【ガルパン】直撃取材! 大洗優勝の秘訣に迫る! (57)




 「直撃取材! 大洗優勝の秘訣に迫る!」



 以下内容は、飯台出版「月間戦車道」記者C氏が

 『大洗の奇跡』関係者に直接取材を行った記録を文字に起こしたものである。

 

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1489323924



テープ1

取材対象:秋山 優花里

取材地 :大洗女学園学園艦 ブロンズ



 では、早速取材を始めたいと思います。

優花里「はい、よろしくお願いします!」

 緊張していますか?

優花里「少しだけ、あまりこういうのは慣れていませんので」

 ですが、大洗女学園が優勝後は、かなりのインタービューを受けたのでは?

優花里「それは西住殿…、いえ西住隊長が引き受けていましたので。私の様な一装填手はそこまで」

 分かりました。

 今回のインタビューの趣旨はご理解いただけていますでしょうか?

優花里「はい! 何故結成一年にも満たない大洗女学園が、戦車道全国大会で優勝するに至ったのか」

優花里「その秘訣ですよね!?」

 まぁ、当たり体に言えばそうですね。

優花里「それなら勿論、西住隊長がいてからこそです!」

優花里「西住隊長が居なければ、私たちはサンダース戦であっけなく散っていたでしょう」


 大洗女学園には、戦車道経験者は居なかったんですよね?

優花里「はい。私の様な戦車好きや、歴史上の話として戦車に詳しい人材は居ましたが、戦車道となると未経験者ばかりでした」

優花里「そんな私たちを優しく導いてくれたのは西住殿です!」

優花里「戦場では的確な指示、天才的かつ大胆な戦略の実施」

優花里「練習では丁寧かつ的を射たアドバイス」

優花里「指揮官としても、教官としても西住殿は理想的なお人でした!」

優花里「勝利の秘訣と言われるのであれば、西住殿その人の存在が秘訣といっていいでしょう!」

 随分と買っているんですね。

優花里「買っているなんて、とんでもありません!」

優花里「私にとって西住殿は、全てと言っても過言ではありません!」


 しかし、大洗が優勝したのはそれだけではないでしょう?

優花里「それはまぁ、そうですね」

優花里「色々と尖った人材が大洗に集まっていたのは事実です」

優花里「それらが上手く組み合わさったのも、勝利の一つの要員じゃないでしょうか」

 成程、西住みほの存在と卓越した部員、その二つが上手く組み合わさって奇跡が起きたという事でしょうか。

優花里「…それは違いますね、C殿」

 と、いいますと?

優花里「奇跡とは起きるものではありません」





優花里「起こすもの、です」

 



テープ2

取材対象:澤 梓

取材地 :大洗女学園学園艦 ブロンズ


 


梓「よよよ、よろしくお願いいたします!!」

 はい、よろしくお願いします。

梓「すみません! 取材とかそういうの初めてでして!!」

梓「これって、西住隊長の事を聞きに来てるんですよね?」

 いえ、そういう訳ではありません。

 「大洗優勝の秘訣」と題していますので、それ以外でも結構ですよ。

梓「そうなんですか」

梓「でもそう言われても、やっぱり勝因は西住隊長その人にあると私は思います」

梓「戦略、戦術、技術三拍子揃った人は高校戦車道会広しといえど、西住隊長しかいないと思いますから」
 


 成程、やはり随分と西住さんは慕われているようですね。


 しかし、大洗の後継者としては梓さんを推す人が多いと伺いましたが。

梓「ばっ! 嘘でね!!」

 ばっ?

梓「あ、すみません方言です。Cさんが驚かせるようなこと言うから!」

 すみませんでした。

梓「私は隊長っていうような器ではありません」

梓「まぁ車長くらいなら務めあげますけど、それ以上はちょっと」

 謙遜なさらずに。

梓「はぁ、ありがとうございます」

梓「でもやっぱり私は西住隊長の下で戦車道をやりたいんです」



梓「私、西住隊長の為なら何だってできる、そう思うんです」

 



テープ3

取材対象:松本 里子

取材地 :大洗女学園学園艦 ブロンズ


 


 えーと、エルヴィンさんでよろしいんでしょうか?

エルヴィン「はい、普段は松本ではなくソウルネームのエルヴィンで通しています」

 エルヴィン・ロンメルですね。

エルヴィン「はい、私が信奉する戦車乗りの名前です」

 そんな戦車乗りの名前を頂くエルヴィンさんは、戦車道の経験は無かったのですか?

エルヴィン「そうですね、残念ながら以前私が住んでいた地域には戦車道チームが無かったので」

エルヴィン「その代わり、色々な書物で戦車戦術の歴史ばかり読みふけっていた小中時代でした」

 エルヴィンさんの知識は、大洗の作戦立案においてとても重要な役割を示していたと伺っています。

エルヴィン「そういってもらえると光栄ですね」

エルヴィン「しかし、実際に作戦立案の指揮を執ったのは隊長殿です」

エルヴィン「私のような人間は知識はあっても、それをどう活かすかが分かりませんから」


 ところで、エルヴィンさんと言えば車長以外も勤めていましたよね。

エルヴィン「というと?」

 プラウダで、秋山さんと一緒に偵察を行っていたじゃないですか。

エルヴィン「…あぁ、あのことですか」

エルヴィン「別に大したことはありませんよ、ただ行って帰ってきただけです」

 しかし、あの偵察によって大洗は絶望的な状況を打破して勝ち上がれたわけですよね。

エルヴィン「そうかもしれませんね」

 変装をしたと伺っていますが、どのような変装を?

エルヴィン「それは、プラウダの制服を着て…」

エルヴィン「…すみません、あまりあの時の事は覚えていないんです」

 そうなんですか。

エルヴィン「申し訳ありません」



テープ4

取材対象:戦車倶楽部 店長

取材地 :大洗女学園学園艦 戦車倶楽部



店長「へぇ、取材ね」

 大洗女学園の戦車に使用されているパーツは、ほぼここが調達先だと伺いまして。

店長「まぁそうだね、戦車道用品を扱うお店なんて、学園艦じゃウチだけだし」

店長「まぁ元々は学園艦内のタンカスロン愛好者向けのお店だったから、品ぞろえ悪くてさ」

店長「取り寄せの話とかしてるうちに、何だか仲良くなっちゃって」

 それは、自動車部の方々と?

店長「そうだね、ナカジマちゃんとかホシノちゃんとか」

店長「いや、あそこまで息の合ったメカニカルチームはプロの中にも少ないんじゃないかな」

店長「あぁ、でも西住ちゃんなんかもよく来てたよ」

 そうなんですか。

店長「あの娘はしっかりした娘だねぇ」

店長「戦車道だけじゃなくて、タンカスロンの製品なんかもよく見てたよ」


 といいますと?

店長「いや、タンカスロンの製品は戦車道にも使用できる製品が多くてね、まぁ逆はあんまりないんだけど」

店長「何でもアリのタンカスロンだから、面白い製品もたくさんあるんだよ」

店長「西住ちゃんもよくそういうの見てたなぁ」

 例えばどれを見てました? 

店長「えぇっと、まだあるかな。――あぁこれこれ、飛空艇型盗聴器」

店長「これ実際第二次世界大戦にも使われていた代物を、私が作ってみたオリジナル作品」

 へぇ、よく出来てますね。

店長「一応当時の技術で作ってるから、戦車道の試合で使っても問題はない筈だよ」


 筈?

店長「グレーゾーンってこと。貴方もサンダース戦は見たでしょ?」

 あぁ! あの盗聴器って、これなんですか?

店長「そうそう、まぁ作ったのは私じゃないけどね。根っこは同じものだと思うよ」

店長「まさかサンダース大が同じものを使用してくるとはね」

店長「でも、ここで私がこれを展示していたからこそ彼女らもそれに気づけたのかもね」

店長「そう思えば、私も大洗の優勝に少しは貢献できたと思えて鼻が高いよ」



テープ5

取材対象:アリサ

取材地 :サンダース大付属高校 喫茶店


 


アリサ「え? ウチの取材じゃないんですか?」

 申し訳りません、昨年の大洗優勝に関する記事の取材でして。

アリサ「そうですか、まぁいいですよ。月間戦車道、私も読んでるんで」

 御贔屓していただき、ありがとうございます。

アリサ「それで、大洗の何が知りたいんですか?

 大洗対サンダース戦に関してですね。

アリサ「あぁ…、ウチが負けた試合ね」

 あの試合を振り返って、いかがでしたか?

アリサ「厭なところを突いて気ますね」

アリサ「振り返って、と言われましても…」

アリサ「まぁ私の慢心が招いた結果、と一言で表される内容でしょうか」


 あの盗聴器の事ですか?

アリサ「えぇ、安易なものを使ったと反省していますよ」

アリサ「いや、もうちょっと練習時点で使っておけば、あの時みたいに見つからずに済んだのかもしれませんが」

 あれを使ったのは、あの試合が初めてだったんですか?

アリサ「そうですね」

 昔からああいったものを使ってたんじゃないんですか?

アリサ「違いますよ、それは純粋に私の経験と戦略です。馬鹿にしないでください」

アリサ「というか、実は…、私の案じゃないんですよ、アレ」

 といいますと?


アリサ「何時だったっけな? そうそう、オッドボールが来て少し後ね」

アリサ「ウチの一年があれ持ってきたんですよ。戦略に上手く使えるんじゃないかって」

アリサ「最初は反対したんですけど、色々と考えていくうちに使う方向になっちゃって…」

アリサ「私たち名門校って言われていますけど、最近じゃ準決勝止まりになってて」

アリサ「サンダースは優勢火力ドクトリンだ、なんて言ってますけど。それだけじゃ黒森峰やプラウダには通用しないっていうか…」

アリサ「私はケイ隊長の事好きですし、今年は絶対に優勝したかったんです」

アリサ「聞けばあの気球WW2にも使われてたからレギュレーションにも反しない、ってことで」

アリサ「試しに使っちゃおうかな、と」

アリサ「今思えば虫が刺したというか、あの1年が口が上手かったというか…」

アリサ「…そういえば、思い出せないんですよねその1年」

アリサ「何といったってウチは大所帯ですから…、でも本当に思い出せない」

アリサ「地味な感じで、あんまり特徴のない子だったからなぁ…」



テープ6

取材対象:ペパロニ

取材地 :アンツィオ高校 トラットリア


 


 本日はよろしくお願いいたします。

ペパロニ「宜しくっす、Cさん」

 アンツィオの記事でなく申し訳ありません。

ペパロニ「そんな事気にしないでくださいっす。来年はアンツィオの取材が来るよう努力するっす」

ペパロニ「それで、大洗戦に関しての記事でしたよね」

 そうです。

ペパロニ「といっても、あの戦いはウチの自滅って感じでしたけどねぇ」

ペパロニ「ドゥーチェが考えたマカロニ作戦しくじったのは私たちッスから」

 いつもは上手くいっていたんですか。

ペパロニ「そうなんスよ! 練習の時は上手く行ってたはずなんスけどねぇ」

ペパロニ「まぁ本番に弱いのもウチの伝統ッスから」

ペパロニ「ウチとしては2回戦進出しただけで奇跡ッスよ」


 それが無ければ大洗には勝てた?

ペパロニ「いや、それは無いッスね」

ペパロニ「やっぱり戦車の質が違いすぎますから」

ペパロニ「ウチの学校は戦車毛嫌いしてる派閥が多いんで、これ以上は補充も無理そうですし」

ペパロニ「ファッションとグルメには、戦車は必要ないんだとかで」

 そういう校風ですもんね。

ペパロニ「そうっスね、まぁそれを変えようとドゥーチェは頑張ってたんスけど」

ペパロニ「…でも、確かに聞こえたんスよね」

 何が?

ペパロニ「1年の誰かが全部置いちゃえって指示があったって」

 それは無線で?

ペパロニ「そうっスね」

ペパロニ「まぁ犯人捜しなんてする必要はないッスけど」

ペパロニ「最近はそういうのも加えて特訓してるんス」

ペパロニ「Cさん来年は絶対アンツィオの試合を見ててくださいッス!」

ペパロニ「アンツィオは弱くない! いや、強いんッス!!」



テープ7

取材対象:ノンナ

取材地 :プラウダ高校 執務室


 


ノンナ「大洗の試合の事ですか」

 はい、現在特集の為取材を行っていまして。

 前回の全国戦車道大会での試合内容に関して伺いできますでしょうか。

ノンナ「そうですね」

ノンナ「あまり敗戦の事を話すのは私も好きではないのですが」

ノンナ「まぁ、色々と『不測の事態』が重なった故の事態、とでもいえるのではないでしょうか」

 不測の事態、ですか。

ノンナ「貴方、今までの取材で大洗がどのような学校かイメージがついているのでは?」

 まぁ、ある程度はそうでしょうね。

ノンナ「隊長西住みほを筆頭に、素人ではあるものの機転の利いた生徒たち」

ノンナ「彼女らの努力と、西住みほの天才的な指揮能力が重なり、大洗優勝へと導いた」

ノンナ「こんな所でしょうか」

 世間一般のイメージですね。

ノンナ「今回の記事もそういう形で描きたいのであれば、そう書いたらいいでしょう」

 棘のある言い方ですね。

ノンナ「国民の知るべき情報は、知らせるべきものによってコントロールされねばなりません」

ノンナ「私はそういうことを言っているのです」

 先ほど仰っていた『不測の事態』とは何でしょう?

ノンナ「それを聞きますか?」

 是非。

ノンナ「まぁ、これに関しては私たちプラウダの沽券にもかかわる事ですから」



ノンナ「オフレコで、という条件なら」


 …分かりました、オフレコで結構です。

ノンナ「そうですね、話は一昨年の全国戦車道大会決勝戦に戻ります」

ノンナ「大雨に晒された決勝戦の大会で、私たちの戦車の無線だけに、こんな電波が飛んできました」

ノンナ「『取引をしないか、此方のカードはプラウダの優勝だ』、とね」

 それは…?

ノンナ「簡単に言えば、フラッグ車の場所情報の提供ですよ」

ノンナ「あと、フラッグの手前の戦車を撃ち落とすことも条件の一つでした」

 それを飲んだんですか?

ノンナ「勿論」

ノンナ「その時の戦況は泥沼化していましたから、突破口が欲しかったのが事実でした」

ノンナ「まぁ仮に罠だとしても、あの荒れた天候状況では、その状況を突破できると確信していました」

ノンナ「事実彼女、いえ彼かも知れませんが、彼方から提示された位置情報は真実でした」

ノンナ「私たちがあの時、あの場所で勝てた要因はそれにあったのです」


 しかし、取引ということはプラウダ側、いえノンナさん側もカードを切った訳ですよね。

ノンナ「そう、そこなのです」

ノンナ「正直、当時の私にとって相手から要求されたカードが何を意味するのか全く理解できていませんでした」

 というと?

ノンナ「その取引のカードの内容、それは「来年大洗と闘うことになったら、初弾はフラッグ車に当てるな」でした」

 まさか…

ノンナ「まさかこんなところで影響するとは思いませんでした」

 では、あの準決勝でフラッグ車を1発で撃破できなかったのは?

ノンナ「勿論、そのカードの責任をそこで果たしたまでです。あの距離で私は外しません」

ノンナ「次で決めるつもりでしたが、その前にウチのフラッグ車がやられてしまいましたから」

ノンナ「その交渉相手が誰か? さぁ、今となっては興味はありません」

ノンナ「…そうだ、あと一人ご紹介しますよ」

ノンナ「彼女のお話を聞けば、大洗に対する印象が変わるかもしれませんね」



テープ8

取材対象:ニーナ

取材地 :プラウダ高校 執務室


 


ニーナ「あの、ノンナさんに呼ばれてきたんですけど」

 記者のCといいます。今回はオフレコの取材で、ということで。

ニーナ「そうですか、わたすとしては公表してもらってもいいんですけどね」

ニーナ「それで、この間の準決勝のお話ですよね?」


 そうです、まさにその話です。

ニーナ「それに関して私を呼んだということは、つまりあの時の話をしてくれという事でしょうか」

 ノンナさんからはそう伺っています。

 貴方方KV-Ⅱの乗組員と、大洗の秋山・松本2名が接触。

 変装した大洗2名に騙され、情報を引き出されたという、あの時の事です。

ニーナ「あれは騙されたとかそういうのじゃありません!」

ニーナ「あ、あんなこと戦車道であってはいけません!」


 落ち着いてください。

ニーナ「す、すみません…」

 あの時何が起こったのか、教えて頂けますか?

ニーナ「はい、あれは大洗を包囲して、1時間半が立とうとしていた時の事でした」

ニーナ「西から、プラウダの制服を着こんだ二人組が歩いてきました」

ニーナ「私は最初からおかしいと思ったんです」

ニーナ「西の方に展開している部隊はかなり遠くでした」

ニーナ「カチューシャ隊長からは、休んでもいいと言われてましたが普通は何時でも動かせるよう持ち場は離れません」

ニーナ「そしてその二人と話して直ぐに彼女らがスパイだというのは分かりました」

ニーナ「私はアリーナに目配せをして、スパイの存在を周りに伝えるよう指示を出したのですが――」

ニーナ「私はアリーナに目配せをして、スパイの存在を周りに伝えるよう指示を出したのですが――」

 それで?

ニーナ「そのしぐさに気付いたのか、一人がアリーナに近付いて、お腹に一発…」

 暴力ですか?

ニーナ「はい、それでアリーナは気絶」

ニーナ「もう一人の方は殴った方に色々と言っていました」

ニーナ「『こんなのは計画にない』『暴力は戦車道に反する』とか、何とか」

ニーナ「ですが、殴った方が彼女に何か言うと、彼女も黙ってしまいました」

 どちらが秋山さんで、どちらが松本さんか分かりますか?

ニーナ「多分殴った方が秋山さんで、咎めていたのが松本さんだと思います」

ニーナ「そこからの事は、あまり思い出したくはありません」

ニーナ「ですが、『これと同じことを、アリーナ殿にも行いますよ』と言われ、私は落ちました」

ニーナ「ですから、あの包囲戦が破られたのも、フラッグの位置がバレたのも私のせいなんです」


 このことは、誰かに話しましたか?

ニーナ「ノンナ副隊長にだけ」

ニーナ「ですが、副隊長は自分のほかには誰にも離す必要はないと仰っていました」

ニーナ「戦車道を汚すようなことをした、あの秋山という人をわたすは許せません」

ニーナ「来年はわたすが隊長です」



ニーナ「来年は、絶対大洗に勝ちます」


テープ9

取材対象:赤星 小梅

取材地 :黒森峰女学園 戦車道室

 


小梅「はい、大洗女学園と黒森峰女学園との戦いについてですね」

 はい、あと昨年の黒森峰対プラウダの――!

小梅「西住さんは素晴らしい戦車乗りです!」

 …はい?

小梅「冷静沈着、頭脳明晰、実行力もあって容姿端麗!」

小梅「実力だけでなくて家柄も西住流家元となれば、正に戦車道をやるために生まれてきたお方!」

小梅「そんな西住さんに率いられた大洗女学園が優勝するのは明白です!」

小梅「そうそれは定められた優勝だったのです!」


 は、はぁ…

小梅「それに西住さんは、こんな私の命まで救って頂いた」

小梅「そう、私の命はもう既に西住さんのものなの」

小梅「私、西住さんの為なら何でも出来るの!」

小梅「本当は西住さんが大洗に行くって言ったとき、一緒についていきたかったのに」

小梅「私は私の仕事があるから黒森峰に残れって――」

 仕事ですか?

小梅「あ、ごめんなさい。なんでもありません」



小梅「それで、何の話でしたっけ?」
 



テープ10

取材対象:菊代

取材地 :熊本県熊本市 喫茶店


 


菊代「みほ様のお話ですか」

 はい。

菊代「そうですねぇ、私なんかのお話で何かお役に立つことがあるか分かりませんが」

 例えば、姉の西住まほさんの関係ですとか。

菊代「そうですねぇ、小さい頃は仲が良かったのですが」

 といいますと?

菊代「…まぁ、お調べになれば直に分かる事ですしねぇ」

菊代「まほさんが中学生に上がられたころから、西住流でお家騒動が発生しましてね」

 お家騒動ですか。

菊代「はい、所謂後継者争いですね」

菊代「とはいっても、本質はそれを理由にした西住流保守派と革新派の争いでしたが」


 名家ではよくある話ですね。

菊代「保守派は長女であり、しほ様の面影を色濃く持つまほ様を」

菊代「革新派は次女で、あまり西住流に囚われることのない戦車道を取るみほ様を」

菊代「それぞれ担ぎ上げまして、今後の西住流の方針について争いだしました」

菊代「子供なりに彼女らもそれを気にしていたのでしょう」

菊代「昔のように一緒に遊ぶことも無くなりまして…」

 大変だったんですね。

菊代「えぇ、ですがその騒動もひと段落しそうで」

 といいますと?

菊代「結果として良かったのか悪かったのかは分かりませんが」

菊代「一昨年の全国戦車道大会、大洗女学園が優勝したことで、大勢は一気に革新派へ傾きました」

菊代「恐らくは、西住流の次期当主はみほ様に決まりでしょう」


 それは…、確執が取れてよかったですね。

菊代「えぇ、これでまほ様とみほ様が以前のように仲良くなってもらえればと」

菊代「あの頃のようになれればと、私の様ないちお手伝いは思うのです」

 そうなればいいですね。

菊代「えぇ」

 ですが、大洗に西住みほさんが行かれることになったのは驚いたのでは?

菊代「えぇ、それはもう」

菊代「何しろおっとりしたお人ですから、一人暮らしなんて出来るのか気が気でなかったです」

菊代「ですが、いいお友達に巡り合えたようで」

菊代「偶然かもしれませんが、昔のお友達もいらっしゃるようでしたし」

 昔のお友達?

菊代「えぇ、あのM3リーの車長さん」



菊代「あの方、澤さんでしたっけ。昔西住流の道場で見たことがありますよ」



テープ11

取材対象:役人

取材地 :香川県某所


 


役人「よく私の事を見つけましたね」

 色々と記者の繋がりというものがありまして。

役人「はっ! 今更私にコンタクトしたところで、何になるというんですかね」

役人「見てくださいこの執務室」

役人「ほとんど掘っ立て小屋ですよ」

 左遷されたという話は本当だったんですね。

役人「左遷も左遷ですね」

役人「あのプロジェクトが成功すれば、本省の部長ポジションが確約されていたというのに」

 その発端が例の大洗の廃艦騒動だったってことですね。

役人「えぇ、そうですね。とんだ計算違いでしたよ」

 此方の調査によると、廃艦対象は大洗以外にもあったそうですね。

 調べただけでも5艦。

 今回の目的は不採算な学園艦の統廃合でしたが、このリストを見ると大洗以上に赤字の学園艦があります。

 当時の議事を見ると、其方の廃艦がメインだったのを、貴方が強引に大洗へ切り替えたような内容になっている。

役人「そうです、今回の廃艦対象を大洗に決めたのは私です」

役人「それが今回の私の仕事でしたから」

 仕事ですか。

役人「そうですよ、仕事です!」

役人「しかし、どうやら連中にとって私はただの使い捨ての駒でしかなかったようです」

役人「首にならなかったのは、連中の温情なのか」

役人「ただ、これではもう本省の部長どころか、本省に戻る事すら叶いそうにないですが」



テープ12

取材対象:角谷 杏

取材地 :大洗女学園


 

杏「いやー西住ちゃんのこと?」

杏「そりゃ大洗に現れたヒーロー、いやヒロインなのかなー?」

杏「大洗を廃艦から救ってくれたんだからね」

 皆さん同じようなことを言いますね。

杏「そりゃそうだよ、今回の一件は何から何まで西住ちゃんに頼りっぱなしなんだから」

杏「試合での指揮命令はもとより、実質不在のコーチ職も兼任」

杏「いや、本当に西住ちゃんが『戦車道で優勝できれば廃校免れるのでは』って立案してくれた時はどうなることかと思ったよ」

 立案? 立案は貴方がしたのではないんですか?

杏「え? あぁ、実際は西住ちゃんだよ」

杏「なんか取材とかでは、私が立案して無理やり西住ちゃんを巻き込んだみたいになってるけどねー」

杏「本当は全部西住ちゃんが進行してくれたの」

杏「私がやったのなんて、履修科目に戦車道増やして予算大目に割り振ったくらいだよ」

 では、今回の一件は全て「西住さん」が行ったのですね?

杏「うーん、そうだねあの転校生コンビがやったと言ってもいいね」

 転校生コンビ?

杏「そうそう、西住ちゃんと秋山ちゃん!」

杏「西住ちゃんと同じように、秋山ちゃんもも転校してきたばっかりだったの」

杏「でも二人とも息がぴったり合っててね、昔からの知り合いみたいだったね」

 秋山さんの家族は学園艦で床屋を営んでいると伺いましたが――

杏「そうなの? おっかしいなー、履歴書には一人暮らし向けのアパートの住所しか書いてないんだけど」

杏「そういえば、秋山ちゃんも熊本の出身だったよ」

杏「もしかしたら、二人は旧知の知り合いだったのかもね」



テープ13

取材対象:???

取材地 :???


 

???「さてC殿、貴方は何処まで知っているんですか?」

???「いえいえ、答えなくてもいいですよ。その状況じゃ答えられないでしょうし」

???「C殿も聞き込みが下手ですね、こんなにクンクン嗅ぎまわってたら、誰だって怪しく感じちゃいますよ」

???「いや、ジャーナリストという人たちは厄介ですね」

???「点と点だけなら分からない真実も、線にしてたどり着いてしまう」

???「だから私は最初に言ったじゃないですか、奇跡は起きるものじゃなく、起こすものだって」

???「でも、それじゃ納得しない人も多いんですよ」

???「だから、奇跡は奇跡のままにしておく、そうしなければいけなんです」


 センパーイ、ジュンビデキマシター

???「そろそろ時間が迫ってきているようです」

???「この潮流なら、まぁ貴方が日本に流れ着く事は無いでしょう」

???「C殿、恨むならあなた自身を恨んでください」



???「ではまた、今度は地獄でお会いしましょう」


 今回文字に起こしたテープの内、1~12は失踪した記者Cの自宅より発見されたものである。

 13に関しては、先日岩手県釜石市の海岸で発見された男性用コートの中から発見されたレコーダーに残されたものである。


 記者C氏は現在においても行方不明である。




 尚、本件は事件性なしと判断され、現在捜査は行われていない。


 ----END

 恩田陸の「Q&A」にヒントを得て書き上げてみました。
 少し湊かなえの「白雪姫殺人事件」が入ってるかもしれません。
 こういうのをポンポン書けるミステリ作家は尊敬しますね。

 以上、ご拝読ありがとうございました。

まぁ、戦車道やらないで生徒会室呼び出された時の
柚子ちゃんの棒読み具合を考えるとな……

?「良いですか?私、最初嫌がるんで」
?「やり過ぎなんじゃないかって位に追い込んでください。」
?「後、河嶋先輩は終始無能を演じて下さい。」
?「地味だと目立たないんで無駄に勇ましい感じで」

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