桜の木の下には幸子が埋まっている (37)

『ねえ、知ってる?』

『桜の木の下には、死体が埋まってるんだって』

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「ここが……ウワサの……」

ある春の日の夜。とある廃校の敷地内、桜の木が並んでいる校舎裏に一人の少女が訪れていた。

少女の名前は白坂小梅。手が完全に隠れる長袖のパーカーにスカート姿で、長物の入った布の袋を背負っている。

小梅は夜中に一人でお花見をしに来た、というわけではない。

そもそもここは昼だろうとお花見スポットになる場所ではないのだ。

学校が運営していた頃はわからないが、廃校となった今では地元の人すら寄り付かないほどに人気がなく、廃校の雰囲気も存在もあってここは薄気味悪い場所として噂されている。

そして小梅がわざわざ遠方からこの廃校へやってきた理由は噂にある。

小梅はある噂を聞いたのだ。

『あの廃校の裏にある桜の木の下には、女の子の死体が埋まっている』

『学校が潰れる少し前、生徒の一人である女の子が亡くなった』

『しかし学校の運営が終了する直前でそのような話題が生まれることを嫌がった者がいた』

『女の子の死体は密かに桜の木の下に埋められ、今もそのまま』

よくある類の噂だ。桜の木にはありがちなホラーともいえる。

真下で告白すれば願いが叶うというのと同じくらい桜の木にとってメジャーなおとぎ話。

特別珍しくもなく、普通の人はいちいち相手にしない。

だからこの噂に惹かれてやってきた小梅はきっと普通ではないのだろう。

「わかってるけど……ね……」

自嘲気味に笑いながら、小梅は背中に背負っていた長い袋を地面に下ろす。

するすると袋から取り出したのは一本のスコップ。

これこそが白坂小梅が噂を聞いてこの廃校にまで来た理由に他ならない。

小梅の目的は、噂の少女の死体を掘り出すことであった。

死体が埋まっていると噂される場所でスコップなど持っていたら、誰からもその目的がわかり止められてしまうだろう。

しかしここは普段から人が通ることはなく、今は深夜と言っていい時間。

小梅は人目をはばかることなくスコップを取り出し、これから死体探しをする自分を奮い立たせる。

が、さて実行に移ろうというところで、あたりの桜を見渡してため息をついた。

桜並木ほどではないが、生えている桜の数は1本や2本というわけでもない。

10を超える桜の木が、学校がその役目を終えたことを知らないかのように、校舎裏に規則正しく並んでいる。

さて、この中で少女が埋まっている桜の木はどれだろう。

全部の木の根本を掘り起こしていては、朝になってしまうことは明白だ。

それは困る、と小梅がどうにか狙いの桜を判別できないかと考えていたら。

「ボクの死体は一番カワイイ桜の木の下に埋まっていますよ。ボクはカワイイですから」

背後からカワイイ声が聞こえてきた。

人は来ないとたかをくくっていた小梅が、驚いて振り向いた先。

学校の制服に身を包んだ一人の少女が立っていた。

「初めまして。ボクの名前は輿水幸子。死後も人々に噂される、世界一カワイイ美少女です」

少女、輿水幸子は可愛く笑ってそう言った。

「あなたは見たところ地元の人ではないですね?わざわざカワイイボクの噂を聞いて遠くから来たんですか?」

「やれやれ、まさか他の土地にまで噂が広がってるなんて。ボクの可愛さは留まることを知りませんね」

「ああ、もはやこれは罪深いほどの可愛さと言ってもいいでしょう。もっとも、死体を供養もされず埋められるほどの罪かどうかは考えものですが」

「フフーン。土の下に埋めたところで未来永劫全国津々浦々までボクの可愛さが広まってしまったことを思うと、無意味な行為だったと言わざるをえませんがね」

突然始まった幸子の捲し立てるような自分語りを、小梅はある意味感心しながら聞いていた。

喋るのが遅い自分では口を挟むこともできない。

そしてなにより、恐ろしいほどに「幸子が自分の可愛さに自信がある」ことしかわからない。

代わりに幸子が「自分の可愛さを語ること」がとても好きなことは嫌というほど伝わってくる。

小梅としては、人が楽しげに話しているのを聞いているのは苦ではないので構わないがけれど、とはいえずっと聞いているわけにもいかなかった。

小梅は少しの緊張とともに尋ねる。

「さ、幸子ちゃんは……幽霊、なの……?」

先ほど幸子は「ボクの死体」と言っていた。その後も、自分が噂の埋められた少女であると示すようなことを言っていた。

幸子の言葉が真実だというのなら、今目の前にいる幸子は。

「その通り。ボクは幽霊です」

世界一カワイイ、ね。幸子はドヤ顔で付け足した。

世界一と言っても、そもそも幽霊の世界はこっちじゃないのでは?と小梅は思ったが指摘するのはやめておいた。

続きは夜。

「わ、私、白坂小梅……。よろしく、ね……」

「小梅さんですか。よろしくお願いします。確認ですけど小梅さんはボクの死体を掘り出すために来たんですよね?」

「う、うん……」

正直に答えてから、しまった、と小梅は気付いた。

今から自分がすることは、言うなれば墓荒らしと同じだ。

エジプトだと呪いをかけられても文句が言えないレベルの悪行である。

目の前の幽霊少女は果たしてどう思うだろうか。

「あ、あの……ごめんなさ」

「わかりますよ、ボクはカワイイですからね」

しかし小梅の予想と反して、幸子は怒るどころか誇らしげだった。

「ボクの可愛さを他の人の目に晒したくないと土の中へ埋めた人の気持ちもわからなくはないですが、やはりカワイイものは人々の注目を浴びるべきでしょう」

「いい加減、ボクもボクの体を世間の目に披露すべきだと考えていたんです」

「天岩戸のようにボクが隠れていたのでは、やはり皆さん不幸でしょうから。ボクの姿が見えない世の中なんて、年中冬みたいなものですし」

「そういうわけで小梅さん。ボクの方からお願いします。どうかボクの体を掘り出してください」

「う、うん……わかった、よ……」

小梅はまだ幸子の喋るスピードになれないが、とりあえず死体を掘り出す許可は貰えたらしい。

「ありがとうございます。フフーン!こんな親切な人に出会えるなんて、日頃の行いがいいからですね!」

幽霊は日頃どんな行いをしてるんだろう、と小梅は思ったが、また長い自分語りが始まりそうなのでやめておいた。

代わりにふと疑問に思ったことを聞く。

「あれ……?幸子ちゃん、自分で掘ろうとは思わなかったの……?」

今、現に目の前にいるのなら穴ぐらい掘れそうだが。

指摘すると、幸子はばつが悪そうな顔になる。

「思いました。でも幽霊だから物が持てないんです」

「じゃあ、人にお願いするとか……」


「自縛霊って言うんですかね?この学校から離れられないんですよ。そうでなければ体を掘り出すまでもなく、この状態のまま都会に行ってボクの可愛さを見せつけてるというのに……!」

「なら……通りかかった人に……」

「こんな場所に通りかかる人いませんって。それこそ、ボクの噂を聞いて集まってきた人ぐらいです」

「私以外に、人は来なかったの……?」

地元民ではない小梅が噂を聞いたぐらいだ。もっと他にも同じような人が来てもおかしくない。

「そうですね。噂を聞いて集まる人はそれなりにいました。大半はボクの死体よりも死体が埋まっている桜を見るのが目当てで、スコップ持参の人は少なかったですけど」

「で、でも……いたんだね……」

「はい。……いましたけど」

ここにきて幸子はドヤ顔を苦々しく歪めた。

「男の人にボクの死体漁りをお願いするのは、その……」

「ああ……うん……」

自分の可愛さを誇る幸子でも、いや誇るからこそ男性に任せるわけにはいかないのだろう。

「女性でも、この人は危険だと思う人人ばかりで。やっぱりボクの死体を任せるんですから、同年代の女の子がいいじゃないですか」

それ以外の人は幽霊らしく脅かしてやりました、と幸子は胸を張って言う。もうドヤ顔は復活していた。

「そ、それで……いたの……?同年代の女の子……?」

「……小梅さんが一人目です」

「……ふふっ」

目をそらして言う幸子が可愛くて、小梅は自然と笑ってしまう。

「な、なんですかその反応は!おかげで他の誰でもなく、小梅さんがカワイイボクの死体を掘り出せるんですよ!嬉しくないんですか!」

嬉しいかはともかく、滅茶苦茶なことを言われているにしては嫌な気はしなかった。

ああ、この子なら。

小梅は少し照れながらも、正直に気持ちを伝えることにした。

「さ、幸子ちゃん……。もし私が幸子ちゃんの体を見つけたら……私と友達になってくれる……?」

「え……。ボ、ボクと友達に、ですか……」

「うん……駄目、かな……?」

この子と友達になったらきっと楽しい。

小梅の確信からくる願いを、幸子は少し考える様子を見せた後に。

「ふ、フフーン。もちろんいいですとも!ボクの体を見つけてくれたなら、友達になってあげてもいいですよ!」

やはりドヤ顔で快諾したのだった。

「ふふっ……じゃあ、さっそく幸子ちゃんの死体を探そうか……」

幸子の返事に気を良くしたまま、小梅はスコップを構える。

善は急げ。

廃校に不法侵入して、本人の希望とはいえ死体を掘り当てようとしている現状を善と呼べるかともかく。

早くしないと朝になってしまう。

小梅はさっそく、幸子に尋ねた。

「それで……幸子ちゃんの死体は、どの桜の木の下に埋まってるの……?」

対する幸子の答えは明瞭だった。

「わかりません」

「……え」

小梅は頭を抱える。

いや、まさか、そんなことは。

嫌な予感とともに、恐る恐る、小梅はもう一度聞き直す。

「幸子ちゃん……。幸子ちゃんは、自分の死体がどこにあるのか……」

「知りませんよ」

聞き間違いや勘違いではなかったと確認して、再度小梅は頭を抱える。

「もしかして……やっぱり、私と友達になりたくなくて……」

嘆く小梅に、幸子は必死に否定をする。

「ち、違います!だってボクが桜の木の下に埋められたのは死んだあとなんです!死んだ時の様子ならまだしも、その後のことなんてわかりませんよ!」

「そうなの……?」

「はい!教室で死んだと思ったら、いつのまにか外に立っていて。通りかかる人達はボクが桜の木の下に埋められてるって噂してるしで、ビックリしましたよ」

それなら仕方ない、のかな?と思いつつも、小梅は首を傾げた。

「で、でも、さっき……一番カワイイ桜の木の下に埋まってる、って言ってなかった……?」

確か幸子が開口一番にそのようなことを言っていたはずだ。

正確な場所は知らなくても、何かヒントになるような情報があるのかもしれない。

「カワイイボクの体を養分に育った桜ですよ。他とは比べ物にならないくらい、カワイイ桜になっているに決まってるじゃないですか」

小梅は最後にもう一度、頭を抱えることになるのだった。

いったんここまで。

「これ、かな……」

「ボクはこっちの方がカワイイ気がしますけど……」

結局どれが問題の桜の木かまったくわからなかったので、幸子の言葉に従って『一番カワイイ桜』を選ぶことにした。

だが並ぶ桜たちに大きな違いはなく、二人はどれが一番カワイイ桜かと品評会のようなことをした結果。

「まわりにあるすべての桜を可愛くしてしまうなんて。さすがボク!」

という幸子の誇らしげな言葉で桜探しを中断し。

「よく考えたら、ボクを土に埋める時に端を選ぶわけないと思いませんか?」

「たとえボクの体を地中に埋めようとする不届き者でも、ボクにふさわしいのはセンターだということぐらいわかるはずです」

「つまり、ボクの体はこの桜たちの並びを見てセンターになる、この桜の下に埋められているに違いありません!」

という推理?によって二人は桜探しを終了した。

ザクザクと小梅はスコップで土を掘り返していく。

もちろん、幸子の体を傷つけないように注意を払いながら。

「あ、あの!本当に気を付けてくださいね?ボクの体なんですから!」

「大丈夫、だよ……少し傷がついても、幸子ちゃんはカワイイから……」

「それもそうですね!……じゃなーい!」

「ふふふっ……」

軽い言葉とは裏腹に、小梅は決して乱暴ではない慣れた手つきで土を掘り返していく。

「ずいぶん手慣れてますね。汗もかいてませんし、小梅さんは土いじりが趣味だったりするんですか?」

あまり日に当たっていない不健康そうな少女、といった見た目の小梅が軽々とスコップで土を運んでいるのを幸子は驚きながら見ていた。

両手が隠れるほどの長い袖をそのままに、袖まくりすることなく作業を続けられているあたり、実は鍛えていたりするのだろうか。

「土いじり、じゃないよ……。慣れてるのは、今みたいに死体が埋まってるって噂を聞くたび、掘りに行ってたから……」

小梅が微笑みながら言うのを、幸子は少し引き気味に受けた。

「か、変わった趣味ですね。いえ、おかげでここにも小梅さんが来てくれて助かってるんですが」

「えへへ、楽しいよ。色んなところをまわるの……幸子ちゃんも友達になったら一緒に行こう、ね……」

「そ、そうですね。気が向いたら、いつか。ここ以外の場所に行ってみたい気はありますし」

「うん……時間はいっぱいあるから、ね……」

やがて桜の木の根元に、大人が一人すっぽり埋まるほどの大きさの穴が作られた。

幸子を埋めた犯人がどれだけの深さの穴を掘ったのかわからないため、深めに掘ってみたのだが。

「……ない、ね」

「……」

しかし、死体が見つかることはなかった。

念のため小梅はスコップを地面に置き、穴に頭を突っ込んで中を覗き込んでみたが、痕跡のようなものも見当たらない。

「ハズレみたい、だね……。別の桜だったのかな……」

今から別の桜に穴を掘り始めて、はたして朝になる前に終わるだろうか。

はやく幸子ちゃんと友達になりたいのに、と少しの落胆とともに起き上がろうとする小梅に、背後からカワイイ声が届いた。

「いいえ、間違ってないですよ。死体は今から入るんですから」

「え……」

次の瞬間、小梅の後頭部に重い衝撃が走った。

体勢を崩し、今掘ったばかりの穴に落ちていく小梅が見たものは。

両手で握ったスコップを、カワイイ笑みとともに振り下ろした幸子の姿だった。

「やれやれ。幽霊なんているわけないでしょう。これだからオカルト好きな人は」

小梅が入った穴をスコップを使って埋めながら、幸子はため息をつく。

「それ以前に、あんな馬鹿げた噂を聞いて集まる人がいることに驚きですけど。どこの誰だか知りませんが、迷惑な噂を流してくれたものです」

「ああ、あの噂は完全にデタラメですよ。そもそも廃校寸前に亡くなった女子生徒なんていないんですから。ちょっと調べればわかる事実です」

「だから、ここの桜の木の下に噂の女子生徒は埋まっていません」

「ここに埋まっているのは、ボクが殺して埋めたカワイイ女の子達だけです」

貴女みたいなね、と幸子は慣れた手つきで塞いだ穴の土をスコップでならしていく。

もう聞こえていないとわかりながらも、幸子は桜の木の下に語りかける。

もともと喋りたがりな幸子が、唯一自分の秘密を話せる時間だからだ。

「ボクはカワイイ女の子を殺すのが好きなんです。ボクがカワイイからでしょうか?カワイイ女の子を見つけるとどうしても、ね」

「そして殺したカワイイ女の子を殺すとここに埋めることにしているんです」

「ここはもともと人が通らないし、薄気味悪い噂が広まっているから絶好の隠し場所だと思ったんですけど」

「ええ、本当に誤算でしたよ。あんな薄気味悪い噂に引き寄せられる人がいるなんて。世の中には理解できない人というのがいるものですね」

困ったものです、と幸子はわざとらしく肩をすくめる。

「いえ、本当に困ってるんですよ。誰かが掘り起こしにくるんじゃないかと警戒しなくちゃいけないし、どこかへ死体を移動させようとも考えていたぐらいです。でも、まだやめておきます」

「噂のおかげで今日は小梅さんに出会えたわけですしね。また同じような獲物が来るかもしれないと思うと、噂も悪くないような気がしてきました」

「フフーン。さすがボク。どんな選択をしても、最終的には上手くいくなんて」

ひとしきりお喋りをして満足したのか、幸子は桜に背を向けた。

「じゃあ、そろそろ行きますね。どうか小梅さん、安らかに眠ってください」

幸子はカワイイ笑みとともに颯爽と立ち去る。

はずだった。

だが前へ進むはずの幸子の足は動かなかった。

「……あれ?」

歩き出そうとした瞬間、冷たい何かが幸子の足を掴んだのだ。

「…………え?」

驚いた幸子の視線の先、見えたのは白い腕。

地面から病的なまでに白く細い腕が伸びて、その見た目からは想像できない強い力で幸子の足の自由を奪っていた。

「なっ……!?」

咄嗟に幸子が想像したのは、先ほど頭を殴打して埋めた一人の少女。

彼女がまだ生きていて、土から手を出してきた可能性。

そんなことありえないと思いながらも、幸子は最適の行動へと移った。

それは生き残るための攻撃。

「はなして……!はなせっ……!」

躊躇なく、手に持ったスコップを力の限り白い腕に向かって叩きつける。

とにかくこの腕から逃げなくてはいけない。

そう判断したが故の行動であったが。

その判断は正しく、しかし遅かった。

結論から言うと、幸子はもっと前にアレから逃げるべきだった。

「私ね……お友達が欲しいんだ……」

土の中から声が聞こえた。間違いなく、先ほど土に埋めた少女の声だ。

「私と同じ、死体のお友達が欲しくて……。でも、そのためには死体を探さなきゃいけないんだけど……」

「日本の死体は火葬されちゃうから、お友達にできないの……同年代の女の子の死体となるともっと、ね……」

スコップが腕に叩きつけられる。しかし腕の力は弱まることなく、声に変化もない。

「だから、死体が埋まってるって噂を聞いたら見に行くようにしてるんだ……」

「今回もあまり期待してなかったけど、よかった……さっきの話が本当なら、ここには女の子の死体が埋まってるんだね。それもたくさん……ふふっ、お友達たくさん……」

「ありがとう、幸子ちゃん……」

土の中から名前を呼ばれ、ついに幸子はスコップを投げ出して涙を流していた。

「そ、そうです!死体なら他の木の下にいっぱいいます!彼女達を友達でもなんでもしていいですから!」

だから許して、と泣き叫ぶ幸子に声はあくまで優しく語りかける。

仲のいい友達を遊びに誘う声のように。

「幸子ちゃん、言ったよね」

「な、何を……?」

「幸子ちゃんの体を見つけたら、お友達になってくれる、って」

言葉とともに、ぎしりっと足を掴む力が強くなる。

「ひっ……!?」

肉が潰れる音がした。

骨が軋む音がした。

痛みに苦しむ声が零れた。

それらはすべて、肉体の証明となった。

「幸子ちゃん、見ぃつけた」

『ねえ、知ってる?』

『桜の木の下には、死体が埋まってるんだって』

「ふふっ、また新しいお友達が増えるかも……行こう、幸子ちゃん……」

「……は、い……」

『ねえ、知ってる?』

『友達を探して旅を続ける死体の噂』

『知らないの?じゃあ教えてあげる』

『あのね……』

おしまい!

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