穂乃果「美味しくない…」(268)
ラブライブ×東京喰種のパロディ
ほぼ原作と一緒
キャラ崩壊、暴力的な表現注意
東京喰種のキャラが少し出てきます
SS速報に投稿したやつの修正版(喫茶店などの名前変更程度)です
穂乃果「いい天気!」ノビー
私、高坂穂乃果!
オトノキ大学の文学部国文科1年!
穂乃果「あ~」グイッ
穂乃果「友達欲しいなぁ」
大学の友達0人!
#01「悲劇」
穂乃果「…」モグモグ
穂乃果「いやー!今日もパンがうまいっ!」
穂乃果「…」
穂乃果「うん、うまい…」
どうしてこうなったんだっけ…?
──半年前
穂乃果「ねー海未ちゃん!大学どこに行くか決めた?」
海未「ええ」
穂乃果「海未ちゃんもやっぱオトノキ?」
海未「上井です」
穂乃果「えっ」
海未「上井です」
穂乃果「え、えっ?」
海未「かみ」
穂乃果「聞こえてるよっ!!」
穂乃果「上井って…あの上井!?」
海未「ええ、まあ」
穂乃果「結構偏差値高いトコじゃん…」
穂乃果「…って!違うよ!」バン!
穂乃果「一緒にオトノキ大学行こうって約束したよね?」
海未「…しましたっけ?」
穂乃果「…」
穂乃果「…あっ」
海未「…」ジトッ
穂乃果「しっ、したよ!いま!いまじゃダメ!?」
海未「いま、と言われましても…」
穂乃果「えぇ~…なんとかならないの…」
海未「手続きはもう済ませましたし…」
穂乃果「海未ちゃぁん…」
海未「…」フルフル
穂乃果「うぅ…」
穂乃果「第二志望にオトノキ大学書いてないの…?」
海未「第二は…違うところですね」
穂乃果「第三は…」
海未「書いてません」
穂乃果「第よん…」
海未「そこまで決めてませんよ…」
穂乃果「そっ、そんな…」ヘナヘナ
穂乃果「嘘でしょ…?これから穂乃果はどうすればいいの…?」
穂乃果「一人じゃなにも出来ないのに…」ウルッ
穂乃果「うっ、ううううぅ…!」ポロポロ
海未「穂乃果…」
海未「あなた、普段どうやって暮らしているんですか?」
穂乃果「ちぇっ」
海未「…大学で離れ離れになったからといって、連絡を取らないわけでもないし、会えないわけでもないでしょう?」
穂乃果「……」
穂乃果「…ほんと?」
海未「ええ、本当です」
穂乃果「約束だからね」
海未「はい」
穂乃果「絶対絶対約束だからねっ!」
海未「絶対絶対約束です」
穂乃果「毎日電話かけるからね!?」
海未「それはちょっと面倒くさいですね…」
穂乃果「…いまのは言い過ぎたよ」
海未「ふふ」
穂乃果「あはは」
──ていう感じで別々の大学に行ったんだっけ
あの頃は友達が出来ると思ってたのに…
穂乃果(完全にタイミング失っちゃったよ)モグモグ
海未ちゃんと一緒にいる時は友達が少なくてもなんとも思わなかったけど
穂乃果(やっぱりなにか寂しいものがある)
もうヤケになって手当り次第に話しかけちゃおっかな
いや、もう既にグループは出来上がってるはずだし
変な人だって思われる可能性だって高い
穂乃果「…」ゴクゴク
穂乃果(…どうしよう)
「…」スッ
ポンッ
穂乃果「うわっ!?」バッ
「わっ!?」
穂乃果(なっ、な、なに?)
穂乃果(誰かに肩を叩かれたの?…誰に?)
「あ、あの…?」
穂乃果「…」チラッ
穂乃果「…っ!?」
穂乃果(かっ、可愛い!)
穂乃果の肩を叩いたであろう女性は
紫色の髪をしていて、めちゃくちゃ可愛かった
あと胸が大きいなぁ
「──落ち着いた?」
穂乃果「あっ、はい」
「ごめんね、急に話しかけちゃって」
穂乃果「いえ…」
「…」
穂乃果「…」
穂乃果(…話が続かない)
穂乃果(そりゃそうだよね…)
穂乃果(海未ちゃん以外の人と話すの久しぶりだし…)
穂乃果(こういうときはまずなにをすれば…)
穂乃果(ええっと…最近話題になったニュースとか…?)
穂乃果(あー…そういえば最近ニュース見てないや…)
「この場所、好きなん?」
穂乃果「…え?」
「ほら、いつもここでご飯食べてるやろ?」
穂乃果「ま、まぁ…はぃ、あはは」
穂乃果(みっ…)
穂乃果(見られてたんだ…)
穂乃果(早く食べて出来るだ早く離れてたのに…)
穂乃果(まさか見てる人がいるだなんて…)
穂乃果(暇な人もいるもんだなぁ)
「あ、自己紹介してなかったね」
希「ウチ、東條希。君は?」
穂乃果「あっ、穂乃果…高坂穂乃果です」
希「穂乃果ちゃんかぁ、いい名前やね」
穂乃果「そうですか?」
希「うん」
穂乃果「そんなこと言われたの初めてだなぁ…」
希「そうなん?」
穂乃果「はい」
希「ウチはいい名前だと思うなぁ」
穂乃果「あはは…」
穂乃果(この人、どんだけ穂乃果の名前を褒めるの…)
穂乃果(逆にこっちが恥ずかしくなってきちゃったよ)
穂乃果(それにしても…)チラッ
穂乃果(なにを食べたらあんな大きくなるんだろう)
穂乃果(見た感じ穂乃果の倍はありそうだし…)
穂乃果(Fカップはありそうだなぁ)
穂乃果(一度でいいからあそこまで大きくなりたい)ジーッ
希「…?どこ見てるん?」
穂乃果(ヤバッ、ガン見しすぎた!?)
穂乃果「なっ、なんのことですか?」
希「いや、今ウチの」
穂乃果「見てません!見てませんよ!!」
穂乃果「あっ!そろそろ講義の時間だー!」
希「えっ」
穂乃果「それじゃ失礼しますねー!」ダッ
希「穂乃果ちゃ…あっ」
希「…ふふっ」
希「高坂穂乃果ちゃんかぁ」
希「……やね」ボソッ
──喫茶店「ちゅんちゅん」
海未「あなたはなにしにここへ来たのですか?」
穂乃果「えぇっと、勉強、だっけ」
海未「ではあなたがしていることは?」
穂乃果「小説読みながらサンドイッチ食べてま」
穂乃果「まってちょっとまって手を振りあげないで!」
海未「…はぁ」
海未「呆れました」
海未「家では落ち着かないと言うからここに着たのに…」
海未「こっちの方が落ち着いていないじゃないですか!」
穂乃果「いやー、あはは…」
穂乃果「あっ、海未ちゃん!これなんて読むの?」
海未「これはですね…あじさいと読みます」
穂乃果「へー、ありがと」
海未「…あなた何歳ですか?」
穂乃果「19歳です!」
海未「小学生からやり直した方がいいのでは?」
穂乃果「ひっ、酷い!」
海未「事実でしょう?」
穂乃果「うっ、まぁ…そうかも…って違う!」
海未「そういえば…穂乃果」
穂乃果「ん、なーに?」
海未「友達は出来ましたか?」
穂乃果「…」
穂乃果「会うたびにそれ聞くのやめようよ…」
海未「やはり気になるじゃないですか」
海未「穂乃果が大学でどういう生活をしているのか…」
穂乃果(そんなに気になるなら同じ大学にすれば良かったのに)
海未「で、どうなんです?」
海未「今度こそ出来ましたか?」
穂乃果「いやぁ…えっとねぇ…」
海未「…ふぅ」
海未「ダメですよ?自分からも声をかける努力をしなくては」
穂乃果「…はーい」
海未「学生時代の友は一生の友だと言うでしょう?」
海未「友達を作っておいて損はないはずですよ」
穂乃果「わ、わかってるよぉ…」
穂乃果(…海未ちゃんにここまで言われるなんて思わなかったよ)
穂乃果「でもさ、海未ちゃんはどうなの?」
海未「なにがです?」
穂乃果「友達だよ!と・も・だ・ち!」
穂乃果「穂乃果にあんな言うんだからさ…」
穂乃果「当然いるわけだよね?」
海未「…」
海未「さぁ、早く小説をしまいなさい。勉強しますよ」
穂乃果「おいこら」
海未「…なんですか?私だって暇じゃないんですよ」
海未「この後だって講義がありますし」
穂乃果「あれ?でもさっき「今日の分の講義は終わりです」って言ってなかったっけ?」
海未「ふふ…」
海未「私には穂乃果さえいればいいんですよ」ニコッ
穂乃果「海未ちゃん…」
海未「穂乃果…!」
穂乃果「いい話で終わらせようとしても無駄だからね?」
海未「ちっ」
穂乃果「あーっ!いま舌打ちしたでしょ!」
海未「してません」
穂乃果「したよ!いま「ちっ」って言った!」
海未「証拠でもあるんですか?」
穂乃果「証拠…は、ないけど…」
海未「穂乃果の気のせいなのでは?」
海未「第一私が舌打ちなどするはずないでしょ?」
穂乃果「そういえばそうかも…」
海未「そうでしょうそうでしょう」
穂乃果(うーん、なんか丸め込まれたような気がする)
穂乃果「…」
穂乃果(ま、いっか)
──
穂乃果「ふーっ」ノビー
穂乃果「この喫茶店、初めて来たけどすごく居心地いいねぇ」
海未「そうですね。落ち着きます」
穂乃果「サンドイッチもジュースも美味しいし…」
穂乃果「また今度二人で来ようね!」
海未「…ええ。もちろん」
穂乃果「やった!」グッ
穂乃果「…あ、そうだ。ねぇ海未ちゃん」
海未「なんですか?」
穂乃果「このあとなんだけど…」
『次のニュースです』
『28日、高田ビルで発見された遺体を検死した結果』
『喰種による犯行だと断定されました』
『喰種対策局「CCG」の発表によると』
『20区で起きている一連の捕食事件は、単一の喰種によるものとみて捜査体制を整えているとのことです』
『ここで専門家である小倉久志先生にお話を伺いたいと思います』
『はいこんにちは』
穂乃果「…」
また喰種の事件…
今月でもう何回目だろ…?
海未「またこの人ですか」
海未「…相変わらず胡散臭い顔してますね」
穂乃果「え?」
小倉久志…
最近テレビでほぼ毎日見るようになった
喰種の専門家らしい
海未「確か高田ビルってここから近いですよね」
海未「気をつけなくては…」
穂乃果「そうだねぇ」
海未「穂乃果もちゃんと気をつけてくださいよ?」
海未「あなたはすぐに食べられそうです」
穂乃果「うん!…うん?」
穂乃果「え、えぇ…?なんで…?」
海未「最近は部屋にこもりっぱなしで本ばっか読んでいるんでしょう?」
海未「私のようにちゃんと毎日鍛錬をしなくては食べられてイチコロですよ」
穂乃果「部屋にいれば襲われないと思うけど…」
穂乃果「海未ちゃんもたまには本を読んでみたら?」
海未「はあ」
穂乃果「本はいいよ!いつでも好きなときに空想に浸れるわけだしね」
穂乃果「よかったら貸そうか?」
穂乃果「穂乃果がはまってる作者がいるんだけどね…」
海未「あー…長くなりそうなので遠慮しておきます」
海未「本を読むよりも身体を動かすほうが好きなので」
穂乃果「あはは…そういえばそうだったね」
穂乃果「ていうかさぁ
海未「あー…長くなりそうなので遠慮しておきます」
海未「本を読むよりも身体を動かすほうが好きなので」
穂乃果「あはは…そういえばそうだったね」
穂乃果「…」
穂乃果「…ていうかさぁ」
穂乃果「喰種って本当に存在するのかな?」
穂乃果「見たことないし…実感ないんだよね」
海未「いるからこうしてニュースなどになっているのでは…?」
海未「ヒトと同じ姿でヒトのような生活をする」
海未「そしてヒトを食べる…」
海未「それが喰種というものなんでしょう?」
海未「さっきもテレビでそう言ってましたし」
穂乃果「ヒトと同じ姿で…ヒトのように…かぁ」
穂乃果「でもさ、海未ちゃんだって見たことないでしょ?」
海未「…」
海未「…あなた、気づいていないのですか?」
穂乃果「え?」
海未「一番身近な喰種に…ふふっ」
穂乃果「……」
穂乃果「海未ちゃん…」
穂乃果「そんな変なこと言っちゃって…」
穂乃果「第一さ…何年一緒にいると思ってるの?」
穂乃果「もし海未ちゃんが喰種だとしたらとっくに気づいてると思うけど…」
海未「ふふふ…わかってませんねぇ、穂乃果は!」
海未「私の真の姿は…」
穂乃果「あーうんそっか。はいはい」
穂乃果(またこじらせちゃったのかなぁ)
──5年前
穂乃果「海未ちゃん?なにそれ?怪我?」
穂乃果(眼帯をして右手に包帯巻いてる…)
海未「ええ、まぁ…そんなとこでしょうか…」
海未「…ッ!」
穂乃果「どうしたの?」
海未「く…ッ、右手が…疼くッ!」
海未「まっ、まさか…もう奴らが…」
穂乃果「は?」
海未「暗黒竜を…いやしかし…」
海未「どうすれば…!!」
穂乃果「?? 右手とか暗黒竜とか…なんのこと?」
海未「…穂乃果には話しておきましょうか」
海未「実は私、園田海未は…」
海未「選ばれし存在なのです!」
穂乃果「えぁ?」
海未「どうしたんですか」
海未「カエルを踏み潰したような顔をして」
穂乃果「あっ、いや…」
穂乃果「えっと…その、選ばれし存在ってなに?」
海未「ふふ…聞きたいですか?」
海未「しょうがないですねぇ、穂乃果には特別に教えてあげましょう」
海未「私の右手には暗黒竜が封印されていて…」
海未「その封印を解くと私は…」
穂乃果「やっぱいいや」
穂乃果(──あれから5年が経ったけど…)
穂乃果(…ん~)
穂乃果(まさか再発とかじゃないよね?)
穂乃果(この年で暗黒竜とか恥ずかしいし…)
穂乃果(前だって高校のときにあのことを話したら、柱に頭を叩きつけてそのあとはベッドで転がってたしなぁ)
穂乃果(「なんでそのことを覚えているんですかぁぁぁ!?」とか)
穂乃果(「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃぃ」とかも言ってたっけ)
穂乃果「…ぷっ」
穂乃果(思い出したらなんか笑えてきた…)プルプル
海未「…穂乃果?」
穂乃果「くッ…くふっ…な、なに?」
海未「なにやら震えていますが」
穂乃果「いや…なんでもないよ…うんっ…っく!」
海未「? はあ」
穂乃果(ぷくく…笑ったら変に思われるよね)
穂乃果(耐えろ耐えろ…)
穂乃果(そうだ、なにか別なことを…)
穂乃果「…」
穂乃果(…ん?)
穂乃果(そうえば穂乃果…)
穂乃果(喰種、前に見たような…?)
──カランカラン
海未「いいですか?ここをこうすれば解けます」
穂乃果「へー…」カリカリ
穂乃果「海未ちゃんって頭いいよね」
穂乃果「羨ましいなー」
海未「そうですか?」
穂乃果「うんうん!」
海未「…穂乃果も小学生くらいまでは頭良かったですよね」
穂乃果「そうだっけ?」
海未「その頃はいつも満点だったじゃないですか」
穂乃果「うーん、忘れちゃった」
海未「…そうですか」
海未「中学になったあたりから急激に成績落ちてましたよね」
海未「その頃って確か…」
穂乃果「…」
海未「あっ…す、すみません!そんなつもりじゃ」
穂乃果「わかってるよ、気にしないで」ニコ
海未「…穂乃果」
穂乃果「…勉強したらまたお腹すいちゃったなぁ」
穂乃果「海未ちゃんもなにか頼む?」
海未「あ、いえ…私はもうお腹いっぱいなので」
穂乃果「そっか」
穂乃果「すいませーん!」
「はい」
穂乃果「えーと、このフルーツサンドと…」
穂乃果「あ、あとジュースのおかわりください」
「…」カキカキ
「少々お待ちください」ペコッ
穂乃果(赤い髪の女の子…高校生くらいかな?)
穂乃果(名前は…)チラッ
穂乃果「…」
穂乃果(西木野真姫…)
穂乃果(おおっ…お姫様みたいな名前だ…)
穂乃果(もしかしてどこかのお嬢様だったり?)
穂乃果(…いや、お嬢様なら喫茶店でバイトしないよね)
「穂乃果ちゃん?」
穂乃果「?」パッ
海未「…」ピクッ
穂乃果「あっ」
穂乃果(とっ、東條希さん!?)
希「やっぱり穂乃果ちゃんやったね」
穂乃果「なんでここに…?」
希「んー、この喫茶店はお気に入りでね」
希「本を読みながらまったりしたいときによく来るんよ」
穂乃果「へぇ…」
希「穂乃果ちゃんもよく来るん?」
穂乃果「いえ、ここに来るのは初めてです」
希「そっかー、いいとこでしょ?ここ」
穂乃果「はい!食べ物も美味しいし…」
希「ところで…隣の子はお友達?」
穂乃果「はいっ!小さい頃からの親友なんです」
希「へー」
海未「…」
海未「園田海未と申します。以後お見知りおきを」
希(お見知りおき…?)
希「ウチは東條希です。よろしくなー」スッ
海未「…ええ、こちらこそ」ニコッ
希(…あらあら)
希「…っと、ここ座ってもいい?」
穂乃果「穂乃果はいいけど…海未ちゃんもいい?」
海未「…構いませんが」
希「ほんと?ありがとーな」ストン
海未「…」
穂乃果(…海未ちゃん?)
あれ…どうしたのかな?
希さんが来たときからなんか、顔色が悪いというか
顔がこわばってるというか…
海未「…」
海未「…すみません。そろそろ用事があるので失礼します」
穂乃果「えっ、用事?」
海未「はい」ゴソゴソ
海未「お金、ここに置いていきますね」
穂乃果「ちょ…海未ちゃん?用事って…」
海未「…」チラッ
海未「あとは二人で楽しんでくださいね。では」ペコッ
カランカラン
穂乃果「…??」
希「ありゃ…嫌われちゃったんかな…」
穂乃果「えっ…と、海未ちゃんがごめんなさい!」
穂乃果「いつもはあんな態度とらないんだけど…」
穂乃果「なんか今日は期限が悪かったみたいで…」
穂乃果「な、なんでかな…はは、あはは…」
希「そっか…」
希「…ふふ、いいんよ。慣れてるし」
穂乃果「…え?」
穂乃果(慣れてるって…どういうこと?)
穂乃果(……)
真姫「…お待たせしました」
真姫「フルーツサンドとオレンジジュースです」コトッ
穂乃果「あっ…どうも」
希「真姫ちゃーん、ウチはコーヒーお願いなー」
真姫「…少々お待ちください」
真姫「…」ペコッ
真姫「……でよ」
穂乃果(…あれ?いまなにかボソッと)
真姫「…」スタスタ
穂乃果「お店の人と仲良いんですか?」
希「そうやねぇ…まぁ、そこそこかな?」
希「週に3回くらに来るから自然と仲良くなった感じやね」
穂乃果「なるほど」
希「…!」
希「あれ?穂乃果ちゃんも読むん?鷹苑作品」
穂乃果「え、ええまあ。好きなんです」
希「へぇ、ウチも鷹苑センセイの小説好きなんよ」
穂乃果「奇遇ですね!」
希「ふふ、そうやねぇ」
希「…あっ、そうだ」
穂乃果「?」
穂乃果「──みたいな感じで今度の日曜日、一緒に本屋に行くことになったんだー」
穂乃果「それでね、希さん穂乃果が知らない本もたくさん知っててね…」
穂乃果「それに希さんは話も面白くて…」
穂乃果「…?」
穂乃果「…海未ちゃん?聞いてる?」
海未『…はい、聞いてますよ』
穂乃果「よかったぁ、なんか途中から無言になったからなにかあったのかなって思って」
海未『ふふ、大丈夫ですよ』
穂乃果「あっ、あとね!読書の趣向も似てるんだよね」
海未『なるほど…たかその…なんとかでしたっけ?』
穂乃果「うん!鷹苑アコさん!」
海未『…なんか変わった名前ですね』
穂乃果「そうかな…?まぁ、ペンネームだと思うけど」
海未『でしょうね』
穂乃果「あはは…」
海未『…』
海未『穂乃果』
穂乃果「んー?」
海未『…あの人とはあまり仲良くしない方がいいと思います』
穂乃果「えっ、急にどうしたの?」
海未『……とにかく、会うのはやめたほうがいいです』
穂乃果「えぇ…?そんなこと言われても困るよ…」
穂乃果「海未ちゃんだって友達は作っておいて損はないって言ってたじゃん」
海未『たしかに言いましたけど…』
穂乃果「なら別にいいでしょ?」
海未『しっ、しかし…』
穂乃果「誰と仲良くしようが穂乃果の勝手だよね?」
穂乃果「もしかして海未ちゃん…嫉妬してるの?」
海未『は…?』
穂乃果「だってそうでしょ?穂乃果が希さんと仲良くするのを嫌がったりさ」
海未『私はただ心配を…』
穂乃果「はぁ…」
海未『ほ、穂乃果?』
穂乃果「海未ちゃんは穂乃果の母親かなにかなの?」
海未「…!」
穂乃果「いつも余計なお世話ばっか焼いて」
穂乃果「いい加減迷惑なのっ!!」
海未『ぁ…えと、す、すみませんでした…』
海未『わっ、わたしは…』
海未『…』
海未『ごっ、ごめんなさい…』
海未『……失礼します』プツッ
穂乃果「…」
──日曜日・オトノキ書店
希「穂乃果ちゃんは普段どんなの読むん?」
穂乃果「んー…鷹苑さんの作品はもちろん」
穂乃果「ファンタジーやミステリー、あとホラーとかも好きかなぁ」
希「へぇ…」
穂乃果「希さんは?」
希「ウチ?ウチはねー」
穂乃果「…」
『…あの人とはあまり仲良くしない方がいいと思います』
『……とにかく、会うのはやめたほうがいいです』
穂乃果(…あれはどういうことだったのかな)
希さんは悪そうには全然見えないし
むしろ優しいくらいで…
穂乃果(でも…)
穂乃果(海未ちゃんがあんなことを言うなんて…)
穂乃果「…」ギュッ
穂乃果(…それとは別に、あとで謝らなくちゃね)
穂乃果(海未ちゃんにあんなこと言っちゃったし…)
穂乃果(穂乃果こそ海未ちゃんのこと、なにも考えないで…)
穂乃果(…いつも世話ばかり焼いて)
穂乃果(…いい加減迷惑?)
穂乃果(穂乃果は何様なの…?)
穂乃果(いっつも自分から海未ちゃんに頼ってたくせに…)
穂乃果(最低だね、穂乃果…)
穂乃果(…うん、帰ったら謝らなくちゃ)
希「おーい、聞いてる?」
穂乃果(ヤバッ、聞いてなかった…!)
希「なにか考えごと?」
穂乃果「あっ!いや、なんでもないです!なんでも!」
──
穂乃果「鷹苑さんの背景カフカ!」
穂乃果「手紙の書き手の正体に気づいたときにはビックリしましたねー」
希「ああ…すごくわかる!」
穂乃果「希さんの一番のオススメはなんですか?」
希「あっ、ウチ?なにかなぁ…」
希「「インダストリアル」みたいな密室の騙し合いも好きやし」
希「「おとし箱」の怖い中にも父親を求めてしまう悲しさも綺麗で…」
希「でも、いまの一番は「黒山羊の卵」やね」
穂乃果「黒山羊の卵…」
希「殺人鬼の母親「黒山羊」とその娘の業みたいな部分に共感するというか…」
希「血とか、環境に抗えないんやなぁってすごく考えたりしてね…」
穂乃果「ふむふむ」
希「鷹苑センセのインタビューによると」
希「谷の時期を乗り越えて、この第七作を執筆したみたいやし!」ズイッ
穂乃果「…!」チラッ
穂乃果(たっ…谷の…谷間…!!)
希「? 穂乃果ちゃん?」
穂乃果「…!あ、いや…あっ」
穂乃果「た、食べないんですか!?サンドイッチ…」
希「ちょっとお腹いっぱいで…よかったら食べる?」
穂乃果「えっ…あ、じゃ、じゃあ…いただきます」スッ
希「どうぞー」
穂乃果(残すの勿体ないし…うん)パクッ
穂乃果「…」モグモグ
希「美味しい?」
穂乃果「はい!とっても美味しいです」
穂乃果「…」
穂乃果(…お腹いっぱい?)
──
希「…今日は楽しかったよ。ありがとね」
穂乃果「穂乃果も楽しかったです!」
穂乃果「…」
穂乃果「あっ、あの…」
希「?」
穂乃果「暇なときとか…またどこか行きませんか?」
希「…!」
穂乃果「あっ…め、迷惑だったらごめんなさい…!」
希「ウチ…こうやって友達と出かけるの初めてで…」
希「…」
希「穂乃果ちゃんがよかったら…また…」
穂乃果「──あ、じゃあ穂乃果こっちなので…」
希「……」
希「……あ」
穂乃果「…?」
希「えっと…その、ウチの家…事件があった場所に近くて…」
穂乃果「?」
希「…」
穂乃果「…」
穂乃果「ああっ!」
穂乃果「そこを通るのが怖いってことですか?」
希「…」コクッ
穂乃果「…よしっ!大丈夫!穂乃果が送りますよ!」
希「え?」
希「で、でも…それだと穂乃果ちゃんが…」
穂乃果「大丈夫です!」ビシッ
穂乃果「こう見えても穂乃果、剣道習ってました~!」
穂乃果「めちゃくちゃ強いんですよー!」
──
希「それじゃあ、剣道で何度も優勝したん?」
穂乃果「はい!高校のときに三連覇しました!」
希「すごいやん!」
穂乃果「えへへ…なんか照れるなぁ」
希「いまはもうやってないの?」
穂乃果「大学に入ると同時に辞めちゃったんです」
穂乃果「昔から本が好きなのもあって、いまは文芸部に」
希「そっかー」
希「穂乃果ちゃんが本を好きになったキッカケってなにかあるん?」
穂乃果「んー…なにかなぁ」
穂乃果「穂乃果、母子家庭でお父さんを早くに亡くしちゃって…」
穂乃果「お母さんは朝から晩まで穂乃果たちの為に働いてて…家では一人のことが多かったんです」
穂乃果「お父さんの部屋に行くとたくさんの本が残ってて、付箋があったり赤線が引いてあったり…」
穂乃果「寂しかったのもあると思うけど…」
穂乃果「本を通してお父さんがどんな人だったのか、知りたかったのかも」
希「いまはお母さんと?」
穂乃果「ああいや、いまは一人で暮らしてます」
希「そうなんや…」
希「…」
希「…ウチも家が複雑でね」
希「親に反発することも多くて…」
希「家出したことだってあるんよ?」
穂乃果「い、家出…!そうは見えないなぁ…」
希「ふふ、そう?」
穂乃果「はい!」
希「穂乃果ちゃんの気持ち…わかる気がする」
穂乃果「…え?」
希「…穂乃果ちゃん」
希「ウチ、大学でずっと見てたんよ」
穂乃果「…!」
穂乃果(穂乃果のことを…ずっと見てた?)
希「もっと…知りたいなぁ」スッ
穂乃果「!!」
穂乃果(えっ、えええ!!?顔が近い…!)
希「あなたのこと…」
穂乃果「の、希さん…」
希「あなたの──」
希「──味」ガブッ
穂乃果「…」
ズキッ
穂乃果「…?」
ズキッ
穂乃果「…へ?」スッ
ヌルッ
穂乃果「ヌル…っと?え、ぁ…血?」
なんで…
希「ふふっ」
なんで…?
希「ごめんなぁ?穂乃果ちゃん」
穂乃果の肩から血が…??
穂乃果「…ひっ」ドサッ
穂乃果(肩が…痛い、ズキズキする…)ググッ
穂乃果(なっ、なにが起きたの…?)
穂乃果「はっ、は…ッ」スッ
穂乃果「…!!」
穂乃果(かっ、肩の肉が…抉れてる?)
希「やっぱり…想像以上やね」
穂乃果「へっ…」
希「他の人間よりずーっと…」スッ
希「美味しいわぁ」ペロリ
穂乃果「…?」
穂乃果「目が…赤…?」
希「穂乃果ちァん…」
希「ふふ、素敵な表情やね…」ズグ
希「もっと見せて欲しいなァ?」バキキキキキ
穂乃果「あ…ぁ、あっ…」
穂乃果「うわあああああああぁっ!!」ダッ!
希「…んー?鬼ごっこ?面白そうやん♪」
穂乃果「あああぁぁ…ぁ、ぇ、えっ…!?」
なにあれ…なにあれ、なにあれ?
背中から変な赤いのが出てきたよ…!?
穂乃果「はっ、はっ…ひいぃ」タッタッタッ
背中から変なのが出てきて…穂乃果の肩の肉を食べた…?
なんで…どうして…??
食人鬼?
人を食べるのが好きな人??
いやそれだけならあれのせつめいがつかあい
おちつけ
おちつけ…落ち着け!!
こういうときこそ冷せいに判断しなくちゃ!!
『ヒトと同じ姿で、ヒトのような生活をする』
『そしてヒトを食べる…』
穂乃果「…っ!は、はっ…はっ…!」
『それが喰種というものなんでしょう?』
穂乃果「にっ、逃げないと…!」
喰種…あれが??本当に人間そのも
ヒュッ!
穂乃果「うひゃ…!!」ズルッ
穂乃果「いっ…!」ドサッ
希「クスクス」
穂乃果「…!!」
希「足速いなぁ♪ふふ、ウチのことエロい目で見てたくせに」
穂乃果「…っ!!」ダダッ!
希「やーん♪待ってぇな~」
穂乃果「はぁ、はぁはぁはぁ…」
穂乃果(だめだ…捕まったら死ぬ…)
穂乃果「ううぅ…」
穂乃果(きっと希さんは遊んでるんだ…!)
穂乃果(すぐにでも捕まえられるのに…)
穂乃果(さっきだって足を引っ掛けて転ばせたりして…)
穂乃果(きっと穂乃果が逃げ惑ってるのを嘲笑って…)
穂乃果(希さんはこの状況を愉しんでる…!)
穂乃果「…っ」
穂乃果(どうする…?戦う…?)
穂乃果(穂乃果は剣道で三連覇してるし本気を出せば…)
穂乃果(いや…多分無理だ)
穂乃果(穂乃果は決められたルールの上でしか試合をしたことをしたことがない…)
穂乃果(こんな人間じゃないやつと戦って勝てるはずないよ…!!)
穂乃果(とっ、とりあえず人に助けを…!)
穂乃果「…!」ザッ
穂乃果(なんとか…大通りに…)
穂乃果「ぁ、あれ?」
穂乃果「いっ、い、いきどま…」ガシッ
穂乃果「…へ?」
えっ…なに?なにかに足を掴まれた感覚が
ズルズルズルズル
穂乃果「いッ…だぁ!!?」ガリガリガリ
ヒュ
穂乃果「…っあ!」
希「つーかまえた♪」
穂乃果「あっ、あ…ぁ」
希「鬼ごっこ、ウチの勝ちやね♡」
穂乃果「ひっ…あ、ああぁ…」バタバタ
希「…ふふ、恐怖で「あぁ」しか言えないん?」
穂乃果「いっ、いや…」
希「ほんっとに穂乃果ちゃんがバカでよかったわぁ」
穂乃果「…?」プラーン
希「普通、ほぼ初対面の人と一緒に出かける?」
希「ウチなら警戒するけどなぁ?」ヒョイッ
穂乃果「うぁ」グラッ
希「あははっ、楽しいわこれ」ブンブン
穂乃果「うっ、あっ…やめっ」
穂乃果(おえ…振り回さないで…)
穂乃果(ぎもぢわる…)
希「…穂乃果ちゃん」
希「ウチなぁ、「黒山羊の卵」でとーっても好きなんですシーンがあるんよ…」
希「殺人鬼の母親がァ…」
希「逃げ惑う子供の臓器をぜーんぶ引きずり出しちゃうところ♡」
穂乃果「やっ…やだ…やめてっ…」
希「ふふ」ニコニコ
穂乃果「はなして…」
希「ウチ、あの部分…何回読んでも…」ズグ
穂乃果「いや…いやっ」バタバタ
希「ゾクゾクしちゃうの!!」ヒュッ!!
ドスッ!!!
穂乃果「ううううぅぅぅ…ぁああああああッ!」ビチャッ
いたい…
希「あははははははっ!!」
おなかが…
穂乃果「ごっ…ひゅ、ヒュー…」
いっ、息ががが
穂乃果「…ぅあ」
希「やだやだやばいやばいすっごい可愛いなぁ」
穂乃果「ごほっ…ぇぁ」
希「あかんわすぐ殺しちゃいそう」スッ
ザシュ
穂乃果「うああっあぁぁああいいうういいい!」
希「もっとちょうだい!もっともっともっと!!」ブンッ!
お腹が痛い…
なんで…こんなことに…?
穂乃果はただ…仲良くしたかっただけなのに…
希さんと…
出かけたり…ほんの…話を…
ああ…
もう意識が…
ほのか…まだ…
『こんにちは、二人でなにしてるの?』
『砂場であそんでるの!』
『楽しそうだね!私も混ぜてもらっていい?』
『うん!』
『うみちゃんは?』
『わたしもかまいませんよ!』
『えへへ、ありがとね』
『君たちはお名前なんて言うのかな?』
『わたしはほのか!』
『そのだうみです』
『へぇ、ほのかちゃんとうみちゃんかぁ』
『おねぇちゃんは?』
『あっ、私?』
『私の名前はねー』
『───って言うんだ』
なつかしい…ほのかが、よう稚園のときの…
あはは…いまのは…走馬灯ってやつ…かな?
死ぬ間際に見るってやつ…
ずっと迷信かとおもってたけど…
ほんとうだったんだ…
じゃあ…ほのか…
穂乃果「…がっ」ドォン!
叩きつけられ…
穂乃果「うっ」ドサッ
あぁ…だめだ
そん、な…ほのか、まだ…
穂乃果「」
希「……えっ?嘘、死んじゃったん?」
希「まさかたったあれだけで死ぬなんてなぁ…」
希「穂乃果ちゃんには刺激が強すぎたんかな…」
希「言えでゆっくり…って思ったけど」
希「アカンなぁ、ウチ。繊細なのって難しいわ」
グラグラ…
ヒュオオオオオオッ…
希「…」チラッ
希「あら?」
ドスン──
「──なに…?」
『腹部の損傷が激しい!』
「あれ?ここは…どこだろう」
『臓器の移植が必要だ…!』
「臓器、移植?」
『しっ、しかし提供できるものが…』
「…」
『この子のものをつかう…』
「一体なんの話…?」
『先生!?そんなこと…』
「なんか…」
『遺族に同意をとる時間はない!』
「考えるのがめんどうになってきちゃった…」
『すべて責任は私がとる…この子の臓器を彼女に!』
「──…」ギュッ
わたしは…
小説やアニメの主人公でもなんでもない
どこにでもいる、平凡な大学生だと思う
だけど
もし、仮にわたしを主役にひとつ
物語を書くとすれば…
穂乃果「…」
ピッ…
それはきっと──
ピッ…ピッ…
穂乃果「…んっ」パチッ
ピッ…ピッ…
──「悲劇」かなぁ
穂乃果「…」ギョロッ
#02「味覚」
穂乃果「ぱくっ」
穂乃果「モグモグ」
穂乃果「…」
穂乃果「マズッ!!」
絶対腐ってるよコレ!!
穂乃果「はぁ…」カチャ
穂乃果「うーん…?」パクッ
穂乃果(焼きジャケってこんな味だったっけ?)モグモグ
穂乃果「…おえっ」
穂乃果(生ゴミでも食べてる気分だよ…)
穂乃果(…いや、食べたことないけど)
穂乃果(味噌汁はー…)ズズッ
穂乃果「~~っ!」バンバン!
穂乃果(機械油…っ!)バッ
穂乃果「んぐんぐ」ゴクゴク
穂乃果「…っはぁ~」コトッ
穂乃果「ふぅ…」
穂乃果「…」チラッ
病院食はカロリーを考えて作ってあって…
非常に体にいいものが多い
ご飯に味噌汁、焼きジャケ、豆腐、それに海苔…
普段の穂乃果なら美味しいって感じるものだけど…
穂乃果「…」パクッ
穂乃果「──ッ」
ご飯は口の中で糊でもこねてるみたいで
焼きジャケはものすごく生臭い
味噌汁は濁った機械油のようで
豆腐の食感は動物の脂肪を練り固めたような感じだし…
要するに、めちゃくちゃマズイ
穂乃果「…うぷ」
穂乃果(味を思い出しただけで気持ち悪くなってきた…)
穂乃果「…」ゴクゴク
穂乃果「ぷはぁ…」コトッ
穂乃果(…水は普通なんだけどなぁ)
ガラッ
「高坂さーん、診察の時間ですよー」
穂乃果「あっ」
「…あれ?全然食べてないじゃないですか」
穂乃果「えっと…あの、ちょっと味が…」
「味?」
穂乃果「その…腐ってません?」
「え?」
穂乃果「ああっ…いや…!」アタフタ
「ちょっと失礼しますね」パクッ
穂乃果「…!」
たっ、食べ…
「ん~…?」
「特にいつもと味は変わりませんよ?」
穂乃果「えっ」
穂乃果「あっ、あー!じゃあ勘違いかも…!」
「ちゃんと食べなきゃ治りませんからね?」
穂乃果「はーい!」
穂乃果(…おかしいなぁ)
──
嘉納「…ふむ、素晴らしい回復力だ」
嘉納「これならあと二週間ほどで退院できると思うよ」
穂乃果「そうですか…」スッ
嘉納「…そういえば、高坂さん」
穂乃果「はい?」
嘉納「病院食…口に合わなかった?」
穂乃果「へっ」
嘉納「看護婦から、君があまり食事をとっていないと聞いてね」
穂乃果「あっ…いや」
穂乃果「…」キュ
穂乃果「…味覚が、変なんです」
嘉納「味覚が?」
穂乃果「どれを食べても美味しく感じなくて…」
嘉納「精神的なものかもしれないね」
嘉納「あれだけの事故だったから…」
穂乃果「…」
嘉納「焦らなくてもいい。ゆっくり治せばいいんだから」
穂乃果「…はい」
嘉納「あ、あと免疫抑制剤を飲むのを忘れないようにね」
穂乃果「あはは…わかってますよ」ニコ
──ほんとうに
時間が経過するほど…
あの日の出来事が
『あなたの──味』
『ごめんなぁ?穂乃果ちゃん』
『美味しいわぁ』
『ふふ、素敵な表情やね…』
『もっと見せて欲しいなァ?』
穂乃果「…」グシグシ
全部夢だったんじゃないかって思えてくる…
でも…──
穂乃果のお腹にあるこの傷が…現実だって証明している
穂乃果「──んーっ…」ノビー
穂乃果「やっと隊員だよ…」グイッ
穂乃果(一ヶ月くらい入院してたからなぁ)
穂乃果「…」
穂乃果「…はぁ」
病院食はとても食べられたものじゃなくて…
でも…なんでかな?
ここ一ヶ月くらいはずっと水ばっか飲んでたんだけど…
不思議とお腹はすいていない
約一ヶ月、ほぼなにも食べてないのに…
むしろ食欲は減る一方で…
穂乃果「どうしちゃったのかな…穂乃果…」
穂乃果「…?」~♪~♪
穂乃果(メール…)スッ
『退院おめでとうございます』
『体調はどうですか?』
『あの喫茶店に行きましょう!』
『奢りますよ!』
『お店の前で待っているので早く来てくださいね』
穂乃果「海未ちゃん…」ウルッ
穂乃果(そういえば看護婦の人が、お友達が何回もお見舞いに来てくれたって言ってたっけ)
穂乃果(面会謝絶だったから会えなかったけど…)
穂乃果「…よしっ」ゴシゴシ
海未「──あっ、穂乃果!遅いですよ!」
穂乃果「ごっ、ごめん!病院から遠くてさ…」
海未「ふふっ」
穂乃果「?」
海未「元気そうでよかったです」
穂乃果「…!」
穂乃果「そうかな…?えへへ」
海未「ええ。…では行きましょうか」
穂乃果「うんっ!」
穂乃果「今日はいっぱい頼んじゃおっかなー!」
海未「…食い逃げでもしますか」ボソッ
穂乃果「えっ」
穂乃果「ちょ、ちょ、海未ちゃん」
海未「なんですか?」
穂乃果「さっき食い逃げって…」
海未「……」
海未「冗談ですよ。やだなぁ」
穂乃果「いまの間はなに?」
海未「そんなつまらないことを言わずに中に入りますよ!」ガチャ
穂乃果「あっ!まだ話が終わってな…」
カランカラン
真姫「いらっしゃいま──!?」
穂乃果「?」
真姫「…あっ、いらっしゃいませ」ニコッ
真姫「おふたりですね?」
海未「はい」
真姫「こちらの席へどうぞー」
穂乃果「…??」
あれ?いま…一瞬だけ顔が…?
気のせい…かな?
海未「穂乃果?」
海未「ボーッとして…大丈夫ですか?」
穂乃果「あっ、ううん!なんでもない」
穂乃果「…」チラッ
真姫「……嘘でしょ」ボソッ
海未「サンドイッチ2つにオレンジジュース、あとコーヒーお願いします」
真姫「…かしこまりました」
真姫「少々お待ちください」ペコッ
真姫「…」チラッ
穂乃果(なんでさっきから穂乃果をチラチラと…?)
穂乃果(あっ!もしかして穂乃果に気があるんじゃ!?)
穂乃果(さっきの言動もただの照れ隠しとか…)
穂乃果(いやー!穂乃果って実はモテモテ!?)
穂乃果(モテ期来ちゃったかなー!?)
穂乃果「…」ゴクゴク
穂乃果(やめやめ)
海未「そういえば…」
穂乃果「?」
海未「あなたの手術をした医者、ずいぶん叩かれてますね」
海未「ニュースやワイドショーもそれで持ちきりですよ」
穂乃果「あぁ…」
穂乃果「提供者の意思とか、遺族の合意がないまま移植したのが問題らしいよ…」
海未「ですがあの人、家族は誰もいなかったんでしょう?」
海未「しかもほとんど即死だったらしいですし…」
海未「あっ…すみません…」
穂乃果「…ううん、大丈夫」
…希さんが喰種だったことは誰にも話していない
誰かに話すにはあまりにも現実味がなさすぎる
話したとしても所詮変人扱いされるだけだろうし…
「…」スタスタ
穂乃果(女性の客…)
「…」フワッ
穂乃果「…っ!?」
はっ…?
なにいまの…
とってもいい匂いが…
香水?
いやそれとは別のにおいのような??
海未「…穂乃果?」
穂乃果「えっ」ハッ
穂乃果「…ごめんなに?」
海未「私の話、聞いてました?」
穂乃果「あぁ、親にラブアローシュートがバレたんでしょ?」
海未「全然違いますよ!」
海未「というかなぜそれを知っているのですか!?」
穂乃果「へっ…あー、アレだよアレ」
海未「アレとは?」
穂乃果「あっ、もうすぐサンドイッチ来るよー」
海未「ちょっと」
穂乃果「…」シラッ
真姫「お待たせしました」コトッ
海未「答えなさい」
真姫「…」コトッ
穂乃果「聞こえなーい」
真姫「ご注文はすべてお揃いですか?」
海未「ちょ…あ、はい」
真姫「ごゆっくり」ペコッ
穂乃果「…」スンッ
穂乃果「…?」
穂乃果(この人からは特にいい匂いしないなぁ)
穂乃果(やっぱり香水だったのかな)
海未「まったく…とりあえず食べましょうか」
穂乃果「うん!」
穂乃果「いただきまーす」
海未「いただきます」スッ
穂乃果「…」パクッ
穂乃果「…?」
海未「相変わらずここのサンドイッチは美味しいですね」
穂乃果「えっ…ああ、うん」
穂乃果「…」クンクン
穂乃果「…あれ??」
海未「…穂乃果、行儀悪いですよ」
穂乃果「でっ、でも…変な匂いが…」
海未「匂い?」クンクン
海未「特に変わりませんが?」
穂乃果「食感もなんか…」
海未「…はい?そんな変なことを言わずに食べなさい」
穂乃果「う、うん…」スッ
穂乃果(穂乃果だけ…?)
穂乃果は昔からサンドイッチが大好きなんだ
ふわふわのパンにシャキシャキレタスとか
みずみずしいトマトとか…
特に、お店で食べるサンドイッチは絶品で…
穂乃果「…」パクッ
穂乃果が一番大好きな…
穂乃果「なっ、なにこ…ゔっ」
なにか別のものを食べてるみたいだった
穂乃果「おっ、おええええッ…!!」
海未「うわぁぁああ!?穂乃果!!?」
海未「──…大丈夫ですか?」
穂乃果「ごめんね…せっかく奢ってくれたのに」
海未「そんなことよりも穂乃果の体調の方が大切ですよ」
穂乃果「海未ちゃん…」
海未「今日はもう帰った方がいいのでは?」
海未「送りますから…さ、行きましょう」ギュッ
穂乃果「うん…」
おかしい…
なんで…?
あんなに大好きなのに…
「食べられない」というよりも、
「身体が受けつかない」ような…そんな感じがする
穂乃果(こんなこといままで…)
穂乃果「…!」
穂乃果(…似てる)
まるで、穂乃果が子供の頃に読んだ…
カフカの有名な小説のひとつ
「変身」に──
フワッ
穂乃果「──?」バッ
海未「穂乃果?」
海未「どうしたんですか?急に止まって…」
穂乃果「…」
海未「穂乃──」
穂乃果「なっ、なに…いまの匂い…」
海未「匂い?」
穂乃果「うん!したでしょ?ねぇ!?」
海未「匂いなんて…」スンスン
海未「気のせいじゃないですか?」
海未「そんなことよりも早く帰りま…」
海未「…あれ?穂乃果?」
──タッタッタッ!
まるでお母さんが作ったカレーのような懐かしさ…
穂乃果「近い…!!」
あるんだ…
穂乃果「どこ…」
穂乃果にも食べられるモノが!
穂乃果「どこどこどこどこどこっ!!?」
なにかの肉かな?
穂乃果「はぁはぁはぁ…」
猿とか…動物の?
いやそんなのどうでもいい
食べたい…なんでもいいから!!
ガッシャーン!
穂乃果「いだっ」ドテッ
穂乃果「いつつ…」
穂乃果「なんでこんなとこにゴミ箱が…くそっ!」ガァン!
穂乃果「はぁ…ん?」
穂乃果「あれ…なんで路地裏なんかに?」
穂乃果「無意識で…」スンッ
穂乃果「…っ!」
穂乃果「あっ、ぁ…あ、近い…さっきよりも…」フラフラ
穂乃果「ここを曲がった先に…」
穂乃果「たっ、食べられる…モノが…」
穂乃果「よし…は、は…ぁ?」
穂乃果「死体?」
いい香りがした先
その先には死体に跨った喰種がいた
普通なら気絶とか、すぐに逃げだしたりするものだけど
なんでかな?それを見て穂乃果ちゃんは…
穂乃果「…」タラッ
とても美味しそうに感じた
穂乃果「死体と…喰種…」
これが…美味しそうな匂いの正体?
穂乃果「はっ…は、なん…」
穂乃果は…
もしかして…
死体の匂いに釣られたの…??
穂乃果「なっ、なな、な…なん、で…」
「…っ!?」バッ
「喰種…だよな?」
穂乃果「…それ…美味しいの…?」
「喰うか?」ブチッ
「俺も久しぶりだから…あまり分けてやれねぇけど…」スッ
穂乃果「えっ、いいの!?」
穂乃果「あっ、いや…穂乃果なに言ってんだろ…」
「喰わないのか?」
穂乃果「だって穂乃果…人間だし…」
「は?でもその目…」
「はいどーん!」グシャ
穂乃果「…え?」
男がなにかを言い終わる前に急に頭が吹っ飛んだ
いや、誰かが蹴ったんだ
喰種の死体を金髪の女性が踏みつけている
「なーに私の喰場荒らしてるのかしら?」
穂乃果「えっ…は?あの」
穂乃果「えっ…と?ぇ?」
「人のテリトリー荒らしたらどうなるか…」スッ
「あなたわかってる?」ガシッ
穂乃果「…ッ!ぁ、が…はな…じで…!」バタバタ
「離すわけないでしょ」
「ていうかなんで片眼だけ赤なの?気持ち悪い」
穂乃果「…っぐ、ぁ、ちが…」
金髪の女性に壁に押しつけられ首をギュッと掴まれた
「はぁ?」ミシッ
ミシミシと音が鳴っている
穂乃果「がァ…や、やめ…」
苦しい…息が…
穂乃果「わ、わたしは…ただ、そこに居ただけで…っ!」
「そんな理屈が通るとでも思ってるのかしら?」
穂乃果「がっ…ぐぇ」
「殺してあげるわ。私の喰場を荒らした罰ね」グググッ
更に力が強くなる…やばっ、死ぬ…かも
穂乃果「うみ…ぢゃ…ことり…お…ゃん」
「誰の喰場だって?」ストン
「いつからあなたの喰場になったのよ」
「絵里」
絵里「…真姫」パッ
穂乃果「…っ」ドサッ
穂乃果「うっ…ゴホッ」
絵里「知ってるのよ?」
絵里「死んだんでしょ?希」
真姫「だからってここがあなたの喰場になるワケ?」
穂乃果「ごほ…ぁ、うぇ」フラッ
真姫「希に奪われた喰場は弱い喰種に分け与える」
真姫「20区の管理は私たち「ちゅんちゅん」の仕事でしょーが」
絵里「はぁ?「ちゅんちゅん」みたいなヒヨった連中にごちゃごちゃ言われる筋合いはないと思うけど?」
絵里「元々ここは私の喰場だったのよ」
絵里「希が来るまでは!」
真姫「あんたが弱かったからでしょ」クルクル
絵里「…チッ」
絵里「年下の生意気なクソガキに説教されるのって…」
絵里「すっごいムカつくのよねぇ」
真姫「私もあなたみたいな似非ロシア人、大嫌いよ」
絵里「…いまなんて?」
絵里「私は賢い可愛いエリーチカ様よ?」
絵里「いま謝ったら半殺しで済ませてあげるわ」
真姫「賢い(笑)」
絵里「」ブチッ
絵里「その言葉でいいのね?遺言は!!」ヒュオッ!
真姫「…相変わらずね」シュッ!
ドシャッ
絵里「うぐッ…!」
絵里「…浅いのよこんなの」
真姫「そう?」
絵里「…?」ザシュ
絵里「…ッ!」ザシュシュ!
絵里「ぐぁ…ゔっ」フラッ
真姫「次はもっと強めでいくけど?」
絵里「つっ、次は覚えておきなさい!バーカ!」タッタッタッ
真姫「負け犬の遠吠え、ね」
真姫「…死体持っていきなさいよ。まったく」
真姫「はぁ…」
真姫「…」チラッ
真姫「…?誰か…いたような?」
──スタスタ
穂乃果(…なんなのあの人?)
穂乃果(ただその場に居合わせただけなのに…)
穂乃果(あの喰種…頭蹴られて吹っ飛んで…)
穂乃果(穂乃果は首を絞められて殺されかけたし)
穂乃果(絶対ヤバイ人だね…)
穂乃果「…」
穂乃果(それにしても、さっき助けてくれた人って…)
穂乃果(「ちゅんちゅん」の人だよね?)
穂乃果(チラッとしか見えなかったけど、あの特徴的な髪色は見間違えないと思うし…)
穂乃果(さっきのおじさんの言葉は…なんだったのかな)
穂乃果(穂乃果の「目」どうのって言ってたよね…)
穂乃果(…今度お店に行ったとき、お礼しないとね)ガチャ
穂乃果「ただいまー」
穂乃果「あはは、誰もいないけど」
穂乃果の家は老舗の和菓子屋さんだった
でも、穂乃果が三歳のときにお父さんが死んで…
お母さんも小学生のときに死んでしまった
だから、何十年と続いた和菓子屋は…
穂乃果「…」
穂乃果「…雪穂、いまなにしてるのかな」
穂乃果「テレビでも見よっと」ピッ
『そもそも喰種ってのは、こんな短期間に大量の食事をとる必要はないんだよ』
穂乃果「あっ、喰種の特集やってるじゃん」ボフッ
『死体ひとつあれば、平気でひと月ふた月生きられる』
穂乃果「へぇ、そうなんだ」ゴロッ
『小倉さん、喰種は人間と同じ食事では満足出来ないんですか?』
穂乃果「…」ピクッ
『喰種は人間からでしか栄養を摂取できないんだ』
『おまけに舌の作りが違うから、人間の食べ物を食べると…めちゃくちゃ不味く感じるんだ』
穂乃果「…ん?」
“人間の食べ物を食べると生臭く感じる“?
穂乃果「…」スッ
冷や汗をかいているのが自分でもよくわかる
私はテレビの電源を切って冷蔵庫にむかった
もしかして
サンドイッチも、病院食も不味かったのも
そして、死体が美味しそうに感じたのも
もしかして
穂乃果「…」ゴクッ
買い置きしていた食パンを手に持つ
大丈夫、きっと、大丈夫。
だって…穂乃果は人間なんだから。
穂乃果「…ぱくっ」
ダメだった
突如襲い来る吐き気
穂乃果「うぐッ…無理っ!」
手で口元をおさえトイレに走った
穂乃果「うぐおえええぇっ!!」
穂乃果「…ぶっ、ごほっ、ぁ」
穂乃果「はぁ、ハァ…水…」スクッ
穂乃果「なんで…なんでこんな…おえっ」
穂乃果「…?」チラッ
キッチンにむかう途中、ふと鏡を見た
見てしまった
見たくなかった
鏡に映された私の…
穂乃果の目に映ったものは…
穂乃果「…」ビキキッ
左眼が“赤黒く“変色している自分だった
穂乃果「なっ…に…?これ…??」
なんで穂乃果の目が…赤に…?
これじゃまるで…
穂乃果「…ちがう」
穂乃果は違うっ!!
もう…見たくない!
バリンッ!
穂乃果「…違う、穂乃果は」
気づいたら穂乃果は鏡を割っていた
手当てをしようと殴った方の拳を見る
穂乃果「…ぁ」
穂乃果「…」ギュッ
傷がひとつもついていない…?
無傷…?
おかしくない?
おかしいよね?
なんで無傷なの?
普通は血が出ると思うんだけど…??
穂乃果「…普通、かぁ」
穂乃果って、普通じゃないのかな
穂乃果って、人間なのかな
穂乃果って、喰種になっちゃったのかな
わからない
いや…穂乃果は喰種じゃない…!
穂乃果は正真正銘人間なんだ
そう言い聞かせないと頭がおかしくなりそう
パンクしちゃうよ
気が狂いそうだ
原因ってなに?
穂乃果「…原因?」
そうだよ…原因はわかってるんだ
微かな記憶だけど…アレが原因なはずなんだ
穂乃果「取り出せば…」
アレを取り除けば…
ゆっくりと包丁を取り出す
アレさえ取り除けば…
『臓器の移植が必要だ…!』
穂乃果「…」スッ
腎臓の位置は…うん、大体わかる
“もし“取り出せたとして…その次はどうすればいいの…?
“電話で救急車を呼べない状況“になったら…?
穂乃果「…」
そのときはそのときだ
気にしたって仕方ない
穂乃果「ふ…ふ、はっ…」ガタガタ
いける…
穂乃果「はっ、はっはっはっ…!!」ググッ
いけるいけるいけるいける
穂乃果ならできる
穂乃果「うあああああぁぁ…ッ!!!」
私は勢いよくお腹に包丁を振り下ろした
ガキンッ!!!
穂乃果「はっ、刃が…」
穂乃果「…」パッ
予想外…いや、予想通りだった
前にテレビで見たことがある
“喰種は人間よりも皮膚が何倍も硬く“
“刃物程度では折れてしまう“と。
穂乃果「わかってはいたけど…」
穂乃果「あはは…なかなか堪えるなぁ」ゴシッ
穂乃果「……だれか、たすけて」ボフッ
片付けも…明日でいいよね
なんか眠くなっちゃった
おやすみ…
穂乃果「──…ん」ゴロッ
穂乃果「んがっ」ゴツン
穂乃果「いてっ!!」ガバッ!
穂乃果「あれ…ベッドから転がり落ちた…?」
穂乃果「ん~…ふぁ」ゴシゴシ
穂乃果「いまなんじ…」チラッ
穂乃果「…」ボーッ
穂乃果「…」
穂乃果「10時…夜の…?」
穂乃果「…」
穂乃果「へ」
穂乃果「あっ、ああああっ!」バッ
穂乃果「やばい!やばいやばいやばい!」
穂乃果「今日の講義参加してないよー!!」グルグルグル
穂乃果「うわああぁ…やばいどーしよー…」
穂乃果「ええっと…穂乃果、何時間くらい寝てたのかな…?」
穂乃果「昨日家に帰ったのが大体午後の8時頃で…」
穂乃果「…」
穂乃果「…まだ病み上がりだし仕方ないよね。うん」
穂乃果「…とりあえず落ち着こう。まずは片付けしなきゃ」
食べかけのパンをゴミ箱に放り込んで、割れた鏡の破片もそのままゴミ箱へ捨てた
穂乃果「…」スッ
スパッ
穂乃果「いたっ」ポロッ
血が…
穂乃果「…!」
鏡の破片で手が切れた…?
昨日のはたまたまだったんだ
穂乃果は人間だもん!
穂乃果「穂乃果は喰種じゃな」ゴシ
穂乃果「…止まってる」
まだ血が出て10秒も経っていないはず
ティッシュで拭いたら、血はもう止まっていた
血、ってこんなにも早く止まるっけ?
止まる?
ただほんのちょっと拭いただけなのに
止血すらしていないのに…
穂乃果「あー」
穂乃果「お腹空いた…」
穂乃果「昨日はサンドイッチを少し口にしただけで…」
穂乃果「ここ一ヶ月はほぼなにも食べてないし…」
穂乃果「少し食べたとしても吐いてばっか…」
穂乃果「…」
穂乃果「喰種は人間からでしか栄養を取れないんだっけ」
穂乃果「…!!」ブンブン
穂乃果「穂乃果…なに言ってんだろ…」
穂乃果「人殺しなんてできるわけないのに…」
穂乃果「でもこのままじゃ餓死しちゃう…」
穂乃果「ううぅ…」
穂乃果「覚悟を決めるぞ…!」
穂乃果「冷蔵庫になにか…」
穂乃果「なにかあるかもしれない!」ガチャ
穂乃果「…」ガサゴソ
気付いたことがある
最近、なぜかものすごく鼻がよくなった
だから…
食べなくても鼻に近づければ、わかるはず…
それなら吐くこともないだろうし
比較的安全だと思う
穂乃果「んー…」ゴソゴソ
穂乃果(…昨日もこうすれば良かったのかな)
ハンバーガー──
ハンバーグ──
野菜類──
お米──
オレンジジュース──
牛乳──
チーズ──
ケチャップ醤油からし七味唐辛子みりん豆板醤料理酒
ソースマヨネーズ果物オレンジみかんりんごぶどうぱいなっぷる
飲み物も
食べ物も
調味料も…──
ぜんぶ、へんな匂いしかしなくて
とても食べられるものじゃありませんでした
穂乃果「…」
穂乃果「…どうすれば」
穂乃果「あぁ…またぐちゃぐちゃになっちゃった」
穂乃果「片づけるかぁ」
穂乃果「とりあえず冷蔵庫のものは全部捨てちゃおう」
穂乃果「どうせ残してても腐らせるだけだし」
穂乃果「…」ヒョイッ
穂乃果「…はぁ」ポイッ
穂乃果「…」スッ
穂乃果「…」ポイッ
穂乃果「…?」スッ
穂乃果(…なにこれ?)
穂乃果(しーおーえふえふいーいー?)
穂乃果(しーおー…こ?こー…ひー?)
穂乃果(コーヒー…かな?これ)
穂乃果(なんでコーヒーがここにあるんだっけ…?)
穂乃果(前に飲んだとき凄く苦かったから、それ以来飲んでないと思うけど…)
穂乃果(あーそういえば…去年くらいに海未ちゃんがくれたような気がする)
穂乃果「…」パカッ
穂乃果(…うん、モノは試しって言うしね)
穂乃果「…」スンッ
穂乃果「ん?」
穂乃果「コーヒーってこんな匂いだっけ…?」
穂乃果「もう一回…」
穂乃果「…」スンスン
穂乃果「は?…え?」
穂乃果「なんか芳ばしい香りが…??」
穂乃果「なんでこれだけ…?」
穂乃果「粉…」
穂乃果「…」スッ
穂乃果「…」ペロッ
穂乃果「…っ!!」
穂乃果「こっ、これなら──」
──ズズッ
穂乃果「おっ、美味しい…!!」
まさかと思ってインスタントコーヒーをお湯で溶かしてみたけど…
穂乃果(コーヒーは普通に飲めるなんて…)ゴクゴク
穂乃果「…」カチャ
苦味は多少あるけどアレに比べたら…
穂乃果「でも、なんでコーヒーだけ…?」
肉や魚はいつもの50倍は生臭いし
飲み物は灯油などの油類を飲んでいるみたいで
調味料も色々なモノが混ざりあってよくわからない味だし…
穂乃果「…あっ!」
穂乃果「コレかけたら他の物も食べれるんじゃ!?」
穂乃果「穂乃果あったまいー!」
穂乃果「よーしっ」
穂乃果「まずは食パンにかけてみよう」サラサラ
穂乃果「いっただまーす!」
穂乃果「…」パクッ
穂乃果「…」モグ
穂乃果「マズっ!!」
穂乃果「固まったゲロみたいな味がする!!」
穂乃果「ぺっぺっ!」
穂乃果(…はぁ、失敗かぁ)
穂乃果(いけると思ったんだけど…)
穂乃果(でも、コーヒーは飲める…この発見は大きいよ!)
穂乃果「──寒い…」スリスリ
穂乃果(初めてインスタントコーヒー買ったかも)
穂乃果(5個買ったからしばらくは持つよね…)
穂乃果(あとは…缶コーヒーを買ってみた)カサッ
穂乃果(砂糖やミルクたっぷりのコーヒー!)
穂乃果(さっき飲んだのはちょっと苦かったし…)
穂乃果(穂乃果にはこれくらいがいいんだよねぇ)スッ
穂乃果「温かい…」
穂乃果「とりあえず飲んでみよう」カシュ
穂乃果「…」ゴクゴク
穂乃果「…!?」
穂乃果「ぶーーーッ!!」ビシャビシャ
穂乃果「苦ッ…カメムシでも入ってんの!!?」
穂乃果「おえっ…苦い…なにこれ…?」ゴシゴシ
穂乃果「なにが砂糖とミルクたっぷりだよ…」
穂乃果「めちゃくちゃ苦いじゃん…」
穂乃果「はぁー…」
穂乃果「120円無駄になっちゃったなぁ…」
穂乃果「…」
穂乃果「あっ」
食パンがコーヒーの風味で誤魔化せなかったように
砂糖やミルクも誤魔化せなかったら…?
砂糖やミルクも「身体が受けつかない」としたら…?
穂乃果(それじゃあ…)
穂乃果(無糖のコーヒーしか飲めないってこと…?)
穂乃果(嘘でしょ…)
穂乃果(あんな苦いのを飲まなきゃいけないなんて…)
穂乃果(まぁ、他に比べたら全然マシだけど…)
穂乃果(ていうかコーヒーで満腹になるのかな…?)
穂乃果「飲み物で満腹になるなんて聞いたこと…」
穂乃果「…」ピクッ
穂乃果「…ん?」チラッ
穂乃果(…なにか声が聞こえたような?)
穂乃果(ちょっと行ってみよう)
穂乃果「…」
穂乃果「…」
穂乃果「…あ」
「や、やめてください!」
「いいじゃんいいじゃん、ちょっとだけだから」
穂乃果(ナンパ?)
「嫌です…っ」
穂乃果(暗くてよく見えないなぁ)ジーッ
「暴れないでよー」
「はなしてっ…」
「暴れるなって言ってんだよ!来いよ!!」
穂乃果(なんかヤバそう…助けなきゃ!)
「…」
穂乃果「ちょ」ベチャ
なにか温かいものが頬に飛んできた
穂乃果「…血?」スッ
穂乃果「…え?」
「はぁ、うざい」
「ムカつく…このっ!」ドカッ!
ゴロゴロ…ドサッ
え、ちょ、え、なに?
この人なにか蹴った?
なにかの物体が穂乃果の足に当たった気がする
「…? あっ」
目が合っ…
穂乃果「ご、ごめんなさ…」
目をそらそうと下を向いたら
さっきの人のものだと思われる頭部が転がっていた
穂乃果「ひっ!」
男の人の頭部は虚ろな目を虚ろな目をしている
死んだらこうなるんだ…
穂乃果「…」
気持ち悪いはずなのに
逃げ出したいはずなのに
とっても
穂乃果「美味しそう…!!」
食欲がそそられる匂いが辺りに充満している
おいしそう
食べたい
「喰べたいの?」
穂乃果「うんちょうだ…」
「なに?」
この人、「ちゅんちゅん」の…
それに昨日助けてくれた…
確か名前が…
穂乃果「真姫…さん?」
真姫「なんであなた私の名前知ってるのよ」クルクル
真姫「ていうか片眼だけ赤って変わっ…て…?」
真姫「あなた、昨日二人組で店に来た…」
真姫「…昨日も気になってたけど、なんで生きてるの?」
穂乃果「へっ」
真姫「あなたは確か希が狙ってたはず…」
真姫「でも目が…」
真姫「…!」
真姫「まさか…あなたが希を殺したの?」
穂乃果「違っ」
真姫「じゃあなんだって言うの?」
穂乃果「あれは事故で…!」
真姫「…はぁ?」
真姫「事故?なんの?」グイッ
穂乃果「てっ、てっ、骨…」
真姫「声が小さくて聞こえないんだけど」
いきなり胸ぐらを掴まれて…
なに…?なんなの…?
真姫「…」パッ
穂乃果「うッ」ドサッ
穂乃果「はっ、ぁ、ごほっ」グシグシ
この人も喰種…?
穂乃果「あっ、あの…」
じゃあ、この人なら…!
穂乃果「助けて、助けてください…」
穂乃果「信じてくれないだろうけど…私は人間なんです…」
穂乃果「でもそれを食べたくて…食べたく仕方なくて…!!」
穂乃果「でも…でも、それを食べたら私は…」
真姫「…そんなに喰べたければ喰べればいいのに」ポイッ
穂乃果「…ぁ」パシッ
穂乃果「…」ギュッ
いま、肉の破片が穂乃果の手に
おいしそう
食べたい
食べちゃおう
きっと美味しいよ、ね?
喰べよ?
穂乃果「…」スッ
穂乃果「…っ!」ベチャ!
真姫「…あー」
穂乃果「嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だいやだイヤだッ!!」
穂乃果「無理だよ…食べられるわけないじゃん!」
穂乃果「どうして…どうしてこんなっ!」
穂乃果「喰種ってなに!?人を殺し仲間で殺し合う…!」
穂乃果「道徳も秩序もなにもないじゃん…」
穂乃果「私は違う…私は、穂乃果は人間なの!」
真姫「さっさと諦めたらいいのに」
真姫「喰べる勇気がないならさ…」ガシッ
真姫「私が喰わせてあげる!!」グイッ
グチャ
真姫「…」ギロッ
真姫「ほら、喰いなさい」ググッ
穂乃果「むー、むぐ、むぐぐっ!」ブンブン
真姫「ほらぁ!遠慮しなくていいわよ!?」ググッ
穂乃果「…!」ゴクン
穂乃果「」ドクン
穂乃果「…っ!!」ザッ
穂乃果「おえっ…おえええっ!!」
穂乃果「なっ、んで…こんなこと…するの?」
穂乃果「人の肉なんか…食べられるわけないのに…」
真姫「はぁ?」
穂乃果「穂乃果は人間なの…あなたたちとは違う!」
真姫「…なに?」
穂乃果「お前ら化物とは違うんだっ!!」
真姫「…!!」
真姫「…」グイッ
真姫「黙りなさい!!」ブンッ!
穂乃果「ひっ!」バッ
えっ
真姫「…チッ、このっ!」ヒュッ!
穂乃果「ひいぃぃ!」バッ!
えええぇっ!?
なんでいきなり殴りかかってきたの…!?
真姫「なんで…当たらないのよ…!」
穂乃果「…!」
穂乃果「あははっ!残念だったね!」
穂乃果「穂乃果は何年も色々な武道をやってきたんだよ!」
穂乃果「あなたみたいなへなちょこパンチ何度やっても…」
真姫「あっそ」ガシッ
穂乃果「ちょっと待ってまだ話して…ヘぶッ!」
穂乃果「いだっ!顔面モロ入ったあああぁ」ゴロゴロ
真姫「ムカつくドヤ顔してたからつい手が出ちゃったわ」
真姫「ごめんなさいね」シラッ
穂乃果「痛い…やばっ、鼻血でてるよ絶対…」
真姫「…」
真姫「謝って」
穂乃果「え」
真姫「さっき私たちのこと化け物って言ったでしょ」
真姫「謝って。ていうか土下座しなさい」
穂乃果「…なんで謝らなきゃいけないの?」
真姫「…は?」
穂乃果「事実じゃん!喰種は化け物!」
穂乃果「人を殺して食べて、仲間も殺す…」
穂乃果「これのどこが化け物じゃないって言うの!?」
穂乃果「…っ」
穂乃果「ねぇ…教えてよ…」
穂乃果「穂乃果はこれからどうすればいいの…?」
穂乃果「食べ物は全部変な匂いがするし…」
穂乃果「大好きな物だって食べられない…」
穂乃果「こんなの…最悪だよ!!」
真姫「知らないわよ、そんなこと」
真姫「…私も教えて欲しいんだけど」
真姫「ケーキとかマカロンってどんな味がするの?」
真姫「アレ、人間は美味しそうに食べるでしょ」
真姫「吐くほどマズイからわからないんだけど」
穂乃果「…」
真姫「平凡な生活はどうだった?」
真姫「CCGや喰種に怯えることのない日々は」
穂乃果「……」
真姫「…最悪?いい加減にしてよ」
真姫「私は生まれてからずっと最悪ってワケ…?」
真姫「ねぇ、教えなさいよ!!」ガシッ
穂乃果「くっ…うぁ」
穂乃果「し、しら…知らないよ、そん…なの」
穂乃果「穂乃果は…あなたとは違う…」
穂乃果「穂乃果は人間なの…ッ、がッ!」ドシャア
真姫「さっきからうるさいわね」
真姫「私はそんなこと聞いてないし」グイッ
真姫「確かにあなたは喰種じゃない」
真姫「でも、人間でもない」
真姫「半端者のあなたの居場所なんてどこにもないのよ!!」
穂乃果「ほっ、穂乃果は…」
真姫「…ていうか」
真姫「なんで私があなたなんかを助けなきゃいけないの?」
真姫「独りで勝手に死になさい」
穂乃果「……っ」
「真姫ちゃん、そのぐらいにしてあげなよ」
#03「空腹」
真姫「…店長」
芳村「苦しかっただろうね、ついてきなさい」
穂乃果「え…?」
このおじいさんは…?
話を聞く限り「ちゅんちゅん」の店長さん?
いや、そんなことよりも…“この人も“なの…?
真姫「店長!?なんで…」
芳村「…真姫ちゃん、喰種同士助け合うのが私たちの方針だったはずだよ」
真姫「…!」
真姫「…」バッ
穂乃果「…!」ドサッ
──
芳村「真姫ちゃんがすまなかったね」
穂乃果「いえ、私こそ…」
真姫「なーに猫かぶってんだか」
穂乃果「え?」
真姫「どうせ「私は悪くない」とでも思ってるんでしょ?」
穂乃果「別にそんなことは…」
真姫「どうだか」
芳村「真姫ちゃん」
真姫「…ふんっ」
穂乃果「あっ、あの…帰りますね」
穂乃果「ご迷惑おかけしました」ペコッ
芳村「せめてコーヒーだけでも飲んでいったら?」
穂乃果「えっ」
穂乃果「…」チラッ
いい香りが…
穂乃果「じゃあ…いただきます」
芳村「どうぞ」スッ
穂乃果「…」カチャ
穂乃果「…」ズズッ
穂乃果「…!」
これ本当にコーヒーなの!?
穂乃果「おっ、美味しい!」
芳村「それは良かった」
穂乃果「…」ゴクゴク
穂乃果「ぷはぁ…」
穂乃果「…」カチャ
穂乃果(苦味も全然感じないし…)
穂乃果(こんなに美味しいコーヒー飲んだことないよ!)
穂乃果「インスタントコーヒーよりも美味しいですね!」
芳村「ははは、そう言ってくれると嬉しいな」
真姫「…」ガタッ
真姫「当たり前でしょーが、店長が淹れたんだから」
穂乃果「!」ビクッ
真姫「インスタントなんかと一緒にするんじゃないわよ」ジロッ
穂乃果「ご、ごめんなさい…」
穂乃果(やばい、目つき怖い…!)
真姫「──で、あなたの名前は?」
穂乃果「こ、高坂穂乃果…です」
真姫「…ふーん。ねぇ穂乃果」
穂乃果「あのー…多分穂乃果の方が年上…」
真姫「なにか言った?」
穂乃果「いえ…」
穂乃果「…」
穂乃果「じゃあさ…穂乃果も真姫ちゃんって呼んでいい?」
真姫「ダメ」
穂乃果「えっ、なんで…?」
真姫「なんでそんなに馴れ馴れしいのよ」
真姫「あまり調子に乗らないでくれる?」
穂乃果「調子に乗ってなんか…」
真姫「…」
真姫「…さっきの話の続きだけど」
穂乃果「…」
真姫「一ヶ月くらい前は人間の匂いしかしなかったのに」
真姫「なんでいまは…その、混じったような匂いなの?」
穂乃果「…?」
穂乃果「匂い?」
穂乃果「…まさか匂いで人間か喰種を判別できるの!?」
芳村「我々喰種はとても鼻がいいからね」
芳村「人間と喰種の違いくらいすぐにわかるんだ」
穂乃果「な、なるほど…」
穂乃果(喰種はとても鼻がいい?)
穂乃果「…」
穂乃果(…あっ)
女性の客がなぜかものすごくいい匂いがして
真姫ちゃんは特にそんな匂いなんてしなかった
香水かなにかかと思ってたけど…
穂乃果(まさか…)
人間だったから…?
死体もすごく美味しそうに感じたのだって
人間の死体だったから…?
穂乃果(じゃあ穂乃果は…──)
真姫「ちょっと!」
穂乃果「──…!」
穂乃果「え、な、なに?」
真姫「まさか聞いてなかったの?」
穂乃果「えっと…ちょっと考えごとを」
真姫「次はないからよーく耳をかっぽじって聞きなさい」
穂乃果「…」コクコク
真姫「なんで片眼だけ赤色だったの?」
真姫「あなたみたいなの初めて見たわ」
穂乃果「…よくわからない」
真姫「はぁ?自分のことでしょ?」
芳村「…真姫ちゃん、少し前にあった臓器移植の事件は覚えているかな」
真姫「ニュースとかあまり見ないので…」
芳村「鉄骨が落下し、二人の学生が下敷きになった」
芳村「医者は亡くなった女学生の臓器を生き残った女学生の身体に移植した」
真姫「…それとなにか関係があるんですか?」
芳村「これはあくまで噂だが…」
芳村「亡くなった女学生は希ちゃんらしい」
真姫「死んだってのは聞いたけど…」
真姫「その程度の事故で希が死んだんですか!?」
穂乃果(その程度…鉄骨の落下が!?)
真姫「…!」
真姫「じゃあまさか!」バッ
穂乃果「…?」
芳村「…そう、それがここにいる彼女だ」
芳村「彼女は喰種の臓器を移植されてしまったんだ」
真姫「そんなことが…」
芳村「こんなケースは初めて見るが…」
芳村「彼女の身体は我々に近づいているのかもしれない」
穂乃果「…」
穂乃果(やっぱ…やっぱそうだったんだ…)
真姫「ねぇ」
穂乃果「えっ…な、なに?」
真姫「ケーキってどんな味がするの?」
穂乃果「えっ…?」
真姫「知ってるんでしょ?そのくらい教えなさいよ」
穂乃果「えっと、甘くて…」
真姫「…甘いって?」
穂乃果「え?甘いは甘いだけど…」
真姫「はぁ…」
穂乃果「…」ビクッ
真姫「あなたさぁ、それ、目が見えない人に「赤色は赤だよ」って言ってるようなものよ?」
穂乃果「そんなこと言われても…」
真姫「もっと他に表現があるでしょ?」
真姫「“スポンジの部分はフワフワ“してて“ホイップは〇〇な感じ“とか」
穂乃果「それは味じゃなくて食感じゃ」
真姫「なにか言った?」
穂乃果「なっ、なんでもないです…」
真姫「ふんっ」
穂乃果「…」
真姫「…」
真姫「…あ、最後にもうひとつ」
穂乃果(今度はなに…?)
真姫「それ」スッ
穂乃果「…?」チラッ
穂乃果(穂乃果が買ったコンビニの袋?)
穂乃果「えっと…これがなに?」
真姫「その中身、コーヒーでしょ?」
穂乃果「そうだけど…」
真姫「話を聞く限りあなたは元人間なんでしょ?」
穂乃果「元じゃ…」
真姫「うっさいわね。いま話してるんだけど」
穂乃果「はい」
穂乃果(家に帰りたい…)
真姫「なんでコーヒーは飲めるって知ってるの?」
穂乃果「…!」
穂乃果「あー…えっと…」
真姫「なに?」
穂乃果「コーヒーが飲めるってわかったの、たまたまなんだ」
真姫「たまたま?」
穂乃果「うん」
穂乃果「食べられるモノがないか家の中を漁ってて…」
穂乃果「たまたまインスタントコーヒーを見つけたんだけど、匂いをかいだら他とは全然違くて…」
穂乃果「試しに飲んでみたらビンゴ、普通に飲めたんだよね」
真姫「ふーん」
真姫「てっきり他の喰種に聞いたかと思ったわ」
穂乃果「あはは…喰種の友達なんていないよ」
真姫「あっそ」
穂乃果「…」
穂乃果「あっ、じゃあ穂乃果からも質問いい?」
真姫「ダメ」
穂乃果「ええっ…」
穂乃果「いいじゃん!お願い!」
真姫「なんで私が…」
穂乃果「…」ジーッ
真姫「…っ!まったく、しょうがないわね」
穂乃果「ありがと!」
穂乃果(…ツン8割のデレ2割くらいかな?)
穂乃果「じゃあまずは…いま何歳?」
真姫「16歳」クルクル
穂乃果(…やっぱ穂乃果の方が年上じゃん)
穂乃果「じゃ、じゃあ次の質問ね」
穂乃果「彼氏はいる?」
真姫「いっ、いるわけないでしょ…」
穂乃果「へー…意外だなぁ」
穂乃果「こんなに可愛いのに」ボソッ
真姫「…!…////」
穂乃果(あっ、照れてるな)
穂乃果「じゃあ次は…」
真姫「ちょっと待って!」
穂乃果「どうしたの?」
真姫「「どうしたの?」じゃないでしょ…」
真姫「こんなよくわからない質問して…」
真姫「意味はあるんでしょうね!?」
穂乃果「えっ、ないけど」
真姫「」イラッ
真姫「…」ペチッ
穂乃果「いたっ!ちょ!デコピン何気に痛い!!」
真姫「顔が変形するまで殴ってやりたいけど」
真姫「…ここは店の中だから暴れられないわ」クルクル
真姫「感謝しなさい」
穂乃果「ツンデr」
真姫「うっさい!!」
真姫「大体なんなのよあなた…」
真姫「ほんのさっまではびくついてたくせに」
真姫「なんで態度が180度変わってるのよ!」
穂乃果「いやぁ、最初は怖いなーって思ってたんだけど」
穂乃果「段々話してるうちに「あれ?別に怖くないじゃん」って思ってきてさ」
真姫「…!」
穂乃果「真姫ちゃんって根は優しいでしょ?」
穂乃果(口は悪いけど)
真姫「…ふーん?あなたなかなかわかってるじゃない」
穂乃果「えへへ、でしょでしょ!」
穂乃果(口は悪いけどね)
芳村「…おや、ずいぶんと仲良くなったみたいだね」
穂乃果「うわっ!」
真姫「店長…どこ行ってたんですか?」
芳村「ちょっと地下にね」
真姫「えっ」
穂乃果(地下…喫茶店に地下室なんてあるの?)
芳村「さっ、穂乃果ちゃん」
芳村「これを持っていきなさい」
穂乃果(…なにこれ?)
穂乃果(なにかが紙に包んであって…)
穂乃果「これってなんですか?」
芳村「必要になったらまた来るといいよ」
芳村「遠慮はいらないからね」
穂乃果「…」カサッ
穂乃果(にっ、肉?)
穂乃果「すごく美味しそうな匂いがします…」
穂乃果「これってなんの肉ですか?」
芳村「…今日はもう帰った方がいいんじゃないかな」
芳村「ほら、もうこんな時間だし」
穂乃果「え?…あ、もう12時じゃん…」
穂乃果「あっ、ありがとうございました!」ペコッ
真姫「…」
穂乃果「真姫ちゃんもまたねー!」
カランカラン
真姫「…ふん」
この肉ってなんだろう
…いや、わかってる
わかりたくなかったけど…多分、アレだよね
これを食べたら穂乃果は…
これを自分の意思で食べたら…
自分を喰種だと認めたことになる
嫌だ、それだけは嫌だ
穂乃果「半端者…かぁ」
真姫ちゃんに言われたその言葉
『喰種でも人間でもない』
『半端者の居場所なんてどこにもないのよ』
穂乃果「…」ギュ
穂乃果(好きでなったわけじゃないのに…)
本当に、ね
なんで穂乃果なの?
いや、他の人もダメだけど。
穂乃果「…」
なんか一人でいるとネガティブ思考になっちゃうなぁ…
穂乃果「…帰ろっと」
いま考えたっていい案は浮かばないだろうし
別にあとで考えればいいよね
今日はもう寝ちゃおう
寝て全てを忘れよう
…全部、忘れられたらいいのに。
──3日後の朝…穂乃果に異変が起きた
穂乃果「…」グギュルル
朝からお腹の音が鳴り止まない
空腹はコーヒーで多少誤魔化せる
本当の多少だけなら。
これからが“本当の地獄“だった
なに…なに!?なんなのこれは!?
少しでも気を抜けば空腹に支配されそう!!
穂乃果「肉肉肉肉肉肉肉肉肉…」ガリッ
やばい…やばいやばいやばいやばいやばい
肉が欲しい…肉、肉肉肉肉肉肉肉肉肉肉
穂乃果「……ッ!ハァ、ぁ」ガリガリ
「いいんやない?半端者でも」
「人間でも喰種でもない。あなたはあなたなの」
きた
「半端者を楽しんだら?美味しいお肉がお待ちかねよ?」
「もう…とろけるほど美味しいんやから」
幻覚が見える幻聴が聴こえる
穂乃果「…うるさい」
「1度喰べたら止められないんよ?」
「ステーキなんて目じゃないんやから♡」
紫色の髪をした女性が私にそう語りかけた
希…さん?
なんでここにいるの?
幻覚だっけ
もう訳がわからない
おかしくなりそう…
穂乃果「ああああぁっ!!」ガダン
「さぁ、ほら!一息に」
穂乃果「…っ、はぁ…ハァ」
「極上のレアよ?」
穂乃果「がッ…ああああぁあっ!!」ガシッ
食べたい
穂乃果「ハァー…ハァ、ハァ…あッ」グシャグシャ
喰べたい
食べたい食べたい食べたい食べたい食べたい食べたいたべたいタベタイたべ
♪~♪~♪
穂乃果「…っ!?」ビクッ
突然携帯が鳴り出す
それが飛びそうになった理性を呼び戻してくれた
穂乃果「うわああぁっ!!」ブンッ!
ベチャ…
私は肉をそのままゴミ箱へと放り投げた
穂乃果「くっ、ぁ、はぁ…メール?」
穂乃果「…」ピッ
穂乃果「海未、ちゃん」
…海未ちゃんが助けてくれたのかな
本当…助けられてばかりだなぁ
穂乃果「…ありがと」
『いまから家に行ってもいいですか?』
穂乃果「…海未ちゃん」
穂乃果「ごめんね、いまはちょっと…っと」ピロリン
ピロリン
穂乃果「はやっ!」
『もう家の前です!』
穂乃果「別の意味ではやっ!」
ピンポーン
穂乃果「…うわっ、本当にいるよ」
穂乃果「もう少し寝たいし居留守使おうかな…」
穂乃果「いやでもメール返しちゃったし…」
穂乃果「そうだ!外出中だってことにして…」
ピンポピンポーン
穂乃果「…ん?」
ピンポーンピンポーンピンポーン
穂乃果「えっ、ちょ」
ピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポピンポーン
穂乃果「…」
ドタドタドタ!ガチャ!
穂乃果「やめて!!」
海未「あっ、こんにちは」
穂乃果「こんにちはじゃないよ!!」
穂乃果「なんでチャイム連打するの!?」
穂乃果「あんまりうるさいと近所迷惑になっちゃうよ!」
海未「一回で出ればいいじゃないですか」
穂乃果「うっ…そうだけど…って違う!」
穂乃果「だからねぇ…んぐ!ゴホゴホッ!!」
海未「だっ、大丈夫ですか?」
穂乃果「大丈夫じゃな…ああもうループになるからいいや」
穂乃果「…」ゴシゴシ
穂乃果「…とりあえず入って」
海未「そうですか?ではお邪魔します」
穂乃果「いま飲み物持ってくるから座っててね」
穂乃果(コーヒーしか置いてないけど)
海未「わざわざすみません」
穂乃果「いえいえー」
穂乃果「…あ、ねー海未ちゃん」
海未「はい?」
穂乃果「今日はなにか用があって来たの?」
海未「…寂しかったから来たんですよ」
穂乃果「えぇ…?」
穂乃果「どうしたの急に…」
海未「この前までは毎日メールしてたのに…」
海未「最近は全然返信してくれないじゃないですか!」
穂乃果「あっ」
穂乃果「ごっ、ごめん!忘れてた!」
海未「いいですか穂乃果!」
海未「ウサギはですね…寂しすぎると死ぬんですよ!?」
海未「私に死ねと言うのですか!!」
穂乃果「…それって迷信じゃないの?」
穂乃果「ていうか海未ちゃんウサギじゃないし…」
海未「細かいことはいいですよ細かいことは!」
穂乃果「えー…」
海未「とにかく…寂しかったってことです!」
穂乃果「ごめんねー…っと、はいどうぞ」カチャ
海未「あっ、ありがとうございます」
海未「…おや?」
穂乃果「どうしたの?」
海未「ああいえ、穂乃果ってコーヒー飲むんですね」
穂乃果「…うん!最近飲み始めたんだー」
海未「穂乃果もコーヒーの良さがわかったわけですね」
穂乃果「うんっ!まーね!」ニコ
海未「…」
海未「そういえば…」
穂乃果「?」
海未「4日前のあの日…急にいなくなるんですからビックリしましたよ」
穂乃果「あ、あぁ、あれね…」
穂乃果(死体の匂いに釣られて…行ったんだっけ)
海未「電話しても全然繋がりませんでしたし」
海未「ほんの一瞬、私が目を離した隙にどこに行ったんですか?」
穂乃果「えっ、あー…えっと、ね?」
穂乃果「その…と、トイレに行ってたんだよ!うん!」ニコ
海未「…はあ、そうですか」カチャ
海未「…」ズズッ
海未「インスタントですか?これ」
穂乃果「うん。機械ないから豆はやめたんだ」
海未「なるほど…あっ」
海未「粉末を水で溶かしてからお湯を注ぐと、インスタントでもとても美味しくなるそうですよ」
穂乃果「えっ!そうなの?」
海未「ええ」
海未「私はまだ試したことないのでわかりませんが…」
海未「大学の先輩がそう言ってました」
穂乃果「へー…今度試してみるよ」
海未「是非試してみてください」
穂乃果「それにしても…」
穂乃果「そんなこと教えてくれる先輩もいるもんだねぇ」
穂乃果「その先輩ってどんな人?」
海未「どんな人?そうですね…」
海未「金髪でいつも機嫌が悪そうな人でしょうか」
穂乃果「金髪…ん?」
海未「穂乃果?」
穂乃果「ねぇ海未ちゃん!」バンッ
海未「はいっ!?」
穂乃果「もしかしてその人…」
穂乃果「金髪でスタイル良くて…「エリ」って名前!?」
海未「スタイルは良い…と思います」
穂乃果「…!!」
穂乃果(じゃあやっぱり…?)
穂乃果(いや、まだ決めつけるのは早いよね…)
穂乃果(金髪でスタイル良い人なんてたくさんいるだろうし…)
穂乃果「じゃあその人の名前は!?」
海未「名前は…」
海未「…すみません、そこまでは知らないです」
海未「知ってるのは名字だけで…」
穂乃果「…そっか」
海未「お役に立てず申し訳ありません…」
穂乃果「ううん…!穂乃果こそいきなりごめんね!」
穂乃果「…」ズズッ
穂乃果(んー…確証が持てないんじゃなぁ)
穂乃果(名前がわかればよかったんだけど…)
海未「…」ズズッ
海未「…ふぅ、ごちそうさまでした」
海未「では失礼しますね」
穂乃果「えっ、もう帰るの?」
海未「本当に少し寄っただけですので…」
穂乃果「そっかー…」
海未「絢瀬先輩のとこに資料を取りに行くだけなので、終わったらまたここに寄って行ってもいいですか?」
穂乃果「うん!いいよ」
海未「ありがとうございます」ニコッ
海未「それでは…」スッ
穂乃果(アヤセ…さっき言ってた先輩の人かな?)
穂乃果「…」
穂乃果「あっ、あの…穂乃果もついていってもいい?」
海未「…穂乃果?」
穂乃果「ダメ、かな?」
海未「いえ、別に構いませんが…」
──上井大学
穂乃果「おおっ…結構大きいね」
海未「そうですか?」
穂乃果「うん!オトノキよりも大きいよ…!」
穂乃果「いやーすごい!見て回りた…」
穂乃果「…!」
「でさぁ」
「…」パクッ
穂乃果(サンドイッチ…)
「ちょっとー聞いてんの?」シャクッ
「聞いてるって」
穂乃果「…」
穂乃果「…」チラッ
「おおすげぇな…」
「美味しくできたかわからないけど…」
「はいあ~ん♪」
「あーん」パクッ
穂乃果(唐揚げ…)
穂乃果「…」
おにぎり
カレーパン
カップラーメン
穂乃果(ダメだダメだ…目に毒だよ)
海未「穂乃果」
穂乃果「あっ…!なに?」
穂乃果(…もしかしてなにか話してた?)
海未「ちゃんと朝ごはん食べましたか?」
穂乃果「へっ…?」
海未「顔色悪いですよ?」
海未「食べるもの食べないと元気出ませんからね」
穂乃果「うっ、うん!わかってるって!」
海未「…ならいいですけど」
穂乃果「…」
昔からそうだった
海未ちゃんは変な所で感が鋭くて…
いつも一歩先で穂乃果を気遣ってくれる
海未「あっ、こっちです」
穂乃果「…うん」
もしも…
いつか、穂乃果が本当に
人間ではないナニカになってしまって…
海未ちゃんがそれを知ってしまったら…
穂乃果「…」
こんな風に一緒に歩くことも
もう…なくなっちゃうのかな
穂乃果(いやいや!なに言ってんだろ…)
穂乃果(穂乃果はきっと大丈夫だよ!)
穂乃果「きっと…大丈夫…」ボソッ
海未「…」
海未「──えっと…ここですね」
海未「ちょっと待っていてください」ガラッ
穂乃果「あっ、ノック…」
「誰?…って、海未じゃないの」
海未「こんにちは」
「はぁ…いつも言ってるわよね?」
「入るときはノックぐらいしなさいって」
海未「はあ」
「…「はあ」じゃないわよ。あなた人の話聞いてるの?」
海未「あっ…すみません」
「どうせ謝れば済むと思ってるんでしょ?」
海未「いえ…」
「私がなにもしてなかったから良かったけど…」
「もし私が人に見られたくないようなことをしてたらどうするの?」
「あなた責任取れる?」
海未「すっ、すみませ」
「謝罪が聞きたいんじゃないのよこっちは!」
「責任取れるかって聞いてるの」
海未「えっとー…」
穂乃果(だから言ったのに…)
穂乃果(それにしても…ねちっこい人だなぁ)
穂乃果(ちょっとだけ顔見ちゃおっかな)
穂乃果「…」ソーッ
「…? 誰かいるの?」
穂乃果「…!」
穂乃果「はっ、初めまして…海未ちゃんの…」
穂乃果「あっ」
「…!」
『人のテリトリー荒らしたらどうなるか…あなたわかってる?』
ドクン…
『そんな理屈が通ると思ってるのかしら』
ドクン…
『殺してあげるわ。私の喰い場を荒らした罰ね』
穂乃果「…っ!!」ガッシャーン!
海未「穂乃果!?」
世間って狭い…そう思いました。
海未「ちょ…なにやってるんですか?」
穂乃果「あっ、いや…ちょっと滑っちゃって…」
「…そっちの」
「…部屋で暴れないでくれる?」
穂乃果「ごめんなさ…」
「海未の友達…よね?」
海未「はい。親友の穂乃果です」
穂乃果「どっ、どどどうも…」
「親友……ふーん…」
「…あなた、“穂乃果“って言うのね」
穂乃果「…」
「薬学部二年…」
絵里「絢瀬絵里」
絵里「…よろしくね?ほーのーか♡」
穂乃果「あっ、あ、えっ、っと…」
穂乃果「よ…よろしくお願いします…」
絵里「……」ニコッ
絵里「…資料がいるんでしょ?海未」
穂乃果「…!」
海未「はい」
海未「去年の店舗状況が見たいので…」
絵里「…」ガサゴサ
穂乃果「…」
絵里「…ないわね、海未はそっちの棚探してくれる?」
絵里「確か緑色のケースに入ってたはずだから」
海未「わかりました」スッ
絵里「そっちの…えっと…」
絵里「穂乃果…も引き出しとか漁ってみて」
穂乃果「えっ」
絵里「3人でやった方が効率いいでしょ?」
絵里「ほら動いて動いて」
穂乃果「あ…はい」
穂乃果「…」ガラッ
穂乃果(…おかしいな)
穂乃果(すぐ襲ってくると思ったのに…)
穂乃果「…」ガサゴソ
穂乃果(なんか…普通かも?)
穂乃果(…穂乃果、警戒しすぎだったのかな)
絵里「ん~…ないわねぇ」
絵里「もう諦めていい?」
海未「見つからないと困りますって…」
絵里「あっ」
海未「…絢瀬先輩?」
絵里「…」
絵里「あのディスク、家に持って帰っちゃったかも」
海未「えっ!えーっ!?ちょ!なんでですか!?」
絵里「うっさいわねぇ…はいはいごめんなさい」
穂乃果「…」
穂乃果(そんなもの…普通持って帰る?)
絵里「…あっ、そうだ」
絵里「海未、いまから取りに来なさいよ」
穂乃果「…!」
海未「えぇ…絢瀬先輩の家にですか?」
絵里「当たり前でしょ?日にち跨いだら忘れそうだし」
海未「うーん…そうですねぇ」
穂乃果「…」
海未「すみません、穂乃果!」
海未「絢瀬先輩の家に寄るので、先に戻っててくれますか?」
穂乃果「えっ…」
海未「大丈夫ですって。資料を貰ったら穂乃果の家に行きますから」
穂乃果「……」
穂乃果(この人、絢瀬絵里は…喰種だ)
穂乃果(さっきのだって、本当の自分を知られないように優しく見せているだけなんだ)
穂乃果(きっと、いつもこうやって人間を欺いて…)
穂乃果「…」ギュ
穂乃果「あの…」
絵里「なに?」
穂乃果「私も行っていいですか?」
海未「えっ」
海未「穂乃果…?」
海未「顔色も悪いですし…家で休んだ方が…!」
穂乃果「…」ブンブン
海未「……」
絵里「いいんじゃない?来たければ来れば?」
穂乃果「!」
海未「…!」
海未「でっ、ですが…」
絵里「別に家にあげるつもりないし」
絵里「海未も気を遣う必要ないわよ」
海未「あっ」
海未「いえ…その、絢瀬先輩も穂乃果も初対面で気まずいかなーと思いまして…」
絵里「別にそういうのいいから」
海未「あっ、はい」
絵里「行く前に電話するから待ってて」スッ
穂乃果「…」
海未「…穂乃果」ポンポン
海未「あなたどうしたんですか?」
海未「今日本当に変ですよ…?」
穂乃果「あっ…いや、その」
穂乃果「久々に外出たのにこのまま帰るのもなーって…」ニコ
海未「…?」
海未「…そうですか」
海未「まぁ、先輩がいいって言ったので構いませんが…」
海未「それにしても、誰と喋っているんですかね」
穂乃果「…さぁ?友達とか家族じゃない?」
絵里「───?ええ、……うん。……」
穂乃果「…海未ちゃんはあの人と仲良いの?」
海未「絢瀬先輩ですか?」
海未「知り合ってそんなに日も経っていませんから…」
海未「いつもあんな感じですよ?」
海未「毒は吐きますし、ねちっこいですし」
穂乃果「へぇ…」
穂乃果「…」チラッ
穂乃果(コーヒーの空き缶にインスタントのボトルが…)
絵里「お待たせ。行きましょうか」
海未「はい」
絵里「…ところで海未、誰が毒吐きでねちっこいって?」
海未「あっ、聞いていましたか…あはは」
絵里「ふふふ、私、耳だけはいいのよ」
絵里「──穂乃果、なにか好きな食べ物ある?」
穂乃果「へっ?…あ、えーっと…」
海未「穂乃果はパンが一番好きなんですよ!」
海未「ですよね?穂乃果」
穂乃果「うっ、うん…そうなんです…!」
絵里「…ふーん」チラッ
絵里「おっ、ちょうどいいわね」
絵里「そこにパン屋あるじゃないの。寄ってく?」
穂乃果(…は?)
海未「いいですね!奢りですか?」
絵里「今月キツイけど…仕方ないわね」
穂乃果(なに言ってるのこの人…??)
絵里「はい」スッ
穂乃果「…ありがとうございます」
穂乃果(あんぱん…)
穂乃果「…」カサッ
穂乃果(うえっ…気持ち悪い匂いがする…)
穂乃果(食べたら吐く食べたら吐く…)
絵里「穂乃果って学部なに?」
絵里「キャンパス内で見たことないけど」
海未「穂乃果はオトノキ大学なんです」
海未「今日は私が上井に呼んで…」
穂乃果(…え?海未ちゃん?)
絵里「あなたに聞いてないんだけど…まぁいいわ」
絵里「ふーん…オトノキねぇ」
絵里「確かバカ大学だっけ?」
穂乃果「バカ…かはわかりませんけど」
穂乃果「…上井よりは偏差値低いですよ」
絵里「そう」
絵里「低いってことは結局バカってことだと思うけど」
穂乃果「あはは…」
穂乃果(この人うざっ!!)
絵里「ところで…」
穂乃果「…!」
穂乃果(パンを出した…??)
穂乃果(たっ、食べるの?コレを…?)
絵里「あなたたち…はむっ」パクッ
穂乃果(へっ)
絵里「付き合い長いの?」モグモグ
絵里「…」ゴクン
穂乃果「……」ゴクッ
穂乃果(…嘘でしょ?なんで食べれるの!?)
絵里「ん、あんこが絶妙な甘さね」
海未「パンもふわふわしてますね」
穂乃果(なんで…??普通に食べてる…?)
穂乃果(我慢してるの…?ありえない…!!)
海未「…おや?穂乃果は食べないのですか?」
穂乃果「あっ…ううん!あとで食べるよ…」
絵里「ねぇ、さっきの話だけど」
海未「? あぁ、どのくらいの付き合いかでしたっけ」
絵里「そうそう」
海未「そうですね…」
海未「初めて会ったのが4歳…だと思うので」
海未「15年ほどでしょうか」
絵里「15年…結構長いのね」
海未「ふふ、あっという間でしたよ」
絵里「そんなものなのかしら」
海未「ええ」
絵里「15年…ねぇ…ふふっ」
穂乃果「…?」
絵里は人間社会に溶け込んでいる…
本当、普通の大学生みたいに…
海未ちゃんも…大学にいるみんなも…
この人が喰種だなんて…気づかないよね
ここまで完璧に“人間“を演じている…
絵里という喰種が恐ろしいと同時に
素直に凄いって少しだけ思った…
穂乃果に…
穂乃果「…」グウウゥ
そんなことが出来るかな…?
穂乃果「…」チラッ
穂乃果「…!」
穂乃果(首のとこ…ガーゼが貼ってある…)
穂乃果(あれって真姫ちゃんにやれらた傷…?)
穂乃果(…傷が深いと治りにくいのかな?)
絵里「あ、そこの突き当たりを曲がった先ね」
海未「結構裏の方なんですね…」
海未「…あれ?」ピタッ
海未「行き止まり…ですけど」
穂乃果「あっ、ほんとだ」
穂乃果(なんで?道を間違えたの?)
穂乃果(自分の家までの道のりを間違えるはず…)
穂乃果(…!!まさか…!)
絵里「ええ」スッ
絵里「だって」ドガァ!
海未「…ッ!!」
絵里「人目につくと面倒でしょ?」
海未「うぐっ」ガァン
海未「」クテッ
穂乃果「海未ちゃんっ!!!」バッ
絵里「…」ガシッ
穂乃果「…!」
穂乃果「がッ…うぁ!」バタバタ
絵里「…このまま楽しく、とでも思ったの?」
絵里「あははっ!ありえないでしょ」グイッ
穂乃果「あ…ぐ、あッ!」
絵里「あなたさぁ…うざいのよ」
絵里「この前なんて勝手に私のテリトリーに入ってくるし」
絵里「あの真姫にも邪魔されるしで…」
穂乃果「だっ、だからあれは…わざとじゃ…ッ!」
絵里「知らないわよ、そんなの言い訳でしょ」
絵里「はいそのない頭で想像して」
絵里「自分の恋人が裸で倒れてるー」
絵里「それで下半身丸出しで…こういうわけ」
絵里「「私はなにもしてません偶然ここにいましたー」って」
絵里「あなたが言ってることはつまりそういうことなの」
穂乃果「そんなの…意味わからない…!」
絵里「別にわからなくてもいいわ」
絵里「あなたはここで死ぬんだから…ねッ!」ドゴォ!
穂乃果「…ッ!がぁっ!」ドシャァ
穂乃果「…ぁ、いっ」
絵里「ねぇ穂乃果」
絵里「海未のこと、“喰べる“つもりだったんでしょ?」
穂乃果「……」
穂乃果「…は?」
絵里「ふふっ」
絵里「自分を信じきってるバカを裏切った瞬間!」
絵里「浮かび上がる苦悶の表情、間抜けな人間が絶望する姿!」
絵里「それほど食欲そそるモノはないわよねぇ!?」
絵里「あなたもそう思うでしょ!?」
穂乃果「穂乃果は…あなたとは…違、う」
絵里「は?」パッ
ドスッ!
穂乃果「ぶッ…がはッ」ビシャ
絵里「年下のガキに生意気言われるのって凄いムカつくのよねぇ」
絵里「ていうかあなたの身体脆いのね、豆腐かと思ったわ」
穂乃果「おえっ…あ、ごほ、ゴホッ!」
痛い、痛い痛い痛い痛い痛い
これが身体を貫かれる感覚
腸がぐちゃぐちゃになっていくのがわかる
呼吸をするたびに血が溢れだす
絵里「あなたたちは15年の付き合いなんでしょ?」
絵里「長いわねぇ」
穂乃果「ごほ…ハァ、ぁ、ヒュー…」
穂乃果「…っ」ゴシッ
絵里「ねぇ教えてちょうだい」ガッ
絵里「どこから喰べるつもりだったの?」ガッ
海未ちゃんの顔に足を置いている
足を勢いよく叩きつけ、そして──
絵里「答えなさいよ!!」ガッ!
ガシュ…
──血が出た
穂乃果「海未ちゃんは食べ物じゃない…」
穂乃果「その足を退けて…!!」
絵里「どの足かしらぁ?」グリグリ
絵里「あはははははっ!!」
穂乃果「やっ、やめろおおおおぉっ!!」ダッ
絵里「遅いのよ」ドガッ!
穂乃果「…ッ!!がっ…ぁ」ゴロッ
穂乃果「ァ…ぁ、あ」ドサッ
絵里「しかしあなたもよくわからないわね」
穂乃果「く…ぅ、ハァ、ハァ…ッ」
怒りに身を任せたらダメだ…
冷静に、冷静にならないと…
そうすれば…当たるはず
絵里「人間は食べ物」
絵里「あいつらにとって牛や豚の家畜と一緒でしょ」
絵里「家畜同然のやつと友達ごっこしてさぁ、楽しいの?」
穂乃果「ごっこじゃ…ない!!」
絵里「あっそ」
絵里「ほら立ちなさい」
絵里「なんならあっちから殺ってもいいけど?」
穂乃果「…ッ」ピクッ
穂乃果「ふっ…ざ…な」フラフラ
穂乃果「…」スッ
穂乃果「…」ガシッ
絵里「…なにそれ?鉄パイプ?」
絵里「鉄パイプごときで…私に勝てるとでも?」
穂乃果「…うん」
絵里「…なに?」
穂乃果「穂乃果は…あなたに勝てるよ」
絵里「はぁ?」
絵里「あなた、血の出し過ぎで頭イっちゃったの?」
穂乃果「…」スッ
絵里「目をつぶって…ふふ、そんなに死にたいのね」
絵里「お望みどおり…」スッ
絵里「殺してあげるわッ!!!」ヒュッ!!
『いいですか?穂乃果』
『剣道に大切なものは──』
穂乃果「…」ボソッ
ガキンッ!!
絵里「あら?」
穂乃果「…」
絵里「さっきのは…たまたまよね」ザッ
絵里「はぁッ!」ヒュッ!
穂乃果「…」スッ
ガキンッ
絵里「……まぐれよ」ヒュオッ!
穂乃果「…」ガキンッ!
絵里「なっ…んで!?」
絵里「目をつぶっているのに…」
絵里「ここまでまぐれが続くなんて…」
穂乃果「…まぐれじゃないですよ」
絵里「…は?」
穂乃果「剣道に大切なものは“眼“」
穂乃果「相手を“観る“こと」
絵里「見る…?目をつぶったら意味ないじゃない」
穂乃果「見観二つのこと、観の目つよく、見の目よわく…」
穂乃果「遠き所を見、近く所を遠く見ること」
穂乃果「それが兵法の要である」
絵里「…??なにを言ってるの?」
穂乃果「“剣豪・宮本武蔵“が書いた五輪書の一文です」
穂乃果「…目で相手の動きを追うよりも」
穂乃果「“観の目“つまり“心の眼“で、相手の動きや心理をよく観ることが大切だということです」
穂乃果「それと…絵里先輩、あなたの攻撃は単調すぎる」
絵里「…なんですって?」
穂乃果「あなたの攻撃は足蹴りのみ」
穂乃果「しかも殺気がバレバレだから、どこに飛んでくるかも予測しやすい」
絵里「…」
穂乃果「あはは」
穂乃果「もう見切りました」ニコッ
絵里「見切ったぁ…?ふぅん…面白いじゃないの」
絵里「先輩をバカにすると…」ダッ
穂乃果「…」スッ
絵里「痛い目みるわよッ!!」ヒュッ!!
穂乃果「…ふぅ」
穂乃果「よしっ──」
──ズキッ
穂乃果「…?」ポタッ…
穂乃果「あっ…くッ…」ズザッ
穂乃果(お腹の…傷が…!)
穂乃果(なんで…一旦、収まった…のに)ポタッ…ポタッ…
穂乃果(急に動いたから…傷が開いた…?)
穂乃果(なん…ッ、このままじゃ…)ググッ
絵里「戦いの途中で止まるなんて──」
穂乃果「…!」
絵里「あなたよっぽどバカなのね!」ズガァ!
穂乃果「ぐぁ…!」ガァン
穂乃果「うっ」ドサッ
穂乃果「が…あッ、ぁ…」
絵里「あらぁ?さっきの威勢はどうしたの?」
絵里「私の攻撃、見切ったんでしょ?」
穂乃果「──」
もう、ダメだ…
お腹を貫かれたり…蹴られたり…めちゃくちゃ痛い…
もう痛いを通り越して感覚が麻痺してきたかも…
絵里「ちょっと遊びすぎちゃったわ」
絵里「赫子(かぐね)出したらすぐだったのにね」
穂乃果「…」ググッ
穂乃果「…っ」ドシャァ
絵里「ふふっ、もう立てないの?」
絵里「それじゃそろそろ死んでもらおうかしら」スッ
ガシッ
絵里「あら?」
海未「」
絵里「…無意識で手が出たのかしら?」
海未ちゃんの手があいつの足に触れていた
朝のときだってそう
穂乃果(また穂乃果を…助けてくれたの…?)
穂乃果(こんなに助けてもらってるのに…)
なんで穂乃果は…
なんで穂乃果は助けてあげられないの…?
穂乃果「…」ググッ
昔からそうだった…──
海未ちゃんは…ずっと穂乃果を助けてくれた
困ったときは一緒にやってくれて
悲しいときは一緒にいてくれて
穂乃果が悪いことをしたら一緒に謝ってくれて
穂乃果「…」
絵里「じゃあね、海未」
絵里「あなたはあとでゆっくりと喰べることにするわ」ググッ
いやだ
『…』ジーッ
『? ねぇそこのきみ!』
『えっ…わ、私ですか?』
『おなまえなんていうの?わたしはこうさかほのか!』
『そのだ…うみです』
『よろしくねっ』
『えっ、あ、あの』
『うみちゃん!いっしょにあそぼ!』
『ほら、おいでおいでー!』ギュ
『は、はい!』
いやだ
『海未ちゃんあそぼー!』
『今日はお稽古があるので…』
『そっかー…明日は遊べる?』
『もちろんです』
『えへへ、わーい』
いやだ…
『穂乃果、高校はどこに行くか決めましたか?』
『んー、そうだねぇ…』
『あっ、音ノ木坂とか?』
『音ノ木坂…確かそこそこ偏差値が高かったような…』
『えっ!?そうなの!?』
『私は大丈夫だと思いますが、穂乃果は…』
『むっ!穂乃果だって受かるもん!』
『必死に勉強すればきっと…』
『勉強嫌いの穂乃果が勉強を!!?』
『ちょっと!驚きすぎだよ!?』
『ふふ、すみません』
穂乃果「…」ズグ
もう…失うのは、嫌なんだ
『いやっ!いやだ!』
『お姉ちゃんと一緒がいい!』
『離れ離れになるなんて嫌だ!!』
『…穂乃果ちゃん、海未ちゃん、またね』
『───、この数年間、とっても楽しかった』
『また…会えたらいいね』
穂乃果が子供だったから──
穂乃果が弱かったから──
穂乃果のせいで…大切な人がいなくなるのは嫌だ
もうあんな思いはしたくない
──海未ちゃんが死ぬ?
『穂乃果!すごいじゃないですか!』
『えへへ…そう?』
『はい!剣道の大会で優勝するなんて…!』
『でも海未ちゃんが出てたら負けてたかもなぁ』
『ふふ、私は剣道よりも弓道の方が向いているので』
“鳥は卵からぬけ出そうと戦う“
──穂乃果が弱いから?
『また告白されたの?』
『ええ、どうしたものか…』
『もうOKしちゃったら?』
『いっ、いえ、私は…』
『??』
“卵は世界だ“
海未ちゃんが死ぬなんて──
『三連覇…もう穂乃果に敵なしですね!』
『そうかなぁ?たまたまだと思うけど…』
『たまたまじゃ三年連続優勝なんて出来ませんって!』
『えへへ、海未ちゃんに言われるとなんか嬉しいなぁ』
『そっ、そうですか…?』
“生まれようと欲するものは“
穂乃果「そんなの、ゆるせない」ズグ
“一つの世界を破壊しなければならない“
メキッ
シュゥウウウウウウッ!
絵里「…?」チラッ
穂乃果「」ヒュオッ!!
絵里「…ッ!」ガキンッ!
絵里「は…その赫子…?」
絵里「…ッ!!」シュッ!
穂乃果「」ガシッ
許さない
絵里「んのッ…」ブンッ!
許せない
穂乃果「」ググッ
大切な親友を殺そうとするのなら──
ドスッ!
絵里「…ッ!あぁ、あッ!」ザシュ!
誰であろうと絶対に赦さない
穂乃果「あああぁぁッ!!」ヒュヒュヒュッ!!
私の“触手“があいつのお腹を何度も貫く
どうやって出したかわからないけど
いまはそんなのどうでもいいや
とりあえず海未ちゃんを守れれば。
絵里「ちょ、やめ…やめて…やめややめなさいいぃ!!」
絵里「死ぬ、死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬううあいあッ!!!」
ドスドスドスドスッ!!
絵里「」ドサッ
絵里「…あ、ゴホッ、がぁ」
絵里「これは…希、の…がはッ…」ビチャ
穂乃果「…」
穂乃果「…」チラッ
穂乃果「海未、ちゃん」
穂乃果「…っ」ブンブン
穂乃果「違う、違う、海未ちゃんは違う」
穂乃果「…違うッ!」
お腹空いた
やばい耐えられない
喰べたい
食べるな
「すごく美味しそうやね」
穂乃果「…」ゴクッ
「香ばしい匂い…食欲そそるわぁ」
「ねぇほら、よく見て?美味しそうやろ?」
穂乃果「やめて…違う、海未ちゃんは食べ物じゃない」
「本当にそう?ほらよく見て。美味しそうやない?」
穂乃果「…」
穂乃果「うん、よくわかる」
いや、なに言ってるの…?
穂乃果「はぁ、ハァ…美味しそう、あは、は、アはハ」
穂乃果「…ッ!やめて…やめてっ!!」
「堪らなく欲しいんでしょ?」
穂乃果「──っ!!」
「我慢しなくてもいいんよ?あなたは間違ってない」
穂乃果「がッ、ぁ、あ…」ガンガン
理性がとびそう
やばai
「ほら、早くぅ♡あなたの好きにしていいんよ?」
穂乃果「好き…に?」
「全部あなたのものよ?」
穂乃果「ぜんぶ…」ビキビキ
────────あ
「さあ」
穂乃果「本当だ…せっかくのご馳走じゃん…」
穂乃果「私が…穂乃果が喰べてあげないと」
穂乃果「海未ちゃんは私の…」
「友達」
まって!!
穂乃果「そう、友達なんだか……ら?」
友達だから食べていいの?
「どうしたん?ほら早く喰べて」
だめ
友達は食べるものじゃない
じゃあどうすればいい?
お腹空いた
穂乃果「…喰種って、美味しいの?」
「は?なに言ってるん?」
「目の前にとびきりのご馳走があるやん!」
穂乃果「…」ガシッ
絵里「」ポタポタ…
「ねぇ、聞いてる…」
穂乃果「うるさい」
穂乃果「ほのかに命令するな」ガブッ
絵里「…うぁ」ブチッ
穂乃果「…」グチャ
穂乃果「…」モグモグ
まずい
穂乃果「…まずい」ゴクン
穂乃果「…ふぅ、ハァ」
まずい
このお尻あたりから生えてる青いやつは美味しいのかな
まあ、どうでもいいけど
あなかすいてるから
穂乃果「…」ガブッ
ブチッ
グチュ
絵里「…ッ、あっ…ァ」
穂乃果「…」グチャ
穂乃果「…」モグモグ
穂乃果「…」ゴクン
穂乃果「まずい、けど…食べられないわけじゃない」
ガリッ
ブチッ
グチョ
メキッ
バリッ
穂乃果「…」ゴクン
穂乃果「…」ゴシッ
「…あなた、なにしてるの?」
穂乃果「あっ、真姫ちゃん!」
穂乃果「奇遇だね。どうしたの?」
真姫「…」
真姫「もしかして…共喰いしたの?」
穂乃果「…?ともぐい?」
真姫「ソレを喰べたかって聞いてるのよ」
穂乃果「ああ、まずかったよ」
真姫「…ありえない」
穂乃果「なんで?お腹すいてたんだから仕方ないじゃん」
真姫「共喰いしても空腹なんか収まるわけないでしょ」
穂乃果「あっ、そうなんだ」
穂乃果「少しは満たされたと思ったんだけどなぁ」
穂乃果「まぁいいや。次はこっち食べよーっと」
真姫「待ちなさい」
穂乃果「なにかな」
真姫「なんでさっきから目の焦点があってないの?」
穂乃果「さあ」
ザッ
穂乃果「…退け」
真姫「あなた友達まで喰べる気?」
穂乃果「“ソレ“が私に喰べてって言ってるもん」
真姫「そんなこと言うわけないでしょ」
真姫「友達の命とかどうでもいいわけ?」
真姫「あなた、この子を喰い散らかしたあと後悔するわよ」
真姫「血と臓物の上でね。それが喰種の餓え」
真姫「私たちの宿命」
穂乃果「…はぁ?」
穂乃果「邪魔、するな」メキメキ
ズズズズズズ…
真姫「本当…うんざりする」シュルッ
真姫「今回だけは同情してあげるわ」ズモモモモ
真姫「…哀れね」
ヒュッ──
穂乃果「──…」
穂乃果「…はっ」ガバッ
穂乃果「…っ、はぁ…はぁ」
穂乃果「…」スッ
口の中に甘い血の味が広がっている
なにが…あったんだっけ
よく思い出せない
海未ちゃんを助けたいって思ったら力が湧いてきて
穂乃果「…」
たしかあのとき…すごくお腹がすいていた
もしかして夢、だった?
穂乃果「…」スッ
…夢じゃなかった
服のお腹辺りが破け、真っ赤に染まっている
穂乃果「…じゃあ、あれも」
そっとお腹に触れた
すべすべとしている
傷がひとつもついていない
お腹の中身をぐちゃぐちゃにされた感覚…
いまでも覚えている
こんな手術レベルの大ケガも治るんだ
穂乃果「…」
どうして穂乃果の周りには喰種が現れるんだろう
いや、もしかしたら最初からいたのかもしれない
迷い込んでしまったのは──穂乃果の方なんだ
ガチャ
芳村「目が醒めたかい?」
芳村「真姫ちゃんがここまで運んでくれたんだよ」
穂乃果「…!」
穂乃果「あ、あの…海未ちゃん…私の友達は…」
芳村「ついてきなさい」
穂乃果「…」
穂乃果「…はい」
スタスタ
ガチャ
海未「…」
隣の部屋に案内されると、そこに海未ちゃんが寝ていた
穂乃果「海未、ちゃん…」
海未「んん…」ゴロッ
穂乃果「…」
穂乃果「私はこのところ空腹に襲われていて」
穂乃果「特にあのときは死にそうなくらい餓えて、自分でも訳がわからなくて…」
穂乃果「でも、それがいまは全くない…」
穂乃果「教えてください…私が寝ている間になにを…」
芳村「喰種が空腹を満たす方法はひとつしかない」
芳村「君もわかっているだろう」
穂乃果「…ぁ」
芳村「あのままだと君は友人を手にかけていたよ」
穂乃果「…そだ」
穂乃果「嘘だ…嘘だよ!」
穂乃果「穂乃果がそんなことするわけない!」
穂乃果「海未ちゃんは穂乃果の大切な──」
芳村「現実を見なさい」
穂乃果「…ッ」
穂乃果「…っ、そん、な」
穂乃果が海未ちゃんを殺そうとした…?
穂乃果が…ほのか、が
芳村「自分がなにものか知りなさい」
穂乃果「私は…友達を傷つけたくない」
穂乃果「だから…もう一緒にはいられない…」ウルッ
穂乃果「でも…喰種の世界にも入れない…」
穂乃果「人間でも喰種でもない…私は…」
穂乃果「私は…孤独だ…ッ」
穂乃果「私の居場所なんてどこにもない…」ポロッ
穂乃果「…っ、ぁ、ぐす、ううううぅ…」ポロポロ
芳村「…それは違う」
穂乃果「…ぇ」
芳村「君は喰種であり、人間でもある」
芳村「二つの世界に居場所を持てる“ただ一人“の存在なんだ」
芳村「「ちゅんちゅん」に来なさい」
芳村「君の“居場所を守る道“にもきっと繋がるはずだよ」
芳村「そして、君に私たちのことをもっと知って欲しい」
芳村「我々がただの餓えた獣なのかどうか」
穂乃果「…」ゴシゴシ
芳村「どうかな?まずは美味しいコーヒーの淹れ方を覚えてみるというのは」
穂乃果「…!」
穂乃果「えっと…その」
穂乃果「穂乃果…ドジでノロマだし…」
穂乃果「バイトの経験も全然なくて…」
穂乃果「そんな私でも…出来ますか…?」
穂乃果「あっ…物覚えはいい方です!…たぶん」
バタン
海未「…」
海未「…」ギュッ
『ゆっくり、焦らず、のの字を描くように』
『は、はいぃ…』
『美味しくないです…まだインスタントの方が…』
喰種をもっと知るために「ちゅんちゅん」でアルバイトを始めた穂乃果
喰種の臓器を移植されたことにより…
穂乃果の平凡だった日常が大きく変化していく──
『…可愛い』
『──ちゃん、だっけ』
『…ぇ』
『可愛いね、どこから来たの?』
人を狩れない喰種の親子──
『…あなたたち喰種に一度聞いてみたかった』
『罪のない人を平気で殺め、己の欲望のまま喰らう』
『あなたたちはなぜ存在しているのですか?』
『…答えなさいッ!!』
立ちはだかる一人の捜査官──
『喰種にだって感情はあるんだ』
『人間と変わらないのに…』
この発言に穂乃果は──
『…穂乃果だけなんだ』
『それに気づけるのは…』
『人間でもあり…喰種でもある…──』
──一体なにを想うのか
『すぅ…はぁ…』
『ここはいつ来ても落ち着くわね』
『あら?眼帯の彼女…新人かしら?』
『名前は?』
『…さいっこうにフルハウスね!』
美しい美食家──
『───ッ!!』
『──を返しなさいッ!』
『ふっざけんじゃ…ないわよ…』
『──は…私の大切な…妹なのよ…!』
『指一本でも触れてみなさい…死んでもぶっ殺してやるわ!!』
妹を助けるために命をかけた喰種──
『私は──』
いやだ…
『この世の不利益はすべて当人の能力不足』
なんでわたしだけ…
『…チッ、お前のせいだからな』
この世界は弱肉強食
『お前のその優柔不断さがこの親子を殺したんだ』
強い奴が喰らい弱い奴が喰われる
『……さようなら、高坂穂乃果』
間違ってるのは私じゃない
『──喰種だ』
“この世界“なんだ
おしまいです
誤字脱字多くてごめんなさい
読んでくれた人ありがとうございました
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