羅生門 (18)
ある日の夕方頃のことだ。
一人の男が羅生門の下で雨宿りをしていた。
この広い門の下にはこの男は以外は誰もいなかった。
ただ、ところどころ赤い塗料の剥げた円柱にきりぎりすが一匹止まっているだけだ。
羅生門が朱雀大路にある以上は、この男の他にも、雨宿りをするスカートが無駄に短痴女やシースー持ったおっちゃんが、もう二、三人は居そうなものだ。
それが、この男の他には誰もいない。
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なぜかというと、この二、三年、京都には、石油危機や地震や何故か京都の観光収入が激落ちするという災いが続いて起こっていた。
なので、京都市内の寂れかたは尋常ではなかった。
記録によれば、ショーケースを打ち砕いて、プレミアがついたり、限定ホロ加工してあるカードを道端に積み重ね、トイペにして売っていたということである。
市内がその状態出来ませんあれば、羅生門の修理などは、誰もするはずがなかった。
するとそこが荒れ果てたのを見て、狐狸が住む。
盗人が住む。
とうとうしまいには、引き取り手のない遺体を、この門までわざわざ持ってきて、捨てていくという習慣も出来てしまった。
そこで、太陽が沈んだ時間には誰もが気味悪がって、この門の近所には近寄らなくなってしまったのである。
そのかわり、また烏がどこからか、たくさん集まってきた。
昼間にみると、その烏が、何羽かで輪を描いて、高い鴟尾の回りを鳴きながら、飛び回っている。
ことに門の上の空が、夕焼けで赤くなる時はには、それがゴマを撒いたように、ハッキリ見えた。
烏は勿論、門の上にある死体の肉を、啄みに来るのである。
……もっとも今日は、時間が遅いせいか、一羽も見えない。
ただ、ところどころ、崩れかかった、そしてその崩れ目に長い草の生えた石段の上に、烏の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。
下人は七段ある石段の一番上の段に、洗い晒した紺のパーカーを据えて、右の方にある、大きな刺青に触れながら、ぼんやり、雨の降るのを眺めていた。
語り部はさっき、「下人が雨止みを待っていた」と語った。
しかし、下人は雨が止んでも、格別どうしようというあてはない。
普段なら、勿論、家族の待つ自宅に帰るべきはずである。
しかしその家族が、四、五日前に自分だけを置いて夜逃げにした。
前にも語ったように、当事京都の町はひととおりならず衰微していた。
今この下人が、永年、暮らしてきた家族から、自分だけを置いて夜逃げにされたのも、実はこの衰微の小さな余波であった。
だから「下人が雨止みを待っていた」というよりも「アメニティ降り込められた下人が、行き所がなくて、途方に暮れていた」という方が、適当である。
その上、今日のこの空模様は少なからず、この時代の下人なSentimentalismeに影響した。
五時頃から降りだした雨は、いまだに上がる様子はない。
そこで、下人は、とにかく明日の暮らしをどうにかしようとして……いわばどうにもならないことを、どうにかしようとして、とりとめのない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路に降る雨の音を、聞き流していたのである。
雨は、羅生門を包んで、遠くから、ざあっという音を集めてくる。
夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜めに突き出した瓦葺きの先で、重たく薄い雲を乗っけている。
21時にまた再開します。
どうにもならないことを、どうにかするためには、手段を選んだりする暇などない。
選んでいれば、橋の下か、道端のコンクリートの上で、飢え死にするだけだ。
そうして、この門の上へ持ってきて、犬のように捨てられてしまうだけである。
選ばないとすれば……下人の考えは、何度も同じ道を低回した挙げ句に、やっとこの局所へ逢着した。
しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。
下人は、手段を選ばないということを肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後来るべき「盗人になるしか他に道はない」ということを、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのであった。
下人は、大きなくしゃみをして、それから、めんどくさそうに立ち上がった。
夕冷えのする京都は、カイロが欲しいほどの寒さである。
風は門の柱と柱との間を、夕闇とともに遠慮なく、吹き抜ける。
赤塗りの柱に止まっていたきりぎりすも、もうどこかへ行ってしまった。
下人は、首を縮めながら、オレンジのTシャツに重ねた、パーカーのかたを高くして、門の周りを見回した。
雨風の憂えのない、人目にかかる恐れのない、一晩楽に寝られそうな所があれば、そこで取り敢えず、夜を明かそうと思ったからである。
すると、幸い門の上の建物へ登る、幅の広い、これも赤塗りされたはしごを見つけた。
上なら、人がいたとしても、どうせ死体ばかりである。
下人はそこで、ポケットに仕込んだダガーナイフが落ちないように気を付けながら、タクティカルブーツを履いた足を、そのはしごの一番下の段へ踏みかけた。
すいませんが、今後の展開を考えた上で今日はここまでにします。
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