あやかし事務所のアイドルさん 番外編① (16)
※注意事項※
このSSはアイドルマスターシンデレラガールズの二次創作です。
続き物ですので、過去作(あやかし事務所のアイドルさん、続、続々、続続々)を先に読んでいただければ幸いです。
登場するアイドルの多くが妖怪という設定になっております。
それでも構わない、人外アイドルばっちこい!という方のみご覧下さい。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1489068127
むかしむかし、九州のとある地域に退魔を生業としている一族がおりました。
その一族でも有数の力を持っている当主夫婦の間に生まれた娘は、両親の武勇伝を絵本の代わりに聞きながらすくすくと育ちました。
自分も大きくなったらおとうさん、おかあさんみたいな立派な退魔師になって困っている人たちを助けるんだ!
そう夢見ていた少女ですが、現実は非常でした。
少女には霊力と呼ばれる力が全くなかったのです。
失意のあまりふさぎ込んでしまった少女でしたが、ある日両親から驚きの事実を告げられます。
少女も大好きなアイドル達の中には妖怪が紛れ込んでいるというではありませんか!
少女はアイドル界を妖怪の手から取り戻すべく奮起しました。
「我、天啓を得たり!」
少女は人一倍正義に敏感で、思い込みがやや激しく、そして厨二病でした。
少々癖は強いものの、少女は持ち前の溢れる魅力とたゆまぬ努力で沢山のファンを得ながらトップアイドルへの道を邁進しています。
「それが今日のライブバトルの相手…†退魔堕天使†蘭子ちゃんです」
あやかし事務所のアイドルさん 番外編①:†退魔堕天使†蘭子ちゃん!
「……すみません、もう一度聞かせてもらってもよろしいでしょうか?」
「【†退魔堕天使†蘭子ちゃん】です」
ライブバトル会場へと向かう車の中、文香はぽかんとしてしまいました。
今日はレッスンがお休みということもあり、文香は先輩たちの応援について行っています。
紗枝・肇・芳乃の三人組ユニット【大和幻想姫】の対戦相手を訪ねたところ、この返事が返ってきたのですから文香でなくてもぽかんとしてしまうでしょう。
「堕天使ということは悪魔な訳で、自分も祓われる存在になってしまうのでは……?」
「深く考えたら負けなのでしてー」
「肇はんも言うとったけど、蘭子はんにはそもそも退魔師としての力はあらへんしなぁ」
「ですがアイドルとしての実力はお墨付きです。気合を入れないと」
「連盟の人らもぎょーさん来らしますから、みっともないところは見せられまへんわ」
紗枝の言葉を聞いて、文香は聞きたいと思っていたことを思い出しました。
「あの、私の初ステージの時にも話題に出ていたと思うのですが、【連盟】とは何なのですか?」
「ああ、あの時はバタバタしていて説明する暇もなかったですからね」
「正式には【退魔師連盟】といいましてー。元々は監視役だったはずですがー、今では熱心なファンの集いのようなものですなー」
「一応うちらが悪させんかちゃーんと見張ってもおるんよ?」
いまいちピンと来ず文香が首をかしげていると、肇が仕切り直してくれました。
「文香さんは退魔師というとどのような方々だと思いますか?」
「退魔と名乗るのですから、妖怪の退治を行っているのではないでしょうか」
「半分正解です。人に害を成す妖怪に彼らは容赦しません。ですがもう半分、人間と妖怪の仲介役という側面もあるんです」
「うちらみたく人間社会で約束事を守って生きとる妖(あやかし)を退治したりすることはあらへんのや。一昔前までに比べて随分穏やかになりましたわぁ」
「ですが、例えばわたくしたちがライブ会場で魅了の術などを使っては大問題ですゆえー、そのようなことが起きぬように連盟の方々が見守っているのでしてー」
「人間と妖怪、両者がアイドルとして活躍出来ているのは連盟の皆さんの協力あってこそなんです。ただ、ひとつ落とし穴がありまして…」
「落とし穴、ですか?」
「幼少期から禁欲的に修行に励まれていた方々にアイドルのステージは刺激が強すぎたようで…」
「熱狂的なふぁんになってしもうた会員はんがぎょーさんおらしましてな。うちらとしてはありがたい話なんやけど、らいぶの度に担当はんを決めるのにえらい揉めるようになったんやて」
「それはまた……」
文香が自分のイメージしていた退魔師との差に少々あきれていると、運転席のプロデューサーも話に入ってきました。
「とはいえ彼らもプロだからな、ルール違反をした妖怪にはしっかりと警告が飛んでくるぞ。っと、そろそろ到着するから降りる用意をしておいてくれ」
ライブバトルが行われるのは、数千人規模の大きなライブホールでした。
文香が三人と一緒に控室で話していると、扉が元気よく開け放たれました。
「煩わしい太陽ね!」
「蘭子ちゃん、おはようございます」
「おはようさんどすー。今日はよろしゅうお頼もうします」
「蘭子は今日も元気そうで何よりでしてー」
「うむ、我が魔力は漲って…む、そなたは?」
「初めまして蘭子さん。つい最近アイドルデビューいたしました、文香と申します。どうぞよろしくお願いします」
「その佇まい…只者ではないようね。我が名は神崎蘭子、しかと覚えよ!」
蘭子も交えてしばらくお喋りをしていた5人でしたが、そろそろ衣装に着替える時間ということで文香は関係者席へと移動しました。
既にライブホールにはお客さんたちが入ってきており、その数に文香はクラクラしてしまいます。
いつかは自分もこんな大きなステージに立てる日が来るのでしょうか。
想像するだけで震えてしまいそうですが、この前のライブでファンから送られた声援を思い出すと、多くの緊張と、少しだけの興奮と、さらに僅かな期待が文香の胸に渦巻くのでした。
そしていよいよライブバトルが始まりました。
先手は紗枝たちのようであり、ステージに立つ三人の色違いの和装衣装がとても雅です。
「今日はライブバトルにようこそお越しくださいました。トップバッターは私たち大和幻想姫が飾らせていただきます」
「わたくしたちの舞を楽しんで頂ければ幸いでしてー」
「それでは聞いておくれやす~。一曲目は大和幻想姫で…【朱隠し】」
袖や扇子をひらひらと舞わせて踊る三人の姿はまるで天女のようでした。
三人の歌声と舞は観客を魅了し、歌が終わると一瞬の静けさの後、歓声と拍手が爆発しました。
身内の贔屓目を除いても素晴らしい一曲であり、文香が勝利を確信していると、三人と入れ替わるようにゴシック衣装に身を包んだ蘭子がステージに現れました。
「流石は我が強敵(ライバル)たち、幻想の響きは天まで届くようだったわ」
「ならば我は地獄の祭壇が奏でる交響曲を送ろう!†退魔堕天使†蘭子、今こそ闇の力を解放せんっ!聞くがよい…【華蕾夢ミル狂詩曲~魂ノ導~】!」
ライブバトルは白熱し、接戦ながらも蘭子の勝利で幕を閉じました。
フィナーレは四人で歌う【輝く世界の魔法】で、禍根を残すこともない人と妖怪との戦いの形は文香には眩しく映って見えました。
歌い終えた四人は降りそそぐ拍手の雨の中、声を合わせて最後の挨拶をするのでした。
『闇に飲まれよっ!!』
以上になります。読んで頂きありがとうございました。
寮のモチーフにした作品に登場する退魔の一族が神崎性だったのでこれは!と電波を受信しました、初の人間アイドルです。
次は遅くなるかもしれませんが、番外編②か肇の前日譚になるかと思います。
ちなみに紗枝・肇・芳乃のユニット【大和幻想姫】は知人の方からユニット名をお借りしました。
非公式ユニットですがデレステなどで並べて踊ってもらうと非常に映えます。ラブレターとかファンファンファンファーレとかお勧めです。
肇さんの公式ユニットが増えることを祈っております。
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