三船美優「桜の木」 (11)
アイドルマスターシンデレラガールズです。三船美優さんのお話です。
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「あれ、まだ帰ってなかったんですか?」
「はい。ちょっとだけレッスンの復習をしていようかなって」
「お仕事熱心なのはありがたいですけど、疲れも溜まってるでしょうし、ほどほどにしてくださいね」
「ありがとうございます、プロデューサーさん」
お仕事が終わってからわざわざ事務所に戻ってきたのには理由があります。
レッスンの復習や、明日以降の仕事の準備も理由の一つではありますけど、心さんや瑞樹さんのお誘いを断ってまで事務所に戻ってくるほど強い理由ではありません。
私が事務所まで戻ってきた本当の理由は……。
「今日はいつ頃終わりそうなんですか?」
「んー、そうですね。あと1~2時間ってとこですかね」
「プロデューサーさんもあまり無理しないでくださいね」
「はははっ。大丈夫ですよ。こう見えても俺って結構体力あるんで」
笑顔で力こぶを作るジェスチャーを見せてくれるプロデューサーさん。筋力と体力はあまり関係ないような気もするんですけど……。そこは黙っておきましょう。
「美優さんの方はどれくらいかかるんですか?」
「えっと……」
本当は今すぐにでも切り上げられるんですけど……ここはちょっとだけ嘘をついちゃっても良いですよね?
「私も1時間くらい……です」
「お、そうなんですか。じゃあ俺も頑張って終わらせるんで、一緒に帰りましょうか」
「はいっ……!」
そうなんです。私がお仕事終えてから事務所に戻って来た理由は、プロデューサーさんと一緒に帰りたかったからなんです。
「じゃあ、もうひと踏ん張りするかな……!」
プロデューサーさんは軽く自分の頬を叩くと、真剣な表情でまたパソコンと向き合い始めました。きっと私と一緒に帰るために集中して頑張ってくれるんだと思います。
「ふふっ……」
そう思うとなんだか嬉しくなってしまってついつい笑みが零れてしまいます。
こんな気持ちになるのは貴方と出会えたからですね。
資料を眺めるフリをしながら、プロデューサーさんの方をバレないように見ているこの時間はなんとも言えない幸福感に包まれている気がします。
アイドルとしてステージの上で輝くのも幸せですけど、私はみんなのアイドルよりもプロデューサーさんのアイドルになれた方がより幸せになれる気がします。
……もちろん口に何て出せないのですけども。
きっと、今の私は世界で一番幸せな女の子だと思います。
だって、こんなにも笑顔になれるんですから。
◆
「……あれ?」
どうやら、疲れが溜まっていたのは本当だったみたいで、ソファーに座っているうちに寝てしまったみたいです。
腕時計で時間を確認すると、どうやら私は2時間ほど寝ていたみたいです。
あたりを見回してみると、プロデューサーさんの姿は見当たらず、パソコンの電源も落とされていました。
……1時間で終わらせる、と頑張っていたので本当に1時間で終わらせてしまったみたいですね。
「毛布……」
重い身体を起こすと、私にかけられていた毛布が落ちてしまいました。普段、仮眠室に置いてある毛布とは違う物みたいなので、これはプロデューサーさんの私物でしょうか。
「……」
もう一度あたりをキョロキョロと見渡してみます。
私以外には誰も居ません。人の気配もしません。
「い、一度だけなら……ね?」
あまりお行儀が良いとは言えませんが、ちょっとだけ匂いを嗅いでみます。
「……ふふっ」
毛布からは私の匂いに混ざってプロデューサーさんの匂いがしました。とても安心する匂いです。
「……っ!?」
私が毛布の匂いを嗅いでいると給湯室の方から扉を開ける音が聞こえました。
「あ、おはようございます」
「お、おはようございます……」
音の主は湯気の立つマグカップを片手に持ったプロデューサーさんでした。
「顔赤いですけど、大丈夫ですか?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「春になったとはいえ、まだ夜は冷えますから、体調には気を付けてくださいね」
顔が赤いのは、今の姿を見られたのではと思って恥ずかしくなってしまったからなんですが、そんな事は言えないので大人しく「はい」と言って頷いておきました。
「あ、良ければ飲みますか? ……って口つけちゃってますけども」
「ありがとうございます。いただきます」
プロデューサーさんからマグカップを受け取ると中身はコーヒーでした。
「苦い……」
寝起きに飲むブラックコーヒーは苦くて、でもとても温かくて。普段ブラックコーヒーは飲まないので、こうしてプロデューサーさんと一緒の時だけ飲む特別な味です。
「砂糖とミルク持って来ましょうか?」
「大丈夫です。このままで平気ですから」
砂糖とミルクがないと飲めなかったのはいつの頃だったんでしょう。いつの間にかブラックコーヒーも飲めるようになっていて。
あまり成長した気がしませんが、やはり私は大人になったんだなって思います。
「お仕事の方はもういいんですか?」
パソコンの電源が落とされていますし、既に終わっているのでしょうけど念のために聞いておきます。
「はい。もう終わってますよ」
お仕事が終わって嬉しいのかニコニコした顔で言うプロデューサーさん。
「終わったなら起こしてくれればよかったのに……」
「美優さんの寝顔が可愛かったもので。起きるまで見てようかなって思ったんですよ」
「も、もう! プロデューサーさんっ!」
可愛いと言われて嬉しくないわけはないのですけども、寝顔を見られると言うのは恥ずかしいんです。
「はは……すみません。でも、美優さんの寝顔を眺めながらだと、仕事がはかどるんですよ」
「あぅ……」
この人は無意識で言っているのだろう。いつものと変わらない笑顔で言うので私はますます赤くなってしまいます。奈緒ちゃんが凛ちゃんと加蓮ちゃんにからかわれている時以上に真っ赤になってそうです。
私が赤くなりながらコーヒーを飲み干すのを見て、プロデューサーさんは「そろそろ帰りましょうか」と言ってきました。
「はい。じゃあマグカップ洗ってきますね。あと、毛布ありがとうございました」
「気にしないでください。美優さんに風邪引かせちゃったら心さん達にボコボコにされちゃいますんで」
「ふふっ……心さんならやりかねませんね」
「そういう事です」
◆
事務所を出ると冷やりとした空気に包まれました。
「やっぱりまだ夜は冷えますね」
すっかり春になったとは言え、朝晩はまだ冷え込みます。
「今年はなかなか暖かくなりませんでしたしね。そのお陰で今桜が満開ですけど」
プロデューサーさんと駅までの道を二人で歩いています。珍しく周りに人が居なくて二人きりの帰り道。
「今年は……お花見に行けそうにもないですね……」
ちょっと前はみんなでお花見に行く余裕もあったのですが、今年はお仕事がたくさんでお花見に行く余裕はなさそうです。
「……美優さん」
「はい?」
「まだ時間って大丈夫ですよね?」
「え、えぇ……大丈夫ですけど……」
私が返事をすると、プロデューサーさんは私の手を取って、ちょっとだけ歩くスピードを速めました。
「ぷ、プロデューサーさん、どちらへ……?」
プロデューサーさんは駅とは違う方向へ私を引っ張っていきます。街灯も人気もほとんどない路地裏の方へ。
プロデューサーさんは無言のままで、何か焦っているようにも感じられます。
私も内心ドキドキしながら無言のままで手を引かれるまま、されるがままです。
「着きましたよ」
赤くなる顔を誤魔化すために俯きながらプロデューサーさんの靴を見ながら歩いていたんですが、唐突にプロデューサーさんが足を止め私に声をかけました。
「え……? あ……」
プロデューサーさんの言葉に顔を上げてみると、そこには満開になった一本の桜の木がありました。
「きれい……」
月明りに照らされた桜の木は、とても神秘的で昼間に見る桜とはまた違った雰囲気です。
「今年は、事務所のみんなでお花見ってのは難しいんで……」
きっと気を遣ってくれたんだと思います。私がお花見に行けないなんて言ったから。
「夜も遅くてあんまり時間ない上に、俺と二人きりで申し訳ないですが……」
「いえ……ありがとうございます。私は……プロデューサーさんと二人で見られてとても嬉しいですよ」
こうして二人で手を繋いで見る桜は、今まで見て来たどんな桜よりも綺麗に見えました。
二人きりで見る桜だから、きっとこんなに綺麗なんだと思います。
End
以上です。
きっと美優さんを幸せに出来たはず……!
いよいよ明日から総選挙ですね。
私は去年と同じように心さんと奈緒の選挙活動頑張りたいと思います。今年は「目指せシンデレラガール!」ですからね!
問題は話のストックをほぼ去年で使い果たしてしまった事でしょうか。なんとか担当アイドルのために頑張っていきたいのですが……。
それはともかく、年に一度の総選挙。今年はデレステの楽曲選挙もありますし、また賑々しい時期がきましたね。
各々の担当アイドルがシンデレラガールになれるように、同僚の皆さま頑張っていきましょう。
では、お読み頂ければ幸いです。依頼出してきます。
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