【ヤンデレCD】ヤンデレロンパ~希望のヤンデレと絶望の兄~2スレ目 (673)


 やぁみんな!みんなのアイドル、モノクマだよ!

 このスレは、好評につき1000に到達した前スレ、

『ヤンデレロンパ ~希望のヤンデレと絶望の兄~』

http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1420985746

 の2スレ目だよ!

 いやぁ、人気者は辛いね!

 このSS速報VIPに、ボクに嫉妬するあまり他のスレにも迷惑かける、超高校級の絶望を生んじゃうなんてさ!

 全く、自分の才能が恐ろしいよ!これぞ、超絶望級の学園長ことモノクマの面目躍如ってやつだね!

 ま、寛容な心で許してやってね!どれもこれも、罪作りなボクの才能が故、なんだからさ!

 うぷぷ。それじゃ、絶望的な気分を味わってもらったところで、まずは前回のあらすじからいってみようか!



SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1491091582


 前回までのあらすじ

Act.0
 平凡な高校生であった主人公(オモヒトコウ)クンはある日突然、超高校級の主人公候補生としてコロシアイ強化合宿に参加させられることに!

Act.0.5
 平和な時間もつかの間、主人公クンは何者かの策によって超刺激物パスタを食べさせられ、あわや三途の川を見る羽目に!
 度を越えた悪戯を仕掛けたのは誰か?!ガッキュウサイバンカッコカリで明らかになる真相とは?!

Act.1
 ついに起きてしまった殺人事件!犯人は誰なのか?!()が外れた真の学級裁判の行方は?!
 クロへのおしおきが終わり、そこから繰り広げられる怒涛の展開とは?!


 詳しくは前スレを読んでね!

 それじゃ、頭モノタロウなオマエラにもわかるよう簡単なあらすじも終わったので!

 お待たせしました!本編再開です!シーンはクロへのおしおきが終わった直後から!

 ヤンデレロンパ ~希望のヤンデレと絶望の兄~、Re:アクション!



モノクマ
「エクストリィィィィィィィーム!アドレナリンがっ!五臓六腑にまで染み渡るゥゥゥゥ!」



 絶句。



ウメゾノ ミノル
「あばばばば あばばばばばば あばばばば あばばばばばば あばばばばばば」


マスタ イサム
「これ……、は……」



 これが、絶望。



ナナ
「きれいだわ。お花」


ノノ
「桜ってこうやって咲くんだね」


サクラノミヤ エリス
「ぁ……」


サクラノミヤ アリス
「ちょっ、慧梨主!しっかりしなさい!こんなところで気絶なんてしたら駄目よ!」



 そこには、希望なんて、欠片もなかった。






ノノハラ ナギサ
「あ、ああ、あぁ……」


コウモト アヤセ
「これって……、こんなのって……!」


ナナミヤ イオリ
「神よ……」


タカナシ ユメミ
「…………」


ユーミア
「何ということを……」


アサクラ トモエ
「う、うぅ……、ちょっと気持ち悪くなっちゃった……」



 ここに居る全員が、目の前で起きた凄惨な処刑に頭がついて行っていなかった。



ノノハラ レイ
「ねぇちょっとモノクマぁ。コートに返り血がかかったんですけどぉ。弁償してくれるぅ?」



 ――訂正。全員ではなく、約一名の異常者を除く。




ノノハラ レイ
「演出にこだわるのはいいけどさぁ、もうちょっと何とかならなかったの?これ
 皆絶望通り越してドン引きだよ?」


モノクマ
「えぇ……?長いこと学園長やってるけど、おしおきに駄目だし喰らったのは地味に初めてですよ……?
 あー、もう、わかったよ!シミ抜きはあとでちゃんとやっておくから!」


ノノハラ レイ
「皆の分もよろしくね?」


モノクマ
「十四人分も?!……わかった、わかりました!返り血が付いたオマエラの服は消灯時間中に責任をもって処理しておくから!」


オモヒト コウ
「おい、澪。一体何のつもりだ?」


ノノハラ レイ
「何の話?」


オモヒト コウ
「とぼけるな。なんてお前はそう平然としてられるんだよ!」


ノノハラ レイ
「どうして?逆に聞きたいんだけど、キミたちは見知らぬ他人が死んだってニュースを見て、『可哀想』以上の感情を抱くの?
 親や親友が死んだときと同じように泣けるって言うんだ?そりゃまた随分と感受性豊かなことで。
 まぁ、しばらく桜は見たくないっていうなら同感なんだけどさ」



 ……こいつは一体何を言っているんだ?
 いや、理解しようとするな。こいつがおかしいのは今に始まったことでもないだろうが。




オモヒト コウ
「柏木はお前のクラスメイトじゃなかったのか?
 あんな風に助けを求めていたのに、その手を振り払うとかどういう神経してるんだお前は?!」



 正直な話、こいつにはもう口を開いて欲しくなかった。
 コロシアイなんて関係なく、こんな奴は存在してはいけないと思いたくはない。
 これ以上こいつを野放しにすれば、きっとこれ以上の災難の元になる。



ノノハラ レイ
「カシワギ……?誰それ」


オモヒト コウ
「……は?」



 予想外のセリフに、俺も、澪を除いた誰しもが絶句していた。





ノノハラ レイ
「どうしてみんなしてそんな顔でボクを見るのかな?何かいいことでも言った?」


ノノハラ ナギサ
「お、お兄ちゃん……、同じクラスの柏木園子さんのこと、だよ?」


ノノハラ レイ
「え、そんな人いたっけ?」


コウモト アヤセ
「……可哀想。柏木さん、澪に忘れられちゃったんだ」


オモヒト コウ
「お、おい、ちょっと待て!忘れたってどういうことだよ!なんでついさっき目の前で殺された奴の事を忘れることが出来るんだ!」


ノノハラ レイ
「あー……、そう、なるほどね。そのカシワギって人は、たった今おしおきで死んだ人なんだ。
 えっとね、どう説明したらいいかな。ほら、ボクって記憶力いいじゃない。
 それっていいこともあるけど、やなことも多いんだよね。過去のことをいつまでも引き摺ったり、嫌な思い出が頻繁にフラッシュバックしたりさ。
 そんなストレスに苛まれるのは嫌だからさ、忘れるようにしてるんだ。意図的に」


オモヒト コウ
「意図的に……、って。そんなことできるわけないだろ!」


ノノハラ レイ
「できるよう訓練したんだよ。この記憶力とうまく向き合うためには、どうしても必要だからさ」


ユーミア
「……人間の脳はコンピュータと違って、メモリーの消去を容易く行うことはできません。
 少なくとも、近しい人間一人を、存在ごと丸々、意図的に忘却するなんて。
 一体どのような技術が必要だと思っているのですか?」


ノノハラ レイ
「ま、ちょっとした自己暗示の応用だよ。習得に結構時間かかっちゃったけど、慣れれば大したことないって」




ノノハラ レイ
「それにしても、そのカシワギって人?よっぽど酷い事しでかしたんだね。
 いくらその人のことを嫌いになっても、大抵の場合はその嫌いになった原因を忘れるっていうのに。
 その人の存在そのものを否定するってことは相当こっ酷く裏切られたんだろうね」



 ……もう、言葉が出ない。
 こいつは。
 俺の目の前にいる、野々原澪という存在は。
 本当に俺たちと同じ人間なのか?
 俺の目が正しければ、こいつはヒトのカタチをした、別のナニカなんじゃないのか?



マスタ イサム
「もういい、それ以上喋るな。ユーミア!」


ユーミア
「かしこまりました、マスター!」



 増田とユーミアが、澪を取り押さえにかかる。
 こんな危険な奴を野放しにしてはおけないと思っていたのは俺だけじゃなかったんだ。



ノノハラ レイ
「っとと、やめてよボクそんな喧嘩強くないんだからさぁ」



 澪は二人を寸でのところで、飄々と交わしていく。
 気が付けば、俺も参戦していた。こいつは一発殴っておかないと気が済まない。



オモヒト コウ
「おらァッ!」



 増田とユーミアに気を取られてがら空きになった顔面に、渾身の右ストレート。



ノノハラ レイ
「やだなぁ暴力は。怪我したら痛いじゃん」



 だというのに澪は、ミットでボールを受けるように、容易く拳を掴んで止めて見せた。
 まるで友達とじゃれ合っている小学生の様な、満面の笑みを浮かべて。
 すぐさま拳をはなして、距離をとる。一瞬反応が遅ければ、強烈な蹴りを脇に食らっていたはずだ。






オモヒト コウ
「お前は……、お前は一体何がしたんだ?お前の目的は一体何なんだよ?」


ノノハラ レイ
「目的……、ねぇ?前に言ってなかったっけ?ここでの生活を受け入れるべきだ、ってさ」



 確かに、こいつは初日からそう言っていた。
 最初は冗談か何かだと思っていたのに、こいつは本気でこのホテルに骨をうずめるつもりでいる。



ノノハラ レイ
「つまりはそういうことだよ。ここでの生活をより快適なものにするために、ボクはあくせく頑張っているんだ」


オモヒト コウ
「どこがだ!お前がやったことはコロシアイの誘発じゃないか!」


ノノハラ レイ
「だからさ、誤解なんだって。
 そりゃ、確かにそうなるように動いた面もあるけど、それは未然に防ぐことで誰も殺人を犯そうなんて考えないようにするつもりだったんだからさ」


オモヒト コウ
「防げてないからこうなったんだろ?!」


ノノハラ レイ
「いやぁ、耳が痛い話ではあるね。うん、次からは死人が出ないように頑張るよ」


オモヒト コウ
「この野郎!」


サクラノミヤ エリス
「もうやめてください!」





 慧梨主の声に、俺たち四人は固まった。



サクラノミヤ エリス
「どうしてそう争ってばっかりなんですか!
 こういう時こそみんなで力を合わせるべきじゃないんですか?!」


マスタ イサム
「そうは言うがな。むしろ力を合わせるべきだからこそ、足並みを乱すようなこいつは放っておけないんじゃないか」


ユーミア
「彼は……、間違いなく今後の生活の火種になります。
 少なくとも、ここでの生活を支配する為にマッチポンプを企てるような人ですから」


オモヒト コウ
「悪いが、こいつだけは一発殴っておかないと気が済まないんだ」


ウメゾノ ミノル
「それがモノクマの思うつぼだってわからない?
 見なよ。君等が醜い争いをしている様を、憎たらしく笑いながら見てるじゃないか」


モノクマ
「うぷぷ……。そうそう、こういうのが見たいんだよ。お前らが争えば争うほど、疑心暗鬼の根は深くなる。
 そうすれば今度はもっと簡単にコロシアイが起きるからね!ボクの目的は、絶望。それだけだもん!」





モノクマ
「口では綺麗事なんていくらでも言えるけど、本心はどうかなぁ?
 案外、慧梨主さんもコロシアイに乗り気なんじゃないの~?」


サクラノミヤ エリス
「そんなことありません!」


モノクマ
「さぁて、どうだかねぇ?虫も殺せませーん!みたいな清純派ぶってる娘ほど、簡単に殺人に走るんだよ!経験則からして!」


サクラノミヤ エリス
「うっ、ううっ……!」


ノノハラ レイ
「心配ないって。もう殺し合いなんて起こさせないからさ」


コウモト アヤセ
「どうして、そう言い切れるの?澪、貴方は何を考えているの?わからないよ……」


ノノハラ レイ
「ボクがここでの生活を支配しようとしているのはね、みんなもここでの生活を受け入れてほしいから、なんだよ」


コウモト アヤセ
「わたしたち、も?」


ノノハラ レイ
「そう。みんなが外の世界の未練を捨てて、ここでの生活を受け入れてもらうために、ボクはここをみんなの楽園にしたいんだ。
 ユートピアって言うのは、支配者によって徹底的に管理されて初めて成り立つものだからさ」





オモヒト コウ
「お前は……、お前はそのために、咲夜を犠牲にしたって言うのか?」


ノノハラ レイ
「正直ね、失敗だったと思うんだよ。彼女のケアを、キミに任せたのはさ」


オモヒト コウ
「何だと……?!」


ノノハラ レイ
「どうやら過大評価だったらしいね。そのせいで、多少やりすぎても君がフォローしてくれると思っちゃった。
 キミのことをちゃんと評価できていれば、ボクももっと安全策で行ったんだけどね」


オモヒト コウ
「言わせておけば……っ!」





マスタ イサム
「モノクマ……、それを操っている黒幕を差し置いて、ここでの生活を牛耳ることなんて本当に可能だと思っているのか?」


ノノハラ レイ
「そんなのやってみなけりゃわからないよ」


ナナミヤ イオリ
「支配なんて考えなくても、協力してここから脱出する方法を考えた方がよかったのでは?」


ノノハラ レイ
「それこそモノクマが真っ先に封じるでしょ。捕まえた獲物をわざわざ逃がす真似なんてボクなら絶対しないし。
 だから、外に出るためなら自分以外の全員を犠牲にしなけりゃならない。それがいやなら、ここで永遠に過ごすことを受け入れるしかないんだよ。
 かといって、ここに永住するよう説得するのは骨が折れるし時間もかかる。
 だから、絶対的な力による征服が必要なんだよ。手っ取り早いし」


アサクラ トモエ
「とんだ暴君だね。そういった人たちがどういう末路と辿ったかしらないわけじゃないんでしょ?」


ノノハラ レイ
「頭上に剣が吊り下げられてるのに、それに気を配らない方がおかしいよ。
 寝首を搔かれる側が鈍いだけなんだし。ボクはそんなに甘くないよ?」





ノノハラ ナギサ
「でも……、ここでの生活を受け入れるって……、どうすればいいの?」


ノノハラ レイ
「とても簡単な話だよ。――諦めればいいのさ」



 また、あの目だ。
 何もない、穴のような暗い目。



ノノハラ レイ
「将来の夢、好きな漫画やアニメの続編、学校生活、これまでの日常。
 何もかも全部諦めれば、ここでの生活を受け入れてしまえば」



 薄く笑みを浮かべた口から洩れるのは、毒。



ノノハラ レイ
「早くなれればなれるほど、――ボクらはきっと楽になれるよ」



 俺たちを堕落へと導く、甘い猛毒。





 一瞬か、それとも長い間なのか。時間の感覚が曖昧になる沈黙。
 このまま学級裁判がお開きになれば、再びあのホテルへ戻ることになるが……。
 どうしても、澪に確認しておきたいことがある。
 かと言って、これを追及すれば余計波紋が大きくなるかもしれない。
 どうする?するべきか?しないべきか?



|>澪を追及する
 澪を追及しない






オモヒト コウ
「……なぁ澪。一つだけ聞かせてくれないか」


ノノハラ レイ
「なんだい?スリーサイズ以外ならある程度は答えてあげるよ?」


オモヒト コウ
「……お前、柏木が犯人だって知ってたんじゃないか?」


ノノハラ レイ
「――どうしてそう思うのかな?」


オモヒト コウ
「咲夜の死体を発見したあの時、覚えてるよな?」



――回想――



ノノハラ レイ
『犯人も帰り道、テーブルにぶつかって初めて気づいたんじゃないかな。
 足跡はあそこで途切れてるし、拭き取ろうとしたのか形が大分ぼやけてたから』






オモヒト コウ
「あの血の足跡を見ただけで、なんで犯人がテーブルにぶつかった、なんて断言できるんだよ。まるで見てきたみたいじゃないか」


ノノハラ レイ
「途切れている場所的に見て、テーブルに進路を妨害されたことは容易に想像できるよ。
 そこから推察すればぶつかったんじゃないかと思うのは――、なんて、建前だけど。
 うん、そうだね。君の推理通りだよ。聞こえたんだ。オルトロスの死体を焼却炉へ運んだ帰り、誰かが食堂のテーブルにぶつかった音をね。
 短い悲鳴も聞こえたよ。当時はわからなかったけど、状況的に考えれば、それが犯人のものだと想像するのは簡単だよね?」


オモヒト コウ
「まだ白を切るのか?咲夜が殺されてから朝倉がドライヤーの音を聞くまで、まだ三十分もある。
 その間お前は一体何をしていたんだ?柏木と組んで、証拠隠滅でも図っていたんじゃないのか?」


ノノハラ レイ
「……さぁ?キミが勝手に想像するのは勝手だけれど、カシワギさんとやらはもう処刑されて、ボクはその人に関する記憶を思い出すつもりもないからさ。
 キミのそれを正解か不正解かを判断する材料なんてないんじゃないの?」


オモヒト コウ
「確かにないが、疑うには充分だろうが。もしこの疑いが真実なら、お前は当時柏木を庇おうと思っていたことになるんだろ?
 裁判中だって、途中までは柏木を庇っていたんじゃないのか?それを途中から突き放すような発言ばかりになって!
 なんでそんな風に柏木の気持ちを踏みにじることができる?!あいつはお前の仲間じゃなかったのか?!」



 感情が抑えきれなくなって、澪の襟元を掴みあげてしまう。
 人の心をそんな風に弄ぶような人間を、許せそうにないからだ。




ノノハラ レイ(CV:水橋かおり)
「なら咲夜さん(わたし)は仲間じゃなかったの……?」


オモヒト コウ
「なっ……?!」



 澪の口から紡がれたのは、咲夜の声だった。



ノノハラ レイ(CV:水橋かおり)
「どうして公(あなた)は咲夜さん(わたし)を殺したあの女を庇うの?
 咲夜さん(わたし)よりもあの女の方が大事だって言うの?」


オモヒト コウ
「違う!俺は……っ!」


ノノハラ レイ(CV:水橋かおり)
「咲夜さん(わたし)の事は仲間だと思ってなかったんでしょ?もしかして忘れてたの?
 どっちにしろ、公(あなた)にとって咲夜さん(わたし)はその程度の存在だったのよね?」



 咲夜の声で、嘲笑うように。
 顔そのものは澪のままでも、まるで咲夜本人が喋っていると錯覚してしまいそうなほどに、精巧な再現。



ノノハラ レイ
「まぁまぁ、仲良くしようよ。カシワギさんとやらを殺した、同じ穴の狢同士さ」



 固まった俺の手を振り払い、服を正しながら、自身の声で澪は言った。





オモヒト コウ
「同じ穴の狢……、だと?」


ノノハラ レイ
「だってそうでしょ?皆、自分の命惜しさに、クロに投票したんだよね?
 なら、手を下したのはモノクマでも、死なせたのはボクらだよ」



 できることなら違うと反論したかった。
 全部モノクマが悪いのだと。
 だが今更どういったところで、それは責任転嫁にしか聞こえない。



ノノハラ レイ
「無益な喧嘩はやめようよ。これからずっと一緒に暮らしていくんだからさ――、あれ?」






 その場から立ち去ろうとする澪の腕が、見えない手に引っ張られているように体の動きに取り残される。
 よく見れば、コートの袖が不自然に、線上に凹んでいる。
 それは、糸だ。極限まで細い、丈夫な糸が、澪を捉えていた。
 その糸を辿ると、朝倉の指先に繋がっている。



アサクラ トモエ
「残念だったね。剣を吊り下げている糸にも気を配らないと。自分で思っている以上に結構鈍いんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「朝倉……、そう、ははっ、アサクラ、阿鎖玖羅ね。そういう事」



 その糸が徐々に澪の体に絡まっていき、拘束していく。
 生殺与奪を朝倉に握られているというのに、澪はおとなしく笑っている。






ノハラ レイ
「じゃ、キミの頑張りに免じて、今日の所はおとなしく捕まっておいてあげる」


アサクラ トモエ
「……先輩、ちょっと運ぶの手伝ってくれる?」


マスタ イサム
「あぁ」


ノノハラ レイ
「あぁ、ちょっと、優しく運んでよ。これでも殺人を未然に防ごうとした一番の功労者なんだからさ」


マスタ イサム
「どの口が言うんだどの口が」


ユーミア
「口も塞いでおいた方がいいのかもしれませんね」


モノクマ
「うぷぷ。何だか面白い展開になってきましたね。
 お帰りの際はあちらのエレベーターに乗ってくださいね!」



 壁の一部が開くと、そこに小部屋があった。それがエレベーターなのだろう。
 っていうか、最初からこれに乗せてくれれば滑り台なんて必要なかったんじゃないか?





ノノハラ レイ
「あ、そうだ。どうしてもここから出たいって人に朗報だよ」



 全員がエレベーターに乗ったころ、澪が口を開いた。
 すかさずユーミアが塞ごうとするが、構わず爆弾を投下する。



ノノハラ レイ
「ボクはね、気づいたんだ。ある方法を使えば、この合宿から……、今だと最大七人が同時に脱出できるってことにさ」





マスタ イサム
「ちょっとまて、どういうことだそれは?!」


ノノハラ レイ
「教えてあーげない。取引にならないもんね」


オモヒト コウ
「取引、だと?」


ノノハラ レイ
「今なら大サービスだよ♪枠はあと四人分残ってるからさ。ボクに取り入るなら今の内なんじゃないかなぁ?」



 澪は悪戯が成功した子供のように無邪気に笑い、エレベーターは上昇を始める。
 コロシアイ強化合宿は、まだ始まったばかりに過ぎなかった。





  第一章

 ホテルぐらし!

   END





   生き残りメンバー
     14人



     To Be
    Continued







 プレゼント“園芸用スコップ”を獲得しました。


 プレゼントメニューで確認できます。





園芸用スコップ:第一章を生き延びた記憶。
        硬い石が混じっていることもある土を掘り返す道具。最初は突き刺す。







――や、やっと第一章が終わりましたね。


――ここまでで二年もかかってしまいましたが……、果たして完走できるのでしょうか……。


――何はともあれ、新スレに移行しましたが、これからもヤンデレロンパをよろしくお願いいたします。





 今日はオマエラに魔法の言葉をお教えしましょう。

 それは『CV:(任意の声優)』です。

 これがあるとあら不思議!その文章があたかもその声優さんが読み上げているようになるのです!

 どんなに予算がなくても大丈夫!声が特徴的な人なら、みんな想像で補ってくれるからね!

 その声優さんが絶対に言いそうにないセリフだっておかまいなしさ!

 ま、ボクほど愛くるしいキャラになってくると、どんなCVでも可愛さは損なわれないんだけどね!(CV:中田譲治)

 ん?何か声が変な感じ……?

 ま、いっか!バーイくまー!(CV:中田譲治)






 ……。



ノノハラ レイ
「ねぇ」



 …………。



ノノハラ レイ
「ねぇったらぁ」



 ………………。



ノノハラ レイ
「ねぇ、早く食べさせてよぉ~。綾瀬ぇ~」



 目の前には細い糸で雁字搦めにされてベッドに横たわってる澪。
 わたしの部屋で二人きり。
 どうしてこんなことになっちゃってるの……?
 ううん、わかっててる。ただ少し、もう少しでいいから、考える時間が欲しい。






――――


 学級裁判が終わって、エレベーターに乗ったわたしたちは、ホテルエスポワール二階の食堂前まで運ばれた。

 ここに繋がっているのなら、最初からこのエレベーターで裁判場まで運んでくれればよかったのに。

 なんてあの時は思いつきもしなかったし、口に出せる雰囲気でもなかった。

 時計は午後六時を指していて、食堂のテーブルには待ってましたと言っているような、出来立ての料理が並んでいて。

 この頭がおかしくなりそうな合宿にも慣れてきて、テーブルに並んだ豪勢な食事もいつも通りの光景だった。

 二人――綾小路さんと柏木さん――の席だった場所に、お皿もおいてないこと以外は。

 たったの一日。

 たったの一日で二人も死んじゃった。

 殺されちゃった。

 それが目の前で起きたはずなのに、まだ心のどこかで“これは現実じゃない”と思い込みたくなって。

 それなのに、鼓膜に残響してくる悲鳴が、鼻腔から消えない血の残り香が、網膜に焼き付いた飛沫が、現実逃避を許さない。






 ……澪の言う通りかもしれない。


 ここでの生活を受け入れてさえしまえば。澪に全てを委ねてしまえば。


 こんなに苦しい思いをしなくても済むのかもしれない。


 けど……、わたしは……。





オモヒト コウ
『……』


ナナミヤ イオリ
『どう……、でしたか?』


オモヒト コウ
『無くなってたよ……。血痕も、何もかも……。きれいに掃除されてた』



 主人君がキッチンから出てきて、その言葉から綾小路さんの死体が片づけられたことが知らされる。

 それはつまり、綾小路さんが確かに生きていたという最後の証さえも、無情に消されてしまったということ。

 ここでは、人の命は余りにも無価値だと、わたしたちは綾小路さんの死を悼むことも許されないのだと、思い知らされる。

 目の前に並べられている料理は、綾小路さんの死も、柏木さんの死も、忘れてしまえと言っているように、その存在感を放っていて。

 けど、直前にあんなものを見せられてしまったら、とても食欲なんてわかなかった。

 それが、薄くスライスされた生の肉なら、なおさら。




ノノハラ レイ
『へぇ~、桜肉なんて今日日珍しいねぇ。でもボク結構好きなんだよ』


アサクラ トモエ
『……いい加減その減らず口も縫い合わせた方がいいのかなぁ?』


ユーミア
『裁縫道具ならお貸ししましょう』


マスタ イサム
『流石に本気なら止めるが……、お前もいい加減空気を読め』



 朝倉さんに縛られ、増田君に担ぎ上げられている澪は、平常運転というか、自分の置かれている状況がまるで分っていない――。

 ううん、多分、分かった上で、というより、むしろ解っているからこそ、ああいう言動をしているんだ、と、思う……。

 本気で、ここでずっと暮らそうと思っているから。本気で、この合宿生活を、わたしたちを支配しようと思っているから。

 これが、澪の本性だって言うの……?こんなのが、本物の澪だっていうの……?

 わたしが知っている澪は、一体何だったの……?

 ううん、多分、どれも野々原澪本人なんだと思う。わたしはその一面しか知らなかっただけ。

 それなら、わたしがするべきことは……。
 






オモヒト コウ
『そいつは口塞いだって効かないだろ。縛り付けただけで無力化できたとも思えないしな。
 どこか適当なところに隔離した方がいいんじゃないか?』


タカナシ ユメミ
『そうだよね!あんなのがお兄ちゃんの周りに居たら迷惑だもん!』


ウメゾノ ミノル
『隔離するったって……、どこにさ?』


サクラノミヤ アリス
『倉庫なんておあつらえ向きなんじゃない?』


サクラノミヤ エリス
『それは流石に可愛そうなんじゃ……』


ノノハラ ナギサ
『お兄ちゃんが病気になったらどうするの?!』


ナナ
『むしろ弱らせるべきなんじゃないかしら……』


ノノ
『今のままだと強すぎるもんねー』






コウモト アヤセ
『――わたしが見張る』


ナナミヤ イオリ
『河本さん?』


コウモト アヤセ
『わたしはこのまま澪を放ってはおけないけど……、みんなが澪と一緒に居たくないっていう気持ちもわかる。
 だから、隔離には賛成する。でも、このままじゃ澪のお世話が必要でしょ?一度わたしの部屋に、わたしごと閉じ込めてくれない?』


ノノハラ ナギサ
『綾瀬さん?!』


ノノハラ レイ
『……いや、それは流石に駄目だよ、綾瀬』


コウモト アヤセ
『どうして?そうやって縛られてるなら、あなたがわたしに手を出すなんてことはないから、風紀的には問題ないでしょ?
 二人きりの密室じゃどちらかが殺されたらもう片方に疑いがかかるのは当然なんだし、それが解りきってるから事件なんて起きようがない。違う?』




ノノハラ レイ
『ボクが言ってるのはそう言うことじゃなくてさ……!』


オモヒト コウ
『そうだな。そうした方がいいかもしれない』


ナナミヤ イオリ
『いいんですか?野々原君と河本さんは幼馴染なんでしょう?』


オモヒト コウ
『だからこそ、だ。河本も自分のせいで一緒に監禁される羽目になるって言うなら、澪だって懲りるだろ。
 澪に人間らしい感性が残っていれば、の話だがな。
 それに、もし監禁して体調を崩されてみろ。それで死なれでもしたら、誰がクロになるんだ?』


タカナシ ユメミ
『あ、そっか。こんな奴は別に死んでも構わないけど、そういう事なら死なれちゃ困るもんね。
 それで監視役がいるけど、そんなの誰もやりたがらないし。進んでやってくれるならそれでいいよね』



 ちょっと夢見ちゃんの言い方は引っかかるけど、概ねその通りだ。

 これは、わたしができる最大限の譲歩。

 これ以上、澪を追い詰めてほしくない。少なくとも表面上は、皆のために行動していた澪を、これ以上責めて欲しくなかった。



――――


 そんなやり取りがあったから、澪がわたしの部屋に運ばれて、わたしが二人分の食事を部屋に持ち込んで、鍵である電子生徒手帳を渚ちゃんに預ける。

 更に、部屋の中と外からつっかえ棒代わりに、食堂の椅子の背もたれをドアノブにひっかけるように立てかけて固定する。

 廊下側の椅子は、何があっても消灯時間中は外さないよう取り決めたから、これで今晩はずっとこの部屋で澪と二人っきり。

 本当なら、すごくうれしいシチュエーションの筈なのに……。

 本当に、どうしてこうなっちゃったんだろ……。



ノノハラ レイ
「ねぇねぇ。ねぇってばさ。綾瀬さん?聞こえてますぅ?ねぇ?もしも~し?」



 澪は二人っきりになったとみるや途端に子供みたいに催促しだすし。



コウモト アヤセ
「はいはい、分かってるから急かさないの」



 とりあえず、今はこの手のかかる幼馴染を頑張ってあやせばいいのかなぁ……?






     第二章


ノーマーダー・ノーライフ


    (非)日常編




――短めですが、第二章の導入が終わったところで本日はここまで。


――特にこれと言った理由もなく視点が変わりましたが、それが何を意味するかはご想像にお任せいたします。





 澪の食事が終わって、口の周りを優しく拭う。
 うん、綺麗になったかな。食べこぼしもないし。
 食べてすぐ……っていうか、寝ながら食べるのはどうかとは思ったけど。



コウモト アヤセ
「……ねぇ、澪。ちょっと聞きたいことがあるんだけど、いい?」


ノノハラ レイ
「人が食べ終わって早々、何を聞きたいっていうのさ」


コウモト アヤセ
「澪は、まだ諦めてないんでしょ?この合宿生活を支配すること」


ノノハラ レイ
「当たり前じゃない。でなきゃ、交渉の提案なんてしないよ」


コウモト アヤセ
「でも、ここから出ることも諦めきれてない。外の世界に未練を捨てきれていない。そうでしょ?」


ノノハラ レイ
「……なんでそう思うのかな。いや、あの提案から察することもできるだろうけどさ」


コウモト アヤセ
「何年あなたの隣にいると思ってるの?あなたが何を考えているかは、目を見ればわかるわ」






ノノハラ レイ
「――敵わないなぁ、綾瀬には。うん、そうだよ。外の世界で、やり残したことはある。
 ここから脱出できなきゃ叶えられない、どうしても果たしたい夢が、ね」


コウモト アヤセ
「でもそれって矛盾してない?」


ノノハラ レイ
「……モノクマが提示した、ここから出られる条件を覚えてる?」


コウモト アヤセ
「コロシアイでクロになって……、学級裁判でシロをだまし切って生き残ること、だよね?」


ノノハラ レイ
「確かに、それが最も手っ取り早い方法だけど……、それは精確な正解じゃないね」






――――



モノクマ
『オマエラには招待状にも書いてある通り、 これから希望ヶ峰学園の生徒として相応しくなってもらうための強化合宿に参加してもらいます!
 期限は一生!学園長ことこのモノクマが、オマエラを希望ヶ峰学園の生徒として相応しい人物になったと判断するまでずっとです!』



――――




ノノハラ レイ
「つまりさ、ボクらが希望ヶ峰学園の生徒として相応しい人物になりさえすれば、コロシアイなんてしなくてもここから出られるってことなんじゃないかな」


コウモト アヤセ
「それは確かに、そうかもしれないけど……、それって結局、モノクマのさじ加減一つでしょ?
 わたしたちにコロシアイを強要しているなら、どんなに頑張ったって難癖付けられて結局出られないんじゃない?」


ノノハラ レイ
「デスゲームのゲームマスターであるモノクマが、コロシアイ以外に出られる条件を提示したってことは、何らかの意味がそこにはあるはずなんだよ。
 ボクらにコロシアイを強要したうえで、取り返しのつかない状況になった時、真実を明かせば、それはこれ以上ないくらいの“絶望”だよね。
 きっとその時モノクマはこういうんだ――」





『ボクは最初から言ったよね?条件を満たせばここから出られるって。
 この条件を満たせばコロシアイなんて必要なかったっていうのにオマエラと来たら!
 ぶひゃひゃひゃひゃ!』





ノノハラ レイ
「――ってさ。ヒントが目の前にあるのに、それに気づかないでコロシアイを始めてるボクらを嘲笑うつもりなんだぜ、きっと」


コウモト アヤセ
「ひょっとして澪がこの合宿生活を支配しようとしているのは、その満たすべき条件が何なのか探るためなの?」


ノノハラ レイ
「それもあるよ。だからここでの生活を受け入れることとここから出ることは矛盾しないんだ。
 希望的観測で言うなら、全員がここから出られるからさ」


コウモト アヤセ
「それはそうかもしれないけど……、勝算はあるの?」


ノノハラ レイ
「なけりゃ豪語しないよ」


コウモト アヤセ
「嘘……、じゃないけど、本当のことでもないよね?
 じゃなきゃ、皆に交渉なんて持ち掛けないもんね?」



 人数を制限して、自分に取り入る人間を集めようなんて、みんなで脱出しようと考えている人が考えることじゃないし。





ノノハラ レイ
「……そうだね。必ず勝てるってわけでもないからさ。保険はうっておこうと思って」


コウモト アヤセ
「わたしは澪のやることに口出しはしないけど……、相談くらいはしてもいいのよ?」


ノノハラ レイ
「……うん。どうしようもなくなった時は、必ず、ね」



 わたしは澪さえいればいい。
 澪が隣にいてくれれば、わたしはここから脱出できなくったって構わない。
 澪の提案、最大七人が脱出できて、その枠が残り四人ってことは、澪と私と、ついでに渚ちゃんは確定って事でいいと思うし。
 澪がどんな決断をしたって、わたしが隣にいるのなら、わたしはそれで満足だから。





ノノハラ レイ
「……あ」


コウモト アヤセ
「どうしたの?」


ノノハラ レイ
「どうやらボクは大変なことに気付いてしまったらしい。取り返しのつかない見落としをしていたよ!」


コウモト アヤセ
「えっ、ちょっと、それってどういうこと?!」


ノノハラ レイ
「こんな重大なことに今まで気が付かないなんて……、くそっ!」


コウモト アヤセ
「何?! 何があったの?!」






ノノハラ レイ
「――この状態じゃ服が脱げないじゃん!」






コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……いやさ、このコートも汚れちゃったしさ、モノクマに汚れ落とすように頼んじゃった手前それを反故にするのはどうかと思うんだよ」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「それに服を着たままお風呂入るわけにはいかないし……、寝るときはパジャマに着替えておきたいし……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「あのー、ね? だからさ、その、真顔で沈黙はやめてくれないかなぁ?」


コウモト アヤセ
「……はぁ」



 たまに、本当にたまに、ついていけなくなっちゃうときがあるのが玉に瑕っていうか……。
 濡れタオルで拭いておけばいいかなぁ……。
 役得と言えば役得なんだけど……、正直素直に喜べないよ……。





――「キーン、コーン…カーン、コーン…」



モノクマ
「えー、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。ただいま午後9時50分になりました。間もなく消灯時間です。
 消灯時間を過ぎると個室以外の暖房が切られるので、温かいままでいたいなら速やかに個室に戻ってください。
 部屋はオートロックなので、鍵になる電子生徒手帳は忘れずに。では、おやすみなさい」






 澪の体を拭いた後、色々と時間を潰していると、もう聞きなれたアナウンスが聞こえてきた。



コウモト アヤセ
「あ、もうそんな時間なんだ」


ノノハラ レイ
「縛られてるボクとしてはまだそんな時間なんだ、なんだけどね」


コウモト アヤセ
「……澪のことだから何だか白々しく聞こえるんだけど?」


ノノハラ レイ
「ひどいや。何を根拠に」


コウモト アヤセ
「今日の所は捕まっておいてあげる、だったっけ? じゃぁ、日付が変われば問題ないって言って、もう抜け出す準備とか出来てるんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「うーん、それも考えたは考えたんだけど、みんなの様子を見る限り縛られたままの方が得策かなと」


コウモト アヤセ
「色々と楽が出来るから?」


ノノハラ レイ
「うん、大正解。このまま綾瀬に甘え続けるのもいいかなーって、思いはじめてもいるんだなぁ」


コウモト アヤセ
「……ま、まぁ、悪い気はしない……、けど……。
 でもダメだからね、そのままじゃ。明日、巴ちゃんにかけあって拘束は外してもらうようにするから」


ノノハラ レイ
「えぇー?」


コウモト アヤセ
「すねたってダメよ。ほら、もう寝ないと」






ノノハラ レイ
「むぅー……、え、ちょっと待って」


コウモト アヤセ
「どうしたの?」


ノノハラ レイ
「一応聞いておきたいんだけど、綾瀬は何処で寝るつもりなの?」


コウモト アヤセ
「何処って、ベッドだけど?」


ノノハラ レイ
「だよねぇ。じゃぁさ、ボクは何処で寝ればいいんだい?」


コウモト アヤセ
「ベッドでしょ?」





ノノハラ レイ
「いやいやいやいや、落ち着きなって。このベッドシングルサイズじゃん。二人だと狭いよ?」


コウモト アヤセ
「抱き合って寝ればいいんじゃない?」


ノノハラ レイ
「待って、ホントマジで待って。この状態でそのシチュエーションは流石に、ね?ヤバいでしょ?」


コウモト アヤセ
「大丈夫! わたしは気にしないから!」


ノノハラ レイ
「ボクが気にするの!」


コウモト アヤセ
「澪は、私と一緒に寝るの、嫌?」


ノノハラ レイ
「……ずるいと思うよ。そんな答えが分かりきってる質問あえてしてくるなんて」


コウモト アヤセ
「じゃぁ、問題ないわね?」






 ……なんて、軽く誘ってみたのはいいけど。

 どうしよう、思いのほかすごく大胆なことしちゃったんじゃない?!

 鼓動がすごく早くなってるし、顔も熱いし、振り返ってみるとすごく恥ずかしいこと言っちゃってないかなぁ?!

 明かりを消すと余計近くにいる澪が感じとれるようになって、すごく、その、恥ずかしい!

 どうしよう! こんな状態じゃ眠れないし、澪に気付かれちゃうよ!





ノノハラ レイ
「……ねぇ、綾瀬。まだ、起きてる?」


コウモト アヤセ
「う、うん。まだ、起きてる、よ?」



 ば、ばれてない、よね?
 今更になってすごく緊張してるとか、いろいろと!



ノノハラ レイ
「――懐かしいよね。こうやって二人一緒に寝るのって」


コウモト アヤセ
「……うん」



 そう言われてみれば、こうして澪と一緒に寝たのって、どれくらい前の事だったんだろう。



コウモト アヤセ
「昔は一緒に遊んでたし、一緒のお箸とか使ってたよね」


ノノハラ レイ
「懐かしいなぁ。お医者さんごっことかしてたよね。あ、そうだ。一緒にお風呂も入ってたっけ?」


コウモト アヤセ
「もう、澪ったら。そういう事ばっかり思い出しちゃって」


ノノハラ レイ
「こういう状況に持ってきた綾瀬が言えることじゃないでしょ」


コウモト アヤセ
「そ、それは言わないでよ!」





コウモト アヤセ
「……でも、いつからかな。一緒に遊ばなくなったのは」


ノノハラ レイ
「中学校に入るちょっと前ぐらいだったと思うけど」


コウモト アヤセ
「昔は泣き虫だったあなたが、わたしに守られることも無くなって……。
 背もいつの間にか抜かれちゃって、だんだん、あなたが遠くに行っちゃうような気がして……」


ノノハラ レイ
「……いつまでも守られてばっかりじゃいられない、って思ったからね。
 頑張ったんだよ? 綾瀬を守れるくらい強くなれるように、さ」


コウモト アヤセ
「それは嬉しいけど……、あの時の澪ったら、そんなこと全然言ってくれなかったじゃない。
 わたし、ちょっとだけ寂しかった」


ノノハラ レイ
「それは……、その、ごめん」


コウモト アヤセ
「うぅん。今はね、こうしているだけでも幸せなの。
 最初はね? 希望ヶ峰学園に入学することになって、このままあなたと離れ離れになっちゃったらどうしよう、って思ってた。
 けど、すぐにあなたが来てくれて、あなたと一緒なら、って思ったの」


ノノハラ レイ
「綾瀬……」





コウモト アヤセ
「わたしは、あなたの事が好き。大好き。あなたの為なら、何でもするわ?」


ノノハラ レイ
「……やっぱりずるいよ、綾瀬は。ボクが言いたいセリフ先に言っちゃうんだもん」



 ――結局、わたし達は朝まで語らい続けた。






――「キーン、コーン…カーン、コーン…」



モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
 さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ~!」






コウモト アヤセ
「あ……、もうこんな時間……」


ノノハラ レイ
「うん……、みたい、だね」


コウモト アヤセ
「どうしよっか?」


ノノハラ レイ
「どうするもなにも、ボクはこの状態じゃ何もできないし……、とりあえず綾瀬は外に出してもらって、朝食じゃないかな。
 その帰りに、ボクの朝食持って来てくれればいいからさ」


コウモト アヤセ
「……うん、そうだね。流石に澪をこのまま持ち運ぶわけにもいかないもんね!」


ノノハラ レイ
「素直に言ってくれていいんだよ。ボクが食堂に行けば、確実に空気が悪くなるってさ。
 ボクは気にしないから、遠慮せず行っておいで」


コウモト アヤセ
「……うん」


ノノハラ レイ
「ボクは二度寝するからさ!」


コウモト アヤセ
「ちょっと!」


ノノハラ レイ
「ははっ、冗談だよ、冗談。ほら、早く行っておいで」


コウモト アヤセ
「もう……。いってきます」


ノノハラ レイ
「いってらっしゃい♪」





コウモト アヤセ
「おはよう、渚ちゃん」
ノノハラ ナギサ
「……おはよう、ございます」



 あれ、ちょっと機嫌悪い?



ノノハラ ナギサ
「これ、返しますね」



 突き放すようにわたしの電子生徒手帳を押し付けて、渚ちゃんはそそくさとエレベーターへ向かってしまった。
 ……ちょっと渚ちゃんには悪いことしちゃったかな。
 なんだか不安だけど……、今は食堂に向かうべきかな?





 食堂に着いた……、のはいいけど……。
 なんか、凄い視線を感じるなぁ……。
 こう、最後に食堂に到着したのとは別の注目を浴びてる気が……。
 ううん、気のせい気のせい!





 一応覚悟はしていたんだけど、つつがなく朝食が終わって少し拍子抜けしちゃったのは内緒。
 ……だったんだけど、ちょうどみんなが食べ終わるくらいに、エレベーターがこの階に止まった音が聞こえる。
 すごく、とてもすごく嫌な予感がするなー……。






ノノハラ レイ
「やあ皆、おはよう」



 なんで普通に来ちゃってるのかなぁ?
 どうやって拘束を解いたんだとか、さっき食堂には来ない感じだしてたじゃんとか、いろいろ言いたいことがありすぎて、もう呆れるしかないんじゃない?





ノノハラ レイ
「あー、うんいやね、キミたちの言いたいことはよぉく解かるよ。でも仕方ないじゃん。
 重大発表があるからってこの綿埃が言うからさ」



 モノクマの頭を鷲掴みにして皆の前につるし上げるとか、ちょっともう何考えてるのかわからないんですけど。



モノクマ
「綿埃とは何さ!っていうかいい加減離してよ!」


ノノハラ レイ
「ほい」


モノクマ
「うわぁ!」



 ひゅー、どすん。みたいに、モノクマは落とされて、ヌイグルミとは思えない重量感のある音を立てる。



モノクマ
「こら!学園長ことモノクマへの暴力は規則違反だぞ!」


ノノハラ レイ
「これは暴力じゃないよ。キミをここまで運んでやっただけじゃない。
 むしろ滂沱の涙を流し、土下座して靴を舐めながら感謝の意を述べるべきだよ」


モノクマ
「何という上から目線!? ボクは学園長なんだぞ! 一番偉い先生なんだぞ!」


ノノハラ レイ
「え? 先生って生徒にパシられるのが生きがいみたいなものじゃないの?」


コウモト アヤセ
「澪、それは流石におかしいから」



 いつにもまして暴走してるなー、澪。
 どうしよう、ブレーキかけられるかなぁ?







オモヒト コウ
「……それで? 茶番はそこまでにして、はやく本題に入れよ。重大発表とやらは?」


モノクマ
「オマエラ先生に対するリスペクトが足りないぞ!
 あーもう! わかったよ! どーせさっさと言えって言うんでしょ?! じゃぁ用件だけ言ってとっとこ消えてやるもんね!」






モノクマ
「新しいエリアを解放しました! じゃ、バーイクマー!」



 ……本当に言うだけ言って帰っちゃった。



マスタ イサム
「各々言いたいことはあるだろうが……、今のところは我慢して、全員で手分けしてその新エリアとやらを探すぞ。いいな?」



 増田君の気迫も相まって、ここは澪を含めたみんなで調査することになった。





――本日はここまでとなります。


――完結目指して頑張っておりますので、応援のほど、よろしくお願い致します。






 調査はいつも通り二人一組で行うことになって、わたしの相手は澪。
 昨日からの流れを踏めば、いたって自然、なのかな。



コウモト アヤセ
「ねぇ、澪。どう思う?」


ノノハラ レイ
「新エリア解放の理由かい? 簡単な話だと思うけどね。
 皆が活動する範囲が増えれば、それだけ人目に付かない場所――つまり、トリックを仕込みやすい場所が増えるわけで……。
 あとは、トリックに組み込みやすい舞台装置とか……」


コウモト アヤセ
「やっぱり、そう思う?」


ノノハラ レイ
「それ以外考えられないよ。まさかあの悪趣味なヌイグルミ未満がボクらを喜ばせるためだけにこんな大掛かりなことしないだろうし」



 つまりこれは、モノクマがわたし達にまだコロシアイが終わっていないことを暗に伝えている、ということ。




コウモト アヤセ
「澪の探している物も見つかるのかな?」


ノノハラ レイ
「どうだろうね。むしろ最初からこのホテルにあるとは思うんだけど……。
 まだ見つかっていない現状を鑑みると、新エリアにヒントがあるかもしれない」


コウモト アヤセ
「だと良いんだけど……。
 そういえば、新エリアってなんだろう?」


ノノハラ レイ
「このホテル、目の前にゲレンデがあるけどさ、リフトは稼働してなかったよね」


コウモト アヤセ
「位置も遠いしね。誰も上には登ってないんだっけ?」


ノノハラ レイ
「そのはずだよ。新雪が深くて足を取られるし、ラッセル訓練の要領でも登りきるまで体力がもたないしで、初日に挑戦した人は皆序盤でリタイアしたんじゃないかな」


コウモト アヤセ
「増田君でも?」


ノノハラ レイ
「むしろ彼は雪崩を警戒したみたい。夜は猛吹雪で昼間は快晴っていうのは表層雪崩が起きやすい条件が整っているんじゃないかって。
 それ以来ゲレンデを踏破しようとする猛者はいなくなったと思うよ」


コウモト アヤセ
「ナナちゃんとノノちゃんがずっと雪合戦してるの見たんだけど」


ノノハラ レイ
「あれはただ純粋に遊んでるだけだよ、多分」



 あの二人、本当に高校生なのかな……?
 ひょっとして、“候補生”ってそういう意味も含んでたりするの?
 じゃぁ、まさか、その条件って――





ノノハラ レイ
「どうしたの? そんな怖い顔して」


コウモト アヤセ
「その、ね? ひょっとしたら、ここから出られるのは何年か後になるんじゃないかって……」


ノノハラ レイ
「ま、ずっと平和に過ごしていればさしものモノクマも飽きるだろうけど……。そういう意味じゃないっぽいね」


コウモト アヤセ
「あのね、これはただのわたしの思いつきだから、間違ってると思ったら否定してほしいんだけど……。
 ナナちゃんとノノちゃんが超高校級の双子“候補生”なのは、あの二人がまだ高校生じゃないからってことなんじゃないかと思って」


ノノハラ レイ
「……なるほど。だから、あの二人が高校生になるまで年を取らないとボクらも出られない、と。
 安心していいんじゃないかな。多分それはないと思う」


コウモト アヤセ
「どうして?」


ノノハラ レイ
「考えてもみなよ。どう見たって小学校高学年から中学一年生ぐらいのあの二人が高校生になるまで待ってたら、今度はボクらが高校生じゃなくなっちゃうじゃない。
 希望ヶ峰学園の入学資格には現役の高校生であることも含まれてるんだよ?」


コウモト アヤセ
「じゃぁなんであの二人はここに居るの?」


ノノハラ レイ
「さぁ? ボクはモノクマじゃないからわからないし、モノクマがそんなこと応えてくれるとは思えないし。
 確かに時間経過が鍵だという考え方もあるけど、年単位ではないと思う」





コウモト アヤセ
「……そっか。ゴメンね? 話を遮っちゃって」


ノノハラ レイ
「いいよ。えーっと、そうそう、ゲレンデはあるのにリフトが動いてないって話だったね。
 新エリアって言うのは、そのリフトに乗って移動した先にあるんじゃないかって」


コウモト アヤセ
「えーっと、っていうことは、脱出とは関係ないんじゃ……」


ノノハラ レイ
「どうかな? 脱出への道のりが下山する方向にあるとは限らない。回り道も必要なんじゃないかな?」


コウモト アヤセ
「……本当にそう考えてる?」


ノノハラ レイ
「はは、ちょっと自信ないや。
 でもまぁ、あのモノクマのことだし、真っすぐ行っても勝てやしないよ。裏の裏の裏をかくぐらいしないと」


オモヒト コウ
「おいお前ら、サボって何話してるんだ」


ノノハラ レイ
「おっといけない、退散しようぜ」


コウモト アヤセ
「あ、ちょっと、待ってよ!」





 澪を追った先は、リフト乗り場だった。
 ゴンドラリフトそのものは動いていないけど、封鎖は解かれているみたい。



コウモト アヤセ
「……澪の予想通りだったね」


ノノハラ レイ
「いや、予想したボク自身が言うのもアレだけど、ここまで一致すると流石に軽く引く」


コウモト アヤセ
「でもこれどうやって動かすんだろう? こういうのって普通は係員の人が管理してるんだよね?」


ノノハラ レイ
「管制室みたいなところもないし……、モノクマが動かすってわけでもないみたいだし、ねぇ。
 多分ボクらが自力で何とかできるぐらいに簡便化されているはずだとは思うけど」


コウモト アヤセ
「じゃぁ、ここを調べてみれば操作の仕方も分かるかもしれないってこと?」


ノノハラ レイ
「うん。マニュアルがどこかにあるはずだよ。そんなに広くないし、すぐ見つかるんじゃないかな」






 乗り場にあるゴンドラリフトは一つだけ。
 大きさは……、どうだろう、結構大きいのかな。二十人弱ぐらいは乗れそう。
 白と黒の半々なんていう嫌でもモノクマを連想するデザインはちょっとアレだけど。
 ゴンドラのドアは開いているから、一応乗ることもできるけど、動かないんじゃ意味はないよね。



ノノハラ レイ
「あ、これかな」


 澪はゴンドラに乗り込んで、中を探していたみたい。
 確認する為に、わたしもゴンドラの中に入る。






コウモト アヤセ
「見つけたの?」


ノノハラ レイ
「うん。どうやら、このゴンドラに乗り込んでドアを閉めると、自動で運転してくれるみたいだね」


コウモト アヤセ
「あ、これだね」


ノノハラ レイ
「え、ちょっ、待って――」



 ドアの取っ手に手をかけると、ドアはあっさりとスライドしていく。
 もっと力がいると思っていたけど、誰でも使えるようにしているのかな。






コウモト アヤセ
「あ、ホントだ。動いたよ、澪!」


ノノハラ レイ
「うん、そうだね。けどさ、これ他の皆呼ばなくてよかったの?」


コウモト アヤセ
「あ」



 一台しかないゴンドラを私たち二人で使っちゃったら他のみんなが上に行けないじゃない!



コウモト アヤセ
「ど、どうしよう……!」


ノノハラ レイ
「……まぁ、こういうのって反対側と連動してるから、向こう側にも一台あるはずだよ。
 ボクらが向こうに着くころに、もう一台はこっちに着いてるんじゃないかな」


コウモト アヤセ
「あ、そっか。じゃぁ一応皆にこれのことを知らせて、乗ってもらえば問題ないって事ね」


ノノハラ レイ
「それに、何人かはもう向こうに行っているのかもしれないし。
 何があるかはついてからのお楽しみだけど」





『ゴンドラリフトについて
 ・当機の定員は16名となっております。それ以上の重量を検知するとブザーが鳴りますのでご注意ください。
 ・誰かがドアに乗った状態でドアが閉まると運転が開始されます。巻き込みには充分ご注意ください。
 ・乗り場に到着すると自動でドアが開きます。巻き込みには十分ご注意ください。
 ・出発から到着までの所要時間は10分です。
 ・当機の搭乗可能時間は6:00~23:00となっております。23:00~翌6:00は搭乗されても運転できませんのでご注意ください。』



 澪が見つけたゴンドラの操作方法は、ドアの淵にシールで貼られていたものだった。
 わたしがこの注意書きを呼んでいる間にもゴンドラは上へ上へと昇っていく。


 窓からは、これがコロシアイでなければ最高の景色が見える。
 澄んだ空、白いゲレンデ、遠くに見える峰や麓。


 わたし達が泊まっているホテルが遠く、小さくなっていく。
 わたし達を閉じ込めている壁も、今なら軽く飛び越えられそうに見えるくらいだ。






ノノハラ レイ
「……どうやら、かなり広い範囲を壁で覆ってるみたいだね。
 この分だとこのリフトが到着する先も壁の中かもしれない」


コウモト アヤセ
「解るの?」


ノノハラ レイ
「流石に増田クンには劣るけど、ボクも目はいい方だから。
 こりゃ壁の脆い部分を探すのは非現実的かな?」


コウモト アヤセ
「それはもう諦めてたんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「梅園クンから聞いたんだけどね、一度仕掛けがないことを確認させてから直前に種を仕込むのはマジックの常道らしいんだ。
 だから、壁を抜けて脱出することは不可能と思わせておいて実は……、とか思ってたんだけど。
 流石にこんなに広い範囲を詳しく調べる気にはなれないかなって」


コウモト アヤセ
「そっか。でも、これから行くところにヒントくらいはあるんじゃない?」


ノノハラ レイ
「だと、うれしいね」






 しばらくして、リフト乗り場が見え始める。
 ゴンドラは徐々に減速して、やがて停止した。
 ドアが音もなくゆっくりと開く。



ノノハラ レイ
「到着っと。綾瀬、足元に気を付けてね。段差あるから」


コウモト アヤセ
「うん、ありがと」



 澪が私の手を取って、エスコートしてくれる。
 こういうことを自然にやってくれるから、好き。






 リフト乗り場を出ると、エスポワールよりも少し小さい洋館が見えた。
 あれが本当の新エリアって事かな。



ノノハラ レイ
「これも宿泊施設なのかな」


コウモト アヤセ
「そうじゃない? 定礎って書いてあるプレートの上に、名前と家紋が彫ってあるみたいだし」



 名前の方は『ἐλπίς』でそもそも何語で書かれているかもわからないし、家紋の方は綾小路家のじゃないってことがわかるだけで。
 でも家紋がユニコーンに地球儀って、ちょっと現代的すぎない?






ノノハラ レイ
「……ふーん? そういうこと」


コウモト アヤセ
「え、何か分かったの?」


ノノハラ レイ
「多分、これはホテルエスポワールの姉妹館……、別館ってやつじゃないかな」


コウモト アヤセ
「どうしてそんなこと、名前を見ただけでわかるの? っていうか、あれなんて書いてあるの?」


ノノハラ レイ
「古代ギリシャ語でエルピスって書かれてあるんだよ。日本語に訳すと、希望や予兆になる」


コウモト アヤセ
「あ、そっか。エスポワールはフランス語で希望って意味だったもんね。
 名前が同じ希望だから、姉妹館って言えるんだ」






ノノハラ レイ
「ついでに、あの家紋が何処の物なのかもボクは知ってるんだよね」


コウモト アヤセ
「えっ、そうなの?」


ノノハラ レイ
「うん。……でも、だとすると、ボクらはとんでもない相手と戦わなくちゃならなくなるかもしれない」


コウモト アヤセ
「どういうこと? ひょっとして、綾小路家と同じくらいの資産家、とか?」


ノノハラ レイ
「そっちのがまだましだと思うよ。何せ、天聖院家の家紋だ。
 私立希望ヶ峰学園にも匹敵する、あるいはそれ以上の学園都市、天聖院学園を有する日本きっての名家なんだからね」




――本日はここまでとなります。




コウモト アヤセ
「……噓でしょ?」


ノノハラ レイ
「こんなところで嘘なんてつかないよ。まぁ、納得は出来たかな。
 天聖院家が黒幕なら咲夜さんが拉致されたって綾小路家は何も言えないわけさ。
 その気になれば、この地球上から綾小路の名を消すぐらい天聖院なら卵の殻をむくようなものだろうし」


コウモト アヤセ
「ちょ、ちょっと、待って。
 澪がどうしてそういう事を知っているかどうかは置いておくとしても、それってわたし達に勝ち目がないって事じゃない?」


ノノハラ レイ
「かも知れないね。ボクらにはどうしようもできない。
 ひょっとしたら逆らうだけ無駄なのかもしれない」


コウモト アヤセ
「そんな……!」


ノノハラ レイ
「でもだからって、ボクは諦めない。寧ろね、燃えてきたんだ。
 何せ、天聖院学園はボクの志望校だった。でも落とされた。なら、これはリベンジできる絶好のチャンスじゃないか。
 希望ヶ峰学園と天聖院学園が手を組んで企画したコロシアイ、それを根底から覆してやればボクの才能は本物だと証明される」


コウモト アヤセ
「れ、澪……? それってどういう――」





ノノハラ レイ
「いい加減中に入ろうか。いつまでもこんなところに突っ立ってないでさ」


コウモト アヤセ
「う、うん……」



 無理矢理はぐらかされちゃった。
 わたし、澪が天聖院学園に入学しようとしてただなんて聞いてない。
 なんでそんな大事なこと今まで黙ってたのか、聞きたかったのに。
 それとも、聞かれたくなかったから、なのかな……?





 エルピスと名付けられた建物の中に入ると、エスポワールと同じようなエントランスホールが広がっていた。
 正面には、豪奢な装飾を施された、誰もいないフロント。
 ホールの中央には、煌びやかなシャンデリアの下に鎮座している、グランドピアノ。



ノノハラ レイ
「うっひょー! 凄いよこれ! スタンウェイじゃん! このモデルだと大体2000万ぐらい?
 綾瀬の家にあるのはヤマハの300万ぐらいのやつだっけ?
 やっぱりこういうところに金かけてる所を見せつけられると、希望ヶ峰学園と天聖院学園の権力ってやつをまざまざと感じるよね!」


コウモト アヤセ
「わかったから、ちょっと落ち着こうねー。
 でも、こんな高いピアノ、ここまでどうやって運んだんだろ……?」


ノノハラ レイ
「……案外、そこに脱出のヒントがあったりしてね。
 じゃぁさ、何か一曲弾いてもらおうかな?」


コウモト アヤセ
「いきなり? あ、もしかして、特定の曲を弾いたら隠し扉が開くとか?」


ノノハラ レイ
「だと面白いんだけどね。それらしい楽譜は見つかってないし。
 今は単に聴き比べがしたい気分なんだよね。いつも綾瀬が弾くピアノと、ここで弾くピアノとをさ」


コウモト アヤセ
「それはいいけど……、今はちょっと無理かな。楽譜もないし。
 それに、もっと他の場所を調べた方がいいでしょ? ちゃんと後で弾いてあげるから」


ノノハラ レイ
「……ま、それもそうだね。ひょっとしたら、何処かに楽譜が隠されているかも知れない」



 そこひっぱるんだ……。






 入り口から見て左手にエレベーター。右手にはゲームコーナーのようなスペースと、その隣に「男」「女」と書かれた暖簾。
 ひょっとしてこの別館って……、温泉施設?



ノノハラ レイ
「ひょっとして、露天風呂とかあるんじゃないかな?!
 やっぱスキーリゾートとくれば温泉だよね!」


コウモト アヤセ
「うん。コロシアイさえなければ最高の合宿なんだよねぇ……」


ノノハラ レイ
「なら話は簡単だね。殺し合いを起こさせなければいい」


コウモト アヤセ
「だからって、前みたいなことはしないでね?」


ノノハラ レイ
「解ってるってばさ。
 ……さて、じゃぁ上の階から調べてみようか?」


コウモト アヤセ
「あっちは後回しって事? どうして?」


ノノハラ レイ
「時間いっぱい遊び倒してもいいって言うならあっちからにするよ?」


コウモト アヤセ
「上から調べよっか」



 そういえば、澪ってそういうタイプだったっけ。
 部屋の掃除の最中なのに、ゲームが目に入ったら掃除そっちのけでゲーム始めたりする。
 そういうところは、直してほしいと思ってるんだけど。





 エレベーターに乗って、二階に上がった。
 階数を表すボタンが1と2の二つしかないから、この別館は二階建て。
 つまりわたし達が調べられるのはさっきまでいた一階と今いる二階しかない。



ノノハラ レイ
「あ、増田クン。ユーミアさんと朝倉さんも一緒なんだ。
 水臭いなぁ。どうせここに来るならみんな集めてからにしてくれても良かったのに」


マスタ イサム
「……それはブーメランとして捉えてもいいのか?
 まぁ、いいさ。こっちは俺たちが先に調べておいたぞ。特にめぼしいものはなかったな」


コウモト アヤセ
「ここには何があるの?」


アサクラ トモエ
「多目的ホール、みたいだよ。見た目が完全に体育館だけど。
 ご丁寧に、男子更衣室と女子更衣室まで作っちゃってさ」


ユーミア
「更衣室には、体操服のほかに各種ジャージが備え付けられているようです。
 それと、シアタールームもありました。規模は小さいですが、各種映像作品が揃っていますね」


ノノハラ レイ
「……なるほどね。どれもここで過ごすにうってつけの設備ってわけ。
 そろそろ真剣にここでの永住も視野に入れておこうかな?」


コウモト アヤセ
「冗談になってないわよ」


マスタ イサム
「確かに、脱出の手掛かりはなさそうだったが。俺たちはお前と違って諦めてないからな。
 何を企もうと構わないが、邪魔だけはするなよ?」


ノノハラ レイ
「酷いなぁ。ヒトをモノクマみたいに扱うのはよしてよ」



 ……ごめん。今一瞬だけど「ひょっとして澪とモノクマって中身一緒なんじゃ?」とか思っちゃった。
 何だかすごく仲良くしている時とか、あるし。





 エレベーターから見て左手に更衣室。右手にシアタールーム。そして、奥に多目的ホールの入り口。
 更衣室は、手前側が男子更衣室で、奥側が女子更衣室みたい。



コウモト アヤセ
「どうしよっか?」


ノノハラ レイ
「うーん。多分更衣室は調べなくてもいいんじゃないかな。
 広さから考えて一人でも十分に調べられそうだし、見落としも多分ないと思う。
 多目的ホールも見るだけ見るとして、まずはシアタールームかな?」


コウモト アヤセ
「……ひょっとして、中にある作品片っ端から調べようって事?」


ノノハラ レイ
「内容まで全部見るつもりはないけどね。何か弾くべき曲のヒントがあるかもしれないし」



 あれ、わりと本気だったんだ?





 シアタールームの棚には、DVDが所狭しと並んでいた。
 明かりを消すと真っ暗になって、プロジェクターの映像をスクリーンに投影するあたり、かなり本格的だ。



ノノハラ レイ
「映画は……、特撮、アニメ、アクション、サスペンス、ホラー、恋愛……、邦画も洋画もジャンルを問わず、って感じだね」


コウモト アヤセ
「ドラマもアニメも、本当にいろいろあるみたい。
 ……この中に曲のヒントなんてあるの?」


ノノハラ レイ
「控えめに言ってないかな?」


コウモト アヤセ
「ちょっと」


ノノハラ レイ
「この中のどれか一つにピアノの演奏シーンがあって、それと同じ曲を弾いたら隠し扉が……、とか言う可能性も考えたんだけど。
 それは余りに現実味がなさすぎるしね」



 うん。それは流石に無理。
 ちょっとした店を開けるくらいに種類があるDVDの中から一つしかない正解を引き当てろなんて流石に考えたくない。





 結局何も得られなかったシアタールームを後にして、今度は多目的ホールだ。



ノノハラ レイ
「こりゃまた、ものの見事に体育館だね」


コウモト アヤセ
「うん。多目的ホールって言う名前だけど、完全に体育館よね、これ」



 木製の床に、コートを模した色とりどりのラインが引いてあって、壁にはご丁寧にバスケのゴールも設置してある。
 ステージ上には校旗が掲揚してあって、舞台幕も学校でよく見る感じの色合い。
 誰がどう見ても、体育館としか表現できそうにない。






ノノハラ レイ
「これで袖にピアノでもあれば完璧なんだけどね。体育館としては」


コウモト アヤセ
「それでそのピアノの調律が目茶苦茶だったらさらに完璧ね。……じゃなくて。
 何でスキーリゾートに体育館なんて作っちゃってるの?!」


ノノハラ レイ
「そりゃ、まぁ。学園の所有物だから?」


コウモト アヤセ
「だからってこれは流石にあんまりじゃない? せめてホテルの宴会場みたいに統一感だしてよ!」


ノノハラ レイ
「文句は希望ヶ峰学園か天聖院学園に言ってよ……。ん、待てよ?
 ひょっとしてこれは大ヒントなんじゃないのか?」






コウモト アヤセ
「どういう事?」


ノノハラ レイ
「さっき言ったよね? 舞台袖にピアノがあれば体育館としては完璧だって。
 体育館を再現するくらいなら、それくらいやってしかるべきなのにそうしなかったのは何故だい?」


コウモト アヤセ
「何故って……、下にピアノがあるから?」


ノノハラ レイ
「そう。でもそれなら、どうしてそのピアノをこっちに持ってこなかったんだ?」


コウモト アヤセ
「どうしてって……、やっぱりああいうピアノって目立つところに置いておきたいんじゃない?」


ノノハラ レイ
「確かにそれもあるかもしれないけど、ひょっとしたら、やっぱり隠し通路か何かがあるんじゃないのかな?」


コウモト アヤセ
「あくまでそれにこだわるの?
 えーっと、つまり澪は、この体育館のような多目的ホールのどこかに、楽譜があるって考えてるってこと?」


ノノハラ レイ
「その通り。ピアノを置いてあるはずの場所……、多分、袖のどっちか……。いや、待てよ?
 舞台でピアノを弾くのは下手側と決まっているから、スペースの問題がなければ移動距離が短くて済む下手側にピアノを置いてあるはず。
 だから、舞台袖の下手側に楽譜か……、あるいは曲のヒントがあると思うんだ」


コウモト アヤセ
「なんだかちょっと無理矢理な考えに思えるんだけど……。
 それに、さっきユーミアさん達が調べてたんでしょ? 楽譜が見つかれば教えてくれるんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「それはそうだけど……。でも、調べたいんだ。自分の目で」


コウモト アヤセ
「……相変わらずね、澪は。そうと決めたら曲げないんだから。
 そこまで言うんだったら、徹底的に探しましょ?」





 と、意気込んでみたはいいけど……。
 かれこれ十分ぐらい経ったかなぁ。楽譜もヒントも、見つかる気がしないよ……。



コウモト アヤセ
「やっぱりそんな都合よくいかないんじゃない?」


ノノハラ レイ
「うーん……。間違いないと思うんだけどなぁ……」


コウモト アヤセ
「そういうときもあるって。元気出して――ひぅ!?」


ノノハラ レイ
「え、どうしたの?!」


コウモト アヤセ
「なんか足元が冷たい気がして、びっくりしちゃった……。でも何もないみたいだし、気のせいかな?」


ノノハラ レイ
「いや……、ひょっとして……? ちょっといい?」


コウモト アヤセ
「え、ちょ、ちょっと!」



 澪はわたしの静止も聞かずに、ステージの床を這うように調べ始めた。



ノノハラ レイ
「そうか、わかっ――あ」



 澪は何かに気付いたみたいだけど、わたしの足元に跪いて、頭を上げればどうなるか、なんてことも、行動に移す前に気付いてほしかったな、なんて。
 とりあえず、結果としてはだけど、変質者まがいの行為をしでかした不届き者には鉄拳制裁を下しておかないと、ね?





ノノハラ レイ
「うぅぅ……。何もゲンコツしなくたっていいじゃんかぁ……」


コウモト アヤセ
「一回だけで済ませたんだからむしろ優しいでしょ? それで、何が分かったの?」


ノノハラ レイ
「あまりにも強い衝撃を受けてすっぽ抜けちゃったよ」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「冗談、冗談だから無言で構えないで。
 綾瀬の足元の床にね、ほんの少しだけど隙間があったんだ。このステージの床下から冷気が漏れ出てるみたいだね」


コウモト アヤセ
「……まさかとは思うけど、楽譜はその床下にあるって言うんじゃないよね?」


ノノハラ レイ
「そのまさかだよ」


コウモト アヤセ
「それで? どうやって床下に行くって言うの?」


ノノハラ レイ
「この多目的ホールが体育館を模して造られているなら、ステージの下はパイプ椅子を収納するための引き出しになっているはずだよ。
 一番下手側の引き出しを抜き切ったら、人が入れるスペースが出来ると思う」


コウモト アヤセ
「……ここまできたらやるっきゃないみたいね」





 いったんステージを降りて、問題の引き出しを引っ張っていく。
 大量のパイプ椅子が乗っているからとても重いと思ったけど、車輪がスムーズに回っているからそれは最初だけで、あとは勢いのまま引き切ることが出来た。
 途中でつっかえることもなく、引き出しが完全に外に出る。
 引き出しが無くなったことで現れた、床下への入り口。



ノノハラ レイ
「ちょっと埃っぽいね。ボク一人で行こうか?」


コウモト アヤセ
「ダメ。澪を一人になんてさせないから」


ノノハラ レイ
「わかったよ。……あまり大きく息を吸い込まないようにね」


コウモト アヤセ
「うん」



 ハンカチで鼻と口を覆いながら、ゆっくりと床下へ入っていく。
 床下に入ってから2メートルぐらい進むと、左へ曲がれる空間があった。
 それは、さっきまでわたし達がいたステージの下手側の袖、その真下に繋がる。



ノノハラ レイ
「……あった。タイトルは書いてないけど、多分これだよ」


コウモト アヤセ
「本当にあったんだ……。後は、それの通りにピアノを弾けばいいのね?」


ノノハラ レイ
「うん。……早く戻ろうか。ここに来た誰かが勘違いで引き出しを戻さないとも限らないし」



 気持ち急ぎながら床下から出て、引き出しを元に戻す。
 閉じ込められなくてよかった……。あ、わたしを残そうとしたのはそうならないようにするため?






ノノハラ レイ
「めぼしいものも見つかったし、早速これを弾いてみよっか」


コウモト アヤセ
「え、澪が弾くの?」


ノノハラ レイ
「正確には、ボクと綾瀬が、だけど。
 ドヴォルザーク、交響曲第9番「新世界より」の第三楽章。連弾の楽譜みたいだからさ」




――本日はここまで。





コウモト アヤセ
「ちょっと待って。タイトルは書いてなかったんでしょ? どうしてわかるの?」


ノノハラ レイ
「最初の八小節が特徴的だからね。ピアノアレンジだからちょっと戸惑ったけど、実際に弾けばわかるはずだよ」


コウモト アヤセ
「それはいいんだけど……。澪ってピアノ弾けるの?
 わたし澪が弾いてるとこ見たことないんだけど」


ノノハラ レイ
「大丈夫大丈夫。世の中には人差し指でしか弾けないレベルから一気に連弾ができるレベルにまで上達する男子中学生だっているんだから!
 ボクならちょっくら練習すればいけるって!」



 そういう変な方向にポジティブで自信過剰なところは相変わらずよね……。






コウモト アヤセ
「えーっと、じゃぁどっちを弾きたい?」


ノノハラ レイ
「んー、そうだなぁ。メインを張るⅠもいいけど、地味に難しそうなⅡも捨てがたいしなぁ。
 あ、でもまてよ? 資本の指を大切にしないようなピアニストにメインを任せるのは危険か?」


コウモト アヤセ
「あ、根に持ってるんだ……。でも、あれは澪の落ち度だと思うな」


ノノハラ レイ
「わかってるよ。悪かったって。
 ……うん、決めた。Ⅰは綾瀬に譲るよ」


コウモト アヤセ
「いいの? わたしはどっちでもいいんだけど」


ノノハラ レイ
「超高校級のピアニスト候補生が連弾で主役張らないでどうするのさ。
 それに、さっき言ったでしょ? 綾瀬のピアノが聴きたいって。一番近くで聴けるんだから、どうせなら主旋律を聴きたいじゃない?」


コウモト アヤセ
「そっか……。じゃぁ、最高の演奏にしないとね!」



 そうよ。こんな機会、滅多にないじゃない。
 澪の実力にはちょっと不安が残るけど、むしろ練習が必要なら付きっ切りで……。
 あぁ、もう。本当に、こんな合宿じゃなかったら最高のシチュエーションだったのになぁ……。






 一階に戻って、ピアノの譜面台に楽譜を広げる。



ノノハラ レイ
「どうしようか、ちょっと練習する?」


コウモト アヤセ
「なに弱気になってるのよ……。さっきまでの自信はどうしたの?」


ノノハラ レイ
「いやさ、ボクも綾瀬もこの楽譜初見でしょ? そう思うとちょっとね」


コウモト アヤセ
「候補生とはいってもね、わたしだって超高校級のピアニストなの。初見の楽譜だってある程度弾けるから。
 まぁ、澪がどうしてもっていうなら、澪が練習する時間をあげてもいいけど?」


ノノハラ レイ
「……言ってくれるね。俄然やる気が出てきたよ。時間も惜しいし、さっそく弾いてみようか。
 タイミングは綾瀬に任せるから」


コウモト アヤセ
「そう? ……じゃぁ、遠慮なく……」



 わたしが指を鍵盤の上に乗せると、澪も所定の位置に指を置く。
 ……よし。






 弾き始めの時点で、澪の実力がすぐ理解できた。


 特に合図もなく始めたけど、澪がわたしの弾き方に合わせてきている。


 指の運び方から、リズムの取り方、呼吸に至るまで。


 澪は初めての演奏のはずなのに、まるでずっと前からわたしとピアノを弾いてきたみたいに、完璧に。


 




 それがうれしくもあるけれど、むなしい、のかな。


 昔から天才肌だとは思っていたけど、こうも簡単にやられちゃうと、澪が遠くに感じちゃうよ。


 今隣に座っている澪が、腕も体も触れ合っているわたしの幼馴染が、雲の上に行ってしまっているように感じてしまう。






 わたしの手の届かない遠いところに行ってしまいそうな気がして、そっと澪の方を見ると、澪と目が合った。


 澪は、とても楽しそうに、笑っていた。


 ……そうだよね。せっかくなんだもん。楽しまなきゃ。
 








 曲もそろそろフィナーレに向かいつつある。
 雑念なんて最初から捨てて、澪と一緒に連弾できることをもっと楽しんでいればよかった。
 こんな夢みたいな時間、もっと長く味わっていたかった。
 聴く分には結構長い曲だけど、実際に弾くとなるととても短い。



 最後の和音がきれいにはまって、とうとう、わたしと澪の初めての連弾が、終わってしまった。







ノノハラ レイ
「おやおや、皆さんお揃いで」


オモヒト コウ
「いったいどういう風の吹き回しだよ。ピアノの連弾なんて」


ウメゾノ ミノル
「その楽譜の曲を弾いたら隠し扉が開く、とか?!」


サクラノミヤ アリス
「映画の見すぎなんじゃない?」







サクラノミヤ エリス
「あ、あの……。うまく言えないんですが、その……、素晴らしい演奏でした」


ナナ
「ねぇ、こんどネコふんじゃったでも弾いてみない?」


ノノ
「それ、面白いかも!」


タカナシ ユメミ
「……お兄ちゃんってピアノ弾けたっけ」


ナナミヤ イオリ
「たまにはこういうのも悪くはありませんね」






マスタ イサム
「楽譜なんてどこにあったんだ?」


ユーミア
「おそらく、多目的ホールではないかと。あそこは隅々まで徹底的に調べた、というわけではありませんから」


アサクラ トモエ
「どうみても体育館にしか見えないから、逆に怪しくないと思っちゃったよ……。
 やっぱり何かあったんだね」






 みんなが思い思いの感想を口にする中……、



ノノハラ ナギサ
「……」



 渚ちゃんだけが、わたしを黙って見つめていた。





ノノハラ レイ
「渚も聴いてたなら、感想聞かせてほしいなぁ」


ノノハラ ナギサ
「すごくよかったよお兄ちゃん。初めてとは思えないくらい上手だった」


ノノハラ レイ
「そ、ありがと。ぶっつけ本番にしてはこれ以上ないくらい上出来だね」


ノノハラ ナギサ
「ところで、どうして急にピアノなんて弾いてたの?」


ノノハラ レイ
「多目的ホールのステージの床下に楽譜が隠されていたからね。
 弾けば何か起こるんじゃないかと思って」


オモヒト コウ
「……とくに何か起こった様子はないみたいだが?」


ノノハラ レイ
「うーん。やっぱゲームみたいにはいかないねぇ」


モノクマ
「おめでとうございます!」






 ……気のせいかな、いまピアノから出てきたように見えたんだけど。
 して、もうみんな慣れたのか、いきなりモノクマが現れても全然動じない。慣れたくなかったけど。



ノノハラ レイ
「おや学園長。生徒にぞんざいに扱われてご隠居なさったのでは?」


モノクマ
「むきー! ボクはそんなガラスハートじゃないやい!
 じゃなくて! さっきそこの楽譜の曲を弾いたでしょ! だから特典をプレゼントしに来たの!」


コウモト アヤセ
「特典……?」



 なんだろう。絶対にロクなものじゃない気がする。






モノクマ
「『新世界より』にちなんで――」


ノノハラ レイ
「隠し扉の鍵、とか?」


モノクマ
「もう! クマの話に水を差さない! 隠し扉の場所教えないぞ!」


コウモト アヤセ
「あ、隠し扉はあるんだ」


モノクマ
「はっ、しまった!
 あー、もう! いいや! 鍵は渡すから、さっさとあの暖簾くぐってこーい!」






 そういってモノクマはわたしと澪に鍵を投げつけて、逃げるように立ち去って行った。
 鍵は二つ。赤のキーホルダーがついたものと、青のキーホルダーがついたもの。
 暖簾をくぐるということはつまり……。



ノノハラ レイ
「脱出とは何の関係もなさそうかなぁ。まぁ、使うんだけどさ」


コウモト アヤセ
「えっと、どうしようか? みんなで行く?」


ノノハラ レイ
「男女に分かれた方がよさそうだけど。多分性別は違っても中身は一緒だよ」


ウメゾノ ミノル
「ちょっとちょっと、何勝手に二人で話進めてるのさ。どういうことか説明してよ!」


サクラノミヤ アリス
「ちょっとは頭使ったら? ここで暖簾って言ったらあそこしかないでしょ?」



 亜梨主ちゃんが指さした先には、「男」と書かれた青の暖簾と、「女」と書かれた赤の暖簾。
 つまり隠し扉は、温泉のどこかにあるということ。それも、男湯と女湯の両方に。






ウメゾノ ミノル
「いやいや、待ってよ。あそこは調べたじゃん。でもそんな怪しい隠し扉なんてなかっただろ?
 脱衣場にも、大浴場にも、サウナにもさ」


サクラノミヤ アリス
「さっきので現れた。そう考えるしかないでしょ」


ウメゾノ ミノル
「それはそうだけど……」


サクラノミヤ エリス
「あの、とりあえず、行ってみませんか?」


マスタ イサム
「……人数はある程度絞ろう。男は全員でもいいが、女は多すぎる」


ユーミア
「モノクマの罠が待ち構えているかもわかりませんしね」


アサクラ トモエ
「あー、じゃぁボク残ってようかな。捜索はあまり得意じゃないからさ」


ナナ
「ナナたちも残りましょう? お風呂はお洋服が濡れちゃうわ」


ノノ
「お風呂は夜に入らなきゃね」


サクラノミヤ アリス
「あたしもパス。四人ぐらいがちょうどいいでしょ。慧梨主も残りなさい」


サクラノミヤ エリス
「えっ、お姉さま、私は……」


サクラノミヤ アリス
「なに? あたしの言うことが聞けないっていうの?」


サクラノミヤ エリス
「そんな、私は……!」


ウメゾノ ミノル
「喧嘩はよしなって。僕たちはさっき調べたばっかなんだから、むしろいかなきゃダメじゃん。
 それこそ、演奏の前後で何か変化があればすぐに気づけるんだからさ」


サクラノミヤ アリス
「なに、さっきの仕返しのつもり? ……まぁいいわ。仕方ないから、行ってあげる」



 結局、女子はわたしとユーミアさんと亜梨主ちゃんと慧梨主ちゃん。男子は全員で調べることになった。






ノノハラ レイ
「じゃぁ三十分後にロビー集合ってことで」


コウモト アヤセ
「うん。……気を付けてね」


ノノハラ レイ
「多分大丈夫だと思うけどねぇ。そっちも、十分に気を付けてね」


コウモト アヤセ
「うん」



 いったん澪と別れて、わたしは女風呂の暖簾をくぐった。
 暖簾の先には、一般的な温泉宿泊施設の脱衣場でよく見かける、服や貴重品を入れるためのロッカーに、洗面台、給水所に……、体重計。
 大浴場へ続く扉以外に、これといって怪しい扉はない、かな。




 大浴場へ入っても、特に変なものは見当たらなかった。
 桶に、椅子に、シャンプー、リンス、ボディソープ、シャワー。
 お風呂はすごく広くて、高級リゾートっていう感じ。
 サウナに、水風呂に、外……多分露天風呂に続く扉。
 あれ、そういえばさっき梅園君は――。



サクラノミヤ エリス
「お姉さま、あの扉って……」


サクラノミヤ アリス
「えぇそうね。さっきまでなかったものよ。ご丁寧に、鍵までついてるし」


コウモト アヤセ
「……開けてみるね」



 モノクマから受け取った鍵を鍵穴に入れて回すと、かちゃりという音がした。
 やっぱりというか、なんというか。特典というのは、露天風呂だったみたい。
 普通の旅行ならうれしいんだけど、殺し合いを強いられているこの状況だと、外に出られるかもなんて甘い期待を裏切られた気分。






 ドアを開けると、雪景色が一望できる浴槽と、さらに奥へ続く道があった。
 その道をたどると、また更に扉があって、張り紙が貼ってあった。



『この先9:00~19:00立ち入り禁止
 ※もしこの時間帯に立ち入った場合、校則違反とみなし厳罰に処します』





――本日はここまで。


――月一更新で亀進行とか本当に救いようがないね……。


――でも、もし、ボクがこのSSを描き切ったのならその時は……、ボクを超高校級の希望と呼んでくれ。





ユーミア
「……どうやら、今はこの先を調べることはできないみたいですね」


コウモト アヤセ
「そうみたい。……あ、夜お風呂に入るときに行ってみようかな」


ユーミア
「少し危険ではありませんか?」


コウモト アヤセ
「こういう風に制限するってことは、多分罠じゃないと思うんだよね。
 もしわたしたちを陥れるための罠なら、こんな注意書きなんてして警戒心をあおったりしないもの」


ユーミア
「それは……、そうかもしれませんが」


コウモト アヤセ
「あ、でも澪ならトリックに使えそうとか思ってるかも」



 例えば現場をこの扉の先と思わせておいて、進入禁止の時間のアリバイを確保しておく、とか。





ユーミア
「……あの場ではマスターの手前ですので抑えましたが、ユーミアはまだあのヒトを完全に信用したわけではありません。
 いずれマスターに仇なすようなら、容赦はしないつもりです」


コウモト アヤセ
「……あなたにとって増田くんが大切な人であるように、わたしにとって澪はかけがえのない人なの。
 そっちこそ、澪に手を出さないでね?」


ユーミア
「ユーミアに勝てるとでも?」



 澪にもしものことがあれば、わたしはわたしを保てなくなる。
 だから釘はちゃんと刺しておかないと、ね?







サクラノミヤ エリス
「お、お姉さま、どうしましょう……。と、止めないと……」


サクラノミヤ アリス
「ほっときなさい慧梨主。巻き込まれるわよ」


コウモト アヤセ
「……もうこれ以上めぼしいものもないみたいだし、時間はあるけどロビーに戻りましょうか?」


ユーミア
「そうですね。男湯もこちらと同じようなら、マスターも早く切り上げるでしょうから」



 わたしたちは無言で女湯を後にした。







 暖簾をくぐった先、ロビーには誰もいなかった。
 もしかして男湯の方で何かあったのかな?
 ……まさか澪の身に何かが?!



サクラノミヤ アリス
「待ち時間が暇だからって何ゲームコーナーで遊んでるんだか……」



 女湯の捜索に行かなかった女子の皆はゲームコーナーにいるみたいだけど、ひょっとして澪もそこにいるのかな。






ノノハラ レイ
「ガチャ!ガチャ!またガチャががが回せるぅう!ヤッフゥゥゥウウウウア!」


ウメゾノ ミノル
「ガチャァアア!10連ガチャア!いっぱいっぱい回すのぉぉ!」


ノノハラ レイ/ウメゾノ ミノル
「「溶けるぅう!溶けちゃうう!」」



 結論から言えば、澪とはじめ男子は捜索を切り上げてゲームコーナーにいた。
 そして、澪と梅園君が常軌を逸した動きで喜びを表現してるんだけど……、これは、何?
 何なの?
 ここへ来る前に一体何が……。






 うん、わかってる。わかってるけど、一言だけ言わせて。


 またなの?






――本日はここまで。





オモヒト コウ
「河本か。澪だけでも止めてくれよ。俺じゃもうどうしようもない」


コウモト アヤセ
「……見ればわかるんだけど、一応聞いておくね?
 どうしてこうなってるの?」


オモヒト コウ
「本当に見ての通りなんだがな……。
 露天風呂への扉以外に目新しいものが見つからなかったから、早めに切り上げてここに戻ったんだ。
 それはお前たちも同じだろ?」


コウモト アヤセ
「うん。露天風呂の奥の扉は、今は入れなかったし」


オモヒト コウ
「やっぱりそっちも一緒だったか。
 で、待機中の女子がゲームコーナーで遊んでたから、俺たちも、ってなったんだが――」






ノノハラ レイ
『こういうところにあるゲームって大抵コイン必要なんだよねー。
 電子マネーで決済できる最新の筐体とかあればいいんだけどなー』


オモヒト コウ
『ゲームセンターならともかく、こういった施設のゲームコーナーなんて型落ち品ばっかだろ』


ウメゾノ ミノル
『あー、でもメダル販売機は電子マネー対応らしいよ? メダルゲーム主体なのかな』


マスタ イサム
『「電子生徒手帳をかざせば、モノクマコイン一枚をモノベガスメダル百枚と交換できます」か。随分と気前のいいことで』


ノノハラ レイ
『メダル集めると景品と交換できるんだぁ。――え、ちょっと待って。モノベガスメダル百枚でモノクマメダル一枚と交換できるの?!』


マスタ イサム
『モノクマコインからモノベガスメダル、モノベガスメダルからモノクマメダルって、これ変則的な三店方式か?』


ウメゾノ ミノル
『こっちにはモノモノマシーンがあるよ! こりゃもうガチャ回せってことですねわかるとも!』


オモヒト コウ
『お前らな、数日前のことも忘れたのか?』


ノノハラ レイ
『ゲームで勝てばメダル増やし放題なんでしょ? これで回し放題だやったぜ!』


マスタ イサム
『……これは止めるべきか?』


オモヒト コウ
『どうせギャンブルでぼろ負けして泣きついてくるだろ。それまで好きにやらせればいいさ』






ノノハラ レイ
『わーい!』


ノノハラ ナギサ
『さ、鮭が視界に入ったそばから狩りつくされてる……!』


ノノハラ レイ
『たーのしー!』






サクラノミヤ エリス
『凄い! お兄さま! 完璧なブレーキングドリフトです!
 立ち上がりもガードレールギリギリなんて!』


サクラノミヤ アリス
『あんたこのゲームやりこんでるわねッ?!』


ウメゾノ ミノル
『答える必要はない』





ノノハラ レイ
『どれだけ集まったー? こっちはざっと6万ちょいぐらい?』ジャラジャラ


ウメゾノ ミノル
『いやー、ちょっと後半集中切れちゃって、4万しか稼げなかったよー』ジャラジャラ


ノノハラ レイ
『10連が100回回せるなら上出来上出来! 早く換金しようよー!』


ウメゾノ ミノル
『メダルを換金箱に詰めこめぇ!』ヒィヤッハー!


ノノハラ レイ
『つべこべ言わずつべごべぇ!』ヒィヤッホォゥ!





オモヒト コウ
「――で、今に至るわけだ」


コウモト アヤセ
「あー……。ごめん、多分わたしでも止められないと思う」


オモヒト コウ
「そう、か……。いや、あいつらが素寒貧になろうと俺の知ったこっちゃないが、あの様子は正直見るに堪えん」


コウモト アヤセ
「えっと、ほら、澪って結構繊細なところあるし、ストレスため込んでるんだよ」


オモヒト コウ
「そのストレスのはけ口がガチャだって? 他にないのかよ……」


コウモト アヤセ
「基本的に何でもできる澪にとって、運任せのガチャは予測できないから楽しいんだって」


オモヒト コウ
「天才ゆえの苦悩ってやつなのかね。俺にはよくわからんが」


コウモト アヤセ
「理解してほしいとは言わないけど、あまり邪険に扱わないでね?」


オモヒト コウ
「あいつ次第だなそれは」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃーん! そんなところで話してないであたしと遊ぼうよー!」


オモヒト コウ
「っと。じゃぁ、澪のことはくれぐれも頼むぞ? わかった、わかったから引っ張るなって、夢見」






ノノハラ レイ
「いやー、回した回した。今日のところは満足できたかな」


コウモト アヤセ
「ってことは明日も回すんだ……」


ノノハラ レイ
「出禁食らっても回すつもりだよ」



 そういうところはかたくなに譲らないよね、澪って。







ノノハラ レイ
「ところでさ、綾瀬。……さっき公と何話してたの?」


コウモト アヤセ
「まとめれば『澪の暴走を止めろ』ってことになるのかな?」


ノノハラ レイ
「暴走って、ひどいなぁ。確かにちょっとタガが外れちゃった感は否めないけど」


コウモト アヤセ
「ちょっとどころじゃなかったじゃない、さっきの様子は。あれ以上変になるようだったら力づくでも止めるからね?」


ノノハラ レイ
「あー、それは困るなぁ。…………うん、わかった。自重するよう努めてみるよ」



 決断するまでが長いうえに断定してない!







 ――結局、今日の別館エルピスの探索は、そのほとんどをゲームをすることで終わってしまった。
 モノクマは鍵を渡したっきり出てこないけど、脱出のめどもまだ立っていない。


 あぁ、でも。
 こんな日々なら、ずっと続いてても悪くないかな。





――本日はここまで。


――月一更新を目指していたのに遅くなってすまない……。


――ヤンデレcdRe:birth一周年だというのにほとんど進捗がなくてほんとうにすまない……。





――大変申し訳ございません、どうやら>>143において混線が起きたようです。


――以下、>>143の差し替えとなります。ご容赦くださいませ。




――――


ノノ
「すっごーい! 今のどうやったのー?!」


ナナ
「お兄ちゃんこのゲームやりこんでるわねッ?!」


ウメゾノ ミノル
「答える必要はない」



――――



――読者の皆様にはご迷惑をおかけいたしまして、誠に申し訳なく思っております。


――お詫びに、ささやかではありますがアイテムを配布いたします。


――プレゼントメニューにてご確認ください。





 プレゼント“詫びバトス”を獲得しました。

  プレゼントメニューで確認できます。




詫びバトス:運営からのお詫び。赤い目玉のような飾りが目を惹く白く高くそびえたつパンケーキ。おいしい。もっとよこせ。





 別館エルピスには食堂がないから、夕食を食べるために本館エスポワールに戻った。


 そしてとくに何もなく食事が終わって、みんな就寝時間になるまで自由に行動しているみたい。


 ……澪もコロシアイを防ぐために頑張ってるわけだし、わたしにも何かできないかな。





       ―自由行動開始―






 といっても、何をすればいいのか全然わからないや。


 ……うん! こういう時はピアノを弾くべきかな!


 心を無にして弾いている間に何かインスピレーションが湧いてきそうだし。


 そうと決まればピアノがある別館エルピスへ行かないとね。


 誰もいないと気兼ねなく演奏できるんだけど。







 ゴンドラリフトに乗っている間はずっと何を弾こうか考えていたから、体感としてはすぐに到着した。


 別館エルピスの玄関の扉を開けると、そこにはピアノがあって――。







 澪が『月の光』を演奏していた。






 澪とわたし以外誰もいないようで、ロビーには澪が奏でる旋律だけが響いている。


 わたしは声をかけるのも忘れて、澪の音に聴き入っていた。






ノノハラ レイ
「……いつから聴いてたの?」


コウモト アヤセ
「うーん……、『月の光』を弾き始めたあたりから、かなぁ?」


ノノハラ レイ
「来たなら来たって言ってくれればいいのに」


コウモト アヤセ
「邪魔しちゃ悪いと思って。いい演奏だったよ?」


ノノハラ レイ
「ボクとしてはちょっと納得してないんだけどね……。まだ詰めが甘い感じがする。
 あぁ~、こんな演奏聴かれてたとか結構恥ずかしいよ~」







コウモト アヤセ
「ひょっとしてここに澪以外誰もいないのって、人払いとかしてたから?」


ノノハラ レイ
「……うん、そう。まだ自分のものにできてない演奏なんて人に聴かせられないじゃん。
 それに努力する姿を見せるのはボクのキャラじゃないしさぁ」


コウモト アヤセ
「そうね。澪ったら努力せずに何でもできるみたいだもん。……昔はそうじゃなかったのに」


ノノハラ レイ
「時が経てば人は変わるさ。誰だって子供から大人になる。……過去のボクの方がよかった?」







コウモト アヤセ
「そういうわけじゃないけど……。なんだか最近ね、あなたが遠いの……」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「わたし、ずっとあなたの傍にいたつもりだったのに、最近のあなたをみると、あなたがだんだん遠くへ行ってしまうみたいで……」


ノノハラ レイ
「ボクはボクだ。今も、昔も、これからも。それ以上でもそれ以下でもない。
 だから、綾瀬から遠ざかりもしないよ。絶対に」


コウモト アヤセ
「うん……。離れたらいや、だからね?」


ノノハラ レイ
「わかってるよ」







コウモト アヤセ
「ところで、さ。その、さりげなく抱き着かれるのはいいん、だけど、ね?
 は、恥ずかしいから、そろそろ離れてくれないかなー、って……」


ノノハラ レイ
「離れたらいやって言ったのに?」


コウモト アヤセ
「それは、その、言葉の綾っていうか……。
 あー! そうだ! ちょっと聞きたいことがあるんだけど!」


ノノハラ レイ
「話題の替え方が雑だねぇ。まぁいいや、それで? 何さ、聞きたいことって」



 あっさりと引き下がってくれたのはちょっと残念な気もするけど、多分あれ以上抱き着かれてたらこっちの心臓が持たなかったと思うからしょうがないよね!






コウモト アヤセ
「あのね、どうしてピアノが弾けるの? 楽譜を置いてないってことはさっきの『月の光』も暗譜だったわけでしょ?
 それに今日の『新世界より』だって初見で弾き切ったわけだし……。
 どうしてもあの演奏が初心者だとは思えないの」


ノノハラ レイ
「……その質問にはちょっと答えにくいなー。うん、恥ずかしいからさ」


コウモト アヤセ
「あ、実はこっそり練習してたとか?」


ノノハラ レイ
「まさか。……そうだね、ただ、ずっと見てたよ。綾瀬が弾いているところを」






コウモト アヤセ
「えっ?」


ノノハラ レイ
「楽譜と綾瀬の指の動かし方をリンクさせて、ボクの指の動かし方に最適化させる。
 記憶力の応用だね。言ってみれば、ボクがやってるのは綾瀬の模倣なんだよ。
 ……だからかな。自分の演奏に納得できないのは。
 どれだけ演奏してもそれは結局ボク自身の力によるものなんかじゃないって思っちゃうからさ。
 綾瀬と連弾した時から、あの時は心の底から楽しかったと思っていたのに、今から思い返してみればずっと喉に小骨が刺さったような気分だったんだよね。
 せっかく綾瀬と一緒に演奏してるのに、ボクはボク自身の実力で弾いてないんだって自覚しちゃったからさ。
 笑ってくれよ。結局のところボクは――」


コウモト アヤセ
「笑わないよ」





ノノハラ レイ
「笑ってよ」


コウモト アヤセ
「笑わない!」


ノノハラ レイ
「どうして……」


コウモト アヤセ
「わたしの真似をしているから、それが澪自身の実力によるものじゃないなんて、わたしが認めない。
 だって、わたしの真似ができるのは澪の記憶力があるからこそなんでしょ? なら、それはあなたの実力よ。
 上達する一番の方法は上手な人の真似をすること。だから先生がいて、教えてもらうんでしょ?
 だったらあなたがやっていることは卑怯でも何でもないし、澪に真似されるなら本望だから」


ノノハラ レイ
「綾瀬……」


コウモト アヤセ
「それでも納得できないっていうなら、あなたが自分自身の演奏ができるまで、わたしが付き添ってあげる。
 だから、そんな風に自分を悪く言わないで?」






ノノハラ レイ
「……はは、まいったなぁ。そこまで言うんだったら、今日はとことん付き合ってもらうからね。
 今日中にボク自身の演奏をマスターしてやる」


コウモト アヤセ
「そうこなくっちゃ!」






 澪とピアノレッスンをして過ごした。






――河本綾瀬と野々原澪との親密度が少し上がった。





――本日はここまで。


――自由行動でのリクエスト(○○の視点で●●との絡みが見たい)などがございましたら是非書き込んでください。


――特にないようでしたらそのままストーリーが進みます。


――次回の更新は自由行動+動機の提示まで進めたいと思います。


――それでは、おやすみなさいませ。




  プレゼント“漢の浪漫”を獲得しました。


  プレゼントメニューで確認できます。






漢の浪漫:男を超えた漢の、男を超えた漢による、男を超えた漢のためのロマンを超えた浪漫。
     プレゼントすることもできるが、持っているといいことがある。
     感じろ。理想郷(アヴァロン)はそこにある。






ウメゾノ ミノル
「……」



 ついに……。







ウメゾノ ミノル
「……っしァッ!!」



 ついに手に入れたぞォっ!






ウメゾノ ミノル
(ガチャを回しては爆死し、カジノへ足蹴く通いコインを増やしてはまた回し……。
 100連爆死を繰り返す都度に五回、とうとう僕は手に入れた!)



 何を隠そうこの“漢の浪漫”、排出確率が最も低いアイテムなのだっ!
 なんでお前がそんなこと知ってるのかって?
 ESPOIRの売店で排出確率のリストを購入しておいたのだよ!
 まぁ名称が伏せてあってシリアルナンバーと排出確率だけしか明記されてないから、どんなアイテムなのかは実際に出してみないとわからないんだけど。





 そして! 最も排出確率が低い(0.001%)シリアルナンバーと一致したのがこのアイテム“漢の浪漫”というわけなのだよ!
 どうせガチャを回すならSSR complete狙いは当然だよね!






 ……で、GETしたはいいけど、ナニコレ。






 でかでかと『浪漫』って達筆な字で書かれた手ぬぐい?
 え、ちょっと待って。こんなもののために今まで必死こいてガチャ回してきちゃったわけ?
 うそでしょ?






 なんか説明書っぽいのには持っているといいことがあるとか書かれてるんだけど……、いったいなんのご利益があるんだか。
 超高校級の占い師の直筆とか?




サクラノミヤ アリス
「……何固まってるのよ、そんなところで」



ウメゾノ ミノル
「え、あ、あぁ。ガチャで限りなくはずれに近い当たりをひいたってところ、かな」


サクラノミヤ アリス
「はぁー。またアンタは性懲りもなく……」


ウメゾノ ミノル
「……そういう亜梨主こそ、どうしてこっちに?」


サクラノミヤ アリス
「別にどうだっていいでしょ? あたしがどこに行こうと。
 それとも、いちいちアンタの許可を取らなきゃいけないわけ?」


ウメゾノ ミノル
「そんなんじゃないよ。慧梨主の姿が見えないからちょっと気になっただけさ」



 慧梨主は大抵、僕か亜梨主と一緒に行動していて、一人でいることはそんなにない、はずだ。







サクラノミヤ アリス
「お生憎様、慧梨主は先に――」


ウメゾノ ミノル
「先に?」


サクラノミヤ アリス
「何でもない」


ウメゾノ ミノル
「いやでも」


サクラノミヤ アリス
「ナン、デモ、ナイ」


ウメゾノ ミノル
「アッハイ」



 そういって亜梨主はそそくさと――女湯の方へ向かっていった。







 亜梨主の発言から、多分慧梨主も女湯にいるんだろう。
 ――ってことはひょっとして……?!






(※梅園君の妄想(作画:小梅け〇と)に少々お付き合いください)



サクラノミヤ アリス
『ほら、慧梨主、背中洗ってあげるわ』


サクラノミヤ エリス
『あっ、お姉さま、そこは、んっ……』


サクラノミヤ アリス
『どうしたの? ここがいいの?』


サクラノミヤ エリス
『だっ、ダメです、お姉さまぁ……、んぅ……』



(※あくまでもKENZENな妄想です。姉が妹の背中を流しているだけです)






 ――なんてことになっている可能性が?!(※多分ありません)
 こうしちゃいられない!
 そんなことになっているのなら、僕にはそれを見守る義務がある!(※ないです)
 いや、でも女湯に単身乗り込むなんてそんなことしたら……。






 確信できる。死ぬよりも恐ろしい目に合うと。想像したら足がすくんでしまう。
 くそっ、僕にはもう打つ手がないのか……?






 ふと、握りしめていた“漢の浪漫”の、『浪漫』の字が目に入る。
 そうだ。
 考えるんじゃない。
 感じるんだ。
 理想郷(アヴァロン)は、桃源郷(ユートピア)は目の前じゃないか!
 何を立ち止まる必要がある!
 行け!
 行くんだ梅園穫!
 止まらない限り、その先に道は続くんだ!
 希望への道が! 未来への道が!




ノノハラ レイ
「なに百面相してんのさ」
ウメゾノ ミノル
「フゥヲー!」
ノノハラ レイ
「……いや、いきなり声かけたのは悪いと思うけど、そんなに驚くことはなくない?」
ウメゾノ ミノル
「い、いやぁ、ちょっと考え事してたからねー、あはははは」

 あ、あぶねえええぇぇ!!
 あのまま単騎特攻してたらばっちり目撃されてるところだったー!
 しかも一番見られたら面倒なことにしそうな人にー!
 セエエエエエエェェェェフ!!



ノノハラ レイ
「……まぁいいけど。露天風呂の奥の扉の調査、ちょっと付き合ってよ」


ウメゾノ ミノル
「あー、昼間は時間外だから入れなかったってあれ? すっかり忘れてた」


ノノハラ レイ
「うん、それ。一応他の二人にも声かけたんだよね。どうせなら一緒に風呂入ろうぜって」


ウメゾノ ミノル
「……絵面がひどいことになりそうだなー。
 でもここで断ったら僕だけがハブられたみたいでなんかやだなぁ」


ノノハラ レイ
「まぁそういわないでよ。正直ボクとみんなとの間にある溝をまだ平和であるうちに埋めておきたいんだからさ」


ウメゾノ ミノル
「そういうことを平然と言っちゃう辺り、時間はかかりそうだけどね。
 まぁそういうことならなおのこと断れない、か。いいよ。ちょうどいい手拭い引き当てたし」


ノノハラ レイ
「『浪漫』ってでかでかと書かれた手拭いって……、正直言ってちょっとダサくない?」


ウメゾノ ミノル
「それは言わないお約束ぅー」





 ……と、いうことで、野郎四人で露天風呂、なんだけど。

オモヒト コウ
「……」
マスタ イサム
「……」
ノノハラ レイ
「……」
ウメゾノ ミノル
「……」

 空気が重苦しいとです……。
 っていうか野々原君! 君が積極的にいかなくてどうすんのさ!
 え、ここに至るまでの経緯が聞きたいって!?
 いやだよ野郎しか出ない回想なんて! 妄想で補って!
 なんか普通に体洗って湯船につかっただけだから!
 それが特にこれといった会話がなくて大体同じタイミングで終わっただけだから!




ウメゾノ ミノル
「ってそうだよ! 本題! あの扉の奥行ってみようぜ!」



 時間外だからっていけなくなったあの扉の先!
 もうそこに賭けるしかないな!
 何をって?
 この気まずさを改善する楽園(エデン)がそこにある可能性だよ!





 その扉は、やはりというか、モノクマが野々原君に持たせた鍵で開いた。
 その先は、奥へ奥へと続いている。
 とても長い、それも蛇行しながら下っていくスロープのようだ。
 滑らないように慎重に歩いて、大体五分くらいして、ようやく扉が見えた。
 ちょっと体が震えているのは下っている最中も誰一人何もしゃべらないからじゃなくて湯冷めしているからと思いたい。
 そんな沈黙に耐え切れなくなって、扉が見えたとたんに僕は真っ先にそこへ駆け寄って、その扉を開けた。
 スライド式のドアを開けるとそこには――。






 理想郷(アヴァロン)が、あった。





サクラノミヤ エリス
「えっ……?」


ナナミヤ イオリ
「……?!」


コウモト アヤセ
「?!?!?!」


ノノハラ ナギサ
「えぇっ?!」


サクラノミヤ アリス
「……」



(※心の底からヤンデレCDを愛する方には小梅け〇と氏による素晴らしい一枚絵が見えます)






ウメゾノ ミノル
「あ、あはは、あはは……。あー…、アポ?」


サクラノミヤ アリス
「死ねぇっ! 変態!」



 亜梨主の手から勢いよく放たれた桶は、そのまま僕の顔面へ――。



スコ―――ン!






「変態!変態!!変っ態!!!」
「酷いですお兄様…。見損ないました…」


 ――目の前が真っ暗だ。何も見えないし、声もうすぼんやりとしか聞こえない……。


「まぁその辺で許してやってよ。故意じゃなかったんだから」
「澪ッ?!」
「どうしてお兄ちゃんまで?!」


 僕はもう理想郷(アヴァロン)を目にしたんだ。それ以上に何を望むっていうんだ?


「どうしてって、時間外だから入れなかった、露天風呂の奥の扉がここに続いてたからだけど」
「わ、わかったからこっちみないでよっ!」


 そりゃぁ、もっと見たかったけどさ。これ以上見続けるのは彼女たちに悪いよ。





「あ、あわわ、あわわっわわあっわあわ……」
「伊織?! しっかりしろ伊織―!?」
「とりあえず入らせて?湯冷めしちゃって。このままじゃ風邪ひいちゃうよ」
「フリーダムなのもいい加減にしとけよお前」



――それで本当にいいのかい?



 だって、嫌がる女性と無理やり混浴だなんて……。



――だったら、君が説得すればいいのさ。



 僕が……?



――目の前に浪漫があるんだ。希望を捨ちゃ駄目だ!



 浪漫……。理想郷(アヴァロン)は目の前……。



――そう! さぁ、目を覚ますんだ!



 死んでる場合じゃねぇっ!



ウメゾノ ミノル
「 がくえんの ふうきが みだれる ! 」






サクラノミヤ アリス
「あ、起きたのね」チッ


ウメゾノ ミノル
「でもこれはモノクマ公認だ! 混浴することでみんなとのきずなを深めあうんだ!」


サクラノミヤ エリス
「あぁ……、お兄さま、やっぱり頭を強く打ってしまったんですか……?」





ウメゾノ ミノル
「裸の付き合いという行為、それは身一つで同じ空間を共有することで互いに隔てるものが何もない状態ということ!
 すなわちそこには相手への絶対的な信用があってこそ初めて成立しうる行為なんだ!
 逆説的に言えば、混浴こそこの合宿生活で最もコミュニケーションが捗るということ!
 お互いに凶器を持っていないということを確認し、かつ全くの無防備な状態をさらすことでそこにはある種の信頼関係が形成される!
 そこから生まれる安心感によってお互いの心の距離は急接近したりするんだ!」


サクラノミヤ エリス
「そういわれれば、そんな気も……?」


サクラノミヤ アリス
「流されちゃだめよ慧梨主!」



――こうして、







ナナミヤ イオリ
「【混浴なんて破廉恥】です!」


ウメゾノ ミノル
「それは違うぞっ! それはただの偏見に過ぎない!」



――僕はみんなを説得してき……、







オモヒト コウ
「お前のそれはただの【下心】だろうが!」


ウメゾノ ミノル
「それは違うぞっ! 野々原君の企みを知る必要がある!
 それには河本さんや渚ちゃんにも話を聞かなければならないんだ!」





――ついに、



混浴は
 するべきだ/しないべきだ



ウメゾノ ミノル
「これが僕の答えだっ!」



 ―BREAK!!―



――説得しきることに成功した。これもすべて、“漢の浪漫”のおかげだ。





――ここで起きたことを、僕は一生忘れないだろう。

――具体的に何が起きたのか知りたいって……?

――それはだめだよ。教えられない。それはここに来たみんなの中だけの秘密だからね。

――でも大丈夫。理想郷(アヴァロン)は、みんなの心の中に――。






――漢の浪漫イベント(梅園穫視点)を完了した。


――梅園穫との親密度が……、下がったものもいれば上がったものもいるようだ。







ノノハラ ナギサ
「……」



 最近、お兄ちゃんが遠い。







ノノハラ レイ
「じゃぁThe Flea Waltsを足で……、冗談だよ。
 ベートーヴェンのピアノソナタ第十四番、月光の第三楽章はどうかな」


コウモト アヤセ
「あー、私それ暗譜出来てないや」


ノノハラ レイ
「それならショパンの別れの曲の方がいいかな」


コウモト アヤセ
「それなら、うん。大丈夫」



 最近は、特に綾瀬さんと一緒にいることが多い。






アサクラ トモエ
「やっぱりもう一度縛りつけた方がいいんじゃないかなぁ……」


マスタ イサム
「……やめておけ。記憶力のいいあいつのことだ、同じ手は食わないだろうさ」



 あれだけのことをしておいて、実質的な野放しになっているから、お兄ちゃんに対する風当たりは強い。
 だから、お兄ちゃんの味方になれるのはあたしだけと思ってたのに……。
 あの時、綾瀬さんが先に口出ししなければ、きっと――。





ノノハラ ナギサ
「それなのに……!」



 あの女……!
 お兄ちゃんの隣にいるはずなのはあたしなのに!
 それを横からかすめ取って!
 お兄ちゃんもお兄ちゃんであんな楽しそうに笑っちゃって!





 どうして?!
 どうしてあたしを見てくれないの?!

 ……あーそっかぁ。きっと綾瀬さんに毒されちゃってるんだぁ。
 だったらキレイにしてあげなくちゃ、ね?






 ……でもお兄ちゃんに直接手を出すわけにはいかないし、本当はすごく嫌なんだけど、綾瀬にも直接手は出せない。
 そんなことをしたら今度はあたしがお兄ちゃんに忘れられちゃうかもしれないんだもん。あの暗い女みたいに。
 ここでの生活を受け入れるべきだとお兄ちゃんは言った。
 それなのに妹のあたしが暴力沙汰を起こせばお兄ちゃんの言葉に説得力が無くなってしまう。
 あたしはお兄ちゃんの負担になりたくないし、お兄ちゃんもそれを望んではいないはず。
 だから、誰かを直接傷つけたりするような行為は、絶対にダメ。






 なら、お兄ちゃんの役に立てばいい。
 お兄ちゃんは、今いるメンバーの半分である七人までなら外に出られるって言ってた。
 お兄ちゃん自身と、あたしと、認めたくないけど、綾瀬の三人はすでに埋まっているから、残りは四人。枠は残り四人残ってるってことは、多分そういうことだと思う。
 それなら、その四人を集めればいい。
 そうすればお兄ちゃんの役に立ったって言える。
 こんな提案をするってことは、お兄ちゃんは本心では外に出たいってことになるし、そのお手伝いをすれば、お兄ちゃんに褒めてもらえるかなぁ。






 そうなると、誰を説得するかだけど……。
 男子なら梅園さん、女子なら亜梨主さんと慧梨主さん、かなぁ。
 あのうるさい双子は話が通じないだろうし、主人さんと増田さんはお兄ちゃんとすごく仲が悪いから乗ってくれそうにもないし。
 だからこの二人と仲がいい七宮さん、小鳥遊さん、ユーミアさん、朝倉さんも提案に乗ってくれるとはとても思えない。
 梅園さんはお兄ちゃんととても仲がいいし、梅園さんと仲がいい亜梨主さんと慧梨主さんも、梅園さんの説得なら従ってくれそうだし。
 この三人を説得できれば、十分役立ったって言えるよね?お兄ちゃん?






 だから、まずは梅園さんを説得して、その後に桜ノ宮さんを説得してもらう。
 そのために、梅園さんを呼び出した。


ウメゾノ ミノル
「えーっと、渚ちゃん? それで、話っていうのは?」


ノノハラ ナギサ
「えっと、その、お兄ちゃんの提案の件、なんですけど」


ウメゾノ ミノル
「……今なら最大で七人は外に出られるってやつだね」


ノノハラ ナギサ
「えぇ。お兄ちゃんと仲のいい梅園さんはどう思ってるのかなって」


ウメゾノ ミノル
「その話なら、僕はお断りするつもりだよ」


ノノハラ ナギサ
「えっ……?」






ウメゾノ ミノル
「野々原君が何をしようとしているのか、その様子だと君は知らされてないみたいだね」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんの計画を知っているんですか?!」


ウメゾノ ミノル
「いいや? ただ最大で半数が脱出可能って言葉から想像した結果だから、外れている可能性もあるね。
 ――もっとも、僕としてもこの想像が外れていてほしいと思っているんだけど」


ノノハラ ナギサ
「どういうこと、ですか?」


ウメゾノ ミノル
「あることないこと言って他人の評価を貶めるなんて人としてあるまじき行為だから、あまり詳しくは言いたくないんだけどね。
 僕の想像が正しいこと前提で言っていいなら、君のお兄ちゃんは、脱出できない半数を文字通り切り捨てるつもりだってことだよ」


ノノハラ ナギサ
「切り捨てる……?」


ウメゾノ ミノル
「そう。脱出できるのは七人だけ。残りの七人は、ここで死ぬ。
 僕の想像している、最大半数が脱出できる方法を実践すればね」


ノノハラ ナギサ
「そんな……」


ウメゾノ ミノル
「本人に確かめてみるのが一番手っ取り早いんだけど、君に知らされていないってことは、野々原君は今は君に教えるべきじゃないって考えてのことなんだろうし。
 僕はその意見を尊重させてもらうよ。君を介しての追及をするつもりはないさ。
 僕の想像が間違っていて、全員生き残れるけど、先に七人が脱出できて、残る七人は救助を待つ、っていう展開を野々原君は考えているのかもしれないし。
 だけど、僕は僕の想像が正しいと思う限り、野々原君の提案に乗るつもりはないし、慧梨主と亜梨主にも乗らせはしないよ」


ノノハラ ナギサ
「そう、ですか……。わかり、ました……」






 ……お兄ちゃんが何を考えているのか、確かめてみる気にはなれなかった。
 お兄ちゃんがあたしに何も言わないのは、あたしを信用していないからだ、なんて思いたくないのに、お兄ちゃんに聞いてしまったら、それを認めたことになってしまう。
 そうなったら、お兄ちゃんがもっと遠くなる。






 寒い。




 寒い。





 寒い寒い寒い寒い寒い!









 ――寒いよ、お兄ちゃん。






――自由行動(野々原渚単独)が終了した。親密度に変化はない。





 消灯時間になって、わたしは慣れてしまったベッドに倒れこんだ。



コウモト アヤセ
「ふぅ……」



 いろいろあったけど、このまま何もなければずっと平和に暮らせる、そんな気がする。
 澪の拘束については、もううやむやになっちゃったみたい。
 でも、監視という名目で、わたしが澪の傍にいることでみんなの気が収まればと思う。







 ――わたしは忘れていた。というより、意識したくなかっただけかもしれない。
 コロシアイを望むモノクマ、ひいては黒幕が、膠着を望むわけがないのに。






 電子生徒手帳に着信が入る。
 以前の動機ビデオと同じだ。
 私の家がなくなっていて、家族も離散している、なんていうあり得ない内容だったけど。
 綾小路さんはあんなものを真に受けて、あんな強行に出たんだ。
 じゃぁ、今回も……?






 メールに添付されている動画を再生した。






モノクマ
「さーて皆様お待ちかね! 動機ビデオの時間だよ! 今回のネタはこちら!
 『他人に知られてはならない秘密』! 人間生きてりゃ秘密の一つや二つありますが、今回は特にやばいネタを用意させてもらいました!」



 秘密って言われても……、わたしにはやましいことなんて何もないし……。
 あ、でも、コロシアイの動機にするってことは、誰かを殺してでも内緒にしたい秘密を持っている人がいるってことに……。






モノクマ
「期限は七日! もし七日後までに殺人が起きなければ、オマエラの秘密を、オマエラにとって最も知られたくない相手に暴露しちゃいまーす!」



 なんて悪質な……。



モノクマ
「え? どんな秘密なのかって? それは、ひ・み・つ☆」



 あ、ちょっとイラっと来た。



モノクマ
「どう? どんな秘密を暴露されるのかわからない絶望! 堪らないよねぇ!
 ……でも安心しなよ。オマエラ自身の秘密はオマエラには教えないけど、オマエラのうちの誰か一人の秘密は、先に教えてあげるからさ!」



 ……どういうこと?



モノクマ
「それじゃ、ここからは個人向けのメッセージだよ! 超高校級のピアニスト候補生、河本綾瀬さん!
 オマエには、超高校級の幸運候補生、野々原澪の秘密を特別に教えちゃいます!」



 澪の、秘密?






モノクマ
「それは――」



 澪の秘密は……。



コウモト アヤセ
「えっ……?」



 信じられない、ものだった。






――本日はここまで。


――漢の浪漫イベントは……、これを書いていた当時のテンションがよくわかりません。多分素面じゃなかったんでしょう。


――リクエストをしてくださった皆様、これはリクエストに応えられたでしょうか?


――そうであったなら幸いです。


――それでは、おやすみなさいませ。





――「キーン、コーン…カーン、コーン…」



モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
 さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ~!」





オモヒト コウ
「……朝、か」



 昨日の消灯時間に、モノクマからの動機が送られてきた。
 俺に送られたのは、朝倉巴の秘密。



オモヒト コウ
「阿鎖久羅人形劇団……。これが本当に人を殺す理由になるのか?」



 内容は、『朝倉巴は阿鎖久羅人形劇団の生き残り』だった。
 事情を知らない俺にとっては何のことかさっぱりわからないが、朝倉にとっては他人に知られたらまずい秘密なんだろう。






 楽観視するつもりはない。
 おそらくは、公表されれば社会的に死んでしまうような、そういう秘密なんだ。
 これを本人に直接問いただすのはモノクマの思うつぼだろう。
 誰にも知られたくない秘密を知っている人間が分かったら、口封じに出る人間が出るかもしれない。
 あるいは、誰が自分の秘密を知っているのかを問いただそうとして余計な不和を生むかもしれない。
 ……まったく、つくづくいやらしい手を使ってきやがるな、モノクマの奴は。






 ひとまずは食堂へ行って、みんなと相談した方がよさそうだな。
 そのあと、朝倉の秘密について、つまり阿鎖久羅人形劇団について何か知ってそうなあいつに聞いてみるか。






 食堂へ向かった。





 ……やはりというか、空気が重い。
 この中の誰か一人が自分の重大な秘密を知っていると思うと、気が気じゃない。
 自分の秘密はなんなのか、誰が知っているのか。


 コロシアイを強要されている状況でそれを気にしないでいられるほど能天気でいられるのは――、



ナナ
「なんだかいつもより静かな朝ね」


ノノ
「お兄ちゃんもお姉ちゃんもみんな元気がないみたいだね」



 状況を理解できていないか――、



ノノハラ レイ
「そんな辛気臭い顔して朝食はよそうぜ。葬式みたいじゃん」



 頭のネジがどこかへ行っているか、だ。





――短いですが本日はここまで。


――時間があれば来週も投稿します。





オモヒト コウ
「……お前な、動機ビデオを見なかったわけじゃないんだろ?」


ノノハラ レイ
「当り前じゃない。でもだからってどうしようもなくない?
 モノクマに秘密を握られてる時点で漏洩を防ぐなんて無理だろうしさ」


オモヒト コウ
「だからって言い方ってもんがあるだろうが」



 いちいち人の神経を逆なでするような振る舞いは、多分わざとなんだろう。
 コロシアイを防ぎたいと口では言っておきながら、実際は起きるように煽っているんじゃないか?




マスタ イサム
「いい加減にしろよ。そういう風にいがみ合ってたらモノクマの思うつぼだろ。
 どっちも頭冷やせ」


オモヒト コウ
「……あぁ、悪かったよ」


ノノハラ レイ
「ボクは元から冷静なんだけどねぇ。
まぁいいや、おとなしく今後のことでも考えてあげる」



 ……そうだ。モノクマの狙いはこうやってお互いの敵愾心を煽ること。
 自分の秘密をすでに誰かが知っているという不安、それを他人にばらされやしないかという疑心で気が立っている。
 そんな精神状態なら、些細な出来事でも殺人に発展しかねない。頭に血が上って、なんていうのは実際によくある話だ。






コウモト アヤセ
「でも実際、どうすればいいのかわからないっていうのはある、かな」


ノノハラ ナギサ
「綾瀬さん?」


コウモト アヤセ
「誰がどんな秘密を知っているのかがわからない以上、下手な対策は逆効果だと思うの。
 下手に暴露しあってギスギスするよりも、いっそ何もしない方がいいんじゃない?」



 河本の言いたいことも分からなくはない。
 秘密について誰かに相談しようとしたら、それが逆鱗に触れて殺人に発展、なんてことも十分にあり得る。






サクラノミヤ アリス
「でもそれって随分消極的じゃない?
 何もせず秘密が暴かれるのを待って、その後はどうするわけ?
 コロシアイの動機になるような他人の秘密を知って、今まで通り生活しろって?
 冗談じゃないわ」


サクラノミヤ エリス
「お姉さま、それは言いすぎです!」



 それがこの動機のいやらしいところだ。
 たとえ殺人が起こらなかったとしても、暴かれた秘密によって相互不信は避けられない。
 いくら弁明したところで、余計に心証を悪くするだけ。
 つまりこの動機は、期限までに殺人が起きようと起きまいと、殺し合いの首謀者にとって都合のいい展開にするわけだ。






タカナシ ユメミ
「七日もあればなんとかなるよ、お兄ちゃん!」


アサクラ トモエ
「確かに七日もあればいろいろ準備もできるよね。ほんとに、いろいろ」


ユーミア
「含蓄のある言い方はおやめになったらいかがです?
 確かに七日もあれば対策の準備もできるでしょうが、殺人の準備も十分に整えられるでしょうね」



 七日。対抗策を思いつかないかもしれないのに、殺人を企てている者にとっては、殺人の準備をする時間も、殺人を決心する時間も十分に取れる期間だ。
 これが二十四時間以内とかだったら、殺人に踏み切れないまま時間が過ぎたかもしれないのに。







ナナ
「でも、このビデオって本物なのかしら?」


オモヒト コウ
「――どういうことだ?」



 殺し合いの動機として、相手を脅迫するのに、わざわざ捏造なんてするのか?
 いや、あれほど自信満々に言うんだろうから、きっと事実なんだろう。







ナナ
「ナナのビデオには伊織お姉ちゃんのヒミツがあったの。
 『七宮伊織は綾小路咲夜を呪い殺した』って
 咲夜お姉ちゃんを殺したのは柏木お姉ちゃんでしょう?」






――本日はここまで。遅れて申し訳ありません。


――時間があれば今週中にもう一度更新するつもりです。





ナナミヤ イオリ
「……っ!」



 伊織が咲夜を呪い殺した?
 そんな馬鹿な。あり得るはずがない。
 なら顔面蒼白になっている伊織の反応について、俺はどう説明すればいいんだ?



オモヒト コウ
「……どうしたんだ、伊織? 嘘、なんだよな?」


ナナミヤ イオリ
「それ、は……」


ノノハラ レイ
「……そういえば、咲夜さんが殺された事件のアリバイに関して、言葉濁してたよね。
 なるほど、呪殺しようとしていたのなら納得がいくよ。さすがにそれを大っぴらには言えないよね」






オモヒト コウ
「お前、聞いてたのか」


ノノハラ レイ
「そりゃまぁ、同じ部屋だったんだし。ボクの記憶力は知ってるでしょ?
 耳に入ってきた言葉は通り抜けられないんだよね、ボクの場合」


オモヒト コウ
「だからってお前なぁ……!」


ノノハラ レイ
「で、どうなのさ七宮さん?
 キミの答えによってはボクらの今後にも影響が出るんだけど?」


オモヒト コウ
「聞けよ。
 ……伊織、答えたくないなら答えなくていいんだぞ」


ナナミヤ イオリ
「……いえ、これは、話さなければならないのでしょうね」



 伊織は、諦めたような顔をしていた。








ナナミヤ イオリ
「私は、事件があったあの日、綾小路さんを呪い殺すための儀式をしていました」







オモヒト コウ
「……ッ!」



 嘘であってほしかった。
 俺は、伊織に、否定してほしかった。
 咲夜を殺したはずがないと。
 でも、それなら説明がつく。
 俺に対する裏切り、それはコロシアイを否定する俺に対し、咲夜に殺意を抱き、それを実行したこと。








オモヒト コウ
「……たとえそれが事実であったとしても、実際に咲夜を殺したのは柏木だったはずだ。
 だから伊織は咲夜を殺してなんかいない、そうだろ?」



 あの時、伊織が時が来たら話すと言った。
 そしてあの時、俺は伊織を許すと言った。
 なら、ここで俺がすべきことは一つ。
 非難されるであろう伊織を守ること、だ。




更新待ってました。




ノノハラ レイ
「わかってないなぁ。だからこそ問題なんだよ?」


オモヒト コウ
「なんだと?」


ノノハラ レイ
「ナナちゃんの証言が正しいなら、咲夜さんを殺したのは実際には七宮さんってことになるよね?
 それなら本当のクロは七宮さんのはずだ。それなら、学級裁判の判決が根底から覆らないかなぁ?」


オモヒト コウ
「何が言いたい」


ノノハラ レイ
「クロとしてオシオキされたのは柏木さん、だっけ?
 とにかくその人が処刑されたおかげでボクらは生き残ったわけじゃない。
 でも間違った人物をクロとして指名した場合、ボクらは死ぬんだよね?
 そこんとこハッキリさせておかないと、いけないんじゃないかとボクは思うんだよ」


オモヒト コウ
「……要するに、学級裁判の判決か動機ビデオの内容のどっちかが嘘だって言いたいんだろ?」


ノノハラ レイ
「どうかなぁ。ボクはどちらも真だと思うけど。それがどういうことを意味するのかはさておきね」


オモヒト コウ
「……モノクマ、見てるんだろ?
 どうなんだよ、今の話」








モノクマ
「うぷぷ! いいですね! 実にいい感じですね! 最高にギスギスしてますね!」


オモヒト コウ
「俺の質問にだけ答えろ。
 動機ビデオの内容が事実であるという証拠はどこにある?」


モノクマ
「……それがクマにものを頼む態度なのかなー?」


オモヒト コウ
「黙るなら黙るでいいさ。
 その時は俺はお前のことを、『平然とプレイヤーに嘘をつく最低のゲームマスター』として認識するだけだ。
 そんな奴の開催するデスゲームに、誰が従ってやるかよ」



 動機ビデオの内容が嘘なら、モノクマは偽りの動機で俺たちに殺し合いをさせようとしていたことになる。
 そうなれば、今後モノクマが殺人の動機として提示してくるものに一切の信ぴょう性がなくなるから殺人は起こらないだろう。
 学級裁判の判決が嘘なら、モノクマは自分にとって都合のいい展開にするためなら判決だって翻すと言っているようなものだ。
 これでも殺し合いは起きようがないだろう。







モノクマ
「うぷぷ、良い目をするようになったね。シュジンコウクンの面目躍如ってところかな?
 ここで証拠を出してあげても、それはそれで面白いんだけど、それじゃ期限を設けた意味がなくなっちゃうからね。
 証拠は期日になったら付いてくるよ。誰にも知られたくない秘密と一緒に、ね。
 だからオマエラに配った動機ビデオの内容も事実だし、当然学級裁判の判決だって本当なんだよ?
 ボクってば、クマ一倍公平公正にはうるさいんだよね!」


オモヒト コウ
「じゃぁ何か? 咲夜は伊織と柏木の両方に殺されたってことなのか?」


モノクマ
「……そうとも言えるし、そうじゃないとも言えるかな。
 ま、どう解釈するかはオマエラの好きにすればいいよ!
 じゃ、バーイクマー!」



 いつも通り、モノクマは唐突に表れて唐突に去っていった。








ノノハラ レイ
「……さて、じゃぁ七宮さんの処遇なんだけど、どうすればいいかな?」


オモヒト コウ
「どうするもないだろ。何もしなくていいんだよ」


ノノハラ レイ
「どうして? 呪いとはいえ他人を殺したんだぜ? そんな人間とこれからも共同生活しろっていうのかい?」


オモヒト コウ
「さっきも言っただろ。咲夜を殺したのは柏木だ。
 そもそも、伊織が呪いの儀式を行ったからって咲夜がそれで死ぬとは限らないだろ」


ノノハラ レイ
「覚えてないの? モノクマが殺害方法の例として呪殺を取り上げてたでしょ?
 それって、普通の法律では認められていない呪いによる殺人を、モノクマは認めてるってことでいいんじゃないかな?」


オモヒト コウ
「実際に手を下したのは柏木だ。伊織が行った儀式と、柏木の犯行との因果関係はまるでない」


ナナミヤ イオリ
「もうやめてください!」



 ――不意に、伊織の叫び声がした。








ナナミヤ イオリ
「……もう、いいです。……ごめんなさい」



 それだけ残して、伊織は食堂を後にした。



オモヒト コウ
「……俺は伊織と話をしてくる。ついでに同行も調べておく。それでいいな?」


ノノハラ レイ
「まだ何も言ってないよ。
 けどまぁ、良いんじゃないかな。反対する理由もないしね」


タカナシ ユメミ
「あたしもついていくよ、お兄ちゃん」


オモヒト コウ
「夢見?」


タカナシ ユメミ
「理由がどうあれ、方法がどうあれ、あの女は人殺しかもしれないんでしょ?
 そんな奴と二人きりなんて危険すぎるよ! お兄ちゃんが何と言おうとあたしはついていくからね!」


オモヒト コウ
「お、おう……、俺を、心配して言ってくれてるん、だよな?」


タカナシ ユメミ
「あったり前じゃない! だってあたしはお兄ちゃんのことが大好きなんだもん!」


オモヒト コウ
「……わかった。けど、あまり刺激するんじゃないぞ?」


タカナシ ユメミ
「わかってるって! あたしはただ黙ってお兄ちゃんについていくだけだから♪」









ノノ
「なんか、おいてけぼりになっちゃったね」


ナナ
「これっぽっちもおもしろくないわ。言わないほうがよかったかしら」


アサクラ トモエ
「そうかな? いずれ秘密はばれちゃうんだし、それが早いか遅いかってだけだったと思うけど」


マスタ イサム
「事故みたいなものだろ。気にしない方がいいぞ」







ウメゾノ ミノル
「……うん、決めた。これから重大発表を行います!」


サクラノミヤ アリス
「は?」


サクラノミヤ エリス
「お兄さま? どうしたんですかそんな藪から棒に」


サクラノミヤ アリス
「どうせ大したことじゃないでしょ」








ウメゾノ ミノル
「今夜、マジックショーを開催するよ!
 20時になったら別館の多目的ホールに全員集合ね!」







――本日はここまで。


――>>257様 大変長らくお待たせしてしまいました。


――『時間があれば今週中にもう一度更新』などと言っておきながら実際は一週間遅れ……、返す言葉もございません。


――基本的に筆がとても遅いので、気長にお待ちいただければ幸いです。







サクラノミヤ アリス
「……突然何言いだすワケ?」


ウメゾノ ミノル
「さっきから動機ビデオがどうとか、みんな元気なさそうだしさ。
 パーッと明るくしたいじゃん?」


サクラノミヤ アリス
「とか言って、また何かろくでもないこと企んでるんじゃないでしょうね?」


ウメゾノ ミノル
「疑われるのは心外だよ。そりゃまぁ、僕のマジックの腕なんてたかが知れてるかもしれないけどさ」


サクラノミヤ エリス
「私はいい考えだと思いますよ、お兄さま」






ウメゾノ ミノル
「そういうワケだから、今日のところは多目的ホールを使わないでほしいんだ。
 いろいろ準備をしておかなきゃいけないからさ」


ユーミア
「飾りつけならお手伝いしますが?」


ウメゾノ ミノル
「いや、いいよ。準備って言ってもタネを仕込むぐらいだし。むしろ一人の方が好都合なんだ。
 リハーサルもしておきたいしね。だから20時まで多目的ホールは締め切るつもりなんだけど」


ナナ
「えー、つまんなーい」


ノノ
「そのマジックショーがつまらなかったらどうしようかなー?」


ウメゾノ ミノル
「期待は裏切らないと思うよ。あまり高望みされすぎたら困るけど」







ウメゾノ ミノル
「じゃ、そういうことで。
 覗きに来ちゃイヤだぜ」


ノノハラ レイ
「……そういわれると行きたくなっちゃうんだよなぁ」


コウモト アヤセ
「澪……」


ノノハラ レイ
「わかってるって。行かないよ。
 じゃ、ここにいない公と小鳥遊さんと七宮さんにはボクから伝えておくよ」


マスタ イサム
「……いや、俺がやる。余計なことを吹き込まないようにな」


ノノハラ レイ
「イマイチ信用されてないなぁ」


ノノハラ ナギサ
「それはお兄ちゃんの自業自得だと思う」


ノノハラ レイ
「ハハッ、返す言葉もないねぇ」




―――


オモヒト コウ
「伊織、開けてくれ! 俺の話を聞いてくれ!」

 固く閉ざされた伊織の部屋の扉を前に、俺は声を張り続けていた。







 何度呼び掛けても、返事はまるでない。
 それでも、俺は――。








タカナシ ユメミ
「あー、もう! じれったい! お兄ちゃん、ちょっとどいて!」



 しびれを切らした夢見が、ポケットから見たこともない金具を取り出してドアの金具をいじり始める。



――ガチャ



 ものの数分で、冗談のように、ドアが開いた。






タカナシ ユメミ
「ちょっと! お兄ちゃんに迷惑かけてないでいい加減出てきなさいよ!」


オモヒト コウ
「お、おい、それ無理矢理鍵を開けたやつが言うセリフじゃないだろ……っ?!」



 夢見が乱暴に開けたドアの先には、ロウソクの明かりでほのかに照らされた伊織の姿があった。
 その服装はいつもの巫女服ではなく、真っ白で左前の――



ナナミヤ イオリ
「あぁ、やはり、来てしまったんですね」



 儀式の祭壇の中心に、死に装束を着て、片手に日本刀を携えている。
 その目は深く暗い闇の底のように淀み、目の前にいる俺の姿を映しているのかもわからない。
 ある種の美しさすらも感じるそれは、自らを人柱とするための準備をしているようにしか見えなかった。






――本日はここまで。


――気が付けば二か月弱放置……っ! 不覚……っ! 圧倒的不覚……っ!


――それもこれもザンキゼロってゲームが悪いんだっ! ……なんて言い訳になりませんが。


――気長にお待ちいただければ幸いです。


――おやすみなさい。





オモヒト コウ
「伊織……、お前、それは……!」


ナナミヤ イオリ
「……見ての通りよ。この身を神に捧げることで、許しを請う儀式の準備をしていたの」



 伊織は笑っていた。
 すべてを諦めてしまったような、そんな笑みだ。






ナナミヤ イオリ
「貴方が私を許してくれた時、とても嬉しかった。
 けれど、私はそれを裏切ってしまったの。コロシアイを否定している貴方を」


オモヒト コウ
「……咲夜を殺そうとしたこと、か?」


ナナミヤ イオリ
「綾小路さん……。私はあの人が……、あの女が妬ましかった……。
 私だけを見てほしいのに……、貴方は……、あの女の事ばかり……。
 そして今は、その隣に私がいない……!」


タカナシ ユメミ
「お生憎様、お兄ちゃんの隣にはあたしがいるだけで十分なの。ね、そうでしょ? お兄ちゃん?」



 ……頼むから夢見は空気読んでくれないかな。
 なんて口が裂けても言える雰囲気でもないが。
 今は伊織の話を聞くことだけに集中するんだ。







ナナミヤ イオリ
「私は神を裏切って、貴方とともにいることを選んだ。信仰よりも、貴方を。
 それなのに私は、醜い嫉妬で貴方さえ裏切って……」


オモヒト コウ
「だから、命で償おうっていうのか?」


ナナミヤ イオリ
「いいえ……、この罪は何をしても贖えるものじゃないわ……。それに――


 ――私がもう、生きていたくないもの」







ナナミヤ イオリ
「貴方にはもうこれ以上他の女で穢されて欲しくない。
 この身が張り裂けそうだから、貴方の心も体も、私だけのものにしたい。
 そう思えば思うほどに、私も他の女と同じく貴方を穢してしまっているのだと……。
 そんな思いは、もうしたくないの」







オモヒト コウ
「俺は、それでも伊織に生きていてほしい。伊織が死ねば、俺は悲しい。俺はそう言った筈だ。それは今も変わらない。
 嫉妬なんて人間なら誰だってするさ。それを汚らわしいだなんて俺は思わない。
 神や俺を裏切ったことで伊織が伊織自身を許せなかったとしても、神が伊織を許さなかったとしても、俺は伊織を許すよ。
 確かに人を呪い殺そうとしたことは褒められたことじゃないが、実際に人を殺したわけじゃない。
 俺だって、こんな奴死ねばいいとか、心の中で思ったことぐらいはあるさ。
 呪っただけで人を殺せるなら、この世は死体であふれてるはず、そうだろ?
 まして伊織はその行為を後悔してるんだ。真摯に反省しているんだったら、神様だって許してくれるって」


ナナミヤ イオリ
「……いつか、そう、貴方が食事中に倒れる前、私は貴方を、貴方だけを見ていた」



 澪が俺にサドンデスサプリを盛ったあの事件か……。
 できれば思い出したくなかったな。



ナナミヤ イオリ
「それが神のお告げだと、あの時貴方に言ったけれど……。おかしな話でしょう?」









ナナミヤ イオリ
「私にはもう、神の声など聞こえないというのに」






――本日はここまで。


――無事復旧できてよかったですね。


――誠に遅筆でご迷惑をおかけすると思いますが、これからもどうぞ御贔屓に……。


――それでは、おやすみなさいませ。





――お待たせして申し訳ございません。



――12月8日の投稿まで今しばらくお待ちくださいませ。






オモヒト コウ
「それって、どういう……」


ナナミヤ イオリ
「言葉通りの意味よ。今の私には神の声など聞こえていないの。
 そんな女が“巫女”だなんて、笑い話にもならないでしょう?」


オモヒト コウ
「じゃぁ、どうしてあの時俺のことを見ていたんだ?」


ナナミヤ イオリ
「……私がそうしたかったから」


オモヒト コウ
「え……?」






ナナミヤ イオリ
「神託などではなく、ただの私の願望だったの。
 神にこの身を捧げた私が、あなたを愛してしまったときから聞こえなくなって、
 再び聞こえてきたと思ったものは全て」






タカナシ ユメミ
「――アッハッハッハ!」


オモヒト コウ
「ゆ、夢見?!」


タカナシ ユメミ
「前から頭おかしいと思ってたけど、そこまでだったなんて!」



 夢見は、狂ったように笑っていた。あの時のように。
 ――あの時っていつだ?





タカナシ ユメミ
「そうやって純情ぶってお兄ちゃんにすり寄って悲劇のヒロインぶって!
 ムカツクのよ!」



 夢見は大きな裁ち鋏を構えていた。その切っ先は、人に突き刺せそうなほど鋭い。
 どこかで見たような光景だ。どこだ?いつだ?
 頭が痛む。目の前が赤く染まっていく。






タカナシ ユメミ
「あんたがここでどう死のうと勝手だけど、それじゃお兄ちゃんの心の中にあんたの存在がしこりとして残っちゃうじゃない!
 そんなの絶対に許さない! お兄ちゃんの傍にいていいのも、心の中にいていいのも! あたしだけなの!」


ナナミヤ イオリ
「……そうね、そうでしょうね。私は貴方が羨ましかった。堂々とあの人に触れ合える貴方が。
 あの人の傍にいられる貴方が妬ましかった。
 ――あの人と一緒に居られる貴方が疎ましかった」



 ヒートアップしている二人を前に、俺はどこか他人事のようにこの光景をとらえていた。
 目の奥がチリチリと痛む。
 思い出してはいけない記憶が氾濫してくるかのような、思い出さなければならない記憶が抑圧されているような、そんな気がする。
 二人の喧騒が遠くに聞こえてくる。頭が痛い。






ナナミヤ イオリ
「――だからこれからは、自分に正直になろうと思うの。
 貴方に消えてほしいという、この気持ちに」


タカナシ ユメミ
「上等じゃない! あたしとお兄ちゃんの前から消えるのはあんたの方よ!」



 お互いに凶器を構え、今にも殺し合いが始まろうとしているというのに、今の俺には何もできない。
 どうすればいいかわからないだとかそういった次元ではない。
 押し寄せる頭痛と吐き気とめまいで平静を装うのがやっとだ。
 正直立っているのもつらい。
 だから、お互いに切りかかる二人を止めることなんてできるわけがなかった。



 伊織の刀と夢見のハサミが交錯し――







 ――それらを真っすぐに飛んできた槍が弾いた。






 二人の武器はあらぬ方向へ弾き飛ばされ、床に転がっていく。
 予想外の出来事に、俺も、夢見も、伊織も、呆気にとられていた。



マスタ イサム
「梅園がマジックショーをするそうだ。20時に別館の多目的ホールに集合だとさ」



 開けたままになっているドアから文字通りの横槍を投げ入れてきた増田は、その槍を回収しながら何事もなかったかのように言った。



マスタ イサム
「これが俺に支給された極上の凶器、携帯槍さ。普段は15センチで、最大まで伸ばせば1.5メートルになる」



 携帯電話のアンテナのようになっているようで、最も細くなっている石突から穂先へ向かって柄が収納されていく。
 穂先にキャップをかぶせれば、とても槍には見えないだろう。



マスタ イサム
「俺は誰かを殺すつもりはない。だが誰かに殺されるつもりもない。
 だからこれはいつも携帯するようにしていたんだが……、まさかこんな形で役に立つ日が来るとはな」



 俺の目の前の危機に颯爽と現れて、いつもの調子で話す増田が、逆光もあってか眩しく見える。






マスタ イサム
「少しは頭が冷えたみたいだな。要件は伝えたから、あとは自分で何とかするんだぞ」



 そういって、増田は部屋から立ち去って行った。
 その言葉は多分、俺に向けられているのだろう。
 本来ならば、俺が止めなければならなかった場面だったのだから。



ナナミヤ イオリ
「……ごめんなさい。少し、頭に血が上っていたみたい」


タカナシ ユメミ
「ゴメンお兄ちゃん。あたしもちょっとどうかしてた」


オモヒト コウ
「いや、いいんだ。誰だって冷静さを欠くことの一つや二つはあるだろうさ」


タカナシ ユメミ
「お兄ちゃん、なんだかすごく顔色が悪いけど、大丈夫?! どこか怪我でもしたの?!」


オモヒト コウ
「――何でもない。大丈夫さ。あぁ、何でもないんだ」



 あの時に感じた不快感は、ここでの生活が始まってから何度も経験しているあの感覚だ。
 すでに慣れ始めてしまっている自分が怖くもあるが、それよりも殺し合いを防ぐことの方が大事だ。



ナナミヤ イオリ
「悩み事があればいつでも相談に乗りますからね?」


タカナシ ユメミ
「こんな頭のおかしな女よりあたしの方が適任だよ! ね? お兄ちゃん♪」


オモヒト コウ
「……いや、問題ない。俺は大丈夫だから、二人とも喧嘩するのはよしてくれ。
 伊織は必要以上に自分を責めなくていいし、夢見は必要以上に煽らなければいい……。
 それで、良いんだ」



 少しふらつきそうになるが気合で持ちこたえる。
 少なくとも、自分の部屋のベッドまでは倒れるわけにはいかない。



オモヒト コウ
「……あぁ、そうだ、夢見。モノクマがうるさいだろうから、それ、ちゃんと直しておけよ」



 本来鍵がかかっているのを無理矢理こじあけたのだから、校則違反ともとらわれかねない。
 ここに至ってもモノクマが出てこないということは、校則違反認定はされていないようだが、念のためだ。



タカナシ ユメミ
「あっ、うん。いや、やっぱり待ってお兄ちゃん! お兄ちゃーん!
 ……行っちゃった」



 夢見の制止を振り切って自分の部屋に戻った。






 ベッドに倒れこんでそのまま瞼を閉じれば、俺の意識はあっさりと薄れていく。
 やはりというか、精神的に限界だったらしい。
 このまま寝すぎて昼食を抜かしてしまうかもしれないなんて悠長なことを思いながら、俺は意識を手放した。






――本来ならば非日常編前まで行きたかったのですが、本日はここまでとなります。


――自由行動のリクエストは随時受け付けておりますので、どうぞお書込みくださいませ。


――それでは、お休みなさい。






―――



 公の部屋から増田クンが出てきた。早速声をかけなくっちゃぁいけないよねぇ。
 余計なことはしたくないけど、しょうがないよねぇ。
 ――“あんなこと”耳にしたら、さ。






ノノハラ レイ
「ひゅ~♪ くぁっこうぃ~♪」


マスタ イサム
「茶化すな。で、何の用だ?」


ノノハラ レイ
「特に用ってわけでもなかったんだけどねぇ。どうなるのかやっぱ気になっちゃって。ただの野次馬気分だったんだけど。
 そしたらさ、ちょっと聞き捨てならないセリフが聞こえてきちゃったからさ、聞かなきゃいけなくなっちゃったんだ」


マスタ イサム
「……それで? 俺に何を聞きたいんだ?」



 ……キミのそういう誤魔化さないところ、嫌いじゃないぜ。






ノノハラ レイ
「じゃぁ単刀直入に聞くけど、なんでキミ凶器二つ持ってんの?」



 綾小路さんの事件の捜査の時、どうして犯人は現場にあった包丁を凶器に使ったのかって話題、増田クンは確かにこう言ったよね?



『支給された凶器が殺人向きじゃなかったから、かもな。現に俺に支給されたのは暗視スコープだ』



 ってさ?





マスタ イサム
「……暗視スコープの方はユーミアからもらったんだよ。『ユーミアには必要ないのでマスターがお持ちください』ってな。
 槍をいつも持ち歩いてるだなんてあの場で言えるわけないだろ?」


ノノハラ レイ
「まぁ、確かにそうだね。その通りだ。うん、アリガト。おかげでスッキリしたよ。
 ゴメンネ? 変な疑いかけちゃったりしてさ?」


マスタ イサム
「構わないさ。裏でコソコソ嗅ぎまわられるよりかはよっぽどマシだ。
 それよりも、さっきのは俺の声真似か? 全然似てないな」


ノノハラ レイ
「……知ってる? 自分が聞いてる自分の声と他人が聞いてる自分の声って、違って聞こえるんだよ?
 他人の声は空気を伝わって鼓膜に入るけど、自分の声は空気と骨を伝わってくるから、微妙に違うんだってさ。
 録音した自分の声を再生すると『こんな声だったっけ?』ってなるのは、そういう理由」


マスタ イサム
「そういう意味で言ったわけじゃないことくらいわかってるだろ?」


ノノハラ レイ
「キミをからかってるつもりはないんだけどねぇ?」


マスタ イサム
「俺がどう受け取るかだ。用は済んだか?」


ノノハラ レイ
「……うん。聞きたいことは大方聞けた。じゃぁね。マジックショーまで暇をつぶすことにするよ」


マスタ イサム
「妙なこと考えてるんじゃないだろうな?」


ノノハラ レイ
「ヒトの出し物に茶々入れるほど無粋じゃないよ、ボクは」



 失礼しちゃうなぁ。まだ何か隠してるのはキミの方なのに。
 これ以上は聞けそうにないから後回しにしておくけど。
 ……さて、別館に行こうかな。ゲームで時間をつぶそう。






ノノハラ レイ
「……飽きた」



 うん、自分が飽きっぽい性格だってわかってたはずなのにね。
 攻略法が分かったらあとは作業になっちゃうのがゲームで遊ぶことの辛いことだ。
 一人で無聊を託つのも癪だし、ここはひとつ、誰かと親睦を深めることにしようか。
 どう言うワケか、イマイチボクの印象が悪いみたいだからさ。



――自由行動 開始――






ユーミア
「――どういう経緯でユーミアのところに来たかはわかりました。
 しかしユーミアは貴方と交流するつもりはありません。マスターにも、二度と近寄らないでくださいませんか?」


ノノハラ レイ
「ツレないなぁ。ボク、キミに何か酷いことしたっけ?」


ユーミア
「よくもいけしゃあしゃあと、そのような軽口が叩けるものですね。
 ユーミアを渚さんのアリバイの証人として利用した。それだけで万死に値するというのに」


ノノハラ レイ
「メイドでしょ? 他人に奉仕するのが仕事なんじゃないの?」


ユーミア
「ユーミアはマスターのメイドです。それ以外の何物でもありません。
 したがって、ユーミアを利用して良いのはマスターだけです」


ノノハラ レイ
「ふぅん? だからそんなに怒ってるんだ。キミ、思ってたよりも感情豊かなんだね」


ユーミア
「……どういう意味ですか?」


ノノハラ レイ
「気づいてないの? キミ、さっきから自分のコト、まるで道具か何かのように言ってるんだぜ?」


ユーミア
「それが何か?」


ノノハラ レイ
「……うわぁ、まさかそこまでだなんて。
 いや、うん。キミがいいなら、それでいいんじゃないかな?」


ユーミア
「なにを一人で納得しているのですか?
 勝手に話しかけて来たくせに、貴方には会話という概念がないのですか?」


ノノハラ レイ
「キミほどじゃないよ、お人形さん。
 精々今の持ち主に飽きられないよう、頑張ればいいんじゃないかな」


ユーミア
「――貴方に言われるまでもない。ユーミアは、ただマスターに尽くすだけです」





 自由行動が終了した。親密度に変化はない。
 なぜだ。






ノノハラ レイ
「――もうお昼か。お腹空いたし、ご飯にしよっと」



 食堂には、梅園クンと慧梨主さんと公以外はみんないるみたいだね。
 梅園クンはわかるとして、慧梨主さんと公がいないのは何でだろ。
 ……、まぁ、大方察しはついてるんだけどね。





サクラノミヤ アリス
「ねぇ、ちょっと。慧梨主見なかった?」


ノノハラ レイ
「いいや? そういえば今朝から見てないね。何かあったの?」


サクラノミヤ アリス
「どこを探してもいないのよ! あたしが傍にいないといけないのに!」


ノノハラ レイ
「そういえば、慧梨主さんはいつも亜梨主さんと一緒に行動してるね。
 でも、たまにはいいんじゃないかな、別々に行動しても。
 慧梨主さんもそういう気分なんだよ、きっと」


サクラノミヤ アリス
「なに悠長なこと言ってるのよ! 慧梨主が事件に巻き込まれたらどうするつもり?!」


ノノハラ レイ
「不穏当なことをいうもんじゃないよ。事件なんて起きてないって」


サクラノミヤ アリス
「どうして断言できるワケ?! あいつが何を企んでるのかも分からないっていうのに?!」


ノノハラ レイ
「まぁまずは落ち着きなって。ほら、深呼吸、深呼吸」


サクラノミヤ アリス
「ふざけるのもいい加減にしなさいよ! もし慧梨主の身に何かあればあたしは……、あたしはっ!」


ノノハラ レイ
「……もし梅園クンがコトを起こすつもりならああやって大々的に宣伝なんてしないよ。
 それと慧梨主さんの失踪が関係しているならなおさらね。
 だってそうでしょ? そんなの、わざわざ『僕を疑ってくれ』と言わんばかりじゃないか」

サクラノミヤ アリス
「それは……、そうだけど」


ノノハラ レイ
「わかったんなら、落ち着いて待ってなって。
 多分キミが思っているよりかは、慧梨主さんは脆弱じゃないんだからさ」







タカナシ ユメミ
「ちょっとお兄ちゃんの様子見に行ってくる」


ナナミヤ イオリ
「私が行きます」


タカナシ ユメミ
「あたしが、行く。あんたは座ってて。どうせあんたじゃ部屋に入れないんだから、行くだけ無駄でしょ。
 あたしなら、もしお兄ちゃんが起きれなくても部屋に入ることができる。この違いが分かる?」


ナナミヤ イオリ
「……」


マスタ イサム
「おい」


ナナミヤ イオリ
「……わかっています。ここは身を引きますが、あの人に妙なことをしたら――」


タカナシ ユメミ
「するわけないでしょ。あたしが、お兄ちゃんに?
 ありえないから。天地がひっくり返っても、太陽が西から昇っても。
 じゃ、行ってくるから」



 ……行っちゃった。逆効果だと思うんだけどなぁ?





――今回はここまでとなります。


――最近忙しくて書く暇が……っ!


――そろそろ非日常編にたどり着きたい!


――……それでは、おやすみなさい。




――申し訳ありません。>>301について修正いたします。


――以下、訂正したものとなります。




――――


 伊織さん部屋から増田クンが出てきた。早速声をかけなくっちゃぁいけないよねぇ。
 余計なことはしたくないけど、しょうがないよねぇ。
 ――“あんなこと”耳にしたら、さ。


――――



――それでは引き続き、ヤンデレロンパをお楽しみください。



――




???
「……一度しか言わないからよく聞きなさい。
 私、■■■■■はあなたのことがす、……す、す……嫌いじゃないわ」



 ……お、おう。そうか。



???
「な……なによ人がせっかく一大告白したのに!
 ……もしかして、今ので通じなかった?」



 あー……、うん。



???
「し、仕方ないわね。庶民にもわかりやすいように言い換えてあげる。
 私はあなたのことがだ……、だ……、大っ嫌いでもないわ!」



 ……えぇー?



???
「ちょ、ちょっと! 私が間違ってるみたいじゃない……!
 嫌いでも、大っ嫌いでもないのよ?! わかるでしょ……!」



 ……つまり、その、俺のことが好きってことでいいんだよな?



???
「……ま、また好きって言った! 好きって……! 好きって……、私に向かって、好きって……!」



 お、おい大丈夫か? 過呼吸になってるぞ?






???
「あなた、私を萌え殺す気?」



 いやいや、なんでそうなるんだよ。



???
「そうね、そうに違いないわ!
 ……危なかったわ。気が付かなかったら危うく命を奪われるところだったわね」



 おーい、聞いてますかー?
 おーい?



???
「でも残念ね。この程度で私を倒そうなんて百年早いわ。
 あなたはもう私のもの、歯向かうことは一生できないんだから!」



 ……聞いちゃいないな。帰ろう。



???
「逃げようとしても無駄よ。部屋にはこのオルトロスがいるんだから。私の自慢の軍用犬よ。
 あなたが大人しくこの部屋にいる限り、オルトロスは危害を加えたりしないわ」



 その割にはしきりに吠えてきてないか?



???
「……でも、あなたが少しでも逃げるようなそぶりを見せたら……。わかってるわよね。
 訓練された軍用犬には、人間は勝てないわよ。逃げようとさえしなければ、この子は全然危険じゃないから、可愛がってあげてね」



 今にも思いっきり噛みつかれそうだよ。っていうか学校はどうするんだよ、学校は。






???
「学校? そんなもの必要ないわ。
 ――ここからは誰も逃げられないんだから。あなたも、私も」



 ……そうか、これは夢なんだな。
 俺の目の前にいる■■の腹部に包丁が突き刺さっているのも、威嚇してるドーベルマンがあらぬ方向に首を曲げて黒焦げになっているのも。
 夢だからあり得る光景なんだ。
 ……それなら話は早いな。
 早く起きろ俺!






オモヒト コウ
「……ハッ!」


タカナシ ユメミ
「あっ♪ おはよー、お兄ちゃん♪」



 ……なんで俺は夢見に膝枕されているんだ?




オモヒト コウ
「……夢見、正直に答えてくれ。俺の部屋の鍵、どうした?」


タカナシ ユメミ
「あたしの愛の力でパパ~っと開けたんだよ♪」


オモヒト コウ
「……そっか」



 間違いなくピッキングしたんだろうなぁ。どうなってるんだよこのホテルのセキュリティ。



オモヒト コウ
「それで、今何時だ? 夢見が俺の部屋にいるってことは、起こしに来たって考えていいんだよな?」


タカナシ ユメミ
「うん。でもあんまりにも無防備な寝顔だったから……、起こすのも忍びないかな~って!」


オモヒト コウ
「できればもっと早く起こしてほしかったな……。で、そろそろ起きたいんだが、なんで俺は頭を押さえられてるんだ?」


タカナシ ユメミ
「どんな夢見てたの?」


オモヒト コウ
「それは……」


タカナシ ユメミ
「それは?」



 ……下手なことを言えば何をされるか分かったものじゃないな。そんな顔をしている。



オモヒト コウ
「よくわからない夢だったよ。そんなもんだ、寝てる間に見る夢なんて」


タカナシ ユメミ
「ふ~ん? あたしは毎晩毎晩お兄ちゃんの夢を見るのにな~♪」


オモヒト コウ
「……夢見、そろそろ昼食を摂りたいんだが?」


タカナシ ユメミ
「うん、一緒に食べよっか♪」



 夢見に連れられるがまま、食堂へ向かった。
 ……夢見が見る夢の内容については聞くまい。





オモヒト コウ
「……夢見、そうくっつかれると食べづらいんだが」


タカナシ ユメミ
「無理しなくていいんだよお兄ちゃん。具合悪いんでしょ? あたしが食べさせてあげるから」


オモヒト コウ
「今はもう平気だから、心配いらないって」


タカナシ ユメミ
「……辛かったら無理しないでね? あたしはお兄ちゃんが心配で言ってるんだから」


オモヒト コウ
「わかってる。ほら、夢見も食べろよ」


タカナシ ユメミ
「あ! ひょっとして『あーん』してくれるの?!」


オモヒト コウ
「しないからな? 流石に公衆の面前でそんなことはできないからな?」


タカナシ ユメミ
「……じゃぁ二人っきりの時になら!」


オモヒト コウ
「……考えておく」


タカナシ ユメミ
「やったぁ♪」



 ……なんだか取り返しのつかない約束をしてしまった気がするぞ?
 寒気がするのは気のせいか?




 さて、とりあえず食事は摂った。
 とりあえずはあいつに聞いておかなきゃならないことがあるな。
 朝はゴタゴタして聞けなかったことを。



オモヒト コウ
「なぁ、澪。話がしたいんだが」


ノノハラ レイ
「いいのかい? あんなにお熱いことしてたのに、ボクを誘ったりして」


オモヒト コウ
「茶化すなよ。……動機について、聞きたいことがあるんだ」


ノノハラ レイ
「……期限まで余計な詮索はしないんじゃなかったっけ?」


オモヒト コウ
「お前の発言の中で、気になる点があるんだ。それを確認するだけだよ」


ノノハラ レイ
「……へぇ? じゃ、二人きりの方が都合がいいね。どこで話そうか?」


オモヒト コウ
「ゴンドラリフトの中ならどうだ? 時間に制限はつくが」


ノノハラ レイ
「個室で二人きりは、あらぬ誤解を招くからね。それでいいと思うよ。手短に頼むぜ?」


オモヒト コウ
「……お前の返答次第だよ」



 リフト乗り場へ向かった。





ノノハラ レイ
「ボクら以外に乗客はいないね? ……じゃ、出発だ」



 澪がドアを閉めると、ゴンドラリフトが動き始めた。
 ここから10分間、この移動する密室には俺と澪の二人だけ。誰かに盗聴されることはない。



オモヒト コウ
「早速だが、“阿鎖久羅人形劇団”について、何を知ってる?」


ノノハラ レイ
「……へぇ? キミのところには、朝倉さんの秘密が来たんだ。
 それで、直接本人に聞くでもなく、事情を知ってそうなボクに、と」


オモヒト コウ
「察しが早くて助かる」



 澪は、朝倉に糸で縛られたとき確かに言っていた。



『朝倉……、そう、ははっ、アサクラ、阿鎖玖羅ね。そういう事』



ノノハラ レイ
「それで? 詳しくはどう書いてあったの?」


オモヒト コウ
「『朝倉巴は阿鎖久羅人形劇団の生き残り』だそうだ。……朝倉は一体何者なんだ?」


ノノハラ レイ
「うーん、どう言ったらいいかな。ちょっと説明に時間かかっちゃうかも。
 あるいは、引き返すなら今の内だぜ、とだけは言っておいてあげるよ」


オモヒト コウ
「構わない。話してくれ。知っていることは全部」


ノノハラ レイ
「まぁ、前置きをした割にはボクも大したことは知らないんだけどね。
 阿鎖久羅――あぁ、いや亜桜だったかな? まぁいいや。その人形劇団は要人暗殺や破壊活動を生業とする集団で、アサクラはそれを率いる家系。
 朝倉っていうのは、表の世界での表記なんだ。――ってことぐらいだよ」






オモヒト コウ
「……そうか」


ノノハラ レイ
「反応薄いなぁ。結構な爆弾発言のつもりだったんだけど」


オモヒト コウ
「一周回って冷静になった。あるいはそういう感覚がマヒしたのか……。いずれにせよ、大したこと知らないといった割には重要な情報だな。
 あれか? 一言で言えば、朝倉は裏社会の人間だった、と?」


ノノハラ レイ
「キミの言葉を信じるなら、だけど。……それにしても、生き残り、ねぇ」


オモヒト コウ
「俺はそういう事情には詳しくないから何とも言えないが……、裏社会ってことは、あるんだろ? その、抗争、とか」


ノノハラ レイ
「……そうだね、ボクが知っている限りでは一家が襲撃を受けて以来廃業に追い込まれているよ。
 表向きのアンティークドールショップはまだ続けているみたいだけど」


オモヒト コウ
「……何で知ってるんだ、なんて、聞かない方がいいんだろうな」


ノノハラ レイ
「そうだね。この世には知らないことがいいことの方が多い。
 それで? この事実を知ってキミはこれからどうするんだい?」






オモヒト コウ
「どうもしない。他人のプライベートに土足で踏み込むほど、俺は無神経じゃないんだ」


ノノハラ レイ
「おや、これは意外だ。キミ、そういう人間は嫌悪するものかと思ってたんだけど」


オモヒト コウ
「朝倉が何者だろうが、今は関係のない話だ。俺は気になったことを確認しただけだからな。
 つまり、朝倉巴は殺人を犯したことがあるか否か、だ」


ノノハラ レイ
「へぇ? 随分と冷たいんだね。前のキミはそうでなかったと記憶しているけれど」


オモヒト コウ
「状況次第で人は変わるものだと俺はお前から学んだよ。
 ……朝倉巴には姉がいて、その姉の方が腕前は上。年齢的に考えても、朝倉が人殺しだとは思えない。
 人を殺したことがあるなら、伊織のように直接そう書いた方がいいしな。
 だから俺は、この秘密は朝倉の殺人の動機足りえないと判断する」


ノノハラ レイ
「だから、朝倉さんが暴走して殺人に走ることはないだろうと、キミはそう考えているわけだ」


オモヒト コウ
「あぁ。人が人を殺す動機になるような秘密なんて、それこそ殺人や強盗――そう言った知られたら社会的に死ぬようなものだろ?
 人を殺したことがあるという自覚があって初めて、その秘密を守るために知った者、知ろうとする者を殺す。
 朝倉が殺人を犯したという事実がない以上、朝倉がその秘密を守るために誰かを犠牲にするとは思えない」


ノノハラ レイ
「確かに理にかなってはいるんだろうけど、……ちょっと甘いんじゃない?」






オモヒト コウ
「どこか見落としがあるとでも?」


ノノハラ レイ
「ヒトの感情はそんな簡単には推し量れないものだよ。キミはそう思っても、朝倉さんがそう思うかどうかは別の話だ。
 当人にとっては裏社会の人間であると他人に知られる時点で結構なダメージなんだぜ? 親しい間柄ならなおさらね。
 それに、もう一つ。これは個人の感情云々じゃぁ片付けられないことだ」


オモヒト コウ
「もったいぶらずに早く言ったらどうだ?」


ノノハラ レイ
「朝倉さんが襲撃を受けて生き残ったのなら、当然、襲撃を行った人物もいるわけだ。
 仮に、その襲撃者もボクらの中にいるとしたら?」


オモヒト コウ
「生き残りを放っておくわけがない、か。だが矛盾してないか?
 一家に襲撃を行ったのなら家族構成はもちろん顔も名前も把握しているはずだろ。
 襲撃する方は顔を隠すなりで朝倉に知られていないとしても、襲撃された朝倉は間違いなく知られているはずだ。それは秘密ではないだろう」


ノノハラ レイ
「人形劇団の名は伊達じゃない、ってことじゃないかな。
 精巧な死体の人形を造り、自らの死を偽装した。顔も名前も変え、別人として暮らしてきた、とか」


オモヒト コウ
「所詮は人形なんだろ? いくらなんでも人間の死体と人形を間違えるのか?」


ノノハラ レイ
「ドールマスターをなめちゃぁいけないよ。それくらいはしてくるだろうとボクは考えているからね」


オモヒト コウ
「……何でもありになってないか?」


ノノハラ レイ
「――世の中にはね、理不尽なんていくらでもあるんだよ。ボクらの現状がそうであるように、ね」






オモヒト コウ
「ところで、ドールマスターってなんだよ。朝倉の人形遣いの腕前は姉に劣ってるんじゃなかったのか?」


ノノハラ レイ
「最高の人形遣いに与えられる称号で、ボクが知ってるドールマスターは朝倉弦月(げんげつ)――、年齢的に考えれば、朝倉さんの祖母にあたるのかな?
 あの人の腕前なら、それくらいはやってのけると思うよ。
 朝倉巴がその血を継ぐものだと確信したのは、あの時なんだけど」


オモヒト コウ
「そうかよ。で、なんでお前がそれを知ってるんだってのは、触れちゃいけないんだろうな? どうせ」


ノノハラ レイ
「そういう方面で察しがいいのは嫌いじゃないぜ。
 ……そろそろ到着する時間だし、この話はここまでかな?」


オモヒト コウ
「そう、だな」



 ゴンドラリフトが乗り場に到着し、ドアが開いた。





ノノハラ レイ
「あ、そうだ。ひとつ、良いこと教えてあげるよ」


オモヒト コウ
「なんだよ、藪から棒に」



 一足先に澪が出て、振り返る。
 ……そこに立ち止まられると俺が出られないんだがな。



ノノハラ レイ
「電磁遮蔽って知ってるかな? 金属で完全に囲まれた空間では外からの電磁波が入ってこない。
 だからね、このゴンドラリフトの中は電子生徒手帳も圏外になるんだ」


オモヒト コウ
「……それがどう良いことになるんだ?」


ノノハラ レイ
「このゴンドラリフトの中での会話は盗聴されてないってことだよ。良かったね?
 ――さて、ボクはキミの頼みを聞いた。だから次は、キミがボクの頼みを聞く番だ」


オモヒト コウ
「なにを言ってるのかさっぱりわからないぞ?
 いいからそこをどけって、俺が出れないだろうが」



 俺の言葉を無視して澪は電子生徒手帳を取り出し、耳にあてる。
 誰かと通話しているのか?



ノノハラ レイ
「――もしもし、綾瀬かい? うん、いいよ、始めて。
 あぁ、公。心配しなくていいよ。ちょっとした実験に付き合ってもらうだけだからさ」


オモヒト コウ
「だからどういう――」


ノノハラ レイ
「あぁそれと、ドアから離れていた方がいいぜ」



――ジリリリリリリリリ



 澪の言葉の意味を理解する前にけたたましいアラームが鳴り響き、ドアが閉まっていく。
 俺は巻き込まれないよう、咄嗟に飛び退いた。



オモヒト コウ
「澪! お前!!」



 ゴンドラリフトはゆっくりと動き出し、澪は俺を見送るように手を振っていた。





――



 公を見送ってから10分後、やってきたゴンドラリフトから綾瀬が降りてきた。
 他の乗客はなし、と。指示通りだね。



コウモト アヤセ
「言われた通り一人でゴンドラに乗ってやってきたけど、どういうつもり?
 澪からの電話を受けたらすぐに一人でゴンドラに乗れってメール送るなんて」


ノノハラ レイ
「公からの誘いを受けたとき、ついでに試してみたいことができたんだよ。
 ゴンドラはこちら側とあちら側の二台あるわけだけど、片方のドアが閉まって起動するなら、もう片方はどうなるのか、この目で直接確かめたくなったのさ」


コウモト アヤセ
「それで、どうだったの?」


ノノハラ レイ
「どうやら片方のドアが閉まると自動的にもう片方のドアも閉まるみたいだね。
 その場合はアラームが鳴って注意喚起するみたいだ。
 それと、指示はもう一つあったよね? すれ違ったゴンドラリフトに誰が乗っていたのか、見えたかい?」


コウモト アヤセ
「ゴンドラがすれ違っていくのは見えたんだけど……、窓が真っ黒で何も見えなかったの。
 だから誰が乗ってるかは見えなかったかな。……でも、主人君が乗ってたんだよね?」


ノノハラ レイ
「あれ? なんで――、あ、そっか。電話越しに聞こえてたのか」


コウモト アヤセ
「そうよ。……もう、後でちゃんと謝っておくのよ?」


ノノハラ レイ
「わかったよ――、っと、早速公からだ」



 さてさて、開口一番に怒鳴られてもいいように耳から離して、と。





オモヒト コウ
『……随分といい度胸だな。後で覚えとけよ』



 怒鳴られはしなかったけど、随分とまあドスの利いた声だこと。
 その一言だけで切られちゃったけど。



ノノハラ レイ
「おぉ、こわいこわい。戻らない方がいいかな? こりゃ」


コウモト アヤセ
「澪?」


ノノハラ レイ
「わかってるって。ちゃんと謝るから。ただ、もうしばらく待たないと聞く耳もってくれないから、ね?」


コウモト アヤセ
「もう……。それで、調べたいことはわかったの?」


ノノハラ レイ
「うん、大方ね。ドアに挟まれたときはどうなるのか、とかは気になるけど、試す気にはなれないし」


コウモト アヤセ
「そういうのって、モノクマに聞けばいいんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「人伝に聞くより自分の目で確かめたいんだよ、ボクは。それにそんな話してたら――」


モノクマ
「ドアの部分にセンサーがついてて、物が挟まった場合は自動で開くようになっています!
 でも薄い布とか細い紐とかは感知しきれないから、くれぐれも過信は禁物だからね!
 注意書きにも書いてあるけど、巻き込みにも対処しきれないから!」



ノノハラ レイ
「ほーら出てきた」


コウモト アヤセ
「ホントに神出鬼没なのね……」


モノクマ
「うぷぷ。だってこういうポーズって大事でしょ?
 ちゃんと注意はしたんだから、それでも事故が起きたらオマエラの責任にできるじゃん?」


ノノハラ レイ
「最近は、注意しても耳に入ってないようなのが多いけどね。
 そのクセ事故を起こしたら責任転嫁してきやがる」


モノクマ
「ホント困るよね! そんなバカの頭の悪さまで製作者(こっち)の責任にされてもこまるってのに!
 そんなわけだから! ボクの用意した機器の不具合以外で発生した事故でオマエラが不都合を被っても、それは自己責任だからね!」


ノノハラ レイ
「わかったよ。気を付ける」


モノクマ
「じゃ、バーイクマー!」


コウモト アヤセ
「……毎回思うんだけど、なんでモノクマと仲良さげなの?」



 通り抜けが出来そうな黄色い輪っかで作った穴に入って消えたモノクマを見送った後で、綾瀬から心外な言葉が聞こえてきた。




ノノハラ レイ
「よせやいあんなのと仲が良いだなんて、鳥肌が立っちゃうよ。確かに波長は合うけど、それはそれ、これはこれだ。
 コロシアイを強要するぬいぐるみと、平和主義者たるこのボクがどうして仲良くできるよ?」


コウモト アヤセ
「平和主義者……?」


ノノハラ レイ
「あれ、知らない?」


コウモト アヤセ
「言葉の意味は知ってるけど、まさか澪の口からでるとは思わなかったから。まして澪自身が、だなんて」


ノノハラ レイ
「えぇ~? このボクのどこをどう見れば平和主義者からかけ離れた存在に見えるんだい?」


コウモト アヤセ
「綾小路さんが殺人を決意するまで追い詰めた、軍用犬を始末した、綾小路さんを蹴り倒した、平和主義者、ねぇ?」


ノノハラ レイ
「だ~か~ら~、あれは殺人を未然に防ぐために仕方なくやったことなんだってば~」


コウモト アヤセ
「わたしが知る平和主義者って、他人に暴力を振るわない人の事だから。
 問題を解決する為に暴力もやむ無しって考えてる時点で、平和主義者からは遠くかけ離れてるってことにいい加減気付こう?」


ノノハラ レイ
「ボクらが享受している平和だって、昔の人たちが争って勝ち取った果ての産物なんだ。
 その平和を脅かす不穏分子を排除しないのは、侮辱であり冒涜だよ。そのための法律だ。そのための警察だ。
 でも、ここにはそれがない。だから、ボクがしているのは平和を守るための闘争なんだよ」


コウモト アヤセ
「……あなたがコロシアイを防ごうと頑張ってるのはわたしもよくわかってる。
 けど、あまり気負わないで。無茶はしないで。無理なことはやめて。
 澪は、ただの一般人かもしれないけど、わたしにとってあなたは、たった一人の大切な人なの」





ノノハラ レイ
「……わかった。善処する」


コウモト アヤセ
「善処じゃダメ」


ノノハラ レイ
「じゃぁ努力――」


コウモト アヤセ
「努力も禁止」


ノノハラ レイ
「……どうしろと?」


コウモト アヤセ
「約束して。絶対に破らないで」


ノノハラ レイ
「……わかった、約束するよ。ボクは、嘘はつかないし約束も守るからね」


コウモト アヤセ
「余計なこと言わないでよ……、うさん臭く聞こえるじゃない。
 言っておくけど、嘘“は”つかないけどその言葉が真実であるかどうかは話が別、とか、そういう屁理屈もなし、だからね?」


ノノハラ レイ
「わかってる、わかってるよ。信じてくれ、とは言わないけど、行動で示すさ」





コウモト アヤセ
「……それで」


ノノハラ レイ
「ん?」


コウモト アヤセ
「わたしはあなたのお願いを聞いたでしょ?
 今度はあたがわたしのお願いを聞く番だと思わない?」


ノノハラ レイ
「……なんなりと」


コウモト アヤセ
「知ってた? リフト乗り場って意外と寒いの。そんな中で十分も待たされるのってどう思う?」


ノノハラ レイ
「わかった、じゃぁココアでも――」


コウモト アヤセ
「私を温めたいと思うなら、抱きしめて」


ノノハラ レイ
「……場所、変えようか。ここも寒いし、人目につくし、さ」


コウモト アヤセ
「……うん」





 シアタールームに入った。ドアを閉めて部屋の明かりを消せば、目の前も見えないほどに真っ暗だ。



ノノハラ レイ
「……どうかな。体温の高さにはあまり自信がないんだけど」


コウモト アヤセ
「わかってるくせに。こういうのは気分の問題なの」



 ボクは今、綾瀬を抱きしめている。
 まさか自分が言った言葉が速攻でブーメランしてくるなんて夢にも思わなかったけど、思ったほど無茶な注文じゃなくてよかった。
 それは問題じゃない。
 お互いに向き合って抱き合えば胸部に何が起きるか。それが問題なんだ。
 これは至福であり、猛毒だ。
 あるいは、福音でもあり、脅威でもあるかもしれない。
 きょういといえば綾瀬のスリーサイズは上から89,58,86なんだ。
 待て、冷静になれ。それ以上考えるんじゃない。欲に負けるな。
 スリーサイズは目測だけど体感だともっと――じゃないんだってば、流されちゃダメだって。







コウモト アヤセ
「……ねぇ、澪。わたしの心臓の音、聞こえてる?」


ノノハラ レイ
「……ごめんね。そこまで良い耳はしてないんだ。……でも、伝わっては、いる、よ」


コウモト アヤセ
「わたしは聞こえるよ。あなたの鼓動。わたしの大好きな、あなたの旋律」



 そう言って綾瀬は、ボクを抱きしめる腕にもっと力を入れてきた。
 そうすれば当然、ボクらの距離はもっと近くなるわけで。



コウモト アヤセ
「顔も、体も、声も、仕草も、あなたの全てが大好き。
 だけど、この音だけは、こうしてあなたに近寄らないと聞こえないから」


ノノハラ レイ
「平時で聞こえる方がおかしいからね」


コウモト アヤセ
「知ってる? 焦ってるとそうやって冗談で誤魔化そうとするのよ。澪って」


ノノハラ レイ
「……よくわかったね。こんなに真っ暗じゃ、ボクの目も見えないだろうに」


コウモト アヤセ
「またそうやってはぐらかす。気づいてるでしょ? 音までは誤魔化せないって」


ノノハラ レイ
「……しょうがないじゃん。心臓なんて任意とは一番遠い器官なんだから。敵いっこないよ」


コウモト アヤセ
「今度は拗ねたフリして冷静になろうとしてる。でもなかなか冷静になれない。違う?」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「図星だと黙るのも癖だよね」


ノノハラ レイ
「……そろそろいいでしょ? 綾瀬の体温が上がったことはボクにもわかるんだからね」


コウモト アヤセ
「さっきも言ったでしょ。気分の問題だって。わたしはまだ物足りないの」




 流石にこれ以上は理性がもたないんだけど。
 これ、ゴールしても、いいかな?



コウモト アヤセ
「あなたの目を見れば、何を考えているのかが分かる。音を聞けば、どう感じてるのかが分かる。
 でもね、わたしはあなたよりあなたの心を調律することはできないみたい。
 わたしの心をわたし以上に調律できるのは、あなただけなのに」


ノノハラ レイ
「綾瀬、ボクは……」


コウモト アヤセ
「どんなことでも、あなたのことを想えばできる気がするの。
 あなたのためなら、死んだって良い」


ノノハラ レイ
「――それはダメだ」


コウモト アヤセ
「……すごいね、澪。一気に冷静になっちゃった」


ノノハラ レイ
「自分でもびっくりだよ。こんなに頭も感情も冷えるなんて。肝を冷やすってこういうことを言うんだね」


コウモト アヤセ
「それはちょっと違うと思う……。でも、嬉しいな。わたしのこと、そこまで大切に思ってくれてるなんて」


ノノハラ レイ
「むしろボクは、綾瀬がなんでそこまでは解ってないのかと若干頭にきてるかな」


コウモト アヤセ
「……でも、そう思ってるからこそ、あなたは我慢してる。平穏を乱したくないから」


ノノハラ レイ
「……そこまで解ってくれてるんだったら、ボクの気持ちも汲んでほしいんだけど」


コウモト アヤセ
「ごめんね? わたし、あなたみたいに我慢強くないから」



 そっかそっか、つまり解っているうえで誘っていると。
 これもういいよね、我慢しなくて。





コウモト アヤセ
「……いいよ」


ノノハラ レイ
「……何が?」


コウモト アヤセ
「あなたが、わたしにしたいと思ってること全部、好きにして、って言ってるの」



 ――たった今、ボクの頭の中の決定的な何かが音を立てて切れました。
 ボクは綾瀬を抱き寄せて――







ウメゾノ ミノル
「パ~パ~パパパパパパ~パ~パパパパパ~パ~パ~パ~パパパパ~♪」



 梅園クンが陽気にスコットランドザブレイブを歌いながらシアタールームに入ってきて電気をつけた。
 ボクと綾瀬は抱き合ったまま固まってしまっている。





ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」



梅園クンは一枚のCDを棚から取り出すと、何事もなかったかのように悠々と出て行く。



ウメゾノ ミノル
「HEY野々原くぅん! サカってもイイけどサー、時間と場所をわきまえなヨー!」



 帰り際、右手を腰に当て、左手を前に突き出すポージングをして冷やかした。






ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」



ウメゾノ ミノル
「パ~パ~パパパパパパ~パ~パパパパパ~パ~パ~パ~パパパパ~♪」



 思考が完全にフリーズしてしまっているボクらを尻目に、梅園クンはスコットランドザブレイブを歌いながら去っていった。







ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……戻ろうか」


コウモト アヤセ
「……うん」



気まずい雰囲気のまま、リフト乗り場へ向かった。
いや、きっとあれでよかったんだよ、うん。
梅園クンの言う通り、TPOはわきまえるべきだ。







コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「……」



 ゴンドラリフトの中でも沈黙が続く。
 ……どうすればいいんだろうね?
 思い返せばとてつもなく恥ずかしいことやってたし、言ってたし。
 水を差されたのは良くも悪くもボクらを踏みとどまらせてくれたわけだけど。







コウモト アヤセ
「……そういえば、なんだけど」


ノノハラ レイ
「なんだい?」


コウモト アヤセ
「澪のメールでもう一つ指示があったじゃない。すれ違ったゴンドラに誰が乗ってたか見てくれって。
 あれはどういう意図だったの?」



 まったく別の話題で気を紛らわそうとしてるのかな。そうだね、それに乗るとしよう。
 いつまでもこのままじゃ居心地悪いし。







ノノハラ レイ
「すれ違ったゴンドラリフトの窓が真っ黒に見えるのは、綾瀬もさっき見たとおりだと思うんだけど。
 それが真っ黒に見えるだけで誰が乗っているかは分かるのか分からないのか、どちらなのか疑問に思ってね」


コウモト アヤセ
「結論は、誰が乗っているのかは見えないから分からない、ってわけね。でもどうして見えなくなるの?」


ノノハラ レイ
「多分、このゴンドラリフトの窓ガラスが偏光ガラスだからだよ」


コウモト アヤセ
「偏光ガラス?」


ノノハラ レイ
「偏光板ともいうね。まず前提として、光は波であり、粒子である。今回は、波の方に着目してほしいんだ。
 物理選択じゃない綾瀬にもわかりやすく言うと、本来バラバラである光の波の向きを、一定の向きにそろえるものなんだ。
 サングラスやスキーのゴーグルなんかに使われているんだよ。ギラギラした反射光をカットすることで、クリアな視界を確保するんだ」


コウモト アヤセ
「その偏光ガラスの仕組みは何となくわかったけど、それがどうしたっていうの?」


ノノハラ レイ
「偏光板には面白い特性があってね。特定の方向にそろえた光以外は遮断してしまうんだ。
 そのそろえる方向が直交していると、完全に光がシャットアウトされて、向こう側が何も見えなくなってしまうんだよ」


コウモト アヤセ
「えーっと、つまり、こっち側の偏光ガラスとあっち側の偏光ガラスで光をそろえる向きが直角になっているから、真っ黒にみえる、ってこと?」


ノノハラ レイ
「うん。そういう解釈でいいよ。
 わざわざ誰が乗っているのか分からないようにするあたり、モノクマの作為を感じざるを得ないね。
 どうせ表向きは、見渡す限り真っ白なこの雪山で反射光が眩しくならないように偏光板を使っていて、たまたま直交する向きになってしまった、とかいうつもりなんだろうけど」






コウモト アヤセ
「誰が乗っているのか分からないことに、何か意味があるの?」


ノノハラ レイ
「誰が乗っていたのか確認できる場合、状況によってはアリバイが立証されるね。
 例えば、本館で事件があった場合、犯行当時に別館にいた人間にはアリバイが成立するわけだし」


コウモト アヤセ
「あ、そっか。誰が別館に向かっていたのかが解ればその人に犯行はできないし、逆に本館に向かった人は容疑者になるかもしれないんだ」


ノノハラ レイ
「そういうこと。それができなくなるってことは、事件解決の手掛かりが減るってこと。
 逆に言えば、犯行がしやすくなるってわけさ」


コウモト アヤセ
「やっぱり、澪はまた誰かが誰かを殺すと思ってるの?」


ノノハラ レイ
「そうであって欲しくないとは思ってるんだけどね。警戒はしておくべきだと思うんだよ。
 起こってしまったことに対しては、誰も、それを『無かったこと』にはできないんだからさ」






コウモト アヤセ
「さっきも言ったけど、あまり気負わないでね?」


ノノハラ レイ
「解ってるって。ボクはボクの出来ることを、ボクの出来る範疇でやるだけなんだからさ」


コウモト アヤセ
「なら、いいんだけど……。そろそろ到着しそうね。覚悟はできてる?」


ノノハラ レイ
「え、何の?」


コウモト アヤセ
「……主人君に謝らなきゃいけないんじゃなかったの?」


ノノハラ レイ
「あー……、そういえばそうだったね。会ったときに謝るよ」


コウモト アヤセ
「自分から謝りに行きなさいよ、そこは」


ノノハラ レイ
「気が向いたら――、冗談だよ、わかったから黙って拳を構えるのはやめよう?」



 そんなやり取りをしているうちに、ゴンドラが本館側の乗り場に到着した。






オモヒト コウ
「よう」



 出待ちされてました。どうしよう?
 いや、平謝りしかない、かな?



ノノハラ レイ
「あー、そのー、ゴメンナサイネ?」


オモヒト コウ
「許すと思うか? 覚えてろよと言った筈だがな?」


ノノハラ レイ
「あ、あはは、はは……」



 綾瀬は……。



コウモト アヤセ
「……」フイッ



 くそっ、助け舟を出してくれないのか!



オモヒト コウ
「……」



 やべぇよ、あの顔マジでやべぇよガチギレじゃん。






オモヒト コウ
「覚悟はいいか? 俺はできてる」


ノノハラ レイ
「逃ーげるんだよォー!」


オモヒト コウ
「ぶん殴ると心の中で思ったなら! その時すでに行動は終わってるんだ! 待ちやがれ!」


ノノハラ レイ
「断る!」


コウモト アヤセ
「逃げちゃダメでしょ?」



 え、ちょっと待って綾瀬掴まれたら逃げられないじゃんっていうか握力強いよ綾瀬。



ノノハラ レイ
「あ、綾瀬!? ボクを裏切るのか!? 売るというのか?!」


コウモト アヤセ
「ここは素直に殴られておきなさい。それが遺恨を残さない、“平和的な”解決方法だから」


オモヒト コウ
「安心しろ、ちゃんと手加減はしておいてやる。右ストレートでまっすぐ行ってぶっ飛ばすだけだからな」


ノノハラ レイ
「それちゃんと手加減してるって言わな――ホグぅ!」



 お、おま、腹パンはやめろって、腹パンは……。



オモヒト コウ
「――ったく、これに懲りたら、人をからかうのはやめるんだな」


コウモト アヤセ
「……私からもごめんなさいね。澪が迷惑をかけたみたいで」


オモヒト コウ
「気にするな。こいつの手綱は誰にも握れないだろうからな」



 うずくまるボクを尻目に公は本館に入っていった。
 手加減してこの威力とかヤバない?
 しばらくボクは動けなかった。







ノノハラ レイ
「酷い目にあったぜ……。綾瀬も見捨てるなんてあんまりだよぉ……」


コウモト アヤセ
「自業自得でしょ? 流石にやりすぎだと思ったら止めてたけど、あれくらいなら妥当だと思ったし」


ノノハラ レイ
「なんて時代だ。ここにボクの味方はいないのか?」


コウモト アヤセ
「私は何時だってあなたの味方だけど……、何も言動全てを肯定するのが味方じゃないと思うの。
 もしその人が道を踏み外そうとしていたらそれを正そうとする。そういうことができるのも味方なんじゃない?」


ノノハラ レイ
「くそっ、ド正論すぎて何も言い返せない!」



 本館に戻った。







 戻ったら戻ったで特にすることがないんだけどね。
 あの時の続きをするってムードでももうなくなっちゃったし。

ノノハラ レイ
「どうしようかな……」


コウモト アヤセ
「ねぇ、澪。梅園君のショーまでまだ時間があるみたいだし……、ちょっと付き合ってくれる?」


ノノハラ レイ
「いいけど、何をするのかな?」


コウモト アヤセ
「此処に来てから、ご飯はいつも用意してもらってるじゃない?
 だから最近全然料理してなくって、腕が衰えてないかなーって」


ノノハラ レイ
「なるほどね。それでボクは何を手伝えばいいのかな?」


コウモト アヤセ
「一緒に作るのも悪くないけど……、やっぱり私一人で作るよ。澪は待っててほしいな。
 それでね、味の感想を聞かせてほしいの」


ノノハラ レイ
「いいよ。あ、でも食レポとかには期待しないでほしいな」


コウモト アヤセ
「いつも通りの視点でいいの。逆にそこまでよいしょされちゃったらうさん臭いじゃない」


ノノハラ レイ
「ンンンンンン? なんか最近綾瀬が辛辣だぞぅ?」


コウモト アヤセ
「気のせいでしょ。そんなことより、早く食堂行こ?」


ノノハラ レイ
「わかった、わかったよ」



 食堂へ向かった。







ノノハラ レイ
「それで、献立は?」


コウモト アヤセ
「八宝菜にしようと思ってるの。中華、好きでしょ?」


ノノハラ レイ
「うん、大好きSA☆ ――ただし四川テメーはダメだ」


コウモト アヤセ
「あれ、辛いの苦手だったっけ?」


ノノハラ レイ
「麻婆豆腐とかが顕著なんだけどさ、日本のはね、抑えてあるからまだいいんだよ。
 本場のって殺人的に辛いの。あくまで個人的な感想だけど。少なくともボクの舌には合わなかった」


コウモト アヤセ
「そっか。えーっと、八宝菜は……」


ノノハラ レイ
「上海料理だね。あぁ、気にしなくていいよ。綾瀬の料理だったら四川でも美味しくいただくつもりだからさ」


コウモト アヤセ
「もう、そんなこと言って。ニンジン残しちゃダメよ?」


ノノハラ レイ
「うぐっ……、先回りされた……!」


コウモト アヤセ
「もう。そういうところは相変わらずなんだから」







 ――綾瀬料理中……――






コウモト アヤセ
「お待たせ~」


ノノハラ レイ
「結果だ! この世には“綾瀬の料理が完成した”という結果だけが残る!」


コウモト アヤセ
「何の話?」


ノノハラ レイ
「いや? ただ何となくこのセリフを言わなきゃいけない気がしただけさ。
 やるしかGO! って感じで」


コウモト アヤセ
「……大丈夫?」


ノノハラ レイ
「ガチのトーンで心配してくれるのはありがたいんだけど、胸が痛くなるからやめて。
 変な電波受信したわけじゃないし、黄色い救急車が必要になったわけでもないから」


コウモト アヤセ
「なら、いいんだけど。冷めないうちに召し上がれ」


ノノハラ レイ
「いただきます」







ノノハラ レイ
「うん、美味しいね。いつも通りの綾瀬の味だ」


コウモト アヤセ
「そう? ありがと」


ノノハラ レイ
「うーん、やっぱりここは“うぅンまぁああああい!”とでもいえばよかったかな?」


コウモト アヤセ
「そこまで過剰なリアクションされると逆に反応に困るから。
 あと、澪の場合わざとらしくみえる」


ノノハラ レイ
「だよね、我ながらそう思う。でもすごい美味しいよ。箸が進む進む」





ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


コウモト アヤセ
「お粗末様でした」



 あっという間に完食。お見事。



ノノハラ レイ
「腕によりをかけて料理をふるまってくれる幼馴染がいてくれてボクは幸せ者だよ」


コウモト アヤセ
「よろこんでくれてなによりね。ニンジンもちゃんと食べてくれたみたいだし」


ノノハラ レイ
「気づいたんだ。ニンジンと認識しなければ食べられるって」


コウモト アヤセ
「どういう事?」


ノノハラ レイ
「いやさ、前にね? 渚にニンジンがこっそり入ってるオムライス振る舞われたからね。
 食べた後指摘されてさ、その時は普通に食べれたことにびっくりしちゃって」


コウモト アヤセ
「……ふぅん? それで?」


ノノハラ レイ
「で、ニンジン入りオムライスは食べれたわけだけど、それはボクがニンジンが入っていないと思っていたから食べれたんじゃないかと思ったわけ。
 だからさ、ニンジンに対する認識を上書きすれば、従来のニンジン観――苦手意識をなくせると思って」


コウモト アヤセ
「ちょっとその発想はどうかと思う」






ノノハラ レイ
「それで、巨大な存在がピンクのナイトガウンを羽織っていると想像するように、呪いの絵画に口ひげを描き加えるように、ニンジンに対する認識を上書きしてみたんだ。
 手足と翼の生えたオレンジ色の根野菜キャラクターの肉片なんだって」


コウモト アヤセ
「それはそれでどうなの?」


ノノハラ レイ
「いやいや、それが効果抜群だったみたいでさ。
 あれだけ苦手意識を持っていたニンジンにシュールな笑いと親しみやすさを感じれるようになったんだ」


コウモト アヤセ
「それ、シュールな笑いは必要ある?」


ノノハラ レイ
「あれだよ、ヤンキーが捨て猫に餌をやってるのを見て“実は良いヤツなんじゃないか”とか勘違いするのと同じでさ、親しみやすさと苦手意識って共存できるんだよ。
 でもそのヤンキーの服がオペラ色だったら威厳もへったくれもないでしょ?」


コウモト アヤセ
「……なんというか、例えが遠くて分かりにくいけど、要するにもうニンジンは普通に食べれるのね?」


ノノハラ レイ
「一応はね。たまにニンジン見てあの間の抜けた姿が脳をかすめて笑いがこらえきれなくなる時があるけど、それ以外は問題ないかな」


コウモト アヤセ
「うーん。澪が好き嫌いしなくなったのはいいんだけど……、何かな、この、モヤモヤ」


ノノハラ レイ
「解決方法が特殊過ぎるからね、しょうがないよね」


コウモト アヤセ
「自分で言っちゃうんだ、それ」


ノノハラ レイ
「多分ボクぐらいなんじゃないかな、この方法実践できるの」


コウモト アヤセ
「多分一般人は発想すらできないから」


ノノハラ レイ
「つまりボクは特別な存在なのです」


コウモト アヤセ
「……うん、澪がそれでいいなら、それでいいんじゃないかな?」







 綾瀬との絆が深まった! やったね!





 ……そろそろ梅園クンのマジックショーの時間だ。別館に向かおう。



ノノハラ レイ
「じゃ、そろそろ行こうかな」


コウモト アヤセ
「……結局、梅園君も慧梨主ちゃんも来なかったわね」



 やっぱりというか、夕食の時間になっても二人の姿は見かけなかった。
 痺れを切らした亜梨主さんが碌に食事もとらずに別館に向かったりしたけど、それ以外は特に何もなかったね。



ノノハラ レイ
「ボクの想像が正しければ、あんなに取り乱すような事態にはならないと思うんだけどねぇ」


コウモト アヤセ
「自信満々に言ってるけど、本当に大丈夫なの?」


ノノハラ レイ
「梅園クンはそんなタマじゃないし……、慧梨主さんも解ってるはずだよ。信頼はしてるみたいだしね」


コウモト アヤセ
「だといいんだけど……」


ノノハラ レイ
「うじうじしてたってしょうがないじゃない。今は、梅園クンのお手並み拝見といこうぜ」



 別館の多目的ホールへ向かった。







 多目的ホールの前についたけど……、扉が閉まっている?
 集まったみんなもそのせいで足止めを食らってるみたいだね。



ノノハラ レイ
「えーっと、多分一番乗りしたであろう亜梨主さん、キミが着いた時にはもうこんな状態だった?」


サクラノミヤ アリス
「えぇそうよ! 鍵でもかけてるのかどれだけ叩いても全然開かないし!」


ナナ
「まだかしら?」


ノノ
「そろそろ時間なんだけどなー?」



――ガチャ



 鍵が開く音が聞こえたとみるや、亜梨主さんがすぐに扉に迫り、開けた。



ウメゾノ ミノル
「お待たせ……、って、どうしたのさ亜梨主、すごい剣幕だぜ?」


サクラノミヤ アリス
「慧梨主は?! 慧梨主はどこ?!」


ウメゾノ ミノル
「まぁまぁバラでも持って落ち着きなって。慧梨主なら、シアタールームで見かけたよ。今いるかどうかはわからないけど。
 慧梨主もマジックショーは楽しみにしてたから、ショーが始まるころにはきっと来るさ」


サクラノミヤ アリス
「……ふん! くだらないステージだったら、鼻で笑ってやるんだから!」


ウメゾノ ミノル
「おぉこわいこわい。……さて、みんなにもバラをプレゼントしよう。
 燃え盛る炎よりも真っ赤な情熱のバラを。返品は受け付けません」


ナナ
「きれいね。でも、こんな造り物じゃ物足りないわ」


ノノ
「どうせなら本物がよかったなー」



 みんなはバラを受け取りながら次々と入っていく。






マスタ イサム
「作りが雑だな……」


ユーミア
「これもモノモノマシーンの景品でしょうか?」


アサクラ トモエ
「人数分集めるまで回したのかな……」


オモヒト コウ
「特にこれと言って何の仕掛けもなさそうな造花だな」


タカナシ ユメミ
「あたしはお兄ちゃんからもらいたいなー」


ナナミヤ イオリ
「私は……、いえ、何でも」






ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、今日は一日中、綾瀬さんと楽しそうに過ごしてたね?」


ノノハラ レイ
「……そうなるね。じゃぁ明日は渚と一日中過ごそうか?」


ノノハラ ナギサ
「えっ?! ……うん! 楽しみにしてるね!」


ノノハラ レイ
「じゃぁ、ほら、早く中に入ろう。――期待してるぜ梅園クン。あまり、失望させてくれるなよ?」


ウメゾノ ミノル
「どれだけハードル上げようたって、僕は僕なりのエンタメをするだけだよ」


コウモト アヤセ
「……」








 扉近くの花瓶に生けてあったバラを手渡ししていた梅園クンは、そのまま扉を閉めた。
 それと同時に、ホール全体の照明が消え、何も見えない闇が会場を支配する。



ナナ
「あら真っ暗」


ノノ
「これじゃ何も見えないよ」


アサクラ トモエ
「え、どうなってるの?!」


ユーミア
「マスター、周囲の警戒を」


マスタ イサム
「……演出の一つだと思いたいがな」


タカナシ ユメミ
「やーん、お兄ちゃんこわーい♪」


オモヒト コウ
「声色が全然おびえてる感じじゃないぞ夢見……」







 ステージ中央にスポットライトの光が差す。
 そこに照らされていたのはプレゼントでもらえそうな、リボンで装飾された箱だ。
 箱が、台の上に鎮座していた。






 どこからともなく、バグパイプの音が聞こえてきた。





――本日はここまで。


――ようやくマジックショーにこぎつけましたね。


――でもこれまだ二章の序盤なんですよ、予定では。


――要所要所は抑えつつカットも多用することを視野に入れた方がいいかもしれませんね。




 箱の蓋がひとりでに外れて、箱の中から出てきた一本のロープが上へ40センチほど伸びて止まった。
 台の高さと合わせて、その高さおよそ人一人分といったところか。



ユーミア
「……あれは、ヒンズーロープ?」


アサクラ トモエ
「それってインドのマジックでしょ? 今流れてるのイギリスの曲じゃない?」


ノノハラ レイ
「インドはイギリスの植民地だったから実質イギリス」


オモヒト コウ
「ブラックすぎるぞ……。あと、スコットランドザブレイブはスコットランドの歌であって、厳密に言えばブリテンの曲じゃないからな?」


マスタ イサム
「まさかそれも含めたブラックジョークか?」


ナナ
「なんか難しい話してるわね」


ノノ
「よくわかんないや。それよりあのロープ、どうなってるんだろうね?」


サクラノミヤ アリス
「どうせ細い糸か何かで吊り上げてるんでしょ」


タカナシ ユメミ
「最初は蓋がしてあった箱の中にあったのに? そのあとロープに持ち上げられるみたいに蓋が開いたのに?」


サクラノミヤ アリス
「……蓋に切れ込みでも入れてるんじゃない?」


コウモト アヤセ
「あ、梅園君だ。いつの間に」


ナナミヤ イオリ
「あれは……、フラフープ?」



 梅園クンはステージの上手側の袖から中央に向かって、フラフープを掲げながら中央の台へ向かっていく。
 そしてフラフープを横に倒し、何度もロープの上で往復させ、バレエのように一回転もして見せた。
 ロープは糸で吊っているわけではないと、亜梨主さんの主張を否定するように。






ノノハラ ナギサ
「……糸で吊ってはないみたい」


サクラノミヤ アリス
「~~~~~ッ!」



 亜梨主さんは拳を握って震えている。それが怒りか羞恥によるものかはわからないけれど。
 梅園クンはフラフープを下に置くと、ロープを掴んで縋り付く。
 指を鳴らすのと同時にロープがさらに上へと伸びていき、それに掴まっている梅園君も天井に向かって昇っていく。



ナナ
「すっごーい!」


ノノ
「登ってみたいなー!」


ウメゾノ ミノル
「はーい! ということで! 今宵は不肖ウメゾノミノルのマジックショー! 是非ご覧あれ!
 最初に言っておくけど、色々と危ないから、良い子は中途半端な気持ちで真似しちゃ大ケガしちゃうぞ~!
 あと! ショーの最中の無粋なツッコミは総スルーさせていただきまーす! ご了承くださーい!」



 ……予防線張られちゃったぜ。







ウメゾノ ミノル
「さてさて皆様ー! 先ほどお渡しした真っ赤なバラをお持ちだと思いますがー!
 実はスデにそのバラにはある魔法がかけてあるのでーす!
 僕が合図を出すとー! 一本だけ本当に燃えまーす!」



 ステージのはるか上からボクらを見下ろし、梅園クンは大声を張っていた。
 バラが燃えるという言葉に反応して、みんなそれぞれの反応を見せている。
 バラを放り投げるもの、見つめるもの、持ちながらもできる限り遠ざけようとするもの、他人に向けるもの――と、様々だ。



ウメゾノ ミノル
「ではいきますよー! 1(アイン)! 2(ツヴァイ)! 3(ドライ)!」


サクラノミヤ エリス
「――きゃッ!」



 梅園クンの指が鳴って、慧梨主さんの悲鳴が聞こえる。
 振り向くと、慧梨主さんの持っているバラは花弁がロウソクのように燃えていた。






――本日は短いですがここまで。マジックショーはもう少しだけ続きます。おやすみなさい。






ウメゾノ ミノル
「はい! というわけで! 選ばれたのは慧梨主でした!
 慧梨主にはこれからちょっと僕のアシスタントをしてもらいます!」



 火はすぐに燃え尽き、代わりのようにスポットライトが慧梨主さんを照らす。



サクラノミヤ エリス
「え、あ、はい」


サクラノミヤ アリス
「ちょ、ちょっと慧梨主! あんた今までどこ行ってたのよ!」


サクラノミヤ エリス
「その、シアタールームで映画を……。気づいたらこんな時間になってしまって。
 ギリギリで間に合ったよかったです」


ウメゾノ ミノル
「慧梨主―、早く来てくれないかなー?」



 いつの間にかロープから降りていた梅園クンが二人の会話を遮るように催促する。
 ……うん、だよね。やっぱりそういうことなんだろうとは思っていたけど。



サクラノミヤ エリス
「あ、ごめんなさいお姉さま、お兄さまが呼んでいるので」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと!」



 慧梨主さんは亜梨主さんの制止を振り切ってステージに登る。





ウメゾノ ミノル
「さて、皆様、皆々様。取り出したるは手錠ならぬ指錠でございます。
 しかし、しかし、玩具とは言え拘束具としては申し分ない代物。両手の親指に嵌めてしまえば鍵がなければ外せませぬ。
 じゃぁ慧梨主、これを僕の両親指に嵌めてくれ」


サクラノミヤ エリス
「わかりました。……こうですか?」


ウメゾノ ミノル
「Bene(よし)! じゃぁ次は胸ポケットのハンカチを被せてくれ。僕の両手が見えなくなるように」


サクラノミヤ エリス
「これでどうでしょう?」


ウメゾノ ミノル
「あー、ちょっと右手側にずれてるね、もうちょっとこっちに寄せてくれないかい?」


サクラノミヤ エリス
「あっ、ごめんなさい」



 梅園クンはハンカチが中央に来るように端を手でつまんで位置を調節する。



オモヒト コウ
「ん?」


マスタ イサム
「おいおい」




ウメゾノ ミノル
「うん、良い感じ。それでは皆様ご注目! 今からこの戒めを解いて御覧に入れましょう!
 カウントダウン! スリー! トゥー! ワン!」



 梅園クンは右手を掲げて三つ数える。左手にはハンカチがかかったままだ。



アサクラ トモエ
「あ、あれー?」


ナナミヤ イオリ
「……? ……?!」


ウメゾノ ミノル
「アッ……ッセイ!」



 梅園クンは両手を広げ、指錠を外したことをアピールした。
 右手はハンカチに覆われているが、左手には外された指錠が握られている。



ナナ
「あ、あら?」


ノノ
「あれれー?」


コウモト アヤセ
「えっと、何? 何が起きてるの?」





ウメゾノ ミノル
「ンンンンンン? 万雷の拍手が聞こえないなぁ? 見ての通り指錠から解き放たれたというのに?」



 それはそうだ。みんな驚きよりも困惑の色が強い。
 指錠を嵌められたのは確からしいけど、ハンカチを被せられた時点でもう外れていたんだから。
 予想以上に早い段階でそれが示唆されてしまったものだから、今更アピールをされても、という感が否めない。



ウメゾノ ミノル
「あー、そっかそっか。やっぱりみんな気になってるよね。どうやってこれを外したのかを」



 違うそうじゃない。



ウメゾノ ミノル
「じゃぁ特別にタネを教えてあげよう。とても簡単だから。
 実はね、鍵を隠し持っていたんだ。コレだよ」



 右手を覆っていたハンカチを取り払うと、確かに鍵が握られていた。
 成程確かに鍵を持っていればこのマジックは容易にできるわけだ。
 ――その鍵が遠目で見ても鍵の形をしているとわかるほどにとても大きいことに目を瞑れば、だけど。






タカナシ ユメミ
「……?」


ノノハラ ナギサ
「あ、あれ?」



 もちろん、そんなものを出されても納得できるわけがない。
 あれだけ大きいものをどうやって鍵穴に入れるんだとか、そもそもそんな大きいものがハンカチの中、もっと言えば袖の中にさえも納まるわけがない。
 ツッコミどころが多すぎで渋滞してしまっている。



ウメゾノ ミノル
「あー……、やっぱりこんな地味な奴じゃダメだったかな。
 じゃ、次の演目――の前に、盆回し」






 軽快な音楽とともに部隊のカーテンが閉まっていく。
 次はきっと、大掛かりなマジックなんだろう。






 カーテンが開くと、ステージの中央には檻が設置されていた。
 人一人が入れそうなほどの、鳥かごのような形状の檻が一メートルほどの高さで吊るされている。
 檻に入るための階段も設置されていた。
 見るからに本格的な脱出マジックの舞台だった。






ウメゾノ ミノル
「さてさて、ではこれからこのケージに入り、脱出してみたいと思います。
 ちょっと見た目が鉄の処女(アイアンメイデン)っぽくて不穏な気がしますが」



 梅園クンは階段を上って檻の入り口を開けると、その中に入って自ら檻の中に閉じこもった。



ウメゾノ ミノル
「じゃぁ慧梨主、この南京錠でドアをロックしてくれるかな?」


サクラノミヤ エリス
「わかりました。――えっと、これでいいですか?」


ウメゾノ ミノル
「OK. これで僕は閉じ込められたね。じゃぁ次に、この檻のカーテンを閉めて僕の姿を隠してもらおうかな。
 脱出中の姿を、見せるわけにはいかないしね」


サクラノミヤ エリス
「わかりました」



 檻の手前側――ボクらが見ている面にはカーテンが束ねられていて、カーテンレールは檻を一周しているようだ。
 布の長さは檻よりも長く、ステージの地面すれすれまで伸びていた。
 慧梨主さんは手前からカーテンを引いていくと檻の裏手へ回って、カーテンと舞台の隙間から靴がギリギリ見える以外は姿が見えなくなった。





サクラノミヤ アリス
「……慧梨主?」



 その靴も階段の陰で見えなくなってからも、慧梨主さんの姿はどこにも見えない。
 ――つまり、慧梨主さんも忽然と姿を消した。






 再び檻のカーテンの裏から靴が見えたのは亜梨主さんのつぶやきから十数秒ほど後だったか。
 とにかく、誰かが檻の裏からカーテンを持ちながら手前側に回ってくる。
 それはもちろん慧梨主さん――ではなく。
 どこぞの王子のような純白の衣装に赤いマントの貴公子スタイルに衣替えした、梅園クンだった。
 ご丁寧に目元を隠す赤いペストマスクまで被っている。



ウメゾノ ミノル
「お待たせ。期待以上は約束できただろ?」



 仮面で隠れていない口元は、悪役のようにシニカルな笑みを浮かべていた。






サクラノミヤ アリス
「あ、アンタ! 慧梨主をどこへやったのよ!」


ウメゾノ ミノル
「無粋な突っ込みは総スルーって言っただろ?
 ――安心しなよ。ちゃんといるさ。この檻の中に。入れ替わったんだ、さっきね。
 どうしてできたのかは、解るだろ? これがマジックだからだよ」


サクラノミヤ アリス
「この――!」


ウメゾノ ミノル
「おっと、うかつな行動はするなよ。
 せっかくのステージを台無しにされたら、僕だって相応の仕返しをしなくちゃいけないからな。
 まぁ指でも咥えて大人しく待ってなって。
 ――さて、いい加減みんなもじれったく思ってるだろ? 檻の中がどうなっているのか。慧梨主はどうなっているのか。
 それじゃカウントといこうか。1(アン)! 2(ドゥ)! 3(トロワ)!」



 梅園クンが勢いよくカーテンをはぎ取るとそこには――変わり果てた姿の慧梨主さんがいた。





サクラノミヤ アリス
「え、慧梨主――!!」


コウモト アヤセ
「えっ、えぇ?!」


ノノハラ ナギサ
「きゃっ!!」


アサクラ トモエ
「うわぁ……」


ユーミア
「これは……」



 バニーガールに衣替えした慧梨主さんが檻に閉じ込められているという、絵面的には衝撃的な演出があった。
 羞恥からか、赤面しているのが遠目からでもわかる。
 梅園クンもイイ趣味してるなぁ。




ウメゾノ ミノル
「さて! マジシャンとアシスタントとして相応しい衣装に着替えたところで、次――というか、本日最後の演目だ!
 お楽しみは、これからなのさ!」



 梅園クンは意気揚々と舞台袖から寝台をひいてきた。
 簡易のストレッチャーのような、人一人が寝そべるのにちょうどいい平坦な台だ。



ウメゾノ ミノル
「おっと、その前に囚われのアシスタントを助け出さないとね。
 ――あぁ、いけない。南京錠の鍵をどこかに無くしてしまったのかな?
 まぁでも大丈夫。今の僕はマジシャンだからね。できないことはないんだよ」



 梅園クンは階段を上ると、マントで入り口付近を隠して檻の戸に手をかける。
 その瞬間、また一斉に照明が消えて、闇が視界を支配する。
 今度はすぐに照明が点いたけど、そこには檻の外に連れ出された後の慧梨主さんが寝台に寝かせられている光景があった。



ウメゾノ ミノル
「本日最後の演目は、人体切断ショー! 今からこの鋭利な剣で慧梨主の体を切ってしまおうと思います!」



 梅園クンが持っている直刀には、その鋭さを証明するためかパイナップルが刺さっていた。
 一度抜いて、パイナップルを空中へ放り投げて突き刺す。本物である十分な証拠だった。



ウメゾノ ミノル
「さぁさぁ、肝心なところはカーテンで隠してしまいましょうね」



 先ほど檻からはぎ取ったカーテンを、今度は仰向けに寝ている慧梨主の体を覆うように被せる。



ウメゾノ ミノル
「それでは参ります。1(ウーノ)! 2(ドゥーエ)!」



 大きく振りかぶって、真っすぐ慧梨主さんの胴体めがけて振り下ろされた剣は、寝台と平行になるように突き刺さっていた。



ウメゾノ ミノル
「あっ」






ウメゾノ ミノル
「……それでは不肖梅園穫のマジックショー、これにて閉会です! ありがとうございました!」



 焦ったように青ざめた梅園クンは、慧梨主さんに被せたカーテンで自分の体を隠すように前へ突き出すと、カーテンを後方へ翻した。
 その焦りようから、失敗して逃げ出したのかと思ったけれど――。
 カーテンで遮られた視界が晴れた先の景色は、寝台の上に腰かけた慧梨主さんがいるだけだった。
 さすが、というべきなのかな。最初から最後まで振り回され続けたわけだ。






サクラノミヤ エリス
「えっと、その……、私も着替えてきますね」



 終始顔を赤らめていた慧梨主さんはきっと更衣室へ向かったんだろう。
 多分梅園クンも更衣室で着替えているのかな。



コウモト アヤセ
「なんとういか、すごかったね。マジックショー」


ノノハラ レイ
「そうだね。即興にしては中々にいい出来だったんじゃないかな。息もぴったりだったしね」


ノノハラ ナギサ
「どういうこと?」


ノノハラ レイ
「慧梨主さんが姿を見せなくなったのは何時頃からだった?
 慧梨主さんがマジックショー開始直後に唐突に現れた理由は?
 あのマジックを成立させるためにはアシスタントの協力が不可欠なんだけど、それをどうクリアしたのか?
 これらを考えれば、おのずと答えは見えてくるよね」


コウモト アヤセ
「慧梨主ちゃんもグルだった、ってこと?」


ノノハラ レイ
「その通り。ショーの開始直後まで姿が見えなかったのは、多分それまでずっと梅園クンと練習していたからなんじゃないかな。
 それでギリギリまで粘ってたら皆が集まりだしたものだから、あのバラが活けてあった花瓶の台の中にでも隠れてたんだよ。
 ショーが始まってヒンズーロープにみんなの注目が向かってる間に台から出てさりげなくステージに近寄ったのさ。仕掛けのある、バラを持ってね」


ノノハラ ナギサ
「それはわかったけど、その後の三つのマジックにアシスタントの協力が必要ってどうすればいいの?」


ノノハラ レイ
「最初の指錠はちょっとわからないけど、檻からの脱出と人体切断は間違いなく協力してたはずだよ。
 檻に入るには階段が必要だよね? 重要なのは、あの階段なんだ。
 結論から言えば、あの階段の中は空洞で、しかも檻の底部とつながっていてそこから出入りできるようになっていたんだ。
 古典的なトリックだけど、檻を吊るしてカーテンで死角を隠す点と、早着替えの要素を混ぜたのは結構すごいと思うよ。
 それにあの檻、多分錠前ごと上にスライドして開けることもできるタイプの鉄格子だろうから、二回目の脱出も電気消せば簡単だし」


コウモト アヤセ
「人体切断の方は?」


ノノハラ レイ
「これも古典的なトリックかな。あの寝台、腰の部分が開くようになってて、そこから胴体の部分を沈めていけばいいんだ。
 それをカーテンで隠せば、剣で一刀両断したように見せることができる――ってところじゃないかな? 梅園クン?」





ウメゾノ ミノル
「概ね正解、かな。それで、楽しめてもらえたかい?」



 貴公子スタイルからいつもの学生スタイルに戻った梅園クンが、入り口から入ってきた。



ノノハラ レイ
「結構ね。道具はどこから仕入れてきたんだい? 流石に全部手作りってわけでも、モノモノマシーン頼みってわけでもないだろ?」


ウメゾノ ミノル
「ステージ下の椅子とかしまうスペースあるだろ? そこにあったのを引っ張り出してきたんだよ。
 あとは色々とモノクマに頼んで」


ノノハラ レイ
「命知らずだねぇ」


ウメゾノ ミノル
「モノクマに正面切って喧嘩売ってる君には言われたくないよ」


ノノハラ レイ
「ははは、ぬかしよる。このマジックショーの本当の目的が、コロシアイ防止策なくせに」


ウメゾノ ミノル
「気づいてたんだ」


ノノハラ レイ
「まぁね。コロシアイのリスクを軽減する為に全員の行動を強制する。なかなかいい考えなんじゃないかな」


ウメゾノ ミノル
「そ、気に入ってもらえて何よりだ。――というわけで、次の企画、ヨロシクね、野々原君」


ノノハラ レイ
「……そうきたかぁ」



 梅園クンが投げてきたトランプのカードを受け止めてしまったボクは、とんでもないキラーパスを渡されたみたいな気分になった。





――長らくお待たせいたしました。本日はここまで。


――次回の更新も未定ですが、早めに二章を終えたいところですね……。


――それでは、おやすみなさい。





ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、その――」


ノノハラ レイ
「わかってるよ。明日は渚と過ごすと決めたからね。企画は明後日にするよ。何をするかはもう決めてあるしね」



 心配そうにボクを見つめる渚の顔が、すぐに明るくなる。わかりやすいなぁ。



ウメゾノ ミノル
「ふーん、もう思いついたんだ。何する予定なの?」


ノノハラ レイ
「お・し・え・な・い」


ウメゾノ ミノル
「えぇ~? いいじゃん、ケチ」


ノノハラ レイ
「無茶振りされたことに関して、怒ってないとは言ってないよね?」


ウメゾノ ミノル
「O.K. その怒りはもっともだったね。だからそんなに凄まないでくれよ」



 そんなに怖い顔してるかな、今のボク。
 ……あぁ、そっか。そのセリフはボクじゃなくて――。



コウモト アヤセ
「……」



 綾瀬に言ってたんだね。




ノノハラ レイ
「落ち着きなって綾瀬。梅園クンだって悪気があって言ったわけじゃないわけだし」


コウモト アヤセ
「悪気のあるなしじゃないと思うけど?」


ノノハラ レイ
「一応、梅園クンなりにも、ボクに期待してくれているってことでしょ?
 だったらそれに応えてあげないとね」


ウメゾノ ミノル
「微妙に上から目線なのがちょっと気になるけど、そこまで言うんだったら楽しみにしてていいんだね?」


ノノハラ レイ
「勿論。珠玉のエンターテイメントを用意すると約束しようじゃないか」


コウモト アヤセ
「……無理や変なことだけは絶対にしないでよ?」


ノノハラ レイ
「大丈夫大丈夫。その辺は任せておいてよ。大船に乗った気分でさ」


コウモト アヤセ
「その船、泥でできてない?」


ノノハラ レイ
「鉄製です」


ウメゾノ ミノル
「錆びてない?」


ノノハラ レイ
「キミ等一々ツッコミがキレッキレすぎない?」



 流石にボクでも傷つくことぐらいあるんだぜ?



オモヒト コウ
「お前らいつまでも残ってないで早くリフトに乗りに来いよ。何時まで待たせるんだ」



 どうやらボク等が話してる間にお開きになっちゃったみたいだね。
公のセリフを鑑みるに、皆戻ろうとしてるみたいだね。



ノノハラ レイ
「はいはい、わかったわかった。行くよ。待たせて悪かったね」



 ゴンドラリフトに乗り込んで本館に戻った。
 帰り道でも興奮やまぬ皆の喧騒をよそに、ボクが考えているのは明日からの事。
 どうしようかな?



ノノハラ ナギサ
「……」



 さっきからずっと渚がボクを見てるのは、気のせいじゃないよね。






 本館、エスポワールの自室へ向かった。



ノノハラ レイ
「明日は渚とデートで、明後日には交流会……。明々後日の予定は……、まぁ、増田クンか公に任せればいいでしょ」



 今後の予定を寝る前に言葉に出して反芻する。これが予定を先延ばしにしない一番の方法なんだよね。
さーて、明日から忙しくなるわけだし、英気を養うためにもぐっすり寝る! お休み!
 ベッドに寝そべり、目を瞑って、枕と布団の柔らかさに身を委ねた。
 今日はいい夢が見れそうなんだよね。良いものを見たんだから、さ。







――



???
「もういい。最初からこうすればよかったんだ……」



 やめて……。



???
「こうすれば、もう誰にも邪魔されないんだ……」



 やめて! もうやめて! お願いだから!



???
「ずっとずっと、一緒に居ようね。お兄ちゃーん!」



――






 絶叫と共に跳ね起きた。
 心臓は頭の中にも響くくらいドクドクいってる。



ノノハラ ナギサ
「また……、あの夢……」



 ここにきてからずっと、あたしは同じ夢に魘されている。
 お兄ちゃんに包丁を振り下ろし、突き刺して――!



ノノハラ ナギサ
「どうして……。あたしはお兄ちゃんを殺すなんて、そんなこと……!」



 ありえない。あの女共にならともかく、どうしてこのどす黒い感情をお兄ちゃんにぶつけなきゃいけないの。



ノノハラ ナギサ
「酷い汗。シャワー浴びて着替えないと……。風邪なんてひいたら、お兄ちゃんに迷惑かけちゃう」



 このホテルの防音加工には本当に感謝しなきゃ。
 家ならさっきの声、絶対にお兄ちゃんに聞こえちゃってるし。
 今の時刻から考えても、朝のアナウンスにはまだ時間がある。
 これからの予定をお兄ちゃんにメールで送るのも、シャワーを浴びてからでも遅くない。




 熱いシャワーを浴びながら、あたしはあの恐ろしい悪夢について考える。
 最初はいつも通りの日常。朝ごはんを作って、お弁当を作って、お兄ちゃんと一緒に学校に行って、晩ごはんを作って、お兄ちゃんと他愛のないお喋りをして――。
 ここで目が覚めれば、幸せな夢なのに。その後必ずいつも、いつもいつもいつもいつも、あの二人が邪魔をする。
 お兄ちゃんは学校に行く時間をずらすようになった。その隣にはいつも綾瀬がいた。
 帰宅部だったお兄ちゃんが園芸部に肩入れするようになった。
 綾瀬と、今はもうお兄ちゃんに忘れられたあの女の、あるいは、それらに関する話が多くなった。
 今も胸の中に渦巻いているどす黒い感情が、幸せだった日常を侵してくる。
 だから、幸せを取り戻すために、泥棒猫共を殺した。
 爽快だった。これであたしとお兄ちゃんの邪魔をする障害がいなくなったと思うだけで、あたしの感情は真っ白になる。
 ここで目が覚めても、まだいい。人殺しをしたという罪悪感はあるけど、そんなものであの頃の幸せは上書きできない。できるわけがないし、させない。
 問題は、続きがあるということ。質の悪いことに、最悪な結末を迎えることにも気づかないで、夢の中であたしはお兄ちゃんのもとに駆け寄るんだ。





 まずは真相を知ったお兄ちゃんからの拒絶。これはまだ理解できる。誰だって人殺しには近寄りたくない。お兄ちゃんだって普通の人間なんだ。
 ――それが、夢から醒めたあたしの感想。でも夢の中のあたしはそうじゃなかった。
 お兄ちゃんならあたしを拒絶なんてしない。そんな、根拠と言えば“兄妹だから”というだけのあやふやな自信だけを頼りに、あたしはお兄ちゃんに全てを話した。
 邪魔者を抹殺し、証拠も隠滅したこと。嬉しそうに喋る夢の中のあたしに、現実のあたしは吐き気がする。
そんなサイコパスがお兄ちゃんの一番嫌いな人種だってどうしてわからないのかな。





 次に二度とお兄ちゃんに邪魔者が近づけられないように、夢の中のあたしはお兄ちゃんを監禁する。
 これも一応、共感できる。邪魔が入る余地もない、お兄ちゃんとあたしだけの世界。お兄ちゃんの全てをあたしのものにできる。なんて素敵。
 それだけの力があるなら、と現実のあたしの頭の中をよぎるときもあるけど、すぐに掻き消える。お兄ちゃんは自由が好きなんだ。
 でも監禁する為に縛り付けるまではいい。足を砕くだけ砕いて、あとは何の治療もしないなんて夢の中のあたしは何を考えていんだか。
 お兄ちゃんを傷つけるなんて、夢の中のあたしであっても許せない。
 ついでにいえば、食事もそうだ。いくら手料理を食べさせたいからと言って、どうして脅すの? 馬鹿なの?
 夢の中のあたしながら死んでほしい。できるなら、この手で殺してしまいたい。それでこの悪夢が覚めるのなら、終わるのなら、あたしは喜んであたしを殺す。





 最後に、お兄ちゃんはあたしよりも綾瀬を選んで、それをあたしは恨んで、お兄ちゃんを包丁で殺す。
 もう擁護できない。したくない。百歩譲って、綾瀬を選ばれたのが癪だというのは認めるけど、それがどうしてお兄ちゃんを殺すことにつながるんだか。
 このころになってくると、夢の中のあたしと現実のあたしの動きと意識にずれがでてくる。
 夢の中で喋り、動いているのは夢の中のあたしだけど、夢の中で考えているのはあたし、という感じ。
 だから、夢の中のあたしが、お兄ちゃんを殺そうとするのを、現実のあたしは心の中で、どうにかして止められないものかと叫ぶ。文字通り必死に。
 たとえそれであたしが死んでも構わないと思ったところで、結果は何一つ変わらない。
 夢の中のあたしの体は現実のあたしの思い通りにならず、結局夢の中でお兄ちゃんは殺される。ほかでもない、あたしの手で。
 お兄ちゃんを殺してしまった。救えなかったという実感を最後に、ようやく悪夢から解放され、あたしは目を覚ます。





 一回ならまだいい。一時の気の迷いだと自分を慰めることができる。ただの悪い夢だと言い訳ができる。
 二回目はぞっとした。内容の過程も結果もまるで同じで、詳細まで覚えているなんて普通じゃない。けど、動機ビデオや脅迫文でそれどころじゃなかった。
 三回目は学級裁判の疲れもあって投げやりな気分になっていた。それでもお兄ちゃんを殺したのは文字通り夢見が悪い。
 そして四回目。もう寝るのが怖い。大好きなお兄ちゃんをこの手で殺してしまうなんて、夢の中でも耐えられない。
 今まではなんとか取り繕えてこれた。あたし自身びっくりするくらい顔に出さなかったと思う。
 お兄ちゃんにさえも、“ちょっと無理してるんじゃない?”ぐらいにしか思われないほどに。でももう流石にだめかもしれない。
 でも、お兄ちゃんにだけはこのことを知られるわけにはいかない。夢の中の話とはいえ自分を殺すような人間なんて、距離を取りたいに決まってる。
 おまけに、お兄ちゃんと綾瀬の距離がここでの生活を通じてやけに近い。それこそ、あの夢の中と同じように、正夢かと錯覚するほど。
 だからこそ、このどす黒い感情は絶対に抑えなきゃいけない。でないと、本当に正夢になってしまいそうな気がする。
 幸いなことに、今日は一日中お兄ちゃんと一緒に居られる。あたしが強めに出れば、二人きりになれるかもしれない。
 そうすればきっと、あたしはこの感情を白く薄めることができる。お兄ちゃんを大好きなあたしでいられる。夢ではなく現実の、本当のあたしでいられるんだ。





 ちょっと長く考え事しすぎちゃったかな。のぼせて変な気持ちになってる。
 早くでなきゃ。そろそろ朝のアナウンスが鳴る時間だし。



――「キーン、コーン…カーン、コーン…」



モノクマ
「えーと、希望ヶ峰学園候補生強化合宿実行委員会がお知らせします。
 オマエラ、グッモーニン!本日も最高のコロシアイ日和ですよー!
 さぁて、今日も全開気分で張り切っていきましょ~!」



 本当に、長く考えすぎてのぼせちゃったみたい。こんなにも長くシャワーを浴びるなんて。
 急いで着替えなきゃ。髪も乾かさないと。メールはドライヤー片手にすればいい。



『今日一日はあたしの手料理を味わってほしいからそれまで何も食べないでくれるかな?』



 ……ちょっとトゲのある文面かもしれないけど、これでお兄ちゃんにはあたしの意図を汲んでくれるはず。
 メールを送信して、と……。献立、考えなきゃ。
 絶対にお兄ちゃんを満足させるんだ。そして――。
 そして、あの幸せを、あたしとお兄ちゃんとの日常を取り戻すんだ。絶対に。





――本日はここまで。


――大分間が開いてしまいましたね。どれもこれもインフルエンザとコロナってウイルスのせいなんだ。ただの詭弁ですが。


――明日も更新、できればいいなぁ、とは思っておりますが。


――それでは、おやすみなさい。





ノノハラ レイ
「餓死しそう」


オモヒト コウ
「そこまでかよ」


ノノハラ レイ
「っていうかボク一人だけ絶賛絶食中の目の前で飯テロが起きてるんだぜ。今にも胃と小脳が暴動おこしそう」


ウメゾノ ミノル
「I’m hungry. から I’m angry. になるわけだ」


ノノハラ レイ
「その口をあんぐりさせたまま戻らなくさせてやろうか。具体的に言うと顎関節を外すことで」


ウメゾノ ミノル
「ヒエェ」


マスタ イサム
「下手に近寄らない方がいい。目がマジだ」




 ……献立を考えてたら遅くなっちゃったけど、どうしよう。お兄ちゃんに悪いことしちゃったかな。






ノノハラ レイ
「あ、おはよう渚。早速で悪いけど早くご飯作って? ここまで待たせるんだから、期待して良いんだよね?」


ノノハラ ナギサ
「任せてよ。腕によりをかけるんだから!」



 ……ハードル高くしちゃったかな。お兄ちゃんの限りなく無表情に近い笑顔が逆に怖いけど大丈夫、大丈夫。平気平気。
 お兄ちゃんのこれくらいの要望なら十分に応えられるから。あたしに振り向いてもらうんだから。






ノノハラ ナギサ
「はい、召し上がれ」



 朝は時間をかけずにトーストにベーコンと目玉焼きをのせる。
 トーストにはバター、目玉焼きには醤油で味付け。



ノノハラ レイ
「ムグムグ……、いつもの朝食だね。家で食べてた時が懐かしくすらあるよ」


ノノハラ ナギサ
「……早くここから出られればいいね」


ノノハラ レイ
「そうなんだよねぇー。モノクマがねぇー、尻尾掴ませてくれないんだもんさぁー。
 嗚呼嗚呼困った困った」



 うん。お兄ちゃんも味に納得してくれたみたい。やっぱりお兄ちゃんの食べるご飯はあたしが作ってあげないと。





ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


ノノハラ ナギサ
「お粗末様です」


ノノハラ レイ
「それで、この後はどうする? 渚はこれから何をする予定なのかな?」


ノノハラ ナギサ
「腕によりをかけてお昼と晩御飯の仕込みをしようと思うの。
 その、お兄ちゃんは暇しちゃうかもだけど」


ノノハラ レイ
「んー、なら渚が調理してるとこ見てようかな。
 家だとキッチン狭いから二人立つと身動きとれなくなっちゃうし」


ノノハラ ナギサ
「自分で言うのもあれなんだけど、見てて面白いことなんてないと思うよ?」


ノノハラ レイ
「いいのいいの。普段見れない光景を見れるのが面白いんじゃない。
 気配は消しておくから、ボクのことは気にしないでいいし」


ノノハラ ナギサ
「……ひょっとして、あたしの料理も真似しようとしてる?」


ノノハラ レイ
「あはは。バレちゃった? いいじゃん減るもんじゃなし」


ノノハラ ナギサ
「――まぁ、別にいいけど」



 ……お兄ちゃんにご飯を作ってあげる機会が減っちゃうじゃないなんて言いそうになっちゃった。危ない危ない。






ノノハラ ナギサ
「~♪」


ノノハラ レイ
「……」



 お兄ちゃんの視線を感じるけど、これはこれで新鮮、なのかな?
 こんなに広いキッチンを使えるのは贅沢……って言いたいんだけど、ここに死体があったって思うとちょっとね。
 凶器になった左端の包丁は流石に使いたくない。洗ってあったとしても、別のものに変わっていたとしても。気分的に。
 いけない。そんなことで落ち込んでちゃ美味しい料理なんてできないじゃない。



ノノハラ レイ
「……レシピとか、あるじゃん」


ノノハラ ナギサ
「あるね。あたしはもう体が覚えてるからもうあまり見ないけど」


ノノハラ レイ
「調味料をさ、“適量”入れるとかって書かれてる時とかあるじゃん」


ノノハラ ナギサ
「あるね。大体これぐらいかなーって感覚で入れるけど」


ノノハラ レイ
「適量って何なんだよ適量ってよォー! その料理に適した量がわからねェーからレシピを参考にしようってのによォー!」


ノノハラ ナギサ
「ほら、味の好みって人それぞれだから、ね? 一人前はこの量だってきっちり決めちゃうと色々とうるさいんだよ、きっと」


ノノハラ レイ
「そっか、そりゃそうだね。利権とか色々絡んできそうだし」



 お兄ちゃんが話を切り出してくるのはあたしの手が空いてるときだけだし、やっぱりお兄ちゃんなりに気遣ってくれてるのかな。
 今日のお兄ちゃんは感情の起伏が激しいみたいだけど。今日はそんな気分なのかな。




ノノハラ ナギサ
「うん、完成!」

 お昼は豚バラ玉子あんかけ炒飯。晩御飯のビーフシチューも大体出来上がり。後はじっくり煮込むだけだし。
 お昼から晩御飯までの間は何しようかなぁ。お兄ちゃんと何を話そうかなぁ?



ノノハラ レイ
「わぁお、美味しそう。……うん、渚の動きは大体覚えたぞ。レシピは暗記できるし後はそれをボクの体格に最適化させれば――」


ノノハラ ナギサ
「あたしがいないときはお兄ちゃんが作ってもいいけど、あたしがいるときはあたしの料理を食べてほしいな?」


ノノハラ レイ
「うーん、ボクもいい加減妹離れをしなければならない気がしてきたぞぅ?」


ノノハラ ナギサ
「だーめ。まだまだお兄ちゃんはあたしから離れちゃ危なっかしいところがいっぱいなんだよ?」



 お兄ちゃんは芯があるように見えて、意外とその場のノリと勢いに流されやすいところもあるし。
 あたしが近くで見てないと、どこかへ行ってしまいそうになるんだから。





ノノハラ レイ
「そう言えば、さ」


ノノハラ ナギサ
「うん?」


ノノハラ レイ
「腕によりをかけるって言ってた割には、今日は得意料理作らないんだね」


ノノハラ ナギサ
「……何のこと、かなぁ?」


ノノハラ レイ
「唐揚げとか、ロールキャベツとか、オムライスとか、八宝菜とか。
 まぁ、新しいジャンルを開拓するっていうのもアリっちゃアリなんだけどさ。朝食があれだったからなんか恋しくなっちゃって」


ノノハラ ナギサ
「……っそ、それは、ま、また今度ね。うん。また、今度……」



 ――なんでここで夢の内容を思い出すのかなぁっ! あれは夢! 夢なの!
 現実じゃない! 本物じゃない! あれはあたしじゃない!





 お兄ちゃんを殺してしまうようなあたしなんて死んでしまえ!





――本日はここまで。


――いい加減さくっと非日常編に行きたいなぁ! 何回目だろうなぁこのセリフ!


――若干のダイジェスト感やキングクリムゾン感はご容赦くださいませ。


――それでは、おやすみなさい。





ノノハラ レイ
「――ねぇ、ちょっと。渚? いきなりボーっとして、本当に大丈夫?」



 気が付くと、お兄ちゃんがあたしの顔を見つめていた。



ノノハラ ナギサ
「えっ?! あ、う、うん。大丈夫大丈夫。平気平気」



 いけないいけない。うっかり弱音を吐くところだった。
 ましてあの夢の事なんて絶対に言えない。言えるわけがない。






ノノハラ レイ
「本当に大丈夫な人は自分からそんなセリフ言わないの。
 普通はね、そういう質問されたときは“どうしてそんなこと聞くの?”って聞き返すから」


ノノハラ ナギサ
「あぅぅ……」


ノノハラ レイ
「心配してるんだよ? これでもかなり」



 どうしよう。どうやってお兄ちゃんに納得させよう。いっそのこと全部正直に言っちゃおうかな。
 ――ダメ、それだけは絶対に嫌。お兄ちゃんに嫌われちゃう。
 でもお兄ちゃんに嘘を言うのもやだ。あたしはお兄ちゃんに嘘なんて吐きたくない。
 だから、あたしにとって都合のいい事実だけ、言う。



ノノハラ ナギサ
「ごめんね、最近ちょっと寝不足で……」



 これは嘘じゃない。あんな夢の所為で寝るのが怖くなって、夜はベッドに横たわっているだけの無駄な時間を過ごす時間になっている。
 ――結局は眠気に負けて、寝ちゃうんだけど。





ノノハラ レイ
「……ふぅん、そっか。駄目だよ、ちゃんと寝ないと。寝不足は色々なものに対して大敵なんだよ?」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんには言われなくないな、そのセリフ」


ノノハラ レイ
「たっはー! その返しされると何も言えないぜ、ハハッ!
 ……でもおかげでよくわかったよ。寝不足の原因はボク絡みなんだね?」



 ――まるで心臓を氷の手で鷲掴みにされたような寒気がした。






ノノハラ ナギサ
「な、なんのこと、かなぁ?」


ノノハラ レイ
「動揺がモロに顔に出てる時点で自白してるようなものだけど、それでもすっとぼけるってことは……。
 そっか、よっぽどのことなんだね。じゃぁボクがこれ以上関わるのは逆効果かなぁ?」


ノノハラ ナギサ
「ち、違うの、お兄ちゃんは、全然悪くなくて、その、あたしが」



 これ以上お兄ちゃんに距離を取られたらあたしの心が耐えられない。
 だから、ここは何としてでもお兄ちゃんをつなぎとめておかないと。





ノノハラ レイ
「渚? どうしたの?」


ノノハラ ナギサ
「あ、あのね。お兄ちゃん。最近、その、綾瀬さん、と一緒じゃない?」


ノノハラ レイ
「しょうがないじゃん。何か他の皆がちょっと冷たいって言うか連れないって言うか、とにかく相手してくれないんだもん」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃん、自分のことを省みることって大事だと思うの」


ノノハラ レイ
「はて? ボクのこれまでの行動の何処に不味いところがあるのかな?」


ノノハラ ナギサ
「……お兄ちゃんに自覚がないならしょうがないから、とりあえずおいておくね。
 とにかく、あたしが言いたいのは、その、あたしがお兄ちゃんの傍に居たいなって」


ノノハラ レイ
「んー、不味いところが気になるところだけど、そう言うならそういうことで良いよ。
 で、ボクの傍に居たいというのは……、綾瀬抜きでってこと?」


ノノハラ ナギサ
「……うん」


ノノハラ レイ
「今日だけじゃなくて?」


ノノハラ ナギサ
「……、……うん」


ノノハラ レイ
「いいよ、そういう日を作ろう。そういえば最近は構ってあげてなかったもんね」


ノノハラ ナギサ
「えへへ、ありがとう、お兄ちゃん」



 ――本当は今日からずっとがいいな。
 なんて喉から出かかった言葉を何とか飲み込めた。
 悔しいけど、綾瀬と一緒に居るお兄ちゃんは本当に楽しそうで、笑顔が眩しいから。






ノノハラ レイ
「おっと、話し込み過ぎちゃったかな。せっかくの料理が冷めちゃうぜ」


ノノハラ ナギサ
「あ……、そうだね。美味しいうちに召し上がれ♪」



 お兄ちゃんがあたしの料理を美味しそうに食べてくれる。これ以上の幸せを望むのは、今は辞めておこう。
 きっとそれが一番の正解なんだ。





ノノハラ レイ
「ごちそうさまでした」


ノノハラ ナギサ
「お粗末様でした」


ノノハラ レイ
「さぁて、渚。この後は暇でしょ? シチュー煮込むだけなんだし」


ノノハラ ナギサ
「うん。でも火は見ておかないといけないから」


ノノハラ レイ
「キッチンに居なきゃいけないんでしょ? まぁちょっと手間は取らせないからさ。
 それにやろうと思えばキッチンでも出来ることだし」


ノノハラ ナギサ
「それならいいけど……何をするつもりなの?」


ノノハラ レイ
「今日はずっと一緒に居るって言ったのは渚の方だろうに。
 いやなに、体調不良なのに美味しい料理を作ってくれた可愛らしい妹への、ボクなりの労いをと思ってね。
 まずはキッチンに行こう。話はそこからさ。食器も片付けなきゃだしね」


ノノハラ ナギサ
「え、あ、うん」



 あたしはお兄ちゃんの言われるがままにキッチンへ誘導された。






ノノハラ レイ
「さて、渚。何処を貸してあげようか? 腕? 肩? 膝? なんなら胸でも構わないよ?」



 キッチンの椅子に腰かけたお兄ちゃんがそう言いながらもう一つの椅子を隣に引き寄せる。



ノノハラ ナギサ
「えっと、貸すって、どういうこと?」


ノノハラ レイ
「枕としてだけど?」


ノノハラ ナギサ
「え? えぇっ?!」


ノノハラ レイ
「ボクとして寝不足な妹に振る舞えるものなんてボク自身しかないわけだからね。
 火はボクが見ておくから安心して昼寝すると良い。その間の枕ってわけだ。
 まぁ居眠りなわけだからあまり寝心地はよくないだろうけれど」


ノノハラ ナギサ
「え、えっと、その、えぇ?!」


ノノハラ レイ
「あー、あれかな。寝顔見られるの嫌だったりする?」


ノノハラ ナギサ
「そ、それは別に構わなくもない、かな、とか、そう、じゃなくって、その」



 どうしよう。お兄ちゃんを枕にするなんて嬉しすぎるのに。
 それでもまたあの夢を見てしまったらどうしよう。そうなるともうお兄ちゃんに誤魔化せない。
 膝枕してほしいけど腕枕も捨てがたいしお兄ちゃんの肩に寄り添うっていうのも悪くないけど、じゃなくって。



ノノハラ レイ
「んー、やっぱりこういう行為もセクハラになるのかな。ごめんね渚変なこと言って。
 まぁとりあえず火はボクが見ておくから渚は部屋でゆっくり休んで――」


ノノハラ ナギサ
「肩! 借りるね!」


ノノハラ レイ
「おっ、おう。威勢のいい返事だ。右にする? それとも左がいい?」


ノノハラ ナギサ
「右で!」



 これはもうあれこれ悩まない方がいい。こんな滅多にないチャンスを逃すわけにはいかないもん。






ノノハラ レイ
「どう?」


ノノハラ ナギサ
「……うん、なんだか、凄く落ち着く」


ノノハラ レイ
「そう、それはよかった」



 椅子に腰かけて、お兄ちゃんの右肩に頭をのせて体を預けると、お兄ちゃんの匂いに包まれているようで気分がいい。
 これなら、あんな夢は見ないかもしれない、なんて思いながら、少しずつ意識が遠のいているのが分かる。
 もう少し、この感覚を味わっていたい。そんな思いだけで微睡んでいる状態を続けている。
 心地良い。気持ち良い。嬉しい。幸せ。
 もう体の方が限界だったのか、あえなく意識を手放そうとしている。本当に勿体ない。
 ――でも、この温もりを感じながらなら、きっと……。



―――



ウメゾノ ミノル
「おうおう、随分とまぁ仲がよろしいこと。妹さんはシエスタ中かい?」

ノノハラ レイ
「茶化しに来ただけなら帰ってくれないかな。
 渚を起こしたくないし、誰の許可を得て渚の寝顔を見ているんだい?」

ウメゾノ ミノル
「そんな殺気立たないでよ。そんなんじゃビビッてロクに話もできやしねぇ。
 いやさ、僕も料理を作ろうと思ってね。というか、せがまれちゃって」

ノノハラ レイ
「慧梨主さんに? それとも亜梨主さん?」

ウメゾノ ミノル
「両方、かな。イギリスに留学した時の事を話したら、
『じゃぁその“伝統的な味”とやらを振る舞いなさいよ』とか言われちゃって。慧梨主も期待で目をキラキラさせちゃって」

ノノハラ レイ
「……そう。それは、ご愁傷様」

ウメゾノ ミノル
「誰に対してのセリフかなそれは」

ノノハラ レイ
「ご想像にお任せします。で、どうすんの? まさかマジモンの英国料理作るつもり?」

ウメゾノ ミノル
「一応は、ね。ランチはもう済ませちゃったし、ディナーもあるから軽くつまめるパイを」

ノノハラ レイ
「星を見上げるのかな?」

ウメゾノ ミノル
「まさか。まぁ英国料理でパイと聞いたらすぐに思い浮かぶのはそれだろうけど。
 ――ミンスパイだよ。本当に色々な食材があるよねここには。ミンスミートもあるなんて」

ノノハラ レイ
「ポットニュードルもあるよ。あとマーマイトとか」

ウメゾノ ミノル
「警告しておくけど、興味本位で手を出していい代物じゃないからね?」

ノノハラ レイ
「遅かったね。サルミアッキに口をつけてるから。欲しい?」

ウメゾノ ミノル
「いいえ私は遠慮しておきます。
 ――いやほんとマジでシュールストレミングに耐えられるほどの生粋のスオミ人じゃないから、普通に無理だから」

ノノハラ レイ
「ちぇ。せっかく道連れが出来ると思ったのに」

ウメゾノ ミノル
「野郎と心中なんざ死んでも御免だっての。……で、君はこの鍋の火を見てるわけだ」

ノノハラ レイ
「そういうこと。手を出しさえしなければ、いないものとして扱ってくれて構わないぜ」

ウメゾノ ミノル
「触らぬ神に祟りなしって? 解ってるよ。こっちだって喧嘩は商売にしたかないし。
 その代わり、そっちも迂闊にちょっかいかけようものなら、命賭けてもらうからね?」

ノノハラ レイ
「おおこわいこわい。肝に銘じておくよ。さて、いい加減お喋りは辞めよう。男は黙ってこそさ。
 特に、今この状況じゃぁ、ね」

ウメゾノ ミノル
「All right. 眠り姫のお目覚めにはまだお早いってワケね。
 じゃ、ASAPと行きますか。こちらもお姫様方をお待たせするわけにもいかないし」






ウメゾノ ミノル
「Mission complete.後はこれを食べてもらうだけだ。
 で? さっきからずっと見てる君もこれが欲しいのかい?」


ノノハラ レイ
「いや、結構。キミの調理姿にちょっと気になることがあっただけだよ」


ウメゾノ ミノル
「……何さ」


ノノハラ レイ
「マジックの時もそうだけど、キミ、右利きの癖に精密な動き要求される動作は全部左手でやってるよね。何で?」


ウメゾノ ミノル
「……その答えを聞くには親密度が足りません」


ノノハラ レイ
「あっれぇ? ボクとキミって結構仲良しだと思うんだけど。そう思ってたのはボクだけなのかな?」


ウメゾノ ミノル
「それはそれ、これはこれ。僕自身の気持ちの問題だから。
 そんなに気になるなら、君が前の学級裁判の後に持ちかけてきた取引の詳細を教えてよ。交換条件だ」


ノノハラ レイ
「……じゃぁいいや、深追いしないでおくよ。そこまで気になるものでもないし、大方予想はつくしね」


ウメゾノ ミノル
「……君のような勘のいい奴は嫌いだよ、本当に。
 僕としては君が自分の計画を妹にも教えていないことに余計に腹が立つ」


ノノハラ レイ
「それが昨日見せてくれたキミのマジックの個人的な真意なのかな?
 “自分にはこんなにも自分を信用してくれる人がいる”っていう当てこすりのつもり?」


ウメゾノ ミノル
「……本当に、君って奴は。覚妖怪の類なのか?
 初めてだよ。あんな暗い個人的な感情を抱いてステージに立ったのは」


ノノハラ レイ
「失礼だな。ボクは人間だよ、あくまでもね。
 それにしても意外だな。君にもステージに立つ矜持とかあるんだ、そういうの。
 外交官としての趣味がマジックってのも意外だけど――」


ウメゾノ ミノル
「発言に気をつけな。それ以上は地雷原だ」





ノノハラ レイ
「……ふぅん? なるほどね。わかった。これ以上は踏み込まないでおくよ。キミ、怒らせたら怖いタイプだもん」


ウメゾノ ミノル
「なら、いい。――ほら」


ノノハラ レイ
「あれ、ボクいらないって言わなかったっけ?」


ウメゾノ ミノル
「いいから受け取りなって。本来ミンスパイは特別な日に食べるものなんだ。
 だから、これは僕が君に渡せる最大限の有効の証だよ」


ノノハラ レイ
「そ、要するに口止めってわけ。安くついたねぇ。ま、この場合は気持ちの問題なんだろうけど――。
 ……ん、この英国料理は偽物だ。食べられるよ」


ウメゾノ ミノル
「そりゃそうだ。英国料理が不味いなんてエスニックジョークはもう古いんだぜ。
 良い素材を使って適切な調理をすれば星を取ることだって夢じゃない」


ノノハラ レイ
「それ従来の調理法がダメだって皮肉ってる? 新手のブリティッシュジョーク?」


ウメゾノ ミノル
「ハハッ、ゲイリー。英国紳士は自虐なんてしないよ。皮肉のセンスは抜群なのは他人に対してだけなのさ。
 っと、油売ってる場合じゃないや。早いとこ持って行かないと」


ノノハラ レイ
「二人の反応が楽しみだなぁ。きっと亜梨主さんは微妙な顔して、慧梨主さんはぎこちない笑顔をキミに見せてくれるだろうぜ」


ウメゾノ ミノル
「……今しれっとディスられた気がする。まぁ、僕もそう豪語できるほど料理の腕に自信はないんだけどさ」


ノノハラ レイ
「一応人様にお出しできる味ではあるとだけは言っておくよ」


ウメゾノ ミノル
「そう言われると逆に不安になるんだけど?」


ノノハラ レイ
「おかしいな。素直な感想なのに」


ウメゾノ ミノル
「これまでの言動を思い出しなって。じゃ、僕はこれで」



ーーー




ウメゾノ ミノル
「……君は預言者か何かかい? 本当に言ったとおりの顔してたよ」


ノノハラ レイ
「彼女らがどんな反応をするのか、軽くシミュレーションしてみただけだよ」


ウメゾノ ミノル
「サラッととんでもないこと言ってるぞコイツぅ……。
 カッコいいところ見せようと思ったのにこれじゃ締りが付かねぇ……。
 こうなりゃヤケじゃヤケ」


ノノハラ レイ
「あまり騒がないでね。……ちょっと待って。
 キミがグラスに注いでるそれ、ボクの目には馬鹿でかいランチャームに見えるんだけど、気のせい?」


ウメゾノ ミノル
「飲まずにはいられない!」グビィー!!


ノノハラ レイ
「おぉ、戸惑いなく一気にいったねぇ」


ウメゾノ ミノル
「醤油だこれぇっー!!」ブーッ!!


ノノハラ レイ
「なんだ、血圧一気に上げて自殺でもするつもりなのかと思ったのに」


ウメゾノ ミノル
「ちゃうねん……。ペッシェヴィーノロッソかと思ってん……」


ノノハラ レイ
「キミは実にバカだなぁ。そんなものが未成年の手に届く場所にある訳ないじゃん。大体、匂いで気付きなよ」


ウメゾノ ミノル
「ですよねー。うげぇ、気持ち悪い……。水、水はどこじゃ……」


ノノハラ レイ
「そこに蛇口があるじゃろ?」


ウメゾノ ミノル
「يتدفق نهر النيل من عينيك」


ノノハラ レイ
「……なんて?」


ウメゾノ ミノル
「なんでもない。……ア゛~……。死ぬかと思った。まだちょっとくらくらする」


ノノハラ レイ
「身から出た錆ついでに教えてあげるけど、服ガッツリ汚れてるから、早く洗ったほうがいいぜ」


ウメゾノ ミノル
「うぇ?! ……うげぇ、マジじゃん。うわぁ、醤油のシミとか目立つ上になかなか消えないとかホントマジ厄介な奴じゃん……。
 着替えてランドリールーム行こ……」


ノノハラ レイ
「お大事に」


ウメゾノ ミノル
「心にもないことを……。まぁいいや、それじゃぁね」



―――


 あたしはいま夢を見ている。
 お兄ちゃんとの何気ない日常を過ごす優しい幸せな夢。
 これが微睡みと知りながら、この光景を心の支えに出来るように、どうにかして心に焼き付けようとする。
 でも、この後の惨劇を知っているから、早く覚めてほしい。
 でも、もっとこの幻想に身を委ねていたい。いつまでもこうして揺蕩っていたい。
 でも、でも、と煩悶している間に、とうとうあの時間がやってきた。
 あたしとお兄ちゃんとの間に翳りができる瞬間。そろそろ覚めないと。
 早く、早く、早く早く! お願いだからもう覚めて!



―――




ノノハラ レイ
「渚、ねぇ、起きてってば、渚」


ノノハラ ナギサ
「――っ! お、おはよう、お兄ちゃん」


ノノハラ レイ
「うん、おはよう。寝心地はどうだった?」


ノノハラ ナギサ
「うん、おかげでぐっすり眠れたよ。ありがとう」


ノノハラ レイ
「そう、それはよかった。お兄ちゃん冥利に尽きるよ」


ノノハラ ナギサ
「どれぐらい、寝てたの?」


ノノハラ レイ
「そろそろ夕食の時間って感じだね。シチューもいい感じに煮込まれいるんじゃないかな」


ノノハラ ナギサ
「そ、そんなに寝てたんだ。じゃぁ、ちょっと鍋の様子見ないと」


ノノハラ レイ
「おいおい、そんないきなり立ち上がるなよ。立ち眩みとか考えなってば」



 お兄ちゃんの言葉もむなしく、あたしの体はそのまま倒れこんで――、いなかった。
 先回りしたお兄ちゃんに抱きかかえられたから。



ノノハラ レイ
「ほら、言わんこっちゃない。大丈夫?」


ノノハラ ナギサ
「あ、うん。ありがとう。と、とりあえずシチューの味見したいから鍋のところまでいきたいな」


ノノハラ レイ
「わかった。じゃぁ肩貸すから」


ノノハラ ナギサ
「う、うん……。ありがとう……」





ノノハラ ナギサ
「うん、上出来」



 あたしの納得できる味ができた。これならお兄ちゃんも喜んでくれるはず。



ノノハラ レイ
「それは楽しみだ。困ったな、ちょっと待ちきれなくなっちゃった」


ノノハラ ナギサ
「つまみ食いはダメだからね?」


ノノハラ レイ
「解ってるよ。まぁ、ボクとしてはいっぱい食べれれば満足だし」


ノノハラ ナギサ
「お兄ちゃんはよく食べる方だもんね。ちょっと多めに作っておいてよかった」


ノノハラ レイ
「そうとあれば早速夕食だ。ビーフシチューがボクを待っている!」






ノノハラ レイ
「……ふぅ~……、食べた食べた。ごちそうさま」


ノノハラ ナギサ
「結構余裕を持って作ったつもりなんだけど……、まさか本当に完食するなんて」


ノノハラ レイ
「ふふ、渚の料理は美味しいからね。満腹中枢が刺激されても食べ続けられるのだよ。
 ……さて、そろそろ明日の企画に向けて準備しないとね。手伝ってくれるかい?」


ノノハラ ナギサ
「結局何をするつもりなの?」


ノノハラ レイ
「映画鑑賞会をしようと思ってね。ポップコーンは必要でしょ? あとチュロスも要るかなぁ?」


ノノハラ ナギサ
「チュロスは手間がかかるしポロポロこぼれちゃうから、ポップコーンに絞った方がいいと思うな」


ノノハラ レイ
「そっか。じゃぁコーラも用意しないといけないなぁ。……いやまてよ? 別館の自販機にあったかな?
 あ、いや、なかったわ。コーラこっちにしかないわ。
 ってことは結構荷物がかさばっちゃうなぁ。何回か分けて運ぶか……、それともみんなに持ってきてもらおうかなぁ」


ノノハラ ナギサ
「みんなの見たい映画の好みもあるだろうし、あとでメールで聴いてみたら?」


ノノハラ レイ
「それもいいね。ボクのチョイスだとどうしても偏っちゃうし。
 でも最終的にはボクの独断と偏見でチョイスしようかな」


ノノハラ ナギサ
「主催者権限を乱用するのはよくないと思うけど……。発案はお兄ちゃんだし、良いんじゃないかな」


ノノハラ レイ
「そうと決まれば一斉送信だ。
 『明日は映画観賞会するつもりだから、応えられるかは別としてリクエストがあるなら返信よろしく』っと。
 さて渚、ちょっと忙しくなるかもだけど、ポップコーンづくりに手伝ってもらうからね」


ノノハラ ナギサ
「望むところだよお兄ちゃん」



 こうして、消灯時間間近までひたすらにポップコーンを作り続けた。
 何時間も映画を見るとあれば、しかもそれが14人ともなるとかなりの量を作らなきゃならない。
 誰がどれだけ食べるか分からないから、最悪お兄ちゃんに全部食べてもらうつもりで作っちゃおう。





こうして、あたしの楽しい一日は終わった。
昼寝した時もいいタイミングで起きることができたし、なんだか今日はいい夢を見れそうな気がする。




――本日はここまで。


――ようやく物語を動かすことができるぞ……!


――ヤンデレCD Re turnの情報も開示されたことですし、これからも更新速度を上げていかなくては。


――それでは、おやすみなさい。





―――



???
「ヒトの身を捨て、機械の身体を得て、神の座に至る。成程確かにそれは面白い考えだ。
 ジュール・ヴェルヌ曰く、“人間の想像しうるものは必ず実現可能である”。まぁ、ラ・フュイ夫人の捏造らしいけど。
 後は……、ツァラトゥストラ、だったかな? “神は死んだ”と言ったのは。
 キミが想像し、創造しようとするのは新しい人の形かも知れない。それは認めるよ。
 でもね、妄想とは区別されるべきだ。その程度で座せるほど、真理は甘かないんだわ」


???
「くふふふふふはふぅうううう、何を宣うのかと思えばそんなセリフをあなたが、ですか?
 何の変哲もないただの凡人でしかない、あなたが」


???
「凡人だからこそだよ。人並みに神頼みするなんてままある話さ。それに一々応えられるかって話だよ。
 勿論、処理能力云々じゃない。そんな七面倒臭いことを押し付けられてたまるかってんだ。
 それはキミも同じはずだ。雑事に裂く時間があれば、主題に回したほうがいい。そういう人間だろ?」


???
「何を当たり前なことを。愛するものと共に過ごす。それ以外に何が必要なのですか?」


???
「――オーケー、どうやらキミとは宗教観からして根本的に解り合えないらしい。
 価値観がねじれの位置にあるなら、話が通じないのも頷ける。無為な時間だったね」


???
「全くです。どうしてあなたと話そうなどと思ってしまったのやら」


???
「気の迷いって奴だろ? ま、精々頑張りな。応援はしてやらないけど。
 ――ところで、その頓痴気な服装は素面でやってるのかい?」


???
「殺すぞ」



―――





 新しい朝が来た。希望の朝かどうかはさておき、分水嶺であることは確かかな。
 なんかちょっと変な夢見た気がするけど。頭の片隅の何処かにでも放っておこう。さほど重要だとは思えないし。
 そんなことより、今日のメインイベントだよ。急な招集だったけど、返信を確認しておかないとね。



ノノハラ レイ
「リクエストは――っと、うん、オッケー、想定の範囲内だ。
 これならプログラムをちょっと組み換えて合間に挟めばいけるっしょ」


 さぁいくぞ。ポップコーンとコーラの貯蔵は充分か?



―――


 朝食を摂ったらすぐに別館へ行くよう澪に急かされ、ついでとばかりに大量のポップコーンを持たされ。
 俺達は全員ゴンドラに乗っている。



オモヒト コウ
「不安だ」


ナナミヤ イオリ
「何が――、いえ、何を心配しているの?」


オモヒト コウ
「映画観賞会をするのはいい。問題はその映画が見るに堪えるかどうかだ。
 アイツの事だからB級をすっ飛ばしてZ級映画を持ってきかねない」


ノノハラ レイ
「信用ないなぁ。流石にそこまでヒトとしての感性を疑われるような真似をした覚えはないよ?
 そんなに見たいって言うなら、予定変更もやむなしかなぁ?」


オモヒト コウ
「そういう所だからだよ、お前の場合は。言っておくが、フリでも何でもなく、絶対に見せるなよ?」


ノノハラ レイ
「はいはい。まぁ、梅園クンが見せてくれたぐらいには、珠玉のエンターテイメントを期待してくれても構わないよ」


オモヒト コウ
「お前自身は選んだだけで特に何もしてないじゃないか」


ノノハラ レイ
「失敬な。中身を吟味して、飽きがこないよう順番を考え、みんなに喜んでもらえるようなプログラムをシミュレーションしたんだぜ?」


ナナミヤ イオリ
「……昨日はそういうことをしていたように見えなかったのですが?」


ノノハラ レイ
「ボクの記憶力を嘗めないでおくれよ。あのシアタールームにある映画の内容は全部知ってるんだから、これくらい余裕余裕」


ナナミヤ イオリ
「……もうその程度では驚かなくなってしまったことに驚いてしまいました」


オモヒト コウ
「怖いな、慣れって」


タカナシ ユメミ
「あたしはどーだっていいけど。見たくなくなったら勝手に出てって良いんでしょ?」


ノノハラ レイ
「困るなぁ、折角の映画観賞なんだから、最後まで見て行ってよ。
 それに、映画館じゃ途中退席はマナー違反だぜ? まぁ、休憩は挟むから安心しておくれよ」


オモヒト コウ
「やっぱりイマイチ信用ならないな、そういうこと言われると」


ノノハラ レイ
「あるぇ~?」



 そういう所だぞ。とは言わないでおこう。話がループしかねない。





マスタ イサム
「荷物持ちはいいが……、どれだけ作ってきたんだよあいつ。いや、14人分と考えれば妥当なのか?
 それよりもいいのか、ユーミア? 明らかにそっちの方が重いだろ?」


ユーミア
「コーラの事ですか? このくらい平気です。クーラーボックスと氷水の分を合計しても、高々30キロ程度ですから。
 メイドたるもの、マスターに負担や迷惑をおかけしてしまう方が心苦しいのです」


マスタ イサム
「やせ我慢――はしてないみたいだな。でも、俺だって女性に重い荷物を持たせるのは心苦しいんだ」


アサクラ トモエ
「本当に先輩は優しいよねー。メイドも逞しいし。ボクは紙コップとかティッシュぐらいしか持ち運べないから、羨ましいなー」


ユーミア
「言葉に棘があるように聞こえますね。やはり体系と同じく器も小さいのですか?」


アサクラ トモエ
「そっちこそ、大きいのは無駄な胸だけなんじゃないの?」


マスタ イサム
「落ち着け。ギスギスするんじゃない」





ナナ
「楽しみね、映画」


ノノ
「どんな映画を見せてくれるのかな?」


サクラノミヤ エリス
「私は……、その。見たい映画があるのでメールを送ってみたのですが」


サクラノミヤ アリス
「見れると思ってるの? あんな性悪が聞く耳持つかしら?」


ウメゾノ ミノル
「僕も送りはしたんだけどねぇ、望み薄かな。所詮大昔のB級映画だし」


ノノハラ ナギサ
「……大丈夫かな、お兄ちゃん」


コウモト アヤセ
「わたしは、澪を信じてる。わたしの信じる澪を」



―――





 そうこうしているうちに別館のシアタールームに到着した。
 ……流石に14人も入るとなると少し狭いな。



ノノハラ レイ
「さぁて、じゃぁ泣く子も黙って首を振る、映画観賞会、始めるよ。
 皆、ポップコーンは持ったかい? コーラは?
 ――結構。じゃ、最初の上映だ」


 真っ暗な空間の中で澪の声が響き、スクリーンに映像が映し出された。




ノノハラ レイ
「まず映画と言えばコレでしょ、定番中の定番。『コマンドー』繰り返します。『コマンドー』
 はじけろ筋肉、飛び散れ汗! 車に轢かれても、飛行機から墜ちてもビクともしねぇ。
 愛する娘を守るため、一人敵のアジトに殴り込む。――戦うパパは、カッコいい」




―――



『行ったかと思ったよ』
『とんでもねぇ。――待ってたんだ』バババババ!



ウメゾノ ミノル
「これがホントの朝MACってね」


ユーミア
「洒落になってないですよ。あとそのネタを理解できる人が他にいるのですか?」



―――



『俺たちに協力しろ、オーケー?』
『オッケイ!』ズドン!



ノノハラ ナギサ
「OKって言いながら撃っちゃったよ?!」


ノノハラ レイ
「娘を助けるために協力しなければならない事は理解したが拒否する、ってカンジでしょ。
 実際口の動きを見るに“wrong(嫌だ)”って言ってるし」



―――



『追ってくるぞあのバカ』



ウメゾノ ミノル
「これぞ究極のエコカー、位置エネルギーカーだ」


サクラノミヤ エリス
「一方通行ですよねこれ……」


サクラノミヤ アリス
「追いついたところで――『ガシャァン!』――事故る気満々だったのね」





―――


『ベネット?! 殺されたんじゃ?!』
『残念だったなぁ。トリックだよ』


ノノハラ レイ
「どんなトリックかは結局明かされないんだけどね」


マスタ イサム
「船底かどこかに隠し非常口みたいなものがあったんだろ、多分」



―――



『連れを起こさないでやってくれ、死ぬほど疲れてる』



ナナ
「実際死んでるのよね」


ノノ
「殺しちゃってるからね」



―――



『お前は最後に殺すと言ったな?』
『そうだ大佐助けて』
『あれは嘘だ』
『うあああああぁぁぁぁぁ!』



マスタ イサム
「容赦ないな」


ユーミア
「ここで見逃せばいつ連絡を入れられるか分かりませんし、用済みですからね」


アサクラ トモエ
「でもあの体勢で突き落とすのって相当――」


―――



『車がなくなっちゃったわ』
『――これで出来た』



ノノハラ レイ
「これが筋肉式わらしべ長者だ」
コウモト アヤセ
「嫌よこんな物騒なわらしべ長者」




―――



『怖いか? クソったれ。当然だぜ、元グリーンベレーの俺に勝てるもんか』
『試してみるか? 俺だって元コマンドーだ』



タカナシ ユメミ
「なんか、もうあっさり倒される未来しか見えないなー」


オモヒト コウ
「実際そうだしな」


ナナミヤ イオリ
「グリーンベレー……、軍のことはよくわからないわ」



―――



『クックー!』



ノノハラ レイ
「不慮の事故とは言え自分で殺しておいてその反応はどうなんだとは思う」


ノノハラ ナギサ
「あ、あの、さっき、その、色々見えちゃってたんだけど」


ナナミヤ イオリ
「……」


オモヒト コウ
「伊織――? 気絶してる。許容量を超えてしまったか」



―――





ガシャァァン



ウメゾノ ミノル
「武器屋の癖にsecurityガバガバすぎるんだよなぁ」


ノノハラ レイ
「重機で突撃することを想定していなかった店側の責任です」


ノノハラ ナギサ
「そうなの?」


ウメゾノ ミノル
「普通そう簡単に盗まれないようにするはずなんだよなぁ。
 あ、今足ひれカートに入れたけど、これ使われることないから」


サクラノミヤ エリス
「え、そうなんですか?」


サクラノミヤ アリス
「そもそも何のために使うのよ……」


ユーミア
「……何故暗証番号がそんなあっさりと割れるんですか」


マスタ イサム
「その辺は深く考えちゃダメだぞユーミア」


アサクラ トモエ
「でもここまで派手にやってたら――そりゃくるよね、警察」




―――


『やだぁ……』



ウメゾノ ミノル
「ダメだよちゃんとAT-4の前後は確かめないと」


ノノハラ レイ
「説明書を読んだはずなんだけどねぇ」


ユーミア
「トリガーに違和感を覚えなかったのでしょうか?



―――


『きゃぁ!』



ユーミア
「何故無反動砲で後ろに転がるんです? さっきは転ばなかったのに」


マスタ イサム
「その辺気にしたら負けなんだぜユーミア。こういう映画はノリと勢いで出来てるからな」



―――


『こんなの飛行機じゃないわ! 羽のついたカヌーよ!』
『だったら漕げばいいだろ!』



ノノハラ ナギサ
「その理屈はおかしいと思う」


ノノハラ レイ
「何とかできるできないじゃない。何とかするんだよ」



―――


『動け、動けってんだよこのポンコツがぁ! ――この手に限る』



ウメゾノ ミノル
「この手しか知らないんだよなぁ」


ユーミア
「壊れかけの機械を叩いてどうにかするのはどうしたらよいものか……、不安です」


アサクラ トモエ
「ちょっと無理させて寿命を無理矢理延ばしてるって考えたら、空恐ろしいね」




―――



ユーミア
「……何故単騎で、しかもゴムボートで上陸など」


ウメゾノ ミノル
「もとは足ひれ使って潜入って感じだったらしいんだけど、それじゃシュワちゃんの筋肉が見れないじゃないかってことでこうなったらしいよ」


ノノハラ レイ
「元ボディービルダーだしね。魅せたい欲求がついまろび出ちゃったんだろうさ」


ユーミア
「見つかって迎撃されたら一巻の終わりでしょうに……。
 上陸したらしたで何故そうも悠長に武装を始めるのですか……」


アサクラ トモエ
「ヒーローの変身シーンは邪魔しちゃいけないお約束なんだよ?」



\デェェェェン/



ノノハラ レイ
「やっぱこのシーンカッコいいなぁ」


マスタ イサム
「浪漫があるな」


オモヒト コウ
「なんだろうな、完全武装だと安心感がある」


ウメゾノ ミノル
「これが究極完全体アーノルド・シュワルツェネッガーだ!」






ウメゾノ ミノル
「やることが派手だねぇ」


ノノハラ レイ
「この時点では娘がどこにいるのか解っていません」


ユーミア
「クレイモアでこれほどの爆発起こせませんよね? それに向きも逆ですよね?」


コウモト アヤセ
「あー……、うん。これはアクションを楽しむものだから、そういうツッコミは野暮ってものじゃないかな」


ノノハラ ナギサ
「あぁ、綾瀬さんまで」


―――



『来いよベネット。銃なんか捨てて、かかってこい』



ノノハラ レイ
「ここから筋肉式洗脳――もとい、説得が始まるぜ」


ユーミア
「……何故自ら不利になるようにするのですかこのベネットという男は。
 人質も銃も捨てるなんて」



―――



『ぐあぁぁぁぁぁ!!』



ウメゾノ ミノル
「普通の映画ならこれでfinishなんだけどなぁ」


ノノハラ レイ
「こっから何故か戦闘力が上がるんだもん、びっくりだよ。これが世に言うベネチャージって奴かな?」



マスタ イサム
「絶対に違うぞ」



―――



『毒気を抜いてあの世へ行け』



ナナミヤ イオリ
「見事に止めを刺したわね」


オモヒト コウ
「あ、復活したのか。――しかしまぁ、こういう肉弾戦は心が躍るな」


タカナシ ユメミ
「あたしはいつでもお兄ちゃんとの肉弾戦の準備はできてるからね♪」


ナナ
「あら、プロレスごっこ?」


ノノ
「じゃぁノノたちも混ぜてよー」


タカナシ ユメミ
「はぁ? ふざけんじゃないわよ!」


ナナミヤ イオリ
「……」


オモヒト コウ
「やっぱりこういうのは苦手だったか? 伊織」


ナナミヤ イオリ
「いえ、そんなことは……。正直野蛮だとは思うけど、面白い映画だったとも言えるわ」


―――

ノノハラ レイ
「いやぁ、やっぱいいね『コマンドー』。派手にドンパチするのを見るのは最高に気分がいい」


オモヒト コウ
「……まぁ、ツッコミどころは色々あるが、それを超える面白さがあるからな」


ノノハラ レイ
「じゃぁちょっと10分ぐらい休憩を挟もうか。次はちょっとマイルドな奴で行くつもりだから。
 今から10分きっかりに上映を再開するから、ちゃんとそれまでに集まってね」




―――


サクラノミヤ エリス
「本当にここには色んな映画があるんですね」


サクラノミヤ アリス
「これだけあるなら、しばらくは退屈しないで済みそうね。
 ――で、アンタは何やってるのよ」


ウメゾノ ミノル
「ちょっと隠しチェストっぽいもの見つけちゃったんだよね。オタカラだぜきっと。
 ……ナニコレ。『クロの章』? VHSとかどんだけ古い遺物なんだか。
 白地のテープに手書きとか、わざわざダビングしたのかな?
 中身も書いてら、親切なこって。えーっと? メタルマン、恐怖キノコ男、アナザー、デビルマソ……」


サクラノミヤ エリス
「どうしたんですお兄さま? 急にお顔を真っ青にして」


サクラノミヤ アリス
「何無言で閉まってるのよ。気になるじゃない」


ウメゾノ ミノル
「ダメだよ、これヤバいヤツだよ。世に解き放っちゃいけないタイプの負の遺産だよ。
 誰だよこんなこの世の全てのクソ映画の蠱毒みたいなビデオ作った奴お前マジふざけんなよ」


サクラノミヤ エリス
「お、お兄さま? そ、そんなに酷いのですか?」


ウメゾノ ミノル
「これを全部見るか、本場の本格的で伝統的な英国料理のフルコースを食べるかどちらか選ばなければ殺すと言われたら僕は迷いなく後者を選ぶ」


サクラノミヤ アリス
「昨日のあれ? ま、食べられなくもなかったしね、あれ」


ウメゾノ ミノル
「――一つ、言っておく。あのミンスパイの英国力はたったの5だ。本来なら2000ぐらいのpotentialがある」


サクラノミヤ エリス
「英国力?!」


ウメゾノ ミノル
「親の仇かと言わんばかりに揚げ続けて使い古した新聞紙のインクの匂いが染みついたフィッシュアンドチップスの英国力が18000で、マーマイトが42000ちょっと。
 そしてフルコースのメインディッシュになるだろうハギスの英国力は、――53万だ」


サクラノミヤ アリス
「だから英国力って何よ?! 数字じゃなくてもっと具体的に解りやすい例はないわけ?!」


ウメゾノ ミノル
「初めて伝統的な英国式ローストチキン――英国力にして35000に相当するものを食べたときの感想でいいかい? “食べたことないけど、段ボールって多分こんな味するんだ”」


サクラノミヤ エリス
「あぁっ! そんな遠い眼をしないでくださいお兄さま! 気を確かに!」


サクラノミヤ アリス
「その10倍以上ってこと? で、そのビデオよりはマシ――確かに見るのはやめておいた方がよさそうね」


ウメゾノ ミノル
「興味本位で見ちゃダメだ。フリじゃない。校則の所為で焚書に処せないのが遺憾に過ぎる。
 ――思い出したら気分悪くなってきたよ。自販機のcoffee飲んでcoolにならないと」



―――





タカナシ ユメミ
「コーラばかりじゃ飽きちゃうから自販機の飲み物を買うことにしたのはいいものの……」


オモヒト コウ
「なんでB○SSとプァンタしかないんだよこの自販機。
 ブランドは偏りまくってるのに種類だけは無駄に豊富なのが余計ムカつくな」


タカナシ ユメミ
「悪意しかないよねー。なんかポスターもちょっと媚びてる感じするし」


オモヒト コウ
「中学生……、下手したら小学生にしか見えない女子に缶コーヒーの広告塔させるなよ……」





調査を始めてからどれだけの時間が流れただろうか?

色々あった。

欧州へ救援に遠征した。

改装の為に三日間出撃しないでいたら、全海域の制海権を失ったこともあった。

ただ、一つ言えることは、どの時代の人たちも、けっこう、ガッツリ働いた。



Гангут
「まだ調査を続けるのか? ちっこいのもしつこいな」



――これからも、缶コーヒーのB〇SS





ウメゾノ ミノル
「хорошо.こいつは力を感じる」


オモヒト コウ
「お前、いつの間に」


ウメゾノ ミノル
「ちょっとショッキングなヤツ見ちゃったからね。気分転換だよ」


オモヒト コウ
「コーヒーを飲むのか? 英国被れのくせに」


ウメゾノ ミノル
「別に紅茶と相容れないってわけじゃないじゃない。
 それに、英国面に堕ちるっていうのはパンジャンドラムを思い通りに転がしてからがスタートラインだ」


オモヒト コウ
「そんな明後日の方向にあるスタートラインなんて誰が立つんだよ。ネビル・シュートが草葉の陰で泣いてるぞ」


ウメゾノ ミノル
「いや、むしろ逆に喜びそうなんじゃないかな。
 マーマイトをマーマイトで洗うパンジャンレースがあったら自力で蘇りそうだし」


オモヒト コウ
「……確かに言えることがある。一度頭診てもらったほうがいいよお前」


ウメゾノ ミノル
「酷くない? っと、そろそろ時間だ。早く戻ろうよ」





―――



ノノハラ レイ
「次はリクエストから。大手スタジオの代表作だ。田舎から上京してきた少女は特技を活かして次第に大人になっていく。
 『魔女の宅急便』はボク等に何を届けてくれるだろうか?。
 ――ところで、あんな風に箒に跨って空飛ぶのって股痛くならない?」


―――




『あたしの自慢の料理、ニシンとカボチャの包み焼き』


アサクラ トモエ
「スターゲイザーパイだっけ?」


ウメゾノ ミノル
「スターゲイ“ジ”ーだ二度と間違えるなマーマイトに漬け込ますぞ」


マスタ イサム
「お前そんなキャラだったか? 英国面に染まりすぎだぞ」



―――


『あたしこのパイ嫌いなのよね』


アサクラ トモエ
「どうして人の行為をにべもなく突っ返すかなぁ」



マスタ イサム
「……まぁ、宅配物にロクな防水もしないのは落ち度と言えなくもないが」


ユーミア
「受け取ってもらえただけマシ、そう思うことにしましょう」


―――


『真っ直ぐ飛びなさい、燃やしちゃうわよ』


ナナ
「結構冷静よね」


ノノ
「それよりもあの男の子をどうにかしないとだもんね」


オモヒト コウ
「一応、他人様のものなんだけどな」


タカナシ ユメミ
「必ず返すって言ったのにね」


―――



『う、受け止めた! 空中で受け止めました!』



コウモト アヤセ
「かなり昔に見たから知ってたけど、こういうシーンはやっぱりハラハラしちゃうわね」


ノノハラ レイ
「ある種のお約束、――あるいはカタルシス、かな?
 やっぱりこういうシーンは製作者の腕の見せ所なんじゃないかな」




―――

ノノハラ レイ
「いい映画って言うのは何度見てもいいもんだねぇやっぱ。
 ――おっと、もうお昼の時間だ。でも一々本館に戻るのもどうかと思うでしょ? どうぞご安心を。ちゃんと手は打ってあるんだ。
 おーい、モノクマ! ここに持ってきてよ。それぐらいはしてくれるでしょ? 学園長」


モノクマ
「……一体何時からボクはオマエの体のいいパシリになったのかな?」


ノノハラ レイ
「最初からじゃない? いいからさっさと持って来てってば。今日の昼食がサンドイッチだってことは予想がついているんだ。
 ここで軽くつまめるし、キミなら隠し通路でもわーぷほるでも何でも使ってすぐに持ってこれるでしょ?
 それとも、これまで以上のいやがらせ受けたい?」


モノクマ
「……わかったよ! 持ってくればいいんだろ持ってくれば! 全く近頃の若者は年長者へのリスペクトってのをさぁ――」


オモヒト コウ
「なあ、一応聞いておくが、モノクマへのいやがらせって何やったんだお前」


ノノハラ レイ
「随所の監視カメラに濡らしたタオル被せるだけの単純なお仕事です」


ウメゾノ ミノル
「わぁ。マジで地味ないやがらせだぁ」




―――


ノノハラ レイ
「さて、腹ごしらえも済んだことだし、次の映画と行こうじゃないか。
 最近のオリジナルな邦画も捨てたもんじゃないね。
 これはネタバレ厳禁だから詳しくは言えないけど、これだけは言わなくっちゃいけないから言っておくね。
 耐性がないと苦痛かもしれないが最初の30分は頑張って耐えて見てくれ。『カメラを止めるな』。
 ボクから言えるのは、“見るのを止めるな”、かな」


―――





―――


ノノハラ レイ
「主人公ゥ! 何故キミがクソ映画耐性も無しにこの映画を見終えられたのか、何故映画の内容が記憶にないのか、何故妙に首回りが痛むのかぁ!」


タカナシ ユメミ
「それ以上言わないで!」


ノノハラ レイ
「その答えはただ一つ――」


ナナミヤ イオリ
「やめなさい!」


ノノハラ レイ
「ァハァー……、主人公ゥ! キミが序盤のクソ映画っぷりと昼食後の眠気のダブルパンチで眠ってしまったからだァーッハハハハハ」


オモヒト コウ
「俺が、映画の途中で、寝落ち……? 嘘だ、俺を騙そうとしてる……!」


ナナ
「――それにしても驚きよね、あのシーンが【規制済み】だったなんて」


ノノ
「あの【規制済み】も【規制済み】のための【規制済み】だったなんてね」


オモヒト コウ
「Arrrrr(致命的なネタバレを食らったことによる魂の慟哭)!!!!!!!!!」


 ――だから言ったのに。「見るのを止めるな」って。
 まぁ、この手の仕込みは叙述トリックと同様に存在そのものがネタバレだから深く言及できなくて、他人に勧め辛い要因になってるんだよねぇ。
 初見さんへネタバレをしない程度にお勧めポイントを言うとするなら、最後まで見終わったときのある種の達成感。
 だからそこの哀れなシュジンコウクンみたく寝落ちするのはもったいないことだぜ。ぐらいしか言えないのが辛い所だぜ。




―――



ノノハラ レイ
「さて、お次はリクエストだね。――意外だなぁ。この人がこの映画リクエストするなんて。ヒトは見かけによらないね?
 青い海、それは原初の命が生まれた母なるもの。されど、両生類をはじめ生き物は海を離れ大地へ足を踏み入れ、今や霊長が歩き回り蔓延っている。
 かくして大地の子らが母なる海へ回帰することは叶わない。水底(『ディープ・ブルー』)で人は己が無力の一端を知るだろう」


―――




―――


サクラノミヤ エリス
「あれ? こんなオープニングでしたっけ?」


ウメゾノ ミノル
「あー……、慧梨主、確認したいんだけど、リクエストしたのは海洋ドキュメンタリー?」


サクラノミヤ エリス
「えぇ、そうです。昔見て奇麗だと思ったので、また見たいなって……」


ウメゾノ ミノル
「――どうやら、悲しいすれ違いがあったみたいだね。
 心して聞いてくれ、慧梨主。ディープ・ブルーっていう邦題の映画、二種類あるんだ。
 そして今流れているのは、慧梨主が見たかったのじゃない方なんだ」


サクラノミヤ エリス
「え?」



―――



サクラノミヤ エリス
「あわわわわ……。ひ、人がたくさん――」


ウメゾノ ミノル
「――野々原君さぁ。一応聞いておくけど、わざとじゃないよね?」


ノノハラ レイ
「ボクは飽くまで要望を聞いただけだよ。それが叶わない可能性だって示唆しておいた。
 海洋ドキュメンタリーかモンスターパニックどっちが観たいと聞かれたら、ボクは後者を選ぶ。
 ――勿論前者だって慧梨主さんが指定してくれれば、ボクは『グリード』の方を上映するつもりだったさ。
 知らなかったんだよ。慧梨主さんがサメ映画の方を知らなかっただなんて。だから、ボクは悪くない」


ウメゾノ ミノル
「ぬけしゃあと、白々しいにもほどがある。慧梨主がこういうの好まない性格してるなんて君なら分かるはずだろ?」


ノノハラ レイ
「そうかなぁ? むしろ沼に踏み入れてもそのまま構わず進むタイプと見た。自覚がないだけだよ、今は、ね」


―――



サクラノミヤ エリス
(人が次々食べられていくというのに、この感情は一体……?)


サクラノミヤ アリス
「ちょっと、慧梨主?! 何かいけない扉を開けようとしてない?! 気をしっかり持ちなさい! 慧梨主ったらぁ!」


サクラノミヤ エリス
「……っ、大丈夫ですよお姉さま。ちょっと血が多くて気分が優れなくなっただけです」


ノノハラ レイ
「どうやら、ボクの方が正しかったらしいね?」


ウメゾノ ミノル
「どうだか」





―――


ノノハラ レイ
「閉鎖空間から来る疑心暗鬼。対立する集団を仲裁しようと説教するものが食われパニック。
 研究を優先したが故に起きた惨劇。希望が見えた矢先に絶望が迫りくる。それを乗り越えた先の希望を更に呑込まんとする絶望。
 そしてそれさえも踏み越えた先にようやく活路が開かれ、生き延びることができたのさ。
 ――ちなみに、最後の最後でスーザンが囮になって死んだのがやたらと不自然に思った人は鋭いよ。
 当初の予定じゃ生き延びるはずだったのに、試写会でブーイングを受けて急遽変更になったんだ。
 ラストシーンでカーターの視線とコックの脇のスペースを見れば、デジタル処理されたことが一目瞭然だからね」


ナナミヤ イオリ
「……大体の原因がその女性だもの。因果応報ね」


マスタ イサム
「生き残りそうにない奴が生き残って、生き残りそうなのが死んでいったのは意外だったがな。特にコック」


アサクラ トモエ
「そうかな? あんな状態になってまでジョーク言える度胸があったわけだし。ビデオレター遺そうとした時はダメかと思ったけど」


ユーミア
「オウムにバードと名付けるセンスは正気を疑いますが」




―――


ノノハラ レイ
「フロイトによれば、夢は記憶を素材に出来ている。そしてその選択方法は意識的でなく無意識的だとか。
 つまり一見乱雑な内容でも、当人の本性に基づいた統合性でもって一つの物語として連結される。つまり、夢は究極のパーソナリティースペースなんだ。
 そこに足を踏み入れる手段が確立されたとすればどうなるか――。その答えはきっと『パプリカ』が教えてくれるはずだよ」


―――





―――



『他者の夢を共有する。まさに夢の科学だ。だが直に夢に触れることは暴力にさえ繋がる。――あれは作るべきではなかった』
『また、そのお話でしたか。――DCミニは、精神治療の新地平を照らす太陽の王子様です』



ナナ
「このおじいちゃん今変なこと言わなかった?」


ノノ
「難しいたとえなのかな」



―――



『盗み出したテロリストはそうは思うまい!』
『――そんな。まだ悪用されたわけじゃ』
『うむ、必ずしも泥棒が悪いとはお地蔵さまも言わなかった』



ナナミヤ イオリ
「……先ほどから所長の様子がおかしいように見えるのは私だけ?」


オモヒト コウ
「奇遇だな。俺もそう思ってたところだ」



『パプリカ……。開発されたサイコセラピーマシンで勝手な治療を行う女がいると聞いた』
『理事長ともあろう方が、そんな根も葉もない噂話を信じるのですか?』
『パプリカのビキニより、DCミニの回収に漕ぎ出すことが幸せの秩序です』



タカナシ ユメミ
「このおじさん何かやばい人なんじゃない?」



『秩序』
『五人官女だってです! 蛙達の笛に合わせて、回収中の不燃ゴミが噴出してくる様は圧巻で、まるでコンピューターグラフィックスなんだそれが!
 総天然色の青春グラフィティーや一億総プチブルを、私が許さないことぐらい、オセアニアじゃあ常識なんだよ!
 今こそ、青空へ向かって凱旋だ! 絢爛たる紙吹雪は、鳥居をくぐり周波数を同じくするポストと冷蔵庫は、先鋒を司れ!
 賞味期限を気にする無頼の輩は花電車の進む道にさながら! シミとなって憚ることはない!
 思い知るがいい、三角定規たちの肝臓を!
 ――さぁこの祭典こそ、内なる小学三年生が決めた、遥かなる望遠カメラ!
 進め! 集まれ! 私こそが、御代官様! はーっはっはっはっはは!』
『所長!』



マスタ イサム
「お、おう」


アサクラ トモエ
「本格的にやばい人だったね」





―――


『すぐだ! すぐにもだ! ワタシヲムカエイレルノダ!』

サクラノミヤ エリス
「所長ー!」
ウメゾノ ミノル
「この高さから飛び降りたら助かりませんねこれは」


―――



エイヤーハナオエーナオーエイヤーハナオエー




ノノハラ レイ
「信じられないかもしれないけど、このパレード、CGじゃなくて全部手描きなんだぜ」


コウモト アヤセ
「嘘でしょ――と言いたいところだけど、全然CGっぽさがないから、本当なのね」


ユーミア
「……きっと作画班は死屍累々だったのでしょうね」





―――



マスタ イサム
「これでエンディングか。……結局俺たちは一体何を見させられていたんだ?」


ユーミア
「――電気羊の夢、でしょうか?」


ナナ
「最初から最後まで何を言ってるのかよく解らなかったわ」


ノノ
「とりあえずあの車椅子のおじいちゃんが悪者だったっているのは解ったんだけど」


ノノハラ ナギサ
「でもあの理事長だって言ってること無茶苦茶だったし……」


コウモト アヤセ
「自分がする分にはいいけどされるのは嫌だって、まるで子供みたい」


ノノハラ レイ
「初見だと頭の中が疑問符で埋め尽くされるんだけど、この映画は深く考察すればするほどいい映画なんだって思うんだ。
 ボクはこれ以上のアニメ映画を知らないな。惜しむらくは、今敏監督と筒井康隆先生と平沢進師匠のコラボレーションがもう見れないってことだろうね」


サクラノミヤ アリス
「これっきりで充分よ。ちょっと頭痛くなってきた……」





―――


ノノハラ レイ
「証人保護プログラム、アメリカにおける裁判を左右する証言をする証人を守る伝説の執行官ジョンが大暴れする『イレイザー』。
 見終わったらきっと言いたくなるさ。“You’ve just been erased”」


―――





―――


『仔牛の煮込みが死ぬほど喰いたかったんだよ、もう半年もマトモなメシ食ってねぇやってられっかい!』
『次は命がないぞ。――こんなのは一度きりだ』


ウメゾノ ミノル
「そんなんで足掴まっちゃ溜まったものじゃないよね」


サクラノミヤ エリス
「自分の立場がよく解ってないのはどうかと思いますが……」



―――



『さっきの銃がなんていうのかは知らないが、君の会社が開発した武器なんだろ?』
『ええ、EM銃のプロトタイプ。開発は極秘だけどね』
『EM?』
『エレクトロマグネティック、電磁波よ。火薬も従来の弾も要らない。アルミ弾を光くらいの速さで飛ばせるの』
『レールガンって奴だな』
『ええ、そうとも呼ばれてるわね』
『海軍が何年も開発してたが、最小のものでも戦艦に据える大きさだと聞いた』
『うちが軍から小型化を依頼されたの。コンパクトで、超高速のEM銃を作れって。完成すれば最強の銃よ。開発費はもらったけど、実用化はできなかった』
『ちゃんと出来ていたじゃないか。――もっと高く買う客を見つけたんだ』
『お客はいっぱいいるわ。国防省、CIA、NSA、貴方の組織もお客かも』



ユーミア
「ユーミアの知っているレールガンとは違う気がするのですが」


マスタ イサム
「古い映画だからな。そういうSFチックな武器は大雑把に括られてたんだよ」



―――




―――


『戦争なんてしょっちゅうある。ベトナムでは負けた、湾岸では勝った。だからって、何が変わった?
変わらないよ、何にも変わらん。ただ戦争が起これば金持ちと死人が増える。どっちかなら、金持ちがいい。な?』


ウメゾノ ミノル
「資本主義者め……」


サクラノミヤ エリス
「お兄さまは共産主義なのですか?」


ウメゾノ ミノル
「……ゴメン、ただのネタだよ。本気で言ったんじゃない。」


―――



『銃を捨てろ』
『――あぁ?』
『銃を捨てるんだな。――命だけは助けてやる』



オモヒト コウ
「普通なら負け惜しみにしか聞こえないが、シュワルツェネッガーが言うと普通に頼もしく聞こえるな」


タカナシ ユメミ
「この悪党も一目置いてるみたいだしね」


―――


『何だこれは! この俺をこんな安物のナイフで刺しやがって!』


ノノハラ レイ
「高級品ならいいのかな?」


ノノハラ ナギサ
「そういう話じゃないと思う」


ノノ
「でも頭をかばって腕で防いでるんだよねこのおじさん」


ナナ
「凄腕なんだね、このおじさん」


―――


『わー痛そー』
『痛いよそれ、俺見てたもん』
『……ここは何処だ?』
『地球よ、よく来たわね』


タカナシ ユメミ
「なんであれで無事なの? 普通重傷じゃない?」


オモヒト コウ
「当り前だろ、シュワルツェネッガーだぞ」


ナナミヤ イオリ
「あの男性に向けるその信頼はどこから来るの?」


―――



―――

『遅刻よ』
『道が混んでた』

ユーミア
「敵の渋滞に巻き込まれた、気の利いたジョークですね」
マスタ イサム
「歩道が空いていたら突っ込んでいそうだったがな」
アサクラ トモエ
「流石にそこまではしないんじゃないかな」

―――

『そんじゃ一緒にサイレス社に押し入れってのか?』
『そうだ』
『冗談よせよ。ソファーか何か運ぶ手伝いしろってのかと思ったよ』
『じゃぁもう降りていい』
『……わかったよ力になろう。必要な道具言っとく。戦車だろ、ロケット砲も何門かいるな。それから俺用にアル・カポネ級の――でっかい肝っ玉だな』
『これが小道具だ』
『……発泡性の胃薬?』
『ジョニーの部屋で会おう』
『……これで屁でもこかせる気か?』

ウメゾノ ミノル
「しかしまぁ命の恩人を助けるからって企業にカチコミかます手伝いするって考えたらすごい度胸の持ち主だよな」
サクラノミヤ アリス
「普通なら降りるわよ。あたしなら絶対手を引く」

―――

『リスクを見るとすればどこのコンピューターだ?』
『金庫室だ。他の端末からはアクセスできない』
『金庫室となれば、ここを通るしかない』
『あぁ、こりゃ楽だな。じゃ、あとはのんびり座って、クルーガーさんのお越しを待つとするか』

ナナ
「絶対裏をかかれるわよね」
ノノ
「別の手を使ってくるとか考えられないのかな?」

―――

『おいおいおいおい! どこ行く気だ?!』
『うぉーっと、頼むよ気を付けてくれ。14階のブレバンズさんにデリバリーだ』
『許可のない者を通すわけにはいかない』
『キョカノナイモノヲトオスワケニハーへっへっへおい怒ることはないだろ、だったらブレバンズさんに電話して確かめろよ。ペパロニのピッツァだ激ウマだでぇ』

ウメゾノ ミノル
「そう言えば僕もピッツァが食べたいなぁ。ペパロニでもいいけど、シンプルなマルガリータもいいなぁ」
ノノハラ レイ
「何ならデリバリーしてもらおうか、モノクマに」

―――

『おい何やってんだ』
『ピザの配達に来た男が発作を起こしてます』
『どこの馬鹿だピザ頼んだのは』
『そんなこと言ってる場合か、急いで医務室に運んで救急車を呼べ』

ナナミヤ イオリ
「……一応、この人にも良心はあるのね」
オモヒト コウ
「そこをつかれるわけなんだがな」

―――

『怖いわ~テロリストよ~』
『もっと刺激が欲しいか、えぇ?! ビリビリするような刺激だ! 刺激が欲しいだろ?! お前にも電気ショックを味あわせてやる!』
『テープで縛れ。――動くなよ』
『う、後ろを向け』
『ここは任せたぞ。――ちゃんとやれるよな?』
『とっとと行けぇ』
『――行くぞ』

ノノハラ ナギサ
「もとはと言えばコードを不用意に抜き取らなければよかったのに。どうして抜いちゃったのかな」
コウモト アヤセ
「早い所自分が健康だってアピールしたかったんでしょ。裏目に出て逆恨み気味になるのはいただけないけど」

―――



―――



『トバしたら、ボルティモアには40分でつけるぞ』
『ジョニーはもう来るな。送ってくよ』
『おいおいここまできて俺は一匹狼だなんていうなよ』
『よくやってくれたが、これは俺の戦いだ』
『なあおい待ってくれ、話ぐらいちょっとは聞いてくれよなあ。
 アンタが居なかったら、俺の舌は今頃カネッリん家で剥製の横に飾られてる。
 なあ、役に立つぜ。――俺のいとこが、港を仕切ってる。船を探すんだろ? 聞けば一発だ』


マスタ イサム
「ジョニー本当にいいやつだな。最高の笑顔だ」


アサクラ トモエ
「こういう男同士の友情も悪くないね」



―――



『でかい特ダネだな、全然知らなかったよ』
『取引は今夜、アンタの港でな』
『……そいつは、聞いてねえぞ』


ウメゾノ ミノル
「さっきまで下らないjokeと聞き流してたのに自分のシマの話と分かった瞬間スッと仕事の顔になるの好き」


サクラノミヤ エリス
「ああいうのが好きなんですか?」


ウメゾノ ミノル
「まあね」



―――


『よう兄ちゃん、おおっと、ちょっとお話しようじゃないか』
『ここは立ち入り禁止エリアだ』
『へへ、知ってるよ。質問がある。――何してやがるんだ?』
『何だと?』
『俺たちぁ港湾労働者組合のモンだ』
『あんたらだウチの優秀な組合員を使わずに荷物積んでるって小耳に挟んだ。まさか違うよな?』
『面倒な連中が来てますが』
『ああ全くだ』


マスタ イサム
「随分な度胸だ。敵地に踏み込むってのに」


ユーミア
「彼らからしてみれば元は自分の敷地なわけですし」


―――


『何を騒いでいるんだ?』
『じゃ兄さんに説明させてもらうが、組合員を使わねぇ船はウチの港から出すわけにはいかねぇ。ウチのモンの姿が見えないようだな? 見えるか?』
『国家の機密に関わる作業をしているんだ。今すぐ“こっか”ら出てってもらおうか』
『それ脅してんの?』
『あぁその通りだ』


ウメゾノ ミノル
「ここ、良い翻訳なんだよね。原語版のダジャレをうまく落とし込んでる。ジョニーもそれjokeなのって原語版では言ってるし」


サクラノミヤ アリス
「翻訳者がちゃんと仕事をしてくれたってことですね」




―――


『組合を舐めんじゃねぇよ』


マスタ イサム
「手際がいいな」


ユーミア
「相手の装備も奪っているところもいいですね」


コウモト アヤセ
「漁師さんとか怒らせると怖いって聞くけど、こういうことなのかな?」


―――


――EM銃の連射を回避し続けるジョンの活躍をご覧ください。


ユーミア
「何故偏差射撃もマトモに出来ないんですか」


マスタ イサム
「怒るところそこでいいのか?」


―――


『いい銃だなマヌケぇ』
『よせ! ――うわぁぁぁ!』


ユーミア
「何故碌に確認もしないんですか!」


マスタ イサム
「……優れた武器を持つ者ほど慢心しやすい。そういうことだろ」



―――



『ジョンか?』
『今出てってやる』



――EM銃を乱射するジョンの活躍をご覧ください。



オモヒト コウ
「流石ターミネーター。凄い無双っぷりだな」


タカナシ ユメミ
「それ俳優が同じだけだからね? T-800じゃないからね?」





―――


『君にはいつも感心するよ』
『そう、ふふ、ありがとう。今日は一本取られました、さっきのは実にお見事でしたよ』
『何の話だ?』
『爆破ですよ。スカッとするほど奇麗に始末した上に、俺達が車の傍にも寄ってないことはみんなが見てた。
 上手いやり口だ、俺から学んだのかな?』
『待て、君が仕掛けたんじゃないのか?』
『まさか貴方でしょう』


アサクラ トモエ
「あっ」


―――


『危ない! 何をやってんだ!』
『何ですか?! こりゃ変だ!』


ナナ
「この期に及んでまだ気づかないなんて」
ノノ
「ドアもロックされちゃったから、もうおしまいかな」


―――


『もしもし? ――君にだ』
『……なんだ?』
『You’ve just been erased (お前たちは消去された)』


ウメゾノ ミノル
「大脱出と言いなんでこう雑にエピローグで黒幕を処分したがるのか」


ユーミア
「後腐れなく映画を終えられますから」


マスタ イサム
「下手に続編造られてこけられるよりかはマシだろ」




―――


『三人は?』
『見送ってきたよ』


ノノハラ レイ
「こういう返しはいいねぇ。さて、映画も終わったところでそろそろ夕食の時間だね。
 アツアツのピッツァが食べたくなってきただろ? ペパロニだ。
 梅園クンのご要望通り、マルゲリータも用意してあるぜ」


ウメゾノ ミノル
「至れり尽くせりってわけだ。食糧事情がアメリカンスタイルなのはちょっとどうかと思うけど。
 特にカロリー面とか」


ノノハラ レイ
「今日一日ぐらいはいいじゃない。過剰にストイックな生活はストレスのもとだよ?」


ウメゾノ ミノル
「――こういうのを脂肪フラグって言うんだろうな。まぁ、ありがたく頂くけど」




―――


ノノハラ レイ
「さて、腹ごしらえも済んだところで本日最後の御演目。かのスティーブン・キング原作、監督はフランク・ダラボン。
 『ショーシャンクの空に』と『グリーンマイル』で有名なタッグが織りなす衝撃作。
 原作とは違うラストを迎えることになる『ミスト』。最後まで目を離すんじゃないぜ?」



ウメゾノ ミノル
「……その紹介は罠だろ。事実だけど、方向性が違う旨がまるで足りてないじゃないか」


サクラノミヤ エリス
「そんなに違うんですか?」


ウメゾノ ミノル
「うん。一言で言うなら、一見の価値はあるけどもう一度見るには相当の覚悟が必要なんだよね。
 僕はもう既に見ちゃってるからその覚悟を決めなきゃいけないんだよねぇ。最後の最後にやりやがったなあの野郎」


―――





―――



ナナミヤ イオリ
「これは……、本当に救いがない……」


オモヒト コウ
「一つ一つの選択肢に間違いはなかったはずだ。――ただ、肝心なところで運に見放されてしまっただけだ」


タカナシ ユメミ
「これ、進行方向を見るに軍隊から遠ざかるように進んじゃってるんだね。
 もう少し待っていれば、こんな結末は避けられたはずなのに」


ノノハラ レイ
「最後の最後まで希望を捨てちゃダメだってことだよ。
 諦めたらそこで試合終了で、諦めなければ夢はいつかきっと叶うんだからさ」


ウメゾノ ミノル
「キミがそのセリフを言うと変な予感しかしないんだけど」


ノノハラ レイ
「原作者がこの改変を絶賛している以上文句は言えないよ。曰く、『書いてるときに思いついてたら絶対このラストにしてたよ』だって」


サクラノミヤ エリス
「こんな、こんなことって……」


サクラノミヤ アリス
「慧梨主……、腰が抜けてるのね。もう時間も時間だし、そろそろ帰ってもいいかしら?
 ほら、立てる、慧梨主?」


ノノハラ レイ
「そうだねぇ。今日はここで解散することにしよう。急がないと、ゴンドラリフトが止まっちゃうかもだし。
 ……そうそう。次の企画を決めてもらわないとね。――と言うワケで、ヨロシクね。公」


オモヒト コウ
「この流れでよりにもよって俺かよ。……あまり期待するんじゃないぞ」


ノノハラ レイ
「内容そのものじゃない。ボク等がずっと一緒に行動していた。そのこと自体に価値があるんだから。
 と言う訳だから、全員参加型のレクリエーション、期待してるぜ?」


オモヒト コウ
「何気に難易度高い要求してくるなよ……。予想よりクオリティ低かろうが、文句は受け付けないからな」


ノノハラ レイ
「そういう軽口聞けるなら平気平気。期待しないで待っておくよ」


オモヒト コウ
「……そうかよ」


 この後はつつがなく本館へ戻り、ボクは自室のベットに横たわる。
 何となく手ごたえのようなものを感じながら、ボクは睡魔に身を委ね目を閉じた。




――と言う訳で野々原澪の映画観賞会回、無事終了でございます、


――非日常編まであとわずか。推しが殺されるのもオシオキで死ぬのもダンガンロンパの醍醐味の一つですが、キャラの喪失は心苦しいものがありますね。


――さて、目指すはヤンデレRetuneの販売までぶ学級裁判を終わらせたいところではございますが、本日はこれにて。


――おやすみなさい。




―――


???
「――ガイウス・ユリウス・カエサル・アウグストゥス・ゲルマニクス。
 月に狂わされたローマ皇帝の名を冠する映画が、ボク等の生まれる前に封切りされたんだ。知ってるかい?」


???
「……その余りの過激さで、ボストンをはじめとした一部地域では公開禁止になった。ということぐらいは」


???
「”Banned in Boston”ってヤツ? 浅ましきは人の業というか、好奇心は猫を殺すと言うか、反骨精神にも似た何かが掻きたてられるんだろうね。
 『見るな』と言われれば却って見たくなる。『読むな』と言われれば余計読みたくなる。そんな心理現象を、日本ではその映画のタイトルから“カリギュラ効果”と呼ぶんだ」


???
「学術的には“心理的リアクタンス”が用いられていることぐらい、貴方も知ってるでしょう?」


???
「解ってるくせに。ボクがワザワザそんな薀蓄を垂れ流すためだけにここに足を運ぶとでも思うかい?」


???
「長い前置きは貴方の悪い癖よ。――それで、何が言いたいの?」


???
「イケナイことには、イケナイ理由がある。知らなかったでは済まされない。
 その理由が分からないから、人はこぞってやろうとする。欲が満たされないからね。何故禁止されているのか、その理由が分かりさえすれば興味は薄れるものさ。
 納得のいく理由があれば人は引き下がる。単に『ダメと言ったらダメ』じゃ人は納得しないよ。
 『これは読んだ奴は死ぬ本だから絶対に読むなよ』と念を押されて、初めて人は自制できる。曖昧な理由じゃなく、明確に、特に自分の命に係わる理由なら、普通は引き下がるさ。
 ――まぁだからと言って、それを気軽に焚書に処そうだなんていうのは愚の骨頂だよね。核ミサイルが危険だからってダイナマイトで爆破するようなものなのにさ」


???
「理解を示してくれるようで助かるわ。そのセリフをあの馬鹿共に聞かせてほしいぐらい」


???
「何事も話し合いで解決するようだったら誰も銃なんか持たないよ。五・一五みたく“問答無用”と言われたらどうしようもない。
 特に、神託やら他人の思想やらに身を委ね思考を放棄した異常者が相手ではね。
 ――ところで、この本は何故禁書に指定されているんだい? 是非とも理由を聞かせてもらいたいな、魔導図書館長殿?」



―――





 変な夢だった。志望校のミスカトニック大学に無事合格し、学生として留学する夢。
 そこの図書館で本に触れ、司書と他愛もない話をしながら、学びを深める青写真。
 何とも可笑しな話だ。ここから出られるわけでもなく、まして大学への未来など、描けようわけもないのに。
 頓痴気な格好の研究者と会話した以前の夢だって、就職先くらい選べよってわけで。いくらAI開発の最先端だからって、ねぇ?
 ちょっと推敲すればすぐ見つかる誤字脱字がほったらかしにされている本を読まされているような、変な感覚だ。
 慣れないことをしたからかな。少しばかり思考回路にバグが生じているらしい。
 あるいはこれ以上余計な詮索はするなってアラートなのかな。いずれにせよ、休息を挟まなければ。
 出来るなら、シュジンコウクンのお手並み拝見と行きたいところなんだけど。今日ばかりは頭を空っぽにして存分に楽しもうじゃないか。





―――


オモヒト コウ
「――よし、全員朝食は食べ終わったな? 今日の企画は球技大会だ」


ノノハラ レイ
「……まぁ、らしいっちゃらしい、かな?」


オモヒト コウ
「何だよ文句あんのか」


ノノハラ レイ
「いいや? 体育会系のキミらしいなぁと思っただけだよ。
 ただ、インドア派なボク的にはちょっと、ねぇ?」


マスタ イサム
「俺はいいと思うぞ。思う存分体を動かすのも悪くないからな」


オモヒト コウ
「10時頃に多目的ホールに集合な。体操服は更衣室に用意してあるらしいから、着替えとタオルと飲み物は自分で用意しておいてくれ」


タカナシ ユメミ
「はーい♪ あ、お兄ちゃんの分も用意してあげよっか?」


オモヒト コウ
「俺のは自分で用意するから、夢見も自分のを用意しろ、な?」


タカナシ ユメミ
「……はーい」





ナナ
「何をするのかしら」


ノノ
「きっと楽しい遊びだよ」


サクラノミヤ アリス
「腕が鳴るわね。ま、慧梨主は見てるだけでもいいのよ」


サクラノミヤ エリス
「……私もちゃんと参加しますよ。確かにあまり体を動かすのは得意じゃないけど、それでも……」


ウメゾノ ミノル
「ま、気楽に行こうよ。こういうイベントは頭空っぽにして楽しんだもん勝ちなんだから」






ノノハラ レイ
「……一応準備は出来たけど。まだ時間があるし、どうしようかな。ロビーのパソコンでも調べようかな」


コウモト アヤセ
「あれ、ネットに繋がってないんじゃなかった?」


ノノハラ レイ
「学級裁判の捜査時間中に軽く調べたときには気づかなかったんだけどさ、何か隠しファイルがあるっぽいんだよね。
 暗号化されてるんだけど、あと少しで復号できそうなんだ」


コウモト アヤセ
「……澪ってそんなパソコンに詳しかったっけ?」


ノノハラ レイ
「ほら、ボクって記憶力良いからさ。母さんの研究もちょくちょく見てたし」


コウモト アヤセ
「あー、そう言えば。……人工知能の開発、だっけ?」


ノノハラ レイ
「うん。まぁ、完成を目前に全部水の泡になっちゃったけど」


コウモト アヤセ
「……ゴメン」


ノノハラ レイ
「何を――あぁ。まぁ、交通事故で死者がでるなんてよくあることじゃない。ボクが中3の時に、偶然父さんと母さんがそれに含まれてしまったってだけで。
 昔の話だ、もうボクは割り切ってるつもりだよ。むしろ綾瀬の御両親に感謝しなきゃ。ボクと渚の身元を預かってくれたわけだし」


コウモト アヤセ
「……無理だけはしないで、って言わなかった?」


ノノハラ レイ
「過去はどうやっても変えられない。今を生きるボク等が変えられるのは未来だけだ。だからボクは前へ進む。それだけだよ。
 ――湿っぽい話はヤメヤメ! 今日ぐらいパーッと遊ぼうぜ!」


コウモト アヤセ
「そう、ね……」






―――



男子更衣室にて



ウメゾノ ミノル
「増田君そんなところに星型のアザがあるんだ」


マスタ イサム
「次にお前は、『奇妙な冒険でもしてたんじゃないの~?』という」


ウメゾノ ミノル
「奇妙な冒険でもしてたんじゃないの~? ――アポ?」


ノノハラ レイ
「声的にはWYRRRRRとか言いそうなんだけど」


オモヒト コウ
「お前は一体誰に何を言っているんだ?」




オモヒト コウ
「なんだこのポスター? アイドルか? ……やけに露出多いな」


ノノハラ レイ
「ご存じ」


ウメゾノ ミノル
「ないのですか?」


オモヒト コウ
「何だよお前ら急に」


ノノハラ レイ
「彼女たちこそ今をときめく双子アイドルユニット」


ウメゾノ ミノル
「アンジェこと来栖愛架ちゃんと来栖円架ちゃんです!」


マスタ イサム
「あー、名前くらいは聞いたことあるな。芸能とかそういうのには疎いからよく知らないが」


オモヒト コウ
「俺なんて初めて見たよ。そこまでアイドルに興味あるわけじゃないが」


ウメゾノ ミノル
「えぇ~? 二人とも遅れてるぅ~。この二人、かなり売れてるんだぜぇ~?」


ノノハラ レイ
「ちなみに、右手側におっきいリボン着けておっぱいおっきい方が円架ちゃんで、左手側におっきいリボン着けておっぱい小さい方が愛架ちゃんね。
 あと細かい顔の違いを述べるとするなら――」


オモヒト コウ
「もういいわかったわかった。つまり向かって左の金髪がマドカで向かって右の茶髪がマナカなんだな」


マスタ イサム
「……本当に顔が瓜二つだな。俺でも見分け付かないのに、よく顔の違い解るな澪」


ノノハラ レイ
「いくら一卵性双生児だって言ってもパーツの一つ一つが完全に一致するなんてありえないんだよね。指紋とかが顕著なんだけどさ。
 で、ボクの記憶力をもってすれば二人の顔を重ね合わせることなど容易いことなのさ」


マスタ イサム
「……その能力と情熱をもっと別の方向にもっていく努力ぐらいはしたらどうなんだ?」


オモヒト コウ
「言ったところで諭されるような奴に見えるか? こいつが」


ノノハラ レイ
「ちょっとちょっと、キミ等ボクのことなんだと思ってるワケ?」


マスタ イサム
「悪意の塊」


オモヒト コウ
「何喰ったらそんな性格になるんだ?」


ウメゾノ ミノル
「モノクマの擬人化」


ノノハラ レイ
「終いにゃ泣くよ?」




ウメゾノ ミノル
「ん? なんか体操服一着だけ余ってない?」


オモヒト コウ
「予備か何かじゃないのか? ……いや、違うな。明らかにサイズが小さすぎる」


ノノハラ レイ
「――しっかし、個人個人のサイズに合わせた体操服にハーフパンツとは。良く調べておいでと言うか」


マスタ イサム
「普通の服なら規格外の俺でもすんなり着れたからな。オーダーメイドって奴か?」


ウメゾノ ミノル
「それ和製英語なんだぜ。本来はTaylor madeって言うんだ」


マスタ イサム
「意味が伝われば原義にこだわる必要はないと思うが」


オモヒト コウ
「無駄話もそこまでにしておこうか。そろそろ、時間だ」





―――



オモヒト コウ
「……早く着すぎたか?」


ノノハラ レイ
「着替えには時間がかかるものなんだよ、女の子って言うのは」


ウメゾノ ミノル
「これだから鈍感系主人公様は」


オモヒト コウ
「何を言っているのかは分からないがとりあえず喧嘩売られてることは理解したぞ。原価で買ってやろうか?」


マスタ イサム
「一応、親睦を深めるという名目で開催するんだろ? ちょっとは冷静になれよ。梅園もそう煽るな」


マスタ イサム
「……解ってるよ」


ウメゾノ ミノル
「はいはい」


ノノハラ レイ
「そうこうしているうちに女子の皆の御成りだよ。
 ……これはこれはまた。まさかのブルとはね。学園長の趣味かな?」





――失礼、訂正ですね。


誤「……これはこれはまた、まさかのブルとはね。学園長の趣味かな?」

正「……これはこれはまた、まさかのブルマとはね。学園長の趣味かな?」


ーー一時中断いたします。




――おっと、訂正箇所がもう一つ。増田様が自問自答していらっしゃるみたいですね。



マスタ イサム
「……解ってるよ」


オモヒト コウ
「……解ってるよ」


――でございます。それでは、再開いたします。





ナナミヤ イオリ
「モノクマはこんな破廉恥な服装が好きなのね。随分と倒錯してるわ」


ノノハラ ナギサ
「うぅ……」


ノノハラ レイ
「そう言えば、天聖院学園の女子の体操服もブルマだったっけね。まぁ、皆似合ってるんだしいいんじゃない?」


コウモト アヤセ
「そういうことじゃないって……。恥ずかしいんだってば」


マスタ イサム
「――おい、巴はどうしたんだ?」


ユーミア
「朝倉さんなら、更衣室に入る前に『忘れ物をした』と言ってそのまま下の階へ行ったので……。
 今頃本館に戻っているのでは?」


マスタ イサム
「全くあいつは……」


オモヒト コウ
「最初はドッヂボールでもやろうと思ったんだがな……。奇数になったならどうチーム分けするべきか――」


ノノハラ レイ
「ま、それなら汚名返上の機会を与えてあげようじゃないか。ねぇ? 見てるんでしょ、モノクマ。出てきなよ」





モノクマ
「黙って聞いてればいい気になりやがって! ボクが変態だとでも言いたいのか!?」


ウメゾノ ミノル
「……今日だけは君を学園長として称えようと思う」


モノクマ
「ちょっと! 梅園クンがそんなこと言ったら余計そういう目で見られるだろうが!」


ノノハラ レイ
「まぁまぁそう怒らないの。深呼吸深呼吸。十分間息を吸い続けて十分間吐き続けるんだ」

モノクマ
「コオォォォ――じゃなくて! オマエ! 何の用なんだよ! ボクはこれでも忙しいんだぞ!」


ノノハラ レイ
「ほら、皆のトラウマとして名高い“二人組作ってー”ってあるじゃん。余ったら先生と組まされるアレ。
 今回ばかりはこれをモノクマ学園長殿にも適応してやろうと思ってね」


モノクマ
「――ああ、ボクにもドッヂボールに参加しろってこと?」


ノノハラ レイ
「その通り。ここで八面六臂の活躍を見せれば、それなりの名誉になると思うけど?」


モノクマ
「うぷぷ。いいじゃん。いいじゃん! そんなに見たいなら見せてやるよ。“ドッヂボールのタスマニアデビル”の二つ名を持つボクのボールさばきを!」


オモヒト コウ
「ここまで全く技量が伝わらない異名も中々ないぞ」


ノノ
「クマなのにタスマニアデビルなんだ」


ナナ
「タスマニアデビルなのにクマなのかしら?」






ノノハラ レイ
「じゃ、決まりね。あ、先に言っておくけど一応念を押しておこうか。
 このドッヂボールに関してはモノクマにボールを投げる行為は校則違反にならない。それでいいね?」


モノクマ
「校則を盾にゲームを有利に進めるほど大人げなくなんかないやい!」


ノノハラ レイ
「じゃ、安心してゲームを始められるね。で、公。どうチーム分けするんだ?」


オモヒト コウ
「俺・夢見・伊織・ナナ・ノノ・増田・ユーミアの七人と、澪・渚・河本・梅園・慧梨主・亜梨主・モノクマの六人と一匹のチームでどうだ?」


ノノハラ レイ
「ちょーっとそっちに有利過ぎなぁい?」


オモヒト コウ
「なんだよそんな不満そうにして。――まさか負けるのが怖いのか?」


ノノハラ レイ
「やってやろうじゃねぇかよこの野郎!(ガンギレ)(食い気味)」


コウモト アヤセ
「見え見えの挑発にあっさり乗せられないでよ澪……」





コウモト アヤセ
「――じゃぁ私外野にいってくるね。突き指は嫌だから」


ノノハラ レイ
「まぁ妥当だろうね。じゃ無理しないでこっちにパスするぐらいでいいよ」


オモヒト コウ
「こっちの外野は……、伊織。行ってくれるか?」


ナナミヤ イオリ
「理由を聞いても?」


オモヒト コウ
「消去法、だな。ナナとノノは意外と運動神経がいいんだ。少しでも被弾する確率は低くしておきたい」


ナナミヤ イオリ
「……そう。なら、勝ちましょうね」


オモヒト コウ
「おう、任せてくれ。――じゃ、始めるか。ボールはそっちにくれてやるよ」


ノノハラ レイ
「ははは、随分と余裕じゃないか。――精々後悔するがいいぜ」



 戦いの火ぶたが切って落とされた。






ノノハラ レイ
「んじゃ、遠慮なく!」


オモヒト コウ
「いきなり俺かよ! ――とか言ってがっちりキャッチ出来るんだなぁこれが!
 おら! お返しだ!」


ノノハラ レイ
「学園長ガード!」


モノクマ
「ぎゃいんッ!」


ノノハラ レイ
「何てことだ!学園長が身を挺してボクを守っただなんて!」


オモヒト コウ
「いやいま思いっきり盾にしただろ」


モノクマ
「せ……、生徒を守るのも、センセイの、役、目……」ガクッ


ノノハラ レイ
「学園長ぉぉぉぉぉ!! おのれ学園長の仇ぃぃぃ!」


オモヒト コウ
「なんて白々しい!」


マスタ イサム
「面白い奴だ気に入った。殺すのは最後にしてやる」





オモヒト コウ
「――言い忘れたが、顔面セーフはなしだから、な!」


ノノハラ レイ
「ルールの後だしは禁じ手じゃなーい?」


ウメゾノ ミノル
「――それマトリックス避けしながらサマソ蹴りしてボールトスする奴のセリフ?」


ノノハラ レイ
「あれ、ボク等味方同士だよね?」


ウメゾノ ミノル
「まぁ、僕もどうせなら勝ちたいし、多分君に当たったら負け濃厚になるから応援はするけど、さ!」


ノノ
「あっ。……当たっちゃった」


ナナ
「足元を狙うだなんて、お兄ちゃんったら大人気ないのね」


ウメゾノ ミノル
「HAHAHA何とでも言うがいいさ。勝つためならどんな手も使うぜ」






――かくして



サクラノミヤ エリス
「きゃっ! ……ごめんなさいお兄さま」


ウメゾノ ミノル
「気にしなくてもいいって。最後に僕達の中の誰かがコートの中に立っていればいいんだから」



――ゲームは加速し、



サクラノミヤ アリス
「慧梨主の仇ぃ!」


ナナ
「……あらごめんなさい。でもあんなに簡単に狩れそうなお姉ちゃんの方にも問題があると思うの」



――勝負は白熱する。



ノノハラ レイ
「正直ここまで劣勢になるとは思わなかったな! あの双子を外野に行かせたの失敗だったね!
 おかげで気分はシャトルランだよ――っと足がぁ!」


ウメゾノ ミノル
「あー……。その位置は非常にまずいね。目の前にはボールを持った増田君。野々原君はこけちゃったし。
 これは負けかな?」


マスタ イサム
「――お前は最後に殺すと言ったな」


ノノハラ レイ
「そ、そうだよ増田クン、た、たすけ――」


マスタ イサム
「あれは嘘だ」


ノノハラ レイ
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



――野々原澪、ボールを顔面に強打し、戦闘不能(リタイヤ)





――本日はここまででございます。おやすみなさい。





―――




 もう嫌だこんな生、と何度思ったことだろう。
 生きることは死ぬこと。しかしてそれは決して死と断絶の物語ではなく、愛と勇気の物語なのだ。なんて臭いセリフはもうボクの心を打ちはしない。
 果たして誰が想像できるって言うんだ?
 何万回もの死を体感することがどれだけ苦痛なのかということを。
 一回目の死と二回目の生は、ただ一回死があるだけだ。
 二回目の死と三回目の生は、一回目の死と、二回目の生の時に体感した死と、二回目の死の、計三回。
 三回目の死と四回目の生は、一回目の死と、二回目の時に体感した死、追体験した最初の死の追体験、二回目の死と二回目の死の追体験と三回目の生に体感した死に加え、二回目の生をしてから迎えた三回目の死の計七回。
 つまり四回目の死と五回目の生の間には、追体験した体験を追体験し、それをまた追体験し――と、追体験する死の回数は十五回。
 この時点で最初の死から、追体験の分の死も含めた累計死亡回数は三十六回。
 n回目の死とn+1回目の生で体感する死の回数は(2^n)-1となり、累計死亡回数は2^(n-1+n-2+……+1)-n回。指数関数的に増える死の体感を前に、果たして正常でいられるだろうか?
 既に答えは出ている。否だ。気になるならnに100でも代入してみるといい。関数電卓でもお手上げだ。
 このnが数十万、数百万、数千万ともなると、“天文学的な”という表現も馬鹿々々しくなるほどのおぞましい数になる。無料大数や不可説不可説転でもきっと表すことが出来はしない。
 ここまでくると、最早諦観や悟り、慣れも感じなくなってくる。
 全てを投げ出してしまいたいと思ったことだって数え切れないが、それさえも許されないならば、どうすればいいのだろう?







 光合成をすればいい。葉緑素がない動物にとっては全く必要ではなく、そもそもそんなことのできる器官などありはしないのだが、物の喩えだ。
 燦々と照り付ける太陽のもと、青空を見上げて、目を瞑り、自分を消していく。光の中に溶けていくイメージ。
 有体に言ってしまえばただの現実逃避にしかならないが、これが中々効果的で、沈んだ気分や凹んだ気持ちなんかがどこかへ消えて行ってしまう。
 ――少なくともボクはそうやって、ここまでやってきたんだ。



―――






ノノハラ レイ
「……うーん。これは一体どういう状況なんだい? 綾瀬」



 気が付くとボクは綾瀬に膝枕されていた。確か最後の記憶は増田クンのボールを顔面に喰らってからだけど。
 ひょっとしてその衝撃で気絶しちゃった? マジ?



コウモト アヤセ
「多分、澪の想像通りよ。気絶したから起きるまでわたしが看病するってことになったの」


ノノハラ レイ
「わぉ、マジか。頭吹っ飛んだかと思ったんだけど、大丈夫? ちゃんとボクの頭原形を留めてる?」


コウモト アヤセ
「心配しなくても、いつも私が知ってる澪の顔よ。安心して」


ノノハラ レイ
「それは良かった。……あー、それで、ドッヂボールの勝敗は?」


コウモト アヤセ
「想像通り、わたし達の負けよ。梅園君が最後まで頑張ってたんだけどね、主人君のボールをローリングソバットで蹴り返したりして。その後夢見ちゃんの反撃で退場しちゃって。
 亜梨主ちゃんもね、意外と粘ったんだけど。ユーミアさんに被弾させるまで避け切ったのって何気に凄いと思うの。
 まぁ結局は増田君と、意外だけど夢見ちゃんが結構活躍して。最終的に夢見ちゃんと亜梨主ちゃんとの一対一になって、夢見ちゃんが残った。そんな感じ」


ノノハラ レイ
「そっか。――それで朝倉さんが到着して、ボクが倒れている間にバスケに移行したわけだ。どれだけ倒れてたんだボクは」


コウモト アヤセ
「うーん。巴ちゃんが来たのはドッヂボールが丁度終わったぐらいで、バスケが始まってから10分ぐらいだから……、30分ぐらい?」


ノノハラ レイ
「割とヤバめな気絶してたんじゃないかな、ボク」





コウモト アヤセ
「だからこうしてわたしが貴方の看病をしてるんでしょ? 気分はどう?」


ノノハラ レイ
「割と平気だよ。多分この試合が終わるころには立てるんじゃないかな」


コウモト アヤセ
「そっか、良かった」


ノノハラ レイ
「にしても凄いねぇ。公はスリーポイントシュートバカスカ入れまくるし、増田クンは――わぁ、スラムダンクなんて初めて見た。
 ひょっとして、ずっとあんな感じ?」


コウモト アヤセ
「うん。凄い迫力よね、あれ。ゴールポストがあんなにたわむ所とか初めて見た」


ノノハラ レイ
「――ちょっと厄いかも」


コウモト アヤセ
「えっ?」


ノノハラ レイ
「ほら、この多目的ホールって取り繕っているとはいえ結構古いじゃん?
 だからさ、あんなふうに乱暴に扱ったら――」



――バキン!





 ゴールポストが根元から折れて、増田クンの巨体が真っ逆さまってわけだ。
 おまけにまずい事態になりそうだし、ちょっと行ったほうがいいかな、これは。



ノノハラ レイ
「大丈夫?」


マスタ イサム
「あぁ、何とかな」


ノノハラ レイ
「いや、キミに言ったんじゃなくてね? 下敷きになってる朝倉さんに聞いたんだけど?」


マスタ イサム
「なっ、巴っ! 大丈夫か!?」


アサクラ トモエ
「むりぃ……。死にそうだからディープな人工呼吸を……」


マスタ イサム
「――大丈夫そうだな!」


アサクラ トモエ
「あうぅ……、でもたんこぶ出来ちゃったのは本当なんだよ! ――っ!」



 後頭部を抱えて蹲ってるあたり、結構強くぶつけたねこれは。



ノノハラ レイ
「とりあえず朝倉さんは横になろうか。さっきまでのボクみたいに。少なくとも痛みが引くまでは。
 後は経過を観察して、急に気分が悪くなったり頭が痛くなったりしたらすぐ言うんだよ?
 言っておくけど、激しい運動なんて言語道断だから。これはドクターストップです。医師免許もってないけど」


アサクラ トモエ
「えーっ?!」


ノノハラ レイ
「後頭部ぶつけたんだぜ? それくらい気を付けないとやばいんだって。
 ――それが原因で亡くなった声優だって知ってるんだから」


アサクラ トモエ
「……はーい」





アサクラ トモエ
「あーぁ、■■■■■■■ルが使えたらこんな怪我すぐに治せるのに」


マスタ イサム
「何だって?」


アサクラ トモエ
「え?! あ、あぁ、何でもないよ、先輩。心配してくれてありがとね」


マスタ イサム
「いや、こっちこそ、悪いな。つい張り切り過ぎてこんなことに……」


アサクラ トモエ
「体格差も考えずに先輩の身体を受け止めようとしたボクにも非があるから、そんなに自分を責めないで、ね? 先輩」


マスタ イサム
「……あぁ。だが、何かあったら言うんだぞ? 無理は絶対するなよ?」


アサクラ トモエ
「わかってるって。先輩に迷惑なんてかけられないもん」


マスタ イサム
「なら、いいんだが」





マスタ イサム
「ところで、さっきからずっと気になってたんだが」


アサクラ トモエ
「なあに、先輩?」


マスタ イサム
「何で上下ジャージなんだ? 他の女子はみんな体操服なのに」


アサクラ トモエ
「あー……、それはね、えーっと、その、ね、ほら! ボクってちょっと寒がりだからさ。持ってきたの!」


マスタ イサム
「それが忘れ物ってわけか?」


アサクラ トモエ
「うん! あ、そうだ! それより先輩、大変だよ! ゴール!」


マスタ イサム
「ん? ――あ」



 規則
 4.故意に施設の設備の機能を損なう行為を禁ずる。



ノノハラ レイ
「校則違反なら問題ないよ。これは事故なんだから」


マスタ イサム
「流石、監視カメラを塞ぐ奴は格が違うな」


ノノハラ レイ
「物は言いようってことさ。監視カメラを濡れたタオルで覆ったって、その機能が損なわれたわけじゃない。
 実際に画面には映っているんだから。カメラの映像は。それが一面タオルになってるってだけで」





マスタ イサム
「だが流石にこうなってしまった以上バスケは続けられないな。どうする?」


オモヒト コウ
「そうだな、時間はまだあるがこれで試合終了にしよう。そろそろ昼休憩も挟まないといけないしな」


コウモト アヤセ
「じゃ、試合は36:37で増田君チームの勝利ね」


オモヒト コウ
「……悪いな、看病に加えて審判に点数計算係までさせて」


コウモト アヤセ
「ピアニストに突き指は厳禁だし、最初からバスケは辞退しようと思ってたから」


オモヒト コウ
「そうか。なら、次も辞退するか? 次はバレーボールにしようと思ってるんだが」


コウモト アヤセ
「そうね。ちょうど巴ちゃんも参加できそうにないわけだし、また審判役になるわ」







 昼休憩が終わって、次はバレーボール。
 チーム分けは公・ボク・渚・小鳥遊さん・ナナちゃん・ノノちゃんの六人と、増田クン・梅園クン・亜梨主さん・慧梨主さん・七宮さん・ユーミアさんの六人となった。



オモヒト コウ
「悪いな、ポール運ぶの手伝ってもらって」


マスタ イサム
「これぐらいお安い御用だ。ネットの高さはどうする? 俺達の身長に合わせると高すぎるし、かといって女子の身長に合わせると俺達にとって低すぎるが」


オモヒト コウ
「間を取るぐらいでいいだろ。不都合があったらその都度変えるってことで。
 ところで反対側は――、おい、俺の目にはユーミアが片手でポールを担いでるように見えるんだが」


マスタ イサム
「ああ、俺たち二人掛かりで運んでるポールを軽々な。意外と力持ちなんだよ、ユーミアって」


オモヒト コウ
「……なんだこの敗北感は」


マスタ イサム
「考えないようにしとけ」





―――


ウメゾノ ミノル
「あー、これはアウトコース――じゃねぇ入りそうじゃねぇか! 危ねぇ届け!」


ノノハラ レイ
「おー、見事なスライディング」


―――


ノノハラ レイ
「間に合え……っ!」


ノノハラ ナギサ
「流石お兄ちゃん! ギリギリ足でボールを上げるなんて!」


オモヒト コウ
「何でお前らだけセパタクローしてんだよ」


―――


コウモト アヤセ
「ゲームセット。マッチで勝ったのは澪チームね」


ノノハラ レイ
「やったぜ」


オモヒト コウ
「俺としては澪と梅園が終始セパタクローをしていたのが解せないんだが」


ノノハラ レイ
「何か手より足の方がでちゃって」


ウメゾノ ミノル
「マジシャンとしては手の指って優先されるべきだと思うんだ」


オモヒト コウ
「お前らな……」


マスタ イサム
「そう怒るなよ。結構いいゲームだったじゃないか。――ところで、巴はどこ行った?」


コウモト アヤセ
「さっき着替えて来るって。更衣室にいるんじゃない?」


マスタ イサム
「そうか。どうする、主人。もう一勝負するか?」


オモヒト コウ
「いや、今日はこれくらいにしておこう。疲れが見える前にやめておくのが怪我を防ぐ秘訣だ」


ノノハラ レイ
「ボクとしてはまだ遊び足りないんだけどな?」


オモヒト コウ
「安心しろ、ちゃんと勝負の場は設けるさ。全員合同でやるのはここで一区切りってだけでな。
 じゃ、片付けて帰るとするか」





――本日はここまで。


――ヤンデレの女の子に耳の奥まで死ぬほど愛されて眠れないASMR~もしくはヤンデレCD Re:Tuneの配信がいよいよ今週末に迫ってまいりました。


――非常に楽しみでございます。ワタクシも昂っておりますれば、筆も進むというものでございます。


――それでは、おやすみなさい。





 その後は一波乱もなく、つつがなく夜になった。
 夕食も食べ終わってちょっと暇を持て余していると、



オモヒト コウ
「ちょっといいか」



 とお誘いが。球技大会の最後に行ってた勝負のお話かな?



オモヒト コウ
「別館の一階、ゲームコーナーに卓球台があったろ? ケリ着けようぜ」


ノノハラ レイ
「面白いねそれ。良いよ、乗った」



 球技大会延長戦の開始ってわけだ。楽しくなってきたね。





―――



オモヒト コウ
「先に十点取った方が勝ち、デュースは無し。それでいいか?」


ノノハラ レイ
「問題ないよ。どうせだ、何か賭けようぜ」


オモヒト コウ
「お前そう言ってガチャのハズレ押し付ける気だろ」


ノノハラ レイ
「あれ、バレちゃった? じゃいいや、さっさとやろう」


オモヒト コウ
「待てよ、賭けに乗らないなんて一言も言ってないだろうが」


ノノハラ レイ
「へえ? じゃ賭け代は?」


オモヒト コウ
「負けた方がバツゲームを受ける。勿論怪我するような危ないヤツじゃないが、それなりの屈辱を味わうだろうな」


ノノハラ レイ
「内容はその意味ありげに置かれた空き箱の中にある紙に書かれてあるって感じ?」


オモヒト コウ
「ああ。十枚くらい書いた。負けた奴はその箱から一枚紙を選んでその指示に従う。簡単だろ?」


ノノハラ レイ
「ふぅん? ボクが賭けを持ち出さなかったら、キミが言い出す予定だった?」


オモヒト コウ
「お前の事だから、俺が勝負に誘えばレイズしてくれると思ったんだよ」


ノノハラ レイ
「いいねぇ、良い感じに信用されてるねぇ。じゃあさ、そのバツゲーム追加させてよ。キミが用意したのだけじゃ不公平じゃない?」


オモヒト コウ
「――そう言うだろうと思って白紙とペンを用意しておいた。俺は見ないようにするから、さっさと書いて箱に入れろ」


ノノハラ レイ
「ははは、至れり尽くせりだねぇ。じゃ、遠慮なくいかせてもらうよ。どう恥をかかせてやろうかなぁ?」


オモヒト コウ
「言ってろ、俺が勝つ。精々塗れた屈辱に押しつぶされないようにするんだな」



―――





オモヒト コウ
「くっ……、中々やるじゃないか」


『腕立てを点差×10回』『自分の恥ずかしいエピソードを暴露』『素肌にジャケットでWHITE BREATHを熱唱(外で)』


ノノハラ レイ
「そっちこそ……」


『腹筋を得点×10回』『隠し芸を披露』『なんか悪魔よってきそうな悪魔祓いの儀式をする』


ウメゾノ ミノル
「なにこのクッソ面白い状況、混ぜろよ」


マスタ イサム
「待て、余計なこと言うな。俺はただ忘れ物を取りに来ただけなんだぞ。巻き込もうとするんじゃない、やめ、止めろぉ!」



―――



ノノハラ レイ
「ラリーの早さ比べだあぁぁ!!」


オモヒト コウ
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」


マスタ イサム
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ぁ!」


ウメゾノ ミノル
「WRYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYYY!」



タカナシ ユメミ
「ナニアレ」


コウモト アヤセ
「“男には負けられない戦いがある”って言ってたけど、ちょっと人知超えてない?」


ノノハラ ナギサ
「……うん、タオル用意しよっと」


サクラノミヤ エリス
「渚さん?! 現実逃避しないで!」


ナナ
「まるで他の事が目に入ってないみたいね、お兄ちゃんたち」


ノノ
「全然混ぜてくれなさそうだもんね」


サクラノミヤ アリス
「こんな連中無視してさっさと行くわよ」


ナナミヤ イオリ
「……私は何も見ていない。紙なんて見ていない。あれには何も書かれていない……」



『細かすぎて伝わらないモノマネ×失点数』『棺桶ダンス』『HOT LIMITを完全再現(衣装を含む)』『絶対に他人に言えない性癖を一つ』





ノノハラ レイ
「……大分汗かいたし、そろそろお風呂入ろうぜ」


オモヒト コウ
「賛成だな……。少し疲れた」


マスタ イサム
「久しぶりかもな、ここまではしゃいだの……」


ウメゾノ ミノル
「スタミナゲージが尽きました。コンテニューする場合はコインを投入してください」


ノノハラ レイ
「じゃ、ボクはこっちだから」


オモヒト コウ
「何ナチュラルに女湯行こうとしてるんだお前は」


ノノハラ レイ
「あーれー」


コウモト アヤセ
「はいはい夢見ちゃんもこっちだからねー」


タカナシ ユメミ
「あぁん」


ナナ
「ねぇノノ、ちょっとあっち行ってみましょう?」


ノノ
「それ、面白いかも!」



――ビー! ビー!



ウメゾノ ミノル
「……どうやら違う性別の温泉の暖簾をくぐろうとしたその瞬間にブザーが鳴る仕組みなんだね。
 それ以上踏み入れたら絶対何か良くないことが起こるから早く戻ったほうがいいぜっていうかガトリングみたいなの出てきてるから急いで」


ノノ
「ちぇー」


ナナ
「つまらないわね」





―――



ノノハラ レイ
「あーいいお湯だった。そろそろ時間も時間だし――何かな増田クン、人の肩を掴んだりして」


マスタ イサム
「明日はTRPGでもやろうと思ってな。ちょっとその練習に付き合ってくれよ」


ノノハラ レイ
「リハってワケ? ……いいけど、時間大丈夫なの?」


マスタ イサム
「夜通しやるからな」


ノノハラ レイ
「マジ?」


マスタ イサム
「俺は至って大真面目だぞ。何だったら、一通り終わった後麻雀でもするか?」


ウメゾノ ミノル
「徹麻とか楽しそうじゃん。乗った乗った」


ノノハラ レイ
「麻雀に賭けもありだったらいいよ。とことんやってやろうじゃん」


マスタ イサム
「じゃ、決まりだな」



―――





ウメゾノ ミノル
「KP!『ナイフに魔力を付与する』魔術を宣言します!」


マスタ イサム
「いいだろう」


ウメゾノ ミノル
『I am bone of my sword.』


ノノハラ レイ
「くっそwwwww」


オモヒト コウ
「やめろwwwww」



―――



マスタ イサム
「おめでとう、無事クリアしたようだ」


ウメゾノ ミノル
「Congratulation! しかしまぁ、澪君強すぎない?」


ノノハラ レイ
「そう? ちょっと顔がよくてSAN値が減らないだけじゃない」


オモヒト コウ
「二大邪神立て続けに目撃しておいて正気保ってるのを“ちょっと”とは言わん」


マスタ イサム
「この調子なら明日も大丈夫そうだな。――じゃ、始めるか」





―――



ウメゾノ ミノル
「よっしゃ立直!」 打一筒


ノノハラ レイ
「ロン、四暗刻単騎」


オモヒト コウ
「ロン、国士十三面」


マスタ イサム
「ロン、大四喜」


ウメゾノ ミノル
「……アポ?」



『魔法少女コス』



ウメゾノ ミノル
「くっそ自分で用意したヤツだったのにこんなはずじゃ……」


オモヒト コウ
「ま、まぁ、に、にwwあってwwるwwwと思うwwwぞ?」


マスタ イサム
「わ、笑いながら言うんじゃない説得力がぶほぉwwwww」


ノノハラ レイ
「んっふwwwwwなんならアテレコしてあげよっかwwwww?」


ウメゾノ ミノル
「……CV:井口裕香でオナシャァス!」


ノノハラ レイ
「うはwwwwwおkwwwww」





ノノハラ レイ(CV:井口裕香)
『にゃにゃ~ん!錬金魔法少女、スタブレ☆フレアだにゃ~ん!』



オモヒト コウ
「だっwwwww」


マスタ イサム
「ばっwwwwwやwwwwwやめwwwww」



ウメゾノ ミノル
『オイは妖精の“かーるぐすたふ”ばい!』



オモヒト コウ
「ふwwwwwざwwwwwけwwwwwんwwwwwなwwwww」


マスタ イサム
「腹話術とかwwwwwひwwwww卑怯wwwww」






ウメゾノ ミノル
「はい終わり! 次々ぃ!」



―――



『次局終了時まで星の戦士のモノマネ(コス有)』



ノノハラ レイ(頭部:一頭身の星の戦士 体:黒タイツ)
「……」


オモヒト コウ
「ぐっ……、ふw……」


マスタ イサム
「な、何か言えよw……」


ノノハラ レイ(CV:大本眞基子)
「ぺぽーい!」


ウメゾノ ミノル
「そっちwwwww?その声でそっちwwwww?」



―――



ノノハラ レイ(CV:大本眞基子)
「ワシとお前の中ゾイ!ナカナカZOY!」 打中


オモヒト コウ
「そんなこと言う星の戦士いやだwwwww」


マスタ イサム
「その声でそのセリフはやめろってwwwww」


ウメゾノ ミノル
「せめてCV:緒方賢一にしてwwwww」


ノノハラ レイ(CV:緒方賢一)
「ぽぉよぉ~」


オモヒト コウ
「おwwwwwまwwwwwえwwwww」


マスタ イサム
「わざとかwwwww?わざとなのかwwwww?」



―――




―――



『UMA』



マスタ イサム
「キャロット! 立直! たーのしー!」


オモヒト コウ
「無駄にいい声なのが腹立つwwww」



―――



『Party Parrot』



ウメゾノ ミノル
「Next」 打二索


ノノハラ レイ
「RYANSO」


ウメゾノ ミノル
「NO」


ノノハラ レイ
「HA?」


ウメゾノ ミノル
「The answer is」 打一筒


ノノハラ レイ
「……」


マスタ イサム
「……」


オモヒト コウ
「……」


ウメゾノ ミノル
「TINTIN」 一筒二索一筒


ノノハラ レイ
「HAHAHA! HA?」


マスタ イサム
「……っw」


オモヒト コウ
「くくっ……w」





―――


コウモト アヤセ
「もう、澪ったら。どうしてこうも突飛なのよ」

 『朝風呂一緒にどう? 先に別館で待ってるから』
 なんてメールをどうして5時に送るのよ、もう。
 ……久しぶりに二人っきりで一緒にお風呂なんて、心の準備ぐらいさせてもいいじゃない。





 6時にはゴンドラリフトが動き始めるから、それに一番乗りしようと思ったところで、意外な人と鉢合わせた。



コウモト アヤセ
「ユーミアさん?」


ユーミア
「ああ、河本さん。どうしてこんな朝早くに?」


コウモト アヤセ
「わたしは澪に呼ばれてきたんだけど……、ユーミアさんは?」


ユーミア
「ユーミアは昨日の片付けと……、掃除ですね。あの多目的ホールも結構汚れてしまっていますし」


コウモト アヤセ
「そっか。……それにしても澪遅いなぁ。先に待ってるって言ってたくせに」



――ジリリリリリリリリ



ユーミア
「ゴンドラが動き始めましたよ、早く乗りましょう」


コウモト アヤセ
「……もう!」



 流石にまた10分も待つなんて嫌だし、もう知らない!





―――



ユーミア
「ではユーミアは二階へ行って参りますね」


コウモト アヤセ
「うん。わたしは先に温泉行ってくる」



 ユーミアさんとは別館入り口近くのエレベーターで別れて、暖簾のところへ向かった。
 ――そこに、澪が変わり果てた姿で立っていた。



コウモト アヤセ
「何それ? どうしたの、その恰好?」


ノノハラ レイ
「天聖院学園の制服だよ」


コウモト アヤセ
「女子の、ね。まあ、似合ってるって言うか似合い過ぎて違和感がなさすぎるんだけど、どうしてそうなったの?」


ノノハラ レイ
「――話そうと思えば8時間ぐらいは話せる浅い理由があるんだ。聞く?」


コウモト アヤセ
「言いたくないなら素直に言えばいいじゃない。聞かないでおくから、朝風呂、入りましょ?」


ノノハラ レイ
「うん」





―――


???
「納得がいきません。筆記試験では主席の成績を取った自信があります。何故不合格なのか、理由の説明をお聞かせ願いたい」


???
「そう言われましても、こちらとしてはですね――」


???
「――上の意向ってヤツですね。なら貴方のような木端にはどうしようも出来ないわけだ。わかりました、ならもう何も言いません。お手数をおかけしました」


???
「……一体何なんだあいつ」



???
「こんな辺鄙な離島に足を運んで、やったことと言ったら悪質なクレーマー紛いの行為。
 ホント、何しに来たんだか。こんな気分じゃ観光もままならないだろうし」


???
「おにーさん、なにかお困りごと?」


???
「……何処の誰かはわかりたくもないんだけど、何の用かな?
 ボクは己の無力を呪うのに手一杯でね。幼女の皮を被った怪物の手も借りたくないんだ」


???
「――夢を見たんだ。青いバラの蕾の夢を」


???
「――そう、合点がいったよ。だから落とされたんだね。なら、ここにもう用はないや。予定を切り上げてさっさと帰ることにするよ。
 覚えておかなくて結構だけど、――いつか絶対に後悔させてやる。どれだけの時間をかけても、必ずだ」


???
「それは楽しみだね。覚えられているといいけど」


―――





コウモト アヤセ
「ちょっと、澪! 起きて!」


ノノハラ レイ
「ん……、ゴメン、寝てた?」


コウモト アヤセ
「寝てた」


ノノハラ レイ
「……肩、貸してくれたんだ。ありがと」


コウモト アヤセ
「だって湯船につかった途端にうつらうつらしてたんだもん。寝不足なの?」


ノノハラ レイ
「……うん、ちょっと徹夜しちゃった」


コウモト アヤセ
「――無理はしないって言わなかった?」


ノノハラ レイ
「一徹ぐらいは無理に入らないから。……ゴメン、わかった、今度からはちゃんと寝るからその拳はどうか下ろして」


コウモト アヤセ
「……もう。ちょっとは自分を気遣ってよ」


ノノハラ レイ
「そうするよ。――それにしても、こうして二人きりで入る温泉って言うのはいいね」


コウモト アヤセ
「そうやってまた強引に話を……。うん、景色も凄くいいわね。朝焼けが雪に反射して、キラキラしてる」


ノノハラ レイ
「これが普通の宿泊旅行だったら最高のロケーションなのにねぇ」


コウモト アヤセ
「本当に、そうねぇ……」





―――



ノノハラ レイ
「そろそろ朝ご飯の時間だね。あがろっか」


コウモト アヤセ
「うん。じゃ、また」



 混浴温泉から女湯へ向かって、そのまま脱衣所に向かおうとしていると、何か物音が聞こえる。
 これって、シャワーの音? 誰かいるの?
 何となしにその音源へ向かってしまったことを、後悔することになることを私は知らなかった。





 体中に刻まれたあちこちの刺し傷。
 それを洗い清めるようにかけられているシャワーの冷水。



 ――両手を重ねて、剣のようなもので磔にされている、巴ちゃんの死体だった。






――ということで、本日はここまで。


――非日常(捜査)編と学級裁判までお楽しみに。


――それではおやすみなさい。





      第二章



  ノーマーダー・ノーライフ



      非日常編







 ここまでは思い通り。しかし、本番はここからだ。
 これから行おうとしていることは、“完璧な犯罪計画”からは程遠い。
 どう良く言い繕ったところで、これは臨機応変ですらない行き当たりばったりな犯罪だ。
 悪く言えばほぼノープランに等しい杜撰で稚拙な、計画と表現することすら烏滸がましい無謀ともいえる暴挙ですらある。
 しかし、それでいい。それがいい。
 如何に完璧な計画を立てようと、実行に移すまではただの机上の空論に過ぎない。
 そして全てが想定内に進むよう用意周到であればあるほど、誰かの気まぐれや天候と言ったほんの少しの綻びで一気に瓦解する砂上の楼閣だ。
 数多の戦場の摩擦が予測される現状では、パズルのピースを一つ一つ嵌めて完成させるのではなく、
 どんなトラブルがあろうとその場その場で柔軟に対応できる可塑性の高い粘土細工こそふさわしい。
 本当に必要なのは、定められたゴールへ着地するに至る道筋を整えるための“計画”ではなく“枠組”。
 最終的に目的を果たすことができれば、それまでの過程は考慮しなくていい。
 それ故に、今この時だけはヒトとしての心――良識・倫理・矜持・理性などといったそれらすべてを金繰り捨て、
 目的達成の為だけに動く殺人機械(キリングマシン)と成り果てよう。
 これは、己に下された至上命令(グランドオーダー)。







       全ては、我が“勝利”の為に。






ユーミア
「どうかされたのですか、河本さん? ――これは!」


コウモト アヤセ
「あ、ゆ、ユーミア、さん。その、これは、見ての通りで……」


ユーミア
「……わかりました。とりあえず落ち着いてください。その後、服を着ましょう」


コウモト アヤセ
「え? それってどういう――」






ノノハラ レイ
「綾瀬! どうかしたの?! 尋常じゃない叫び声聞こえたんだけど?!」






コウモト アヤセ
「――あっ、うん。そうするね」

 澪がここまで聞こえてくる声で叫んでるってことはこんな状況だと身を危険に晒してでもこっちに来そうだし。
 そんな大声出してたんだ、わたし。





―――

ノノハラ レイ
「あれ、女湯に入れる……? てっきり撃たれると思ったのに。ブザーも鳴らないし」


モノクマ
「緊急事態だからね。特別に許可してるんだよ」


ノノハラ レイ
「そう。じゃ、遠慮なくいかせてもらおうか」


ユーミア
「――もう少しお待ちください。河本さんは今着替えている最中ですから。女装までして入ろうとした心意気は買いますが」


ノノハラ レイ
「そういうつもりじゃないんだけど……。じゃぁユーミアさん、中で何があったのか、教えてくれない?」


ユーミア
「朝倉巴の死体が見つかりました」


ノノハラ レイ
「……そう。だから緊急事態なんだね。モノクマの許可も下りるわけだ」



 しばらく待っていると、血の気が失せた顔をして震えている綾瀬が出てきた。



コウモト アヤセ
「ごめんね、遅くなっちゃって」


ノノハラ レイ
「いいよ。――案内してくれる?」


コウモト アヤセ
「うん」





 案内された先、シャワー室の一角で冷水を浴びせられているのは、腹を裂かれ腸が零れ落ちそうになっている胴体を、
 重ねた両手を支点にするかのように吊り下げられている朝倉巴の死体。
 まるで出来の悪い操り人形だといわんばかりに、虚ろな顔で不格好に吊るされている。
 全身余すところなく傷つけられているのに、顔には手を付けられていないのが一層皮肉らしい。
 宙吊りにする楔となっているのは恐らく短剣の類だ。握りが片手ぐらいの長さしかない。
 でも刀身が見えず鍔で止まっているあたり、かなり深く突き刺さっているとみえる。
 体中の傷もかなり深い。腕や足といった細い部分は勿論、胴体の傷も恐らく貫通している。
 そんな傷が今目視できるだけで数十箇所、あるいはそれ以上。
 この惨状を恐らく何の準備も無しに目撃してしまった綾瀬は、未だボクの腕にしがみついてはなさない。
 震える彼女を抱きしめ、冗談の一つでも言って元気づけようかとも思ってみたけれど、流石にそんな雰囲気でもないみたいだね。
 ――というより、ボクもそんな冷静になれてないんだけどさ。動揺で手の震えが止まらないし、心拍数だって跳ね上がってる。
 正直、これは夢なんじゃないかと思いたくもなるところなんだけど――。



モノクマ
「ピンポンパンポーン。死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きます」



 ああ、もう。現実はなんて非情なんだ。





―――



 食堂は騒然としていた。無理もない。朝食を間近に死体発見アナウンスが流れたのだから。
 空いている席は六つ。誰が殺されたのか、現場は何処かと考えていると、電子生徒手帳が震えていることに気付いた。
 画面を確認すると、澪からの着信だった。
 この状況で電話をかけてくるってことは、多分そういうことなんだろう。直ぐに出なければ。



ノノハラ レイ
『あ、もしもし? 公? どこにいる? 皆は?』


オモヒト コウ
「本館の食堂だ。お前と河本とユーミアと朝倉以外は全員ここにいる」


ノノハラ レイ
『そう、じゃぁ丁度よかった。さっきのアナウンスについてなんだけど、別館の女湯まで皆を連れて来てくれない?』


オモヒト コウ
「……誰だ? 誰が殺されたんだ?」


ノノハラ レイ
『超高校級の人形遣い候補生、朝倉巴だよ。ちょっと惨たらしいから、くれぐれも注意するよう、皆に伝えておいてくれないかな。
 ――特に、増田クンには』


オモヒト コウ
「あぁ、分かった」



 通話を切った。
 殺人がまた起きてしまったという現実を突きつけられる。
 しかも現場は別館の女湯。朝倉巴の惨殺死体。情報量が多い。
 頭の中を整理しようとして、ふと視線が俺に集まっていることに気付く。
 こんな状況で電話している奴なんて目立つに決まってるし、その内容が物騒ならさもありなん、か。
 一先ず澪からの情報を整理して説明し、別館へ向かった。






ノノハラ レイ
「やぁ、皆。ようやく来てくれたみたいだね。公にも言っておいたんだけど、今回の死体は前回のとは比べ物にならないくらいグロテスクになっているから、気を付けてね。
 見たくない人は無理してみないように。失神でもされたら捜査要員が減るし」


コウモト アヤセ
「澪、言い方」


ノノハラ レイ
「歯に衣着せて取り繕うかはマシじゃないかな。
死体に関しては案の定モノクマファイルに載ってるから、現物を見たいって人以外はこっちをお勧めするよ。耐性があると思ってるボクでもかなり参ってるから」


マスタ イサム
「……そこまで、酷いのか?」


ノノハラ レイ
「酷いよ。多分キミが見たら、誰がこんなことをと見境なく暴れまわるかもと危惧するぐらいには」


マスタ イサム
「……構わない。少なくとも俺は見なきゃいけないんだ。それに、現場の見張り役だって必要だろ? 私情を挟みかねない関係者は捜査に加われない。違う
か?」


ノノハラ レイ
「意外に冷静だね。……いや、必死に抑え込んでいるのかな?」


マスタ イサム
「そう、だな。ひょっとしたらタガが外れるかもしれん」


ユーミア
「ユーミアが傍にお仕えしますからご安心を」


ノノハラ レイ
「じゃ、現場の見張り役はその二人に任せるとして、だ。他に現場を見たいって人はいる?」


オモヒト コウ
「捜査の基本は現場百見。俺は見るぞ。いじってはないんだよな?」


ノノハラ レイ
「勿論。ボクの記憶力にかけて、発見当時から全く変わってないと断言するよ。一応現場写真も撮ってあるけど、見る?」


オモヒト コウ
「いや、いい。余計な先入観は排除しておきたい」


ウメゾノ ミノル
「直接見なきゃわからないこともあるし、僕も同伴するかな」


コウモト アヤセ
「……じゃぁわたし達はここで待ってるから」


ノノハラ ナギサ
「誰かが変な動きを見せたら、すぐに教えるからね。お兄ちゃん」







――捜査開始――








ウメゾノ ミノル
「――ちょっと前の自分を殴りたいぐらいには後悔してるかも、っていうか吐きそうなんだけど」


オモヒト コウ
「ゲロするなら他所でやれ、現場を汚すな。……想像以上、だったのは同意見だが」


ノノハラ レイ
「とりあえず、死体を降ろそう。現場は維持しておきたいけど、このままじゃ検死もままならないし」


マスタ イサム
「――じゃあ俺が巴を支えるから、誰か剣を抜いてくれ」


オモヒト コウ
「よし、俺がやろう。――フッ!」


ウメゾノ ミノル
「……ビクともしないね。そんなんじゃ僕が手伝っても無駄かな?」


オモヒト コウ
「何て所まで突き刺さってるんだこれは! こんな! ことが! オ、アアア!」


ノノハラ レイ
「どうやら磔にした犯人はとんでもない馬鹿力の持ち主のようだね。ボクが死体を支えるから、増田クンも手伝ってくれる?」


マスタ イサム
「……ああ」




 俺達男が二人掛かりでようやく引き抜くことができたそれは、予想よりもはるかに刃渡りが長く、形も歪だった。
 シャムシールとフランベルジュを足して二で割ったような、0≦x≦5π/2の範囲の正弦曲線を剣に投影したようなフォルム。
 刃渡り、というか剣のリーチはおよそ60cmといったところか。よくもまあこんな長いのを突き刺せたもんだ。



ウメゾノ ミノル
「――わぉ、刀身まで真っ赤になってやがる。これ全部朝倉さんの血なのかな」


マスタ イサム
「いや、この色は血じゃなくて……、元からみたいだ」


オモヒト コウ
「こんな赤い刀身の剣なんてあるのか? どうやって作るっていうんだ?」


ノノハラ レイ
「現にここにある以上、認めざるを得ないよ。
 まぁ、大方支給された凶器ってところでしょ。誰のかを検討するのは後にするとして」


オモヒト コウ
「ガチャの景品って線はないのか?」


ノノハラ レイ
「それはないよ。直接的に凶器になりそうなものは出ないみたいだし」


ウメゾノ ミノル
「ガチャのリストも確認してみたけど、それっぽいものは見当たらないね」


オモヒト コウ
「そうか……、そのリスト、信用できるんだろうな?」


モノクマ
「だいじょーぶ! ボクのお腹のセンサーにかけて“そのリストは正しい”と証言しましょう!」


ノノハラ レイ
「らしいよ?」


オモヒト コウ
「――で、さっきっからしれっと混じってるこいつは一体どうしたもんだろうな?」


ノノハラ レイ
「どうせいてもいなくても変わらないんだし、基本居ないものとして扱って必要な時だけ頼れば?」


ユーミア
「しゃしゃり出るのに目を瞑れば問題ないかと」


オモヒト コウ
「それもそうだな」


モノクマ
「コラ! ボクをそんな都合のいい女みたいな扱いをするんじゃない!」


ウメゾノ ミノル
「事実じゃん」


マスタ イサム
「今までの所業を思い出して出直してこい」


モノクマ
「クッソー!」





ノノハラ レイ
「ところでそのリストってさ、景品のシリアルナンバーと排出確率しかないんじゃなかったっけ?」


ウメゾノ ミノル
「全部当てた」ドヤァ


ノノハラ レイ
「どんだけ回したのさ」


オモヒト コウ
「お前にだけは言われたくないと思うぞ」


ウメゾノ ミノル
「むしろあれだけ回してまだcompleteできてないの?」


ノノハラ レイ
「――爆死は誰にだってあるんだ。キミだって相当溶かしたんだろ?」


ウメゾノ ミノル
「ゲームコーナーで稼げば実質タダだし。――500連からは数えてないね」


マスタ イサム
「……マトモな会話をしているはずなのに、何かやけにムカツクな」


ユーミア
「内容が内容ですから。どうか落ち着いてくださいマスター」



コトダマGET!


短剣:被害者の手のひらに突き刺さっていた短剣。禍々しいフォルムに赤い刀身が特徴的で、誰かに支給された凶器と考えられる。


突き刺さった跡:刀身が全て埋まるほどの深さまで突き刺さっていることから、相当強い力で突き立てられたと考えられる。


ガチャの景品一覧:ガチャの景品のシリアルナンバーと出現率が記されている。梅園穫は全ての景品を取得しており、凶器になりそうな物はないとのこと。






ユーミア
「……野々原さん、何をしているのですか?」


ノノハラ レイ
「いやさ、支えてた時にちょっと違和感があってね」


マスタ イサム
「違和感? その髪にか?」


ノノハラ レイ
「うん、なんか一瞬ずれたような気がして。これはひょっとしたら――」



 澪が朝倉の髪を慎重に引っ張ると、黒く短い地毛が露わになった。
 白い長髪を緑のヘアゴムでツインテールにしているのではなく、黒い短髪に緑のカチューシャが本来の髪型らしい。



ウメゾノ ミノル
「ウィッグ、だったんだ。あれだけ派手に動いていたのによくずれなかったね」


ノノハラ レイ
「この手のヤツは立ち回りさえ気を付けてればそう簡単に外れないようになってるんだよ。
 ふとした拍子にずれたりするんだけど、意識しない限りは気にならないし」


マスタ イサム
「……」


オモヒト コウ
「増田? どうかしたのか?」


マスタ イサム
「いや、何でもない。ただ結構長く付き合ってたのに、本当の髪型に気付かなかったマヌケっぷりに呆れてただけだ」


ユーミア
「それはマスターの落ち度ではありません。隠していた当人が悪いのです」


ノノハラ レイ
「好みに合わせたって可能性はないかな?」


ウメゾノ ミノル
「ウィッグの管理って結構洒落にならないんじゃなかったっけ? そこまでやるものなのかい?」


ノノハラ レイ
「まぁ、いずれにせよ朝倉さんはカツラを被ってたってワケだ。どうしようか? このまま放置する? それとも被せ直す?」


ユーミア
「外してしまった以上そのままにしておく方が無難でしょう。それに検死の際のノイズにならなくなりますから」


ノノハラ レイ
「増田クンは? どう思う?」


マスタ イサム
「……そのままにしておいてくれ。きっと俺のためだったんだろうが、最期くらいはありのままの巴でいさせてやれ」


ノノハラ レイ
「はいよ」



コトダマGET!
ウィッグ:朝倉巴はウィッグで髪型をごまかしていた。




ノノハラ レイ
「さて、検死を始めようか……、と、言いたいんだけど」


オモヒト コウ
「何か問題でもあるのか?」


ノノハラ レイ
「想像以上に損壊が激しいからね。ちょっと難しいかな。
 おまけにどれだけかは分からないけど、シャワーの水を浴び続けてたのも拍車をかけてる」


マスタ イサム
「そんなものなのか?」


ユーミア
「基本的に検死では死後硬直の進行具合や死斑の有無、解剖も含めれば胃の内容物や直腸体温などで死亡時刻などを推定します。
 一般的にはこのように外傷が多い場合、何処が致命傷となったのかを調べるものなのです。
 生前につけられたものと死後につけられたものとでは差異がありますから」


ウメゾノ ミノル
「なんかどっかで読んだことあるな。生体反応、だっけ?」


ノノハラ レイ
「うん。細かい説明は省いてざっくばらんに言えば、死んだら瘡蓋なんてできっこないよね? って話さ」


オモヒト コウ
「わかっちまうのがちょっとムカツクな。それで、何処が致命傷なのか、わかるか?」


ノノハラ レイ
「生体反応って一言で言ってもその差異って案外よく見てみないとわからないんだよね。
 それを一か所ずつ検証していかなきゃいけないから、クッッッッソ時間かかるよ?」


マスタ イサム
「その分澪の捜査時間が削られるってわけか。それはマズイな。ユーミア、頼めるか?」


ユーミア
「仰せのままに」


ノノハラ レイ
「随分とボクを評価信用してくれてるみたいだね?」


マスタ イサム
「まぁな。だが結果が出せなければ――解ってるな?」


ノノハラ レイ
「おお、こわいこわい」



コトダマGET!


死体損壊:朝倉巴の死体は著しい損壊を受けており、さらに水を浴び続けていたため検死が困難になっている。





ノノハラ レイ
「一応の現場検証はこんなところかな?」


オモヒト コウ
「第一段階終了、ってところだろ。一通り見終わったってだけだ」


マスタ イサム
「後は証拠探し、ってところか?」


ウメゾノ ミノル
「人数が減ったのに捜査範囲が広くなっちゃってるからどうしたもんかな。
 また二人一組となると一組あたりの負担がデカくなっちゃうよ?」


ノノハラ レイ
「とりあえず現場の監視と死体の検死は増田クンとユーミアさんにお任せするとして、ボク等は一旦合流しようか。
 組み分けはその時考えようよ」





 被害者は朝倉巴。

 全身に計157か所の刺し傷あり。薬物は検出されていない。

 また、肘や膝、指先や足先など様々な部位が粉砕骨折している。






コウモト アヤセ
「……改めてみると、酷い殺され方ね」


ノノハラ レイ
「その通りだね。ただ殺すなら、学級裁判で生き残るならここまでやる必要なんてどこにもない。
 そこに意味があるとするなら、きっとそれが鍵になるはずだよ」


コウモト アヤセ
「あ、澪。戻ってきたんだ」


ノノハラ レイ
「まあね。モノクマファイルで得られる以上の情報はユーミアさんの検死待ちって感じで、現場の監視を増田クンに任せて証拠集めをボク等で手分けしてやろうってね」



コトダマGET!
モノクマファイル02:>>549





ウメゾノ ミノル
「で、結局どうすんのさ。11人で本館と別館調べるのってかなり骨だと思うんだけど」


オモヒト コウ
「とりあえず本館を調べる組と別館を調べる組とに分かれよう。現場はこの別館だろうが手掛かりが本館にないとは言い切れないからな」


ノノハラ レイ
「その辺はボクも同意。今回も出来ればツーマンセルで行動してもらいたいんだけど、それだと捜査範囲が狭くなるし。
 本館組と別館組に分かれたら後はご自由にって感じでいいかな?」


ナナミヤ イオリ
「異議はありませんが、どう分けるのですか?」


オモヒト コウ
「一先ず俺は本館に向かう。夢見、試したいことがあるからついてきてくれないか」


タカナシ ユメミ
「うん、お兄ちゃんのいうことなら何でも聞くからね♪」


ウメゾノ ミノル
「僕も本館に行くよ。焼却炉とか、ランドリーとか、被害者の部屋とか気になるところ色々あるし」


ナナミヤ イオリ
「朝倉さんの部屋に入るなら、女性が必要でしょうね。これ以上死者を辱めることなどあってはならないでしょうし」


ナナ
「ナナはここに残るわ。ゴンドラで移動するのは面倒だもの」


ノノ
「あの中って退屈だもんね」


サクラノミヤ アリス
「死体がここにあるんだから手掛かりもここにあるんじゃないの?」


サクラノミヤ エリス
「ここで殺されたと考えるのが普通、ですよね……?」


ノノハラ ナギサ
「あたしもここに残ろうかな。こっちの方が人手要るだろうし」


コウモト アヤセ
「わたしは……、どうしよう」


ノノハラ レイ
「じゃ、ボクと組んで広く浅く調べる?」


コウモト アヤセ
「どういうこと?」


ノノハラ レイ
「深く調べるのは各々にお任せするとして、全体を俯瞰してみる人間も必要だろうと思ってね。
 その役割は二人一組で行動した方が、視野が広がるでしょ?
 ――それにさ、気づいてないと思うけど、結構疑いの目で見られてるんだぜ、ボク等」





コウモト アヤセ
「えっ?」


ノノハラ レイ
「死体の第一発見者が疑われないわけないしょ、おまけにそれが不自然な状況なら猶更さ。
 だから何処をどう調べようと怪しまれるし、最悪証拠隠滅しようとしてるじゃないかって思われたりしてね?」


コウモト アヤセ
「そんな……!」


ノノハラ レイ
「やっぱり、綾瀬に疑いがかけられているのなら、綾瀬自身がそれを晴らさなきゃだめだと思うな。
 ま、それ以上にボクは前科があるしねぇ。朝倉さんに拘束されたときに見張ってくれるって綾瀬言ってくれたし。――嫌だった?」


コウモト アヤセ
「嫌じゃないけど、できるのかな。わたしに」


ノノハラ レイ
「できるさ。ボクも出来る限りサポートするから。じゃ、そういうことで。ほら、本館組はゴンドラに乗りに行きなよ」


オモヒト コウ
「言われなくても。そっちこそ、変な真似はするなよ?」


ノノハラ レイ
「捜査に関しては真摯に取り組むつもりだよ。じゃ、散開ってことで」




ノノハラ レイ
「さて、じゃボク等は二階に行こうか?」


コウモト アヤセ
「そのこころは?」


ノノハラ レイ
「検死の時間待ちついでに、事件とあまり関係なさそうな部分は先に潰しておこうと思って。
 あと一回一番上まで登って上から下に調べる方が手間は省けるでしょ?」


コウモト アヤセ
「言いたいことは解るけど。いいのかなぁ、それで」


ノノハラ レイ
「そうと決まればGOGO!」


コウモト アヤセ
「……ところで、その格好にばかり気がいってたけど、よく考えるとおかしいじゃない?
 何で朝一番のゴンドラに乗ってきたわたし達よりも前に澪がここにいたの?」


ノノハラ レイ
「それに関しては、ボクの口からはなんとも。学級裁判を進めていけばいずれわかることだよ。この服を着ている浅い理由もそれで説明がつくから。
 そうだ、ついでだしこっちからも質問良いかい? 綾瀬がこっちに来るとき、ユーミアさんも一緒だったんだよね? 他に誰かいたかい? 荷物は?」


コウモト アヤセ
「ううん。わたしとユーミアさんだけ。わたしはバスタオルとか袋に入れて持ってたけど、ユーミアさんは手ぶらだったかな。
 ある程度の掃除用具ならこっちにもあるって言ってたし」


ノノハラ レイ
「そっか。じゃ、情報交換も終わったし改めて二階へ行こうか」



コトダマGET!
別館に居た澪:澪は6時10分よりも前に別館にいた。
二人きりのゴンドラ:綾瀬とユーミアは6時ちょうどにゴンドラリフトに乗った。二人とも特に大きな荷物を持っていたわけではない。





ノノハラ レイ
「まずは――女子更衣室かな」


コウモト アヤセ
「……」


ノノハラ レイ
「待って、これにはちゃんとした理由があるから。やましい理由とかないからそんな絶対零度の視線向けないで超怖い」


コウモト アヤセ
「ちゃんとした理由って?」


ノノハラ レイ
「昨日使われなかった体操服がどう処理されたのか、その確認だよ」


コウモト アヤセ
「何の為に?」


ノノハラ レイ
「いやさ、昨日の球技大会の時にさ、男子更衣室で体操服が一着余ってたんだよ。
 それで球技大会が終わって更衣室に戻ったらさ、その余った一着が無くなってたんだよ。
 その時は男みんなスルーしてたんだけどさ。『あんな小さいの誰も着ないだろ』とか、『自動で回収するなら最初から置くなよ』とか好き勝手言ってて。
 でもやっぱり気になるじゃない。そういうちょっとした怪現象って。
 勿論、使われなかった体操服は自動で回収されるって言うならそれにこしたことはないんだけど」


コウモト アヤセ
「……そういえば、女子更衣室も二着体操服が余ったわね。そっちは球技大会の後も手つかずのままだったはずだけど?」


ノノハラ レイ
「その証言を聞けただけでも――と言いたいところだけど、今日は違うかもしれない。その確認だよ」


コウモト アヤセ
「……それなら、いいんだけど」



コトダマGET!
消えた体操服:男子更衣室で余っていた一着が球技大会の後無くなっていた。






コウモト アヤセ
「……うん、変わってないわね。用が済んだんだし、早く出ましょう?」


ノノハラ レイ
「……あー、ちょっと待って。これは、男性アイドルのポスター?」


コウモト アヤセ
「海神 水音(ウナガミ ミオ)。人工知能のアイドルだからAIdolなんだって」


ノノハラ レイ
「そういう設定とかじゃなくて?」


コウモト アヤセ
「慧梨主ちゃんから聞いた話だと、知る人ぞ知るって感じのネット上でのみ活動してるアイドルみたい」


ノノハラ レイ
「へぇ、意外だな。慧梨主さんそういうの疎そうだと思ってたのに」


コウモト アヤセ
「慧梨主ちゃんもはじめは女の人だと思ったんだって。誰かさんに似てる所為かもね?」


ノノハラ レイ
「……まぁ、ボクが成長してもっと髪伸ばせばこんな感じになるのかな?」


コウモト アヤセ
「かもね。試しにちょっと髪型似せてみれば?」


ノノハラ レイ
「んー……、こんな感じ?」


コウモト アヤセ
「……予想以上にそっくりでビックリよ」


ノノハラ レイ
「わあお。――とりあえず、自分が使用した分は自分で洗濯するっていうスタンスは解ったよ。とするとあの体操服は……、そういうことになるのかな」


コウモト アヤセ
「ちょっと、一人で考え込まないで教えてよ」


ノノハラ レイ
「いやいや、こういう気付きは共有するものじゃないよ。本人が分からなきゃ本質が分からない。
 それに、この事実は出来るだけ隠しておいたほうがいいかもしれないし。一個人の名誉の為にもね」


コウモト アヤセ
「むぅ……」



コトダマGET!
手付かずの体操服:女子更衣室には手付かずの体操服が二着あった。






 女子更衣室を出た先の廊下に渚がいた。男子更衣室の前をうろついているみたいだけど。



ノノハラ ナギサ
「あ、お兄ちゃん」


ノノハラ レイ
「あれ、どうしたのさ渚。そんなところで」


ノノハラ ナギサ
「あ、あのね、ちょっとここから変な臭いがするの。饐えた臭いって言うか……」


ノノハラ レイ
「うーん? ……うーん。何か消臭剤でも使ったのかな。臭いのもとはこの廊下だけ?」


ノノハラ ナギサ
「そうじゃない、かな。多分大本がある、と思う。男子更衣室、かな?」


ノノハラ レイ
「それなら、調べてみる必要があるね。渚の嗅覚は信用できるからさ」


コウモト アヤセ
「澪の言ってたことの検証も兼ねてね」


ノノハラ レイ
「じゃ、開けよっかな」



コトダマGET!
野々原渚の証言:男子更衣室前の廊下で微かな饐えた臭いがしていた。消臭剤が使われていた可能性がある。






 男子更衣室の扉を開けると、異様な光景と悪臭がとびかかってきた。



ノノハラ レイ
「……おっと、これは想像以上だったね」



 男子更衣室の隅に大量の吐瀉物。饐えた臭いの大本はこれみたいだ。



ノノハラ ナギサ
「……うん。同じ臭いがする。度合いは、こっちの方が酷いけど」


ノノハラ レイ
「ぶちまかれてから結構時間経ってる感じかな。大分乾いてるし」


コウモト アヤセ
「……本当に澪に言うとおり体操服が全部なくなってる。でもこれに何の意味があるの?」


ノノハラ レイ
「女子更衣室では使用されていない体操服はそのまま。一方で男子更衣室では余ったはずの体操服はなくなっている。
 それから導き出される答えは一つなんじゃないかな」


コウモト アヤセ
「……?」


ノノハラ ナギサ
「ところでこれ、お兄ちゃん達のじゃないんだよね?」


ノノハラ レイ
「当り前じゃん、自分で汚したものはちゃんと自分で処理する分別くらいは持ってるはずだよ。
 ……消化具合から考えると、食後から3~5時間って感じかな? 肉らしいものも結構溶けてるから」


コウモト アヤセ
「……それならこれ、昨日の夕食ってこと?」


ノノハラ レイ
「多分そうなんじゃないかな。昨日のマルゲリータに乗ってたベーコンだと考えれば辻褄が合う」


コウモト アヤセ
「えーっと、大体19時ぐらいには皆晩御飯食べ終わってたはずだから……」


ノノハラ レイ
「ここで男子の中の誰かが22時から24時の間に吐いて放置したって感じかな」


ノノハラ ナギサ
「それだと廊下の臭いの説明がつかないよ?」


ノノハラ レイ
「考えられる可能性があるとすればそれは――。
 これも一個人の名誉の為に学級裁判で追及されるまでボクの胸の内に秘めておこう」


コウモト アヤセ
「またそれ? ちょっとは話してくれたっていいんじゃない?」


ノノハラ レイ
「……心配には及ばないよ。十中八九、追及されるだろうから」


コウモト アヤセ
「……?」

コトダマGET!
吐瀉物:男子更衣室の片隅に大量に吐かれている。乾いていることから吐かれてから時間がたっているものと思われる。
    また、内容物の消化具合から食後3~5時間と推定される。




コウモト アヤセ
「……一応更衣室にもそれらしい収穫があったにはあった、のかなぁ?」


ノノハラ レイ
「ボク的には予想以上だったけどね。さて、次はどっちを調べようか? シアタールーム? 多目的ホール?」


コウモト アヤセ
「そこは澪が決めるんじゃないの?」


ノノハラ レイ
「……正直、この二つには特に証拠なんてないんじゃないかなって。直感だけど」


コウモト アヤセ
「でも一応調べなきゃいけないから、サラッと調べるならどっちが先ってワケね。
 じゃぁシアタールームにしましょう。手掛かりらしい手掛かりなんて一番出てこなさそうだし」


ノノハラ レイ
「いいよ。……そう言えば、観賞会の後片付け中途半端だったっけね」


 シアタールームへ向かった。





ノノハラ ナギサ
「ところで、お兄ちゃん、その格好は――」

ノノハラ レイ
「後でゆっくり説明するよ。後でね」



 制止にかかる渚を振り切って扉を開けるとそこには慧梨主さんがいた。



サクラノミヤ エリス
「海神水音さん?! しかも、こっ、ここねさんとのコラボ衣装?!
 ――じゃ、ないですね。澪さんですか。顔がそっくりだから危うく騙されるところでした」

ノノハラ レイ
「一瞬で見破るとかガチのファンかな? ちなみにどこで見分けたのかな?」

サクラノミヤ エリス
「水音さんはもっと威厳と言うか……、カリスマがある方なので。色々な本から引用して自分なりの哲学も通してきますし。
 それに比べると澪さんは、その、何と言うか、チャランポランじゃないですか」

ノノハラ レイ
「……キミ、結構辛辣な毒吐くね。亜梨主さんがいないとそんな感じなのかな?」

サクラノミヤ エリス
「お姉さまは関係ないでしょう。水音さんのコスプレの指南なら是非プロデュースしたいところですが」

コウモト アヤセ
「髪型変えただけでそういうのは全然関係ないから。……それで、何かめぼしいものは見つかった?」

サクラノミヤ アリス
「そうですか。てっきりそっちの方向に目覚めたものかと。……特にこれと言って発見はありませんね。映画観賞会のゴミがそのまま残っているぐらいで」

ノノハラ レイ
「……確かに、飲みさしの紙コップやらポップコーンの包み紙やらでゴミ箱がいっぱいだね。
 うわ、よく見たら床に食べかすみたいなのも落ちてるじゃん」

サクラノミヤ エリス
「あの時は基本的に部屋が真っ暗でしたから……、多少の見落としがあっても仕方ないのでは?」

ノノハラ レイ
「だね。……ん、変だな」

コウモト アヤセ
「どうかしたの?」

ノノハラ レイ
「いや、紙コップさ、他の誰かと混ざらないよう自分の名前書くってなったじゃん」

コウモト アヤセ
「そう言われてみれば確かにそうだった気がするけど、それが何なの?」

ノノハラ レイ
「紙コップ、12個しかない。二人分足りないんだよ。公と増田クンのがここにないんだ」

コウモト アヤセ
「普通に持ち帰ったとかじゃないの? 事件とあまり関係なさそうだけど」

ノノハラ レイ
「……いや、案外こういうのが大事だったりするんだよね」

サクラノミヤ エリス
「そうあからさまに言われると、逆に無関係に思えてきますね」

ノノハラ レイ
「……泣いていい?」


コウモト アヤセ
「今までの自分の言動を思い出しなさい」

コトダマGET!
食べかす:映画上映会の時の食べかすが床に落ちていた。
消えた紙コップ:主人公と増田勇の紙コップが無くなっていた。



ノノハラ レイ
「うん。これ以上は証拠になりそうなものもなさそうだし、撤収しようかな」


コウモト アヤセ
「随分あっさり引き下がるのね。まあ、いいけど」


サクラノミヤ エリス
「水音さんのコスプレを今度してもらっても――」


ノノハラ レイ
「はい次々ー」


コウモト アヤセ
「あまり澪で遊ばないでね。じゃあわたし達は多目的ホールに行くから」


サクラノミヤ エリス
「それは残念です。心変わりしたらいつでも待ってますから」



 ちょっと寒くなった背筋を無視して、多目的ホールへ向かった。





ナナ
「そーれ」


ノノ
「えーい」


ノノハラ レイ
「予想はしてた」


コウモト アヤセ
「この捜査時間って割と命がかかってるんだけど……、解ってないのかな?」


ノノハラ レイ
「多分解っててもなお、だと思う」



 体育館でボール遊びをする子供。
 普通なら何の変哲もない絵面だけど、殺人事件が起きた後だってシチュエーションで、それなりに分別のある双子だと一転恐怖を煽るものだ。
 そうだな、『シャイニング』や『エクソシスト』の雰囲気に近い。



ナナ
「あら、お兄ちゃん。どうしたのそのお洋服?」


ノノ
「お兄ちゃんはお姉ちゃんだったの?」


ノノハラ レイ
「あまり気にしないで。できれば放っておいて」


コウモト アヤセ
「えーっと、そうそう。二人は何か見つけたの?」


ナナ
「何も見つからなかったからこうして遊んでるの」


ノノ
「お兄ちゃんが壊したバスケットのゴールもそのままになってるし」


ノノハラ レイ
「……本当にそのままだね。塗装に塗装を重ねても、肝心の中身が錆びでボロボロだ」


コウモト アヤセ
「それで壊れちゃったのね。……増田君のダンクシュートがそれだけ強烈だったって言うのもあるけど」


ノノハラ レイ
「モノクマの想定以上だったってわけね。だから見逃されたんだろうけど」



コトダマGET!
壊れたゴールポスト:老朽化していたのを騙し騙し使用していたが、増田勇のダンクシュートを何度も受けたせいで破損してしまった。






ノノハラ レイ
「掃除用具……、これかな」


コウモト アヤセ
「モップにバケツに箒に塵取りに粘着クリーナーに漂白剤消臭剤……、掃除に必要なものは一通り揃ってるわね」


ノノハラ レイ
「ついさっき使ったばかりって感じのも結構あるね」


コウモト アヤセ
「ユーミアさんが掃除してたって事じゃないの?」


ノノハラ レイ
「……その割には、舞台袖とか結構埃が目立つね」


コウモト アヤセ
「そんな姑みたいな真似しないの。……いったん離れて合流するまで大体一時間半ぐらいだからそんな隅々までは気が回らなかったんじゃない?」



コトダマGET!
掃除用具:掃除に必要なものが揃っている。使用したばかりの物もある。
多目的ホール:一通り掃除されているようだが舞台袖などは手付かずだった。





ノノハラ レイ
「もうここは粗方調べ終わったかな」


コウモト アヤセ
「じゃあ一階に行きましょっか」


ナナ
「もう行っちゃうの?」


ノノ
「ここで遊ばない?」


ノノハラ レイ
「後でね」


コウモト アヤセ
「……二人はもうしばらくそこで遊んでてね」


ナナ/ノノ
「「はーい」」



 場違いな明るい返事を返した双子を背中に、多目的ホールを後にし一階へ向かった。






サクラノミヤ アリス
「あら。疑わしい二人がお揃いで何の用?」


ノノハラ レイ
「出会い頭に辛辣な言葉をどうも」


コウモト アヤセ
「まあ、そう言われればそうよね。第一死体発見者だもんね。それは疑われるわよね」


サクラノミヤ アリス
「その隣にいるのが怪しい恰好をしているとなれば、疑うなって方が無理でしょ?
 どうせ、そんな恰好をしている理由を聞いても答えてくれないでしょうけど。それが余計怪しいっていうのにね」


ノノハラ レイ
「手厳しいなあ。で、何か収穫はあったかい?」


サクラノミヤ アリス
「特に何も? ……と言いたいところだけど、一応モノクマから情報は得られたわ」


コウモト アヤセ
「どんな? っていうか、どういった経緯でそんな情報を?」


サクラノミヤ アリス
「このゲームコーナーの雀卓、ちょっと前まで使ってましたって感じだったからね。
 こう思ったの、誰か夜遅くまでやってたんじゃないかって。
 で、モノクマからさりげなく聞いたらこう答えが返ってきたわよ。
 『この別館は本館とは電力は別だから、夜時間の間でも電気が通ってる』ってね」


コウモト アヤセ
「……誰がいたのかは?」


サクラノミヤ アリス
「あの性悪パンダモドキが教えてくれると思ってるの?」


ノノハラ レイ
「ですよねー。で、キミはこう考えたわけだ。実は夜時間の間に誰かがここにいたんじゃないかって」


サクラノミヤ アリス
「そ。でもまぁ、それが誰なのかはすぐに検討がつきそうだけど?」


ノノハラ レイ
「それじゃキミに聞くけど、ゴンドラリフトはどう説明するのさ」


サクラノミヤ アリス
「稼働時間、ね。考えれば案外簡単に説明付くでしょ。あたしの推理が正しければ、クロの正体も自ずと解るわよ」


コウモト アヤセ
「……澪はクロじゃないわ。少なくともわたしはそう信じてる。そしてわたしも犯人じゃない」



別館の電気:別館は夜時間も電気が通っている。






ノノハラ レイ
「ゲームコーナーにも目ぼしいものはなさそうだし、そろそろユーミアさんの検死も終わってそうだし。
 行ってみようか。――大丈夫?」


コウモト アヤセ
「うん。わたしはもう平気だから、心配しないで。女湯に行きましょ?」


ノノハラ レイ
「無理はしないでね」


コウモト アヤセ
「それわたしのセリフ」


サクラノミヤ アリス
「下らないラブコメなんてやってないでさっさと言ったら?」



 刺々しいセリフを後に、女湯の更衣室へ向かった。






ノノハラ レイ
「とりあえずまずは脱衣所から調べてみようか。何か証拠があるかもしれないし」


コウモト アヤセ
「証拠って言ったって……、わたしが着替えたときには何も……」


ノノハラ レイ
「それは動揺してたからでしょ。冷静になった今なら、何かわかるものがあるかもしれないじゃない」


コウモト アヤセ
「そう、かな」


ノノハラ レイ
「そうだよ。……行きと帰りの時とで何か違ってるところとか、ある?」


コウモト アヤセ
「うーん……。特にこれと言って変わったところなんて見当たらないし……。
 わたしは澪みたいな記憶力は持ってないからなんとも……」


ノノハラ レイ
「そんなに気に病まなくたっていいよ。……このゴミ箱とかはどう?」


コウモト アヤセ
「……うん、少なくともこんなカバンは入ってなかった筈はずよ。それは断言できる。
 それによく見たらこれ、巴ちゃんのカバンだわ」


ノノハラ レイ
「調べてみる価値は十分にありそうな証拠品だね」



コトダマGET!
脱衣所のゴミ箱:朝倉巴のカバンが捨てられていた。






ノノハラ レイ
「さーて中身はなんじゃろな」


コウモト アヤセ
「女の子のカバンの中身を漁らないの――と言いたいところだけど、これも捜査のため、よね」


ノノハラ レイ
「……最近の女子のカバンの中には紙コップやら空のペットボトルやら、一目でゴミとわかる物を入れるのがトレンドなのかな?」


コウモト アヤセ
「そんなトレンドがあると思う? ……この紙コップ、増田君のね。『マスタ』って書いてあるし」


ノノハラ レイ
「ひょっとしたらこの空のペットボトルも増田クンのかもね。後は……、この小瓶と、何かの機械と、……鞘、かな?」


コウモト アヤセ
「この形の鞘って……、つまりそういう事、なの?」


ノノハラ レイ
「だろうね。小瓶の中身は……、うわぁ、これ爪だわぁ」


コウモト アヤセ
「巴ちゃん、自分の爪を集めて溜める趣味でも――いえ、これ巴ちゃんの爪じゃないわね」


ノノハラ レイ
「わかるんだ?」


コウモト アヤセ
「ええ、だって女の子の爪って感じじゃないじゃない。切り口も雑だし、厚いし。
 多分男子のかな」


ノノハラ レイ
「……大きさ的に考えて増田クンのだったりしてね。後で聞いてみようか」



コトダマGET!
紙コップ:朝倉巴のカバンの中に入っていた増田勇の紙コップ。
鞘:何らかの剣の鞘。形が独特。
小瓶:誰かの爪が詰まっている。






ノノハラ レイ
「さて、残るは怪しさ極まりない機械だけど、イヤホンがあるし、ちょっと電源点けて聞いてみようかな」


コウモト アヤセ
「危なくない?」


ノノハラ レイ
「物は試しってヤツだよ、さぁてなにが聞こえてくるのかな? ――へぇ」


コウモト アヤセ
「何よ、そんな風に悪巧みしてるみたいに笑っちゃって」


ノノハラ レイ
「これ、盗聴器だ」


コウモト アヤセ
「え?」


ノノハラ レイ
「しかも増田クンの身体の何処かに送信機つけられてる」


コウモト アヤセ
「……噓、じゃ、ないわね。じゃあ、その、巴ちゃんは――」


ノノハラ レイ
「所謂ストーカーってヤツだ。増田クンはその被害者ってところかな」


コウモト アヤセ
「こんなところで巴ちゃんの知らない一面が暴かれちゃうなんて、ね」


ノノハラ レイ
「人なんてそんなもんだよ。誰にだって知られたくない後ろ暗い顔を持ってるのさ」


コウモト アヤセ
「澪が言うと真実味が増すわね」


ノノハラ レイ
「綾瀬はボクを褒めたいのか貶したいのかどっちなんだい?」


コウモト アヤセ
「わたしはありのままの澪のことを言ってるだけだから」



コトダマGET!
盗聴器:朝倉巴は増田勇を盗聴していた。





―――




 思えば、巴は俺にとっての何だったんだろうか。
 バイト先で俺が座っていた椅子に頬擦りしたり、脱ぎ捨てたユニフォームに顔をうずめていたり、といった意味不明な行動を除けば、俺によく懐く可愛らしい女の子。
 そうだと思っていた。
 あの日。俺が車に轢かれかけたあの日までは。俺の代わりに、俺を庇って、巴が撥ね飛ばされた、あの日までは。
 あの瞬間、俺の心は彼女に惹かれたのだろう。吊り橋効果と言われてしまえばそれまでかも知れないが、俺が巴に惚れる決定打になったのは間違いない。
 前世や運命を信じるか、とかつて巴が聞いてきたことがあった。
 当時の俺は否定しようとして答えに詰まったが、正直に言えば、今は信じている。と、思う。
 運命論や前世の記憶で人の恋が決まってしまうなんて味気ないと思っていたが、俺が巴に助けられたのは多分、そうなる運命だったんじゃないか、と。
 それなら、そこから先の俺の心もまた、前世からの運命なんじゃないかって、そう思えた。



マスタ イサム
「……だけど、こんな風にされるようなことはしてないだろ」


ノノハラ レイ
「そうかな? ヒトって言うのは何処から恨みを買うか分からないものなんだぜ?
 殺意なんてのは思いもよらぬところから芽生えてくるものなのさ」


マスタ イサム
「――今、お前に対する殺意が芽生えそうだよ」



 俺はこいつを殴って黙らせるべきなんじゃないかと一瞬思い、ギリギリ踏みとどまった。こいつの捜査能力は一応、信用している。
 巴をこんな風にした犯人を突き止めるためにはこいつの力が必要だ。一時の感情でそれを不意にしてはいけない。
 だから俺は努めて冷静に振る舞う。ほんの少し、激情が漏れそうだが。



―――






コウモト アヤセ
「その、ごめんね、澪が変なこと言って。ほら、謝って」

ノノハラ レイ
「はいはいすいませんでした、っと。で、検死の進捗は?」

ユーミア
「……芳しくありませんね。どの傷も似たようなもので、どれが致命傷なのかは判断できかねます」

ノノハラ レイ
「死亡時刻の方は割り出せそう? ほら、モノクマファイルには載ってなかったからさ」

ユーミア
「見ての通り、傷の所為で死斑も解らなくなってしまっていますし、死後硬直も全身の骨を砕かれているせいで判断は難しいですよ。
 頭部は無事だったので顎の硬直から死後三時間以上は経過しているとみて間違いはないようですが」

ノノハラ レイ
「胃の内容物の消化具合とかは?」

ユーミア
「……見ての通り、空っぽでして。それが元からなのか、滅多刺しにされた後シャワーの水で洗い流されたのかの判別も付かないのが現状です」

ノノハラ レイ
「そっかぁ。でもさ、一目瞭然でわかることが一つあるよね?
 少なくとも刺し傷は死後につけられたもので、死後八時間以上は経過してるんじゃないの?」

ユーミア
「何故そう言い切れるのです?」

ノノハラ レイ
「だってさ、服に血がどこにも滲んでないじゃん。
 仮に殺した後何かの痕跡をごまかすために刺し傷を作ったとしても、体の中で血が完全に凝固してない限り死後の傷でも出血はあるはずで、そうなれば服に血が着くのは自明の理だよね?」

マスタ イサム
「つまりあれか? 殺してしばらくたった後さらに痛めつけたって言うのか?」

ノノハラ レイ
「考えようによってはそうなるね。よっぽどの怨恨か、あるいはそうしなければならない理由があったか……、いずれにせよ、相当な執念の賜物だよ、これは」

ユーミア
「……引き続きユーミアは死因を調べておきます。これ以上ここにいては、いつマスターの怒りを買うか分かりませんよ?」

ノノハラ レイ
「じゃ、最後に一つだけ、増田クンに聞きたいことが」

マスタ イサム
「……何だ。言ってみろ」

ノノハラ レイ
「昨日言ってた忘れ物、結局どうなったの?」

マスタ イサム
「体操服の事なら、男子更衣室に置きっぱなしにしておいたって言ったろ。どのみち回収されるから問題ないって」

コウモト アヤセ
「そのことなんだけど――」

ノノハラ レイ
「いや、確認したかっただけだよ。邪魔して悪かったね。新しい発見があったら学級裁判で発言してもらおうか」

ユーミア
「……ええ、もとよりそのつもりです」

ノノハラ レイ
「じゃ、この辺で失礼させてもらうよ。じゃあね」

コウモト アヤセ
「ちょっと、澪!」



コトダマGET!
朝倉巴の胃:内容物が空で消化具合も確認できない。
朝倉巴の服:傷だらけではあるが血は滲んでいない。







コウモト アヤセ
「どうしたのよ急に飛び出したりして。それに事情だって――」


ノノハラ レイ
「説明したら増田クンどうなるか分からないじゃん。平静保ってるようでちょっとしたことでキレそうな状態だったし。
 それとも、被害者である朝倉巴が実は自分をストーキングしていただなんて衝撃的な事実を本人に伝えたら何が起こるか、予想できる?」


コウモト アヤセ
「それは、ショックを受けるとは思う、けど……」


ノノハラ レイ
「でしょ? それに時間も惜しいし。聞くべきことは聞けたから十分なんだよ。そう言う訳だから、ここで調べられることはもう粗方調べ終わったってことで。
 本館へ向かおうか」



 強引にゴンドラ乗り場へ向かった。







ノノハラ レイ
「……あれ、何か変じゃない?」


コウモト アヤセ
「どうかしたの?」


ノノハラ レイ
「スキー用具、二人分無くなってる。ついでに勝手口も開けっ放しでそこから足跡が二人分外に出てる」


コウモト アヤセ
「そもそもあったの? スキー用具なんて」


ノノハラ レイ
「十六人分、このロッカーにね。開けないと何が入ってるか分からないけど、ここが解放されてからかなり時間も経ってるし、気付く人は気付いたはずだよ。
 まぁ、見るからにスキーリゾートっぽいからね、ここ。そりゃあるよねって話になるわけで。
 ――しかし、これも開けっ放しで出て行ったとなると、これをやった人は相当焦っていたのかな」


コウモト アヤセ
「わたしが来た時にはそんなあとどこにもなかったけど?」


ノノハラ レイ
「本当かい?」


コウモト アヤセ
「流石にここまで様変わりしてれば着いた時すぐ気付くわよ。断言するわ。わたしが来た時にはスキー用具入れのロッカーも、そこの勝手口も開いていなかった」


ノノハラ レイ
「……それ、しばらくはボク等の胸の内に秘めておいてくれる? 今後の重要な証拠になるかもだから」


コウモト アヤセ
「それは構わないけど……、どう証拠になるの?」


ノノハラ レイ
「犯人の尻尾を捕まえられるかもしれない。詳しく説明すると綾瀬の態度からバレるかもしれないから言わないけど」


コウモト アヤセ
「……悪かったわね、演技が下手で」


ノノハラ レイ
「そう拗ねないでよ。二人の内一人は見当がついてる。もう一人も多分そうなんでしょ。此の二人には特にバレて欲しくないんだ」


コウモト アヤセ
「誰なの?」


ノノハラ レイ
「一人は犯人、もう一人はそれを検証する為に体を張った――主人公クンだよ」



コトダマGET!
ゴンドラ乗り場の勝手口:開けっ放しになっており、二人分の足跡が外にのびていた。
スキー用具入れ:ゴンドラ乗り場にはスキー用具が入っているロッカーがあり、誰でも利用可能だった。
河本綾瀬の証言:6時10分に着いたとき、勝手口の扉もスキー用具のロッカーも開いていなかった。





ノノハラ レイ
「さて、じゃボク等も本館へ行ってみようか。さ、リフトに乗って?」


コウモト アヤセ
「えぇ。……この間の時間がちょっともったいないわね」


ノノハラ レイ
「なら、ボクの話に付き合ってよ。ここまで得られた情報を、整理してみようと思うんだ」



 ゴンドラリフトに揺られながら、推理を進めることにした。



ノノハラ レイ
「やっぱり変だよ、この事件は。特にあの死体。どうしてあそこまでやらなければならなかったのかが重要なんだ」


コウモト アヤセ
「それは、確かに。澪の見立て通りなら、一度殺した後しばらく時間をおいてから死体を痛めつけたってことになるんだもんね?」


ノノハラ レイ
「うん。でさ、朝倉さんの身体には、首や胴体、手足も含めて157箇所も刺し傷があるのはモノクマファイルの通りなんだけどさ。それの分布がおかしいんだよね」


コウモト アヤセ
「どういうこと?」


ノノハラ レイ
「傷が全体に散らばってるのってさ、冷静に考えると変じゃない?
 いくら朝倉さんが小柄だからって、首の下から足の先まで1メートルぐらいはあるんだよ?
 つまり、滅多刺ししている最中に、わざわざ少しずつ移動しなきゃいけないわけじゃない。
 おまけに腹部も背部も刺し傷があるから、一回以上は体をひっくり返しているんだ。いくら怨恨があったって、流石に変でしょ?」


コウモト アヤセ
「それは確かにそうだけど……、一体何のために?」


ノノハラ レイ
「何がしかの意図があったのは確かだと思うよ。普通に考えたらここまでやる必要はない。
 なら、普通じゃない理由があると考えるべきだ」


コウモト アヤセ
「わざわざ全身を刺していった理由……、例えば、犯人に繋がるような痕跡か何かを隠すため、とか?」


ノノハラ レイ
「かもね。痕跡を隠すための工作を隠すために全体に細工した、なんてよくある手だし。
 うん、良い線行ってると思うよ。全身に剣を突き立てて、おまけに関節やら骨やらをバキバキに折るなんて。指なんか辛うじて原形を留めてるってぐらいになってるし。
 オーバーキルにも程がある。普通に殺す分には全く必要ないぐらい重傷負わせる理由は一体何なのか?
 証拠隠滅の為だとすれば、犯人が隠したかったものを考えなくちゃいけない。その先に見える真相が真実なんだ」


コウモト アヤセ
「秘密は秘密と知られた時点で秘密じゃなくなる。そういう事ね?」


ノノハラ レイ
「隠されたものはその存在が知られた時点でいずれ暴かれる。そういう運命なのさ」






ノノハラ レイ
「……時に綾瀬さんや、こっちに来るとき外の景色は見たかい?」


コウモト アヤセ
「なんでそんな急に老け込むのよ。ユーミアさんとは特に話すこともなかったから眺めてはいたけど……、それが?」


ノノハラ レイ
「足元に広がる雪面は見たかい?」


コウモト アヤセ
「んー、見てない、かな。どっちかというと空をぼんやり見てたから」


ノノハラ レイ
「そうかいそうかい。……いやね、シュプールが二人分あるから、それがいつ造られたものなのかと思ったのさ」


コウモト アヤセ
「シュプールって?」


ノノハラ レイ
「スキーで滑った後に出来る轍だよ。ほら、二人分あるでしょ? 蛇行してるのと真っ直ぐのとがさ」


コウモト アヤセ
「あ、本当だ。……これって、誰かがスキーで滑ったって事?」


ノノハラ レイ
「多分ね。一つは犯人が、もう一つは公がつけたものとボクは踏んでいる」


コウモト アヤセ
「どうしてわかるの?」


ノノハラ レイ
「後で直接公に聞いてみればすぐわかることだけど……、多分公がゴンドラに乗って別館へ向かったときはシュプールが一人分あったと思うんだよね。
 それとゴンドラ乗り場の変わりようを見て公は犯人がスキーを使って別館から本館へ移動したと考えたんじゃないかな。判断材料としてはちょっと弱いけど」


コウモト アヤセ
「ひょっとして、主人君が試したいことってそれの事なの?」


ノノハラ レイ
「ボクはそう読んでいる。ま、聞けばわかることだよ。――そう言ってる間にそろそろ着きそうだ」



 本館に到着した。






ノノハラ レイ
「さぁて、まずは焼却炉から調べてみようかな。望み薄だけど」


コウモト アヤセ
「もう手遅れだってこと?」


ノノハラ レイ
「多分ね。今度はしっかり焼却炉を起動させて証拠隠滅してるんじゃないかなぁ」


コウモト アヤセ
「そう思ってるなら、行く意味ないんじゃない?」


ノノハラ レイ
「いいや? 仮に使われていたとしても、犯人が焼却炉を使って処分した証拠品はなんなのか、それを推測する余地はあるはずだよ」



 焼却炉に向かった。



ウメゾノ ミノル
「……ゴメン。まさかとは思ってたんだけど、やっぱり先にやられちゃってたよ」



 ですよね。やっぱり起動してましたか。焼却炉。





ノノハラ レイ
「此処に来た時にはもう?」


ウメゾノ ミノル
「うん。いや、前回同様に行くかと思って一縷の望みを託してみたんだけど、御覧の有様だよ」


コウモト アヤセ
「……犯人が焼却炉を使ってでも処分したかった証拠があったってことは確かみたいね」


ノノハラ レイ
「だね。で、他に何かあるかい? 今朝も朝練はやったんだろ? その時はどうだったのさ」


ウメゾノ ミノル
「朝の……6時15分ごろには何もなかったってことは証言できるよ。軽く朝練してた時中には目ぼしいものなんて無くて、空っぽだった。
 まぁ、20分には部屋に戻ったからその後に誰かが作動させたってことになるんだろうけど」


コウモト アヤセ
「どうして今日に限ってそんな早い時間に?」


ウメゾノ ミノル
「……ちょっと調子が悪かったんだよ。で、二度寝して朝食って時にアナウンスが。
 でもしょうがないじゃないか、事件が起きてるだなんて思ってなかったんだから。
 それに、死体発見アナウンスが流れたときはあのパニックの中で悠長にここの様子を見に行くなんてできそうになかったし」


ノノハラ レイ
「まぁ、事件を事前に予想できるのは関係者か犯人ぐらいだろうしねぇ。しょうがないでしょ」



コトダマGET!
梅園穫の証言:6時15分から20分の間は焼却炉の中は空で、その後に何者かが焼却炉を起動させた。






ウメゾノ ミノル
「やっぱさ、本当の犯行現場はこっちなんじゃないかなぁ」


ノノハラ レイ
「というと?」


ウメゾノ ミノル
「購買やガチャで死体を運ぶのに手頃なカバンは手に入るからさ、大荷物を背負ってゴンドラに乗るところさえ見られなければ現場は別館ってことになるじゃない。
 それなら、死亡時刻に本館に居たってアリバイを作っておけばゴンドラリフトの稼働時間の関係上別館で起きた事件には関係がないってことになるし」


コウモト アヤセ
「そう言われてみれば確かに……。でもそれってかなりリスキーよね?」


ノノハラ レイ
「しれっと言ってるけど、その大荷物を背負ってゴンドラに乗り降りしてるとこ見られたら終わりだからね。
 そんな目立つ行為誰の目にも入れないなんてちょっと現実的じゃなくない?」


ウメゾノ ミノル
「いやいや、だからこそだって。現に焼却炉で犯人は証拠を燃やしてるんだぜ? この中には絶対その時使ったカバンかなにかが入ってたんだよ!」


コウモト アヤセ
「そこまで熱弁しなくったって……」


ノノハラ レイ
「いずれにせよ、殺害現場も学級裁判で明らかになるでしょ。梅園クンは引き続きここらを捜査する予定?」


ウメゾノ ミノル
「まあね。ギリギリまで粘って焼却炉の停止を待とうと思うんだ。金属片があったらほぼ間違いなくそこにカバンがあったことの証明になるだろうし」


ノノハラ レイ
「じゃ、ボク等は本館の方を調べに行くよ。いいよね、綾瀬?」


コウモト アヤセ
「ええ」


ウメゾノ ミノル
「仲のいいことで」



 本館へ向かった。





ノノハラ レイ
「さて、朝倉さんの部屋に行こうか。……正直、余り気乗りしないけど」

コウモト アヤセ
「どうして?」

ノノハラ レイ
「ほら、朝倉さんの正体をなまじ知ってる身としてはさ、部屋がどんなかはある程度予想がついちゃってね」

コウモト アヤセ
「あー……。それはほら、覚悟を決めるしかないんじゃない?」

ノノハラ レイ
「頼むから普通でありますように――、なんて淡い期待は無価値かなぁ」


 朝倉さんの部屋へ向かった。


ノノハラ レイ
「鬼が出るか蛇が出るか――っと」

コウモト アヤセ
「……よかった。普通みたい」


 ドアを開けるとそこには壁一面の写真――なんてことはなく、何の変哲もない普通の部屋を捜査している七宮さんがいただけだった。
 ちょっと拍子抜けしたなとかは、全然思っていない。


ナナミヤ イオリ
「二人そろって、どうかしたのですか?」

ノノハラ レイ
「いや、何もないなら何もないでいいんだ。それにこしたことはないから」

コウモト アヤセ
「そうそう。わたし達が勝手に変な想像してて、それがただの偏見だってわかっただけだから」

ナナミヤ イオリ
「……? それはさておき、先程は聞きそびれましたが、野々原さん。その格好はどうしたのですか?」

ノノハラ レイ
「浅い事情があるんだ、触れないで欲しいな」

ナナミヤ イオリ
「もしや今まで性別を偽って……?」

ノノハラ レイ
「普通に男だから。男湯に入ったときアラーム鳴らなかったでしょ」

ナナミヤ イオリ
「ならとうとうそちらのケが……?」

ノノハラ レイ
「邪推を重ねないでくれ。――で、ちゃんと調べてる? 何か見つかったの?」

ナナミヤ イオリ
「……特にこれと言って何も。死者への冒涜も憚られますし」

コウモト アヤセ
「そう言われると何も言い返せないわね」

ノノハラ レイ
「こちとら命懸けなんだから、多少の禁忌には目を瞑って欲しいものだけど……。
 ベッドの下とは、また古典的な隠し方だ事。中身は想像がつくから余り見たくないんだけどなぁ」

コウモト アヤセ
「アルバムよね、それ。……わぁ」

ナナミヤ イオリ
「何が……。……。……? ……!? ……」


 七宮さんが気絶した。まぁ、見るからに初心そうだし、しょうがないよね。
 増田クンの盗撮写真。あれやこれやもバッチリ写っちゃってるからね。仕方ないね。


コトダマGET!
アルバム;増田勇のあられもない姿も写されている盗撮写真が納められている。アサクラトモエの部屋のベッドの下で見つかった。




 失神した七宮さんをよそに朝倉さんの部屋を見回したけど、これ以上めぼしいものはなさそうかな。


ノノハラ レイ
「あとは……、ランドリールームぐらいか」

オモヒト コウ
「その必要はないな。もう調べ終わったところだ。目ぼしいものは何一つなかったよ」


 タイミングを見計らったかのように、公がやってきた。その隣には小鳥遊さんもいる。


ノノハラ レイ
「やぁ公。実験の結果はどうだった?」

オモヒト コウ
「お見通しってわけか。ま、それ以外は特にこれと言って収穫はなかったからな」

ノノハラ レイ
「へぇ。こっちは色々と収穫はあったよ。それで、結果は?」

オモヒト コウ
「ゴンドラリフトとスキー、どちらで降りるのがはやいか。その検証だ」

コウモト アヤセ
「前者は10分で固定だけど……、後者は主人君が試してみたのよね?」

オモヒト コウ
「その通りだ。夢見にはゴンドラリフトで降りてもらって、俺はスキーで降りた」

タカナシ ユメミ
「お兄ちゃんがあたしを迎えてくれたって結果で終わったの。ちょっとびっくりしちゃった」

オモヒト コウ
「スキーで降りたら大体7~8分ってところだな」

ノノハラ レイ
「それをやろうと思ったのは、やっぱりシュプールやらスキー用具入れやらを見たから?」

オモヒト コウ
「察しの通りだ。その質問をしてきたんだから分かってるとは思うが、蛇行してるのが俺のつけたものだよ」

ノノハラ レイ
「もう一方の直線は公が実験をやる前――つまり死体発見前につけられたものとみて間違いはないみたいだね」

オモヒト コウ
「だろうな。そしてそいつは極めて怪しい。途中何か所かかなり急な斜面があったんだが、そこでもシュプールはまっすぐだった。
 減速することは一切考慮せず、ただ最短最速を目指したコース取りって感じだ。あれなら5分もかからずに降りられるかもしれない」

ノノハラ レイ
「ゴンドラリフトで10分かかる距離を半分の時間で、か。にわかには信じられない話だ」

コウモト アヤセ
「スキーにはそんなに詳しくないけど、真っすぐ滑ることってそんなにおかしいことなの?」

オモヒト コウ
「傾斜が緩やかならシュプールが一直線になるのは解る。だが急斜面でシュプールが一直線って言うのは不自然だ。一切の減速を考慮してないってことだからな」

ノノハラ レイ
「だから普通は蛇行するんだよね。急斜面で減速しないとなると、下手したら転んだら大怪我じゃすまない大惨事間違いなしだ」

オモヒト コウ
「だがそれをやってのけた者がいるのは間違いない。そいつはよっぽど身体能力に自信がありかつ――」

ノノハラ レイ
「恐怖をまるで知らない、あるいは相当な精神力の持ち主ってことになる」

オモヒト コウ
「それが出来る人間は限られてくるが――どう思う、澪?」

ノノハラ レイ
「ボクも大方見当はついてるよ。けど違和感がある」

オモヒト コウ
「俺もだ」

タカナシ ユメミ
「……何二人で意気投合しようとしてるのよ」

ノノハラ レイ/オモヒト コウ
「「あまりに露骨すぎる」」




コウモト アヤセ
「……息ピッタリね」

オモヒト コウ
「――今ので疑惑が確信に変わったよ」

ノノハラ レイ
「ボクだけだと思ってたんだけど、公もとなるといよいよもって間違いないね」

オモヒト コウ
「どうする? このままじゃ思うつぼだぞ」

ノノハラ レイ
「どうするもなにも、学級裁判如何でしょ。ボクの所見では議論次第って感じ」

オモヒト コウ
「現場は本館か別館か。それが肝だな」

コウモト アヤセ
「……何此の疎外感」

タカナシ ユメミ
「奇遇ね。あたしもお兄ちゃんが何考えてるのか全然わからないから話についていけないの」

オモヒト コウ
「俺が思うに、死因は頸椎骨折だろう。前の事件でお前がオルトロスにやったように、な。モノクマファイルにも全身の骨が粉砕骨折しているとあるから、首の骨だって折れてもおかしくない。
 刺し傷はフェイクだ。服に血が滲んでないことから死後8時間以上経過してから、何らかの痕跡を隠す目的でやったんだ。
 しかも犯人は相当な怪力の持ち主だ。それくらいは朝飯前なんじゃないか?」

ノノハラ レイ
「いくら被害者が小柄とはいえ、そう簡単にできるものかな?」

オモヒト コウ
「俺の考えが正しければ、楽に力技で捻じ伏せられたはずだ。体格差も十分だろ?」

ノノハラ レイ
「確かにその通りだけど。それじゃ公はどっちが現場だと思ってるの?」

オモヒト コウ
「一度本館で殺してから、隙を見て別館へ死体を運び込めば、リフトの稼働時間も加味してアリバイを作ることができる。
 朝倉は小柄だから、映画観賞会で使ったような大きいクーラーボックスの中に詰め込めば自然に運べるだろう。
 誰にも見られずにゴンドラリフトに乗り込んで別館で死体を発見させれば、現場は別館だと思わせることができる。
 死亡時刻がゴンドラリフトの稼働時間外だとわかれば、当時本館にいたと証明されればアリバイ成立だ」

ノノハラ レイ
「ゴンドラリフトでも片道10分かかる距離を、あの猛吹雪の中、しかも死体を抱えて登るとなると最早自殺行為ですらないからねぇ。
 じゃぁ死体をあそこまで損壊させたのは、それをごまかすためだって言いたいわけ?」

オモヒト コウ
「死体をクーラーボックスに詰めるために蹲るような姿勢を取らせていたのだとしたら、死後硬直で不自然な姿勢のままになるからな。それをごまかすために全身の骨を砕いたと考えれば辻褄は合う。
 全身を滅多刺しにしたのは死斑を隠すためのカモフラージュと考えるのが妥当だろう」

タカナシ ユメミ
「じゃあ犯人は23時に本館に居た人間ってことになるのね! 流石お兄ちゃん!
 その辺のアリバイはあたしが裁判の場で証言してあげるからね♪」

ノノハラ レイ
「小鳥遊さんは解るんだ? 23時以降誰がどこにいたのかを」

タカナシ ユメミ
「……女装してる奴なんかに教えることなんて一つもないもん」

オモヒト コウ
「おい、夢見」

ノノハラ レイ
「ま、裁判での証言とやらに期待することにするよ」


コトダマGET!
主人公の証言:死体発見前につけられたシュプールは最短最速を目指したようなコーナリングで、5分足らずで別館から本館へ移動できそうだ。




―キーン、コーン、カーン、コーン



モノクマ
「そろそろいいかな? もう限界だから、もういいよね?
 ってなわけで、捜査時間しゅーりょー!オマエラは至急、別館一階のエレベーターホールにしゅーごー!
 うぷぷ。ワックワクドッキドキの、ハートフルでスペクタクルな学級裁判の始まりだよ!」



 これで捜査は終了、か。まぁ、大方の証拠品はそろったわけだし。
 後は犯人の立ち回り次第、ってところかな。



オモヒト コウ
「おい、伊織。起きろ、裁判が始まるぞ」


ナナミヤ イオリ
「うーん、うー……ん、っは! 何か破廉恥なものを見た記憶が!」


ノノハラ レイ
「片隅に追いやって消してしまえばいいんだ。思い出そうとすればまた気絶するだろうから」


ナナミヤ イオリ
「……そうですね、そうします。……その、起こしてくれたのは嬉しいからそろそろ離れて欲しいのだけど」


オモヒト コウ
「おっと、悪い」


タカナシ ユメミ
「羨ましい……っ!」


オモヒト コウ
「何か言ったか?」


タカナシ ユメミ
「ううん、何も言ってないよ、お兄ちゃん♪」


ノノハラ レイ
「この手のひらの返しっぷりよ」


タカナシ ユメミ
「何か言った?」


ノノハラ レイ
「別に? 珍しいことじゃないことを言っただけだよ。さ、時間がかかるんだから、さっさとゴンドラリフトに乗ろうぜ」



 再びゴンドラリフトに乗って、別館へ向かった。





 別館のエレベーターホールに全員が集合している。
 犯人はこの中にいる。その緊張感からか、空気がひりついているのが分かった。



モノクマ
「うぷぷ。役者もそろったところで、学級裁判場へ13名様ごあんなーい!」



 モノクマが楽し気に腕を振り上げると、エレベーターのドアがあき、さらに一基のエレベーターがせりあがって、その下のエレベーターがその姿を現した。



ノノハラ レイ
「こんな仕掛けがあったなんてね。本館のあれは何だったんだ」


モノクマ
「あれ? ただのパフォーマンスだよ! 前回は派手目にいったから今回は抑えてみたんだ!
 さあ、時間は有限だ! 待っちゃくれないぞ! 早く乗った乗った!」



 モノクマに促されるまま、全員がエレベーターに乗っていく。
 ――流石に13人も乗るとなるとかなり窮屈だ。
 そしてエレベーターは下降を始める。深い深い、あの忌まわしい学級裁判場へボク等を誘う為に。





ノノハラ レイ
「……ねぇ、綾瀬。真実と嘘、どっちが正しいと思う?」


コウモト アヤセ
「それは、当然真実でしょ?嘘をつくのはいけないことなんだから」


ノノハラ レイ
「じゃぁさ、皆が傷つく残酷な真実と、誰も傷つかない優しい嘘、なら?」


コウモト アヤセ
「わたしはそれでも真実のほうがいいと思う。嘘はいつかばれる時が来るし、現実から目を背けたりしたら駄目だと思うから」


ノノハラ レイ
「そう、だよね。うん。ありがと。これで僕のやるべきことは決まったよ」


コウモト アヤセ
「どういたしまして……?」



 答えはもう出てる。それが正しいであろうことも予想がつく。
 頭では理解していても、心の底ではその答えを否定したいと思っているのは、認めたくないから。認めてしまえば、そこには希望なんてカケラもありはしないから。
 明らかになるのは、考えうるどんな可能性よりも無慈悲で理不尽で不条理で冷徹で冷酷で残酷で非情で無情な現実なのだから。



 さぁ、始めようか。苦し紛れの言訳。不条理な言いがかり。理不尽な裏切り。
残酷な真実。無慈悲な判決。
 冷酷無情な、学級裁判。





――ということで捜査パート終了となりました。いよいよ学級裁判の始まりです。


――今回も今までで出ている情報でクロを特定することが可能となっております。


――答えが分かった方はクロの名前と証拠品となるコトダマをワタクシのTwitterのDMに送ってくださいませ。


――正解者の皆様にはささやかながらプレゼントをお送りいたしたいと思います。


――締め切りは来月中旬、学級裁判開始までとさせていただきますので、皆様のご応募、お待ちしております。


――それでは、よろしくお願いいたします。


――おやすみなさい。





  何故朝倉巴の遺体は死後も痛めつけられなければならなかったのか?
  混迷の裁判の中、明らかになる被害者の死亡時の全員のアリバイ。
  この不可能犯罪を可能にした犯人は誰なのか?
  朝倉巴を死に追いやったクロを突き止める学級裁判の行く末とは……?





   学 級 裁 判

    開 廷 !





 エレベーターが止まり、扉が開く。その先の光景は見慣れた忌々しい裁判所。
 咲夜さんを殺した誰かさんの遺影は四枚の桜の花弁で象られたバツ印で顔を潰されている。
 朝倉さんの遺影は何の皮肉か、例の剣をバツ印に見立て、刀身の長さも相まって首に刃を突き付けられているような形になっていた。
 そしてそれぞれが自分の席に就く。ボクの真正面に公がいて、後ろにはモノクマ。正直気が滅入る配置だけど、泣き言は置いておくとしよう。



モノクマ
「まずは、学級裁判の簡単な説明をしましょう。学級裁判では誰がクロかを議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます。
 正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきされますが……。
 もし間違った人物をクロとした場合は、クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが晴れてこのホテルから脱出する権利が与えられます!」



 聞き飽きたテンプレなモノクマのセリフを皮切りに、忌々しい学級裁判が再び幕を開ける。






ノノハラ レイ
「あ、ちょっといい? 議論始める前にさ、裁判長に聞いておきたいことがあるんだよね」



 まずはボクが口火を切る。皆してこっち睨んでくるけど、今回ばかりは許してほしいな。



モノクマ
「にゃぽ?」



 モノクマもキョトンとしないでよ。進行が滞るじゃない。
 まぁ、いい。さっさと話してしまおう。余計なことを考えるのは時間の無駄だ。






ノノハラ レイ
「自殺だった場合は被害者に投票すればいいのはなんとなく想像がつくけどさ、病死や事故死だった場合はどうするの?
 自己責任ってことでその人自身がクロ? それとも原因を作った人間がクロにされるの?」


モノクマ
「……イヤなところ聞いてくるなぁキミも」


オモヒト コウ
「その質問に何の意味がある?」


ノノハラ レイ
「後で揉めたくないから言質取りたいだけだよ。で、どうなのさモノクマ」


モノクマ
「ではお答えしましょう。結論から言うと、クロの定義は『コロシアイ修学旅行の参加者の中で、被害者を直接死に至らしめた者』としています。
 なので例えばオマエラの中に末期がん患者がいて、コロシアイ修学旅行期間中に死んでしまった場合は、クロがいないことになるので学級裁判自体起きません。
 傘を貸した相手が不運にも階段から転がり落ちて、そのはずみで傘が喉に刺さって死んでしまった場合、傘を貸さなければ相手は死ななかったかもしれませんが、直接転ばせたわけではないので、これもクロにはなりません。
 ですが、転んだ原因が階段に落ちていたバナナの皮を踏んだことだった場合、バナナの皮をその場所に置いた者は、殺意があろうとなかろうと、問答無用でクロにいたしますのでくれぐれもご注意ください!」


ノノハラ レイ
「――ふぅん。つまり学級裁判では過失致死も未必の故意も殺人と同義で、判決は無罪放免か情状酌量の余地なく死刑のどちらかっていう認識でいいんだね?」


モノクマ
「はい、その通りでございます」




ノノハラ レイ
「じゃぁ物は次いでなんだけどさ、死体発見アナウンスは三人が死体を発見した時にされるんだよね? その三人にクロは含まれるの?」


マスタ イサム
「いい加減にしろよ。そんな質問に何の意味があるっていうんだ?」


ノノハラ レイ
「いやだなぁ、ルールはちゃんと詰めておかないと。ゲームマスターとプレイヤーのルールの認識の齟齬なんて一番やっちゃいけないやつなんだからさ。
 特にこういう命がかかってる場面だと、それこそ致命傷になりかねないでしょ?」


マスタ イサム
「……そうかよ」


ノノハラ レイ
「で、どうなのモノクマ? 含むの? 含まないの?」


モノクマ
「随分と意地の悪い質問をしてくる生徒だこと……。ま、お答えしましょう。結論から言えば含みません。
 ただし、状況に応じてアナウンスのタイミングをずらす等フレキシブルに対応させていただく場合がございます、とだけ言っておくよ。ボクから答えられるのはここまでだからね!」





ノノハラ レイ
「そ、わかったよ。説明ご苦労様。じゃ質問終わり。始めようか。まず朝倉さんの――」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと待ちなさいよ。なに勝手に話進めてるわけ?」


ノノハラ レイ
「何か言いたいことでもあるのかい?」


サクラノミヤ アリス
「現状最も疑わしいアンタが議長面すんなって言ってるのよ」


ノノハラ レイ
「疑うには根拠に足りないと思うけど……、まぁいいや。ユーミアさん、取り敢えず検死の結果から聞かせてくれる?」


サクラノミヤ アリス
「ちょっと!」


ユーミア
「落ち着いてください、議論が進みませんから。……結論から申し上げますと、死亡時刻は昨夜の23時から25時の間と考えられます。
 根拠としては、顎に見られた死後硬直がつま先まで達していなかったこと、体内の血液が完全に凝固していることから、8時間以上12時間未満となります。
 また、全身の刺し傷と骨折は死後につけられたもので間違いないでしょう。それらしい腫れも見つからなかったので」


オモヒト コウ
「死因は解らずじまいってことか?」


ユーミア
「残念ながら……。損壊が激しく特定には至りませんでした。解剖ができれば話は別だったのですが……。
 生憎そこまで法医学の知識を持ち合わせてはいなかったのもので……」


マスタ イサム
「そう、気に病むな。お前は充分に役に立ってるよ」


ユーミア
「マスター……!」




ウメゾノ ミノル
「茶番はその辺にしておいて、だ。要するに被害者はゴンドラリフトが動いていない時間帯に殺されたってことじゃないか。
 なら、現場は本館だ。殺した後、今朝別館へ死体を運んで一連の工作を行ったんだよ」


サクラノミヤ アリス
「本気で言ってるの? ただでさえ死体をあれだけ甚振るなんてリスクの高いことするのに、それに重ねて死体を運んだって?」


ウメゾノ ミノル
「実際そうとしか考えられないじゃないか。ゴンドラリフトの稼働時間を考えれば23時には被害者は本館に居た筈だもの。別館に寝泊まりする場所なんて無いんだから」


サクラノミヤ アリス
「馬鹿ね。朝に死体を運んでるところを見られたらそれでおしまいじゃない」


オモヒト コウ
「……死亡推定時刻にも個人差はあるだろう。もっと前に本館で殺して、22時50分にゴンドラで死体を別館の入り口近くまで運び、スキーで滑り降って何食わぬ顔で本館に戻ったとも考えられる。
 翌朝急いで死体を磔にすれば、あたかも別館で事件があったかのように見せかけることができ、23時以降に本館に居た人間にアリバイができるって寸法だ。
 あそこまで死体を痛めつけたのは、その痕跡を隠すため。死斑や死後硬直による不自然な姿勢を誤魔化すための偽装工作だったんだ」


サクラノミヤ エリス
「でも、そこまでやっておきながら、結局は犯行現場を誰かに見つかってしまったらおしまいですよね? アリバイ工作も何も無いんじゃないですか?」


マスタ イサム
「絶対に見つからない自信があったんじゃないか? 22時50分となれば消灯時間だ。わざわざ寒い外に出ようとする奴はいないだろう。
 同じく、朝一で別館に行けば誰かに見られる可能性は限りなく低い。賭けに出るとしても悪くはないと思うぞ」





ナナミヤ イオリ
「正直、どこで殺したかなんてどうでもいいと思うのですが。そんな時間帯ならクロであろうとなかろうと“自分の部屋に居た”と主張するだけでは?」


タカナシ ユメミ
「いや、大事でしょ。ここでわざわざアリバイを主張するような証拠を残した人間がいるかいないかで大きく変わるんだから」


ナナ
「きっとお風呂で殺したのよ。キレイにするのが簡単だから」


ノノ
「返り血が飛び散っても洗い流せちゃうもんね」


ノノハラ ナギサ
「……物騒な言葉が聞こえたような気がするけど、気のせいだよね。でも、やっぱり事件は別館で起きたんだと思う」


ノノハラ レイ
「困ったね。初っ端から意見が真っ二つだ」


コウモト アヤセ
「澪、そのセリフは――」





モノクマ
「かっとビングだ!」





モノクマ
「いきなり“コイツ”の出番とはね。よもやよもやだ!」


コウモト アヤセ
「だから言ったのに」


ノノハラ レイ
「ま、いいじゃないの、初手がこれっていうのも。こっちとしても流れを掴んでおいた方がいいし」


モノクマ
「少年少女諸君! 思うが儘に意見をぶつけ合うがいい!」




       意  見  対  立  






             犯行現場は何処か?


             本館だ!/別館だ!


            ―議論スクラム開始―



ウメゾノ ミノル
「常識的に考えなって。事件当時朝倉さんが別館にいる【理由】がないじゃないか」


    /ノノハラ レイ
    /「それって逆に言えば、【理由】があれば朝倉さんが別館に居てもおかしくないってことでしょ?」


オモヒト コウ
「本館に居たと考えるのが普通だろ。【痕跡】でもあれば話は別だがな」


    /ノノハラ ナギサ
    /「それらしい【痕跡】なら、お兄ちゃんが見つけてくれたもん」


タカナシ ユメミ
「事件が本館で起きてないと【アリバイ】が成立しなくなるじゃない!」


    /ナナミヤ イオリ
    /「そもそもその時間帯に【アリバイ】があったほうが逆に不自然な気がしますが?」


マスタ イサム
「仮に現場が別館だったとしたら、【犯人】も現場に居たってことになるよな?」


    /ナナ・ノノ
    /「「その時間に絶対【犯人】がいなきゃいけないって理由はないよ?」」


ユーミア
「ゴンドラリフトの稼働時間がある以上、【移動手段】は限られているのでは?」


    /コウモト アヤセ
    /「リフト以外の【移動手段】があるなら、十分に可能でしょ?」


ウメゾノ ミノル
「犯人は【焼却炉】を使っているんだ。別館で殺したのなら何を燃やした?」


    /サクラノミヤ エリス
    /「別の証拠品を【焼却炉】で燃やしたかも知れないじゃないですか」


オモヒト コウ
「別館で殺されたって言う【決定的な証拠】がどこにあるっていうんだ?」


    /サクラノミヤ アリス
    /「【決定的な証拠】――とは違うけど、怪しい奴からの証言ならあるんじゃない?」





「これがボク等の答えだ!」
「これが私たちの答えだ!」
「これが私達の答えです!」
「これがナナの答えよ!」
「これがノノの答えだよ!」
「これがわたし達の答えよ!」
「これが私たちの答えです!」
「これがあたし達の答えよ!」




ノノハラ レイ
「いい加減目覚めなよ。物証もそれなりにそろっている以上、現場は別館で間違いないんだって」


ウメゾノ ミノル
「そうは言ってもだね、って言うか、それを言っちゃあ君が――」


サクラノミヤ アリス
「さっさと白状しちゃいなさいよ、野々原澪。聞けば、どう言う訳かゴンドラリフトが動く前から別館に居たらしいじゃない」


コウモト アヤセ
「……それはそう、だけど」


ユーミア
「ユーミア達は稼働開始時間である6時丁度にゴンドラリフトに乗りました。それよりも前に別館に居るには夜中に徒歩で登るか――」


サクラノミヤ アリス
「最初から別館に居た。被害者もね。どう? 何か反論があるなら言ってみたら?





ノノハラ レイ
「ないよ。その通りだ。ボクは昨晩から今朝にかけてずっと別館に居たからね」


オモヒト コウ
「おい!」


サクラノミヤ アリス
「あっそ。じゃ、あんたがクロってことでいいのね?」


ノノハラ レイ
「そんなわけないじゃん。第一、ボクは男なんだから女湯には入れないんだよ?
 死体が発見された非常事態ってことで入れただけであって」


サクラノミヤ アリス
「じゃあどうして一晩中別館に居たわけ?」


ノノハラ レイ
「……態々話すほどの事でもないと思うから言わないし、言えないんだ。こればかりは。ボクの口からは、ね」


コウモト アヤセ
「ちょっと、澪?!」


ノノハラ レイ
「それにさ、ほら。ボクが今更何を言おうが、どうせ信じてくれないでしょ、キミ等。
 そういう無駄はさ、極力省かないと。ボクのキャパ的にもキツいから」


サクラノミヤ アリス
「黙秘ってワケ? それ、自分で自分の首絞めてるって解ってる?」


ノノハラ レイ
「好きなだけ言えばいい。ボクは、嘘は吐かないし約束も守る男だからね」




―――



 どうしてこんなときに黙秘権なんて使うのよ澪ったら……。
 ――待って。もし澪の言うことが本当なら。
 鍵は他の誰かが持っている。その誰かから口を割らせろって事ね。
 ちょっと疑問に思っていたことが、一つだけある。
 それは――



 河本綾瀬に対する反応

 ❘>野々原澪に対する反応

 朝倉巴に対する反応



 これよ!





コウモト アヤセ
「……ねぇ、澪以外の男子に聞きたいことがあるんだけど。何か隠してない?」


ウメゾノ ミノル
「何の話かな。脈絡って知らないの?」


コウモト アヤセ
「梅園君も主人君も、しきりに現場は本館だって言ってた。増田君も別館が殺人現場だって意見には反対してた」


ウメゾノ ミノル
「そりゃ確かにそうだけどさ、さっき言った通りあれは――」


コウモト アヤセ
「その推理を信じるにはあまりにも根拠が薄い。本当は別の理由があったんじゃない? 殺人現場が本館であって欲しい理由が」


オモヒト コウ
「――何だ。言ってみろ」


コウモト アヤセ
「結論から言うわね。澪を含めたあなた達四人は、昨日の夜からずっと別館に居た。具体的に言えば、麻雀をやっていた。違う?」


オモヒト コウ
「俺たち四人が揃いも揃って別館で夜通し麻雀、か。面白い考えだが、それこそ根拠が薄いぞ。
 確かに雀卓を使用した形跡はあるだろう。だがだからと言ってどうしてそれがそんな推理に行きつくんだ?
 時間ギリギリまでやって、ゴンドラリフトで帰った可能性だって十分あるだろう?」


コウモト アヤセ
「今日の澪への反応」


オモヒト コウ
「――!」


コウモト アヤセ
「女子のみんなは澪の格好について言及してきたのに、男子はみんな澪の格好について触れもしなかった。
 “何なんだそのふざけた格好は”って、普通は言うんじゃない? 言わなかったのは、事情を知っていたから。違う?」





マスタ イサム
「……そこまで言われたんなら仕方ない、か」


ウメゾノ ミノル
「おい、ちょっと!」


オモヒト コウ
「しこたま笑った後だったからな。そこまで気が回らなかったってのもある。徹夜明けだしな。
 ――それに、思いたくなかったんだ。俺達がのうのうと遊んでる傍らで、誰かが朝倉を殺しただなんて」


サクラノミヤ アリス
「……呆れた。まさか自分の命がかかってるのに、律義に約束守ろうとしたの?」


ノノハラ レイ
「今日一日中この格好でいる、その事情を口外しない。それが最後の一局で大負けしたボクの罰ゲームだからね。粛々と受けただけだよ。
 それに、友達を売るような真似したくなかったし」


オモヒト コウ
「だからってお前なぁ」


サクラノミヤ アリス
「でも同じね。容疑者が増えただけで。犯人はあんた達の中の誰かでしょ」


ウメゾノ ミノル
「忘れたのか? 大前提として、男は女湯に入れない。その状態でどうやって被害者の死体を女湯の壁に磔に出来るんだよ」


マスタ イサム
「それに、俺達には全員アリバイがある。昨日の23時頃から今日の6時少し前までずっと麻雀をやっていたのは事実なんだからな」


オモヒト コウ
「麻雀は基本的に四人でやるゲームだ。対戦時間も長い。小休憩もあったが、基本的に誰もゲームコーナーから出なかったな」


ウメゾノ ミノル
「で、6時丁度にゴンドラに乗って本館へ戻ったんだ。朝風呂に入りたいって言った野々原君を置いていってね」


ノノハラ レイ
「だから、ボク等四人には完璧なアリバイがある。
 ――これじゃ誰も朝倉さんを殺せない。困ったね?」




   学 級 裁 判


     中断





   学 級 裁 判


     再 開






ウメゾノ ミノル
「じゃぁやっぱさ、事件は本館で起きたんだって。それならこの状況に説明がつく。な?」


ノノハラ レイ
「残念ながら、それはないね。事件は別館で起きた。何故なら、被害者朝倉巴自身が、事件当夜明らかに別館に居たんだからね」


オモヒト コウ
「痕跡があるとか言ってたな、そう言えば。なんなんだよ、それは」



 巴ちゃんが別館に居た明確な痕跡……、それはこの証拠品で間違いない。



|脱衣所のゴミ箱>



コウモト アヤセ
「これよ!」




コウモト アヤセ
「女湯の脱衣所に、巴ちゃんのカバンが捨てられてたの。ゴミ箱の中にね。
 本館で巴ちゃんを殺したとなると、カバンも一緒に運んだことになるでしょ? なんで、って話にならない?」


オモヒト コウ
「一理ある、が、こうは考えられないか? カバンは最初から別館に置きっぱなしにしてあった」


マスタ イサム
「……いや、それはないな。あいつは、あのカバンを肌身離さず持ち歩いていた。別館に置きっぱなしにしておくなんて考えられない」


ノノハラ レイ
「まぁ、中身を見ればそれも妥当と言わざるを得ないよね」


マスタ イサム
「中身?」


ノノハラ レイ
「ちょっとショッキングな内容だからね、ワンクッション入れておこうかな。
 増田クンさ、最近爪切った?」


マスタ イサム
「爪? 切ったには切ったが……、二日前の話だぞ」


ノノハラ レイ
「誰かに切ってもらったりしてない? 朝倉さんに」


マスタ イサム
「……何でお前がそのことを知ってるんだよ」


ノノハラ レイ
「うん、じゃ確定だわ。朝倉さんがその爪どう処分したか、知らないでしょ」


マスタ イサム
「何が言いたい」


ノノハラ レイ
「朝倉さんのカバンの中には色々なものがあってね」


コウモト アヤセ
「……その中の一つに、こんなものがあったの」



|小瓶>






オモヒト コウ
「小瓶? 中に何が――、爪、か?」


ノノハラ レイ
「大当たり。大きさや厚さ的に増田クンのかと思ってたんだけど、ドンピシャだったね」


ナナミヤ イオリ
「他人の爪を? 持ち歩いていた? ごめんなさいちょっと言っている意味がよく解らないというか頭が理解することを拒んでいるというか――」


ナナ
「ばっちいわね」


ノノ
「えんがちょー」


マスタ イサム
「俺の、爪を、巴が? 何をしているんだ? あいつは一体何を――?」


ノノハラ レイ
「これくらいは序の口だよ。増田クン、映画鑑賞会で飲んだプァンタのフレーバー当ててみせようか? すももでしょ」


マスタ イサム
「何でそれを――」


ノノハラ レイ
「朝倉さんのカバンの中にあったんだよ、空のボトルが。ついでに増田クンのサイン付きの紙コップも。映画鑑賞会の時のあれね」


マスタ イサム
「……確かに、俺の字、だ、な……」


オモヒト コウ
「おいおい、何がどうなってるんだ? どうして朝倉が増田の持ち物を持ってるんだ?」


ノノハラ レイ
「止めだ。コレ」



|盗聴器>






マスタ イサム
「何なんだよ、その機械」


ノノハラ レイ
「盗聴器の受信装置。イヤホンから聞こえてくるのは増田クン周辺の音。簡潔に言えば増田クンは朝倉さんに盗聴されていた。
 さて、ついでだ。これを」



|アルバム>



サクラノミヤ エリス
「見たところ普通のアルバムでは……?!」


サクラノミヤ アリス
「なっ、ちょ、ちょっと、これ、何?! 何なの?!」


ナナミヤ イオリ
「……、……」


オモヒト コウ
「伊織? ……立ったまま気絶してやがる」


ノノハラ レイ
「ご覧の通り、増田クンは知らず知らずの間に朝倉さんのストーカーの被害を受けてたわけだ。この盗撮写真を収めたアルバムがその証左なんだけど」


マスタ イサム
「何……だって……?」


コウモト アヤセ
「ごめん、こればっかりは受け入れて欲しいの。信じられられないかもしれないけど、ここまで証拠が出そろってしまっている以上、否定はできないでしょ?」


ユーミア
「……やはりあの悍ましい有機体はもっと前に始末しておくべきでしたか」


マスタ イサム
「……そういうことをいってやるな、……と、言っていい、のか……?」


オモヒト コウ
「とりあえず、だ。被害者をそう論うことに何の意味がある? 朝倉が……、まぁ変態趣味だってことは解った。だがそれが何だって言うんだ?
 この先の議論に進展をもたらすとは到底思えないんだが」


ノノハラ レイ
「被害者の性格、趣味趣向を鑑みたうえで、事件当夜被害者はどこで何をしていたのか。すべての問題はそこに集約するんだよ。
 朝倉さんは別館に連れてこられたのか、それとも自発的に別館へ行ったのか。それが分水嶺なんだ」





ウメゾノ ミノル
「……君の推理では後者の方を考えてるんだろ?
 確かに動機ビデオとかで呼び出しようは幾らでもあるけど、この場合だと自分から別館に行ったって考えた方が自然だ。
 それなら、事件が別館で起きたって不思議じゃない、か」


ノノハラ レイ
「察しがいいね。ボクが思うに、朝倉さんは自分から別館に向かったんだと思うよ。れっきとした目的を持ってね。
 それがいつなのかは、ひとまず置いておこう。一応、ゴンドラリフトに乗ってきたと考えて23時よりも前だってことは確かなわけだけど」


サクラノミヤ アリス
「目的ってなんなのよ。そのバッグの中身を見る限りだと、もう目ぼしいものは別館に残ってないんじゃない?」


ノノハラ レイ
「ところが、あったんだよ。垂涎のお宝がね。それを知ったのは恐らく、盗聴器で増田クンの零した言葉を聞いた時だと思うけど」


マスタ イサム
「……聞かないわけにはいかないだろうが、ここまで聞きたくないと思うのも初めてだな。
 だが、聞くしかないなら、そうするしかない、か。そのお宝とやらは、何だ?」


ノノハラ レイ
「男子更衣室にキミが忘れておいていった体操服だよ」


マスタ イサム
「……そう言えば確かに、何度か零したな。昨日も、今日持ち帰ればいいかとばかり思っていたが」


ノノハラ レイ
「ストーカー気質のあった朝倉さんにとって文字通り垂涎のお宝な増田クンの体操服が無防備に放置されて朝倉さんの行動は――。
 餅は餅屋だ。同好の士に聞いてみようじゃないか。ねぇ? 小鳥遊さん?」


タカナシ ユメミ
「はぁっ?! 何でそこであたしの名前が出てくるのよ! おかしいでしょ?!」


ノノハラ レイ
「キミと朝倉さん、基質が似てるよね。この証拠品がそれを物語ってる」


コウモト アヤセ
「それって……、これのこと?」



|消えた紙コップ>





ノノハラ レイ
「その通り。シアタールームにゴミとして残っていた紙コップの中に、無くなっていたものが二つあったんだよね。
 まぁどっちも紙コップなんだけどさ。一つはさっき言った通り増田クンのだ。
 で、もう一つは公のなんだけど、公。キミ、それ自分で持って帰って自分で捨てた?」


オモヒト コウ
「いや、普通にゴミ箱に入れてそのままだったが……、なあ、おい、まさかとは思うがな」


ノノハラ レイ
「単刀直入に言おうか、小鳥遊さん。キミ、公の使用済み紙コップ、持ち帰ったでしょ」


タカナシ ユメミ
「はあぁ?! なんの根拠があってそんな言いがかりつけるわけ!?」


ノノハラ レイ
「キミが公に向ける視線が、朝倉さんが増田クンに向ける視線と同じ感じだから、じゃ納得してくれないかな。
 それともキミが公の行動を逐一把握している理由もキミが盗聴をしているから、じゃ駄目かい?」


タカナシ ユメミ
「ダメに決まってんでしょ?! 何考えてんのよ! そこまで言うんだったら証拠を出しなさいよ証拠を!」


ノノハラ レイ
「キミ、公に送られた動機ビデオの中身知ってるでしょ。
 本人の口からちゃんと聞いたボクと、送られた当の本人である公以外は知らないはずの秘密を。
 二人っきりで話せる場所で話した、あの場所での会話を」


タカナシ ユメミ
「ふっ、そんなハッタリであたしを騙せると思ってるの?
 残念でした。ゴンドラリフトの中は電磁遮蔽で電波が届かないの。聞けるわけない、じゃ……、あ……」


オモヒト コウ
「夢見、お前……」


ノノハラ レイ
「ダメだよ小鳥遊さん。そこは嘘でもしらばっくれないと。なんで電磁遮蔽のことをキミが知ってるんだ?
 しかも、話した場所がゴンドラリフトの中だってことも、ねぇ?」





タカナシ ユメミ
「あ、ああ……、うぅ……」


ナナ
「お姉ちゃん、てっきり探偵ごっこでもしてると思ってたのに」


ノノ
「ストーカーさんだったんだねー」


オモヒト コウ
「……夢見、どうなんだ? 本当のことを言ってくれると助かるんだが。あと俺の紙コップ何処にやったのかも」


ノノハラ レイ
「大丈夫だって。多少キミが、その、特殊性癖の持ち主だとしても、さ。公なら受け入れてくれるはずだって。タブン」


タカナシ ユメミ
「……あー! もう! 認めればいいんでしょ認めれば! そうよ! あたしの部屋はあたしの大好きなお兄ちゃんの写真でいっぱいだし!
 お兄ちゃんの使ったものなら他人にとってはゴミでもあたしにとっては宝物!
 居場所も会話もわかるようにGPSとか盗聴器とか! 色々使ってるわよ! ピッキングだってお手の物なんだからね!
 でも夜這いや朝駆けなんて邪道だからよっぽどのことがない限りお兄ちゃんの部屋に入ったりなんかしないわよ! そこまで拗らせてなんかないんだから!」


ノノハラ レイ
「……いや、誰もそこまで言えとは言ってないけど」


オモヒト コウ
「取り敢えず、この裁判終わったら色々お話ししよう、な?」


タカナシ ユメミ
「O・HA・NA・SHI?! お兄ちゃんと?! 二人っきりで!? やっとお兄ちゃんから手を出してくれるようになったのねやったー!」


ナナミヤ イオリ
「……はっ! いや、その、不健全よ!」


オモヒト コウ
「……何をどう解釈したらそう喜べるんだよ。無敵か?」


ノノハラ レイ
「キミの趣味趣向はさておき――、いや、置かないのかな? 話を戻そう。
 仮に、だ。仮に公の脱ぎたての体操服がキミの手の届く場所に放置されていたとする。キミは、どうする?」


タカナシ ユメミ
「そんなの決まってるじゃない! お兄ちゃんの臭いが消えないようラッピングしてから持ち帰って部屋で存分に楽しむのよ!」





ノノハラ レイ
「うわぁ……」


サクラノミヤ エリス
「あの、えっと……、楽しむっていったい何を――」


サクラノミヤ アリス
「そこまでにしておきなさい慧梨主。それ以上聞き出してもロクなことにならないから。
 あんたもね、自分から聞き出しておいてそんなドン引きしないの。まぁ、解らなくもないけど」


ウメゾノ ミノル
「あー、えー、そうそう。野々原君の考えだと、朝倉さんも増田君の体操服目当てで別館へ行ったってことでいいんだね?」


ノノハラ レイ
「うん……、そうだよ……」


コウモト アヤセ
「ちょっと、いくら何でも、その、その反応はあんまりにもあんまりでしょ。いくら夢見ちゃんのアレが、アレだからって」


ノノハラ ナギサ
「綾瀬さん、それフォローになってないよ?」


ユーミア
「しかし、それはおかしくありませんか?」


マスタ イサム
「どういうことだ?」


ユーミア
「マスターのいうことが確かなら、体操服は別館二階の男子更衣室に放置されていたのですよね?
 使用用途が使用用途なわけですから誰かに頼むこともできません。事実、そのカバンの中から体操服なんて繊維一本見つかりませんよね?
 朝倉巴が男子更衣室に侵入し、マスターの体操服を奪取することなど不可能なのでは?」


オモヒト コウ
「男湯と女湯でも異性が入ろうとすれば警告と共にマシンガンが構えられるからな。更衣室もそうなのか? その辺どうなんだよ、モノクマ」


モノクマ
「不純な異性友好なんて一教育機関として認められるわけないじゃん!
 女子が男子更衣室に入ろうとしたら、その逆の場合でも、温泉と同じ対応を取るよ!」


マスタ イサム
「そうか、なら朝倉には俺の体操服を手に入れる手段もなかったし、実際手に入れられなかったんだよな。そうだよな」


ノノハラ レイ
「――それはどうかな」





マスタ イサム
「何だって?」


ノノハラ レイ
「キミは入ってないから知らないんだろうけど、無くなってたんだよ。キミの体操服」


マスタ イサム
「は?」


コウモト アヤセ
「でもそれって勝手に回収されたって――あれ?」


ノノハラ レイ
「そう、ちょっとおかしな話になるんだよ。更衣室に残された体操服には謎が多い」


オモヒト コウ
「どういうことなんだよ。二人だけで通じ合ってないで説明をしてくれよ」


ノノハラ レイ
「それをこれから議論しよう。何がおかしいのか。そして、男子更衣室で何があったのかを、ね」





――議論開始――


|吐瀉物>
|消えた体操服>
|手付かずの体操服>
|梅園穫の証言>



コウモト アヤセ
「女子更衣室にはね、手付かずの体操服が二着あったの」


ノノハラ レイ
「そしてそれは捜査時間中も変わらなかった」


タカナシ ユメミ
「自分のものは自分で管理しろってスタンスだったんでしょ? それがどうだって言うのよ」


オモヒト コウ
「いや、おかしいぞ。男子更衣室にあったあの体操服は、結局【誰も使わないものだから回収された】んじゃないのか?」


ナナミヤ イオリ
「どうしてそう思ったの?」


オモヒト コウ
「球技大会の前に着替えた時にはあった体操服が、終わった後には無くなっていたら誰だってそう思うだろ」


ノノハラ レイ
「捜査時間中に男子更衣室で無くなった体操服はそれだけじゃない。
 増田クンが忘れておいていったはずの体操服も無くなっていたんだよ」


ウメゾノ ミノル
「その回収がモノクマによるものでないとするなら誰かが明らかに持ち去ったとしか考えられないわけだが――」


サクラノミヤ エリス
「どこに行ってしまったんでしょうか? 【誰かが処分した】んでしょうか?」


サクラノミヤ アリス
「それはないでしょ。仮に朝倉巴が持ち去ったとしたら、それを燃やすなんて矛盾してるし」



 使われなかった体操服の処理の仕方が男女で差がある?
 いえ、そうじゃない。この矛盾はわからないけど、確かに解ることが一つだけある……!






サクラノミヤ エリス
「どこに行ってしまったんでしょうか? 【誰かが処分した】んでしょうか?」


  |梅園穫の証言>


 それに賛成よ!


 -BREAK!!-





コウモト アヤセ
「焼却炉が今朝から稼働していた。そうよね、梅園君」


ウメゾノ ミノル
「それはそうだけど……、いやいや、確かに増田君の体操服が影も形もないって言うんなら焼却炉で処分したってのが妥当な判断なんだろうけどさ、それって思いっきり矛盾してないかい?」


コウモト アヤセ
「巴ちゃんが、せっかく手に入れた体操服を燃やすのか、ってことでしょ?」


ウメゾノ ミノル
「どんなトリックを使ったのかは皆目見当もつかないけど、そこには苦労があったんだろうぜ。
 そんな艱難辛苦の果てにようやくゲットしたお宝をなんでそう易々と手放せるんだよ」


ノノハラ レイ
「前提からして間違ってるよ。焼却炉が稼働できる時間帯にはもう朝倉さんは死亡してるんだから。
 おそらくは朝倉さんが持って行ったのを犯人が証拠隠滅の為に焼却炉へ投げ入れたんだ」


ウメゾノ ミノル
「あ、そうか。……で、結局それが何だって言うんだ?」


サクラノミヤ エリス
「朝倉さんがどうやって体操服を持ち出したのかはいまだ謎のままですからね……」


サクラノミヤ アリス
「それに犯人の行動もいまだ謎のままじゃない。あそこまで死体を痛めつける理由も何もわかってないし」


ユーミア
「死体損壊に関しては死後八時間以上経過してから――となれば、必然的に候補は絞られそうですが」


コウモト アヤセ
「それってやっぱり……」



|別館に居た澪>






ユーミア
「えぇ。その時間帯なら、一連の作業を誰にも見られることなく行うことができます。
 死体なら異性の浴室に持ち込んでも問題はないでしょう。
 それに、貴方なら混浴場経由で女湯に侵入できるのでは?」


ノノハラ レイ
「無理だね。それだと綾瀬の協力が必要になる。此の学級裁判で勝ち抜くのに共犯者のメリットがあるのか?」


ユーミア
「命を懸けてでも貴方を助けたいと河本さんが心底思っているのなら十分な理由になりますよね?」


ノノハラ レイ
「キミの検死が正しいなら、ボクのアリバイは立証されているはずなんだけど?」


ユーミア
「ならユーミアの検死が誤っていたのでしょう。あるいは、困難の分割、とでも言いましょうか。
 小休憩ごとに監視の目は緩むわけですから、一瞬の隙を見て朝倉巴を殺害。しかる後に損壊を施した。
 徹夜なら注意力が散漫になってもおかしくはありませんよね?」


ノノハラ レイ
「それを言われると厳しいねぇ。でも、それはキミの主の言葉を信じないってことにもなるんだぜ?」


マスタ イサム
「……ユーミア。澪の言うとおりだ。いくら徹夜してるとはいえ、二階へ行くにはエレベーターへ行かなきゃならない。
 そんなことをすれば否が応でも目立つ。音も鳴るしな。
 だから、俺達四人のアリバイは成立してしまっているんだよ」


ユーミア
「……。マスターがそう仰るのなら、ユーミアはこれ以上反論いたしません」


ノノハラ レイ
「――さて、ボクの身の潔白も証明されたわけだから、最後の重要参考人に話を聞こうか?
 ねぇ? ユーミアさん? ――別館についてから死体発見までに、キミは一体どこで何をしていたんだい?」




   学 級 裁 判


     中 断




   学 級 裁 判


     再 開





―――




ユーミア
「と、言いますと?」


ノノハラ レイ
「惚けるなよ。女湯に入れる、別館で綾瀬と別れてから死体発見までアリバイがない、頑なに検死結果を出し渋る。
 これだけ条件が揃ってて怪しまれないとでも思ってるの?」


ユーミア
「二階の掃除をしていただけです。怪しまれるようなことをした覚えはありませんね」


ノノハラ レイ
「具体的には何処を? いや、答えなくていいよ。当ててやろうか? 男子更衣室の前の廊下だろ?」


ユーミア
「無論そこも掃除しましたが、二時間もかかりません。
 それとも、あんなところの掃除でさえそこまで時間をかけないとまともに出来ないと、遠回しに馬鹿にしているのですか?」


ノノハラ レイ
「とんでもない。でも、他の場所をおざなりにしてまであそこを入念に掃除しなければならない理由はあったんだろ?」







ユーミア
「完全で瀟洒なメイドに死角などありません」






ユーミア
「先ほどから貴方の質問はどうにも要領を得ない様子。貴方の頭の中だけで完結されてもらっても困るのですが」


ノノハラ レイ
「あくまでも白を切るつもりかい? なら、証拠を列挙してあげようじゃないか」


ユーミア
「受けて立ちましょう」





 反論ショーダウン・追打


|///野々原渚の証言///>
|///多目的ホール///>
|///食べかす///>
|///掃除用具///>



ユーミア
「確かに、ユーミアが別館二階の掃除をしていたという【アリバイを証明する証拠品や証人】は存在しません。
 それは認めましょう。
 しかしだからと言って、それだけでユーミアが朝倉巴の【死体を損壊させた】理由になりますか?
 6時20分以降なら【他の女性でも朝倉巴の死体を磔にすることは出来た】筈です。
 何故ユーミアだけが疑われなければならないのですか?」


ノノハラ レイ
「正直に言ってさ、怪しすぎるんだよ。君の動向が。
 二階の男子更衣室前は入念に掃除をしたにもかかわらず、他の場所には全くと言っていいほど手を付けていないんだから」


ユーミア
「その発言の【根拠がない】以上話にならないのでは?」




|///食べかす///>


ユーミア
「その発言の【根拠が//ない】


―発展―


ノノハラ レイ
「シアタールームのゴミ箱にはゴミが残っていた。しかも床に食べかすまであった。
 つまり、一昨日の映画観賞会の後からこれまで一切掃除されてないって事じゃないか。
 だから少なくともキミは今朝シアタールームの掃除を行っていない。違う?」


ユーミア
「えぇ、そうですね。後回しにしようと思っていたので。それよりも昨日の球技大会の後片付けを優先したんです。
 【シアタールームよりも多目的ホールの方が広い】ので、掃除には時間がかかるのは当たり前でしょう?
 だから【多目的ホールの掃除を優先した】んですよ」






|///多目的ホール///>


【多目的ホールの//掃除を優先した】


―発展―


ノノハラ レイ
「そうかなぁ。確かに粗方奇麗にはなってたけどさ、舞台袖とかは埃が残ってて手付かずだったじゃないか」


ユーミア
「細かいところをこれからといった所で悲鳴が聞こえたんです。急いで駆け付けましたよ、何事かと思ったので。
 無論、きちんと片付けはしましたが」


ノノハラ レイ
「そんな悠長なことしてた割には随分と早かったね。男湯の脱衣所で悲鳴を聞いたボクよりも先んじて駆けつけるなんて。
 ボクが着替えてた分のタイムラグを考慮するにしても」


ユーミア
「それだけユーミアが完璧で瀟洒ということです。
 貴方が主張するような【男子更衣室の前の廊下】の掃除するなど、【時間をかけるまでもない】ことなのですよ」






|///野々原渚の証言///>
|///掃除用具///>


【男子更衣室の//前の廊下】の掃除するなど、【時間をかける//までもない】



ノノハラ レイ
「そんな言葉は螺子伏せる」



 ―BREAK―






ノノハラ レイ
「キミが使った掃除用具には色々あったねぇ。モップやバケツは濡れていたし、消臭剤も結構使ったんじゃない?」


ユーミア
「それがどうかしたのですか? 掃除をすればそうなるのは当たり前でしょうに」


ノノハラ レイ
「そうだね。たださ、どうして消臭剤なんて使ったのかな? 多目的ホールの掃除に使う必要なんてないじゃん」


ユーミア
「……消臭剤など使用していませんよ。言葉の綾と言う奴です。
 言葉尻を捕らえるような真似で吊し上げるのが貴方のやり口のようですが、そういつもうまくいくとは思わないことです」


ノノハラ レイ
「でも確かに消臭剤は使われていた。渚が証言してくれたんだよ。誰かが、男子更衣室の前の廊下で、饐えた臭いを消すために」


ユーミア
「それがどう繋がると?」


ノノハラ レイ
「球技大会まではそんな臭いはなかった。でも、事件当夜からその臭いの元が発生したんだ。
 そしてキミはどうにかして出来る範囲ではそれを絶った。けど、大本までは取り除くことは出来なかった」


ユーミア
「理解できませんね。何が言いたいのですか?」


ノノハラ レイ
「キミがどうしても始末したくて、絶対に出来なかった証拠品。キミが本当に掃除したかったのはこれだろ?」


 |///吐瀉物///>




ユーミア
「……なんですかそれは」


ノノハラ レイ
「男子更衣室の隅にぶちまけられていたんだよ。捜査時間の時にはすでに乾いてたから、吐いてかなり時間が経っている。
 さらに、消化具合から考えると食後3~5時間後ぐらいのものかな」


マスタ イサム
「おいおい、そんなものなかった筈だろ」


オモヒト コウ
「昼食なら15~17時、夕食なら22~24時だよな。
 そんな時間に俺達は男子更衣室になんて行ってないことぐらいわからないお前じゃないだろ」


ウメゾノ ミノル
「って言うか、そんな乾くまで放置せずすぐ掃除するって」


ノノハラ レイ
「その通り。ベーコンっぽいかけらが混じってたから、昨日の夕食のマルゲリータだ。
 そしてさっき証明した通り、ボク等四人にはその時間帯にアリバイがある。あからさまに不自然な証拠だ」


ユーミア
「要領を得ませんね。何が言いたいのですか? まさか、その吐瀉物がユーミアの物だとでも?」


ノノハラ レイ
「まさか。でも、キミはこれを絶対に処理しなければならなかったけど、それは叶わなかった。
 キミは女子で、男子更衣室に入ることは出来ないんだから」


マスタ イサム
「おいおい待てよ。じゃぁ、これは一体誰の物なんだ?」




ノノハラ レイ
「……一つ、疑問に思ったことがある。女子更衣室の体操服、2着余ったんだよね?」


コウモト アヤセ
「その通りよ。見た通り手付かずで……、待って、おかしいじゃない」


ノノハラ ナギサ
「え、何が?」


コウモト アヤセ
「球技大会の時点で女子は10人のはず。女子更衣室で余った体操服は2着。
 でも、最初来た時には11着あった! 余るのは1着じゃなきゃ変よ!」


ノノハラ ナギサ
「数えてたの?」


ユーミア
「勘違いということは?」


コウモト アヤセ
「違う、そもそもあの2着は死んだ咲夜ちゃんと柏木さんの物だと考えたら……、1着足りないじゃない!」


ノノハラ レイ
「そして男子更衣室で最初にあった体操服は5着。合計16着だ。これはこの合宿の参加者の人数と一致する」


タカナシ ユメミ
「女子の方で体操服が1着足りなくて、男子の方が1着余ったんでしょ、だったら考えられるのは……、誰かが性別を誤魔化してた?」


ノノハラ レイ
「その通りだよ。そしてそれが誰かは、もう明白だよね? そしてこの仮説が真実なら、様々な謎が一気に解決するんだ」


マスタ イサム
「おいおいおい、おいおいおいおいおいおい、まさか、まさかとは思うが、そいつは……」