【艦これ】伊58「黒く塗り潰せ」 (707)
・艦隊これくしょんのssです
☆内容に関する重要なこと☆
・この物語はフィクションです。実在の人物・団体・出来事等とは一切関係ありません
・独自設定あり
・ノムリッシュ要素あり(途中注釈を入れます)
・全方面に喧嘩を売る
・胸糞表現あり
・だいたいみんなひどい目に遭います
☆内容に関する重要なこと終わり☆
・伏字での規制あり
・意訳調の英語訳あり
・地の文、誤字脱字、駄文、妙なところで改行あり
・荒らしやコメ上の喧嘩は避けて頂くようお願い致します
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水を裂く空気の音。
海が動く流れの音。
僅かな光が前を照らす。
彼女はその見慣れた光景を突き進んでいく。
こめかみまで響く血液の流れ。
脊椎と食道に蠢く恐怖の感情。
彼女はただひたすら突き進んでいく。
逃げ延びる為に。
命を長引かせる為に。
『奴ら』の手は海の底まで届かない。
しかし、『奴ら』は確実に自分を殺す。
『奴ら』は自分達を絶対に許さない。
たった一つの頼みの綱も、あっけなく無くなった。
『奴ら』は自分達を絶対に許さない。
だから次に殺されるのは自分だと、身体が脳に警告を出した。
だから彼女は逃げ出した。
そうしなければ、今度は何をされるかわからない。
だが最後にどうなるかだけは確信していた。
今度こそ、殺される。
だから彼女は逃げ出した。
罵倒され
否定され
搾取され
追い詰められ
それでも尚捨てられなかった生への執着が彼女を暴走させた。
先の事など今は何も考えられない。
ただ、その場を離れる事のみを考えて彼女は突き進んだ。
だが
彼女の頭のすぐ左隣から、海水に圧縮された爆音が襲い掛かる。
冷たい海の中で、彼女の身体が熱を帯びていく。
そして同時に感じる激痛。
続いて右隣。
激痛が彼女の感覚を奪っていく。
激痛が彼女の力を奪っていく。
右下。
彼女の身体は爆発に吹き飛ばされ左右に揺れている。
彼女は既に前に進む事ができなくなっていた。
左下。
四度目の爆風と水の圧力に彼女の身体が押し流される。
そして、彼女の動きが完全に止まった。
力が入らない。
否、力が入れられないのだ。
常人ならば意識が飛んでいる程の激痛
痛みと、それまでの逃亡によって乱れた呼吸
そして何よりも
彼女が己の力を入れるべき、その両手両足は
今、彼女の目の前に浮かんでいるのだから。
前に進む事も戻る事もできなくなった彼女は
何故か訪れた静寂の中で、自分の死期を悟った。
どうしてこんな事になったのだろう。
本当はあの時逃げていなければこんな事にはならなかったのだろうか。
この合間は一体何なのだろう。
こんな事になるのなら、お父さんとお母さんの言う事を聞いていればよかった。
艦娘になんて、ならない方がよかった。
死にたくない。
助けてお父さん。
助けてお母さん。
死ぬのは怖い。
死にたくない。
死にたくない。
疑問、後悔、恐怖、怒り。
黒い感情がこみ上げて、彼女の目から流れた涙は
一瞬で周囲の海水に飲み込まれ、溶かされ、消えてなくなった。
そして最後の爆発が起こった。
重さ、という概念が彼女の脳から消え失せる。
こめかみを叩く鼓動が一瞬にして消え失せる。
頭を締め付ける水圧だけが、自分がどんどん沈んでいる事を知らせている。
沈み行く彼女が最期に見たものは
遠くなっていく太陽の光と
逆光で黒く染まった
自分の
胴体
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「二千十六年六月二十六日」
「潜水艦娘U-511、フィリーネ・シュナイダー」
「定時報告を行います」
椅子と机と白い壁、壁沿いに置かれた機材。
その部屋に彼女は一人立っていた。
彼女の目の前にはビデオカメラが置かれ、彼女はカメラのレンズを見つめながら言葉を続ける。
『…お父さん、お母さん、元気ですか?』
『パラオに着任して四ヶ月目になったよ』
緊張感が抜け、声色が変わる。
年相応で、少し甘えた声。
この光景を見た人間は、その言葉を受け取る人物と彼女がとても親しい間柄である事を察するまで数分もかからないだろう。
だが彼女が何を伝えようとしているか、その言葉の意味を全て理解できる人間は、この泊地には五人もいない。
彼女は、ドイツ語で語りかけているからだ。
『戦うのは怖いけど、提督さんは相変わらずとてもいい人で』
『危なくなったらすぐに帰してくれるの』
深海棲艦との戦争が長引き、新たな艦娘の艤装の開発が日々続いている。
妖精と呼ばれる存在の力を借りて開発される艦娘の艤装。
歴史を辿り、資料を元に作り出されていく数々の艤装。
その開発経路は日本の域を飛び出し、ついに海外にまで達していた。
『怪我もしてないよ。本国から貰ったスーツだってぜんぜん破けてないよ』
第二次世界大戦当時、日本と同盟を結んでいたドイツ。
そのドイツに属する軍艦。
その魂を持って生まれる新たな艦娘。
彼女達の一部はドイツに残って国土の防衛にあたり、
彼女達の多数は、今や対深海棲艦防衛本部となった日本に渡り最前線の戦いに赴く。
今ここに立っているU-511もその一人だ。
だがしかしドイツ艦娘達は、ある大きな問題を抱えていた。
彼女達が第二次世界大戦当時の軍艦の魂を受け継いだばかりに抱えてしまった大きな問題が。
『というか、私達はあまり戦う事はなくて』
『授業も終わって暇になったら、提督さんのお仕事のお手伝いをする事もあるの』
『…もしかしたら戦ってるよりお仕事してる時間の方が長いかも』
『最近ね、お仕事しながら提督さんとお喋りするのが楽しいの』
『日本語はまだよくわからないけど、提督さんはちゃんと聞いてくれるの』
『お喋りしすぎて、大淀さんに怒られちゃったりもするけど』
アドルフ・ヒトラー。絶対的権力を行使した、当時のドイツの指導者。
ナチス・ドイツ。彼が支配していた当時のドイツ国に対する呼称。
アーリア人至上主義を掲げ、迫害・虐殺に手を染めたとされる彼らは、第二次世界大戦の闇として世界の歴史に刻み込まれた。
そして、ドイツの歴史にも彼らの存在は深く刻み込まれている。
だからこそ
その当時の軍艦の魂を持つ彼女達の存在を否定する者、警戒する者は少なくない。
また、あのような惨劇を繰り広げるのではないか。
また、ドイツの名誉に泥を塗るような真似をしでかすのではないか。
深海棲艦などそっちのけで、世界を余計に混乱させるつもりなのではないか。
やるかもしれない。
何故なら彼女達はナチス・ドイツの魂を持った存在なのだから。
彼女達を否定し警戒する誰もが、そう感じていた。
だがその反面で
人類共通の敵である深海棲艦への対抗手段である艦娘を失う事のリスクを理解している者も少なくなかった。
深海棲艦によって行われた、五発もの核相応の爆撃は、それほどまでに世界中を震撼させたのだ。
『そういえばね』
『こないだ提督さんのお友達のはっちゃんがシュトーレンを作ってくれて、みんなで食べたの』
そこで考えられたのが、この定時報告だった。
日本海軍所属の艦娘は、人としての本名を封印し、軍艦の名前で呼ばれる制度ができている。
ドイツ海軍所属の艦娘は、人としての本名を封印せず、定時報告を義務付けている。
その報告はドイツに対して、そして親しい者に対して行われる。
『でも食べてたら、お父さんとお母さんの所に帰りたいなーってちょっと思っちゃった』
『はっちゃんの作ったシュトーレンはおいしかったけど、お母さんのシュトーレンには勝てないもん』
現在進行形でビデオカメラに記録されていく彼女の姿は、大本営を通じてドイツにいる彼女の両親に届けられる。
U-511ではなく、海外に赴いた一人の少女として、自分は今ここにいる。
自分はナチス・ドイツではない。
自分はただ、U-511の力を借りているフィリーネ・シュナイダーという一人の少女だ。
例え姿が変わって、軍艦の力を持とうとも、ナチス・ドイツそのものにはならない。
だからナチス・ドイツのような蛮行をするつもりはない。
これは、内外にそうアピールする為の苦肉の策だ。
『帰るのがいつになるかはわからないけど』
『また来月ビデオレター送るから、待っててね』
笑顔で手を振った後、U-511はビデオカメラに近付き、録画を止めた。
☆今回はここまでです☆
>>1です。
イベントはなんとか完走できました。
今から投下を始めさせて頂きます。
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・・・・・・・・
・・・・
・
「………OK?」
「OK」
執務室に備えられたテレビを見て、二人の黒髪の少女が呟いた。
軽巡洋艦娘大淀、提督の秘書艦の一人として彼を支える傍ら、大本営との連絡係という大任も背負っている。
駆逐艦娘暁。駆逐二班の班長。普段は遠征や演習に出ることの多い彼女だが、今は執務室で大淀とテレビを見ている。
「よし、これで大丈夫ですね」
大淀は息を吐き、肩の力を抜く。その隣で暁が、あぁあ、と声を上げながらソファの背もたれに体重を預けた。
「お疲れー」
暁の気の抜けた声を聞いた提督が、紙に走らせていたペンを止めて二人に労いの言葉をかける。
大淀と暁は執務室で娯楽作品を楽しんでいたのではない。先ほどのビデオの検閲を行っていたのだ。
と言っても、基本的には報告者の自由。規則があるとするならば、軍事機密は喋らないという一点のみだが。
だがそれでも、艦娘を指揮する方からすれば、軍機が漏れる事は死活問題だ。
深海棲艦にこちらの暗号が解読されるという事例も過去にはある。
にもかかわらず不用意な情報漏洩を見逃すなど愚の骨頂。
だからこそ、検閲を行う必要がある。例えそれがドイツ語で語られるものだとしても、検閲の義務がある。
「りんごジュースでいいかな?」
常備された冷蔵庫から飲み物を取り出し、コップに注いだジュースを二人に差し出す。
「ありがとうございます、提督」
「そりゃーこっちの台詞だ。俺はドイツ語わからねぇし、やってくれて本当に助かってる」
「それにしても、ユー(U-511)も毎回大変だな。こんなのを送らなきゃいけないなんて」
テレビの画面を見ながら提督がぼやいた。U-511は彼にとって初めてのドイツ艦娘だった。
定時報告の事も、U-511が着任してから初めて知った。
ドイツ語がわからないのにドイツ語の内容を検閲しなければいけない。
危機感を感じて泊地中の艦娘に声をかけた結果、ドイツ語がわかる艦娘を二人見つけられた。
それが大淀と暁だった。意外としか言い様が無かった。
いや、大淀はまだいい。暁が意外だった。
彼女の見た目は小学生程度。普段から一緒に遊んだりしているが、その時から考え方や感情の表し方も見た目相応だと感じていた。
その彼女がドイツ語堪能というギャップに彼は最初、白目を剥きそうになった。
だがそれだけではなかった。聞いた話だと彼女は日本語・ドイツ語を始め6ヶ国語に精通しているらしい。
この話を聞いた時、提督は完全に白目を剥いた。そして暁に正面から突っ込みを入れられた。
「暁はレディだから」と彼女は言うが、そんな当然のように言われても、という感想しか抱かなかった。
それはともかく、彼女達二人の活躍により今回の定時報告の検閲も無事終了したのだ。
提督「じゃあ………あ」
暁「どうしたの?」
提督「いや…もうすぐ昼飯だったかって思って」
提督「りんごジュースはまずかったかな?ご飯入らなくならないかな?」
大淀「一杯くらいなら大丈夫ですよ…」
提督「そっかな…」
提督「まぁ、それじゃあ、行ってらっしゃい」ヒラヒラ
暁「え、司令官はご飯食べないの?」
提督「もうすぐ遠征隊が帰って来るからそいつら待ってる」
提督「俺が席外すわけにもいかんでしょ?」
暁「別にちょっとくらいいいと思うけど」
提督「そうっちゃそうかもだけど、何だ…待たせるのは悪い気がするんだ」
提督「新人もいるし、ちょっと話がしたいしな」
提督「そんなわけだから先に行ってていいよ。早くしないと伊良子ちゃんの『めっちゃうまいご飯』が『うまいご飯』にランクダウンしちゃうぞ」
大淀「いえ…私は、待ってます」
提督「えー…いいの?」
大淀「遠征隊の皆と、提督と私で一緒にご飯を食べましょう?」
提督「じゃあ暁は」
大淀「我慢できなかったら先に行っててもいいですよ」
暁「あ、暁は!待ってるし!!我慢できるし!!!」
提督「そっか。じゃあ一緒に待ってるか。悪いね」
提督「二人には色々手伝ってもらったのもあるし、ここでのんびりしててもいいよ」
大淀「ありがとうございます、提督」
提督「俺は~♪書類の続きでも~やりましょか~♪」
暁「………」
提督「お菓子食うなよーご飯食べられなくなるぞー」
暁「わ、わ、わかってるし!!!」ピピピピピ
暁「え」
提督「………通信?」ガチャ
提督「はいこちら提督」
「提督!!お願い!!そっちから迎え出して!!」
提督「え、蒼龍!?わかった!ちょっと待ってくれ!!」
大淀「提督!?」
提督「大淀!!軽巡二班(※)を遠征隊の迎えに出してくれ!!」
(※)川内・神通・那珂の三人の事
大淀「え!?」
提督「何かトラブったみたいだ。襲撃を喰らってるかもしれない。とりあえず早く出撃の準備を頼む」
提督「南西から戻ってくる遠征隊の迎えだ。他にも用意するもんがあるから後の指揮は頼む」
大淀「わ、わかりました!!」ダッ
提督「…で、蒼龍!聞こえるか?」
提督「迎えの指示は出した!一体何があった!?」
「囮機動部隊支援作戦が終わって帰ってる途中なんだけど…」
「雪風ちゃんが、その途中で負傷した子を見つけて…助けるって先行して…!!」
提督「…まだ練度も無いのに一人突出するのは危ないな。それでか」
提督「それで雪風が見つけたっていうのは、艦娘か?」
「そう、だけど…!!」
提督「だけど?」
「だけど…!!」
提督「はっきり言ってほしい。状況がよくわからない」
「その子…もう………」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
ようやく見慣れてきた建物が視界の奥に映り始め、雪風は少し安堵する。
「頑張ってください…!あとちょっと、あとちょっとですから!!」
胸の中で抱え込んだ少女に激励を飛ばす。
海水と溶けた血液が衣服に滲み、肌を滑り、下着の中にまで入り込む不快感に耐えながら、最大戦速で突き進む。
意識を胸の中の少女と足に集中し、目の前の泊地に向かって突き進む。
雪風はつい2ヶ月前に泊地に着任したばかりの新人だ。
彼女と共に遠征に出向いていた蒼龍や飛龍達とは練度が文字通り桁が違う。
だからこそ、彼女は自分の行動が悪手であると気付けなかった。
近くに潜んでいた偵察艦が放った魚雷が、彼女の進行ルートに直撃する形で向かっていた。
意識を別の所に向けていた雪風はそれに気付かなかった。
ふと嫌な予感と気配を感じて雪風がそちらを見た時には既に遅く、完全に捉えられていた。
状況を理解した瞬間、緊張で高鳴っていた雪風の心臓に鉄の棒が突き刺さったような痛みが走る。
一秒が長く感じる。ゆっくりと魚雷が自分に向かって突き進んでいく。
身体は動けない。このまま直撃する。
後悔、恐怖、怒りの感情が理性を叩き潰していく。
魚雷が自分に向かってゆっくりと突き進んでいく。
だが
不意に、不自然に雷跡が曲がった。
まるで雪風を避けるかのように、魚雷は進むべき道を逸らして彼女の斜め後ろへと進んでいった。
そして次の瞬間、雪風から少し離れた場所で爆音と怪物の呻き声が轟いた。
魚雷を放ったイ級が川内の砲撃を喰らって撃沈したのだ。
「雪風!!」
イ級の轟沈を確認した川内は、自分の艤装から発する硝煙の帯を引き千切るかのように腕を振り抜き、雪風の傍に奔り寄った。
雪風に声をかけようと、川内は彼女の方に視線を向ける。
だが、川内は声をかける事ができなかった。
視界に映った情報を頭で処理しきれず、ただ自分の口を手で押さえることしかできなかった。
雪風の白い制服は赤く染まっていた。
赤い液体で濡れた服が彼女の身体に張り付き、僅かに膨らんだ胸や、幼さが残る下腹部、大腿部を浮かび上がらせている。
そして、彼女が抱えているもの。
それを見た神通と那珂も、顔をしかめて黙り込むしかできなかった。
「この人を」
「この人を助けてください!!」
雪風は、そう叫ぶ事しか思い付かなかった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「………ん」
「……………え?」
明石「………あ!!」
明石「よかった!目が覚めたんですね!!」
明石「伊58さん!!」
伊58「ひっ………!!」
明石「あ…ごめんなさい」
伊58「こ、ここ、どこなんでちか…」
伊58「鎮守府…!?鎮守府に、こんな所、ゴッパ知らないでち…」
明石「ここは鎮守府じゃないですよ。パラオ泊地」
伊58「は、はくち…?」
伊58「鎮守府じゃなくて?」
明石「鎮守府って言うほど大きくないですしね」
伊58「じゃあ、ゴッパ…もう、大丈夫なのかな?」
明石「大丈夫…?えぇ、大丈夫、です、よ…その……」
伊58「………」
明石「………」
伊58「ゴッパ、逃げられたんだね…」
伊58「あれも、夢だったん、じゃ………」
伊58「………!!」
明石「………」
伊58「あ…明石、さん…」
明石「………」
伊58「ゴッパの身体、何で動かないの…!?」
伊58「手もっ足もっ『無くなっちゃった』みたいに…!!」
伊58「何でっ」
伊58「何で!?」
伊58「 何 が 起 こ っ て る の ぉ ! ? 」
明石「ま、待って!!動かないで!!」
伊58「嫌ぁ!!来ないで!ネジはもう嫌ぁ!!!!」ガバッ
伸ばされた明石の手から逃れるように伊58は背筋を使って身体を逸らす。
そのままの勢いでベッドから文字通り転がり落ちた。
それによってシーツに隠されていた伊58の身体が彼女の視界に映る。
包帯が巻かれた右の二の腕。
包帯が巻かれた左の二の腕。
包帯が巻かれた右の大腿部。
包帯が巻かれた左の大腿部。
その全てが
そこから先の部位が
無くなっていた。
指も
足も
手も
脛も
膝も
肘も
全て、視界から消えてなくなっていた。
痛み以外の感覚全てが消えてなくなっていた。
頭の中で何度も何度も動かそうとしても
目の前に存在しないそれらは一切動かず
現実を叩き込むように、ただただ痛みだけが襲い掛かってきた。
伊58は悟った。
こぼれた涙と崩壊を始めた精神が視界を歪ませていく。
両腕両足に痛みが走る。
あれは
あの夢は
夢じゃなかった。
「あははは」
「あはははははっ」
笑うしかなかった。
無意識の内に泣きながら、笑うしかできなかった。
さっきまでの自分に。
今までの自分に。
「あははははははははははははははははははははは!!!!!!!!」
何が助かっただ。
「ははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」
何が自由だ。
「あーっはっはっはははははははははははははははははははは!!!!ぎゃはははははははははははははははははは!!!!!!!」
死にたくなかった。
自由になりたかった。
でも
そんなもの、ゴッパにあるわけないってわかっていた。
ゴッパにそんな権利があるわけないってわかっていた。
でも
死にたくなかった。
自由になりたかった。
でも
それももう叶わない。
これが現実。
どうせ
どうせ
ゴッパなんて
所詮
こんな
もの
☆今回はここまでです☆
CSMブレイバックルCSMブレイラウザーCSMラウズアブソーバーCSMキングラウザーまーだ時間かかりそうですかねー
>>1です。
ニーアオートマタやってたら凄く遅くなりました。
今から投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「両腕両脚欠損」
「欠損箇所を中心に広がる重度の火傷」
「身体全体に無数の裂傷、傷口からの出血」
「内臓破裂」
明石「艦娘じゃなかったら………」
伊168「」ジッ
明石「………かなり、危なかったです」
明石「修復剤を大量投入して、何とか持たせた感じですかね…」
那珂(やっぱり修復剤使っても手足は戻らなかったんだ)
提督「今、あの子はどうしてるんだ?」
明石「一旦『眠らせ』ました」
提督「………そっか」
明石「ごめんね。同じ伊号の艦娘として会いたいとは思うけど」
伊401「ん、うん」
伊19「…正直、今の今でも何が起こってるのか全然わかんないのね」
伊19「伊58が運ばれてきたって聞いて、両手両足が無くなっててパニックになってるって聞いて」
提督「だろうな」
提督「だからこの場で一度現状確認をしようと思ってみんなを集めたんだ」
提督「この泊地の秘書艦」
提督「秘書艦補佐」
提督「潜水艦娘のみんなも…」
提督「多分、辛い話をすると思うけど知っておいてほしい」
伊168「…それって」
提督「大体の目星は付いているって事かな?」
提督「イムヤは、多分ある程度予想してるんじゃないか?」
提督「知ってるだろ?あれの事」
伊168「!!」
U-511「え?」
伊401「それって、どういう事?」
伊168「………やっぱり、そうなの?」
U-511「Admiral、何か知ってるの?」
提督「本当の事は知らないよ」
提督「でも、『恐らくこうだろうな』ってのは考えてる」
U-511「………?」
提督「今からちゃんと教えるよ」
提督「怖い話をすると思うけど、しっかり聞いてほしい」
提督「あの子(伊58)にとって大切な話だから」
提督「…大丈夫かな?」
U-511「………うん」コクン
提督「ありがとう」
提督「それじゃあ蒼龍、飛龍。何があったか詳しい話を教えてくれないか」
提督「俺はお前達に囮機動部隊支援作戦に参加してもらった」
提督「それで、その帰り道で伊58を発見し保護した」
提督「大まかな話はそれでいいんだよね?」
飛龍「うん」
提督「…じゃあ、どこで見つけたとか、周囲に何があったかとかは覚えている?」
蒼龍「索敵しながら進んでいましたけど、周囲に敵はいませんでした」
蒼龍「でも雪風ちゃんが、急に動き出して、見つけたのがあの子です」
蒼龍「その時には、もう………」
伊401「周囲に敵がいなかったって、深海棲艦にやられちゃったわけじゃないんですか?」
飛龍「多分ね」
霧島「あの辺りは戦艦や空母がメインで、対潜が得意な深海棲艦はあまりいない」
霧島「だから深海棲艦にやられてああなったっていう確率は低いんじゃないかしら」
U-511「あのあたり…」
提督「飛龍、伊58を見つけたのがどの辺か、もう一度教えてくれないか?」バサッ
飛龍「………」
飛龍「ここ」トン
飛龍「東部オリョール海」
提督「……………」
伊168「やっぱりオリョール海か…」
U-511「やっぱり、って」
「…提督さん」ガチャ
提督「!!」
もう一人の明石「伊58ちゃんに付いていたものの検査終わりました」
明石「………」
提督「あぁ、明石さん。ありがとうございます」
U-511「えっ…あっ…明石さん…?」
如月「大丈夫よ。あの人はパラオ特別鎮守府の明石さん」
U-511「あっ…Admiralのお友達の…」
如月「そう。『パラオの英雄』さんの所の明石さん」
飛龍「いきなりだとちょっとびっくりするよね。私もちょっとびっくりしちゃった」
赤城「伊58さんに『付いていたもの』というのは?」
提督「あの子の首に何か巻き付いていたのが気になってね」
提督「艤装でもない、明らかに大本営の認可が下りている装備でもない」
提督「チョーカー…というか」
提督「首輪、みたいなものが」
伊168「首輪………」
提督「…で、どうでした?」
もう一人の明石(以下明石弐)「………あれ」
明石弐「爆弾です」
飛龍「…え?」
明石弐「伊58ちゃんの首に付けられていた首輪から起爆装置と火薬が見つかりました」
明石弐「あと、恐らく遠隔操作の媒体になるであろう機械も」
提督「………艤装の方は」
明石弐「…あまり驚かないんですね」
提督「そんな事だろうと思ってましたから」
明石弐「………」
明石弐「艤装の方は、特に異常も無い普通の艤装です」
蒼龍(艤装が発生させる結界によって、私達艦娘は敵からの攻撃のダメージを軽減している)
蒼龍(でも今回みたいに結界の内側、超至近距離から何かあった時は………)
蒼龍「………」
提督「そうですか」
提督「…ちょっと聞きにくい事ですが、爆弾の取り外しは可能ですか?」
明石弐「できます」
提督「!!」
明石弐「伊58ちゃんの首輪の爆弾、壊れているみたいです」
提督「え、壊れてる?」
羽黒「えっと…それってつまり?」
明石弐「起爆装置も爆弾も作動しないんです」
那珂「…どうやって試したのさ?」
明石弐「私が中開けた時には、もう丸焦げのボロボロでしたよ」
明石弐「だから爆発する事はありません」
明石弐「安全に、あの爆弾を伊58ちゃんから取り除く事ができます」
提督「壊れた?深海の水圧でも耐えられるであろう爆弾が壊れた?」
提督「というか、そうじゃない」
提督「起動したけど、爆発が内部だけに留まって装置だけを破壊した?」
明石弐「かもしれないですね」
明石弐「機械に不具合が起こってほんの小規模な爆発…首輪の機械を壊す程度の爆発になったか」
明石弐「そうじゃなかったらやっぱり不具合で高温になって配線を焼き切っちゃったか」
提督(じゃあもし)
提督(本来の規模の爆発が起こってたとしたら…)
あの子の、首は
あの子の両腕や両脚のように
吹き飛んでいた
提督「………」
提督(だとするなら、爆破のタイミングと意図は)
提督(それに、青葉から貰った音声ファイル)
提督(『健全な鎮守府であるならばまず聞かないであろう言葉』が入っていた)
提督(そこから考えられるのは………)
提督「…やっぱり、あれか」ボソッ
羽黒「…司令官さん」
提督「ありがとうございます。明石さん」
明石弐「…何か、わかりましたか?」
提督「ほぼ大体。予想の範囲から出ないですけど」
提督「知らないより知っていたほうがずぅっとマシな話はしますよ」
明石弐「…そうですか」
提督「明石さんは、これからどうされますか?帰るなら送りの者を誰か付けますが」
明石弐「いえ、私は…」チラッ
明石「………」ジッ
明石弐「一緒に聞かせていただいてもよろしいでしょうか?」
提督「気分が悪くなる話ですよ」
明石弐「覚悟はしています」
提督「…わかりました」
提督「それじゃあ、始めるよ」
提督「まず最初にみんなに思い出してほしい事がある」
提督「『作戦海域内での資源回収の要項』」
提督「しおい、覚えているかな?」
伊401「あ…はい!」
提督「大まかでいいから、説明してくれ」
伊401「えーっと…」
伊401「作戦行動中に座礁、転覆した船、沈没して油が漏れている船等を見つけた場合」
伊401「人命救助を最優先に行う」
提督「うん。そうだね。それで?」
伊401「生存者の確認、安全確保、護送が完了した場合」
伊401「艦娘は船に積まれている物資や資材、海上に漏れ出した油等を回収して利用して良い」
提督「正解」
提督「よく覚えていたな。偉いぞしおい」ニコッ
伊401「えへへ…」
提督「作戦海域中で発見した物資は俺達が回収できる」
提督「それは海軍が決めたルールとして、正しい事だって保障されている」
提督「『そのまま深海棲艦に取られる位なら、人類側の誰でもいいから先に回収して使ってしまえ』って事だろうけど」
伊401「でも、それが今回と何の関係があるんですか?」
提督「東部オリョール海にはそういう船が沢山あるんだ」
提督「深海棲艦が出てきたばかりの頃に沈められた旅客船や、その後の輸送作戦で失敗して沈められた輸送船とかがな」
提督「深海棲艦の第一目標である日本本土とフィリピンの間に位置してるから、そういう船は沢山あるし」
提督「あいつらの上陸部隊はあの辺りで編成してるみたいだ。補給艦も多いしな」
提督「だから俺達にとっちゃ最高の資材回収源だ」
提督「だからこそ過剰に利用する奴がいる」
伊168「…『オリョールクルージング』」
☆今回はここまでです☆
中途半端なんで、また近いうちに更新したいです。
それとオートマタ二週目イクゾー!!
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
提督「巷じゃそう言われてるな」
U-511「その…『おりょーるくるーじんぐ』ってなんですか?」
提督「鎮守府とオリョール海を往復して資材を回収する作戦だ」
提督「参加する艦娘は潜水艦娘…」
提督「さっきも霧島が言ってたけど、あそこには対潜が得意な深海棲艦が少ないからな」
提督「それに潜水艦娘は燃費が良いから、持ち帰った分で黒字になるって寸法」
伊401「それって、遠征とどう違うんですか?」
提督「そうだな。これだけ聞いてたらそう思うよな」
提督「輸送支援や作戦支援を行って、その報酬として補給資材の一部を貰ってくる遠征とこれじゃ何も変わらない」
提督「でも」
提督「休み無しで同じ事が言えるか?」
提督「この作戦は大抵の場合、艤装の消耗や艦娘の疲労は一切考慮されない」
提督「ただ延々と鎮守府と海域を往復して資材を回収していくんだ」
提督「深海棲艦と戦い、攻撃を回避し続けて…」
提督「ただただただただ」
提督「資材を回収して」
提督「置いたらまた海域に出撃して」
提督「資材を回収して」
提督「置いたらまた海域に出撃…」
提督「それだけを、延々と繰り返していくんだ」
提督「何時間、何十時間もな」
提督「どれだけヘトヘトになろうが」
提督「どれだけ傷付こうが、延々と繰り返す」
大淀「…そんなの、危ないじゃないですか」
大淀「いくら対潜攻撃ができる深海棲艦が少ないって言ったって、ゼロじゃない」
大淀「攻撃を受ければ、命を落とす危険があるんですよ」
大淀「なのにそんな、コンディションも最悪に近い状態で単純作業みたいな事させられるって…」
提督「あぁ危険だ」
提督「でも資材は回収できるだろ?」
大淀「『回収できるだろ?』って…」
提督「そのままの意味だよ。資材を回収できる」
提督「何度でも。何度でも」
提督「潜水艦娘の疲労やストレスを考えなければ」
提督「そんなモラルをくだらないものと切り捨てる事ができるなら」
提督「大量の資材を稼ぐことができる」
如月「…まるで、奴隷ね」
提督「そう、奴隷だ」
提督「オリョールクルージングも、本来は戦争に勝利する為の戦略の一つだ」
提督「資材が無きゃ艤装を動かす事も修理する事もできない」
提督「第二次世界大戦の時は、アメリカ側との圧倒的な資材の差も敗因の一つだからな」
提督「しかも今回はただの戦争じゃなくて人類の危機だ。『また負けました』は許されない」
提督「だから、何よりも資材確保を優先するという気持ちはわからないでもない」
「でも」
「その結果が」
「あの伊58の姿だ」
提督がポケットに手を入れ、何かを掴む。
「…ちょっと考えればわかるもんなんだよ」
引き抜かれた手の内に、携帯端末、スマートフォンが収められていた。
「奴隷みたいな奴が傍にいて、人間が何もしないなんて絶対にありえない」
スマートフォンに人差し指を置き、表面をなぞる。
指が動くごとに、声が、低く、暗くなっていく。
「最初は指揮官の小さな文句から」
暗く
「それがどんどん積み重なって、周りに波及され」
暗く
「文句は罵声へと変わり」
暗く
「最終的に」
暗く
「迫害されて当然の対象になる」
暗く。
伊401は目の前の男に初めて恐怖した。
先程自分の回答に対して笑顔で褒めてくれた男が本当に目の前の男と同一人物なのか、一瞬疑った。
今の彼の瞳は、横から見てもわかる程濁りきっている。
一切の興味や関心すら喪失したかのように生気が無くなっている。
だが、それでいながら、何か恐ろしい。
初めて深海棲艦と対峙した時と同じ感覚。
否、それ以上の恐ろしさか。不気味さか。
命の危機か。
それが自分に向けられていない、向けられるはずがないという、根拠が説明できない確信を持っていても尚
恐ろしく、不気味な、目をしている。
伊401は机の下で拳を握った。
歳の離れた兄、歳の近い父親だと感じていた目の前の男の、見てはいけない裏側を見るのだと。
そのイメージが崩れてしまうかもしれない、自分がまだ理解しきっていない感情もろとも、全てが壊されてしまうかもしれない。
それを伝える、恐怖という名の警告を握り潰すように拳を握った。
残虐な好奇心と、目の前の男に対する信頼を力に代え、恐怖を握り潰した。
伊19が生唾を飲む。楽観的な彼女が普段見せない、真剣な表情をしていた。
部屋に集められた他の艦娘達の顔にも緊張の色が見える。
伊168は俯いていた。この先提督が何を皆に伝えるか、彼女だけが明確な予想ができていた。
明石は眉間に皺を寄せ、隣に座っていたもう一人の明石の背に悪寒が走る。
那珂と如月だけが、ただ見据えるように提督を見つめていた。
提督の指が止まる。
「まぁ奴隷が人じゃなく物扱いなんだから、当然の話だ」
「それが人間だ」
「でもな」
「機械みたいに、馬車車のように、色々言い方はあるけども、人間はどこまで堕ちても機械にはなれない」
「生物学的に人間は、どこまで行っても人間のままだ。扱いが変わったからってそれが変わるなんて事は絶対にありえない」
「それが、他の人間にとって何物にも代えられない快楽になる」
彼の瞳の中に暗闇だけがある。
「黒人差別」
「被差別部落」
「魔女狩り」
「カースト制度」
「士農工商穢多非人」
「貴族主義になろうが民主主義になろうが資本主義になろうが共産主義になろうが、どれだけ時代が進もうが」
「人間は常に他人を見下し、否定し」
「非人と見なして、快感に浸る」
「それが、人間っていう生物の習性ってもんだ」
彼の言葉は、呪いの言葉のように紡がれる。
「そんでもって」
「今回も同じだ」
そして、スマートフォンの画面が艦娘達に向けられた。
☆今回はここまでです☆
>>1です。
艦これ4周年、おめでとうございます。
そして5周年に向けて、これからも長く続いてもらいたいです。
それでは投下を始めさせて頂きます。
そこに映っていたのは、匿名性の掲示板。
ネットワークを通じて文字を刻み、コミュニケーションを取る一般的なシステム。
だが、その内容は彼女達に少なからず衝撃を与える。
『あの婚活ババア早く沈んでくれないかしら』
『いちいちチョーク投げやがって。何教師気取ってるんだか』
記されていたのは、どこかの鎮守府の内情。
『夢で見たから嫁にするとかキッモwwwwwwキッモwwwwwwwwww』
また違う、どこかの鎮守府の内情。
『芋臭い顔が化粧したって芋は芋なのです』
その裏側に隠された感情。
『気持ち悪いロリコン戦艦。何であんなのが秘書艦やってるんだろう』
そこは、所謂裏サイトと呼ばれるものだった。
『キサラギ社は違法プログラム問題を改二でごまかしたつもりなのかな?』
『深海棲艦に国を売った非国民なんだからさっさと排除しなきゃ』
無知
『論理的効率的に物事を考えられない五航戦が毎回毎回騒ぎ立てているのを見ていて呆れます』
『自分の幼児的欲求と思慮の浅さを露呈して何が楽しいんでしょうか』
『鎮守府の評判を誰よりも落としているって自覚があるんでしょうか』
無責任
『【拡散希望】金剛は援助交際してるクソビッチwwwwww』
無教養
『汚いクソレズ女。単なる性欲の発散を姉妹愛にすり替えてんだから、よけい汚い』
『そうやって自分で捏造した正当性に隠れて攻撃する陰湿さ』
無慈悲
『提督に媚びてんじゃないわよ。艦隊の足を引っ張るだけのゴミの分際で』
無遠慮
『お前の方がゴミ』
無頓着
『榛名も男漁りしてるし、ヴェニデ製の艦娘ってほんとクソビッチばっかりじゃないですかwwwwwwwwwwww』
無理解
『あいつ、もう生きてるだけでこっちまで悪く言われるんだから。ホント迷惑なんだよね』
無配慮
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
無神経
『キチガイジャップは恥を知れwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
悪意
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
煽り
『もう戦犯日本はすっこんでアメリカ様に媚売ってればいいんじゃないですかねwwww』
罵倒、嘲笑に満ちた
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
吐き気を催す
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
『ジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアップwwwwwwwwwwwwwwwwwwwwww』
ヘドロ溜まりのような本音。
彼女達艦娘もまた、何一つ疑いようも無い人間であるという何よりの証拠。
そして、提督はそのヘドロ溜まりの中の一つを指差した。
『鎮守府の汚点である潜水汚物、特に珍獣ゴッパを撲滅しましょう』
『差別だという的外れな事をいう人もいますが、存在の醜さを軽蔑するのは差別でも何でもない。当たり前の事です』
『珍獣どもを排除し、理想の鎮守府を私達の手で作り上げましょう』
羽黒「珍獣………」
提督「あいつ、自分の事を『ゴッパ』って言ったらしいな?」
提督「『伊58』でも『ゴーヤ』でもなく、『ゴッパ』って」
提督「『ゴッパ』ってのは、伊58型艦娘の蔑称だ」
提督「それを自分から口にするってのは、普通の状況じゃまず考えられない」
提督「あの怪我…それと明石があの子に近付いた時、尋常じゃない怯え方されたってのも聞いた」
提督「だから、あいつが前いた鎮守府でまともな扱いを受けていたとは考えられない」
提督「『珍獣ゴッパ』としての自分を受け入れるしかなかったんだろう」
提督「艦娘じゃない、まして人間でもない」
提督「けだもの扱いを受けて、奴隷のように働かされて」
提督「他の艦娘は誰一人あいつを助けず」
提督「むしろ虐待して悦楽に浸っていた」
「だって、奴隷だからな」
「何をしても許される、人の形をしたモノだから」
「いくら罵倒しても」
「いくら暴力を振るっても」
「いくら、殺しても」
「許されるんだと」
「それが正義だと」
「そう、思い込むんだ」
「それが、人間っていう生き物だからな」
提督「そんな所だろ?」
提督「両手両足の火傷、全身の裂傷、首に付けられた爆弾」
提督「恐らく、首に付いているのと同じようなのが両手両足に付いていたんだろう」
提督「逃亡防止用か、何かの為に」
大淀「っ…そんな、非人道的な事が」
提督「あるんだよ。そもそも人道もクソも無い」
提督「だって、『珍獣ゴッパ』は人間じゃないからな」
提督「人間の権利がある前提で物事を決める事は、あいつらにとってはナンセンスなんだ」
提督「………そうだろう。那珂、如月」
那珂「………」
如月「………」グッ
提督「あの子の両手両足が吹き飛んだのは両手両足に付いた爆弾が爆発したからだ」
提督「そうやって逃亡手段を奪った上で」
「首に付けた爆弾で確実に命を奪う」
提督「はずだったけど、何らかのトラブルが起こって爆弾は壊れた」
提督「そして雪風が伊58を見つけて、ここに連れてきた」
提督「………今起こってるのは、多分そういう事だ」
伊168「…それで、私達はどうしたらいいの?」
伊168「それを聞いて、どうしたらいいの?」
伊168「伊58をどうするの?」
提督「助ける」
提督「だから、まずはあの子が俺達に持っている誤解を解かなきゃいけない」
提督「あの子を安心させてやらなきゃいけない」
提督「さっき言った事がそのものズバリなら…あの子は今深海棲艦の巣の中にいるような心情だろう」
霧島「それは………怖い、ですね」
提督「だろ?でもここは深海棲艦の巣じゃない。パラオのちっちゃな泊地の一つだ」
提督「そして何より」
提督「ここにはそうやって自分勝手な大義名分掲げて他人を虐待するようなキチガイはいない」
提督「それを、わかってもらわなきゃ何も始まらない」
提督「だから積極的に、あの子と交流を図ってほしい」
提督「でも、あまり多くの人数で一緒に行くのは禁止。あの子が怖がる」
提督「何でかを、わかって貰いたかったから、ここに集めて説明した」
提督「…できるか?」
伊19「当然」
伊168「やるわよ」
提督「頼むぞ。お前達潜水艦娘は今の伊58にとっては今まで一緒に虐げられてきた同士だ」
提督「他の艦娘より、警戒はされていないはず…だから、場合によっては全員一緒に会いに行ってもいいよ」
伊401「頼むぞって、提督は来ないの?」
提督「青葉伝手に状況は頭に入れておくけど、今の俺が会うべきじゃないんじゃないか?」
提督「他の艦娘より、一番提督ってのにトラウマ持ってそうだし」
伊401「そんな事ないよ!」
伊401「提督が今までの伊58の提督じゃないって!それをわかってもらうのが一番大事でしょ!!」
提督「そうかなぁ」
伊401「そうだよ!!だってイクがどれだけいたずらしても本気で怒らなかった提督だよ!?」
伊401「伊58だって、そういう提督だってわかれば!きっと安心する!!」
伊19「イクがどれだけいたずらしても怒らない提督の優しさ、イクも好きなのね」(ダシにされるのは好きじゃないけど)
伊19「伊58にも知って貰うべきだって思うのね」
提督「………わかったよ。じゃあ時間が空いたら行く」
提督「それと…今回の件、他の艦娘…あと友提督のとこにも青葉伝手で伝えておく」
提督「誰より事情を知っている俺とお前達が統制していこう。オッケー?」
伊168「オッケー」
提督「よし。それじゃあ解散」
U-511「………」
「Admiral」
「何で」
「何で、こんな事が起こるの?」
伊401「ユーちゃん…」
U-511「みんな、こんな事はもうやめようって」
U-511「もう絶対にしちゃいけないって、そうなったんだよね?」
U-511「だから、ドイツは…!!」
U-511「なのに、何で」
U-511「何でまた、こんな事が起きているの…!?」
U-511「ドイツがやってきた事が、悪いことだって、みんな言ってるのに、どうして…!?」
提督「………ユー、それはな」
「ドイツが負けたからだ」
「ドイツのアパルトヘイトが悪と見なされ、それを受け入れさせられたのはドイツが負けたからだ」
「勝った方が歴史を作る。自分の都合の良いように歴史を作っていくんだ」
「だから負けたドイツはユダヤ人迫害の罪ばかり目を向けられる」
「あの程度の人種差別、どこの世界にでもありふれたものだ」
「現にアメリカにだって、KKKっていう白人至上主義団体が存在している」
「実際に黒人を集団で囲んで殺すなんて話もある」
「やり方とか規模は違うと思うけど、考えていることはアパルトヘイトと何も変わらねぇ」
「それを何とかしようとした大統領、国のリーダーがいたけども」
「そのせいで戦争が起こって、何人ものアメリカ人が死んだ」
「そして、大統領自身もその後に殺された」
「他の誰でもない、アメリカ国民自身の手によって」
「そりゃそうだよな。もっと黒人から搾取して、黒人をいたぶって、黒人を殺したかったんだものな」
「それを邪魔しようってんなら」
「大統領だろうが、ブッ殺す」
「ナチスドイツと何らかわらねぇ」
「理屈や名聞、言い訳が何であれ、『俺が上で、お前は下』って言いたいんだ」
「それだけを、言い続けたいんだ」
「日本は、大韓民国人に酷い事をしたって言う奴もいる」
「インドの方を見てみれば、身分制度が根強い」
「ヨーロッパの方でも昔は魔女狩りなんていうアホみたいな事をやっていた」
「何でまたこんな事が起きるかっていったな?」
「人が人である限り、こんな事が永遠に続いていくんだ」
「形を変えて、場所を変えて、この地球上のどこかで永遠に続いていくんだ」
「ただただただただ」
「他人を殺したいっていう欲望の為だけに」
「その為だけに」
「今日もどこかで人が殺される」
☆今回はここまでです☆
最初の数レス作るのに10日以上かけてしまった…
とんでもないミスをしてました。ご指摘ありがとうございます。修正します。
>>83
「ドイツのホロコーストが悪と見なされ、それを受け入れさせられたのはドイツが負けたからだ」
「勝った方が歴史を作る。勝った奴が自分の都合の良いように歴史を作っていくんだ」
「自分が偉い、自分が正しい、自分が、自分だけが、正しいってな」
「だから負けたドイツはユダヤ人迫害の罪ばかり目を向けられる」
「でもな」
「あの程度の人種差別、どこの世界にでもありふれたものだ」
「現にアメリカにだって、KKKっていう白人至上主義団体が今でも存在している」
「そいつらが実際に黒人を集団で囲んで殺すなんて話もある」
「やり方とか規模は違うと思うけど、考えていることはホロコーストと何も変わらねぇ」
「他人を否定し、排除する。その根元は何も変わらねぇ」
「そういう風潮を何とかしようとした大統領、国のリーダーがいたけども」
「そのせいで戦争が起こって、何人ものアメリカ人が死んだ」
「そして、大統領自身もその後に殺された」
「他の誰でもない、アメリカ国民自身の手によって」
「そりゃそうだよな。もっと黒人から搾取して、黒人をいたぶって、黒人を殺したかったんだものな」
「それを邪魔しようってんなら」
「大統領だろうが、ブッ殺す」
「勝ったアメリカも、ナチスドイツと何ら変わらねぇ」
「いや…国の失業率を改善したり高速道路を作ったりもしてる分、もしかしたらナチスドイツの方がましだったのかもしれねぇ」
「でも、負けたから。ただそれだけの理由で、ただのイカれた虐殺者・独裁者として排除された」
「そうして、勝者は、全てを奪って愉悦に浸る」
「…結局のところ、どいつもこいつも、世界中のどこに行っても」
「理屈や名聞、言い訳が何であれ、『俺が上で、お前は下』って言いたいだけなんだ」
「それだけを、言い続けたいんだ」
「その幼稚な承認欲求・愉悦感を得る為だけに」
「否定して」
「殺す」
「それが、俺達人間っていう生物だ」
「他の国だって何も変わらねぇ」
>>1です。
最近は艦これアーケードでの、南方棲鬼のモーションにときめく日々を送っています。
全体的にとてもかっこよく、特にカットイン砲撃は一見の価値があります。しびれる~。
それでは投下を始めさせて頂きます。
U-511「……Admiral」
提督「………もう、いいか?」
U-511「………」
提督「伊58の事、頼んだぞ。俺も時間が空いたらすぐに行くから」ガチャ
バタン
伊401「………提督」
U-511「私、いけない事、言っちゃった…?」
伊168「ユー…気にしないほうがいいわよ」
U-511「でも」
U-511「Admiral、あんな怒ってて…」
U-511「あんなAdmiral見たことなくて…怖くて…」
U-511「私のせいなんだよね…?」
伊19「…あれは、ユーのせいじゃないの」
伊19「提督の…癖みたいなものなのね」
U-511「癖?」
伊19「かっこよく飛び出してったけど、多分今頃後悔してる所なのね」
伊19「だから、そんな自分を責めなくていいの」
U-511「……でも」
伊19「いいから!」
伊19「何か気になる事があるなら今度聞けばいいのね!」
伊19「はっちゃんのシュトーレンの残り、全部食べていいから今は部屋に戻るの!」グイッ
U-511「あぁっ、イク…」
如月「………」
如月(それが)
如月(人間という生物、か……)
羽黒「如月ちゃん…」
如月「………私達も、戻りましょう。那珂さん、羽黒さん」
羽黒「…うん」
那珂「そうだね」(那珂ちゃんだ、って言ってるんだけどなー)
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
秘書艦すら置いて一人、部屋を出た提督は早歩きで廊下を進んでいく。
眉間に皺を寄せ、顎を引き、前を睨み付ける様に見据えて進む。
泊地の近所の住人がこの光景を見たならば、どうした何があった、と驚き心配するだろう。
彼の心は苛立っていた。
U-511は何も関係ない。
彼女は何が起こっているか知りたかっただけなのに。
なのに俺の言いようは何だ。
もう少し言い方があったんじゃないか。彼女は傷付いているだろう。
俺がもっと言葉を選んでいれば。
俺がもっと落ち着いて話をしていれば。
彼は後悔と不甲斐無さを感じていた。
そして脳裏を掠めた苦い記憶の味を思い出す。
口を開かせ、舌を動かし、声帯を振るわせた動力になった苦い記憶。
思考を放棄し、爆発する感情に注がれた、燃料になった苦い記憶。
喪失感。
喉を焼く酸の熱さと痛さ。
手にずしりと圧し掛かる重さ。
視界に映る己の手。
痛覚を刺激する鉄の塊。
今は亡き男の狂った笑い声。
無表情に、かつ残酷に通告する数字の羅列。
身体に無数の、見えないけれど決して消えない傷を付けられた少女。
彼女の、二度と戻らない名誉と権利。
思い出す度に憎しみと失望感が湧き出てくる。
速くなる鼓動。温い炎で首筋を炙られる感覚。プラスチックで喉や心臓を締め付けられるような痛み。
こんな事があった。
だから思わず言ってしまった。
だからしょうがないじゃないか。
だから俺は悪くないんだ。
悪いのはあいつらだ。
そう認識する為に、無意識の内に記憶を引きずり出した。
自分自身を正当化する為に、ただそれだけの為に感情を弄んだ。
彼もまた、どうしようもない程に人間であるのだ。
そして彼の無意識が世界の言葉を受信する。
そうだ、お前は間違っていない。
これが世界だ。
この世界はそういうものだ。
これが現実だ。
夢ではない。
これが現実。
これが常識。
現実は常に残酷であり
常に最悪の結果をもたらすもの。
傷付かず、犠牲も無く終わる物語なんて四流作家の作るもの。
ハッピーエンドなんて甘えでしかない。
苦痛と
恐怖と
無力感を与える、唯一無二の存在。
唯一の本物。
唯一の非幻想。
臨場感を凌駕してリアルに於いて反映実映される、有質量の全ての結果。
これが現実だ。
これが世界だ。
だから、お前は間違っていない。
その言葉が彼の幼稚な承認欲求を満たしていく。
彼もまた、どうしようもない程に人間であるのだ。
誤字出しました。修正します。
>>94
そして彼の無意識が世界の言葉を受信する。
そうだ、お前は間違っていない。
これが世界だ。
この世界はそういうものだ。
これが現実だ。
夢ではない。
これが現実。
これが常識。
現実は常に残酷であり
常に最悪の結果をもたらすもの。
傷付かず、犠牲も無く終わる物語なんて四流作家の作るもの。
ハッピーエンドなんて現実逃避、甘えでしかない。
苦痛と
恐怖と
失望と
無力感を与える、この世で唯一無二の存在。
唯一の本物。
唯一の非幻想。
臨場感を凌駕してリアルに於いて反映実現される、有質量の全ての結果。
これが現実だ。
これが世界だ。
だから、お前は間違っていない。
その言葉が彼の幼稚な承認欲求を満たしていく。
彼もまた、どうしようもない程に人間であるのだ。
だが
承認欲求が満たされる快感と共に押し寄せてくる黒い感情もあった。
それは殺意と呼ばれる感情だった。
それは自己を正当化する度に理不尽に湧き出る感情。
自分がどうしようもなく人間であるという事。
今まで散々自分を否定し、自分が生きていてはいけない人間だと叩き込んだ現実が、
今や彼の考えを容認し、彼の幼稚な承認欲求を満たしにかかっている事。
倫理や常識を放棄して、伊58にあれだけの仕打ちを行った事。
自分を否定し、拒絶し、ここまで堕とした世界に対する殺意。
手の平を返し、自分に媚びへつらうようになった世界に対する殺意。
伊58を追い詰め、四肢を奪い、絶望させた世界に対する殺意。
そして
狂気の域まで踏み込んだ、超悲観的な自分自身の思想に対する殺意。
何が現実だ。
何が世界だ。
何が本物だ。
何がリアルに於いて反映実現される有質量の全ての結果だ。
ふざけるな。
うそぶくな。
格好付けるな。
死ね
死ね
死ね
死ね
全部死ね。
殺す
殺す
殺す
殺す
全部殺す。
人間という生物が何かを否定し殺す性癖の生物なのだから
俺という人間は
俺を否定する世界を
あの子達を否定する世界を
手の平を返して俺に媚びへつらう様になった世界の不誠実さを
誠実で規則正しかった頃のお前が否定した、俺という人間も
何もかも否定して殺してやる。
二十数年に及ぶ彼の人生の中で培われた、狂人じみた自己否定と正義感が
彼の精神の中で不気味に共存していた。
自己否定という水
正義感という油
決して混ざり合わないはずの二つが
殺意という界面活性剤によって混ざり合っていた。
そして出来上がった、世にもおぞましいコロイド溶液が
彼の脳髄に流れ込み、言葉を刻む。
伊58は絶対に助け出す、と。
彼女は、雪風が自分の危険を顧みずに助けようとした子だ。
だから絶対に助ける。
あの子が笑顔になれるようにする。
この世が残酷であるからこそ
あの子をできる限り幸せにする。
それができなきゃ、雪風が悲しむ。雪風が、絶望してしまう。
それを見て、またあの絶望が顔を出す。
そうだこれが現実だ、と。お前は何一つ間違っていない、と。
そんな事には絶対させない。俺の思想は否定され続けなければいけない。
あの子が幸せになれない理由なんて何も無い。
あの子の幸せを否定する世界なんて俺がブッ殺してやる。
彼女の為にも、雪風の為にも、皆の為にも、俺自身の為にも
この話を
バッドエンドなんかで終わらせてたまるものか。
俺は、どんな手を使ってでも
伊58を助ける、雪風を幸せにする。
何を犠牲にしてでも
俺の、艦娘達を生き残らせる。
みんなを、幸せにする。
自惚れだろうな。
傲慢だろうな。
上手くいかないかもしれないな。
でも
それならそれで構わない。
それが、現実ってものだから。
それが俺を徹底的に否定する
本当の、正真正銘の、現実、世界だから。
現実に打ちひしがれ、絶望し、自分の命を絶つ。
俺みたいなクズは、クズらしくみっともなく格好悪く何の成果も残さずに死ねばいいだけの話だ。
格好付けた事を言って
失敗して
無様に手の平を返して
みっともなく死ぬ。
現実がわからないクズは、そうやって死んでいけばいい。
何も学ばなかったクズは、そうやって死んでいけばいい。
そうやってゴミみたいに死んでいく事が
俺に色々な事を教えてくれた
俺がどうしようもないクズ野朗だと教えてくれた
この世界に対する最大限の礼儀だ。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
伊58「………」
伊58(ゴッパの、ゴッパの、手も、足も)
伊58(もう………)
伊58(これじゃあ、何の為に、逃げたのか…)
雪風「伊58さん、失礼します!」コンコン
ガチャ
伊58「………」
雪風「ご飯、お持ちしました!!」ニコッ
雪風「今すくうんでちょっと待っててくださいね!!」カチャン
雪風「……はい!あーん!!」
伊58「」プイ
雪風「あ……伊58さん」
伊58「いらないでち」
雪風「食べないと駄目ですよ。お腹空いちゃいます」
伊58「別にいいよ」
雪風「よくありません!それじゃあ死んじゃいます!!」
伊58「いいよ」
伊58「死んだって」
雪風「………!!」
雪風「…駄目ですよ」
伊58「何で?」
雪風「頑張って、頑張って生きていれば」
雪風「しれぇが、きっと何とかしてくれます」
雪風「何とか…」
伊58「 な ら な い よ ! ! ! 」
伊58「ゴッパの手も足ももう無いんだよ!?ずっとこのままなんだよ!?」
伊58「身体もぐちゃぐちゃにされて、綺麗じゃない!」
伊58「誰も好きになってくれない!!」
伊58「ずっとベッドの上で何もできないまま一生過ごすんだよ!?」
伊58「どうせこのままなんだったら、もう死んだっていいじゃない…!!!」
雪風「よく、ありません…!死ぬなんて…!!」
伊58「…何で、死んじゃ駄目なの?」
伊58「ゴッパを助けちゃったから?死なれたら気分悪くなるから?」
雪風「そうじゃ、なくて…!!」
伊58「………ねぇ」
「何で」
「なんでゴッパを助けたの?」
「なんでゴッパを助けたの?」
「何であそこで死なせてくれなかったの?」
「あのまま死んでいたら、こんな思いしなくて済んだのに」
「何で!?」
「何で助けたの!?」
「誰が助けてって言ったの!?」
「どうせゴッパはゴッパなんだよ!!」
「生きていたってしょうがないんだよ!!!」
「なのに何で!?」
「何で!?」
「何で!?」
「 何 で ! ? 」
「 何 で ! ? ! ? 」
雪風「…それは………」
伊58「………疫病神…!!!」ボソッ
雪風「………ッ!?!?」
伊58「あそこで死なせてくれればよかったのに…」
伊58「余計な事をしたせいで、ゴッパは死ねなかったんだよ…!!」
伊58「あのまま、死んでいれば、よかったのに…!!」
雪風「…ちがっ、う」
雪風「そんな、事、そんなつもりで…!!」
伊58「 疫 病 神 ィ ! ! ! 」
伊58「疫病神!!」
伊58「疫病神!!!」
伊58「疫病神ッ!!!!」
伊58「もう出てってよ!!!疫病神ィッ!!!!!」
伊58「もう生きていたくないんだよぉ!!!」
伊58「このまま死なせてよぉ!!!!!!!」
雪風「う……ッ!!…あぁああ、あああう……!!!」ダッ
バンッ
ダダダダダダダダ!!!!
伊58「………」
伊58「………あはっ」
伊58「あはは、あははははっ………」
「死ね………」
「死ねばいいんだ………!!」
「ゴッパなんて…」
「さっさと」
「死んじゃえばいいんだ………!!!」
☆今回はここまでです☆
もうすぐ春イベント開催ですね。
備蓄や練度、時間を考慮して無理をしないように楽しんでいきましょう。
あと
最近デレステ始めました^^
>>1です。
皆様、春イベントの進捗はいかがでしょうか。>>1は現在最終海域を攻略中です。
期間いっぱいまでイベントに集中したいので、こちらの投下はまだ時間がかかりそうです。
ご了承の程、どうかよろしくお願い致します。
>>1です。春イベントお疲れ様でした。
>>1は何とか最終海域まで攻略し、新規艦娘は全て集められました。
個人的な感想ですが、最近は以前のイベントに比べて新規艦娘のドロップ率が上がっているように感じます。
前回も伊13があっさりひょっこり出てきたので、もしかして調整されたのでしょうか。
それでは投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
走る。
走る。
走る。
廊下は走ってはいけません。
そんな、ずっと聞いてきた言葉も投げ捨てて。
行く当てもなく走る。
あの部屋から離れるために。
何かから逃げるように。
視界が涙で滲み、脱水症状とショックで頭がガンガンと痛む。
「疫病神」
頭の中で声が反響する。
違うと否定する。その度に声が大きくなる。
「疫病神」
そんなつもりじゃなかった。傷付ける目的で助けるつもりじゃなかった。
「疫病神」
本当に助けたかった。何とかしたいと思っていた。
「疫病神」
だが、反響する声が
「疫病神」
少しずつ変わっていく。
「疫病神」
聞き覚えの無い、聞きなれた声。
「疫病神!!」
自分の声。
「疫病神!!!」
こだまのようでこだまでない。
自分の声が同じ言葉を繰り返し、繰り返し、繰り返し、叫んでいる。
「疫病神!!!!」
まるで自分に言い聞かせるように。
「そうさ!私は疫病神さ!!!」
突然沸いた強烈な違和感を感じ取る事で、雪風は寸での所で思考を切り離せた。
「………誰…ですか!?」
頭に響く声は自分のものではない。他の誰かのものだ。
他の誰かが、自分に言い聞かせようとしている。
その自己弁護的な考えが彼女の声帯に干渉し、震えさせる事でその危険な思考を自分から切り離した。
だが、頭に響く声は雪風の脳髄に追撃をかける。
「今言ったでしょう?私は疫病神」
「陽炎型駆逐艦八番艦」
「雪風」
「奇跡の駆逐艦」
「呉の雪風」
一気に畳み掛けられる情報に雪風の思考が置いてかれた。
何を言われているのかがわからない。理解しきれない。
表情は読み取れないはずなのに、まるで全て見えているかのように、頭の中の声が雪風の混乱を汲み取る。
「まだわからない?」
「私は雪風」
「陽炎型駆逐艦八番艦、雪風」
「その魂」
「あなたは私の魂を受け入れて、艦娘になったのでしょう?」
先程とは打って変わり、彼女を落ち着かせるように、彼女の思考が追いつくのを待つように
ゆっくりと、ゆっくりと、優しく語り掛ける声によって、雪風の思考が落ち着いていく。
艦娘は、それぞれの元となった艦船の魂を取り込む事によって人間から生まれ変わる。
船の記憶を、戦闘の知恵を、技術を受け継ぐ事で艤装を動かす力を、深海棲艦に対抗する力を得る。
ここに居る雪風もまた、例外ではない。
彼女は陽炎型駆逐艦八番艦雪風の魂を取り込み生まれた
陽炎型駆逐艦八番艦娘、雪風型艦娘の一人だ。
その事実を思い出し、雪風の思考の荒波が落ち着いていく。
その様子がまるで見えているかのように、頭の中の声が言葉を続ける。
先程までのような
言葉の刃を以って、雪風の心に詰め寄っていく。
「そう。だから私達は二人揃って疫病神」
「二人揃って」
「死神」
背筋に悪寒が走る。
背筋に走る冷たさは痛みと化して心臓に突き刺さる。
痛みは恐怖を助長する。
自分の考えが、存在が否定される恐怖を、助長する。
追い討ちをかけるように頭の中の声が畳み掛けていく。
「あの時も」
「あの時も」
「あの時だってそうだった」
「いつもいつも」
「自分だけが生き残って」
「自分以外は」
「みぃんなみぃんな死んじゃった」
あの時。あの時とは何だ。
一瞬の疑問の後
何かを絞り取るように前頭葉が圧迫され
脳髄と心臓に情報が流れていく。
彼女が体験した事の無い記憶。
軍艦雪風の魂の記憶。
「第三次ソロモン海戦」
それは、煙。
「ビスマルク海海戦」
「ダンピールの悲劇」
騒音。
「コロンバンガラ沖海戦」
視界を塞ぐ大雨、スコール。
「レイテ沖海戦」
海に飲み込まれていく人間。
「坊ノ岬沖海戦」
爆音と轟音、渦と人と、エンジン音。
「とか!」
「とか!」
「とか!!!」
許容しきれず、脳髄と心臓から溢れ出す様々な光景が身体を締め付けていく。
その光景は感情と言う名の刺激をもたらす粘液を周囲に広げていく。
恐怖
絶望
諦念
激情
不満
不服
困惑
殺意
「私の周りはみぃんな死んじゃった!!」
「私だけが!!平然な顔して生き延びた!!」
そして、罪悪感。
「幸運の艦?違う!!」
「雪風は、死神!!」
「雪風が生きる為に、みんなが死んだの!!!」
「雪風のせいで、みんなが死んだの!!!」
それは違う、と声にならない思考で反論する。
その弱弱しい反論を殴り飛ばし、声が雪風を追い詰めていく。
「違う!?違わない!!」
「雪風が幸運の艦であるからこそ、他の誰かが不幸を被る!!」
「雪風が生き残り続けるからこそ、他の船が沈み続ける!!!」
「誰かが幸運を得るという事は、他の誰かが代わりに不幸を被るという事!!」
「誰かが幸せになるという事は、他の誰かが不幸せになるという事!!!」
「雪風はその実例を見たはず!!!」
雪風は逃げてしまいたくなる感情すら否定され、一方的に放たれる言論の最前線まで引きずり出された。
「忘れたとは言わせない!!!」
忘れた、と言ってしまいたい。このまま逃げてしまいたい。
怖い。嫌だ。だが許されない。
自分の喉から新たな目と口が生え、意志を持ってこちらを見ているように感じる。
自分自身のものだが、自分自身のものではないかもしれない。だが、それが自分の一部である事は確かなのだ。
その自分の一部が、逃げる事、拒否する事を絶対に許さない。
雪風は、ただ下を向いて沈黙するしかなかった。
頭の中では気付いている。何の事を話題に上げられているか。
だが、それを雪風自身の口で説明できなかった。
それを説明するのが、怖くてたまらなかった。
だから、沈黙するしかなかった。
そのまま数秒の沈黙が続き、
雪風の、見えない、新たな口が開いた。
「伊58を救出した時」
「雪風は周囲の確認を怠り、魚雷の接近に気付かなかった」
あの痛みを思い出す。
後悔と、痛みと、無念を思い出す。
「本来ならばそのまま魚雷の直撃を受けるはずだった」
そして、一つの疑問も共に思い出す。
本来ならばそのまま魚雷の直撃を受けるはずだった。
だが、現実はそうならなかった。
あの時
確かにこちらに向かって、真っ直ぐに魚雷が突き進んでいたのを見た。
「なのに何故魚雷が逸れた!?」
不自然に逸れた魚雷。
川内の一撃で沈む敵艦。
嬉しかった。
安心した。
これで上手くいくと思った。
だけど、何故?何故魚雷が逸れたのか?
「そう、それこそが」
駆逐艦雪風の力?
「そう!」
「幸運の艦の力!!」
「全ての摂理を捻じ曲げ!他人を踏み躙り雪風だけが生き残る!!雪風の幸運の力!!!」
あの出来事そのものが、艦娘雪風を死神である覆しようのない根拠?
「そう!!」
「異能の力!死神の力!!!」
違う。そんなはずはない。
「なら何故魚雷が逸れた?」
「魚雷があんな不自然な動きをするのか?」
「説明できる?納得のいく説明ができる?」
「何故?」
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?何故?
雪風の思考が無限のループに入る。
瞳孔が開いた瞳は前を見ているようで見えていない。
新たな情報収集能力を全て切り離し、思考の無限ループを繰り返す。
ループの出口は見えているが、それを無視してあえて延々と回り続ける。
その出口にたどり着いた瞬間、何が起こるかを彼女は予想していた。
説明できない。その結論に至ることがループの出口なのだ。
その結論が怖かった。だから彼女は永遠のループを自ら望んだ。
何故、と感じる事を続け、何故、と考える事を止めた。
考えればすぐに答えが出るが、それこそが彼女が一番恐怖を感じるものだからだ。
だが
「何故か!?」
「それが雪風の幸運の力だからだ!!」
声が、強制的に無限ループの出口に雪風を引きずり込んだ。
「雪風の幸運の力が!!雪風を生かそうとして!!」
「雪風以外の全てのものを殺していく!!」
「みんなみんな殺して殺して!!雪風だけが平気な顔して帰るの!!」
「みんなみんな!!雪風のせいで死んじゃったの!!」
「みんなみんな!!雪風のせいで不幸になったの!!」
「だって雪風は死神だから!!」
「だって雪風は疫病神だから!!」
疫病神。
今彼女の身に降りかかる全てが、彼女の頭の中で繋がった。
「あの子の言うとおり」
「雪風が余計な事をしなければ、あの子が今苦しむ事もなかった」
「雪風はあの子を助けて、良い事をしたと思っているでしょ?」
「これで、司令から褒められると思ったでしょ?」
そうだ。
そうだ。
そうだ。
伊58を助けたいと思った一つの理由にそれがあった。
遠征をやり遂げた上、艦娘を救助すれば、司令は雪風を褒めてくれる。
その時の快感と安心感、心地よさが欲しくてたまらなかった。
予想以上の功績を成し遂げた自分だけに笑顔を向けて、労ってくれる。
誰かと同じではない。平等ではない。
自分だけ。
自分だけがそれを独り占めできる快感が
それを享受する快楽が
欲しくて
欲しくて
欲しくて
欲しくて
欲しくて
「よくわかるでしょう?」
「雪風の幸運が」
「多くの不幸と引き換えにもたらされているんだって」
命綱のように大切にしていた何かが、支えが、一瞬にして消え去った。
足の力が抜けて、がくんと膝から崩れ落ちる。
腕を体の支えにして、床に頭をぶつけるのを防ぐ。
重い。腕が重い。身体が重い。精一杯突き出した腕が震える。
下唇を噛む、殆ど見えていない視界が涙で更に歪み滲み、頭痛がどんどん酷くなる。
許容量を超えた涙が床に落ち、びち、という音と共に弾け飛ぶ。
こめかみから感じる脈動と激しくなる心臓の鼓動。
感情という激流が質量を持って脳髄という容器内を駆け回っているかのように、頭が僅かに、びくびくと動く。
精一杯突き出した腕が震える。
何故こんな事をしているのか、それすらもわからなくなっていく。
何故こんな事に力を入れているのか。何に精一杯になっているのか。
楽に、楽になってしまいたい。もう嫌だ。
何もかもが、自分自身が、もう嫌だ。
雪風は
疫病神だ。
雪風の利益の為に
他人を傷付け
殺し
滅ぼす。
無意識に
無差別に
無造作に
雪風の幸福の為に
他人を不幸にしていく。
他人を蹴落としていく。
賤しい
浅ましい
死神
疫病神。
視界が暗くなる。
彼女の精神に呼応するように影が差す。
彼女が見てしまった、暗い世界が具現化されたかのように視界が暗くなる。
世界そのものが、暗くなってしまった。
光が遮られ、影が差してしまった。
影の根っこの部分から声が聞こえる。
雪風を呼ぶ声が聞こえる。
雪風にそれは聞こえなかった。
どんどん世界が暗くなっていく。
影が濃くなっていく。
そして
「雪風ちゃん」
「大丈夫?」
透き通った声が雪風の耳元に響いた。
気品、落ち着きと幼さを両立した独特の色気を持つ声。
自分の声とも頭の中に響く声とも違う声。
声の主が誰なのか、その情報を求めて雪風が本能的に頭を上げる。
彼女の視界に影を差していたその女性は、平均女性よりもはるかに大きい。
だが赤と白を基調とした服装と首元で輝く桜の紋章が、彼女の姿を逆光の中でも映し出す。
どんな暗闇の中でも存在感を出し続ける為にあるようなその佇まい。
太陽神、天照大御神の依代、と豪語しても尚説得力の感じられる優美さと力強さを兼ね備えたその姿。
艦娘の存在が世に知れ渡り、彼女達の元となったかつての軍艦にも注目が集まるこの現代で
今や彼女の名を知らない日本人は一握りしかいない。
そして彼女の存在を知らない軍人はいない。
当時の最高技術を粋を結集し、決戦兵器として誕生した戦艦の中の戦艦。
彼女の名は
「大和、さん」
超弩級戦艦
大和型一番艦
大和
「凄い顔色」
「何かあったの?」
膝を付き、背を丸め、白い手袋に覆われた細い腕を雪風に伸ばす。
細く長い指が雪風の涙を拭い取った。
「立てる?」
優しく語りかける大和に心配させまいと雪風は、はい、と答えて立ち上がった。
立ち上がれた。立ち上がれたが、その声は彼女の想定以上に弱弱しく、勢いも無かった。
大和はその様子を見て、眉尻を下げた。
「私に…ううん、私達に何かできる事はないかな?」
「私が駄目でも、香取なら、何とかなるかもしれないから」
「何があったか、聞かせて貰える?」
同じ目線の高さで、大和は新たに涙を滲ませ始めた雪風の目を見ながら言った。
「遠慮しないで」
香取とは、練習巡洋艦香取型一番艦娘香取の事だ。
U-511、雪風、香取、そして大和。
艦種も、艦級も、年齢も、国籍すらも異なる彼女達は
「同期なんだから」
トラック諸島海域における大規模作戦後、四人揃ってこの泊地に着任した
文字通りの同期の仲、であった。
「まぁ、とりあえず」
「ラムネ飲んで落ち着こ?」
☆今回はここまでです☆
仮面ライダーアマゾンズが滅茶苦茶面白い。
アマゾンアルファ、鷹山仁の性格も生き様もかっこよすぎる。
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
香取「提督、失礼します」ガチャ
提督「あれ、どうしたの?三人揃って」
雪風「しれぇ…」
香取「提督、お忙しい所申し訳ございません」
提督「あー、気にしないで?こんなもん大規模作戦の時に比べりゃなぁ」
提督「ま」
提督「俺ぐらいになるとそれでも秘書艦いなきゃやってられんけど、ねぇ?」
如月「ふふっ」
提督「それで、どうしたの?」
大和「雪風ちゃんが、提督に聞きたい事があるみたいなんです」
大和「ちょっとお時間頂いてもよろしいでしょうか?」
提督「雪風が」
雪風「………」
提督「………」
提督(………雪風)
提督「わかった」
提督「…ん、じゃあ大和と香取は付き添い?」
香取「えぇ…まぁ、そんな所です」
提督「そっか」
提督「大和、香取」
大和「はい」
香取「何でしょうか」
提督「雪風の事、気にしてくれてありがとう」
大和「!!…いえ、そんな、お礼なんて」
香取「そうですよ。当然の事をしたまでです」
提督「それでもだ」
提督「それでも、本当にありがとう」
大和「提督………」
香取「…どういたしまして」ニコッ
提督「じゃあ後の事は俺に任せて…あ、そういえば」
大和「?」
提督「アレ…届いてるんだったよな、如月?」
如月「えぇ。ちゃんと届いてるわよ。届いたそのまま、明石さんに渡してあるわ」
大和「!!」
提督「そっか。ありがとな、如月」
提督「じゃあ大和は工廠に向かってくれ。早速やりたいでしょ?」
大和「はい!」
提督「俺も楽しみにしてるよ。頑張ってきな」
大和「はい!」
提督「香取と如月も席外してくれ」
提督「雪風と二人きりで話がしたい」
如月「…わかったわ」
如月「ねぇ香取先生」クルッ
香取「はい、何でしょう?」
如月「私、香取先生に色々聞きたい事があるんです」
如月「丁度良い機会だし…ちょっとお時間頂けますか?」
香取「いいですよ。私でよろしければ」
如月「香取先生じゃないと駄目なんですよ」
如月「香取先生じゃなきゃ、ね?」
大和「それじゃあ雪風ちゃん。また後でね」
バタン、ツカツカツカ…
雪風「………」
提督「………」
提督「で」
提督「どうしたんだ?話って」
雪風「………」
提督「言いにくい?大丈夫だよ」
提督「もし変な事言っちゃったって、忘れてくれって言われたらちゃんと忘れるからさ」
雪風「………」
提督「………」
提督「伊58と何かあったんだろ?」
雪風「え!?」
提督「騒ぎがあったってのは青葉から聞いた」
提督「それが本当かどうかまでは、実際に見たわけじゃないから知らないけどね」
提督「…本当なの?」
雪風「………」コクン
提督「そっか。それで、何があったの?」
雪風「しれぇ」
雪風「雪風は」
雪風「疫病神なんですか?」
「こんな事なら、死んでいた方がましだったって」
「何で助けたんだって」
「雪風は、ただ、助けたかっただけなのに」
「なんで」
「なんでこんな事になっちゃうんですか」
「雪風が」
「雪風だからですか」
「しれぇ、雪風は、疫病神なんですか?」
「死神、なんですか?」
提督「………」
提督「伊58に、そう言われたのか」
提督「雪風、伊58はな」
提督「自分の今の状況を受け入れられなくて、頭がぐちゃぐちゃになってるだけだ」
提督「あんな事があった後だ、何があっても嫌な気持ちになるのはわかる」
提督「その気持ちを抑えきれずに、近くにいた雪風にぶつけた」
提督「理由なんてないけど、そうしないとあいつ自身が持たない」
提督「…あいつなりに、雪風に甘えてたんだよ」
提督「それだけだよ」
提督「それだけだから、あまり思い詰めないで」
雪風「………」
提督「雪風は人の命を助けたんだよ?」
提督「そうしたいって思って、行動したのは絶対間違ってない」
提督「本当に立派な事をやったんだ。他の誰が何て言っても、俺は絶対そうだって思う」
雪風「しれぇ………」
「立派、立派だって!立派だって司令が褒めてくれた!」
「やっぱり褒めてくれた!司令は優しいよね!」
「でも、あの子がいなきゃ褒めてくれなかったんだよ?」
「今雪風が幸運なのは、あの子が不幸になったからだよ?」
「わかってる?」
「あの子がいなきゃ、雪風は褒められなかった」
「あの子が楽に死ねていれば、今雪風は司令に褒められていなかった」
「雪風が司令に褒められたから、あの子は今も辛い思いをしなくちゃいけなくなった!!」
「雪風の幸運のせいで」
「あの子が不幸になったんだって!!!」
雪風「」ビクッ
提督「………」スッ
提督「隣に行ってもいいかな?」
雪風「え?」
提督「まぁ、もう来ちゃったけど」ボスン
雪風(わ、わ…しれぇが、すぐ隣に)
提督「…本当に立派だよ、雪風は」ポンポン
雪風「ひゃっ」
提督「焦って単独行動したのはちょっとアレだけど、人の命を救ったんだ」
提督「立派だ。本当に立派な、艦娘だ」
雪風「しれぇ………」
雪風(でも…)
「でもそのせいであの子は不「でも」
「何か隠しているな?」
物理的に鼓膜を揺らすその声に、頭の中から聞こえる声が掻き消された。
一瞬の内に起こった予想外な状況の変化に対応しきれずに雪風は、え、と声を漏らす事しかできなかった。
頭の中の耳障りな声を掻き消した声の主の顔を見る。
暖かい手で雪風の頭を愛撫していたその声の主の顔は、目は
冷たく、冷酷に、雪風を見ていた。
「こちらが信じられないとかそういう事はどうでもいい」
「お前には他に何かあったはずだ」
雪風の頭からするりと落ちた手が
彼女の頬をかすり
肩にずしりと圧し掛かった。
「言え」
「言わなきゃ」
「懲罰室だ」
☆今回はここまでです☆
また近いうちに書きます。できれば明日。
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
雪風の心臓にぐ、と一瞬圧力がかかり
その圧力が解き放たれた反動で跳ね上がった。
言い放たれた言葉を受けて
軍艦雪風の記憶が知識を引きずり出す。
懲罰室。
懲罰房。
営倉。
規則に反した者、問題行動を起こした者が一定期間収容される収容部屋。
懲罰室。
この、小さなパラオ泊地にそう明記された部屋が確かに存在する。
だが
今この泊地に所属する艦娘の中に、本当に提督から懲罰を受けた者は誰一人いない。
今この泊地に所属する艦娘のほぼ全員が、その部屋の真実を知っているだろう。
懲罰室と呼ばれる、その部屋で行われている本当の事を知っているだろう。
その部屋の様子の殆どが青葉の手によって泊地中にばら撒かれているからだ。
それは、動画ファイルとして、泊地内で完結する娯楽の一つとして、1つ数百円程度で販売されている。
雪風も興味本位でいくつか購入した。
そのファイルがどういうものか、初めから何が起こっているかは予め青葉から伝えられていた。
それでも、それをわかった上でも、興味が抑えられなくて手を出した。
部屋に戻ってファイルを開く時の、高鳴る心臓と震える指を雪風は忘れられない。
そしてそのファイルの中身も、雪風は忘れられない。
圧力から解放された心臓は激しく動き、血液を勢い良く全身に循環させる。
身体の隅まで循環した血液の一部が、雪風の身体の一部に集まりだす。
雪風は、自分の顔が熱を帯びていくのを感じていた。
「でも」
「信じてもらえない、です」
雪風は赤くなる顔を隠すように、俯いて言った。
目を見られるのを避けるように、俯いて言った。
雪風は、彼女が今抱いている感情がバレてしまう事を怖がったからだ。
懲罰を受ける者として決して抱いてはいけない感情を、今彼女は抱いていた。
否、彼の口から伝えられた懲罰という言葉を、懲罰という概念とは別物として捉えていた。
だが、雪風の言葉を受けて、肩に置かれた手が重くなる。
「俺が信じる信じないの問題じゃない」
「言え」
「全てこの場で言うんだ」
手が、雪風の身体を押し倒す。
柔らかなソファに頭がめり込み、その勢いのまま首ががくんと上を向く。
雪風の頭の横に提督の手が置かれ、視界が暗くなる。
雪風という少女の身体が、提督という男の身体に覆い被さられていた。
彼女のすぐ傍に置かれた手の支えが失われた瞬間、彼女の身体は提督の身体で押し潰されるだろう。
そのイメージを抱き雪風の心臓が、型落ちの洗濯機にでもなりたいかのようにさらに激しく動き始める。
視界に提督の顔が移る。
彼は、あまりにも冷たい目を以って雪風を見ていた。
スパイを尋問する特別高等警察かの如く、
雪風の様子を、雪風の心情、雪風の内面まで全て覗きこみたいかのように
じっと、冷酷な目で雪風を見つめていた。
「何でそこまで意地になるんだ?」
諭すように語り掛けていた口調も、棘がある口調に変わっていた。
「変な事を言うのがそんなに怖いか?」
赤みを帯びていない仮面のような表情で、抑揚の無い声で、雪風を責め立てる。
「何だろうが言えば終わるのによ」
雪風の内側に捩じ込まんとする暴力的な意志を以って、雪風を責め立てる。
「俺もそろそろ我慢の限界だぞ」
「お前がそうやって黙秘決め込むんならな」
「もうここで」
「直々に懲罰してやろうか」
提督の手が雪風の太腿に触れた。
熱を帯びた手が、雪風の痛覚を刺激し、くすぐったさと快感をもたらす。
その手が有無を言わさず雪風の服の中に滑り込み、
腰の部分の何かを掴んだのを彼女は感じた。
片腹に感じる圧迫感。
片腹に感じる僅かな開放感。
鼠蹊部に触れた提督の爪の感触に、雪風は目を見開いた。
「わかるか?」
「今お前の下着に指をひっかけた」
「俺がこの手を引っ張ったらどうなるか」
「わかるな?」
冷たい目のまま、雪風の目だけを見ながら、提督は警告を出した。
彼が望む事を雪風が言わなかった場合、どうなるか。
どうなってしまうのか。
否が応にも浮かんでしまう未来のビジョンが壊れたビデオのように様々な光景を映し出す。
「言えばいいんだよ、言えば。そうすれば終わりだ」
「言わなきゃ」
「もっと酷い目に遭わせる」
冷たい言葉が雪風の身体を熱くする。
無意味に肩が動き、ソファにめり込んでいく。
義務感
親近感
好奇心
そして抑えきれない衝動が頭の中で駆け巡る。
思考回路がショート寸前になっても激しく循環し続ける。
酸素が足りなくなり、呼吸が荒くなる。
表情を隠すという事すら考えられなくなり、視界から提督を外す事ができなくなる。
感情を制御できなくなり溢れ出した涙。
その目は
僅かな恐怖と
あまりにも大きな期待で鈍く輝いていた。
このまま
このままいったら
雪風は
雪風は
雪風は
雪風は
雪風は
雪風は
「声か」
緊張感が抜けた声が雪風を現実に引き戻す。
「頭の中から声が聞こえてきたんだな?」
「伊58からそう言われた辺りから?」
その一言で、酔いが覚めた。
雪風を苦しめ始めた頭の中の声。
その存在を提督がズバリ言い当てた事で、雪風の目が覚めた。
その存在を認識し始めた時までズバリ言い当てられた事で、雪風の意識は完全に現実に戻った。
「な、なんでわかったんですか?」
目をぱちくりさせながら正直な疑問を口にした雪風を見て、提督が微笑んだ。
先程まで冷酷非道な拷問官のような表情を浮かべていた男が、僅かに顔を赤らめて微笑んだ。
「やっぱりそうか」
雪風の腰を掴んでいた手が離れ、引き抜かれた。
雪風の口から、あ、という声が漏れると同時に、彼女の視界を覆っていた影、提督の身体が彼女の視界から離れていった。
雪風はそれを名残惜しそうな目で見ていたが、提督は後方確認しながら体勢を立て直していたため、それを見る事はなかった。
その提督の様子はまるで、今の雪風の目を、表情を見たくないかのようにも見えた。
提督「雪風、それはな。お前が思っている以上によくある事だよ」
提督「全然変なことじゃない。辛い事だけど、結構な人数が体験していることだよ」
提督「だから抱え込もうとしないで」
雪風「………」
提督「で」
提督「そいつは何て言ってたの?」
雪風「…雪風は疫病神だ。死神だって」
提督「うん。何でそいつは雪風の事をそう言ったの?」
雪風「雪風が生きる為に皆が死んでいったって」
雪風「軍艦だった頃から、雪風はそうやって生きてきたって」
提督「幸運の駆逐艦…呉の雪風…だっけか」
提督「でも、ここにいるお前(雪風)はそうとは限らないんじゃないか?」
雪風「でも!!」
雪風「雪風に当たるはずだった魚雷がいきなり変なほうに行ったんです!!」
雪風「魚雷がぐるって向きを変えて、雪風を避けるように進んで…」
雪風「そんなの、そんなのありえない」
雪風「まっすぐ進む魚雷がいきなり曲がるなんて」
提督「………」
提督(幸運の駆逐艦か………)
「伊58ちゃんの首輪の爆弾、壊れているみたいです」
「私が中開けた時には、もう丸焦げのボロボロでしたよ」
「だから爆発する事はありません」
「機械に不具合が起こってほんの小規模な爆発…首輪の機械を壊す程度の爆発になったか」
「そうじゃなかったらやっぱり不具合で高温になって配線を焼き切っちゃったか」
提督(機械の故障…か)
提督(あれも、俺達にとってはラッキーだったな)
提督(伊58の首輪が爆弾で、それが途中で爆発する事がなかった事も)
提督(雪風が、爆発に巻き込まれることがなかった事も)
提督(本当にラッキー。幸運だった)
提督(………でも)
提督(くだらねぇな)
提督「雪風」
雪風「はい!」ビクッ
提督「」ムニュ
雪風 )・3・( プエ
提督「落ち着けー」
提督「魚雷が勝手にルートを変えて逸れてったって」
提督「それ、俺一つ思い当たるもんがあるぞ」
雪風「んえ?」パッ
提督「ちょっと待ってろ」
提督「伊58見つけたのって、南西諸島海域方面だったよな?じゃあ、これか?」ドス
提督「で…あれだろ。川内と合流した辺りでの話ならー」パラパラ
提督「この辺か」トン
雪風「はい」
提督「なら確定だ」
提督「海流だ」
雪風「海流?」
提督「ほら、これ見てみんしゃい」
提督「この辺はな、ちょうど異なる海流の境目なんだ」
提督「いくら魚雷が勝手に進んで行くとはいえ波には流されちまう」
提督「お前はその境目に立っていたんだ」
提督「だから」
提督「魚雷はお前の目の前で逸れた」
提督「奇跡でも魔法でも何でもない。よくある話だ」
雪風「じゃあ、何で」
雪風「何で雪風はそんな所にいたんですか?」
提督「え?」
提督「………」
提督「雪風、血液型A型でしょ?」
雪風「はい。A型です」
提督「あははやっぱり!」
提督「俺と同じだ」
雪風「………」
提督「…理由があるとすると」
提督「絶妙なタイミングで勘が働いたから、じゃないかな?」
提督「周囲を警戒しないで突っ込むっていうミスをしたけど」
提督「絶妙なタイミングで勘を働かせてそのミスを挽回した」
提督「雪風に魚雷を命中させる事しか意識が行ってなかったイ級は川内の接近に気付かず」
提督「直撃喰らって無様に沈んだ」
提督「そういう事だろ?」
提督「あまり考えすぎるな」
提督「でもな、これだけは覚えておいて」
提督「お前が周りから幸運艦と呼ばれようと、奇跡の駆逐艦と呼ばれようと」
提督「奇跡だとか運で全部片付けられるほどこの世界は甘くはねぇ」
提督「何が起こるかとか、何が生まれるかとか、誰が何を感じるとか」
提督「全部全部、何かが重なって出来上がったものだ」
提督「火山の爆発も、病気の感染も、何らかの要因があって起こるものだ」
提督「それを人間は全部理解しきれない」
提督「人間には全部理解出来るほどの能力がない」
提督「でも、そういう自分の無能さを隠したがるもんだ」
提督「だから、自分の無能さを誤魔化す為に」
提督「運なんて言葉で自分を守る」
提督「運が悪かったから駄目だった」
提督「不幸だからしょうがない」
提督「そうやって自分を守る方便で取り繕って」
提督「考える事をやめちまう」
提督「その、運に酔っちまうんだよ。で、物語の主人公にでもなったかのように振舞う」
提督「馬鹿ばかりだよ。てめぇが主人公なんかになれるわけがねぇのに」
提督「そうやって諦める奴にはせいぜい死体A役くらいが関の山なのに馬鹿みたいに高望みしてな?」
提督「それよりかは何でそうなったか、どうすりゃいいかを考えて行動していった方がよっぽどマシだ」
提督「そうやって色々試して、試して得た経験を次に活かしてどうすりゃいいかを考えて、また試す」
提督「一生不幸だ不幸だ何て言って思考停止するよか、よっぽどマシだ」
提督「こういうのを巷じゃPDCAサイクルって言うんだ。覚えておきな」
雪風「ぴーでぃーしーえーサイクル」
提督「こんな所かな?雪風」
提督「俺はお前の事を奇跡の駆逐艦だなんて全然思わない」
提督「所詮は一駆逐艦娘、一人の人間としてしか見ていない」
提督「お前の頭の中の声は、雪風の事をどこぞのロボットアニメの主人公だとでも勘違いしてるみたいだけどな」
提督「はっきり言うぞ」
提督「俺も、お前も、物語の主人公なんかじゃない」
提督「この世界に数え切れないほどいる有象無象のうちのたった一人だ」
提督「世界はお前を中心に回っているわけじゃないし、全てお前の思い通りにいくはずもない」
提督「お前を生かす為に他の全てを無意識に犠牲にする?」
提督「違うね」
提督「周りにいた奴が馬鹿やらかしたから結果的にそうなっただけだ」
提督「人殺しも厭わないどうしようもないクズどもがキチガイみたいに攻めてきたから結果的にそうなっただけだ」
提督「雪風と、それ以外で決定的な違いがあったから結果的にそうなっただけだ」
提督「それを幸運だの不幸だので誤魔化されてるだけだ」
提督「雪風がどうとか、そんなもんは何も関係ない」
提督「いいか」
提督「運っていう言葉で全部片付けようと思うなよ」
提督「お前は疫病神なんかじゃない」
提督「死神なんかじゃない」
提督「この世界に、神なんてもんがいるはずがないんだから」
提督「お前は、ただの人間だ。ただの女の子だ」
提督「だから」
提督「幸運なんてもんに慢心しちゃいけないし、それを悪いもんとも思っちゃいけないよ」
雪風「………しれぇ」
提督「もう大丈夫かな?」
雪風「…はい!ありがとうございます!しれぇ!!」ニコッ
提督「どういたしまして」ニコッ
提督「また何かあったらすぐに教えてね」
「絶対」
「何をしてでも」
「何とかするから」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
一人残った執務室で、提督は椅子に腰掛けた。
そして先程のやり取りを思い出す。
何で助けた
お前は疫病神だ。
雪風はそう言われたと言っていた。
ポケットから執務机の鍵を取り出す。
鍵穴に差込み、ぐるりと回すと、かすかに軽くなった感覚が手に伝わった。
引き出しの取っ手に手を掴み、ゆっくり引き出す。
衝立にぶつかり手に衝撃が来たのを合図に手を離し、引き出しの中身をじっと見つめる。
殆ど空の空間に、L字型の鉄塊が一つだけ置かれている。
その形状がよく把握できるように横たわっているそれには、英字の刻印が刻まれている。
それは、自動拳銃と呼ばれるものだ。
提督の右手がそれに伸び、掴んだ。
手首が鉄の重さを感じ、手の平と指先にざらついた感触が伝わる。
所詮俺達はこの世界に無数に存在する有象無象のうちの一つだ。
だから
そのうちの一つや二つ、消えてなくなろうが
この世界には
何の影響も及ぼさない。
十や二十がくたばったところで
この世界は
気にせず回り続ける。
百や千が殺されたところで
あぁそうなんだ怖いねざまぁみろ、ですぐに忘れられる。
気にしない。
心を動かさない。
記憶にも残らない。
どうでもいい他人だからな。
先程、最後に彼が雪風に言った言葉を思い返しながら
提督は自動拳銃の引き金を右手の人差し指でなぞった。
伊58は助ける。助けるつもりだ。
だけど
これ以上うちの艦娘を傷付けるつもりなら
本人が助かりたい気が無いんなら
話は
違う。
てめぇの命一つ、本当に消えてなくなろうが
この世界には
何の影響も
及ぼさない。
提督は自動拳銃をズボンと腰の間に差し込み、
彼の心に呼応するように黒く光る拳銃を
白い制服
白い上着が覆い隠した。
☆今回はここまでです☆
>>1です。
仕事が忙しくなりましたがそれでも楽しくss作っています。
それでは投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「頼めるかな、明石」
携帯端末の熱を頬で感じながら、提督が呟いた。
「うん。これしかないと思っている」
「友提督ん所の明石さんにも俺からお願いしておく。二人で何とかやってくれないか」
「うん。ありがとう。お願いね」
携帯端末を耳から外し、画面に指で触れる。
端末側面のボタンを押し、目的の場所を見据えながら、手の平を手前に向けるように手首を振った。
ブック型の端末カバーが勢い良く閉じ、たん、という音が廊下に響く。
曲がり角の先、目的地から少し遠い場所から、窓側の壁に寄り掛かりながら様子を見る。
話し声は聞こえない。電話中に誰かが通った様子もない。
今、彼女は一人。
彼はそう状況判断した。彼にとって好都合な状況であると、そう感じ取った。
体重を預けていた壁から離れ、歩いて近付いていく。
用意はできた。
やることはやった。
あとはどうにでもなってしまえ。
扉の前まで来た提督は
中指の第二間接の角でこんこんと扉を叩き、僅かに間を置いて、だけど返事を聞かずにドアノブを回した。
「伊58」
部屋に入ってすぐ、ベッドに横たわる少女に呼びかける。
びくんと身体が跳ねた事以外に返事はない。ただ呼吸だけが聞こえる。
荒い呼吸音だけが鼓膜を震わせる。
怯えている。恐怖している。逃げたがっている。
提督には見て取れる。手に取るようにわかる。
白い制服に対するトラウマ。
金の紋章に対するトラウマ。
提督という存在そのものに対するトラウマ。
両手両足を奪った存在そのものに対するトラウマ。
何もかもを奪った存在そのものに対するトラウマ。
彼にはわかる。わかってしまう。知っているから、推測できてしまうから全てわかってしまう。
だがここから先はわからない。曖昧すぎる推測しかできない。
だが、だから、だからこそ
ここから先は全力で行く。
「お前」
「死にたいんだってな」
殺すつもりで
死ぬ気で。
「死にたいのか」
「もう生きていたくないのか」
再度伊58に問いかける。
返事はない。だが彼女自身がそう言ったという事を青葉からは聞いている。
どうせこのままだったら死んだ方がマシ。
生きていたって辛いだけ。
そう言ったと、提督は聞いていた。
助かりたくないと、そう考えていると提督は聞いていた。
雪風の表情を思い出す。
彼女は苦しんでいた。泣くのを必死に堪えて、叫んでいた。
伊58の言葉をきっかけに自虐的になってしまった少女の姿を思い出す。
喉を押すその感情が着火剤となる。
あの日、あの時からずっと燃え続けている
青い炎の、彼の狂気の、着火剤となる。
彼の心に小さく、だけど常に揺らめいている青い炎が
着火剤を浴びて大きく燃え上がる。
右手を背中に伸ばす。
上着の下に手を潜り込ませ、手の平の冷たい感触を握り締める。
「だったら」
「俺が今ここで殺してやるよ」
提督は、ただ震えて沈黙する伊58を見据えながら
腰から自動拳銃、オートマチックを引き抜き、向けた。
扉の前から歩いて近付いていく。
ベッドの傍まで近寄り、靴のままベッドの上に立つ。
伊58の身体に馬乗りになった提督は、彼女の目の前で銃をいじり出す。
片手を捻り、銃身の側面を伊58に見せ付ける。
もう片手を使い、セーフティを外した。
マガジンリリースを押す。
銃からマガジンが滑るように落ち、提督の手に落ちる。
中に込められた、僅かな緑色を含んだ黄色に光る弾丸を伊58に見せ付ける。
BB弾を発射するモデルガンではない。本物の銃だ。
提督は何も言わないが、伊58には彼が何を言いたいのか痛いほど伝わった。
がちん、という音が響き、マガジンが再び装填され
銃口が半円を描きながら、伊58の額に、こん、と当たった。
「動くなよ」
「今から」
「お前の脳幹をブチ抜く」
「普通の拳銃だけど、艤装を付けていない、結界の無いお前を殺すには十分だ」
額に置いた銃口を下に動かし、彼女の柔らかい唇に当てた。
「こいつを」
「お前の口に突っ込んでブチ抜く」
「拳銃っていうのは他の銃に比べると威力が無いんだ」
「だから額に当ててやるやり方だと、威力不足で銃弾が頭蓋骨滑って死に損なう事があるらしい」
「ショットガンでもあれば外から頭グチャグチャにできるだろうけど、流石にそんなもん積んだ船は今まで見た事ない」
「それと、俺は遠距離から弾を当てられる程腕もよくない」
「だから」
「脳幹に向けて二発」
「それでお前を」
「確実に殺す」
左手でオートマチックを支える。
「口を開けろ」
口調を変えず、波を変えず、声量を変えず、提督が伊58に命令する。
口が僅かに開き、白い歯が少しだけ見える。
伊58の口が僅かな、震えるような開閉を繰り返す。
「 開 け ろ 」
二度目の命令を出した。
今度は少し大きな声で、目を見開いて、威嚇するように命令を出す。
伊58は顎を震わせながらゆっくりと口を開けた。
奥歯も、ピンク色の舌も、唾液で濡れた口内の全てを提督の前に曝け出した。
提督はそこに銃口を突き込む。
伊58の顎が限界ギリギリまで開かれ、不快感が耳まで駆け上がる。
「俺は時々考える事があるんだ」
「深海棲艦とは何なんだ」
「あいつらの資源は一体どこから来ているんだ」
「あいつらは一体どうやって新種を開発しているんだ」
「あいつらの指揮系統は一体どこにあるんだ」
「あいつらは」
「どこから来て」
「何の為に」
「戦い」
「何が欲しくて」
「生きるのか、って」
伊58の目を見つめながら、銃口を動かさずに提督が呟いた。
「艦娘が」
「轟沈した艦娘が深海棲艦となり、敵となる」
「よく聞くケースだ」
「深海棲艦になった後の艦級は場合によってそれぞれだが」
「見た目は、元になった艦娘のそれに似たものになるケースが多い」
「…それがどういう事か」
「深海棲艦は」
「艦娘の死体を使って」
「新しい深海棲艦を生み出す事ができるって事じゃないか?」
そこまで言い切り、部屋には一瞬の沈黙が訪れた。
伊58の目を見据えながら、提督が鼻で深呼吸する。
「じゃあお前はこれからどうなる?」
「お前が死んだらそこからどうなる?」
「ここで俺が殺すお前は一体どうなるんだ?」
「お前も」
「深海棲艦になるのか?」
「俺が殺したらお前も深海棲艦になるのか?」
「お前も人を憎んで俺達の敵になるのか?」
伊58は困惑した。そんなものはわからないからだ。
そもそも提督が何の為にこんな話をしているのかすらわからない。
だがもし、これから自分が深海棲艦になるのなら、もうそれでもいいと彼女は感じた。
今よりも、今のみじめな自分よりも、ずっとましなはずだ。
だから、もうそれでもいいと考えた。
もう、人の世界に生きる権利なんて無いのだから。
ここで生きていく未来が一切見えないのだから。
失った右腕が
左腕が
右脚が
左脚が
痛むから。
その痛みが止まるのなら。
嫌な思いをしなくなるのなら、もうそれでもいいと。
そう考えた。
そんな伊58の意志も解さず提督は言葉を続けていく。
今の彼にとって伊58の意志は彼自身の意志決定と何の関係なかった。
話したいから話す。
伝えたいから伝える。
伝えなければいけない事だから、伝える。
だから彼は言葉を続けていく。
「俺はな、他のキチガイ提督みたいに」
「悲劇のヒーローぶりたいだけで」
「 わ ざ と 轟 沈 さ せ て 」
「 悦 に 入 る よ う な 」
「そんな事は、したくない」
「それが深海棲艦に餌与える事になるなんて」
「そんな考えが及ばないほど」
「 ド 低 脳 な脳ミソも、もう持ち合わせちゃいない」
「命を脅かす敵なんて一人でも少ないほうがマシに決まっている」
「ただでさえ、今でも手一杯なんだ」
「無駄に敵を増やすわけにはいかねぇんだよ」
「死にたいなら勝手に死ね」
「俺が手伝ってやる」
「だけどな」
「俺はお前を殺したその後」
「お前の死体を念入りに潰す」
伊58が雪風によって救助され、この泊地に連れて来られてから5日
今日、提督がこの部屋に入ってから約3分
紆余曲折を経て
ようやく彼は、彼自身の思いを彼女に伝える事ができた。
「深海棲艦が」
「奴らが一切利用できないように、念入りに潰す」
「二度とこの世に蘇られないように」
「この世に二度と戻って来れないように」
「バラバラに」
「粉々に」
「グチャグチャに」
「跡形もなく」
「潰す」
「潰して」
「燃やす」
「何もかもを灰にしてやる」
「二度とこの世に」
「戻ってこられないように」
「完全に消え去るまで」
「何度でも」
「何度でも」
「潰して」
「燃やして」
「灰にする」
☆今回はここまでです☆
前川みくさんはネコのアマゾン。
ちょっと修正します。楽しくなってつい入れましたけどこの台詞量で3分は短すぎィ!!
>>195
伊58が雪風によって救助され、この泊地に連れて来られてから5日
今日、提督がこの部屋に入ってから約10分
紆余曲折を経て
ようやく彼は、彼自身の思いを彼女に伝える事ができた。
>>1です。
多忙の為投下ができませんが、スレ落ち防止の生存報告だけ入れておきます。
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
伊58以外、それ以外が世界から消え去ったかのように、彼女だけを見据えながら提督は話を続けた。
怒鳴るわけでもなく、萎縮するわけでもなく
ただ淡々と、一切捻じ曲げずに事実だけを突きつけるかのように
はっきりとした口調で、死を望む彼女の未来を説明していく。
「特に」
「脳」
「心臓」
「子宮」
「徹底的に潰す」
「脳を潰せば、物の判断ができないし身体を動かすこともできない」
「心臓を潰せば、血液が全身に行き渡る事がない。要するに動けない、生きられない」
「子宮を潰せば、新しい命、新しい敵がそこから湧いて出てくる事は無い」
「だから、潰す」
「全部潰す」
「一つ残らず潰す」
「その周囲の部品も全部潰す」
「深海棲艦には耳鼻目口髪の毛一本、たんぱく質カルシウムの一かけらすら与えてやらねぇ」
「砕いて、刻んで、燃やして、灰になるまで叩き潰す」
「家族の元に送る、なんてふざけた事は絶対にしない」
「この世界から完全に消えてなくなってもらう」
一瞬の沈黙がこの場に訪れた。
提督の鼻から空気が吸い込まれる音、空気を吹き出す音が流れた後
彼は再び、今度はゆっくりと、そして更にはっきりと、口を開いた。
「それでいいな?」
そして銃を握った右手を前面に押し出す。
伊58の顎が更に開かれ、喉と顎に感じる異物感が吐き気を催す。
「脅しだと思ったか?」
「やらないと思うか?」
「やるぞ」
「だってお前は」
「雪風を傷付けた」
「お前を助けようと必死になってるあいつに酷い言葉を浴びせて傷付けた」
「お前のせいで、雪風が傷付いた」
「雪風は、お前を、助けたいと思っていたのに」
「お前のせいで」
目の前の拳銃と提督の右手に定められていた伊58の焦点の、そのはるか遠くで、提督は僅かに表情を歪めていた。
喉奥と海馬から湧き出る苦すぎる思い出が、彼の目尻を下げさせ、歯を食い縛らせる。
頭の中の声、軍艦の記憶、それが艦娘に牙を剥く事例。
赤城との思い出。
如月との思い出。
そして、今度は、雪風。
三度目に立ち塞がったこの苦境への憎しみを、彼は隠しきれなかった。
その引き金となった事象への憎しみを、彼は抑えきれなかった。
だからこそ彼は、暴挙に出る決意をした。
「だから」
「お前がこれ以上あいつを傷付ける前にブッ殺さなきゃいけねぇんだよ」
「じゃなきゃあ、あいつがダメになっちまう」
「雪風だけじゃない」
「他のみんなもだ」
「お前がそうやって喚いて騒いで」
「みんなが傷付いていく前に」
「お前を殺す」
軍艦雪風の記憶を蘇らせた原因、伊58の殺害を提督は決意した。
これ以上、自分の周囲の艦娘が傷付くところを見たくなかったからだ。
自分の周囲の艦娘を傷付けていく伊58の存在を、提督は許してはおけなかった。
殺した先どうなるか、その結果どうなるか、その未来を彼が予想していないわけではない。
伊58を助けようとした雪風がどう思うか、潜水艦娘達がどう思うか、泊地の艦娘達がどう思うか。
提督がそれを予想していないわけではない。
だが彼は、その先自分がどうするかも既に決めていた。
「別にお前一人だけじゃないさ」
「お前を殺して」
「お前の死体を完全に処理した後」
「俺も死んでやる」
提督が伊58に対して抱いている感情は殺意だけではない。
惨たらしい目に遭った彼女に対する憐れみも、助けたいと感じる正義感も持ち合わせている。
彼の中で目の前の伊58という存在は、既に他の艦娘達と差が無いほどの存在になっていた。
大切な友人の一人。仲間の一人であると、彼は伊58をそう見ていた。
だからこそ、提督が伊58を殺す時は、彼自身も死ぬ時だ。
それは彼が、この仕事を続けていく上で定めた対価だった。
自分が無能であると知っているからこそ、文字通り死ぬ気で作戦を立てる。
仲間を誰一人として死なせない。死なせてはいけない。
その考えを実現する為に、彼は対価に自分の命を捧げた。
この戦争で戦死するという事が、どんなに惨たらしい結果をもたらすかを、彼はかつて味わった痛苦と共に思い知った。
名誉も、権利も、何もかもを失う。ただ失う。ただ失うだけなのだと。
その先に残るものは何もない。何もかもを悪意という名の狂った獣に食い尽くされるのみ。
この世界は、人の味を覚えた羆のように唾液を垂らし、舌を突き出し、歯を剥き出し、眼をギラギラと光らせる、狂った獣が跋扈し支配している。
彼は、ここまでの人生でそれを悟ってしまった。
大切な仲間が、狂った獣どもに食い荒らされるなんて事は許されない。
だからこそ、どんな手を使ってでも全員で生き延びようと、彼は決意した。
仲間を一人でも死なせないように。全員で生き残ってこの戦争を終わらせる為に。
だけども自分は無能である。自分に誰かを守る力は無い。故に彼は自分の命を制約として捧げた。
万が一仲間が犠牲になるような事があれば、命の責任を、彼自身の命で払う。
それは、指揮官として致命的な思い上がりである事も、提督はその頭の片隅で理解していた。
だが制約と反逆と自己否定を同意義とするその狂気に彼は身を委ねたのだ。
誰かが犠牲になっても、それでもなおヘラヘラと生きていく事を、彼は何よりも嫌っていた。
そうしてでも生きていく人間を、狂人と罵り、外道と誹り、心の底から軽蔑していた。
例え、その結果が自分の目論見通りだとしても、彼はその先を生きるつもりは一切無かった。
伊58という仲間を自分自身の手で殺しておきながら、その先を生きるつもりは一切無かった。
例えそれが他の仲間を守る為のものだとしても、彼はその先を生きるつもりは一切無かった。
提督が何を考え、伊58に銃を突きつけるに至ったか。
根本から言ってしまえば、
彼女が死にたがっている現状を打破する事。
それしか考えていなかった。
銃を突き付け、殺害の意志を見せる事で彼女がどう動くかという問題は、彼にとって大したことではなかった。
もし恐怖や抵抗の意志が見られたのならばそれでいい。
彼女の生きる意志を煽り、全力を持って支えよう。
それは恐らく一番最善の結果になるはずだ。
だが、常に最善の結果が起こるとは限らない。故に最悪の結果が起こった場合も考えた。
もしそれでも死を選ぶというのなら、そのまま望み通り殺してやろう。
そして自分も、後を追おう。
これで、どちらに転んでも死にたがりの伊58は居なくなる。彼女に仲間が傷付けられる事は無くなる。
彼が考えていたのは、それだけだった。
どちらに転んだとしても、彼にとってはメリットしかないと。
だからこそ、提督は伊58の殺害方法を彼女本人に念入りに話した。
それで恐怖を感じて、生きたいと思うならそれでいい。
それでも死にたいと思うのならばそれでもいい。
いや、死にたいと思ってくれていたほうが都合がいいかもしれない。
それで、自分も、死ねるのならば。
この世界に不要な自分が消えてなくなるのであれば。
「俺が道連れになってやる」
「だから安心して死ね」
どちらに転んでも、提督にとっては都合が良い。
何もかもが、全てが彼の思惑通りに事が進む。
そのはずだった。
そのはずだった。
そのはずだった。
提督は気付いていなかった。
彼が予想していなかった事が、三つも、起きていた事に
彼は気付いていなかった。
彼の口角は、彼自身も気付かない内に、はっきりとわかるほどに上がっていた。
そして伊58は、提督のその表情に焦点を当てていた。当ててしまっていた。
その瞬間、この場の状況が一気に動き出した。
伊58の肩が、震えだす。
伊58の顎が、かたかたと揺れ、銃身にこつこつと音を立てていく。
伊58の瞳に、涙が浮かびだす。
提督は伊58のその様子を、恐怖していると捉えた。
伊58は死にたくないと、生きたいと思い始めている。
それならば、と既に口角が元に戻っている口を開いた。
「何震えてるんだよ」
「怖いかよ」
「さっさと死んだ方がいいなんて言ってたくせに」
「今さら、怖いのかよ」
「死んだ後の事なんてどうだっていいだろ」
一拍置いて息を吸い
「死にたいんだろう!?」
叫んだ。
「もう生きているのが嫌なんだろう!?」
叫んだ。
「そう言ったのはお前じゃないか!!」
大きく息を吸い、吐き出す。
全身の力が空気と一緒に抜けていく。
右手の力も抜け、伊58に突きつけた銃口も僅かに下がった。
「でも違うよな」
「お前は」
「ただ逃げたいだけだ」
「嫌な事を投げ出して、逃げたいだけだ」
「死にたいなんてな、本当に死にたいなんてな、誰も思わないんだよ」
「ただ逃げたいだけ。逃げたくて、逃げたくて、逃げる手段がそれしかないから、死ぬだけだ」
「お前だってそうだろう」
「両手両足吹っ飛んで、これからどうやって生きていけばいいのかもわからない」
「でも生きていたい」
「でも生きていく手段がわからない」
「幸せになれる方法が全然思い付かない」
「だから」
「しょうがなく」
「死にたいだけだろ?」
右手の人差し指、トリガーにかけていた指を外す。
銃口が伊58の口から離れ、光を反射する細い糸がつう、と銃口に伸びた。
「教えろよ」
「そういう、嫌な事とか遠慮してる事とか全部取っ払ってさ」
「お前が本当にしたい事って何?」
「生きたい?」
「まだ生きていたい!?」
口調の激しさを動きにも乗せるように、拳銃から手を離して伊58の両肩を掴んだ。
「 答 え ろ ! ! ! 」
「生きたいのか!!!!」
「死にたいのか!!!!」
「答えろ!!!」
伊58の肩は震えていた。提督の両手もまた震えていた。
既に答えは見えていた。だが、伊58自身の口からそれを言わなければ意味が無い。
「 答 え ろ ! ! ! 」
右手を離し、伊58の頭の傍に置き、右腕を支えにしながら伊58に顔を近づける。
「答えろよ。巡潜乙型改二三番艦娘伊58」
「俺は、お前がどうしたいかを知りたいんだよ」
「俺がどうとか」
「何がどうとかじゃなくて」
「お前が」
「どうしたいかだけを知りたいんだよ」
「生きたいのか、死にたいのか」
「はっきり教えてくれよ」
「じゃなきゃ」
「どうしたらいいのか、わからねぇんだよ」
言葉が途切れ、二人の呼吸だけが聞こえる。
その時間の中でも提督はずっと伊58だけを見続けていた。
そして、伊58の口が開く。
「死にたくない」
ぽつりと呟いたその言葉が
「死にたくない」
彼女の心の中で増幅していく。
「死にたくない」
制御弁を失った彼女の本心が溢れ出していく
「死にたくない」
口から言葉を、目から涙を、溢れ出していく。
「…生きていたい」
ようやく伊58の本心を引き出した。
安心感と伊58に対する同情から、溢れ出しそうになる涙を堪えながら提督は答えた。
「だったら」
「死にたいなんていうんじゃねぇよ」
「諦めるんじゃねぇよ」
「何を犠牲にしてでも」
「どんな手段を使ってでも生き延びるんだ」
ふ、と力が抜けて提督はベッドに、伊58の隣に、肩から倒れこんだ。
ベッドに頭の重さを預けながらも伊58の顔を見つめる。
伊58も、両手両足を失った彼女に残った僅かな自由を行使した。
首を提督に向け、彼の顔を見つめた。
涙が顔を横切り、頬に湿った感覚が触れる。
「わからねぇか」
「生き方がわからねぇか」
「一人ぼっちが怖いか」
「だったら」
「俺が一緒に考えるよ」
「お前が今を生きる手段は俺が用意する」
「だから」
「死にたくないなら、死にたいなんて絶対に言うんじゃねぇ」
「生きろよ」
「どんな手段を使ってでも」
伊58の身体が提督の腕で引き寄せられる。
伊58の頭が提督の胸に押し付けられ、ボタンの冷たい感覚が彼女の顔面に触れた。
そしてそのボタンと、分厚い布の奥で動く、彼の心臓を頬で感じた。
「お前が生きて行けるようになるまで」
「俺が、一緒にいてやるから」
その言葉を聞いた途端、伊58の中にあった感情の爆弾が爆発した。
その衝撃が涙液を押し出し、声帯を激しく震わせた。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「私が」
「生きて」
「行けるようになったら」
「あなたはどうするの?」
感情の爆弾による熱も衝撃も過ぎ去った伊58の心の中で、
彼女自身も気付いていないその疑問が
彼女の心の隅の隅で、消えない線香のように、いつまでも燃え続けていた。
いつまでも。
いつまでも。
いつまでも。
提督が気付かなかった三つ目の誤算。
それは
伊58が死を拒絶した最たる理由。
提督が無意識に口角を上げているのを見た瞬間、伊58は危機感と焦りを覚え始めた。
ここで死ねない。死にたくない。そう感じるようになった。
死ぬのが怖くなった。
死んではいけない、と感じるようになった。
それは、すぐそこまで近付いていた救いに気付いた為だったのか。
それは、死という未知に対する恐怖から湧き出た感情だったのか。
それは、予想以上に惨たらしい未来に対する拒絶感だったのか。
確かに、それもあった。
だがそれだけではなかった。
提督も伊58自身も気付いていない、三つ目の誤算がそこにあった。
俺も死んでやる、と言い切った提督の表情は柔らかかった。
その口調は、艦娘になってから出会った誰よりも優しかった。
その言葉が嘘偽りのものではないとはっきりとわかった。
それを伊58が知覚した瞬間、彼女の中で彼女自身も気付いていない、一つの意志が湧き出ていた。
そしてその意志は、確かに伊58に呼びかけていた。
この、雄を、死なせてはいけない。
その言葉は彼女の知覚に捉われる事は無く、だが確実に彼女の心に危機感を感じさせていた。
そして彼女は死を拒絶した。
目の前の雄を死なせない為に、望んだ死、目の前まで迫った死を拒絶した。
まるで赤子が教わりもしないまま呼吸し始めるかのように。
まるで蜘蛛が教わりもしないまま巣を張り始めるかのように。
従うのが当然と言わんばかりに、彼女はその意志に応えた。
それは、その意志は
彼女の本能とも言える『命令』であった。
☆今回はここまでです☆
少し前の話になりますが、限定SSRみくにゃんがきました。うちにはもう4種類くらいみくにゃんがいます。
何でこんなにみくにゃんが出てくるんでしょうか。この永遠の謎に余の心はかき乱されるのだ。
>>1です。
イベントが近付いてまいりました。
前回新規実装された海防艦娘達に活躍の場があるのか、今から楽しみですね。
それでは、投下を始めさせて頂きます。
「随分」
「荒っぽいやり方するんだね」
伊58「!!」ビクッ
提督「那珂」
那珂「おはよ、提督」
提督「どうしたの?」
那珂「提督を止めるはずだったの」
那珂「でも」
那珂「なんとかなったみたいだね」
伊58「………」
那珂「流石に那珂ちゃんも焦っちゃったよ。本当に撃つんじゃないかーって」
提督「撃つつもりだったよ」
提督「伊58が本当に死にたいって思ってたんならね」
那珂「カメラに映ってるの、わかってるでしょ?」
提督「それなら俺が拳銃取り出した時に止めればよかったじゃない?」
提督「全部見てたんだろ」
那珂「………」
提督「………」
伊58「………」
提督「…まぁ、いいや」
提督「とにかく、俺はもう伊58を殺そうとはしないよ」
提督「騒がせちゃってごめんな。この件はもう終わった」
那珂「でも」
那珂「まだやる事は残ってるんだよね」
那珂「明石ちゃんから話聞いたよ?」
那珂「アレ、また作るんでしょ?」
那珂「説明するより実例見せたほうが早いんじゃない?」
那珂「那珂ちゃんの靴の事」
「伊58ちゃん」
「ちょっと見せたいものがあるんだ」
そう言いながら那珂は部屋の隅に置いてある椅子を引っ張り出し、座った。
ニーソックスに包まれた右脚をぴんと伸ばし、装甲で覆われた靴の踵を床に付ける。
その右脚を、両手で締め付けるように掴んだ。
那珂の手が震える。腕に力を入れているのが傍から見てもわかる
その彼女の様子は
自分の脚を自分で引き抜こうとでもしているかのように見えた。
全身から腕に巡る力の流れが那珂の肩を震わせる。
ぎゅ、と噤んだ彼女の唇から小さく声が漏れる。
そして
那珂の右脚が、もぎ取れた。
思わず目をつむり、視線を逸らした伊58を那珂が静止する。
「ちゃんと見て」
伊58の視線を待ち構えるように、那珂は千切れた自分の右脚の切断面を伊58に向けた。
伊58が恐る恐る逸らした視線を戻す。
そこには
那珂の右脚には
骨も
肉も
滴るはずの血も
神経も無く
ただ無機質な鉄の塊
大きな接続端子が貼り付いていた。
状況が飲み込めず困惑する伊58に対して那珂が説明を始める。
「那珂ちゃんね、義足なんだ」
「昔ちょっと色々あってね」
「自分の両脚がもう無いの」
「修復剤を使っても、元には戻らなかった」
「それで、脚の代わりに明石ちゃんが作ってくれたのがこれ」
「艤装の神経接続技術を応用して作った義足…」
「というか、艤足かな?」
「艤装の艤の字で、艤足」
艦娘には普通の人間とは違う、ある特徴がある。
艦娘は人体には存在し得ない稼動域を獲得し、それを自分の手足のように駆使することができる。
己が背負う艤装と己の神経を接続する事で、己の身体そのものとして艤装を扱うことができる。
その技術は、様々な箇所で使われている。
伊勢型艦娘の主砲
初春型艦娘や叢雲型艦娘のサブアーム
天龍型艦娘や龍田型艦娘のヘッドパーツ
多くの艦娘の魚雷発射管、エトセトラ。
艦娘と、彼女達が扱う艤装の開発企業内ではごく当たり前となっているその技術を使って
この小さな泊地に所属する那珂は、自分の新しい脚を獲得した。
那珂型艦娘の脚部艤装を改造・増設し
彼女の新しい脚として作り上げていた。
「これが無いと那珂ちゃんは海に出ることもできないし、歩く事もできない」
「でも今はこれがあるから歩けるし、海に出て戦う事もできる」
説明を続けながら、那珂は覆うものを無くして重力に従い垂れ下がったニーソックスの端を掴みするりと脱がしていく。
ニーソックスがめくれ上がっていき、その下に隠されていた鉄の塊が大気と伊58の視線の前に晒された。
「伊58ちゃんにも、これを作ってあげる」
「一生ベッドの上で過ごすなんて事がないようにしてあげる」
「もう腕も脚も元通りにはならないけど」
「新しい腕と脚なら作ってあげることができるから」
今の現状を打破する具体案と具体例を提示され、伊58は自分の心が軽くなるのを感じた。
また歩く事ができる。それすらも奪われた彼女には、それだけの事で嬉しくなった。
元通りとはいかなくても、やり直すことはできるかもしれない。
それだけの事で、彼女は自分の未来が少し明るくなったように感じた。
「でも」
しかし
「覚悟はして貰うよ」
すぐにでも作って欲しいと言う顔をしている伊58を静止したのは
その具体案の提示者、那珂だった。
「これはね、どこかの企業が正式に開発したものでもなければ」
「大本営の許可だって下りていない」
「違法ギリギリ…というか完全違法の改造品だから」
「付ける時」
「物凄く」
「痛いよ」
「那珂ちゃんもね、最初付けた時ね」
「このまま死ぬんじゃないかって思ったもの」
「痛さから言ったら」
「ここで提督に撃たれて死んだ方がマシかもしれない」
「それでも付ける?」
冷たい目で、伊58を見つめる彼女の表情は、まるで先程までの提督のそれを思わせた。
挑戦しようが諦めようが、どちらでも構わない、そう感じていた。
伊58がようやく手に入れた生きる意志に水を差すに等しいその行為を、提督は黙って見守っていた。
那珂の艤足は、彼女自身の希望で提督が接続した。
彼女の言葉を聞いて、その時の光景を思い出す。
骨折のそれとは比較にもならない、常軌を逸した痛がり方。
部屋に響く絶叫。
痛みを逃がそうとしたかったのか、のた打ち回る身体。
布を口に噛ませ、それでも尚漏れる呻き声。
海老反りになる身体。
痙攣する身体。
身体から吹き出す脂汗。
意識をグチャグチャに掻き混ぜる激痛に、青くなる顔。
全て覚えている。だから那珂の言った事は嘘ではないとわかる。
否、那珂自身が、彼女自身が艤肢の事実を一番よくわかっているはずだ。
だから黙っていた。それが嫌なら、諦めるべきだと思っていた。
普通の義肢を付けるという選択肢もあるし、全く付けずに自分が介護するという選択肢もあるのだ。
もしくは、子供の頃道徳教育の一環で読んだ本の著者のように、電動の車椅子を用意するという選択肢もある。
冷静に考えれば、他の選択肢なんていくらでも見つかる。
だから、もしこの話を聞いて艤肢を付けないとなったとしてもそれは仕方の無い事だと提督は考えていた。
那珂が何故この話を持ち出したのか、その真意を見ない振りをして
提督は伊58が答えを出す、その瞬間が来るまで黙って見守っていた。
伊58は、真っ直ぐ那珂を見つめながら問いかけた。
「那珂さんは」
「どうして脚が無くなったんでちか?」
脚を失ったもの同士、遠慮は要らないという意志からか、直球で飛んできたその問いに那珂は一瞬言葉に詰まる。
「…あまり言いたくない」
伊58の目線に耐え切れずに那珂が目を逸らした。
脚が無くなった時の記憶を思い出したくない。
というのと、彼女の目から感じられる意志に根負けしたのだ。
その程度の事実で、折れるものではないという、彼女の覚悟に根負けしたのだ。
「腕が」
「脚が」
「吹き飛ぶのと、それ、どっちが痛いんでちか?」
伊58は既に両腕と両脚が吹き飛ばされている。
爆発によって一つ一つもぎ取られ、激痛にのた打ち回った経験がある。
それに比べれば
これからを生きる為に必要な痛みなんて、どうって事はない。
彼女のそういう意志を、提督と那珂は十二分に感じ取っていた。
「やるよ」
「どんな手段を使ってでもって、提督が言ったんだから」
伊58は提督を見つめながら、期待を込めた目で見つめた。
「提督」
「艤足を、作って」
「お願い。作って、ください」
この目に、言葉に、提督が応える。
「わかった」
「一番いい奴を作ってやる」
「絶対作ってやる」
「どんな事をしたって、絶対作ってやる」
堪えきれず、ついに溢れ出した涙を拭うことなく応えた。
提督「うし!」ガバッ
提督「とりあえず、メシだ!」
伊58「え」
那珂「いきなりだね」
提督「そうでもないでしょ。もういい時間だろ?」
那珂「あ…ほんとだ。もうこんな時間なんだ」
提督「伊58、ここ最近ちゃんと食べてなかっただろ?」
伊58「う、うん」
提督「艤足付けるにもそれなりに体力いるし、ちゃんと食べて備えようぜ」
提督「俺、ちょっと伊良子ちゃんの所行ってくるよ」
提督「今日はごちそうにして貰うからな」
提督「準備ができたら食堂に案内するよ」
提督「みんなで食べようぜ!みんなでー!!」ガチャ
バタン
那珂「………」
伊58「………」
那珂「本当に」ボソッ
那珂「死にたいなんて、誰も思わないなんて」
那珂「どの口で言ってるんだか」
那珂「しょうがなく死にたいだけなんて」
那珂「どの口で言ってるんだか」
「提督だって、そうなんじゃないの…?」
伊58(那珂、さん…)
那珂「いつもそう」
那珂「あいつのそういう所」
那珂「本当に、大嫌い…」
那珂「本当に、本当に…」
伊58「………」
那珂「伊58ちゃん」
那珂「艤足」
那珂(私の)
那珂( 私 だ け の だ っ た )
那珂(シンデレラの、靴)
那珂「大事にしてね」
伊58「………うん」
提督「」ピッピッピッ
提督「あっもしもし、大淀?」
提督「うん!伊58の事は何とかなったよ!!」
提督「でね、今日はみんな食堂に集まってくれって言っておいて!」
「伊58の歓迎会、やってなかっただろ?」
「今日やろうぜ!!!」
☆今回はここまでです☆
流石に今回の限定みくにゃんもひょいと出てくれるって事はありませんでしたねぇ…
ティアラ全然出てこないのに手に入ってもアレですが…
>>1です。
夏イベントが始まりました。期間が4週間と長めなので慌てず計画的に攻略していきましょう。
そういう私もまだE-2です。
それでは投下を始めさせて頂きます。
携帯端末に指で触れ、手首を振ってブック型のカバーを閉じる。
たん、という音を立てながら閉じた携帯端末をポケットに突っ込み
提督は鼻歌を歌い始める。
この場所に無いギターの代わりとして。
『私には』
『見える』
口を開き、言葉を紡ぎ、彼は歌い始める。
『狂気の月が』
『昇っていく』
日本語ではなく、英語で。
『私の行く手には』
『数々の』
『災い』
彼は上機嫌な様子で歌を歌い始めた。
『私の目の前に広がる』
『地震と雷』
彼の脳内で流れるアップテンポのリズムが彼の気分を高めていく。
『私にはわかる』
『今の時代は狂っている』
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っているのだから』
『私には見える』
食堂の壁沿いに作られたステージの上で、提督がマイクを持って歌っている。
比叡と金剛が演奏するギターと霧島が叩くドラムの音が食堂に響く。
『狂気の月が昇っていく』
食堂は急ごしらえの飾りつけがされ、テーブルには様々な料理が並んでいる。
伊58とのやり取りの後提督は、伊良子だけではなく足柄や大和にも協力を頼み込んだ。
そのせいもあって、多少脂っこいものが多くなったが、比較的豪勢な歓迎会を開くことができた。
だが、主賓であるはずの伊58は未だ状況を受け入れられずに呆然としていた。
『私の行く手には』
「伊58ちゃん」
「どう?那珂ちゃんプロデュースのアイドルは」
食べ物が山盛りになった皿を伊58の目の前に置いた那珂が、伊58の顔を自信たっぷりに覗き込む。
「アイドル…ってったって」
いわゆるドヤ顔をしている那珂に、困惑の表情を変えずに伊58が呟いた。
『数々の災い』
歌う提督に再び視線を向ける。
英語に詳しくない伊58にはあまり意味のわからない言葉で、彼は満足そうに歌っている。
『私の目の前に広がる』
「那珂ちゃんはもうアイドルになれないもん」
『地震と雷』
「カタワでアイドルなんて、気持ち悪がられてできないし」
『私にはわかる』
「那珂ちゃん、だからね」
『今の時代は狂っている』
「ま」
「とにかく、あれがうちの提督って事」
「変わってるでしょ?」
那珂は伊58に、悪戯っぽく笑いかけた。
伊58はそれに対して苦笑いしかできなかった。
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っているのだから』
『聞こえる』
伊58はまだ納得できていなかった。
否、納得したいという感情を邪魔する何かがあった。
『けたたましい嵐の音が』
それは例えるなら、魔女の餌になる為にぶくぶくと太らされる子供の気分か。
『感じ取る』
提督の涙を見ても尚、今までの経験が彼女の感情に枷を付けていた。
彼女にとって、この光景があまりにも非現実的すぎるのだ。
悪い、たちの悪い夢でも見ているかのような感覚が彼女の頭の中でぐるぐると渦巻いている。
どの瞬間に、いつもの罵声が、暴力が飛んでくるのだろうかという不安が彼女の背筋を引きつらせる。
『最後の時が訪れる』
「こんばんは、伊58ちゃん」
その時突然、とても久々に聞くような、自分の名前を呼ばれ、伊58は声の方向に視線を動かす。
その先にいたのは、睦月型駆逐艦二番艦娘如月。
黒いカーディガンを羽織り、月のバッジを付け、胸ポケットに造花を挿し、彼女は伊58に微笑んだ。
だが彼女の姿を伊58が認識した瞬間
『恐ろしい』
「ひぃあッ!!!!」
伊58は短いけれど大きな悲鳴を上げた。
『河川が、溢れ、返って』
悲鳴が提督の耳にも入り、歌声が途切れる。
異常を察知した提督が左手を上げ、演奏している金剛達を静止した。
「あ…あぁあ…!!如月…如月…!!!」
目を見開き、伊58が震えている。
「やめて!!!」
近付こうとする如月を、伊58が絶叫して拒絶する。
「もうやだ…!!コーラはもう嫌でち!!!」
「こ、コーラ?」
予想外の、意味不明の反応をされ、周囲の注目も集めてしまった如月が困惑する。
「私、何も…」
自己弁護のように口から漏れた言葉が、自分の聴覚を刺激した瞬間
彼女の海馬が急激に活動した。
彼女にとってあまりにも大切な、大切な、傷の記憶が呼び起こされる。
自分に向けられる恐怖の感情と、かつて自分が抱えていた恐怖の感情。それの類似点。
この子は、あの時の私と、同じだ。と。
如月は肩の力を抜き、カーディガンを脱いだ。
脱いだカーディガンを近くの椅子に掛け、両方の手の平を伊58に向けながらゆっくりと近付いた。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
何も持っていない。何も危害を加えない。絶対に傷付けない。
心の中で何度も強く念じながら、ゆっくりと近付き、膝を着き
伊58を抱きしめた。
「大丈夫よ」
伊58の耳元で諭すように如月が呟く。
「誰も貴方を傷付けない」
「絶対に、約束するわ」
「ここの秘書艦である私、如月と」
「そこで歌っている、私の司令官が」
「貴方を絶対傷付けないって、約束する」
「嘘吐いたら針千本だって飲んであげる」
「だから、信じて」
背中に回された如月の手の平の熱を感じながら
伊58はゆっくりと心を落ち着かせていった。
へばり付いた疑念が、如月の手の平から感じる熱によって
蟻に解体される虫が徐々に千切られ無くなっていくかのように消えていく。
そして誰も声を発しない、静寂が食堂に訪れた。
伊58の力が抜けていく事を自分の腕の中で感じた如月は、伊58の背中をぽんぽんと手の平で軽く叩いた。
かつて自分がそうされたように。かつて自分がそう慰められたように。
腕を下ろし、伊58の身体から離れ、如月は振り返る。大切な思い出をくれた男と向き合う為に。
その男、提督はステージから降りて彼女達の方に近付いてきていた。
「ごめんなさい、司令官」
「いや、俺はいいんだけど」
「大丈夫、なのか?伊58?」
如月の後ろで座り込んでいる伊58を、身体を傾け覗き込みながら尋ねると
伊58は首を縦に振り、うん、と小さく答えた。
「びっくりさせちゃって、ごめんなさい」
「いや、しょうがねーよ。気にしないで」
伊58に代わって謝罪をする如月に対し、提督はへらへらと手を振りながらステージに戻っていった。
「………うし」
「じゃ、再開しよ。2番の最初からー」
「はーい」
比叡がギターを持ち直し、改めて演奏を始める。
それに合わせて、霧島がドラムを叩き始める。
先程までの静寂を吹き飛ばすかのような、楽しげなリズムが再び食堂から湧き上がった。
『聞こえる。けたたましい嵐の音が』
『感じ取る。最後の時が訪れる』
『恐ろしい』
『河川が溢れ返っている』
歌いながら、提督は伊58の方をちらりと見た。
彼女は那珂に支えられ、椅子に座りなおしていた。
そしてその傍にいる如月がこちらに手を振ったのも見えた。
『聞こえる』
彼女の手の平にあった黄色い光の残照が宙に漂い
『怒号と破滅の怨嗟の声が』
安っぽいが煌びやかな飾り付けの光と混ざって消えた。
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っている』
先程の静寂を消し去りたいかのように、食堂に音が溢れ返る。
一部の艦娘は手に持ったタンバリンを叩き
他の艦娘はリズムに合わせ手拍子を叩く。
その歌詞とは裏腹に、誰もが笑顔でその瞬間を楽しんでいた。
彼がこの歌を歌う意図を気付かない振りをして。
『身辺整理はできているだろうな?』
母国語を捨て、英語の歌を歌う意図。
『いい加減受け入れて死ね』
オカルト的で、破滅的な歌詞の歌を歌う意図。
『最悪な天気のど真ん中にいるように感じるのは』
クリーデンス・クリアウォーター・リバイバル、略称CCR
1960年代後半のアメリカ合衆国でデビューしたサザンロックの先駆けとなったバンド。
Bad Moon Rising
アメリカ音楽産業で最も権威のある音楽チャート、ビルボードのシングルチャートで全米二位を獲得したCCRの楽曲。
第二次世界大戦後の新たな狂気、ベトナム戦争を背景に人気を伸ばしたこの曲を彼は今歌っている。
大日本帝国軍を打ち倒したアメリカ軍が敗北したと言われている、ベトナム戦争をイメージさせるこの曲を。
その意図を、彼女達の一部は気付かず、一部は気付かない振りをして、今この瞬間を楽しんでいた。
その閃きは今この場では無粋であると感じたから。
彼の意図が何であれ、提督は今この瞬間を楽しみ、、隣の友人達が今この瞬間を楽しみ、自分も今この瞬間を楽しんでいるのだから。
『何もかも自業自得だって事だ』
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っている』
『今夜は外に出てはいけません』
『でないと君は殺される』
『狂気の月が昇っている』
曲の終わりに霧島が思いっきり叩いたシンバルの音が、その場の空気を暫くの間揺らし続けた。
☆今回はここまでです☆
今回はURL貼りません。
CCRはデビュー当初、醜い面相の男達というバンド名だったらしいですが、レコード会社は彼等に何を思ってそう名付けたのでしょうか。
>>1です。イベントやったりで投下はできませんが生存報告を…
今E-6やっております。
>>1です。お久しぶりです。
イベントお疲れ様でした。私は何とか完走する事ができました。
途中でデレステにイベント限定まゆが来ましたが、そちらも何とか取れました。
それでは投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
『轟!』
『沈!』
『轟!』
『沈!』
『テレ!』
『ビで!』
『轟!』
『沈!』
『轟!』
『沈!』
パラオの町の一角が熱狂の渦に包まれている。
『轟!』
『沈!』
リズムに合わせ、右手を掲げる。
その様子を、まるで民衆を導く自由の女神、絵画の1シーンのように感じる者もいた。
市民達がリズムに合わせて、手に持ったプラカードを掲げる。
彼らの中心で、『艦特会』と書かれた横断幕を両手で掴んだ市民達がリズムに合わせて横断幕を掲げる。
艦特会、正式名称『艦豚特権を撲滅する地球市民の会』。
大規模な艦娘反対団体である『盾』、別名『SEALD』傘下の組織である。
彼ら艦娘反対団体はここ数ヶ月の間に急激に人数を増やし、大本営がある日本本土や泊地が設立された各国で日々デモを行っている。
『テレ!』
『ビで!』
『轟!』
『沈!』
彼らを蜂起させたのは、ある一つのドキュメンタリー番組だった。
とある鎮守府への密着取材を行い、艦娘の実態を国民に伝えるという意図を持って放送された番組だ。
一種のプロモーション。一種のプロパガンダ。そういうものであると誰もが考えていた。
だがその番組で放送されたものは、多くの人々の予想を反するものだった。
艦娘の轟沈、慢心、傲慢、虚栄、エゴイズム。
艦娘の負の側面を凝縮し映像化したそれは全世界にばら撒かれ、大いに騒がせた。
一般市民にとっても、艦娘を指揮する特務提督にとっても、大本営にとっても、それは尋常ではない影響を与えた。
艦娘・大本営という組織に失望し、特務提督の職を辞職する者も出た。
艦娘・大本営への不信感を募らせる者も出た。
元々彼女らに不満を抱いていた者は今こそが好機と動き出した。
そしてその映像を見た一部の市民は彼ら独自の真理を悟った。
艦娘が、艦娘こそが、この世界の癌なのだと。
艦娘達は政府と結託し、自分達の正体を隠しながら横暴を繰り返しているのだと。
この世界に突然現れた深海棲艦、そして艦娘。
彼女達は一体何故現れたのか、その正体は何なのか。
日々研究が続けられているが、それらは未だ判明していない。
だが絶対正義の賢者の慧眼を得た彼等は、ネットで真実を突き止めたのだ。
艦娘の正体は、731部隊が遺したデータを元に作られた生物兵器だ。
731部隊。第二次世界大戦期の大日本帝国軍に存在した研究機関の一つ。
戦争の最中捕らえた捕虜を使って生物兵器の研究・開発を行っていたマッドサイエンティスト集団だ。
第二次世界大戦末期、追い詰められた大日本帝国は731部隊に命令を下した。
軍艦の魂と力を持った人型サイズの生物兵器を開発せよ、と。
大日本帝国の優れた技術を結集して作られた戦艦大和の力を持った生物兵器を開発せよ、と。
かつて最強と謳われた南雲機動部隊の力を持った生物兵器を開発せよ、と。
その力を以って鬼畜米英を叩きのめし、世界征服の野望を叶えるのだ、と。
一見馬鹿馬鹿しくも思える命令だが、元々大日本帝国軍は神霊・心霊現象を利用した侵略を得意としていたのだ。
大日本帝国傘下の朝鮮総督府が風水を利用し、庁舎等の建物を使って大地に大日本と刻み込む事で
朝鮮民族の民族精気を抹殺し、今も尚苦しめている事はあまりにも有名な話である。
731部隊も其の例外では無い事は想像に難くない。
731部隊は直に研究と開発を開始した。
大韓民国の市民を慰安婦と言う建前で強制連行し、人体実験を行ったのだ。
20万人以上の女性が大日本帝国軍に因って拉致され、日々の虐待や実験の中で死んで逝った。
だが、731部隊は結果を出す事の無いまま、戦争は終焉を迎える。
20万人以上の無辜の犠牲の上で出来上がったおぞましき生物兵器のデータだけを残し、731部隊も歴史の闇に消え去った。
しかし彼等は、大日本帝国軍の残党は死に絶えては居なかったのだ。
50年以上の時を経て、大日本帝国軍の残党は再び動き出した。
大日本帝国による世界征服を実現するために、731部隊が遺したデータを手に、彼等は動き出した。
彼等は地震の混乱に乗じて原子力発電所を攻撃、メルトダウンを引き起こす事で日本中を放射能で覆い尽くした。
その放射能によって人が変異したミュータント、それこそが731部隊が研究していた生物兵器の完成形。
それこそが、艦娘である。
50年以上の時を経て、最悪のマッドサイエンティスト集団が開発した悪魔の兵器が完成してしまった。
その後大日本帝国軍の残党は各地で女性を拉致し、強制的に艦娘に変異させ、
反乱の芽を摘む為に指揮官に恋愛感情を抱くように洗脳手術を行った。
そうして身体も心も完全に支配した後、政治家官僚に性接待の道具として利用した。
そして彼等は内閣・国会を篭絡し、秘密裏に日本を支配した。
日本は、再び大日本帝国という最も恥ずべき者達の手に落ちたのだ。
今や内閣は彼等の息のかかった極右の連中のみで構成された危険な集団に成り代わってしまったのだ。
だが彼等は其処で止まらない。彼等の野望は大日本帝国による世界の支配なのだ。
日本を支配し、横須賀に大本営という巣を作った彼等は、その魔手を世界に伸ばし始めた。
パラオ、ミクロネシア連邦、フィリピン、インドネシア、ブルネイ、パプアニューギニア、ロシア。
彼等は都合の良い理由を並べ、其の地に鎮守府を設置していく事で実質的な軍事支配を行い始めたのだ。
天皇制の下に世界を支配するために。
もしくは共産主義の下に世界を支配する為に。
もしくは全ての富を自分達が独占する為に。
もしくは日本を滅ぼす為に。
もしくは自分達が神となる為に。
もしくは深海棲艦に世界を売り渡す為に。
もしくは彼等のくだらない復讐の為に。
もしくは彼等の破滅欲求の為に。
其の為に彼等はいずれ大韓民国にも侵略し、あのおぞましき虐殺を再び繰り広げるに違いない。
彼等は、1足す1が2になるのと同じくらい当然の事として、それを確信した。
ちなみに深海棲艦が何なのかは艦娘反対団体の中でも意見が分かれる所だったが、彼らにとってそんな些細な事はどうでもよかった。
『轟沈轟沈!お前ら非人!!』
『轟沈轟沈!俺らは善人!!』
『轟沈轟沈!返せよ税金!!』
『轟沈轟沈!こいつは聖戦!!』
『轟沈轟沈!艦豚厳禁!!!』
正義の心の下に、彼らの思いは一つになった。
言葉が意味を無くす程に、彼らの心は一つになった。
艦娘を一刻も早く排除する。その名目の下に彼らの思いは一つになった。
娘、という名前を使うことすらおこがましいほどの害悪である艦娘に対し、彼らは豚という新たな名称を与えた。
そして彼らは武器を手にし、人の形をした艦豚達を、その正当な名称の通り豚の死体のようなモノに変えていく。
休暇中で非武装な時を狙い、集団で襲い掛かり、彼女達を次々と殺害していく。
今もこのパラオの町の片隅には、彼らによって作り上げられた艦娘の惨殺死体が未だ見つからずに転がっているかもしれない。
『沈沈沈沈沈カス女!!』
『沈沈シャブシャブ沈カス女!!』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
『死ね!!』
『『死ね!!!』』
彼らは町を歩きながら、正義の経典を読み上げていく。
艦娘達がこの世に害をなす存在である事を知らしめる為に。
声を張り上げ、この世界の中心となったかのように正義を叫ぶ。叫び続ける。
その横の道路を一台の車が通り過ぎていった。
軽快な音楽が車内に響き、外の罵声をいくらか掻き消す。
音楽のリズムに乗せて英語が聞こえる。
響くエンジン音。
外の罵声が遠のき、聞こえなくなっていく。
音楽のリズムを無視して独自のリズムを刻むウィンカー。
ウィンカーが切れる音。
流れる軽快な音楽。
リズムに乗せて発音される英語。
響くエンジン音。
音楽のリズムを無視して独自のリズムを刻むウィンカー。
ウィンカーが切れる音。
「そろそろだよ」
車のハンドルを握っている提督が、前を向いたまま横と後ろに声をかけた。
独特な駆動音と共に、ガラスとゴムが擦れる音が空気を震わせる。
「こんにちはー。俺でーす」
車のガラスの向こうで、門が開く音が響く。
再びエンジンが音を立て、開いた道の先へと車が進んでいく。
「相変わらずここはでっかいなぁ」
遊園地に遊びに来た小学生のような気風で提督が呟いた。
ここは、パラオ特別鎮守府。
泊地が設立されるパラオにおいての特別中の特別。
その地に、提督達は十年ものの中古車で、コンビニに行くかのような気軽さで入り込んだ。
「はい。到着ー」
鎮守府の敷地内に描かれた白線と白線の間で、車の動きと音楽が止まった。
古ぼけた車から、少女達が扉を開けて姿を現す。
白いワンピースを着た少女が二人。一人は麦わら帽子を被っている。
青いTシャツの少女が一人。真新しいものを見るかのように周囲を見回している。
車から出た提督が、反対側、助手席側に回り込み扉を開け、支えにならんと手を伸ばした。
助手席に座っていたのは、もう一人の青いTシャツの少女。
その両手と両脚は、機械で作られた義肢だ。
義肢の少女、伊58は提督の手の平に機械の手の平を乗せ、ゆっくりと動き始めた。
扉の縁を踏み、アスファルトに機械の足を付ける。
この瞬間、彼女のすぐ目の前を遮るかのように伸ばされた提督の左腕は無意味なものと化した。
「ここが、パラオ特別鎮守府」
目の前の建物を見上げながら伊58が呟いた。
ボロボロの泊地とは違う、立派な建物だ。
この建物、否、この敷地を管轄している提督の能力を表現しているかのように立派に聳え立っている。
特別鎮守府とは、大本営から特別に許可され設立される鎮守府である。
と言うのも、大本営の方針でパラオに鎮守府を設立しない決まりがあるからだ。
深海棲艦防衛本部であり、それらの最終目標である日本は泊地よりも大きい鎮守府が設立されている。
本部相応の軍事力を持つ日本本土に比べ、外国に設立される艦娘基地の軍事力は乏しい。
日々の研究によって、深海棲艦にとって諸外国の艦娘基地侵略というのはあくまで日本に攻め込む為の足がかりに過ぎないのだと判断された。
故に、日本から離れたパラオでは鎮守府は設立されず、小規模な泊地や基地が設立されている。
武力も、人員も、過剰に与える必要は無いからだ。それが、大本営の判断だった。
だがしかし、その例外が、ここパラオ特別鎮守府だ。
過剰に思える軍事力を与えるだけの価値があると判断された唯一の例外が、ここパラオ特別鎮守府なのだ。
『パラオの英雄』。このパラオ特別鎮守府を管轄する特務提督の異名だ。
大本営上層部でその名前を知らない者は居ない。
悪名高きアイアンボトムサウンド、AL/MI作戦後期における深海棲艦の本土強襲エトセトラ。
彼はその魔の海域を『味方に一切の犠牲を出さずに』突破し、敵側の策を読み本土防衛に成功した。
戦略眼・艦隊運用能力・用兵能力に秀で、あらゆる特務提督の中でも五本の指に入るほどの実力者、文字通りの英雄。
英雄がその力を存分に振るう為に特別に許可された鎮守府。
それが、パラオ特別鎮守府である。
この鎮守府は彼の功績を讃える凱旋門であると同時に、パラオを襲う万が一の可能性すらも防ぐ最強の防衛基地なのである。
その輝かしき土地に、提督達は私服で、中古車に乗ってやって来たのである。
『変身一発』と書かれたふざけたTシャツを着た提督は鼻歌を歌いながら扉を開けた。
建物一階、ロビーはまるで高級ホテルのように床が磨かれ、華やかさと落ち着きを高レベルで両立させている空間になっていた。
「はっちゃーんさーん」
ソファに座って本を読んでいた女性を視界に納め、手を振って呼びかける。
「はっちゃんさーん!グゥーーーーテンモルゲンッ!」
「提督さん」
「それ、気が抜けるから止めてって言ったよね」
僅かに眉間に皺を寄せた女性が本を閉じ、ソファから立ち上がる。
その様子は寝起きでもないし超スッキリもしていない。
可笑しな訛りを持った七人の愉快な小人達もいない。
狡賢い継母はいないし謀略も何も無いし幾度も死にかけた経験も無い。
だが金色の髪と碧眼、そして眼鏡で飾られた女性の顔は、まだ少女と呼んでも違和感が無いほどに幼く、また美しく整えられてもいた。
彼女の名前は伊8。巡潜三型二番艦潜水艦娘伊8。
彼女もまた、艦娘である。
☆今回はここまでです☆
祝 CSMカイザギア予約開始
正真正銘純度100%の>>1です。フュージョンライズ要素はありません。
諸事情により(いつもに比べて)早めにできたので今から投下を始めさせて頂きます。
提督「でもよっちゃんはよっちゃん様って言わないと怒るから、はっちゃんははっちゃんさんって言った方が失礼じゃないんじゃないっすか」
U-511「よっちゃん…?」
伊401「するめじゃなくて酢漬けなの?」
伊8「世直●マンか」
伊401「世直●マン」
提督「ラッキ●マンの敵キャラ」
伊8「あれ、後で味方になるよ」
提督「え、マジすか。あの時代のジ●ンプ敵が味方になる展開多すぎやしませんかね」
伊8「雷電」
提督「敵のハリアーだ」
伊8「それは違う。色々と違う」
伊58「…あの」
伊8「あ」
伊8「はじめまして。私は伊8。はちだよ」
伊58「はち………」
伊8「と言っても」
伊8「前に伊8型に会った事あるのかな?」
伊58「…うん」
伊8「じゃあ」
伊8「面倒な事は抜きにしましょう」
提督「面倒ってあーた」
伊8「それより早く行きましょう。友提督も待ってるし」
提督「ん…まぁそうっすね」
如月「8さん。あの…頼んでいたものって届いてますか?」
伊8「うん。千歳さんが用意してくれたよ」
如月「ありがとうございます」
伊8「千歳さんから聞いたけど、凄いね如月ちゃんは。もうあんな本読むんだ」
如月「勉強しなくちゃいけませんから。色々と」
睦月「如月ちゃん!!」
如月「!!」
提督「あぁ、こんにちは睦月さん」
睦月「こんにちは如月ちゃん!!」
如月「こんにちは。睦月ちゃん」ニコッ
提督「………こんにちはー睦月さーん」
睦月「提督さんもこんにちは!」
如月「………」
睦月「如月ちゃんから頼まれてた本、用意してあるよ!!」
睦月「これと、これと…」
曙「これとこれも追加」
曙「睦月、アンタ先走りしすぎ」
如月「!こんにちは、曙ちゃん」
曙「久しぶりね。如月」
曙「潮から聞いたわよ。あんた秘書艦になれたんですってね」
如月「えぇ。お陰さまで」
曙「第…四、秘書艦だっけ?那珂型と羽黒型と赤城型の次だから」
如月「そうね。第四秘書艦」
曙「第四か…まぁた結構数がいるわね。普通そんなに秘書艦置かないわよ」(うちの倍よ倍)
提督「補佐も入れればもっといるよ」
曙「へぇ…まぁとにかく、おめでとう。如月」
如月「ありがとう、曙ちゃん」
睦月「何か難しそうな本だけど、これって秘書艦業務と関係あるにゃしか?」
如月「あぁいえ。これは私個人でお願いしていたもの。秘書艦業務とは関係ないわ」
曙「個人的に…教科書と参考書と、赤本をねぇ…」
如月「艦娘だからってお勉強を疎かにはできないもの」
曙「それもそうだけど、それにしてもレベル高すぎじゃない?」
曙「これ、高校とか大学とか書いてあるんだけど」
睦月「如月ちゃん頭いいんだね!」
如月「…そんな事は無いわよ。ちょっと先が気になってるだけ」
曙「………」
如月「………」
曙「如月」
如月「?」
曙「あまり無理な事はするもんじゃないわよ」
曙「………と言って」
曙「止まるもんでもないとは思うけど」
睦月「?」
如月「やっぱりわかっちゃう?」
曙「ここ数ヶ月間、毎週のように話してればね」
曙「…ほんとアンタは、何と言うか」ヘッ
如月「誰かに影響されちゃったのよ。ねぇ、曙ちゃん?」
曙「どっちかっていうとそっちのアホのせいでしょ」
提督(アホでーす)ヒラヒラ
曙(本当にアホじゃないかコイツ)
提督(酷いぜ曙太郎)
曙(お前後で殺す)
如月「どっちもよ」
如月「曙ちゃんも司令官も」
如月「私のお尻を叩いてくれなかったら今の私はいなかったわ」
曙「私はノーマルよ」
如月「っ曙ちゃんがそうって意味じゃなくて」
曙「え?」
曙「叩かれてはいるの?」
U-511「如月、お尻叩かれてるの?」
如月「………」
伊8「………え?何で顔赤くするの?」
曙「」
曙「おい」
提督「赦しは請わぬ」
曙「何やってんのアンタ駆逐艦娘にお前」
提督「赦しは請わぬ」
曙「赦しは請わぬじゃねぇよおい、クソアホ提督おいコラ」
提督「赦しは請わぬ」
漣「はいはい。真昼間からド下な話はやめちくりー」
曙「休日の真昼間からホモビデオの音声抜き出してた奴が何を言ってるんだか」
漣「赦しは請わぬ」
曙「てめぇ」
漣「こんにちは、提督様。うちのボーノがとんだご迷惑をおかけしやがっておりますです」ペコリ
提督「こんにちは、漣さん」
提督「ボノロンは森の戦士だからこのくらい血気盛んでいいんじゃないっすかね」
曙「誰がデビルリバ●スか」
漣「デビルリバ…あぁ、だから相方が犬なんだあれ」
提督「そう。彼はジャ●カルの生まれ変わりなんだロン」
漣「やはりボノロンは北斗●拳」
曙「原●夫に怒られろお前ら」
伊58(な、何これ)
伊401(提督、ここだといつもこんな感じだよ)
伊58(え、えぇ…いつも?)
伊401(うん)
伊58(えぇぇええ…あの…)
『だったら、死にたいなんていうんじゃねぇよ。諦めるんじゃねぇよ』
『何を犠牲にしてでも、どんな手段を使ってでも生き延びるんだ』
伊58(あの提督が…)
漣「という事はあのデカイ木の中には」
提督「ラオ●の死体が埋まっている」
漣「立派な漢立ちの結果ですか。拳は枝葉となって天高く掲げられたのですか」
曙「アンタら子供向け絵本の世界を核の炎で包んで楽しい?」
提督「カクノ ホノオデ タノシイナ」
漣「おうしあわせエンドやめろや」
伊58(これなんでちか?)
伊58(えぇえええ…えぇえええええええーーーー………)
提督「で」
提督「何か凄いわちゃわちゃしてきたけど、漣さんはどんな用でここに?」
漣「あぁそうですね。外野が付いて来ないから本題に入りましょう」
伊8(…あれに付いて来いと?)
伊401(話に入らせる気無かったよね?)
漣「ご主人様がお部屋でお待ちです…が」
漣「図書室までお見送りしてから来ますよね?多分」
提督「うん」
漣「それじゃあ、お荷物はお預かりします」
提督「え、いやいいよこれくらい。自分で持ってるから」
漣「いえいえ。提督様はご主人様の無二の親友」
漣「そんな大事なお客様のお手を煩わせるわけには参りません」
漣「つーかさっさと準備してさっさと始めたいんです。だから早く荷物よこせよこのロリコン」
提督「ロリコン!?」
如月「漣ちゃん。流石に今の言葉は聞き逃せないわ」
漣「オゥ林田」
如月「司令官は赤城さんとかにも手を出しているからロリコンじゃなくてただの節操無しだわ」
漣「それもっとダメじゃね?」
提督「否定はしねぇ」
曙「建前だけでもツッこめよ」
提督「まぁそういう事ならお願いしますよ。漣さん」(このキャリーバッグに入れてありますんで)
漣「はい確かに。それじゃあボーノ、提督様の案内ヨロシクゥ!」
曙「はいはい」ゲシッ
提督「膝裏キックナンデ!?」
伊401(多分無視したからだと思うんだけど)
漣「あとムッキーはヒトヒトサンマルから遠征任務だよね?見送った後食堂でご飯食べて準備してね」
睦月「りょ、了解にゃし」
漣「じゃ、こっちは準備進めておくんで早めに来てくださいねー」ゴロゴロ
伊58「………」
提督「なんて様だ。まるで嵐が過ぎ去ったかのようだ」
曙「誰が原因だと思ってるのよ」
提督「わし(53)」
曙「クソが」
伊401(曙ちゃんも原因なんだよなぁ)
如月(曙ちゃんも原因なのよねぇ…)
伊8(曙も原因だと思うんだよなぁ…)
伊8「じゃあ、ちゃちゃっと行きましょう。ゴーヤ、大丈夫?」
伊58「………」
伊8「…ゴーヤ?」
U-511「でっち」
伊58「!!」ビクッ
U-511「呼ばれてる」
伊58「あ…あぁ、うん!何の話でちか!?」
伊8「…まだ歩くけど、艤足は大丈夫?辛くない?」
伊58「大丈夫でち」
提督「辛くなったらすぐ言ってくれよ」
伊58「大丈夫だってぇ。それより早く行こう?」
☆今回はここまでです☆
>>1です。
投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
睦月「あ」
睦月「ここここ」チョイチョイ
提督「おう」
伊58「…ここが」
伊58「ここがハチの図書室なんだ」
U-511「ここがはっちゃんの居場所?溜まり場?」
伊401「凄いね。なんか学校みたい」
如月「あぁそれわかるわ。中も本当にそんな感じよ」
伊401「そうなんだ!んー、なんか懐かしい気持ちになってきた」
伊8「私の趣味で作ってもらったようなもんだから置いてる本の内容偏ってるかもしれないけどね」
伊401「漫画ある?」
伊8「あるよ」
伊401「なら大丈夫」
提督「じゃあ俺は友提督んとこ行くから。何かあったら携帯に電話ちょうだいね」
伊401「はーい」
提督「睦月さんも、遠征任務気を付けてね」
睦月「…早く着いたし、ちょっとぐらいここにいてもいいんじゃ」
提督「だーめ。仕事でしょ?スケジュールに余裕を持った行動をしなさい」
睦月「いいじゃん!久しぶりに如月ちゃんに会えたんだし、ちょっとぐらい!」
曙「………」
提督「それで遅れたら他の人に迷惑かかっちゃうよ?」
睦月「でも、時間に余裕はあるし」
提督「つったって飯食ってってやってたらあっという間だよ」
睦月「ご飯なんてパパっと食べれば大丈夫にゃし!」
提督「すぐ身体動かす事になるんだからゆっくり食べなきゃ、後で辛いよ?」
提督「遠征任務でも、体調は万全にしておかないと何があるかわからないんだし…」
睦月「でもぉ…」
如月「………」
如月「司令官」チョイチョイ
提督「ん」
如月「ん」チュッ
睦月「!?」
伊401「!?」
伊58「!?」
U-511「!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
曙(やりおった)
伊8(やりおる)
提督「お前」
如月「そろそろ行かないと、友提督さんが待ちくたびれちゃうわ」
提督「え」
如月「早く行ってあげて」
提督「あ、あぁうん。そうだな」
如月「私は今のでしばらくは我慢するから」
如月「また後で…」
「もぉっと、深いの、お・ね・が・い・ね♪」ペロ
伊401「深っ…」
提督「」
曙(やはりロリコン)
伊401「ふか…ふか…ふか…まる…」
U-511「がばいと……がぶりあす……」
伊58「おう二人とも気をしっかり保つでち」
伊401「ま、まうす…まうす…」
伊401「まうす、とぅ…まうす……まうす……みっ」
伊8(いかん!!)ハッ
伊58(これ以上はしおいを再起不能にしてでも!!!)
伊401「………つ●まんぐろーぶ」
伊58「っしゃぁ!よく耐えたぁ!!ミッツ●マングローブ!!ミッツ●マングローブなら大丈夫!!!」グッ
伊8「ブルーライトヨコスカ大本営ー」フリフリ
曙「これがこの世の終わりの光景か」
如月「睦月ちゃんも」
睦月「え」
如月「司令官さんと友提督さんを困らせちゃ駄目よ」
如月「睦月ちゃん、今度の遠征任務の後の予定は?」
睦月「え、ないけど」
如月「よかった」ニコッ
如月「私達今日はずっとこっちにいるから、また後でゆっくり時間作ってお話しましょう?ね?」
睦月「う、うん。そうだね」
提督「ん、うん」
提督「ユー、しおい、ゴーヤ。それじゃあ何かわからない事があったらハチさんに聞けよ」
伊401「え」
伊58「あ」
U-511「うん」
伊8「任されました」
提督「じゃ、俺は友提督のとこ行くから。気をつけてな」
伊401「はーい」
如月「司令官」
提督「どしたの今度は」
如月 ( ´∀`)b
提督 ( 0*0)?
提督 ( 0*0)b
睦月「………」
伊401「………」
U-511(…何だろう。この気持ち)
>>314 ミスしました。修正します。
如月「睦月ちゃんも」
睦月「え」
如月「司令官と友提督さんを困らせちゃ駄目よ」
如月「遠征任務の後って今日の予定はあるの?」
睦月「え、ないけど」
如月「よかった」ニコッ
如月「私達今日はずっとこっちにいるから、また後でゆっくり時間作ってお話しましょう?ね?」
睦月「う、うん。そうだね」
提督「ん、うん」
提督「ユー、しおい、ゴーヤ。それじゃあ何かわからない事があったらハチさんに聞けよ」
伊401「え」
伊58「あ」
U-511「うん」
伊8「任されました」
提督「じゃ、俺は友提督のとこ行くから。気をつけてな」
伊401「はーい」
如月「司令官」
提督「どしたの今度は」
如月 ( ´∀`)b
提督 ( 0*0)?
提督 ( 0*0)b
睦月「………」
伊401「………」
U-511(…何だろう。この気持ち)
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
睦月「提督さんはいいよね」
提督「何が?」
睦月「何が、って…」
提督「如月と一緒にいる事が?」
睦月「提督さんはずっと如月ちゃんと一緒にいられるからさ」
睦月「睦月は、こうやって来てくれた時とか遊びに行く時にしか会えないのに」
提督「もっと遊びに来てもいいんだよ?俺はいつでも歓迎するけど」
睦月「任務が忙しくて、そういうわけにもいかないじゃん」
睦月「だからさ。提督さんが羨ましい」
提督「…羨ましいかあ」
提督「…じゃあさ」
提督「睦月さんはどうしたらいいと思う?」ニコッ
睦月「…何を」
提督「俺さ」
提督「如月が俺の所にいる事が、本当に正しい事なのかがわからないんだ」
曙「………」ピク
提督「睦月さんは、如月と一緒にいたいんだろう?」
提督「…だったら、如月はこの鎮守府に異動した方がいいんじゃないかって考えてる」
提督「俺は未だ特務中佐の特務提督、泊地もボロボロだ」
提督「でも、友提督は『パラオの英雄』なんて呼ばれて、こんな立派な鎮守府も持っている」
提督「アイツなら、如月を俺以上に上手く戦術に組み込んで、如月を活躍させてあげられるかもしれない」
提督「そうしたら、もしかしたら如月は」
曙「 黙 れ 」
提督「!?」
曙「睦月も、あまりわがままを言わないの」
睦月「でも」
曙「でもじゃない!」
睦月「………」
曙「…睦月。私は、ちょっとコイツと話があるから。先行ってて」グッ
睦月「…うん。わかった」
曙「何であんな事を言ったの」
曙「本気で異動した方がいいと思った?それとも義姉へのリップサービス?」
提督「俺は本気だった」
曙「でしょうね」
提督「こっちの鎮守府で活躍すれば注目だって集まる」
提督「そしたら如月の世間の評価だって変わるかもしれないって考えたんだ」
提督「『パラオの英雄』が指揮する艦隊の一人だ。誰も悪くは言えない!」
提督「だから」
曙「アホか」
提督「アホって…」
曙「何でアンタ達二人とも、自分の事ばかりで」
曙「如月の事を考えないの?」
提督「考えてるさ!」
提督「さっきの事もそうだし、こっちには睦月さんも曙さんもいる!」
曙「そういう事を言ってるんじゃない」
曙「気付いてないって事は無いでしょう?」
曙「如月は、アンタの事が好きだって」
提督「………」
提督(また、それか…)
曙「睦月が来ればそりゃ話はする」
曙「他の人から話題振られれば受け答えだってするでしょ」
曙「遊びに誘われれば一緒に遊んだりもするでしょ」
曙「それが人と人のコミュニケーションってもんなんだから。そんなもん私でもわかるわよ」
「でもね。あの子は」
「できる事ならずっと、アンタといたいと思っている」
「私だってそうだって気付けたのに、アンタが気付いてないわけないでしょ?」
提督「………」
曙「私だって…」
曙「……………」
曙「ごめん。さっきの言葉、撤回するわ」
曙「私も」
曙「私の事しか考えていない」
提督「え?」
曙「私はね」
曙「打算で、如月に近付いたのよ」
「この鎮守府に配属されて、色々あって」
「如月の、あの事を知った時」
「胸が痛くなった」
「悲しくなった」
「嫌な思い出が沢山出てきた」
「私のじゃない」
「………駆逐艦曙の記憶が、頭の中から湧き出てきた」
「スラバヤ沖海戦」
「…珊瑚海海戦」
「駆逐艦曙は、ずぅっと悪口ばかり言われてきた」
「敵前逃亡だの」
「作戦が失敗したのは全部曙が悪いだの」
「弾薬消耗数報告書に曙だけ記載しないだの」
「空母翔鶴が沈んだのだって!」
「全部何もかも駆逐艦曙が悪いって!!」
「…そう、言われ続けた」
「死に物狂いで戦って、それでも、何にもならなかった思いが」
「その時の思いが、記憶が、恨みが、私の頭の中でずぅっとぐるぐる渦巻いている」
「如月の事を知った時」
「あの、どうしようもない」
「怒りと」
「やるせなさと」
「もう色々が」
「ぐちゃぐちゃになって湧き出てきた」
「あの子は、あの時の駆逐艦曙と同じ」
「悪意を一身に受けて、何もできないで泣くしかできない」
「何を言われても、何も言い返せない。その権利すらない」
「例え何て言ったって」
「何をしたって」
「誰も考えを変えようともしない」
「誰も見向きもしない」
「誰も評価をしてくれない!」
「労ってもくれない!!」
「泣いたって!」
「怒ったって!」
「焦ったって!」
「悔しがったって!」
「何したって!!もうどうにもならない!!!」
「…何も変わらないのよ。艦娘如月も、駆逐艦曙も」
「如月を見ていると、その記憶が嫌でも湧いてくる」
「私はその、嫌な思いを消したいから」
「如月を支えて、もしあの子を笑顔にできたら」
「その嫌な思いを過去のものとして、忘れられると思って、如月に近付いた」
「何も言わずに、メアド書いた紙を渡して」
「『何かあったら相談に乗る』ってだけ伝えて」
「…あの子は律儀にメールしてきたわよ」
「色々な事をメールしてきてくれた」
「私も必死になってメールを返したわよ」
「あの子を笑顔にするのは私の役目だって、勝手にそう思ってたから」
「相談もされたし、それ以外の色々な話もしたわ」
「漫画の話とか趣味の話とか流行のアクセサリーの話とか」
「これからの事、戦争が終わったら何をするかとか」
曙「そうやっている内に少しずつ考えるようになった」
曙「私は、余計な事をしたんじゃないかって」
曙「私なんて、いらなかったんじゃないかって」
提督「そんな事は無いと思うよ!」
提督「如月とメールやり取りしてるってのは聞いてたし、メール打ってるのを見た事もある」
提督「義務だのでやってる感じでもなかった」
提督「楽しそうだなって、横から見てて思ったよ?」
曙「でもね!!!」
曙「私と如月の間にいつもアンタがいた!!!」
曙「アンタが読んでるから、アンタが好きそうだから、アンタと一緒にいたいから」
曙「いつもアンタが、私達の話の中にいた」
提督「………」
曙「如月にとっての、アンタの存在ってのがとんでもなく大きいって事、わかるでしょう?」
曙「あの子は、アンタの事が好きだって、わかるでしょう?」
曙「睦月も私も、如月にとっては何の違いもない」
曙「ただ、近くに来たから話相手に『なってあげてる』だけ」
曙「本当は、アンタの傍にずうっといたいんだ」
曙「だってあの子はずっと、アンタの事を第一に考えているって、わかっちゃったんだもの」
提督「………」
曙「クソアホ提督」
曙「アンタから見て、今の私はどう映っているの?」
曙「私と如月の事を、どう思っているの?」
提督「いい友達だと思っている」
提督「曙さんは打算だなんだっていうけど、絶対そうじゃない」
提督「曙さんは、凄い優しい人なんだって、思った」
提督「如月は本当にいい友達を持ったんだって、今話を聞いてて思ったよ」
提督「………本当に、本当にありがとう」
曙「そんな言葉を聞きたいんじゃない。私は自分勝手な理由で友達をやっているだけ」
曙「如月を幸せにして、それで自分の嫌な気持ちを消して自己満足したいだけ」
曙「…如月の事なんて、何も考えていなかったのよ」
曙「こんなの、優しさなんかじゃない」
曙「自分が、何かをできるなんて思い上がっていただけなのよ」
曙「…ほんと、馬鹿みたいに」
提督「………」
曙「私は、アンタにはなれないし」
曙「如月は、もうアンタ無しじゃ生きられない」
「如月は」
「艦娘としての明るい未来なんて、もう一切考えていない」
「そんなものはもう二度と手に入らない」
「もうどうにもならないものだって」
「諦めて」
「捨てたのよ。そんな未来」
「あの子は」
「家族と、アンタの傍にいる事以外」
「もう何の」
「夢も、希望も、持ち合わせていない」
「だから、アンタと引き換えに得られる名誉なんて…ありがた迷惑でしかないのよ」
曙「例え言葉にしていなくても、あの子の気持ちは絶対に変わらない」
曙「その気持ちを、気付かないフリをするな。拒否しようとするな」
提督「………」
曙「アンタのあの言葉は、如月の気持ちを裏切ってるのと同じよ」
曙「アンタが一番言っちゃいけない。最低の言葉」
曙「もしアンタが、このまま如月の気持ちを裏切ろうって考えているんだったら」
曙「私は、アンタをブッ殺すわ」
曙「アンタだけじゃない。アンタの周りの秘書艦、羽黒も赤城も、那珂も全員全員ブッ殺してやるわ」
曙「アンタの周りの人間、全員ブッ殺してやるから」
曙「如月の友達として」
曙「如月を裏切ったら、絶対、絶対ブッ殺してやるから」
提督「………」
曙「それが、アンタになれない私が唯一、如月にしてあげられる事」
曙「覚え、ときなさい。アンタがあの子を裏切ったら、うらぎったら」フルフル
曙「絶対、ぜったい」ポロポロ
提督(曙さん…)
曙「わたしが、アンタを、ブッ殺して、やるからぁ!」ダッ
ダダダダダダダダ!!!!
提督「曙さん!!」
提督「……………」
☆今回はここまでです☆
ぼのらぎ流行しませんかね
>>1です。
秋刀魚祭りお疲れ様でした。私は今回完走を目標に出撃を繰り返し、無事初完走できました。
そして来月のイベントに備えて、備蓄と演習を回す日々に戻ります。
それでは今から投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
提督「おっーす」ガチャ
友提督「おう」
友提督「聞いてたより遅かったな」
提督「あーごめんごめん。色々見てたら遅くなった」
漣「あれ、ボノロンは?一緒に来ると思ってたんですけど」
提督「あぁー…」
提督「俺ここまでの道ならわかるし、睦月と話する事があるって言うから途中で別れちゃったわ」
雲龍「遠征があるのに?」
提督「うん。まぁ、色々話したい事があるんだと」
雲龍「あの二人がそんなに話してる所見た事がないわ」
提督「まぁ色々あるんですよ多分」
雲龍「ふぅん………」
提督「それより準備は?」
漣「できてますよ」
提督「あぁありがとう」
友提督「それじゃあ、始めるか…」
提督「あぁ…」
友提督「勝てば天国」
提督「負ければ地獄」
漣「知力体力時の運」
雲龍「早く来い来い木曜日」
「カー●ィの」
「エ●●イド………!!」ピコーン
雲龍「チャージ三回」
提督「フリーエントリー!!」
友提督「ノーオプションバトル!!」
漣「やってやる!やってやるぞぉー!!」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
友提督「………」カチカチ
雲龍「………」カチカチ
漣(お、あとパーツ一個)カチカチ
提督「……………」カチカチ
「気付いてないって事は無いでしょう?」
「如月は、アンタの事が好きだって」
「あの子はできる事ならずっと、アンタといたいと思っている」
「あの子は、家族とアンタの傍にいる事以外、もう何の夢も希望も持ち合わせていない」
「あの子の事を大切に思っているのなら、ちゃんと向き合ってあげて」
提督「………」グッ
漣「ぬはははは!!とったぁ!!!」テレーン
提督「あ」
友提督「やっべやっべハイドラやっべ」
雲龍「まだ慌てるようなあわわあわわわわわわわわ」
提督「なんか殺る気満々じゃありませんこと漣=サン!?」
漣「モチよ!これこそハイドラの楽しみ方でんがな!!」
漣「見せてあげよう!楽太の雷を!!」
漣「ファイナルベントォー!!」ズバーン!
提督「うぉおい!?俺のデビルスターーーー!!!!」
漣「フフフ…デッドエンド!!」ズガーン!
漣「さらにもう一発」ズン
提督「ぬわー!?!?」
友提督「青玉が飛んでいく…時速200kmに撥ねられ飛んでいく…」
雲龍「隙あり」ポイ
友提督「 ボ ム ー ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! ! 」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
漣「フフーン!」
漣「ライバルは皆ブッ壊しました!これで漣の勝利は確実です!」
漣「ゼロヨンだろうがレースだろうがハイジャンプだろうがバトルロイヤルだろうが何でもきてみんしゃい!!」
「VSデデデ」テテーン
漣「」
漣「オーウイェー…」
友提督「よろしく」ポン
提督「シクヨロ」ポン
雲龍「夜露死苦」モニュ
提督「初期マシンじゃあの大王に勝てませんからねぇ」
友提督「デビルスターあったら違ったかもしれませんがねぇ」
雲龍「ラピュタ王に全部壊されましたからねぇ」
漣「や…」
漣「や、や…」
漣「 や っ て や ろ う じ ゃ あ り ま せ ん か ー ! ! 」
漣「覚悟しやがれぇこのクソペンギンがぁー!!」ドルルルルルルルルルルルル
漣「ペンギンが屋外に出てくるんじゃねー!!」
漣「ペンギンはー!!!」
漣「ビルの中でー!!!」
漣「エログッズ売ってりゃいいんだよォォォォォォォォォォォーッ!!!!!」
提督「はははははははははは」
提督「ははは…」
提督「……………」
「如月ちゃんは、あなたの事を愛しているわ」
「人として、異性として、心の底から愛している」
「そんなあなたが、居なくなったら、もう二度と会えないと知ったら」
「遺された如月ちゃんは…もう二度と立ち直れなくなる」
「別の男を好きになるまで、俺の代わりにあいつを支えてください」
「俺じゃなきゃいけない理由なんて、どこにもない」
「大事なのは」
「あの子の心の支えになれる存在、であって」
「俺じゃない」
提督(そう、俺じゃない)
提督(俺である必要は無い)
提督(いや…そもそも…それを…わかっていて……)
提督(何で………………なんだ?)
雲龍「……………」ジッ
ズバーン
提督「あ」
漣「だめでしたーてへぺろ☆」
友提督「ハハッワロス」
漣「………まぁこんな事もあります!それより次行k」
雲龍「ゆるさないわ」
漣「え?」
雲龍「提督のデビルスターと」
雲龍「私のワゴンスターと」
雲龍「友提督のウィリースクーターの恨み」ガシッ
漣「ちょっウィリーは雲龍さんが、あ、アーッ!!!!」ズルズル
バタン
友提督「………どしたんだろ」
提督「………どしたんだろね」
友提督「…次は、漣にパーツ取らせたらダメだな」
提督「そうだな」
提督「………」
提督「なぁ友提督」
友提督「ん」
提督「お前今何人くらいに手付けてんの?」
友提督「あ?」
提督「艦娘」
友提督「嫁だけだよ」
提督「そうなの?」
友提督「そうなのって、お前と同じ位って思われるとちょっと困るぞ」
提督「そう言われると何も言えねぇ」
友提督「お前はどうなんだよ」
提督「………」
友提督「………おい?」
提督「………50は越えてる」
友提督「…マジかよ」
提督「駆逐艦娘(如月)に手出してから、何かもう色々とズブズブになっちまって」
友提督「お前、死ぬなよ」
提督「どうだろうな。死ぬかもしれねぇ」
友提督「おい、国防の任に就いた特務提督が部下に手を出しまくって腹上死とかネタにしかならねぇぞ」
提督「……………」
提督「俺には、よくわからねぇ」
友提督「何が?」
提督「艦娘の…何ていうの?性欲?」
提督「他の所も、上から下まで、みんなそういう話に興味あるもんなのか?」
提督「それでみんな、そこの提督の事が好き、って」
提督「んなラノベみたいな事が…」
友提督「………」
提督「噂だと洗脳手術で恋愛感情を植え付けてるとか聞くけど」
友提督「…お前な。俺にはその艦娘の嫁がいるんだぞ?」
提督「ただの噂だよ。信じちゃいないけど、聞いた事くらいあるだろ?」
友提督「まぁな」
提督「信じちゃいない…でも、その事を考えれば考えるほど、よくわからなくなる」
提督「人の感情を技術でどうこうできるっつってもさ、何でわざわざ恋愛感情なんだ?」
提督「命令違反を防ぐためとかだったら、いっそ感情を全部消してしまえばよかったのに」
提督「もし本当に感情を洗脳で何とかしてるんだったら、それをしない理由ってのがわからん」
提督「…そもそも」
(もしそんな、本当に人の感情を技術で操れるんだったら)
(対象とするべきは、むしろ………)
(人間、そのものだ)
(艦娘じゃなくて一般人を、片っ端から洗脳してしまえばいいんだ)
(大本営に逆らえなくなるように、全員まとめて…)
(艦娘反対派の奴らが言うとおり)
(大本営に、全国から女性を拉致して艦娘に仕立て上げるくらいの力があるなら、それができないとは言い切れない)
(そうすれば…そうしておけば…)
(あんなクソみてぇな反対集団の奴らもみんな…いなくなる)
(…如月だって、今よりマシな人生を送れた)
(でも、大本営はそれをしなかった。できるのなら、そうしていたはずなのに)
(それが、『大本営による洗脳説』を否定できる、不可逆の証拠になる)
(でも、そうだとしたら………)
提督「………」
友提督「おい、大丈夫か」
提督「………」
提督「艦娘がどうして人の身体を持っているのか」
提督「どうして若い女性の姿をして…しなければいけなかったのか」
提督「どうして艦娘は」
提督「艦『娘』なんだ?」
提督「どうして男じゃ駄目だったんだ?」
提督「どうしてただの兵器じゃ駄目だったんだ?」
提督「どうして若い女性なんだ?」
提督「どうして」
提督「みんな」
提督「好きだから、なんて、言うんだよ」
友提督「その話を俺にしてどうしたいんだよ」
提督「わからねぇ。わからねぇけど」
提督「自分だけで考えてたらどうにかなっちまいそうだったから」
友提督「納得できないのか。自分が好かれているって事が」
友提督「根本はそこだろ?」
提督「………」
提督「納得できない」
提督「…何か」
提督「怖い。怖いんだよ」
友提督「怖い?好かれている事が?」
提督「求められている事が」
提督「わからねぇんだよ。あいつらが何を考えているか」
「何で」
「何で俺なんだ?」
「何で俺を選んだ?」
「何であいつらは俺を選んだんだ?」
「何で俺について来ているんだ?」
「何で俺じゃなきゃ駄目なんだ?」
「俺が」
「俺が何をした?」
「何を考えても」
「何を聞いても」
「わからねぇ」
「納得できねぇ」
「何がどうなってるんだよ」
「誰か」
「誰か説明してくれよ」
☆デデデン!(今回はここまでです)☆
最近色々賑わせるアレやコレがありますが、
今回触れた艦娘とは何かという所は真面目に考えたので例えどれだけ時間がかかってでも書ききりたいです。
>>1です。
明日頑張って投下する予定なので、落ちないように報告だけしておきます
>>1です。
早速ですが投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
伊8「艤肢の調子はどうなの?」
伊58「ちょっと冷たいけど、何だか本当に手足が戻ってきたみたいでち」
伊58「ほら、こうやって動く」グイグイ
伊8「ミレニアム社製艤装のサブアームを削って接続軸付けたんだっけ?」
伊8「明石が資料のコピーを何度も見返してたよ。こんなの見た事ないって」
伊8「この技術を応用すれば医療も大幅に進歩するかもしれないって」
伊58「ゴッ……」
伊58「…ゴーヤは、よくわからないでち」
伊401「提督も、こっちの明石も、その辺の事に関心が無いみたい。もったいないよね」
伊8「ふぅん…」
伊8「………」
如月「」パラパラ
如月「」カリカリカリカリカリカリカリカリ
伊8「ゴーヤ」
伊58「?」
伊8「ゴーヤ」
伊8「ゴーヤ…まだ、聞き慣れない?」
伊58「え?」
伊8「さっき呼んだ時、ユーに言われるまで自分が呼ばれてるって気付いていなかったよね」
伊8「今だって、ゴッパって、言いかけた」
伊8「…前いた鎮守府のせいだよね。それ」
伊58「………」
伊58「今でも、夢に見るよ。あの鎮守府での事は」
伊58「夢でじゃなくても、いきなり頭の中から沸いてくる」
伊58「船着場、執務室、工廠…見るたびに思い出して」
伊58「思い出すたびに、その度に、腕と足が痛むの」
U-511「でっち…」
伊58「今だって…本当は」
伊58「如月の事だって、怖い」
如月「」ピクッ
伊8「………ゴーヤ」
伊8「その鎮守府で、何があったの?」
伊58「………」
伊8「オリョールクルージングの事は私も知ってる」
伊8「全国の鎮守府で、今でも有効な戦略として成り立っているって」
伊8「潜水艦娘達が、潜水艦娘達だけが、過剰な労働を強いられている事も」
伊8「でも、海域に出て戦うのは他の艦娘も一緒。なのにこんな事になったのはゴーヤだけ」
伊8「もっと酷い、何かが、あったんでしょ?」
伊8「爆弾付けられるなんて普通じゃないよ」
伊8「その鎮守府で、一体何があったの?」
伊58「………」
如月「」パタン
如月「私、席外したほうがいいかしら?」
如月「…それとも、聞いてた方がいい?」
伊58「………」
如月「どんな事を言われても、酷い事を言わないし、したりもしないわ」
伊58「………じゃあ、聞いてて」
如月「うん」
伊58「あの鎮守府は…」
伊58「あの鎮守府は、ゴーヤ達にとって」
「地獄でしかなかった」
「資源を集めるっていう為だけに、ゴーヤ達は毎日ずぅっと、あのオリョールにいたでち」
「深海棲艦の爆雷を潜り抜けて、海に浮かぶ油を回収して、資材を積み込んで、それを無くさないように慎重かつ迅速に戻る」
「資源を鎮守府に置いたらまたすぐオリョールに出撃して、また資源を持っていくんでち」
「途中で爆雷に当たって資源が台無しになったら懲罰されたでち」
「酷い時は帰還も許されずに、そのまま沈んだ子もいたし」
「帰ってきた後に爆雷演習の標的代わりにされて殺された子もいた」
「そうじゃなくても、その後に待っているのは、酷い懲罰でち」
「着任したての新人はまず真っ先にレイプされた。何もしてなくてもね」
「その後は、ネジを口に突っ込まれて殴られたり、蹴られたり」
「修復剤使えばすぐ治るからって言って骨を折られた事もあったでち」
「犯されながら何度も何度も顔を殴られたり、本気で首を絞められたりもした」
「…そこで、死んだ子もいた」
「大本営からの支給品は全部持っていかれた」
「酒保なんてのも使えない。トイレの水がゴッパ達の飲み水だったでち」
「鎮守府の艦娘からも、色々されたでち」
「演習で負けたからとか」
「遠征で失敗したからとか」
「提督から夜のお誘いが無かったからとか」
「その度にゴッパ達は殴られたでち」
「理由が無くても、通りがかっただけで蹴りを入れられたこともあったでち」
「それで死んだ子もいた。でも提督は何もしなかったでち」
「提督から散々懲罰受けた後に、避妊だって言ってアソコにメントスとコーラを突っ込まれたりもした」
如月「………!!」
U-511「めんとす?」
伊8(お菓子の名前だよ。これくらいの粒みたいなお菓子なんだけど)
伊8(コーラのボトルにメントス入れると、中身が膨張してペットボトルが爆発するの)
伊8(それを、身体の中でやった)
U-511「ひっ…!!」
伊401「………誰か助けは、呼べなかったの?戦艦とか、空母の人達とか…」
伊58「いたよ」
伊58「あの鎮守府は、駆逐艦娘ばかり…いても、軽巡洋艦娘だから、もしかしたらと思って助けを求めた事があったでち」
伊58「…日向さんに」
U-511「日向…伊勢型戦艦娘二番艦?航空戦艦娘の一人?」
伊58「あの鎮守府の『対潜要員として』着任したんだけど、着任したてだったから戦艦だったでち」
伊58「でも、駆逐艦娘とか軽巡洋艦娘よりずっと強い火力と装甲を持った艦娘でち」
伊58「だから、もしかしたら何とかしてくれるかもと思って、助けを求めたんでち」
伊58「提督に気付かれないように、みんなで事情を説明して、土下座して、何でもするって言って…」
U-511「それで日向さんは、どうしたの?」
伊58「わかってくれた。何とかするって、言ってくれた」
如月 (…けど)
伊58「…けど」
如月 (駄目だった)
伊58「駄目だった…!!」
☆明日また投下します☆
ハロウィンままゆで天井突き抜けました^^
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
日向「ぐっ!!」バシャッ
長門「どうした。もう終わりか悪党」
日向「悪党?悪党だって?」
長門「か弱い駆逐艦娘を襲う奴が悪党以外の何だと言うんだ」
日向「潜水艦娘を奴隷のように扱う事が悪でなければ何だと言うんだ」
長門「ふん」
長門「お前は道理を知らないと見える」
日向「?」
長門「その昔、とある偉人がこう言った」
長門「かわいいは、正義だ!!!!!!」
長門「かわいい暁たん達朝潮たん達を狙う貴様に、正義などあってたまるか!!」
長門「そして!!」
長門「駆逐艦娘たんの為ならこの長門」
長門「例え火の中水の中巨大な光の中、朝潮たんのスカートの中だろうと駆けつける!!」
長門「それが!!」
長門「連合艦隊旗艦!!ビッグセブン!!長門型戦艦一番艦の!誇りだ!!!」
長門「この戦艦長門がいる限り!駆逐艦娘たんには傷一つ付けさせん!!!」
日向「……………」
Bep「хорошо(ハラショー)」
雷「長門さんありがとう!怖かったの!!」ギュッ
長門「おっほおっぱい!!ふくらみおっぱい!!」
電「長門さん凄いのです!電尊敬しちゃいます!」
電「大きくなったら長門さんみたいになりたいのです!」
Bep「хорошо(ハラショー)」
長門「おぉーん!電たんかわいいでちゅねぇー!!」ギュッ
長門「でも電たんにはそのままでいてほしいでちゅぅー!!」
電「やっぱりキモいのです。離してほしいのです」
長門「自分に正直な電たんもかわいいでちゅねぇええええー!!!」
Bep「хорошо(ハラショー)」
日向「っははっ…ははは…」
日向「同じ、艦娘同士で…こんな事で…あんな、くだらない理由で…」
日向「何をやっているんだろうな…私達は…」
日向「………」
日向「それでも…私は、筋を通さないとな…」
長門「さて、決着を付けよう」
夕張「さぁみんな!いつものアレいくわよ!!」
夕張「せぇー!!の!!!!」
「「「「「「ビッグセブン!!!!」」」」」」
「「「「「「ファイナルステェエエーーーーーーージ!!!!!」」」」」」
伊168弐「………!!!」
伊168弐「日向さん!逃げ…逃げて!!」
伊168弐「もういい!もういいからぁ!!」
日向「いや…機関部がやられている。『ストッパー』もさっきので止まった」
日向「もう…私は逃げられない」
伊168弐「………!!!」
日向「それよりも君達は早く逃げろ。みんな私に注目している。今なら逃げられるかもしれない」
U-511弐「で、でも………」
日向「それくらいの事はやらせて」
日向「逃げられれば、この状況から逃げられれば、それだけで違うはずだから」
伊168弐「………わかり、ました。ごめんなさい…」
日向「その代わり、君達は生きるんだ」
日向「私の分まで、生きてくれ」
伊8弐「………はい」
長門「戦艦長門の名において、お前を断罪する!!」ガシャンガシャンガシャン
日向「さぁ、行け!」
伊58「………行くよ、新入り!!」グイッ
U-511弐「………!!」グァッ
長門「 全 主 砲 ! ! 」
長門「 斉 射 ! ! ! 」
長門「てェーーーーーーーーーッ!!!!!」
ズドォォン!!!
日向「がッ」
「………あ………」
「あの世とやらを…」
「こんな形で」
「見に行く事になるなんてな…」
「でも…」
「誰かを守って、死ぬんだ…」
「伊勢…」
「許して」
「くれるよ、な…?」
伊8弐「日向…さん…」
Bep「хорошо(ハラショー)。完全に仕留めたみたいだ」
伊168弐「日向さぁあん………!!!」
U-511弐「……!!………!!!」
伊58「止まるな…!止まるんじゃないでちよ新入り…!!」
伊58「逃げられれば…逃げられれば!!」
伊58「ここで逃げなきゃ、日向さんの頑張りが全部!!!」
その瞬間、彼女達のすぐ傍から爆音が響き、それに押された海水が彼女達に襲い掛かった。
激しく震えながら襲い掛かる水圧に耐え、その爆心地を見た彼女達が見たものは
血を流して漂う、新入り
U-511の姿だった。
青く、黒い海が赤黒く染まっていく。
その中で彼女の左腕だったものが、漂っている。
爆発が起こる。
爆発が起こる。
爆発が起こる。
そして、爆発が起こる。
潜水艦娘達の目の前で、新入り、U-511は沈んで行く。
腕と、脚と、胴体を置き去りにして。
やがてそれらも、海底へと先行する頭部に引っ張られるかのように、流れる血液というガイドビーコンに従い、ゆっくりと沈んでいった。
深く、黒く、暗い、海の底へと。
伊168弐「な…何が…?」
伊168弐「何で…!?」
伊168弐「何が!どうなってるのよこれはぁ!?!?」
夕張「脱走対策くらい考えてあるに決まってるじゃん」
夕張「昔の映画を参考に明石と共同で作った、名付けてヌカヌカカナル君2号!」
夕張「そう!両手両脚、首についているそれ!」
夕張「それはね」
夕張「こっちの遠隔操作でいつでも爆破する事ができるのよ!!」
夕張「凄いでしょう!?」
夕張「今回みたいにこっちに逆らおうとした時とか、脱走しようとした時」
夕張「いつでも!その装置を爆破して吹き飛ばせるのよ!!」
Bep「хорошо(ハラショー)」
夕張「まぁ今まで一回も使った事無かったけど」
夕張「動作テストも上手くいったみたいで、よかったわ!!」ニッコリ
夕張「さて、と」
夕張「 次 は 」
夕張「 誰 が ダ ル マ に さ れ た い ? 」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
伊58「何にもならなかった…!何も、できなかった…!」
伊58「よその鎮守府から来た長門型に日向さんがやられて…!!」
伊58「日向さんがゴッパ達の目の前で沈んで…」
伊58「それでも日向さんは、ゴッパ達を逃がしてくれた」
伊58「でも新人が…ユーが!!」
U-511「!?」ビクッ
伊58「ゴッパみたいに!!両手両脚吹き飛ばされて!!」
伊58「首に付いてた爆弾も…爆発して…!!」
伊58「ゴッパ達は、何にもできなかった…動けなくなった!!」
伊58「逃げるのも、戦う事もできなくなって、ただ海の中で震えていただけ…!!」
伊58「逃げて、生きていくなんて無理だったんでちよ!」
伊58「ゴッパは、ゴッパ達は、鎮守府の汚点なんだから!」
伊58「みんな!みんな!そう言ってたんだから!!!」
U-511「………」
伊58「あの日だって」
伊58「ゴッパだって、本当は逃げようと思ったわけじゃないんでち」
伊58「一人でオリョールに出撃させられて」
伊58「ふと遠くの景色が目に入った時」
伊58「ここから離れたら、もしかしたらあの日常が終わるかもってちょっと思って…」
伊58「気が付いたら…海域から離れてて…」
伊58「手と、足が…!!!」
伊58「うっ…うぅうう…!!」ポロポロ
U-511「………」
U-511「でも」
U-511「でっちは、今のでっちはでっちだよ!」
伊58「!」
U-511「ゴッパなんて、気持ち悪い名前はもういらないの!」
U-511「でっちはでっち!ゴッパじゃない!」
伊401「っそうだよ、ゴーヤはゴーヤだよ」
伊58「…でっちでもゴーヤでもないでち」
伊58「ゴッパは、どうせゴッパなんでち」
伊58「艤肢(これ)を見る度に、思い出すんでち」
伊58「何で、こうなったのか、どうして、あんな痛い思いをしなきゃいけなかったのか」
伊58「ゴッパがゴッパだったから、こうなったんでち」
伊58「ゴッパの本当の手足は戻ってこない」
伊58「だから、ゴッパはゴッパとして生きていくしか、ないんでち」
伊58「ゴッパはでっちにもゴーヤにもなれない」
伊58「ずぅっと、ゴッパなんでち」
如月「そんなもの」
如月「もう終わった話じゃない」
U-511「!?」
伊401「如月ちゃん」
如月「ゴーヤちゃん。さっき、私の事が怖いって言ってたわね」
如月「それも、ゴーヤちゃんがゴッパにしかなれない原因の一つ?」
如月「ゴッパが如月に酷い目に遭わされてきたから、同じ如月型の私も怖いのよね?」
伊58「…」
如月「じゃあ、ゴーヤちゃんに知っておいてもらいたい事があるわ」
如月「その如月は」
如月「 も う 死 ん で い る わ 」
如月「だからもう二度と、ゴーヤちゃんの目の前に現れない」
如月「その人はもう、『終わった人間』。『死んだ人間』なのよ」
伊58「…何で、そんな事がわかるんでちか」
如月「『如月だから』よ」
如月「少なくとも『如月は』、『如月だけは』、もうこの世にはいない」
如月「ゴーヤちゃんの話を聞いて、確信したわ」
如月「この髪に、賭けてもいい」
如月「司令官がいつも褒めて撫でてくれる、私の、大切なこの髪に賭けてもいい」
伊58「………」
如月「その如月は死んだわ」
如月「だから、ゴッパを、ゴーヤちゃんを虐める如月はもう二度とこの世に現れない」
如月「私は、今の如月は絶対にゴーヤちゃんに酷い事はしない」
如月「どんな時だって、ゴーヤちゃんの味方でいたい」
如月「だから」
如月「如月を怖いなんて思わないで」
如月「私は、絶対にそんな事をしないから」
如月「もう、ゴッパの嫌な記憶も価値観も、全部消して」ガシッ
如月「………」
伊58「………」
伊8(え?)
U-511(如月の手、光ってる?)
伊58「…如月も」
伊58「酷い目に遭った事が、あるんでちか?」
如月「えぇ。まぁね」
如月「私達はもう二度と、昔のようには生きられない」
如月「手足も、生きる権利も、戻ってこない」
如月「やり直そうとしても、身体が、他人が、それを許さない」
如月「忘れようとしても、身体が、他人が、それを絶対に許さない」
如月「私達は、昔や過去にすがって生きる事はできないわ」
如月「昔のように、とか、気持ちをリセットして、なんて生き方はできないわ」
如月「それを許してくれるほど、社会っていうものは寛容じゃないの」
如月「でも、だからこそ」
如月「過去に戻れないなら、過去にすがれないのなら、私はせめて明日が欲しい」
如月「明日に繋がる今日を精一杯生きて、生きて、生きて、生き続ける」
如月「だから、だから如月は、その為だけに頑張るの」
如月「ゴーヤちゃんにも、そうであって欲しい」
如月「そうしないと」
如月「私は、今日にでも殺人趣味の変態達に殺される」
如月「ゴーヤちゃんは、死ぬまで人間以下の奴隷や家畜よ」
如月「私達は、似たもの同士だから。わかるのよ」
如月「私達が生きるっていうのは、懸命に明日を求める事だって」
如月「この先の人生ずっと、血でべっとりしている道しかなくてもね」
如月「司令官から、生きろって言われたんでしょう?」
如月「だったら、生きなさい」
如月「過去なんて『無かった事』にして。無かった事にできなくても、無理矢理自分をごまかしてでも」
如月「明日に繋がる今日だけを見て、生きていきなさい」
如月「それを」
如月「私も、しおいちゃんもハチさんも、ユーちゃんも、司令官も」
如月「みんな、望んでいるんだから」
☆今回はここまでです☆
>>1です。
レイテ前編イベントが近付いてきましたね。
新機能の遊撃艦隊というのも、どういう感じで動くのか楽しみです。
それでは投下を始めさせて頂きます。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
提督「間宮さん。ご馳走様でした!」
間宮「はい。お粗末さまでした」
提督「いやほんといつもありがとうございます」
提督「ぶっちゃけ間宮さんの料理食べるってのも、ここ来る目的の一つになってますよ」
間宮「ふふっ…伊良子ちゃんじゃ不足でしたか?」
提督「いやいや!伊良子ちゃんの料理も毎日楽しみにしてますよ?」ブンブン
提督「でもね、何だろう…こう、もう好みの差?とかそんな微妙な違いがありましてね」
提督「すっげぇー食いたくなる時があるんですよね。間宮さんの料理」
間宮「好みの差、ですか」
提督「いや…んー…何なんだろうなぁ…あの違い…」
間宮「それ、伊良子ちゃんの前では言わないで下さいね?あの子ショック受けちゃいますから」
間宮「ただでさえ、どうしても勝てない人がいるって悩んでるみたいなんですし」
提督「勝てない人?」
間宮「足柄さん」
提督「あぁ~…でもあいつ揚げ物とカレー特化だからなぁ…」
提督「足柄が作ったカツをね、カレーに乗せて食べるんですよ」
提督「それがすっっっっっっっっっっっっげぇーうまくて!」
提督「下手したら三食全部あいつのカツカレーでもいいかもって思っちゃったり…」デヘヘ
間宮「へぇ…」
提督「…あ、すいません。間宮さんにこんな話しちゃって」
間宮「いえ。でもその様子だと、伊良子ちゃんが提督さんの胃袋を掴むのはまだまだ先みたいですね」
提督「もう7割位は掴まれてるんですけどねぇ。最後の砦が、堅すぎて…」
間宮「あぁ、そうだ!今度そちらに遊びに行ってもいいですか?私も足柄さんのカレー食べてみたくなりました」
提督「あぁいいっすよ。じゃあ足柄にも伝えておきます」
提督「あの間宮さんを動かしたと知ったらあいつめっちゃ喜びますよ!」
提督「こりゃあいいお土産話ができた」ニシシ
間宮「ふふっ」
提督「へへへっ」
提督「…じゃ、その話はその時にまた!」スッ
間宮「はい。楽しみにしてますね」
提督「ご馳走様でした!」ペコリ
伊401「提督おそいー」
提督「わりー。話し込んじゃった」パタパタパタパタ
友提督「間宮と何の話してたんだ?」
提督「カレーの話。それで今度間宮さんがうちに来たいって」
提督「だからさー。余裕のある時でいいから間宮さんに許可出してくれね?」
友提督「わかったわかった。許可出す時にそっちに連絡入れるからな」
提督「サンキュー」
友提督「でだ。これ部屋の鍵な」チャラ
提督「おう」
提督「それじゃあ、こっちはしおい頼む」
伊401「はーい」
提督「明日の予定は朝食食べて俺は午前中演習の見学、で昼飯食べて1300にはみんなここを出る」
提督「しおい達は午前中自由だけど、総員起こしでちゃんと起きてな」
伊401「はーい」
如月「…」
友提督「如月…汚すなよ?」
伊401「よ、汚すぅ!?」
如月「な、何で名指しで言われたのかしら?」
友提督「だって、お前と提督が同じ部屋って聞いたから」
友提督「…するなよ?絶対にするなよ?」ジトッ
如月「…秘書艦としてのお勤め」ボソッ
提督「それはまた今度な」ポン
提督「シーツ洗濯する子の気持ちを考えると…ねぇ」(友達にそれ洗わせるって流石にヤベーよ)
友提督(また今度つった)
伊401(また今度はするんだ…)
如月「…」
提督「じゃあまた明日なみんな」ヒラヒラ
伊401「おやすみなさい」
U-511「Gute Nacht」
ツカツカツカ
如月「…」ギュッ
提督「どうしたよ」
如月「早く、お部屋に行きましょう」
提督「そうだなぁ。流石に遊び疲れちまったよぉー早く寝たい」
提督「そっちはどうだった?勉強進んだ?」
如月「えぇ…」
提督「ほんと、どうしたんだよ。大丈夫か?」
如月「…ちょっとね。でも大丈夫だから、早く行きましょう」
提督「わかった。じゃあ部屋でゆっくり教えてくれ」
如月「…」スッ
提督「」ギュッ
提督「ちょっと早歩きでいくぞ」ツカツカ
如月「うん」ツカツカ
提督「…うし、ここだな」ザリ
扉「アオオー」ガチャ
バタン
提督「ふぅー」
如月「…ふぅ」
如月「………」
提督「…で、どうし」
如月「」ガバッ
提督「わっ」
如月「司令官」
提督「おい…」
如月「司令官、司令官…」
提督「んっ…汚すなって、言われたろ」
如月「思い出しちゃったの。嫌な事」
提督「………」
如月「ゴーヤちゃんの昔の話を聞いて、ゴーヤちゃんを元気付けなきゃって思って言ったんだけど」
提督(ゴーヤの、前の鎮守府の話を聞いたのか)
如月「私も、余計な事まで思い出しちゃった」
如月「割り切れって言ったのに、忘れろって言ったのに、私も、どうしても忘れられない」
如月「何度思い出しても、苦しくなるだけなのにね」
提督「………」
如月「だから司令官に、嫌な事を忘れさせてほしいの」
如月「いつもより、もっと、如月をぐちゃぐちゃにしてほしいの」
如月「思い出せなくしてほしいの」
如月「お願い司令官」
如月「如月を抱いてください」
提督「………」
如月「お願い…」
提督「この部屋は、シャワールームがある。あそこなら汚れても流れていくだろ」
提督「ちょっと我慢できるか」
如月「…うん」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
ふと目が覚める。
天井に一つだけ埋め込まれた、星のような僅かな光以外は暗くて何も見えない暗闇の中目が覚める。
首を動かして電子時計の時刻を見たところ、総員起こしの時間までまだ4時間以上の猶予があるようだ。
またやっちまったか。そう思いながら提督は左腕から感じる重さと温もりに視線を移した。
如月の頭と頬が彼の肌にべったりとくっついている。
普段なら布で遮られ触れられない場所まで、彼の脇腹や脚にべったりとくっついている。
如月の足の付け根と彼の身体が歯車のように噛み合っているのが彼にはわかった。視線を移さなくても、感触でわかった。
その重さと柔らかさと温もりは、二人の心に一種の安心感をもたらしていたものだ。
肌が擦り合わされる、その摩擦の感触すら愛おしい、彼女の身体をゆっくりと剥がしていく。
一定の間隔で寝息を繰り返す彼女の頭の下にそっと枕を置いて、提督は持ってきていた部屋着に身を包んだ。
あらゆる意味で無防備な如月の方を振り返り、頭を撫でる。
さら、と滑る感触。その感触を楽しんでいた時に浮かべた如月の笑顔を思い出す。
思わず身体に手を伸ばそうとした意識を強引に押さえ、扉に向き直る。
提督はゆっくりと、なるべく音を立てないように扉を開けて外に出た。
ドアノブを引きながら、もう片手でゆっくりと扉を押す。
小さくゆっくりと、がちゃと扉が閉まる音がしたのを確認した後、提督は特別鎮守府の地図を頭の中でイメージしながら廊下を歩き始めた。
次のエリアまであと3秒という所で頭の中のイメージを地図から最寄の自動販売機の陳列に切り替える。
ファンタかココアか。一瞬考えすぐにココアを選択する。そしてノンストップで廊下を出て次のエリアに足を踏み入れた。
しかし彼は、自動販売機に行く前に足を止めた。
彼が知る人物が3人、そのエリアの椅子に座っているのを見たからだ。
「しおい」
「ユー」
「ゴーヤ」
大きな声を出さないよう、少し小さな声で呼びかける。
静まり返った深夜の鎮守府の中、小さな声は確かに彼女達の耳に入った。
「Admiral」
それに対して、U-511が誰よりも早く返事をした。
提督「眠れなかった?」
伊58「うん」
提督「…怖かった?」
伊58「…うん」
伊58「ここは…前の鎮守府を、思い出すから」
提督「そっか」
提督「ごめんな。連れて来なきゃよかったかな?」
伊58「そんな事無いよ。ハチとも会えたんだし」
提督「それならいいんだけどさ…」
U-511「Admiralは一人なの?」
提督「ん。うん。如月は寝てる」
提督「俺はその、たまに起きちゃうんだよね。このぐらいの時間で」
提督「部屋にいて如月起こしちゃうのもアレだから出てきちゃった」
提督「しばらく一緒にいてもいい?」
伊401「うん。いいですよ」
提督「ユーとゴーヤは?」
U-511「うん」
伊58「」コクリ
提督「ありがと」
提督「………」
U-511「………」
U-511「Admiral」
提督「ん」
U-511「ごめんなさい」
U-511「ユー、Admiralを怒らせちゃったんだよね」
提督「え、いつ?」
U-511「こないだ、みんなで集まった時」
提督「…あぁ~…あの時の事?こっちの明石さん呼んで集まった時の」
提督「それ、俺の方こそ謝らなきゃいけないよな」
提督「ユーは全然関係無いのに、イライラしてユーに当たっちまって。ごめん」
U-511「いいよ。ユーは、気にしてないから」
伊401「でもどうしてあんな事言っちゃったんですか?」
U-511「しおい」
伊401「変な言い方だけど、普通じゃなかったよ。あの時の提督」
提督「色々あったんだよ。色々」
伊401「色々って」
伊401「それ、私達が知っちゃいけない事?」
提督「そういう訳じゃ、ないけど」
伊401「じゃあ教えて」
提督「胸糞の悪い話だよ」
伊401「いいから」
提督「わかったよ。でも眠れなくなっても知らないよ」
伊401「大丈夫だよ」
伊401「胸糞の悪い話なら、お昼にも聞いたから」
伊58「………」
提督「………そっか」
提督「何か、飲み物買ってくる。その間に覚悟決めておいて」
提督「何がいい?」
U-511「お水」
伊401「ファンタ」
伊58「…えっと…」
提督「…ココアでいいか?俺のお勧め」
伊58「じゃあそれで」
提督「了解」
U-511「………しおい、本当に聞くの?」
伊401「ユーは知りたくない?私は知りたいよ、提督の事」
伊401「どんな事でも」
U-511「どんな事でも?」
伊401「うん…だって、悔しいんだもん」
伊401「今日一緒にいてわかった。如月ちゃんとか、ずっと傍にいて提督の事わかってるって顔されると、凄い悔しい」
伊401「だから私も、提督の事もっともっと知って、秘書艦になってやるって…決めたんだ」
U-511「Admiralの事を知ると秘書艦になれるの?」
伊401「そうだよ!秘書艦ってのは艤装の性能で左右されない『提督のお気に入り』なんだから」(他の鎮守府だって駆逐艦娘が秘書艦やってるなんて普通にあるし!)
伊401「それって提督の事何でも知ってるくらいの仲になれば、秘書艦になれるって事だよ!」
U-511「って事は」
U-511「那珂ちゃんと羽黒さんと赤城さんと如月ちゃんは」
U-511「Admiralの事、何でも知ってるの?」
伊401「………」ヒクッ
伊401「ゴーヤは知りたくない?提督の事」
伊58「え、ゴーヤは…提督の事」
伊58(見ず知らずだったゴーヤと一緒に、死んでくれるって言った時)
伊58(提督の顔は、笑っていた)
伊58(まるで)
伊58(それをずっと望んでいたかのように)
伊58(泣きながら笑っていた)
伊58(…知りたい。何があったのか知りたい)
伊58(提督の事を、もっと知りたい)
伊58(ふざけてる提督の事も、あの時の笑っていた提督の事も)
伊58(もっと知りたい。知って、知って、ゴーヤは…)
提督「おまたせー」
提督「いろはすとファンタグレープとココアー」
U-511「提督、それ」
提督「これはお酒。だから飲ませねぇぞ未成年達よ」
伊401「飲まないよ。でも珍しいね。お酒いつも飲まないでしょ」
提督「たまに飲みたくなるんだよねぇ」
提督「言うても、隼鷹とかからすりゃジュースみてぇなもんらしいけどなこれ」ブシュゥ!
提督「ほい。んじゃ。乾杯」スッ
伊401「乾杯」
伊58「乾杯」
U-511「え…えっと…Prosit?」
提督「プロージット!いいね。でも叩き付けるなよ」
U-511「え…叩き付ける…?」
提督「プロージットって、グラスを叩き付けるイメージがあるんだけど」
U-511「しないよ」
提督「しないのかぁ…」
提督「………」ゴクッ
「…あん時言った事は俺の本音だ」
「俺は」
「人間ってもんが大嫌いだ」
☆今回はここまでです☆
ソニックフォースを2日でクリアしてしまった。
>>1です。仕事とイベントに時間とられててまだかかりそうなので生存報告だけ…
>>1です。イベントお疲れ様でした。
ドロップには恵まれませんでしたが、全海域クリアできました。
早速ですが投下を始めさせて頂きます。
伊401「………」
提督「人間ってもんをさ、考えれば考えるほど訳がわからなくなるんだ」
提督「色々考えてきたつもりでいたけど、もう俺にはよくわからねぇ」
提督「ただ一つ確信した事は」
「人は皆」
「悪魔だって事だ」
提督「昼の、車の中で見かけた奴ら、居たろ」
伊401「あぁ…うん。あの轟沈轟沈言ってた人達」
提督「艦娘反対集団SEALD。艦豚特権を許さない地球市民の会」
U-511「かん、ぶた…?」
提督「艦娘と俺みたいな提督の事だよ」
提督「あいつらにとって俺達は豚なんだよ。人間じゃない」
提督「だから平気で如月を殺せる」
伊401「殺…っ!?はぁっ!?」
提督「あいつらは休暇で街に出た如月型艦娘を見つけては殺しているんだ」
提督「もしかしたら、今じゃ他の艦娘も殺してるかもしれないけどな」
U-511「何で、そんな事」
提督「テレビ番組見た事ない?ちょっと前にやってた、艦娘のドキュメンタリー番組」
提督「あれで、如月型の艦娘が轟沈したんだ」
提督「テレビで放送したから、殺していい。そういう論理」
伊401「何それ…」
伊401「そんなの、そんな論理通るわけないじゃん!!」
伊401「そんなの、元々艦娘(私達)が嫌いで!殺してやりたいって思ってたからやってるだけに決まってるじゃん!!」
伊401「テレビで、そうだったから殺すなんて、普通しない」
提督「だろうね。普通しないさ」
提督「でもしたんだよ」
「そいつらも」
「他の提督も」
「そのテレビ番組を作った奴らも」
「みんなやった」
「元々あの番組自体が工作だったんだ」
「深海棲艦の脅威が知られるようになって、艦娘の功績が認められるようになって」
「それが嫌だと思った連中が艦娘のイメージダウンで作成した番組。それがあのテレビ番組だった」
「如月が死んだのだって、艤装に工作してストッパーを外していたせい」
「全部何もかも、でっち上げの工作だったんだ」
「なのに、みんなそれを鵜呑みにして如月を殺した」
「提督も、反対派の連中も、一緒になって如月を殺していった」
U-511「で、でも、Admiralはしなかったんだよね?」
U-511「泊地に、如月、いるよね?」
提督「うん。俺はしなかった。絶対にするもんかって心に決めていた」
提督「うちの泊地で、如月を秘書艦に置いたのはその辺りからだ」
提督「せめて少しでも、傍にいてやらなきゃいけないって。そう思って、怖かったから」
提督「でも俺は、一番肝心な時に何もできなかったんだ」
提督「あの番組が放送した後すぐに、俺は上司にハメられて横須賀まで行かされた」
提督「そこでその番組の本当の事を知って、友提督に助けてもらって、殺されかけて、やっとの思いで帰って」
提督「泊地に帰って来た時、あの子はもうボロボロだった」
提督「もう既に手遅れだったんだ」
伊401「手遅れって、如月ちゃんは今だってここに!」
提督「心はもう手遅れだよ」
提督「あの子は、依存症なんだ」
提督「結局部屋に戻った時にやっちまった」
伊401「………まさか?」
提督「うん」
伊401「…!…!…!!!」
提督「下心は確かにあったさ。でも俺は、如月の心が晴れて欲しいと思ったんだ」
提督「でも、あの子の欲求はどんどんどんどん膨れ上がっていった」
提督「いや、あれは欲求じゃない。逃げだ。感情を処理しきれなくなって、俺のベッドに潜り込む」
提督「…完全に、歪んじまった。壊れちまった。病んじまった」
提督「曙さんが教えてくれた」
提督「如月には、もうセックス以外に自分の心を癒す方法が無いんだ」
提督「その為だったらあいつは」
提督「泊地の友達も、特別鎮守府の友達も、捨てる」
「気持ちはわからなくはないよ」
「もうどうしようもない悪意を一斉に向けられて、それから逃げるにはそうする以外に思い付かなかったんだ」
「あのクソどもが、あとちょっとでも誰かを思いやる気持ちがあったら」
「あんなクソ番組をさっさと切り捨てて偏見を捨てる優しさがあったら」
「如月はあんな思いをしなくて済んだんだ」
「あとちょっと」
「あとちょっとでも」
「みんなに誰かを思いやる気持ちがあったら」
「如月はあんな辛い思いをしなかったはずなんだ」
「だけどそうならなかった」
「だから、如月は壊れた」
「みんな如月を殺した」
「みんな如月を深海棲艦扱いした」
「俺が一緒にいる時にも言われた事があるよ」
「『お前の如月にはいつ角が生えてくるんだ』って」
「特務提督も」
「艦娘も」
「街の奴等も」
「みんなそうだった」
「どうでもいい命だって吐き捨てて、如月を見下して、殺した」
「おかしいよな?」
「艦娘が嫌いだって言ってる奴が如月を殺して」
「みんなを守りたいとかぬかす奴も如月を殺すんだ」
「何でそうなると思う?」
「簡単な話」
「どいつもこいつも、正義だ何だなんてのは綺麗事の建前でしかねぇんだよ」
「どいつもこいつも、心の底じゃ他人を否定したくてしたくてしょうがねぇんだ」
「どいつもこいつも、人を否定したくて、人を殺したくてたまらねぇんだ」
「そうやって、優越感に浸るのが、人間っていう生物なんだ」
「だから殺す」
「だから如月を殺した」
「だからユダヤを殺した」
「だから黒人を殺した」
「だから奴隷制度なんてもんがある」
「だからカーストなんてもんがある」
「だからお前(伊58)が!こんな姿になった!!」
真っ直ぐ目を見開いて自分を見つめる提督に対し、伊58は縮こまり自分の腕をもう片方の腕で掴んだ。
こつん、と金属がぶつかる音が響く。僅かに残った生身の二の腕に伝わる感覚以外の何物も感じなかった。
伊58が動かした腕は作り物の艤手であり、掴んだ腕も作り物の艤手だからだ。
もう二度と、伊58の指は感触を覚える事はない。
もう二度と、伊58の手は暖かくなることはない。
彼女の腕も脚も、心無い者達による虐待と仕置きによって永遠に失われたのだから。
「だから俺は人間が嫌いだ」
「どいつもこいつも、正義面で酷ぇ真似ばかりしやがって」
「その正しさを、自分達以外の誰かが証明してくれてるわけでもねぇのに」
「そんな証明を知る事すらできるわけねぇのに」
「まるで自分が正しいと」
「正しいから何でもしていいと」
「酷い真似ばかりしていく」
「数えだして2000年も経っているのに」
「人間ってのは、ずぅっと、ずぅ~~っと、他人に残酷な事ばかりしていく」
「もううんざりだ」
「人間なんて皆死んじまえばいい」
提督「こんな腐った世界、さっさと無くなっちまった方がいいんじゃないかって何度も考えている」
提督「深海棲艦も、そう考えて産まれて来たんじゃないかって思ったりもしてる」
提督「『人間なんてクソみてぇな生き物皆殺しにした方が地球の為だ』、ってな」
提督「もしそうなら、向こうの言い分にも一理あると思う。つーかむしろ喜んで手伝ってやる」
U-511「Admiral…」
提督「でも」
提督「そのせいで俺の周りの誰かに死んでほしくはないとも思うんだ」
「みんなで安全地帯に立ちながら、死んでいく世界を指差して笑い飛ばしてやりたい」
「俺が今、こんな仕事を続けてるのはそういう事がしたいからだ」
「この腐った世界が死んでいく様を、安全かつ一番近い所から見届けてやりてぇんだ」
「ただの一般人じゃそれはできねぇ。何もできないで何も知らないまま深海棲艦に殺されちまう」
「だからこの仕事を続けてる。給料結構高いしね」
「国を守る為じゃない。自分の為に、自分を守る為だけに提督をやってるんだ」
「俺の周りの人達が死ぬのはもう見たくない」
「でも他の誰が死のうが構うものか」
「あいつらだって同じだ。あいつらも安全なところで誰かを殺したいだけなんだからな」
「だからインテリ気取って偏った知識で人を否定する。それでマウント取ったらそのまま殴り殺す」
「俺もあいつらも全く一緒。ただ、価値観が違うだけ」
「自分が気に食わないものを、それっぽく言葉を飾って理性的っぽく見せるだけ」
「俺の言葉だって同じ。自分勝手な論理感を他人に押し付けて悪魔だなんて言って、あげくの果てに皆死ねだ」
「SEALDSの連中も、こっちを何だ世界が何だと言いながら、望んでいるのは俺達の全滅」
「俺達が望んでいるものに、違いなんて何も無い」
「ただ、自分以外の誰かが死ぬ所を見たい。それだけは何も変わらない」
「違いなんてどこにも無い」
「考える事はみんな同じさ」
「だって同じ人間なんだからな」
「あいつらだって俺と同じように友達がいて家族がいて趣味があって仕事があって」
「それら全てを踏まえた上で、あぁいう振る舞いをしている」
「あの時話した、ホロコーストもアパルトヘイトも全部一緒だ」
「全部、普通の人間がやった事なんだよ」
「冷血だの残虐だのと言うけど、全部普通の人がやった事だ」
「常人じゃ思い付かない殺し方って言うけど、ただそいつの頭じゃ思い付かないだけだ」
「幼稚な承認欲求と愉悦感を得る為に、普通の人間がやった事なんだ」
「自業自得って言葉を免罪符にして、別の場所、別の時間で何度も何度も同じ事をやる」
「自分のくだらねぇ承認欲求に『正義』って名前を付けて暴れたいって所だけは全く変わらず残っている」
「人を殺して承認欲求が満たされる」
「人を馬鹿にして愉悦感を得られる」
「自分は正しい。何故なら自分の方が格が上だから」
「自分は死なない。何故なら自分の方が格が上だから」
「自分が上だ。あいつは下だ。ただそれを感じたい為に」
「人は、2千年以上も殺し合いを続けているんだ」
「だから、それが普通の人間…人間っていう生き物の特性だって俺は思う」
伊401「………」
U-511「………」
伊58「………」
提督「現に俺がそうだからな」
提督「今こうやって人間ってもんに唾を吐いて、今こうして生きる為に」
提督「俺は、六人も人を殺した」
伊58「!?」
提督「俺の為だけに、みんな俺が殺した」
提督「どんな奴だったか、全員覚えているよ」
「長門」
「金剛」
「大井」
「北上」
「木曽」
「それと、那珂」
伊401「那珂、ちゃん、さん?」
提督「意外だった?でもそんなもんだよ」
提督「偉そうな事を言ったけど、俺に正義は無い」
提督「俺も所詮はただの人間。どこにでもいるクズ野朗の一人だよ」
提督「自分の欲の為に、他の命を踏み躙ったクズ野朗の一人なんだよ」
提督「勿論、他の奴らには正義があるなんて事は絶対に無いと思うけどね」
提督「そいつが人間である限り、正義を盾にして他人を踏み躙るクズ野朗である事に変わりは無いんだから」
「もし、仮にだよ?」
「全世界、全宇宙共通の本当の正義、っていうもんがあるのだとしたら」
「少なくとも人間にはそんなもん備わっていないし、今後備わる事はない」
「それだけは絶対に言い切れる」
「だから今」
「この地球上のどこに行ったとしても」
「本当の意味での正義は無い」
「絶対に存在していない」
「俺達人間に、この世界に、正義なんてもんはありはしないんだ」
提督「はい!これで俺の話は終わり!」パン!
伊401「え」
提督「それで、丁度俺もちょっと聞きたい事があったんだ。だから今度は俺が聞いていい?」
U-511「え?」
提督「ゴーヤ」
伊58「は、はい!」
提督「前にいた鎮守府の事。あと、そこの提督の事」
提督「話せたらでいいんだけど、俺に教えてくれないかな?」
☆今回はここまでです☆
戦艦少女とかアズールレーンとか、出したい気はしてます。
この世界観だとこうかなぁというイメージはできていますので。
メぇぇぇ~~~リぃぃぃぃクリっスマぁぁぁーーースぅ!!
ひゃーーーはっはっはっはっはぁーーーーっ
投下はじめまーす!
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
-翌日 パラオ泊地 重巡洋艦娘青葉私室-
青葉「………」カタカタカタカタ
扉「」コンコン
青葉「はぁい」
提督「提督だけどー。入っていい?」
青葉「………」カタカタカタカタ
青葉「………」カチ、カチ、カチ
青葉「あ、どうぞー」
ガチャ
提督「相変わらず、凄いなここは…」
提督「まぁとりあえず」
提督「ただいま青葉」
青葉「お帰りなさい司令官。どうでした?特別鎮守府」
提督「流石友提督だよ。演習のやり方からしてウチとは全然違う」
青葉「そりゃあ、ウチとは戦い方が違うんですからそうですよ」
提督「普通に戦えるようになってもいいとは思うけどね。あくまでアレは最終手段だ」
提督「相手が対応しきれない内に艦隊をグチャグチャにして皆殺しにする為の切り札」
提督「できれば使わずに取っておくに越した事はない…はず」
提督「とにかくあっちの演習は凄い勉強になったよ。うちでも取り入れようと思う」
青葉「ふぅん…」
青葉「ところで本当に間宮さんうちに来るんですか?」
提督「来ると思うよ?足柄のカレー食いに。あの人は来る。絶対に来る」
青葉「勉強熱心ですねぇ」
提督「あ!間違ってもネタ取ろうとするんじゃないぞ。したら怒るからな」
提督「間宮さんは友提督の」
青葉「わーかってますよぉ!それ位の分別は青葉でもつきますぅ!!」
青葉「司令官、青葉の事そんなに信用してないんですか?」ウルウル
提督「そ、ういうわけじゃないけど…その、一応、礼儀ってのがあるでしょ?だから言っておきたかったの。念の為」
青葉「へぇー」
青葉「ま、そういう事にしておきましょうか?」ニヤニヤ
提督「何その言い方…」
青葉「それよりネタといえば一個、面白い事があったんですよ。聞きます?」
提督「え、何」
青葉「副業の方にですね…新しいお客さん、できちゃいました」
提督「………」
青葉「誰だと思います?」
提督「知らない」
青葉「雪風ちゃんですよ」
提督「………」
青葉「どこから聞いたのか雪風ちゃんの方から来ましてね」
青葉「『しれぇの動画ください』って。顔真っ赤にして来たんですよ」
提督「………」
青葉「あまりにも面白かったからスペースも貸して見せてあげたら、まぁた凄かったですよ」
青葉「『しれぇ、しれぇ、しれぇ』って。雌の顔して何度も司令官を呼んで…」
提督「…スペース貸したって事はまさかお前」
青葉「えぇ撮ってます。見ます?凄いですよ」
提督「見ない!早く処分してあげて!」プイ
青葉「えー」
提督「えーじゃない!」
青葉「でも雪風ちゃんがああなったのは、間違いなく司令官のせいですよ?」
青葉「…またやっちゃいましたねぇ司令官」
提督「うるさいなそんなつもりじゃないんだ。あの時だって俺は罰とか脅しになると思って」
青葉「パンツ脱がそうとした?」
提督「普通いきなりアレやられたら嫌悪感が勝るだろ。常識的に考えて」
青葉「残念ながら違いますねぇ」
青葉「嫌いな人とか知らない人だったらそうかもしれませんけど」
青葉「好きな人から無理矢理迫られて困っちゃう、なんて漫画じゃよくあるシチュエーション」
青葉「女の子の憧れですよ?それが懲罰だなんて、逆効果です」
提督「にしたって限度っつーもんがあるだろ普通」
提督「そんな都合の良い女演じて、俺が死ねって言ったら死ぬのか?お前ら」
青葉「言えるんですか?」
提督「またやるって言ったよな?」
青葉「いや司令官は無理ですよ。もう二度とそんな事は言えないです」
青葉「だから、今こうなってるんですから」
青葉「自分が盗聴されてるってわかってて、それでも何も言わないってのが何よりの証拠です」
青葉「青葉がこんな副業やってても、わかってても何も言わないってのが何よりの証拠です」
青葉「口では色々言うけど、司令官は優しいんです。だからもうどうにもならない」
青葉「何かやろうにも裏に何かがあるってのが見え見えになっちゃってる」
青葉「だからもう何やっても無駄ですよ」
青葉「ウチの泊地の子達は、みぃんな司令官の事が好きなんですから」
青葉「しおいちゃんもユーちゃんも、ゴーヤちゃんも」
提督「………」チッ
青葉「司令官だって別にそこまで嫌じゃないんじゃないですか?」
青葉「…現に今こうやって青葉の部屋まで来て、何がしたいんですか?」クスクス
提督「え」
青葉「挨拶だけだったら別に朝礼の時にみんなにしたからそれでも別にいいですよね?」
青葉「こんな二人っきりの場所で、密室で、青葉に何の用事なんですかぁ?しれいかん?」
青葉「さっきから、青葉のどこを見ているか、わかっていないと思っています?」
提督「………」
青葉「言わなきゃわかりませんよぉ?ちゃんと言葉にしてください」
青葉「司令官は何がしたいんですかぁ?青葉は、どうすればいいですかぁ?」ニヤニヤ
提督「…青葉の」
提督「青葉のお尻が恋しくなっちゃって」
青葉「♪」
「よく言えました」
後ろ向きで、僅かに臀部をこちらに突き出した青葉を抱きしめる。
両手を彼女の腹部に回し、かちゃかちゃとベルトを外す。
よく見えなくとも滞りなく完了できる位には繰り返し手馴れた動作。
がさ、とベルトごとズボンがずり落ちる音だけがした。
視界には超至近距離まで近付いた青葉の顔しか映っていなかった。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「こうしてると何か、生きてるって感じがするんです」
背中に触れる感触を楽しみながら青葉が呟いた。
「生物は死にそうになると子孫を残したいっていう欲求が強くなるって聞いたけど」
青葉の背中とその下の感触を楽しみながら提督が呟いた。
「うーん。でも艤装のストッパーがあるから余程じゃないと怖くなくなっちゃうんですよねぇ」
「たまにさ、やたら緊張感がないように思えるのはそのせい?」
「司令官だったら、私達が危なくなったらすぐ帰還命令出してくれるって信頼してるんですよ」
「信頼ねぇ」
会話を続けながら、提督は片腕をベッドの外に伸ばす。
自分の上着に隠し持っていたものを掴む為に。
その信頼を裏切る為に。
「帰ってきてすぐに青葉の所に来てくれた事、嬉しかったですよ」
「ありがとうございます。司令官」
「どういたしまして」
そう言いながら提督は、手に持ったハンカチで青葉の口と鼻を押さえ付けた。
青葉のくぐもった悲鳴が提督の手の内から響く。
提督は片手で青葉を抱きしめ、片手で口と鼻を押さえ付ける。
脚を絡ませ、本気で抱きしめ、本気で気絶させようと押さえ付ける。
口と鼻から入り込む何かから、青葉は自分の身に何が起こっているのかを理解する。
普段嗅ぎ慣れない薬品の匂い。でも何故。どうして。どうして司令官が。
突然であまりにも予想外な奇襲に対する動揺と身体に入り込む何かが青葉の意識を蝕んでいく。
今青葉を落とす為に使っている片腕以外の全てで青葉を愛でながら、提督は彼女の耳元でささやいた。
「悪ぃな青葉。お前が起きてて視られてると、こっから出るのは難しいだろうからな」
「提督命令だ。ちょっと眠ってろ」
そこから少しの時間が経ち、青葉は眠るように気を失った。
青葉の身体から力が抜けた事を確認し、何度か力を緩めて意識を失っている事を確認する。
これでまずは大丈夫。提督はある種の満足感を覚えながらそそくさと準備を始めた。
散らかったゴミを片付け、青葉に布団をかけ、急いで服を着ていく。
自分の服に仕込まれた機械を記憶と視覚を頼りに外していく。だが最後の一つに手を伸ばし少し考えた後、何も掴まずに引っ込めた。
手に持った機械を机の上に並べ、パソコンを全てシャットダウンさせる。
第二段階はほぼ完了。だが提督の心には焦りしかない。
上着のボタンを上から下までしっかり留めていきながら、青葉の様子をじっと見つめる。
クロロホルムで気絶してそのまま死亡するケースがある、という知識が彼の不安を別所からも沸き立てる。
だが艦娘の身体は戦闘に耐えられるよう頑丈にできている。ストッパーが無くともちょっとやそっとじゃ死ぬ事はない。
不安を湧きたてる知識を別の知識で押し潰しながら、青葉の顔に顔を近付け寝息を確認する。
青葉がしっかり息をしている事実が、彼を少しだけ安心させた。
「ごめんな青葉。本当にごめん」
そう言い残して提督は部屋から出て行った。
もし、生きて帰ってくる事ができたなら
今日の事は仕切りなおしにしよう。
もしこれでも青葉が望むなら、もう一度青葉と触れ合おう。
そう考えながら提督は自分の携帯端末からある人物に電話をかけた。
「あ、もしもし。パラオ泊地の提督と申します」
「実は」
「ブラック鎮守府の、告発を行いたくて…」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
憲兵「提督さん。そろそろ到着します」
提督「わかりました」
提督「ありがとうございます、憲兵さん。無理を聞いて頂いて」
憲兵「いえ、これが我々の仕事ですから」
憲兵「ですがどうして、貴官まで付いて来たいと?」
提督「………」
提督「今から向かうブラック鎮守府の、ブラック提督とは研修の頃の知り合いでして」
提督「まぁ、ちょっとした恨みがあるんですよ」
憲兵「………」
提督「不純ですよね」
憲兵「不純ですね。ですがあの鎮守府がブラック鎮守府である事は確かです」
憲兵「動機が不純だろうが、行いが正しければ一考の価値はあると、小官は考えております」
提督「…そう言って頂けますと、少し安心できます」
車のガラスの向こうで、門が開く音が響く。
「開いた?」
「やけに素直な…まぁそれなら行くしかあるまい」
再びエンジンが音を立て、開いた道の先へと車が進んでいく。
提督は窓の外の風景を、網膜に焼き付けるように見回していた。
道、建物の位置、港の場所。
それらを見回してようやく当たり前のような感情を抱く。かなり大きな鎮守府だ。
そんな感情をくだらないと切り捨て、再び周囲の風景を見回す。
広場、入渠施設、その他諸々。
もしこの場で提督の事に注目している人がいたならば、挙動不審と言われかねない程周囲を見回していた。
だからこそ、まず最初にそれに気付いたのは提督だった。
寮の機能があると思わしき建物の、窓から見える二つの影。
何かに吊り下げられているかのようにも見える、縦長の二つの影。
様々な色で彩られた、少し大きな二つの影。
まるで人を形取っているかような、二つの影。
それは、首を吊ったまま晒された如月型艦娘。
それは、首を吊ったまま晒された睦月型艦娘。
模造品ではない、本物の、生きていた艦娘。
「如月」
「お前の予想、的中していたぞ」
☆今回はここまでです☆
建物の中に入った二人を出迎えたのは白い軍服を来た男。この鎮守府の提督、ブラック提督だった。
彼の傍には艦娘達が控えている。
吹雪型艦娘、漣型艦娘、電型艦娘、五月雨型艦娘、叢雲型艦娘、朝潮型艦娘に不知火型艦娘。どれも駆逐艦娘だ。
「何だと思ったら妙に懐かしい顔が来た」
「お前が今さら、一体何の用なんだ?憲兵まで連れてきて」
憲兵が一瞬口を開きかけたが、先程車の中で二人が研修時代の知り合いであると言われた事を思い出し、踏みとどまった。
「調べ物をしてたんだけど、まさかそこでブラック提督が出てくるとは思ってなかったよ」
提督が懐から取り出した、ビニールに入れたままのそれを目の前にかざす。
それは伊58が泊地に運ばれてきた時に首に付けていた首輪型の爆弾。
泊地の明石と特別鎮守府の明石が協力して解析した、一番初めに見つけた物だ。
「これは何だ?」
「…うちの艦娘が遠征中に『死体』を見つけたんだ」
「その死体が付けていた機械がこれだ。調べてみたら、爆弾だったらしい」
この手の話題での定型文に対して提督は詳細まで説明をしていく。
多少の嘘を交えながら、九割近くの真実を、はっきりとした口調で伝えていく。
「見覚えあるか?」
首輪型爆弾だったものをブラック提督に手渡し、その顔をじっと見つめる。
その表情が少しでも変わらないかと様子を伺いながら。
この装置がこのブラック鎮守府のものである事は確信している。
伊58の言葉とそれを裏付ける憲兵の調査。罪に問える程の証拠は既に挙がっている。
今提督が持つ中でも一番大きな証拠となるこの装置を見て、ブラック提督はどう出るか。
とぼけた振りをして逃れようとするならば証拠を出して追い詰めていける。
目の前のブラック提督はどのような反応を示すのか。
「ある」
「これは俺の鎮守府で作った装置。ヌカヌカカナル君2号だ」
毅然とした態度で帰ってきた自白と、くだらない情報によって一瞬で練っていた策が崩れた。
だが悪い事ではない。用意してきたものが全て無用になっただけの話だ。
「…この爆弾を、お前らが作ったんだな?」
念の為、確認するように提督が問うもブラック提督は何ら動揺も後悔も見せずに言い切った。
「あぁそうだ。逃亡と反乱防止用に俺が明石と夕張に命じて作らせた」
「この装置を両手両脚と首に付け、何かあれば爆発して吹っ飛ぶようにした。手も足も、首もな」
「起爆装置は俺が持っている。これを付けた奴が少しでも俺の気に障る事をすればすぐ爆破できるって事だ」
「…貴様」
いけしゃあしゃあと自らの外道を武勇伝のように言い聞かせるその様に憲兵が眉間に皺を寄せる。
そして目の前のこの男、ブラック提督が外道である事を確信する。
だが、彼にはどうしてもわからない所があった。何故憲兵である自分を前にして、あっさりと自白するのか。
諦めた様子でも無く、自暴自棄にも見えない。
そんな男がどうしてあっさりと自白したのか。その妙な自信が不気味だった。
ある種の混乱から抜け出す為に、憲兵は無理矢理物事をシンプルに考える事にした。
この男が艦娘を虐待し殺害する犯罪者であるのは事実。提督の証言、提示された証拠と、先程見た睦月・如月型艦娘の首吊り死体が何よりの証だ。
そしてこの男は自分の罪を自白した。つまりこれで何事も無く逮捕できる。それで終わりだ。
そう考え、怒りを静めようとした憲兵の耳に予想外の言葉が聞こえてくる。
「で、それが何か問題でも?」
目を見開いた。そして口を開く前に提督が憲兵の心を代弁するように追及する。
「問題だ!お前がやっている事は艦娘の強制労働」
「それだけじゃない。『死体』には暴力を受けた跡が残っていた…お前は、艦娘を虐待していたんだろ!?」
「ここに来る前に潜水艦娘を一人見かけた。身体に痣があって、死んだ目をしていた」
「それと俺が見つけた『死体』も潜水艦娘だったし、身体に無数の傷と痣があった」
「オリョールクルージングだろ!?潜水艦娘に不眠不休で働かせながら、気晴らしで暴力まで振るった!!」
「こんなふざけた機械まで作って、無抵抗にさせた上でだ!!」
「お前らがやった事は許されるものじゃない!!!」
はっきりと、大声で、事実を突きつけるように話す提督に対し、ブラック提督はどこまでも冷静、否冷淡な反応を示す。
「許されるものじゃない?お前が、何の権利があってそんな事を言う?」
「潜水艦娘の役割がオリョールクルージング以外無いんだから仕方が無いじゃないか。潜水艦娘に他の使い道があるとでも?」
「いいか。俺達がやってるのは戦争だ。戦争には資源が必要だ。戦争を続ける為にも資源の回収は最重要なんだ」
「一個人の心情なんざ気にしてる場合じゃない」
「なのに疲れただの、休みをくれだの、そんなグダグダと弱音を吐く奴を拳でわからせて何が悪い?」
「俺がやっている事は勝つ為に必要な事だ」
「そんな事も理解してないんだからお前は、成績最下位の無能提督なんだよ」
ブラック提督の傍で話を聞いていた漣型艦娘が提督を鼻で笑い、その声は提督にもはっきりと届いた。
漣型艦娘の方を一瞥する。提督には一瞬だけ彼女が特別鎮守府の漣とダブッて見えた。
冗談を言い合い趣味の話に花咲かせる、年下の親友と同じ声、同じ姿をした憎き相手。
目の前の彼女は同じ姿で、同じ声で、同じ魂で、全く違う心を見せる。何故、と考え出そうとしたその瞬間提督は我に返った。
ブラック提督の言い分は論理としては正しい。
資源が無ければ戦えない。戦えなければ、世界は深海棲艦に支配され人間は絶滅するかもしれない。
種の存続がかかっている戦いに一個人の心情を汲みいれる余地は無い。
そこだけ切り取れば、その通りだ。種全体を生き残る為に多少の犠牲は必要、と考える事もできる。
だが提督は覚えている。
先程見た、首を吊られ晒された睦月と如月の姿。
そして伊58の心と身体に刻まれた傷をはっきりと見て、覚えている。
その記憶がブラック提督の言い分を叩き潰す最大の要因となる。
「…じゃあ、あの窓から吊り下げられた二人はどう説明するつもりだ」
「あれが、どうって?」
「睦月と如月だ!!何であんな真似をしているかって聞いてるんだよ!!!!」
「あれが、戦争と、どう関係あるって言うんだ!!!」
「あれが勝つ為に必要な事か!?味方をブッ殺して晒しモノにする事と戦略に何の関係があるんだ!?」
「言えよ!!!!!!!」
激昂への返事は無言。それが提督の感情を更に逆撫でしていく。
「綺麗事ばかり言いやがって!!お前の言ってる事は全部嘘っぱちだ!!」
「お前は!!!ただ誰かを傷付けて殺したいだけじゃねぇか!?」
「何が潜水艦娘の役割だ!何が反乱阻止だ!!何が戦争を続ける為だ!!」
「そんなもんは建前なんじゃねぇか!!!」
「お前は!!綺麗事や一方的な正義を押し付けて自分の殺しを正当化したいだけのクソッタレのクソ提督だ!!!」
「だから潜水艦娘を虐待する!!だから睦月と如月を殺した!!!」
「一緒なんだよ!!お前は仲間を傷付け殺して喜ぶ最低のサディスト、サイコパスなんだからな!!!」
「それがお前だ!!!」
「この…」
「ク ソ 野 朗 が ぁ !!!!」
そこまで言い切り、息を吸った瞬間
「司令官を愚弄するなァ!!!!!」
背後から聞こえた怒号と激痛がほぼ同時に提督を襲った。
脚の間から何かが引き抜かれるのを感じながら、腰を折り曲げ床に倒れ伏す。
下半身の激痛。体外にありながら内蔵の一部である箇所への蹴り上げ。
簡潔に言うならば後ろから股間を蹴り上げられた。
胃まで裏返るかという程の痛みと怒号でそれを把握するが、起き上がれない。
艤装を付けていない、かつ非力な駆逐艦娘とは言え多少は鍛えてある脚で股間を蹴られたのだ。
目を強くつぶり、歯を食いしばり、声が漏れないようにするのが精一杯だ。
「あんな雌豚、絶殺されて当然よ!」
「朝潮のように戦闘にも出られない雑魚!」
「朝潮と違ってどこの鎮守府にも重宝されない産廃!」
「朝潮の司令官を誘惑する事しか考えてない淫乱女の分際で…!!!」
「あの雌豚のせいで、鎮守府が、艦娘全体の地位が貶められた!」
「あろうことか、司令官の顔にまで泥を…!!」
「そんな死んで当然、産業廃棄物どころか核廃棄物にも劣る生ゴミを!!殺して何が悪い!!!」
「朝潮達の手で殺されるだけでも光栄に思うべきなのよ!!!」
朝潮型艦娘の怒号が上から降り注ぎ、電型艦娘が嫌がらせのように落ち着いた声でそれに続く。
「少し前に睦月ちゃんと如月ちゃんがてるてる坊主を作っていたのです」
「ゴミの分際で生意気だったから、代わりに如月ちゃんをてるてる坊主にしてあげようと思ったんですけど、睦月ちゃんが邪魔するから…」
「姉妹揃って首を吊らせて、窓から下げたのです」
「ゴミにしてはなかなかいいてるてる坊主っぷりになったのです」
「でもそしたら、死んでしまったのです」
「死んだ、のです…ふふふふふ」
「ふふふふふ!!!ふふふふふふふふふふふふふふふふ!!!!!!」
「DEATHDEATHデース!!!!死んでしまったの、でーす!!!!!」
「きゃはははははははははははは!!!!!!!あははははははははははははははははははははは!!!!!!!!!」
堰を外したように、一斉に笑い声がこの空間に轟いた。
提督は床に倒れ伏したまま、吐き気を堪えながら周囲を見渡す。
吹雪型
綾波型
暁型
初春型
白露型
朝潮型
陽炎型
島風型
夕雲型
多くの駆逐艦娘。
そして鳳翔型
天龍型
川内型
駆逐艦娘に混ざって少数存在するその他艦娘。
伊58から聞いていた通り、重巡洋艦娘も戦艦娘もいない。だが、その数十人の艦娘が提督と憲兵を囲んでいた。
「貴様ら何をしている!!!」
憲兵が笑い声をかき消すように怒号を上げるが、ブラック提督の片手で静止された。
「憲兵殿。貴方では俺を逮捕できない」
「いや…誰も、俺とこの可愛らしい駆逐艦娘たん達を逮捕する事などできやしない!」
「馬鹿な事を言うなぁ!!」
罪を犯せば罰せられる。社会のルールを完全に覆すその発言を憲兵は馬鹿な事と切り捨てる。
この外道どもをこの場で逮捕できないのならば何の為の規則か。何の為の憲兵なのか。
戯言だ。この男が言う事は戯言だ。そう憲兵の頭の中でブラック提督の言葉が何度も何度も切り刻まれていく。
「少し冷静になってください。そんなに俺の言っている事を疑うなら貴方の上司に聞いてみればいい」
「誰も、俺達を逮捕する事などできやしないとわかるから」
ぴん、と指を一度鳴らすと朝潮型艦娘と不知火型艦娘が一切躊躇することなく顔を上げブラック提督の方を向いた。
「朝潮、不知火。憲兵殿を別室までお連れしろ」
「了解しました」
「抵抗はしない方がいいです。貴方の首が飛びますから」
両脇を抑えられたまま憲兵は連れて行かれ、倒れ伏したままの提督は残された。
その周囲を多くの艦娘が敵意の視線を送りながら囲んでいる。
自分の提督、司令官を侮辱した提督に対する怒りと、ヘドロのようにドロドロとしたドス黒い加虐心を孕んだ目で。
ブラック提督は倒れた提督の髪を掴み、勝ち誇った目で彼を見下す。
「クソ野朗か。俺に対してよくもまぁそんな口が利けるな?」
「一番のクソ野朗はお前だろ?裏切り者の提督君」
「あぁ。そういえばそうだったな。裏切り者のクソ野朗」
天龍型艦娘が唾を吐いて毒づく。唾が脇腹に当たり、白い軍服に染みを作る。
事情をよく知らない他の艦娘達は好奇心と窃視願望を露に首をかしげた。
「こいつは深海棲艦と密通して人類を売った」
「史上最悪の裏切り者の一人さ」
「アイアンボトムサウンドの話は聞いた事があるだろう?」
「数多くの轟沈者を出した、史上最悪の大規模作戦」
「何故そう呼ばれるに至ったか。その一番の原因はいくら敵の本拠地を叩こうがすぐさま修復された事だ」
「それによって戦いが長引き、功を焦った提督や艦娘が無策で突撃…沈んでいった」
「では何故、敵の本拠地が修復されたのか?」
「その答えはただ一つ」
「人間陣営に裏切り者がいたからだ」
「深海棲艦と必死に戦っている裏で、深海棲艦と密通して物資を横流ししていた裏切り者がいたからだ」
「大本営から送られてきた物資と資源を深海棲艦に横流しして、奴らはその補給ルートをフル活用。本拠地の修復を行った」
「そして、アイアンボトムサウンドは無間地獄になった」
「一部の人間の私利私欲に塗れた裏切りで、あまりにも多くの、取り返しの付かない程の犠牲者が出たんだ」
「その後大本営は裏切り者の存在を察知。憲兵隊も動き回らせて裏切り者の捜索と逮捕に回った」
「そこまでしてようやく、深海棲艦への補給ルートを断つ事ができた」
「もうあいつらに本拠地の修復を行うほどの物資が送られる事はない」
「だけどな。その時の裏切り者の一部はまだ娑婆に残ってのうのうと生きているんだよ」
「それがこいつだ」
「パラオ泊地所属、提督特務中佐」
「こいつこそが、人類の敵なんだ」
☆今回はここまでです☆
てるてる坊主って何の事だ、と思われるかも知れません。
季節限定家具の梅雨の緑カーテン窓と、季節限定ボイスが元ネタです。
もう一つ元ネタがあるのですが、見つからず…あれは夢だったのか。気のせいだったのか
相変わらずめっちゃ遅くなってますが生存報告
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
「納得できません!何故逮捕してはいけないのですか!?」
客室に憲兵の声が響く。至近距離で大声を受けた通信端末がその声を電波に載せてそのまま相手に送っていく。
「何でもだ。とにかく君は動こうとするな」
それに対して彼の通信端末から聞こえてくる声は落ち着いている。その落ち着きが憲兵のいらつきを更に煽った。
「何もしないわけにはいかないでしょう!?」
「奴は潜水艦娘に労働を強制し、それだけでなく虐待して殺害しています!」
「だとしても何もするな」
「どうしてですか!?」
何もするな。何故。
何もするな。何故。
この繰り返しがこれまで二度三度繰り返されてきた。
そしてこの無意味な繰り返しに痺れを切らした通信相手が彼を納得させようと論調を変える。
「いいか正直に言おう。我々はブラック提督を失う事を良く思っていないんだ」
「少し考えてみてくれ」
「奴の鎮守府の所属艦娘を見ただろう。殆どが駆逐艦娘、潜水艦娘、それと他艦種の艦娘が少し。それだけだ」
「ではこの構成でどうやって日々鎮守府を運営していると思う?」
鬼級、姫級との戦いで重要になる重巡洋艦娘以上の艦娘や、正規空母娘がいない鎮守府が日々どのような活動をしているか。
当然できる事も限られてくる。強力な深海棲艦が出現する海域には出られないからだ。
今まで集めた情報を基に推測して憲兵は答えを出す。
「遠征とオリョールクルージング、ですか」
「そうだ。その鎮守府はその二つで回っている」
「ではもう一つ考えてくれ。そうして手に入れた有り余る資源を、ブラック提督はどうしていると思う?」
「戦艦娘も正規空母娘もいないその鎮守府で溜まり続ける多くの資源を君ならどう扱う?」
どう扱う。その問いに憲兵の考えが詰まる。
低燃費の小型艦娘による遠征、オリョールクルージングで資源は溜まる一方だ。
この資源をどう扱う?資源とは艦娘の艤装を動かす為の必需品だが、それをどれだけ使おうが収入の方が上回る。
余った資源は大規模作戦に備えて備蓄に回すのがセオリーだ。だがこの鎮守府の構成では大規模作戦で戦果を挙げるのは難しい。
いくら遠くの敵に砲弾を当てられるようになろうが、敵の装甲を貫けなければ意味が無い。
溜まり続ける多くの資源をどう使う?考えても考えても憲兵には自分が納得できる答えが出す事ができない。
数秒の沈黙の後、通信相手が答えを出してきた。
「答えは『他の鎮守府に売り捌く』だ」
「ブラック提督は手に入れた資源を商品として他の鎮守府に売買しているんだ」
「その顧客の中には多大な戦果を挙げている提督も数多くいる」
その答えは憲兵に、疑問が解けた快感と恐怖を同時にもたらした。
この鎮守府は規模の割りにあまりにも豪勢な造りをしている。今ここにある小物一つ取っても高級品ばかりだ。
何故そんなものがここにあるのか?そしてあの男は資材を売り捌いて稼いだ金をどう使っているのか?
一部は賄賂。今こうやって上層部がブラック提督を庇っているのもそれがあっての事だ。
そして残りは何の戦術的価値も無い贅沢にのみ使われている。
食材、家具、パソコンにゲーム機、雑誌に漫画に酒に煙草等々等。
ありとあらゆる軍事的価値の無い贅沢に残りの全てが注がれていた。
他の提督が日々任務や作戦で奮闘している中、彼らはここでだらだらと無為に日々を過ごす。
潜水艦娘を始めとした、自分達が弱者とみなした艦娘達を虐げながら。
傷付かず、痛みも感じず、ただ快楽それだけを感じて過ごす無為な日々を、無価値な死体を増やしながら延々と続けている。
「つまり彼がいなくなれば今後の作戦遂行が困難になるかもしれない」
「我々の敵は人間ではない。人間を滅ぼそうとする侵略者、インベーダーのようなものだ」
「負ければ人間が滅びる。だから我々は勝たなければならない。作戦の失敗は許されないのだ」
だが資源を供給する存在が必要不可欠である事も確かだ。
資源が無ければ作戦の遂行すらできないなら、資源を供給するブラック提督の存在がどれだけ重要であるかなどすぐにわかる。
人類の存亡がかかっている作戦に失敗が許されないなら、彼の役割は作戦成功に欠かせない存在である事などすぐにわかる。
「だから、逮捕するなと?」
「そうだ」
「その陰で何人の艦娘が虐げられて殺されていると思っているんですか!?」
しかしその為に犯罪を見逃していいとはならない。正義感の強い憲兵は葛藤しつつも叫んだ。
守る為に味方を殺すのか。それを良しとしていいのか。それが本当に正しい事なのか。
「潜水艦娘だけじゃありません!睦月型艦娘と如月型艦娘も首を吊って晒されているんですよ!?」
「こんな鎮守府を見逃して何が憲兵なんですか!?」
そんなはずがない。多くの人が生き残る手段を探していかなければいけない。
例えそれが自分の死を覚悟して戦場に立つ軍人であっても、無為に殺していいものではないはずだ。
まして戦いの果てで死ぬのではなく味方に虐め殺される末路など、絶対にあってはならないはずだ。
胸のざわめきを力で抑え付けるように憲兵は力の限り叫んだ。
「いいから黙っていろ!!」
そんな彼を更に大きな力で抑えようと、通信端末から大声が届いた。
「なら今奴と話をしている特務提督はどうなるんですか!?」
「奴の艦娘が提督に暴行を加えるのを見ました!このままでは彼は!!」
相手を言い負かす為だけに飛び出した考えを、憲兵は一切ろ過せずに相手にぶつけた。
艦娘が失われるのならともかく、指揮官の立場に居る特務提督ならどうだ。失えば鎮守府や泊地一つが丸ごと機能停止する。
嘘は吐いていない。憲兵は事実だけを述べた。
彼が今危険な状況にいるのは確かだ。さぁどう出る。
「それでも動くな。君は彼には何もせずに帰ればいい」
「それと君が考えているであろう最悪の場合だが」
「その特務提督の死体の処理は君がやれ」
「あの鎮守府はあのままでいい。あのまま維持するのが一番なんだ。何の騒ぎも起こす事無く、資源を供給している現状が一番なんだ」
「彼には何もするな。死体の処理は君がやれ」
「これは命令だ。以上」
通信端末からの声はそう言い残し、切れた。
☆続きます☆
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
-同時刻 パラオ泊地-
阿賀野「矢矧!?矢矧!?そっちに提督さん行ってない!?」
阿賀野「いないぃ!?そ、それじゃあ友提督さんとか何か知ってない!?」
阿賀野「提督さんがいないのよ!!いなくなっちゃったのよ!!」
龍田「ほんとにどこ行っちゃったのかしらね」
龍田「提督ー?出てこないと後でひどいわよー」
那珂「ほんとにそれで出てきたらいいんだけどねー!」
大淀「青葉、提督は何かおっしゃられてましたか!?」
青葉「いえ、その…いきなり薬をかがされて」
大淀「クロロホルムって誰よこんなの持ち込んだの!?」
明石「あー…うん。それ私だ。そういうプレイしたいのかなーって思って仕入れちゃった」
大淀「何やってるのよこの淫乱ピンク!!」
阿賀野「納豆ヘアー!!」
龍田「ドスケベスカート」ボソッ
明石「ちょ酷くない!?というかあんた達に言われたくないんだけど!?」
明石「盗聴器の類は?ワレアオバで使ってる奴」
青葉「取られてるみたいで…!あ、いや、ちょっと待って!!」
阿賀野「もしかしてあるの?」
青葉「ちゃんと数えてなかったけどもしかしたら取られてない奴があるかも!」
青葉「1、2、3…やっぱり。司令官一個だけ付けたままだ」
青葉「よぉしそこの盗聴器から音声を取れば場所がわかるかも!!」カタカタカタカタ
大淀「どれ!?」
青葉「わかんない!しらみつぶし!!」
那珂「ですよねー!!」
青葉「1個ずつ調べるから何か音立てたり声出したりしてみて!」
大淀「あーあー!」
青葉「違う!」
那珂「You listen to my voice Listen to my heart~♪」
青葉「違う!」
龍田「」ガリガリガリガリガリガリガリガリ
青葉「違う!」
阿賀野「あ、あ、あ、あっぷるぺんぺんぺん!!」
青葉「違ーう!」
『…!…!』
青葉「あった!これかも!?」
大淀「音量上げて!」
青葉「わかってる!!」
『…ね!』
青葉「…」
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!裏切り者!』
『死ね!』
『この鎮守府から出て行け!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『なのDEATH!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『なのDEATH!』
『死ね!』
『死ね!』
『なのDEATH!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『死ね!』
『なのDEATH!』
『死ね!』
『死ね!』
『なのDEATH!』
『死ね!』
『死ね!』
☆続きます☆
「がふ!ごっ!おぇえ!おごえぇえ!」
腹部にめり込む複数の足と拳が内臓を痛めつけていく。
消化が間に合わなかった内容物が逆流し、提督の口から吐き出された。
「うぅわ!汚ぇな!!」
最後の一撃を加えた天龍が床にぶちまけられたモノから逃げるように後ずさった。
痛みと止まらない吐き気で歪む提督の視界に吐瀉物が広がっていく。
おかしいな。そう感じた彼は今日の食事の記憶を辿る。
泊地を抜け出す前にこっそり作って食べた握り飯、今日彼が食べたものはそれだけだ。
白い米に白い塩。海苔すら巻かない、人によっては料理とも呼ばないであろうそのあまりにもシンプルなその料理を彼は好んでいた。
自分で作る握り飯。ただ真っ白で、塩の辛さと米の甘さが口の中で溶け合う握り飯。
自分で作るからこそ美味しいと感じる。自分で作ったからこそ価値がわかる料理。
なのに、目の前で吐き出された握り飯の成れの果ては何故こんなにも赤いのか。
喉を焼く苦味と一緒に来るこの鉄のような味は何だ。
「何だ、血はまだ赤いのか?てっきり青い血でも出すかと思ったんだけどなぁ裏切り者ォ!!」
声が裏返ったブラック提督の声が頭上から聞こえる。声の大きさからしてすぐ近くにいるのが提督には感じ取れた。
その言葉の間違いは、どうしても訂正しなければならない。
「あの時の疑いは晴らしただろ!?俺はあ号艦隊決戦作戦を成功させた…それで全部終わりだったろ!」
「そんな事で俺が納得するかァ!!!」
痛む箇所に響くか、という程の叫び声が食い気味に返ってくる。
「お前は深海棲艦に資源と情報を流した!どれだけごまかそうが俺にはわかる。お前は裏切り者だ!!」
「お前は俺達に嫉妬していたんだ。成績最下位で何をやっても駄目駄目の無能提督!!」
「お前は自分が認められないこの世界を恨んだ!そして俺達と世界を滅茶苦茶にしてやろうと企んだ!!」
「お前はガキだからな!!だから裏切った!!深海棲艦に世界を売り渡したんだお前は!!」
「俺にはわかる!!お前みたいな馬鹿の考えなんて俺にはお見通しなんだよぉお!!!!」
アドレナリンを大量に湧き立たせている脳の与える命令に従い、ブラック提督は目の前のゴミを力一杯蹴り上げた。
ブラック提督「あぁーもういいや。こいつの処理はお前達に任せる。飽きるまで使ってやれ」
電「殺してもいいのです?」
ブラック提督「[ピーーー]と面倒が増えるんだけど、まぁいいんじゃね」
ブラック提督「こんな奴死んだって問題ないだろ?」
電「なのですなのです♪」
天龍「だとよ。とうとうお前も終わりだな。フフッ怖いか?」
提督「…クソだよ。お前ら全員」
天龍「あ?」
提督「そうやって潜水艦娘や如月達を殺して何になるかわかってんのか?」
提督「死人が増えれば深海棲艦が増える。それがわかってやってんのか!?」
提督「お前らが遊びでやってる人殺しはただ深海棲艦を増やすだけの利敵行為だ!!」
提督「何が裏切り者だよ。お前らのほうがよっぽど裏切り者じゃねぇか!!」
雷「それの何が悪いの?この雷様をあなた達と一緒にしないで貰えるかしら」
提督「…は?」
雷「わたしは何やっても許されるのよ。何やったって生きていけるのよ」
雷「だってわたしは愛されているから!」
雷「あんなゴミクズとは違う!わたしは愛されている!あいつは愛されていなかった!」
雷「愛されなかったら、死よ!当然じゃない!!」
雷「でもわたしはああならない!だってわたしは愛されているから!!」
雷「だからわたしは死なない!あいつとは違う!わたしは特別!特別なの!!」
雷「だから何でも手に入る!どこにいっても誰にも愛される!!」
雷「あいつは愛されなかった!どこにいったって愛されない!!」
雷「だからテレビでも轟沈したんでしょ!?だから殺した!!いいじゃない!誰にも愛されないゴミを殺して何が悪いの!?」
雷「むしろ感謝して欲しいくらいだわ!『雷様のかませ犬にしてくださってありがとうございます』ってね!!」
「あぁそうかよ。いつかてめぇらみてぇなのが出てくると思ってた所だ」
耳を疑いたくなるような暴言を提督はあっさりと受け入れた。彼は本当にいつか彼女のような存在が出てくるであろうと予想していた。
何故なら彼女達は艦娘であり、艦娘のベースは人間であるからだ。
暁型、一部朝潮型は多くの鎮守府に配属されている駆逐艦娘の中でもメジャーな存在だ。
その理由は彼女達の見た目と性格、それが小児性愛の性癖がある特務提督達にうけたからだ。
後進の特務提督は先進に倣い、戦略的価値の薄い理由で決められたメジャーな彼女達を選択する。
特務提督とその鎮守府泊地の人事事情の歴史は殆どがその繰り返しだ。
そしてそれを繰り返していく事でとある深刻な問題が彼らの預かり知らぬところで現れてくる。
それは艦娘間の格差だ。
艦娘という存在が認知され始め艦娘候補生達にも現場の情報が伝わるようになると、彼女達の心に今まで無かった不安が出てくるようになる。
あの艦娘にはなりたくない。あの艦娘になりたい。
魂の適正などという、人間からして見れば不確かなそれが彼女達の今後の全てを左右するようになる。
上記の通り暁型・一部朝潮型艦娘の適正を受ければその後の人生に光が見える。
特務提督の寵愛を受け、万が一の事があったとしても悲劇のヒロインとして祭り上げられるだろう。
だが、例えば潜水艦娘の適正があるとわかってしまえばどうなるか。
彼女に待っている未来は馬車馬のように延々と働かされる事だろう。
甘味処で舌鼓を打つ他の艦娘を横目に、延々とオリョールクルージングに狩り出されて行くだろう。
最悪の場合はこのブラック鎮守府のように虐げられ殺される。
例えば如月型艦娘の適正があるとわかってしまえばどうなるか。
あのドキュメンタリー番組の模倣が世界中で流行した今、多くの如月型艦娘がその後を追って轟沈させられている。
生存権を奪われ悲劇の舞台装置として痛みと恐怖の中死んでいく可能性が大きいのだ。
誰にも見向きされずあったとしても自分のものではない不幸に酔いしれる、あぁ自分はなんて優しいんだろう、という自己表現の自己陶酔の涙だけ。
自分達がその材料として消費されていくという未来が彼女達の目前に立ちふさがるのだ。
それを知って絶望する哀れな負け組達を見て、勝ち組となった艦娘達は優越感に浸る。
自分はあぁはならない。自分は勝ち組だ。自分は特別な存在なんだ。
自分は愛される。たとえどこの鎮守府に行こうが。何故なら自分は勝ち組の艦娘だからだ。
戦果を上げずとも、傷を負わずとも、ヒエラルキーの上位に立てる勝ち組の艦娘だからだ。
人気の艦娘になる、というアドバンテージは特務提督の人事ではかなり大きいものとなると理解していた。
良くて秘書艦、上手く行けばケッコンカッコカリ、そしてその特務提督が有能であればそれだけで将来は安泰。
何の苦労も要らない。ただ提督の好みの反応をするフリさえし続けていれば自分の未来はバラ色になると考えるようになる。
そして彼女達が向かった先で見るのはその通りの未来だ。
輝かしい未来を得られると思っていた者は特務提督の寵愛を受け地位を確かなものとし
反面モノとして消費される未来に絶望した者は消耗品として死に絶えていった。
寵愛を受けた艦娘はその消耗品達を陰で見下し、蔑み、優越感に浸る。特務提督には自分の本性を隠しながら、格下となった艦娘を虐げる。
その候補生全員がかつて予想した通りの未来が、情報の正確性を補強して周囲に伝播していく。
残虐で陰湿な格差体制が更に強固なものとなっていく。
その救いの無いループの果てに出来上がったのが提督の目の前に立つ醜悪な娘。
上っ面のプライドと上っ面の可憐さの内側はヘドロよりも吐き気を催す腐臭と醜悪を撒き散らす。
愛や人気と言ったものと引き換えに、艦としての誇りすら失った人間の末路。
恐らく睦月・如月型艦娘も伊58から聞いた話を聞いた限りでは、そういう艦娘だったのだろう。
だがあの番組によってその地位が貶められ、彼女らは一気に最下層まで堕ちた。そんな彼女達の結末があの窓際の首吊り死体だ。
ヒエラルキー最下層に置かれた彼女達に同情も何も無い。ただ他がそうしている通り、消耗品として殺されていくだけだ。
ブラック提督はそれに気付いているのだろうか。気付いていないのか。それすら当然の結果として受け入れているのか。
それとも自分の考えに追随する者として彼女達すらも自己陶酔の消耗品としているのだろうか。
いずれにせよ、この元凶は特務提督達だ。
戦略的に何ら意味の無い格差を設けた事による意味の無い悲劇。無意味な傷と無意味な死。
もし彼らがこれを見たらどう思うだろうか。怒るだろうか、悲しむだろうか。これは嘘だこれは夢だと認めないだろうか。
だが彼らにはそんな権利すらない。そんな権利を与えられるべきではないし、そんな権利を持っているという自覚すら与えられるべきではない。
何故なら今目の前に広がる地獄こそ彼らの軽率な考えの産物なのだから。
彼らが一人一人の人間として艦娘を見ていたのならば起こりえなかった地獄。
そう。『ならば』だ。これは仮定の話。つまり現実はそうならなかった。だからこそ提督は今この地獄を目撃している。
この地獄の本質は掃き溜めだ。誰もが見向きをしなかったからこそ産まれてしまった地獄なのだ。
そして、人が人であるが故に産まれた地獄でもある。
「意味わかんねーよ死ねバーカ!!!」
「あはははは!!それポプテピ!?ポプテピ!?あはははははははは!!!!」
提督の目の前に立った彼の親友、漣にそっくりな別人が両中指を立てながら叫んだ。
「死ねーッ!死ねーッ!死・死・死・ね!!」
周囲の反応からしてまたネットや漫画のネタなのだろう。そんな所まで彼女にそっくりだ。だが、それ以外は全然違う。
どうして同じ漣型艦娘なのに。どうして、こうなったんだ。
提督の知る漣は、漣型駆逐艦娘の面々はあんな残酷な事をするような人間ではない。
漣も、潮も、曙も、みんな誰かを想っていた。助けたいと、苦しみを取り除きたいと、誰もがそう思って動いていた。
今はもういない朧も、確かそうだった。
それが彼が知る漣型駆逐艦娘だ。ではこの目の前のこいつは何だ。
周囲に立ってこちらを嗤うこいつらは何だ。どいつもこいつも嗤ってやがる。
どいつもこいつも自分より格下と見るや否や奴隷のように扱い、虐め殺す最低のクズどもだ。
でなければ今ここにはいない。鎮守府を去っているか、それより前に殺されているか。
もしくは先程の雷の発言に反論するはずだ。
だが現実にはここにいる誰もがそう信じ、自分が特別、自分は愛されていると実感していた。
雷の発言に何ら間違いは無い。
自分達は愛されているから何をやってもいい。愛されているから死なない。
そう心の底から信じていた。
「てめぇが死ね」
提督が思わず呟いた。精一杯考えて思いついた反撃の言葉だ。だがあまりにも小さい。
それでもその言葉に気付いた一人が、目を見開いて提督に近付き胸倉を掴む。
「なんて事を言うんですか!!」
左頬をぶん殴られてまた地面に倒れこんだ。
「許しません!絶対に許しません!!」
マウントを取られ、乾いた音と頬の痛みと同時に視界が激しく左右に揺れる。
「流石お母さん!流石お母さん!!母は強し!母は強し!母は強しぃぃぃぃぃぃー!!!」
誰かが叫ぶのが提督の耳に入る。状況がグルグルと変わるせいでもう誰が発言しているかも提督にはよくわからない。
だが誰が殴ったかはわかった。軽空母艦娘鳳翔だ。
何が母だ。こいつが本当に母を気取るなら潜水艦娘を虐げている時に止めるべきだった。
だがこいつはそれをしなかった。所詮こいつも周囲の奴らと同じ。自分の地位に甘え、自分の地位を優位に感じ、それに酔っているだけ。
『母』という魅力、いやこの場合は属性と言った方が正しいか、に甘え酔っているだけで何もしない醜悪な人間。
『鳳翔』という名に酔い、『鳳翔』という名声に依存し、『鳳翔』という存在に甘える醜悪な人間。それがこの鳳翔だ。
「さっきから如月如月如月如月うるせぇんだよ」
鳳翔が身体の上からどいた途端、今度は髪を掴まれて頭を持ち上げられる。
強引に動かされた視界の先で天龍がその手の中に何か布のような何かを握り締めていた。
「だったらこれでも食ってろクソがァー!!!!」
それが口の中に強引に捻じ込まれる。
「オラこいつは!おまけだぁ!!!」
如何ともし難い臭いに吐き出しそうになる所に更に何かが捻じ込まれた。
口の中に一杯に詰め込まれたそれらを口と喉の動きだけで吐き出す事はできない。腐臭に近い何かと身の危険を感じる味が滲み出す。
吐き気と口を塞ぎ呼吸を遮る何かによって提督が呻き声を上げる。
「うわぁ汚い!!」
「パンツ食った!?パンツ食った!?パンツ食ったの!?」
「パンツ食ったのぉぉぉぉぉぉぉおおおおお!!!!!!!」
その様を見て周囲がげらげらと嗤い喚き立てる。
今提督の口に詰め込まれたものは下着だ。それも首を吊られて死んでいた如月、そして睦月の下着。
わざわざ脱がせてここまで持って来て、提督の口に無理矢理詰め込んだのだ。
乾燥した糞尿がこびりついたそれをそのまま口の中に無理矢理詰め込んだのだ。
「って事は次は!?次は次は次はー!?」
「あぁ!」
「おめぇら!『爆撃部隊』の準備だァ!!」
『爆撃部隊』という言葉を聞いた途端、周囲が沸き立つ。
すかさず提督の右腕左腕右脚左脚それぞれを艦娘一人が抱え込むように掴まれた。
そのままずりずりと身体を引きずられ、階段の前まで持っていかれる。
その間他の艦娘達がどたどたと階段を上り出す音が聞こえた。
「準備はいいか?絶対に離すなよ」
「大丈夫よ。何度もやってきてるんだし今回はただの人間じゃない」
階段の上から見下ろす複数の艦娘、自分の両手両脚を掴んで引っ張る四人の艦娘。そして今仰向けになって階段の近くに置かれている自分。
今から彼に何が降りかかるか、提督はもうわかってしまった。
「えい!」
時雨型艦娘が階段から躊躇無く飛び降りた。その様子を提督は下から見つめている。そう、下から。
時雨の身体が落下し提督に近付く。時雨は提督の腹部に向かってその足を伸ばす。
時雨はバランスを崩す事無く着地し、その足は見事提督の腹部にめり込んだ。
「ン"ン"ン"ーーーーーーーーーーーッ!!!!!!!」
言葉にならない悲鳴が顎を揺らす。
時雨が身体の上からどくと今度は初霜の足がめり込む。
「ぽい!」
夕立
「それ!」
島風
「えい!」
春雨
若葉。初霜。皐月。そこから先はもう提督には見分けも付かなかった。
今までとは比べ物にならない程の激痛
口に詰め込まれた物に唾液と吐血が染み込んで感じる窒息感
絶え間なく続く激痛
強制的に吐き出される空気
艦娘達は何度も何度も階段を駆け上がり、飛び降りる。
何度も
何度も
何度も
口から吐き出された血が漏れ出し、首元を赤く染めていく。
暇を持て余した抑え役の艦娘達が手慰みに提督の両腕両脚を捻っていく。
そしてまた上から飛び降りた艦娘の足が提督の腹部にめり込んだ。
これでいい。提督はそう考えていた。
これでいい。これでいいんだ。
全部計算通りに行っている。
あんな事でブラック提督がどうにかなるわけがないというものわかっていた。
そしてその報復が来る事も覚悟していた。
ここまでは全部考えていた通りに行っている。
そう言い聞かせ、何とか意識を保たせる事に全力を注ぐ。
後は、後は、俺がここから生きて帰れればいい。
生きて帰れればそれでいい。後は何もいらない。
どんなに惨めな目に遭おうが、どんなに辛い目に遭おうが、生きられればそれでいい。
生きるんだ。生きてここから出ることができればいい。
そう言い聞かせ、提督は何とか自分の意識を保たせる事に全力を注いだ。
生きて帰れれば、次の手が打てる。死ねば、それまでだ。
「如月パンツ号!!」
「 史 実 通 り 轟沈しましたぁぁああああーーーーーーーーー!!!!!!!wwwwwwwwwwwwwww」
げらげらげらげら。喚き立つ声がし始め、口に詰め込まれた物がつまみ出される。
思わず息を吸い込んだ。空気が触れるだけで激痛が走る。
「が!ごぶっ!ごえ」
新しい血が、びちゃとあふれ出し、床と服と身体を汚した。
身体を転がし、うつ伏せになり、腕の力で前へと進む。
生きるんだ。生きてここから出ることができればそれでいい。
そう自分に言い聞かせながら、提督は少しずつ前へと進む。
両腕に力を入れ、痛みを我慢して立ち上がろうとした瞬間
「なのDEATH!!」
真下から顎を蹴り上げられ、ひっくり返るように倒れた。
頭が揺さぶられ、視界が更に歪んでいく。呼吸がいつまで経っても整わない。
痛みだけがどんどん強くなっていく。
前を、出口を見なければいけないのに肺が空気を獲る為に顎を引く事を許さない。
これはまずい。死ぬ。
「何見てるんですか」
そう思った時、視界の外、頭上から冷酷な声が聞こえてきた。
吹雪型駆逐艦娘一番艦娘吹雪。
彼女の足が視界の上からぬっと現れた。彼女の大きな鉄の靴が。
「変態!!」
ぐしゃ、という音が提督には聞こえた気がした。
次に認識できたのは、吹雪の脚部艤装が彼の左手を手の甲ごと踏み潰している映像だ。
「ぎゃァあああああああああーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!」
痛みとその衝撃に絶叫する。
「ひっ!ぎっ!んぐ!!あぁあああああ!!!!!」
潰れた左手を庇うように右手で傷跡を押さえ、痛みを少しでも抑えるかのように横向きになり体重で左腕を押さえつける。
吹雪はそんな彼の姿を見て
鉄の靴を再び上げ
「死ねェェェェえええええええええええええええええええーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!!!!!」
提督のこめかみ目掛けて叩き付けた。
みし、と自分の頭蓋が軋むような音
頭が割れるような激痛
それらを感じながら提督はついに意識を手放した。
☆今回はここまでです☆
艦娘だって人間です。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「発見しました。潜水艦娘です」
「またか。相変わらずこの辺りは素材の宝庫だな」
「我々としては大助かりですけどね」
「全くだ。自分で自分の首を絞める人間のお家芸には笑わせられる」
「あんな馬鹿な連中が万物の霊長で居続けていいはずが無いんだがな」
「さて回収するぞ。今回ので素材が十分集まるはずだ」
「ここはどこ」
「お前がいる場所は海の底だ」
「海の底」
「体を吹き飛ばされてここまで沈んだ。覚えているかな」
「覚えています。でも、これから何をすればいいですか」
「何かやらなきゃいけない事があったような」
「そんなものは忘れろ」
「お前はそんなものよりやりたい事があるんじゃないのか」
「何も知らぬまま海を渡り、見知らぬ土地で」
「犯され」
「踏み躙られ」
「手足を失い」
「命まで奪われ」
「何も思うところが無いはずがないだろう?」
「お前が何を思っているか我々にはわかる」
「あの男に、誰かに」
「同じ目に」
「同じ位の苦しみを味わってほしい」
「どうしてこんな事になったのか全然納得できない」
「どうしてこんな、どうしてわたしがこんな目に」
「なのになんであいつらは笑っているんだ」
「あいつらも同じくらい苦しめばいい」
「納得できない」
「憎い」
「許せない」
「ではその為には身体がいるな」
「わたしがそれを用意しよう。何せ素材は沢山ある」
「素材?」
「お前の同士だ。お前と同じ感情を抱いた誰か、と言ってもいいか」
「お前は誰かとなり、誰かがお前となり、お前と誰かはそれになる」
「それになったお前は人間を滅ぼせるかもしれん」
「見てみろ。あれらが全部次のお前になる。皆お前を歓迎している」
「さぁ行けU-511」
「お前は」
「モウ」
「死ンダンダ」
「あなたは一体誰なんですか?」
「ワタシハ」
「神」
「ソシテ、今カラオ前モソウナル」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「二千十六年七月二十六日」
「潜水艦U-511、フィリーネ・シュナイダー」
「定時報告を行います」
椅子と机と白い壁、壁沿いに置かれた機材。
その部屋に彼女は一人立っていた。
彼女の目の前にはビデオカメラが置かれ、彼女はカメラのレンズを見つめながら言葉を続ける。
「…お父さん、お母さん、元気ですか?」
「パラオに着任して五ヶ月目になったよ」
「今月は色々あったよ」
一つ一つ思い出しながらU-511がドイツ語を紡いでいく。
伊58との出会い、特別鎮守府内の図書室での語らい
「新しい友達ができて、友提督さん所に遊びに行って」
そして特別鎮守府で過ごした夜。
その後姿を消した提督が、満身創痍で戻ってきた事。
「その後、ちょっと、色々あって提督さんが怪我して今泊地はお休みしてるの」
泊地から突然居なくなった提督は憲兵に連れられて泊地に戻ってきた。
顔や身体中に痣ができ腫れあがり、服は所々赤く染まった姿で、ぴくりとも動かずに。
憲兵に連れられ、否抱えられて戻ってきた彼を真っ先に見た名取の悲鳴が彼の痛々しい姿と共に脳細胞に記憶されている。
多くの艦娘が愕然と立ち尽くす中、何とか平静さを保っていた陸奥と龍田が主導となって事情の把握や医師との諸手続を済ませた。
彼女達が今把握している事はたった三つだけ。
提督が伊58の古巣であるブラック鎮守府に向かい、その罪を糾弾しようとした事。
ブラック提督と彼の指揮下の艦娘達の怒りを買い集団リンチを受けた事。
そして、今もなお提督の意識が戻らず眠り続けている事。
彼女達がわかっているのはそれだけだ。客観的な事実以外の何もわかっていない。
何故そんな事をしようとしたのか。何故たった二人でブラック提督に立ち向かったのか。U-511には何もわからない。
今泊地は秘書艦達と秘書官補佐達、そして特別鎮守府からの応援で最低限の仕事を回している。
それはU-511も同じだ。今彼女は自分に課せられた仕事をこなす為、ここに立っている。
最低限の仕事。課せられた仕事。義務。
この一ヶ月間の経験の末、その言葉を再確認する度に彼女は迷うようになった。
深海棲艦という人類の敵を倒し世界の平和を維持する。それが艦娘の仕事だ。
その為に人類が一丸となりこの脅威に立ち向かう。提督と艦娘、艦娘と艦娘同士、そして鎮守府泊地と周囲の人間。
全員で協力し合って世界を守る。彼女はそう信じていた。
だが彼女が見てきたものがその考えを変えようとしている。
搾取と虐待の末、手足を奪われた伊58。
一部の人間の欲望の為に名誉と生きる権利を奪われた如月。
それらに絶望する者。歓喜して命を奪う者。それらを嘲り笑う者。
そこには協力なんて言葉も平和なんて言葉もどこにも無かった。
人は皆悪魔だと提督は語っていた。
正義や平和が綺麗事で、建前でしかないと提督は語っていた。
なら艦娘のしている事は一体なんだ?
悪魔を守ってどうなる?守っても守っても否定され奪われなきゃいけないなら、守る意味があるのか?
手足を奪われ怯えきった伊58の姿が。鉄の手足を見て寂しそうな表情を浮かべる伊58の姿が。
艦娘としての将来を捨て、勉学に励む如月の姿が。恐怖と不信感に押し潰されて提督を求める如月の姿が。
そして何よりも、目を背けたくなるほど痛めつけられた提督の姿が、彼女が今まで抱いていた人間という概念を根底から破壊していた。
あの悪魔どもがどうなろうが知ったことじゃないんじゃないか?どうしてそこまでして守らなきゃいけないのか?
彼女は何度も何度も答えにたどり着いていた。
戦う意味がわからない。もう戦いたくない。今この場でそう言えば、全てが終わる。
艦娘U-511ではなく一人のフィリーネとして、国や家族が自分を連れ戻しに来てくれるはずだ。
この場で全て吐き出してしまえば、全てが終わる。自分は帰れる。この狂った世界から抜け出せるし、避けて生きることもできるはずだ。
それでももはや根付いてしまった人間への不信感は彼女の今後を蝕み続けるのだが、幼い彼女にはそこまで考えられない。
だが今ここで全て言ってしまえばU-511としての彼女は終わる。彼女が抱くその予想は何も間違っていない。
ここで自分の感情を全て出してしまえば、自分は家族の元に帰れる。
そう考えながら彼女は口を開いた。
☆今回はここまでです☆
いつも乙や期待のコメントありがとうございます。
エンタープライズは出せるかどうかわかりませんが、同型艦やユニコーンは出したいと思います。
あと忘れかけていたのですが、戦艦少女の方は実はもう出てます。どこでとは言いませんが。
・・・・・・・・・・・
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・・・・
・
『傲慢傲慢傲慢子!!』
『沈沈ハメハメ轟沈子!!!』
『傲慢艦娘轟沈子!!!』
『大本営は頭がパー子!!!』
『傲慢艦娘轟沈子!!!』
『運子!!!!!!!!』
あの日、特別鎮守府からの帰り道、行きでも見かけた民衆の叫び声を聞いた。
U-511は廊下を歩きながらその記憶を反芻する。
彼女には彼らが何を叫んでいるのか意味がわからなかったし誰も教えてくれなかった。
提督に尋ねても知らなくていいと言われ、それっきりだ。
だけど傍から見てもわかる敵意。ドイツにいた頃とは比べ物にならないほど大きな悪意。
それだけは言葉の意味がわからない彼女でも感じ取る事ができた。
U-511がまだU-511ではなくどこにでもいる一人の少女だった頃、彼女の周りでは艦娘というものを恐ろしい存在と捉えている人が多かった。
当然、彼女が艦娘になる事を決意した時も周囲は彼女の決意を折ろうとした。
死ぬかもしれないぞ。両親や友達ともう二度と会えないかもしれないぞ。そんな彼女の身近な心配は序の口。
ナチスの手先になるのか。そんなに人を殺したいのか。そんな罵倒が来るのも時間の問題だった。
ファシスト、ネオナチ、狂ったサディスト。ありとあらゆる暴言が飛んでくるのも時間の問題だった。
彼女は彼らの行動に恐れを感じて軽蔑もしたが、心のどこかで同情もしていた。
これまでの人生でナチスの恐ろしさを学んだのは、彼らも彼女も同じだからだ。彼らは、自分と同じようにナチスが怖いんだと感じ取っていた。
恐れるからこそ出てくる暴言。恐れるからこその行動。彼女は彼らの行動に対してそう解釈していた。
自分も同じドイツ国民だからこそ、それらの一種の暴挙にも理解が示せた。
だがあの日あの時見た民衆が、彼女の価値観を歪ませていく。
あの連中は何だ。恐れでもない。義務でもない。悪意だ。悪意だけが滲み出ている。
悪意を撒き散らす事でのカタルシス。射精感といっても差し支えない程の解放が彼らの行動原理。
そしてあれが、自分達が守る人々。あれが、自分達が戦った結果。
あれが本当の人間で、もしかしたらドイツにいた頃のあの人達も彼らと何も変わらないのでは。
ナチスという言い訳を使い、悪意を撒き散らす事を目的とした集団だったのでは。
もし、そうならそれは、ナチスと何が違うのだろうか。
ナチスが絶対悪である理由が虐殺や差別にあるのだとしたら、彼らがしている事は何が違うのだろうか。
正義という言い訳を使い、悪意と暴力を撒き散らす事を目的とした集団であるのならば。
人種主義反ユダヤ主義という言い訳を使い、悪意と暴力を撒き散らしていったのがナチスであるのならば。
ナチスがあってはいけなかったものだとしたら
彼らもまた、あってはいけないものではないのだろうか。
U-511の視界に扉が見えてきた。それはもうこれまでに何度も見てきた執務室の扉。
定時報告用の記録メディアを手の内に感じ取り、その扉と向き合い、ノックする。
返事が返って来た事を確認してからU-511は扉を開けた。反芻した記憶の感触を胸で感じながら。
そういえば、と彼女は思い返す。
あの叫び声を塗り潰すように大音量で車内に響いた歌も覚えている。
提督が一番好きな歌だと教えてくれたあの歌は暗く、重く、それでいてどこか軽快な音。
英語で紡がれるその歌声が語るものはその意味がわからなくてもある程度察しがついた。
あれは呪いだ。
何もかもを黒く塗り潰す。
その呪いの歌は、その題名の通り車内に届く悪意の叫び声を黒く塗り潰していた。
U-511「これ…月次報告です」
大淀「はい、承りました。それじゃあこれは検閲してからドイツ支部に送りますね」
愛宕「お疲れ様。ユーちゃん」
U-511「………」
U-511「大淀さん」
大淀「はい?」
U-511「大淀さんはどうして戦っているの?」
U-511「大淀さんは人間が好き?」
大淀「どうしたんですか?」
U-511「ユーは、よくわからないんです」
U-511「ユー達が戦ってどうなるの?」
U-511「戦って勝って、またでっちみたいに不幸な人が増えるの?みんなを幸せにしたいから戦うんじゃないの?」
U-511「外で集まってる人たちを増やしたいとか、誰かを傷付けたいから戦っているんじゃ、ない」
U-511「でも、ユー達が戦ってそうなるんなら」
U-511「ユー達が戦う理由なんて無いんじゃないかな、って」
U-511「Admiralだって…如月ちゃんだって」
U-511「もし今頃人間が深海棲艦に負けてみんないなくなってたらあんな事にはならなかったんじゃないかな、って」
U-511「ユー達が戦って増やすのは、何?」
U-511「ユー達がやってる事って意味があるの?」
大淀「それは…」
愛宕「意味なんて無くても、私達はこれがお仕事だからね」
愛宕「泊地を運営して、深海棲艦を倒して、海の平和を取り戻してお給金を貰う」
U-511「でも、お給金なら別に他のお仕事でも」
愛宕「そうね。艦娘になんてならなくたってどこかのお仕事に就けばお給金は貰えるものね」
愛宕「学校を卒業して、どこかの会社に就職して、彼氏と結婚して…そんな生き方もあったかもしれないわ」
愛宕「でも、もう無理よ。もう戻れない。戻りたくもない」
U-511「どうして?お給金以外に何かがあるの?」
愛宕「…ユーちゃん。今ユーちゃんが言ってた事は誰かに話した?」
U-511「ううん」
愛宕「ご両親にも?」
U-511「………うん」
愛宕「そうなのね、ユーちゃんも私達と同じ、かな?」フフッ
U-511「同じ?」
愛宕「ねぇユーちゃん。どうしてその事をご両親に言わなかったの?ユーちゃんならそれを言えば、すぐにここから離れられるでしょう?」
愛宕「戦う理由もモチベーションも無くなったなら、それを言えばいつでも帰れるのよ?」
U-511「だって!!」
U-511「ユーは…どうすればいいのかわかんない」
U-511「もう守りたくない、でも…怖い」
愛宕「何が怖いの?正直に教えて?もしかしたら私も一緒かもしれないわ。私も怖いものがあるもの」
U-511「ここを離れるのが、怖い」
愛宕「どうして?」
U-511「…離れたくない」
U-511「でっちと離れたくない。しおいと離れたくない。イクと離れたくない。イムヤと離れたくない。はっちゃんと離れたくない」
U-511「雪風と、大和と、香取と…」
U-511「Admiralと離れたくない」
U-511「もう会えないなんて嫌。でも…」
愛宕「戦う理由なんてそれで十分よ」ギュッ
U-511「!」
愛宕「私も人間がどうとか世界がどうとかなんて関係ない。提督と一緒にいたいから戦ってるのよ」
愛宕「大淀もでしょ?」
大淀「…うん」
U-511「大淀さんも?」
大淀「ユーちゃんはこれまでずっと世界の事や人間の事を考えて戦ってきたんですね。偉いね、本当にユーちゃんは偉い」
大淀「でも、もう無理はしなくていい」
大淀「世界がどうとか人類とか、私はもう信じていないもの」
大淀「私も最初は信じようとしたけど…そのせいで、提督は壊れた」
大淀「一度だけじゃない。二度もよ、二度も私はあの人が壊れる所を見させられた」
大淀「私はああなる前の提督を知っている。今よりもっと子供っぽくて、だけど今と同じくらい優しい人だった」
大淀「今の提督はあの時と変わらず優しいけど…」
大淀「人殺しの目をしている」
大淀「…多分、また壊れる事があったら今度こそ」
大淀「提督は取り返しの付かないところまで行ってしまう」
U-511「取り返しの付かない…?」
大淀「死ぬか、それともまたもっと別の…うまく言えないけど、何かが起こる」
大淀「それが嫌なのよ。だから私はここにいる。すぐ近くであの人を見ていられるこの仕事をしている」
「理由なんてそれで十分」
「私は提督の為にここにいる」
「私と同じ屋根の下で、私と同じご飯を食べて、私と同じこの部屋で仕事をする、私の提督」
「あの人の為だけに、あの人を守る為に、あの人が幸せになる事だけを願って今ここにいる」
「あの人が、みんなの幸せを願っているから、私は彼とみんなの幸せを願って動く」
「あの人に、死んで欲しくないから、私は彼の未来を願って動く」
「愛してるのよ。提督を」
「提督も、私が愛する分…うぅんそれ以上に私を愛してくれる」
「彼を幸せにして、彼をここに繋ぎとめて、私の事を見て欲しくて今私はここにいる」
「それ以外の理由なんてない。例え他人から見たら支離滅裂な事をするとしても、いつも私の根底にあるのはそれ」
「世界だとか人類だとか、目にも見えないよくわからないものなんてどうでもいい」
「私の目の前にいる私の愛する人の為に戦う。私とあの人が幸せになれれば後の事なんてどうでもいい」
大淀「そうよね?愛宕」
愛宕「えぇ」
愛宕「私も人類や世界なんてどうでもいい。提督の為だけに動くわ」
愛宕「提督が守りたいっていうから戦ってる。提督が救いたいっていうからゴーヤちゃんを保護した」
愛宕「そうやって、提督が幸せになって私がその隣にいればそれ以外の事なんてどうでもいい」
愛宕「私が見ている世界が幸せなら、それ以外がどうなろうが知ったことじゃないわ」
愛宕「騒ぎたいなら騒げばいいし、馬鹿にするならすればいい」
愛宕「それで幸せになるなら勝手になればいいし」
愛宕「死ぬなら勝手に死んで頂戴って感じ」
愛宕「人類の敵と唯一戦える艦娘って言ったって私も一人の人間なのよ?」
愛宕「好きな人とは一緒にいたいし美味しいものは食べたいし、世界とか人類全体をどうこうできるほど大きな存在じゃない」
愛宕「だからこれでいいんだって、思う。自分の幸せの事だけを考えて生きていけばそれで…」
愛宕「ユーちゃん。自分に正直になりなさい」
愛宕「帰りたいっていうなら手配する。提督だって、ユーちゃんを無理矢理残そうだなんて思わないはずよ」
愛宕「でももし泊地(ここ)に何か、失いたくないものがあるのなら残ったほうがいい」
愛宕「人類とか世界とか正義とかそんな上っ面は取っ払って、ユーちゃんが本当にやりたい事を考えなさい」
愛宕「ユーちゃん自身がどうしたら幸せになれるか、それだけを考えなさい」
U-511「………」
愛宕「もしそれが誰かを守る事であるのなら、ここ以外にそれをできる場所は無いわ」
愛宕「人類とか世界とかそんな曖昧なものじゃなくて、誰を守りたいって具体的でしっかりとした意志があるのならね」
愛宕「だって深海棲艦に対抗できる艤装の力を使えるのは艦娘だけだから」
愛宕「人類や世界だなんてそんな曖昧なものじゃなくて、ユーちゃんの家族とか提督とか、そういうのを守れるのはここ以外に無いわ」
愛宕「力を手放して家族のところにいたって、私達が負けたらみんな深海棲艦に殺されるんだから」
愛宕「でもここにいて、勝っていければ例えどれだけ辛い事があったとしても、一番望んでいるものだけは手に入る」
U-511「辛い事は、あるんだ」
愛宕「どこだってそうよ」
愛宕「全部が全部得ようとしたらただただ傷付くだけ。本当に、一番、望んでいるものの事だけを考えて」
愛宕「もし、色々考えて結局艦娘を辞める事になってもそれだけは忘れないで」
愛宕「あなたが本当に欲しいものが何なのか、それだけははっきりさせて、その為だけに生きていきなさい」
愛宕「自分が本当にやりたい事。本当に欲しい一つや二つの為だけに」
愛宕「全部欲しいだなんて、そんなのは無理なんだから」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
大淀「…ふぅ」
愛宕「お疲れ様大淀。随分喋ったんじゃない?」
愛宕「久々よ。あんな情熱的なあなたを見たの」
大淀「愛宕もね…」
愛宕「どうしたのぼーっとしちゃって、本当に疲れた?」
大淀「愛宕。『大切なものを守る為に戦う』って、私言ったよね」
愛宕「うん」
大淀「提督の、大切なものって何だろう」
愛宕「そりゃあ…」
大淀「一番大切なものよ?」
愛宕「………」
大淀「………」
愛宕「何かしら?」
愛宕「多すぎるような」
大淀「だよね」
大淀「あの人は、一番大切なものが多すぎる」
大淀「それは私であって愛宕であってユーちゃんであって雪風ちゃんであって…」
大淀「その『一番大切なもの全部』に幸せになって欲しいと願って願って願って願って」
大淀「傷付いて」
大淀「また壊れて」
大淀「それでいて」
大淀「自分がそこにいる価値を見ていない」
大淀「いつまでも、どこまでも、お子様で、完璧主義者…」
愛宕「………」
大淀「私、どうして提督が無策でブラック鎮守府に突っ込んだのかがわかった気がする」
大淀「あんな事で何とかなるならゴーヤちゃんみたいな子が出るはずがない。ほぼ完璧に守られているからあんな振る舞いができるってわかるはずなのに」
大淀「提督だってそういう事を考えていなかったはずがないのに」
大淀「だけどもし提督が最初から」
大淀「『糾弾に失敗して私刑に遭う事まで考えて動いていた』としたら」
大淀「…提督が目を覚ましたら、何が起こるんだろう」
大淀「私達は、どうすればいいんだろう?」
愛宕「大淀。起こっちゃう事に対してどうもこうもないわ。私は私の幸せの為に動く」
愛宕「それで誰がどうなろうが、私が幸せになれるなら知ったことじゃないわ」
愛宕「大好きな人と一緒に幸せになる。それ以上に素敵な事なんて何も無いんだから」
愛宕「その為だったら私は…」
愛宕「また、人を殺すわ」
☆今回はここまでです☆
冬イベでグラーフツェッペリンが二人来ました。
烈風の上位互換滅茶苦茶おいしいです。
本当に大切なもの。その言葉を何度も繰り返しながらU-511が廊下を歩く。
本当に大切なもの。本当に守りたいもの。
人類を守る。そんな大義名分を捨て、本当にやりたい事とは何か。
U-511はすぐに思いついた。
彼女が艦娘になる事を決意した最初の想い、そしてここに来てから芽生えた大きな想い。
家族を守る事。提督を守る事。彼女にとってそれが根元なはずだったのだ。
でも、だからと言って。それでも彼女は迷い続けた。本当にそれでいいのかと、悩み続けた。
家族の命と他の人間全てを天秤にかける事が正しい事なのか。
それでも、他人を優先してその先に待っているものがあの惨状なのだとしたら。
悩み続け歩き続ける途中で見知った、気を許せる姿が見える。雪風だ。
「ユーちゃん、定時報告終わったの?」
「うん。これからAdmiralの所に行くけど、一緒に行く?」
この道でばったり会うという事は、つまりそういう事だろう。
そう察してU-511が誘うと雪風は頷いた。
しかし、そこからの会話が繋がらない。ただ無言で歩き続ける。
音楽がかかっていない廊下で二人の足音だけが響く。
足音が無言の空間に響く。まるで気まずさに言及するように足音が響く。
「雪風、今、何を考えているの?」
雪風と共に過ごし、会話が途切れる事は今まで無かった。つまり雪風の様子がおかしいという事だ。
U-511は少ない語彙から言葉を選び、雪風に問いかける。
「別に、何も」
そして返って来た答えがこれだ。会話が繋がらず、無言の空間に逆戻りした。
U-511の問いかけを不快と思ったわけではない。
U-511と共に過ごす事に嫌悪感を抱いているわけではない。
雪風は、今の自分の考えを誰かに知られるわけにはいかなかったのだ。
特に、今彼女の隣にいる友人、U-511には絶対に知られるわけにはいかなかったのだ。
『伊58を助けなければよかった』
今の雪風の考えを一行で表すのならばそうなる。
それを知ればU-511は怒り、雪風を軽蔑するだろう。今やU-511と伊58は友人同士なのだから。
それがわかっていても、雪風は自分の行動を後悔した。
泊地に伊58が現れ、伊58の鎮守府に提督が向かった結果、提督はリンチに遭いボロ雑巾のようになって帰って来た。
そして未だ目を覚ましていない。いつ目覚めるかもわからない。もしかしたら彼が死ぬまでずっと目覚めないままかもしれない。
伊58を助けたのは自分だ。つまり、今提督が意識不明の重体になったのは雪風自身が原因である。彼女はそう考えていた。
自分が気付きさえしなければ、あの時蒼龍達の静止を無視しなければ、提督に褒められたいと思わなければ、提督があんな事にならずに済んだ。
そうでなくても、あの時の魚雷が自分に直撃していればよかった。
魚雷が不自然に逸れた時、雪風は心の底から安堵し喜んだ。
伊58を助けた事を提督に褒められた時、そしてその後の一連の流れも雪風の中では幸せな思い出として残っている。
自分が自分だけが幸せになろうと思ってしまったから、こんな事になってしまった。
その考えが雪風の胸中に打撲のように滲む痛みを広げていく。
「よくわかるでしょう?」
「雪風の幸運が多くの不幸と引き換えにもたらされているんだって」
頭の中の声が響く。以前雪風の事を教えてくれた、どこからか聞こえる声。
幸運とは他の不幸との引き換えだ。そしてその代償を払うのは幸運を感じた自身とは限らない。
駆逐艦雪風の幸運の代償は常に誰かが払い続けてきた。
敵も味方も、全員が雪風が生きるという幸運の代償をおっかぶり傷付いていった。
今も何も変わらない。伊58を見つけた事、無事に連れ帰れた事。それら全ては雪風の奇跡であり幸運だった。
だからこそ、その代償を提督がおっかぶった。彼は意識不明の重体となった。
雪風はそう望んでいなかったが、そうならざるを得なかったのだ。
伊58が泊地に辿りついた瞬間から、こうなる事は決まっていたのだ。
自分が雪風でなければ、あの時の魚雷が直撃して伊58は死んでいただろうし、そもそも見つける事すらできなかった。
自分が幸福になろうと考えなければ、提督が傷付く事もなかった。
だからこそ、雪風は心の底から自分の責任を感じ、人命救助を心の底から後悔した。
例えその結果、友人に新しい友人ができたとしても。
いや、だからこそ、それを知られるわけにはいかなかった。
だから雪風は何も言わなかった。だから雪風は自分の心を隠した。
「あ」
「でっち…Admiralは?」
目の前の扉から伊58が出てきた。その表情は暗い。彼女は無言で首を横に振った。
失った手足を再び与えてくれた男が、古巣の人間にリンチにあって意識不明。
その辛さをU-511は100%正しくイメージできないが文面としては理解できる。
今伊58から目を逸らした雪風の心情は理解もイメージもできないが、察する事はできる。
それは言葉としても表せない余りにも曖昧な予感に過ぎない。だが今自分がするべき事は伊58の傍にいる事だと理解した。
提督が泊地に戻ってきてから、特別鎮守府から睦月と曙が毎日来ている。
目的は泊地の秘書艦如月だ。彼女にとって提督の受難はショックが大きすぎたのだ。
絶大なハンディキャップを背負う彼女にとって今の提督の姿は猛毒以外の何物でもない。
だから今の提督を如月に見せないよう、如月が提督に会いに行かないよう支え、悪く言えば監視する必要があった。
一班の夕立と潮、睦月と曙、そして空母班や金剛型の人々が中心となって日々彼女を支えようと彼女の元に通っている。
如月は泊地の中心人物だ。多くの人に大切にされている。U-511は常日頃から如月に対してそう感じていた。
自分とそう歳が変わらないにも関わらず秘書艦に抜擢された事、駆逐艦娘だけではなく空母艦娘や戦艦娘との交流も盛んな事。
飛龍や蒼龍、金剛や比叡と一緒に食事をしている光景が彼女の印象として強く残っている。
如月は本当に多くの人に大切にされている。だけど、伊58はまだそうなれていない。
彼女もまた大きなショックを受けた一人だ。感情を量で測れるのならば、彼女の負担は如月と同等かそれ以上かもしれない。
だが泊地の艦娘達は如月に気を取られ、彼女を支えられなくなっている。
如月がそう支えられているように、伊58も支えなければならないはずだ。
そしてそれは今の自分がやるべき事なのだろう。
まして伊58の命を救った当事者である雪風が伊58を見てそんな顔をするというのならば。
「雪風。やっぱりユーは、でっちと一緒にいるね」
そう判断したU-511は伊58の横に付いて共に歩く。
本当に大切なものの事だけを考える、とはこういう事なのだろうか。
雪風の視線を背中で感じながら、愛宕と大淀が教えてくれた言葉の意味をU-511は探り続けた。
U-511が去り、雪風は一人で部屋に入る。
この部屋に入れば提督が目が覚めているかもしれない。
そんな事が起こるはずがないと理解しながら心のどこかで期待していた。
だがそんな彼女の目の前に映る光景はある意味全く予想もしなかったものだった。
伊401が、提督の上で馬乗りになっている。
「提督」
両手で提督の頭を支え、誰にも見せない表情を浮かべ、頬を赤らめ、提督の顔に唇を近付けていく。
目をつぶり、首をかしげ、ドラマの1シーンのように唇を捉えようとする。
「しおい?」
伊401の唇が触れるか触れないかの距離に近付いた瞬間、雪風の声に跳ね飛ばされるように遠ざかった。
え、あ、は、と顔を赤くしながら雪風から目を逸らす伊401に追撃をかける。
「とりあえず、降りて」
「はい」
「何してたの?」
「…キス」
『は?』たった二文字で表せる感情が一瞬にして雪風の脳内に埋め尽くされる。
この子は一体何を考えているのか?どうしてそんな事を考えたのか?
「キスしたら、提督の目が覚めないかな、って」
『は?』たった二文字で表せる感情が疑問で埋め尽くされた雪風の脳内にずどんと圧し掛かる。
「駄目かな?」
雪風は返事の代わりに思いっきり白い目で伊401を見つめる事にした。ずっとずっと見つめる事にした。
駄目かな?じゃないよ。言葉に出さず表情に出したままずっと伊401を見つめる事にした。
「うー、あー、悪かったよぉ!じゃ!!」
いそいそと退室する伊401の姿を雪風はずっと同じ表情で見つめていた。
ばたんと音が鳴り、部屋には彼女と目覚めぬ提督だけが残される。
思わず溜息が漏れた。こんな状況で彼女は何を考えているのだろうと。
伊401と雪風は歳が近く、着任もほぼ同時期でお互いがお互いに話しかけやすい環境だった。
休暇で遊ぶ事もあるし、趣味趣向の話で盛り上がったりもする。
活発で能動的な彼女と行動を共にする事を雪風は好んでいたし、彼女のそういう所に好感を持っている。
だが彼女は少し、悪い人でもあると常日頃から感じていた。
歳相応の腕白。可愛らしい甘え方。そう捉えるのが相応だが真面目な気性かつ幼い雪風にはまだその度量はなかった。
夜更かし、悪戯、そしてまだ踏み入れてはいけない大人の世界。それらを自分に持ってくるのは大抵伊401だと雪風は記憶している。
ワレアオバ、という通称の隠し撮りの存在にいち早く気付き雪風に持ってきたのも伊401だ。
電気を落とした深夜の部屋で、彼女と同じ布団の中で視たスマホの映像は衝撃的過ぎて忘れられない。
助平だ。伊401を悪く言うとしたら雪風は彼女をそう評する。彼女はやたらそういう所に興味を持つ。言い換えるならば『ませている』のだ。
今だってそうだ。キスで目が覚める?そんな事があってたまるか。
御伽噺じゃあるまいし。ただ自分がキスしたいだけだろうに。
そんな奇跡が起こってたまるか。そんな奇跡が。奇跡が。奇跡が。
奇跡が。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡。奇跡??
奇跡。その言葉に至った時、雪風は妙な気配を感じたかのように提督の顔に視界を移す。
奇跡。奇跡。奇跡。言葉が繰り返されるごとに雪風の視界が狭まっていく。
テープやガーゼ、包帯で覆われ、見ていて気分がよくもならない提督の顔。
何にも塞がれず、まるでその為だけに用意されていたかのように晒されている彼の唇。
魔法が解けるように、異性のキスで目が覚める。そんなものは童話だけだ。
ありえない。そんな奇跡は起こらない。
本当にそうだろうか?
雪風が唾を飲み込む。奇跡は起こらないのだろうか?本当に起こらないのだろうか?
心臓が高鳴る。何故そう言い切れる?仮に起こらないとしても、万が一があるのではないか?
何故なら自分は雪風だからだ。深い眠りに沈む男の唇を見ながら少女はそう自答した。
奇跡の駆逐艦雪風。幸運艦雪風。それが自身だ。自分自身だ。
他の誰かができない事でも、自分ならば、雪風ならば、奇跡を起こせるのではないだろうか?
自分は幸運艦雪風だ。今までだって、幸運だったから生き延びてきた。
幸運艦だったから、自分は幸せに生きてこれた。これからもそうだろう。何故なら自分は雪風だからだ。
ならば。靴を脱ぎ、ベッドに乗る。ぎしと音を立てながら雪風は提督の身体を両腕両脚で囲い込んだ。
彼の頭を包むガーゼや包帯の端から青痣が見える。
内出血の様相がグロテスクに浮かび上がり、傷が腫れ上がり輪郭を歪ませている。
それは常人からしてみればとても見れたものではない。カエルより醜いとも捉えられるそれにキスをするなど誰が考えようか。
だが雪風の精神は常人のそれではなかった。
責任感と義務感、罪悪感と焦燥感、優越感、慢心、傲慢
そして下腹部から湧き上がる衝動が彼女の精神を狂気の沙汰に至るまで高揚させ、彼女を非常人へと変えた。
「司令」
「幸運の女神の、キスを、感じてください」
自分が起こした幸運の結果が今の提督ならば、自分が彼を癒さなければならない。
奇跡を起こして彼を目覚めさせる義務がある。それはこの幸運艦雪風にしかできない責務だ。
他の誰にもできない。羽黒にも、那珂にも、大淀にも、伊401にも、如月にも、他の誰にもできない。
自分の、雪風の、自分だけの、自分だけの特権だ。他の誰かができる役割であってたまるか。
そう自分に言い聞かせ、雪風は湧き上がる衝動の全てを彼の唇にぶつけた。
彼女の舌が感じ取ったのはレモンの味も、血の味もしない無味だった。
頭をがっしりと掴み、肘と膝の支えすら無くし、提督の身体にべったりとくっ付く。
軍服から着替えさせられ薄着になっている提督の身体の感触が、彼に押し付けた身体から伝わってくる。
青葉から貰った映像を思い返しながら、提督に自分の何かを分け当たえ彼は抵抗せずに全てを受け入れていく。
彼女自身の幸運だけではない、感情の全てを送り込んでいく。
どれだけの時間そうやって過ごしたか、ただ彼女は傷付いて目覚めぬ提督に口付けをし、彼女が持つ全てを彼に分け与え続けた。
たった一行で表せる行動を数秒、数分、数十分も延々と繰り返した。舌に流れる電流と息苦しさに喘ぎながら、その行為だけを延々と。
「司令、司令、司令、しれい、しれい、しれい、しれい」
奇跡を起こす。その建前すらも湧き上がる衝動が吹き飛ばそうとしていたその瞬間、提督がびくと動いた。
「…あれ?」
聞きたかった提督の声。
「しれぇ!」
「え、雪風?ここはどこ?」
「しれぇ!しれぇ!!」
自分の名前を呼ぶ提督の声に感情が暴走する。
二度と聞けなかったかもしれないその声を雪風は再び聞いている。
あぁ、あぁ。雪風は奇跡を起こしたのだ。
そして雪風は確信した。
やはり雪風は、奇跡の駆逐艦。幸運艦なのだと。
かつて目の前の彼がかけてくれた言葉は、今この瞬間内なる声と衝動に塗り潰された。
全身で彼を感じながら、雪風は彼から与えられたものを忘却した。
それでも状況が飲み込めていない提督以外の全員が笑っていた。
雪風も、彼女に問いかけ惑わす彼女の頭の中の声も。口角を上げてその奇跡を味わっていた。
異性のキスによって目覚めるという童話のような奇跡。それが今現実となった。
その奇跡の代償、幸運の代償がある事には誰も気付いていなかった。
童話のようなロマンティックな奇跡。
その代償は、焼けた鉄の靴を履かされ死ぬまで踊らされるものだと相場が決まっているのだ。
そして提督はその代償と、そもそも奇跡が起こった事にすら気付かないまま自分勝手に思考を巡らせていた。
ここが自分の泊地だとするならば、青葉は無事なのだろうか。
不安だ。
青葉に会いたい。
あの子に何も起こっていなければいいのに。
青葉に会いたい。
会って無事を確かめたい。
少しずつ状況を理解しだした提督は彼に抱き付いて離さない雪風の身体を感じながら、そう考えた。
☆今回はここまでです☆
艦これ5周年おめでとうございます。
友提督は走った。車を走らせ、自分の足でも走った。
一刻も早く辿りつかなければいけない。それだけを考えながら走った。
先に泊地にいた睦月と曙と合流してまた走る。
一刻も早く提督に会わなければいけない。
意識不明の重体を負った提督が意識を取り戻した事はすぐに彼の耳にも入った。
友人が目を覚ました事は喜ばしい。だが問題はその後の事だ。
三人は泊地を駆け回り、ようやく提督を見つける。
傍らには秘書艦である如月がぴたとくっ付き提督が見やすい位置に書類を掲げていた。
「提督!!」
話し合いの途中のようだが友提督はあえて割り込んで呼びかける。これ以上その話し合いを続けさせるわけにもいかないのだ。
「お前、本気なのかよ」
今彼がやろうとしている事を止めなければいけないのだ。
「うん。本気」
「俺はあいつを、ブラック提督を殺す」
彼は、ブラック鎮守府に攻め入るつもりなのだから。
「…やめろ」
渾身の本心がかろうじて口から漏れた。
「そんな事をしたらどうなるかわからないのか?」
ブラック鎮守府の行いが許されることではないのは友提督にも十分理解できる。
だが、それでもやるべきではない。やってはいけないのだ。
「あいつは、潜水艦娘を虐待してる事を罪に問われていない!」
ブラック提督は世間一般的には清廉潔白。何の罪も無い有能な提督の一人だ。
裏で何をしていようが、賄賂で憲兵を買収している以上それが表沙汰になることは無い。
「なのにお前が突っ込んだらお前の暴走って事で話がついちまう!殺せようが殺せまいがお前は捕まる!」
だが提督は違う。彼は弱小泊地の司令官でしかない。
後ろ盾も何も無い彼がブラック提督に手を出せばたちまち憲兵に見つかり捕まる。
その罪もすぐに表沙汰になる。その場合ブラック提督は一方的な被害者であり、提督は一方的な加害者でしかない。
そこに正義なんて何もない。ただ個人的感情で味方を撃った最低な軍人が出来上がるのだ。
例え撃たれた奴が何十何百もの味方を個人的感情で殺してきた下種だとしてもだ。
「それが何?俺はあいつを殺したいんだ。殺さなきゃいけないんだ」
それでも提督は合理的な未来予想を放棄し、殺意でボロボロの身体を動かし続ける。
「何で…?」
「何でって、これ見てみろよ!」
そう言って彼は左手を掲げる。吹雪に踏み潰された手には包帯が巻きつけられていた。
「ちょっと文句言っただけでこんなにボコボコにされたんだ!」
「左目だって見えちゃいない!これでムカつくなっていうのは無理な話だろ!!」
そう言って潰れた左手を、左目を指し示すように顔に向ける。
これもあの暴行で受けた大きな傷の内の一つだ。彼の左目は失明していた。
かろうじて意識は取り戻したものの、片手は潰れ、片目を失明。彼はまさに半殺しにされたのだ。
「その仕返しだよ。この位許されるはずだ」
それでも未だ生きている彼の右目が殺意で満ちているのが友提督にも見て取れた。
「嘘」
その意志を曙がたった一言で、誰もが聞き取れるように、はっきりと、真っ向から否定する。
「嘘って何」
その態度には流石の提督も反応せざるをえなかった。それが曙の狙い通りだったとしてもだ。
「仕返しなんかじゃない。伊58の事でしょ」
「ゴーヤの事は…あいつは、関係ない」
提督が視線を逸らした事で曙は確信した。
「嘘が下手くそ」
仕返しというのは建前なのだと。身内ほど目を背けたくなるような重傷ですら、理由付けに過ぎないだと。
「あんた、本当にあいつらがもみ消してるってわからなかった?」
「わからなかったよ」
「嘘ね。人をダルマにして殺すような真似してる奴が何で捕まらないかなんて私でもわかるわよ」
ブラック鎮守府のやり方はあからさまだ。
四肢と首に爆弾を取り付けて殺すなんてやり方では奴隷に恐怖を与える事はできるだろうが、証拠が残りすぎる。
今まで彼らがずっとそのやり口で悪行を重ねてきて、一切の証拠が出ないなんて事はありえないのだ。
それなのに堂々としていられるのには裏がある。自分達が特別な存在であるという自覚がある。そう考えるのが普通だ。
提督より十以上年下の自分ですら気付いたのだから、提督がそれに気付けないはずがない。それが曙の考え方だった。
ここで提督が言いよどめば止められるかもしれない。
個人的な復讐ではなく伊58の為であるとはっきりさせられたなら、他の方法に導く事だってできるはずだ。
ここにいる曙や睦月を始めとした特別鎮守府の面々も提督の事を心配している。そしてこのままいけば彼が破滅する事もわかっている。
だが大本営から『パラオの英雄』と呼ばれる特務提督屈指の実力者である友提督の力も使えばいくらでもやりようはあるはずなのだ。
例え相手が賄賂で誤魔化すとしても、それを跳ね除けるだけの力が特別鎮守府にはある。個人的な報復でないのならば、いくらでも力を貸す事ができる。
言葉でなくてもいい、態度で現れれば後は強引に引っ張り、『そういう話』にしてしまえるのだ。
仕返しではなく義挙にしてしまえば、彼は破滅せずに済むのだ。
「俺は、無能だから」
その目論見は提督の、彼自身のプライドを完全に投げ捨てた言葉に打ち倒された。
「とにかく、俺はあいつを殺しに行く。殺さなきゃ気がすまねぇんだ!!」
無能だから気付けませんでした。このままじゃ納得できないから殺しにいきます。
子供の駄々こねに近いその叫びに、彼を追い詰めようとしていた曙が逆に呆気に取られてしまった。
その隙に話はどんどん先に進んでいく。ブラック提督を殺し、提督が破滅する話へと。
「如月ちゃん!提督さんに何か言ってよ!!」
ならばやり方を少し変える。提督を動かせないのであれば彼の周辺を動かそう。
丁度曙に助け舟を出すかのように睦月が叫んだ。彼の秘書艦である如月に、睦月の姉妹艦である如月に向かって。
ここが提督が破滅するかしないかの瀬戸際だ。形振り構っていられない。
「如月、あんたはそれでいいの?」
曙も友提督も如月を見つめる。彼女が今までの話を全く聞いていなかったはずはないだろう。
「私は司令官についていくだけよ」
それでも如月ははっきりとそう答え、提督の腕に絡みついた。
「それでコイツがいなくなるような事があっても?」
もう一度確認する。このままいけば提督は破滅するのだ。
提督と如月が男女の関係である事はここにいる全員が知っている。
こんな形でパートナーを失う事が彼女にとってどれだけのダメージになるかも誰もが予想できる。
「…そうはさせない。司令官は、絶対に」
三人にとってその言葉はただの理想論でしかない。
如月には現実が見えていない。そう感じ取った睦月の感情が高ぶった。
「だったら提督さんを止めてよ!!」
睦月がヒステリックに叫ぶ。
「こんな事しても何にもならないよ!!」
感情のままに如月に詰め寄る。
「どうなったって提督さんの為にもならない!!」
感情のままに合理的判断を如月に叩き付けていく。
「止めようよ!!こんな事して何になるの!?」
如月はそんな姉の姿を見て
「如月ちゃん!!」
感情を消す事にした。
如月の身体が一瞬後ろに下がった。彼らに視えたのはそこまでだ。
次の瞬間には睦月の身体はぐるりと反転し、倒れ、腕を極められていた。
経緯は視えなかった。その結果だけが彼らの視界に映った。
関節を極められて悶える睦月と、冷酷な顔で姉を見下ろす如月の姿。
「うるさいな」
「睦月ちゃんは関係ないのに口出ししないで」
その言葉が痛覚で状況を感知できない友提督と曙の意識を引き戻した。
「私は司令官についていく」
「どんな事があっても、私はずっと司令官と一緒にいる」
「どんな事があっても、どんな方法でも、どんな手段を使っても」
びき、という音が睦月の痛覚の中に流れ込んで脳を刺激する。
睦月の腕が、折れた。
「痛い!痛い、痛い…」
折った腕を放し、転がる姉を見下す。
あまりにも呆気ない。睦月の練度は如月のそれと二桁は違う、それも睦月の方が上であるというのに。
如月は表情一つ変えずに叩き伏せ、表情一つ変えずに言い放った。
「これ以上私と司令官の邪魔をするなら」
「睦月ちゃんでも殺すわよ」
侮蔑の言葉を投げかける彼女の目は提督のそれと同じようにも見え、曙はその瞬間に詰みを確信した。
駄目だ。どうにもならない。どうする事もできない。
こいつら全員本気だ。嫌だ。本気で殺しにいく。嫌だ。本気で破滅する気だ。そんなの嫌だ。
そんなのは嫌だ。でもどうにもならない。どうにかしたいのにどうにもならない。
曙には、ただ如月の目を、自分の意志を込めて見つめるだけしかできなくなった。
せめて自分が何を考えているかだけでも伝わってくれ、と願いながら。そして伝わった所で無駄だともわかっていながら。
「如月」
その状況を変えたのは提督の呼びかけだった。
「なに?司令官」
「睦月さんを入渠施設へ連れて行ってくれないか?腕折ったままじゃあんまりだ。ここで治してもらいたい」
二人は何も言わずに提督を見つめ、如月は少し驚き困った顔で提督を見つめた。
「脅しはもう済んだだろ?それに、如月の大切な姉妹艦じゃんか」
「…頼むよ。俺は、まだ曙さんが話したそうだからここにいるけど」
ねぇ、と少し崩した、甘えたような呼びかけを聞き如月は身体の力を抜いた。
「わかったわ。司令官がそう言うなら」
「もう折るなよ」
「…それは睦月ちゃん次第よ」
提督「如月はあんな感じだけどさ。ずっと気にかけてくれている曙さんには本当に感謝してるよ」
提督「あの子の友達でいてくれて本当にありがとう」
提督「俺に何かあったら如月の事は頼んだ。友提督も、できたらあの子の事を頼む」
友提督「何だよ…それ」
曙「死ぬ気?」
提督「殺しに行くんだから殺される事だってあるだろ。殺されなくたってその後社会的に死ぬんだしね」
曙「意味わかって言ってる?」
提督「勿論。動いたり喋ったりできなくなる。一切の価値の無い肉の塊になる」
提督「物を食べない分、一人分の食料を他に回すことができる」
提督「人が増えなければ、食事の量が増える」
提督「みんな満足する」
曙「何でそうやって自分の命を投げ出そうとするの!?」
曙「『何かあったら如月の事は頼んだ』!?無茶な事を言わないでよ!」
曙「あんたに何かあったらあの子は絶対あんたの後を追う!!私がどうこうできる問題じゃなくなるのよ!!」
提督「じゃあ『何があっても死んじゃいけない。如月にはまだご両親がいる』って言っておいてよ」
曙「ざけんな!!!!!」
提督「…じゃあ止めてみろよ。ぶん殴ってでも止めてみろよ」
提督「艤装を使ってもいい。俺を止めろよ。だけど俺は殺されなきゃ止まらないぞ。止めるんなら死ぬまで殴らなきゃな!」
曙「死ぬなって言ってんでしょうが…!!」
提督「中途半端なやり方で止められる程俺もあいつらもできちゃいねぇからな」
提督「所詮人間なんざ、死ななきゃ変われねぇよ」
提督「だからどうしても変えたいんだったら、止めたいんだったら殺せ」
提督「俺はそうするし、曙さんもそうする事はできるよ?止めたきゃ殺れよ!!!」
曙「死ぬなっつってんだろうが!!!!」
提督「じゃあ諦めて。俺は殺しに行く。その後どうなろうが知ったこっちゃない」
提督「俺は生きてちゃいけない人間だから」
提督「俺は死んだってどうだっていい人間だから」
曙「誰が!?誰がそんな事言った!?」
提督「あいつだよ。ブラック提督」
曙「何でそんな奴の事を真に受けてるのよ!?」
提督「事実だからね」
「俺、あいつとは研修時代からの知り合いなんだ」
「俺は特務提督の中でも成績が悪くて」
「どれだけ頑張っても、どれだけ考えても全然上手くいかなくて、何やってもダメで、色々なことをやらかして」
「その度に言われたんだ。『生きてる価値も無い』って」
「辛かったよ。だから否定しようと努力したんだ。でも駄目だった。何度やっても失敗する」
「何度やっても上手くいかなくて、何やってもダメで、何かやろうとしたら変なことやらかして」
「『そらみろやっぱりこいつには価値が無い』」
「だから俺は本当に生きてちゃいけない人間なんだって納得した」
「あいつらは、間違っていないんだって。だってあいつらはいつも、上手くやっていたから」
「でも、でもだからってただ死んでいくのは嫌だ!!」
「どうせ死ぬなら誰かの為に死にたい!今まで迷惑をかけてきた分、俺の命を使って誰かを助けたい!!」
「人を殺すのが犯罪だって事くらい俺にだってわかるよ!」
「でもあいつらが人殺してケラケラ笑ってる奴なのに俺が手段選んでちゃ何もならないだろうが!!」
「同じ土俵に立つなとか、同じレベルになるなっていうけどさ、やらなきゃどうにもならねぇ」
「俺ができるのは本当に手段を選ばずに動く事だけだ」
「そんな事俺にしかできない。この先生きてる価値が無い俺にしかできないんだ、これは」
曙「だから、伊58の事を隠してブラック提督を殺そうとしているの?」
提督「そうだよ。罪に問われないとかそんなのはどうでもいい」
提督「あの子にとって、あいつらが今生きている事自体が問題なんだ」
提督「あいつらが傷付かずにのうのうと生きているだけであの子はずっと苦しまなきゃいけない」
提督「邪魔なんだよあいつらは。ゴーヤが生きていくのに邪魔でしかないんだ」
提督「あいつを、あいつらを、いなくなった過去の人間にしねぇとゴーヤはこれから生きていくだけでも辛いんだ」
提督「ゴーヤがこれから、自分の手足の事も含めて生きていくには、あいつが生きてちゃいけないんだよ」
提督「逮捕とかじゃ駄目だ。死ななきゃ、殺さなきゃ、何にもならねぇんだよ」
友提督「でもそれを理由にすれば伊58に疑いの目を向けられる」
友提督「だからお前は、無策でブラック鎮守府に突っ込んでわざとリンチを食らった」
友提督「仕返しっていう体裁が作れれば憲兵もそっちに目が行って伊58に疑いの目を向ける事はなくなるから」
友提督「まして研修時代に虐められてたっていうなら、その仕返しと思うのが憲兵側から見たら自然」
友提督「つまりそういう事か?お前は自分の復讐心を利用してゴーヤを助けたいと」
提督「ゴーヤがブラック提督の所の艦娘だったっていうのは知らなかったけどね」
提督「でも、後は友提督の言うとおりだ。おかげでもっとやりやすくなった」
提督「俺が例えブラック鎮守府の連中を皆殺しにしたとしても、憲兵は俺個人の復讐だと思うだろ」
提督「そうなったら誰もゴーヤを気に留めない。俺がやる事でゴーヤに迷惑がかかる事はないんだ」
曙「それじゃあ如月はどうなるの?」
曙「あいつは、アンタの為に人を殺すのよ。人殺したら当然罪に問われる」
提督「大丈夫。それもちゃんと考えてある」
提督「俺の泊地の艦娘は、誰一人として罪に問われない。問われたとしても情状酌量の余地はある」
提督「そう思って貰えるように用意はしてある」
曙「で、アンタは死ぬと」
提督「ゴーヤを助ける為には手段なんて選んじゃいられないんだ」
提督「あの子はまだ自分の手足を失った事を受け入れられていない。傷付けられてきた事を忘れられていない」
提督「もう時間は無いけど方法が無いわけじゃないんだ」
提督「誰もやらない、誰も選ばないやり方…だってこれをやったら自分が死ぬ」
誰もやらないやり方、つまり加害者を殺して過去の人間にする事。今後一切の痕跡を絶つ事。存在そのものを無くす事。
殺人は犯罪だ。やれば捕まり、その罪は一生消えない。死ぬまで永遠に残り続ける。
ブラック提督のような特例もいるが、そう簡単に人は特別な存在にはなれない。そんな実力も財力も無い。
だからこそ人は人を安易に殺さない。そこには理性や慈愛があるわけではない。
やれば捕まるという強迫観念、一種の恐怖政治が機能してこそ、法により殺人が抑止される。
誰かを愛する心、誰かを傷付ける事を嫌う心が殺人を抑止するのではない。
自分の身が可愛いと思う人間こそ、自分の人生が何よりも大切だと思う人間こそが、法によって抑え付けられる。
慈愛などというくだらない概念ではなく我が身可愛さこそが、この世界の秩序を保っている絶対の感情なのだ。
提督「でも俺なら何も問題はない。俺は死んでもいいんだから」
曙「だから死んでもいいっていうのをやめろ!!!」
曙「私はね!潜水艦娘が死のうがダルマになろうが食われようが何だっていいのよ!!!」
曙「如月が無事なら!如月が幸せになるならなんだっていい!!でも如月が幸せになるにはあんたがいなきゃいけない!!」
曙「あんたが死ねば如月はもう全部失う!如月にはもうあんたしかいないの!!あんたしか残っていないの!!!」
曙「あんたが何だろうが他の誰に何を言われようが、あいつにはあんたがいなきゃ駄目なのよ!!」
曙「それを、わかれ…!!」
提督「わからないよ。何で俺じゃなきゃ幸せにできないなんてわかるんだ?」
提督「男なんて星の数いる。それに俺よりいい男が大半じゃん?なら俺と一緒にいたっていい事なんて無いんじゃないか?」
提督「そりゃ最初は辛いかもしれない。でも如月だって俺がいなくなればわかるはずだ」
提督「『人を殺してくれるか』なんて聞いてくる奴がまともであるはずがなかったって」
ブラック鎮守府に攻め入る。
この泊地の艦娘にそれを伝えた時、心のどこかでみんながここを去る事を期待していた。
そうなればそうなったで彼は一人でブラック鎮守府に突っ込み、上手く行ったとしても刺し違える程度で終わるつもりだった。
予防策は張ってあるとは言えそれが通じなければ罪に問われる。そう考えて彼は艦娘達には転属願いの案内もした。
この泊地と無関係になれば罪に問われないし、逆にこのタイミングで抜け出した事が評価に繋がるかもしれない。
確固たる倫理観と断固たる正義感を持ち合わせた艦娘の演出としては最適だろう。
だからこそ彼はあえてこう言った。反対ならすぐにこの泊地から出て行け、と。
だが結果として誰一人として出て行く者はいなかった。
集会でそれを伝えた時、真っ先に侵攻部隊入りを志願してきたのは神通だった。
神通の挙手を皮切りに他の艦娘からも手が挙がり始め、泊地が二派に分かれるのにそう時間はかからなかった。
ブラック鎮守府を攻め滅ぼす戦力として志願する賛成派か、戦力にはならないが文句は言わない消極的賛成派。その二派だ。
だが集会が終わった後からも志願者は増え続け、消極的賛成派はじわじわと数を減らしていった。
その有様を第一人者として見届け続けた提督は、心の奥底で彼女達を罵った。
『お前達はどこまで都合のいい女でいれば気が済むんだ?』
口には決して出さなかった。出した所で彼女達を傷付けるだけだし、何と返ってくるかも予想がついたからだ。
予想はつくが、彼が理解しようと思わない感情。彼自身が毎日のように向けられる感情。
合理的な考えを放棄するその感情を、それを自分に向けられる事を提督は何よりも嫌悪し危険視していた。
何故自分にその感情を向けるのか、理解できなかった。そしてその感情の赴くままに自分に媚びる艦娘を哀れんだ。
その感情は艦娘達にとって害でしかない。そう信じていた。
艦娘達はどういうわけかその感情に縛られがちだ。
何故そうなるかなど全くわからないが、多くの艦娘がそういう感情を持ち合わせている。特性か、洗脳か、それともまた別の何かか。
だが間違いなく言える事は男に媚び、男の為に殺人まで犯す、男にとって都合のいい女が幸せになれるはずがないという事だ。
だから自分は死ななければならない。ただ離れるだけでは彼女達の感情を切り離す事はできない。
自分がこの世からいなくならなければ、彼女達はずっと自分に縛り付けられたままになる。
誰かに依存するのではなく、自分の意志を持って、自分の意志で生きて、自分の意志で幸せになって欲しい。
それだけをずっと願い続けてここまできた。今だってそうだ。
俺はゴーヤが今後幸せになる為に自分の身も削った。彼女が幸せになる為に邪魔になるブラック鎮守府の連中は今から皆殺しにする。
それで初めて彼女はスタートラインに立てるのだ。苦しい過去を忘れなければ、そこに立つ事すらできない。
そして自分が死ねば、他の艦娘達もまたいなくなった自分を忘れ、スタートラインに立つ事ができる。
まして先のブラック鎮守府への訪問で左手は潰れ、片目を失明した。もう二度と回復する事は無いだろう。
こんな壊れた人間にいつまでも執着していても不幸にしかならない。
壊れた玩具は廃棄処分にしなければならない。いつまでも残しておく必要なんてない。
だが今回の襲撃で全部うまくいけば、皆が幸せになれる。
戦力は揃った。作戦も立てている。後は適材適所で対応して、死人を出さずに終わらせる。
こちらからは一切被害を出さず、敵は皆殺しにする。一人でも被害が出ればこちらの負けだ。
誰一人として死なせてはいけない。あの子達にはまだ未来がある。
みんな若く美しく優しい子ばかりだ。彼女達は幸せになる権利があるし、誰一人としてこんな所で死んでいい人間じゃない。
死ぬのは自分とブラック提督、そしてあのブラック鎮守府の艦娘全員だ。
それ以上の死人は絶対に出してはいけない。
絶対に死なせてはならない。それだけは何があっても譲れない。命に替えてもだ。
☆今回はここまでです☆
劇場版アマゾンズ観ました。北斗が如く買いました。
ドバドバーのグシャグシャビシャビシャですぜ!!!
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「用意できたわ。睦月ちゃん」
如月の呼びかけに応じて睦月は自分の衣服を脱いだ。
用意されていたバスタオルを身体に巻いて湯船に浸かる。折れた腕も湯の中に浸からせた。
本来ならば骨折した箇所を湯につける事は避けるべきだ。だが彼女達は特別なのだ。
一糸纏わぬ腕の痛みを押さえ込むように湯が包み込んだ。
「修復剤入れるわね」
服を着たまま浴室に入ってきた如月の手には、修復剤と大きく印字されたバケツが握られている。
慣れない光景に睦月は一瞬驚いたが、すぐに状況を理解して頷いた。
睦月が所属する特別鎮守府では修復剤を投入する作業は機械で行われている。
しかしこの小さな泊地にはそんな設備を購入する余裕もスペースも無い。だから人の手でその作業を行っているのだ。
如月がバケツの蓋を開け、ひっくり返して中の液体を浴槽に注ぎ込んだ。
ばしゃあ、と流れ込んだ緑の液体は湯の中でぐにゃりと曲がり薄れ広がっていく。
湯が一面緑に染まり、それらは睦月の肌から潜り込み睦月の神経を直接愛撫するかのように刺激した。
腕の中にある痛みを溶かすように包み込み、消していく。その感覚に睦月は、はぁ、と喘いだ。
「私達は恵まれてるわよね」
「入渠施設と高速修復剤があれば、腕が折れても穴が空いても治せるんだから」
戦争はあらゆるものを破壊する。無機物も有機物も等しく暴力の前に砕かれ切り裂かれ捻じ曲がる。それは艦娘であっても変わらない。
無機物である艤装は人と妖精の手で、有機物である艦娘の身体はこのようにして修理される。
一見スーパー銭湯のようにも見えるこの設備は艦娘を修理するのに必要不可欠なものだ。
湯船に浸かる事で彼女達はそれぞれが持って生まれた、魂の姿に戻る。そして入渠施設の湯の上位互換となるのが高速修復剤だ。
製造にはそれ相応の時間と資材を要するらしく、湯に溶かす事で量を少しでも節約するべし、という事を特務提督達は研修で学ぶ。
だが、治ると言うがその現象は開発者からしても不可解な部分が多く、万能でもない。
まず、あまりにも大きな傷は治せない。
事実、手足を爆弾により失った伊58の治療にはこの高速修復剤が大量に使われたが彼女の手足が戻る事はなかった。
そして
「艦娘は治せるけど、人間は治せない…」
「だから提督さんの片目はもう見えない。提督さんはもう治らないって?」
如月が呟きだした言葉を遮るように、腕を折った仕返しとばかりに睦月が事実を突きつけた。
沈黙した如月に、睦月は再度確認する。
提督が睦月を治すと言った以上、その言葉を突きつけた所で本当に殺されることは無いという打算があった。
「如月ちゃん。本当に、人を殺すの?」
「殺すわ」
答えはすぐに返ってきた。
「睦月ちゃんが何を言いたい事はわかってる。でも今の私にはもう司令官しかいないのよ」
「私の全部を受け入れてくれる司令官」
「もう何も失いたくない。これ以上失うのが怖い」
「もう私のものが誰かに殺されるのを見たくない…見るくらいなら、殺してやる」
如月の目が潤んでいる。それを見て、殺してやるという言葉に込められた感情が読み取れる。怖さと悲しさ、悔しさと憎しみ。
あまりにもシンプルかつ簡潔にまとめられるが、あまりにも大きいそれらは睦月にも向かって流れ込んできた。
「睦月ちゃんには一生わからないでしょうね。まだ沢山色々なものが生きて残っている睦月ちゃんなんかに」
「艦娘なんかに、理解できるわけない」
「夕立ちゃんや潮ちゃんだって、わかったふりしてるだけ」
如月自身にも、それは制御できないものだった。押さえ込もうとしても溢れ出てくる。
彼女の身体から血小板を失った血液の如く溢れ出して止まらない。
外部からの止血もできないほど大きな傷が開き、それらを溢れ出させていく。
では、その傷はどうして付けられたのだろうか。
「そんな事ない!そんな事…!あるわけがない…!!」
ついに身内にまで向けられた暴れる感情を抑えるように睦月が反射的に否定する。
夕立と潮そして如月はこの泊地内では同じ班員として活動をする事が多い。
駆逐一班、それが彼女達に付けられたチーム名だ。班員は同じ部屋で生活し、枕を並べる。
もっとも最近の如月は駆逐一班の部屋に戻る事が少なくなっている。提督の部屋で夜を過ごす事が多いからだ。
如月は、同じ班員を避けているのかもしれない。泊地の誰かがそう感じていた。そしてそれはこの場で彼女自身の言葉で明らかになった。
「日本街に遊びに行った時、殺されかけたのよ」
道理のわからないお前に教えてやる。そう言わんばかりに如月は口を開いた。
「テレビで轟沈したはずのお前が何で生きている。お前は深海棲艦だ。お前はスパイだ。殺してしまえって」
その先の話は睦月も覚えている。
「顔も殴られたしお腹も蹴られた。ブロックで頭を潰されかけた」
如月は殺され続けたのだ。
「必死に逃げてる途中でも、路地裏に引きずり込まれて殺される如月を沢山見たわ」
何度も何度も何度も何度も。
「その後も、仲間の艦娘に裏切られて殺される如月も…沢山…」
あらゆる存在によって
「大した理由なんかじゃなかった。どれもこれも『テレビで轟沈したから!』」
たった一つの理由によって。
「それだけよ!?たったそれだけの理由で殺しに来るのよ!?」
「たったそれだけの理由で、たった数日の間で、如月は数え切れないくらい殺された!!今だってそう!!!」
「こうしている今だって、どこかで如月は殺されている…!!」
「それで信じろって方がおかしいわよ!!」
「ただ生きたいと思うことだけでも思うようにいかない!!誰も許してくれない!!」
「もう信じられないのよ!!人間も!艦娘も!!」
「みんな、敵に見える」
「私に死んでほしいと願っている」
「『可哀想な私』を哀れんで自己満足を得ようと思っているように見える!!」
ヒステリックに叫ぶ如月の目の前で睦月が口ごもった。
でも、だけど、それでも、こういう場面で99%出るであろう言葉が出かかっていた。
でも自分は違う。だけど皆は違う。それでも
「如月は、睦月型艦娘にすら裏切られて死んでいったのよ?」
「なのに、同じ睦月型艦娘の睦月ちゃんがそうじゃない理由って何?」
その言葉を如月は完全に潰しにかかった。
「『私』は、如月だからっていうたったそれだけの理由で今こうなっているのに?」
「『私』にはパパもママもいる、鹿島先生との大切な思い出もある。他の如月だって似たようなものがあるかもしれなかった」
「悪い事を考えて如月型艦娘になった人だっていたと思うし、そうじゃない如月型艦娘だっていたはずよ」
「でもそんなのは関係なかった。みんなみんな殺されたのよ。『テレビで轟沈したから』っていう理由だけでね」
「それで、睦月ちゃんや他の艦娘の時だけ何も示さず『信じろ』だなんて、都合のいい話だと思わない?」
言葉を失った睦月に追撃をかけるように如月は彼女に近寄り、瞳を覗き込むように見つめた。
「ねぇ」
「誰にとっても『私』と他の如月型艦娘に違いはない」
「じゃあ睦月ちゃんと他の睦月型艦娘は、何が違うの?」
動揺する睦月より先に、如月の目から涙が零れ出す。
「違うって言うなら、止めてよ。『私』だって『私』よ。それをみんなに認めさせてよ。誰も認めてくれないのよ」
「みんな外側しか見ないくせに自分が否定された時だけ中身を見ろだなんて綺麗事言わないでよ!!」
睦月の心が折れ、この言い争いは如月が勝利した。
この話はこれで終わりだ。そう感じ取った如月は距離を取り、紺色の上着の裏側に手を入れた。
如月が改二となり追加されたその服は、結界増幅装置が縫い付けられており艦娘の生存性を劇的に向上させている。
彼女がそこから取り出したのは、一本の短刀だ。
その短刀は睦月にも見覚えがあった。確か如月の提督が日向型の武装を改造して彼女にプレゼントとしたものだ。
「ねぇ、見て睦月ちゃん。これは司令官がくれたお守りなの」
「私は、いつもずぅっとこれを持っているわ。これがあるから私はみんなと話ができる。他のみんなにはない私だけの命綱」
「臆病になった私の安全装置」
如月は短刀をぎゅ、と握り締める。
ナイフを持って自分が強くなった気がする奴は絶対ナイフを持ってはいけない。
睦月は昔、まだ睦月型艦娘になる前に、読んだ本にそう書いてあったのを思い出した。如月はまさにそのタイプなのだろうと。
「今まで一度も使った事はなかったけど…今回は使う」
如月がそう呟き、短刀が鞘から引き抜かれたと同時に、入渠施設内に風を切る音が響いた。
睦月には過程が一切見えなかった。残心の様でようやく刃の位置が把握できた。
「人生は絶え間無く続く問題集だ」
「揃って複雑。選択肢は酷薄。加えて制限時間まである」
「一番最低なのは夢見たいな解法を待って何一つ選ばない事」
「オロオロしている間に全部おじゃん。誰一人、何一つ救えない」
「司令官の部屋にあった漫画にそう書いてあったわ。本当にその通りだと思う」
「私は何もしなかった。何もできなかった。何もしてなくて、あの馬鹿が何かをしたから、如月は全部失った」
「だから今度は選ばなくちゃいけない。選ばなかったら、また失って殺されるのよ」
「如月を、私の全部を受け入れて愛してくれる司令官が、殺されるのよ」
「司令官以外、もうここには何も残っていない。司令官しか。司令官だけが、今の私の心の支え」
「だから私は、選ぶ」
「あいつらを皆殺しにして、無かったことにして、できる限り今までの生活に戻る」
「あいつらを全員殺して、無かったことにして、私達二人は幸せになる」
「その後どうなったとしても私は、司令官となら生きていけるから」
「私が本当に大事にしているものはたった五つだけ」
「司令官と、私と、パパと、ママと、鹿島先生」
「それ以上のプラスはもう何も望まない。もう何もいらない。あってもいいけど消えるんなら勝手に消えちゃっていい。今の私にはもう持ちきれない」
「睦月ちゃん。あなたも如月にとっては余分なプラスでしかないのよ。司令官が仲良くしておけって言うから付き合っているだけ」
「だから如月を見捨てるなら早めに見捨てて頂戴。それはあなたの為にもなるかも知れないわ」
「でもそれで私と司令官の邪魔をするなら、次は、本当に殺す」
「首を折って、腱を切って、指を切り落として、内臓を引っ張り出して、主砲でバラバラのグチャグチャにしてから燃やしてあげる」
そう言い切り、浴室から立ち去ろうと動かした足を如月は強引に止める。
「あぁ、そうだ」
「腕が治ったら施設そのままでいいからね。後片付けは如月達でやっておくから」
「それじゃあ、ごゆっくり」
そう言い残して如月は立ち去り、睦月は一人残された。
もしかして今自分に向けた笑顔も演技なのだろうか、そう睦月は疑った。
その疑心は睦月の心にドス黒い感情を染み込ませていく。
「何で!何で、こうなった…!!」
誰一人いない入渠施設で睦月は感情に従い怨嗟の声を上げる。
自分の腕を折り、自分の意志を否定した妹に向かってではない。この世界そのものを罵った。
そうするしか、睦月の心の痛みが治まる事がなかったからだ。
彼女はやろうとした。やれる事を精一杯やった。だが結果として如月は壊れた。
彼女に起こった事に同情するからこそ彼女を否定はしない。否定できない。
それが彼女の甘ったれた所でもある。
もし今置かれている状況が逆だったのなら、そして止めようとするならば、如月は睦月の全てを否定するだろう。
「もう、死んじゃえ…!!」
けれど彼女が壊れた原因を作った全てを呪い殺さんが如く恨みを抱く。
如月に向けるべき憎しみすらも全て乗せて。
「全部死んじゃえ…!!!」
睦月は匙を投げた。如月を救う事ではなく、彼女が殺す誰かを救う事を。
如月が死ぬ、という事は頭になかった。ブラック鎮守府の連中が本当に全滅するという確信が睦月にはあった。
睦月は特別鎮守府所属の艦娘だ。そして指揮官は英雄と呼ばれるほどの男だ。
ただ日々をだらだらと過ごしているわけではない。その立場に相応しい戦果を挙げ、日々の鍛錬を通じて練度を上げている。
わかりやすい言い方をすれば叩き上げのエリート。経験と知識を兼ね備えた最高の兵士の一人だ。
その睦月が動けなかった。何もできず腕を折られ、先程の刃は一切見切れなかった。もはや実力の差は明確だ。
睦月にとって最早如月の存在は恐ろしいものとなっていた。
あの一件からまだ一年も経っていない。どれだけの執念があればあそこまでの技量を見に付けられるのか。
そしてあの技が、艤装の出力を乗せて振るわれるとしたらどうなるか。
こんな小さな泊地だが、あれほどの実力を持った艦娘があと数人でも居れば、駆逐艦娘や軽巡艦娘ばかりの鎮守府など数時間で皆殺しにできる。
睦月の、今まで多くの戦場を乗り越えてきた軍人としての勘、そして知識と経験による予想がそう告げていた。
だからこそ、完全に匙を投げた。
よほどの事が無い限りブラック鎮守府はもう終わりだ。そのよほどの事が何なのかなど想像すらできない。
だから、もう何が起こっても知るものか。
ここから先は、何があっても自業自得だ。
全てお前達が招いた事であり、お前達の一時の快楽の代償として引き起こされるのだ。
少しでも誰かを思いやる気持ちがあれば、こうはならなかった。
誰かが少しでも彼女を思いやる気持ちがあれば、如月は壊れなかった。
だがそうはならなかった。だから起こる。必然として起こってしまうのだ。
これは自業自得だ。
存分に苦しめ。
存分に後悔しろ。
それでもどうにもならない諦念に沈みながら壊死してしまえ。
何もかもがお前達が引き起こした事であり、何もかもがお前達の責任なのだ。
それを理解しろ。
苦しみをかみ締めて、死んでしまえ。
何度呪っても、彼女の心の痛みが収まる事はなかった。
もう治っている腕を動かし、頭を抱え、如月を歪ませた全てを呪い続けた。
それでも彼女の心の痛みが収まる事はなかった。
☆今回はここまでです☆
たーのしー
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「それで、どうなったんです?」
「失敗…」
「いやあれは我々の仲間になる器ではなかった、という事だ」
「なるほど」
「最新型の潜水艦の開発、どうもうまくいかない」
「素材が薄汚い肉袋ではどうしようもないのでは?」
「なるほどなるほど!そうかもなぁ!!」
「怨念だけは大したものだったんだがなぁ!」
「あの海域に巡らされた怨念!それらをかき集めればもしやとも考え張ったがこのザマ!」
「お前のいう通りだ。奴らは所詮薄汚い肉袋!神に歯向かう排泄物!!」
「上手くできたとて根本的に我々と違いすぎる。汚らわしい。矢避け以外に使い道があるだろうか?」
「ではあの残りカスはどうするのです?我々はあんなものと肩を並べなければいけないのですか?」
「まさか。元居た場所にでも送り返してやろう」
「恨み辛みだけは一人前だからな」
「ゴミはゴミらしく」
「汚物の中で戯れているのが一番だという事だ」
「なぁ」
「嬉しいだろう?元居た便所に戻してやると言ってるんだよぉ?」
「なぁ、おい、聞こえてるのかぁ?」
「 失 敗 作 ?」
「おい、返事をしろ失敗作」
「失敗作」
「失敗作」
「失敗作」
「失敗作失敗作失敗作失敗作失敗作ぅぅぅ!!!!」
「………」
「と言っても」
「お前達じゃあ我々の言葉は理解できないか」
「格が違うからな。格が」
「ククククク」
「せいぜい殺し合え」
「意地汚く、醜く、無様に」
「お前たち下等生物にはそれがお似合いだ」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
「違ウ」
「違ウ」
「コンナンジャナイ」
「コンナハズジャナカッタ」
「私ハ」
「私ハ」
「私ハ!!!」
「誰カ」
「誰カ」
「私達ヲ」
「私ヲ」
「認メテ」
・・・・・・・・・・・
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・・・・
・
水を裂く空気の音。
海が動く流れの音。
僅かな光が前を照らす。
「ユー、聞こえる?」
こめかみにまで響く自分を呼ぶ声。
こちらを心配するその声を聴いて少し安心する。
「潜入先は予定通りならドッグの中。万が一でもそこに艦娘がいたらまずい。慎重にな」
指示通り彼女は突き進んでいく。
信頼に答える為に。
自分の意思を突き通す為に。
「ドッグから上がったら水門の制御装置を動かして開門。場所はさっきゴーヤが教えてくれた所だ。覚えている?」
「すぐに開門して終わったらすぐに本隊と合流。あとは他の奴らに任せてくれ」
「それと」
「万が一見つかったら…すぐに連絡ちょうだい。何とかするから」
海面からそっと顔を出す。近くに艦娘はいないのを確認して一安心した。
誰一人としてそこにいない事以外全て、周囲の光景は伊58が教えてくれていた通りだ。
その先の道も全て教わっている。この建物をよく知る伊58が教えてくれた。
ブラック鎮守府への攻撃作戦は提督と伊58の二人が主軸となって立てられた。
元々所属していた伊58、そしてつい先日直接乗り込んで地理を把握した提督の二人でだ。
誰かが言っていた。提督は最初から全てこうなる事を狙っていたのではないか、と。
ブラック提督への糾弾が失敗する事、自分が大怪我を負う事、そして今こうして鎮守府に攻め入る事。
提督の知る情報と伊58が知る情報に差はあっても間違いはなかった。
だから最初からブラック鎮守府を攻撃するつもりでできる限り情報を集めていたのではないか、と。
二人の情報を元にあっという間に作戦が立てられた。移動手段が無い上、現地の市民を騒がせない為地上からの攻撃は却下された。
艦娘の集団が艤装を付けたまま鎮守府に向けて行進などナンセンスだ。かといって海上からの侵攻には一つ大きな問題がある。
鎮守府を守るように壁が、門が立ちふさがっているのだ。これも資源売買で得た金をつぎ込んで作ったのだろう。
この水門と幼児性愛の戦艦長門を主力とする外部からの救援がブラック鎮守府の堅牢な守りだ。
だがその水門のある一か所にだけ自由に通り抜けができる抜け穴がある事を伊58が教えてくれた。
潜水艦娘は四六時中オリョールクルージングを強制されている。彼女達を虐げ搾取する事でブラック鎮守府は成り立っている。
だから自分たちが作った門が、彼女達だけは守らないよう、あえて抜け穴を作った。
潜水艦型の深海棲艦も入り込めてしまうが、その程度なら何も問題は無いと踏んだのだろう。
ブラック鎮守府の艦娘は対潜だけは達人だ。たった数匹の深海棲艦なぞものの数秒で藻屑にできる。
それでもわざわざ経路があるならば利用させて貰う。今回の侵入経路もそこからだ。だからこそ潜水艦娘にしかこの潜入作戦は実現できない。
それを伝えられた時、U-511はこの潜入作戦に立候補した。
誰もが一瞬躊躇した。危険すぎるからだ。万が一見つかりでもしたら文字通り一たまりもない。
一たまりもなければまだましとも言える。
わざわざ手足をもぎ取ってから殺すような連中だ。
脱走者でそれならば、敵である捕虜ともなれば喜んで嬲り殺すのは想像に難くない。
それでもU-511は真っ先に立候補した。彼女を見て誰よりも提督が驚いていた。
提督から何度も何度も任務の危険性を言い聞かされた。それでも立候補を取り止めなかった。
最終的に他の潜水艦娘を槍玉にあげてようやく提督は折れた。U-511が折れようが、誰かが行かなければならないのだからと。
U-511だって勿論怖い。だがそれ以上に彼女には強い意志があった。提督を見る度にそれが湧き上がってくる。
踏み潰され包帯を巻かれた左手。それが度々添えられる腹部。顔の痣も腫れもまだ消えていない。
伊58が教えてくれたブラック鎮守府特有の集団私刑。爆撃部隊とやらを受けたのだろう。
艤装を付けた艦娘の全体重で腹部を踏み潰される。
艦娘ですらトラウマになるほどの私刑、常日頃から鍛えていない提督の内蔵は無事ではないだろう。
彼は隠そうとしているが、もしかしたらもう彼の身体に取り返しのつかない何かが起こっているかもしれない。
その不安が刺す心の痛みが、そしてそれでも動き続ける彼の意思がU-511の意思を作り上げていた。
彼がそこまでしてやる事が味方殺し。彼のやる事は世界にとって何の役にも立たない。
それでも、いや、だからこそ彼女は真っ先に立候補した。
彼女の忠誠と愛情、そして残虐な好奇心は他の潜水艦娘より、誰よりも新鮮だ。
自分達が今から行う事は悪だ。私怨の為に味方を殺す。だけどそれでいい。
戦う理由に迷った時に大淀と愛宕に教えられた言葉を実行する時、彼女はそう感じていた。
だから、作戦会議の時に何度も、何度も警告されても意思を曲げなかった。
ボロボロの顔を向けられ、踏み潰された手で身体を押さえられ、何度も何度も諭されたが変わらなかった。
やりたい事をやる。守りたいものを守る。その為にこの危険な任務に立候補したのだ。確かに怖いがもはや止まれない。
淵を掴んで這い上がる。背を壁に貼り付かせて周囲を探るが、誰一人もいない。
ここを使う艦娘は潜水艦娘、それ以外はたまの散歩がてらの遠征か、『味方を殺す為の』出撃だけだ。
情報通りとはいえ100%その通りとはいかないと何度も言い聞かされた。そのせいでU-511の足は震えっぱなしだ。
目を凝らして薄暗いドッグの中を見渡していく。
目には自信がある。何故なら艦娘とはそういうものだからだ。
艦の魂を受け入れ、人の姿かたちが変わる。それは身体の内側にも干渉する。健全で健康、かつ強靭な肉体へと修復されるのだ。
魂の個体差はあれど、どれも若く優秀。そして身体能力はあらゆる意味で人類の理想、最上位に匹敵する。
あらゆる病気を打ち負かす抗体、鉄の塊を背負うしなやかな筋肉、シミ一つ無い肌に整えられた顔立ち。
人外の生物深海棲艦と戦うにあたり、人間が至る発想の中であまりにも理想的すぎる身体。
人間の理想の身体。故に人は後先を考えずにそれを欲した。
一時期艦娘の臓器が大量に、あらゆる意味でばら撒かれたのだ。
『違法解体』それが流行した時那珂型艦娘を中心に艦娘達が多数ばら撒かれたが、今では気が付いたら理由すらわからず廃れていた。
艦娘の肉体が劣化したのではない。艦娘の肉体は相も変わらず人間の理想であり続けている。
新米の艦娘U-511も例に漏れず、敵もまた例に漏れない。つまり目が良いのは相手も同じだ。
ゆっくりと、慎重に、U-511は歩み始める。
時間制限は無い。それでもあるとするならそれは彼女の体力と精神が擦り切れるまで。
提督から託された危険極まりない作戦を遂行するために、U-511は動き出す。
だが何もかも彼の言う通り、作戦通りにするつもりはない。
一つだけ、一か所だけ、どうしても寄りたいと思う所があった。
場所は知っている。伊58が教えてくれた、彼女にとって一番思い出したくない場所。
何よりも、誰よりも、真っ先に何とかしたいと感じる場所へ向かって歩き出す。
彼女達もまた、U-511にとって守りたいものの一つであるのだから。
幸い、その場所はドッグからすぐの所にあった。偶然でもない、事情を知っていればある意味必然だと思える場所にそれはあった。
耳を澄ませて中の様子を探る。震える手でドアノブを掴み、ゆっくりと回す。
一切の音を出さないようにゆっくりとドアを開け、覗き込んだ。
中の住人達、いや囚人達の首と目だけがU-511を捉えるように動く。視線があった瞬間、驚きと恐怖でU-511は身じろいだ。
そこは潜水艦娘達の部屋、否部屋ではなく牢獄と言った方が正しいか。
伊168、伊8、伊19、伊401。どれもU-511にとっては見知った顔だ。見知った顔の、はずだ。
見知った顔のはずなのだが、それでもU-511は記憶の中の彼女達と今目の当たりにしている彼女達の違いに衝撃を受けた。
露出が多い彼女達の肌は赤い線が浮かび上がり、内出血の痣、そして円状の焦げのようなもの、U-511には理解できなかったが煙草の火を押し付けられた火傷があった。
所々の皮膚が僅かにでろんと剥がれ赤黒くグズグズしたものが湧き出ている。
視線が合った彼女達の目からは侮蔑と諦めしか読み取れない。全員が、何もかもが違いすぎる。
同じ艦娘でここまで違うのかと考えると気が遠くなりそうになる。
だが、そう、ここは全員いた。どんな理由で全員揃っているのかは知らないが、全員揃っているのはある意味奇跡であり理想的だ。
U-511は意識をはっきりとさせ、勇気を振り絞って声を上げた。
「ユーは、私は、潜水艦娘U-511」
何の反応も無い。それでもU-511は続けた。自己紹介がしたくてここまで来たのではない。だからこそ、最低限でも伝えなければいけない事がある。
「ユーは!」
「ユーは!味方です!」
後先も考えず、感情のままに言葉を繋げる。
「皆さんを助けに来ました!」
提督と、彼の艦娘達から教わった日本語の知識の全てを使って。
この場所は意図されたかのように作戦範囲から外された場所だった。U-511はそれが不満でしかなかった。
今誰よりも苦しんでいる彼女達を一分一秒でも早く安心させ、救う事に何の遠慮がいるだろうか。
この作戦に時間制限は無い。それでもあるとするならそれはU-511の体力と精神が擦り切れるまで。
だがそれはあくまでも泊地内だけの事情だ。このブラック鎮守府内の事情を、彼女達潜水艦娘達の事情を一切考えていない。
U-511が遅れれば遅れるほど彼女達は危険に晒される。彼女達は大半の艦娘がほぼ確約されたも同然の明日の命もわからないのだから。
U-511の作戦が成功して攻め入る事ができたとしてブラック鎮守府の連中はまず真っ先にここの潜水艦娘を皆殺しにする事だってありえた。
敵を手引きしたと罪を擦り付けるか、ただの八つ当たりとしてだろうか、とにかく作戦が進むにつれ彼女達の命は脅かされる。
だから、この作戦が失敗して提督達が返り討ちに遭えば間違いなく潜水艦娘達も皆殺しにされるだろうが、成功したとしても危険であることには変わりはないのだ。
伊58のように奇跡的に助かるなんてどこの誰も約束をしていない。
ならば助けるとしたら今この瞬間しかない。今この瞬間でなければいけなかった。
そして彼女はここまで辿り着いた。あともう少し、あともう少しで彼女達を助けられる。
これが終われば、完璧に終わらせることができる。守りたいもの、救いたいものを全て。
おぼつかない日本語で、それでも全力を込めてU-511は呼びかける。
もう彼女達は自由だ。自分の言葉は彼女達にとっての勝利宣言になる。
理不尽に苛まれて命を奪われるかもしれない恐怖に怯える日々はもう終わりだ。
伊58のように普通の日常を送れるように、その為ならいくらでも支える覚悟をU-511は持っている。
だから、伝われ。
「逃げられるんです!」
伝われ!
「今外にユー達の味方も来ています!」
伝われ!
「もう酷い目に遭う事も無いんです!!」
伝われ!!
「行きましょう!一緒に!」
伝われ!!!
一瞬の沈黙。U-511の瞳から涙が零れ落ちた。
同情と言えば安っぽいが、U-511は本気で彼女達の現状を悲しみ、救いたいと願ってここまで来た。安っぽいありふれた感情だろうがそれは彼女の本心だ。
奴隷のように働き、奴隷のように虐げられ、家畜のように勝手な都合で殺される。
聞いただけで胸がざわついた。深海棲艦にすら向けたことのないようなどす黒い殺意が染み込んだ。
その現状の何もかもを否定したかった。一切の未来を断ち切って無かったことにしたかった。
だから彼女はここに来た。理不尽な世界の一切合切、何もかもを終わらせる為に。
そう思ってここまで来た。そして今、感情のままに叫んだ。
だから、だからこそだろうか。
伊168が部屋の隅に追いやられた古びた通信機に手をかける理由が理解できなかった。
「こ、こちら潜水艦娘室」
「し、侵入者です」
「侵入者が、います!!」
☆今回はここまでです☆
突き刺すかのように腕が伸び、握り潰すかのように手が開かれる。
蛆のように視界のあらゆる箇所から湧き出たそれらがU-511の身体を捉えた。
U-511は彼女の真正面から彼女の首を絞める艦娘の姿をその瞳に映す。
伊19。例に漏れず彼女もまたU-511がよく知る艦娘の一人だ。
未成熟な精神に反して豊満で淫靡な身体。U-511に比べ、否他の潜水艦娘と比べても肉付きの良い身体をした艦娘だ。
胸や尻といった直接的に異性を興奮させる部位だけでなく、二の腕や太腿も柔らかい贅肉に包まれていたはずだ。
そのはずだ。U-511の記憶にある伊19とはそういった見た目のはずだ。
だが目の前のそれは、胸は豊満なもののアンバランスなほど腕が細い。骨と皮、文字通りの骨と皮だ。
幼いながらも色気を含み輝いていたはずの瞳からは楽観や甘えから来る親近感は一切見られない。
焦りと皮算用、羨みと卑屈な優越感、鬱屈した暴発手前の破壊衝動。血走り瞳孔の開いた眼でU-511を捉え全力で気道を潰しにかかる。
窒息感と絶望で顔から一斉に血が引いていく。窒息感と今の状況からU-511はようやく試みが失敗だったと思い知った。
甘かった。否杜撰だった。杜撰を杜撰とすら気付かないまま我が身一つで突っ込むなど傲慢ですらある。
U-511はその傲慢さを振りかざし、会って話をすれば必ずこちらの言う事を聞いてくれるものだと信じて疑わなかった。
自分達を虐げる者への反逆、それに手を貸す自分。こちらにある正義。
何もかもを一切自己否定も想定もしないままここに来た。だからこそ今こうなっている。
彼女達潜水艦娘にとってブラック提督がどういう存在なのかU-511には理解できていなかった。
彼女たちにとって彼は神なのだ。人間性はおろか生殺与奪を含む全てを掌握する神。
何もかもを否定され虐げられ抵抗もできない彼女達が唯一すがれるものがそれ。例えそれが自分達を虐げ殺すものであってもそれにすがるしかない。
奴隷とはそういうものであり、艦娘というものもまたそういうものでもある。
このブラック鎮守府で培った彼ら彼女らの強固な絆は偽善的な第三者の甘言では崩せない。
例えそれが悪意で作り上げられた絆だとしても、否、悪意で作り上げられたものだからこそ、誰も崩せるものではない。
自分の異常性を棚に上げ、自分が正しく認められるべきというU-511の傲慢さが招いた悪手が今のこの状況だ。
だが彼女だけが飛びぬけた間抜けというわけでもない。
確かに彼女は作戦に反発して勝手な行動を取った。そして最悪の結果を招いてしまった。
しかし作戦を立案した二人が潜水艦娘達の心理を理解していたというわけでもなかった。
作戦範囲に入れなかったのはあくまで、彼女達がどうなろうがどうでもいいからだ。
今の自分の周囲以外何も気に留めない提督と、自分の恨みを晴らす事以外考えていない伊58。
敵でも味方でもない潜水艦娘などどうでもよかった。ただ連中を皆殺しにする事以外どうでもよかった。
U-511がそうでないように、彼らもまた賢者だったわけではない。
彼らはU-511と同じように自分の欲望のままに行動しただけだ。
結果的にそれが正解であり結果的にそれに反発したU-511が結果的に最悪の状況に持ち込んだ。ただそれだけだった。
誰も予想も想像もしていなかった。だからこその結果論だ。それ以上でもそれ以下でもない。
大多数を納得させる為に現状説明の言葉を選ぶのであればこうなるだろう。
運が悪かったのだ、と。
伊19の二つの親指がU-511の気道を潰す。
視界の外から手首も足首も肩も掴まれ抑え込まれている。
最悪の状況、だがこの状況は潜水艦娘達にとってもまた不運な状況でもある。
狂乱したかのようにU-511が身体を振るわせる。ただそれだけで数の有利にも関わらず潜水艦娘達は振りほどかれたからだ。
数で不利だろうが艤装の有無、健康状態その他諸々何もかもがU-511にとって有利。だからこそ簡単に脱せた。
もし艤装が無ければ簡単に取り押さえられただろう。彼女達はそれを悔やむしかない。
扉を突き破らんばかりにU-511が部屋から飛び出ると同時に鎮守府中にサイレンが鳴り響いた。
敵襲の合図。同時にアナウンスが流れる。
「鎮守府内に敵が侵入。侵入者はU-511型艦娘。艤装を装着して侵入者を捕らえろ」
鎮守府が湧き上がった。
まるで人気アイドルがライブでベストヒットの曲を歌い出したかのような興奮と高揚。
それは敵と称するものに向けるものとしては明らかに不適切だった。少なからずある恐怖や不安は一切ない。
中世貴族の狩猟、そう例えるのすらおこがましくおぞましい。
まるで給食の人気メニュー、購買部のパンや弁当の奪い合い。あるいはコミックマーケットの行列か。
欲望の坩堝。理性と人間性の喪失。
それらを向けられているのはモノではない人命なのだが。
鎮守府全体が揺れんばかりに湧き上がる。それは外に潜んでいる提督達にもはっきりと感じ取れた。
「ユー!大丈夫かい!?ユー!!」
U-511に通信で呼びかけるが返事が返って来ない。どたどたと走る音と息遣いが聞こえる事からまだ捕まっていない事はわかる。
時折かすかに聞こえてくる奇声や怒声が焦りを煽る。
見つかった。追われている。捕まったらU-511はどうなるか。
状況把握と未来予想に心臓と腹部が締め付けられ、痛めつけられた身体が悲鳴を上げる。
そうなるかもしれないとは思っていたが、目の当たりにしてしまうと平然とはしていられない。
指揮官に相応しくない小さな器から溢れ出した感情が脳髄をかき回す。
「羽黒!!如月!!夕立!!」
焦りを声に乗せて呼びかけた。以心伝心と言わんばかりに三人は身構える。
「先に行け!!如月と夕立は二人一組!!絶対に離れるな!!」
その言葉を聞くや否や三人とも全速で海を走り出した。目の前には彼女達の身長の十数倍もある壁。
その壁に向かってやや斜めから小さな弧を描くように突っ込んでいく。
あわや激突かという瞬間、三人の右足は海面を抉り飛沫を上げながら跳ね上がった。
だが地上と違い滑る海面では艤装の力を持ってしてもわずかにしか飛び上がれない。身体は壁の根元わずか上の箇所に跳ね上がり、勢いそのまま壁に。
激突を避ける為足を突き出して壁を蹴る。僅かに上、そして壁の反対側に身体が跳ねる。
背中の主砲が爆音を鳴らし、その反動が身体を再び壁に突き飛ばす。足がその衝撃を吸収して再び壁を蹴る。
爆音が鳴り響く度、壁に小さなひびが入る度、羽黒の身体はどんどん上へ上へと向かっていった。
それを追いかけて二人が同じように壁を登っていく。
壁を底辺とした三角形を無数に描きながら蹴り登っていく。
数十秒足らずであっさりと壁を飛び越え一瞬の無重力の後、壁の向こうの世界へと落ちていった。
提督にはもうその姿は見えないが着水に失敗したとは露にも思わない。
何故ならあの三人は異常だからだ。
「いいか。とにかく暴れろ。それだけでいい」
たったそれだけのあまりにも曖昧な命令を聞いた瞬間、夕立の身体は着水の衝撃を受け止めないまま更に加速する。
とにかく暴れろ。その命令を一瞬でも早く飲み込んだ。そしてそれを誰よりも強く望んでいた。
主砲が轟音を上げ彼女の身体を吹き飛ばす。数キロメートル先の鎮守府まで一直線に。
炎でも血でもない赤い光が彼女の動向を軌跡のように彼女の尾のように、螺旋を描き、彼女がいた空間に残っていた。
「ごめん。あと一つ大事な事を言い忘れた」
「できる限り殺すなよ。できる限りでいいからさ」
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・・・・
・
世界には数多くの物語が存在する。
書籍として出るもの、テレビで放送されるもの、インターネットの僻地に点在するもの。
万億兆京それ以上、文字通り数えられない程の物語があり人はそれに触れて生きていく。
ある人は子供の時だけであり、ある人は大人になってもそれに触れ、またある人はそれに依存して生きていく。
物語には個性がある。どれもが千差万別多種多様種種雑多の盛沢山。
それでもマクロに見てしまうと大半の物語で必ずと言ってもいいほど表現されるものがある。
正義、もしくは悪。たった二文字と一文字で表せるそれは物語の臓器。
物語に触れるという事は正義に、悪に触れる事。
正義の行いを見て人は生きる勇気を得る。もしくは悪の行いを見て悪へ怒り正義の勝利を願う。
正義の敵は悪と、悪に媚びへつらう小物。
少年少女は小物を薙ぎ払い、悪に肉薄する正義を見て成長する。
力の差を理解できない小物を一蹴する正義が掲げる反撃の狼煙に神聖さを感じる。
だが何故だろう。彼ら彼女ら我々は誰もが気付かない内に成り代わるのだ。
悪か、小物か、ただそれだけに。
「ここまでよ潜水汚物!!この暁様が成敗しバアアアアアアアアアッ!!!!!」
そんな小物の一人が今ド派手に吹っ飛んだ。
今まさにU-511の前に立ちふさがった暁型艦娘は艤装を付けていなかった。常日頃から虐待と虐殺を繰り返していた彼女はそれでもいけると誤解したのだ。
艤装の有無なんて関係ない。潜水艦娘なんかに負けるはずがない。潜水艦娘の何もかもを自分が支配できる。
暁は自分のこれまでの経験からそう信じていた。確信していた。力の差を理解できていなかった。
自分たちの力が絶対だと信じていた。
自分が暁型艦娘であるという特別感もその感情を膨れ上がらせる重曹となった。
あの轟沈した如月型のような産業廃棄物ではない。
誰にでも愛され
誰にでも求められ
誰にでも評価される暁型艦娘。
故に何をしても許される。
世界がそう決めている。
自分は生き続ける。
勝者であり続ける。
だが現実、艤装を装着したU-511が恐怖と使命感に駆られて彼女をブッ飛ばした。
それは彼女にとってあまりにも想定外の出来事であり、客観的に見れば当然の出来事でもあった。
例えば毎日牛肉を食べて牛乳を飲んでいれば人は素手で闘牛に勝てると強弁されて信じる事ができるだろうか。
支離滅裂、意味不明、論理破綻。大っぴらに話してしまえば夢想の狂人と誹られても無理はない。
だが同意義の言葉で置き換えると人はあっさりとそう思い込む。
今回の場合で言うならばつまり、潜水艦娘程度なら艤装無しでも勝てると、そう誤解したのだ。
今までそうして来たのだからこれからだってずっとそうだと、永遠にそうだと。
何故なら常日頃から潜水艦娘を虐待し、時には嬲り殺しにしてきたからだ。彼女はその力関係が永遠に続いていくものだと思っていた。
調理された、お膳立てされた肉を食べながら自分が獲物を狩るライオンだと思い込んだ。闘牛を肉としか見えなくなっていた。
悪と小物は価値観を共有している。だが悪は決して闘牛を肉とは見ない。そこが小物が小物たる理由だ。
今対峙したのは虐げられ怯え弱り切った上に練度も不十分、何より艤装を取り上げられた艦娘ではない。
ごく平凡な環境でごく平凡な鍛錬を積みごく平凡な艤装を積んだごく平凡な艦娘。
圧倒的な力と都合の良すぎる豪運を持つ正義ですらない。たかが同格の相手だ。
自分と同格であるが故に危機が及ぶ、その想像力と危機感が致命的に欠如していた。
艤装を装着した艦娘の力は何千、何万馬力。たかが人間の力でどうにかなるはずがない。それが例え今までずぅっと虐げてきた潜水艦娘でもだ。
その見分けすら付かないからこそ小物は小物なのだ。
敵対するものが全て自分より弱いと思い込み主役に突っかかり、無様に一蹴される小物。
目に見える敵全てが肉にしか見えなくなった狂人。
それこそが小物が小物たる理由であり、物語的な都合。
そして人間の本質でもある。決して自らを客観的に評価できないそれ故に悪か小物かにしかなれないという本質。
そんな一小物が宙を飛び今顔面から床に激突した。
「хорошо(ハラショー)」
後ろから聞こえる機械的な言葉を尻目にU-511は駆けていく。
「制御装置、制御装置は」
ぶつぶつと呟き歯をガタガタと震えさせながらU-511は駆けていく。
この鎮守府を守る水門の制御装置。それを見つける事が彼女の目的であり、彼女が今選べる最も有効な安牌だ。
何故か。それは今しがた見せた艤装の有無による力の差が要因だ。
鎮守府の艦娘、U-511の敵が持つ艤装の保管場所はドック、入渠施設、もしくはその近くだ。
これはどの鎮守府泊地でも同じ事が言えるし、U-511達の泊地の施設もそのようにできている。
その位置関係がどういった手間を生むかというと、敵はこれから艤装を取りに行き装着した上でU-511を追いかけなければならないという事だ。
逆にU-511の目的地はドックではない、ドックは彼女の入り口であり目的地は水門の制御装置。
つまり敵は単純計算彼女の倍ほどの距離を移動しなければならない。
例え相手が潜水艦娘だろうが艤装を付けないままでは抑えるのは不可能。
途中で出くわす可能性は高いが艤装が無ければ先ほどの暁のように艤装の出力に力負けし、蹴散らされて終わるだけだ。
U-511からすれば制御装置に向かえば危険からの逃亡と目的達成を両立できる。だからこそU-511は全力で制御装置まで走る。
その時建物が轟音で揺れた。彼女はそれだけで味方の誰かが壁を越えて鎮守府に突貫した事を理解した。
どうやってやったかはU-511にはよくわからないが、恐らくこの警報を聞いてU-511が見つかったと判断してかく乱の為に突っ込んだのだろう。
U-511を捕まえる為に艤装を装着した艦娘はドックを攻めるそちらの対処をせざるを得なくなる。
U-511の目的がわかっていなければ尚更だ。敵からしてみれば目的を知るには情報もそれを知る手段も少なすぎる。
この鎮守府の構成員は殆どが駆逐艦娘。偵察機を上げられる軽巡洋艦娘も多く見積もっても両手で足りる程度。
そしてそれらは外で待機している空母艦娘が全て撃ち落とす。
だからこちらの手を読むには情報が足りない。上手く勘を働かせられでもしなければ作戦に問題は無い。
とにかく走る。水門を開ければ多大な戦力が鎮守府になだれ込む。そうなれば勝ちだ。
駆逐艦娘も軽巡洋艦娘も潜水艦娘にとっては脅威以外の何物でもないが、それ以外の艦娘にとっては基本的には脅威にはならない。
その理屈も基本的には、という注釈が付くがこちらには空母艦娘も重巡洋艦・戦艦娘も揃えている。少なくともパワー負けは有り得ない。
だからこそ水門を開けてそれらの戦力をこの鎮守府にぶつけられれば勝敗はほぼ決する。
伊58から教えられた地理を必死に思い出して走る。走り続けた先に扉が見えた。
突き破るように扉を開けると大仰な機械が視界に映った。これが水門を開閉する制御装置、コンソール。
コンソールに飛びつき装置を操作すると数秒おいて水門が左右に割れ始めた。外敵から身を守っていた水門がたった数秒の手間であまりにもあっさりと割れ始める。
その隙間を縫うようにして我先にと飛び出す影はU-511には見えない。それらは水に広がる絵具のように滑らかに、確実に、広がっていった。
そしてすぐさま聞こえてくる怒号と砲声。けたたましい警報により揺れていた鎮守府に今度は感情の津波が襲う。
それらはすぐに鎮守府を覆いつくす。誰一人逃がす事無く全員を飲み込むだろう。これでU-511の任務は終わりだ。
制御装置の陰でしゃがみ込み隠れた彼女は自分をぎゅっと抱きしめた。
あとは帰るだけだがある意味それが一番難しい。突出した味方が妨害しているとしても一部はこちらに向かって来ている。
迎えが来るまではたった一人で耐えなければいけない。無暗に飛び出しては囲まれて袋叩きだ。
その為にはこの制御装置を最大限利用しなければいけない。こちらにとっては今やただの盾だが向こうからしたら家の一部だ。
主砲で破壊でもしたら水門は二度と戻らない。金で買った安全と安心があっさり崩れ去る。だからこそ物でありながら人質に成り得る。
とはいえ怖いものは怖い。いくらアドバンテージがあろうとも危険から逃れられるわけがない。
人質が効かない。それは無い話ではない。
迎えが殺されたら。それも無い話ではない。
迎えが来るまで自分が持ち応えられなければ。それが一番の問題だ。
不安が心に染み渡る。危険は彼女のすぐ隣にある。次の瞬間それは彼女の何もかもを奪い去るかもしれない。
何もかも、そう何もかもだ。
手足を失った伊58。原型を留めないほど腫れ上がった提督の顔。潰された彼の手。正気を失った潜水艦娘。
そして、この鎮守府の海の底に眠る何人もの死体。
グロテスクでおぞましい光景を思い出し、その姿に自分を重ねてしまう。
U-511はずっと掴んでいた、布に包まれた鉄塊を抱きしめる。それは潜入前に唯一持ち込めた提督からの贈り物だった。
いざという時の為にと渡されたそれの中身は、引き金一つで人を殺せる拳銃だった。
艤装を付けていない艦娘にも、生身の人間である提督にも有効なそれは文字通り今の彼女の最終兵器。
艤装付きのU-511ならばその気になれば首をへし折る程度は容易いが彼女にその度胸も覚悟もない。
手足に貼り付く死の感触に彼女の心は耐えられない。それは彼女自身もよくわかっている。
それでも拳銃なら人差し指一つ動かす労力で同程度の成果を得られる。故にこれを持たされ、故に敵もそれを理解している。
だからこそ引く引かないに関わらずその存在そのものが牽制に成り得る。それが銃の価値の一つだ。
縋りつくように抱きしめる。提督の温もりでも求めるかのように、その熱越しに彼に助けを求めるかのように。
だが返ってくるのは鉄の冷たさだけ。海水で冷やされ人の温もりなど一切感じない。
それでもU-511は抱きしめる。返ってくるものが非情な現実だとしてもそれに縋るしか思い付けない。
大義を見失った今、縋れるものはただ一人だけだ。そのただ一人の為にここまで無理無茶を通してきた。だからこそひたすら求める。
早く。早く。助けて。迎えに来て。提督。心の中で囁き、祈り、念じる。何度も何度も何度でも。
動きが止まった彼女を捉えるように細い腕が絡み付く。U-511はそんな幻覚を見かけていた。
先ほどの、あの時と同じように、首を絞め手足を掴むかのように。
「助けて」
「早く助けて」
骨と皮だけの腕が増えていく。首を絞める手が首輪のように何重にも重なっていく。逃れるように身体を丸め込む。
幻の腕は彼女の身体を突き抜けその手を首に重ねていく。
もうここに居たくない。早く帰りたい。帰ったら提督は褒めてくれるのだろうか。
帰ったら、帰ったら、帰ったら、帰ったら、帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい。
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい帰りたい
U-511の中の何かが切れた。物理的にない『それ』の代わりに蝶番が軋む音が響く。
あるいはそれらは逆の順番だったかもしれないがそれらはほぼ同時に起こった。
こつこつと近づいてくるそれを気付かれないように覗き見る。
そして見えるのは白い裾、黒い靴、金の装飾。
「Admiral」
提督だ。提督が迎えに来てくれた。そう判断した。外で待っていた提督が水門を開いたのを見て迎えに来てくれたんだ、と。
緊張の糸が解れだしていくと共に気持ちが揺れ動いていく。
怖かった。本当に怖かった。それももう終わりだ。帰れる。あの泊地に。
制御装置の陰から身を出して提督と向かい合う。提督はそんなU-511の姿を見て笑う。
顔の皮膚を歪ませ、黄色い歯を覗かせながら、のこのこ出て来た敵の姿を見て笑う。
野太い銃声が響いた。
血と肉片をまき散らしながら彼女の視界と重心がぐるりと回る。
それでも痛みを感じなかった。床に叩き付けられるまでは。
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
艦娘とは至極都合の良い雌だ。
求めればそれに応え、求めずとも求め、媚びる。
艦娘とは至極都合の良い雌だ。
雄の意思は瞬く間に群れの中に伝播して、雌はそれに応える。
艦娘とは至極都合の良い雌だ。
全ては雄に応える為。それこそが艦娘の行動原理であり根本的な欲求。
恋慕の情を根幹に置いた雄との同調、雄との共有、雄との共感。
それらは雄の自尊心を愛撫し己に依存させる手段でしかない。
だがそれ故に、この地獄絵図が成り立った。今こうしている時も、知らない所で、世界各地あらゆる場所が雄から伝播された悪意で満ち溢れている。
U-511も例には漏れない。彼女もまた、彼女の提督と同調している雌の一匹。
では彼女は提督から何を得て何に同調したのかと言えば、答えは一つ。愚純さだ。
でなければこんな結果にはならない。でなければ、こんな過程すら起こり得ない。
彼女もまた、間違いを犯す馬鹿な雌の一匹に過ぎない。
☆今回はここまでです☆
床に叩き付けられ頭が揺れると同時にU-511の頭のお花畑は散った。痛みが彼女の意識を現実に引き戻す。
「やりやがったな」
引きちぎれた肉から血が溢れ出て床に広がる。
あふれ出る血の勢いが石を削り取る川の流れのように神経を刺激する。
「やりやがったな。やりやがったなこの野郎!!この野郎!!この野郎ォ!!!」
怨嗟の叫びを上げる声は聴きなれたそれではなかった。
彼女を撃ったその男は彼女がAdmiralと呼ぶ提督ではない。この鎮守府の提督、つまり敵。
「何しやがったこのクソ野郎ォ!!」
潜水艦娘を奴隷のように搾取し虐げ殺す、地獄のような鎮守府を作り上げた男。
コンソールの裏に飛び込むように逃げ込むと、元いた場所が破裂音と共に焼け付いた穴が開いた。
拳銃、銃弾。艤装を付けた艦娘ならばそんなものは脅威にならない。
それでもU-511にとって安心材料にはならない。
ブラック提督が築いてきた実績、死体の山、そして彼女自身が目の当たりにした伊58の姿。
引きちぎれ焼け爛れた両腕両脚、溢れ止まらない血、直視してきた惨状。
その輝かしい実績と、何より現に今、銃弾が結界を突き破り彼女の腕を抉った事実が彼女を怖気付かせる。
「バリアが通じると思ってねぇよなぁこいつはな!!お前ら艦娘をぶっ殺す為に特別に作られた銃なんだ!」
その言葉は間違っている。少なくとも建前上は。否、建前という言葉すら不適切なのかもしれない。
これが作られた経緯、その表向きの理由は建前というにはあまりにも軽薄で、無責任で、無価値な、口から出た出まかせだからだ。
既存の兵器では深海棲艦が持つ結界に通用しない。それ故に深海棲艦と同じような結界を持ち結界を突き破る武器を持つ艦娘の存在は重要視されていた。
深海棲艦に対抗する唯一の戦力にならざるを得なかった艦娘。
だがもし既存の兵器が深海棲艦に通じるようになったのであればどうなるか。例えば歩兵の突撃銃が、戦闘機の機関銃が、イージス艦のミサイルが。
まず間違いなく深海棲艦の殲滅速度は飛躍的に向上するだろう。熟練の職業軍人たちがその力を遺憾なく発揮し、深海棲艦は彼等の前に圧殺される。
その大義名分の下、結界を破る通常兵器の開発は進められた。
だが出資者と開発者たちの多くはそれを人類を守る為の兵器としてではなく艦娘『だけ』を殺す為の兵器として作っていた。
深海棲艦はついででしかない。そんなものよりただ目の前の、気にくわないそれを殴りたい、否定したい、殺したい。
理由は人それぞれだ。ある者は立場を奪われたから、ある者は見下された事が気に食わなかったから、ある者は女性上位の社会になる事を恐れたから。
そしてある者は、それらの人間を隠れ蓑として殺しを正当化できるから。
根底は多種多様だが大多数がそう感じ、ごく僅かな人間が大義名分を鵜呑みにし大多数に利用されていた。
そして大多数は信念の無い軽薄な責任逃れから斜め読みした正義を、ごく僅かな純粋な人間が信じた正義を、都合の良い箇所だけを飲み込みわが物とした。
結末を危惧する者、つまり彼らの本心を突く人間が現れた時、責任逃れの言葉をかざし、人類の敵のレッテルを貼り皆殺しにした。
本心を追求する数々の言葉に併せ建前を変え事実を捻じ曲げ、不当性を相手に押し付ける。
気にくわない障害を排除し続けることで彼らの正義は彼ら自身によって確固たるものと成り上がっていく。
正義が凝り固まっていくと共に彼らの行動もまた刃のように固まっていく。
先鋭化。思想の差別。道徳的優位に立ったと思い込んだ彼らの生態は彼らにとって気に食わないものを排除する事のみに特化していく。
彼らに倫理も合理性もありはしなかった。そうした者たちの意思が形になった武器を手にしたブラック提督もまた、彼らと違いはなかった。
オリョールクルージングで金を稼ぎ他者を蔑み殺す度、殺された潜水艦娘達は次々と深海棲艦へと姿を変えていく。
人類が不利になれば、深海棲艦が勝利すれば、その金が無価値になっていく事にも自分が殺される側に回る事にも気付いていない。
あるいはその合理性のない短絡的な思考と行動こそが人を人たらしめるものであるのかも知れない。
何故ならば自分の行いが自分達の首を絞める結果になると予想できていないのは、今この戦場にいる誰もがそうなのだから。
手負いの潜水艦娘が隠れたコンソールの裏側に回り込む。
その先で見た、たかが潜水艦娘の手に持つ物にブラック提督は一瞬硬直した。その手に握られているのは拳銃だ。
特別な仕様も無いただの拳銃だが人間相手に特別も何もあったもんじゃない。当たれば死ぬ。運が良くても重症だ。
潜水艦娘、U-511が指一つ動かせば弾が出る。ブラック提督が一歩でも近付けばそれだけで彼女が引き金を引く十分な理由になる。
彼自身も艦娘に通用する銃を持っているから五分五分。だが引き金を引く事に五の利益が保証されているわけではない。
殺したいから殺したといっても反撃で殺されれば0、全て台無しだ。そして撃った弾みで撃たれた弾に当たる可能性が十分ある距離に二人はいた。
膠着状態。
「撃てねぇだろ」
それは本来ならば、の言葉だ。
ブラック提督はU-511の人間性、内面を見抜いた。
長年の経験、人を虐げ殺し続けて得た知識と勘。自分を傷付けるか否かを見極めるのに関して言えば彼の技量は非情に優れている。
矮小化して例えるのであれば『いじめられっ子を見つける達人』とでも言えばいいだろうか。
あまりにもしょうもない技術であるが彼はこの技術一つで莫大な資産を手に入れたのだ。その即物的証拠はこの場において目をつぶってでも分かる。
周囲にある何もかもがその『いじめられっ子を見つける』技術によって生み出されたものなのだから。
いかに自分が傷付くことなく相手を傷付けられるか。どれだけ自分が責任を負わずに取り返しの付かない事をやらかせるか。
彼を小物ではなく悪たらしめる、長年の経験から培われた第六感を遺憾無く発揮し彼は優位に立つ。
「撃てるのか?撃ったらどうなるかわかるよな?」
彼の勘は正しかった。U-511に人を撃つ勇気は無い。
撃ち方を教わったとしても実際に引き金が引けるわけではない。誰かから命じられるわけでも無く自分の意思でとなると尚更だ。
彼女の提督がこの場にいて彼がこの場で撃てと言えば撃ったかもしれない。
そしてブラック提督の内蔵や脳髄に穴を開け銃弾からにじみ出る毒の追い打ちは彼を確実な死に至らしめるだろう。
提督に対しての信頼感、そして人を殺す事への責任の放棄による安心感、それらを両立してようやく彼女は撃てる。
だが独りでは決められない。
彼女は汎用的倫理と現代社会の常識を持つどこにでもいる女の子だ。
これまでの経験から人間への不信感を抱いていたとしても根付いたそれは簡単には捨てられない。
「艦娘が、提督を、人間を殺すのか?あ?」
だからこそ撃つのが怖い。撃ったらどうなるかわかるか、それを予想できてしまう。
自分が人を殺すということ、艦娘が人を殺すということ、艦娘が提督を殺すということ、全て予想ができてしまう。
「撃つのか?ナチスのクソ野郎」
その一言がU-511の意志にとどめを刺した。
自分はナチスだ。その現実がU-511の意志を完全に潰した。
引き金を引けば自分一人の力ではどうにもならない取り返しの付かない事態を引き起こしてしまう。
悪評は伝播する。その最悪の形を如月の末路を彼女は目の当たりにしている。
テレビ番組内で轟沈したというだけで無遠慮に、無許可に、無法に殺され続ける如月を。
ドイツの艦娘が、ナチスの艦娘が人を殺したと広まれば自分だけではない全世界のドイツ艦娘が危険視される。
他の艦娘以上に過敏に、過剰に、大げさに危険視される。何故なら彼女がナチスの歴史を持つ艦娘だからだ。
如月のように海軍や一般市民によって殺されだす可能性だって十分ある。
彼女に罪や落ち度はなかった。ただテレビ番組で轟沈したそれだけなのに彼女は狩られだした。
それならばナチスという罪を背負ったドイツ艦娘ならどうなるか。
自分一人の行いによって他の全てのドイツ艦娘が皆殺しにされるかもしれない。
かつてナチスが引き起こしたホロコーストのように。今度その標的にされるのはナチスの歴史を汲んでしまった同属だ。
だからそれを意識した途端彼女は引き金を引けなくなる。
自分独りの判断で同属を如月のようにできる程彼女は利己的になれないし、その代わりの勇気も持ち続けられなかった。
「クソが!」
この場において唯一倫理を完全に無視できる、責任を放棄できる存在がU-511の銃を蹴り飛ばし仕返しとばかりに銃を突き付けた。
トリガーに指をかけ彼女の薄い筋肉に、ごりごりと銃口を押し付ける。
彼は撃てる人間だ。
自分が撃つこと、人を殺すこと、提督が艦娘を殺すということ、それらの責任を一切負わずに済む存在だ。
いくら殺そうがいくら倫理に反していようが常に彼は危険の外にいる。
かつてホロコーストを引き起こしたナチスがそうであったように。
いくら殺そうがいくら罪に反していようが常に彼の身分も正義も保証され続けている。
「ごめんなさい。ごめんなさい!」
銃声が響く。
硝煙が彼女の皮膚を焼き銃弾が筋肉を引き千切る。痛みと衝撃で眼球がひっくり返り内蔵が揺れる。
飛ぶ意識を痛みが引き戻し痛みが意識を飛ばし、次の痛みが意識を引き戻す。
最早謝っても戻らない。後悔しても戻らない。この状況を勝負とするのであれば彼女は今この瞬間詰んだ。
銃弾は急所を外れているがそんなものは些細な事だ。彼女にもう状況を巻き返す力は無い。
「ごめんなさい。ごめんなさい」
泣きながら謝り続けるU-511の頭に銃床が叩き付けられた。
「ごめんなさい」
「ごめんなさい」
「許してください」
痛みに喘ぎながら謝罪する。もうこれしか方法が思い付かなかった。
相手が潜水艦娘を虐め殺す殺人鬼である事など最早関係ない。
それしかやれる事が無いのだから例え百億分の一の確率だろうがそれに縋るしかない。
この男が気まぐれで彼女を見逃すか、他人への慈しみの心に目覚めるか、憐れみを持って解放するか。
そんな興醒めな奇跡に縋るしかない。
だがそんな奇跡が起こる道理はない。
この世の運命を書き換えられる存在が居たとして、それが『余程性格が捻じ曲がっていて極端に偏った思想を持っている』のであれば起こる『かもしれない』。
自分の意志を突き通す為に世界のルールを書き換える程妥協を許さぬ頑固さと、自分の意志こそが正義と信じ抜く程の狂気的な思想の偏り
もしこの世の運命を書き換えられる存在がそんな幼稚な精神構造の持ち主であれば奇跡は起こるかもしれない。
勿論そんなものはいない。何よりブラック提督がU-511を許す理由が一切無い。
彼女は艦娘であり、敵であり、獲物であり、何より玩具であるのだから。
U-511の胸に刃が刺さる。
彼女の皮膚に突き刺さった刃が力強く彼女の下腹部目掛けて突き進む。
特製の潜水服が裂ける。白く滑らかな肌とその中心部からうっすらと吹き出す短く赤い血の線が外気に晒される。
自分の胸に刃が刺さるという光景を目撃した事で自分の生を諦めたU-511が正気を取り戻したのはブラック提督が裂け目に指を突っ込み開け広げた瞬間だった。
潜水服の下に隠されていた幼い乳房が男の眼前に晒された。
色素の薄い乳房の先端に獣のような視線を感じ嫌悪感と先ほどとは別の恐怖を感じる。
この男が今から自分に何をするのか、言葉は知らずとも行動の意味と意志は理解した。
この男は自分の命だけではなく女まで踏みにじるつもりだ。
ただ殺すだけでは飽き足らず命だけではないそれ以外の全て一切合切を貶めなければ満足しない。
自分は自分が持つ何もかもを嬲り殺しにされた後にようやく殺されるのだと。
最期の一瞬、いや最期の後も自分は嬲られ続ける。
何の生産性も未来も価値も無い。ただこの男の自己満足の為それだけの為に何もかもを踏み躙られる。
林檎を握りつぶすかのように晒された乳房が鷲掴みにされる。銃弾とは別の痛み、銃弾とは別の恐怖が思考を乱していく。
男がヒグマのように口を開く。歯と舌を剥き出しにして鼻の孔を膨らませながら顔を乳房に近付けていく。
思わず手で抑えるが今までの傷が艦娘の力を振るう事を阻害する。唾液を垂らした口が少女の乳房にじわじわと近付き
がり、と歯を立てた。
歯が肉に食い込む。痛覚が感情を更にかき乱す。
食い込む歯と握り潰す指が痛みを、頂点を舐めまわす舌が嫌悪感を。足の間で膨らむ何かが踏み躙られる怒りと恐怖を沸きたてる。
最早反射的に頭を手で押さえる。本来差がある身体能力も怪我や精神状況といったコンディションの違いが差を埋める。
抵抗するには遅すぎた。早々に何もかもを捨て去る覚悟で反撃したのなら今この場で助かる事はできた。
身体が前後に揺れ出し、乳房の痛みが増していく。
ペンチで潰されハサミで切られるような痛みが徐々に中央に集まっていく。噛み千切られる。犯される。
頭を押さえる手が震え、涙が零れる。
痛みという空気が感情という風船に詰め込まれていく。それは許容量を越え出してもなお詰め込むのを止めやしない。
だが油断が一瞬訪れた。息を吸う、無意識で行われる生理現象が一瞬U-511の感情を止める。
その瞬間
ごぉん、と下手糞が叩く鐘の音のような空気の振動が響いた。
目と鼻の先で鉄の塊が男の側頭部にめり込んでいく。
その鉄塊は彼の顔を一切変形させる事なく視界の外に押し出していく。
男の身体は顔に引きずられるように転げ落ちU-511にのしかかっていた重みも転げ落ちる。
そして映った見知らぬ天井に、見知った男の影が映っていた。その男は鉄のバットを持ち今もこちらを見下している。
「名取!!!!!」
「そのクソ野郎を縛れ!!」
視界の隅に別の影が映る。その影は慌ただしく視界から外れた後がさがさと音を立て始めた。
「あぁ可哀想に。もう大丈夫、大丈夫だから。ごめんな」
「ごめんな。ごめん」
提督だ。バットを持った影は自分の提督だった。
安堵と緊張の落差で気を失う寸前で彼に抱き抱えられ上半身を起こされた。
彼は肩から下げていた鞄から小瓶とガーゼを取り出し中身をU-511の身体に染みこませる。艦娘相手なら簡単にできる応急処置だ。
緑色の粘液、高速修復材に浸されたガーゼを乳房を抉る歯形に付けるとU-511は羞恥と刺激に喘いだがそれを無視して処置を終わらせる事に集中する。
この程度の傷なら恐らくこれだけで治る。艦娘とはそういうものだ。取り出した包帯で潜水スーツごとぐるりと巻き、破かれ空いた穴を隠す。
銃弾で抉られた筋肉も同様に修復材を染みこませたガーゼで覆い保護テープで固定した。
素人の提督にはその傷がどれだけ深刻なのかも判断ができない。銃弾が身体に埋まっているのか、それとも身体を掠り抉っただけなのか彼には判別付かない。
だがどちらにせよ修復材に浸けておけば万事解決する。彼はその答えだけは知っている。修復材に浸けておけば内側から治る際に弾が排出される。その結果だけは知っている。
麻酔がそうであるように修復材を用いた回復の原理は未だ判明しておらず、更にこれは人には効能が無い。
故に修復材の存在は艦娘反対派が彼女らを『人モドキ』と揶揄する一因でもある。
「怖かった」
「怖かったよ」
「そうだよな」
「ごめんな」
「ありがとう」
「本当にありがとう」
胸の中のU-511が落ち着いてきた矢先、何かの咆哮が聞こえて二人の身体がびくんと跳ねた。
慌てて窓から様子を見るとそこには地面に描かれた無意味で荒々しい赤い線。その軌道の先に黒い服の少女が見えた。
手に何かを持ち叫んでいる。その手に捕まれた長く、節のある棒のようなものがぶらぶらと揺れる。周囲には誰もいない。
提督はそれだけである程度の状況を把握できた。
「できれば殺すなっつったんだけどな」
悪態をつき彼女の不幸に嘆きながら内心喜びが勝っているという事実を確認する間もなく彼は次の計画の指示を出そうと考えた。
これで正面広場は確保した。そして先ほど敵の指揮官を捕まえた。ならば後は待つだけだ。
自分は今から正面広場に向かい艦娘達を待つ。捕虜になった艦娘と艦娘を捕虜にする艦娘両方を待つ。
「名取」
「引き続き護衛をお願い。今から正面広場に向かう」
「長良は」
「こいつを引きずって付いてきて」
随伴、否ここまで提督の足になってくれた長良と名取が頷く。
ただの人間である彼がここまで高速移動できたのも長良が彼を抱えて走ってくれたからだ。
その上で何の贔屓も無く客観的に判断するのであれば提督のこの指示は致命的なミスだ。
ここから先の戦力は手が塞がった長良と負傷したU-511、そして未だ困惑の意思が見て取れる名取の三人だ。
人質がいるとしても万が一戦うとなればまともにやれるのは名取だけ。
その名取が艦娘同士で戦う事にまだ迷いがある、というのが危険すぎる。
名取は艦娘を殺す事に躊躇するかもしれないが相手は絶対に躊躇しない。彼女らの頭の中は日々の虐待の中でそんな良識がとうに消え失せている。
ましてや人間一人殺す事くらいは名取が躊躇した一瞬の間に済ませられる。
長良は状況を割り切っている。躊躇する前に敵を撃てるだろう。
だからこそ長良と名取の役割を逆にするべきだった。生死を決める決断で提督は選択を間違えた。
あえて間違えた。理屈をわかった上で更に彼は考えを走らせる。
確率はどうか。先に突入した三人、否夕立が正面広場にいるから二人、が暴れまわればそちらに意識が取られるか。それでも一部はこちらを狙うかもしれない。
ブラック提督という人質がどれだけの抑止力となるのだろうか。相手に向ける情なんてものがこの辺の艦娘相手にまだ残っているかどうかはわからない。
それでもし万が一上手くいったとしたならば。否下手をこいて本当に正面広場まで行けたなら自分はこの先これからどうしていればいいだろう。
そう悩んだ時に思い付く。
歌でも歌おう。本心をさらけ出せる歌を歌おう。それが彼女から奪った自分の役割なのだから。
一番好きな歌を歌おう。心の底から笑える歌を歌おう。
何もかも黒く塗り潰す、世界で一番大好きな歌を歌おう。
ろくでなしのように、狂人のように、気取った物語の主人公のように歌おう。
彼女から押し付けられた役割を果たしながら、自分は自分のやりたい事をしよう。
気取れば気取るほど、狂人であれば狂人であるほど、勝ちを確信していると思われれば思われるほど、報いが来た時に全てがひっくり返る。
ひっくり返ったその瞬間を自分は一番待ち望んでいる。
だから歌おう。
歌手に敬意と尊敬を、自分と世界に呪いと嘲笑を。
心の底の感情を今ここでさらけ出して歌おう。これが最期だと思って。
最期でなかったらなかったで、こんな無様な事は他にない。
Amen(そうあれかし)と願い歌う。
笛の音を追いかける動物のように、三人の少女は歌い始めた男の後に続いた。
「俺の目の前に」
「赤い扉が立っている」
「俺はそれを」
「黒く塗り潰したくてたまらない」
「それ以外の色は要らない」
「何もかも」
「黒く塗り潰してやりたい」
・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・
・・・・
・
提督がU-511と合流する数分前。彼女、夕立は激怒した。
しかしもう夕立には、自分が何に怒っているのかわからなかった。
この、目の前の売女のような恰好をした糞餓鬼に対して怒っているのだろうか。
この、目の前の売女のような恰好をした糞餓鬼の何が気に食わないのか。
提督を半殺しにした奴らの一員だからか。
それとも夕立と並び立つ彼女の親友、如月を産業廃棄物と罵った事だろうか。
テレビで轟沈した雑魚駆逐艦娘、この鎮守府の一部屋に玩具のように首を吊られてぷらぷらと揺れている駆逐艦娘。
だからこそ、今夕立の隣にいる如月もゴミ同然で片付けられる。
何故なら、如月は如月だから、如月が如月故に死ぬしかない。
殺されるしかない。
何故なら如月だから。
テレビで轟沈した如月だから。
だから死ぬしかない。殺されるしかない。
何故なら如月だから。
テレビで轟沈した如月だから。
だから死ぬしかない。殺されるしかない。
何故なら如月だから。
何故なら如月だから。
この糞売女、島風はそう言ってのけた。
それを聞いた時夕立は『これ』を生ゴミにしてやると心の奥底から誓った。
島風を夕立が抑えている間に如月と羽黒を鎮守府内に突入。
夕立は何も考えずそう提案した。
羽黒と如月がこの場から離れれば夕立は敵地で孤立するにも関わらずだ。
単独行動厳禁、それは泊地の艦娘に徹底されていた絶対の軍規だった。
それはあのテレビで得た教訓。無意味に孤立させた結果援護も得られず沈んだ如月から得た教訓。
常に二人で行動すれば死角をカバーし合える。だからこその単独行動厳禁。
それは泊地の艦娘にとって最優先のルールだった。
そう強く念を押されていたにも拘らず夕立はそれを無視して行動した。
水門が開けば仲間は後ろからいくらでも来る。
それを信じた結果でもあるが何よりも今ここで島風を自分の手で縊り殺さなければ気が済まなかった。
言ってはならない事を口にしたこの糞売女は誰の手でもない、自分の手で縊り殺さなければ気が済まなかった。
その点において羽黒と如月は邪魔ですらある。
この優等生どもは提督の指示通り殺さずに捕まえるはずだ。
このクソガキはここで、自分が、殺す。
そうでなければいけないという怒りと使命感に駆られた夕立の決意は固い。
だが心の奥底のその端で、夕立は疑問を抱いてもいた。
何故それは言ってはならない言葉なのか。何故自分はその言葉に怒るのか。
自分ではない他人に向けられた言葉に、何故ここまで怒るのか。
本当に腹立たしいのは一体何なのだろうか。自分は一体何に怒っているのだろうか。
心に僅かな迷いがありつつも、その答えを見つける間もなく戦いは一瞬で終わった。
蹴り飛ばされた島風が地面に削り取られながら勢いのまま転げ回る。
彼女の唯一の親友である連装砲型自立砲撃デバイス、島風が連装砲ちゃんと呼んでいるそれの首根っこを夕立は掴んでいた。
わしゃわしゃと首を振るそれを握力だけで強引に黙らせる。
そうでもしなければうるさく動き回るこの玩具の可動域で指を挟んでしまう。
それでも手足をわしゃわしゃと動かす連装砲型自立砲撃デバイスから視線を外し島風の顔を見据える。
最早余裕は一切感じられない。動揺と絶望。理由は二つ、親友が捕まった事。そして親友兼武器を失った事。
夕立にとってこの結果はわかりきっていた事だった。
何もかもが自分の理想と予想通りに事が動いている。
だからこそ、これからする事も何もかも自分がやりたいと願い望んでいた事だ。
島風にゆったりと近付きながら連装砲型自立砲撃デバイスの頭を空いた片手で掴む。
全力を込め鉄板に指を食い込ませるが如く締め上げ、捻る。
ごきん、ばきん、ぶちん、という破壊の感触が手に伝わる。もう片手にはびくびくと震える感触が伝わった。
それは喋れない、そうでないとしても少なくとも意思が理解されない機械の断末魔だ。
それが生き物のように、子供に蹴り飛ばされた虫のように、叩き落された羽虫のようにじたばたと蠢いている。
更に捻る。稼働域の限界以上に捻り上げられ、あるべき形を砕きながら更に周る。
想定外の稼働により内部の部品が引っ張り上げられ擦れ圧され砕ける。
エネルギーを伝えるケーブルがぶちぶちと音を立て引き千切られる。
そして、今島風の目の前で彼女の唯一の親友はその首をもぎ取られた。
首が引きちぎられてもなお張り詰め残っていた最後のケーブルがぶちりと切れる。
動力を失い機能を止めたデバイスの頭部の明かりが消える。その明かりは島風の心の灯火でもあった。
「ゴミじゃん」
意思で働かせられる限りの悪意を込めて吐き捨て、手に持っていた『ゴミ』も文字通り投げ捨てた。
怒りのままに叩き付けられたデバイスは中身に詰まっていた基板の欠片を空中に撒き散らしていく。
「次はお前だ」
ゴミと呼ばれ嘲られた島風の親友は今この瞬間死を迎え、島風は今この瞬間完全に戦意を喪失した。
島風は走った。鎮守府内部に逃げ込めば振り切れると思い込み、夕立に背を向け走った。
そうすれば生き残れると確信していた。何故なら自分は島風だからだ。
誰よりも早く強い。それが島風型艦娘だ。それが海上だろうが地上だろうが同じ事。
誰も自分に追い付けない。後ろでキレ散らかしてる醜い化け物も島風に追い付く事はできない。
そう思っていた。足に何かが引っ掛かったのを認識した瞬間、空に影が差すまでは。
影は島風を見つめながら勝ち誇るように唱えた。
「おっ」
「そぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおい」
前のめりになる身体より早く顔面が地面に激突する。
島風の頭を中心に赤がじわりと広がった。激突で鼻を強打して鼻血が吹き出している。
その僅かに見える赤い染み目掛けて夕立は艤装付きの足で踏みつけると絶命する蛙のようなうめき声が彼女の足の下から聞こえた。
違う、島風は遅くなんてない。
踏まれた脳味噌はそれだけを考えていた。遅い、という反射的に出た悪意を何度も何度も反芻する。
お前が島風に追い付けたのは島風が何かに引っ掛かったからだ。
逃げる島風の足に一瞬引っ掛かった『何か』が敗因だ。実力で負けたのではなく不幸に見舞われただけだ。
島風はそう信じ込んでいた。
お前は早くない。島風より早いわけがない。島風が一番。島風が一番早いんだ。
もう一度。もう一度やればわかる。
島風は早い!島風は誰よりも早い!早いんだ!!
これはノーカウントだ!!!だからもう一度!もう一度!!もう一度!!!
島風が!!!!!!!!!一番早くて!!!!!!!!!!強いんだ!!!!!!!!!!!!
島風の顔が火花を吹いた。轟音と土煙を上げながら地面を滑りだす。
夕立が島風の後頭部を踏みつけたまま上空に向けてその手に持つ主砲を撃ちだした。
反動制御をあえて切って撃たれた砲弾の爆発は夕立を反対方向へと弾き出す。砲弾は上空へ、その反動は地面に向かう。島風の後頭部を踏みつけたまま。
即席のスケートボード。それを支えるのは島風という名の無限軌道だ。
皮膚という名の履帯が回り、すぐさま熱と衝撃で千切れ失う。それでも推進力は収まらない。
その下にある皮下組織、そして筋肉や眼球を代表される臓器が代理になる。血液が噴出し僅かだが摩擦を奪う。まだ推進力は収まらない。
今の島風は、自分で走るよりも早く駆けていた。反動制御機能を切った砲撃、それによって生まれる反動という名の暴挙によって成立するそれを島風が次に活かす機会は無い。
眼球が千切れ飛ぶ、血液の赤と火花の黄色、髪の黄色が軌跡を描く。その過程で皮膚と肉は摩耗し、その下の骨と脳味噌が地面に触れる。
それでも夕立は止まらなかった。射線を横にして砲弾を撃ちだすと彼女の身体は横に回転しだした。
ぐるぐると回転しながら進んでいくそのスケートボードの足を掴み、あえて後頭部から軸足を踏み外す。
脚部艤装が摩擦で火花を散らし地面を抉り取る。進行方向の斜め前の壁を見据えて夕立は身体を捻った。
回転の勢いを殺さないまま、艦本式オール・ギアードタービン2基2軸、夕立型艦娘が持ち得る全力を込める。
それの両脚を掴み、身体を捻り、42000馬力を以て、島風を壁に叩き付け振り抜く。
主砲のそれとは比較にならない程の爆音と衝撃が走った。
島風の死は、轟沈という括りに入るものではなかった。
人としての死、否、人としてですらない。
物理的な生物としての明確な死。人の形を保っていない、無意味無価値の肉塊と壁の染みに島風は成り果てた。
何の意味も価値も無い。微生物の餌となり臭い匂いを発する以外の役割は島風には無い。
艦娘、砲雷撃戦の結果としての死とは認められない程惨たらしい死。
そして夕立が望んで望んで、望んでやまなかった形での殺害。
千切れた両脚がぶらぶらと揺れ、新鮮な血液と垂らしているのを視認して夕立は達成感を得た。
これでいい。何もかもが夕立の思い通りに行った。
だけどまだ足りない。まだまだ、もっと沢山これを作らなければならない。
誰の為に?提督か、如月か。否、自分自身の為にだ。少し満たされた今、夕立は自分の意志を思い返していた。
自分が負け犬に成り下がったあの日々の事を思い返していた。
あの夜起こった出来事が何もかもを壊してしまった。夕立は今でも覚えている。あれは夕立の改二改装が間近に迫った夜だった。
テレビで放送されてしまった如月型艦娘の轟沈。
それはたった一人の男の私怨によるもの。全てを知ってしまえばそんなくだらない真相があった。
だがそんなくだらない真相は最悪の事態を引き起こした。
待ち望んでいたかのように動き出した艦娘反対派の人間達。そして同じ海軍の仲間であるはずの人間達。
彼等は身近の如月型艦娘を次々を殺し、あるいは壊した。
『テレビでそうであったから』と免罪符を掲げ、何の経済的価値も戦略的価値も無い自己満足の悦楽に狂った。
夕立の友人だった如月もその狂気の例外ではなかった。
何も知らなかった彼女は何も知らないまま日本街に赴き、暴徒に殺されかけ追い詰められた。
殺され続ける自分の姿を見続け、深海棲艦の精神汚染にも晒された。
そんな友人を、夕立はただ追い詰める事しかできなかった。
助けたいと守りたいと心から願っていたにも関わらず、夕立は守る事すらできずむしろ如月を傷付ける事だけしかできなかった。
自分が夕立であったからこそ、如月にとって自分はただの害でしかなかった。
それでも助けたいと、守りたいと、その時の夕立はただ純粋にそれしか考えていなかった。
結局如月は金剛の時間稼ぎと、戻ってきた提督の言葉で寸での所で救われた。
そして夕立は約束されていた輝かしい未来を全て否定されたのだった。
その後如月は帰還する途中に負傷した提督の身の回りの世話役に就いた。
秘書艦に任命されていた三人すら押し退け彼女が抜擢された事について誰も文句を言わなかった。
夕立だけが、言葉に出せずにいた。
本来ならそこにいるのは夕立だったはずだ、と。
如月が新しい秘書艦に任命され泊地の皆が祝う片隅で夕立はひっそりと改二改修を済ませた。
駆逐艦夕立は第三次ソロモン海戦で多大な戦果を挙げた武勲艦である。
一夜にして夕立は重巡級五隻を撃沈、二隻大破、防空巡洋艦の二隻を撃沈、駆逐艦の三隻を大破、三隻中破に追い込んだのだ。
夕立の非論理的、非常識的な暴挙とも言える殺戮は一部の者を異名で呼ばせた。その異名は『ソロモンの悪夢』。
駆逐艦娘夕立もその名に劣らぬ高性能な優秀な艦娘だった。
自分のルーツがそこにあると知った時、夕立は喜びを隠せなかった事を忘れられない。
自分の家族を奪った深海棲艦をこの手で倒せる機会に恵まれている。そう予想できたからだ。
他の誰でもない自分が、今度こそ守れるのだとそう信じ込めたからだ。
事実、駆逐艦娘夕立はあらゆる鎮守府泊地で重宝されていた。
だからこそ自分も重宝されるだろうし、守る為の力を十分に得たのだとそう信じ込んでいた。
パラオ泊地の補充要員として着任した夕立は同期の如月、潮と日々切磋琢磨し合った。
その合間に絆を紡ぎ、そして増える守りたい者。同期班員の如月と潮、そして提督。
何故か話題に乗らない潮はともかく、如月とは提督の話でよく盛り上がった事を昨日のように思い出す。
しかし必ず訪れるとすら思っていた輝かしい未来はたった一か月程度の出来事で全て否定された。
『ソロモンの悪夢』の力で如月を守る事はできなかった。
新たな力を求め鍛錬を続ける中で如月は秘書艦に着任した。
彼女自身の適正と何よりあまりにも醜い理不尽に対する同情が要因だったが、周囲がそんなものを理解するはずがなかった。
演習の度に自分達に、否提督と如月に向けられる嘲笑と侮蔑。
その度に如月は提督との絆を深めていく。夕立を置き去りにして。彼との絆だけが自分の命を繋ぐと思い込んでいるかのように。
提督もそれを受け入れた。夕立と如月と潮の部屋だった場所は気付けば夕立と潮の部屋になり彼女の面影は消え去った。
外部の人々が望んでいるように本当に如月が死やその他の要因で消えたわけではない。如月は常に提督の傍に居た。
それに感づいた時、夕立はとどめを刺された。
あの日全てを失ったのは如月ではない。自分だ。夕立はそう感じていた。
確かに如月は多くのものを失った。名誉、地位、発言力、そして生きる権利すらも失った。
それでも最後の最後で彼女は得たかったものを得た。何もかもを失ったという自分を利用してそれを確固たるものとした。
だが夕立は、自分はどうだ。
得たかった力は何の意味も無かった。『ソロモンの悪夢』では何も守れなかった。
そして目の前で男を奪われた。自分が守ろうとしていた、自分が守れなかった友人に奪われた。
どれだけ力を付けようとも如月を守れない。何も知らない何も感じないキチガイは如月を傷付け続け、如月はそれすら利用して愛を得る。
湧き上がり止められない劣等感は夕立を確実に壊していった。
何も知らない外部の馬鹿が如月を貶めようとすればするほど、夕立は劣等感を刺激される。
優っているからこその無力感と劣等感。それ故に並大抵の事では覆せない。運命に近い絶望的状況。
ついに狂った夕立はある一つの答えに辿り着いた。
ならば自分を貶めてしまえばいいのだと。
夕立型艦娘が忌み嫌われる存在になったその時、提督は如月より自分の事を見てくれる。
提督の視線を独り占めできる時間が増える。
その為には『悪夢』では足りない。『地獄』を見せなければ。
自分に、自分の身内に害する者全てに『地獄』を見せてやる。
悪夢なんてものは所詮目を開ければ消えるもの。
二度と取り返しの付かない苦痛と損失を与えてやらなければいけない。
やりすぎと言われるほど痛めつけ、過剰に力を振るう。
軍規や規則なんていくらでも破ってやる。良識を捨て、時に良識を相手に突き刺す。
惨たらしく殺す事だけを考え、惨たらしく殺す事だけを実施し、惨たらしく殺す事を最優先事項として行動すれば自分の希望は成される。
軍規違反という汚点、制御不能という欠点、過剰防衛という短所。
どれだけ積み上げれば、否掘り下げれば如月に届くのかわからない。
だけどもうこれしかない。悪意という名の永久機関に届くには最初からこうするしかなかった。
これこそが最適解だ。夕立はそう確信した。
軽蔑されようが見下されようが嘲られようが構わない。むしろそれこそ自分が望むもの。
何もかもを自分が殺してしまう事こそが夕立の運命を切り開く唯一の道だ。
それができなければ負け犬だ。
動かせるだけの理性を動かし、心を塗り潰していく。
自分のトラウマを、辛い過去をわざと掘り起こし感情を沸き立てていく。
心を黒く、黒く、塗り潰していく。
歯痒さを、無力感を、怒りを、嫉妬を、夕立が思いつく限りのあらゆる負の感情を沸き立てていく。
黒く、黒く、塗り潰していく。
手に持っていた島風の両脚の破片が握り潰され余りが千切れて地に落ちた。
塗り潰せ。
殺意で自分の全てを塗り潰していけ。
夕立は叫んだ。今からお前達を皆殺しにするぞと言葉を使わずに叫んだ。
その音の波に弾き飛ばされるように二房の髪がびんと跳ね上がった。
あの頃絹糸のように柔らかくすらりと垂れ下がっていた彼女の髪。
今は彼女の心を表すように癖が付いて跳ね上がり、広がっている。
髪が女の魂という論が正しいのであれば、今の夕立の髪こそ彼女の魂が如何に変質したかを物語っていた。
目を見開き、牙を剥き、爪を立てる彼女の姿は獲物を殺す猟犬そのもの。
否、これは猟犬ではあるが猟犬ではない。
ティンダロスの猟犬。
腐臭をまき散らしながら時間や時空すら飛び越えながら獲物を追い詰めて殺す『犬の形をした化物』。
絶えず飢え、執念深く、獲物を恐怖させ発狂させても尚その命を啜るまで追い続ける。
伝説の通りあらゆる邪悪を自分の身体に集約させる為に今
化物が鎮守府の扉真正面から突っ込んでいった。
このSSまとめへのコメント
エアプ臭バリバリだなこいつ
クソゴッパはとっとと死ね
結構面白いゾ
ゴッパで草
エアプって隠す気ないのか?ワザとやっているのか?
コメント4だけど読んだらssの内容のあだ名だった…すいませんでした( ゚д゚)許してくださいなんでもしますから
※5
ん?
※5
今
※5
何でもするって言ったよね?
話の展開はまあともかく、何、大日本帝国帝国の英霊をディスってんねん!!このクソシナキムチのトンスル売国奴がッッ
とりあえず、タヒんで詫びろやッッ
糞でもクズでもないつまらないss
オリョクルネタやられすぎて虐待ダルマになったゴーヤとアニメ轟沈ネタやられすぎて人間不信になった如月ってエグい。
人気の艦娘が人気だからこそクソになったってのも