「ヒーローさん!」「緋色!」 (8)

たぶん、いくつ年をとったとしてもわすれはしないだろう。

「お前、俺様達が何者か分かってやってるのか?」
「天下のJHLに所属するヒーローのアッ──」

「アーアーアー。っせえーな。あんた等のそのきっしょい"僕、ヒーローなんですぅ~"ってのを前面に押し出したスーツ見てりゃあ、誰だってヒーローってわかるわ」

じぶんのことをすくってくれた──

「──なっ、お前、ふざけんなよ!ヒーローに楯突いて、許されると思ってんのか?!」

「ンなもん知るかよ。ガキを寄ってたかっていたぶりやがって。お前等、ヒーローっていうかチンピラだろ。やーい、ヘンテコスーツのチンピラ」

「~~~!後で命乞いしても、許さねえからな!」

「上等」

すっごくかっこいい、じぶんにとってさいこうのヒーローを。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1492191208

20××年、日本国にある新しい法律が制定された。『我が国を防衛し治安を維持する超人に関する保護及び支援等に関する法律』──通称『ヒーロー法』である。

これは、日本各地で人知れず、日本の平和を守るために戦っていた"ヒーロー"を公的に認めることと、彼らに対しての国から支援を行うことを目的としたものだ。
この法律により、ヒーローは公の場に姿をあらわすことが多くなり、彼らの存在を知らなかった多くの市民の喝采を浴びることになった。

日陰者であったヒーローに、光が当たった瞬間である。

その後、程なくしてJHL(日本ヒーロー連盟)が設立され、ヒーローは全員連盟に登録することを義務付けられた。これは、有事の際、現場から近いヒーローを招集し、国家機関と連携して事件の解決に当たらせるためである。

結果、ヒーロー法とJHLのおかげか、犯罪の検挙率が飛躍的に上がり、日本各地の犯罪率は目に見えて低くなった。国と市民は、犯罪が減ったことに大喜びし、ヒーロー様々だと口々に彼らを讃えた。

だが、これをよく思わなかった連中がいた。


本来、このことを一番喜ぶはずのヒーロー達だ。

いや、これだと語弊が生じるので適切な表現に訂正すると、殆どのヒーロー達は、市民や国が喜んでいることに満足していた。満足できなかったのは、極一部のヒーロー達である。

そもそもヒーローというのは、その大半がが生身の人間である。しかし、彼らには一般市民にない能力があった。
それは、100万ボルトの電流を流されても耐えられる身体だったり、念力で物を動かせる能力だったりと、ヒーローによって個人差はあるが、人並外れた能力のことであり、一般市民には到底持ち得ないそれを、政府は特殊能力と名付けた。

この特殊能力を日常生活において使用することができない(JHAの規定により、有事外での特殊能力の使用は禁止されている)彼らは、普段燻っている能力を如何なく発揮出来る数少ない機会──言い換えれば、ただのストレス発散になるが──が減ることを嫌がったのである。

自らの中に溜まっていくストレスをどのようにして発散するか。考えた結果、一部のヒーロー達は恐ろしい行動を取り出した。

罪のない一般市民に危害を加えるようになったのである。

最初は危害と言っても、誰かが殺されるというものはなかった。精々、事件を解決している最中に、誤って能力を発揮して相手を傷つけてしまったとか、そんなレベルである。

だが、次第に"誤って能力を発揮すること"がエスカレートした結果──

『事件を解決中、ヒーローの誤射により3名の市民が意識不明の重体になり、病院に搬送されましたが、全員の死亡が確認されました』

この事件に市民やマスコミはヒーローやJHAを責め立て、過失致死傷罪で逮捕するべきであると主張した。
しかし、国はヒーローを逮捕することもなければ、糾弾することさえもしなかった。

何故か、彼らはヒーロー法を逸脱した行為を行っていなかった為である。

ヒーロー法の中には、人命に関する項目も記載されていた。
しかし、その内容は
「事件解決へ向けた戦闘行為中で起こってしまった不測の事態(ここでは死亡事故)は、故意的なものとみなさず、事故とする」
といったもので、このヒーローの起こした死亡事故も、あくまでも事件解決へ向けた戦闘行為中に起こった出来事だった為に、事件と見なされなかったのだ。

戦闘行為中の不慮な事故は罪にならないことを知った一部のヒーロー等は、この件以降、罪のない市民に対し今まで以上に危害を加えるようになっていった。

この行為に、最初は大多数のヒーローが「彼らは傷付ける存在でなく、守るべき存在だ」と市民を傷付ける一部のヒーローを止めた。

しかし、彼らは止めるヒーローを鼻で笑うとこう言った。

「俺等は誰も傷つけてなんかいない。ただ、救助活動中にミスが起きただけ」

さらに続ける。

「奴らが人間であるように、俺等も人間なんだ。"ちょっとのミス"ぐらい、誰だってあるだろ?それに最近、パワーを使う機会が減ってるんだ、使う限度をミスってしまっても、文句なんか言えねえはずだ。
お前等も本当は燻ってるんだろう?ちょっとのミスぐらい、許されるから、たまにはミスってみろよ」

このヒーローの発言に呆れ、JHAを去る者もいれば、誘惑に負けて"ミス"を故意に行うヒーローも現れた。
事件をわざと起こして、他人を犯人に仕立て上げるヒーローまで現れ始めた。市民による犯罪率は確実に減ってきたが、今度は逆に、ヒーローによる犯罪が増えてきたのである。

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