「君に頼むことは2つある」
「――と、その前に2つ注意しておかなくちゃいけない」
少年のような――それでいて少女ともとれるような中性さを持ち合わせた声が私に懇願する。
映像は未だブラックアウトしたままな所為で声の主を垣間見る事も出来ない。
「bffiが誰かなんて誰にも知られてはならないんだ。もちろん君が相手だったとしても例外じゃない」
「hdgwgmの監視はどこにでも張り巡らせてるんだから」
恐らく人名なのだろうが、ノイズが走って聞き取れない。
この視界の暗転は作為的なものらしく、あまつさえこの者が誰かも教えてはくれないらしい。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1490784250
「――話がズレたね。改めて君に頼もう」
「ひとつ。hdgwgmの監視を掻い潜って世界を救って欲しい」
「ひとつ。世界救済の想いを胸に抱いて欲しい」
「bffiから頼める事は以上だ」
了解。
――と、私の口から放たれた声に色はなく、まるで機械的だった。
――否、機械だ。
「それじゃあ頼んだよ。"プロトタイプ"」
「君自身が最後の切り札、そして――」
「――君自身が世界の最後の希望なのだから」
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――本名、プロトタイプ。
――ミッション、世界の救済。
――コンディション、ジェム残量100%
――マスター、不明。
起動した機械たる私の中に拡がる映像――視界に広がる光景は、現在のロケーション――私の自室と設定されている部屋だ。
ベッドと机しか設置されていない。
机の中に入っている物は"私の説明書"と学生証のみ。
学生証には見滝原中学2年生とあり、私の偽名が記載されている。
私の偽名は――
下1
葵翠(あおいみどり)
――それが私の偽名らしい。
私自身の説明書曰く、ジェムの残量を確保する為にはリミット解除――有り体に言って変身し魔獣を狩って得られるグリーフキューブを用いなければならない。
特殊能力として光の粒子を武器として形成するか自身の粒子化、そして機械仕掛けの体である事を活かし、人間では成し得ない動き――例えば胴体の回転等を用いた格闘術などが挙げられる。
それはそれとして名前の設定そして現在のコンディションと身分の確認も終えた事だ、始業式までスリープに入ってしまおうか。
無駄なエネルギーは使わないに越した事はない。
一旦ここまでにしときます
不定期更新ですがよろしくです
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――起動。
始業式当日の朝7時。
私にしてみれば前回の目覚めからここまでの時間は一瞬ではあったが確かに時は経っている。
人間が見るらしい"夢"と言った様な物を見る事もなく見る必要もない。
故に夢を見る機能は無い。
話は変わって栄養の摂取についてだが、結論から言って必要は無い。
仮に摂取したとて害は無いが、私自身には益にもならない。
因みに人間に害を及ぼす食物であるかの解析は出来る。
「時間です。登校しましょう」
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――魔法少女。
たった一つの願いを引き換えに魔獣と戦い、宇宙を存続させる為のエネルギー採取に従事する存在。
活動限界に達した魔法少女は儚く霧散するしかない。
私とて例外ではない。
――魔獣。
それは人間の感情を糧に人間に仇成す魔物。
感情を食われれば人間は忽ち廃人と化す。
――さて。
私自身に願いと言える願いは無く、ただマスターに言われるがまま"世界の救済"を願って魔法少女となった訳だが、仮に救済の方法を『魔獣の一掃』としよう。
魔獣が一体残らず消え失せ、これからも産まれる見込みがない。
産まれる見込みがないと言う事はまず発生源を絶たれている。
発生源は人間もしくは魔法少女の感情。
つまり、"世界の救済"への最短ルートは『人類の一掃』。
だがここで解せない点が三つ。
マスターの思い描く世界の救済が人類の一掃だとして、一掃対象にマスター自身も含まれている。
それから人類を一挙に滅亡させられるだけのエネルギーは私にはない。
一挙に滅亡させなければ何人かは取り逃がして種を増やす事を許し人類の一掃に失敗してしまう事となる。
そして最後に、この方法では著しく人間の倫理に反する。
よって"世界の救済"は『人類の一掃』もとい『魔獣の一掃』ではないのだろう。
"世界の救済"が何たるものなのか、如何に成し得るものなのか現状分からない。
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「――失礼します」
学校の着き、担任――早乙女和子氏と対面すべく職員室へと足を運ぶ。
設定上私は今日よりここへ転校する事となっている為だ。
まずは挨拶を済まさなくては。
「早乙女先生」
はい――と反応する優しげな色をした声。
「あら、葵さんね?」
あらかじめ証明写真付きの学績登録用紙を送ってあった為か、顔はもう覚えて頂いてる模様。
「初めまして。葵翠です。よろしくお願いします」
「ええ、よろしくお願いします。私はこの度担任を勤めさせて頂きます早乙女――」
「因みに職業は魔法少女です」
「――和k……んんん?」
「?」
名乗りかけて止まる早乙女氏。
何か気にでも障る事を言ってしまっただろうか。
「……」
「……」
時が凍った様にお互い沈黙する。
「……葵さん?」
「はい」
「今なんて?」
「初めまして。葵翠です。よろしくお願いします。因みに職業は魔法少女です」
言われた通り先程の自己紹介を繰り返す。
「……」
「……」
返ってくる言葉はなく、再び沈黙がこの場を支配する。
違う点は早乙女氏の表情が先程よりも困惑気味と言う事。
「……ええと、もう一度お願い?」
「初めまして」
「じゃなくもうちょっと先……」
「? ……よろしくお願いします」
「次」
「因みに職業は魔法少女です」
「……」
「……」
またもや沈黙――かと思えば。
「……ちょっと来なさい!」
「了解」
別室へ連行される事となった。
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要約。
私は早乙女氏に叱られた。
一生懸命自己紹介ネタを考えてきてくれたのだろうが、物事には限度がある――などといった感じに叱られた。
解せない。
「――と言うことです! 分かりましたね!?」
「分かりません」
「ああもう……」
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さらに叱られ続けた。
途中から諦めたような、それでいてどこか憐れむ様な視線を向けられしまう様になった。
解せない。
「ええと、その……、あなたが魔女? だとして……」
「訂正させて下さい。魔法少女です。魔女などと言う存在は聞いた事がありません」
「ああもう魔法少女。 魔法少女?だとして、あんまりそう言うこと皆に言わないようにね?」
「どうしてですか」
「うーん……、そういうことって秘密にするのがお決まりでしょう?ほら、人知れず悪と戦う正義の……みたいに」
「初対面で余すことなく自己紹介をするのがお約束ではありませんか」
「と、とにかく!あなたが魔女っ子――」
「魔法少女です」
「……魔法少女だって事は言わない事!それが私のクラスでのルールです!」
「校則を拝見させて頂いたところそのような規則はありませんでした」
「もうっ!今作ったんですっ!」
納得が出来ない点が多過ぎるが、一応ルールとして定められてしまった以上は仕方がない。
「……了解しました」
「はぁぁ……もう……。お茶目なのは悪い事ではありませんが、TPOを弁えましょうね?」
これにて早乙女氏のお説教は大きな溜息と共に締められた。
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早乙女氏のお説教から数十分、これから私が学園生活を過ごすのであろう教室の扉の前で待機させられている。
これから私達転校生を紹介する為の前振りの間ここで待機とのこと。
『ドライカレーとはカレー味のチャーハン?挽肉タイプ?どちらですか!?はい中沢くん!』
……前振り?
前振りの話が教室の中から聞こえてくるが、よくわからない。
「私達のどちらかがチャーハンと言うことでしょうか?」
「え?えっ?」
隣に居る桃色の髪の小柄な娘――私と同じく転校生――に問い掛けても困惑を返される。
「う、うーんと……わたし辛いの苦手……かな……?」
辛いのが好みではない。
ならば米と具を分離できる挽肉タイプを差し上げてあげよう。
「でしたらあなたは挽肉タイプですね」
「えっ???」
「具を除いて白米だけあなたに差し上げましょう。お水もついてますよ」
「あ、ありが……とう……?」
困惑の方は収まってくれそうにないが、それでも礼で返されるのは悪い事ではなくも感じる。
「それはそうとあなた」
「う、うん……」
二つに括ってる黄色いリボンが気になり――
1、「そのリボン、どこかしっくり来ませんね」
2、「そのリボン、お似合いですよ」
3、「そのリボン、カレー味しそうですね」
4、自由安価
下1
いきます~
初めての教室を一通り見回す。
転校生到来と言うイベントの物珍しさに歓声を上げる生徒達の中で目に付いたのは数人。
涼やかな蒼色をしたショートボブの子。
燃える様な紅い色をした髪を括り目つきが若干鋭いめの子。
そして一際目に付いたのが、艶やかな長髪に紅いリボンが映える妖艶な目つきの女性。
視線は――眼中に無いのか私には向けられておらず、ただ一直線に鹿目さんにだけ向けられている。
刺さる――と言った類の視線でなく、愛おしそうに……狂おしそうに、舐め取り味わう様な類の視線。
――と、一通り観察し終えるうちに――さあ自己紹介いってみよう――と早乙女氏に促され、先ずは鹿目さんから始められる。
「えっと、初めまして、鹿目まどかです」
まどか。
覚えた。
「ママ……母の海外出張で、家族みんなで3年間、アメリカにいたんですけど、先週ようやく見滝原に帰ってきたので……」
未だ緊張が解れてなかったのかよそよそしく、声色は気弱げだった。
「今日からはこの学校で皆さんと一緒にお世話になります、その、よ、よろしくお願いします……」
「久しぶりの日本の学校で、戸惑うこともいろいろあるかもしれません。皆さん、仲良くしてあげてくださいね」
――さて。
次は私か。
「そ、それじゃあ次は……葵さん、いってみようね……」
眉間に皺寄せつつ、若干震えた声で催促される。
先程の自己紹介ネタの打ち合わせ(?)兼お説教の話でも引き摺ってるのだろうか。
余計なことを言ってはならないとでも言いたいのか。
「……?」
「……」
一瞥すれば、何かを伝えたいのか――しきりにわざとらしく片方の瞼を何度も開閉する。
瞬きと言える様な類ではない。
1、「初めまして。葵翠です」
2、「初めまして。魔法少女の葵翠です。機械です」
3、自由安価
下1
「初めまして。魔法少女の葵翠です。機械です」
やはり隠し事はすべきでない。
隠すとしても嘘をつける訳でもないしそれは人間としても論外だ。
だから、全て紹介してしまった。
「ふぁっ!?」
「あァ!?」
「……」
大声で反応したのは先程目に付いた2人。
それから残るもう1人の黒髪の女については、ようやくその紫の瞳が私に向けられたと言ったところ。
ただし粘着質な視線などではなく、刺さる様に冷たかった。
一方早乙女氏は――
「あぁ~もう……」
頭を抱え蹲っていた。
■□■□■□
■□■□■□
それから私とまどかは――
「ねぇねぇ鹿目さん、アメリカの学校ってどうだった?」
「英語ペラペラなの?すっごーい!羨ましい~!」
「ちっちゃくて可愛いよね!なんだか小学生みたい!」
「そんな可愛いナリでヒップホップとかやってたりしちゃうの??」
「DJじゃない?」
「お父さんとかがB.B.Q(ネイティブ)とかしてくれちゃうの??」
「て言うか葵さん魔女っ子趣味と聞いて」
「機械って言ってたよね!?メカ系はお好きで?」
「異能系じゃない?3年の巴先輩か呉先輩辺りが早口で食いつきそ~」
――二人共々引っ張りだこだった。
「あはは、ええっとね、ぁ、その……なんて言うか……」
反応に困ってるまどかをよそに辺りを見回すと――
「……」
「…………」
――やはり青い子と紅い子が遠くから私の様子を伺っている。
別の方へ視線をやると――
「――――。」
――黒髪の女も、先程と変わらず視線で私を突き刺していて、私たちの方へ近づき――
「一度に質問されすぎて、鹿目さんが困っているわよ。少しは遠慮しないと」
黒髪の女の一声で、あっ、うん――と、あれだけ群がっていた生徒達は散り散りになってく。
「私は暁美ほむら。初めまして、鹿目まどかさん」
優しげ――と言っても、慈愛に満ちたようなものでなくどこか偏愛する様に語り掛ける黒髪の女――ほむら。
視線はまどかにのみ向けられている。
「まどか、って呼んでもいいかしら?」
「えっ……。う、うん……」
まどかの声は今にも消え入りそうで――
「早速だけど、校内を案内してあげるわ、ついてきて」
――まどかが連れ去られてしまう……!
1、引き止める
2、見逃す
3、自由安価
下1
「私もお願いします暁美氏」
「嫌よ。一人でほっつき歩きなさい」
即答。
かつすごく冷たい。
理不尽。
「えっと……ほむらちゃん」
「うん?どうしたの……?」
気まずそうに切り出すまどかに、打って変わって甘ったるい声を掛けるほむら。
ここまで扱いに差を作られると機械の私とは言えど流石に傷つく。
「翠ちゃんとも一緒がいいなあ……って」
「まどか氏……」
ナイスアシスト。まどか。
素直に感激したくなる。
「…………はぁ」
一方ほむらは不機嫌そうに溜息を吐き――
「まどかが言うのだったら……構わない、けど……」
――渋々、不服そうに了承してもらった。
■□■□■□
■□■□■□
案内する――と言っておきながら、先程から気まずそうに会話が無い。
生徒達の物珍しそうな視線に刺され続け、若干の不快さを感じ続けるしか無い。
「……ねぇ」
そんな中で最初に私へと切り出すのはほむら。
「貴女、何なの?」
――何なの。
何を意図した質問なのか、よくわからない。
「何なの、とは何です?」
「魔法少女と言っていたけれど」
自己紹介をしなおせ、と言う事か。
「まさか本当に"魔法少女"――な訳無いわよね」
「何故です?」
まさか、信じてもらえてない……?
「貴女が自称機械だとして、魔法少女になれる訳ないもの。何せ心を持たないモノがインキュベーターと契約出来る訳がない。巴マミ――あ、いいえ、所謂厨二病のつもりなのだろうけれど……設定を練り直す事ね」
要するにほむらにとっての私こと葵翠とは、アンドロイド兼魔法少女と言う設定を演じる多感で妄想癖で思春期の少女……と見られてるらしい。
1、本物と信じさせる
2、ひとりで勝手に勘違いさせたままにしておこう
3、自由安価
下1
せめてもの反抗だ。
ひとりで勝手に勘違いさせたままにしておこう。
「……どうしたの。何か喋りなさいよ」
「何でもないですー」
そう言えば今のやりとりで何気に魔法少女しか知り得ない単語が幾つか並んだ。
と言う事はほむらも魔法少女なのだろう。
遅かれ早かれお互いが本当に魔法少女だと知る日も来るのだろうから、今に見てるといい。
びっくりして恥をかくのはほむらだ。
「……はぁ、もう……」
陶器のように白く細い指で、するり――と鮮やかな赤のリボンを解き、まどかに手渡す。
「え、えっと……これ……」
「……私なんかよりも、あなたの方にこそ似合うから」
――まどかに、赤いリボン……。
どうしてか、こちらの方がしっくり来る。
「本当は2人でゆっくりと語り合いたかったのだけれど、今回はね……」
と、忌々しそうにほむらが私を一瞥する。
「……また会いましょう、まどか。私はいつまでも、あなたが幸せになれる世界を望んでるから……」
■□■□■□
寝ます~
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