【艦これ】レーベ「今日から、よろしくね」磯波「綺麗な髪の、男の子……?」 (23)

ー春。いつもより少し早く咲いた桜がとても綺麗でした。

磯波「……♪」

ー半年ぶりに帰るあの場所。また、皆に会える。そう考えるだけで、重い荷物達も厭に感じることはありません。

?「あの……」

?「あの……すみません!ちょっと聞きたいことがあって!」

ーすっかり昔の思い出に浸っていた私は、思わずわっ、と声を上げてしまいました。

磯波「…………ごめんなさい!ボーッとしてて……」

?「いや、僕の方こそいきなりごめんなさい。ちょっと、道に迷っちゃって……」

ーちょうど、私と同い年ほどの男の子でした。薄いブロンドの髪と、とても綺麗な瞳をした……

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?「ありがとう。おかげで助かったよ!まさか君が艦娘だったなんてね」

磯波「いえ……私もちょうど鎮守府へ帰るところでしたから……」

?「そうだ、遅れちゃったけれど……僕の名前はレーベリヒト・マース。レーベでいいよ。
君と同……」

ーその時、正午を知らせる鐘の音が響き渡りました。

?「……あっ、いけない!集合時間まであと少ししかないや!」

?「本当にありがとう。それじゃあまたね!」

磯波「あっ……」

磯波「(行ってしまいました……)」

磯波「(それにしても、男の子が何故鎮守府へ……?)

磯波「(高官の方にしては随分と若いようでした。工廠の工員さんでしょうか?)」

磯波「(それはそうと、提督の元へご挨拶に行かなくちゃ)」

ーヒトフタサンマル。執務室前。

磯波「」トントン

「入っていいぞ」

磯波「お久しぶりです。提督。駆逐艦磯波、ただいま戻りました。」

提督「おお!久しぶりだな!無事に帰ってきてくれて嬉しいよ」

磯波「半年もの間、本当にご迷惑をお掛けしました……」

提督「いや、こうやってまた元気になってくれて何よりだ。
作戦の後、軍病院行きって報告受けた時は、俺……うう……」グスン

磯波「あっ、て、提督?そんなに気を落とさないでくださいっ!私、もうこんなに元気ですから……」

提督「うぅ……ごめんな……磯波、もうあんな不甲斐ない指揮は取らないよ……」

ーーーーーーーーーー

提督「……そうだ、建設中だった寮の新棟が完成したんだ。
これまでの窮屈な部屋と違って二人部屋になってな」

提督「んで、ちょうど今日新入りの艦娘が着任した。
磯波には部隊に再配属するまでの準備期間、その娘にここでの勝手を教えてもらいたいんだ」

磯波「新しく着任した……艦娘、ですか?」

提督「ああそうだ。なんでも情報交流のため派遣された部隊……
そのうちでインド洋の未解明ラインを抜け生還した一人らしい」

提督「名前は……」

磯波「レーベレヒト・マース?」

提督「!?……知っているのか?!」

磯波「はい……ちょうど先程、ここへ来る際にお会いしました」

ーヒトロクマルマル。艦娘寮。

磯波「お邪魔します……」ガチャ

磯波「……」

磯波「(レーベさんは……いない。着任初日は忙しいですから当然ですよね)」

磯波「(他のみなさんも、お仕事で忙しい様子ですし……)」

磯波「(私も荷物の整理、しなきゃ)」

磯波「(それにしても、あの子がまさか艦娘だったなんて……)」

磯波「(男の子の艦娘だなんて、聞いたことがありません)」

磯波「(それに、まさか同室だなんて……どうしましょう……私……)」

ーヒトハチサンマル。浴場。

磯波「~♪」ザバァ

磯波「(久しぶりの広い湯船……極楽です……♪)」

……

…………ガラガラ

「(これが、日本のスパ……gut……)」

磯波「(誰か入ってきた。演習が終わったのでしょうか?)」

…………

「やぁ、また会ったね」

磯波「へっ?」

レーベ「Guten Abend. 磯波、だよね。提督から聞……」

磯波「ひゃあ……」

レーベ「……?」

磯波「きゃあああああああああああああ!!」

ーフタフタマルマル。再び艦娘寮。

レーベ「……つまりは勘違いしてた、ってことだね」

磯波「ごめんなさい、ごめんなさいっ!私……貴女にとっても失礼なことを……」

レーベ「もう、僕は女の子だよ?あんなに大声を出さなくても……」むぅ

磯波「本当にごめんなさいっ……」

…………

レーベ「……あはは、全然気にしてないよ。男の子と間違われる事、良くあるから」

レーベ「それはそうと、これからルームメイトとしてよろしくね」

レーベ「仲良くしてくれたら、嬉しいな」ニコッ

ー間近にみた彼女の笑顔に、瞳に、思わず見惚れてしまいそうでした。

磯波「……こちらこそ、よろしくお願いします!レーベちゃん」

ー初夏。大講堂にて。

提督「予め通達にあったとは思うが、本日諸君らに集まってもらったのは
今夏に実施する南方地域への侵攻作戦について伝達事項があるためだ」

ーいつになく真剣な面持ちの提督に、艦娘たちは耳を傾けていました。

提督「これより、大規模作戦に向けた部隊の再編成を発表する」

ー講堂の緩やかな空調を跳ね返すような熱気に、うっすらと汗ばむほどでした。

提督「……方面への遊撃部隊として……を主力とした……」

ー次々と部隊の編成が読み上げられ、艦娘達もそれに呼応していきます。

提督「……対潜を中心とした哨戒任務に、五十鈴、朝潮……」

提督「……に、磯波、新たに着任したレーベレヒト・マース。
以上の6名にて、任務を遂行してもらう」

…………

提督「なお、明日より
各部隊間及び他鎮守府の遠征部隊との合同演習を実施する予定だ。以上、解散」

ーヒトナナマルマル。いつもの浴場。

磯波「~♪」

レーベ「磯波は、本当にお風呂が好きなんだね」

磯波「んん~っ、一日頑張ったな~、って気持ちになれる場所ですから~♪」

ー入浴時間から、おやすみまでのひと時。

彼女と出会ってから、小さな幸せを感じるようになったのかもしれませんー

磯波「ふふっ」

レーベ「? 磯波?どうしたの?」

ーいつのまにか、彼女の綺麗な蒼い瞳が私を覗き込んでいました。

磯波「秘密、です♪」

レーベ「……磯波が笑顔になってくれて良かった」

磯波「?」

レーベ「磯波、今日ずっと不安そうだったから……」

磯波「!……っ」

レーベ「……作戦の、ことかな?」

…………

磯波「……私どんくさくって、怖がりで……
昔、そのせいで皆さんにご迷惑をお掛けしてしまったことがあるんです」

磯波「その時の怪我でしばらく入院していました……
レーベちゃんと初めて会った日、ちょうど退院日だったんですよ」

磯波「久しぶりの出撃で、また皆さんの足手まといにならないか
とっても不安なんです……」

磯波「……でも、レーベちゃんと一緒だから、頑張れる気がしてきました」ニコッ

ーヒトマルマルマル。鎮守府ドック。

五十鈴「みんな、揃ったわね。所定の位置に付いて」

五十鈴「今日が水雷戦隊の初出撃……といっても演習だけど、みんな、気合い入れて行くわよ!」

「「「「「はい!!」」」」」

ー五十鈴さんは今回編成された水雷戦隊のリーダーで、対潜のエキスパート、と呼ばれている先輩の艦娘です。

五十鈴「今日の演習では予め相手の編成が読めているし、装備も万全」

五十鈴「しっかりと連携を取って、勝ちに行きましょ」

五十鈴「準備はできた?それじゃあ、いくわよ!」

ー皆の勇ましい掛け声とともに、下方の門が開き、眩しい日差しが眼下に飛び込んできました。

磯波「駆逐艦磯波、出撃します!」

ー足元の振動が全身にまで巡り、刹那、ドックの風景が加速していきます。

眩しい朝日に目が眩んだ次の瞬間目前に映ったのは、青い海とレーベちゃん達の水しぶきですー

磯波「(きっと、大丈夫……)」

ーいつも訓練で慣れ親しんでいる背中の機関たちが、手元の連装砲が、なぜか重く感じました。

『磯波っ、隊列から遅れてる!』

『はいっ!すみませんっ!』

ー五十鈴さんの声に、はっ、と意識を集中させます。

『大丈夫。落ち着いて行きましょ』

『複縦陣を取るわよ!全体、半速で対潜警戒を怠らないこと!』

ーふと背後を見渡すと、鎮守府が、陸地が遥か彼方に見えました。

ーヒトマルサンマル。鎮守府近海。

ー見渡す限りの海、晴天の空と、よく慣れたエンジンの機関音だけが一面にこだましていました。

…………

『(ソナーに反応…反響音を確認したわ。)』

ー五十鈴さんの合図で、一斉に爆雷が構えられました。場の緊張感が一気に高まります。

『(投下……始め!)』

ー一斉に爆雷が海上へと投下され、海の底へとゆっくり消えていきます。

ごぽっ。

ー鈍い炸裂音と、緩やかな風波が揺らいだ数秒後に、後方でペンキにまみれた人影が海上へと浮かび上がりました。

ー皆が安堵の一息をついたその瞬間……

五十鈴「右舷に敵数隻捕捉!」

「これからが本番よ!」

ー第一船速、の号令と共に大きな水飛沫が辺りを舞いました。

ーそして、息をつく間も無く前方から船影、砲撃。あたりを砲弾が飛び交います。

「…………!」

ーいつの間にか、あれ程澄んでいた空は光を失い、血のような赤い海面が一面に広がっていました。

「………み……!」

…………

ー先ほどまでの喧騒は消え去り、聞こえるのは、不気味な咆哮と、ただただ悲痛な叫び声だけ。

…………

ーふと、前方に2隻の船影が見えました。どこか見覚えのある制服の少女。あれは……私……?

…………

ー二人の少女を取り囲むように、不気味な影たちがゆっくり、ゆっくりと海底から姿を見せました。

ーもう、これ以上見ていたくない。息が苦しい。それでも、私は前へとゆっくり進んでいました。

やがて、二人の影と、それらを取り囲む影たちが鮮明に見える距離までにー

『……!…………!』

ーもう一人の私が、何か叫んでいるようでした。

ーしかしその声は、影たちの咆哮に、荒れ狂う波の轟音にかき消され、虚空と消えてゆきます。

磯波「(早く……早く逃げて!)」

ーやがて影たちは水面へと姿を現し、二人をその巨体が覆い隠しました。

ー化け物たちの隙間からは、未だ声にならない声をあげ、空砲を撃ち続ける私と息も絶え絶えとなった少女の姿が見えます。

ー次の瞬間、化け物の一体が進路を変え、その口を大きく開き……

磯波「(嫌……)」

「い…………み!!」

磯波「いやああああ!!!!」

……………

レーベ「磯波!しっかりして!!」

ーはっ、と気がつくと目の前では不安そうに覗き込むレーベちゃん達がいました。

レーベ「磯波!?大丈夫?」

五十鈴「……収まった、みたいね。良かった」

「よ、良かった……オレ、何かとんでもないことをしてしまったのかと思ったぜ……」

「もう、本当に天龍ちゃんは心配性なんだから~……」

「うう……こっぴどくやられた……って、何かあったでちか?」

ー演習相手と思わしき艦娘の皆さんも、心配そうにこちらを見ていました。

五十鈴「……お相手への連絡と提督への報告は私が済ませておくわ。磯波を皆で鎮守府まで護送してくれる?」

「「「「はい!」」」」

…………

ー鎮守府までの数十分間、私はただ泣くことしかできませんでした。

ーフタサンマルマル。艦娘寮。

ー軍医さんから安静を言い渡された私は、お昼からずっとベットに篭り、天井を見つめていました。

ー時折、あの禍々しい景色が浮かびました。その度に、息が苦しくなり、頬に涙が伝うのを感じました。

レーベ「……眠れない、のかい?」

磯波「……レーベ、ちゃん……」

磯波「……ごめんなさい、起こしてしまいましたか?」

レーベ「いいや、僕もなかなか眠れなくって」

……

レーベ「……隣に行ってもいい、かな?」

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