?」
北上「はい、チェック」手刀
吹雪「うっ、降参です」
提督「そこまで。勝者、北上」
吹雪「うわぁん、また負けたぁ・・・・・・」
北上「ニシシシ、ハイパーな北上様をなめちゃあいけない」
提督「・・・・・・なぁ、北上」
北上「ん? 何?」
提督「お前、組み手の時に相手に自分から攻撃しないよな? 何でだ?」
北上「ん~、カウンター派だからかな。相手が単純な攻撃ならいなせばいいんだし」
北上「それに、あたしはあまりパンチとかキックは得意じゃないんだ。あんまり力も入んないしさ」
提督(打撃というより、北上は合気道派(トリッキータイプ)なのか・・・・・・?)
吹雪「なら、飛び道具を使うのはどうですか?」
北上・提督「飛び道具?」
吹雪「鉄砲とまでは言いませんが、何かを飛ばしながら闘うんです。北上さんは身のこなしが軽いから、きっと錯乱しながら攻撃するのに向いてると思います!!」
北上「あ、それ面白そうかも」
提督「妖精さんに聞いてみるか」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「とりあえず、木材加工してクナイみたいなの作ってもらったから、これ使いな」つ木製の棘みたいなもの
北上「ありがとねん」ウケトリ
提督「よし、的に当ててみな」つ案山子
ドスッ、ドスッ、ドスッ・・・・・・
北上「・・・・・・」スチャ
提督「始め!」
北上「!」ダッ
ストトトトッッッ!!
北上「はい、一丁~」スタッ
吹雪「全弾・・・・・・命中・・・・・・?」ポカーン
提督「・・・・・・おったまげた」ポカーン
北上「ん~、あたしこーゆーの向いてんのかも」
吹雪(しかも、全部案山子の脳みそに刺さってる・・・・・・)ゾクッ
北上「硬い素材で作ったらあいつらにも十分使えるっしょ?」
提督「うん、有りだな」
てなわけで、あたしは自分なりのスタイルを見つけて、今は個人練習に入ってるんだ。
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北上「あたしの事はこれくらいかな」
大和「自分なりのスタイル・・・・・・ですか」
吹雪「私は基本に沿ったものですけどね」
大和「因みに、北上さんと吹雪ちゃんはどっちが強いんでしょうか?」
北上「総合的なパワーは吹雪だねぇ」
吹雪「でも、勝率は北上さんが上ですよ」
文月「二人とも強いよ~」
大和「それで、次に鎮守府に着任したのは・・・・・・」
大鳳「あ、私です」
大和「え? でも、確か貴女も大型建造でしか・・・・・・」
大鳳「実を言うと、私はここで建造されたわけでは無いんです」
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私は以前、別の鎮守府で建造されました。そこでは、私は何をやっても失敗ばかりで、出来損ないの烙印を押されていました・・・・・・。
「また作戦失敗か! 何故あんな簡単な事ができんのだ!!」
大鳳「ご、ごめんなさい・・・・・・!」
「うちは貴様のような出来損ないを養うつもりは無い! もう貴様は要らん!!」
大鳳「っ!?」
度重なる任務の失敗を咎められ、私は遂に解体される事が決定しました。地下牢で解体される時を待っていた、そんな時でした。
大鳳「・・・・・・」
カツ、カツ、カツ、カツ・・・・・・
大鳳(っ! もう来たんだ・・・・・・)
ガチャ、ギィィィィィ・・・・・・
大鳳「!」
提督「ほー、お前が大鳳か」
大鳳「だ、誰ですか!?」
提督「俺は海原 櫂。装甲空母、大鳳。本日付で、お前は俺の艦隊所属だ」
大鳳「は、はい? 仰る意味が・・・・・・」
提督「要は、地下牢から出してやるって事」
大鳳「ここから・・・・・・?」
提督「別に強制はしねぇ。ここで燻ってるか、別の可能性に手を伸ばすかは、お前が決めろ」
大鳳「・・・・・・私は落ちこぼれの出来損ないです。私には可能性なんてもの、微塵もありませんよ・・・・・・」
提督「この世に不必要な人間なんかいねぇよ。お前はいわば原石だ、燦然と輝く宝石のな。お前が落ちこぼれかどうかなんて磨いてみないと分かんねぇよ」
大鳳「私が・・・・・・原石・・・・・・?」
提督「あぁ。もしお前が宝石になれなかったら全部俺の責任だ、お前の前で腹切って土下座して詫びてやる。万が一、いや、例え那由他の果ての可能性でも希望があるなら、一つ賭けてみないか?」
大鳳「・・・・・・分かりました。空母大鳳、貴方の艦隊に配属させていただきます」
提督「よし、交渉成立だ」ニッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「初めまして! 私は初期艦の吹雪です!」
北上「雷巡の北上だよ、まーよろしく」
提督「こいつらがうちの艦娘だ。仲良くしてやってくれ」
大鳳「あ、あの、提督。たった二人ですか?」
提督「侮るなよ。こいつらは今や単体で、艦隊の五つや六つを瞬殺できる程の精鋭だぜ」
大鳳「た、単体で!? すごいじゃないですか!!」
北上「いやぁ」テレテレ
吹雪「それ程でも」テレテレ
提督「お前も直にこうなるからな」
大鳳「プ、プレッシャーかけないでくださいよ~」
提督「お前ら、大鳳に鎮守府を案内してやれ」
吹雪「はい!」
北上「終わったら、また連れてくるねー」
提督「頼む」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
食堂
大鳳「」ズーン
吹雪「た、大鳳さん大丈夫ですか!?」アセアセ
北上「どうだった、筆記試験?」
大鳳「全然・・・・・・解けなかった」ズーン
大鳳「あぁあ、最初からついてないなぁ」
北上「更に追い込むようで悪いんだけど」
吹雪「明日からもっとハードになりますよ」
大鳳「えぇ!?」ガビーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日早朝
大鳳「はっはっ、ふっふっ、はっはっ、ふっふっ・・・・・・・」タッタッタッ
吹雪「あ、大鳳さん! おはようございます!」タッタッタッ
大鳳「吹雪さん! おはようございます」タッタッタッ
大鳳「吹雪さんも毎朝ランニングを?」タッタッタッ
吹雪「はい! もっと強くなるために」タッタッタッ
吹雪「でも、気をつけてくださいね」タッタッタッ
大鳳「え?」タッタッタッ
吹雪「この鎮守府名物の鬼トレはこんなもんじゃありませんよ!!」タッタッタッ
大鳳「鬼トレ?」タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
執務室
提督「吹雪から聞いたぜ。早朝からランニングなんて」カリカリ
大鳳「いえ。せめてもの努力です」
提督「いや。そういう小さな努力が積もり積もって、いつかは実を結ぶ。よく言われた言葉だ」カリカリ
提督「それに、そうやって努力する事は間違いなくお前の良い点だ。もっと誇ってもいいんじゃねぇか?」カリカリ
大鳳「ありがとうございます」
提督「今日は昼間は雨だ。鬼トレより先に座学しておくか。吹雪達からノートは写させてもらったか?」カリッ
大鳳「は、はい」
提督「今日は物理だ。難しいと思うが、頑張れよ」ヨテイヒョウチラッ
大鳳「が、頑張ります!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「えー、それでは物理の授業を始めたいと思う」スーツ・指揮棒
吹雪「起立!」ガタッ
北上・大鳳「」ガタッ
吹雪「気をつけ、礼!」ビシッ ペコ
北上・大鳳「」ビシッ ペコ
吹雪「着席!」ガタッ
北上・大鳳「」ガタッ
提督「では、今日は力学の波動を学習したいと思います」
北上「"は"・・・・・・」
提督「先言っとくぞ、へそ出し雷巡。『波導は我にあり』とか言ったら、ドタマぶち抜くからな?」つチョーク
北上「チッ、バレタカ・・・・・・」
提督「"波導"じゃなくて"波動"だからな。さて・・・・・・」クル
カツ、カツ、カツ、カツ
スーッ、カツカツ・・・・・・
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「・・・・・・であり、この公式は波動力学において、基礎とも呼べる。しっかり覚えておくように」
北上「・・・・・・」ファァ~
吹雪「・・・・・・」カリカリ
大鳳「・・・・・・」カリカリ
提督「じゃあ、この公式を利用して・・・・・・」カツカツ
提督「大鳳、この問題を解いてみろ」
大鳳「っ!? ひゃ、ひゃいぃっ!!」ガタッ
大鳳「え、えーっと・・・・・・」アワアワ
吹雪「大鳳さん、公式公式」ヒソッ
大鳳「!」ハッ
大鳳(そうだ、公式! 振動数と波長が出ているから、それをかけて・・・・・・)
大鳳「に、20m/sです!」
提督「そう、正解だ。このように三つのうち二つがある場合は容易に計算できる。では・・・・・・」
大鳳「吹雪さん、ありがとうございます」ヒソッ
吹雪「いえ、どういたしまして」ヒソッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
グラウンド
提督「少し地面がぬかるんでるけど、まぁ大丈夫か」
提督「よし、ではこれよりトレーニングを開始する!」教官モード
大鳳「・・・・・・」ポカーン
吹雪(分かる、すっごく分かりますけど・・・・・・)
北上(突っ込んだら負けだよ、大鳳)
提督「いつも通りのメニューから、始め!」
北上「ねぇ教官」ノシ
提督「何だ?」
北上「まさか、この泥のとこで腕立て伏せとかやれってわけじゃないよね?」
吹雪「あ!」キョロキョロ
提督「うむ、確かに。仕方ない、準備運動はコンクリートの上でやるとしよう」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「はっはっ、ふっふっ、はっはっ、ふっふっ・・・・・・」タッタッタッ
北上「はっはっ、ふっふっ、はっはっ、ふっふっ・・・・・・」タッタッタッ
大鳳「はっはっ、ふっふっ、はっはっ、ふっふっ・・・・・・」タッタッタッ
提督(普段から走り込んでいると言うだけはあるな。初日で全くペースを落とさずについてきている)タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「では、組み手を始めるか」
吹雪「大鳳さん、お願いしますね」スッ
大鳳「は、はい」スッ
北上「あたし見学~」
提督「始め!」
吹雪「やぁっ!」ダッ
大鳳「はぁっ!」ダッ
ドムッ
吹雪「」
大鳳「」
提督「・・・・・・(互いに突っ込んだら、クロスカウンターの状態で固まっちまった)」
北上「漫画だけかと思ってたよ、互いの拳がほっぺにめり込んだまま、固まるなんて状況・・・・・・」
吹雪「」フラッ
大鳳「」フラッ
ドサッ ドサッ
提督「お、おいお前ら!!」タッタッタッ
北上「ありゃりゃ・・・・・・」タッタッタッ
提督「おい吹雪、大鳳! しっかりしろ!」
北上「二人とも気絶しちゃったね」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
妖精「脳震盪かねぇ、これは」
提督「脳震盪!?」ガビーン
北上「・・・・・・マジで?」
妖精「今は眠ってるだけだから、安静にしといてね」テテテテ
北上「・・・・・・互いに脳震盪起こす程の一撃だったんだね」
提督「腕力は多分吹雪が上だ。大鳳は恐らく・・・・・・」
北上「踏み込みだよね」
提督「やっぱりか、走り込んでいる分踏み込みが強い。だから初速から前に進む力が強いんだな」
吹雪「う、うぅ・・・・・・」ピクッ
大鳳「うぅ・・・・・・」ピクッ
提督「お、目が覚めたか」
吹雪「司令官・・・・・・?」
大鳳「私達、何が・・・・・・?」
北上「お互いのパンチで気絶しちゃったんだよ」
吹雪「思い出しました・・・・・・」
大鳳「痛っ・・・・・・!?」ズキッ
北上「! 大鳳手首が・・・・・・!」
大鳳「あ、紫色になってる」イタタ
吹雪「えぇ!? 大丈夫ですか!?」アセアセ
提督「見せてみろ」
提督「・・・・・・関節傷めたな。湿布もらってくる」スタスタ
大鳳「そんな! 高速修復材があれば・・・・・・」
提督「いつまでもそれに頼るわけにもいかねぇよ」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
妖精「はい、これでいいよ」
提督「悪ぃな」
妖精「今日一日はなるべく安静にしてね。そしたら明日にはマシになるよ」テテテテ
大鳳「・・・・・・」
提督「? どうした?」
大鳳(私・・・・・・本当に役立たずだなぁ。トレーニング初日に皆に迷惑かけて・・・・・・)ジワッ
大鳳「やっぱり、私は落ちこぼれなんだ。役立たずの出来損ないなんだ・・・・・・」ポロポロ
提督「・・・・・・」
北上「何言ってんのさ」
吹雪「司令官も私達もそんな事全然考えてませんよ」
大鳳「でも・・・・・・」ポロポロ
提督「誰にだって得手不得手はある。大鳳は空母だ、肉弾戦は苦手なのかもしれねぇな」
大鳳「そしたら私はトレーニングの意味が」
吹雪「ありますよ!」
大鳳「!?」
吹雪「初日であの鬼トレについてきたんです! 大鳳さんの力は絶対伸びますよ!!」
北上「空母なんだし、弓矢とかで狙撃する遠距離タイプなんじゃないかな?」
大鳳「吹雪さん・・・・・・北上さん・・・・・・」
提督「それだ! 試してみよう」タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「負傷したのが左手なのは不幸中の幸いだな」つ的
ドスッ
提督「よし、あの的狙撃してくれ」
吹雪「司令官、肝心の弓矢が無いと・・・・・・」
大鳳「大丈夫です。持っていますから」スッ
北上「それは?」
大鳳「私の武器、クロスボウです」
大鳳「行きます・・・・・・」カチャ
バシュッ
北上「当たった?」
提督「あぁ、バッチリ」ガタガタ
吹雪「ホントですか!? すごいで・・・・・・」
提督「バッチリ外れだ・・・・・・」ガタガタ 帽子に矢
吹雪・北上・大鳳「司令官(提督)!?」ギョッ
提督「し、死ぬかと思った」カタカタ
大鳳「ごごご、ごめんなさいぃ!」
北上「あと数センチ下なら頭に刺さってたよ」つ帽子
吹雪「あ、ある意味すごいじゃないですか・・・・・・」(震え声)
大鳳「うぅ。私、空母なのに酷いノーコンなんです・・・・・・」ズーン
大鳳「そのせいで何をやっても失敗ばかりで・・・・・・」
提督(さて、どうしたものか・・・・・・。このままじゃ大鳳がますます落ち込んじまう。何とかあいつの長所を活かす事は・・・・・・)
北上「あのさ」
提督「ん?」
北上「ノーコンなら外さない距離まで近づけばいいんじゃないの?」
吹雪「それができたら・・・・・・あ!」
提督「あ、そうか! 大鳳の脚力を活かして相手の懐に入って・・・・・・」
吹雪「零距離射撃すれば・・・・・・!」
北上「長所を活かせるって事」ニヒヒ
大鳳「え・・・・・・え?」オドオド
提督「よし大鳳、やってみろ!」
大鳳「は、はい!」ダッ
ダダダダッ
北上「おー」
吹雪「は、早い・・・・・・!」
大鳳(懐に入って・・・・・・)ダンッ
大鳳(零距離射撃・・・・・・)ジャコン
バシュッ
大鳳「あ。当たった・・・・・・当たった!」
大鳳「やったぁぁぁっ!!」ピョンピョン
提督「やったな、大鳳!!」
吹雪「すごいです!」
北上「やるぅ」
的に矢を当てる。たったそれだけの事でしたが、それが私にはとても嬉しかったんです! 何せ、今まで何一つとして成功できなかった私が初めて何かを成功できたんですから!
ーー
ーーーー
ーーーーーーーー
それから私は何かが吹っ切れたんでしょう、生き生きと鎮守府で生活していました。
工廠
北上「これをこうして・・・・・・と。こんなふうにしてくれない?」カリカリ
妖精「なるほどね、分かった」
大鳳改「何をしてるんですか?」
北上「あぁ、大鳳の武器を新しく創ってたんだよ」
大鳳「私の?」
北上「航空機を発艦させるあのクロスボウの他に、大鳳自身が闘うためのね。それにはあのスタイルを活かせる武器じゃないと」
大鳳「ありがとうございます、北上さん」
北上「いいって。で、大鳳は何しに来たの?」
大鳳「艦載機を数機造っていただきたくて」
北上「あぁ、確かマニュアルが何処かに・・・・・・」ガサゴソ
大鳳「へ?」
北上「はい、これ見て」つマニュアル
大鳳「わ、私が造るんですか!?」ガビーン
北上「あたしも自分の武器は自分で造ったからね」つ魚雷
大鳳「酸素魚雷ですか? 先がかなり鋭角で、なんだか鉄杭みたいですよ」
北上「まぁね。あたしの戦闘スタイルに合わせて改良してあるんだよん」
北上「ちょっと中の火薬をいじってあるのさ。並の相手なら突き立てられた瞬間、ドカンッ!! 木っ端微塵さ」ニヒヒ
大鳳「っ!?」
北上「提督がね、『自分流に改造したらそれだけ自分にあったものになる』って言ってたんだ。大鳳も造ってみなよ」
大鳳「はい」ペラッ
大鳳「・・・・・・」カチャカチャ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大鳳「ふぅ。できた」
北上「できた?」スタスタ
大鳳「はい、何とか」
妖精「おぉ、結構造ったね」
北上「あ、はいこれ。妖精さんが造ってくれたよ」スッ
大鳳「これは? ガントレット? 随分とゴツイですね」
北上「実戦用、というか実戦の時しか使っちゃいけないよ、これ」
大鳳「えぇ!?」
北上「ネイルガンを組み込んだガントレット。大鳳のパンチの衝撃に反応して手の甲から棘が飛び出すんだって」
妖精「片手につき300本、1回で2本ずつ出るから、片手で150回まで発射できるよ」エッヘン
大鳳「あ、ありがとうございます」
妖精「さぁ、物は試し」つ案山子
大鳳「分かりました」スチャ
大鳳「!」ダッ
ダンッ
大鳳「はぁっ!」ブン
ドムッ ドシュッ
妖精「さぁ案山子はどうなってるかな」チラ
大鳳「あ!」
北上「うわっ、胸に穴が空いてる」
大鳳「あれ? 飛び出した棘は?」
妖精「あ、貫通しちゃってる」
大鳳「えぇ!?」ギョッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
波止場
提督「帰ってきたか」
吹雪「司令かーん!」ノシ
北上「帰ったよぉ~」
大鳳「ただいま戻りましたぁ」
吹雪「今回"も"全員無傷です!」
提督「そうか、良かった。各自補給をしておくように」
北上「いやぁ、今回のMVPは大鳳だよ」
吹雪「はい! 艦載機で爆撃した後、敵旗艦を一撃で倒したんですから!!」
大鳳「いえ、お二人の力があってこそですよ」テレテレ
提督(・・・・・・一皮剥けたな、大鳳)ニッ
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大鳳「私の話はこれくらいですね」
大和「すごいじゃないですか!」
北上「最初はこの三人で頑張ってたんだ」
吹雪「で、暫くして建造許可が出て着任したのが・・・・・・」チラ
文月「あたしぃ」ノシ
大和「文月ちゃんだったんですね」
大鳳「文月ちゃんが来てから大変だったんです」
北上「あぁ、確かに」
大和(こんな小さな子ですもの、提督も色々と教えたり世話したりで大変だったのでしょうか?)
吹雪「提督がものすごい子供嫌いで大変だったんですよ!!」プンプン
大和「えぇ!?」ガビーン
文月「えっとね~」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
文月「あたし、文月って言うの。よろしくぅ~」ニパァ
提督「」
吹雪「私、初期艦の吹雪です、よろしくお願いします!」
北上「雷巡北上だよ、まぁよろしくー」
大鳳「航空母艦大鳳です」
提督「」
吹雪「ちょっと司令官!?」ユサユサ
提督「じょ、嬢ちゃん迷子か? 親御さん何処?」カタカタ
文月「ふみゅ?」キョトン
吹雪「うちに新しく所属した艦娘ですよ、睦月型駆逐艦の文月ちゃんですよ!!」
提督「そ、そうか・・・・・・。俺はこの鎮守府の提督の海原だ、よろしく」ガタガタ
文月「よろしくぅ」
提督「み、皆で鎮守府案内してやれ」クル
文月「司令官はぁ?」
提督「司令官は忙しいの! 後で執務室に来るように!!」ダッ
吹雪「ちょっ、司令官!?」アセアセ
文月「あたし嫌われたぁ・・・・・・?」ウルウル
北上「そ、そんなわけないじゃん」アセアセ
大鳳「そうですよ」アセアセ
吹雪「と、とりあえず鎮守府案内しますね」スタスタ
文月「うん~」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
食堂
文月「ふみゅ~」クテー
北上「疲れちゃったね、文月」スタスタ
大鳳「仕方ないですよ、初日に筆記試験は」
北上「はい、シチュー作ったから」コト
文月「ありがとぉ」カチャ
北上「大鳳もね」コト
大鳳「ありがとうございます」
文月「司令官はぁ?」モグモグ
大鳳「執務室ですよ」モグモグ
北上「吹雪も手伝っているし、もう終わるかねぇ」
大鳳「うーん。北上さん、胡椒取ってもらっていいですか?」
北上「おー、香辛料(スパイス)の神が降臨なされた」つ胡椒
文月「・・・・・・」スッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
執務室
吹雪「司令官」
提督「・・・・・・何だ?」カリカリ
吹雪「今日の文月ちゃんへの態度酷すぎませんか?」
提督「・・・・・・」カリカリ
吹雪「司令官、ひょっとして子供嫌いなんですか」
提督「・・・・・・まぁな」カリカリ
吹雪「それなら私も子供ですよ?」
提督「お前は子供でも聞き分けがある。聞き分けねぇ子供は嫌いなんだ。すぐ泣くからな」カリカリ
吹雪「色々と極論すぎませんか? 子供は最初は聞き分けないものですよ」
提督「あん?」カリッ
吹雪「そのうちに聞き分けや我慢ができるようになるんです。それに、艦娘の精神年齢は司令官が思うよりかなり高いですよ」
提督「そうか。明日から考えてみるか」カリカリ
吹雪「はい!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
執務室前 廊下
文月「司令官・・・・・・」
トコトコ・・・・・・
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
グラウンド
提督「始め!」
吹雪「いきますよ、文月ちゃん」
文月「ほわぁ!」ダッ
吹雪「やぁっ!」ブン
文月「!」サッ
吹雪「なっ!? 消えた?」キョロキョロ
文月「やぁっ!」
吹雪「!?」ビクッ
ぺチン・・・・・・
文月「このこのこのぉ~!」グルグル
ポカポカポカポカ・・・・・・
吹雪「痛っ、痛たたた!? こ、降参ですぅ!!」
提督「しょ、勝者、文月!」
文月「やったぁぁぁ」ピョンピョン
北上「何なの、あの試合」
大鳳「すごく微笑ましいですね」
提督「まぁ最初はあれでもいいさ」
提督(攻撃は別として、あの小さな身体を活かして一瞬で相手の懐に入るか・・・・・・。意外とセンスはあるのかもしれねぇ)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
教室
提督「・・・・・・では、ここまでの復習を兼ねて確認テストをします。筆記用具以外は机の下に」
一同「」ガサゴソ
提督「1問2点、10点満点だ。途中式もちゃんと書くように」スッ スッ スッ スッ
提督「時間は30分間だ。終わって見直しが済んだら提出してもいいからな。では始め」タイマーカチッ
吹雪「」カリカリ
北上「」カリカリ
大鳳「」カリカリ
文月「」カリカリ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督(15分経過。ぼちぼち提出者が出るかな)
文月「司令官、終わったよぉ」スッ
提督「お、早かったな」ウケトリ
提督(意外だな、てっきり吹雪かと思っていたが・・・・・・・。って、なっ!?)ギョッ
文月「?」
提督「文月、全問正解だ」
吹雪・北上・大鳳「えぇ!?」ガビーン
文月「えへへ、司令官の説明がわかりやすかったから」テレテレ
提督(途中式も必要最小限だが要点はきちんと書いてある。こいつ才能の塊か!?)ゾワッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「お前ら風呂入ってこい。飯作っといてやる」
文月「司令官はお風呂入らないの?」
提督「今は入りません。俺まで入ったら誰が飯作るんだ?」
文月「司令官一緒に入ろうよぉ」クイクイ
吹雪・北上・大鳳「なっ!?////」ビクッ
提督「話聞いてたか、吹雪達が一緒に入るだろ」
文月「やだやだやだ~!」ギューッ
提督「幼稚園児かお前は!? いいから離れろ!!」ググッ
文月「やー!」ギューッ
提督「こ・・・・・・の! おいお前ら、剥がすの手伝ってくれ!」
吹雪「は、はい!」タッタッタッ
ーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーーー
数週間後
執務室
吹雪「司令官」
提督「ん?」ペラッ
吹雪「折角の休日なんですから、司令官も何処か出かけたらどうですか?」
提督「行く宛ねぇよ」ペラッ
吹雪「もう! 文月ちゃんもほぼレベル90代後半だし、私達にはたっぷり休日くれるのに何で司令官は執務室に籠るんですか!?」
提督「それが提督だからだ」ペラッ
吹雪「ほら、こんないいお天気なんですから、地学の本読んでないで散歩でもしてきたらどうですか?」つ提督の私服
提督「悲しいなぁ、吹雪はそんなに俺をここから追い出してぇのか?」パタン
吹雪「いいから早く」セカセカ
提督「はいはい、分かりました。じゃあ、暫く散歩してくるから、留守番頼むぜ」スッ
吹雪「はい!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
正門
提督「ったく、吹雪のヤツめ」スタスタ
提督「ま、久々に街を散策してみるか。一人で自由気ままに散歩するのも久々だなぁ」スタスタ
??「司令かーん、待って待ってぇ」トコトコ
提督「ん?」クル
文月改「えへへ、あたしも一緒に行くぅ」テヲギューッ
提督「」
文月「行こ、司令官?」ニパァ
提督「お、おう・・・・・・」ズーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
街中
文月「司令官暑いねぇ」パタパタ
提督「まだ8月だしな」パタパタ
提督(おまけに都会特有のこの暑さだよ。田舎の太陽が頑張っていますって感じの暑さじゃなくて、なんつーか、都市熱でムカムカするような蒸し暑さ。屋内行かねぇと文月が熱中症になっちまうな)キョロキョロ
文月「司令官」クイクイ
提督「ん?」
文月「アイス食べたい」
提督(あぁ、アイスか! それなら多少涼まるし、店内なら冷房も効いてるだろ)
提督「分かった」
文月「やったぁ。じゃあ、あそこ行こぉ?」スッ
提督「ん? 何処だ・・・・・・」クル
某お高いアイス店
提督「」
文月「? 司令官?」
提督「文月、あそこだけは駄目」蒼白
文月「何でぇ?」
提督「高いから」
文月「ふみゅ~」ショボン
提督「うぐっ・・・・・・(頼むからそんな顔するなよ、俺が悪いみてぇじゃねぇか)」
提督「あぁ、もう! 分かった、あそこ行くか」
文月「ホント?」キラキラ
提督「お、おう」
ー
ーー
ーーー
提督「好きなヤツ一つ選びな」
文月「えっと」
店員「いらっしゃいませ! 当店ではただいまキャンペーン中で、お一人様お二つで、もう一つアイスが選べます!」
文月「じゃあ、三つ食べられるのぉ?」キラキラ
提督(それ何か店違くね? いや、突っ込んだら負けか)
文月「司令官は何にする?」
提督「俺は一つでいい。文月は三つ選びな」(震え声)
文月「じゃあ、これとこれと・・・・・・あとこれ」
提督(躊躇いなく選びやがった!? 文月意外と策士か!?)ガビーン
ー
ーー
ーーー
文月「おーいひぃ~」ストロベリー&バニラ&キャラメル
提督「よ、良かったな」ラムレーズン
文月「司令官のそれ何?」
提督「ラムレーズン。干しぶどうが入ってんだよ」
文月「一口頂戴」
提督「ん」スッ
文月「はむっ・・・・・・何か変な味ぃ」
提督「干しぶどうをラム酒漬けにしてあるからな。少量酒が入ってるんだよ」パクッ
文月「あたしのも。はい、アーン」スッ
提督「別に要らねぇよ」
文月「あたしのアイス要らない?」ウルウル
提督「っ!? 分かったからその目をやめろ! ・・・・・・あー」アーン
文月「! はいアーン」スッ
提督「あむっ・・・・・・うん、美味い。久々に食べたなぁストロベリー味」
文月「アイス美味しいね」パクッ
提督「・・・・・・あぁ」パクッ
提督(この屈託のねぇ笑顔・・・・・・。こんないい子を避けてたんだな、俺は)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
アリガトウゴザイマシター
文月「司令官ありがとぉ」ニパァ
提督「・・・・・・構わねぇよ」
文月「? どうしたのぉ?」キョトン
提督「いや、何でもねぇ」
文月「お土産買ってこ~」クイクイ
提督「そうだな、あいつらに何か買ってくか」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
ショッピングモール
提督「さて、あいつら何がいいんだか」
文月「北上ちゃんはアクション系の漫画、吹雪ちゃんは雑誌、大鳳ちゃんはランニングシューズが欲しいって言ってたよぉ」
提督「マジで? ありがとう文月」ナデナデ
文月「えへへ、司令官に褒められたぁ」ニパァ
提督「一番近いのはシューズ店か」スタスタ
文月「待って待ってぇ」トコトコ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督(さて、三人の分買えたな。他にもチョークの補充分も買ったし)
提督「」チラ
文月「」(/◎\)ゴクゴク
提督「・・・・・・文月、少しここで待っててくれ」スタスタ
文月「はぁい」プハァ
文月「あ、ジュース無くなっちゃった」
「お嬢ちゃん一人?」
文月「? おじさん誰?」
「おじさんがいい物あげるよ。一緒においで」
文月「司令官に待っててって言われたのぉ」
「あぁ、司令官ならおじさんと一緒にいるよ、連れて行ってあげよう」ガシッ
文月「! おじさん離してよぉ」ググッ
「大丈夫だから、おじさんと行こう、な?」グイ
文月「やー!! 離してよぉ!!」ググッ
ガシッ
「なっ!?」ギョッ
提督「うちの娘に何か用か?」
「な、何だてめぇは!?」
提督「この子の保護者だ。離してもらおうか」
「何が保護者だ、引っ込んでろ!」ブン
提督「・・・・・・」パシッ
提督「ふんっ」グイ
「!?」
提督「よっ!」一本背負い
ドサッ
「ぐはっ!?」
文月「ほわぁ・・・・・・」
提督「大丈夫か、文月?」チラ
文月「うんー、ありがとぉ司令官」
警官「そこ、何の騒ぎだ!」タッタッタッ
提督「ん?」
文月「お巡りさんだぁ」
警官「何だね君は、こんな所で喧嘩とは」
提督「・・・・・・」つ証明書
警官「っ!? ち、鎮守府の方でしたか! これは大変失礼を!」ビシッ
提督「そこのおっさん、幼女誘拐の未遂犯だから」スッ
警官「そうでしたか、ご協力感謝します!」ビシッ
提督「んじゃ、これで失礼」スタスタ
文月「司令官待ってぇ」トコトコ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
文月「司令官さっき何してたのぉ?」
提督「お前にこれを買ってた」スッ
文月「? 開けてもいい?」
提督「あぁ」
文月「ほわぁ」キラキラ
司令官があたしにきれいなヘアゴム買ってくれたんだぁ。赤い小さなビーズのかわいいヘアゴムだったの
提督「安モンで悪ぃな。今日俺の散歩に付き合ってくれたお礼だ」
文月「ひっ・・・・・・ひっ・・・・・・」ポロポロ
提督「な、泣く程嫌だったのか!?」ガビーン
文月「違うの、違うのぉ」グシグシ
文月「さっきのおじさんが怖くて、泣くの我慢してたの」フルフル
提督「? 別に泣きゃいいじゃねぇか」
文月「そしたら司令官、あたしの事嫌いになるから・・・・・・」ジワッ
提督「・・・・・・どういう事だ?」
文月「司令官、子供は泣くから嫌いなんでしょ?」
提督「っ!?」
文月「だから、泣かないように我慢してたの。司令官が嫌いにならないように」
提督「つまり、俺が子供は泣くから嫌いだって言ってたから、泣かねぇように今まで我慢してた。でも、さっきのが思ったより怖くて、ほっとした瞬間涙が止まらなくなったって事か・・・・・・?」
文月「うん・・・・・・。こんなに優しくされて・・・・・・もう我慢できないよぉ」ポロポロ
提督「」ダキッ
文月「司令・・・・・・官・・・・・・?」
提督「ごめんな文月、辛い思いさせて」ナデナデ
提督「俺は聞き分けねぇ子供が苦手なだけで、文月みたいないい子は大好きだからな。だから、泣きたい時は泣いていいよ」ナデナデ
文月「司令官、司令官・・・・・・!」ギューッ
文月「ふぇぇぇぇぇん!!」ギューッ
提督「よしよし」ナデナデ
ー
ーー
ーーー
文月「司令官、肩車して?」クイクイ
提督「おう」ヒョイ
文月「ほわぁ、高い高~い!」キャッキャッ
提督「あ、危ねぇから暴れんな!」オロオロ
文月「はぁい」ギューッ
提督「聞き分けがあってよろしい」スタスタ
文月「司令官」スッ
提督「ん?」スタスタ
文月「大好きぃ」ヒソッ
提督「はは、あぁ俺も」ニッ
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
文月「こんな感じぃ」
大和「何か・・・・・・すごくいい話ですね」
吹雪「司令官もそれから文月ちゃんに優しくなって、ほっとしましたよ」
北上「まさか文月だけアイス奢ってもらってたなんて」クッ
大鳳「いいなぁ」
吹雪「お二人は何を羨ましがっているんですか」アキレ
文月「司令官にもらったヘアゴム、今も付けてるよぉ」ホラ
大和「本当、とっても綺麗・・・・・・」
利根「ふー、やっと終わった」スタスタ
吹雪「あ、利根さん。どうもありがとうございます」イスヒク
利根「すまんの、吹雪。で、今何の話をしておるんじゃ?」ガタッ
大鳳「ちょうど皆が着任した時の話をしていたんです」
北上「最後の利根っちで終わりだよ」
利根「吾輩の話か? そうじゃなぁ」
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吾輩の提督の第一印象はなかなかであった。何せ、開口一番こう言ったんじゃからな
利根「吾輩が利根である! 吾輩が艦隊に加わる以上、もう索敵の心配はないぞ!」ビシッ
提督「何かガキが古風な喋り方してんぞ、おい!」ガビーン
吹雪「何言ってるんですか!? 利根型重巡洋艦の一番艦、利根さんですよ!」
北上「見た目は子供、それでいて古風な口調。正に『のじゃロリ』だよ」
提督「なるほど憶えとくよ、のじゃロリ」メモメモ
利根「あははは、なかなか面白い提督じゃな! じゃが、吾輩はロリではないぞ」
提督「まぁな、提督の海原だ。よろしく」
吹雪「初期艦の吹雪です、よろしくお願いします」
北上「雷巡北上だよ、よろしくー」
大鳳「装甲空母、大鳳です。よろしくお願いします」
文月「あたし文月って言うの、よろしくぅ」
提督「んじゃ、皆は利n・・・・・・じゃなくてのじゃロリに鎮守府を案内してやれ」
利根「何故言い替えるのじゃ、吾輩はロリではないぞ!!」クワッ
提督「どっからどう見てもロリじゃねぇか!」
利根「な、二度ならず三度も呼ぶか!」
提督「何回も言ってやらァ、ロリ!」
利根「やかましいわ、童(わっぱ)!」
提督「誰が童だ! もうそろそろ二十歳(はたち)だ、バーカ!!」
利根「まだ童ではないか、アホゥ!!」
ワーワーギャーギャー
艦娘「・・・・・・」
艦娘(子供の喧嘩じゃん、これ・・・・・・)
ー
ーー
ーーー
提督「いやぁ、久々に楽しい口喧嘩ができたぜ」アハハハ
利根「確かに。お主と話しておると実に愉快じゃ」アハハハ
提督「まぁ、改めてよろしくな」アクシュ
利根「うむ。こちらこそよろしく頼むぞ」アクシュ
艦娘(何か和解&意気投合してる!?)イツノマニ・・・・・・
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「よもや着任初日に筆記試験があるとはのぅ」
大鳳「驚きますよね」
文月「利根ちゃんどうだったー?」
利根「社会はできたんじゃが、英語がイマイチじゃったな」
吹雪「皆さーん、ご飯できましたよー」つお盆
北上「お、待ってました」
利根「ん? ここでは皆が分担で料理しておるのか?」
吹雪「はい、今日は私が当番なんです!」ゴト
文月「因みに利根ちゃんは一ヶ月後からだよ~」
利根「何と!? もう吾輩の番も決まっておるのか!?」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
提督「うーん、今日は一日中雨か。座学しかできねぇなぁ」カリカリ
利根「何じゃ、晴れておれば何をしておったのじゃ?」
提督「地獄の鬼トレーニング」カリカリ
利根「吹雪達が昨日言っておったやつか」
提督「良かったな利根、暫くお前に地獄は来なさそうだ」カリッ
利根「できれば一生来てほしくないがの」
提督「今日は古典だ、得意分野だろ?」
利根「まぁ、英語に比べたらのぅ」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
教室
提督「では、この古文を現代語訳してもらう」カツカツ
吹雪(これは少し難しいなぁ)
文月「分かんないよぉ」
大鳳(も、もう考えるの・・・・・・辞めよう)チーン
利根「ふむ。確かこの単語は・・・・・・」カリカリ
北上「すーっ・・・・・・すーっ・・・・・・」zzz
提督「」ビキッ
艦娘「っ!!」ゾクッ
利根「起きんか北上」ユサユサ
提督「ではとりあえず、余裕綽々なやつがいるし」つチョーク
提督「そいつに聞いてみよう」ブン
バシィィッッッ!!
北上「イダァァァァァッッッ!? 何すんのさ!!」ガバッ
提督「おはよう、北上君。皆が考えている中居眠りとは随分余裕ではないか」ビキビキ
北上「あ・・・・・・(て、提督、血管が・・・・・・)」タラタラ
提督「いや別に居眠りしても構いません、構いませんけど、これくらいの問題にあっさり答えてもらわないと示しが付かないので・・・・・・ねぇ?」ビッキビキ
北上「あ、あははは・・・・・・」ダラダラ
北上(ヤバイヤバイ、朝までアニメ見てて一睡もしてないなんて言ったら・・・・・・)ダラダラ
提督「ほら、答えて・・・・・・」ゴゴゴゴ
北上(殺される・・・・・・!!)ガタガタ
提督「はぁ。まぁ大方、徹夜でアニメ鑑賞でもしてたんだろ」マッタク
北上「あ、あれ? 怒らない・・・・・・の?」ビクビク
提督「一週間、アニメと漫画とゲーム禁止な」
北上「そんな殺生な!?」ガビーン
北上「て、提督ー、どうかご慈悲をー」ビエエ
提督「(完全に中毒一歩手前じゃねぇか、大丈夫かよ)・・・・・・明日の座学の振る舞いによっては、返してやらん事もねぇ」
北上「あ、ありがとうございます・・・・・・」ズビビーッ
吹雪(北上さん、キャラが変わり過ぎです)
提督「さて、俺らがこんな茶番してる間に他の奴らはちゃーんと考えたよな?」ニッッッコリ
艦娘「」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
グラウンド
提督「どうだ、鬼トレの感想は?」
利根「正に地獄、鬼じゃな」
提督「次は組み手だ」
大鳳「では、私が利根さんと組みます」スッ
利根「御手柔らかにな」スッ
提督「始め!」
大鳳「はぁっ!」ダッ
利根「!?(この一瞬で吾輩の懐に!? 何という脚力じゃ!)」バッ
大鳳(!? 後ろに跳んだ!?)
利根「さて、吾輩も攻めるかの!」ダッ
ブンッ
大鳳「っ!?」サッ
利根「ほぉ、これを避けるか。なら!!」バッ
ブンブンブン・・・・・・
大鳳「さ、逆立ち回転蹴りっ!?」サッサッサッ
北上「へぇ、蹴り技主体かぁ」
文月「利根ちゃんかっこいいー」
吹雪「すごい・・・・・・」
提督(長いリーチを活かした回転蹴り。当然遠心力も加わって当たればかなり重い蹴りだな。それにしても・・・・・・)
提督「・・・・・・体操服で良かった」ボソッ
吹雪「え?」
提督「・・・・・・何でもねぇ」
利根「はぁっ!」ブン
大鳳「っ!? 回転からの踵落とし!?」サッ
ズドォォォン
大鳳「あぅ!?(しまった、体制が!)」ガクッ
利根「隙ありじゃ!」バッ
ピタッ
大鳳「う、降参です」
提督「そこまで、勝者利根!」
利根「ふぅ、なかなか疲れたのぅ」
大鳳「すごいです利根さん!」
吹雪「はい!」
北上「まさか吹雪と文月の他に打撃タイプが着任するなんてねぇ」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
そんな日々に慣れた一週間後の事じゃ。吾輩は初出撃の後、提督に考えを打ち明けたのじゃ。
波止場
利根改「のぅ提督」
提督「ん?」
利根「今日出撃して分かったんじゃがのぅ」
利根「吾輩を対空訓練してくれぬか?」
提督「何を藪から棒に。どういう事だ?」
利根「吾輩は索敵をしようにもカタパルトが・・・・・・の。直しても大鳳が索敵をしてくれておる。ならば攻めを任せて吾輩は防空に徹しようかと思ったのじゃ」
提督「なる程ね。で、具体的にどうするつもりだ?」
利根「うむ。とりあえず対空射撃の練習をさせてはくれぬか」
提督「よし。じゃあ」スッ
提督「これを砲撃で撃ち落とせ」つフリスビー
利根「分かった」ジャキ
提督「よっと」ブン
利根「!」ドォン
バシャァァン
提督「外れだ」
利根「何の!!」ジャキ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「ば、馬鹿な・・・・・・カタパルトだけでなく砲撃まで不調じゃと・・・・・・!?」ズーン
提督「全く、貴重な火薬がパァじゃねぇか」
利根「面目ない・・・・・・」ショボン
提督「いっそ、自分をカタパルトにして自分で砲弾投げた方が早いんじゃねぇか?」
利根「吾輩は重巡洋艦じゃ、そんな事できん。戦艦ならまだ分からんが」スッ
利根「じゃが、自分で投げるのはありじゃな」つ小石
提督「またやるか?」つフリスビー
利根「頼む」ジャラ
提督「よっと」ブン
利根「そりゃ!」ブンッ
ズドドドドッッッ
提督「え!? 当たったぞ!?」ギョッ
利根「ふむ、こっちのカタパルトは絶好調じゃな」ニヤリ
提督「すげぇ、即席の散弾銃ができたじゃねぇか!!」
利根「弾薬は要らんぞ、ただ小さめの弾があれば良い」
提督「早速妖精さんと話してみよう、工廠に行こうぜ」スタスタ
利根「うむ!」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「・・・・・・」トントン
北上「随分手際いいね、料理の経験でもあるの?」
利根「まさか、吾輩は一ヶ月前に建造されたばかりじゃぞ」コトコト
利根「吾輩の当番である以上半端な物は出さんようにせんとな」カチャカチャ
北上「まさか一ヶ月間勉強したの?」
利根「まぁの」ジュー
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「さぁ、食べるがよいぞ!!」
ドォォォン
艦娘「いただきまーす!!」
吹雪「うわ、何これ!?」モグモグ
文月「おいひぃよぉ」パクパク
大鳳「はい、はい!!」ガツガツバクバク
北上「大鳳がっつきすぎだよ」ムシャムシャ
利根「良かった、口に合ったようじゃな」
提督「うわ、何じゃこりゃ!?」ギョッ
利根「おぉ提督、お主も食べて感想を聞かせてくれぬか」
提督「いただきます」パクッ
提督「うわマジか、すっげぇうめぇ!」ガツガツ
提督「何だお前、レストランにでもいたのか?」
利根「まさか、勉強した料理を何とか拵えただけじゃよ」パクッ
提督(一ヶ月の勉強でこんな上手く作れるもんか!? 文月といい、こいつといい、ここには何かしらの才能がある奴ばっかだな)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「提督よ、少しよいかの?」
提督「ん? あぁ利根、丁度いいとこに。お前にプレゼントがあるぜ」
利根「何じゃ?」
提督「おめでとう利根、遂に改二になれるじゃねぇか」つ設計図
利根「おぉ、早速後で改修してくるかのぅ」
提督「で、そっちは何の用だ?」
利根「吾輩、欲しい物があるのじゃが」
提督「欲しい物?」
利根「うむ。料理本を何冊か買いたいのじゃ」
提督「料理本?」
利根「あの日以来、何やら料理する事が楽しくてのぅ」
提督「何だ、そういう事ならこっちも歓迎だぜ」
提督「着任時に言ったように、俺の目標はお前らが社会で生きていけるようにする事だ。間違いなくそれはお前の役に立つぜ」ニッ
利根「すまんの、提督」
提督「何なら暫く名のある料理人の下で修行するか?」ニヤニヤ
利根「もし戦いが終結したら、それも良いかもしれぬな」ニヤリ
提督「まぁいいさ。本は俺が何冊か買っとく」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「おい利根、本が届いたぜ」つ段ボール箱
利根改二「おぉ、感謝するぞ提督よ」ウケトリ
利根「む?」
提督「ん? どうした?」
利根「どれも中華料理の本ばかりではないか。何故じゃ?」
提督「・・・・・・何となく」b
利根「どういう意味じゃ!?」クワッ
提督「あ、そうだ。それ作る時に頼みがあるんだけどよ」
利根「ん? 何じゃ?」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
その晩
吹雪「楽しみだなぁ」ワクワク
文月「お腹空いたぁ」グー
大鳳「今日は利根さんですからね」ワクワク
北上「早く食べたいねぇ」
提督「今日は中華料理らしいからな」ニマニマ
??「さぁできたぞ」スタスタ
吹雪「待ってまし・・・・・・た?」ポカーン
文月「ほわぁ・・・・・・」ポー
大鳳「え?」ポカーン
北上「・・・・・・どういう事?」ポカーン
提督「おお、今日もまた美味そうだなぁ」
利根「と、当然じゃ。わ、吾輩の自信作なのじゃからな・・・・・・////」E:赤チャイナドレス(スリット入り) ・シニヨン
艦娘(どうしよう、すっごく似合ってる。寧ろ似合い過ぎてて違和感ない・・・・・・)ポカーン
文月「利根ちゃん可愛い~」
利根「わ、吾輩が可愛いじゃと!? な、な、何を言うか////」カァァ
北上「いやいや利根っち、語尾に『アル』を付けないと」ニヤニヤ
利根「どういう意味じゃ!?」クワッ
提督「いやぁ、利根を弄れて文字通りのメシウマだわ」モグモグ
利根「く、屈辱じゃ! 何故吾輩がこんな服装を・・・・・・!」
提督「いや、普段の色違いみたいなもんだろ」
利根「!?」ハッ
吹雪「今気づいたんですか!?」
大鳳「服装はともかく、やっぱり美味しいです!!」ガツガツバクバク
文月「このチャーハン美味しい」モキュモキュ
北上「あたしも料理教えてよ」ムシャムシャ
利根「うむ、構わんぞ」
提督「多分軍でも料理の腕は三指に入るんじゃねぇか?」
利根「何を言う。吾輩より上なぞいくらでもおる」
利根「もしそんな人が着任したら共に料理をしたいものじゃなぁ」
提督「・・・・・・」
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
利根「吾輩の話はこんなとこじゃな」
北上(尚、褒められて満更でもないから、あのチャイナドレスを大事にしまってある事は内緒であった)
大和「皆さんの話を聞く限り、提督は皆に慕われておいでなのですね」シミジミ
吹雪「大和さん、明日からの鬼トレ頑張りましょうね」
大和「ふ、不安です・・・・・・」
文月「大丈夫だよぉ」
北上「暫くしたら慣れるから」
大和「!?」ギョッ
大鳳「そういえば今何時でしょうか?」
提督「23時59分だ。部屋に戻る時間を一時間は軽くオーバーしてるなぁ」
大和「あ、あの・・・・・・」アセアセ
北上「そろそろ部屋に戻らないとね」
吹雪「うちは22時までに部屋に戻らないといけないんです」
利根「提督に見つかったら長々と説教が待っておる。見つからんうちに早く戻らんとな」
文月「ほわぁ、司令官」
北上「そう、提督に見つか・・・・・・」クル
利根「ん? どうした北上、何を固まって・・・・・・」クル
提督「よぉお前ら。随分楽しそうじゃねぇか」ピキッ
艦娘「」
吹雪「あ、あの、司令官、これはその・・・・・・」
提督「まぁ大和は規則を知らなかったんだ、今回は見逃そう。部屋に戻れ」
大和「は、はいぃ!!」サッ
大和「お、お先に失礼します」ソロソロ
提督「さて、お前ら・・・・・・常日頃から口酸っぱく注意してるよな、『明日の行動に支障が出ない程度なら起きててもいいから、遅くとも22時には部屋に戻っていろ』って」ビキビキ
艦娘「っ!!」ガタガタ
提督「まぁ、そこに正座したまえ。夜更かししたいなら俺も付き合おう」
艦娘(オワタ・・・・・・)チーン
提督「さぁ、楽しい楽しい夜戦(説教)開始と行こうじゃないか、なぁ?」ニッッッコリ
艦娘「ヒェェェ」ガタガタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
執務室
ガチャ
大和「失礼します。おはようございます提督」
提督「おはようさん」ゲッソリ
吹雪「お、おはようございます、大和さん・・・・・・」ゲッソリ
北上「い、いい朝だねぇ・・・・・・」ゲッソリ
大鳳「あは、あははは・・・・・・」ゲッソリ
文月「スゥー・・・・・・スゥー・・・・・・」zzz
利根「よ、よく眠れたか大和よ?」ゲッソリ
大和「み、皆さんどうされたのですか!?」ギョッ
提督「夜更かしの説教さ、二、三時間ガミガミ、クドクド、イビイビと説教した後朝まで全員で立ってたんだよ」フワァァ
大和「ふ、文月ちゃん寝てますけど」
吹雪「た、立ってればいいんですよ・・・・・・」
北上「立ち寝もありだよ・・・・・・」
提督「ったく、ホント器用な奴・・・・・・」
大鳳「ですが何も提督まで付き合う事無いですよ・・・・・・」
大和「えぇ!?」ギョッ
提督「馬鹿言え、お前らにだけ辛い思いはさせねぇよ。お前らに罰を与えて俺も連帯だ」
吹雪「意味が分かりませんよ・・・・・・」
提督「うー、腹減ったぁ」
大和「で、でしたら大和が何か作ります!」
提督「大和が?」
大和「はい、お任せ下さい」タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「どうぞ召しあがって下さい」ニコッ
艦娘「い、いただきます・・・・・・」
大鳳「ズズッ・・・・・・っ!? このスープ美味しい!!」
文月「サンドイッチも~」モキュモキュ
吹雪「はぅぅ、パンケーキのシロップの甘さが染み渡るぅぅ」ホッコリ
利根「うむ、疲れた朝はお茶漬けに限る! 梅干しの酸味が最高じゃ!」サラサラ
北上「年寄りくさいよ、利根っち」つふりかけご飯
提督「うーん」ムシャムシャ
大和「? どうしました提督? まさか、お口に合いませんでしたか?」
提督「いや、めちゃくちゃ美味いよ。ただ・・・・・・」ゴクッ
大和「? ただ?」
提督「何でお前、皆の好きな朝食が分かったんだ?」
吹雪「! そういえば話した事無いですよね!?」
大和「何でと言われましても・・・・・・考えるより先に身体が動いていましたので」
提督「・・・・・・」
提督(俺が朝は米派でおにぎり。それぞれ『塩にぎり』と『おかか』と『鮭』・・・・・・。この三つしか食えない事も分かったのか・・・・・・!?)ゾッ
利根(ふむ、吾輩のお茶漬けのお湯の温度、ふりかけの量・・・・・・全て絶妙な具合じゃな)
北上(あたしが玉子味のふりかけご飯が大好物って何で分かったんだろう?)
吹雪(私がパンケーキ好きっていつ言ったのかな?)
文月「レタスがシャキシャキしておぃひぃ」ホッコリ
大鳳「文月ちゃん、私にもサンドイッチください」
文月「はい」スッ
大鳳「ありがとうございます」シャクシャク
大鳳(中からシャキシャキのレタスやトロトロの半熟卵・・・・・・アクセントの胡椒も絶妙ですぅ)ホッコリ
艦娘・提督(大和恐るべし・・・・・・)ゴクッ
大和「?」キョトン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
執務室
提督「大和、鬼トレの話は聞いたか?」カリカリ
大和「はい、皆さんからお聞きしました」
提督「言っとくけど最初は本当に地獄だからな。慣れるまで大変だぜ」カリカリ
大和「戦艦の艦娘として着任した以上、どのような訓練にも取り組む所存です」
提督「随分な心がけだな、流石は日本最強の艦娘だ」カリッ
大和「そんな、最強だなんて////」ポッ
提督「時間か・・・・・・・。昼飯済ましたら13時までに体操服来てグラウンド集合な」
大和「はい」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「よぉし、皆お待ちかねのトレーニングを開始する!!」教官モード
大和「・・・・・・」ポカーン
艦娘(もうお決まりのパターンだ、これ・・・・・・)アキレ
提督「準備体操の後、腕立て伏せと腹筋、背筋、スクワットを200回、グラウンド10週だ、始め!!」
大和「っ・・・・・・っ・・・・・・」ストレッチ中
艦娘「」ジーッ
文月「? どうしたのぉ?」
大和「? どうかしましたか、皆さん?」ドォォォン
艦娘「くっ・・・・・・」ペターン
文月「大和ちゃん、おっきいね~」
大和「? 何がですか?」キョトン
文月「お胸~」
大和「はぇっ!?////」ボンッ
吹雪(私と文月ちゃんは成長すれば何とかなるかも・・・・・・)
北上「確かに皆より大きいよねぇ」ジーッ
大鳳「ひ、貧乳はステータスだ、希少価値だ・・・・・・・」ガタガタ
利根「流石は戦艦、立派なモノを持っておるのぅ」
大和「あ、あの、皆さん?////」ムネカクシ
提督「ボサっとしてんじゃねぇ、さっさとやれ!!」背筋中
艦娘「は、はいぃ!!」ビクッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「はっはっ、ふっふっ、はっはっ、ふっふっ・・・・・・」タッタッタッ
提督(うーん、戦艦だから基礎体力はあるのか。初めてでこれ程食いついてくるとは)タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「はぁっ、はぁっ・・・・・・」ゼーッゼーッ
提督「最初っから無理すんなよ?」
吹雪「それにしても初めてで一周も遅れないなんて、すごいですよ」
大和「あの、提督・・・・・・」
提督「ん?」キョウカントヨベ、キョウカント
大和「あ、あの・・・・・・非常に申しにくい事なのですが・・・・・・////」モジモジ
提督「何だよ」
大和「は、走る時、揺れるんです。どうしたらいいでしょうか?////」カァァ
艦娘「嫌味かぁぁぁぁ!!」クワッ
大和「っ!?」ビクッ
提督「あ・・・・・・」(察し)
北上「あたしら、揺れるモノも無いのに・・・・・・」チーン
大鳳「」チーン
文月「大鳳ちゃん、大丈夫ぅ?」ユサユサ
吹雪「うぅ・・・・・・」ズーン
利根「ある者だけの悩みじゃなぁ」
提督「・・・・・・ノーコメントで////」フイッ
大和「えぇ!?」ガビーン
提督「いつまで燃え尽きてんだ、さっさと次行くぞ」
艦娘「はぁい・・・・・・」ズーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「よし、組み手を始めるぞ」
吹雪「大和さん、お願いします」スッ
大和「はい」スッ
提督「始め!」
吹雪「やぁっ!」ダッ
大和「!」
吹雪「はっ!」ブン
大和「っ!」バッ
バシッ
吹雪「なっ、片手で!?」
バッ
吹雪「だったら!」バッ
バババババババッ
大和(乱打・・・・・・! しかも一発一発がとても重い・・・・・・!)パパパパパ
吹雪(全部受け止めてくる! 流石は大和さん!)バババババ
大和「ふっ!」ブン
吹雪「っ!?」サッ
大和(避けた! 攻撃だけでなく守りや回避も柔軟に対応するなんて・・・・・・。流石は初期艦の吹雪ちゃんですね)
吹雪「危なかったぁ・・・・・・」
大和「次は大和の番です!」ダッ
ブンッ
吹雪「きゃっ!?」サッ
提督「なんつー速さの回し蹴りだ」
北上「避ける吹雪も流石だねぇ」
吹雪(大きい攻撃はその分隙も大きい、片足立ちで不安定な今がチャンス!)バッ
ズルッ
吹雪「あっ!?」ヨロッ
大和「吹雪ちゃん!!」バッ
ドシィィィン・・・・・・
大和「吹雪ちゃん、大丈夫ですか?」
吹雪「はい、何とか・・・・・・」ムニュゥ
提督「そこまで、勝者吹雪!」
吹雪「えぇ!? どういう事ですか、司令官!?」
大和「あぁ、大和負けちゃいましたね」
提督「あぁ、吹雪が前に倒れる前に大和が下で庇って背中を付けた。判定勝ちだ」
吹雪「そんなっ!?」
大和「無事で良かったです、吹雪ちゃん」ニコッ
吹雪「うぅ、勝ったのに後味悪いなぁ。それに・・・・・・」
大和「?」ムニュゥ
吹雪「こっちは完敗だし・・・・・・精神的敗北だ・・・・・・」チーン
大和「ふ、吹雪ちゃん!?」ガビーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
夜
大和「吹雪ちゃん、わざわざありがとうございます」カリカリ
吹雪「いえ、今日のアレは私が反則勝ちしちゃったようなものだし・・・・・・」
大和「ふふ、運も実力の内。ですよ」カリカリ
吹雪「あ、それ司令官の言葉ですね!」
大和「はい!」カリカリ
吹雪「大和さん、明日からはちゃんと自分から攻めて来てくださいね」
大和「え、でも吹雪ちゃん・・・・・・」オロオロ
吹雪「本気じゃないと練習の意味が無いですよ」
大和「・・・・・・分かりました」
吹雪「当然、明後日からは座学も入りますよ」
大和「はい。早く残りも写し終えますね」カリカリ
利根「ん? 何じゃ、もう写しておるのか?」つアイスバー
大和「はい、とても多いみたいですから」カリカリ
大鳳「大和さん真面目ですね」つアイスバー
北上「感心だねぇ」
文月「大和ちゃん偉い偉い」ナデナデ
大和「ふふ。ありがとうございます、文月ちゃん」ニコッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
グラウンド
吹雪「やぁっ!」バッ
大和「はぁっ!」バッ
バキッ ドガッ
大和「ふっ!」ブン
ズドンッ
吹雪「うっ! やぁっ!」バッ
バキッ
大和「くっ!」
提督「・・・・・・」
北上「いやぁ、格闘漫画顔負けのバトルだねぇ」
利根「よもや大和と正面からど突き合えるとは、流石は初期艦じゃのぅ」
大和「ふっ!」サッ
ブンッ
吹雪「っ!」サッ
吹雪「もらった!」バッ
大和「甘いですよ」グルッ
シュッ
吹雪「ロー!?」ピョン
大和「はぁっ!」グルッ
バシッ
吹雪「きゃっ!?」
ドシャッ・・・・・・
提督「そこまで、勝者大和」
文月「何があったの?」
北上「昨日みたいに回し蹴りをしゃがんで避けた吹雪が突っ込もうとしたら、大和がそのままの回転でローキックを出したのさ」
利根「それを跳んで躱した吹雪に更に一回転した大和の裏拳がヒットしたんじゃ」
大和「吹雪ちゃん、大丈夫ですか?」アセアセ
吹雪「はい、受け身は取れたんで。やっぱり強いですね」
大和「いえ、吹雪ちゃんも強いですよ」
ワイワイ
ガヤガヤ
提督「平和なモンだなぁ・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「明日から座学が始まりますね、大和さん」
大和「はい、初めてだから緊張します」
北上「まぁ、質問に答えたら居眠りしてても大丈夫だよ」
吹雪「北上さん、変な事教えないでくださいよぉ」
利根「とはいえ、あやつのチョークは痛いからのぅ」
大和「利根さんは投げられた事あるんですか?」
利根「ちと、宿題を忘れてそれを誤魔化した時にの。あれは正に弾丸じゃった・・・・・・」ゾッ
文月「バシーンって音がしたのぉ」
大鳳「食らった利根さん白目剥いて気絶しちゃったんですよ」
利根「うぅ、吾輩の黒歴史じゃ・・・・・・」
大和「確か明日は化学でしたよね?」
吹雪「はい。確か有機のとこです」
大鳳「有機は難しいです・・・・・・」
北上「大鳳は座学自体無理じゃん」
大鳳「うぅ・・・・・・」
吹雪「確かに有機は難しいです」
大和「単純だからこそ、ですね」
北上「あたしら、そろそろ寝るね」フワァァ
文月「おやすみぃ」トテトテ
大鳳「おやすみなさい」スタスタ
利根「うむ、吾輩も寝るとしよう」スタスタ
吹雪「大和さんはどうします?」
大和「大和はもう少し起きています」
吹雪「分かりました、おやすみなさい」スタスタ
大和「おやすみなさい」
大和「・・・・・・」ペラッ
大和「もし明日の座学、提督の質問に全て答えられたら、大和は褒めていただけるのでしょうか?」
大和(戦艦『大和』は、運用の際大量の資源を必要とする。故に『大和』は数多の鎮守府の財政を圧迫していると聞きます。だからこそ、大和は着任した鎮守府の役に立ちたい。その思いが心の奥底にあるのです)
大和(どのような形でもいい、皆に一言『よくやった』『素晴らしい』と褒められたい・・・・・・)
大和「?」
大和「・・・・・・違う?」キョトン
大和「皆? それとも提督(あの人)? 大和は誰に必要とされたいのでしょうか?」
大和(大和は皆からよりも、寧ろ提督に褒めてもらいたい・・・・・・? 何故あの人の評価を気にするのでしょうか?)キョトン
大和「・・・・・・考えても無駄ですね」パタン
大和「大和も寝ましょう」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
教室
提督「・・・・・・である、従ってニトロ化には『濃硝酸』の他に触媒として『濃硫酸』が必要だ。これは正誤問題でよく出てくるから覚えておくように」カツカツ
吹雪「・・・・・・」カリカリ
北上「・・・・・・」カリカリ
大鳳「・・・・・・」カリカリ
文月「・・・・・・」カリカリ
利根「・・・・・・」カリカリ
大和「・・・・・・」カリカリ
提督「では問題だ、トルエンに濃硝酸を加えると水と後何ができる? 大和」
大和(えっと、確かこことここが置き換わって、この配置は・・・・・・)カリカリ
大和「ニトロトルエンです。隣同士ならo(オルト)、一つ分空いたらm(メタ)、反対位置ならp(パラ)を名前の前に付けます」
提督「正解だ、よくやった。大和の言ったように・・・・・・」
大和(提督に褒められました、大和は幸せですぅ・・・・・・)プルプル
提督「・・・・・・因みに、トルエンにニトロ基が三つ付くと何になるか、北上」
北上「確か『2,4,6-トリニトロトルエン』だよね。TNT火薬の材料」
提督「よく知ってるな、その通りだ。今ではニトログリセリンとかが有名だが、これも爆薬の原料だ、覚えておくように」カツカツ
提督「では今日の授業はここまでだ。各自復習しとけよ」トントン
提督「明日は休みだ、ゆっくり羽伸ばしな」スタスタ
北上「ふぁぁ、やっと終わった」ノビーッ
文月「当たらなくて良かったぁ」ホッ
大和(本当に平和ですね。まるで本物の学生みたいです)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
執務室
ガチャ
吹雪「失礼します・・・・・・って、あれ?」
提督「ん? おはよう吹雪、朝からどうした?」イソイソ
吹雪「珍しいですね、何処か出かけるんですか?」
提督「まぁな、留守番頼む」スタスタ
吹雪「はい」
提督「あ、そうだ。誰か来るかもしれねぇから。来たらこの部屋に通しといてくれ」スタスタ
吹雪「へ? あ、はい・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「! あれは提督?」
提督「お前に乗るのも久しぶりだなぁ」つヘルメット
大和(大きなバイクですね・・・・・・。何処か外出でしょうか?)
提督「・・・・・・」スチャ
ブゥン、ブゥン・・・・・・
提督「・・・・・・」ガチャン
ブォォォォォォォン・・・・・・
大和「・・・・・・少し興味あります・・・・・・////」タクシーハ・・・・・・
大和(これは決してストーカーじゃありません、上官についての見識を深めるための行動・・・・・・そう、自主学習です! やましい事ではありません////)正当化
大和「すみません、前のバイクを追いかけてください」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和(提督を追いかけ、着いたのは墓地でした)
大和「御親族の命日でしょうか?」
大和「ありがとうございます」つお代
大和(提督、バケツと花を持って歩いて行きますね・・・・・・)
大和「・・・・・・」スタスタ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鎮守府
吹雪「大和さんもお出かけかなぁ?」キョトン
文月「吹雪ちゃん、利根ちゃんが呼んでたよぉ」
吹雪「あ、うん分かった。ありがとう文月ちゃん」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「おぉ、来たか吹雪」
吹雪「どうしたんですか?」
利根「お客が来たんじゃが、提督を出せと聞かんのじゃ」
??「提督はいるか?」
吹雪「司令官は今出かけております。客はお通しするよう指示をされましたので、執務室にご同行願います」スッ
??「良かろう」スタスタ
吹雪(憲兵の制服・・・・・・。何の用でここに来たんだろう?)スタスタ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
墓地
スタスタスタ・・・・・・
提督「」つ水入れ
バシャッ バシャッ
提督「」つ杓
ザバッ グチュグチュ バシャッ
ザバッ グチュグチュ バシャッ
ドプドプ・・・・・・ゴト
ドプドプ・・・・・・ゴト
提督「」つ花
スッ スッ
提督「」つピック
クチュクチュ ガリガリ グチュグチュ
提督「」つ杓
バシャッ バシャッ バシャッ ガッ ガッ ガッ
提督「」つ蝋燭×2
スッ スッ
提督「」つマッチ
チッチッ シュボッ ボッ ボッ
提督「」つ線香
シュボッ ザクッ
提督「」合掌
提督(あれからもう5年は経つよな・・・・・・。俺は元気にしてるよ。うちに所属してる娘達もな。勉強教えるのが大変だよ)
提督(そういや、お前にそっくりな娘が着任したんだぜ。生きてたらぜってぇお前に瓜二つな顔だ、雰囲気とかも似てるし)
提督(・・・・・・どんな因果なんだろうな、お前以外愛さねぇって誓ってたのに・・・・・・)
提督(ただ、かなりのアホだってとこは違うな・・・・・・ったく)スッ
提督「上官をストーカーするとは、いい度胸してんじゃねぇか」クル
スッ スタスタ・・・・・・
大和「・・・・・・いつから気づいていたのですか?」
提督「鎮守府を出た時からだ。タクシーが追ってきたから不思議に思っていた」
大和「ごめんなさい、どうしても気になってしまって・・・・・・」
提督「あまり人のプライベートに首は突っ込むな、お前の身が持たねぇよ」
大和「・・・・・・眞祓井(まはらい)・・・・・・という方ですか?」
提督「余計な詮索するな、提督命令だ」スタスタ
大和「・・・・・・はい」スタスタ
提督「タクシー代幾らした?」ヤレヤレ
大和「・・・・・・1500円程、です」シュン
提督「あっあく、ほんあむあふあいひやあっふぇ(訳:全く、とんだ無駄遣いしやがって)」ハンカチクワエ
ジャー バシャバシャ キュッキュッ
提督「まぁいい」フキフキ
提督「ほれ」つヘルメット
大和「!? え!?」ウケトリ
提督「後ろに乗れ、帰るぞ」ヘルメット装着
大和「え、えと・・・・・・////」カァァ
提督「いいから」グイッ
大和「あ・・・・・・////」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「しっかり捕まってろ。後舌噛むからあんま喋んなよ?」
大和「は、はい!!」ヘルメット装着
提督「行くぞ」ブゥン、ブゥン
大和「!!」ギュゥゥ
ブォォォォォォォン・・・・・・
ーー
ーーーー
ーーーーーー
ブォォォォォォォ・・・・・・
大和(提督の背中大きいですね・・・・・・////)
大和(落ち着く・・・・・・////)ギュッ
ムニィ
提督「っ!?////」
大和「? どうかしましたか?」ムニュゥ
提督「・・・・・・いや、何でもねぇ////」カァァ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鎮守府
吹雪「それで、憲兵の方が何のご用でしょうか?」
??「何、仕事をしに来ただけだ」
文月「?」
北上「仕事ねぇ・・・・・・」
大鳳「定期の職務確認でしょうか?」
利根「っ!? お主、よもや・・・・・・」キッ
??「察しが良くて助かる。その通りだ」
??「この鎮守府の提督、海原 櫂を連行しに来た」
艦娘「!?」
??「『過酷なトレーニングを強要し、艦娘を苦しめている』と連絡があってな」
吹雪「嘘です! あれは軍が推奨している公式のトレーニングのはずです!!」バッ
??「はて? そのような記録は一切存在しないが?」ニヤリ
北上「・・・・・・とんだクズみたいだね、軍も憲兵も」キッ
大鳳「貴方が何と言おうが、私達はあのトレーニングを、何よりも提督を信じています!」スチャ
文月「司令官の事悪く言わないでよぉ!」
利根「連行すると言うなら、吾輩達を倒してからにしてもらうぞ!」バッ
??「・・・・・・臨戦態勢か、さて」
??(周囲を囲んで逃げ道を封じているな、合図無しでこれとはなぁ・・・・・・)
??「面白い・・・・・・」ニタァ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
鎮守府前
提督「もうそろそろ着くぞ」
大和(うぅ、もう少しこのままがいいです・・・・・・////)
ゾワァ
提督「ん!?」ハッ
大和「きゃっ!?」ビクッ
キキィィッッッ
大和「な、何ですか一体!?」ゾクッ
提督「・・・・・・まさか」
提督「急ぐぞ!!」ブゥン
大和「はい!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
鎮守府
??「・・・・・・」チラ
吹雪「・・・・・・」スッ
北上「・・・・・・」つ鉄杭型酸素魚雷
文月「・・・・・・」
??「・・・・・・」チラ
大鳳「・・・・・・」つクロスボウ
利根「・・・・・・」ジャラ
??(ふむ、慎重だな。相手の出方を窺っているようだ・・・・・・)
??(北上は珍しい型の酸素魚雷を、利根は小さな鉛玉をいつでも投合できるように、大鳳はいつでもクロスボウを撃てるように構えている)
吹雪「・・・・・・」ゴクッ
吹雪(相手の周囲を囲んで動きを制限している。私達の方が数で有利・・・・・・な筈なのに)
吹雪(何だろうこの違和感は・・・・・・。寧ろ私達の動きが制限されているみたい)
利根(まるで喉元に刃物を当てられているようじゃ、少しでも動けば死ぬ・・・・・・)
タッタッタッタッ
提督「お前ら何やってんだ、武器を降ろせ」
艦娘「司令官(提督)!?」
提督「いいから早く」
艦娘「・・・・・・了解」スッ
提督「ったく、来るならちゃんと言ってくれよ、ケンの叔父貴」
艦娘「叔父貴!?」ガビーン
??「いやぁ、すまんな。こうでもしないと自由に動けんのでな」ワハハハハ
吹雪「えっと、司令官?」オドオド
提督「あぁ、紹介するよ。こちら憲兵団の海軍担当師団の団長にして俺の叔父の『海原 堅山(けんざん)』だ」
団長「いや艦娘の諸君、先程は嘘を言ってすまなかった、紹介の通り、海原だ」
吹雪「こ、こちらこそ先程はご無礼を!!」ペコ
北上「海軍担当師団?」
提督「憲兵にも色々あってな。海軍や艦娘関連の職務を主に引き受けている団が海軍担当師団。叔父貴はそこのトップなんだよ」
提督「そういや、何で皆臨戦態勢に?」
団長「実はな・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「・・・・・・で、皆叔父貴の嘘に騙されたと?」ハァ
吹雪「司令官が連行されるかと思ってつい・・・・・・」
提督「叔父貴、しょうもねぇ嘘止めてくれよ、鎮守府ぶっ壊す気か?」
団長「すまんすまん」
提督「皆も、俺を庇ってくれてありがとうな」
吹雪「いえそんな!」アセアセ
北上「あたし達は提督に迷惑かけてばっかなわけだし・・・・・・」(´-ω-`;)ゞポリポリ
大鳳「当然です!」
文月「司令官いなくなっちゃやだもん!」ウルウル
利根「うむ」
提督「でも、迂闊に飛びかからなくて正解だぞお前ら」
艦娘「え・・・・・・?」キョトン
提督「いや、今のお前らじゃ叔父貴にゃ勝てねぇからな」
艦娘「えぇ!?」ガビーン
提督「叔父貴と海軍元帥、つまり俺の親父は陸上じゃ艦娘より強ぇからな。多分人の形してる生物の中で最強の二人だから」
団長「そもそも諸君らが行っているあのトレーニングは私と兄者の考案した物だ」
艦娘「」ポカーン
提督「で? まさかこれだけの理由でここ来たのか?」
団長「まさか。つい先日、お前が六人目の艦娘を着任させたと聞いてな。祝いの品を持ってきたのだ」
大和「提督、置いてくなんて酷いですよ!!」タッタッタッ
団長「おぉ、君が・・・・・・っ!?」ハッ
大和「えっと、どちら様でしょうか?」
提督「憲兵団団長で俺の叔父」
大和「これは失礼を。大和です」
団長「大和か、いや私の甥が諸君らに迷惑をかける」
団長「櫂、ちょっといいか?」クイクイ
提督「ん? 何だ?」スタスタ
団長「まさか、"あの娘"の生まれ変わりか?」ボソッ
提督「まさか、それに大和って艦娘は他にもいるだろ?」ヒソッ
団長「うむ、だがしかし先の作戦以降大和の艦娘も殆どが解体され、一般人となった。兄者の鎮守府にもいなかった数少ない艦娘だから、私は実質初めてこの目で見た」
提督「叔父貴が!? 40年も憲兵してんのにか!?」ガビーン
提督「とにかく、別モンだろ。雰囲気とか見た目が似てるだけさ」ヒソッ
団長「・・・・・・辛いか?」
提督「そうも言ってられねぇ職だろ」
団長「ふっ、小僧が一丁前に」ニヤリ
吹雪「あの、お二人共?」
提督「ん?」
団長「あぁすまんな、つい話し込んでしまった」スタスタ
団長「ほれ、これが祝いの品だ」スッ
提督「ん? 何だこりゃ、ワインか?」
団長「そうだ、かなりの年代モノだ」
提督「あのさ、叔父貴」
団長「む?」
提督「俺、まだ未成年なんだけど」19歳
団長「・・・・・・」
艦娘「・・・・・・」
提督「」
団長「一口ぐらい飲んでも大丈夫だ、バレなければ問題ない」
提督「アンタ憲兵だろ!? 警察が法破らせてどーすんだよ!!」
団長「馬鹿もん! 世の中法など有って無いような物だ、法がキチンと成立しているなら、この世に犯罪など無いのだからな」ドヤァ
提督「ドヤ顔で何言ってんの!? 憲兵のトップがサラッととんでもねぇ事言っちまったよ!?」ガビーン
艦娘「・・・・・・」ポカーン
艦娘(すっごいめちゃくちゃな人・・・・・・)
提督「悪ぃけど、まだ俺は酒は飲まねぇよ」
大和「ですが、このワインどうします?」
利根「団長殿が飲めば良かろう?」
団長「私は酒は飲めん。下戸なのだ」
北上「飲めないのに酒買ってきたの?」アキレ
吹雪「と、とにかくもうお昼です。団長さんもご一緒しませんか?」
団長「ではお言葉に甘えて」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
団長「何と美味い! 素晴らしい腕前だな」モグモグ
利根「口に合って良かった」ムシャムシャ
大鳳「はぁ、緊張した分余計にお腹が空きました」バクバク
文月「ねー?」モキュモキュ
吹雪「にしてもすごい方ですね」パクパク
北上「まさかあたし達が束になっても勝てないって言われるなんてね」シャクシャク
提督「まぁ、叔父貴と親父は特殊だからな」ガツガツ
大和「特殊?」
提督「皆見てみろよ、あのゴッツイ体つき。見た目に違わず二人共すげぇ脳筋で・・・・・・」
団長「暫く見んうちに随分口がでかくなったなぁ櫂」ガシッ
ミシミシミシ・・・・・・
提督「痛たたたたッッッ!? 折れる折れる、腕折れる!!」ギャァァァァ
団長「全く、お前はまだまだ半人前だ、兄者にもっと鍛えてもらえ」
提督「勘弁してくれよ叔父貴。あんな訓練したら身が持たねぇよ」
艦娘「・・・・・・」
団長「! そうだ櫂、少し買い物してきてくれんか?」つメモ
提督「ん?」ウケトリ
提督「・・・・・・買うもん多くね?」
団長「私の車を貸してやる」つキー
提督「はいはい分かりましたよ、じゃあ留守番頼むぜ」スタスタ
団長「任せろ」
文月「いってらっしゃぁい」ノシ
団長「さて、本人がいない間にあいつの過去でも少し話してやるか」ニヤニヤ
北上「悪い顔してるねぇ団長」
団長「聞きたくないか、あいつの過去」
艦娘「はい!」
大和「(即答・・・・・・)は、はい・・・・・・!」
団長「とはいえ、流石にあいつが秘密にしときたい事は話さんよ。それは本人の許可がなければな」
吹雪「で、司令官の過去とは?」
大鳳「確か提督は元帥の養子だと聞きましたが」
団長「あぁその通りだ。今から話すのはあいつの赤子の時の話だ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
19年前
大本営
ガチャ
団長「兄者、話とは何だ?」
「おおケン、急に呼び出してすまんのぅ」
当時既に大将の地位にあった兄者、そして当時副団長を勤めていた私は共に自由に動けん身分だったが、暇を見つけてはよく顔を合わしていた。
団長「む? 兄者、その赤子は誰だ?」
驚いたよ、兄者がその腕に産まれたばかりの赤子を抱いていたのだからな。
「おぉ、紹介するぞケン。儂の養子じゃ、名前は櫂」
「すぅー・・・・・・すぅー・・・・・・」zzz
団長「おい加賀君、兄者の言っている事がよく分からんのだが」
加賀「はい。先日、深海棲艦に襲撃された海岸の街に出撃した際・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ザッザッザッザッ・・・・・・
長門「何と惨い・・・・・・」
加賀「沿岸の街はほぼ壊滅状態です」
「もっと早く向かっておったら!!」クッ
榛名「貴方の性ではありません、提督!!」
ーーーーァァ、オギャー!
「! 聞こえたか!?」バッ
加賀「? 何がですか?」
「赤子の声がした!」ダッ
長門「提督!!」
金剛「そっちは崖ネー!」
「加賀、榛名、長門はついてきてくれ! 金剛達は他の艦隊と合流し、他の生存者を探すのじゃ!」
タッタッタッタッタッ・・・・・・
ザザーン・・・・・・ザザーン・・・・・・
オギャー、ホギャー・・・・・・
「こっちか! っ!?」
「オギャー! ホギャー!」
榛名「提督、見つかりましたか! って!?」
「? ア~・・・・・・?」キョトン
ガラガラガラ・・・・・・
タッタッタッタッタッ・・・・・・・
「・・・・・・親御さんの方は?」
榛名「駄目です・・・・・・」フルフル
「・・・・・・そうか」
スタスタ・・・・・・
加賀「何故その子は助かったのでしょうか?」
「分からん。ただ、一つだけ言える」
加賀「はい?」
「この男の子は海に愛されておるな」
長門「仰る意味が・・・・・・」
ザバッ
「この子は櫂(オール)の上に乗って海に浮いておった。産まれて間もない赤子が自分から櫂に乗れると思うか?」
加賀「!」
タイショウ!!
ウナバラタイショウ、ドコデスカ!?
「・・・・・・この子は儂の養子にする」
艦娘「「「えぇっ!?」」」
「ほっといたら孤児院行きじゃ、見捨てられんわい」
艦娘「「「・・・・・・」」」
「ばー・・・・・・?」サワサワ
「あぁ、儂がお前の父。お前はこの『海原』の息子。名前は・・・・・・カイじゃな。海という意味じゃが、漢字は櫂にしよう。海に愛され、櫂に助けられた男。お前は『海原 櫂』じゃ」
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
加賀「・・・・・・というわけでして」
団長「兄者・・・・・・」
子宝に恵まれなかった兄者はその数年前、奥さんを病で亡くしていてな。恐らく家族がほしかったのだろうな
ガチャ
金剛「Hey! テートク、帰ってきましたヨー!」
「静かに入らんか金剛、櫂が起きるじゃろうが」ゴツン
金剛「Ouch!? Sorryデース」サスサス
榛名「ただいま戻りました」
比叡「あ、櫂は寝てるんですか?」
霧島「そのようです」
「スマンがお前ら暇じゃろう? 休憩も兼ねて櫂の昼寝に付き添え」スッ
金剛「了解デース」ダキシメ
榛名「榛名頑張ります!」
比叡「お昼寝だぁ」
霧島「比叡お姉様がするのではありませんよ」
金剛「さぁカイ、お姉さん達とお昼寝するデース」スタスタ
ガチャ パタン
「あの子を儂の養子に迎え入れ、父として愛情を注ごうと思う。儂の艦隊の皆は全員承諾してくれた」
団長「本当か!? 百人以上はいるあの娘達を説得したと言うのか!?」
「元より、あいつらには命の大切さを知り、優しい心を育んでほしかった。戦争をしていると命を尊ぶという感覚が麻痺してくるからな」
団長「とはいえ兄者、全員があの赤子の面倒を見るのか?」
「あぁ、非番の者は基本的に櫂のお守りじゃ。もちろん当番制じゃがな」
加賀「思いのほか皆積極的に取り組んでいます」
「ケン。お前の甥となる赤子じゃ、お前からも愛情を注いでやってはくれんか?」
団長「当然だ、言われるまでもない」
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
団長「そうしてあいつは兄者や私、鎮守府の艦娘達に囲まれて育った」
大和「・・・・・・」
大鳳「? でも少し変じゃないですか?」
吹雪「私達と同じ艦娘には既に会っているって事ですよね?」
北上「なのに提督、あたし達の着任時にまるで初めて見るかのように接してたよね?」
団長「あぁ、それは兄者の教えだろう」
団長「同じ『吹雪』という艦娘でも、人格には若干の違いがある。基本的に真面目な性格だが、少し堅物な娘もいれば、逆にズボラな娘もいる。艦娘も人と同じく十人十色だと教えられたのだ。だから諸君らと今までの自分の知る艦娘とは区別して接しているのだろう」
利根「なるほどのぅ」
文月「? どういう事?」
利根「つまり、あやつは小さい頃に一緒におった『文月』とお主を全く別の人間として考えておる。あくまでお主個人を見ておるのじゃ」
文月「・・・・・・そっかぁ」ポワーン
艦娘(絶対分かっていないな、これ・・・・・・)
大和「! ですが大和を見た時は提督の顔に一瞬動揺が見られましたけど?」
団長「スマンが、それはあいつ本人から許可が出ないと話せん」
大和「どういう事d・・・・・・」
ガチャ
提督「ただいまぁ」つ買い物袋
団長「何だ、随分早かったな」ウケトリ
提督「何言ってんだよ、30分ぐらい買い物してきたぞ」カギポイッ
団長「む? もうそんな時間か!?」キャッチ
提督「で、何の話してんだ?」
吹雪「司令官の昔話です!」
文月「司令官の赤ちゃんの時の話ぃ」
提督「んなっ!? そんな事話したのかよ!?////」
団長「減る話でもないだろう? まぁ仕方あるまい、赤子の時を話題にされ、恥ずかしくなるのは誰もが通る道だ」ニヤニヤ
提督「そーゆー問題じゃねぇ!!」クワッ
北上「提督赤くなっちゃってかぁわいい」ニマニマ
大鳳「ふふ、取り乱した提督も可愛らしいですよ?」ニコニコ
提督「きたぁかぁみぃぃ、たぁいほぉぉ!!お前らぁぁぁッッッ!!////」
モーオコラナイデヨ、カイキュゥン
ア、イイデスネソレ! ジャアワタシモ、カイキュン!
オマエラ、イイカゲンニシロー!
マァマァ、ソウオコルデナイ・・・・・・クフッ フルフル
オイトネ、ナニワライコラエテンダ?
シレイカンカワイイヨォ?
フ、フミヅキマデ!?
ア、アノ、ワタシモカワイイトオモイマス・・・・・・!
フブキ・・・・・・オマエモカ ズーン
大和「・・・・・・」
団長「すまないな。あればかりは私と兄者、そして櫂本人の三人で決めた事なのだ」
大和「わかっています」
団長「ただ、あいつが君を決して蔑ろにしたいわけでない事は信じてくれ」
大和「はい」
団長「おい櫂、私はそろそろ帰らせてもらうぞ。あんまりサボっておるとあいつが五月蝿いのでな」
提督「ん? あぁ、今日はありがとう叔父貴」
団長「皆も甥が迷惑をかけるが、よろしくな」
艦娘「はい!」
団長「ではまたな」クル
提督「前まで送ってくぜ」スタスタ
団長「む、スマンな」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
団長「櫂、大和君の事だが」
提督「・・・・・・何だよ」
団長「お前の気持ちは分かる。だが、彼女は彼女だ。別人だと割り切って優しく接してやれ」
提督「・・・・・・」
団長「兄者には話したのか?」
提督「報告は義務だ、キチンとしてある」
団長「ならよい。ではな」
提督「またな、叔父貴」
ブォォォォォォォン・・・・・・
提督「・・・・・・それがあいつの為・・・・・・になるのか・・・・・・?」ボソッ
提督(なぁ、教えてくれ・・・・・・お前ならこんな時どうするんだ・・・・・・? 『ヤマ』・・・・・・)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
提督「今日はこの海域に出撃してもらう。近年この周辺では比較的豊富な資源スポットが確認された。軍としてはなるべく抑えておきたいが、敵も考えは同じのようだ」
提督「皆にはここの海域にいる敵艦隊を撃滅してほしい。何か質問はあるか?」
大鳳「よろしいでしょうか?」
提督「ん?」
大鳳「何故我々なのでしょうか? 泊地の方が近いので、そちらの艦隊に要請した方が早いのでは?」
提督「このスポット周辺には過去に使われた機雷や爆雷が不発のまま残っている。それに加え、資源の大半は燃料、つまり可燃物だ。そして、泊地ではお前らのように肉弾戦訓練を行っている所が少ない」
提督「不用意に砲雷撃戦なんかされたら、最悪・・・・・・言わなくても分かるよな?」
艦娘「っ・・・・・・」ゴクッ
提督「敵はどうかはわからないが、可能ならこちらからは砲雷撃を行わないようにしてくれ。旗艦は・・・・・・」
提督「大和、初出撃で悪いが頼めるか?」
大和「! お任せ下さい!」ビシッ
提督「皆旗艦経験がある、大和をフォローしてやってくれ」
艦娘「了解」
提督「では5分後に出撃する。移動して準備を」
艦娘「はっ!!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
その夜
鎮守府
提督「・・・・・・で、何でお前ら中破してんだ?」
大和「・・・・・・」中破
吹雪「じ、実は・・・・・・」中破
利根「艦隊と交戦中にスコールが発生しての」中破
文月「雷様がゴロゴロー!! って鳴ってね~」中破
北上「それが敵艦の燃料に引火しちゃったみたいで・・・・・・」中破
大鳳「それで辺り一帯の爆雷や機雷が連鎖爆発を起こしまして・・・・・・」中破
提督「それでよく中破ですんだなぁ。良かったよお前らが無事で」ホッ
大和「しかし、資源は大丈夫でしたが回収はできず、おまけに大和達の入渠で鎮守府の資材が・・・・・・」ズーン
提督「まぁ、確かにかなり吹っ飛んだけど。お前らが無事なら安いモンだろ?」
提督「さっさと風呂入って来い。飯にするぞ」バケツモツカエ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
執務室
提督「さて、どうしたモンかねぇ」カリカリ
提督(周辺海域の艦隊は撃滅できたが、あの辺りのスコールは想定外だな。あの辺は昔は比較的天候は安定していたはずなんだけどなぁ・・・・・・)
提督「えぇと」ガサガサ
パラパラパラ・・・・・・
提督(吹雪と北上と文月に少し遠征に向かってもらうか。この編成条件に当てはまる任務あったかな・・・・・・?)パラパラ
ガチャ
大和「失礼します」
提督「ん? 大和か、どうしたよ?」
大和「あの、今日の失態は旗艦である大和の責任です。何とお詫び申し上げれば・・・・・・」
提督「言っとくけど、俺は今まで任務の失敗を咎めた事は一度もねぇぜ? それにお前はこれが初陣なんだ、仕方ねぇ」
大和「・・・・・・ですが」
提督「どうしてもお詫びがしたいってんなら、少し手伝ってくれ」
大和「! はい!!」ニコッ
提督「この書類の山に一枚一枚印鑑を押して欲しいんだ」つ印鑑
大和「お任せ下さい!」ウケトリ
提督「・・・・・・」パラパラ
大和「~♪」ペタンペタン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「終わりました」ニコッ
提督「ありがとう、かなり時間短縮できた」
大和「お次は何を?」ソワソワ
提督「いや、別に何もねぇけど」
大和「そう・・・・・・ですか・・・・・・」ショボン
提督「つーか、もう21時50分だけど?」
大和「あ・・・・・・」ハッ
提督「だからもう休みな。明日もまた忙しいんだから」
大和「はい・・・・・・お先に失礼します」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
ガチャ
吹雪「あ、大和さん」
大和「! 皆さんまだ起きていたのですか?」
北上「まぁ、旗艦が謝罪に行ってるのに・・・・・・」
利根「吾輩達が寝るわけにもいかんしのぅ」
大鳳「大和さん一人に申し訳ないです」
文月「・・・・・・」zzz
大和「文月ちゃんはもう寝てますね」ナデナデ
吹雪「大和さん」
大和「? はい」
吹雪「司令官の事、どう思っています?」
大和「へっ!?////」
大和「そ、それはもちろん、優しくてしっかりした上官だと・・・・・・////」モジモジ
艦娘(何とまぁ分かりやすい・・・・・・)
北上「いや、そんな上下関係抜きでさ。異性としてどうかって話」
大和「いせっ!?////」ボンッ
北上「大和なら一発で墜せると思うなー。だってほれ」モミッ
大和「きゃっ!?////」
北上「おぉ、これはこれは。少なくとも80後半、いや恐らく90前半。その上形や見た目も綺麗だしねー」モミモミ
大和「や、やめてくださいよー!////」バッ
大和「そ、それよりも皆さんはどう思ってるんですか?」アセアセ
吹雪「私は、少し世話が焼けるけど、いざって時は頼りになるお兄ちゃんって感じです」
北上「あたしは親友かなぁ。親身になってくれるから悩み相談とかもできるし」
利根「吾輩も、職場での相棒みたいな感じかのぅ」
大鳳「私にとっては恩人です。私に色々と大切な事を教えてくれましたし、尊敬できる先輩とか師匠みたいな感じです!」
文月「ふみゅ~、何の話ぃ?」グシグシ
大和「あ、起こしちゃいましたか」
吹雪「文月ちゃんにとって、司令官はどんな人ですか?」
文月「? 司令官は司令官だよぉ。でも、時々優しいお父さんに感じるなぁ」
大和「み、皆さん提督を異性としては見ていないと?」
北上「見てないっていうよりも」
利根「寧ろあやつが吾輩達を異性として見ておらん」
吹雪「私と文月ちゃんは子供だから論外ですし」
大鳳「私達を完全に家族のようにしか見ていません」
大和「・・・・・・」
吹雪「大和さん」
大和「?」
吹雪「私達、応援していますから!!」キラキラ
大和「えぇ!?////」
北上「いやぁ、こういうのは見てて楽しいからね」ニヤニヤ
大鳳「ワクワクします!」ワクワク
利根「まぁ、吾輩達も全力でサポートするからの」ドン
文月「大和ちゃん、がんばぁ」ニパァ
大和「え、えぇ!?」
吹雪「では、おやすみなさい」スタスタ
スタスタスタ・・・・・・
大和「・・・・・・」ポカーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
グラウンド
大和(うぅう、昨日の事意識しすぎて集中できません)
利根「はぁっ!」ブン
パシッ
利根「!」
ブンブン
パシッ パシッ
大和「うぅう・・・・・・」
利根(攻撃が全く当たらん、何故じゃ!?)
ガシッ
利根「なっ!?」
大和(は、恥ずかしいですぅ!!////)ブンブン
利根「ぎゃぁぁぁぁぁぁっ!?」グルグル
スポッ
大和「! あ、あれ?」
ドカァァァァァァンッッッ!!
大和「! ご、ごめんなさい利根さん!」タッタッタッ
利根「め、目が回るぅぅ・・・・・・」ピヨピヨ
北上「いやぁ、見事なジャイアントスイングだったよ」
吹雪「って!!」ギョッ
大和「て、提督!!」ガビーン
提督「」ピクピク
利根「うぅ、やっと意識が戻ってきた。何じゃ、変な感触の地面じゃのぅ」チラ
提督「」チーン
利根「な、何でお主が吾輩の下敷きになっておるのじゃ!?」ギョッ
大和「と、とりあえず提督から降りてください」
利根「う、うむ」スッ
文月「司令官大丈夫ぅ?」
妖精「皆どいてどいてー!!」テテテテ
吹雪「妖精さん!」
妖精「えっと・・・・・・」診断中
妖精「気絶してるだけだね、今日は安静にしといてね」つ担架
えっほ、えっほ、えっほ・・・・・・
妖精「あ、君達も今日は終わりにしてよ」テテテテ
艦娘「は、はい」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督寝室
提督「う・・・・・・」ピク
提督「ん? ・・・・・・ここは、俺の部屋か?」ムク
大和「気がつきましたか、良かったです」
提督「あぁ、大和。悪ぃ、迷惑かけた」
大和「こちらこそ申し訳ありませんでした。大和が周りを見ていれば」
提督「注意してなかった俺にも非がある」
大和「あの、煮麺作りましたのでよければ召し上がってください」スッ
提督「! あぁ悪ぃ、いただくよ」スッ
ズルルルル・・・・・・
提督「・・・・・・」モグモグ
『煮麺作ってみたの! 櫂ちゃんのお口に合えばいいけど・・・・・・』
『美味しい? ホント!? やったぁ!!』
提督「!」ツーッ
大和「っ!? 提督、どうされました!? まさかお口に・・・・・・」オロオロ
提督「いや美味い、めちゃくちゃ美味い」ポロポロ
提督(あいつの煮麺・・・・・・またそれを味わう事ができるなんてな)グシグシ
提督「ありがとう、大和」ニッ
大和「・・・・・・はい」ニコッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
ーーーーーーーー
一ヵ月後
執務室
大和改「提督」ペタンペタン
提督「ん?」カリカリ
大和「何故提督は休もうとなさらないのですか?」ペタンペタン
提督「休む必要ねぇから」カリカリ
大和「それなのに大和達にはたっぷり休暇くれるじゃないですか」トントン
提督「まぁ、既に全員最高練度だしな。最近は座学ばっかで、トレーニングは自主だし」カリッ
大和「大和が言いたいのは、提督も休んでくださいという事です! 最近目の下の隈が酷いですよ!!」プクーッ
提督「わかったからもうちょい待て、あとこの一山で終わりなんだ」カリカリ
大和「うぅ」ジトー
提督「そんな目で人を見るな、終わったんならもうあがっていいぞ」カリカリ
大和「・・・・・・失礼します」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
スタスタスタ・・・・・・
大和(うぅう、何で提督は休んでくれないのでしょうか? そしたら大和が日頃の疲れを癒すために・・・・・・)モンモン
大和「・・・・・・皆さんに相談してみましょうか」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「司令官を休ませる方法・・・・・・ですか?」ペラッ
大和「はい。大和が休んでと言っても『後で』とか『これが終わったら』と聞かないんです」
利根「うーん、あやつは少し仕事を重要視し過ぎな面があるからのぅ」つ煎餅
大鳳「その点私達にはあまり仕事をさせませんし」パリパリ
利根「吾輩からは、休ませる事は困難じゃがその分、休んでおる時にたっぷりリラックスさせるしか思い浮かばんのぅ」パリパリ
吹雪「私もそうかと」つ煎餅
大和「分かりました・・・・・・」スッ
吹雪「頑張ってくださいね」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
北上「提督を休ませる方法?」つ某海賊漫画
大和「北上さんからは何かあります?」
北上「あたしもいい案は思い浮かばないなぁ」
文月「楽しかった~♪」
大和「文月ちゃんはアニメ見てたのですか?」
文月「昼間の録画ー」ピッ
大和「!」
北上「ん? 科学特集? 提督好きそうなのやってるなぁ」
文月「ほわぁ、お髭のおじさん達が芸能人と何か喋ってるよー」
北上「今日は森林浴やアロマテラピーが題材らしいねぇ」
大和(アロマ・・・・・・テラピー・・・・・・)
大和「! これだ!」ダッ
北上「?」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「あ~、やっと終わったぁ」ノビー
バタン
大和「提督!!」
提督「どわぁっ!? 何だ何だ!?」ビクゥ
大和「山に行きましょう、緑に囲まれたら疲れもとれますよ!!」キラキラ
提督「まさか今からじゃねぇよな?」
大和「まさか。明日は休日ですよね?」
提督「休日もここで過ごすさ」
大和「もうっ!! 何で外に出ないんですか!!」プクーッ
提督「逆に何で外に出そうとさせるんだ? 何かあったら困るだろ」
大和「うぅ・・・・・・」ショボン
提督「つーか、何で急にそんな話になった?」
大和「今しがたテレビでアロマテラピーの特集がありまして・・・・・・。だから山に行って森林浴をなされば提督も癒されるかと」
提督「なるほどな、フィトンチッドか」
提督「確かに森林浴はリラクゼーション効果が高いけどな」
提督「全く、俺の事を考えて提案してくれたのは嬉しいし感謝してる。だけど、俺は大丈夫だから」
大和「・・・・・・分かりました」トボトボ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日早朝
寝室
提督「」zzz
モゾモゾ・・・・・・
提督「ん・・・・・・・」ムニャムニャ
提督(何だ? 誰か俺の布団に入ってやがるな)チラ
妖精「うひゃぁ絶品だぁ・・・・・・へへへ」ムニャムニャ
提督(何だ、妖精さんか・・・・・・まぁ妖精さんなら問題ねぇか)ナンノユメミテンダカ
モゾモゾ・・・・・・
提督(何か俺の上に乗ってんなぁ、体が重い)フトンメクリ
文月「すぅー・・・・・・すぅー・・・・・・」zzz
提督「」
文月「ふみぃ・・・・・・」スリスリ
提督「」ホオツネリ
提督(夢じゃねぇな・・・・・・)
提督「おい、起きろ文月」ユサユサ
文月「うー・・・・・・」ムニャムニャ
提督「起きろって」ユサユサ
文月「んー」グシグシ
文月「おはよぉ司令官」ニパァ
提督「おぅ、おはよう・・・・・・って、そうじゃねぇだろ」
提督「何で俺の布団に入ってるんだ?」
文月「怖い夢見たのぉ、司令官がいなくなっちゃう夢」ジワァ
提督「そ、そうか・・・・・・で、どうやって俺の部屋に入った? 鍵かけたはずだけど」
妖精「あたしが合鍵作ったんだよ」ムク
提督「アンタかよ!?」オキテタノカ!?
妖精「まぁまぁ、許してあげなよ」フワァァ
提督「ったく、今回だけだぞ」ナデナデ
文月「うんー」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「さて、休日を謳歌するために部屋に入ったはいいけど・・・・・・」チラ
大和「・・・・・・」ツーン
提督「何でお前がいるんだ?」
大和「今日は提督に何としても日頃の疲れをとっていただきます!」
提督(癒されるどころか気が張って余計疲れるわ)
大和「とにかく、早くうつ伏せになってください」ポンポン
提督「はいはい・・・・・・(ま、暫く好きにさせるか・・・・・・)」スッ
コト
提督「ん? 何だそりゃ?」
大和「アロマオイルです、昨夜北上さんがネットで購入してくださいまして。これなら出歩かずとも森林浴ができるかと」
提督「なるほど・・・・・・手数料で200円取られただろ?」
大和「はい。では大和式マッサージ、御堪能ください」スッ
グッグッ グッグッ・・・・・・
提督(これは気持ちいいなぁ・・・・・・)
大和「肩の辺りも解していきますね」グッグッ
グニグニ グニグニ・・・・・・
提督「っ・・・・・・!」ピク
大和「かなり凝ってますよ、よく今まで我慢していましたね」グニグニ
提督「うぅ~・・・・・・」
大和「~♪」グニグニ
提督「大和、そういや休日はお前や他の皆は何しているんだ?」
大和「思い思いに過ごしていますよ。今日は皆さん出かけましたけど」グニグニ
大和「吹雪ちゃんと大鳳さんは甘味処巡りに、北上さんは文月ちゃんと一緒にアニフェスに、利根さんは街で開催されている中華料理の展覧会にお出かけです」グッグッ
提督「物の見事に出払ってるなぁ」
大和「皆さん提督を休ませるために出かけたんですよ」
提督「お前も出かけりゃよk・・・・・・」
大和「・・・・・・」グッ
提督「イダァァァァッ!? な、何すんだよ!?」ビクン
大和「・・・・・・サッシテクダサイヨ////」ボソッ
提督「・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「後は足も解しますね」モミモミ
提督「いっ・・・・・・!?」ビクゥ
大和「こうやって、足裏と足の甲を強めに指圧、足首を解して、脹脛を揉みほぐして」
グッグッ グニグニ・・・・・・
モミモミ モミモミ・・・・・・
提督(足の疲れが・・・・・・和らいでく・・・・・・)ホッコリ
大和「提督、少し痛いけど我慢してくださいね?」
提督「へ?」
グゥゥッ!
提督「っ!?!?(ひ、膝裏に親指をゆっくり押し込んできた!?)」ビクゥ
大和「膝裏にはリンパ管が通っている他、腰痛のツボもあります。ここをマッサージしたら、足先の老廃物なども取り除けますよ」グニグニ
提督「い、イギギギギッッッ・・・・・・!!」ナミダメ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大和「終わりですよ提督、どうですか?」
提督「・・・・・・!」グルグル グキグキ
提督「マジか、体が軽い!?」ギョッ
大和「良かった、体の疲れはとれたみたいですね」ニコッ
提督「あぁ、ありがとう」
大和「では、お昼にしましょう。軽く作りますので」スッ
提督「いや、マッサージしてもらったから次は俺が」
大和「提督」
提督「な、何だ?」
大和「言ったはずですよ? 今日は提督には休んでいただきますって」
提督「・・・・・・分かったよ、任せる」
大和「はい」ニコッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「・・・・・・」モグモグ
大和「お~いひぃ~♪」パクパク
提督「お前の中じゃ軽い食事は山盛りのご飯三杯とオカズの事なのか・・・・・・?」
大和「はい。戦艦大和は凄まじい燃料を必要としますから」ムシャムシャ
提督「まぁ、それは艦娘やってりゃ仕方ねぇか(空母勢が小食に見えてくるぜ・・・・・・)」
大和「・・・・・・ご迷惑でしょうか?」シュン
提督「お前はその消費量に見合う以上の活躍をしているさ、迷惑なんかしてねぇよ」ズズッ
提督「ごちそうさん大和、じゃあ俺はこの辺で・・・・・・」スタスタ
大和「また執務室・・・・・・ですか?」ジトー
提督「っ!?」ギクッ
大和「許しませんよ提督? 午後の部もありますからね」
提督「・・・・・・はい(まだあんのかよ・・・・・・頼むからもう解放してくれ・・・・・・)」ズーン
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「・・・・・・で、午後の部って?」
大和「はい、耳かきをさせていただきます」
提督「み、耳かき?」キョトン
大和「はい。最近耳が痒いと言っていましたし」つ耳かき棒
提督(耳かきか・・・・・・小さい頃はよく高雄姉や榛名姉に膝枕してもらいながら耳掃除してもらったなぁ)
提督「分かった、じゃあ頼むよ」スッ
大和「? 膝枕はしませんよ?」キョトン
提督「え?」
大和「提督、膝枕での耳かきは癒しとしてはよろしいですが、衛生的にはあまりよろしくありません」
提督「へぇ、じゃあどうすりゃいいの?」
大和「提督、胡座をかいていただいても?」
提督「? かいたぜ」スッ
大和「では・・・・・・失礼します」スッ
提督「なっ!?////」
大和「・・・・・・////」ドキドキ
提督(な、何が起きた!? 何故大和は俺の胡座の上に対面で座ってんだ!?////)カァァ
大和(うぅう、提督の胡座の上に対面で座るだなんて、大和ただの変態じゃないですか! 北上さんはこれが一番効果的って言ってましたけど本当にこれで大丈夫なんですかぁっ・・・・・・!?////)カァッ
大和「お・・・・・・重くないですか?////」
提督「い、いや、そんな事・・・・・・////」
大和「良かった・・・・・・。では、始めますね」スッ
ショリショリ サリサリ カッカッ
カリカリ スーッスーッ チョイチョイ
提督(ま、待て待て、一気に色んな事が起こりすぎだ、キャパ超えちまう!!////)ドキドキ
提督(み、耳には優しく丁寧な快感。しかも大和のいい匂いがしてくる・・・・・・!!////)ドクンドクン
提督(そ、それに・・・・・・////)
大和「かなり溜まってますよ、提督」クイクイ
ムニュゥゥウ
提督(対面だから大和の豊満な柔らかい胸が押しつけられ・・・・・・てか、潰れて形変わってる!!////)バクンバクン
提督(逃げようにも大和が後ろに足を回してしっかり固定してやがるっ!!////)
大和「ふぅぅ~・・・・・・」フーッ
提督「っ!?////」ビクン
大和「後は大きいのがここに・・・・・・」スッ
サリサリ コリコリ チョイチョイ
カリカリ コッコッ ショリショリ
大和「つ、次は反対側ですよ////」
提督「お、おう・・・・・・!!////」クルッ
ショリショリ カッカッ
大和「こちらも溜まってますよ」クリクリ
提督「っ・・・・・・////」
大和「ふぅぅ~・・・・・・」フーッ
提督「っ!?////」ビクゥ
大和「提督、お耳が弱いのですか?」
提督「・・・・・・////」フイッ
大和「ふふ・・・・・・////」クスッ
大和「可愛いです・・・・・・////」ヒソッ
『櫂ちゃん、耳かきしてあげる!』
『櫂ちゃんお耳弱いの? 可愛い・・・・・・!』
提督「っ!」
大和「提督?」
提督「もういい大丈夫だ、ありがとう」ググッ
大和「え?」スッ
提督「かなり休んだ、もう十分疲れはとれたから」ググッ
大和「執務室は駄目ですよ」
提督「何もしねぇと逆に不安だわ、何かさせてくれよ」
大和「ワーカーホリックじゃないですか!! 尚更息抜きが必要です!」ガビーン
提督「ワーカーホリックで結構だ、お前らを戦場に駆り出して自分が何もしねぇのはしょうに合わねぇ」スッ
大和「あ、ちょっと提督!!」ウデツカミ
提督「は、離せ大和、いい加減にしろ!」ググッ
大和「いい加減にするのは提督です!!」ガバッ
提督「おわっ!?」グラッ
ドシィィィィン・・・・・・
提督「痛たた・・・・・・大丈夫か、大和?」セナカウッタ・・・・・・
大和「・・・・・・何で」
大和「何で提督は、自分をもっと大事にしてくれないのですか!!」キッ
提督「はぁ?」
大和「いつもいつも、貴方は大和達の負担を減らして。その分を自分一人で片付けようとして! 挙句倒れそうになってもまだ休もうとしない!!」ジワァ
提督「・・・・・・」
大和「もっと大和達を頼ってください。大和が駄目なら吹雪ちゃんや北上さん、大鳳さんに文月ちゃん、利根さん! 誰かしらに頼ってください!!」ツーッ
大和「大和は提督が倒れるなんて嫌です! 仕事でも私情でも提督がいないと駄目なんです!!」ポロポロ
提督「!? ・・・・・・どういう意味だ?」
大和「・・・・・・!?////」ハッ
提督「私情ってどういう事だ・・・・・・!」
大和「・・・・・・です・・・・・・」
提督「あ?」
大和「・・・・・・好きなんです! 提督の事が!!/////」
提督「なっ!?////」
大和「異性として・・・・・・好きなんです。着任してから心の何処かで提督が気になっていました////」
大和「一緒に暮らすうちに提督に恋心を抱くようになりました・・・・・・////」
提督「・・・・・・」
大和「ぐ、軍属の身である故にといった理由も承知の上です。それを踏まえて大和の想いをお伝えさせていただきます////」
提督「・・・・・・俺は・・・・・・」
ガチャ・・・・・・
提督・大和「!?」ビクゥ
吹雪「ただいま帰りまし・・・・・・」
大鳳「ただい・・・・・・ま・・・・・・」
北上「提督ー、土産買ってき・・・・・・」
文月「ただいまぁ」
利根「ん? お主ら何を・・・・・・」
大和「あ・・・・・・」提督を押し倒し中
提督「」大和に押し倒され中
ポクポクポク・・・・・・チーン
艦娘「・・・・・・ごゆっくりと」ススス
大和「ち、違っ!////」アワアワ
提督「ちょ、おい待てお前らぁ!?」アセアセ
吹雪「大丈夫です、司令官と大和さんが存分に楽しめるように・・・・・・」b
北上「明日の朝まで緊急時以外取りつがないから」b
大鳳「ご武運を」b
文月「がんばぁ」b
利根「ごゆるりと・・・・・・」b
パタン
大和「あ、あぅぅう・・・・・・////」カァァ
提督「あ、あいつらぁ・・・・・・////」アタマグシグシ
大和「も、申し訳ございませんでした・・・・・・////」
提督「いや、こっちも悪かった」
提督「・・・・・・大和」
大和「・・・・・・はい」
提督「お前の気持ちは分かった。俺としてはお前みたいな美人に告白されてすげぇ嬉しい。出来るなら俺だってその想いに応えてやりたい・・・・・・」
大和「・・・・・・」
提督「けど、俺は今の時点では誰かを異性として愛する事はできない。許してくれ」
大和「・・・・・・分かりました」
提督「ごめんな」
大和「・・・・・・ですが、思い焦がれる勝手は許してください」ニコッ
提督「それは構わねぇさ」
大和「・・・・・・では、夕食にしましょう」スッ
スタスタ・・・・・・
提督「・・・・・・女々しい野郎だな、俺は」
提督(亡くなった奴に未だ好意を寄せ続けるなんて・・・・・・。区切りをつけて、さっさと前に進むべきなのは俺自身が一番よく理解してる。でも頭が理解しても感情は納得してくれねぇ)ツーッ
提督「教えてくれ・・・・・・俺はどうしたらいいんだ・・・・・・なぁ」ポロポロ
提督「・・・・・・頼むから・・・・・・誰か・・・・・・」ポロポロ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督寝室前 廊下
大和「・・・・・・」
大和「提督・・・・・・」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
タッタッタッタッ・・・・・・
提督(9歳)「くそ、くそ! くそっ!!」タッタッタッ
提督「何でアイツら! 皆のお陰で生きていられるってのに!!」
提督「父さんや皆もそうだ! あんな事言われて何で平気なんだよ!」
ピタッ
提督「はぁ、はぁ・・・・・・」キョロキョロ
提督(・・・・・・夢中で飛び出して来たけど、ここ何処だ?)
提督「・・・・・・街のこっち側なんて来たの初めてだ」
コノ!
ノロワレタイチゾクメ!
提督「ん? 誰かいんのか?」スタスタ
「っ・・・・・・!」ボロッ
男子1「呪われた一族!」ゲシッ
男子2「化け物女!」バシッ
男子3「俺達が退治してやる!」ドカッ
提督「なっ!?」ギョッ
提督(女の子がいじめられてる・・・・・・!)ダッ
提督「お前ら女相手に何してんだよ!」
男子1「!?」
男子2「やべ!」
男子3「逃げろ!」
タッタッタッタッ・・・・・・
提督「何だアイツら、さっさと逃げやがって」
提督「お前、大丈夫だったか?」
「・・・・・・」フイッ
提督「おい、返事しろよ。大丈夫なのか?」グイッ
「っ・・・・・・!?」
提督「!?////」ハッ
「・・・・・・不気味でしょ? こんな光る目・・・・・・」
提督「綺麗だ・・・・・・////」
「へ・・・・・・!?////」カァァ
提督「あ、いや、その目がすげぇ綺麗でさ! 見とれちまってよ////」アセアセ
(この子だって・・・・・・口では何とでも言えるわ)キィィ
提督(この子の目、紫色が混じってんのか。何か宝石みたいで本当に綺麗だなぁ)
(!? ・・・・・・そんな、まさか)
提督(つーかこの子、今は傷だらけだけど、すっげぇ可愛い顔してんなぁ。何でいじめられてたのか不思議なくらいだ)
「っ!?////」
提督「? まぁ、大丈夫そうだから良かったよ。じゃあ、気を付けて帰れよ」スッ
「! 待って!」
提督「?」
「君、名前は?」
提督「・・・・・・櫂。海原 櫂」
「櫂・・・・・・」
提督「で、そういうお前は?」
「・・・・・・耶麻(やま)。眞祓井(まはらい) 耶麻よ」
提督「それで、わざわざ名前聞くために呼び止めたのか?」
ヤマ「ううん。ちょっと遊ぼ?」ニコッ
提督「っ!?////」ドキッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
近くの公園
提督「耶麻はこの辺の子なのか?」
ヤマ「うん! あそこの丘にあるのが私の家だよ!」スッ
提督「へぇ、あの大きな屋敷は耶麻の家だったのか!」
ヤマ「櫂君って、私と同じ10歳だよね? 何処の学校?」
提督「? 学校なんか行ってねぇよ。そして俺は9歳だ、遅く産まれたからな」
ヤマ「えっ?」ギョッ
イタカ!
イエ、ミツカリマセン!
ヤマ「! あの人達誰?」
提督「ちっ! 憲兵だ」
ヤマ「ケンペー? 何それ?」
提督「軍の警察だよ。そういや逃げてんの忘れてた」
ヤマ「逃げてる? どういう事?」
ヤマ(憲兵(警察)から追われてる→悪い事をした→捕まったら少年院行き→二度と会えないかもしれない)サァァ
提督「じゃあそろそろ逃げるわ。ありがとう、会話できて楽しかったよ」スッ
ヤマ「っ! 駄目!」ガッ
提督「え!? ってうわぁ!?」グラッ
ドサッ
提督「痛た、背中打った・・・・・・大丈夫か?」
ヤマ「悪い事したらちゃんと謝らなきゃ駄目!」提督に馬乗り
提督「? はぁ?」キョトン
ヤマ「私も一緒にごめんなさいするから。逃げちゃ駄目だよ!」
提督「悪ぃ、何言ってんのかさっぱり分かんね・・・・・・」
??「見つけたで、櫂!!」
提督・ヤマ「っ!?」ビクゥ
??「ほんまにお前は迷惑かけおってからに! ガンさんや団長がエラい心配しとったで!」
提督「げっ!? あ、兄ぃ!?」ギョッ
ーーーーーー
ーーーー
ーー
提督「・・・・・・ん?」
提督(ここは・・・・・・俺の部屋か。そうだ、飯の後帰ってそのまま寝落ちしちまったみてぇだな)
提督(久しぶりにアイツの夢を見た・・・・・・枕元がびしょ濡れだ)グシグシ
ポタッ・・・・・・
提督「ん? 何だ?(水漏れ・・・・・・にしては温かい水だな)」
大和「・・・・・・」ツーッ
提督「おわぁ!?」ビクゥ
大和「きゃあ!?」ビクゥ
提督「な、何だ大和か・・・・・・」
大和「お、おはようございます、提督」
提督「おはよう。・・・・・・とりあえずお前に三つ聞きたい」
大和「はい?」
提督「まず、どうやって中に入った?」
大和「妖精さんに合鍵を・・・・・・」
提督「・・・・・・そして、何で泣いてんだ?」
大和「分かりません・・・・・・提督が寝ながら泣いていらっしゃるのを見たら何故か涙が溢れてきたんです」グシグシ
提督「・・・・・・」
大和「・・・・・・そして三つ目の質問は、『何の用事で、こんな夜這い紛いな行為をしに来たんだ?』で、よろしいでしょうか?」
提督「!? ・・・・・・あぁ(何で分かんだよ、一瞬寒気がしたぜ)」ギョッ
大和「大本営から連絡が来ましたので」
提督「は? 何て?」
大和「『Hey! カイ!今日は私達がカイのteachingのassistantに行きマース!』、『鎧袖一触です』、『胸が熱いな』・・・・・・との事です」
提督「・・・・・・ほぼ把握した(後ろ二つは何が言いてぇのか普通分かんねぇよ)」
提督「大和、『今日は大本営から特別講師がお見えになる』って皆に伝えてくれ」
大和「分かりました」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
執務室
大和「お見えになられました」スタスタ
提督「ん、分かった」
ガチャ
金剛「Hey! カイ! 久しぶりデース!」
比叡「久しぶりー!」
榛名「元気にしていましたか?」
霧島「ちゃんと仕事している?」
提督「久しぶり、金剛姉、比叡姉。元気さ、榛名姉。今してんだろ、霧島姉」ニッ
加賀「久しぶりね、櫂。急に押しかけてごめんなさい」
提督「加賀姉、久しぶり。まぁ確かに、出来れば前日に連絡欲しかったな」ニッ
長門「元気そうで何よりだ。少し焼けたな?」
提督「長門姉、そっちこそ少し日焼けしたんじゃねぇか?」ニッ
榛名「金剛お姉様が言ったように、今日は榛名達が、櫂の授業を手伝いますよ」
提督「何言ってんの、手伝うんじゃなくて、授業を開いてもらうからな」
比叡「まっかせて!!」
提督「あ、比叡姉は見学な」
比叡「何で!?」ガビーン
霧島「た、確かに」カチャカチャ
金剛「比叡、大人しくしてるデース」
比叡「ヒェェェ」ガーン
大和「・・・・・・」
金剛「! Youが噂の大和デスネ?」
大和「あ、はい! 初めまして!」ペコッ
金剛「今日は私達がビシバシ鍛えマース! 着いてきてくださいネー!!」
長門「大和型とは試合した事が無い、楽しみだ」
大和「は、はい・・・・・・」
提督「じゃあ最初に、金剛姉に英語を教えてもらうな。後は鬼トレに参加してくれ」
加賀「分かったわ」
長門「任せろ」
比叡「気合い! 入れて!! 頑張ります!!」
霧島「腕が鳴るわ」ゴキゴキ
提督「既にやる気満々だなオイ!?」ギョッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
教室
提督「えー、今日の英語は俺じゃなくて別の人に教えてもらう」
吹雪「誰でしょうか?」
文月「分かんな~い」
北上「まぁ、今日はあのチョーク弾が飛んでこないみたいだねぇ」フゥ
大鳳「き、北上さん・・・・・・」アセアセ
利根「とはいえ、お主が教鞭を持たせるからにはさぞかし素晴らしい教師なのじゃな」
提督「あぁ。幼い頃、俺に英語を教えてくれた教師だ」
大和「・・・・・・」
金剛「Hello, everyone! My name is Kongou! Nice to meet you!」
吹雪「な、Nice to meet you, too」
北上「な、何だ金剛さんか、びっくりしたぁ」
金剛「・・・・・・」ヒュン
バシィィィィッ!
北上「痛ぁぁっ!?」マタチョーク!?
金剛「Hey! Ms. Kitakami! We don't speak Japanese in this class.OK?」
北上「お、OK・・・・・・!」ゾワッ
艦娘「っ!!」ゴクッ
提督(懐かしいなぁ、金剛姉の英語講座。授業中は一切英語以外喋らせてくれなかったっけ・・・・・・)シミジミ
比叡(英語を教える時のお姉様は一切容赦ないからなぁ)ウンウン
榛名(よく櫂も怒られていましたね)ニコニコ
霧島(尤も、何故か金剛お姉様の方が精神的ダメージを負っていましたが・・・・・・)カチャカチャ
艦娘(スパルタ過ぎる・・・・・・!!)
ーー
ーーーー
ーーーーーー
金剛「フーっ! I'm sorry. 皆に厳しくしすぎでしたネー」
吹雪「い、いえ! どうもありがとうございました!」
北上「あの1時間だけで8発もチョーク弾撃たれたよ」ヒリヒリ
金剛「北上はわざと日本語喋ってたデース!」
大鳳「何やってるんですか、北上さん」
利根「吾輩は一発も食らっておらんぞ」
文月「利根ちゃん英語嫌いなのにねー?」
ワイワイ
比叡「流石はお姉様です!」
榛名「皆さん優秀ですね。榛名感激です!」
提督「まさか俺らまでグループワークの頭数に入ってるとは思わなかったぜ」
霧島「ま、まぁ楽しめたでしょ?」
加賀「やりました」つ85点 キラキラ
長門「英語は苦手だ・・・・・・」つ83点 クッ
提督「で、何で加賀姉と長門姉は二人で競い合ってんの?」アキレ
比叡「気にしたら負けだよ、櫂」
提督「お前ら昼休みだ。昼飯食ったら鬼トレやるぞ」
長門「やっとか。胸が熱いな」
榛名「お昼はどうするの?」
提督「当番制。今日は確か吹雪だったな」
吹雪「が、頑張ります!」フンス
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「どうぞ、今日は蕎麦です」
金剛「Oh! Japanese foodデース!」キャッキャッ
比叡「わーい!」
霧島「ごめんなさいね、私達の分まで」
吹雪「いえ。司令官の御家族ですので」ニコッ
榛名「・・・・・・」
吹雪「あ、榛名さんは確か蕎麦アレルギーでしたよね? これは大丈夫ですか?」つ焼きそば
榛名「あ、焼きそばは大丈夫です・・・・・・って、何故榛名のアレルギーを?」
吹雪「司令官が教えてくれたんです!」
大和「『榛名姉は焼きそばが大好きだ』って、いつも焼きそばの時は仰ってましたよ」
榛名「榛名は幸せです・・・・・・。あの子がこんないい子に育ってくれて」ブワッ
金剛「Oh、榛名! 泣いたら折角のpretty faceが台無しネー」
比叡「ほら、ティッシュ」つティッシュ箱
榛名「お姉様! 榛名は、榛名は・・・・・・!」ズビビーッ
霧島「良かったわね榛名。貴女の愛情はあの子にちゃんと届いていたみたいよ」
提督「仕事終わらして来てみたら、一体何の騒ぎだ?」
北上「まぁまぁ、今日は身内も来てんだからさ」
文月「楽しいご飯だねぇ」
大鳳「は、はい!」ダラダラ
利根「涎を拭かんか、大鳳」つハンカチ
提督「じゃあ皆、さっさと食って鬼トレするぞ」パン
提督「いただきます」
吹・文・北・大・利「いただきます!」
大和「いただきます」
金剛「イタダキマース!」
比叡「いただきまぁす」
榛名「いただきます」
霧島「いただきます」
長門「いただきます!」
加賀「いただきます・・・・・・」
赤城「いただきます!!」
一同「・・・・・・」
赤城「? 皆さんどうしました?」ムシャムシャ
艦娘「誰だアンタ!?」ギョッ
加賀「あ、赤城さん!?」
提督「赤城姉いつの間に!?」
赤城「はい! お久しぶりです櫂。加賀さん、何で私を呼んでくれなかったんですか!」
加賀「え、いや、その・・・・・・」
長門「お前を呼んだら櫂の鎮守府の食糧があっという間に蒸発してしまうだろうが」
提督(アンタらもかなり食ってるけどな)
吹雪「えっと、お知り合いですか?」
提督「赤城姉。大本営の最高戦力の一人だ」
北上「・・・・・・マジ?」ポカーン
大鳳「正規空母の、しかも一航戦のお二人に会えるだなんて」キラキラ
大和「段々面子がすごい事になっていきます・・・・・・」
利根「何を今更・・・・・・」
文月「司令官、もう半だよぉ?」
提督「何っ!? お前らさっさと食え!」ガツガツ
艦娘「は、はい!!」パクパク
赤城「そんな急いで食べたら詰まらせますよ?」ムシャムシャ
金剛「誰の所為だと思っているネー」ハァ
ゲッホゲホッ、ミ、ミズ・・・・・・
ダ、ダイジョウブカ、キタカミ!? つ水
ア、アザッス、ナガトサン ゴクゴクゴク
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「よし、じゃあ組手を始めるけど、今回は大本営の艦娘達がお前らの相手をしてくれる」
長門「待ちくたびれたぞ・・・・・・」ボキッボキッ
霧島「やっとね・・・・・・!」ゴキゴキ
大和「や、やる気満々ですね」ニガワライ
北上「でもさぁ提督、あたし達相当強いと思うんだよねぇ」
提督「まぁな。でも上には上がいるもんだぜ?」
利根「じゃが、正直今の吾輩達ならばいくら大本営の艦娘であろうとそれなりに渡り合えよう」ニヤリ
吹雪「ちょ、北上さん、利根さん!」アセアセ
長門「なかなかに威勢がいいな」
北上「だからさ提督。なーんも心配要らないよ。のほほんと観戦してなよ」
提督「ほー、随分な自信だ。じゃあ俺は一切お前らを心配しねぇからな、後悔するなよ?」ピクピク
大和「・・・・・・」
北上「まぁまぁ、サクッと終わらせるよん」
利根「うむ。吾輩達の力を思い知らせてやるからな」ビシッ
文月「自信満々~」
提督「文月、ああいうのを死亡フラグって言うんだ・・・・・・」
提督「先ずは北上。比叡姉が相手だ」
北上「よろしくね~」
比叡「こちらこそ!」
提督「始め!」
比叡「先手必勝!」ダッ
先に仕掛けたのは比叡。高速戦艦の機動力を駆使して北上に突っ込む
北上「甘いよ・・・・・・!」サッ
柔よく剛を制すを体現している北上はその一直線の攻撃を避けようとするが
比叡「気合い! 入れて!!」ダンッ
高速戦艦の脚は予想以上の速さであった
北上(っ!? 速っ!!)ギョッ
比叡「打ちます!!」ブンッ
ズドォォォォォォン!!
北上「あっぶなぁ・・・・・・!」ゾワッ
北上(動きが速い! それにあのパンチ・・・・・・)チラッ
比叡「ヒェェェ! ぬ、抜けないぃぃ!!」ジタバタ
長門「・・・・・・何をやっているんだ、比叡は」
北上(地面にめり込んでる・・・・・・! 冗談キツイよ)ゾッ
ただし身動きの取れない今がチャンス。北上は背後に周り、手刀を構える
北上「隙あり!」サッ
ズボッ!!
比叡「あ、抜けた!! えい!」ブンッ
北上「え!?」
正に首に手刀を寸止めしようとした直後、比叡が地面から拳を抜き、そのままの勢いで回転しながらの左ストレートを放つ。突然の事に北上は対応しきれず
バキィッ!!
北上「うわぁっ!?」
ドサッ
提督「そこまで、勝者比叡姉!」
比叡「だ、大丈夫でしたか?」
北上「ジョブジョブ。いつつ・・・・・・、まさかあたしがペースを崩されるなんて」ヨロヨロ
北上「い"っ!?」ガクッ
比叡「おっと!」ガシッ
北上「あ、ありがと(参ったなぁ、たった一撃もらっただけで身体に力が入らないや)」
文月「北上ちゃん大丈夫ぅ?」オロオロ
北上「大丈夫・・・・・・じゃないかも」
提督「フラフラじゃねぇか、休んでろ」
吹雪「北上さんが一撃でああなっちゃうなんて・・・・・・」ゴクッ
提督「次、利根と霧島姉だ」
利根「お手並み拝見じゃな」
霧島「ふふふ、こちらこそ」カチャカチャ
提督「始め!」
利根「往くぞ!」ダッ
霧島「・・・・・・」
利根が接近し、得意の蹴りを放つ
利根「はぁっ!」ブンッ
霧島「・・・・・・」スッ
利根「っ!?」ピタッ
下から蹴り上げようとした矢先に霧島が徐ろに出した左手。それを見た利根は動物的直感で攻撃を中断した
霧島「! ・・・・・・あら」
文月「? 何で利根ちゃん蹴らなかったのぉ?」
北上「霧島さんが手を出したでしょ。掴みにくる可能性があるからねぇ」
霧島「次は私ね」スッ
利根「!!」バッ
霧島「ふっ!!」ブンッ
霧島が大振りのパンチを放つ。それを利根は
利根「そこじゃ!」サッ
紙一重でしゃがみこみ躱す。と同時に相手の懐に飛び込み
霧島「!?」
ズドドドドンッッッ!!
吹雪「大振りのパンチを躱して顎と顳?に二発ずつの蹴り!」
大和「流石利根さんです!!」
利根「決まった!」
利根(この場所に攻撃を当てられたら、普通の人間ならば神経が断たれて命の危険すらある! じゃが人間より強靭な艦娘、しかも戦艦ならば大丈夫じゃろう)
利根(とはいえ、流石の戦艦も脳が揺れて気絶は必至・・・・・・)
提督「・・・・・・」
霧島「・・・・・・流石は利根ちゃんね」
利根「な!?」ギョッ
霧島「目のつけ所はいいわね。確かに並大抵の戦艦なら危なかったわ」コキコキ
吹雪「脳が揺れて動けないはずなのに・・・・・・何で!?」
提督「無駄だ。霧島姉には小細工は一切通用しねぇ・・・・・・」
北上「・・・・・・怖」ゾワッ
霧島「さぁ、次は私の番ね」
利根「くっ!」ジリッ
霧島「マイク・・・・・・チェック!」
バキキキッ!
霧島が叫んだ直後、その右足の下にある地面に突如ヒビが入る
艦娘「ひっ!?」ビクッ
吹雪「霧島さんの右足の地面が急に砕けた!?」
金剛「Oh! 霧島が本気デース!」
大和「な、何故分かるのですか?」
加賀「周りの地面が砕けるほど、霧島さんが強く踏みしめたんですよ」
長門「あれは霧島が抑えていた筋力を解放した証拠。いわばエンジン点火の合図だ」
霧島「ワン!!」
ビキキキッ!
赤城「左右を交互に砕いた後・・・・・・」
霧島「ツー!!!」
バキィィィィッッッ!!
ビキビキバキバキ!!
轟音と共に霧島の周辺の地面は一気に砕けた。しゃがみこんだり、足踏みをしたわけでもない。ただ足に力を込めただけで辺りにこれだけの衝撃が走るのだ。利根は相手の抑えていた筋力の規模にただ呆然としていた
比叡「両方の足で同時に踏みこんで一気に周辺の地面を割る」
榛名「この威嚇のような現象が霧島の本気の合図なんです」
提督「グラウンドが・・・・・・また直すのに多額の費用が・・・・・・」ズーン
霧島「」ヒュンッ
利根「なっ!?(は、速い! 一瞬で懐に!?)」ハッ
霧島「ふっ!」ブンッ
利根「はぁっ!」ブンッ
バキィィィィッ!!
霧島「!」
一瞬で懐に入った霧島のパンチと利根の蹴りが激突した直後
ミシッ バキバキバキッッッ
利根「っ!? あぁあっ!?」ズキズキ
長門「・・・・・・足が砕けたか」
ドサッ
霧島「・・・・・・まだやる気?」
利根「無論! と言いたいとこじゃが、足が砕かれてはな・・・・・・降参じゃ」
提督「勝者、霧島姉!」
霧島「ちょっとやり過ぎたわ、ごめんなさい」
利根「構わんよ、吾輩の全力じゃったが・・・・・・」
提督「だから言ったろ、後悔するって」
北上・利根「面目ない」シュン
提督「とりあえず休んでろ。妖精さん後頼んだ」
妖精「任された。ほら二人共傷見せて・・・・・・」イソイソ
提督「さてと、次は・・・・・・」チラッ
大鳳「っ!?」ビクッ
提督「・・・・・・大鳳は個人演習だな。赤城姉、加賀姉、悪ぃけど大鳳に色々教えてあげてくれねぇ?」
加賀「分かったわ」
赤城「空母ですからね」
大鳳「よ、よろしくお願いします!」ペコッ
加賀「とりあえず艦載機について教えた後、体術も指導するわ」
大鳳「はい!」
提督「さてと誰かやりたいやついるか?」
吹雪「わ、私が行きます!!」
長門(・・・・・・ほぅ。先程の試合を見て尚挑戦にくるか)ニヤリ
長門「ならば相手は私が引き受けよう」ザッ
提督「先言っとくけど、長門姉はさっきの二人よりずっと強ぇぞ。それでもいいのか?」
吹雪「愚問です! 司令官、私の事も心配しないであくまで審判として行動してください!」キッ
提督「! そうか。なら始め!」
長門「さぁ吹雪、好きに打ってくるがいい」ドン
吹雪「!? (長門さん、腕を組んだまま仁王立ちしてる。でも、本人もああ言ってるし、ここは言う通りに!)」グッ
吹雪「行きます!!」バッ
ダンッ
吹雪「やぁぁっ!!」
バキッッッ!!
長門「・・・・・・」
吹雪の体重を乗せた一撃を長門は防ぐ素振りもせずにただ受ける。吹雪は即座に得意の乱打を打つ
吹雪「はぁぁぁっ!」バババ
バババババババババッッッ!!
長門(ふむ、なかなか重いな。それでいて一発一発を確実に当てにきている)
吹雪(手応えはあるのに全然効いてない!? 長門さん眉一つ動かさないなぁ)クッ
吹雪「やぁぁっ!!」ブンッ
バシィィィィッ
バシバシバシィィィィッ
長門「!」
長門(乱打に蹴りを加えてきたか)
吹雪「利根さん直伝!」グルンッ
その場で長門の頭上まで跳躍した吹雪。空中で一回転し、遠心力を加えた踵落としを脳天に叩き込む
バキィィィィッッッ!!
長門「・・・・・・(空中で一回転して頭に踵落としか。流石は初期艦娘、素晴らしい身のこなしだ)」
吹雪「・・・・・・ダメージゼロですか」スタッ
長門「? どうした、もう終わりか?」
吹雪「・・・・・・さっきのは私の最高の攻撃だったんですけど・・・・・・」
長門「そうか。なかなかの攻撃だったぞ」
吹雪「ありがとうございます・・・・・・ですが、ガードすらしないで無傷だなんて」
長門「一般基準ならば十分、超人クラスだ。さて、私も反撃するとしようか・・・・・・」
スッ・・・・・・
吹雪「? (組んでた腕を解いて下ろs・・・・・・)」
ズドドドドドドドドドンッッッ!!
吹雪「ガハッ!?」ヒュン
ドカァァァァァァァァァンッッッ!!
大和「・・・・・・!? なっ!?」ギョッ
文月「・・・・・・え?」
吹雪「な、何・・・・・・?」パラパラ
大和「な、何が起きたんですか!?」
大和(長門さんが組んでいた腕を解いて下ろした瞬間、吹雪ちゃんが一瞬であそこの壁に叩きつけられていた・・・・・・)
文月「み、見えなかったよ・・・・・・何が起きたのぉ?」ガタガタ
提督「早速十八番を出しやがった・・・・・・」ゾクッ
吹雪「うっ・・・・・・」ドサッ
吹雪「ゲホゲホ、ガハッ・・・・・・」ゴパッ
大和「ふ、吹雪ちゃん!!」
文月「血が出てるよぉ」ポロポロ
長門「・・・・・・」スタスタ
ザッザッザッ・・・・・・
吹雪「う・・・・・・うぅ・・・・・・」ググッ
長門「これほどのダメージを負ってなお、その戦意は衰えず・・・・・・か」ザッ
吹雪「と・・・・・・う・・・・・・然・・・・・・です・・・・・・っ!」ボタボタ
長門「見事だ。お前とはもっと楽しみたいものだが、肋の砕けたお前はもうまともに動けん。死んで櫂や他の皆を悲しませるのがお望みか?」
吹雪「(敗けられない! 初期艦の私が強くなきゃいけないんだ・・・・・・!!)まだ・・・・・・まだ・・・・・・!!」キッ
提督「レフェリーストップだ、吹雪」スッ
吹雪「! 司令・・・・・・官・・・・・・」ポロポロ
妖精「ほら吹雪、早く傷を!!」セカセカ
長門「・・・・・・大人げなくしてしまったな。すまない」
吹雪「いえ・・・・・・ありがとうございました」
提督「・・・・・・」チラッ
提督は文月を見る
文月「・・・・・・」ガタガタ
文月は顔面蒼白で震えていた。無理もない、一瞬で吹雪が叩きのめされた場面を見たのだ。これでは試合どころではない
提督「・・・・・・(肉体的もあるけど、皆精神的ダメージが強過ぎるな。潮時か・・・・・・)」
提督「今日の訓練は終わr・・・・・・」
大和「提督、次は大和の番です!」
提督「!?」
長門「!?」
大和「長門さん、次は大和とお願いします」
長門「・・・・・・後悔しないな?」
大和「はい!」スッ
長門「・・・・・・分かった」スッ
提督「・・・・・・いいんだな、大和」
提督「始め!」
大和「はぁっ!」ダッ
バシィィィィッ
長門「・・・・・・」
大和「行きます!!」
ドカッバキッゴキッ!!
ガンッゴンッドムッ!!
長門「っ・・・・・・!」
手数では吹雪に劣るものの、それを補って余りあるパワーで大和は殴り続ける。その重さに思わず長門は顔を顰める
大和「まだまだぁ!」グルンッ
バキィィィィッッッ!!
ドカァァァァッッッ!!
長門(くっ・・・・・・何という重さだ! 流石は大和型と言ったところか・・・・・・!)
乱打に回し蹴りを加え、更に激しく攻める大和。そして
大和「はぁぁぁっ!」
ズドォォォォンッッッ!!
ズザザザザッ・・・・・・
霧島「長門さんが・・・・・・」
榛名「動かされた・・・・・・?」
提督「・・・・・・」
長門「流石だ、私の仁王立ちする場から動かせる者はそういないぞ」
大和「・・・・・・」
腕を組んだまま長門はゆっくりと大和に歩み寄る
長門「不器用な私の唯一の取り柄が武術だった。それ故に私が後進の艦娘や、櫂に教える事ができたのは闘い方だけだ」ザッザッザッ
提督「長門姉・・・・・・」
長門「私は闘いに於いては一切容赦はしない。覚悟ある相手に本気をもって返す、それが不器用な私なりの礼儀だ」
大和「はい、分かっています」
長門「さぁ、そろそろ私の番だ」スッ
大和「っ!?」バッ
ズドドドドンッッッ!!
長門「! ・・・・・・ほう」
大和「くっ・・・・・・!」ズザザザザッ
吹雪「! 防いだ!」
利根「何と!」
北上「・・・・・・マジ?」アングリ
文月「ほわぁ」キラキラ
金剛「WOW!!」
比叡「ひぇぇ!」
榛名「え・・・・・・!?」
霧島「私の記憶だと、この攻撃を見切ったり防いだ人は三人だけよ」カチャカチャ
大和「はぁっ、はぁっ・・・・・・!!」ゼーッゼーッ
長門「まさか一度目で私のあの技を防ぐとは、大したものだ」
大和(一瞬頭の中に、長門さんが大量のパンチを打ってくるイメージが浮かんだから思わずガードしましたが・・・・・・まさか本当に防げたなんて・・・・・・これは一体・・・・・・)
大和「あの攻撃の正体は、音速以上の速さで放たれた無数のパンチだったんですね」
長門「あぁ、その通りさ」
長門「瞬く間に繰り出された20発以上の拳は、その速さ故に目視できず、ほぼガード不能。さしずめ、『瞬撃拳(しゅんげきけん)』とでも名付けようか」
大和「正に瞬きする間の神業です」ズキズキ
大和(両腕が動きませんね・・・・・・。確かに吹雪ちゃんが吹き飛ばされるのも納得です)
長門「投了しても構わんぞ。両腕を折られては力が出せまい」
大和「愚問ですよ、長門さん。私はまだ戦えます!!」ダッ
長門「全く・・・・・・」スッ
大和「次は食らわない!」バッ
長門「む? 横に跳んで躱したか」
大和「はぁぁぁっ!」ブンッ
長門「甘い!!」バッ
ズドォォォォンッッッ!!
大和「ガハッ!?」
利根「無駄のないハイキックじゃ・・・・・・」
ドシャッ・・・・・・
大和「う、うぅ、ま、まだまだ!」ググッ
提督「勝者、長門姉」
大和「な、何故ですか提督!?」
提督「背中が地面に付いたろ。熱くなってるとこ悪ぃけど、あくまでこれは試合であって殺し合いしてるんじゃねぇからな」
大和「!」ハッ
長門「小手先の技を見切ったからとて、油断するなよ」
大和「うぅ、完敗です」
提督「じゃあ今度こそ訓練は終わりだ。全員風呂入ってこい」スタスタ
妖精「ほら大和。傷にかけるからね」つバケツ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
利根「今更ながら、妖精の技術には驚くばかりじゃ。皆ボロボロになりながらも一瞬で傷が完治するとはのぅ」
霧島「足は大丈夫ですか?」
利根「うむ、心配無用じゃ」
北上「文月はちゃっかり無傷だけどね」チラッ
文月「?」
大鳳「・・・・・・」グテーッ
大和「だ、大丈夫ですか大鳳さん!?」
大鳳「い、一航戦のお二方、厳しすぎました」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
赤城「35番目と59番目の艦載機の反応が鈍いですよ大鳳さん!! 0.01秒遅れています!!」
大鳳「で、ですが、艦載機一つ一つに意識を集中させてもいくつかには意識が届きません」
加賀「そこが間違いよ。私達も艦載機一つ一つに意識を向けては直ぐに疲労するわ」
大鳳「へ?」
赤城「艦載機は空母(私達)にとって言わば手の様なもの。貴女は手を動かすのに一々意識をする必要はありませんよね?」
大鳳「!」
加賀「箸のようなものよ。最初は苦労するけど、慣れれば貴女は今の倍以上の艦載機を容易く正確に、長時間稼働させることが可能になります」
大鳳「うわぁ・・・・・・」キラキラ
赤城「艦載機を己の身体が如く操るには経験あるのみ! 正に箸の扱いと同じです!」
大鳳「はい!!」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
加賀「いくら空母とはいえ、艦載機ばかりに任せては駄目。だからこそ体術を身につけてもらうわ」
赤城「貴女自身がやられてしまっては元も子もないですからね」
大鳳「体術・・・・・・ですか? ですが空母は肉弾戦は向かないので、後方支援に徹するべきでは?」
加賀「いつ私達(空母)が後方に下がるべき存在と決めつけました?」
大鳳「えっ、あ、いや」アセアセ
加賀「つまり、貴女は私達空母が艦載機の扱いしか秀でていないとでも?」
大鳳「・・・・・・はい、正直」ボソッ
赤城(大鳳さんと同じ立場なら私もそう思いますね・・・・・・)ウンウン
加賀「・・・・・・頭にきました」ピキッ
大鳳「へ?」
加賀「一航戦の体術、見せてあげるわ」ボキボキ
大鳳「ひぃぃッッッ!?」
加賀「構えなさい大鳳さん。間合いを詰められた時の対処法を伝授します」
ーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
大鳳「多分大和さんレベルです、あの人達の体術は」
榛名「かなり絞られちゃったみたいですね」
大鳳「はい、もうくたくたになっちゃいましたよ」
金剛「? そう言えば吹雪がいないデース」
比叡「あ、ホントだ」
文月「ちょっと部屋に戻るって言ってたよぉ」
長門「・・・・・・」
赤城「もしかしたら・・・・・・」
加賀「そうね」
提督「? どうしたよ皆、あれ、吹雪は?」スタスタ
大和「提督」
提督「ん?」
大和「吹雪ちゃんが部屋から戻らないんです、見てきてもらってもいいでしょうか?」
提督「・・・・・・分かった」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
コンコン
提督「吹雪いるか? 入るぞ」
ガチャ
吹雪「あ、司令官! すみませんつい夢中になってしまって・・・・・・」
提督「何に?」
吹雪「さっきの長門さんとの試合を書いていたんです。様々な事を学べたので」
提督「・・・・・・おい」
吹雪「やっぱり大本営の最高戦力はすごいですよね、私なんかじゃ足元にも及びません」
提督「・・・・・・吹雪!」
吹雪「あれですかね、きっと今とは比べ物にならないほどの死線をくぐり抜けてきたからこその実力ですよね!」
提督「吹雪!!」
吹雪「・・・・・・何ですか?」
提督「大丈夫か?」
吹雪「何がですか、私は至って大丈夫ですよ」
提督「じゃあ何で、こっちを見て喋らねぇんだ?」
吹雪「・・・・・・」
提督「お前いつも皆に言ってんじゃねぇか、『会話する時は相手の目を見て喋れ』って」スタスタ
吹雪「先に食べていてください、後で向かいますから」
提督「・・・・・・何で一人で我慢するんだ?」スタスタ
吹雪「我慢なんかしてません、いい加減にしてください!」
提督「そうか、なら」ガッ
グイッ
吹雪「っ!?」グルッ
提督「この大粒の涙は何だ?」
吹雪「っ~!!」ポロポロ
提督「全部吐き出しちまえよ。俺と一番長い付き合いじゃねぇか、遠慮すんなよ」
吹雪「司令・・・・・・官・・・・・・!」ポロポロ
ガバッ
提督「おっと」ダキッ
吹雪「悔しい・・・・・・悔しい悔しい悔しい!! 悔しいです・・・・・・!!」ポロポロ ギューッ
提督「悔しい・・・・・・ねぇ」ナデナデ
吹雪「あんなに頑張ってたのに・・・・・・あんなに努力したのに! 必死で自分の身体を、精神を鍛えようと決めてたのに!! 長門さんに全く歯が立たなかった!」
吹雪「長門さんに負けた後、気づきました。私は強くなった自分に酔っていたんです! 初期艦だから、この鎮守府の一番上の先輩だから! 戦艦(大和さん)と対等に戦える程に強いんだ!! そんな驕りがあったんです!」
提督「! (あ、そういう意味での悔しいか・・・・・・)」
吹雪「初心を忘れ、それを長門さんに完膚なきまでに叩きのめされるまで気がつかなかった!! 私はそんな自分に気づけなかった事が悔しいです!!」
吹雪「悔しくて・・・・・・悔しくて・・・・・・! う、うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッッッ!!」ポロポロ
着任した当初、吹雪は自身のその格闘技を仲間を守り、己を磨くためのものと心得ていた。しかしその後、鎮守府には自分よりスペックの高い艦娘が着任していった。癖のある仲間に置いていかれないように努力するうち、何時しか吹雪は己の強さに拘るようになった。そして初期艦としてのプライドに裏打ちされたその考えが吹雪の全てだった。そんなプライドに意味なんてない。それを長門に負けるまで気づく事ができなかった。それが真面目な吹雪には我慢ならなかったのだ。
提督「・・・・・・(全く、世話の焼ける奴だな。妹がいるとこんな感じなのかねぇ)」ナデナデ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「落ち着いたか?」つティッシュ箱
吹雪「はい・・・・・・」ズビビーッ
提督「長門姉達は深海棲艦の本拠地を叩く最終決戦に出撃したんだ、お前らが勝てねぇのは当然だ」
吹雪「流石ですね、やっぱり・・・・・・」
提督「別に初期艦だから一番強くなきゃいけねぇとか、そんな決まりは一切ねぇんだから。そもそも俺個人の考えじゃ、組み手の訓練なんか、軍だからしょうがねぇと諦めてて、皆で楽しく切磋琢磨していければいいと思ってる程度だ。俺としてはお前らには戦い方よりも戦後の生き方を模索してほしいんだ」
吹雪「分かりました、司令官!」ニコッ
提督「ほら、さっさと飯行くぞ」
吹雪「はい!」
ーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
一週間後
提督「何だかんだ言って、結局一週間も滞在してたなぁおい」
長門「仕方ないだろう、つい指導に熱が入ってしまったのだ」
赤城「もう貴女は立派な空母です」
加賀「私達が教えられる基礎の全ては叩き込んだわ」
大鳳「お二方には何とお礼を申し上げればよいか・・・・・・」ウルウル
北上「卒業式みたいだね」
榛名「一週間でしたが、とても楽しかったです」
金剛「たまにはコッチに帰って来るネ」
提督「考えとくよ」
霧島「とはいえ、もうそろそろ大本営で会議が行われるかと」
大和「大本営で?」
比叡「確か明日だったっけ」
提督「面倒くせぇなぁ、話ならそっちで片付けりゃあいいじゃねぇかよ」
長門「馬鹿者、お前は強制参加だ」
提督「えぇぇっ!?」ガビーン
榛名「駄目ですよ、ちゃんと会議に出なきゃ」
提督「ちょ、ちょっと世直しの旅に出るわ」フラッ
長門「どこのご老公だ、いいから来い」ガシッ
金剛「大和達も来るネ!」
大和「や、大和もですか!?」ギョッ
吹雪「えぇっ!?」
提督「嫌だぁ、行きたくねぇぇぇっ!!」ジタバタ
長門「暴れるな馬鹿者!」ズルズル
ーー
ーーーー
ーーーーーー
大本営
提督「長門姉に引き摺られて来たけど、本当に何も変わらねぇな」
大和「広いですね」
吹雪「あわわわ・・・・・・」カチコチ
北上「吹雪リラックス、肩の力抜きなよ」
大鳳「北上さんはもう少し緊張感を持ちましょうよ・・・・・・」
文月「お腹空いたぁ」
利根「少し我慢しておれ」
??「おぉ櫂、久しぶりじゃのう」
提督「! 親父!」
大和「! ではこの方が」
長門「あぁ。海軍の総司令官、元帥の『海原 巌山(がんざん)』殿だ」
元帥「いやはや、お前は何かしらの理由をつけて会議を休むと思ってのぅ。前もって長門達を向かわせておいて正解じゃったわい」
提督「別に会議が嫌なわけじゃねぇんだけどな・・・・・・」ボソッ
元帥「む? 何か言ったかの?」
提督「・・・・・・別に」
元帥「ほぅ、この娘達が?」
提督「あぁ、吹雪は知ってるよな?」
吹雪「お久しぶりです、元帥!」ビシッ
元帥「久しぶりじゃのう吹雪ちゃん。うちのバカ息子がいつも迷惑をかけてすまんの」
吹雪「いえ、そんな事は・・・・・・」
提督「お前らも挨拶しろ」
北上「雷巡北上です」ビシッ
大鳳「装甲空母大鳳です!」ビシッ
文月「睦月型駆逐艦の文月っていうのぉ」ニパァ
利根「利根型航空巡洋艦の利根じゃ」ビシッ
大和「大和型戦艦、大和です!」ビシッ
元帥「皆元気が良くて何よりじゃ。儂が元帥の海原じゃ。息子が世話になっておるのぅ」
提督「とりあえず部屋を貸してくれ。どうせ2、3日かかるんだ、皆を泊めたい」
元帥「うむ、お前の部屋を使うがよい」
金剛「私が案内するデース!」
スタスタスタ・・・・・・
長門「元帥、少しお話が」
元帥「む?」
長門「」ヒソヒソ
元帥「!・・・・・・そうか」
提督「・・・・・・」
元帥「櫂、少し良いか?」
提督「ん?」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
文月「広いね~」キョロキョロ
利根「うむ、規模が桁違いじゃな」
??「ん? 金剛やないか、こんなとこで何しとんの?」
金剛「Oh、ローグデース!」
吹雪「ローグ?」
北上「憲兵じゃん、知り合いなの?」
??「まぁな、てか、あんまローグてゆーなや金剛」
金剛「だってテートクもダンチョーも櫂も呼んでるデース」
吹雪「! 司令官も?」
??「! 君らもしかして、櫂んとこの艦娘け?」
大和「! 提督をご存知なのですか?」
??「まぁな、あいつがちっさい時からの知り合いなんやわ」
提督「ん? あ、ローグの兄ぃ!」スタスタ
??「! おー、櫂! 久しぶりやなぁ、すっかり立派になってからに」
提督「兄ぃは全然変わらねぇなぁ」
艦娘「兄ぃ?」
提督「あぁ、紹介するよ、この人は憲兵団の副団長の法田 宮彦(ほうだ みやひこ)。俺が小さい頃から世話になってるお兄さんみたいな人だ」
副長「よろしくなぁ皆。法田っていいます」
文月「?」
北上「何で日本刀持ってんの?」 フー・・・・・・ン・・・・・・
副長「ん? あぁ、俺がそれなりの達人やからや」ニシシ
北上「それなりって、中途半端だねぇ」フー・・・・・・ン・・・・・・
副長「なはは、こらまた手厳しい指摘やわ」チャキ
艦娘「っ!?」ギョッ
副長「」ヒュッ
北上「ひぃっ!?」ビクッ
副長「あぁ、悪ぃ悪ぃ。北上の頭の2cm上に蚊が飛んどってな」スッ
艦娘「あっ!」
大和(た、確かに蚊が刃に付いてる)
副長「あり? 頭と体の関節狙ったんやけど、ちょいズレとんなぁ」つ布巾
提督「相変わらずの動体視力と剣術だなぁ」
副長「まぁ、これくらいやったらな」フキフキ
チャキ・・・・・・チン
北上「え・・・・・・え? 何、あたしの頭の上を飛んでる蚊の関節を狙って、それが簡単?」ボーゼン
提督「親父と叔父貴が別次元過ぎて目立たないけど、兄ぃも艦娘より強いからな。特に剣術なら艦娘に指導するくらいだ」
金剛「よく伊勢や日向、天龍や龍田がlesson受けてボコボコにされてたネ」
副長「久々に櫂もしごいたろか?」
提督「遠慮しときます」
文月「ねぇねぇ」
提督「?」
副長「ん? 何や?」
文月「副長さん何で左手の小指が動かないの?」
艦娘「!?」
提督「文月、それは今聞くべき事じゃ」
副長「まぁまぁ、疑問持つんは、ええ事やでな」
文月「?」
副長「俺の小指はな、昔詰めたんや」
文月「つめるー? なにそれー?」キョトン
大和「文月ちゃん、もっと大きくなったら教えてあげますね」
文月「? 分かった~」
吹雪「・・・・・・」
北上「え、じゃあマジモンなの?」
副長「元な。ふっるいとこやったんやわ」ニシシ
副長「まぁ昔の話やからな」
利根「逞しいのぅ」
副長「ほれ、つまらへん俺の話は終わりや。何か用事あるんちゃうんか?」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
吹雪「司令官は何処に行ったのかなぁ?」
大和「提督なら確か元帥殿に話があるって連れて行かれましたけど」
提督「呼んだかお前ら?」ヌッ
北上「あ、帰ってきてたんだ」
提督「えー、俺の必死な説得も虚しく。今から元帥直々の鬼トレをする事になりました」
艦娘「い、今から!?」ギョッ
提督「というわけで、動ける服装に着替えてグラウンドに集合しましょう。因みに俺も強制参加だから」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
グラウンド
元帥「諸君、儂の思いつきに付き合ってくれてありがとう。ではこれより、本場の鬼トレを開始するぞい!」E:迷彩軍服・ペレー帽・サングラス・葉巻
艦娘(アンタが元ネタかい!!)
元帥「儂はトレーニングとなれば厳しいぞ。そこのハナタレの青二才とは比べ物にならんくらいにな!」ジロ
提督(息子に対して散々な言いようだなぁおい・・・・・・)イツモノコトダケド
元帥「櫂から内容を聞いたが、儂の場合はもう一捻りあるぞい」
艦娘「?」
提督「はぁ・・・・・・(エンジンかかっちまったなぁ)」
元帥「なに、今までのメニューに制限時間を設けるだけじゃよ」ニヤリ
大和「せ・・・・・・!?」
吹雪「制限時間!?」
元帥「左様。時間をかければどれだけ体力の無い者も終わらせる事は可能じゃ。それを如何に素早く行うか、じゃよ」
提督「俺は早くて3時間が限界だった」
元帥「最初という事も考慮してサービスじゃ、制限時間は4時間としよう」
北上「4時間なら、まぁ・・・・・・」
利根「うむ、それ程苦では無いのぅ」
提督「お前ら親父のスパルタさを知らねぇからそんな事言えるんだよ」
元帥「制限時間以内に終わらなかった場合ペナルティじゃからの。では始めぃ!」スッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
元帥「はっはっはっ!! いやはや、皆の日頃の訓練の成果、よく見せてもらったわい。まさか儂のトレーニングを初めて受けてここまで持ち堪えるとはのぅ」
艦娘「」チーン
提督「だから・・・・・・言ったのに・・・・・・・」ゼーッゼーッ
北上「ま・・・・・・まさか・・・・・・元帥が」ボロッ
大鳳「ランニング中に・・・・・・妨害して来るなんて」ボロッ
吹雪「バ、バスケットボールが凄い勢いで飛んできた・・・・・・」ガタガタ
文月「背中痛いよぅ」シクシク
利根「吾輩も・・・・・・あ、脚が・・・・・・」ズキズキ
大和「も、もう動けません・・・・・・」グッタリ
元帥(ふむ、櫂はともかく、大和だけはボールを全て避けておったな。前や横だけでなく、後ろからのボールさえも)
元帥「さて、次は組み手をするわけじゃが。ほれ、儂が全員相手してやるぞい」
北上「い、言ってくれるじゃん」ユラァ
大鳳「先ほどの妨害には面食らいましたが」
利根「流石に7対1では勝てまい!」
提督(あ、俺も入ってんだね)
文月「行くよぉ」
吹雪「覚悟!」バッ
大和「あ、ちょっと皆さん!?」ギョッ
元帥「ふむ」
先陣を切って飛び込んだのは吹雪と大鳳だった。得意の乱打を放つ吹雪と
吹雪「やぁぁっ!」ババババ
持ち前の踏み込みを活かした重い拳を放つ大鳳
大鳳「はぁっ!」ブンッ
ガシッ
吹雪「ふぎゃっ!?」
ズドンッ!!
大鳳「なっ!?」
元帥「なかなかやるのぅ」
しかし、その二人を元帥は苦もなく防いだ。その左手は乱打を放つ娘の顔を正面から掴み、その右手は体重の乗った拳を軽く受け止めていた。
大和(吹雪ちゃんをアイアンクローで、大鳳さんのジョルトブローを片手で止めた!?)
元帥「ほいっ」ブンッ
吹雪「きゃあっ!?」
大鳳「ひゃあっ!?」
ドカァァァァァァァンッッッ
提督「あ~あ・・・・・・」
吹雪「」ピクピク
大鳳「」ピクピク
投げ飛ばされた二人は壁に叩きつけられ、目を回していた
元帥「うーむ、寄る年波は越えれんか。最近身体が鈍ってしまうのぅ」
間髪をいれずに小さな駆逐艦が躍り出る。一瞬で見上げる大男の懐に飛び込み
文月「とぉ~」バッ
元帥「む?」
バシィィッ
元帥「ふむ」
文月「え?」
その小さな拳は文月の顔より大きな左手で難なく受け止められた
元帥「踏み込みが甘いぞい、文月ちゃん」スッ
元帥は右手の人差し指を親指に引っ掛けた状態で突き出す。いわゆるデコピンであった
文月「デコピン!?」バッ
バチィン
文月「あうっ!?」
ヒュー・・・・・・・
提督「おわ、文月!」バッ
ガシッ
提督「大丈夫か!?」
文月「はにゃ~・・・・・・」グルグル
北上「よっと」バッ
元帥の懐に北上が飛び込む
ガガッ グイッ
胸ぐらと右腕の袖を掴み
元帥「ほ?(掴みに来おったか、背負い投げかの?)」
北上「よいしょっ!」グッ
グググッ
北上「!? あ、あれ!?」
元帥「? どうしたのかね?」
北上(あ、上がらない!? 何なのさこの爺さん、足の裏に磁石でもくっついてんの!?)
元帥「投げないなら儂の番じゃよ?」スッ
北上「!? ヤバッ!」バッ
利根「はぁっ!」バッ
バシィィッッッ
元帥「む?」
掴みかかろうとした元帥の右手を利根の前蹴りが弾く
北上「あっぶな、助かったよ利根っち」
利根「やはり元帥は桁違いじゃ、試合感覚では勝てんぞ」
北上「だよねぇ」
元帥「そうじゃな、儂を殺す気でかかってくるがよい」
利根・北上「はぁっ!」バッ
元帥「でないと、つまらんからのぅ」バッ
ガシッ、ガシッ
二人を背中側から掴み、持ち上げた後
元帥「ほいっ」
ドゴォォォォォォォンッッッ
北上「」チーン
利根「」チーン
提督「頭から地面に突き刺さった・・・・・・」
大和「瞬殺・・・・・・ですか?」ゾッ
元帥「さて、後はお前達二人じゃよ」
大和「っ!!」
提督「その前にその二人を引っこ抜かせてくれ」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
艦娘「元帥怖い元帥怖い・・・・・・」ガタガタブルブル
大和(五人とも端っこで体育座りしちゃいましたよ)
提督「はぁ・・・・・・」
大和「提督、大和を先に行かせてください」
提督「・・・・・・長門姉の時といい、お前の積極性には脱帽だよ。本当にいいのか?」
大和「はい」
提督「・・・・・・まぁ、お前のそんなとこが好きだけどな」ボソッ
大和「えっ!?////」カァッ
提督「何でもねぇよ」
大和「はぁ・・・・・・」スッ
元帥「・・・・・・」
大和「っ!」ダッ
元帥「!」
ズドドドドドドドッッッ
ラッシュ。戦艦の筋力を遺憾なく発揮し、仁王立ちする巨漢を殴り、
大和「はぁっ!」
ドガガガガガガガッッッ
蹴り、殴り・・・・・・
元帥「・・・・・・ふむ」スッ
バシィィッッッ
大和「なっ!?」
元帥「随分と重い拳じゃのぅ、長門に痛みを感じさせ、その場から動かしただけの事はある」
大和「まさか片手で受け止められるとは」
元帥「なんのこれしき。赤子の拳じゃよ」
大和「でしたら!」ブンッ
左手を掴まれた状態から跳ね上がるように放った右膝の飛び蹴りは
元帥「!」
ズドォォォォォォォォンッッッ
元帥の鳩尾に深く沈んだ。だが・・・・・・
大和「っ!?」ギョッ
元帥「鳩尾に膝蹴りか・・・・・・常人ならばこれでケリはついたかの」
大和(そ、そんな・・・・・・これでも効いてないの!?)
提督(親父と叔父貴は普通の人間よりも数十倍、骨密度と筋肉密度が高い。いわば天然の鎧を纏ってるようなもんだ)
元帥「さて」ガシッ
大和「っ!?」
元帥「ほいっ」ブンッ
大和「きゃあっ!?」
ドガァァァァァァァァァンッッッ
提督「っ!」
大和「うぅ・・・・・・」
元帥「ふむ、皆筋は良いし力も十分じゃ(しかし、奴を相手にするにはまだ足りんかのぅ・・・・・・。奴を倒す望みがあるとしたら、やはり大和ちゃんか)」
元帥「で、お前は来ないのか?」ジロ
提督「はいはい、やりますよ(だから会議に行くのは嫌なんだよ)」ハァ
タッタッタッタッ
提督「はっ!」ブンッ
バキィィィィッ
元帥「ぬっ!」
元帥「せいっ!」ブンッ
ドムッ・・・・・・
提督「うぐっ!?」ヨロッ
大和「提督!!」
元帥「ほれどうした、もっと打ってこんか!」
提督「っ!」バッ
ドカッ、バキッ、バシッ、ゴキッ
元帥「何じゃその甘い打ち込みは!」
バキィィィィッ
提督「っ!?」
ドシャッ・・・・・・
元帥「全く、全然変わっておらんではないか。さては暫く組み手をしておらんな?」
提督「ゲホゲホッ、はぁ、はぁ・・・・・・」
元帥「もう一度鍛え直しじゃ。いつも言っておるじゃろうが」
提督「っ! ・・・・・・」
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーー
ーーーー
長門「はぁっ!!」フッ
ズドドドドドドドドドッッッ
元帥「せい!」バッ
バキィィィィッ
長門「がはっ!?」
霧島「ふっ!」ブンッ
ドカァァァァァァァンッッッ
元帥「甘いぞい」パシッ
霧島「なっ!?」グルグル
ブンブンブン・・・・・・
元帥「ほっ!」ブンッ
バコォォォォォォォォンッッッ
霧島「うぁっ!?」
赤城「はっ!」ブンッ
加賀「ふっ!」ブンッ
ガシッ、ガシッ
元帥「はぁっ!」ブンッ
ドカァァァァァァァンッッッ
バコォォォォォォォンッッッ
赤城「きゃっ!?」
加賀「うっ!?」
ドカァァァァァァァン
バゴォォォォォォン
ホレカカッテコイ、ヒヨッコドモ!!
提督(7歳)「・・・・・・」
榛名「どうしたのですか、櫂」
提督「何で毎日父さんは長門姉達をボコボコにしてるの?」
榛名「ボコボコにしてるわけでは・・・・・・」ニガワライ
榛名「お父さんは長門さん達を鍛えているんですよ」
提督「何で父さんが? 艦娘(皆)の方が人間より強いんじゃないの?」
榛名「それは本人に聞いてみましょうか」フフッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「父さん」
元帥「む? 何じゃ櫂」
提督「何で父さんは艦娘(皆)より強いの?」
元帥「簡単じゃよ、儂は他人より身体の構造(つくり)が頑丈なんじゃ。じゃから艦娘と殴りあえるのじゃよ」
提督「・・・・・・そっか」
元帥「? どうかしたかの?」
提督「俺は父さんみたいに強くはなれないよね」
元帥「? 何でそう思うのじゃ?」
提督「血が繋がってないから遺伝しないし。だから俺は父さんみたいに艦娘と組み手できないよ」
元帥「櫂、何も身体の頑丈さが力の全てではないぞい」
提督「? どうして?」
元帥「力の強さは何も身体が強いからではない。問題は心の強さじゃよ」
提督「心の強さ?」
元帥「そうじゃよ。儂ら軍人はいわば祖国の為に盾となる存在じゃ。皆を守る為には強くなければならん。そう心得ておくだけでもかなり違うぞい」
提督「・・・・・・」
元帥「儂らが戦っておる深海棲艦は、人間(儂ら)では太刀打ちできん。故に艦娘の皆に代わりに戦ってもらっておるのじゃ」
提督「でも父さんはその皆より強いじゃん」
元帥「陸ではな。奴らが海の上で戦ううちは人間に勝ち目はない。艦娘だけが、海上で戦えるのじゃよ」
元帥「しかし、全てを彼女達に任せ、自分だけは安全な場所でのうのうと暮らすのは無責任じゃ。儂ら提督が弱いままでは、もしもの時に彼女達の足でまといになりかねん。故に儂は彼女達と共に己を鍛える事で、足を引っ張る事なく、いつか来る戦争の集結の瞬間を全員で迎えたいと思っておる」
提督「・・・・・・」
元帥「よいか、腕っ節が強くなくともよい。じゃが、軍人となり大切な者達を守りたいならば、強くならねばならん。頭と心、そして身体を鍛える。強くなろうと心に決めれば、それ相応の力はちゃんとついてくれる」ナデナデ
ーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
提督「・・・・・・」グッ
元帥「お前が弱いままでは、いつか皆の足を引っ張る。弱い者が誰かを守る事はできんぞ」
提督「分かってる・・・・・・」ダッ
そう、弱いままでは戦場で彼女達の足を引っ張ってしまう。だからこそ父は恵まれた体躯を活かし、艦娘と共に強くなる事を選んだ。そしてその背中に自分は憧れたのだ
大和「提督・・・・・・」
提督「オラァッ!」ブンッ
元帥「ふっ」ブンッ
ドゴォォォォォォォンッッッ
提督「ゲホッ」ゴフッ
ビチャッ
大和「っ!!」
提督「まだだ、まだまだ!」ダッ
重い拳に意識を失いかけるも、必死で立て直す提督、それを見て元帥は
元帥「そうじゃ。気を強くもて!」
血を吐く提督を鼓舞する
提督「分かってる!」バッ
バキィィィィッ
ドカァァァァッ
元帥(櫂、お前は昔から聞き分けのよい子じゃった。多少の反抗期はあれど、基本的には優しい心の持ち主じゃったな。父として、上官として接してきたが、お前は儂の望んだように優しく、そして強い男に育ってくれた。儂は嬉しいぞぃ)
元帥(今のお前達ならば十分力をつけておる。じゃが、今の強さに満足してほしくはない。せめてこの戦いが終わるまでは、もっと高みへ行こうという向上心を持っていてほしい)
提督「はっ!」ブンッ
元帥「・・・・・・」ブンッ
ドカァァァァァァァンッッッ
提督「っ!?」ヨロッ
ドシャッ・・・・・・
大和「提督!!」タッタッタッ
吹雪「司令官!!」タッタッタッ
提督「あ~、も、無理だ」
吹雪「またこっぴどくやられましたね」
提督「だから会議行きたくねぇんだよ」
元帥「まあ、昔と比べて強くはなっておるからのぅ」
大和「でもやり過ぎです! 死んでしまったらどうするんですか!?」キッ
元帥「あれしきで死ぬようなヤワな訓練はしとらんよ」ポイッ
提督「大和、いいんだ」パシッ
大和「提督、ですが・・・・・・」
提督「親父、ありがとうな」つ傷薬
元帥「明日までに傷を癒せ。一時間後にご飯じゃ」スタスタ
テイトク、キズヲミセテクダサイ
ダイジョウブダッテ、ジブンデヌレル
ダメデスヨ、シレイカン ガシッ
ホレホレ、フクヌゲー
チョッ、オイコラ、フブキ、キタカミ!?
ガマンシテクダサイネ、テイトク
マ、マテヤマト、チョッ、ギャァァァァァッ!!?
ーー
ーーーー
ーーーーーー
翌日
提督「あ~ダルっ、めんどくせぇなぁ」
大和「何で会議中寝てたんですか!」
提督「だってつまんねぇもん」
副長「せやかて寝たらあかんやろ、会議中ガンさん眉間に皺が寄りっぱなしやったで」
提督「! そうだ兄ぃ、久々に稽古つけてくれよ」
副長「何やな藪から棒に? まあ、ええけど」
副長「鋼か竹か、どっちや?」
提督「竹で」即答
大和「鋼か竹ってどういう意味ですか?」
提督「真剣か竹刀かって事」
副長「おし、30分後にグラウンドな」スタスタ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
バシッ、バシバシッ
竹刀の打ち合う音が響く。提督は手に持つ竹刀を上段、下段と打ち込む
提督「せいっ」ブンッ
しかし対する副長は
副長「お?」
バシッ
左手だけで持った竹刀で容易く受け止め、流していた
大和「さっきから提督が攻めてますね」
文月「いけー、司令かーん!」
吹雪「副長さんは受けてばかりです」
北上「・・・・・・」
大鳳「? どうしました?」
利根「珍しく静かじゃな」
北上「副長さん、全然本気じゃないよ」
艦娘「え?」
北上「普通、剣は提督みたいに両手で持つんだよ。でも副長さんは片手、しかも左手で持ってんじゃん」
吹雪「あっ」
北上「しかも副長さんは左手で剣を握る力は半減してるから、力はそんなに入らないはずなのに、それで提督の剣を易易と防いでるあたり、ねぇ」
バシッ、バシッ
提督「やっ!」ブンッ
ここぞとばかりに上段を決めようとした提督を副長は
副長「アホ!!」ブンッ
バシィィッッッ
提督「いだっ!?」
副長「打ち込む時は、衝撃の瞬間に強く握り直せっていつも言うとるやろが!」
提督「うぅ、忘れてた・・・・・・」
副長「まぁええわ、ほな俺もそれなりの力出すか」シュル
バサッ・・・・・・
艦娘「っ!?」
北上「やっぱマジモンだったんだ・・・・・・」
文月「ほわぁ、虎と龍だー」
利根「前の左胸のは桜吹雪かの?」
吹雪「っ・・・・・・」ゴクッ
大鳳「あ、あぁ・・・・・・」
副長「行くで、櫂」スッ
提督「・・・・・・」スッ
副長「」
提督「」
艦娘「っ・・・・・・」ゴクッ
北上(提督は普通の構え、副長さんは居合の構え・・・・・・)
提督「せぇぇぇぇいっ!!」ブンッ
副長「居合・・・・・・」スッ
ガルルル・・・・・・
提督「っ!? やべっ」
艦娘(!? ド、ドラゴンのオーラ!?)
ガォォォォォォッッッ
副長「飛竜一閃(ひりゅういっせん)!!」ブンッ
バシィィィィィィッッッ
提督「ぐぁっ!?」
ゴァァァァッッッ
副長「強襲!!」
バシィィィィィィッッッ
提督「ぐへっ!?」
グォォォォォォッッッ
副長「角竜一突(かくりゅういっとつ)!!」
バシィィィィィィッッッ
提督「う・・・・・・」フラフラ
ドシャッ・・・・・・
提督「ま、参りましたぁ・・・・・・」グルグル
大和「居合の切り上げから即座に袈裟斬り、そして突き・・・・・・」ゾッ
北上「い、一瞬副長さんの周りにドラゴンのオーラが映って見えた・・・・・・」
副長「ありゃりゃ、ちとやり過ぎたわ」
提督「流石だよなぁ、兄ぃは」ムクッ
副長「まぁ、お前もそれなりには強なっとんな。これやったら大丈夫やろ」
提督「そっか、良かった。ありがとう」
大和「最初は攻めていたんですけど」
副長「もうそろそろ午後の会議始まんで」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督「大和、さっきのを含めて会議を傍らで聞いていてさ」
大和「はい」
提督「提督連中をどう思う?」
大和「はい? どういう事ですか?」
提督「艦隊の編成は完全に着任した艦娘に影響してるけど、大体の傾向は掴めただろ?」
大和「朧気ではありますが」
提督「"初期艦制度"の内容が少し変わったからな。例えばロリコンの少将の鎮守府艦隊は水雷戦隊で編成したものだし、中将は航空機好きだから、艦隊を航空戦力で固めている。そして今日は来てねぇけどドイツ艦のみで構成された艦隊を持つ提督もいるんだぜ」
大和「提督達も好みが影響するんですね」
提督「とりあえず今日は終わりだ。先に部屋に帰ってろ」
大和「分かりました」スタスタ
アラ、フブキチャン
ヤマトサン、カイギオツカレサマデス! ドウデシタ、テイトクレン?
ーー
ーーーー
ーーーーーー
元帥「すまんのぅ呼び出して」
提督「呼び出す口実を作るためにわざわざ会議に居眠りさせるなんてな」
提督「で? 話って何だよ」
元帥「今から4年前、儂らが深海棲艦との最終決戦に挑み、そして勝利をした大規模作戦。あの時に奴らの本拠地を叩き、大部分を撃滅した。故に深海棲艦はそれ以降数を増やす事が不可能となり、この戦争に終わりが見えた。その後4年間、お前や皆の活躍により、奴らは既に絶滅寸前。勝利は目前のはずじゃった。じゃが・・・・・・」
提督「? 何だよ」
元帥「儂には一抹の懸念がある。あの時、あの決戦の場から儂らはある一体を逃したのじゃ。そいつはいわば深海棲艦のリーダー。普段戦う奴らや姫級を艦娘とするならそいつはさしずめ提督のようなものじゃ」
提督「っ!?」
元帥「特筆すべきは奴の強さじゃ。この艦隊の最高練度の艦娘達を相手に単体で渡り合い、殆どダメージを負っていなかったのじゃ」
提督「長門姉や赤城姉、金剛姉達と渡り合ってほぼ無傷!?」
元帥「あの決戦から奴の目撃情報が一切ない。それが心配じゃ」
提督「・・・・・・それを俺に言ってどうしろと? 正直そんな奴となんか戦えねぇよ」
元帥「唯一・・・・・・」
提督「?」
元帥「唯一、奴と戦える艦娘がおるとすれば、それは大和ちゃんじゃ」
提督「なっ!? 大和が!?」
元帥「今でこそあの実力じゃが、あの娘を鍛えれば恐らく、いや、必ずや長門達を凌駕するじゃろう」
提督「大和をどうしろって言うんだよ。暫く親父が鍛えるってか?」
元帥「そうじゃ。良いかの?」
提督「・・・・・・あいつは、確かにスゲー奴だよ。皆からも慕われてるし、実力も折り紙つきだ。それでも奴とはまだ戦えねぇ・・・・・・か」
提督「分かった。じゃあ親父、暫く大和をこっちで鍛えてくれ。その代わり条件がある」
元帥「? 何じゃ?」
提督「他の奴らも一緒に置いてやってくれねぇか? 吹雪、北上、大鳳、文月、利根。大和を親父が鍛えている間、叔父貴や兄ぃに稽古をつけさせるなりして、この五人を傍に置いてやってほしい」
元帥「無論じゃ。元より長門達を動員してあの五人も鍛えてやりたいと思っていたところじゃ」
提督「どうかよろしくお願いします。・・・・・・"元帥"」土下座
元帥「うむ。上官として、父として、承知した」
ーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
翌日
吹雪「・・・・・・分かりました」
北上「まぁこのままやられっぱなしもなんか嫌だもんね~」
大鳳「必ずや見違える程強くなって見せます!」
利根「期待しておれよ提督!」
文月「司令官・・・・・・」シュン
提督「そんな顔すんなよ文月、強くなって帰って来い」ナデナデ
文月「うんー」
大和「提督」
提督「ん?」
大和「提督の考えは理解しました。この大和、必ずやその名に恥じぬ強さを得て帰投致します」
提督「おう、楽しみにしてるぜ!」ニカッ
大和「っ!!////」カァッ
元帥「任せてくれ、この六人は儂が責任をもって預るぞい」
提督「あぁ。じゃ、俺はこれで」クルッ
大和「提督!!」タッタッタッ
提督「ん?」
大和「んっ・・・・・・!!」
チュッ・・・・・・
提督「っ!?////」
艦娘「なっ!?////」
元帥「おー、これはこれは」ニヤニヤ
大和「ん、んくっ・・・・・・////」
提督「!?!?!?////」
大和「プハッ、ふふ、大和の初めてですよ?」
提督「な、お、おい大和、何を!?////」カァッ
大和「これで大和は暫く頑張れます!」
提督「はぁ!?」
吹雪「い、意外と大胆なんですね、大和さん////」
北上「あたしまで固まっちゃったよ////」
文月「司令官と大和ちゃん顔真っ赤ぁ」ニコニコ
大鳳「い、今の舌入れてましたよね?////」
利根「ガッツリとな////」
元帥「若いとはいいのぅ、儂も新婚の時は母さんと・・・・・・」シミジミ
提督「半世紀以上前の事を思い出してんじゃねぇよ!!////」
提督「じゃ、頑張れよ皆!」スタスタ
艦娘「はい!」
吹雪「司令官もしっかり休んでくださいね」
文月「バイバーイ」ノシ
北上「じゃねー」ノシ
大鳳「頑張りまーす!」
利根「身体に気をつけるんじゃぞー!」
大和「」ノシ
吹雪「? 大和さん?」
大和「////」
吹雪「や、大和さんが気絶してる!?」
北上「あー、後でショートした感じか」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
鎮守府
執務室
ガチャ
提督「ふー、帰った帰った」スタスタ
妖精「あ、帰ってたの?」ヒョコ
提督「今着いた、悪ぃな急に留守にして」
妖精「ちゃんと鎮守府は機能させといたよ」
提督「ありがとう、お礼とお詫びを兼ねてほれ、皆で食べてくれ」つビニール袋
妖精「大本営間宮のアイスと駅前の高級プリンじゃん、わざわざありがとね」ウケトリ
妖精「皆ー、お土産だよー!」
ワイワイガヤガヤ
提督「・・・・・・」ボーッ
妖精「ん? どひはのへーほく?」モキュモキュ
提督「・・・・・・」ボーッ
妖精「んぐっ、ボーッとして何かあったの?」
提督「え? い、いや、何でもねぇ////」
妖精「何だそういう事か」
提督「あ?」
妖精「大方、大和にディープキスでもされたんでしょ?」
提督「な、何で分かるんだよ////」ギクッ
妖精「おいおい、あたしを誰だと思ってんのさ、妖精さんだぞ?」エリピラッ
提督「何か腹立つな、その仕草とドヤ顔」
妖精「大和、あんたに告白した後もずっと一途に想い焦がれてんだよ。あんたもそろそろケリつけたらどうさ」
提督「・・・・・・」
妖精「このままじゃ大和が可愛そうだし、何よりあの娘が浮かばれないよ」
提督「分かってるさ」
妖精「ごめん、出過ぎた事言って」
提督「いや、アンタは正しい。あの時皆と一緒に励ましてくれた上に、俺が提督に就く際には、わざわざ俺の鎮守府に異動までしてくれた。本当に感謝してるよ」
妖精「今思えば妙な縁だよね、あたしら」
提督「まぁな。よっしゃ、溜まった番組観るぞー!」
妖精「はは、あたし達も同席させてもらうよ、美味しいおやつもあるしね」
ソウトキマレバ、サッソクジュンビダ。 ツイデニバンメシモ、スマシチマオウゼ!
サラトグラスハアタシタチガヨウイスルヨ
ーー
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ーーーーーー
一週間後
提督「・・・・・・って話なんだよ」ニマイチェンジスル
妖精「なるほどね、確かに気になるなぁ、その深海棲艦のリーダーって奴」アタシハサンマイ
提督「だろ、長門姉達でも対してダメージ与えられなかったらしいんだ」セーノ
妖精「あの脳筋軍団が、ねぇ・・・・・・」デーハ
提督「ツーペア」14477
妖精「フルハウス」55888
提督「ありゃ、負けちまった」ホラヨ
妖精「昔はトランプでババ抜きしかできなかった坊やが今やポーカーで遊べるようになるなんてね」アイヨ
話は一時間前、提督は予てから疑問に思っていた事を妖精に質問しようとした。だがそれに対し、妖精は自分に勝ったら何でも答えるが、負ける度に提督からはお菓子を要求するとトランプを持ち出した。そこで2人は真実とお菓子をそれぞれ賭けて、ポーカーを行っているのだ。現在提督の全戦全敗。妖精の側には大量の飴玉やラムネ、チョコが山積みになっていた
提督「話戻すぜ。仮にもしそんな奴がいたらこの鎮守府の艦娘は全滅だ」
妖精「だからあの六人を元帥の元に預けてきたと?」
提督「まあな。これで万一ここにそいつが来たとしても皆がぶつかる必要が無いからな」
妖精「その代わり、あんたは確実に死ぬよ」
提督「だろうな」
妖精「まったく、呑気なもんだよ」
提督「よっしゃ、もう一戦」ニヤ
妖精「次も勝つのはあたしだよ」ニヤ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大本営
吹雪「はぁっ!」ブンッ
文月「やぁっ!」ブンッ
団長「甘い!」バッ
バシバシッ
団長「二人ともまだまだだ、もっと強く踏み込め!」
吹雪「はい!」
文月「難しいよ~」
副長「まったく、団長もえらい楽しそうやなぁ。ガンさんといい、何であの兄弟はド突き合いなると高揚するんやろか?」チラッ
利根「はぁっ!」
バキィィィィィッッッ
長門「ふむ、なかなかの蹴りだ。だが」スッ
組んでいた腕を解いて構えようとする長門、だが利根はそれを見逃さず
利根「十八番はもう少しお預け願うかのぅ」バッ
腕が動いた瞬間には既に前蹴りを放っていた
長門「!?」
ズドォォォォォォォォォンッッッ
長門「技を出す前に攻撃する事で防いだか」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
北上「そこっ!」ヒュッ
北上の手刀が空を切る。だがそれが相手に当たる事は無かった
??「遅いよ!」ブンッ
北上「っ!?」サッ
一瞬で背後に回った影は北上に蹴りを放つ。それを間一髪で躱す
北上「全く、怖い人だねぇ川内さん」
川内「なかなか筋はいいと思うよ。私の攻撃を初見でここまで躱すなんて。一週間指導してるけど殆ど出しちゃったし、もうそろそろネタ切れかな」
北上の戦闘スタイルを聞いた元帥は、自身の艦隊から同じような戦い方をする艦娘を選出した。それが彼女、軽巡川内であった。自他共に認める夜戦好きの彼女は相手を撹乱させる天才だった。夜の暗闇に紛れ、敵艦が気づいた時には既に背後を取られている、正に忍であった。特段力に秀でたわけでもない川内は、それを補って余りある技術を以てして夜戦のエキスパートとなったのだ。
北上「まさか『夜霧の忍姫(よぎりーにんき)』に指導してもらえるなんてね」
川内「何で私の渾名知ってるの? って、あぁ、櫂か。夜間および視界の悪い場所での戦闘に特化した『夜戦隊』隊長の力、教えてあげるよ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
副長「あの二人は飽きへんなぁ、一週間も同じ相手で。俺やったら絶対飽きるわ」
陸奥「長門も何だかんだで楽しいのよ」
神通「姉さんも少しウキウキして見えます・・・・・・。那珂ちゃんはどう思います?」
那珂「那珂ちゃんもそう思うな~。川内ちゃん楽しそう!」セカセカ
副長「ん? 何や那珂、さっきから服整えてばっかやけど」マイクマデモチダシテ
那珂「だって皆ヘトヘトだよ? 艦隊のアイドル、那珂ちゃんが皆の疲れを癒さなきゃ!」つマイク
副長「頼むから止めて、お前の歌聞いとると何でか俺ら外野が恥ずかしなるから」
陸奥「確かにねぇ。あれは私達が恥ずかしいわ」
那珂「ちょっとどういう事!?」ガビーン
神通「あ、あははは・・・・・・」ニガワライ
大鳳「・・・・・・」
大鳳は静かに目を閉じて立っていた。その周りには膨大な数の艦載機が飛び回っている。100近い数は、彼女のキャパシティを大きく超え、本来ならその表情には疲労が見えるはずだ。だが大鳳の顔はまるで艦載機など飛ばしていないかのようなリラックスした表情だった。それでいて艦載機は1機たりとも動きにブレは生じていない
ブォォォォォォォォン・・・・・・
キィィィィィィィィン・・・・・・
大鳳「・・・・・・!」カッ
大鳳は閉じた両目を開く。その視界に飛び込んできたのは・・・・・・
赤城「!」
加賀「よく気づいたわ」
赤城と加賀の二人は一気に間合いをつめ、左右からストレートを放つ
大鳳「はっ!」バッ
大鳳は両側から迫る拳を受け止め、即座に反撃のカウンターパンチを繰り出す。それとほぼ同じタイミングで周りを舞う艦載機が一斉に離れた場所にあった的に殺到し、集中砲火を浴びせた。一航戦の二人との訓練で、大鳳は自身が他の事に気を向けている間にも艦載機を正確に且つ大量に操れるようになった。その上、体術も以前より上達していた
赤城「・・・・・・やはり貴女には素質がありましたね」
加賀「えぇ。まさかたった二週間でこれ程上達するなんて」
大鳳「お二人にはとても感謝しています。そして提督にも」
赤城「櫂にですか?」
大鳳「はい。嘗て落ちこぼれの出来損ないと言われていた私を提督は引き取り、大切な仲間、家族だと言ってくださいました。それに以前、提督が言っていました。『お前は磨けば燦然と輝く宝石になる』って。私は宝石ではありませんが、彼のお陰で自分を変える事ができたんです!」
加賀「ふふ、櫂らしいわ」
赤城「全くです」
副長「空母組も良好やな。さて、問題はあの二人やわ」チラッ
陸奥「確かに」チラッ
神通「あの、大丈夫でしょうか・・・・・・?」
元帥「もう終わりかの・・・・・・?」
傍観組が見つめた先、そこには元帥が仁王立ちしていた。全身泥や血に塗れ、額からは血が流れていた。だがそれを気にする素振りも見せず、ただただ下を見つめている。その視線の先には
元帥「大和ちゃんや」
大和「う・・・・・・うぐ・・・・・・」ググッ
ボロ雑巾としか言いようのない姿の大和が倒れていた
元帥(全く、恐ろしい娘じゃ。たった二日で儂が出血するとはのぅ。一週間で既に儂に追いつかんという勢いじゃ)
元帥「しかしこの一週間でここまで強くなるとは、なかなかの素質。櫂(あのバカ)には些か勿体ない逸材じゃ」
大和「っ・・・・・・!?」ピクッ
元帥「(ふむ、やはり食いつくか)大和ちゃんや、あやつの鎮守府で燻るより、大本営で長門や赤城と共にこの海軍を引っ張っていかn・・・・・・」
大和「今・・・・・・何て言いました?」ググッ
元帥「む?」
普段からは想像のつかない大和の低い声。まるでダメージが全回復したかのようにゆっくりと、しかし力強く立ち上がる。元帥をしっかりと見据えるその眼は怒りに燃えてすらいた
大和「幾ら元帥とはいえ、幾らお父上とはいえ! 提督を貶める輩を!! 大和は許さない!!」
この一週間大和を鍛えてきた元帥は、ある事に気づく。
提督(息子)の鎮守府の艦娘は彼をとても慕っていた。危険な段階にこそ達していないが、彼を批判する声には露骨に不快感を表すのだ。
そしてそれが最も顕著に表れているのが、提督に恋心を抱いている大和であった。
大和は提督が自分達の事を思い、その未来を案じて教育をしてきた事を、自分達に負担を強いる事の無いようにと書類仕事を一手に引き受け、己の時間を削っている事を、戦えない提督自身に代わり深海棲艦と戦う自分達艦娘の苦楽を共にしようと努力している事を熟知していた。
それ故に彼女にとって、提督を批判する声は許し難いものであった。
元帥(無論人当たりも良いあやつを批判する者は殆どおらん。それ故に過剰に反応を示すようじゃな)
元帥(あの娘も確か、櫂の悪口に過剰に反応しておったのぅ)
ヤマ『櫂ちゃんの事をバカにしないでよ、この髭ジジイ!!』
元帥(全くあやつめ、そのうち刺されるんじゃないかのぅ)
大和「覚悟・・・・・・」スッ
元帥はこの事を見事に利用した。提督を非難すると、大和は直ぐに立ち上がり、向かってくる。しかも彼女の身体能力はぐんぐんと上昇していくのだ。そして元帥は確信した
元帥(この娘が覚醒する鍵は櫂が握っておるのぅ)
大和「はぁっ!!」バッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
元帥「いやはや、修行のためとはいえすまなかった。儂も息子を非難していて心が痛かったぞい」
大和「いえ、大和も申し訳ございませんでした」
その後立ち向かった大和は元帥にまたしても叩き伏せられ、そこで本日の修行は終了。艦娘達は全員入渠し、高速修復材も使用し今に至る
副長「にしても大和すごいなぁ。たった一週間でガンさんとド突き合えるなんて」
団長「うむ。流石は大和だな」
吹雪「やっぱり大和さんはすごいです!」
北上「やっぱ、ラブパワーじゃない?」ニヤニヤ
大和「な、何を・・・・・・////」ボンッ
大鳳「いや、目の前であんなキス見せられたら誰でもそう思いますよ」
文月「司令官とラブラブだもんねー」ニコッ
利根「もういっそ押し倒したらどうじゃ?」
大和「や、止めてくださいぃ////」カァッ
・・・・・・
大和「!」ピクッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
提督「せーの」
妖精「でーは」
提督「フォアカード」58888
妖精「フォアカード」74777
提督「俺の勝ちだ」
妖精「ありゃりゃ」
提督「約束通り、色々教えてくれ」
妖精「分かった、答えられる範囲なら何でも答えるよ」
提督「ありがとう。じゃあ先ず、これについて教えてくれ」つ傷薬
妖精「妖精印の傷薬だね。一週間でどんな外傷も、二週間で複雑骨折すらも完治する優れものだよ」
提督「その効力もスゲェけど、問題はそこじゃねぇ。俺がこれを使った時、傷が一瞬で塞がり、砕けた骨も元通りになった。他の同期達もこの傷薬は使用してるけど、これ程早くは治らない。何故俺だけがこんなに異常な程の回復が可能なんだ?」
妖精「まず、その薬の説明だけどね。その薬は生命体が持つ治癒力を最大限、いや極限まで活性化させるんだよ。本来長い時間をかけてゆっくりと治癒していく傷を短時間で治せるのはそういう理由さ。傷が塞がるっていうのは細胞分裂によって瘡蓋の下に新たな皮膚を造る事。細胞分裂(その力)を極限まで活性化させるから、傷の治癒だけじゃなく、体組織の再生すらも可能なんだ」
提督「『再生の薬』だと? 御伽噺じゃあるまいし、そんな夢みたいな薬あるわけ・・・・・・」
妖精「妖精(あたし)にそんな事言われてもね」
提督「確かに。悪ぃ」
妖精「ううん。それで、その薬は妖精でも安定した製造が難しい。加えて軍事機密でもあるから、病院や薬局じゃ当然扱っちゃいない」
妖精「そして何で提督にはこれが異常に効くのかって話だけど、効きやすい身体だからとしか言えないよ」
提督「効きやすい体質って、あっさりし過ぎだろ!?」
妖精「実を言うと、元帥と団長の兄弟はこれが異常な程効くんだよ」
提督「は!? でも俺は親父と血は繋がってないから体質を受け継ぐのはおかしいぞ!」
妖精「確かにあんたは元帥の実の子供じゃない。けど何も遺伝だけが体質を受け継ぐわけじゃないよ」
提督「・・・・・・どういう事?」
妖精「あんた、"あの時"の大量出血で死にそうだったんだよ。その時に同じ血液型だった元帥が迷わずあんたに輸血したんだ。あんたの中には元帥の血が流れているんだよ」
提督「それこそ辻褄が合わねぇ。赤の他人だった俺が親父の血を取り込んで体質が似てきたなら、軍の連中に片っ端から輸血すりゃいいじゃねぇかよ。艦娘以上とはいかなくても、常人より遥かに強くなれる」
妖精「その通り。そう考えた科学班は同じ血液型の軍人達に輸血した。でも誰一人として元帥の体質を受け継がなかったんだ。あんただけを除いてね」
提督「・・・・・・」
妖精「だからね、あたし達はある推測を立てたんだ。すごく突拍子も無い馬鹿げた推測をね」
提督「推測?」
妖精「もしかしたら、元帥と団長の特異体質は、隔世遺伝みたいに発現する妖力や霊力の類では? ってね」
提督「妖力!?」
妖精「もしそうならあんただけが体質を受け継ぐ事ができたのも納得できる。霊力や妖力の類は、使用者と酷似した何かを持っている人の方が発現しやすいんだ」
提督「? ・・・・・・??」
妖精「提督は元帥に育てられた。だからあんたは元帥を海軍の誰よりも近くで長く見ているでしょ?」
提督「まさか・・・・・・そんなバカな・・・・・・」
妖精「あくまでこれは推測、仮定の話だ。でも、もしそうなら提督はあの驚異的な治癒力と共にあの身体の頑丈さが発現しているはずだよ」
提督「確かに気になってた。何で親父のパンチとか食らっても死なねぇのか」
妖精「他に質問は?」
提督「・・・・・・いや。特にねぇ、大丈夫だ」
妖精「そう。何かあったら何時でも言いなよ?」
提督「あぁ、分かって・・・・・・」ピクッ
・・・・・・
提督「・・・・・・」
妖精「? どうしたのさ?」
提督「・・・・・・どうも嫌な予感が当たったみたいだ」スッ
妖精「はぁ?」
提督「全妖精に連絡。沿岸部の住民に避難勧告を出し、住民を非難させろ」
妖精「っ!? 分かった!」テテテテ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大本営
大和「・・・・・・」
元帥「・・・・・・」
団長「・・・・・・」
副長「・・・・・・」
吹雪「ちょ、皆さんどうしたんですか!?」アセアセ
文月「っ!?」ガタガタ
北上「! 文月、どうしたのさ?」ナデナデ
文月「司令官が・・・・・・司令官がいなくなっちゃう・・・・・・!!」ガタガタ ギューッ
利根「? あやつは元々ここにおらんじゃろうが」
大鳳「どうしたのでしょうか・・・・・・」
バタンッッッ
大淀「げげげ、元帥っ! き、緊急事態、緊急事態です!!」
元帥「大淀、何じゃ、何が起きた」
大淀「深海棲艦が三体出現しました!」
北上「三体? たったの?」
副長「その三体、えらい奴やな」
大鳳「え?」
元帥「大淀。その艦種は分かるかの?」
大淀「内、二体は戦艦棲姫と戦艦レ級、どちらも今までの同種とは桁違いの強さを持った個体です・・・・・・!」
艦娘「っ!?」
大淀「しかも・・・・・・残りの一体は・・・・・・あ、あぁ・・・・・・」ガタガタ
大鳳「? 大淀さん?」
大淀「忘れもしない、このソナー越しに伝わってくる圧倒的な存在感・・・・・・! 間違いなく"奴"です!!」
副長「何やて!?」ガタッ
団長「バカな!?」
大淀「し、しかもその三体が向かっているのは・・・・・・」
元帥「っ!? まさか・・・・・・」
大淀「櫂の・・・・・・鎮守府です」
艦娘「っ!?」ギョッ
元帥「何という事じゃ・・・・・・」
団長「兄者、櫂の鎮守府に!」
副長「!? ・・・・・・どうも奴さんらはそうさせる気あらへんみたいですよ」チャキ
艦娘「!?」
大淀「はい。同時刻、大本営に五体の姫級・鬼号に率いられた大規模な艦隊が接近。もし元帥や団長殿、副長殿がここを空けた場合、艦娘だけではやや苦しい展開となります」
副長「一世一代の大勝負、いや大博打に出たみたいやな」
元帥「残る全勢力を以て全面戦争を仕掛けてきおったか」
団長「ここにいる現役の艦娘は何人だ?」
大淀「はい、長門型二人と一航戦、金剛型四人と川内型三人。綾波さんと敷波さん、島風さん。後は櫂の・・・・・・」
大和「元帥」
元帥「む?」
大和「誠に身勝手な行動、申し訳ございませんが、大和達は提督の鎮守府に戻ります」
元帥「・・・・・・そうか」
吹雪「・・・・・・」
北上「・・・・・・」
大鳳「・・・・・・」
文月「・・・・・・」
利根「・・・・・・」
大和「どうか、許可を」
元帥「元よりそのつもりじゃったよ。確か艤装は持って来ておるな、お主達は鎮守府に向かうのじゃ」
艦娘「はっ!!」ビシッ
団長「大淀君、艦娘達に報告を!」
大淀「了解しました」タッタッタッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
数分後
大本営の敷地内、海に面した場所に元帥達は立っていた。周りの艦娘は六人を除き、艤装を展開せず、ただただ海を見ていた
元帥「今のうちじゃ。海岸沿いに海上を行け、早く」
艦娘「はっ!!」
元帥「大和ちゃん」
大和「はい」
元帥「息子を頼んだぞい」
大和「・・・・・・はい!」
ザザザザザザザザ・・・・・・
六人が去った後暫くして
長門「・・・・・・お出ましか」
全員が目を向ける先には赤や黄色の光が朧気にユラユラと映る。やがてその光ははっきりと映るようになり、艦隊の先頭には五体の深海棲艦が構えている。やがて大艦隊は湾内まで侵入し、波止場に上陸してきた
元帥「久しぶりじゃのぅ。まさか貴様が殴り込みに来るとは思いもよらんかったわい」
元帥「南方棲戦姫よ」
南方「久シブリネ、巌山。相変ワラズ、ゴリラミタイナ風貌デ、遠クカラデモスグニ分カッタワ」
元帥「それで、今日も殺し合い(デート)のお誘いかの? 生憎儂は約半世紀、ただ一人の女しか愛しておらんよ」
南方「フン、数十年前ナライザ知ラズ、老イボレニナッチャッタ貴方ニハ、モウ興味無イワ」
元帥「港湾棲姫に駆逐棲姫、飛行場姫に離島棲鬼を引き連れて来るとは。護衛艦も殆どが戦艦や空母とはのぅ」
南方「サァ? 他ニモ伏兵ガイルカモネ?」ニヤリ
霧島「なら、その伏兵には退場頂きますね」スタスタ
ジャキキキッ ガチャ ジャコン
南方「砲ヲ降ロシナサイ。無駄ヨ」
霧島に砲を構える随伴艦達に一言忠告する南方棲戦姫。敵軍の真っ只中をズカズカと横断し、波止場の端へと着いた霧島は空へ右拳を突き上げ・・・・・・
霧島「はぁっ!!」
海面に叩き付けた
ズッ・・・・・・バッッッシャァァァァァァァァァン
刹那、海面が大きく波打ったかと思いきや湾内、いや近海に凄まじい衝撃が走った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
大本営から約数十km地点
大和「皆さん大丈夫ですか?」
吹雪「まだまだ!」
北上「もっと飛ばしてもいんじゃない?」
文月「お~!」
ズゥゥゥゥン・・・・・・
利根「ん? 何じゃ?」
ザザザザザザザザ・・・・・・・
大鳳「み、皆さんあれ!!」
艦娘「え!?」クルッ
吹雪「た、高波!?」ギョッ
北上「何で!? あたし達海岸に沿ってるのに、何で後ろから高波が来るの!?」
利根「というより、ある地点から沖に向かって同心円状に波が広がっておるのかのぅ?」
大鳳「そ、そんな現象がどうして・・・・・・」
その瞬間六人は思い当たった。
こんな事をいとも簡単にやってのけそうな人達が何人もいた事を・・・・・・
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
霧島「あら、結構潜んでいたみたいですね」
霧島が海面を殴りつけて数秒後、一体、また一体と駆逐艦や潜水艦の亡骸が海面に浮上してくる
南方「アラアラ、アンナ荒業デ伏兵ヲ全員仕留メルナンテ、アノ異名ハ本当ノヨウネ」
南方「『血ニ飢エタ鮫ノ如ク戦場ヲ彷徨イ、敵ヲ探スタメニ海ヲモ震ワス牙』。金剛型四番艦、霧島。マタノ名ヲ、『海震鮫牙(かいしんこうが)』霧島」
霧島「ふふ、久々に楽しめそうね」カチャカチャ
嘗ての深海棲艦との最終決戦より以前、元帥の艦娘はその桁違いの実力と一騎当千の活躍から、渾名や異名、二つ名を持つ者がいた。
・夜戦において右に出る者はいないといわれる『夜霧の忍姫』川内
・その凄まじい闘争心を鮫と例えられた『海震鮫牙』霧島
・瞬く間の神業を放ち、対峙した敵に敗北すら悟らせない『瞬眼映華(しゅんがんえいか)』長門
・航空戦において無類の強さを発揮し、正に制空権を我が物とする『天舞無法(てんぶむほう)』加賀と『青天覇神(せいてんはしん)』赤城
彼女達に代表される元帥の艦娘達は、敵は疎か、味方さえをも震え上がらせるその実力から、尊敬と畏怖の意味を込めて渾名をつけられていたのだ
南方「サテ、伏兵モ潰サレチャッタ事ダシ、ソロソロ始メマショウカ」
元帥「せっかちじゃのぅ、焦らんでもちゃんと叩きのめしてやるわい」
南方「ソウイウワケニモイカナイノヨ。"アノ御方"ノ命令ダカラ」
元帥「貴様とは儂が決着をつけよう。二人きりでな」
南方「アラ嬉シイ、二人デ楽シミマショウ」
南方棲戦姫の言葉を皮切りに、飛行場姫と港湾棲姫、駆逐棲姫と離島棲鬼の二手に別れ、それぞれをまた団長と副長に率いられた艦娘達が迎え撃つ
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ーーーーーー
副長「久々に気分が高揚するわ」チャキ
加賀「セリフを盗らないでちょうだい」ギリギリ
赤城「さぁ、発艦始め!」ギリギリ
バシュバシュ
飛行場姫「『天舞無法』ト『青天覇神』カ。艦載機ハ私ガ相手ダ」
飛行場姫は艦載機を発艦させ、一航戦の二人と航空戦を繰り広げる
港湾棲姫「ナラ私ハ『瞬眼映華』ト『尊厳粉砕(プライドクラッシャー)』、『鬼神姉妹(きじんしまい)』ネ」
長門「お前の渾名も懐かしいな」
陸奥「もうちょっと可愛い渾名が良かったわ」
敷波「ちょっと! 何でアタシ達は一括りなのよー!」
綾波「まぁまぁ」
ジャキキキキッ
ドォォォォォォォン
周りの随伴艦達は一斉に砲撃を始める。その砲弾は真っ直ぐに艦娘に向かって降り注ぎ
ズドドドドドドドド・・・・・・
少数の艦載機の集中砲火によって、着弾する前に過半数が爆発した
飛行場姫「! 貴様ラカ!?」
赤城「あれくらいは造作もないです」
加賀「鎧袖一触です」
パシッ
陸奥「お返しよ」ブンッ
長門「受けとれ!!」ブンッ
ドカァァァァァンッッッ
砲弾をまるで野球ボールのように次々に受け止め、投げつける長門と陸奥。時速300kmは下らない豪速球は的確に随伴艦達の頭部を撃ち抜き、辺りに爆煙が立ち込める
綾波「敷波ちゃん!」
敷波「任せて!」
爆煙によって視界が悪い中、綾波と敷波は躊躇うことなくその中に飛び込む
ドカッバキッ
「ッ!?」
メキメキ、ゴキンッ
「ギャァァァァッ」
何かが砕け、へし折れる音と共に随伴艦達の悲鳴が響き渡る
港湾棲姫「ッ!? 何、ドウシタノ!?」ギョッ
副長「決まっとるやろ、鬼神姉妹が暴れとるんや」
爆煙を突き抜けて副長が港湾棲姫に突っ込む。既に鯉口を切り、抜刀に移っているが、港湾棲姫を守るように随伴艦達が立ち塞がる
港湾棲姫「鬼神姉妹、アノ二人ネ?」
綾波と敷波は比較的後の方に元帥の元に着任し、どちらかと言えば周りから教わる立場であった。それでいて誰にでも優しく、守る事を第一に考える二人だが、視界が悪い状況でのみ、何故か好戦的になるのだ。まるで野生の勘としか形容できない感覚で相手の位置を割り出し、息の合った連携で狼狽する敵に襲いかかる
綾波「ふぅ、意外と倒しちゃったみたいです」
敷波「ちゃんと鍛えとけよ~」パンパン
港湾棲姫「ッ!?」ギョッ
爆煙が晴れ、そこには地獄絵図が広がっていた。随伴艦達はその殆どが目も当てられない様で事切れていた。首と胴が離れている者、四肢をもがれている者、頭が身体にめり込んでいる者・・・・・・。正に残虐非道、彼女達の突っ込んだ場所はまるで鬼が暴れたかのような光景が広がる事から付けられた渾名が『鬼神姉妹』であった
副長「ほな、俺もぼちぼち行こかな」
「ッ!?」
ズバババババババッッッ
副長が走り抜けると同時に随伴艦達を斬撃が襲う。縦に真っ二つにされ、首を刎ね飛ばされ、真横に切断される
副長「手応えのあらへん奴らやな」
陸奥「あらあら、じゃあ私が倒しちゃうわよ?」
副長「あぁ、随伴艦達皆やるわ、好きにせぇ」
「ッ!」ジャキキッ
ドォォォォン
陸奥「あらあら、先ずは力かしら?」ケロッ
「ッ!?」ギョッ
陸奥「ふん」ブンッ
バゴォォォォン
「ッ!」ダッ
陸奥「遅いわよ」サッ
バキィィィッッッ
「ッ!?」
力には力で、速さには速さで対抗してその悉くで相手を凌駕する。基本的にほとんどの事を卒なくこなせる陸奥は、相手の得意とする分野で勝負を挑み、それに勝つ事が可能だ。自分が得意としていた事を軽く凌駕されるという事実は、相手の尊厳を完膚無きまでに叩きのめす。それゆえに敵に屈辱すら与えて勝利する彼女はプライドを砕くもの、『尊厳砕(プライドクラッシャー)』と言われている
長門「お前がその悪趣味を深海棲艦や悪人のみに発揮するからいいが、間違っても私達にするなよ?」
陸奥「分かってるわよ」
長門「さてと、私は・・・・・・」スッ
港湾棲姫「ッ!?」サッ
ズドドドドドドドドッッッ
港湾棲姫「パンチ23発。腕ガ痺レチャッタワ」
長門「なかなか硬い腕だな、これは砕くのに時間がかかりそうだ」
港湾棲姫「次ハ私ノ攻撃ネ」スッ
港湾棲姫が腕を長門に振り下ろそうとした直後
ガキィィィィィィィン・・・・・・
港湾棲姫「アラ?」
副長の刀が下から切り上げて腕を弾いた。辺りに鋭い金属音が響く
副長「大振りで隙だらけやったから、その腕落としたろ思ったんやけど、確かに硬いなぁお前の腕」
港湾棲姫「私ノ腕ニ当タッテ刃毀レシナイナンテ、イイ刀ネ」
副長「日本刀(鋼の芸術)を嘗めんなよ? 鍛えられた刀と心、そして本人の技量。それが合わさった剣士に切れへんモンはあらへん」
長門「副長、奴の腕を頼む」スッ
副長「任された。腕の前に先ずはそのデコの角からぶった斬ったるわ」チャキ
港湾棲姫「ヤッテミナサイ」ズズズ
全身から凄まじい闘気を放つ港湾棲姫を前に、長門は両拳を握りしめ、納刀した副長は再び居合の構えに入る
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霧島「榛名、後ろに下がって!!」
榛名「は、榛名だって戦えm・・・・・・」
比叡「いいから早く!」
榛名「は、はいぃ」サッ
離島棲鬼「何故ソノ艦娘ヲ戦ワセナイ?」
金剛型四人は離島棲鬼に対して攻めあぐねていた。というのも、榛名を一切戦わせようとせず、残り三人が戦っている状態だった
金剛(少し決定打に欠けマスネ・・・・・・。But、榛名を戦わせるわけにはいかないデース)
離島棲鬼「ドウシタ、『森羅燼滅(しんらじんめつ)』。得意ノ爆破攻撃ヲ見セテミロ」
金剛「Youにはnormal punchで十分デース!」バッ
バキィィィィィィッッッ
離島棲鬼「グゥッ!?」ズザザザザザッ
ドカァァァァァンッッッ
金剛の重い拳を顔面に喰らい、離島棲鬼は堪らず吹き飛び、壁に激突する
離島棲鬼(クッ、素ノパンチデコレホドカ。更ニハ、コレニ爆発ガ加ワルノカ・・・・・・)
比叡「気合い! 入れて!!」ダンッ
離島棲鬼「ッ!?」
離島棲鬼が顔を上げると、すぐ目の前に比叡が突っ込んで来ていた。それを見て離島棲鬼はすぐさま上体を捻って躱す。その拳はコンマ数秒前に離島棲鬼の顔があった空間を通過し・・・・・・
比叡「打ちます!!!」ブンッ
バゴォォォォォォォォォォォンッッッ
ガラガラガラガラガラ・・・・・・
離島棲鬼「壁ガ砕ケタカ、流石ハ『戦神槍(グングニル)』比叡ノ拳ダ」
離島棲鬼(姉ト妹ハコレホドノ実力者ダガ、何故アイツ(榛名)ハ戦ワナイ? イヤ、寧ロ三人ガ奴ヲ戦ワセナイノカ?)
離島棲鬼「! ソウカ」バッ
離島棲鬼は思い当たるが否や、凄まじい速度で榛名に肉薄し、拳を振り上げる
戦わせようとしない理由は単純。姉妹達から見て、榛名が戦えるほどの戦力に達していないからだ。それが証拠に榛名自身は自らも戦おうとしている。
榛名「!」
離島棲鬼(馬鹿メ、姉妹ノ言ウ通リニ下ガッテイレバ死ナズニ済ンダモノヲ!!)ブンッ
金剛「そうはいかないネー!」ブンッ
バキィィィィィィィッ
離島棲鬼「マタカ。素ノパンチデ」
金剛「外れデース」ニヤッ
離島棲鬼「ッ!?(手袋!? マサカ!!)」
ドッガァァァァァァァァァァァァァンッッッ
離島棲鬼「クッ」ドシャッ
凄まじい大爆発を喰らった離島棲鬼は何とか着地するも、身体のあちこちから煙が燻り、一部は装甲が融解している。
離島棲鬼「漸ク出シタカ、爆破攻撃ヲ」
金剛が両手に装着している手袋は彼女が妖精に頼んで造ってもらった特注品であった。
その手の甲には二種類の液体が入っている。それ単体では無害だが、それらが混じった途端、些細な刺激で急激な化学変化を起こし大爆発を起こす爆薬となるのだ。
金剛の手袋にはとても小さな穴が無数に空いており、常時は液体も漏れず、空気も入らないが、金剛が何かを殴りつけた際にのみ、二種類の液体が染みだし、殴った対象に付着する。付着して数秒で混じった液体は時間差を生じて空気摩擦等で反応、大爆発を起こすというわけである。金剛型戦艦の名に恥じぬ一撃の威力に加え、時間差で大爆発を引き起こす。打撃と爆破の二段攻撃であらゆる敵を吹き飛ばす金剛を、人は『森羅燼滅』と呼び、畏れた
金剛「But、こう見えてこのgauntletsの表面に付いたliquidで爆発しないのデース。妖精さんのtechnologyはすごいネー」
比叡「お姉様、一体誰に喋っているのですか?」
金剛「読者サービスというやつデース!」
離島棲鬼(クッ、カナリダメージガ大キイナ)
霧島「これで終わりじゃありませんよ!」ダッ
離島棲鬼「ッ!? 調子ニ乗ルナァァッッッ!!」ブンッ
霧島「なっ!?」
バキィィィィィィッッッ
霧島「っ!!」ズザザザザザッ
比叡「霧島!! っこの!!」ブンッ
離島棲鬼「一直線デ避ケヤスイゾ、オ前ノパンチハ」サッ
バキィィィィィィッッッ
比叡「きゃあっ!?」
ドカァァァァァンッッッ
榛名「霧島! 比叡お姉様!!」
金剛「よくも比叡達を!! 覚悟するネ!!」
離島棲鬼「私モ本気デオ前達ヲ叩キ潰ス!」
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川内「てやーっ!」
バシィッ
「ッ!?」
ジャコンッ
ドォォォォォォォン
川内「遅い遅い!」サッ
駆逐棲姫「チィッ、チョコマカト、スバシッコイ奴ダ」バッ
神通「貴女の相手は私です!」ガシッ
駆逐棲姫「ッ!?」グイッ
駆逐棲姫の腕を掴むと同時に神通は、力の限り地面に叩きつける
バコォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
駆逐棲姫「グァッ!?」
神通「まだこの程度では倒れませんか」
駆逐棲姫(何トイウパワーダ、コレガ噂ノ神通カ・・・・・・!)
姉がパワーでなくテクニックを駆使して戦うのに対し、神通はパワーを重視した戦法をとる。だが決して力押しだけではない。ある時はパワーで以て倒し、またある時は柔術で敵をいなし、多彩な戦法を駆使する。神通のその美しくも力強い動きを華として、人は彼女を『戦場に咲く華』と讃えた
那珂「那珂ちゃんのスペシャルライブ、いっきまーす!!」
まるで自身が戦場のど真ん中にいる事を忘れているかのような立ち振る舞いの那珂。当然周りにいるのはファンなどではなく、彼女の命を狙う敵である
那珂「毎日毎日、歌のレッスンで鍛えたお腹と喉。これで編み出した新曲、皆に披露するねー!!」スゥゥ
川内「っ!? 神通、島風、団長! すぐに耳塞いで!!」
島風「おぅっ!?」バッ
那珂「ーーーーーーーーーーッッッ!!」
那珂の口から発せられたのは、普段の明るい声などではない。まるで怪獣の雄叫びのような凄まじい轟音であった
「ッ!?」ビリビリ
那珂の周りにいた深海棲艦は皆一様に耳から出血し、泡を吹きながら息絶えていく。那珂のすぐ側にいた数体に至っては吹き飛ばされていた
那珂「皆ー、聞いてくれてありがとー!!」
那珂は神通のように肉弾戦に秀でたわけでも、川内のように敵を撹乱させるテクニックがあるわけでもなかった。ともすれば、彼女の行き着いた結論は己の趣味を攻撃に昇華させる事だった。アイドルを自称するだけあって、彼女の腹筋、肺活量は並大抵のものではなく、喉も強靭であった。
彼女が放つ声は普段の会話や歌唱の他に、攻撃用のものがあった。その範囲はかなり狭いものの、その範囲内では耳を塞がないと只ではすまない。彼女を中心に、半径約50mが攻撃用の声の効果範囲であり、その範囲内では耳を塞がないと確実に聴覚や三半規管に異常をきたし、最悪鼓膜が破れる。更に半径30m以内では、那珂の声が衝撃波となるため、吹き飛ばされてしまう。
那珂「ふー、那珂ちゃん今日も絶好調~♪」
ナカァァッ、ヤカマシイヤロガオマエェェ!!
ヒェェェェェッ!!
那珂「あれ、今副長さんと比叡さんの声聞こえた気がしたんだけどな~?」キョトン
神通「後で謝ってね那珂ちゃん」
島風「耳がキンキンするよー」
団長「普段喋ったり歌う分には何ら問題ないのだがな」
川内「使い分けれるあたり、流石私達の妹だよね」
駆逐棲姫「ウグッ、何ト恐ロシイ声ダ。マサカ声ダケデ敵ヲ倒ストハ」ヨロヨロ
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南方「フフ、個性的ネ、貴方ノ艦隊ハ」
元帥「何を今更。それにしても何故貴様らは急に侵攻してきたのじゃ?」
南方「アノ御方ハアル人間ニ会イタガッテイルノ。ケドソコニ行ケバ貴方達モ来チャウデショ?」
元帥「儂らを足止めするためにここに来たのか」
南方「ゴ明察。随伴艦(出来損ナイ)達ハトモカク、私達"原艦"ガ来タラ貴方達ガ迎撃シナキャイケナイモノネ」
原艦。それは深海棲艦の各艦における起源と呼べる存在である。彼女達は自らの姿や能力を模した複製体を大量に生産し、それを海域中に放った。通常、艦隊が戦うのはこの複製体である。原艦は幾度となく複製体を放ち、沈められた個体からはその戦闘データを抜き取り己の物としていた。それを数十年と繰り返した結果、原艦は通常個体とは桁違いの実力を誇るようになったのだ
元帥「生憎、儂も心配症でのぅ。早いとこケリを着けたいものじゃ」
南方「ツマラナイ男。モットユックリ楽シミマショウヨ」
元帥と南方棲戦姫は静かに対峙する
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鎮守府
レ級「」
戦艦棲姫「モウ終ワリカ?」
鎮守府の波止場、レ級と戦艦棲姫が仁王立ちしている。その視線の先には
提督「・・・・・・」
ボロボロになった提督が大の字に倒れていた。衣服は破れ、全身に打撲痕があり、右の脇腹にはまるでバーナーで炙られたかのようなひどい火傷の痕、腹からは赤黒い血が溢れている
提督(参ったな、こいつら今までの個体とは次元が違う。親父の体質で何とか生きてるけど、本当なら軽く10回は死んでるぜ)
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一時間程前
鎮守府の妖精に指示を出した後、提督は一人波止場に陣取って敵を待ち構えていた
提督「・・・・・・」
その手には一振りの日本刀が握られている。鎮守府への着任祝いとして副長に貰った物であった
提督「さて、何が来やがるかな」
先程妖精から聞いた話、あれが本当ならば今の自分は常人より身体が頑丈になっているはずだ。勝てる見込みは無くとも一矢報いるぐらいは可能かもしれない
提督「!」
戦艦棲姫「貴様ガ海原 櫂ダナ?」
レ級「・・・・・・」
提督「深海棲艦にまで名前が知られているなんてな。何でわざわざこんな一鎮守府を襲撃しに来たんだ?」
戦艦棲姫「数日前カラ、リーダーノ様子ガオカシクテナ。頻リニアル男ノ名ヲ口ニスルヨウニナッタノダ。ソレガオ前ダ」
提督「ますますわけわかんねぇな、俺はお前らのボスに会った事ねぇよ」
戦艦棲姫「トニカク、オ前ニハ我々ニ着イテ来テモラウ」
提督「嫌だと言ったら?」
戦艦棲姫「半殺シニシテデモ連レテイク」
「ガルルルルル・・・・・・」
戦艦棲姫が声を荒らげた。それに呼応するように彼女の傍らにいた怪物が唸り声をあげ、臨戦態勢に入る
提督「だったら二人と一匹、きっちり叩き出してやる。ほいほい着いていくほど暇じゃねぇんだよ」チャキ
提督は鯉口を切り、相手を睨みつけて威嚇する。だが戦艦棲姫は気にする素振りも見せず
戦艦棲姫「愚カナ男ダ、勝テナイ相手ニ挑ンデ何ニナル」
提督(勝てない相手・・・・・・か)
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ふぇぇぇん・・・・・・
ヤマ「ふぇぇぇん、櫂ちゃ~ん」シクシク
提督(12歳)「何時まで泣いてんだヤマ! うっせーよ!」
ヤマ「だって、だってぇ・・・・・・」ボロボロ
その日、俺はある事で長門姉から大目玉をくらっていた。俺の傍らには泣きじゃくるヤマが、そして長門姉から少し離れた場所に陸奥姉と赤城姉、榛名姉がいてその様子を見守っていた
長門「何を考えているんだ馬鹿者!!」
ガツンッッッ
提督「痛っ!」
ヤマ「櫂ちゃん!!」
陸奥「ちょっと長門! 櫂は怪我してるのよ!?」
提督「何すんだよ長門姉! 俺一応怪我人だぞ!」
長門「中学生がたった一人で高校生の不良グループに立ち向かうなんて! もし陸奥と赤城が見かけなかったらどうなっていたのか分かっているのか!!」
ヤマ「櫂ちゃんは悪くないの! 私が不良に連れてかれそうになったのを助けてくれたの! だから櫂ちゃんを怒らないで、長門お姉ちゃん!!」ビエエエ
長門「そうだとしても! 何故ヤマを素早く奪い返して逃げようとしなかった! 何故お前は相手に片っ端から殴りかかったのだ!!」
提督「あいつら俺が中学生だからって笑ってやがったんだ! 馬鹿にされてたまるか!!」
長門「馬鹿者!!」
ガツンッッッ
提督「いってぇぇ!? だから俺怪我人!!」
長門「勇敢と無謀を履き違えるな! 勝てもしない相手に策もなく戦いを挑むのは、ただの愚か者だ! 最悪殺されていたかもしれんのだぞ!!」
提督「だから何だ! 好きな奴守るためなら命なんか要らねぇ! 例え死んでも俺h・・・・・・」
バキィィィィィィッッッ
ドカァァァァァンッッッ
提督「ぁっ!?」
ヤマ「櫂ちゃん!?」タッタッタッ
何が起きたか分からなかった。一瞬で俺の身体が遥か遠くの壁に叩きつけられていた
榛名「・・・・・・」
赤城「は、榛名さん!?」
陸奥「ちょっ!?」
長門「!?」
提督「っ!」ズキズキ
ヤマが駆け寄ってくると同時に、右の頬に激痛が走る。頬どころか、まるで顔の骨が折れたかのようだった。そこでようやく俺は榛名姉に殴り飛ばされたのだと気づいた
榛名「今、何て言ったんですか・・・・・・? 命が要らないって言いましたか?」
提督「っ!?」
榛名「榛名は命を大事にしない子は、大嫌いです!! 出て行きなさい!!!!」
提督「っ! くそっ!!」ダッ
ヤマ「あ、櫂ちゃん!」タッタッタッ
榛名「・・・・・・」
陸奥「榛名・・・・・・」
榛名「・・・・・・痛いです」ズキズキ
赤城「・・・・・・」
榛名「あんなに大好きな櫂を殴ってしまいました・・・・・・! 櫂に大嫌いだと、出て行けと言ってしまいました・・・・・・。榛名は・・・・・・お姉ちゃん失格です・・・・・・」ポロポロ
長門「いや、お前は悪くないさ。加減を間違えただけだ。私だって心が締めつけられている、拳が痛いんだ」ツーッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
公園
提督「あー、いてて・・・・・・傷薬あってよかった」ヌリヌリ
ヤマ「・・・・・・」
提督「ふぅ、だいぶ痛みが引いてったな」
ヤマ「榛名お姉ちゃんの言った事は正しいよ」
提督「・・・・・・」
ヤマ「櫂ちゃん、私も櫂ちゃんが死ぬのは嫌だよ。大好きな人が死ぬなんて」ギュッ
提督「あれは・・・・・・」
ヤマ「私、あの時全然怖くなかったよ? 櫂ちゃんがいてくれたから。櫂ちゃんが死んじゃうかもしれなかったから、だから怖かったの」ポロポロ
提督「ヤマ・・・・・・」
ヤマ「もうあんな無茶しないで。約束して」スリスリ
提督「分かった(やっぱりこいつには一生敵わねぇな)」
元帥「櫂、ここにおったのか」スタスタ
提督「! 父さん」
ヤマ「! こんにちは」
元帥「こんにちはヤマちゃん。すまんのぅ家のゴタゴタに巻き込んでしまって」
元帥「びっくりしたぞぃ、急に大きな音がするから行ってみれば、外周壁は砕けておる上、長門と榛名は泣いておるし、赤城と陸奥はオロオロしておるし」
元帥「櫂。今回は長門が正しいぞい、お前がやった事は馬鹿者と言われても仕方ない」
提督「うぐっ」
ヤマ「櫂ちゃんの事をバカにしないでよ、この髭ジジイ!!」
元帥「ひ、髭!?」
提督「アハハハハ、言われてやんの!」
元帥「うーむ、暫く剃っておらんからのぅ」サワサワ
元帥「まぁとにかく。勇敢と無謀を履き違えてはいかんぞい。この二つは紙一重、どちらにも傾くからのぅ」
提督「・・・・・・」
ヤマ「? 長門お姉ちゃんも言ってたけど、どう違うの?」
元帥「あまりハッキリとした線引きがされておらんから詳しくは分からんが、勇敢とは勝算がある時に、それを冷静に判断し、行動できる者の事じゃ。無謀とは勝ち目が無い相手にただ策もなく、後先も考えずに挑む者の事じゃよ」
提督「分かんねぇよ」
元帥「まぁ、そのうち分かるじゃろう。ただのぅ」
提督「?」
元帥「男には決して引いてはならん時がある。例え勝ち目が無くとも、例え自分が死にそうでも、大切なものを守る時は、何としてでも勝たねばならん。自分の弱さを知り、それに打ち勝つのじゃ」ニコリ
ーーーー
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
提督(その後ヤマを家まで送った後、帰ったら榛名姉が号泣しながら謝ってきてびっくりしたな。こっちが悪かったんだからもういいって言っても離してくれなくて、仕方なく一晩一緒に寝たっけか)
提督(親父が言ってた、男が引いちゃいけねぇ状況っつうのは)
提督「こういう事なんだな」
戦艦棲姫「? 何ヲ言ッテイル?」
提督(確かに敵は俺より強ぇし、勝算も限りなく低い。だけど俺がここで敗けるわけにはいかねぇ。大和達(あいつら)の為にも、俺は敗けられねぇ!!)
提督「敗けるわけには・・・・・・」
レ級「?」
提督「いかねぇんだよ!!」
戦艦棲姫「何ヲゴチャゴチャト・・・・・・モウイイ、抵抗スルナラ半殺シニスル」
構える三人と一匹。硬直状態が続くと思った直後、足裏に僅かな衝撃を感じる
提督(ん? 何だ?)
そして提督の視界には、一瞬大きく波打つ海が見えた。飛沫が上がってそれがおさまり、静かになった時
レ級「!」ジャキン
ドォォォォォォォンッッッ
提督「!」サッ
戦艦棲姫「ホウ、アレヲ避ケルカ」
提督「はぁっ!」ブンッ
レ級「!?」サッ
ガキィィィィィン
レ級の砲撃を躱した提督は、一気に間合いを詰め、レ級の頭上から刀を振り下ろした。それをレ級は尻尾で受け止める
提督「このっ!」ババッ
レ級「ッ!!」ブンッ
ズババッ
バキィィッ
刀の切先がレ級の肩を切り裂き、尻尾の殴打が提督の頬を打ち抜く。だが両者は大した事もなかったように構える
戦艦棲姫「レ級ノ攻撃ガアマリ効イテナイ。カナリ頑丈ナ身体ダナ」バッ
提督「!?」
ドカァァァァァンッッッ
レ級と向かい合う提督の背後から戦艦棲姫がミドルキックを放つ。鋭い蹴りは左の脇腹に深く沈み、提督は数歩よろめいた
提督「っ!!」
戦艦棲姫「フフ、挨拶トハイエ、アレヲ食ラッテソノ程度カ。コレハ久々ニ手応エノアル人間ダ」ニヤリ
「ガルルルルル・・・・・・」ニタァ
戦艦棲姫「イイダロウ、本気デ行クゾ」バッ
提督「!?(速い!)」
バキィィィィィィッッッ
提督「ぐぁっ!?」
戦艦棲姫が提督に飛び蹴りを放つ。提督は後方へ吹き飛ばされ、その先で
「ガァァァ!」ブンッ
ドゴォォォォォン
提督「がっ!?」
巨大な両腕が振り降ろされ、提督を殴る。提督の身体は地面に叩きつけられ、地面に亀裂が走った
レ級「!」ドスン
バキッバキッゴキッグシャ
倒れた提督に馬乗りになり、レ級が殴りまくる。辺りの地面に血飛沫が舞うが
提督「ふんっ!」
バキッ
レ級「ッ!?」ヨロッ
提督は膝蹴りをレ級の背中に入れる。痛みに一瞬レ級が力を抜いたすきに素早く脱出し、一息ついた
提督「ふぅ、死ぬかと思った」
戦艦棲姫「何故オ前ハコノ鎮守府ニ固執スル? 何故"提督"デアル事ニ拘ル?」
戦艦棲姫「抵抗シナケレバ痛イ目ニ合ワズニスムノダゾ!」バッ
提督「うっせーよ!」ブンッ
ガンッ
戦艦棲姫「ウッ!?」
近づく戦艦棲姫を拳で殴り飛ばすが、入れ違いにレ級が突っ込み、貫手を繰り出す
レ級「!」バッ
ザシュッ
間一髪で躱すも、胸に浅くはない裂傷を負い、一歩下がった
提督「ぐっ」
ガシッ
提督「!?」グイッ
「ガオオッ」
不意に頭を鷲掴みにされ、身体が宙に浮く。見ると巨大な左手が自分を持ち上げている
提督「放せバケモン!」ブンッ
ガツンッッッ
提督は右の肘で怪物の顔面を打ち抜くが
「グッ!?」ジャキン
少しの呻き声しかあげず、右肩に付いた砲塔から集中砲火を食らわせる
ドガガガガガガガガッッッ
提督の右脇腹に、まるで焼き鏝で滅多刺しにされたような激痛が走る
提督「ぐぁぁぁぁっ!?」
手を離した怪物の身体にもたれかかるも、すぐに突き飛ばして振り返った提督に、レ級が尻尾を振り上げる
レ級「!」ブンッ
ガキィィィィィン
レ級の尻尾に弾かれた刀が提督の手から離れ、宙を舞う
提督「っ!?」
ザシュッ
提督「この!」ガシッ
再び手刀で切りつけるレ級の肩を掴み
レ級「!?」
バキィィィィィィッッッ
力いっぱいに蹴り飛ばす
戦艦棲姫「フンッ」ガシッ
提督「っ!?」グイッ
戦艦棲姫が後ろから提督の頭を鷲掴みにし、またしても身体が宙に浮く。だが、先程のように見上げるような怪物に持ち上げられて宙吊りになるわけではない。自身より身長の低い相手に身体を持ち上げられたのだ。天地が逆転したかのように提督の身体は縦に回転した後
ドカァァァァァンッッッ
ガァァァァァァァァンッッッ
提督「ぐぁっ!?」ゲホッ
近くに立っていた鉄骨に腹から叩きつけられた。衝撃を吸収しきれず、鉄骨はへし折れ、地面に落ちて鈍い金属音が響く。提督も耐えきれず遂に吐血する
提督「う、ぐ・・・・・・」ヨロヨロ
すぐさま立ち上がるも、かなりのダメージに意識は朦朧としている。やっと視界がハッキリした時には目の前の戦艦棲姫が既に右のハイキックを繰り出した後だった
バキィィィィィィィィィィィィィッッッ
提督「ガハッ!?」ゴパッ
重い蹴りが提督の左顔面に直撃した。口からは血塊を吐き、顔と首に激痛が走る
レ級「!」ジャキン
ドォォォォォォォンッッッ
提督「っ!」フラッ
レ級の砲撃が直撃し、ふらつく提督に戦艦棲姫が止めの一撃を放つ
戦艦棲姫「ハッ!」グルン
バキィィィィィィッッッ
ドスッ
後ろ回し蹴りが提督の腹に沈む。同時に彼女の履いているヒールの踵が突き刺さる
提督「がっ!」ゴフッ
あまりの威力に提督の身体は後方に吹き飛び、やがて地面に大きくバウンドし、倒れ伏す
提督「ぐ、はぁ、はぁ・・・・・・」
ーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーー
ーーーーーーーーーーーーーーーー
戦艦棲姫「マサカ本当ニ半殺シニスルハメニナルトハナ」
提督「これが・・・・・・半殺しに、見える、かよ・・・・・・。どっから・・・・・・ど・・・・・・見ても、瀕死・・・・・・・だろ」ググッ
戦艦棲姫「マダ減ラズ口ヲタタケルカ。本当ニオ前ハ、殺シテモ喋リソウダナ」
ズシン、ズシン、ズシン・・・・・・
ガシッ
提督「うぐっ・・・・・・!」グイッ
再度頭を鷲掴みにされ、提督の身体が宙に浮く
戦艦棲姫「頭ヲ砕ケバ、ソノ口ハ閉ジルダロウ。ヤレ」
「ガルルルルル・・・・・・」ググッ
ミシ、ミシミシミシ・・・・・・
怪物がその右手に力を込める度、提督の頭から音が鳴る
提督「ぐぅ、あ、あぁぁぁあぁあっ!?」
ガシッ
「ガ!?」
提督「はぁ、はぁ、へへ」ニヤリ
戦艦棲姫「ア?」
レ級「!?」
戦艦棲姫は自分の目が信じられなかった。たった今まで、自分達に一方的に叩きのめされ、息も絶え絶えだったこの男は、一体何をしている?
自分の頭を鷲掴みにする怪物の手を、まるで真剣白刃取りのように掌で挟み、強かに笑っているのだ
提督「俺の頭か・・・・・・てめぇの腕か・・・・・・はぁ、はぁ、うぐっ・・・・・・先に潰れるのは、どっちだろうな・・・・・・!!」
戦艦棲姫「死ノ直前デ錯乱カ!? 何処マデ愚カナ男ダ!」
提督「ぐ、うぐぅぅぅ・・・・・・!!」ググッ
ミシ、ミシミシ・・・・・・
「ッ!? ガルルルルル・・・・・・」ググッ
ミシミシ、ミシ・・・・・・
互いに力を込めるも両者の間には歴然たる力の差があった。自分の掌よりも小さな頭と、自分の胴よりも太くがっしりとした腕。誰がどう見ても怪物のほうが圧倒的に有利である。加えて提督は全身に致命傷を負い、今現在もその身体から血がボタボタと滴り落ちているのだ。提督に勝ち目は無かった
提督「こ、の・・・・・・!!」ググッ
戦艦棲姫「無駄ナ足掻キダ、諦メロ」
提督「う、うおおおおおおおおッッッ!!」
バキバキバキバキ!! グシャッ!!
「ッギャァァァァァァァァァァッッッ!?」
戦艦棲姫「ッ!? 何ダト!?」ギョッ
怪物の右腕が手首を中心にグシャリと潰れ、辺りに青黒い体液が飛び散る
提督「へ、へへ、人間様・・・・・・嘗めんじゃねぇよ・・・・・・!!」ニヤリ
戦艦棲姫「ッ! 貴様、化ケ物カ!?」
提督「てめぇらに言われたくねぇよ」
戦艦棲姫「オ、オノレェェェッッッ!!」ダッ
ガシッ
ドスゥゥゥン・・・・・・
提督「ぐぁっ!」
完全に冷静さを欠いた戦艦棲姫は提督を押し倒し、両手で首を絞める
提督(う、やべぇな。もう全然力が入らねぇや)
戦艦棲姫「モウイイ、死ネェッッッ!!」ググッ
提督「う・・・・・・あ・・・・・・・が・・・・・・」
提督(くそ、ここまでか・・・・・・!! すまねぇ皆・・・・・・)
ドォォォォォォォンッッッ
戦艦棲姫「ガッ!?」
ドシャッ
提督「っ! ゲホゲホ、オェッ!!」
突如砲撃音が轟いたと思いきや、戦艦棲姫に砲弾が直撃、すぐ側に崩れ落ちた。
コツ・・・・・・・コツ・・・・・・コツ・・・・・・コツ・・・・・・
レ級「!?」ゾクッ
「ッ!?」ゾクッ
提督「うぇ、ゲホッ・・・・・・はぁ、はぁ、何だ?」
??「何ヲシテイルノ、戦艦棲姫」
戦艦棲姫「ッ!? リーダー・・・・・・!」ガタガタ
??「連レテ来イッテ命令ナノニ、何デ彼ヲ殺ソウトシテイルノ?」
提督(っ、何だこの底冷えするような冷たい声は!?)
提督「っ!!」
戦艦棲姫の方を見ると、上体を起こしたまま固まり、その表情は恐怖に怯え、見開いた目が斜め上を凝視していた。その視線の先には戦艦棲姫より頭一つ長身の女が立っている。右腕が蟹の鋏のような形の巨大な砲となっており、白い長髪がまるで蛸の足のように不気味に蠢いている。顔ははっきり見えないが、青白く光る双眸はまるで氷のようだ
戦艦棲姫「モ、申シワケアリマセンデシタ・・・・・・!」ガタガタ
深海棲艦リーダー(以降リーダー)「モウイイワ、謝ラナクテモ」スッ
そう言うが早いか、謎の深海棲艦はゆっくりと右足をあげ、戦艦棲姫の顔に乗せ、地面に押し付ける
戦艦棲姫「ヒィッ、オ、オ許シヲ・・・・・・ドウカゴ慈悲ヲ・・・・・・!!」ガタガタ ボロボロ
恐怖に唇を震わせ、大粒の涙を流しながら戦艦棲姫が許しを乞う。だが冷たい瞳は一切聞き入れない
リーダー「ジャアネ」グッ
戦艦棲姫「イ、嫌ダッ! 死ニタk・・・・・・」
ドゴォォォォォンッッッ
グシャッッッ
躊躇う事なくリーダーは戦艦棲姫の頭を踏み抜いた。辺りに青黒い体液が飛び散り、地面には亀裂が走る
提督「っ!?」
提督の身体に体液が付着する。すぐ側を踏み抜いたため、全身に衝撃の余波が伝わり、激痛が走る
リーダー「・・・・・・」
提督「仲間を躊躇なく殺したのか」
リーダー「・・・・・・」
提督「何で俺を狙う? 目的は何だ!」
リーダー「・・・・・・」
提督「何とか言え!」
リーダー「・・・・・・ヤット」ツーッ
提督「っ!?」
リーダー「ヤット・・・・・・会エタ・・・・・・!!」ポロポロ
提督「泣いて・・・・・る・・・・・・?」
リーダー「5年間・・・・・・ズット会イタカッタヨ、"櫂チャン"」
提督「っ!? お前・・・・・・まさか・・・・・・」
リーダー「ソウダヨ。私ノ名前ハ、眞祓井 耶麻。ヤマダヨ」
ハッとなり、顔を見つめる。その顔には朧気ながらも確かに彼女の面影がある
提督「・・・・・・俺が理系に進もうとした理由は?」
リーダー「妖精サンガ科学ノイロハニツイテ力説シテタカラデショ?」
提督「お前が俺にくれた最初のバレンタインデーのチョコは?」
リーダー「ミルクチョコニホワイトチョコヲコーティングサセタ奴。何回モ失敗シチャッタ」
提督「(・・・・・・まさか)俺がお前と・・・・・・よく出かけてた場所は?」
リーダー「公園ヨ。アソコノベンチガ二人ノ特等席ダッタネ」
提督(能力は使ってねぇ。なのに俺とヤマしか知らねぇ事を・・・・・・)
提督は確信した。こいつには確かにヤマの記憶がある。しかし提督には疑問が残る
提督「お前・・・・・・何で・・・・・・深海棲艦に?」
彼女は艦娘ではなく、純粋な人間だった。何故死んだ人間が深海棲艦となったのか
リーダー「ドウデモイイワ」スッ
チュッ・・・・・・
提督「んぐっ!?」
リーダーが上体を起こしている提督の上に跨った。そして疑問を投げかけるその口に自らの唇を重ねる
提督(冷たい・・・・・・まるで氷みたいな唇。体温を奪われそうだ)ヒヤリ
あまりの冷たさに鳥肌を立てるが、構わずに提督の唇を貪るリーダー。両目を閉じ、ただひたすらに彼を求める。彼女とのキスを経験した唯一の人物である提督だからこそ確信する
提督(何十回、何百回としたから分かる。このキスの仕方、間違いなくヤマだ)
提督「んぐっ!?」
突如口の中に違和感を感じる。リーダーが口の中に舌を捩じ込んできたのだ。舌は口内を蹂躙しながら喉の奥に入っていく。
提督「!!」
リーダー「ン、ンゥ・・・・・・ンクッ」
本来、人間は喉に違和感を感じると吐き気を催す。だが、違和感や不気味さは感じるが不思議な事に吐き気はしない。
提督(息苦しくねぇ!? 一体どうなってやがる!?)
長い舌は気管を器用に避けて食道へ侵入し、遂に胃へと到達した
提督「んぐっ!?(は、腹の中がゾワゾワする・・・・・・!!)」ゾクッ
舌は胃の内側の壁を拭い、胃をコーティングしている粘液を纏う。そしてゆっくりと胃液に浸っていく。胃液の成分は濃塩酸という強酸だ。その酸の強さたるや胃の中に送られた食べ物は疎か、容れ物である胃そのものすら溶かすほどである。それを防ぐのが胃をコーティングしている粘液である
提督(き、気持ち悪ぃ・・・・・・! 一体腹の中で何がおきてるんだ!?)ゾクッ
胃の中で、舌は胃液をピチャピチャと舐め取り、かき混ぜ、胃を内側から愛撫する。胃の中だけではない。今現在、傍から見れば誰もがその場で一瞬思考を停止させるだろう。不気味に蠢く白い長髪が提督の頭を包み込み、両腕を背中に回してしっかりと固定し、背中から伸びる無数の青白い触手が提督の四肢の一つ一つに丁寧に絡みつき、身体に巻きついている。正にリーダーは提督を全身に感じながらキスをしているのだ
提督(もう、意識が持たねぇ・・・・・・)フッ
提督はというと、度重なる衝撃に脳の処理が追い付かず、意識を失ったところである
リーダー(モウ二度ト離サナイワ、ズット一緒ニイルカラネ)ドロォ
意識を失った提督の口内から喉、胃までを通過している長い舌をドロドロと伝う赤黒い液体。謎の液体は胃の中に溜まり、やがて全身を巡る
リーダー「ン、ングッ・・・・・・プハ」
リーダー「フフ、久々ニ興奮シチャッタ」ペロリ
レ級「」ビクビク
「クルルルル・・・・・・」ビクビク
リーダー「コンナニナッチャッテ・・・・・・」ズズズ
無数の触手を収納しながらリーダーは提督をしげしげと見つめる。そして振り返り
リーダー「彼ヲ連レテ帰ルワヨ」
レ級「!」ビシッ
リーダーが提督を抱えようと再びしゃがもうとした瞬間だった
ドガァァァァァァァァァァァァンッッッ!!
レ級「!?」
「!?」
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
リーダー「ンァッ!?」
リーダーの身体が突如吹き飛び、近くにあった工廠の壁に叩きつけられた
ガラガラガラガラ・・・・・・
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・・
あまりの衝撃に工廠は倒壊し、辺りに土煙が漂う
「何を・・・・・・しているの?」
レ級「!」
静かに、だが力強く響く声。レ級と怪物が声のした方向を見ると、提督の傍に影が立っている。次第に影は増え、最終的には六つの影が提督を守るように立ち塞がる
「よくも司令官を・・・・・・!!」
「許さないんだから!」
「生きて帰さないからね」
「まともに死ねると思わないでくださいね」
「原型を留められると思わんことじゃ」
ガラガラガラガラ・・・・・・
リーダー「クッ、邪魔ガ入ッタワネ」ペッ
土煙が晴れると、そこには六人の艦娘が立っていた
吹雪「まったく、司令官は何考えているんですか・・・・・・」
大鳳「命があるだけで丸儲けですよ」
北上「まさかこんなにボロボロにされてるなんてねー」
利根「出血が酷い、妖精さんはおらんのか?」
文月「妖精さん、早く早く~」
妖精「まったく、この馬鹿提督め!」テテテテ
吹雪「大丈夫ですよね?」
妖精「うん、気絶してるだけだよ。傷を塞いで安静にさせるね」ヌリヌリ
文月「よかったぁ」
妖精「ったく、たった一人で無茶した挙句、皆に迷惑かけて! この馬鹿には後でボーナス請求してやる!」ヌリヌリ
艦娘「あ、あははは・・・・・・」
大和「・・・・・・」
リーダー「貴女達ガ櫂チャンノ艦娘?」
大和「だと言ったら?」
リーダー「櫂チャンハ渡サナイワ、貴女達ニハ消エテモラウ」ジャキン
ドォォォォォォォンッッッ
北上「! 撃ってきた!」
リーダーは大和に向かって砲撃する
大和「・・・・・・」スッ
パシッ
吹雪「受け止めた!?」
大和「・・・・・・」ググッ
バキバキ、グシャッ
ドカァァァァァンッッッ
文月「ひぃっ!?」
大鳳「大和さん!」
リーダー(私ノ砲撃ヲ片手デ受ケ止メタダケデナク、砲弾ヲ握リ潰シタ・・・・・・!?)
パラパラ・・・・・・
大和「・・・・・・」
利根「全くの無傷・・・・・・じゃと!?」
大和「・・・・・・」ガチャ
ガシャン・・・・・・
リーダー「? 艤装ヲ外スナンテ、何ノツモリ?」
大和「妖精さん、どうか提督をよろしくお願いします」
妖精「っ!? わ、分かった」ゾクッ
大和「皆は周りの敵をお願いします。あの女は・・・・・・"私"が倒します・・・・・・!」キッ
リーダー「私ヲ・・・・・・倒ス・・・・・・ダト?」ギロリ
吹雪「分かりました」スッ
吹雪は左手を前に出し、右手を後ろに引き、自然体の構えをとる
大鳳「ご武運を」ジャキン
大鳳はマガジンを装填したクロスボウを構える
吹雪「はぁっ!!」ブンッ
ボンッ
「ガッ!?」
吹雪が右ストレートで素早く前の空間を殴った瞬間、離れていた怪物の身体に衝撃が走る
リーダー「! 空気砲ネ、光速デ大気ニ圧力ヲカケル事デ衝撃波ヲ放ツナンテ」
レ級「!」
大鳳「余所見厳禁ですよ!」ダッ
レ級「!?」
思わず見蕩れていたレ級の懐に大鳳が入る。レ級が気づいた時には既に遅く
大鳳「はぁっ!」ブンッ
ドムッ
ドシュシュッッッ
レ級「ッ!?」ガフッ
大鳳の重い拳がレ級の腹に沈むと同時に、ガントレットから発射された棘が打ち込まれる
レ級「?・・・・・・?」ヨロヨロ
キィィィィィィィィィィン
レ級「ッ!?」
ドガガガガガガガガッッッ
リーダー「イツノ間ニ艦載機ヲ飛バシテイタノカシラ」
大鳳「何時でしょうね?」ニッ
既に他の艦娘も艤装を外し、最低限の身軽になった状態で臨戦態勢に入る
「ガァァァァァッッッ!!」
ダンッ
「ッ!?」
吹雪に向き直る怪物だが、既にその懐に小さな影が入り込む
文月「とぉぉ~っ」ブンッ
バキィィィィッ
その小さな拳からは想像できないほどの衝撃を腹に食らい、思わず後ずさる怪物の後ろに北上が迫る。その手には酸素魚雷が逆手に握られている
北上「よいしょっと」つ魚雷
ブンッ
ドスッ
「ガッ!?」
鉄杭のような形の魚雷が背中に突き刺さると同時に炸裂した
ドカァァァァァンッッッ
「ギャォォォォォォォッッッ」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レ級「!」ブンッ
利根「ほっ」ピョン
レ級が尻尾で下段を攻める。だが利根は軽く跳んで容易く躱した
レ級「」ニヤリ
バカめ。と言いたげにニヤリと笑うレ級。空中では無防備となる上に、着地の瞬間を狙えば大ダメージを叩き込める。尻尾の重みを利用して一回転し、レ級は再び尻尾で下段を、さらには手刀で上段を攻めた
ブンッ
レ級「ッ!?」
尻尾と手刀は相手を捉える事なく空を切る。あいつは何処だ? 利根が消えた!?
レ級「? ・・・・・・?」キョロキョロ
利根「何処を見ておる、吾輩はここじゃ!」
レ級「ッ!?」
声のした方を、上空を見上げたレ級は仰天した。利根が空中で腕を組み、仁王立ちしていたのだ。よく見ると両足の下に艦載機が着いている
利根「意外とここは安定しておるのぅ」
何と利根はあの跳躍で、低空飛行していた艦載機の上に立ち、上昇していたのだ。驚異的な脚力とバランス能力をもってしてもほぼ不可能な神業である
利根「吾輩の航空戦、とくと見よ!」ジャラッ
旋回しながら腰に巻いたベルトの巾着からBB弾のような鉛玉を少量掴み、投合する構えに入る
レ級「!」ジャキン
ドォォォォォォォンッッッ
利根「せいっ!」ブンッ
ドカァァァァァンッッッ
レ級の放った砲弾を鉛玉の雨が迎え撃つ。数発は砲弾に当たり、砲弾を爆発させる。残りはレ級に降り注ぐ
レ級「ッ!」バッ
横に跳んで避けたレ級の背後から大鳳が迫る
大鳳「はぁっ!」
バキィィィィッ
レ級の脇腹に飛び蹴りを放ち、レ級がよろめく
利根「はぁっ!!」
よろめいたレ級に追い打ちをかける。艦載機から飛び降りた利根の、重力による自由落下の力を乗せた重い踵落としがレ級の脳天に直撃する
ガコォォォォォォォォォンッッッ
レ級「ッッッ!?」ガフッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
吹雪「まだまだ!!」ババババ
よろめく怪物に吹雪が乱打を放つ
ズドドドドドドドドッッッ
吹雪の放つ拳が怪物の顔を、肩を、腕を、胸を、腹を打ちつける。一週間の特訓で、一撃一撃が大幅強化された吹雪の猛攻を前になす術はない
北上「それそれそーれ、まだまだ終わんないよぉ~」ブンッブンッブンッブンッ
その背面からは北上が酸素魚雷を投げ続けていた。背中や腰、脚に突き立てられた魚雷は爆発し、それによってできた傷をさらに魚雷で深く抉っていく。前からの乱打と後ろの魚雷に挟まれた、一方的な攻撃であった
「ガ、ガガガ・・・・・・」フラフラ
ふらつく怪物の懐に文月が入り、勢いよくジャンプする
文月「とぉぉ~っ」ピョン
ズドォォォォォォォォォンッッッ
ミシミシミシッッッ
「グッ!?」
顎にジャンピングアッパーを食らった怪物が顔を上にあげ、仰け反る
文月「吹雪ちゃん、今だよぉ~」
吹雪「任せて」ダッ
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
衝撃で上を向いている怪物の顔に吹雪が加速をつけて飛びかかる。加速のついたジャンピングパンチが右顔面に直撃し
バキバキバキバキ、ブチィィィィッ
ドシャッ・・・・・・
怪物の頭が身体から離れ、地面に落ちた
北上「倒れる前のトドメだよー」ダッ
頭が離れた直後、まだ立っていた身体に北上が飛びかかる。その手には酸素魚雷が握られ
北上「せいっ!」ブンッ
ドシュッッッ
それを頭があった位置に突き立てる
ドカァァァァァンッッッ
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥンッッッ
吹雪「よしっ!」グッ
文月「やったぁ~」ピョンピョン
北上「一丁あがり~」ニッ
文月「利根ちゃんと大鳳ちゃんの手助け行くー?」
北上「いや、要らないっしょ。大和さんもそうだけど、あたし達が行ったら邪魔だと思うよ」
吹雪「一先ず様子を見ましょう!」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
レ級「!」ジャキン
ドォォォォォォォンッッッ
利根「はぁっ!」ブンッ
ドカァァァァァンッッッ
レ級「ッ!!」ギリッ
砲弾を撃てば鉛玉で相殺。艦載機を放てば航空戦で撃墜。魚雷を投げても艦載機と鉛玉で爆破される。遠距離では何をしても相手に落とされ、レ級は肉弾戦に持ち込むしかなかった
レ級「ッ!」バッ
利根に肉薄し、両手で貫手を放つ。だが
利根「」パシパシッ
レ級「ッ!?」
利根は躊躇う事なく両手首を掴んで止め、軽く跳び上がる
利根「せいっ!」ブンッ
バキィィィィッ
跳躍して勢いをつけた膝蹴りが顎先を捉え、レ級の身体が大きく仰け反る。利根はそのまま空中で、レ級の両手首を掴んだまま身体を丸め、両足の裏をレ級の胸につけ
利根「はぁっ!!」
曲げていた両足、そして丸めていた身体を一気に伸ばした
ブチブチブチィィィィッッッ
レ級「ッッッ!?」
反動でレ級の身体が後方に吹き飛ぶが、しっかり掴んでいた両腕は肩から引きちぎれた
ドシャッ・・・・・・・
利根「まるで手刀が本物の刃物みたいじゃな。危なっかしい貫手じゃのぉ」ポイッ
片方を放り投げ、倒れたレ級を睨みつける
利根「そろそろ終いじゃ。覚悟するがよい」ダッ
レ級「ッ!」ギロリ
助走をつけて再び跳躍した利根を睨みつけ、迎え撃とうとするが、背後から大鳳が迫る
大鳳「こちらを忘れないでください!!」ダッ
レ級「ッッッ!!」ブンッ
後ろの大鳳を尻尾で振り払おうとしたが、その瞬間
ザクッ
レ級「ッッッ!?」
ドシャッ・・・・・・
利根「刃物は危ないと身に染みたかの?」
上空から利根が投合した自身の左手の貫手で、レ級の尻尾は切断された。これにより、レ級は攻め手を失った
大鳳「流石です、利根さん!!」ブンッ
利根「うむ、一気に決めるぞ!」ブンッ
着地した利根と、大鳳が一気に間合いを詰める
大鳳「はぁっ!!」ブンッ
利根「せいっ!!」ブンッ
ズドォォォォォォォォォンッッッ
ドシュシュッッッ
バキィィィィィィィィッッッ
利根の回し蹴りが喉に、大鳳のパンチが背中に直撃、その直後に撃ち込まれた棘が楔となり
バキバキバキバキ、グチィィィィィッッッ
レ級の身体は上下真っ二つに裂けた
利根「大鳳、吾輩の蹴り、当たっとらんか? 大丈夫だったかの?」
大鳳「はい、身体の真後ろじゃなかったので」
吹雪「大鳳さん、利根さん!!」タッタッタッ
利根「吹雪達か、そっちはどうじゃ?」
北上「楽勝楽勝」ニヒヒ
大鳳「どうします、大和さんの加勢に行った方がいいでしょうか?」
文月「行かない方がいいよぉ~」
利根「うむ、吾輩達では足手まといじゃからのぅ」
吹雪「一旦、司令官の様子を見に行きましょう」
艦娘「了解」
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
吹雪「妖精さーん」タッタッタッ
妖精「! 吹雪、皆も」
大鳳「提督の様子は!?」
妖精「傷は塞がったけど失血が酷い、輸血しないと・・・・・・!」
利根「何じゃと!?」
北上「輸血パックは?」
妖精「分かった、何人かついてきて!」テテテテ
タッタッタッタッタッタッ・・・・・・
提督「・・・・・・」ピクッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
リーダー「櫂チャンハ誰ニモ渡サナイ!!」
リーダー「渡シテタマルカァァッッッ!!」
ズァァァァァァァッッッ
大和「っ!?」
無数の青白い触手がリーダーの背中から生える。それらが幾重にも絡まり、やがては四本の太い触手となった
大和(得体の知れない力ですね・・・・・・早く倒した方がよさそうです)ダッ
リーダー「アアアアアッッッ!!」グイッ
大和「触手を足がわりに!?」
四本の触手は伸縮自在のアームとなり、リーダーの身体を宙に持ち上げる。一瞬にして大和の攻撃の射程外へと回避したリーダーは高所から砲撃する
リーダー「・・・・・・」ジャキン
ドォォォォォォォンッッッ
大和「くっ、だけどアームを倒せば!!」ダッ
グニャァァァッ
大和「へ!?」
リーダー「バカメ!!」ブンッ
バチィィィィッ
大和「うっ!!(なんて弾力、打撃でのダメージは期待できそうにありません・・・・・・)」
リーダー「マダダァァッッッ!!」ジャキン
ドォォォォォォォン、ドォォォォォォォン
大和(まずはあの触手をどうにかしないと・・・・・・)
リーダー「考エ事ナンテ余裕ジャナイノ」ブンッ
ギュルルルルルル・・・・・・
大和「っ!?」
触手が大和の首に巻き付き、締め上げる。大和は触手をちぎろうとするが、その弾力によって伸びるだけであった
大和「う、うぅう・・・・・・(く、苦しい・・・・・・い、息が・・・・・・)」
リーダー「ハァッ!!」ブンッ
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
妖精「何考えてんだい、あんた達は!!」
艦娘「す、すみません・・・・・・」シュン
医務室では、吹雪達が妖精から大目玉をくらっているところだった。輸血パックを取りに医務室に来た妖精は振り返って仰天した。何で五人とも着いてきているのかと。怪我人を一人放ったらかしにして何を考えているのだ
妖精「あたし言ったよね!? "何人か"って!! 全員着いてこいなんて言ってないよ!!」
吹雪「うぅ・・・・・・」
文月「ひっ・・・・・・ひっ・・・・・・」グスグス
妖精「とにかく、今は怒鳴っていても仕方ない。利根と北上は輸血パックを、吹雪と大鳳は点滴具を持って。文月は提督の様子を見てきて!」
ドカァァァァァァァァァァァァァンッッッ
妖精「なっ!?」
艦娘「っ!?」ビクッ
大和「うぅ・・・・・・」コキコキ
妖精・艦娘「大和(さん)(ちゃん)!!」
グオオオオッッッ
吹雪「な、何か来たぁ!?」ビクッ
北上「何あれ、触手!?」
大和「皆避けて!!」
妖精「・・・・・・よくも」プルプル
文月「妖精さん?」
妖精「よくもあたしの医務室(プライベートスペース)をぉぉぉっ!!」クワッ
艦娘「ひぃっ!?」ビクッ
妖精「あんの触手め~!!」テテテテ
そう叫んだ妖精は近くの棚に飛び込んだ。そこには医薬品だけでなく、様々な化学物質が置いてある
妖精「医務室で暴れたら・・・・・・」ガサゴソ
大和「妖精さん、危ないですから戻ってください!!」
グオオオオッッッ
妖精「危ないだろうがぁぁぁぁぁっ!!」ブンッ
妖精は怒りを込めて、手にした大きさの異なる二つの瓶を触手に投げつけた。その瓶のラベルを大和は見逃さなかった
大和(大きな瓶には"濃塩酸"、小瓶には"濃硝酸"・・・・・・。っ!? 比率3:1、まさか・・・・・・!!)ゾクッ
パリパリィィィィン・・・・・・
投げた瓶は触手に命中し、二つの液体が混ざる。触手に橙赤色の液体が付着し、残りの触手がそれを拭おうとするが、それが間違いだった
ッ!? ギャァァァァァァァァッッッ!? イ、イタイッ、ヤケルゥゥゥッ!!!
利根「な、何じゃ!? 急に触手が爛れ始めたぞ!?」
文月「何あの液体~?」
妖精「濃塩酸と濃硝酸をぶっかけてやったんだ」
吹雪「え、じゃあまさか、あの橙赤色の液体って・・・・・・!!」ゾワッ
大和「えぇ・・・・・・王水・・・・・・・ですよね?」
妖精「当たり」
大鳳「えぇ!? あの金や白金も溶かしちゃうぐらい酸化力の強いっていう!?」
北上「うん。でも確か銀は表面に膜ができるせいで溶けないんだよね?」
吹雪「はい、王水と反応してできる塩化銀のせいで反応が遅くなるんです」
文月「王水の比率は3:1だよねー?」
利根「うむ、濃塩酸が3、濃硝酸が1の割合じゃ」
ワイワイガヤガヤ
大和「すぐさま、こんな事が出てくるようになるなんて・・・・・・! 提督、貴方の教育は皆の中でちゃんと生きています・・・・・・」ウルウル
妖精「うん、すごいね。確かにすごいけどさぁ・・・・・・」チラ
リーダー「ウゥ、痛イジャナイ、触手ガ焼ケルカト思ッタワ!!」キッ
妖精「今戦闘中だよね?」
艦娘「あ、そういえば」ハッ
リーダー「コノッ!!」ブンッ
妖精「でも、まだ触手使うんだね」アキレ
妖精「追撃だ、それ!」ブンッ
赤く爛れた四本の触手が再び迫ってくるが、呆れた様子の妖精が更に小瓶を投げつける。かなり厳重に密閉された小瓶に大和は不安を覚えた
大和「ちょ、今度は一体何を投げたんですか!?」
妖精「狭心症の薬の原料。つまり」
ドカァァァァァァァァァァンッッッ
リーダー「ッ、キャァァァァァァァッ!?」
妖精「ニトロの原液さ」
リーダー「ウ、ウゥウ・・・・・・二度モ触手ヲ攻撃サレタァ・・・・・・」
妖精「いや、触手引っ込めりゃ済んだ話じゃん」
リーダー「ウルサイッッッ!!」ブンッ
ほぼ逆ギレ状態のリーダーはボロボロになった触手を大和に伸ばす
大和「っ!?」
リーダー「逃ガサナイ!」バッ
グルルルルルルル、ギュルルルルルル
大和「っ!? しまっ・・・・・・!」
四本の触手に両手足を拘束され、大和の身体が持ち上げられる
リーダー「イイ的ダワ」ニチィ
ドォォォォォォォンッッッ
ドォォォォォォォンッッッ
ドォォォォォォォンッッッ
大和「ぐ、うぁっ!?」ガフッ
大和「このっ・・・・・・」グググッ
大和(! あまり伸びない? 酸と爆破で触手が傷んだから弾力が失われているんだ、これなら!!)グググッ
大和「うぁぁっ!!」グイッ
ブチブチブチブチィィィィッ
リーダー「ッ!? 触手ヲチギッタ!?」
大和「ふぅ、これでだいぶ楽になります」ダッ
リーダー「ッ!?」ジャキン
大和「はぁっ!!」ブンッ
バギャァァァァァァァァァァンッッッ
リーダー「ウッ、右手ガ無クナッタ・・・・・・」
大和「とりあえず外に出なさい!」ブンッ
バキィィィィッ
リーダー「ッ!!」
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
大和「皆さん、提督をお願いします!」ダッ
妖精「わ、分かった」
吹雪「気をつけてください」
ーー
ーーーー
ーーーーーー
リーダー「マ、マタ・・・・・・離レチャウ・・・・・・」
リーダー「櫂チャンガ奪ワレル・・・・・・」
タッタッタッタッタッタッ・・・・・・
大和「逃がしません!」
リーダー「嫌ダ・・・・・・・嫌ダ・・・・・・!」ズズズ
大和「はぁっ!!」ブンッ
リーダー「嫌ァァァァァァァッッッ!!」
ゴォォォォォォォォォッッッ
大和「っ!?」ビリビリ
突如、辺りに衝撃が走り、風圧で大和の動きが止まる
大和「何て衝撃・・・・・・身体が引きちぎれそう・・・・・・・!」
リーダー「ァァァァァァァァッッッ」ズズズ
大和(っ!? 何かが飛んできた? あの深海棲艦に向かって飛んでいく・・・・・・)
グチャグチャ、グチッ、ドチュッ・・・・・・
何かが身体に撃ち込まれる生々しい音が響く。それが止むと同時に衝撃も治まった
大和「っ!!(何、この悪寒は!?)」ゾクッ
リーダー「レ級ヤ戦艦棲姫ノパワーヲ吸収サセテモラッタワ。ソロソロ本気デ行クワヨ」スタスタ
土煙の中から歩いてきたリーダー。砕けた右腕は再生し、右腕と両脚が黒く染まり、その双眸からはまるで炎のように黄色い光がユラユラと立ち上っている。その凄まじい闘気によって辺りの景色も陽炎のように歪んでいる
リーダー「ソウネ・・・・・・二撃、イエ、三撃目デ貴女ハ、ソコノ壁ニ叩キツケラレルワ」クスッ
大和「やれるものならやってみなさい!」ブンッ
リーダー「・・・・・・踏ミ込ンデ体重ヲ乗セタ右ストレート・・・・・・」サッ
大和「っ!?」ギョッ
リーダー「遅イワヨ」
大和「(いつの間に後ろに!?)はぁっ!!」ブンッ
リーダー「右ノ後ロ回シ蹴リ」スッ
ビタァァァァァァ・・・・・・・
大和(!? 指一本で止めた!?)
リーダー「マズハ一撃目」ヒュン
大和「っ!?」サッ
ゴォォォォォォォォォッッッ
大和「っ!? 何て風圧・・・・・・!」ビリビリ
大和「このっ!!」ブンッ
リーダー「右ストレートカラ左ノ後ロ回シ蹴リ」サッ
大和「っ!?」
ブンッブンッ
リーダー「ソノ勢イデ右ノハイキック、左ノ裏拳」サッ
ブンッブンッ
リーダー「次ハ私。二撃目」ブンッ
大和「っ!?」サッ
リーダー「シャガンデ躱シテ前ニ飛ビコミ前転」ブンッ
大和(尽く、こっちの動きが二、三手先まで読まれている!?)ゾワッ
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
大和「っがはっ!?(何この威力、元帥の攻撃の比じゃない・・・・・・・!!)」ドパッ
ドゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
ガラガラガラ・・・・・・・
ズズゥゥゥゥゥゥゥゥン・・・・・・・
リーダー「アラ、叩キツケラレハシタケド貫通シチャッタワ」
大和「・・・・・・・」
リーダー「何デ動キガ読マレテイルノカ、テ言イタソウネ」スタスタ
リーダー「私ハ周辺ニアル物質ヤ生命ト同調スル事デ、相手ノ動キガ手ニ取ルヨウニ分カル。人ノ考エヤ心ノ声モ聞コエルシ、数分ナラ未来モ予知デキル」
大和「っ!? そんな・・・・・・バカみたいな話・・・・・・」
リーダー「マァ、サッキノハ貴女ノ動キヲ読ンデ、ソウナルヨウニ誘導シタンダケド」
リーダー「コノ地面カラモ様々ナ情報ガ伝ワルノ。近クヲ歩ク人ノ気配、ソノ目的地」
大和「っ!?」
リーダー「マタ新シク予知スルナラ、ソウネ・・・・・・貴女ノ前ニ人ガ立チ塞ガルワ」
大和「人?」
大和「バカな事言わないでください、ここには私と貴女の二人だけです!!」ダッ
リーダー「人ノ話ハ聞カナキャ駄目ヨ?」クスッ
その時、距離の縮まる両者の間に影が割り込んだ
大和「っ!? そんな・・・・・・何故・・・・・・!?」
割り込んだ影はリーダーを庇うように大和と対峙する。その手には刀が握られていた
リーダー「フフ、私ヲ守ッテクレルヨネ?」
「あぁ・・・・・・もちろんだ・・・・・・。・・・・・・今度こそ・・・・・・」
大和「何故・・・・・・ですか・・・・・・?」
大和「提督・・・・・・!!」
提督「ヤマは俺が守る・・・・・・!!」チャキッ
大和「何が・・・・・・起きて・・・・・・いるの?」
大和の前に立つ提督は異常だった。以前の優しい目はまるで炎のように真っ赤に染まり、爛々と輝いていた。そしてその焦点の定まらない目や鼻、口や身体の傷口から赤黒い液体がドクドクと流れ、それが気化して全身を覆うオーラとなっているのだ。その禍々しい容姿に大和は言葉を失った
大和「あ、あぁあ・・・・・・」ガタガタ
提督「俺・・・・・・は・・・・・・」チャキッ
大和「っ!?(意識がまだハッキリしていない!? まるで催眠にでもかかったみたい)」
大和「・・・・・・貴女・・・・・・一体、提督に何をしたの・・・・・・?」
リーダー「サァ?」クスッ
大和「おのれ!!」ダッ
ヒュッ・・・・・・
大和「っ!?」サッ
提督「ヤマを・・・・・・守る・・・・・・」
大和「提督、目を覚ましてください! 貴方は操られているんです!!」
提督「黙れ・・・・・・貴様に・・・・・・俺ノ・・・・・・何ガ分かるんだァァ・・・・・・!!」ダッ
大和「っ!?」
突進してきた提督の剣を素早く躱し、大和は捕まえようと試みるが・・・・・・
大和「提督っ!!」ガシッ
ジュゥゥゥゥゥゥゥッッッ
大和「っ!!」バッ
リーダー「アラアラ、触ラナイ方ガイイワ。ソノオーラハ櫂チャンノ怒リ。櫂チャンノ負ノ感情。ソレラシク言ウナラ"憤怒ノ炎"ッテトコヨ」
大和「う、うぅう・・・・・・」
左腕を押さえ、大和はリーダーを睨みつける
リーダー「貴女ヤ皆ヘノ怒リガ具現化シタ炎ノ味ハドウ?」
大和「私達・・・・・・への」
リーダー「櫂チャンハ私ヲ守ル。私ノ敵ナンダカラ、貴女達ニ怒リヲ向ケルノハ当然ノ事ヨネ?」
提督「俺は・・・・・・俺は・・・・・・」チャキッ
大和「提督・・・・・・」スッ
リーダー「ッ!?」
大和は提督をゆっくりと抱きしめた。当然そのオーラで身体が焼かれるが気にする素振りも見せない
提督「何・・・・・・ヲ・・・・・・」
大和「・・・・・・」ジュゥゥゥゥゥ
・・・・・・俺のせいだ
俺のせいでヤマが死んだ・・・・・・・
俺がヤマを殺したんだ・・・・・・
何故俺は!! 愛する女を!!
守れなかった・・・・・・守ってあげる事ができなかった・・・・・・!!
俺が弱いから・・・・・・
弱い俺のせいでヤマを死なせた・・・・・・
・・・・・・憎い
俺は俺自身を許さねぇ・・・・・・
・・・・・・ジャア、次ハ守ッテクレルヨネ?
もちろんだ・・・・・・今度こそ・・・・・・俺はお前を守るからな、ヤマ!!
大和「・・・・・・」ジュゥゥゥゥゥ
大和(提督は・・・・・・亡くなった恋人を守れなかったと言っています・・・・・・。普段のあの振る舞いの中、人知れず彼は泣いていた。これは提督自身への怒り・・・・・・)
大和(だから提督は守ろうとしているんですね。大和ができることは、提督を縛るこの自責と後悔を断ち切る事。ヤマさんだって本当はこんな事望んではいないはずです!)
大和「提督・・・・・・大和は提督に守られるだけは駄目だと思います」ジュゥゥゥゥゥ
提督「!?」
大和「大和は・・・・・・提督とお互いに守りあい、支え合いながら生きていきたいです」ジュゥゥゥゥゥ
ヤマ『櫂ちゃん、私は櫂ちゃんに守られてばかりは嫌だよ。私だって、櫂ちゃんを守るんだから!!』
提督「っ!?」ハッ
大和「もう十分、提督は苦しんだと思います。どうか、ご自分をお許しください」ジュゥゥゥゥゥ
提督「・・・・・・俺は・・・・・・」
「そうだよ提督!」
提督「!」
妖精「あんたはこの5年間、十分に苦しみ抜いた。もういい加減、自分を許してあげなよ・・・・・・」ポロポロ
提督「俺は・・・・・・」フッ
シュゥゥゥゥゥゥゥ・・・・・・
リーダー「ッ!? 櫂チャンノオーラガ消エテイク・・・・・・何デ・・・・・・!?」
提督「大和・・・・・・ごめん」
大和「提督は悪くありません。どうか、あとはこの大和にお任せを」ニコッ
提督「」ガクッ
大和「妖精さん、皆、提督を」ギュッ
気を失った提督を優しく抱きしめた後、ゆっくりと妖精と吹雪達に委ねる
妖精「分かった・・・・・・」
吹雪「大和さん」
大和「決着をつけます」キッ
リーダー「何デ・・・・・・私ヲ・・・・・・守ッテクレルンジャナカッタノ?」ワナワナ
大和「貴女は提督を傷つけた・・・・・・その報いを受けてもらいます」キラリ
パァァァ・・・・・・
リーダー「ッ!?」
艦娘「!?」
妖精「!?」
突如大和の身体が黄金色に輝き始める。身体中の傷が消えると共に、提督の纏っていたオーラを吸収し、虹色の光を発する
バツン・・・・・・・
大和の結んでいた髪が解け、長く美しい髪がバサバサと靡く。虹色の光が治まり、そこには髪を下に下ろした大和が立っていた。その目は淡い紫色を帯び、優しく光り輝いている
大和「さぁ、ケリをつけましょう」
リーダー「フフフ・・・・・・ソノ根拠ノ無イ自信ヲ打チ砕イテアゲルワ」ダッ
大和「左のストレート」スッ
リーダー「ナッ!?」ブンッ
大和「・・・・・・」ニコッ
リーダー「バ、バカナ!!」ブンッ
大和「右ミドルキックから左フック」サッ
ブンッパシッ
リーダー「ッ!!」サッ
大和「はぁっ!!」ブンッ
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
リーダー「ガハッ!?」ドパッ
ドカァァァァァァァァァァンッッッ
大和「これで同じ土俵ですね」
ガラガラガラガラ・・・・・・
リーダー「・・・・・・マサカ、私ト同ジ能力ヲ持ッテイルナンテ」ペッ
リーダー「偶然・・・・・・ジャナイワヨネ? 貴女、私ト何カ関係アルノ?」ギロリ
大和「共通点ならありますね。提督を愛しているという」
リーダー「ッッッ!!」ギリッ
リーダー「貴女ガ、私ノ櫂チャンヲ奪ッタノネ・・・・・・?」ポロポロ
大和「貴女は彼を縛り、独占しようとしている。それが私との違いです」
リーダー「黙レ!! 櫂チャンハ私ノ"モノ"ヨ!! 返シテ!!」ダッ
大和「最後の勝負です!!」ダッ
リーダー「櫂チャンヲ!! 返シテヨォォォォォォォォッッッ!!!!」ブンッ
大和「提督は!! 貴女だけの道具ではありません!!!!」ブンッ
リーダー「アァァァァァァァァァァァァッッッ!!」
大和「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!!」
ドガガガガッッッ
バギャッッッ、バキィィィィッ
バゴォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
ドカァァァァァァァァァァァァァァンッッッ
ガコォォォォォォォォォォォォォォンッッッ
リーダー「ハァッ!!」
大和「はぁっ!!」
まるで鏡に映ったかのように同じ攻撃を出し合う大和とリーダー。攻撃を受け止め、弾き、相殺する。攻撃を一切ヒットさせる事なく二人は正に互角の戦いを披露する。拳や脚から発せられた凄まじい衝撃の余波が辺りに走り、突風が吹き荒れる
リーダー「貴女ガ! 私カラ櫂チャンヲ奪ッタンダ!!」ポロポロ
大和「奪ってなんかいません! 提督は! 今でも一人の女性を! ヤマさんを愛しているんです!!」
リーダー「ッ!?」
大和「私が立ち入る隙なんてありませんよ」
リーダー「・・・・・・」
大和「それだけ貴女を愛しているんですよ、ヤマさん」
リーダー「ッ、私ノ心ヲ覗イタワネ・・・・・・」
大和「・・・・・・」
リーダー「・・・・・・ソレデモ、私ハ貴女ガ許セナイ・・・・・・櫂チャンノ傍デ生キテイル貴女達ガ・・・・・・!!」
大和「っ!?」
リーダー「モシ、私ノコノ憎悪ガ消エルトシタラ・・・・・・私ガ死ヌカ貴女達ガ死ヌカノドチラカヨ・・・・・・」
大和「・・・・・・」
リーダー「ダカラ死ンデ。ソウシタラ私ハマタ櫂チャント一緒ニナレルカラ」ニチィ
大和「・・・・・・分かりました」
吹雪「大和さん!?」ギョッ
大和「大丈夫です、そういう意味ではありません。今、私は覚悟を決めましたので」
リーダー「覚悟?」
大和「できれば貴女を殺さずにいたかったのですが、貴女を解放する手立てがそれしかない以上、そうするしかありません。私は貴女を殺す覚悟を決めました」
リーダー「殺セルトイイワネ。ソノ前ニ貴女ガ死ヌカモシレナイケド」
提督「・・・・・・」ピクッ
吹雪「!」
北上「提督!」
妖精「気がついた? 意識は? 大丈夫かい?」
提督「や・・・・・・ま・・・・・・」
リーダー「!!」
大和「!!」
提督「・・・・・・た・・・・・・く・・・・・・れ・・・・・・」
リーダー「何、聞コエナイヨ! モウ一度オ願イ!」
大和「提督・・・・・・」
提督「・・・・・・大和・・・・・・」
リーダー「ッッッ!?」
大和「っ! はいっ!」
提督「大和、そいつを・・・・・・ヤマを・・・・・・助けて・・・・・・くれ・・・・・・憎しみ・・・・・・から、解放してくれ」
リーダー「ナ・・・・・・ンデ・・・・・・」ガタガタ
ドシャッ・・・・・・
大和「・・・・・・了解」
提督からの指示を受けた大和は静かに目を見開く。リーダーはあまりの衝撃に呆然とし、その場にヘナヘナと崩れ落ちた
リーダー「何デ・・・・・・櫂チャン・・・・・・」ワナワナ
大和「提督からのお願いです。どうか、貴女を苦しめるその憎しみから解放されてください」スタスタ
リーダー「・・・・・・分カッタワ。櫂チャンニ伝言頼ンデイイ?」
大和「何なりと」
リーダー「アリガとう」スゥ・・・・・・
大和(! 負の感情が薄れていく・・・・・・)
リーダー「私は何時でも櫂ちゃんを見守っている。大好き。でも、私の事は大丈夫だから、櫂ちゃんにはもう一度、好きな人をつくって恋をして欲しい。・・・・・・皆と幸せに過ごして・・・・・・って伝えて」ポロポロ
大和「・・・・・・必ず」ツーッ
妖精「一つ、質問してもいいかい?」
リーダー「何? 妖精さん」グシグシ
妖精「あんた、ヤマなんでしょ? 何でこんな事を・・・・・・何で深海棲艦なんかになっちゃったのさ・・・・・・?」ポロポロ
当然、提督の家に遊びに来ていたヤマは妖精とも仲が良く、時々話の相談をしたりと懐いており、また妖精も二人の保護者役を買って出たりと、二人をとても可愛がっていた。
リーダー「私の家の"呪い"・・・・・・『呪われた一族』、知ってるでしょ?」
妖精「っ!? あれか・・・・・・」
大和「?」
リーダー「私の魂が分裂して漂い、うち一つがリーダー(この肉体)に憑依した、それが今から数日前。あれから5年経ったから、櫂ちゃんがどうなっているか、大丈夫か知りたかったのかな・・・・・・その結果こんな事になっちゃって、本当にごめんなさい」
妖精「大丈夫、あの馬鹿ならきっと立ち直れるさ」
リーダー「うん。いい人もいるみたいだし」チラ
大和「!」
リーダー「大和さん、櫂ちゃんをよろしくね」
大和「・・・・・・分かりました」
妖精「成仏・・・・・・するのかい?」
リーダー「うん。憑依している肉体が修復不可能なくらい損壊したら、きっと昇天できる。お願いしてもいいかな?」
大和「」コクッ
頷いた大和はゆっくりと拳を振り上げる。それを見たリーダーはすっかり負の感情の消えた優しい顔つきで微笑む
大和「ヤマさん。どうか、安らかに」ブンッ
リーダー「うん・・・・・・ありがとう」
ドッッッガァァァァァァァァァァァァァァンッッッ
大和「・・・・・・」
地面に深くめり込んだ右手をゆっくりと引き抜き、大和は前を見る。リーダーの身体は跡形もなく消し飛び、地面には今までで一番大きな亀裂が走っており、湾内の水が流れ込んできている
妖精「あの娘、昇天できたかな」
大和「そうだといいですね」
提督「大和・・・・・・」
大和「! 提督」クルッ
振り向くと、完全に意識が戻った提督がこちらに歩いてきていた。とはいえ、完全にはダメージ回復してないため、覚束無い足どりである
提督「ありがとう。あいつを助けてくれて」
大和「はい」
提督「俺がいつまでもウジウジしてるからヤマが説教に来たのかもしれねぇな」ヘラヘラ
大和「もう! 笑い事じゃありませんよ!」
提督「悪ぃ悪ぃ」
大和「提督、ヤマさんからの伝言です」
そう言って大和はヤマからの伝言を提督に伝える。一言一句漏らさずに
妖精「よく間違えなかったね」
大和「大切な伝言ですから」
提督「・・・・・・」
妖精「・・・・・・吹っ切れたかい?」
提督「あぁ」
シレイカーン、ヤマトサーン、ヨウセイサーン
テイトクーダイジョウブー?
妖精「あぁ、皆呼んでるね」テテテテ
ホラ、アンタラハスグサマニュウキョ!
エェェエェェエッッッ!? ガビーン
大和「提督も休んでくださいね?」
提督「あぁ」
大和「早く行きましょう」スタスタ
提督「・・・・・・大和」
大和「! はい?」クルッ
提督「・・・・・・」
大和「? 提督?」
提督「・・・・・・俺は5年前、最愛の恋人を失った」
大和「・・・・・・」
提督「俺にとって彼女の存在が大きかった事もあるけど、その死んだ原因が俺だった。だから俺は、ヤマ以外の誰かに恋をしなかったんだ。今思えば贖罪の意志だったのかもしれねぇ」
大和「提督・・・・・・」
提督「だけど今回の件で漸く気持ちにケジメがついた。俺はもう一度、前に進みてぇ」
大和「それは素晴らしいお考えです! 大和もそのお手伝い、尽力させていただきます!」
提督「というわけでだ。・・・・・・大和」
大和「? はい?」
提督「俺と結婚を前提に付き合ってくれないか?」
大和「・・・・・・え?」
提督「お前がこの前、俺に告白してくれた時、素直に嬉しかった。あの時はくだらねぇ理由で断ってしまって、お前には本当に辛い思いをさせてしまった」
大和「い、いえ! そんな事はありません!」
提督「あんな酷い事言った上、今更こんな事を言うなんて虫のいい話だって事は重々承知してる」
大和「提督・・・・・・そんな事ありません」ジワァ
提督「あの時は怖かったんだ。誰かを愛したら、またそいつを失ってしまうかもしれねぇって。俺のせいでまた愛する女を失うかもしれねぇ、それが怖かったんだ」ツーッ
提督「だから俺は"守る"事に異常に固執してたんだな・・・・・・」
大和「・・・・・・仕方ありませんよ。大和も同じ立場ならそう考えます」ポロポロ
提督「だけどお前は守られるだけじゃなく、お互いに守りあいながら生きていきたいって言ってくれた。本当に嬉しかった」
提督「改めてお願いします。大和、俺と結婚を前提に付き合ってください」
大和「はい! 喜んで・・・・・・!!」ポロポロ
大和「提督、どうか一人で抱え込まず、大和や皆を頼ってください。大和は提督と支え合いながら生きていきたいです!」
大和「提督! 心より愛しております!!」ニコッ
提督「ありがとう、やまt・・・・・・」
チュッ・・・・・・
大和「ん・・・・・・////」
提督「大和・・・・・////」
大和「これで二回目ですね。大和が提督の唇を奪ったのは////」ニコッ
提督「確かに。このままやられっぱなしも嫌だしな////」スッ
大和「あ・・・・・・////」クイッ
提督は大和の顎をあげ、その唇に優しく接吻する。大和はすぐに両手を提督の頬にあて、ゆっくりと引き寄せる。やがて大和はその両腕を提督の首に回し、提督はそれぞれ大和の後頭部と腰を抱き寄せ、互いに密着しながら唇を求め合い、舌を絡ませる
大和(提督・・・・・・提督・・・・・・! 好き・・・・・・好き・・・・・・大好き・・・・・・!!)
「・・・・・・あの~」
提督・大和「っ!?」ビクッ
吹雪「大変申し訳ないんですけど////」
北上「そーゆーのは二人っきりの時にベッドでやってほしいんだけどー////」
大鳳「み、見てるこっちが恥ずかしいですよぉ////」
文月「ほわぁ、ラブラブー!」ニコニコ
利根「青春するのは構わんが、時と場合を弁えてもらわねばな////」
妖精「ちょっとは周り見なよバカップルが」
提督「わ、悪ぃ////」
大和「す、すみません////」パッ
提督「いや、とにかく。皆ありがとう。皆のお陰でこの鎮守府、延いては街を守る事ができた」
北上「波止場に面した建物以外は・・・・・・ね」
吹雪「それは言っちゃダメです」
提督「とりあえず皆は入渠してきてくれ。俺は今から飯を作r・・・・・・」
妖精「させないよ!?」ギロリ
提督「嘘です冗談です」
妖精「当たり前!! あんたが一番の重傷患者なんだからね!!」
提督「じゃ、じゃあ俺は部屋にいるから入渠して飯食って早く寝ろ。以上、解散」
艦娘「はっ!」ビシッ
ーー
ーーーー
ーーーーーー
提督寝室
提督「使えなくなった施設は何処だ?」
妖精「工廠は全壊、あと艤装や装備の倉庫とあたしの医務室が半壊。波止場は壊滅的だし、出撃は無理だね」
提督「するつもりもねぇよ。どうせ暫くこの鎮守府は機能しねぇさ」
妖精「とはいえ、直すに越した事は無いね」
提督「確かに。お願いしてもいいか?」
妖精「任された。てか元々あたし達の仕事だしね」
提督「明日は俺も手伝うさ」
妖精「ふふ、あんたが吹っ切れたみたいで安心したよ。元帥達も喜ぶだろうね」
提督「はは、そうかもな。あんたにも迷惑かけたな」
妖精「うぅん。本当に良かったよ。じゃ、安静にしてなよ」テテテテ
提督「はいはい」
ガチャ・・・・・・パタン
提督「・・・・・・」
提督(今までごめんな、ヤマ。俺はもう一度前に進む。皆と、大和と一緒にな)
提督(だから皆を見守ってやってくれ)
提督「大和(あいつ)をお前の分も含めて、愛したい」
提督「今度こそ、もう何も失わねぇように・・・・・・」
続く
これで前編は完結です。色々詰め込み過ぎた気がしますが、それでも気に入ってくれる方がいると幸いです。
では、後編の投稿を暫くお待ちください。
このSSまとめへのコメント
文月かわいい