若林智香「シンデレラQ」L.M.B.G.『SOS佐々木千枝』 (56)

成宮由愛「みんな、聞こえる?」

福山舞「うん。さすが世界中のあらゆる通信機器に繋げられる、由愛ちゃんのオカリナだね。しっかり通信できてるよ」

由愛「敵のコンギスタドールを、今ありすちゃ……橘さんが索敵しています」

佐城雪美「ありすちゃ……橘さんのリコーダーなら……きっとすぐに、コンギスタドール……見つけられる……」

舞「うん。あのリコーダーの索敵能力はすごいもんね」

由愛「L.M.B.G.司令官のプロデューサーさんからも通信です。くれぐれも気をつけろ、と」

的場梨沙「誰に向かって言ってるのよ。私たち、L.M.B.G.の特殊能力者(スペシャルタレント)なのよ! 敵がどんな能力でも負けるわけないじゃない」

橘ありす「見つけました。敵コンギスタドール……座標位置は765.876.315」

龍崎薫「はーい。あれぇ? でもその座標って、ここ……?」

ありす「の、上空約8000メートルです」

薫「あーほんとだ! 薫たちがとんでるここよりずーっとうえに、みえてるね!」

市原仁奈「仁奈たちのとぶたかさより、ずーっとたけーとこにいやがるですね」

梨沙「よーし。このパンフルートから射出されるミサイルの一斉射撃で、粉々にしてやるわ」

佐々木千枝「待って。相手の攻撃方法がわからないから危険だと思います。まずは、私が行きます!」

雪美「それが……いい。千枝ちゃんの鍵盤ハーモニカは、どんな能力でも……どんな強さでも……無効にできる……」

舞「……あれ? でも上空8000メートルにいるはずなのに、こんなちゃんと目で見えるものなの?」

ありす「え……あ! ち、千枝ちゃん。上昇を中止して!!」

千枝「え?」

ありす「敵が……急速に……落下してきてる!!!」

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小関麗奈「ちょ、ちょっと何よアレ!? メチャクチャでっかいじゃないのよッ!!」

ありす「全長……1500メートル!? あんな大きな物が、自然落下速度に加えて自分自身で推進しながら……落ちてきてる!!!」

千枝「け、鍵盤ハーモニカを……」

古賀小春「ま、間に合いません~!」

大沼くるみ「ち、千枝ちゃん!」

雪美「千枝ちゃん……身を守って……鍵盤ハーモニカの力を……自分……自身の方に……」

千枝「わ、わかっ……きゃああああああ!!!!!!」

日下部若葉「千枝ちゃあああーーーんんん!!!」

ズガーーーーーーンンンンンン!!!!!!



これからしばらくの間、あなたの目はあなたの体を離れて、この不思議なお話の中に入っていくのです


若林智香「シンデレラQっ☆」

L.M.B.G.『SOS佐々木千枝』



――L.M.B.G.本部――


舞「大変です! 千枝ちゃんが敵のアイドルの攻撃を受けて……」

P「なんだと!? なにがあった!? 千枝の鍵盤ハーモニカは、あらゆる攻撃を遮断する能力があるはずだぞ!?」

横山千佳「それが……敵が大きすぎて……」

薫「しかも、空からおっこちてきたから……」

小春「敵全体を遮断することができなかったんです~」

ありす「私の責任です……私のリコーダーで敵を感知していたのに……」

由愛「ありすちゃんのせいじゃないよ」

若葉「敵は私たちが破壊しましたけど、千枝ちゃんが見つからないんです~」

雪美「とりあえず……千枝ちゃんは、身を守るため……敵の代わりに……今、自分自身を能力で包んでいるはずだけど……」

ありす「私の索敵でも、見つけられないんです」

麗奈「アンタ、は、早く千枝を助けなさいよッ!」

柳瀬美由紀「プロデューサーなら、なんとかなるんでしょう?」

くるみ「ち、千枝ちゃんをたしゅけてあげてくだしゃい……」

梨沙「どうなのよ!? 方法はあるの!?」

P「由愛、千枝に通信は? 呼びかけができるか?」

由愛「それが……私のオカリナでも、応答がないんです……」

赤城みりあ「それってどういうことなのかな? 探しても千枝ちゃんはどこにもいなかったし」

櫻井桃華「由愛さんでも通信できないなんて、不思議ですわね」

メアリー・コクラン「もしかして……チエは、チガうクーカンに……」

舞「えっ!?」

P「うむ。メアリーの考えは、おそらく正しい」

麗奈「どういうことよッ!?」

P「そもそも千枝の鍵盤ハーモニカが、どうやって敵の攻撃を遮断しているのかわかるか?」

桃華「そういえば、千枝さんの鍵盤ハーモニカはどんな能力でも遮断できるんですわよね」

くるみ「種類も強さも関係ないなんて、しゅごいでしゅ」

仁奈「でも、どうしてそんなことができるのか、かんがえたことはなかったですよ」

P「実は千枝は、鍵盤ハーモニカから放出されるアイドル力で空間の位相を生み出しているんだ」

薫「???」

P「要は、千枝は敵の攻撃や能力効果を別の世界……空間へと移動させているんだ」

美由紀「あ、それで敵の能力の種類や強さに関わらず、無効化できてるんだ」

P「うむ。つまり正確には無効化というよりは、敵の攻撃を違う空間へ誘導しているわけだ」

雪美「まって……でも今、千枝ちゃんは……自分自身をその能力で……包んでいるから……」

ありす「あ。千枝ちゃん自身が、別の空間に包まれているということに……」

P「そういうことだ。我々の空間から切り離されているので、連絡も探知もできないんだろう」

麗奈「それで助ける方法は!? あるんでしょッ!?」

P「それが……切り離された空間を呼び寄せるには……」

ボウッ

桃華「だ、誰ですの!?」

若林智香「アタシですっ! 千枝ちゃんの危機と聞いて、時空を超えてやって来ましたっ☆」

P「来てくれたのか! 智香!!」

智香「はいっ☆ このポンポンが必要になると思って」

仁奈「どういうことでごぜーますか?」

P「智香のこのポンポンは、あらゆる時空にアクセスできる」

みりあ「それで今、突然ここに現れたんですね」

メアリー「じゃあこれで、イッケンラクチャクね!」

智香「それが……」

くるみ「え?」

智香「本来、閉鎖時空に干渉できるのは千枝ちゃんの鍵盤ハーモニカだけなんだよ。その鍵盤ハーモニカが、今は千枝ちゃんと一緒に閉じ込められちゃってて……」

由愛「そんな……そのポンポンを使っても、駄目なんですか?」

智香「このポンポンは、時空連続体にしか作用しないんだ……」

麗奈「じゃあ智香、アンタいったい何しに来たのよッ!!」

P「まあ待て。方法はある」

小春「ほ、ほんとうに~?」

智香「うん。アタシには無理だけど、プロデューサーさんがアタシのポンポンを使えば……」

梨沙「でも、どうやるのよ?」

P「ちょいと面倒だが、過去の……つまり切り離される以前の千枝の鍵盤ハーモニカにこのポンポンでアクセスして、その影(エイリアス)を作る。そしてその影に命令を送って時空をUターンさせ、今の鍵盤ハーモニカを引き寄せればいい……はずだが」

ありす「? はずだが? だがってどういう意味です?」

舞「ぷ、プロデューサーさん!?」



P「この方法は危険が伴う」


桃華「と、おっしゃいますと?」

美由紀「何があるの?」



P「この方法では、時空が共鳴して非常に不安定だ。そのために、千枝の安全な転送は……不可能だ」


薫「じゃあ、千枝ちゃんはどーなっちゃうの?」

舞「ぷ、プロデューサーさん!?」



P「この方法だと、千枝は……」


くるみ「千枝しゃんは……」

小春「プロデューサ~……」



P「千枝は……千枝の……」


若葉「千枝ちゃんの~?」

千佳「千枝ちゃんの何が……」




P「千枝の来ている服が……消滅する」



ありす「……え?」

みりあ「今、なんて……」



P「千枝の服が、消滅する」


梨沙「なに冷静に言ってるのよ! 馬鹿じゃないの!!」

P「これは事実だ。そしてこれ以外の方法はない。千枝がここに転送された時、千枝は一糸まとわぬ姿になっている」

若葉「そんな~!」

雪美「////」

桃華「Pちゃま。では、目をつぶってその作業をしてくださいな」

メアリー「Oh、NiceIdeaネ!」

P「いや、それはできない」

麗奈「なんでよッ!?」

P「デリケートな作業だ。目を閉じていてはできないんだ、残念ながら」

梨沙「本当に残念だと思ってるの!? 今ニヤニヤしてたでしょ!!」

P「そんなことはない」

くるみ「じゃあ……しぇめて、千枝しゃんが転送しゃれたらしゅぐに、目を閉じてあげてよぉ」

P「それはもちろん、そうするつもりだ」

麗奈「ホントよねッ!? ホントにすぐに、目を閉じなさいよッ!!」

P「うむ。千枝が無事に転送されてきたら、0.01秒以内に全力で目を閉じる」

若葉「絶対ですよ~!」



P「ただ……」


舞「? なんですか?」

みりあ「まだなにかあるの?」

P「うむ……みんなは、瞬間記憶能力者というものを知っているか?」

ありす「……今、検索しました。カメラアイとも呼ばれる能力で、まるでカメラのように、見たものを画像のように覚えることができる能力のこと……ですね」

P「そうだ。たとえ一瞬であっても、その能力を持った人物には永久にその目にした光景が写真のように脳に保存される」

仁奈「それがどーしたんでごぜーますか?」



P「実は俺が、その瞬間記憶能力者なんだ」


梨沙「なんで今それを、このタイミングで公表するのよ!? 馬鹿じゃないの!!」

P「いや、黙っているのはフェアじゃないと思ったんだ」

麗奈「ちょっと、千枝がかわいそうでしょッ! 無理矢理にでも、忘れなさいよッ!!」

P「それができれば苦労はない。俺だって、今まで見てきたこの記憶を消したいとどれだけ思ったことか……」

くるみ「ぷ。ぷろでゅーしゃー……」

若葉「正義の組織の上官である大人特有の、辛い過去の設定がプロデューサーさんにも~?」



P「STEINS;GATEとかダンガンロンパ、逆転裁判をまっさらな状態でもう一度プレイできたらと思うと……」


梨沙「ゲームと一緒にしないでよ! この馬鹿!!」

薫「いま、しんけんなおはなしなんだよ、せんせぇ!」

P「わかっている。もちろんゲームだけのことじゃない」

ありす「やはり他にも、辛いことがあるんですか?」

千佳「正義の味方特有のトラウマがあるの?」



P「ファイトクラブやメメント、シックスセンスみたいな映画をなんとか記憶を消してもう一度観られたら……」


梨沙「だから何でそうくだらない事ばっかり考えてるのよ、この馬鹿!」

若葉「と、とにかく。プロデューサーさんの記憶は消せないんですね~?」

P「そうだ。残念ながら……千枝の一糸まとわぬ姿を見てしまったら、その姿は死ぬまで俺の頭から消える事はない」

桃華「待って下さいまし。わたくし、良い考えが思い浮かびましたわ」

くるみ「ど、どんな考えでしゅか?」

桃華「確かにデリケートな作業かも知れませんけれど、わたくし達L.M.B.G.全員が詳細な指示をPちゃまに伝えれば、視界を断っていても作業は可能なのではないのでしょうか」

P「ふむ……確かに頭から無理だと決めつけず、試してみる価値はあるかも知れない」

美由紀「でも急がないと、千枝ちゃんが心配だよ」

薫「あ、そうだ。かおる、ちょうどみんなでたべようっておもって、おでんをつくったんでー!」

小春「なるほど~じゃあこれを使って~」

   ◆   ◆   ◆   ◆   ◆

梨沙「ちょっと見えないからって、ヘンなとこ触らないでよね! わかってるわよね!?」

P「わかっている。しかし二人羽織とは……本当にまったく何も見えないな」

梨沙「じゃあみんな、正確で的確な指示をコイツに出して、ちゃんとアタシの口におでんが入るようにしてよね」

桃華「ではPちゃま、そのまま20㎝右手を前に」

P「こうか?」

美由紀「そこで箸を出して」

P「こうか」

メアリー「そのまま50㎝テモドして!」

P「こうだ!」

梨沙「あっつーい! ちょ、ちょっと!! 熱いじゃないの……ま、待って! おしこまらいれ……あっつーーーいいいい!!!」

ありす「……二人羽織作戦は中止ですね」

薫「ざんねんでー!」

P「やはり、俺が視認しながら作業する他ないな」

麗奈「ちょっとッ! そんなの、千枝がかわいそうでしょッ!!」

若葉「千枝ちゃんの心に、恥ずかしいトラウマがついちゃったらどうするんです~!」

舞「待って下さい! 私、いい考えを思いついたかも知れません」

桃華「まあ、なんですの?」

舞「私この間、授業でバスケットボールをやったんですけど、その話をしたら本部の荒木比奈さんが興味深い話をしてくださったんです」

メアリー「ヒナが?」

舞「はい。バスケにはミスディレクションという、高等技術があるそうなんです」

ありす「今、検索しました。ミスディレクションとは『観客の注意をそらす』という意味で、マジシャンがトリックがばれないよう観客の注目を惹いてトリックが見えないようにするような視線誘導を指す……とのことです」

舞「つまり、千枝ちゃんが転送されてくる直前、プロデューサーさんの作業が終わったらプロデューサーさんが千枝ちゃんの方に目がいかないよう視線誘導をするんです」

千佳「舞ちゃん、かしこーい」

由愛「問題は、どうやってPさんの視線を誘導するかだよね」

雪美「Pさんの興味を惹くようなもの……それを、直前に……千枝ちゃんとは別の位置に……」

小春「いい作戦です~Pさん、ついつい見てしまうような好きなものってありますか~?」

P「ああ。ある」

仁奈「それは、なんでごぜーますか?」

みりあ「教えてよー」



P「……それは言えない」


メアリー「ナンデ!?」

P「これはとてもプライベートな事柄だからだ。プライバシーの問題だ」

麗奈「今はそんなこと言ってる場合じゃないでしょッ! さっさと言いなさいよッ!!」

桃華「千枝さんの無事がかかっているのですわよ?」

薫「せんせぇ!」

P「……聞いても引かないか?」

くるみ「だ、大丈夫れしゅ」

P「実は……それは……」

由愛「それは?」

P「ついつい目がいってしまう、好きなものは……」

みりあ「なんなの?」



P「……千枝だ」


麗奈「はッ!?」

P「千枝が……好きなんだ。ついつい……見てしまう……」

梨沙「このロリコン馬鹿!! それじゃあ視線誘導できないじゃないの!!!」

P「正直に答えただけだ。これは俺の、本心だ……」

梨沙「アンタ、馬鹿のバーゲンセールね!!!」

若葉「他に何かないんですか~? 好きな食べ物とかで~?」

P「千枝以上に好きな物になると……そんなものは存在しないと思う」

梨沙「アンタ、ロリコンの専門店ね!!!」



P「ただ……」


麗奈「一応、聞いてあげるわ。なによ?」

P「うむ。もしかしたら、いかに俺でも死に関わるぐらいの飢餓状態に陥っていたら、流石に千枝ではなく好きな食べ物を見るのではないだろうか?」

麗花「珍しく建設的な提案じゃないのよッ! それで? 好きな食べ物って?」

P「うむ。実は……」

若葉「またこのパターンっていう気もしますけど~一応うかがいますと、なんですか~?」



P「俺の好きな食べ物は……」


仁奈「なんでごぜーますか?」

みりあ「はやく教えてよー」



P「おでん、なんだ……」


小春「え~?」

P「おでんが、大好きなんだ。たまらなく」

ありす「おでん……今さっき薫さんが作った……あら?」

薫「あれぇ? いつのまにか、からっぽだよぉ?」



P「……ごちそうさまでした」ゲフッ


麗奈「食べてんじゃないわよッッッ!!!」

P「大好物だったので……つい……」

梨沙「本当にアンタ、馬鹿の実質世界チャンピオンね!! オリンピックの種目に『馬鹿』があったら、アンタ金メダルは確実ね!!!」

薫「おいしかった? せんせぇ!」

P「ああ! だが満腹だ。当分腹は減らないし、当面おでんは食べたくない」

梨沙「勝手なことばっかり言ってるんじゃないわよ!! 百科事典の『馬鹿』の欄に、アンタの写真を掲載してやりたいわよ!!!」

P「とにかく! 事は一刻を争う!! 今すぐ千枝救出作戦を実行に移す!!!」

麗奈「待ちなさいよッ! だから千枝がかわいそうだって言ってるでしょッ!!」

P「ササキ隊員がピンチなんだ!!!」

智香「あ、あの……」

梨沙「アンタ、見たいだけなんでしょ!? やっぱり!!」

若葉「そうなんですか~? 私、信じてたのに~!」

P「我々はL.M.B.G.の信用を失った。しかし、これは敗北を意味するのか? 否! 始まりなのだ!」

智香「あのー……プロデューサーさんっ?」

P「悲しみを怒りに変えて、立てよ! 国民! 俺は、諸君らの力を欲しているのだ! ジーク……あ? なんだ?」

南条光「ヒーローは常に遅れて登場する! そして、期待通りの働きをする……助け出したぞ、みんなの大事な店仲間を!」

千枝「あの……みんな、心配かけて……ごめんね」

P「……え?」

光「敵と衝突する瞬間、アタシが飛び込んで助けていたんだ」

P「え? あ、そう……なの?」

智香「さっき、時空連続体に反応があって、アタシが個々へ誘導を……」

P「そう……なんだ……あの、それで千枝……さん? どこからこの話を……」

千枝「それが……最初からずっと……通信で……」

P「おわりだあああぁぁぁあああぁぁぁーーーっっっ!!!!!!」


 人は誰でも自分の中に、家族にも見せない秘密の楽園を飼っているものです。
 しかしそれは、得てして他人からは理解されず、そして批難されるものです。
 あなたも、あなたの心の楽園は、あなたの中だけにとどめておいてください。
 さもないと、あなたもこのプロデューサーのように……


お わ り

以上で終わりです。おつき合いいただき、ありがとうございました。

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