俺はファミレスにいた。
俺「ほむッ……」
鉄板にこびりついたチーズをフォークの先でぺりぺり剥がし、口に運ぶ。
塩辛くも旨味をたっぷり含んだチーズの味が、じんわりと口の中で広がっていく。
俺は目を閉じ、じっくりそれを舌先で転がした。
同時に、何故だか涙がはらはらと零れ落ちてきた。
俺「これだ……この感動を待っていたんだ」
多忙な日雇い労働のおかげで、座って食事をする機会などほとんどなかった。
ドリンクバーでゲットしたウーロン茶をぐびッぐびッと飲み干す。
干からびた喉に、ウーロン茶の波が潤いをもたらす。
死んだ魚のような、濁りきった俺の瞳は再び輝きを取り戻した。
俺「うめぇ! うますぎるぜ! 畜生! クソッ! クソ野郎ッ!」
あまりの美味しさに、つい大衆の前で罵倒をしてしまった。
興奮すると口が悪くなる。俺の悪い癖だ。
すると、ウェイトレスがメニューを片手に飛んできた。
ウェイトレス「お客様、ラストオーダーとなりますが、ご注文はいかがなされますか?」
ラストオーダー? 俺は眉をひそめた。
この店は24時間営業のはず。
間違っても「ラスト」という言葉は使わないはずだ。
そう、閉店でもしない限り。
ウェイトレス「クク……クカカカカ」
俺「ヌ!?」
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俺の考えを見え透いたかの如く、ウェイトレスは口元に歪んだ笑みを浮かべた。
ウェイトレス「この店、今夜で終わりなんですよ。終わり。長らくご愛顧いただき、ありがとうございました」
俺「なに!? 終わりだって!? そんなこと、さっぱり聞いていないぞ!」
ウェイトレス「さよならです。さようなら、さようなら、さようならさようならさよならさよならさよなら」
俺「壊れたラジオみたいに繰り返しやがって!」
俺は勢いよく席を立ち、もぬけの殻と化した店内を駆けまわった。
扉を開けて、外に飛び出す。
湿った土の匂いを含んだ風がびゅうと吹く。
そう、そこは原野であった。
草木生い茂る、原野であった。
俺「な、なんだよ! なんだよこれ!」
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