夜景が綺麗な、高級レストランにて。
二人っきりで、向き合いながら。
楓「私と、結婚してください」
俺の担当アイドル――高垣楓は、そう言った。
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『××月××日の夜』
『二人で、飲みに行きません?』
『いいお店が、予約できそうなんです』
……と、脳裏に蘇るのは数週間の彼女の誘い。
なるほど、確かに良い店である。
『他のみんなには、ナイショでお願いしますね?……ふふっ』という言葉にも頷ける。
P「――」
返事を、しなければと思う。
が、急に喉が渇いて口と舌がうまく回らない。
……テンパっているのだ、初ステージに立つ前の新人アイドルのように。
楓「初めて……だったんです。ここまで、私を引き出してくれた人は」
楓「自分の気持ちを伝えるのが苦手だった私に、ここまで付き添ってくれた人は」
……確かに、出会ったばかりの頃の楓さんは、初対面の人と話す事を苦手に感じていた。
初期の頃は言葉に詰まってしまうことがよくあったし、お酒の席で相談をする事も多かった。
楓「そして。あなたは私を選んでくれて、ここまで育ててくれました」
楓「……」
楓「……私は、あなたと一緒にいたい。これからも、この先も、ずっとずっと、その向こうまで」
楓「あの頃よりも。魅力的な子たちが、もっといっぱいいる中で」
楓「あなたは……また、私を、選んでくれますか?」
P「選びます」
即答だった。
あの頃を思い出しながら、あの頃と同じように聞かれて。
そうしたら、あの頃と同じように、即答していた。
楓「本当に……私で、いいんですか?」
P「はい」
楓「……でも」
P「……楓さん。俺も、あなたと同じ気持ちです」
P「俺も、あなたと一緒にいたい」
不安そうなオッドアイの瞳が、ゆっくりと閉じられていく。
楓さんは、ほっとしたように、自分の胸を撫で下ろし、
楓「……よかった……」
心から嬉しそうに、微笑んだ。
瞳の端からは、小粒な涙が、ポロポロと流れていた。
……しばらくして、楓さんの涙も止まり。
楓「はぁ……夢、じゃないかしら……?」
P「夢じゃないですよ」
楓「嬉しくても、止まらないくらいの涙は、流れるんですね」
P「キレイ、でした」
楓「……ふふっ」
楓「でも、本当によかった。コレが無駄にならなくて」
P「……コレ?」
楓さんが、机の下から取り出した小箱。
パカッと開いた、その中から出て来たものは。
楓「本当は、もっと上手に……告白と一緒に、出すつもりだったんですけど」
給料3ヶ月分では納まりそうにない輝き。
一目見て高貴なものだとわかるモノ。
かと言って主張し過ぎる事はなく、装飾者を主役とする慎みのある指輪。
コレには我らが緑の事務員もニッコリ――ではなく。
楓「指輪をはめる指は……ね?」
楓さんは、いつものように微笑んだ。
もうちょい続きます
『……実は』
『ホテル、取ってあるんです』
『プロデューサー、明日はオフ……でしたよね?』
『ふふっ……私もなんです』
『意味は……わかりますよね?』
パーフェクト・コミュニケーション!
P「……とまぁ、最高の一夜を過ごしたわけだが」
P「俺は一つ、忘れていた」
P「……他のアイドルに、どう説明しよう……」
楓「zzz……zzz……」
楓さんと結ばれたことに後悔はない。
むしろ、幸せの絶頂である。
しかしまぁ、勢いに任せた行動だったことは否めない。
P「ちひろさんに、常務に、部長に……ううむ、マジでどう説明しよう……」
P「………」
P「というか、だ……」
P「冷静に、なってみると、だ……」
『Pちゃまへの想いを込めて、歌います』
『待てますか』
『どうしよ、Pさん…。アタシ、本気で役の気分に…!』
『神崎P……。あっ、なんでもないです!あわわ……』
『とりあえずお好きな壁に、まゆを……ね?』
P「ざっと、思い返してみると……うん」
P「……」
P「……勘違いなら、いいなぁ……」
楓「……すやぁ……」
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