唐突ですが、我が国、由暉子王国の説明をしましょう
その王国は北海道の某所、真屋夫妻が建てた一戸建ての二階、北東に面した角部屋に位置しています。
東の窓からは朝日が差し込み、北の窓からは寒い風が吹き付ける我が王国の領土は、およそ六畳
入国の際には、南西に位置する扉から入ることができます
扉にはエイリアンのポスターが貼っており、巨大な双眸が入国する者を睨めつけています
この扉をくぐる者、汝一切の希望を捨てよ
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エイリアンを睨み返しながらエイヤッ!っと扉を開くと、眼前には我が由暉子王国の大地が聳えています
入って左手、西側の壁には様々な衣装が詰まったクローゼット
ついこの間までは我が国の民族衣装はとても地味なものでした
しかし旅の行商、揺杏先輩のおかげで、実に豪華絢爛煌びやかな衣服に満たされる事になりました
北の壁には窓と、国王である私が身を横たえるためのベッドがあります
雲のようにフワフワとしたベッドに横たわり、天上から国土を睥睨して電灯を消す事で、我が国には夜が訪れます
そして天井には、星座のポスターがプラネタリウムのように貼ってあり、蛍光塗料で輝くその星々は、我が国の夜空を彩っています
しかし、光あるところにまた闇もあり
このベッドの下は、ガラクタやゴミを適当に押し込んだ、混沌空間となっています
いずれは視察に向かい、片付けなくてはいけませんが、多忙につき先延ばしにしています
東の壁は大きな窓があり、ベランダへと繋がっています
窓の外からは他国の情勢を眺めるできるのです
窓際には幾つかプランターが置いてあり、そこには様々な花と植物、そして雑草が生えています
朝日を浴びてすくすく育つその様子は、もはやジャングルに等しく、草むしりをする気も起きません
そして南の壁には、UFOや宇宙人、ツチノコ、ネッシー等UMAの情報満載の雑誌や、お気に入りのSF小説を収めた本棚が並ぶ大図書館
その横には、アメコミのフィギュアや怪しげな老婆から買った水晶、デロリアンのプラモ、UFOの模型等、我が国の国宝が陳列された棚があります
そして領土の真ん中には、我が国の中央議会である丸い机があります
この机の上で、私は絵を描いたり小説を書いたり本を読んだり、ツチノコ捜索の作戦を練ったりと、様々な政策を行なっています
以上、我が由暉子王国の説明でした
.
……はい、わかってます
要するに、ただの子供部屋です
ではなぜ、私がこんな回りくどい語りをしたのか、その理由を話したいと思います
それは、冬休みのある日のこと。私の二日間の大冒険
目が覚めたらーーーーーー私の身体が小さくなっていた時のお話です
.
……
…
・
ある、冬の朝のこと
窓から差し込む朝日の眩しさ感じ、私は目を覚ましました
朝はあまり寝ぼけない方ですが、その日は違いました
なんと、天井が凄く遠くに感じるのです
冬の空は高いといいますが、星座を貼った私の部屋の夜空も、遠くに行ってしまったのでしょうか?
いえ、おかしいのはそれだけではありません
ベッドの横の壁も、部屋の中も、遠くに感じます
私が寝ている間に家が増改築されたのでしょうか?
いえ、ベッドの柱も太くなっています
これはつまりーーーーーー私が小さくなってしまったのでしょうか
.
……
…
・
現在の状況を説明します
時刻は午前8:30過ぎ。これは枕元のエトペンの時計で確認したので間違いありません
季節は冬。12月の、冬休みに入ったばかりの事です
そして、私の身体は着ていたピンク色のパジャマごと、10センチほどまで縮んでしまってまいす
まるでお人形さんみたいになってしまいました
夢かと思って頰を抓っても、目は覚めません
朝起きたら虫になっていた。というお話は聞いた事がありますが、小さくなっていた。などという話は聞いたことがありません
新手のスタンド攻撃でしょうか?
とりあえず原因を探るため、私は枕の上に座り(今の私にとっては、枕もトトロのお腹の上みたいです)昨日の夜に何があったかを思い返します
昨日は夕方頃に、夫婦水入らずで三泊の旅行に出かけた両親を見送り、夜は母の作り置きしていたカレーを食べました
その後、テレビで雪男捜索の特番を、手に汗を握りながら観て、お風呂で身を清めました
お風呂から出た後はパジャマに着替え、来週に控えた成香先輩とのツチノコ捕獲作戦のために、部屋で色鉛筆を使って作戦図案を製作しました
そして途中で眠くなり、ベッドに入って就寝
起床して今に至るわけです
となると……これは、私に捕獲されることを恐れたツチノコの呪いでしょうか
つまり、私にはツチノコを捕獲する能力があるという事です。大変嬉しい事ですが、この身体ではそれもままなりません
とりあえず、寒いしお腹も空いたし、見渡す限り雲の草原のような不毛なベッドの上から降りる事にします
しかしこの身体では、ベッドから床に降りるのも、二階の窓から飛び降りるようなものなので、私はクッションを床に落とします
けれどクッションが下に敷いてあるとはいえ、無事に床へ着地するのは難しいです
あたりに何か使えるものはないかと探していると、ベッドと壁の間のクレパスのような隙間に、小さいコンビニ袋が突っ込んであるのを見つけました
確か、三日前にコンビニで買った雑誌を布団の中で読もうとして、袋をそのまま突っ込んでいた時のものです
ズボラなのは褒められたものではないしお恥ずかしいかぎりですが、この時は自分のルーズさに感謝します
私は袋の持ち手を両手でそれぞれ握ると、「エイヤッ!」とベッドから飛び降りました
コンビニ袋は空中でブワッと広がり、パラシュートのようになります
かくして私は落下傘部隊のように、ポスンとクッションの上に着地
由暉子はやればできる子なのです
天上から地上へと舞い降りた私は電気ストーブつけ、砂漠の太陽のようなジリジリとした熱線を浴び、暖をとりました
そして、助けを求めるために机の上に行く事にしました。そこには携帯電話があるはずです
電気スタンドのコードをよじ登り、机の上に到着します
目の前にあるのは、電気スタンド、作りかけの作戦図案と色鉛筆
食べかけのクッキーとチョコレート、ミネラルウォーターのペットボトル
不気味に動くダンシングフラワー、そして携帯の充電器
……
……はて
携帯電話はどこでしょう
……
……そういえば、一階に置いたままでした
どうしましょう。ドアノブに手が届かないから、この部屋から出ることはできません
けれど、ここに来た事は収穫です
食料と水にありつけたのですから
片手で摘むサイズのクッキーとチョコレートも、今の私には一抱えほどあります
ミネラルウォーターも、ペットボトルのキャップにがんばって注ぐことで、飲むことができます
かくして空腹は解決したのでした
……
…
・
お腹を満たした私の次にとった行動は、部屋の探索です
電気スタンドのコードでラペリングをし、床に降ります
降り立った私の目の前にそびえるのは、ベッドの下の空間。いらなくなったものや通販で買ったもののダンボールが押し込められ混沌としています
さすがにこの中に入るのは勇気が要ります
とりえず本棚の横の陳列棚に行こうとした、その時
私の耳に響く、カサリという足音
おそるおそる振り向いた私の目線の先にいるのは、黒い物体
アンテナのように伸びる二本の触覚
大地を踏みしめる六本の脚
その生物は生命力、防御力、素早さがSランクかつ、飛行能力持ちというユニット
つまりーーーーーーゴキブリです
.
私は「ぴぎゃあ!」と間抜けな悲鳴をあげ、思わず近くにあったプランターから伸びるツタに飛びつきます
直後に私の下を駆け抜ける黒い物体。間一髪でした
私はツタをよじ登り、プランターの上に到達し、ジャングルのように生い茂る雑草に身を隠します
ゴキブリはそのままプランターを通り過ぎ、本棚の裏へと入っていきました
まさか、部屋の中で猛獣に襲われるような目に遭うとは思いませんでした
ほっと一息ついた後、しばらくはこのジャングルに身を隠しす事にし、私はジャングルの中へとズンズン進んでいきました
それにしても、自分でも把握しきれないくらい様々な植物が植えてあります
もしも過去の私がハーブでも植えていたら、クッキーの上にハーブを乗せ、優雅な食事ができることでしょう
私は探索に疲れ、ふぅ。と一息つき、近くにあった葉っぱの上に手を載せます
すると、チクリという痛みが手のひらに伝わりました
驚いて顔を向け、気がつきます
私が手を載せた植物。それは
ハエトリソウでした
咄嗟に手を引く私。直後に閉じるハエトリソウの葉
そういえば昔、ダーティーな雰囲気がカッコいいと思い食虫植物を植えていたのでした
なんという事でしょう。このジャングルも危険がいっぱいです
私は慌ててジャングルを抜け出し、プランターから本棚の間の隙間へとポスンと飛び降ります
なぜポスンと音がしたかというと、飛び降りた先に丸まった布があったからです
はて。なぜ、このようなところに布があるのでしょうか
広げてみて思い出しました。これは半年前の夏休みに、成香先輩と一緒に山の中で秘密基地を作ったときに使った、私の基地の国旗でした
その時は、同じく秘密基地を作った爽先輩、揺杏先輩と戦争をしたのでした
先輩方との思い出を振り返ると、涙が出そうになります
私はこのまま自分の部屋で、ゴキブリと食虫植物に襲われて朽ち果てるのでしょうか
もう成香先輩と冒険をする事も、揺杏先輩の作った服を着る事も、爽先輩の思いつきに振り回される事も、誓子先輩の変なまつ毛を眺める事もできないでしょうか
いえ、ここで諦めてはなりません
何とか元に戻り、再び先輩方に会うのです
由暉子は強い子なのです
……
…
・
ひとまず旗を体にくくりつけ、電気スタンドのコードをよじ登り机の上に戻りました
床にいてはゴキブリの襲撃を受けてしまいます
けれど机の上も安心できません。彼らは大空へと羽ばたく翼を持っているのですから
私は色鉛筆を使って骨組みを作り、そこに先ほどの旗を被せてテントを作りました
ベースキャンプの完成です
これで彼らの襲撃を防ぐことができるはずです
そしてベースキャンプを作り終え気がついたら夕方。もう暗くなってしまいます
けれども電灯の紐にも電気スタンドのスイッチにも手が届きません
私は再びラペリングをし、棚からその昔買ったマッチを持って引き返しました
このマッチは、アメリカの映画のように靴の裏で擦っても火がつくらしいです。カッコいいです
ベースキャンプに戻った頃には完全に暗くなっていました
私は鉛筆削りから削りカスを取り出し、マッチで火をつけて焚き火をします
暗闇の中、ぼうっと淡い火に照らされた私の部屋は、パノラマ館のようでひどく幻想的でした
天井に貼った星座も、本当の夜空みたいです
こうしていると、まるで無人島に漂着したロビンソンみたいです
私は踊り続けるダンシングフラワーの傍らでクッキーとチョコレートを食べ、ミネラルウォーターを飲み、焚き火の火を消してテントの中で就寝しました
それにしても、どうしてこんな事になったのでしょうかーーーーーー
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……
…
・
朝目が覚めると、そこは綿の詰まったフカフカのお布団の中ではなく、ハンカチで作ったお布団の中でした
目の前の天井は星座のポスターを貼った天井ではなく、色鉛筆と布の三角屋根です
一夜明け目が覚めたら元に戻っていた。などという都合のいいことは起きなかったみたいです
テントから外に出て、ダンシングフラワーと共に朝日を浴びます
右に目を向けると、本棚の横の棚では、モアイ像が凛々しく佇んでいます。身体が小さくなったおかげで、本物のモアイ像のような迫力を感じます
モアイ像を眺め、とりあえず腹ごしらえを。と思ってクッキーとチョコレートを食べようとした私は、ある事に気がつきました
もう食料がほとんど残っていないのです
一昨日の晩、ツチノコ探しの計画にハイテンションになり、お菓子をばくばく食べた報いです。お恥ずかしい
両親が帰ってくるのは二日後。それまでに保ちそうにありません
なんとか食糧危機を回避する手立てを考えなければならないのです
そういえば、ゴキブリはタンパク質が豊富と聞きました
どこかの国では食用にしているとか
けれど、部屋の中をカサカサ動く黒光りした生き物を狩猟し食べるくらいなら、私は迷わず賽の河原で石を積む道を選びます
ジャングルで草を採るのはどうでしょうか
考えるまでもありません。あの密林は危険すぎます
うーん。と唸っている私の脳裏に、ふと昔の記憶が蘇りました
確か数ヶ月前、お父さんが同僚に貰った海外のお菓子を私にくれました
着色料をこれでもかと使ったようなその毒々しい見た目のお菓子は、見た目に違わずなんとも言えない怪しげな味をしていました
私はちょっと食べて、残りは全てベッドの下の混沌空間へと放り込んだのでした
つまり、あそこには、その食べ残しのお菓子があるはずです
この際、味がどうとか言っている場合ではありません
とうとうベッドの下を探索する時が来たのです
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……
…
・
そうと決まると、私はダンシングフラワーと共にウネウネと踊って気合を入れ、デザインナイフの替え刃をナイフのように構え、目が光る骸骨のキーホルダーをランタンのようにぶら下げ、ベッドの下の探索の準備を整えました
箱が積み重なった入り口は、まるで洞窟の入り口のようで怖気付いてしまいます
けれどもここで怯んでは、私の進むべき道は餓死かゴキブリの餌か食虫植物の養分です
私は意を決し、暗い洞窟へと味を踏み入れました
……
…
・
奥に進むにつれ、通販の空箱から昔放り込んだオモチャはと景色は変わっていきます
小学校の理科の授業で作ったコイル、当時流行った食玩のフィギュア、キーホルダー型の辞書、ポケモンカード……
クラッシュギアを発見した時は、バックトゥザ・フューチャー3で洞窟の中のデロリアンを見つけた時の気分になりました
まるで古代遺跡を探検している気分です
ここはかつて、私のブームを築いた文明の跡地なのです
郷愁的な気持ちになりながら探検をしていると、ガンダムのプラモデルの箱によって作られた曲がり角の向こうから、なんだか奇妙な音がします
恐る恐る覗いた先に広がった光景は、アシダカグモがゴキブリを食べている姿でした
どうやらこの部屋の食物連鎖は、アシダカグモ>ゴキブリ>私>お菓子。となっているようです
まるで怪獣大戦争を見ている気分でしたが、やはり見ていて気持ちのいいものではないので、反対の道を進むことにします
しばらく歩いていると、目の前に井戸を見つけました
どうして室内に井戸があるのでしょうか?
けれどこれは好都合です
ちょうどミネラルウォーターも切れかかっていたので、ここで水を飲むことにします
私は井戸に近づき、井戸の淵に手を置きます
すると、突然井戸の中から黒い長髪を振りかざした女性が飛び出て来ました
どうやらこれはその昔に買った、某わっか映画の大女優である山村ナニガシが飛び出る井戸のオモチャのようです
驚いた私は思わず「あんぎゃあ!」と情けない悲鳴をあげ、踵を返して駆け出しました
迫り来る私に驚いたのか、アシダカグモはゴキブリ以上の速さで逃げ出します
そしてふと気がつくと、あたりは見知らぬ場所でした
どうやら適当に走って道に迷ってしまったみたいです
私はもう、ディセントのようにここから出られないのでしょうか
悲嘆にくれていると、私の前に木でできた箱が横たわっている事に気がつきました
サイズは今の私が入れるほどで、まさしく棺桶のようです
開ければ何か入っているかもしれませんが、二の足を踏んでしまいます
もしかしたらこれはビックリ箱で、今度は佐伯ナニガシが飛び出るかもしれません。二の足どころか同じ轍を踏んでしまいます
ああ、それでもやはり箱を開けたいという好奇心には勝てません。パンドラさんだって箱を開けてしまったのです
おそるおそる蓋を持ち上げ、箱の中を覗き込んだ私の目に飛び込んだのはーーーーーー
「女の子の、人形……」
それは、紫色の毛糸の髪の毛をもち、薄緑色のドレスを着、フェルトで作られた黒い縦長の楕円形の、スマイルマークのような目を貼り付けた、布製の人形
この子の名前はーーーーーー
「マイマイ……」
どうして忘れていたのでしょう
この子は、私が幼い頃にお父さんが買って来てくれたフランス製の手縫いのお人形です
そのマイマイという名前は、私がつけました
小さかった私はこのお人形を大切にし、どこに行くのもマイマイと一緒でした
けれど小学校にあがる頃になり、背伸びをしてオネェさんぶりたかった私は、お人形遊びをやめようと思い、マイマイを箱の中に入れ、ベッドの下奥深くへと封印しました
10年経ち、私が立派なレディになったら、迎えに来る。と約束して
今のいままですっかり忘れていました。ちょうど今、10年経ったのです
私は、自分と同じ大きさとなっているマイマイを抱きしめます
そして、全てを理解しました
これは、見つけて欲しくなかった、ツチノコの呪いではありません
見つけて欲しかった、マイマイの願いなのです
すっかり彼女のことを忘れていた私に見つけてもらうために、私を自分と同じ大きさにしたのでしょう
ごめんね、マイマイ
もう忘れないからね
.
……
…
・
気がつくと、私はベッドで寝ていました
時刻は夕方。黄昏時の淡い光が窓から射し込んでいます
そして、私の身体はーーーーーー元に戻っていました
.
……
…
・
かくして、私の二日間の大冒険は幕を閉じました
翌日、私はベッドの下の古代遺跡の調査へと乗り出しました
ダンボールの箱を崩し発掘していくと、この王国の歴史を刻んできた文明の名残が現れます
これは由暉子王国の考古学研究所を立ち上げねばなりません
そして古代遺跡の奥で、静謐さを放つ棺桶を見つけました
中には、クレオパトラのように衰えない美しさを誇る少女が横たわっています
文献によると、彼女の名前はマイマイ
由暉子王女の、古い友人
彼女の身体は、国宝の並ぶ棚の中央に安置される事になりました
.
……
…
・
由暉子「などという事が先週起きたんです」
成香「素敵なお話です」
成香「それで、この子がマイマイちゃんですね?」
由暉子「はい。そうです」
成香「ところで、なんでマイマイって名前をつけたんですか?」
由暉子「それはーーーーーー」
由暉子「目がマイマイ蛾の幼虫に似てるからですよ」
成香「えぇ……」
カンッ
これで終わり
人形の伏線もなければ特にヤマもオチもない
たまには呪いの人形じゃなくてハートフルな人形の話を書きたかったのと、四畳半王国見聞録に影響されて作りました
そしたら由暉子ちゃんが夜は短し歩けよ乙女の後輩ちゃんみたいになってしまいました
オマケ 前日譚
12月のある日、私は情報屋さんからツチノコの目撃情報を手に入れました
この情報屋さんというのは、信頼のおけるお方です
彼は20半ばのアラサーに入りたてのおっちゃん。しかしその若さにしてマイホームを持つ、一国一城の主です
彼の家は、公園にあるのです
自分で建てたという、ダンボールとビニーシートでできたマイホームに君臨する情報屋さん
北海道の冬の寒気と雪にメゲる事もなく、彼は公園にウエハースような薄っぺらい居を構えています
その家で寒さに耐える姿は高潔さを感じ、公園でひたすらハトの餌を奪い取る仙人的な生き方には韜晦さを感じます
彼が情報通なのは確かで、食べ物か幾ばくかのお金を渡せば、公園で井戸端会議を開く御老婦や女子高生の会話から盗み聞きした噂話等を教えてくれます
ちなみに貰ったお金は、なにやら鉄の球を散らし穴に入れ数字が揃えば数倍になって帰ってくる遊戯に費やしているようです。なんとロマンのあるお方でしょうか
しかし私が膝を詰め、そろそろ夢を追いかけるのはほどほどにし真面目に貯金をしてはどうか。と説教をしても、彼はマンドリンを弾きながら聞こえてないフリをします
形から入らせようと子豚さんの貯金箱をプレゼントしたら、500円貯金を始めることを決めたようです。もっとも、彼の手に500円玉が舞い落ちる事はあまりありませんが
まあ彼のことはいいでしょう
その情報屋さんから、ツチノコの目撃情報を得ました
なんでも、女子高生が冬眠中のツチノコの巣を見かけたそうです
これには私もいてもたってもいられません
すぐさま成香先輩に連絡を取り、一週間後にツチノコ探しの約束を取り付けました
その数日後の夜、私は自分の部屋でツチノコ捜索作戦の作戦図案を描きながら、ツチノコを捕まえたあとの未来を夢想しました
ひとまず成香先輩と共にツチノコを捕獲します
その後はツチノコの第一人者としてワイドショーに引っ張りだこになるでしょう。今のうちにおめかしの練習をし、揺杏先輩に綺麗な服を作ってもらわなければなりません
その後は某国のなんじゃら機関の手を借りてクローン培養をするからにも、雄雌で捕獲できたのなら成香先輩の牧場で 繁殖に励みます
ツチノコを繁殖できたから、ペットとして売り出しましょう
そして資本を稼ぎ、会社を立ち上げるのです
由暉子ツチノココーポレーション(YTC)は、繁殖したツチノコで様々な商品を売り出します
ツチノコの革財布、ツチノコ酒、なんか指に咥えさせると抜けないツチノコ玩具……
そのような商品を売り出しYTCはどんどん大きくなり、いずれ海馬コーポレーション並の大会社になるでしょう
そして私は若き女社長として君臨し、いずれはツチノコ探しの自伝を書き、印税ももらいます
成香先輩の牧場は、ツチノコふれあい広場を作って北海道観光客を寄せ集めるでしょう
ツチノコを捕まえる事ができれば、私の未来は薔薇色に輝くのです
夢がどんどん広がり、思わず机の上のチョコレートとクッキーをばくばく口の中に放り込んでしまいます
机の上ではダンシングフラワーが私の未来を祈ってウネウネと不気味な踊りをしています
夢想にふけっていると、だんだんと眠くなってきました
私は布団の中に潜り込み、明るい未来にうひひと含み笑いをしながら、眠りにつきました
もいっこカンッ!
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