梨子「……海の音を聴きたいの」 (14)

梨子「……あのね、私、ピアノやってるでしょ?」

梨子「小さい頃から、ずーっと続けてたんだけど。最近、いくらやっても上達しなくて、やる気も出なくて」

梨子「それで、環境を変えてみようって。海の音を聴ければ、何かが変わるのかなって……」

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ザザーン


梨子「……ふぅ」

梨子「ダメだ」

梨子「残念だけど……」

梨子「うーん」

梨子「どうすればいいの?」

梨子「……」

梨子「イメージ!!?」

梨子「イメージだ!!!!」

梨子「水中では、人間の耳には音は届きにくい。ただ、景色は砂浜とは大違い」

梨子「見えてるものからイメージすることはできるはず」

梨子「想像力を働かせてみるかな」

ヌギヌギ



梨子「っ……たああああああ!!!」






ザッパーン

ーーー
ーー

梨子「どこまでいっても真っ暗」

梨子「深みに入れば入るほど深淵に引き込まれる」

梨子「……」

梨子「そうか、上!」



梨子「!」

梨子「……!!」

梨子「聴こえた!」キラキラ




ヌルァ






梨子「……え?」

ーーー
ーー






チュンチュン

それから数ヶ月後の夏のテレビ「過疎村の少女の水難事故か?人魚姫の呪いか!!?」とのテロップで
この事件はオカルト特集として放送された。

その放送を見た時、四月の海に入ろうとする無謀な少女を何故か想い出した。
季節外れの海と戯れるのは自殺行為に等しいからだ。
だから「気の所為」と、そんな少女はいなかったんだと心の中でずっと繰り返していた。

ただ不思議な事に砂浜に私の大好きなμ’sの音ノ木坂の制服が残されていた。
あの制服を私が見間違える訳がない。

スクールアイドル部を作ろうと決心したからスクールアイドルの神様が羽を届けてくれた。
そう都合のよいように解釈していた。

今となってはその部活も廃部に。
身の丈に合わない夢は私を現実に引き戻す。

「じゃあシをちょうだい?」

もしも、もしもあの時。
留まりかけた足の楔を振り払って、あの少女を抱きとめていたらどうなっていたのだろうか?
そんな妄想が頭をよぎる。

だがしかし私は何も見ていないし、少女もいなかった。
それでいいのだ。

こうして私は今日も普通に奇跡を夢見ている。

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