阿笠「できたぞ新一、『エミレオの書』じゃ!」 (6)

阿笠「これは約二百年前、エミレーデ家の第十三代頭首エミュレリオが」

阿笠「流浪の賢者ヨナカンムンの協力の元、九十九体の<異貌のものども>を封じた本じゃ」

阿笠「長らく散逸しておったが、ワシの手元にいくつか集めることができたぞい」

コナン「サンキュ博士!」

阿笠「くれぐれも悪用するんじゃないぞー」

咒式、それは魔法の域まで発達した超科学。

六.六二六〇六八九六三×一〇の負の三四乗(J・s)と定義されていた作用量子定数hを操作し、

局所的に変化させることが可能ならば、Δq・σp+Δp・σq+Δp・Δq≧h/(4π)によって、

熱量と時間の不確定性の積分が作用量子定数hより少なくならない。

また、中間子のエネルギーが陽子や中性子より大きくなる原理と同様に、存在する時間が短いのであるならば、

エネルギーの不確定性、つまり物質の大きさは増大するという原理が導き出せる。

解明された物理干渉能力は、古来より魔法使いと呼ばれるものたちの全ての欺瞞を暴き、

特殊きわまりない才能を持たない人間であっても、学習と訓練、機械の補助によって操ることが可能になった。

超物理現象を頭の悪い<魔法>という名称で呼ぶことは無くなり、

<咒式>という単なる科学技術体系の延長のひとつとして理解されるようになった。

コナン「おっ、いたいた」

コナン「おーい、光彦ー!」

光彦「コナンくんじゃないですか、どうしましたか?」

コナン「殺人作法の十二、私と出会った君は絶対的に殺される」

光彦「え」


コナンの右手が翻る。手には革表紙の書物。錠前と鎖が解除。

エミレオの書が開かれ、〇と一の数列が絡まった二重螺旋の青白い咒印組成式が空中に湧きあがる。

量子的に分解されていた<異貌のものども>が召喚される。

まず現れたのは大量の頭蓋骨、その数は優に百に達する。

髑髏の群れは重力に逆らい空中で停止、白骨の群れがお互いに絡み合い、犇めき合い、融合してゆく。

完成したのは通常の百倍の体積を持つ巨大な髑髏。

遅れて背骨、肋骨、上腕骨、骨盤、大腿骨と次々に形成。

産み落とされたのは王冠を戴く巨大な骨格標本、その眼窩の闇に青白い燐光が燈る。

巨大髑髏の白い指先には骨で構成された柄、その柄の先には白々とした三日月の刃、大鎌が続く。

咒式の存在を前提としてしか存在し得ない生物、人はそれを畏怖と嫌悪を籠めて<異貌のものども>と呼ぶ。

コナン「いけ、<寂寥のクインジー>!!」

光彦「うわあああああああああああああああああああああああああああっ!!!」


巨体が、通常の人間と同じ挙動で動く。

即ちその末端速度は拡大比率に比して莫大な増加を受ける。

光彦の左腕に大鎌が着弾、鎌に咒式が発動。

分子間力のなかでも帯電したイオン間に働く相互作用に干渉し、同種の荷電を発生させて反発。

同時に、フッ素や酸素や窒素など電極陰性度の高い原子に水素が共有結合しているときに極性分子を生じさせているが、水素原子を一よりも小さな正電荷に帯電させ、

付近の他の分子に含まれる酸素など、負に帯電した原子と相互作用を起こし、安定した水素結合そのものを破壊。

二つの作用で対象を分解し、破砕する。

ただの小学生の肉体には過剰な威力が炸裂、熱したナイフでバターを切るように抵抗なく滑らかな断面で上半身と下半身が分断。

腹腔から桃色の腸や赤黒い肝臓を零しながら光彦の上半身が宙を舞う。

上半身がアスファルトに落下、断面から臓器と大量の血液が流出。

下半身も思い出したかのように倒れ、同じく断面から臓器の断片と血液を吐き出す。

黒々としたアスファルトに赤黒い色彩が広がってゆく。

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