【ストパン】オストマルク外伝 ~ハルテ・ヴァイゼンボルン記録~【3次オリ】 (30)

スペース失礼致します


※※ 当ssはストライクウィッチーズ世界のオリssの更にスピンオフです ※※

以下↓のスレッドに投稿した内容を継ぐもので、一部の設定・解釈や原作世界内の事象において独自を経ています。ご注意ください


ナイトウィッチーズ~月影の構え太刀~ その1
敏恵「あたし達って何ウィッチーズ?」 ハイデマリー「ぇ、えっと……」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1472955154/)

ナイトウィッチーズ~月影の構え太刀~ その2
敏恵「ストライクウィッチーズ……じゃないの?」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1447492531/)

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1489678851

※元のあらすじ割愛、過去スレ参照
工藤敏恵の物語の後、ハルテ・ヴァイゼンボルンとエステル・バルシュミーデが移された統合編成部隊の幕を綴ります。

投稿ペースはやはり不定期です。今回は台詞オンリーでない形式を試みます

 

1945年、夏。

2カ月ほど前……ある種“怒濤”の様だった日々が明けて暫く、私ことハルテ・ヴァイゼンボルンは先輩ウィッチのエステル・バルシュミーデ少尉と共に東を目指していました。

どうしてかナイトウィッチである私達が2人揃って選出された新しい統合部隊、その拠点基地へと向か――




――……? どうしました?


あっ、もしかしてモノローグは嫌ですか? すみません…。
でも駄目ですよ? 地の文だって読んでください、なるべく少ないように努めますから!


えぇと、それでは……続けますね?




私達が車で移動していたのは、新しい統合部隊の基地へと向かう為です。

ヘルウェティア連邦で1泊を挟んではいますがベルギガからヴェネツィア東端への陸路は2日間通しとなり、揺られ疲れた私はつい呆然としてしまうのでした。


ハルテ「……」


エステル「――だからまあ不安っていうか謎なんだけど、統合部隊ってその辺どうなってんのかしらね?」チラ

ハルテ「……」

エステル「…? ちょっとハルテちゃん、聞いてる?」

ハルテ「モンブラン…」ボソ

エステル「は? モンブラン??」

ハルテ「…………」

エステル「おーい、ハルテちゃーん!?」

 
ハルテ「! ぁ…はい。すみません、お話中でしたっけ?」

エステル「お話中でしたよ!? どの辺から聞いてなかったの、もう。一人で喋って私バカみたいじゃん」

ハルテ「す、すみません…」

エステル「…で、山が何?」

ハルテ「えっ?」

エステル「口に出てたってば。モンブランがどうかした?」

ハルテ「ぁ、いえ。その…アルプス山脈がとても壮大だったので、つい見入ってしまって」

エステル「ん、まあそりゃデカいわよね。おかげでこっちは運転中ずっっと同じ風景で退屈だけど」

ハルテ「はい。それでついぼうっと眺めていて――」

エステル「うん」

ハルテ「“そういえば私、まだモンブランケーキは作った事がないな”と…」

エステル「ちょ…、モンブランってそっちのこと?」

ハルテ「ぇぇと……はい、そうです」

 
エステル「はぁ~~、もうなによ。食べ物云々ですっとぼけるのは“アホ大尉”だけで間に合ってるし、ハルテちゃんまで真似しなくていいから」

ハルテ「ぁはは…」



ため息混じりにもどこか懐かしんでいるようなエステルさんの横顔を見て、その時私もふと、以前の賑やかだったサン・トロン基地の食堂風景を思い出しました。

私達の原隊である第一夜間戦闘航空団第四飛行隊。

そこへ扶桑から援戦武官としてお来しになったナイトウィッチの大尉さんはいつの間にか私達の、絆のようなものの中心にいた気がします。



エステル「……。でもホント、今頃どうしてんのかしらね…」

ハルテ(! エステルさん…)



素直過ぎる事はあまり仰らないエステルさんのその台詞で、私の懐旧はすぐに中断しました。

私や…きっとエステルさんも好きだった私達“6人”の第一夜空四隊も今ではバラバラで、サン・トロン基地に夜間航空司令官として隊長さんのシュナウファー少佐が独り留まっていらっしゃるだけです。

勿論私達は原隊所属なのですが、エステルさんが慕う先輩のルーツィア曹長さんと副隊長さんのお二方の除隊と、大尉さんの負傷による送還もあって実質的には解隊状態になってしまっています。

特に大尉さんについては考えると暗くなってしまう気がして、私は慌てて話題を修正することにしました。

 
ハルテ「そ、それよりお話の途中でしたよね? 何でしたっけ!?」

エステル「え? あー…、うん。だから統合軍ってよく分からないわよねって話。命令系統とかもさぁ?」

ハルテ「…えぇと確か、統合軍最高司令部を頂点に各地域管轄の作戦司令部が存在したと思います。私達が行く特殊統合戦隊は東部方面に所属するそうですよ?」

エステル「ほーん、東部ねえ~」


エステル「――……ん? ちょっと待って、私達が向かってる所ってフリウーリ地方にある基地でしょ? ヴェネツィアって東部戦線に入るの!?」チラ

ハルテ「いえ、私もこのお国は地中海方面にあたると思っていましたけど。部隊の目的がオストマルク国内の拠点構築とのことですから、作戦地域のご都合ではないですか?」

エステル「むむ…そっか。まあどっちでも良いんだけど、ややこしいったらないわね」

ハルテ「厳密に東部方面はオラーシャやオストマルクのようなカールスラント国境の東に位置する国々ですね。所属する統合軍隊としては第502などが同じ司令系統な筈ですよ?」

エステル「む! うちの隊長や“第五司令”も戦ったペテルブルグ戦線の? あの501に続いてネウロイの巣を破壊したっていう…?」

ハルテ「半年ほど前ですよね。オラーシャ西方の“グリゴーリ”を駆逐してライフラインを繋げた方達です」

エステル「なるほどなるほど、じゃあ上の連中は無能じゃないのね! やり甲斐有りそうでよかった♪」ニマ

ハルテ「はは…」

 
エステル「だったらもう戦略目的は果たしたも同然よ! 少なくとも夜は、この私達が働くんだから!」

ハルテ「えぇっと……はぃ。自信を持つのは良いことですよね」アハハ…

エステル「で、あと何だっけ? その501設立メンバーの~……」


ハルテ「オストマルクの少尉さん?」

エステル「そう、そのオストマルク人もいるからいけるでしょ!」

ハルテ「……あのエステルさん? 私はやっぱりその、運営指揮権を持つ方もとても大事な気がしますけど…」

エステル「ん? あー、まあそうね。でもそこはほら、考えたって意味ないじゃない」

ハルテ「え?? どうしてですか?」

エステル「だってそんなの、誰が来たってうちの隊長より強い隊長な訳ないし」ヘヘン

ハルテ「い、いえ……そういうことではなくて。ご経験とか、お人柄とか…」

エステル「べつにそれも大丈夫だと思うわよ? デュッケ副隊長レベルの変人なんて、そんなめったにいないでしょ」

ハルテ「それは私も同意し――…てっ、ですからそういう意味ではないですよぉ!」

エステル「?」


――――
――

 
目的地に到着した頃には日差しが傾き始めていましたが、如何にか日中には間に合いました。


昼食後に交代してからずっと運転していたエステルさんが大きく息を吐きながら搬入ゲートらしき場所へとゆっくりハンドルを切っていきます。

守衛を務めていると思われる兵隊さん達が待ち構えていたのが見えて、助手席の私は念の為に必要になりそうな物を束ねながら自分の荷下ろしについて思案していました。


エステル「どもー、リヴォルト空軍基地ってここですよね? 見ての通り私達ここに配属されたカールスラント空軍のウィッチです」

ハルテ「エステルさん。これを」ス

エステル「ん、ありがと。…はい、これ辞令書と身分証ね」

守衛「…………。確かに確認しました。御遠路お疲れ様であります、バルシュミーデ少尉、ヴァイゼンボルン少尉」

エステル「いやまったくホントに、この酷いシートから早く降りたいわね。でぇ…これ何処に行けばいい?」

守衛「はっ! 車両はそこへ停めて頂いて、プライベートな荷物はお手持ち下さい。後は我々で搬入いたします」

 
エステル「ちょ…持って運べって、観光旅行じゃないんだから。宿舎への持ち込み結構あるんだけど?」

守衛「それでしたら案内の者がお持ちいたします。ウィッチ少尉殿の“差支え”が無ければ」

エステル「あ、うん。荷造りしてるしその辺は平気だけど――」


エステル「…ハルテちゃん、あれ一度に持ちきれると思う? 距離にもよるわね」クイ

ハルテ「!」ギクッ


守衛「…? もしやその後ろの大包みでしょうか?」チラ

ハルテ「ぅ… ///」ササ

エステル「ハルテちゃん。今更遅いし、全然見えてる見えてる」

 
守衛「恐縮ながら我々も一端の男子軍人なので大抵の重荷物は運べると思いますが、扱いが難しい物でしょうか?」

エステル「ぃ、いえぁの……そんな、割れるようなものは無いのですが… ///」カァァ

守衛「?」

エステル「そのっ確かに、こんなに持ち込んで……非常識かなとは思っていたん…です //」

守衛「??」

エステル「……」


ハルテ「で、でも私…その……趣味でぉ、お菓子を…なので……~~ ////」モゴモゴ

エステル「いやハルテちゃん。確かに正直“引くレベル”で数は多いけど、べつに何にもやましくないってば」ペシ

ハルテ「――!? ///」ガーンッ

エステル「守衛さん、あれただのキッチン用具だから。持てるなら普通に運んで問題なし」チョイチョイ

守衛「はあ…? そ、そうですか。了解しました」

ハルテ「ぁぅぅ… //」

 
エステル「えーと、それで? 取り敢えず部屋行けって?」

守衛「あ、はい。その後は隊長の御指示に従ってください」

エステル「了解。エステル・バルシュミーデとハルテ・ヴァイゼンボルン少尉、今日からよろしくお願いね?」ニッ

守衛「はっ! では宿舎前まで御案内させます。……おい、誰か少尉達をウィッチ宿舎へ御案内してくれ! 早い者勝ちだぞ!? いないなら持ち場を離れてでも俺が行く!!」


エステル「…あ~あ、紳士かと思ったらこれだわ。やっぱ荷物自分達で運んだ方がいんじゃない?」

ハルテ「……」

 
――――
――


 
そこだけ変に新しい、航空ウィッチ専用の宿舎として設えられた建物の一室に案内されました。


私が数日前までいた所のような部隊そのものが夜型でもない限り、通常活動とはぐれて夜間専門でお仕事をする“ナイトウィッチ”に与えられる範囲はどうしても限られてしまうのだと聞いた事があります。

ましてや私とエステルさんの2人だけなのに、意外にも私達にはそれぞれ個室が与えられていました。

……2人だけだからこそなのでしょうか? エステルさんは訓練生時代からルーツィアさんと常に一緒の生活だったそうで、1人部屋は初めてなのだと苦笑していました。


荷物を運び入れて頂いた基地員さん達からの食事のお誘いをやんわり断った後、これから自分の部屋になる室内を見渡す。


ハルテ「…………。ふぅ…」トスン


備え付けの机と椅子が目に付いたので、とりあえず腰掛けてみるとようやく一心地ついた気分になると同時に直ぐ眠気もやってきてしまいました。


ハルテ「~……ん…」クテ

 
ハルテ「――? …ぇ、なに?」ムクリ


思わず机にもたれてしまった私の頬にピタリと何かが張り付く。

どうやら元々ここに添えてあった紙のようで、広い空白の真ん中にメッセージが書かれています。



 “待っていた、道中ご苦労。別命あるまで一息つけるといい”


ハルテ「…なんでしょうかこれ??」キョロ

ハルテ「!」



ついさっきまで自分の頭が伏していた先に目を向けると、そこには黒い液体の入った瓶と栓抜きが置かれていました。


ハルテ(これは…飲み物? でもぬるい…)


結露の跡が残っているので恐らく最初は冷えていたのでしょうか?

不運にも傾いた陽が当たったからか、すっかり飲み時を過ぎているようです。

 
その差出人不明の贈り物をどうするべきか考えていると、突然電気ノイズと共に声が響きました。



『――連絡する。特殊統合戦隊、待機中のウィッチーズはハンガーへ集合せよ』


ハルテ「?」


『繰り返す、ウィッチは全員ハンガーに来て整列だ。場所が分からない奴は“世辞”の裏を見ろ』


ハルテ「…ぁ! もしかして」



先程頬に貼り付けた紙を裏返してみると、そこにはこの基地施設の簡易的な見取り図が載っていました。



ハルテ(ということは、この飲物は今の声の……恐らく指揮官か何方さんのご好意でしょうか?)モヤ

ハルテ(――てそれよりも、先ずはハンガーに急がないと駄目ですよね!?)

 
ハンガーまでの道程を頭に刷り込んでから隣室を訪れると、予想通りエステルさんは此処までの疲れでうたた寝の真っ最中でした。

豪快にベッドへ倒れているエステルさんを起こし、直ぐに状況を説明します。


エステル「~……ょうしゃなぃわね、もぉ~…」ヨタヨタ

ハルテ「エステルさん、よだれが…。これ使って下さい」

エステル「んん…~みゃりがと。ちょっとだけまってね…?」グシグシ



放送に“至急”という文言はありませんでしたが、基地内を力走していいのか遅刻してしまう方がまずいのか、エステルさんの軍衣の皺を直しながら判断する事になりそうです。


――――
――

 
ハンガーには既に3名の女性と、その対面には制帽を被った背の高い方がじっと黙って立っていました。

やっぱり待たせたんだなと思った私達は小走りで並んでいる方々の横につく。


ハルテ「も、申し訳ありません…」トタタッ


なんとなく重苦しい空気に謝罪の声が小さくなってしまう。

聞こえていないのか何方も反応しません…。


私は思わず下を向いてしまいました。



制帽女「5人。これで全員か」


エステル「……」

ハルテ「……」


制帽の、恐らくこの隊の指揮官さんであろう方が、腕組みを解いて私達の反対端に並ぶ女性に歩み寄る。



制帽女「今朝会ったな、1人で来た奴だ。…お前がラウラ・トート少尉か」

ラウラ「……」

制帽女「カールスラントがお前を寄越した。この配属に不満はあるか?」

ラウラ「…。いえ」

制帽女「そうか、ならば期待しよう。場合にもよるが戦術指揮は任せるから責任を持ってやれ」

ラウラ「……」


寡黙な様子のラウラ・トート少尉さんは答えません。

少しお顔を窺おうかと私が身を乗り出しかけた時――


エステル「あれが例のオストマルク人…」ボソ


脇からエステルさんの呟きが聞こえました。

 
私がそれに気を取られた間に、制帽の女性はトート少尉の隣へ声をかける。


制帽女「お前達は扶桑の少尉と、軍曹だな?」

千穂「海軍少尉の小笠原千穂〈かずほ〉です」

すずめ「扶桑陸軍っ……ま、眞垣すゞめです! がん…頑張ります!」ピシッ

制帽女「ん。扶桑が実績でなく試験選抜をしたのは知っているが、お前達は“ストレンジャー”だと聞いた。そっちのピカピカ軍曹は一目瞭然だが」チラ

すずめ「!」

制帽女「お前もそうなのか、少尉?」

千穂「眞垣軍曹のこれは扶桑陸軍ウィッチの制装衣ですよ。確かに奇抜ですが」

すずめ「!?」ガーンッ

 
制帽女「格好ではなく戦歴の話だ。私はお前が“ビギナー”かと聞いている」

千穂「……。国防任務に3年付きましたが、ネウロイとは未だ」

制帽女「成る程。…いや合衆国もそうだが、国の平穏はなによりだな?」

千穂「ええ、まぁ。どうも」

制帽女「だが此処は違う。くたばる前に慣れておけ」ジロ

すずめ「っ…!」ビクッ

千穂「了解」


ハルテ「……」チラ

制帽女「――で、残りのカールスラント2名だな」

ハルテ「!」


この流れで自分は何を言われるのだろうかと制帽さんを一瞥すると、示し合わせたかの様に目が合ってしまった。

そして目を放すことなく近寄ってきた制帽さんは私とエステルさんを交互に観察すると、どうしてかそのまま黙ってしまう。


エステル「?」

制帽女「えぇ~、あー…」ポリポリ

ハルテ(ぁ! もしかして――)

 
制帽女「……こっちが先輩の方だろう? お前がエステル・バルシュミーデ少尉か」ピッ

ハルテ「(や、やっぱり…)あの、申し訳ありません。…逆です」

制帽女「なに? まさかこいつの方が歳上なのか?」チョイチョイ

エステル「っ…~~゛##」ギリリ

ハルテ(ぁぅぅ、エステルさん…)


制帽女「ということは、お前がバルシュミーデだな?」

エステル「わ、悪ぅございましたね…っ……大きくなくて… #」ワナワナ

制帽女「べつに悪いことは無い。私がこれからお前に期待するのは“中身”だ」

エステル「――!」ピク

 
制帽女「特にお前達ナイトウィッチは実力重視で私が選んだんだぞ?」

エステル「は!? ちょっ…」

制帽女「だから失望させてくれるなよ。ヴァイゼンボルン、お前もな」

ハルテ「! ぁ、あの…」


急に話を振られ戸惑っている間に制帽さんは踵を返して始めにいた位置へ戻ってしまった。

そして私達へ向き直ると突然に大声を張り上げた。


制帽女「…よく聞け貴様等! この部隊に役立たずは必要ないぞっ! 結果の出せない糞アマはウィッチだろうが特別扱いなどないと思え!!」

すずめ「ひっ!?」

千穂「……」

 
制帽女「抗う奴は容赦無く修正してやるから覚悟しろ。いいな?」

ラウラ「…………」

エステル「っ…ちょっとなんなのアイツ、流石にヤバくない?」

ハルテ「で、ですね…」




制帽女「――……ふふ。というのはまぁ、挨拶代わりのジョークだ」ニッ

エステル「えっ」

ハルテ「!」




制帽女「ははは! どうだ、緊張したか諸君?」


その瞬間、この場を圧迫していた緊張感が突然切れたような気がした。

……この方が雰囲気を作っていたのだろうか? 先程までとは打って変わって制帽さんが表情を見せる。

 
エステル「ぅ……な、なんなのよ…」ジト

ラウラ「……」

千穂「はぁ…、バレバレだって」ボソ

制帽女「おや、そっちの2名は退屈そうだな?」

ラウラ「その通り」シラ

千穂「特別扱いしない人は個室にウェルカムジュースまで用意してはくれないでしょうし」

制帽女「んん、手厳しい。だがそこは協調してこそのチームだぞお前達? ジョークなんだからノッてこい、眞垣軍曹のようにな?」チラ

すずめ「はぅ…!?」ビククッ

千穂「この子は臆病っ気なんですよ、多分冗談じゃなくて」ササ

すずめ「す、すみませ…っ」

 
ハルテ(あぁ…可哀想に)

エステル「完全にビビリまくってるわねあの子。あんなんで大丈夫なの?」ヒソヒソ


見るからに眞垣軍曹は私なんかより幾らも若い新兵さんの様子…。

これから御一緒する仲として、彼女にとってネガティブな出発になったであろうことを私は気の毒に思ってしまう。


しかし軍曹を怯えさせた張本人は特に気にする様子も無く、さっぱりと話し進めた。


制帽女「私はリベリオン陸軍中尉のオリーブ・ペシュラだ。こうして話している時点で明白だとは思うが、この臨時部隊の指揮官を務める」

エステル「まあ、でしょうね」ボソ

 
オリーブ「先程も触れたが諸君等の能力には少なからず期待している。…女だてら将校ということで私も同じくウィッチなんだが、生憎空には出撃られない」

千穂「…! 中尉“あがってる”んですか?」

オリーブ「まあね。こう見えて22だよ私は」

エステル「いや、その柄〈なり〉で10代って方が違和感ありますけど…?」

オリーブ「はは。お前がそれを言うか」

エステル「んなっ!? ちょっとー! #」

オリーブ「仕返しにしては悪くないジョークだ」

エステル「そんなんじゃないわよ!? 蒸し返さないでください!」

ハルテ「……」


結果的に隊長――オリーブ・ペシュラ中尉の計らいが効いたのか、何だかあっという間に近づかれてしまった様な気がした。

それは目に見えていること以上に意外な感覚で、私は一瞬戸惑った。

 
ハルテ(……前に大尉さんがやって来た時も突然の登場だったけど、自分がホームにいたからだろうか? 大尉さんとは直ぐ打ち解けていただいたなぁ)


ふと考えを逸らしながら左を流し見ると、隣に立つ眞垣軍曹と目が合った。


すずめ「! …ぁ、あのぁ……っ」

ハルテ「はい?」

すずめ「そぉ…そちらの少尉殿は、こっ……怖い方なのですか…?」

ハルテ「あ、はは…。そんなことないですよ? とても良い方ですから、安心してください」ニコ

すずめ「…! ば、ばぇぜん――……少尉殿!」

ハルテ「ハルテ・ヴァイゼンボルンです。よければ名前で呼んでください、軍曹さん?」クス


少し舌足らずな発音で一生懸命に思い出そうとする眞垣軍曹の様子につい可笑しくなってしまった。

情けない事に、初対面の相手に失礼だったなと私が思い至るのはこの日の夜です……。

 
すずめ「!! ぁ、あい…! よろしくおねがいします、ハルテ少尉」

ハルテ「はい、こちらこそ。これからよろしくお願いします」


幸い眞垣軍曹は気にすることもなく、大袈裟な身振りで挨拶をしてくれた。


千穂「へぇ、可愛い名前ね? 苗字はなんか厳つそうなのに」スイ

ハルテ「ぇ?」

千穂「あ、気に障ったらごめん。どっちも素敵って意味だから」

ハルテ「…? は、はい。ありがとうございます」

千穂「扶桑海軍の小笠原千穂。よろしく、ヴァイゼンボルンさん」

ハルテ「あ、ハルテで構いません。私も少尉ですし、お好きにして頂ければ」

千穂「そう。じゃあそうするね」

ハルテ「はい。よろしくお願いします」


扶桑海軍の仕官服、工藤大尉のそれとよく似た装いの少尉さんが眞垣軍曹に続いて話し掛けてくれた。

その流れで、一番奥向こうにいたラウラ・トート少尉はどうだろうかとつい視線を移してしまうが、トート少尉は何をするでもなく退屈そうにその場に立っていた。


ハルテ「…?」

ラウラ「……。まぁ、よろしく」


私の様子に気づいたのかトート少尉は僅かに頷いて答えた。

素っ気ないという程ではないけど、ルーツィア曹長に初めて会った時を思い出す光景だ。

 
千穂「…まあ、距離感は人それぞれだろうね。とにかくよろしく、班長さん」

すずめ「よ、よろしくお願いします」ペコペコ

ラウラ「“班長”?」


少しとぼけた表情でこちらを向くトート少尉。

……こういう所は寧ろ大尉さんに似ている。


千穂「そこの隊長の話だと、空では貴方が私達を引っ張るんでしょ? 戦闘隊長って言うのかな?」

オリーブ「――べつに肩書は定めてない、厳密には諸君等少尉達は全員同列だ。先任後任はあるだろうが」

すずめ「!?」ビクッ

千穂「ああ、そうなんですか」


揶揄い終わったのか、ペシュラ中尉が会話に入って来た。

エステルさんも何か言いたそうな不満顔で後に続く。

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