唐突だが俺にはクソッタレな親父が一人いる
金に汚く俺と弟に暴力を振るっては自分が上なんだと思い込み満足する最低なヤロウだ
お袋も俺たちを置いてとっくの昔に逃げて行ったよ
ケッ、全然珍しくも何ともね~話だ
だがよ、この話には全く笑えねぇオチが一つついちまった
俺の親父は、『人間』じゃあなくなったんだ
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こいつはよ、何をしても死なねーんだ
頭を潰そうがクサレ脳みそを壁にブチまけようが心臓のド真ん中を銃で撃ち抜こうがな
ケッ、醜いツラしやがって
てめーのその焦点の定まってねー目を見てるとイラついて仕方がねーぜ
そしてそんな風に思っちまうこのオレ自身にもイラつくんだ
もしこの世に『神様』っつーのがいるんなら聞きたい
教えてくれよ
なんでコイツは
このまともに喋ることも出来ねー、ただ生きてるだけの肉の塊が
俺の『親父』なんだ?
「おいッ! 億泰ゥゥッ!今更躊躇ってんじゃあねーぞッッ!!
お前の『スタンド』なら親父を殺せるかもしれね~~。 早くやりやがれ!!」
「で、でもよ兄貴…」
「……『でも』? でも…なんだ?」
「うぅっ…で、でも、お、親父を」
「実の親父は殺せねーってか? お前はそう言いたいのか億泰」
「……」
「良いか億泰。 今のこいつはどう見ても人間以下のただの肉の塊だ。
生きてる価値なんてちっともねぇ」
「じゃあな、そのただの肉の塊に人生を縛られてる俺たちは一体何なんだ?
俺たちはこいつを殺さねえと人生が始まらねぇんだよ。
前にも言ったはずだぜ億泰」
「それに、オレ達が今の親父にしてやれることなんてーーー」
「……」
遠い夢を、見た
バスに揺られているうちに思わず寝入っていたようだ
腹の立つ夢だ。 結局億泰のザ・ハンドでも親父を殺すことは出来なかった
「もう、そろそろか…」
今俺はDIOの手下だった男に会いに行くところだ
DIOが倒れた今は裏社会で情報屋のような事をやっている
「本当なんだろーなオイ」
そいつとは前から付き合いがあったが最近は疎遠になっていた
気に食わねー野郎だったからオレもわざわざ自分から連絡を取るつもりなんざさらさら無かった
だが、そいつの方から連絡があった
『お前の親父を殺せる奴を見つけた』、と
そいつは気に食わねーヤロウだが『能力』はこれ以上ないってくらい信用出来る物だ
「……」
親父を、殺す
今更迷ったりなんて…いや、始めから迷いなんざなかった
『この人を殺さなくちゃいけない』
親父がああなって真っ先に浮かんだ言葉がこれだった
親父の人としての『生』は終わった
なら、せめてーーー
「…チッ」
オレらしくもない
とっくのとうに出た結末を今になってごちゃごちゃ考えてやがる
今になってこんなことを考えるのも、『ヤツ』と会わなければならないからだろうか
プシュー、バタン
「…着いたか」
バスが目的地の駅に着いたようだ
オレはバスを降り、待ち合わせの喫茶店に向かった
「ここか」
指定された店の前にきた
店の名前は……アーネンエルベとでも読むのか
「中々シャレてる店だな」
店内は西洋風の造りだ。(これが「モダン」ってやつなのか)暗めの照明が、それにまた合っている
店内に客は居らず、待ち人は直ぐ見つかった
「やぁ、形兆君。 久しぶりだね、会えて嬉しいよ。
君の弟君は元気かい?」
「……フンっ、オレはてめーと会って嬉しいなんざケーキに砂糖菓子がついてきたって程も感じねーし、
オレの出来損ないの弟の事をてめーに教える必要もない」
ヤツの対面の席に座りながらそう毒づく
「やれやれ、何故か僕は君に嫌われているようだね。
僕は君たちを好ましく思っているんだが」
「…気持ちワリイ」
久しぶりに会ってやっと実感した
オレはこいつが『苦手』なのだ
こいつの優しげな眼差しも、紳士的な態度も、普通の良い人って感じも、
オレは全て気に食わないのだ
「とりあえず何か頼まないかい? ここのブルーベリーパイは絶品なんだ」
「いらん。 おいそこの店員、コーヒーに角砂糖を一個入れて持ってきてくれ」
ウェイトレスが一瞬肩をすくわせ、厨房に向かっていく
「この喫茶店は中々気に入ったがオレは静かな朝のティータイムってやつをする気なんざない」
「全く、君のその几帳面と言うか融通が効かないというか
正直言って疲れないかい?」
「もう一つ付け加えるお前とダラダラお喋りをするつもりもない」
「やれやれ、こっちとしては久しぶりに会った君と語り合いたいくらいなんだが、仕方ないね、
本題に入ろう」
「まず、君はこの世界に『虫』という生き物が全部で何種類いると思う?」
本題に入ると言いながらこいつは何故か虫の事を話し始めた
まさかオレの親父を殺せるっていう奴は虫なのか?
「……」
「あぁ、ごめんごめん。 今のは単なる前フリだよ。
教授なんてやっていると、つい前フリなんてものを普通の会話で入れてしまう。
適当に考えてくれ」
「…200万種類ぐらいか?」
いちいち本題に入れと促すのも面倒なので、ヤツの前フリってやつに付き合うことにした
「違う。 未だ発見されていない種も含めれば、6000万種類はいると言われている」
「…っ」
少し驚いた。
6000万? そんな数、想像もできねーな
「まぁこの数も諸説ある中の一説に過ぎないけどね。
だが、少なくとも一人の昆虫学者が覚えていられる数ではないね」
確かにその通りだ
一人の人間が覚えていられる虫の数なんざ、せいぜいが500、頭の出来が良いやつでも1000程度だろう
「それで、てめーは何が言いてーんだ?」
「虫だけで6000万。 この地球上に栄える他の生物やプランクトンといった微小生物も数に含めれば本当に途方もない数になる。
いいかい? 僕たちが今生きていると認識しているこの世界には、僕たちが知らない世界が山ほどある」
何が言いたい?
この男は、一体何が言いたいんだ
「僕や君が持っている『スタンド』もそうだ。
今そこの大通りを歩いている一般人達には想像もつかない『世界』だろうね」
「いわばスタンド能力とは舞台の裏側だ。
舞台の表側の彼らには知る事は一生ない事柄だ。 それ故か、スタンド能力者は無意識的に『世界』を知ったつもりになるんだ」
「だがね、舞台が一つなんて誰が決めたんだい?
スタンド能力者は舞台裏を知っているが故に知らないんだ。
自分達はこの『世界』の事なんて全く知らないという当たり前の事実をね…。
君には、それを知る覚悟があるかい?」
舞台が一つだけじゃない
オレの知らない『世界』
「……まさか、その親父を殺せるヤツってのはスタンド能力者じゃあ『ないのか?』」
「Exactly(その通りだよ)」
スタンド能力者じゃあない。
ならばーーー
「そいつは一体、『何なんだ』?」
「ふむ、この世界にはまだ誰も知らない力がある。
「彼女」の力もそうだ」
「彼女? そいつは女なのか?」
「そうだよ。 君と同い年くらいだね。
… 彼女の力は『直死の魔眼』と呼ばれている」
…直死の魔眼
「能力は、万物の『死』が見え、その『死』に触れる事が出来る」
「っ!」
なんだ、その、俺が探してたものそのままのような能力は
まるでガキの頃に空想した秘密道具を目の前で実際に見たような気分だ
「この世にはスタンド以外にも世界の理から外れた『異能』がある。
彼女の『ソレ』もその類だ」
「…待ちなっ。 その両儀式って女がスタンド使いかどうかなんてどうでもいいことだ。 重要なのはそいつが本当に俺の親父を殺せるのかどうかってことだけだ」
「ふむ。 彼女の能力を理解するには、聞くよりも『視た』方が早いだろうね」
その瞬間、奴の背後から像(ビジョン)が浮かび上がる
「『The who』、彼に両儀式のこれまでの『運命』を視せなさい」
それは、一言で言えば『奇妙』な物語だった
2重人格
連続殺人事件
地獄の様な男
2年間の昏睡
ーーーそして、死に触れ、死を経験した事によって得た直死の魔眼
「ん……!」
頭に流れ込んできていた映像が止まると同時に、眼が覚める
こいつの能力を体験してる最中はいつも眠りに陥る
「どうだったかね? 直死の魔眼について理解してもらえたと思うが」
「あ、あぁ……理解…いや、実感したぜ。 脳みそじゃなくて心でな」
生きる死体を殺した魔眼……確かに…試す価値が、『希望』はある
「しかし…ホントにテメェの能力は恐ろしいぜ。 人の過去を見るだけではなく、他人にそれを『実感』が伴った情報として共有出来るんだからな」
「……ご苦労だった。 The who」
そう言い、ヤツは鏡の様なスタンドを引っ込める
「…勘違いしてはいけないよ形兆君。 これは、過去を見るのではなく、運命を視る能力なんだ」
「運命?」
「人はみな運命の奴隷……眠れる奴隷なんだ。 私の能力は、人を縛る運命という名の鎖を視るだけの能力だ」
「私はそれを、君に『夢』という形で見せれるというだけだよ」
「何ワケわかんねーこと言ってんだ」
だが、夢というのは分かる。 確かに、こいつのスタンドから送られてくる映像は、他人の夢を自分の夢としてみているかの様な感覚だった
「分からないか……。 いや、分からない方が良いのかもしれないね。 私のスタンドの本質は『理解』だが…理解しない方が良い事なぞ世の中には山ほどある」
そう言うこの男の顔は何故か、途轍もない悲しみを湛えるようだった
「一々本題からズレるヤローだ。 で、その肝心の両儀式は何処に居るんだ」
「それは知らない。 私のスタンドは彼女が直死の魔眼を得た所しか視る事が出来ない」
「チッ。 使えねー野郎だ」
「だがこの町に居ることは確実だよ。 そして、彼女の今の情報を知る事ができる場所は知っている」
「私が君に送れる物はこれだけだよ」
ヤツから住所らしき物が書かれたメモを渡される
「此処にヤツがいるのか?」
「いや、彼女の雇い主のような者がいるんだ。 そこに居る者なら、両儀式の居場所を知っているだろう」
「成る程な。 ならお前とのお喋りもここまでだ。 有難く情報は貰っておく。 コーヒ代は置いとくぜ」
テーブルに小銭を置き出口へと向か「形兆君」
「…なんだ」
「そのメモに書かれている場所は『伽藍の洞』と言う。
そして、伽藍の洞の主は、『魔女』だ」
ーーー魔女
成る程、両儀式に連れ添っていた役立たずのあの女がそこの主という訳か
「決して、決して彼女を舐めてはいけない。 スタンドとも魔眼とも違う力、ーー魔術を操る者だ」
「そして、彼女達は非常識の中で産まれ、非道徳の中で育まれてきた存在……」
「人間を相手にするとは、思わないことだ」
「……1つ、疑問がある」
「何故テメェは俺に対してそんなに協力的なんだ。 お前は俺たちに対して何の義理も借りも無いはずだ」
「……ただの気まぐれさ。 ただ、そうだね。 1つ理由を付けるとしたら」
「君が、優しい子だからかな」
「ーーー馬鹿らしい」
そう言い残し、俺はヤツを置いて去っていく
「……やっぱり、ここのブルーベリーパイは絶品だな」
「何故協力するのか、か。 私は協力者なんかじゃあない。
父親を殺す手伝いなんかする者は、共犯者と言うんだよ」
「いや、卑怯者かなーーー」
君には、手を汚して欲しくないんだが、君は既にその手を血に染めている
ならば、せめて、君の願いだけはーーー
首にかけたロケットに手を添えて彼は想う
そのロケットに、虹村形兆と同じ年頃になるはずだった少年の写真がある事は、彼以外誰も知らないーーー
to be continued
The who
破壊力 無し スピード 無し 射程距離 A 精密機動性 無し 成長性E
鏡を模したスタンド。
人の過去ではなく運命、その人物が絶対に変えることが出来ない、変えることが出来なかった事象を視る事能力。
視た運命は共有出来るが、その運命に興味がない、知りたいと思わない人間は共有出来ない。
尚、このスタンドが視る事が出来る運命は、自身が欲する物ではなく、自身が力になりたいと思う人物が求めている運命だけである。
まだ式は出てきていないが今日はここまでだ。
本当にすまない……
このSSは以前エタらせてしまった物の再チャレンジです
完走できるよう頑張ります
空の境界 ?殺人救済?
空の境界 ー殺人救済ー
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