子供の頃。
俺はじいさんに、いつも言って聞かされていた。
「女はね、とっても狂暴な生き物なんだ」
悲しいような苦しんでいるような、何とも言えない表情をしながらそう言う。
ボケた老人のように何度も。
子供ながらにも、俺はじいさんが女性関係で悩んでいるのだと気付いていた。
だから俺は、じいさんが呪うようにその言葉を紡ぎ出したら、黙って聞いてやることにしていた。
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身よりのない俺を引き取ってくれた養父だ。
役に立てるなら、これぐらいのことはしてやらないと。
そう思っていた。
ある夜、俺はどうにも寝つけなくて、縁側に腰掛けて月を見上げていた。
ロマンを感じる。
少し大人になった気分だった。
そんな風に優越感に浸っていたら、当然のようにじいさんが現われて、俺の横に座りこんだ。
はっきり言って邪魔だったが、まあ黙っていることにした。
さっきも言った通り俺って養子だし、立場的になかなか言えないこともある。
「―――」
月を見上げる俺とは対照的に、じいさんは俯いたまま黙っている。
心なしかつらそうだった。
しかしそれも一瞬。
顔を上げて、ゆっくりと俺に語りかけた。
また女の恐ろしさをつらつらと語るのだろう、そう覚悟した矢先だった。
「ねえ士郎。君は女という生き物をどう思う?」
いつもとニュアンスが違っていた。
質問系だった。
「……じいさんがいつも言ってることだろ。恐い生き物じゃないのか?」
「そうだね。とてもとても恐い生き物だ」
じいさんは静かに目を閉じ、何かを悔やむような顔をした。
「僕は正義の味方になんてならなければよかったのかもしれない。」
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